(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021781
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】シューズのフィット性評価用計測装置及びフィット性評価方法
(51)【国際特許分類】
A43D 1/06 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A43D1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124866
(22)【出願日】2022-08-04
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸本 健
(72)【発明者】
【氏名】松本 直子
(72)【発明者】
【氏名】吉村 あや
(72)【発明者】
【氏名】兼松 慧
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050NA87
(57)【要約】
【課題】 着用者がシューズを実際に着用している際のシューズのフィット性を適切に評価できるシューズのフィット性評価用計測装置を提供する。
【解決手段】 計測装置は、シューズに挿入可能なラスト1Aと、前記ラスト1Aを前記シューズに挿入した状態で、前記ラスト1Aの足上面の着圧を計測する圧力計測手段と、前記ラスト1Aの前端部と前記シューズの内側前端部との隙間及び前記ラスト1Aの後端部と前記シューズの内側後端部との隙間の少なくとも一方の隙間を計測する隙間計測手段と、を有し、前記ラスト1Aが、本体部3Aと、可変部2Aと、を有し、前記可変部2Aが、その形状、その重量及び前記本体部3Aに対する位置から選ばれる少なくとも1つを変更できる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シューズに挿入可能なラストと、
前記ラストを前記シューズに挿入した状態で、前記ラストの足上面の着圧を計測する圧力計測手段と、
前記ラストの前端部と前記シューズの内側前端部との隙間及び前記ラストの後端部と前記シューズの内側後端部との隙間の少なくとも一方の隙間を計測する隙間計測手段と、を有し、
前記ラストが、本体部と、可変部と、を有し、
前記可変部が、その形状、その重量及び前記本体部に対する位置から選ばれる少なくとも1つを変更可能である、シューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項2】
前記可変部が、その形状を変更可能であって、
前記可変部が、前記ラストの前方部、前記ラストの側方部、前記ラストの後方部、前記ラストの土踏まず部、前記ラストの足甲部から選ばれる少なくとも1つの箇所に配置されている、請求項1に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項3】
前記可変部が、前記本体部に対する位置を変更可能であって、
前記可変部が、前記ラストの足首部及び前記ラストの前方部の少なくとも1つの箇所に配置され、且つ前記本体部に対する角度または距離を変更可能である、請求項1に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項4】
前記可変部が、その重量を変更可能であって、
前記可変部が、重量の異なる構成部材に変更することによって、その重量を変更可能である、請求項1に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項5】
前記可変部が、その重量を変更可能であって、
前記可変部が、重りを保持する重り保持部を有し、前記重り保持部に重りを保持させることによって、その重量を変更可能である、請求項1に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項6】
さらに、前記ラストに対して荷重を加える荷重付加手段を有する、請求項1に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項7】
前記圧力計測手段が、前記ラストの足底面の着圧を計測する手段を含み、
前記荷重付加手段が、前記ラストの足底面における着圧が最大値となる部位を、前記ラストの第1部位から第2部位に変更できるように、前記ラストに対して荷重を加えることができるように構成されている、請求項6に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項8】
前記荷重付加手段によって前記ラストの足底面における着圧の最大値となる部位が変更されることに従って、前記ラストの可変部の形状及び前記本体部に対する位置の少なくとも一方を変更できるように構成されている、請求項7に記載のシューズのフィット性評価用計測装置。
【請求項9】
ラストをシューズに挿入する工程、
前記ラストの足上面の着圧を計測する圧力計測工程、を有し、
前記ラストが、本体部と、形状、重量及び前記本体部に対する位置から選ばれる少なくとも1つを変更可能な可変部と、を有し、
前記可変部を変更する前、前記可変部を変更している最中、又は、前記可変部を変更した後に、前記圧力計測工程を行なう、シューズのフィット性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者がシューズを着用した際の、シューズのフィット性を評価するために用いられるフィット性評価用計測装置及びフィット性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ラストと、ラストの表面部に設けられた圧力測定素子と、を有するシューズの検査装置が開示されている。
かかる検査装置は、圧力測定素子が設けられたラストをシューズに挿入し、シューズとラストとの接触圧力を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記従来の計測装置では、シューズの着用者が実際に感じると想定されるシューズのフィット性を、十分に評価できない。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、着用者がシューズを実際に着用している際のシューズのフィット性を適切に評価できる、シューズのフィット性評価用計測装置及びフィット性評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、着用者がシューズを着用して歩行や走行などの活動をした際に、着用者の足の動きが変化することやシューズへの荷重の掛かり具合が変化することに着目した。
例えば、着用者が直立状態のときの足の形状と、着用者が歩いているときの足の形状とは、同じでない場合が多い。また、着用者が直立状態のときに足に加わる着圧と、着用者が歩いているときに足に加わる着圧とは、同じでない場合が多いと考えられる。
それ故、上記従来の計測装置のように、直立状態の足を象ったラストを作製し、それを用いてシューズに対する着圧を計測しても、着用者がシューズを実際に着用して活動している際のフィット性を適切に評価できない。
本発明の特徴は、ラストを用いて着圧を計測するにあたり、実際の足の動きを考慮してラストを変化させ或いはラストに荷重を加えることにより、シューズのフィット性を適切に評価できることにある。
【0007】
本発明の第1の態様に係る計測装置は、シューズに挿入可能なラストと、前記ラストを前記シューズに挿入した状態で、前記ラストの足上面の着圧を計測する圧力計測手段と、前記ラストの前端部と前記シューズの内側前端部との隙間及び前記ラストの後端部と前記シューズの内側後端部との隙間の少なくとも一方の隙間を計測する隙間計測手段と、を有し、前記ラストが、本体部と、可変部と、を有し、前記可変部が、その形状、その重量及び前記本体部に対する位置から選ばれる少なくとも1つを変更可能である。
【0008】
第2の態様に係る計測装置は、上記第1の態様に係る計測装置において、前記可変部が、その形状を変更可能であって、前記可変部が、前記ラストの前方部、前記ラストの側方部、前記ラストの後方部、前記ラストの土踏まず部、前記ラストの足甲部から選ばれる少なくとも1つの箇所に配置されている。
第3の態様に係る計測装置は、上記第1又は第2の態様に係る計測装置において、前記可変部が、前記本体部に対する位置を変更可能であって、前記可変部が、前記ラストの足首部及び前記ラストの前方部の少なくとも1つの箇所に配置され、且つ前記本体部に対する角度または距離を変更可能である。
第4の態様に係る計測装置は、上記第1乃至第3のいずれかの態様に係る計測装置において、前記可変部が、その重量を変更可能であって、前記可変部が、重量の異なる構成部材に変更することによって、その重量を変更可能である。
第5の態様に係る計測装置は、上記第1乃至第3のいずれかの態様に係る計測装置において、前記可変部が、その重量を変更可能であって、前記可変部が、重りを保持する重り保持部を有し、前記重り保持部に重りを保持させることによって、その重量を変更可能である。
第6の態様に係る計測装置は、上記第1乃至第5のいずれかの態様に係る計測装置において、前記ラストに対して荷重を加える荷重付加手段をさらに有する。
第7の態様に係る計測装置は、上記第6の態様に係る計測装置において、前記圧力計測手段が、前記ラストの足底面の着圧を計測する手段を含み、前記荷重付加手段が、前記ラストの足底面における着圧が最大値となる部位を、前記ラストの第1部位から第2部位に変更できるように、前記ラストに対して荷重を加えることができるように構成されている。
第8の態様に係る計測装置は、上記第7の態様に係る計測装置において、前記荷重付加手段によって前記ラストの足底面における着圧の最大値となる部位が変更されることに従って、前記ラストの可変部の形状及び前記本体部に対する位置の少なくとも一方を変更できるように構成されている。
【0009】
本発明の別の局面によれば、シューズのフィット性評価方法を提供する。
本発明の評価方法は、ラストをシューズに挿入する工程、前記ラストの足上面の着圧を計測する圧力計測工程、を有し、前記ラストが、本体部と、形状、重量及び前記本体部に対する位置から選ばれる少なくとも1つを変更可能な可変部と、を有し、前記可変部を変更する前、前記可変部を変更している最中、又は、前記可変部を変更した後に、前記圧力計測工程を行なう。
【発明の効果】
【0010】
本発明の計測装置を用いることにより、着用者がシューズを実際に着用し、直立状態にあるときのシューズのフィット性のみならず、着用者が活動をしている際のシューズのフィット性も適切に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】位置を変更可能な可変部を有する第1例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図5】同第1例のラストを表した一部断面を含む上面図。
【
図6】同第1例のラストの可変部の角度を変更した状態を表した一部断面を含む左側面図。
【
図7】位置を変更可能な可変部を有する第2例のラストを表した左側面図。
【
図8】位置を変更可能な可変部を有する第3例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図9】同第3例のラストの可変部の角度を変更した状態を表した一部断面を含む左側面図。
【
図10】位置を変更可能な可変部を有する第4例のラストを表した一部断面を含む上面図。
【
図11】同第4例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図13】同第4例のラストの可変部の距離を変更した状態を表した断面図。
【
図14】位置を変更可能な可変部を有する第5例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図15】同第5例のラストの可変部の距離を変更した状態を表した一部断面を含む左側面図。
【
図16】形状を変更可能な可変部を有する第6例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図17】同第6例のラストの可変部の形状を変更した状態を表した一部断面を含む左側面図。
【
図18】重量を変更可能な可変部を有する第7例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図19】荷重付加手段を有する第8例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図20】同第8例のラストを表した一部断面を含む上面図。
【
図21】可変部及び荷重付加手段を有する第9例のラストを表した一部断面を含む左側面図。
【
図22】圧力計測手段及び隙間計測手段が設けられたラストを表した上面図。
【
図27】着圧及び隙間を計測する際の、ラストが挿入されたシューズの向きを表した左側面図。
【
図28】人が歩行している際の足の動きを模式的に表した参考図。
【
図29】人の足に装着できる第10例のラストを表した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、適宜図面を参照しつつ説明する。
本明細書において「略」は、本発明の属する技術分野において許容される範囲を意味する。各図における、厚み及び大きさなどの寸法は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。
【0013】
[計測装置の概要]
本発明の計測装置は、シューズに挿入脱可能なラストと、前記シューズに対する前記ラストの足上面の着圧を計測する圧力計測手段と、前記シューズと前記ラストの隙間を計測する隙間計測手段と、を有する。
前記シューズは、ソールとアッパーとを有するものであれば、特に限定されない。なお、前記ソールは、着用者の足底面の下に配置される構成部材であり、前記アッパーは、着用者の足上面に接する前記ソールを除いたシューズの構成部材である。
前記圧力計測手段は、ラストをシューズに挿入した状態で(ラストにシューズを着用させた状態で)、ラストの少なくとも足上面の着圧を計測する。前記ラストの足上面は、ラストをシューズに挿入した状態で、前記シューズのアッパー内面に接する表面領域をいう。つまり、圧力計測手段は、ラストにシューズを着用させた状態において、シューズのアッパーから受けるラストの着圧を計測する。必要に応じて、前記圧力計測手段は、ラストの足底面の着圧を計測する手段を含んでいてもよい。前記ラストの足底面は、ラストをシューズに挿入した状態で、前記シューズのソール上面に接する表面領域をいう。なお、ラストの前記表面領域は、ラストの足上面と足底面とからなり、前記ラストの足上面は、ラストの足底面を除いた表面領域とも言える。
前記隙間計測手段は、ラストをシューズに挿入した状態で、前記ラストの前端部と前記シューズの内側前端部との隙間、及び、前記ラストの後端部と前記シューズの内側後端部との隙間の少なくとも一方の隙間を計測する。
【0014】
本発明の計測装置の1つの特徴は、前記ラストが、その形状、重量及び位置から選ばれる少なくとも1つを変更可能な可変部を有することである。
本発明の計測装置のもう1つの特徴は、前記ラストに対して荷重を加える荷重付加手段を有することである。
【0015】
<ラスト>
図1乃至
図3は、ラスト1の外形を表した図である。
図1には、ラスト1の各部を説明する上で参照される足骨格が含まれている。なお、実際のラスト1は、足骨格を有さない。前記足骨格は、仮想線である一点鎖線で表されている。
図2は、
図1の矢印II方向から見た、ラスト1の左側面図であり、
図3は、
図1の矢印III方向から見た、ラスト1の右側面図である。
ラスト1は、人の足の外形を概ね象った外形を有する。図示例のラスト1は、左足を象ったものであるが、右足であってもよい。ラスト1は、人の足やこれに類似する形状を見本とし、切削、3Dプリント技術、型成形などの手法で作製できる。ラスト1は、その全体を一体成形して作製してもよい。或いは、ラスト1は、いくつかの部品を作製し、各部品を接着剤や粘着テープなどの貼着剤やネジなどの締付け材などを用いて接合する又は各部品を凹凸嵌合などによって接合することによって作製することもできる。いくつかの部品を接合して作製されるラスト1については、一部の部品が着脱可能な状態で接合されていてもよい。
【0016】
ラスト1の形成材料は、特に限定されず、従来公知の軟質材料、又は、硬質材料を用いることができる。前記軟質材料は、力を受けると容易に変形可能である点で前記硬質材料と異なる。前記軟質材料としては、軟質樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー、及びこれらの発泡体などが挙げられる。前記硬質材料としては、硬質樹脂、金属、木材などが挙げられる。人の足に近い触感を有するラスト1を形成できることから、ラスト1は、軟質材料で形成されていることが好ましい。例えば、硬度で規定すると、タイプC硬さ試験における硬度が20以上80以下の軟質材料を用いることが好ましく、同硬度が25以上75以下の軟質材料を用いることがより好ましく、同硬度が30以上70以下の軟質材料を用いることがさらに好ましい。前記タイプC硬さ試験における硬度は、スプリング硬さ試験機を使用し、JIS K 7312に記載の方法に準じて測定できる。
【0017】
ラスト1は、本体部と、前記本体部に設けられた可変部と、を有する。可変部は、その形状、その重量及び本体部に対する位置から選ばれる少なくとも1つを変更可能なラスト1の一部分である。本体部は、ラスト1から前記可変部を除いた部分である。本体部は、実質的に不変な部分である。なお、実質的に不変とは、例えば、軟質材料によって形成された本体部が押圧されることによって変形するが、前記押圧が解除された後に元に戻る場合などを含む意味である。
可変部は、ラスト1の様々な部分に配置できる。例えば、可変部は、ラスト1の前方部11、後方部12、内側方部13及び外側方部14を含む側方部、土踏まず部15、足甲部16、足首部17などに配置できる。
図1において、ラストに人の足骨格を重ね合わせている。上述のように、図示例では、左足を象ったラスト1を表しているので、
図1の紙面上側が左足(ラスト)の内側であり、紙面下側が左足(ラスト)の外側である。前記可変部が設けられる部分を足骨格との関係で説明すると、前記ラストの前方部11は、母趾及び小趾の各MP関節を通る仮想直線Xよりも前方の部位をいい、ラストの後方部12は、踵骨に対応する部位をいい、ラストの側方部のうち内側方部13は、第1中足骨の側方の部位をいい、ラストの側方部のうち外側方部14は、第5中足骨の側方の部位をいい、ラストの土踏まず部15は、内側縦アーチに対応する部位をいい、ラストの足甲部16は、MP関節からショパール関節の間に対応する部位をいい、ラストの足首部17は、距腿関節よりも上方の部位をいう。
【0018】
{位置を変更可能な可変部を有するラスト及び荷重付加手段}
この欄では、本体部に対する位置を変更することができる可変部が設けられているラストを幾つか例に採って説明する。以下、本体部に対する位置を変更可能な可変部を、「位置可変部」という場合がある。
位置可変部は、ラストの一部分であれば特に限定されず、例えば、ラストの前方部11、後方部12、内側方部13及び外側方部14を含む側方部、土踏まず部15、足甲部16、足首部17などに配置できる。前記位置可変部を変化させる機構は、特に限定されず、様々な機構を採用できる。
【0019】
図4及び
図5は、本体部3Aに対する位置を変更することができる位置可変部が設けられているラスト1Aの一例であり、特に、本体部3Aに対する角度を変更できる位置可変部2Aが設けられているラスト1Aの一例である。
図4は、前記位置可変部2Aが設けられたラスト1Aの側面図であるが、位置可変部2Aを変化させる機構を明示するため、ラスト1Aを前後方向で切断した断面で表している。ただし、
図4は、軸部512の軸芯方向から見た側面図である(
図6も同様)。
図5は、同ラスト1Aの上面図であるが、同様の理由から、ラスト1Aを水平方向で切断した断面で表している。ラスト1Aの断面において、ラスト1Aの形成材料が存在する範囲に、ドットを付している(以下、他の断面についても同様)。
【0020】
図4及び
図5において、ラスト1Aは、本体部3Aと、位置可変部2Aと、を有する。位置可変部2Aは、例えば、ラスト1Aの前方部11に配置されている。つまり、ラスト1Aの前方部11が位置可変部2Aとなっている。この前方部11に配置された位置可変部2Aは、本体部3Aに対する角度を変更できるようになっている。
図示例では、本体部3A及び位置可変部2Aを有するラスト1Aの全体が、軟質材料で形成されている。ラスト1Aの内部には、位置可変部2Aの位置(本体部3Aに対する姿勢)を変化させる機構としてシーソー構造が具備されている。具体的には、ラスト1Aの内部には、前記シーソー構造を収容できる空洞511が設けられている。前記シーソー構造は、軸部512が設けられた板材513と、前記軸部512を回転自在に支持する支持部514と、を有する。前記板材513は、ラスト1Aの前方部11から後方部12に延びており、作用点となる板材513の第1端部515がラスト1Aの前方部11に配置され、力点となる板材513の第2端部516がラスト1Aの後方部12に配置されている。支点となる支持部514は、上述の母趾及び小趾のMP関節を通る仮想直線付近において、本体部3Aに固定されている。従って、軸部512の軸芯は、
図5に示すように、幅方向に対して若干傾いて延在する。
【0021】
前記シーソー構造の板材513の第2端部516には、操作部材517が設けられている。操作部材517は、例えば、棒状体からなり、ラスト1Aの足首部17に設けられた上下方向に延びる貫通孔518に挿通されている。前記貫通孔518の径は、操作部材517を上下に移動させる際に、操作部材517が前後にも動き得るように、操作部材517の周長よりも十分に大きい。また、操作部材517の下端部は、前記板材513の第2端部516に枢着され、且つ操作部材517の上端部は、足首部17の上方に突出されている。前記操作部材517を上下に移動させることにより、板材513の第2端部516も上下に動く。なお、シーソー構造や操作部材517は、金属や硬質樹脂などの硬質材料で形成されている。
【0022】
図6に示すように、前記操作部材517を、人力や機械装置などを用いて下方に押し下げる。すると、作用点である板材513の第1端部515が上方に上がる。第1端部515はラスト1Aの前方部11内に配置され且つラスト1Aが軟質材料から形成されているので、第1端部515が前方部11に下方側から当たることにより、支持部514が設けられた仮想直線付近で曲がる。その結果、前記第1端部515によって上方に持ち上げられたラスト1Aの前方部11(位置可変部2A)が、矢印で示すように、上向きに傾くようになる。必要に応じて、角度を変えた前方部11を固定する(いわゆる位置決めする)ため、操作部材517などの戻りを防止する仮止め機構を設けてもよい(図示せず)。
他方、操作部材517の押し下げを解除すると、前記板材513の第1端部515が下がり、ラスト1Aの前方部11(位置可変部2A)が元の位置に戻るようになる。このように、側面視において、ラスト1Aの前方部11の、本体部3Aに対する傾斜角度を変えることができる。
なお、上記ラスト1Aの全体が軟質材料で形成されている場合、第1端部515が前方部11に当たっても、前方部11を形成する軟質材料が変形するだけで、前方部11が十分に傾斜しないおそれもある。このような点を考慮して、必要に応じて、
図4に示すように、前記第1端部515が当たる箇所の周辺に、金属などの硬質材料からなる変形防止板519を設けてもよい。
【0023】
前記操作部材517及び板材513は、前方部11(位置可変部2A)の角度を変化させる部材であると共に、荷重付加手段としても機能する。すなわち、操作部材517を強く押し下げると、板材513の第2端部516が下がってラスト1Aの底部に強く当たり、ラスト1Aの後方部12に荷重を付加することができる。他方、操作部材517を強く引き上げると、板材513の第1端部515が下がってラスト1Aの底部に強く当たり、ラスト1Aの前方部11に荷重を付加することができる。
ラスト1Aをシューズに挿入した状態で、ラスト1Aに対して荷重を付加する部分を変えることにより、ラスト1Aの足底面における着圧が最大値となる部位が変化し、それに伴いラスト1Aの足底面におけるシューズに対する着圧が変化する。このように荷重付加手段である操作部材517及び板材513は、ラスト1Aの足底面における着圧が最大値となる部位を、ラスト1Aの前方部11(第1部位)から後方部12(第2部位)、或いは、ラスト1Aの後方部12から前方部11に変更できるように荷重を加えることができるように構成されている。
また、上述のように、操作部材517を押し下げると、前方部11(位置可変部2A)の角度を変更できる。このため荷重付加手段を兼用している前記操作部材517及び板材513は、ラスト1Aの足底面における着圧の最大値となる部位が変更されることに従って、位置可変部2Aの本体部3Aに対する位置を変更できるように構成されている。
【0024】
図7は、本体部3Bに対する角度を変更できる位置可変部2Bが設けられているラスト1Bの他の例を示している。
図7において、位置可変部2Bは、ラスト1Bの足首部17に配置されている。つまり、ラスト1Bの足首部17が位置可変部2Bとなっている。この足首部17に配置された位置可変部2Bは、本体部3Bに対する角度を変更できるようになっている。
図示例では、本体部3Bと位置可変部2Bは、別体で形成され、位置可変部2Bである足首部17は、本体部3Bに回転可能な状態で取り付けられている。なお、別々に形成されている本体部3Bと位置可変部2Bは、同じ材料で形成されていてもよく、或いは、異なる材料で形成されていてもよい。また、前記本体部3Bと位置可変部2Bは、軟質材料から形成されていてもよく、或いは、硬質材料から形成されていてもよい。
【0025】
足首部17(位置可変部2B)は、軸部521を有し、足首部17の軸部521が本体部3Bに設けられた支持部522に回転自在に取り付けられている。特に図示しないが、本体部3Bに軸部を設け、足首部17(位置可変部2B)に支持部を設けてもよい。
この例では、足首部17は、前後方向(側面視で紙面左右方向)に回転自在である。必要に応じて、角度を変えた足首部17を固定する(いわゆる位置決めする)ため、歯車及び歯止め、或いは、ラチェット機構などを設けてもよい(図示せず)。
足首部17を前方に押し出すと、
図7の一点鎖線で表すように、足首部17が前方へ傾くようになる。足首部17を後方に引き寄せると、足首部17が後方へ傾くようになる。
【0026】
また、例えば、前方部11が、前記足首部17と同様な機構で、位置可変部2Bとなっていてもよい。簡単に説明すると、
図7に示すように、位置可変部2Bである前方部11は、本体部3Bに回転可能な状態で取り付けられている。前方部11(位置可変部2B)は、軸部523を有し、この軸部523が本体部3Bに設けられた支持部524に回転自在に取り付けられている。この前方部11は、上下方向(側面視で紙面上下方向)に回転自在であり、本体部3Bに対する角度を変更できるようになっている。
【0027】
図8は、本体部3Cに対する角度を変更できる位置可変部2Cが設けられているラスト1Cの更なる他の例を示している。
図8は、前記位置可変部2Cを有するラスト1Cの左側面図であるが、
図4と同様に、ラスト1Cを前後方向で切断した断面で表している。ただし、
図8は、スプロケット535の回転中心軸5351の軸芯方向から見た側面図である(
図9も同様)。
図8において、位置可変部2Cが、ラスト1Cの前方部11に配置されている。
図示例では、本体部3C及び位置可変部2Cを有するラスト1Cの全体が、軟質材料で形成されている。ラスト1Cの内部には、位置可変部2Cの位置(本体部3Cに対する姿勢)を変化させる機構としてウォームギア構造が具備されている。ラスト1Cの内部には、前記ウォームギア構造を収容できる空洞531が設けられている。前記ウォームギア構造は、操作部材537と、前記操作部材537の下方に設けられた円筒ウォーム532と、前記円筒ウォーム532に噛み合うウォームホイール533と、前記ウォームホイール533にエンドレスベルト534を介して接続されたスプロケット535と、を有する。操作部材537は、例えば、棒状体からなり、ラスト1Cの足首部17に設けられた上下方向に延びる貫通孔538に挿通されている。操作部材537には、円筒ウォーム532が接着剤やネジ止めなどによって固着されており、操作部材537の下端部は、ベアリングを介して本体部3Cに回転自在に取り付けられている。スプロケット535は、ボス536を有し、前記ボス536には、ラスト1Cの前方部11に延びる板状の上げ部539が固着されている。また、スプロケット535は、母趾及び小趾のMP関節を通る仮想直線付近に配置されている。従って、スプロケット535の回転中心軸5351の軸芯は、幅方向に対して若干傾いて延在し、これに対応して、ウォームホイール533の回転中心軸5331の軸芯は、前記スプロケット535の回転中心軸5351の軸芯と平行である。ウォームホイール533及びスプロケット535は、図示しない支持部を介してラスト1Cに回転自在に取り付けられている。なお、ウォームギア構造や操作部材537は、金属などの硬質材料で形成されている。
【0028】
前記操作部材537を軸周り方向に回転させることにより、ウォームホイール533が回転する。ウォームギア構造により、回転の方向を90度変更できる。ウォームホイールの回転がエンドレスベルト534によって伝達され、スプロケット535も回転する。
図9に示すように、スプロケット535のボス536に固着された上げ部539がスプロケット535に従動して上方に回転し、ラスト1Cの前方部11を上向きに押し上げる。よって、矢印で示すように、ラスト1Cの前方部11(位置可変部2C)が上向きに傾くようになる。
なお、上記ラスト1Aと同様の理由から、必要に応じて、
図8に示すように、前記上げ部539が当たる箇所の周辺に、金属などの硬質材料からなる変形防止板519を設けてもよい。
【0029】
前記操作部材537は、前方部11(位置可変部2C)を変化させる部材であると共に、荷重付加手段としても機能する。すなわち、操作部材537を下方に強く押すと、ラスト1Cの後方部12に荷重を付加することができる。荷重付加手段を兼用する操作部材537も、足底面における着圧が最大値となる部位を、ラスト1Cのある部位(第1部位)から後方部12(第2部位)に変更できるように構成されている。
【0030】
図10乃至
図12は、本体部3Dに対する位置を変更することができる位置可変部2Dが設けられているラスト1Dの一例であり、特に、本体部3Dに対する距離を変更できる位置可変部2Dが設けられているラスト1Dの一例である。
図10は、前記位置可変部2Dが設けられたラスト1Dの上面図であるが、
図5と同様に、ラスト1Dを水平方向で切断した断面で表している。
図11も、同様に、ラスト1Dを断面で表している。
図12は、ラスト1Dを幅方向に沿って切断した断面図である。
【0031】
図10乃至
図12において、位置可変部2Dが、ラスト1Dの側方部に配置されている。つまり、ラスト1Dの側方部が位置可変部2Dとなっている。この側方部に配置された位置可変部2Dは、本体部3Dに平行移動可能に取り付けられ、本体部3Dに対する距離を変更できるようになっている。前記位置可変部2Dは、内側方部13及び外側方部14のいずれか一方に配置されていてもよく、双方に配置されていてもよい。図示例では、内側方部13及び外側方部14のいずれもが、位置可変部2Dとなっている。
【0032】
図示例では、本体部3Dと位置可変部2D(内側方部13及び外側方部14)は、別体で形成されている。内側方部13及び外側方部14に配置された位置可変部2Dは、幅方向に平行移動可能に本体部3Dに取り付けられている。内側方部13と外側方部14の間には、スプリング541が架け渡されている。スプリング541は、例えば、前後方向に間隔をあけて2本設けられている。また、内側方部13と外側方部14の間には、両者の最低間隔を維持するストッパー部542が設けられている。スプリング541によって互いに引き寄せられる内側方部13と外側方部14は、両者間に前記ストッパー部542が介在することによって、通常時には所定間隔を維持して静置されている。本体部3Dには、前記内側方部13及び外側方部14を幅方向左側及び右側に押し出す機構が設けられている。前記押し出す機構は、例えば、内側方部13及び外側方部14にそれぞれ設けられ且つ傾斜面543を有する受け部544と、前記各傾斜面543にそれぞれ接する傾斜面545を有する押し部546と、前記押し部546を下方に移動させる機構と、を有する。前記押し部546を下方に移動させる機構としては、例えば、押出し用の棒を用いる方法や、上記シーソー構造などを利用できる。例えば、前記押し部546の上方に、押出し用の棒547の端部が取り付けられている。押出し用の棒547は、ラスト1Dの足首部17に設けられた貫通孔548に挿通されている。
【0033】
押出し用の棒547を押し下げると、押し部546の傾斜面545が受け部544の傾斜面543に接しながら押し部546が下がる。
図13に示すように、押し部546が下がることにより、押し部546の各傾斜面545が各受け部544を幅方向左右側に押し出し、内側方部13及び外側方部14は、スプリング541に抗して幅方向左右側に押し出される。他方、押出し用の棒547の押し下げを解除すると、スプリング541によって内側方部13及び外側方部14が互いに引き寄せられ、内側方部13及び外側方部14(位置可変部2D)が元の位置に戻るようになる。このように、ラスト1Dの側方部の距離を変えることができる。
【0034】
図14は、本体部3Eに対する距離を変更できる位置可変部2Eが設けられているラスト1Eの他の例を示している。
図14は、前記位置可変部2Eを有するラスト1Eの左側面図であるが、
図4と同様に、ラスト1Eを前後方向で切断した断面で表している。
図14において、位置可変部2Eは、ラスト1Eの前方部11に配置されている。この前方部11に配置された位置可変部2Eは、本体部3Eに平行移動可能に取り付けられ、本体部3Eに対する距離を変更できるようになっている。
図示例では、本体部3Eと前方部11(位置可変部2E)は、別体で形成されている。ラスト1Eには、前記前方部11を前方に押し出す機構が設けられている。前記押し出す機構は、例えば、前方部11の内部に設けられ且つ内周面に雌ネジが形成された孔部551と、この孔部551の雌ネジに噛み合う雄ネジが形成された軸部552と、前記軸部552を回転させる機構と、を有する。前記軸部552は、外周面に雄ネジが形成され、且つ前後方向に延びる直線状の棒状体からなる。前記軸部552は、その雄ネジが雌ネジに噛み合わされた状態で、前方部11の孔部551に挿入されている。また、前記軸部552の後方は、本体部3Eに設けられた支持部553に回転自在に取り付けられている。前記軸部552を回転させる機構としては、例えば、上記ウォームギア構造や、傘歯車などを利用できる。例えば、前記軸部552の後方には、第1傘歯車554が固着されている。操作部材557は、足首部17に設けられた上下方向に延びる貫通孔558に挿通され、操作部材557の下端部は、ベアリングを介して本体部3Eに回転自在に取り付けられている。操作部材557には、前記第1傘歯車554に噛み合う第2傘歯車555が固着されている。
【0035】
操作部材557を軸周り方向に回転させることにより、第2傘歯車555が回転し、第1傘歯車554が回転する。2つの傘歯車の噛み合わせによって、回転の方向を90度変更できる。第1傘歯車554の回転によって、軸部552がその軸周りに回転する。
図15に示すように、軸部552の雄ネジが雌ネジに噛み合った状態で、軸部552のみが回転するので、前方部11が前方へ押し出される。他方、操作部材557を反対方向に回転させることにより、軸部552も反対方向に回転し、前方部11が後方へ引き寄せられる。このように、ラスト1Eの前方部11の距離を変えることができる。
【0036】
{形状を変更可能な可変部を有するラスト}
この欄では、形状を変更することができる可変部が設けられているラストを幾つか例に採って説明する。以下、形状を変更可能な可変部を、「形状可変部」という場合がある。
形状可変部は、ラストの一部分であれば特に限定されず、例えば、ラストの前方部11、後方部12、内側方部13及び外側方部14を含む側方部、土踏まず部15、足甲部16及び足首部17から選ばれる少なくとも1つの箇所に配置される。前記形状可変部の形状を変化させる機構は、特に限定されず、様々な機構を採用できる。
図16は、形状を変更することができる形状可変部2Fが設けられているラスト1Fの一例である。
図16は、前記形状可変部2Fを有するラスト1Fの左側面図であるが、
図4と同様に、ラスト1Fを前後方向で切断した断面で表している。
【0037】
図16において、形状可変部2Fが、ラスト1Fの足甲部16に配置されている。つまり、ラスト1Fの足甲部16が形状可変部2Fとなっている。図示例では、本体部3F及び形状可変部2Fを有するラスト1Fの全体が、軟質材料で形成されている。ラスト1Fの内部には、気密的にエアーが充填されている複数の袋部と、それらの袋部間のエアーの通路となる連通路と、が設けられている。例えば、ラスト1Fの足甲部16の内部には、伸縮性を有する第1袋部561が設けられ、ラスト1Fの後方部12の内部には、伸縮性を有する第2袋部562が設けられている。さらに、前記第1袋部561と第2袋部562の間には、フレキシブルチューブ状の連通路563が設けられている。また、ラスト1Fには、第2袋部562を押圧する機構が設けられている。前記押圧する機構として、例えば、第2袋部562に面で接する板部564と、前記板部564に取り付けられた操作部材567と、が設けられている。前記操作部材567は、例えば、上下方向に延びる直線状の棒状体からなる。操作部材567は、足首部17に設けられた上下方向に延びる貫通孔568に挿通されている。また、操作部材567の下端部は、第2袋部562の上面に接する面を有する板部564に取り付けられている。
【0038】
図17に示すように、操作部材567を押し下げると、板部564によって第2袋部562が押圧される。第2袋部562が押圧されることにより、第2袋部562内のエアーが連通路563を通じて第1袋部561内に移動し、第1袋部561が膨らむ。第1袋部561が膨らむことによって、足甲部16が外部に押し出され、足甲部16(形状可変部2F)の形状が変化する。なお、必要に応じて、第2袋部562が押圧された状態を維持するため、押し下げた操作部材567の位置を固定し(いわゆる位置決めする)、操作部材567の戻りを防止するようにしてもよい。他方、操作部材567を引き上げることにより、板部564による第2袋部562の押圧が解除され、第1袋部561に移動していたエアーが第2袋部562内に戻り、足甲部16が元の形状に復帰する。
【0039】
前記操作部材567及び板部564は、足甲部16(形状可変部2F)の形状を変化させる部材であると共に、荷重付加手段としても機能する。すなわち、操作部材567を強く押し下げると、第2袋部562の下方の部分に荷重を付加することができる。ラスト1Fをシューズに挿入した状態で、ラスト1Fに対して荷重を付加する部分を変えることにより、ラスト1Fの足底面における着圧が最大値となる部位が変化し、それに伴いラスト1Fの足底面におけるシューズに対する着圧が変化する。このように荷重付加手段である操作部材567及び板部564は、ラスト1Fの足底面における着圧が最大値となる部位を、ラスト1Fのある部位(第1部位)から第2袋部562の下方の部分(第2部位)に変更できるように荷重を加えることができるように構成されている。
また、上述のように、操作部材567を押し下げると、足甲部16(形状可変部2F)の形状を変更できる。このため荷重付加手段を兼用している前記操作部材567及び板部564は、ラスト1Fの足底面における着圧の最大値となる部位が変更されることに従って、形状可変部2Fの形状を変更できるように構成されている。
【0040】
なお、形状可変部2Fは、前記のように、エアーなどを用いて内部から押し出すことによって形状を変化させる場合に限定されず、適宜変更できる。例えば、形状の異なる2つ以上の構成部材を準備し、それらを取り替えることによって形状が変更されるものであってもよい。例えば、位置可変部がラストの土踏まず部である場合、アーチの高さが低い形状を有する土踏まず部と、アーチの高さがそれよりも高い形状を有する土踏まず部と、を準備し、それらを交換することにより、土踏まず部(形状可変部)の形状を変更できる。
【0041】
{重量を変更可能な可変部を有するラスト}
この欄では、重量を変更することができる可変部が設けられているラストを幾つか例に採って説明する。以下、重量を変更可能な可変部を、「重量可変部」という場合がある。
重量可変部は、ラストの一部分であれば特に限定されず、例えば、ラストの前方部11、後方部12、内側方部13及び外側方部14を含む側方部、土踏まず部15、足甲部16、足首部17などに配置される。
重量可変部は、その重量を変更できるようになっている。重量可変部の重量を変更することにより、その変更の前後でラストそのものの重心の位置が変化する。
図18は、重量を変更することができる重量可変部2Gが設けられているラスト1Gの一例である。
図18は、前記重量可変部2Gを有するラスト1Gの左側面図であるが、
図4と同様に、ラスト1Gを前後方向で切断した断面で表している。
【0042】
図18において、ラスト1Gは、本体部3Gと、重量可変部2Gと、を有する。重量可変部2Gは、ラスト1Gの後方部12に配置されている。前記重量可変部2Gは、重り579を保持する重り保持部571を有する。前記重り保持部571は、ラスト1Gの内部に設けられ且つ重りを収容できる空間部からなる。ラスト1Gには、例えば、前記重り保持部571に重り579を外部から出し入れするために、外部に繋がる開口部572が形成されている。例えば、前記開口部572は、足首部17に開口されている。前記開口部572の直下に前記重り保持部571が配置されている。前記開口部572から重り保持部571に重り579を保持させることによって、後方部12(重量可変部2G)の重量を変更できる。この場合、後方部12の重量を重くすることにより、ラスト1Gの重心が後方寄りに変化する。必要に応じて、重さの異なる複数の重りを準備し、それらの重りを適宜取り替えることにより、ラスト1Gの重心の位置を幾つかに変えることができる。
【0043】
なお、重量可変部2Gは、前記のように重り保持部571を有する場合に限定されず、適宜変更できる。例えば、重量の異なる2つ以上の構成部材を準備し、それらを取り替えることによって重量が変更されるものであってもよい。例えば、重量可変部がラストの前方部11である場合、ある重量の第1の前方部と、それよりも重量の大きい第2の前方部と、を準備し、それらを交換することにより、前方部(重量可変部)の重量を変更できる。
【0044】
{位置、形状及び重量の組み合わせ}
ラストは、位置及び形状を変更可能な可変部を有していてもよく、或いは、位置及び重量を変更可能な可変部を有していてもよく、或いは、形状及び重量を変更可能な可変部を有していてもよく、或いは、位置、形状及び重量を変更可能な可変部を有していてもよい。
【0045】
<荷重付加手段>
荷重付加手段は、ラストに荷重を付加するために利用されるものである。ラストそのものも重量(荷重)を有するが、荷重付加手段によってラスト全体に更なる荷重を付加したり、或いは、重心の位置を任意に変化させることができる。
荷重付加手段は、可変部を有するラストに具備されていてもよく、或いは、可変部を有さないラストに具備されていてもよい。
図19及び
図20は、(可変部を有さず)荷重付加手段が設けられているラスト1Hの一例である。
図19は、前記荷重付加手段が設けられたラスト1Hの左側面図であるが、
図4と同様に、ラスト1Hを前後方向で切断した断面で表している。
図20も同様に、ラスト1Hを断面で表している。
【0046】
荷重付加手段は、ラスト1Hの内部に設けられ且つ荷重を作用させる作用部61と、荷重を付与する操作部62と、前記操作部62の荷重を作用部61に伝達する伝達部63と、を有する。前記作用部61、操作部62及び伝達部63は、金属などの硬質材料から形成されている。作用部61は、例えば、板状の部材からなり、ラスト1Hの形成材料の中に埋設されている。作用部61には、前記伝達部63の下端部が固着されている。作用部61は、前記伝達部63が固着された箇所を基準にして、例えば、その前方に延びる第1部611と、その後方に延びる第2部612と、を有する。必要に応じて、作用部61は、前記伝達部63が固着された箇所を基準にして、その内側方に延びる第3部613と、その外側方に延びる第4部614と、を有していてもよい。なお、特に図示しないが、作用部61は、前記第1部611と第3部613及び/又は第4部614の間で斜めに延びる部分、前記第2部612と第3部613及び/又は第4部614の間で斜めに延びる部分などを有していてもよい。前記伝達部63は、上下方向に延びる棒状体からなり、足首部17に埋設されている。伝達部63の上端部には、操作部62が固着されている。操作部62は、例えば、車のハンドルの如きリング状の部材からなり、放射状に延びる連結部64を介して伝達部63の上端部に固着されている。
【0047】
前記荷重付加手段の操作部62の全体に、人力や機械装置などを用いて荷重(下向きに押す力)を加えることにより、ラスト1Hに全体的に荷重を付加することができる。また、操作部62の前方の部分62-1に荷重を加えることにより、作用部61の第1部611に荷重が集中的に加えられ、ラスト1Hの前方部11に主として荷重を加えることができる。また、操作部62の後方の部分62-2に荷重を加えることにより、作用部61の第2部612を通じてラスト1Hの後方部12に主として荷重を加えることができ、操作部62の内側方の部分62-3又は外側方の部分62-4に荷重を加えることにより、作用部61の第3部613又は第4部614を通じてラスト1Hの内側方部13又は外側方部14に主として荷重を加えることができる。前記ラスト1Hをシューズに挿入した状態で、ラスト1Hに対して荷重を加える部分を変えることにより、ラスト1Hの足底面における着圧が最大値となる部位が変化し、それに伴いラスト1Hの足底面における着圧が変化する。かかる荷重付加手段は、ラスト1Hの足底面における着圧が最大値となる部位を、ラスト1Hの第1部位(例えば、前方部11)から第2部位(例えば、後方部12)に変更できるように、ラスト1Hに対して荷重を加えることができるように構成されている。
【0048】
なお、
図19及び
図20においては、荷重付加手段が可変部を有さないラストに設けられているが、上述の可変部を有するラストに、図示したような荷重付加手段が設けられていてもよい。
例えば、
図21は、前方部11(位置可変部2E)を突出させることができる
図14のラスト1Eに、
図19及び
図20に示す荷重付加手段を設けた場合の一例である。
図21の符号で示される部分又は部材は、
図14及び
図19と同様であるので、その説明は省略する。
また、上記<ラスト>の欄で、荷重付加手段を兼用する操作部材などが設けられているラストについても、
図19及び
図20に示すような荷重付加手段をさらに設けてもよい。
【0049】
<圧力計測手段>
圧力計測手段は、ラストの足上面の少なくとも1箇所の着圧を計測する上面圧力計測手段を有する。好ましくは、前記圧力計測手段は、前記上面圧力計測手段と、ラストの足底面の少なくとも1箇所の着圧を計測する底面圧力計測手段と、を有する。
圧力計測手段は、構成的には、例えば、圧力センサーと、演算処理部と、前記圧力センサーと演算処理部の間に設けられ且つ前記圧力センサーからの電気信号を演算処理部に伝送する配線部と、を有する。なお、圧力センサーと演算処理部の間で、Bluetoothなどの近距離無線通信が可能である場合には、前記配線部を省略してもよい。
【0050】
図22乃至
図24は、ラスト1の足上面の着圧を計測する上面圧力計測手段を概略的に表した参考図である。
上面圧力計測手段は、例えば、ラスト1の足上面に配置された圧力センサー711と、演算処理部721と、前記圧力センサー711と演算処理部721を電気的に接続する配線部731と、を有する。
上面圧力計測手段の圧力センサー711は、ラスト1の足上面の少なくとも1箇所に設けられ、好ましくは複数箇所に設けられる。ラスト1の足上面の複数箇所に圧力センサー711を設ける場合、
図22乃至
図24の破線で示す母趾a、母趾球側面b及び小趾球cに少なくとも圧力センサーを設けることが好ましい。さらに、必要に応じて、
図22乃至
図24の破線で示す小趾d、母趾球上面e、中足f、外踝g、内踝h、外踵i、内踵j及び踵中央kなどから選ばれる1箇所又は2箇所以上にも圧力センサー711を設けてもよい。
図22乃至
図24では、ラスト1の足上面の母趾a、母趾球側面b及び小趾球cに、圧力センサーを設けた場合を表している。
【0051】
図25は、ラスト1の足底面の着圧を計測する底面圧力計測手段を概略的に表した参考図である。
底面圧力計測手段は、例えば、ラスト1の足底面に配置された圧力センサー741と、演算処理部721と、前記圧力センサー741と演算処理部721を接続する配線部751と、を有する。
底面圧力計測手段の圧力センサー741は、ラスト1の足底面の少なくとも1箇所に設けられ、好ましくは複数箇所に設けられる。ラスト1の足底面の複数箇所に圧力センサー741を設ける場合、
図25の破線で示す足趾m、踏付n、アーチo及び踵pに少なくとも圧力センサー741を設けることが好ましい。さらに、必要に応じて、これら以外の箇所にも圧力センサー741を設けてもよい。
図25では、ラスト1の足底面の足趾m、踏付n、アーチo及び踵pに、圧力センサー741を設けた場合を表している。
【0052】
前記圧力センサーは、それに加わる圧力を感圧素子で計測し、電気信号に変換して出力するセンサーである。圧力センサーとしては、従来公知のものを使用でき、例えば、エアパック方式接触圧センサー、静電容量方式センサー、圧電素子方式センサー、抵抗膜方式センサーなどを用いることができる。1つの例では、市販の圧力センサーとして、例えば、エイエムアイ・テクノ社製の商品名「接触圧測定器(AMI3037-10-II)」などを用いることができる。
【0053】
演算処理部721は、圧力センサー711,741からの信号を受けとり、アナログ信号をデジタルデータに変換するA/D変換部を有し、前記デジタルデータを演算して圧力値を算出する。演算処理部721としては、いわゆるパーソナルコンピュータを使用できる。なお、前記圧力センサー711,741に、A/D変換器機能が具備されている場合には、演算処理部721の前記A/D変換部は省略される。
また、演算処理部721には、様々な情報を表示するモニター、キーボードなどの入出力部、揮発メモリ又は不揮発メモリなどの記憶部、任意の情報を印刷するプリンターなどを有していてもよい(いずれも図示せず)。
【0054】
<隙間計測手段>
隙間計測手段は、ラストをシューズに挿入した状態で、前記ラストの前端部と前記シューズの内側前端部との隙間を計測する前方隙間計測手段と、ラストをシューズに挿入した状態で、前記ラストの後端部と前記シューズの内側後端部との隙間を計測する後方隙間計測手段と、を含む。
隙間計測手段は、前記前方隙間計測手段及び後方隙間計測手段の双方を有していてもよく、或いは、何れか一方を有していてもよい。何れか一方の場合、前方隙間計測手段を用いることが好ましい。
図22乃至
図25の例では、隙間計測手段として、前方隙間計測手段及び後方隙間計測手段の双方がラストに設けられている。
前方隙間計測手段は、例えば、ラストの前端部に配置された距離センサー771と、演算処理部721と、前記距離センサー771と演算処理部721を接続する配線部(図示せず)と、を有する。後方隙間計測手段は、例えば、ラストの後端部に配置された距離センサー781と、演算処理部721と、前記距離センサー781と演算処理部721を接続する配線部(図示せず)と、を有する。なお、距離センサー771,781と演算処理部721の間で、Bluetoothなどの近距離無線通信が可能である場合には、前記配線部を省略してもよい。
【0055】
前記距離センサー771,781としては、従来公知のものを使用でき、例えば、触針式センサーなどの接触式センサー;レーザー距離センサー、赤外線距離センサー、超音波距離センサーなどの非接触式センサー;などを用いることができる。1つの例では、市販の距離センサーとして、例えば、キーエンス社製の商品名「高精度接触式デジタルセンサ(GT2-P12KL)」などを用いることができる。各図では、距離センサー771,781として、触針式センサーを使用した場合を表している。
演算処理部721は、上記<圧力計測手段>の欄に述べた通りである。なお、図示例では、隙間計測手段の演算処理部721は、圧力計測手段の演算処理部721と兼用されているが、隙間計測手段と圧力計測手段のそれぞれに別の演算処理部を使用してもよい。
なお、上記<ラスト>及び<荷重付加手段>の欄のラストには、圧力計測手段及び隙間計測手段が図示されていないが、これらのラストには、
図22乃至
図25で示すような圧力計測手段及び隙間計測手段が具備されていることに留意されたい。
【0056】
[計測方法]
本発明の計測方法は、上記様々な態様の中から選ばれるラストを用いて、着圧及び隙間を計測して足上面や足底面の各部における着圧データや隙間データを取得する。
図26に示すように、上記様々な態様の中から選ばれるラスト1をシューズ9に挿入する(シューズ挿入工程)。圧力計測手段によって、ラストの着圧を計測する(圧力計測工程)。隙間計測手段によって、ラストの前端部とシューズの内側前端部との隙間及び前記ラストの後端部と前記シューズの内側後端部との隙間の少なくとも一方の隙間を計測する(隙間計測工程)。圧力計測工程と隙間計測工程は、ラストをシューズに挿入した後に行われるが、その実施順序は特に限定されず、圧力計測工程を先に行ってもよく、隙間計測工程を先に行ってもよく、両工程を同時並行的に行ってもよい。
通常、ラストが標準的な位置に挿入されているか否かを確認するため、隙間計測工程を行った後に、圧力計測工程を行うことが好ましい。すなわち、ラストをシューズに挿入した後、隙間計測手段により、ラストの前端部の隙間及び/又は後端部の隙間を計測する。得られた隙間データを参照して、標準的な位置にラストが挿入されていることを確認した後、ラストの着圧を計測する。着圧は、ラストの足上面の着圧を少なくとも計測する。好ましくは、ラストの足上面の着圧及び足底面の着圧を計測する。
また、前記着圧を計測した後、隙間計測手段により、ラストの前端部の隙間及び/又は後端部の隙間を計測してもよく、或いは、ラストの前端部の隙間及び/又は後端部の隙間を計測した後、着圧を計測し、さらに、隙間計測手段により、ラストの前端部の隙間及び/又は後端部の隙間を計測してもよい。
【0057】
一般的には、圧力計測工程及び/又は隙間計測工程は、
図27(a)に示すように、ラスト1を挿入したシューズ9を水平面上に載せた状態で行なわれる。必要に応じて、同図(b)に示すように、ラスト1を挿入したシューズ9のつま先を上げ、シューズ9を踵下がりの傾斜状態にして圧力計測工程及び隙間計測工程を行なってもよい。或いは、同図(c)に示すように、ラスト1を挿入したシューズ9のつま先を下げ、シューズ9を踵上がりの傾斜状態にして圧力計測工程及び隙間計測工程を行なってもよい。
【0058】
上記可変部を有するラストを用いる場合、可変部の状態(形状、重量及び/又は本体部に対する位置)を変更する前、可変部の状態を変更している最中、又は、可変部の状態を変更した後に、前記圧力計測工程を行なう。圧力計測工程は、可変部の状態変更前、状態変更中及び状態変更後の少なくとも1つの時期に行えばよい。通常、圧力計測工程は、可変部の状態変更前と、可変部の状態変更中及び/又は状態変更後と、に行われる。必要に応じて、可変部の状態変更前、状態変更中及び状態変更後の少なくとも1つの時期に、隙間計測工程を行ってもよい。通常、隙間計測工程は、上述のように、ラストが標準的な位置に挿入されているか否かを確認するため、可変部の状態変更前に少なくとも行われ、必要に応じて、可変部の状態変更中及び/又は状態変更後に行ってもよい。
【0059】
また、上記荷重付加手段を有するラストを用いる場合、ラストに荷重を付加する前、ラストに荷重を付加している最中、又は、ラストに荷重を付加した後に、前記圧力計測工程を行なう。圧力計測工程は、荷重の付加前、付加中及び付加後の少なくとも1つの時期に行えばよい。通常、荷重付加工程は、荷重の付加前と、荷重の付加中及び/又は付加後と、に行われる。必要に応じて、荷重の付加前、付加中及び付加後の少なくとも1つの時期に、隙間計測工程を行ってもよい。通常、隙間計測工程は、上述のように、ラストが標準的な位置に挿入されているか否かを確認するため、荷重の付加前に少なくとも行われ、必要に応じて、荷重の付加中及び/又は付加後に行ってもよい。
【0060】
可変部及び/又は荷重付加手段を有するラストを用いることにより、着用者がシューズを実際に着用し、活動している際のシューズのフィット性を適切に評価できる。すなわち、従来のラストを用いて着圧を計測する方法にあっては、ラストの状態が不変であるため、着用者の足が静止しているときの着圧を計測しているに等しい。また、従来のラストを用いて着圧を計測する方法にあっては、ラストの自重(荷重)がシューズに加わるだけなので、着用者が実際にシューズを着用している状態に近似した状態での着圧を計測できない。着用者がシューズを着用して活動している際には、形状などの足の状態が変化し、また、荷重が集中的に加わる部分も変化する。本発明のように、可変部及び/又は荷重付加手段を有するラストを用いることにより、着用者がシューズを実際に着用し、直立静止している状態だけでなく、活動をしている際の着圧及び/又は隙間を計測できる。本発明によれば、着用者が実際にシューズを着用している状態に近似した状態をラストで再現でき、シューズのフィット性を適切に評価できる。
【0061】
図28は、人が歩行している際の足の動きを模式的に表した参考図である。
図28の符号100の状態は、歩行時に踵が地面に着き、つま先が地面から上がっている状態(以下、「ヒールコンタクト」という)、符号200の状態は、足底の略全体が地面に接している状態(以下、「フットフラット」という)、符号300の状態は、踵が上がり、つま先が地面に着いている状態(以下、「ヒールレイズ」という)を示す。
ヒールコンタクトにおいては、踵に着用者の重量が集中し、足の重心が踵側に寄っている。フットフラットにおいては、足の重心が前後方向の略中央に寄ると共に、足幅が拡張する。フットフラットにおいては、足の重心がつま先側に寄ると共に、足の前方部が曲がり且つ足幅が拡張する。また、ヒールコンタクトからヒールレイズに向かう過程で、着用者の足首が前後に傾斜する。このように着用者がシューズを実際に着用し、活動している際には、足の形状が変化したり、重心の位置が変化する。
【0062】
着用者の歩行時におけるシューズのフィット性を評価する概要を説明する。
まず、ラストをシューズに挿入し(シューズ挿入工程)、シューズを
図27(a)に示すように水平状態で静置する。隙間計測手段により、ラストの前端部の隙間及び/又は後端部の隙間を計測し(隙間計測工程)、標準的な位置にラストが挿入されていることを確認する。人力又は機械装置で荷重付加手段を押し込む又は荷重付加手段の上に重りを載せるなどの手法で、荷重付加手段を介してラスト全体に荷重を付加する。前記荷重を付加した後、足上面及び必要に応じて足底面の着圧を計測する(圧力計測工程)。このようにして得られた着圧データ及び隙間データは、着用者の直立静止状態に近似した状態におけるシューズのフィット性として評価できる。
【0063】
次に、可変部を変更及び/又は荷重を主として付加する部分を変更しながら、又は、それらを変更した後、着圧及び/又は隙間を計測する。
例えば、ヒールコンタクトを再現するように、荷重付加手段によってラストの後方部に荷重を付加し、ラストの重心を後方側に変更し、その変更の最中及び/又は変更後に着圧及び必要に応じて隙間を計測する。この際、
図27(b)に示すように、シューズをつま先上がりの傾斜状態にして前記着圧などを計測してもよい。なお、荷重付加手段による荷重を付加する部分の変更については、上記<ラスト>及び<荷重付加手段>を参照されたい(以下、同様)。
【0064】
さらに、フットフラットを再現するように、荷重付加手段によってラスト全体に荷重を付加し、且つ、位置可変部の距離を変更してラストの側方部を左右両側に拡張させ(ラストの幅を拡げる)、その変更の最中及び/又は変更後に、着圧及び必要に応じて隙間を計測する。前記位置可変部の距離の変更については、上記<ラスト>の欄の
図10乃至
図13の説明を参照されたい。この際、
図27(a)に示すように、シューズを水平状態にして前記着圧などを計測してもよい。
【0065】
さらに、ヒールレイズを再現するように、荷重付加手段によってラストの前方部に荷重を付加し、ラストの重心を前方側に変更し、且つ、位置可変部の角度を変更してラストの前方部を上向きに傾斜させ、その変更の最中及び/又は変更後に着圧及び必要に応じて隙間を計測する。前記位置可変部の角度の変更については、上記<ラスト>の欄の
図4乃至
図9の説明を参照されたい。この際、
図27(c)に示すように、シューズをつま先下がりの傾斜状態にして前記着圧などを計測してもよい。
【0066】
このようにして得られた着圧データ及び隙間データは、着用者の歩行時の状態に近似した状態におけるシューズのフィット性として評価できる。
ここでは、着用者の歩行時のフィット性を評価する計測方法を説明したが、これに限定されず、本発明によれば着用者の様々な状態を再現しながら、シューズのフィット性を評価できる。
【0067】
本発明のラストを用いた評価方法は、例えば、次のような場面で利用できる。
例えば、既に製品化されているシューズに対して、本発明のラストを用いて着圧などを計測することにより、そのシューズが適切なフィット性を有しているか否かを評価できる。さらに、製品化する予定のシューズに対して、本発明のラストを用いて着圧などを計測することにより、適切なフィット性を有するシューズを作製できる。
例えば、市場に流通しているシューズのうち、フィット性が良いと評判となっているシューズがあった場合、そのシューズを本発明のラストを用いて着圧などを計測する。これにより、フィット性が良いシューズの着圧データの範囲が判明する。この着圧データを、製品化する予定のシューズの作製に活用する。
【0068】
なお、上記では、可変部及び/又は荷重付加手段を有するラストを用いた評価方法を説明したが、例えば、着用者の足にラストを装着し、そのラストを装着した状態でシューズを履き、上述のように着圧及び/又は隙間を計測してもよい。
図29は、着用者の足を入れることができるラスト1Jを前後方向に沿って切断した断面図である。なお、このラスト1Jには、圧力計測手段及び隙間計測手段が設けられているが、
図29では、それらの手段を不図示としている。このラスト1Jの内部には、着用者の足を挿入できる空洞部59が形成されている。この空洞部59に足を入れ、さらに、着用者がラスト1Jを着けた状態でシューズを履く。そして、着用者が様々な活動をし、それらの状態において着圧などを計測する。かかる計測方法によれば、実際に着用者がラスト1Jを装着しているので、シューズのフィット性を適切に評価できる。
なお、
図29に示すラスト1Jに、マネキン人形の足を挿入し、そのラストをシューズに挿入し、マネキン人形を操りながら着圧などを計測してもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,1A、1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J ラスト
2A、2B,2C,2D,2E,2F,2G 可変部
3A、3B,3C,3D,3E,3F,3G 本体部
11 ラストの前方部
12 ラストの後方部
13 ラストの内側方部
14 ラストの外側方部
15 ラストの土踏まず部
16 ラストの足甲部
17 ラストの足首部