(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002180
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】有機物処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101227
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】秋元 真也
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059AA07
4D059BA16
4D059DA70
4D059EA05
4D059EB11
(57)【要約】
【課題】メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ち、従来よりも安定的且つ効率的な運転が可能となる有機物処理システムを提供する。
【解決手段】有機物が供給されるメタン発酵槽10と、メタン発酵槽10内に水素を供給する水素供給手段20とを備え、メタン発酵槽10内でのメタネーションが実行可能に構成された有機物処理システム1であって、メタン発酵槽10内のメタン発酵液のpHを測定するpH測定手段30を備え、水素供給手段20は、pH測定手段30で測定された測定pHに応じて水素の供給流量を調整するように構成され、測定pHが予め定めた閾値未満である場合に水素を標準流量で供給し、測定pHが閾値以上である場合に水素を標準流量よりも減らして供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物が供給されるメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内に水素を供給する水素供給手段とを備え、
前記メタン発酵槽内でのメタネーションが実行可能に構成された有機物処理システムであって、
前記メタン発酵槽内のメタン発酵液のpHを測定するpH測定手段を備え、
前記水素供給手段は、前記pH測定手段で測定された測定pHに応じて前記水素の供給流量を調整するように構成され、前記測定pHが予め定めた閾値未満である場合に前記水素を標準流量で供給し、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記水素を前記標準流量よりも減らして供給する、有機物処理システム。
【請求項2】
前記メタン発酵槽内で発生したバイオガスを回収する回収手段と、
前記回収手段で回収するバイオガスの少なくとも一部を前記メタン発酵槽内へ供給するバイオガス循環手段とを備え、
前記バイオガス循環手段は、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記バイオガスを所定流量で前記メタン発酵槽内へ供給し、前記測定pHが前記閾値未満である場合に前記バイオガスの供給を停止する、請求項1に記載の有機物処理システム。
【請求項3】
貯蔵手段に貯蔵されたバイオガスを前記メタン発酵槽内に供給するバイオガス供給手段を備え、
前記バイオガス供給手段は、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記バイオガスを所定流量で前記メタン発酵槽内へ供給し、前記測定pHが前記閾値未満である場合に前記バイオガスの供給を停止する、請求項1に記載の有機物処理システム。
【請求項4】
前記バイオガス供給手段は、前記水素供給手段における水素供給用ラインを介して前記メタン発酵槽内に前記バイオガスを供給する、請求項3に記載の有機物処理システム。
【請求項5】
前記有機物は、汚泥に含まれる請求項1に記載の有機物処理システム。
【請求項6】
前記閾値は、pH8~pH10の範囲内で設定される請求項1に記載の有機物処理システム。
【請求項7】
前記水素供給手段は、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記水素の供給を停止する、請求項1~6のいずれか一項に記載の有機物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵を利用して有機物を処理する有機物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥や生ごみに含まれる有機物をメタン発酵を利用してバイオガス化する技術が知られている。有機物のメタン発酵により得られるバイオガスには、主にメタンと二酸化炭素が含まれている。近年、二酸化炭素排出量の削減やバイオガスの都市ガスとしての利用を目的に、バイオガス中の二酸化炭素を微生物によってメタンに変換する、所謂バイオメタネーション技術の開発が進められている。
【0003】
バイオメタネーション技術としては、例えば、特許文献1記載の手法が提案されている。特許文献1記載の手法は、所謂in situバイオメタネーションであって、メタン発酵工程に水素ガスを加えることで、生成するバイオガス中のメタン/二酸化炭素比を増加させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、in situバイオメタネーションにおいては、メタネーションによる二酸化炭素からメタンへの変換が進むことで、発酵液中の二酸化炭素濃度が減少し、当該発酵液のpHが上昇する。そして、発酵液のpHが上昇することにより、発酵液中の遊離アンモニア濃度が増加する。その結果、メタン細菌の活性が低下し、メタネーションによる二酸化炭素からメタンへの変換が進み難くなる。即ち、in situバイオメタネーションを利用する処理システムにおいては、メタネーションが進んでメタン発酵液のpHが上昇すると、システムの運転効率が低下し、最終的にはシステム自体が機能しなくなる虞がある。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ち、従来よりも安定的且つ効率的な運転が可能となる有機物処理システムの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る有機物処理システムの特徴構成は、
有機物が供給されるメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内に水素を供給する水素供給手段とを備え、
前記メタン発酵槽内でのメタネーションが実行可能に構成された有機物処理システムであって、
前記メタン発酵槽内のメタン発酵液のpHを測定するpH測定手段を備え、
前記水素供給手段は、前記pH測定手段で測定された測定pHに応じて前記水素の供給流量を調整するように構成され、前記測定pHが予め定めた閾値未満である場合に前記水素を標準流量で供給し、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記水素を前記標準流量よりも減らして供給する点にある。
【0008】
上記特徴構成によれば、測定pHが閾値未満である場合には、水素供給手段によってメタン発酵槽内に水素を標準流量で供給する。そのため、メタン発酵槽内において、メタン発酵液中でメタン発酵を行いつつ、当該メタン発酵によって発生したバイオガス中の二酸化炭素をメタン細菌によってメタン化できる。
一方、メタン細菌による二酸化炭素のメタン化(メタネーション)が進行すると、メタン発酵槽内の二酸化炭素が減少し、メタン発酵液のpHが上昇する。上記特徴構成によれば、測定pHが閾値以上となった場合には、水素供給手段によってメタン発酵槽内に水素を標準流量よりも減らして供給する。そのため、メタン発酵槽内において、メタン発酵液中でメタン発酵によって二酸化炭素を発生させつつ、メタン細菌による二酸化炭素のメタン化を意図的に進み難くして(メタネーションによる二酸化炭素の減少量を意図的に少なくして)、メタン発酵槽内の二酸化炭素を増加させて、メタン発酵液のpHを低下させられる。
即ち、上記特徴構成によれば、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇して閾値以上となった場合に、メタン発酵槽内への水素の供給流量を減らし、メタン発酵液のpHを閾値未満となるまで低下させられる。そのため、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保つことができ、メタン発酵液のpH上昇によってメタン細菌の活性が低下し、運転効率が低下し、システム自体が機能しなくなるといった事態の発生を抑えられる。
したがって、上記特徴構成によれば、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ち、従来よりも安定的且つ効率的な運転が可能となる。
【0009】
また、本発明に係る有機物処理システムの更なる特徴構成は、
前記メタン発酵槽内で発生したバイオガスを回収する回収手段と、
前記回収手段で回収するバイオガスの少なくとも一部を前記メタン発酵槽内へ供給するバイオガス循環手段とを備え、
前記バイオガス循環手段は、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記バイオガスを所定流量で前記メタン発酵槽内へ供給し、前記測定pHが前記閾値未満である場合に前記バイオガスの供給を停止する点にある。
【0010】
メタン発酵槽内への水素の供給流量を減少させるだけでは、メタン発酵槽内でのメタン発酵によるバイオガスの発生量が少ないと、メタン発酵槽内の二酸化炭素の増加に長時間を要する。
しかしながら、上記特徴構成によれば、測定pHが閾値以上である場合には、バイオガス循環手段によって、メタン発酵槽から回収したバイオガスの少なくとも一部をメタン発酵槽内へ所定流量で供給する。バイオガスには二酸化炭素が含まれるため、バイオガスの少なくとも一部をメタン発酵槽内へ供給することで、二酸化炭素がメタン発酵槽内へ供給されることになる。そのため、上記特徴構成によれば、メタン発酵槽への水素の供給流量を減少させるだけの場合と比較して、メタン発酵槽内の二酸化炭素の増加速度を速めて、メタン発酵液のpHを速く低下させられる。そして、メタン発酵液のpHが低下して、測定pHが閾値未満となった場合には、バイオガス循環手段によるバイオガスの供給を停止する。
即ち、上記特徴構成によれば、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇して閾値以上となった場合に、メタン発酵槽から回収したバイオガス(二酸化炭素)をメタン発酵槽に供給し、メタン発酵槽への水素の供給流量を減少させるだけの場合よりもメタン発酵液のpHを閾値未満となるまで速く低下させられる。そのため、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ちやすく、メタン発酵液のpH上昇によってメタン細菌の活性が低下し、運転効率が低下し、システム自体が機能しなくなるといった事態の発生をより抑えられる。また、メタン発酵槽への水素の供給流量を減少させるだけの場合よりもメタネーションを停止している時間を短縮できる。
したがって、上記特徴構成によれば、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ち、従来よりも安定的且つ効率的な運転が可能となる。
【0011】
本発明に係る有機物処理システムの更なる特徴構成は、
貯蔵手段に貯蔵されたバイオガスを前記メタン発酵槽内に供給するバイオガス供給手段を備え、
前記バイオガス供給手段は、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記バイオガスを所定流量で前記メタン発酵槽内へ供給し、前記測定pHが前記閾値未満である場合に前記バイオガスの供給を停止する点にある。
【0012】
上記のように、メタン発酵槽内への水素の供給流量を減少させるだけでは、メタン発酵槽内でのメタン発酵によるバイオガスの発生量が少ないと、メタン発酵槽内の二酸化炭素の増加に長時間を要する。
しかしながら、上記特徴構成によれば、測定pHが閾値以上である場合には、バイオガス供給手段によって、貯蔵手段で貯蔵されたバイオガスをメタン発酵槽内へ所定流量で供給する。上記のように、バイオガスには二酸化炭素が含まれるため、バイオガスをメタン発酵槽内へ供給することで、二酸化炭素がメタン発酵槽内へ供給されることになる。そのため、上記特徴構成によれば、メタン発酵槽への水素の供給流量を減少させるだけの場合と比較して、メタン発酵槽内の二酸化炭素の増加速度を速めて、メタン発酵液のpHを速く低下させられる。そして、メタン発酵液のpHが低下して、測定pHが閾値未満となった場合には、バイオガス供給手段によるバイオガスの供給を停止する。
即ち、上記特徴構成によれば、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇して閾値以上となった場合に、貯蔵手段で貯蔵されたバイオガス(二酸化炭素)をメタン発酵槽に供給し、メタン発酵槽への水素の供給流量を減少させるだけの場合よりもメタン発酵液のpHを閾値未満となるまで速く低下させられる。そのため、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ちやすく、メタン発酵液のpH上昇によってメタン細菌の活性が低下し、運転効率が低下し、システム自体が機能しなくなるといった事態の発生をより抑えられる。また、メタン発酵槽への水素の供給流量を減少させるだけの場合よりもメタネーションを停止している時間を短縮できる。
したがって、上記特徴構成によれば、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ち、従来よりも安定的且つ効率的な運転が可能となる。
【0013】
本発明に係る有機物処理システムの更なる特徴構成は、
前記バイオガス供給手段は、前記水素供給手段における水素供給用ラインを介して前記メタン発酵槽内に前記バイオガスを供給する点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、メタン発酵槽内にバイオガスを供給するために、バイオガス供給用ラインを別途設ける必要がない。そのため、コストの増大やシステムの複雑化が避けられる。
【0015】
本発明に係る有機物処理システムの更なる特徴構成は、
前記有機物は、汚泥に含まれる点にある。
【0016】
本願発明者は、汚泥の処理において、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ち、従来よりも安定的且つ効率的な運転が可能となることを確認している。
【0017】
本発明に係る有機物処理システムの更なる特徴構成は、
前記閾値は、pH8~pH10の範囲内で設定される点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、メタン発酵液のpHがメタン細菌の活性が低下し易くなるpH9付近である場合にメタン発酵液のpHを低下させられる。
【0019】
本発明に係る有機物処理システムの更なる特徴構成は、
前記水素供給手段は、前記測定pHが前記閾値以上である場合に前記水素の供給を停止する点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、メタン発酵槽内への水素の供給流量を減少させる場合と比較して、メタン細菌による二酸化炭素のメタン化がより進み難くなる。そのため、メタン発酵槽内における二酸化炭素の増加速度が速まり、メタン発酵槽内のpHをより早く低下させられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態に係る有機物処理システムの概略構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る有機物処理システムにおけるpHに応じた水素の供給・停止の切換を説明するための図である。
【
図3】第2実施形態に係る有機物処理システムの概略構成を示す図である。
【
図4】第2実施形態に係る有機物処理システムにおけるpHに応じた水素及びバイオガスの供給・停止の切換を説明するための図である。
【
図5】第3実施形態に係る有機物処理システムの概略構成を示す図である。
【
図6】第3実施形態に係る有機物処理システムにおけるpHに応じた水素及びバイオガスの供給・停止の切換を説明するための図である。
【
図7】バイオガス吹込み量とpHとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る有機物処理システムについて説明する。尚、以下においては、処理対象である有機物が汚泥に含まれるものである場合を例にとって説明する。
【0023】
〔第1実施形態に係る有機物処理システムの構成〕
まず、第1実施形態に係る有機物処理システム1の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る有機物処理システム1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、有機物処理システム1は、汚泥が供給されるメタン発酵槽10と、メタン発酵槽10内に水素を供給する水素供給部20(水素供給手段の例)と、メタン発酵槽10内のメタン発酵液のpHを測定するpH測定器30(pH測定手段の例)とを備えている。
【0024】
また、有機物処理システム1は、メタン発酵槽10内で発生したバイオガスを回収するバイオガス回収部40(回収手段の例)や、各部の動作を制御する制御装置(図示せず)を備えている。
【0025】
図1に示すように、メタン発酵槽10は、筐体で構成される。また、メタン発酵槽10は、筐体の外部から供給される汚泥をメタン細菌によるメタン発酵により生物分解するメタン発酵空間11を形成して構成してある。このメタン発酵空間11には、熱交換器(図示せず)を設けてあり、メタン発酵空間11内のメタン発酵液は、熱交換器によって、メタン発酵を良好に行う上で良好な温度(例えば、30~37℃、又は50~60℃)に保持される。尚、本実施形態において、筐体の対向する2つの内壁のうちの一方には、汚泥を供給するための汚泥供給口15がメタン発酵空間11に臨ませて設けてある。また、上記2つの内壁のうちの他方には、処理水を外部に排出するための処理水排出口16がメタン発酵空間11に臨ませて設けてある。
【0026】
メタン発酵空間11の上方空間(メタン発酵槽10内のメタン発酵液の液面よりも上方の空間)は、メタン発酵空間11で生成したメタンや二酸化炭素などのバイオガスを収集するバイオガス収集空間12を構成している。
【0027】
本実施形態において、筐体の底部には、水素供給部20から水素を供給するための水素供給口23がメタン発酵空間11に臨ませて設けてある。また、筐体の内壁のうち、処理水排出口16を設けた内壁には、バイオガス回収部40にバイオガスを取り出すためのバイオガス取出口43がバイオガス収集空間12に臨ませて設けてある。
【0028】
本実施形態では、水素が貯蔵された水素ボンベ21や水素供給口23、水素ボンベ21と水素供給口23との間で水素が通流する水素供給路22(水素供給用ライン)などで水素供給部20が構成される。水素供給部20は、水素ボンベ21内の水素を水素供給路22及び水素供給口23を介してメタン発酵空間11内に供給する。尚、本実施形態においては、水素ボンベ21に設けられる開閉弁(図示せず)の作動を制御装置によって制御可能な構成にしている。したがって、水素供給部20によれば、任意の供給量や任意のタイミングでメタン発酵空間11へ水素を供給できる。尚、水素供給部20は、メタン発酵空間11内への水素の供給が可能な構成であれば、特に限定されるものではなく、例えば、水素ボンベ21に代えて水素製造装置を採用してもよい。
【0029】
本実施形態では、ポンプ(図示せず)が接続したタンク41やバイオガス取出口43、タンク41とバイオガス取出口43との間でバイオガスが通流するバイオガス取出路42などでバイオガス回収部40が構成される。バイオガス回収部40は、バイオガス収集空間12内からバイオガス取出口43及びバイオガス取出路42を介してバイオガスを吸引してタンク41にバイオガスを貯留する。本実施形態では、バイオガス取出路42に、制御装置によって作動制御可能な開閉弁や流量調整弁を設けている。したがって、バイオガス回収部40によれば、バイオガス収集空間12内から任意の取出量や任意のタイミングでバイオガスを回収できる。尚、バイオガス回収部40は、バイオガス収集空間12からバイオガスを回収可能な構成であれば、特に限定されるものではない。
【0030】
pH測定器30は、メタン発酵槽10内のメタン発酵液のpHを一定間隔で測定し、測定結果(測定pH)を制御装置に送信可能に構成してある。
【0031】
以上の構成を備えたメタン発酵槽10においては、メタン発酵空間11内でメタン発酵を行うことで、バイオガスが発生し、メタン発酵空間11内に供給された水素を利用して、バイオガス中の二酸化炭素がメタン発酵液中のメタン細菌によってメタン化される(メタネーション)。
【0032】
〔第1実施形態に係る有機物処理システムの処理フロー〕
続いて、上記構成を備えた有機物処理システム1によって、汚泥を処理する過程について説明する。まず、メタン発酵槽10内でのメタネーションによる二酸化炭素からメタンへの変換がシステムの運転に与える影響について説明する。
【0033】
メタン発酵槽10内において、メタネーションによる二酸化炭素からメタンへの変換が進むと、メタン発酵液中の二酸化炭素濃度が減少して、メタン発酵液のpHが上昇し、メタン発酵液中の遊離アンモニア濃度が増加する。遊離アンモニアは、メタン細菌の活性を低下させるため、メタネーションによる二酸化炭素からメタンの変換が進行すると、メタン細菌の活性が低下し、メタネーションが進み難くなる。そのため、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇すると、システムの運転効率が低下し、最終的にはシステム自体が機能しなくなる可能性がある。
【0034】
有機物処理システムの安定的且つ効率的な運転を可能にするためには、メタン細菌の活性が大きく低下するほどの遊離アンモニアが発生しないように、メタン発酵液のpHを調整する措置をとることが有効である。具体的には、メタン発酵液のpHが上昇した際に、メタン発酵槽10内への水素の供給量を減らしてメタネーションによる二酸化炭素の減少を抑える、或いは、メタン発酵槽10内へ二酸化炭素を供給する措置をとることが有効である。このようにすれば、上昇したメタン発酵液のpHを低下させ、メタン細菌の活性の低下を抑制できる。
【0035】
そこで、本実施形態に係る有機物処理システム1では、pH測定器30によってメタン発酵液のpHを測定し、測定されたpH(測定pH)に応じて、水素供給部20による水素の供給流量を調整する。具体的には、
図2に示すように、測定pHが閾値(本例ではpH9)未満である場合には、二酸化炭素からメタンへの変換に必要十分な流量(標準流量)で水素をメタン発酵槽10内へ供給する。一方、測定pHが閾値以上である場合には、メタン発酵槽10内への水素の供給を停止する。また、本実施形態では、水素の供給を停止した場合、その後に測定pHが8.5以下となった時点で標準流量での水素の供給を再開する。尚、
図2において、水素やバイオガスが通流している箇所は太線、通流していない箇所は二点鎖線で示した。
【0036】
したがって、本実施形態に係る有機物処理システム1においては、まず、汚泥をメタン発酵槽10に供給するとともに、水素供給部20によってメタン発酵槽10内に標準流量で水素を供給する。これにより、メタン発酵槽10に供給した汚泥がメタン発酵槽10にてメタン発酵され、バイオガスが発生する。
【0037】
続いて、発生したバイオガスはメタン発酵空間11内において、水素供給部20から水素が供給される水素を利用して、メタン発酵液中のメタン細菌がバイオガス中の二酸化炭素の一部をメタン化(メタネーション)する。二酸化炭素の一部がメタン化されたバイオガスは、バイオガス取出口43を介してタンク41に回収される。一方、メタン発酵により生成した処理水は、処理水排出口16から外部に排出される。
【0038】
メタン発酵空間11内でメタネーションが進行して、バイオガス中に含まれる二酸化炭素の量が減少すると、メタン発酵槽10内のメタン発酵液のpHが上昇する。そして、pH測定器30により測定されるpHが9以上となった時点で、水素供給部20による水素の供給を停止する。
【0039】
これにより、メタネーションによる二酸化炭素の減少が止まるとともに、メタン発酵によって二酸化炭素を含むバイオガスが発生するため、メタン発酵槽10内の二酸化炭素の量が徐々に増加し、メタン発酵液のpHが徐々に低下する。
【0040】
しかる後、pH測定器30により測定されるpHが8.5以下となった時点で、水素供給部20によるメタン発酵槽10内への標準流量での水素の供給を開始する。これにより、メタン発酵空間11内において、バイオガス中の二酸化炭素のメタン化が再度行われるようになる。
【0041】
このように、本実施形態に係る有機物処理システム1によれば、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇して閾値以上となった場合に、メタン発酵槽10内への水素の供給を停止し、メタン発酵液のpHを閾値未満となるまで低下させられる。そのため、メタン発酵液のpHを一定の値(本例ではpH9)よりも低く保つことができ、メタン発酵液のpH上昇によってメタン細菌の活性が低下して、運転効率が低下し、システム自体が機能しなくなるといった事態の発生を抑えられる。したがって、有機物処理システム1においては、安定的且つ効率的な運転が可能である。
【0042】
〔第2実施形態に係る有機物処理システムの構成〕
次に、第2実施形態に係る有機物処理システム50の構成について説明する。
図3は、第2実施形態に係る有機物処理システム50の概略構成を示す図である。
図3に示すように、第2実施形態に係る有機物処理システム50は、主として、バイオガス循環部60(バイオガス循環手段)を備える点が第1実施形態と異なっている。以下、第2実施形態に係る有機物処理システム50について説明するが、第1実施形態に係る有機物処理システム1と同様の構成については説明を省略する。
【0043】
図3に示すように、第2実施形態に係る有機物処理システム50は、バイオガス回収部40で回収するバイオガスの少なくとも一部をメタン発酵槽10内へ供給するバイオガス循環部60を備えている。
【0044】
本実施形態において、バイオガス循環部60は、バイオガス供給口62やバイオガス循環路61などから構成される。バイオガス循環路61は、一端がバイオガス取出路42におけるタンク41とバイオガス取出口43との間に接続され、他端がバイオガス供給口62に接続されている。また、バイオガス供給口62は、筐体の底部にメタン発酵空間11に臨ませて設けられている。バイオガス循環部60は、バイオガス取出路42を通流するバイオガスの一部をバイオガス循環路61及びバイオガス供給口62を介してメタン発酵空間11内に供給する。尚、本実施形態においては、バイオガス循環路61に設けられる開閉弁(図示せず)や流量調整弁(図示せず)の作動を制御装置によって制御可能な構成にしている。したがって、バイオガス循環部60によれば、任意の供給量や任意のタイミングで、メタン発酵槽10内で発生したバイオガスの少なくとも一部をメタン発酵空間11内へ供給できる。
【0045】
〔第2実施形態に係る有機物処理システムの処理フロー〕
続いて、上記構成を備えた有機物処理システム50によって、汚泥を処理する過程について説明する。
【0046】
上述したように、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇すると、システムの運転効率が低下し、最終的にはシステム自体が機能しなくなる可能性がある。有機物処理システムの安定的且つ効率的な運転を可能にするためには、メタン発酵槽10内へ二酸化炭素を供給する措置をとることも有効である。
【0047】
そこで、本実施形態においては、pH測定器30によって測定されたメタン発酵液のpH(測定pH)に応じて、水素供給部20による水素の供給・停止だけでなく、バイオガス循環部60によるバイオガスの供給・停止を切り替える。具体的には、
図4に示すように、測定pHが閾値(pH9)未満である場合には、水素供給部20によって標準流量で水素をメタン発酵槽10内へ供給するとともに、バイオガス循環部60によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給は停止する。一方、測定pHが閾値以上である場合には、水素供給部20によるメタン発酵槽10内への水素の供給を停止するとともに、バイオガス循環部60によって、バイオガス回収部40により回収するバイオガスの一部をメタン発酵槽10内へ供給する。尚、
図4において、水素やバイオガスが通流している箇所は太線、通流していない箇所は二点鎖線で示した。
【0048】
したがって、本実施形態に係る有機物処理システム50においては、バイオガス循環部60によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給を停止した状態で、第1実施形態に係る有機物処理システム1と同様に、メタン発酵槽10内へ汚泥及び水素を供給して処理を開始する。
【0049】
そして、pH測定器30により測定されるpHが9以上となった時点で、水素供給部20による水素の供給を停止するとともに、バイオガス循環部60によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給を開始する。
【0050】
これにより、メタネーションによる二酸化炭素の減少が止まるとともに、メタン発酵によって二酸化炭素を含むバイオガスが発生する。更に、本実施形態においては、バイオガス循環部60によって、バイオガス回収部40で回収されたバイオガス(二酸化炭素を含む)がメタン発酵槽10内に供給される。そのため、水素の供給を停止するだけの場合と比較して、メタン発酵槽10内の二酸化炭素の増加速度が速く、メタン発酵液のpHがより早く低下する。
【0051】
しかる後、pH測定器30により測定されるpHが8.5以下となった時点で、水素供給部20によるメタン発酵槽10内への標準流量での水素の供給を開始するとともに、バイオガス循環部60によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給を停止する。これにより、メタン発酵空間11内において、バイオガス中の二酸化炭素のメタン化が再度行われるようになる。
【0052】
このように、本実施形態に係る有機物処理システム50によれば、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇して閾値以上となった場合に、メタン発酵槽10内への水素の供給を停止するだけでなく、メタン発酵槽10内へバイオガスを供給する。そのため、有機物処理システム50によれば、メタン発酵液のpHを閾値未満となるまでより早く低下させられる。したがって、有機物処理システム50では、メタン発酵槽10内への水素の供給の停止のみを行う場合よりも、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ちやすく、メタン細菌の活性の低下に起因する問題(運転効率の低下やシステム自体の機能の停止)といった事態の発生をより抑えられる。また、メタン発酵槽10内への水素の供給の停止のみを行う場合よりも、メタネーションを停止している時間を短縮できる。よって、有機物処理システム50では、より安定的且つ効率的な運転が可能である。
【0053】
〔第3実施形態に係る有機物処理システムの構成〕
次に、第3実施形態に係る有機物処理システム70の構成について説明する。
図5は、第3実施形態に係る有機物処理システム70の概略構成を示す図である。
図5に示すように、第3実施形態に係る有機物処理システム70は、主として、バイオガス供給部80(バイオガス供給手段)を備える点が第1実施形態及び第2実施形態と異なっている。以下、第3実施形態に係る有機物処理システム70について説明するが、第1実施形態及び第2実施形態に係る各有機物処理システム1,50と同様の構成については説明を省略する。
【0054】
図5に示すように、第3実施形態に係る有機物処理システム70は、タンク81に貯蔵されたバイオガスをメタン発酵槽10内に供給するバイオガス供給部80を備えている。
【0055】
本実施形態において、バイオガス供給部80は、タンク81(貯蔵手段)やバイオガス供給路82などから構成される。バイオガス供給路82は、一端がタンク81に接続され、他端が水素供給路22における水素ボンベ21と水素供給口23との間に接続されている。バイオガス供給部80は、タンク81に貯蔵されたバイオガスをバイオガス供給路82、水素供給路22及び水素供給口23を介してメタン発酵空間11内に供給する。尚、本実施形態においては、バイオガス供給路82に設けられる開閉弁(図示せず)や流量調整弁(図示せず)の作動を制御装置によって制御可能に構成している。したがって、バイオガス供給部80によれば、任意の供給量や任意のタイミングで、タンク81に貯蔵されたバイオガスをメタン発酵空間11内へ供給できる。
【0056】
尚、タンク81は、バイオガス回収部40を構成するタンク41とは別個に設けられる。本実施形態において、タンク81には、メタン発酵装置等を用いて別途製造したバイオガスであって、二酸化炭素のメタン化を行っていない(メタネーションを行っていない)ものが予め貯蔵されている。
【0057】
〔第3実施形態に係る有機物処理システムの処理フロー〕
続いて、上記構成を備えた有機物処理システム70によって、汚泥を処理する過程について説明する。
【0058】
上述したように、有機物処理システムの安定的且つ効率的な運転を可能にするためには、メタン発酵槽10内へ二酸化炭素を供給する措置をとることも有効である。
【0059】
そこで、本実施形態においては、測定pHに応じて、水素供給部20による水素の供給・停止だけでなく、バイオガス供給部80によるバイオガスの供給・停止を切り替える。具体的には、
図6に示すように、測定pHが閾値(pH9)未満である場合には、水素供給部20によって標準流量で水素をメタン発酵槽10内へ供給するとともに、バイオガス供給部80によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給は停止する。一方、測定pHが閾値以上である場合には、水素供給部20によるメタン発酵槽10内への水素の供給を停止するとともに、バイオガス供給部80によって、タンク81に貯蔵されたバイオガスを所定流量(例えば、メタン発酵槽10内で発生するバイオガスの4倍に相当する量)でメタン発酵槽10内へ供給する。尚、
図6において、水素やバイオガスが通流している箇所は太線、通流していない箇所は二点鎖線で示した。
【0060】
したがって、本実施形態に係る有機物処理システム70においては、バイオガス供給部80によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給を停止した状態で、第1実施形態に係る有機物処理システム1と同様に、メタン発酵槽10内へ汚泥及び水素を供給して処理を開始する。
【0061】
そして、測定pHが9以上となった時点で、水素供給部20による水素の供給を停止するとともに、バイオガス供給部80によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給を開始する。
【0062】
これにより、第2実施形態の場合と同様に、水素の供給を停止するだけの場合と比較して、メタン発酵槽10内の二酸化炭素の増加速度が速くなり、メタン発酵液のpHがより早く低下する。また、第2実施形態の場合には、バイオガス回収部40で回収されるバイオガスを使用するため、バイオガス循環部60により供給可能なバイオガスの量は、メタン発酵槽10内でのバイオガスの発生量に依存する。これに対して、本実施形態では、タンク81に予め貯蔵されたものを使用するため、メタン発酵槽10内でのバイオガスの発生量よりも多くのバイオガスを供給すること(即ち、より多くの二酸化炭素を供給すること)が可能である。したがって、本実施形態の有機物処理システム70においては、第2実施形態の有機物処理システム50と比較して、メタン発酵液のpHがより早く低下する。
【0063】
しかる後、測定pHが8.5以下となった時点で、水素供給部20によるメタン発酵槽10内への標準流量での水素の供給を開始するとともに、バイオガス供給部80によるメタン発酵槽10内へのバイオガスの供給を停止する。これにより、メタン発酵空間11内において、バイオガス中の二酸化炭素のメタン化が再度行われるようになる。
【0064】
このように、本実施形態に係る有機物処理システム70においても、メタネーションの進行によってメタン発酵液のpHが上昇して閾値以上となった場合に、メタン発酵槽10内への水素の供給を停止するだけでなく、メタン発酵槽10内へバイオガスを供給する。そのため、有機物処理システム70によれば、メタン発酵液のpHを閾値未満となるまでより早く低下させられる。したがって、有機物処理システム70では、メタン発酵槽10内への水素の供給の停止のみを行う場合やメタン発酵槽10内で発生したバイオガスを循環させる場合よりも、メタン発酵液のpHを一定の値よりも低く保ちやすく、メタン細菌の活性の低下に起因する問題(運転効率の低下やシステム自体の機能の停止)といった事態の発生をより抑えられる。また、メタン発酵槽10内への水素の供給の停止のみを行う場合やメタン発酵槽10内で発生したバイオガスを循環させる場合よりも、メタネーションを停止している時間を短縮できる。よって、有機物処理システム70では、より安定的且つ効率的な運転が可能である。
【0065】
〔pH低下に関する検証〕
以下、汚泥を対象として、バイオガス供給によるpH低下に関する検証を行った。
【0066】
〔バイオガス吹込みによるpH変化〕
まず、汚泥に対してバイオガスを吹込んだ際に、汚泥のpHがどのように変化するかを確認した。
【0067】
具体的には、160mlの汚泥に対して、バイオガス(メタン60vol%、二酸化炭素40vol%の模擬ガス)を10ml/minの吹込み速度で吹込み、吹込み開始から5分、15分、35分、65分経過した時点での汚泥のpHを測定した。結果を表1にまとめた。また、
図7には、単位汚泥量当たりのバイオガスの吹込み量とpHの変化との関係を表すグラフを示した。尚、
図7中の点線は近似曲線である。
【0068】
【0069】
表1及び
図7から明らかなように、バイオガスの吹込み量が増加するにつれて、汚泥のpHが低下している。そして、
図7中の近似曲線から、汚泥のpHを初期値の9.0から8.5まで低下させるためには、単位汚泥量当たりのバイオガスの吹込み量がおよそ2.4m
3/m
3汚泥になればよいことがわかる。尚、この検証は、1時間程度の短時間のものであり、汚泥自身がメタン発酵により発生するバイオガスは無視できるほど少ないと考えられる。そのため、pHの低下は、吹き込んだバイオガスのみに依存しているものとする。
【0070】
〔pH低下に要する時間シミュレーション〕
ついで、メタン発酵液のpHを9.0から8.5まで低下させるのに要する時間をシミュレーションした。
【0071】
上記〔バイオガス吹込みによるpH変化〕で得られた結果を考慮すると、汚泥のpHを9.0から8.5まで低下させるには、汚泥1m3あたり2.5m3のバイオガスを吹込めば十分である。したがって、バイオガス吹込み量が汚泥1m3あたり2.5m3となるのに要する時間が、汚泥のpHを9.0から8.5まで低下させるのに要する時間であるとみなせる。
【0072】
そこで、メタン発酵槽内において、メタン発酵を行うとともに、メタン発酵によって発生したバイオガス中の二酸化炭素を水素を利用してメタン化する場合において、以下に示す前提条件1~3の下で、pHが9.0になった際に以下の対応1~3をそれぞれ講じた場合に、汚泥のpHが9.0から8.5まで低下するのに要する時間をシミュレーションした。
前提条件1:pHの変化は、汚泥自身がメタン発酵により発生するバイオガス、又は吹き込んだバイオガス量にのみ依存するものとする。
前提条件2:バイオガスの発生量は、汚泥1m3あたり0.5m3/日とする。
前提条件3:水素の供給量は、汚泥1m3あたり2.0m3/日とする。
【0073】
〔対応1〕
対応1では、水素の供給を停止する。この場合、水素の供給を停止することによって、メタン発酵槽内には、汚泥1m3あたり0.5m3/日のバイオガスが発生する。よって、pHが9.0から8.5まで低下するのに要する時間は、5日(=2.5[m3]/0.5[m3/日])である。
【0074】
〔対応2〕
対応2では、水素の供給を停止し、発生したバイオガスの全量を循環させる。この場合、対応1と同様に汚泥1m3あたり0.5m3/日のバイオガスが発生するとともに、バイオガスの全量(0.5m3/日)を循環させるから、メタン発酵槽内には、汚泥1m3あたり1.0m3/日のバイオガスが供給されることになる。よって、pHが9.0から8.5まで低下するのに要する時間は、2.5日(=2.5[m3]/1.0[m3/日])である。
【0075】
〔対応3〕
対応3では、水素の供給を停止し、予め貯蔵しておいたバイオガスを水素供給ラインを通じて供給する。この場合も対応1と同様に汚泥1m3あたり0.5m3/日のバイオガスが発生する。また、本対応3の場合、バイオガスの供給量がメタン発酵槽10内でのバイオガスの発生量に依存せず、バイオガスの吹込み量を任意に設定できる。そこで、バイオガス吹込み量を水素の供給量と同等の、汚泥1m3あたり2.0m3/日とする。そうすると、メタン発酵槽内には、汚泥1m3あたり2.5m3/日のバイオガスが供給されることになる。よって、pHが9.0から8.5まで低下するのに要する時間は、1.0日(=2.5[m3]/2.5[m3/日])となる。
【0076】
このように、対応1のように、水素の供給を停止してもメタン発酵液のpHを低下させることができるが、水素の供給停止に加え、メタン発酵槽内へのバイオガスの供給を行うことにより、pHを低下させるのに要する時間を短縮できる。そのため、メタネーションを停止している時間を短くでき、pHを所定値よりも低く保ちやすい。更に、対応3のように、予め貯蔵しておいたバイオガスを使用するようにすれば、メタン発酵槽内でのバイオガスの発生量とは無関係に、バイオガスの供給量を設定できる。そのため、バイオガスの供給量を多くして、pHを低下させるのに要する時間を大幅に短縮することも可能である。例えば、上記対応3では、バイオガス吹込み量を汚泥1m3あたり2.0m3/日としているが、これより大きくしてもよく、その場合、pHを低下させるのに要する時間が1.0日よりも短くなる。
【0077】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、測定pHが閾値以上である場合に、水素供給部20が水素の供給を停止する態様としたが、これに限られるものではなく、水素供給部20が水素を標準流量よりも減らして供給する態様であってもよい。このようにしても、標準流量で水素を供給する場合と比較すれば、メタネーションによる二酸化炭素の減少量が少なくなる。そのため、メタン発酵槽内の二酸化炭素を増加させ、メタン発酵液のpHを低下させられる。
【0078】
〔2〕上記各実施形態では、汚泥を処理する態様としたが、これに限られるものではなく、生ごみ等を処理する態様であってもよい。
【0079】
〔3〕上記各実施形態では、閾値としてpH9を採用したが、これに限られるものではなく、任意の値を採用すればよいが、pH8~pH10の範囲内の任意の値を設定することが好ましい。尚、閾値を高くし過ぎると、水素の供給を停止した時点で、メタン細菌の活性が低くすぎて、メタン発酵槽内でのバイオガスの発生量が非常に少ない場合がある。その結果、メタン発酵槽内での二酸化炭素の増加速度も遅くなり、メタン発酵液のpHを低下させるのに要する時間が長くなる。
【0080】
〔4〕上記各実施形態では、水素供給部20による水素の供給を停止した後やバイオガス循環部60及びバイオガス供給部80によるバイオガスの供給を開始した後に、水素の供給再開やバイオガスの供給停止を行うタイミングを、測定pHが8.5以下となった時点としたが、これに限られるものではない。水素の供給再開やバイオガスの供給停止を行うタイミングは任意に設定できるが、水素の供給再開やバイオガスの供給停止を行うタイミングが遅くなるほど、メタネーションを停止している時間が長くなる。そのため、水素の供給再開やバイオガスの供給停止を行うタイミングは、例えば、測定pHが7.5以上閾値未満の範囲内で任意に設定した値以下となった時点であることが好ましい。
【0081】
〔5〕上記各実施形態では、水素供給口23やバイオガス供給口62をメタン発酵槽10を構成する筐体の底部にメタン発酵空間11に臨ませて設ける態様としたが、これに限られるものではない。例えば、水素供給口23やバイオガス供給口62を筐体の天井にバイオガス収集空間12に臨ませて設ける態様であってもよい。
【0082】
〔6〕上記第2実施形態では、バイオガス循環部60によって、バイオガス回収部40により回収するバイオガスの一部をメタン発酵槽10内へ供給する態様としたが、これに限られるものではない。バイオガス回収部40により回収するバイオガスの全量をメタン発酵槽10内へ供給する態様であってもよい。
【0083】
〔7〕上記第2実施形態では、バイオガス回収部40により回収するバイオガスをタンク41に回収する前にバイオガス取出路42から分岐させる形でメタン発酵槽10内へ供給する態様としたが、これに限られるものではない。一旦タンク41に回収したバイオガスをメタン発酵槽10内へ供給する態様であってもよい。
【0084】
〔8〕上記第2実施形態では、バイオガス循環路61の他端をバイオガス供給口62に接続する態様としたが、これに限られるものではない。バイオガス循環路61の他端を水素供給路22における水素ボンベ21と水素供給口23との間に接続し、水素供給口23からバイオガスを供給するようにしてもよい。
【0085】
〔9〕上記第3実施形態では、バイオガス供給路82の他端を水素供給路22における水素ボンベ21と水素供給口23との間に接続し、水素供給口23を通してメタン発酵槽10内へバイオガスを供給する態様としたが、これに限られるものではない。例えば、第2実施形態のように、メタン発酵槽10を構成する筐体にバイオガス供給口を設け、バイオガス供給路82の他端をバイオガス供給口に接続し、当該バイオガス供給口を通してメタン発酵槽10内へバイオガスを供給する態様であってもよい。
【0086】
〔10〕上記第3実施形態では、バイオガス供給部80によって、メタン発酵槽10内で発生するバイオガスの4倍に相当する量のバイオガスをメタン発酵槽10内に供給する態様としたが、これに限られるものではない。バイオガス供給部80によって供給するバイオガスの量は任意に設定できる。
【0087】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
1,50,70:有機物処理システム
10 :メタン発酵槽
20 :水素供給部(水素供給手段)
22 :水素供給路(水素供給用ライン)
30 :pH測定器(pH測定手段)
40 :バイオガス回収部(回収手段)
60 :バイオガス循環部(バイオガス循環手段)
80 :バイオガス供給部(バイオガス供給手段)
81 :タンク(貯蔵手段)