(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021796
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】帯電防止用塗装体および帯電防止用塗装体生産方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240208BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240208BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124884
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】林 篤嗣
(72)【発明者】
【氏名】平井 則孝
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】清永 つかさ
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038HA036
4J038NA21
(57)【要約】
【課題】施工が容易であり、施工スキルの有無にかかわらず、安価に、正電位に帯電する性質を有する基材に対する帯電防止効果が得られる帯電防止用塗装体を提供する。
【解決手段】帯電防止用塗装体30は、基材36および帯電防止層32を備える。基材36は、正電位に帯電する性質を有している。帯電防止層32は、基材36に結合するように構成される。帯電防止層32は、基材36に分子間力によって結合する平均粒子径がナノサイズの酸化グラフェン粒子を含んでいる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正電位に帯電する性質を有する基材と、前記基材に結合する帯電防止層とを備えた帯電防止用塗装体であって、
前記帯電防止層は、前記基材に分子間力によって結合する平均粒子径がナノサイズの酸化グラフェン粒子を含むことを特徴とする帯電防止用塗装体。
【請求項2】
前記帯電防止層は、酸化グラフェン粒子および還元型酸化グラフェンが混在することを特徴とする請求項1に記載の帯電防止用塗装体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の帯電防止用塗装体を形成するための帯電防止用塗装体生産方法であって、
平均粒子径がナノサイズの酸化グラフェン粒子を0.0001~0.1重量%だけ分散媒に分散させてなる帯電防止用塗装料を前記基材に対して噴霧するステップと、
前記基材に噴霧された帯電防止用塗装料の分散媒を揮発させるステップと、
を少なくとも含む帯電防止用塗装体生産方法。
【請求項4】
太陽光によって前記酸化グラフェン粒子を還元させて還元型酸化グラフェンを得るステップをさらに含む帯電防止用塗装体生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正電位に帯電する性質を有する基材と、この基材に直接または中間層を介して間接的に結合する帯電防止層とを備えた帯電防止用塗装体、およびその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
どの材質が正(プラス)に帯電しやすく、どの材質が負(マイナス)に帯電しやすいかを知る手段の1つとして帯電列が挙げられる。ある材質を用いた基材の使用環境や帯電列を参考にすることによって、基材の帯電傾向を概ね正確に把握することが可能である。
【0003】
例えば、自動車の各部は走行するにしたがって正に帯電していく傾向があることが知られており、自動車の各部に溜まった正電荷によって、自動車の操作性や燃費が低下することがあった。
【0004】
そこで、従来技術の中には、自動車に除電機構を設けることによって、正に帯電した自動車の各部を中和除電する構成を採用するものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術ように除電機構のような複雑な構成を採用するものにおいては、既存の車両等に後から適用することが困難であり、たとえ適用できる場合であってもコストがかかるという不都合があった。
【0007】
また、比較的、既存の車両等に適用しやすい従来技術として、導電性アルミテープを車両に貼り付けるものや、帯電防止用の塗料を塗布するものも存在するが、施工が困難なことが多く、施工スキルのない者が利用した場合に、施工バラツキが生じて所望の効果を得られないことがあった。
【0008】
この発明の目的は、施工が容易であり、施工スキルの有無にかかわらず、安価に、正電位に帯電する性質を有する基材に対する帯電防止効果が得られる帯電防止用塗装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る帯電防止用塗装体は、正電位に帯電する性質を有する基材と、この基材に結合する帯電防止層とを備えている。帯電防止層は、基材に直接結合しても良いし、塗膜等の中間層を介して間接的に結合しても良い。
【0010】
正電位に帯電する性質を有する基材の例としては、走行に伴って正電位に帯電することが知られている自動車等の車両の各部(外装、タイヤ、エンジンルーム内のパーツ等)が挙げられる。ただし、帯電防止用塗装体はその他の基材に対しても適用することが可能である。
【0011】
帯電防止層は、基材に分子間力によって結合する平均粒子径がナノサイズの酸化グラフェン粒子を含む。
【0012】
この構成においては、正電位に帯電する性質を有する基材に対して、分散媒中に分散し易く、かつ、負電位に帯電する性質を有する酸化グラフェン粒子が結合するため、基材の正電位を簡易に除電することが可能になる。
【0013】
特に、平均粒子径がナノサイズの粒子は、分子間力が大きくなるため、基材に強固に結合させ易い。また、分散媒中に均一に分散しやすい性質(凝集/偏在しにくい性質)の酸化グラフェン粒子は、所望の箇所に均一に配置し易い。
【0014】
上述の構成において、帯電防止層は、酸化グラフェン粒子および還元型酸化グラフェンが混在しても良い。
【0015】
基材に結合した酸化グラフェン粒子が還元型酸化グラフェンになると、電気抵抗が下がって導電性が増すため、導電助剤として機能する。その結果、帯電防止層の導電性が上がり帯電しにくくなる。
【0016】
上述の帯電防止用塗装体を生産する際には、
平均粒子径がナノサイズの酸化グラフェン粒子を0.0001~0.1重量%だけ分散媒に分散させてなる帯電防止用塗装料を基材に対して噴霧するステップ、および、基材に噴霧された帯電防止用塗装料の分散媒を揮発させるステップを少なくとも含むことが好ましい。
【0017】
酸化グラフェン粒子の濃度が0.0001~0.1重量%の範囲内であれば、透明性、帯電防止性、施工容易性等の要素を好適に保つことが可能になる。0.1重量%に近づくほど透明性がなくなる傾向があるため、透明性を優先させる場合には、なるべく0.0001重量%に近い範囲の濃度を採用することが好ましい。
【0018】
ここで、補足説明をすると、酸化グラフェンは、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の酸素を有する官能基を備えた極性物質であり、一般的に、電気陰性度の関係より官能基中の酸素がマイナスに帯電するとされている。
【0019】
このため、水等の極性のある分散媒中においては、酸化グラフェン粒子どうしが凝集しにくく、分散媒中に酸化グラフェンが均一に分散しやすいとされている。
【0020】
帯電防止用塗装体を生産する際に、さらに、太陽光によって酸化グラフェン粒子を還元させて還元型酸化グラフェンを得るステップを含むようにしても良い。
【0021】
酸化グラフェンは、グラフェンの酸化形態であり、酸素含有基がグラフェン構造を形成するグラファイト基底面に結合している。酸化グラフェンは、グラフェンに比較すると、電気伝導性が低い。
【0022】
ただし、酸化グラフェンが還元されて、その構造から酸素含有基が除去されると、電気伝導特性が増すことが知られている。一般的に、酸化グラフェンは、熱、化学反応、紫外線照射等によって還元される。
【0023】
基材(自動車のボディ等)に結合した酸化グラフェン粒子が太陽光を浴びることによって、太陽光に含まれる紫外光によって酸化グラフェン粒子が還元型酸化グラフェン粒子になりやすい。
【0024】
酸化グラフェン粒子が偏在することなく基材上に均一に広がっているため、反応によって得られる還元型酸化グラフェン粒子の偏在が防止される。
【0025】
ナノサイズのカーボン粒子は、分散させるために特殊な技術を必要としたり、たとえ分散できたとしてもカーボン粒子の比表面積が大きく凝集しやすいため、偏在を生じやすく、均一に塗装するのが困難であったりするとされているが、上述の方法を採用すれば、そのような不都合が生じにくい。
【0026】
極性分散媒中に分散媒中にナノサイズの酸化グラフェンを分散させることにより、均一に塗装しやすく、除電効果や帯電防止効果が高い塗料を提供することが可能になる。このため、塗装のために特別なスキルが必要となることもなく、導電助剤として機能する還元型酸化グラフェンを均一に広範囲に分布させ易くなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、施工が容易であり、施工スキルの有無にかかわらず、安価に、正電位に帯電する性質を有する基材に対する帯電防止効果が得られる帯電防止用塗装体を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に用いる酸化グラフェンの製造方法の一例を示す図である。
【
図2】本発明に用いる酸化グラフェンの製造方法の一例を示す図である。
【
図3】帯電防止用塗料の塗布手法の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る帯電防止用塗装体の概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る帯電防止用塗装体による燃費向上効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明に係る帯電防止用塗装体に用いる酸化グラフェンを製造するための酸化グラフェン製造システム10の概略構成の一例を示している。同図に示すように、酸化グラフェン製造システム10は、酸化反応装置12、反応停止装置14、および精製部15を備えている。
【0030】
酸化反応装置12は、酸や塩を用いることによってグラファイトを酸化グラファイトにするための酸化反応を行うように構成される。この実施形態では、硫酸(酸)と過マンガン酸カリウム(塩)を利用した、いわゆるハマーズ法を用いた酸化処理が行われる。
【0031】
酸化反応装置12には、処理すべきグラファイトを受け入れるように構成されたグラファイト受入部や、受け入れたグラファイトを順次的に反応槽に供給するための搬送機構や、反応温度の上昇を抑えるためのチラー等が設けられる。この実施形態においては、安全のため液温がチラーの制御によって40℃以下になるように調整されている。
【0032】
反応停止装置14は、水や過酸化水素を用いることによって、グラファイトの酸化反応を停止させるように構成される。
【0033】
上述した、酸化反応装置12および反応停止装置14は、グラファイトの飛散を防止するために専用のブース内に配置されることが好ましく、このブースに集塵機を設置することがさらに好ましい。
【0034】
精製部15は、遠心分離装置16および回転ろ過装置18を少なくとも備える。精製部15は、遠心分離およびろ過を適宜組み合わせることによって、例えば、脱酸処理を施しつつ、S残渣の濃度をppmオーダにまで低減したり、その他金属成分濃度を低減したりする等、効率的に不純物の除去が可能となっている。
【0035】
精製部15において、遠心分離装置16は、酸化反応装置12および反応停止装置14を経由することによって得られた酸化グラファイトの分散液に対して、遠心沈降作用を利用することによって、
図2(A)に示すように、分散液を液分(酸)162と固形分(酸化グラファイト)164とに分離する。
【0036】
この実施形態では、遠心分離装置16のバスケット内に挿入したスキミングパイプを通して硫酸成分をバスケット外に排出することによって酸化グラファイトに付着した酸を除去している。遠心分離装置16は、1000~5000G程度の遠心加速度で遠心分離処理を行うように構成されているが、これに限定されるものではない。
【0037】
遠心分離装置16を構成する各部品は、耐熱ポリ塩化ビニル等の耐薬品性を有する素材によってライニングする等して、酸性溶液と接触可能にしておくことが重要である。
【0038】
なお、ハマーズ法以外の酸化処理が採用される場合には、遠心分離装置16において、硝酸や塩酸等の硫酸以外の酸が除去されることになる。
【0039】
遠心分離装置16において、ある程度の脱酸処理が施された酸化グラファイトは、回転ろ過装置18に導入される。
【0040】
この実施形態では、酸化グラファイト近傍の洗浄水が安定してpH2以上の状態を保っているときに、脱酸が概ね完了し、後段の工程に移行すべき状態になったものと判断している。ただし、しきい値となるpH値はこれに限定されるものではなく、1.5~4.5程度の範囲で適宜最適なしきい値を設定すると良い。
【0041】
遠心分離装置16において固形分として回収された酸化グラファイトは、純水に分散された状態で回転ろ過装置18に送り出される。実際には、この酸化グラファイトの中には、単層の酸化グラフェン、単層の酸化グラフェンが複数積層した複層酸化グラフェン等が含まれている。
【0042】
回転ろ過装置18では、酸化グラファイトや複層酸化グラフェンに対して、効率的に剥離力を加えることによって単層の酸化グラフェンの濃度を高めつつ、かつ、分散液に含まれる硫酸イオン、カリウムイオン、マンガンイオン等の不純物を除去するための処理が施される。
【0043】
回転ろ過装置18は、ドラム状(中空円筒状)を呈するとともに回転可能に支持されたろ過フィルタ182、ろ過フィルタ182の周面に堆積するケーキ層の厚みを調整する層厚調整ブレード184を少なくとも備える。
【0044】
ろ過フィルタ182は、その目地の開口が回収すべき酸化グラフェンが通過しない大きさになるように構成される。この実施形態において一般的に得られる酸化グラフェンの粒径は、小さいもので数十nm程度、大きいものだと数十μm程度になる。
【0045】
このため、この実施形態においては、ろ過フィルタ182の開口は、数十nm程度の大きさにされている。ただし、ろ過フィルタ182の構成は、これに限定されるものではない。
【0046】
ろ過フィルタ182は、
図2(B)および
図2(C)に示すように、その内部に分散液を引き込むことにより、ろ過フィルタ182周面にて酸化グラファイトや酸化グラフェンを含むケーキ層186を補足するように構成される。
【0047】
ただし、ケーキ層186の厚みが大きくなりすぎると、ろ過速度が低下するといった不都合があるため、層厚調整ブレード184によってケーキ層186の厚みを調整している。そして、この層厚調整ブレード184によって酸化グラファイトに対して力が加えられることによって、層の剥離が促進され、1~10層程度に剥離処理された酸化グラフェンの濃度が増大する。
【0048】
ここで、酸化グラフェンの層数は、例えば、原子間力顕微鏡、透過型電子顕微鏡、ラマンスペクトルなどで評価することができる。
【0049】
回転ろ過装置18において、ろ液として不純物を排出しつつ、ろ液の色を分析したり、ろ液の中に含まれるカリウム、硫黄、マンガン等の濃度を測定したりすることによって、酸化グラフェンの濃度や、分散液に含まれる不純物の濃度を概ね把握することができる。
【0050】
この実施形態においては、回転ろ過装置18において回収した酸化グラフェンを純水に分散させることによって、酸化グラフェン(1~10層に剥離処理)の0.01~5重量%程度の水性分散液を得ることが可能となっている。
【0051】
水以外の分散媒としては、水を主体として酸化グラフェンが凝集しない範囲で、親水性分散媒、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコールなどのグリコール類、テトラヒドロフランなどを加えることも可能である。
【0052】
なお、得られる酸化グラフェンの大きさは原料となるグラファイト結晶の大きさに依存するが、適宜、外力を加えることによって、ある程度のサイズの調整は可能である。
【0053】
回転ろ過装置18では、ろ過フィルタ182が回転駆動され、層厚調整ブレード184が静止する構成を採用しているが、ろ過フィルタ182を静止させて層厚調整ブレード184を移動させる構成や、両方を移動させる構成を採用することも可能である。
【0054】
回転ろ過装置18に代えて、マイクロフィルタ装置やその他のろ過装置を採用することも可能である。
【0055】
上述の実施形態においては、スキミングされた硫酸や、ろ過フィルタ182を通過したろ液(不純物含有)は、産業廃棄物処分業者等によって適切に処理されることになる。
【0056】
続いて、得られた酸化グラフェンの分散液を用いて自動車等の車両に帯電防止用の塗装体を形成する例を説明する。
【0057】
図3は、0.0001~0.1重量%(1~1000ppm)程度の酸化グラフェンを純水、イオン交換水、蒸留水等の分散媒に分散させた帯電防止用塗装料22が収容された噴霧器20の概略構成を示している。
【0058】
噴霧器20のような手段を用いることにより、酸化グラフェン粒子が均一に分散した帯電防止用塗装料22を、除電または帯電防止処理を施すべき基材に対して簡易に噴霧しやすくなる。
【0059】
噴霧器20によって基材に噴霧された帯電防止用塗装料22は、乾燥によって、その分散媒が揮発し易い。噴霧器20による噴霧の後にワイプすることによって、分散媒の揮発がさらに促進することになる。
【0060】
図4(A)および
図4(B)に示すように、噴霧器20によって帯電防止用塗装料22を自動車に塗布することにより、基材36(自動車のボディ、窓ガラス等の各部)を含む帯電防止用塗装体30が形成される。
【0061】
帯電防止用塗装料22は基材36に直接的に、または、塗膜34等を介して間接的に塗布されることによって帯電防止層32を形成することになる。
【0062】
ここでは、1リットル程度の帯電防止用塗装料22を、噴霧器20によって、自動車のボディ全域、ホイール、タイヤ(ゴム部)、フロントガラス、リアガラス、その他窓ガラス全域、ルーフキャリア全域に塗布している。帯電防止用塗装料22としては、0.001重量%(10ppm)の酸化グラフェン(不純物濃度1%以下)を含む水分散液を採用している。
【0063】
塗布方法は、噴霧器20を用いて噴霧した箇所を、市販のマイクロファイバにてワイプして均一に帯電防止用塗料22の層ができるようにした。なお、帯電防止用塗装料22の必要量は、塗面の面積や酸化グラフェン粒子の比表面積等から最適量の算定が可能である。そして、単層の酸化グラフェン粒子が塗装面の全領域に、隙間なく均質に配列される状態が理想であるが、必ずしも理想の塗装面にならなくても相当の除電効果および帯電防止効果を得ることが可能である。
【0064】
図5(A)および
図5(B)は、それぞれ、帯電防止用塗料22を適用する前後において、片道約12キロの通勤路(経路の9割以上が高速道路走行)を5日間走行したとき比較結果を示している。
【0065】
図5(A)は、帯電防止用塗料22を適用して自動車に帯電防止用塗装体30を設ける前の5日間の走行の際の燃費結果であり、燃費は8.1キロメートル/リットルになっている。
【0066】
一方で、
図5(B)は、帯電防止用塗料22を適用することによって自動車に帯電防止用塗装体30を設けた後の5日間の走行の際の燃費結果であり、燃費は11.3キロメートル/リットルになっている。
【0067】
上記の燃費結果は、天候等の外部環境がほぼ同じであり、かつ、タイヤの空気圧等の自動車の状態もほぼ同じと推定される連続する2週間において測定された結果であり、かつ、燃費が40%近く上昇しているため、帯電防止用塗装体30を設けることによる燃費向上効果が一定程度肯定されるものと思われる。
【0068】
燃費向上のメカニズムの解明については、さらなる検討が必要であるが、出願人は以下の原理が成立していると推認する。自動車等の車両は、走行することにより正に帯電し易く、その周囲の空気は一般的に正の電荷を帯びているため、正に帯電した車両と空気流との間に斥力が発生する。
【0069】
この斥力によって車両の外表面近傍から空気流が剥離する結果、意図した空力特性が得られず、走行性能又は操縦安定性などが低下し易くなるところ、上述の帯電防止用塗装体30が自動車に除電効果と帯電防止効果をもたらすことにより、燃費向上が実現すると思われる。
【0070】
上述の実施形態では、塗布法として、噴霧(スプレー塗布)について説明したが、ハケ塗り、バー塗布、ローラ塗布等の公知の塗布法を用いることも可能である。
【0071】
自動車に塗布された帯電防止用塗料22中の酸化グラフェン粒子は、自動車が太陽光を浴びるにつれて、次第に還元型酸化グラフェン粒子に置き換わると考えられる。
【0072】
酸化グラフェンは酸素を含む官能基を有する構造体であるため、極性溶媒中において酸化グラフェンどうしが凝集することなく、均一に分散する。分散した酸化グラフェンは分散媒中に均一に混ざり合う。
【0073】
結果として、分散媒の揮発と酸化グラフェンの還元処理とにより、酸化グラフェンから形成された還元型酸化グラフェンについても、塗装面中に均一に分散されることになる。
【0074】
塗面に噴霧されることにより、帯電防止層32を構成する酸化グラフェンは、極性溶媒中において負に帯電する傾向があるため、正に帯電する傾向のある車両の塗装面に容易に付着し易い。
【0075】
酸化グラフェン粒子は、正電位に帯電する傾向のある車両表面等の電荷を中性化する役割を果たし、さらに、還元型酸化グラフェンが導電助剤として機能することによって帯電防止効果を持続するものと考えられる。この帯電防止効果により塵埃の付着が防止されるため、防汚性が向上するものと考えられる。
【0076】
酸化グラフェン粒子および還元型酸化グラフェン粒子は、いずれも分散媒が揮発した後に、分子間力によって自動車等の塗装面に付着することになるが、そのときの分子間力はこれらの粒子がナノサイズなので相当緊密に塗面に結合すると推認される。
【0077】
塗装面に加えられる力によって酸化グラフェン粒子および還元型酸化グラフェン粒子が剥がれ落ちることもあるため、必要に応じて、1~24週間程度に一度くらいの頻度で上述の塗装作業を行うようにしても良い。
【0078】
なお、本明細書において、「正電荷に帯電」とは、中性条件でのゼータ電位が正(プラス)であることをいう一方で、「負電荷に帯電」とは、中性条件(pH=7)でのゼータ電位が負(マイナス)であることをいう。
【0079】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0080】
10-酸化グラフェン製造システム
12-酸化反応装置
14-酸化反応停止装置
15-精製部
16-遠心分離装置
18-回転ろ過装置
20-噴霧器
22-帯電防止用塗料
30-帯電防止用塗装体
32-帯電防止層
34-中間層
36-基材
182-ろ過フィルタ
184-層厚調整ブレード
186-ケーキ層