(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021822
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電力変換システム及び補償制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240208BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124933
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関口 慧
(72)【発明者】
【氏名】水谷 麻美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 宏次
(72)【発明者】
【氏名】三ッ本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】小林 武則
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA11
5H770DA03
5H770DA10
5H770EA01
5H770GA11
5H770HA02Y
5H770HA03Y
5H770KA01Z
(57)【要約】
【課題】系統側の構成が変更される等により系統インピーダンス条件が変化した場合であっても、容易に安定性を確保する。
【解決手段】実施形態の電力変換システムは、直流電力と交流電力とを相互に変換可能な電力変換システムであって、電力変換装置は、交流電力の電圧または交流電力の電流を調整可能とするスイッチング素子を含む電力変換器と、インタフェース部と、交流電力の電圧または交流電力の電流を制御するための電圧指令値を生成して出力する電圧・電流制御部と、電圧指令値に基づきスイッチング素子に与えるゲート信号を生成するゲート指令生成部と、を有しスイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、補償制御装置は、インタフェース部を介して電力変換装置に着脱可能とされ、交流電力の電圧及び又は交流電力の電流の電圧・電流制御部に対するフィードバック信号を補償して補償フィードバック信号として変換器制御部に出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換装置及び補償制御装置を有し、直流電力と交流電力とを相互に変換可能な電力変換システムであって、
前記電力変換装置は、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流を調整可能とするスイッチング素子を含む電力変換器と、インタフェース部と、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流を制御するための電圧指令値を生成して出力する電圧・電流制御部と、前記電圧指令値に基づき前記スイッチング素子に与えるゲート信号を生成するゲート指令生成部と、を有し前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、
前記補償制御装置は、前記インタフェース部を介して、前記電力変換装置に対し着脱可能とされ、前記交流電力の電圧及び又は前記交流電力の電流の前記電圧・電流制御部に対するフィードバック信号を補償して補償フィードバック信号として前記変換器制御部に出力する、
電力変換システム。
【請求項2】
前記補償制御装置は、前記フィードバック信号における所定の周波数帯域の感度を低減して前記補償フィードバック信号として出力する感度低減部を備え、
前記補償フィードバック信号は、前記電圧・電流制御部での前記電圧指令値の演算処理に直列入力される、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項3】
前記補償制御装置は、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流に含まれる高調波成分を検知する共振状態検知部を備え、前記感度低減部は前記共振状態検知部により検知された前記高調波成分に基づいて、前記補償フィードバック信号を出力する、
請求項2に記載の電力変換システム。
【請求項4】
前記感度低減部は、ディジタル信号を処理可能とされ、
前記補償制御装置は、前記感度低減部の前段に設けられ、前記フィードバック信号のアナログ/ディジタル変換を行うAD変換部と、
前記感度低減部の後段に設けられ、前記感度低減部の出力のディジタル/アナログ変換を行って前記補償フィードバック信号として出力するDA変換部と、
のいずれか一方または両方を備えた、
請求項2または請求項3に記載の電力変換システム。
【請求項5】
前記補償制御装置は、前記交流電力の電圧または電流に基づいて、補正電圧を生成する共振抑制制御部を備え、
前記補正電圧は、第2補償フィードバック信号として前記変換器制御部に出力され、
前記電圧・電流制御部は、演算処理によって得られた電圧指令値に、前記第2補償フィードバック信号を並列加算して新たな前記電圧指令値とする、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電力変換システム。
【請求項6】
前記補償制御装置は、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流に含まれる高調波成分を検知する共振状態検知部を備え、前記共振抑制制御部は前記共振状態検知部により検知された前記高調波成分に基づいて、前記第2補償フィードバック信号を出力する、
請求項5に記載の電力変換システム。
【請求項7】
前記共振状態検知部は、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流における所定の周波数範囲の中で高調波振幅が最大となる振動周波数または振動周波数帯域を検知する振動周波数検知部を備え、
前記共振抑制制御部は、前記高調波成分に仮想的なインピーダンスを乗じて前記補正電圧を生成するに際し、前記仮想的なインピーダンスの大きさを前記振動周波数の増加に伴い増加するように調整する
請求項6に記載の電力変換システム。
【請求項8】
前記電圧・電流制御部は、前記補償フィードバック信号に基づき演算された電圧指令値に、前記共振抑制制御部の生成した前記第2補償フィードバック信号を加算して新たな補正した電圧指令値とする、
請求項5に記載の電力変換システム。
【請求項9】
前記ゲート指令生成部は、前記電圧指令値に基づく変調波と三角波キャリアを比較することで前記ゲート信号を生成し、
前記三角波キャリアのピークおよびまたはボトムのタイミングに対応する同期信号を前記補償制御装置に出力可能であり、
前記補償制御装置は、前記同期信号に基づき前記交流電力の電圧およびまたは電流に基づくアナログ信号をサンプリングする、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項10】
前記補償制御装置は、少なくとも前記スイッチング素子のスイッチング周波数の2倍よりも高い周波数で前記交流電力の電圧およびまたは電流に基づくアナログ信号をサンプリングする、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項11】
前記変換器制御部は、前記電圧・電流制御部において前記電圧指令値の算出に利用する信号を、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流に基づく前記フィードバック信号と、前記補償制御装置の出力した前記補償フィードバック信号とから、選択可能である、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項12】
前記変換器制御部は、
前記補償制御装置が前記電力変換装置に接続されていない場合に、前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流に基づく前記フィードバック信号を、前記電圧・電流制御部での前記電圧指令値の算出に利用する、
請求項1に記載の電力変換システム。
【請求項13】
交流電力の電圧または前記交流電力の電流を調整可能とするスイッチング素子を含む電力変換器と、インタフェース部を有し前記スイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、直流電力と交流電力を変換可能な電力変換装置に対し、前記インタフェース部を介して、前記電力変換装置に対し着脱可能とされ、
検出された前記交流電力の電圧及び又は前記交流電力の電流のフィードバック信号を補償して補償フィードバック信号として前記インタフェース部を介して前記変換器制御部に出力する、
補償制御装置。
【請求項14】
前記フィードバック信号における所定の周波数帯域の感度を低減して前記補償フィードバック信号として出力する感度低減部を備える、
請求項13に記載の補償制御装置。
【請求項15】
前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流に含まれる高調波成分を検知する共振状態検知部を備え、前記感度低減部は前記共振状態検知部により検知された前記高調波成分に基づいて、前記補償フィードバック信号を出力する、
請求項14に記載の補償制御装置。
【請求項16】
前記感度低減部は、ディジタル信号を処理可能とされ、
前記感度低減部の前段に設けられ、前記フィードバック信号のアナログ/ディジタル変換を行うAD変換部と、
前記感度低減部の後段に設けられ、前記感度低減部の出力のディジタル/アナログ変換を行って前記補償フィードバック信号として出力するDA変換部と、
のいずれか一方または両方を備えた、
請求項14または請求項15に記載の補償制御装置。
【請求項17】
前記交流電力の電圧または前記交流電力の電流に基づいて、補正電圧を生成する共振抑制制御部を備え、
前記補正電圧を、第2の補償フィードバック信号として出力する、
請求項13から請求項15のいずれか一項に記載の補償制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換システム及び補償制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
系統連系する電力変換装置では、系統側の配線や負荷等による系統インピーダンスと変換器制御との相互作用で電圧共振が発生し、運転が不安定化して運転継続できない場合がある。共振様相は、場所毎および時間毎に刻々と変化する未知な系統インピーダンス条件に依存するため、系統状態の変化によって共振周波数が変動する場合がある。このため、 特定条件で安定な制御パラメータを適用した場合であっても、系統状態の変化によって系統連系運転が不安定化する恐れがある。
【0003】
系統インピーダンスを推定し、推定結果に基づき設定したノッチフィルタ等によって振動周波数帯域の制御感度を低下させる手法が提案されている。このような手法では、制御感度を低下させるのみでは十分な安定余裕を確保できず、わずかな外乱が加わるのみで共振が増幅する場合がある。なお、このような手法は、系統状態(系統インピーダンス)が安定運転にとって過酷条件である場合が考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Saad、 Y. Fillion、 S. Deschanvres、 Y. Vernay and S. Denneti ere: ” On Resonances and Harmonics in HVDC-MMC Station Connected to AC Grid” IEEE Trans. Pow. Del.、 vol. 32、 no. 3、 pp. 1565-1573 (2017-06)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術においては、所定の系統状態に適合させて電力変換装置を構築した場合に、系統側の構成が変更され、系統インピーダンス条件が変化した場合等には、電力変換装置の構成を根本的に変更する必要があり、容易に対応することができなかった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、系統側の構成が変更される等により系統インピーダンス条件が変化した場合であっても、容易に安定性を確保した信頼性の高い電力変換システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の電力変換システムは、電力変換装置及び補償制御装置を有し、直流電力と交流電力とを相互に変換可能な電力変換システムであって、電力変換装置は、交流電力の電圧または交流電力の電流を調整可能とするスイッチング素子を含む電力変換器と、インタフェース部と、交流電力の電圧または交流電力の電流を制御するための電圧指令値を生成して出力する電圧・電流制御部と、電圧指令値に基づきスイッチング素子に与えるゲート信号を生成するゲート指令生成部と、を有しスイッチング素子に動作指令を与える変換器制御部と、を備え、補償制御装置は、インタフェース部を介して、電力変換装置に対し着脱可能とされ、交流電力の電圧及び又は交流電力の電流の電圧・電流制御部に対するフィードバック信号を補償して補償フィードバック信号として変換器制御部に出力する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
【
図2】
図2は、補償演算機能部の概要構成ブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る電力変換装置と系統インピーダンスの一例を示す等価回路図である。
【
図4】
図4は、第1構成例における電力変換器のR相における電力変換例の説明図である。
【
図5】
図5は、第2構成例における電力変換器のR相における電力変換例の説明図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
【
図8】
図8は、第4実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
【
図9】
図9は、補償演算機能部の概要構成ブロック図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態の電力変換装置のインピーダンス特性の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態に係る電力変換装置のインピーダンスのベクトル図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]第1実施形態
図1は、第1実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
電力変換システム10は、直流電源と交流電源を相互に変換して交流商用系統ACGと系統連系を行う電力変換装置11と、電力変換装置11に着脱可能に接続されて、電力変換装置11が出力する交流電圧あるいは交流電流に含まれる所定の高調波成分の増加を抑制する補償制御装置12と、を備えている。
【0011】
この場合において、電力変換装置11は、補償制御装置12が装着されていない場合でも、電力変換を行って系統連系を行うことが可能となっている。
換言すれば、補償制御装置12を装着することで、電力変換装置11の構成をそのままで、系統側の構成が変更される等により系統インピーダンス条件が変化した場合であっても、当該変更に容易に対応することができ、ひいては、容易に安定性を確保した信頼性の高い電力変換システムを提供することが可能となっているのである。
【0012】
また、交流商用系統ACGは、交流電源PSACと、交流商用系統ACG全体のインピーダンスを表す系統インピーダンスACIMと、を有している。
【0013】
電力変換装置11は、電力変換器21と、電流検出センサ(CT)22と、連系インダクタ23と、電圧検出センサ(VT)24と、変換器制御部25と、を備えている。
電力変換器21は、複数のスイッチング素子を有し、直流/交流変換を行って三相交流電力と直流電力とを相互に変換可能である。電力変換器21は、連系インダクタ23を介して交流商用系統に連系する。
【0014】
電流検出センサ22は、電力変換器21に流入する各相の交流電流Isr、Iss、Istを検出して交流電流検出信号として変換器制御部25に出力する。
連系インダクタ23は、電力変換器21から高調波成分が系統へ流出するのを防止するため高調波フィルタとして機能する。図示しないが、別途コンデンサ等の受動素子を追加で接続して高調波フィルタを構成してもよい。
【0015】
電圧検出センサ24は、系統連系点GIPにおける交流電力の各相の交流電圧を検出して、交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)として変換器制御部25に出力する。
変換器制御部25は、電力変換器21をゲート制御信号gateにより制御する。
【0016】
次に補償制御装置12について説明する。
補償制御装置12は、AD変換部31と、補償演算機能部32と、DA変換部33と、を備えている。
AD変換部31は、電流検出センサ22から入力される交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から入力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)のアナログ-ディジタル変換を行って補償演算機能部32に出力する。
【0017】
補償演算機能部32は、交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)に対して補償演算を行って補償演算結果をDA変換部33に出力する。
【0018】
DA変換部33は、入力された補償演算機能部32の補償演算結果のディジタル-アナログ変換を行って補償交流電流検出信号CIsr、CIss、CIst及び補償交流電圧検出信号CVsr、CVss、CVstとして変換器制御部25に出力する。
【0019】
ここで、補償演算機能部32の詳細構成について説明する。
図2は、補償演算機能部の概要構成ブロック図である。
補償演算機能部32は、共振状態検知部32Aと、感度低減部32Bと、を備えている。
【0020】
共振状態検知部32Aは、例えば、交流電圧Vsr、Vss、Vstの検出値にフーリエ変換演算またはカウンタを用いて振動周期(周波数の逆数)を検出し、所定の周波数範囲の中で高調波振幅が所定の閾値以上となる状態、すなわち、共振状態となる振動周波数fres、もしくは、振動周波数fresを含む振動周波数帯域を抽出する。
【0021】
この場合において、所定の周波数範囲は、例えば、感度低減部32Bによって振動周波数成分の抑制対象とする範囲に予め設定されている。また、所定の周波数範囲は、例えば、何らかの規格等で規定される高調波規制対象範囲や事前解析にて共振発生リスクが高いことが判明している範囲として設定される。
【0022】
ここで、共振状態検知部32Aは、共振状態を検知した場合、感度低減部32Bに対して電圧・電流制御部43に対する感度を低減させる感度低減を有効化する。
なお、共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstまたは交流電流Isr、Iss、Istの高調波成分を検知する。なお、本願でいう「AまたはB」とは、AとBのうちいずれか一方の場合に限定されず、A及びBの場合を含むものとする。
【0023】
共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstまたは交流電流Isr、Iss、Istを検出し、所定の周波数範囲の中で高調波振幅が所定の閾値を超える振動周波数または振動周波数帯域を検知する。
図2の例においては、共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstに基づいて、高調波振幅が所定の閾値以上となる振動周波数または振動周波数帯域を検知するものとする。例えば、共振状態検知部32Aは、フーリエ変換演算により、高調波振幅の大きな周波数成分を振動周波数として特定する。あるいは、共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstまたは交流電流Isr、Iss、Istの振動周期を観測し、例えば振動周期の逆数を演算することで、振動周波数を特定するようにしてもよい。
【0024】
感度低減部32Bは、少なくとも振動周波数を含む周波数帯域の制御の感度を低減させる。
感度低減部32Bは、交流電流Isr、Iss、Istの感度を低減させた交流電流と、交流電圧Vsr、Vss、Vstの感度低減させた交流電圧と、を電圧・電流制御部43に対する感度低減した状態で出力する。
【0025】
より詳細には、感度低減部32Bは、交流電圧Vsr、Vss、Vstと、交流電流Isr、Iss、Istとに対して、例えばディジタルフィルタ処理を行い、振動周波数fres帯域における成分を減衰させる。ここで、ディジタルフィルタとしては、振動周波数より低いカットオフ周波数を有する低域通過フィルタや、振動周波数を含む帯域を減衰させるノッチフィルタ、もしくはこれらの組み合わせであってもよい。
【0026】
また、低域通過フィルタとノッチフィルタを組み合わせた場合は、組み合わせない場合より振動周波数fres帯域における減衰率を高くすることができる。ディジタルフィルタの特性の一部または全部は、共振状態検知部32Aによって抽出された振動周波数fres帯域を効果的に減衰させるように動的に調整される。
【0027】
この場合において、低域通過フィルタのカットオフ周波数については、少なくとも基本波周波数より高周波の値に固定されていてもよい。また、感度低減部32Bは、電圧・電流制御部43に対する感度低減特性を振動周波数fresに応じて動的に変化させてもよい。電圧・電流制御部43に対する振動周波数fres帯域の感度を低減することで、振動周波数fresの電圧・電流成分の増幅を防止できる。つまり、感度低減部は変換器制御の安定性を少なくとも発散に至らない安定限界まで改善する効果がある。
【0028】
次に、電力変換装置11と系統インピーダンスの一例を説明する。
図3は、本実施形態に係る電力変換装置と系統インピーダンスの一例を示す等価回路図である。
図3に示すように、交流系統は、交流電源から系統連系点までの等価インダクタンスLgridと、系統連系点の等価キャパシタンスCgridから構成される。以下の説明では、系統連系点から交流電源側をみたインピーダンスを系統インピーダンスZgridと呼ぶ。電力変換器21は、連系インダクタLvscを介して系統連系点GIPに接続される。
【0029】
次に変換器制御部25の詳細構成について説明する。
変換器制御部25は、
図1に示したように、インタフェース(IF)部41と、AD変換部42と、電圧・電流制御部43と、ゲート指令生成部44と、を備えている。
インタフェース部41は、補償制御装置12が接続されていない場合には、電流検出センサ22から入力される交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から入力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)をAD変換部42に出力する。
【0030】
また、インタフェース部41は、補償制御装置12が接続されている場合には、電流検出センサ22から入力される交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から入力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vs)に代えて、補償演算機能部32の補償演算結果である補償交流電流検出信号CIsr、CIss、CIst及び補償交流電圧検出信号CVsr、CVss、CVstをAD変換部42に出力する。
【0031】
AD変換部42は、交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vs)、あるいは、補償交流電流検出信号CIsr、CIss、CIst及び補償交流電圧検出信号CVsr、CVss、CVstのアナログ-ディジタル変換を行って電圧・電流制御部43に出力する。
【0032】
電圧・電流制御部43は、交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vs)、あるいは、補償交流電流検出信号CIsr、CIss、CIst及び補償交流電圧検出信号CVsr、CVss、CVstに対応するディジタルデータに基づいて、電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*を生成し、ゲート指令生成部44に出力する。
【0033】
ゲート指令生成部44は、電圧指令値Vr*、Vs*、Vt*に基づいて、ゲート制御信号gateを生成し、電力変換器21に出力する。
【0034】
ここで、電力変換器21の第1構成例について説明する。
電力変換器21は、例えば、2レベル変換器、三角波比較変調を採用している。
図4は、第1構成例における電力変換器のR相における電力変換例の説明図である。
電力変換器21は、
図4の上段に示すように、キャリア信号としての三角波TRと電圧指令値Vr
*とを比較し、電圧指令値Vr
*が三角波TR以上の期間において、
図4の中段に示すように、ゲート制御信号gateに相当するR相に対応するゲート制御信号gate_rpを“1”とし、電圧指令値Vr
*が三角波TR未満の期間において、R相に対応するゲート制御信号gate_rpを“0”とする。
【0035】
この結果、R相に対応する交流電流Isrは、
図4の下段に実線で示すように、ゲート制御信号gate_rpが“0”の期間は徐々に増加し、ゲート制御信号gate_rpが“1”の期間は徐々に減少するように、電圧指令値Vr
*に従って変化し、平均的に破線で示すような交流電流に制御される。
図4の下段黒丸印(三角波TRの山と谷)でサンプリング処理を行うことで、スイッチングリプルを除いた平均的な交流電流を検出できる。その結果、スイッチングリプルを制御演算によって増幅して変換器の運転が不安化することを防止できる。しかしながら、三角波TRを生成するのは、後段の変換器制御部25のゲート指令生成部44であり、従来技術通りであればサンプリング処理のタイミングは三角波の山や谷から容易にずれてしまう。サンプリング処理のタイミングがずれると、誤った平均的な交流電流を検出し、例えば、スイッチングリプルを制御演算によって増幅することで変換器の運転が不安化してしまう。
【0036】
そこで、第1構成例の問題を解消するために、電力変換器21の第2構成例について説明する。
電力変換器21は、第2構成例においても、第1構成例と同様に、2レベル変換器、三角波比較変調を採用している。
【0037】
図5は、第2構成例における電力変換器のR相における電力変換例の説明図である。
本第2構成例が、第1構成例と異なる点は、補償制御装置12がキャリア信号としての三角波TRの周波数の2倍より高い周波数でサンプリング処理を行っている点である。
【0038】
電力変換器21は、
図5の上段に示すように、キャリア信号としての三角波TRと電圧指令値Vr
*とを比較し、電圧指令値Vr
*が三角波TR以上の期間において、
図5の中段に示すように、R相に対応するゲート制御信号gate_rpを“1”とし、電圧指令値Vr
*が三角波TR未満の期間において、R相に対応するゲート制御信号gate_rpを“0”とする。
【0039】
この結果、R相に対応する交流電流Isrは、
図5の下段に実線で示すように、ゲート制御信号gate_rpが“0”の期間は徐々に増加し、ゲート制御信号gate_rpが“1”の期間は徐々に減少するように、電圧指令値Vr
*に従って変化し、平均的に破線で示すような交流電流に制御される。
【0040】
この場合において、補償制御装置12の出力する補償交流電流検出信号CIsr、CIss、CIst及び補償交流電圧検出信号CVsr、CVss、CVstは電流検出センサ22や電圧検出センサ24で検出したアナログ信号に近い時間分解能を有する。そこで、変換器制御部25において、さらに三角波TRの山及び谷に同期したタイミングで再サンプリングを行うように構成でき(
図4と同様)、スイッチングリプルを除いた平均的な交流電流に基づいた制御演算が可能となる。仮に、補償制御装置12におけるサンプリング処理が、三角波TRの周波数の2倍より低い周波数で実行され、かつ、サンプリング処理のタイミングが三角波TRの山や谷に一致しない場合は、サンプリング定理を満たさない、いわゆるエイリアシングを発生し、誤った平均的な交流電流を検出してしまう。したがって、補償制御装置12がキャリア信号としての三角波TRの周波数の2倍より高い周波数でサンプリングすることで、スイッチングリプルを制御演算によって増幅して変換器の運転が不安化することを防止できる。
【0041】
以上の説明のように、本第1実施形態によれば、電力変換システム10が接続されている系統に対し、電力変換装置11に当該接続されている系統に対応した補償演算機能部32を有する補償制御装置12を装着(介装)するだけで、電力変換装置11の構成をそのまま、接続された系統の状態に容易に対応することができ、ひいては、容易に安定性を確保した信頼性の高い電力変換システムを提供することができる。
【0042】
[2]第2実施形態
図6は、第2実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
第2実施形態の電力変換システムが第1実施形態の電力変換システムと異なる点は、ゲート指令生成部44が変換器制御部25の演算タイミングに同期した同期信号SYNCをインタフェース部41を介して、補償制御装置のAD変換部31に出力して、補償制御装置12の動作タイミングを制御している点である。
【0043】
この結果、補償制御装置12は、実際の電力変換器21の動作タイミングに確実に同期して、補償制御を行うことができ、より正確な補償制御が行える。具体的には、同期信号SYNCは、キャリア信号としての三角波TRの山及び谷に同期した信号であり、補償制御装置12のAD変換部31は、同期信号SYNCにしたがって、
図4の下段黒丸印(三角波TRの山と谷)でサンプリング処理を行うことで、スイッチングリプルを除いた平均的な交流電流を検出できる。その結果、スイッチングリプルを制御演算によって増幅して変換器の運転が不安化することを防止できる。
【0044】
すなわち、本第2実施形態によっても、電力変換システム10が接続されている系統に対し、接続されている系統に対応した補償演算機能部32を有する補償制御装置12を装着(介装)するだけで、電力変換装置11の構成をそのまま、電力変換装置11の電力変換動作に同期して、接続された系統の状態に容易に対応することができ、ひいては、容易に安定性を確保した信頼性の高い電力変換システムを提供することができる。
【0045】
[3]第3実施形態
図7は、第3実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
第3実施形態の電力変換装置が第1実施形態の電力変換装置と異なる点は、電流検出センサ22から出力される交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から出力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)のアナログ/ディジタル変換を行ってフィードバックデータとしてインタフェース部に出力するAD変換部を備えた点と、補償制御装置12が、インタフェース部から入力された交流電流検出データ及び交流電圧検出データに対して補償演算を行って補償フィードバックデータとしてインタフェース部を介して電圧・電流制御部に出力する点である。
【0046】
本第3実施形態によれば、補償制御装置において、AD変換部及びDA変換部を設ける必要が無いため、処理の高速化が図れ、補償制御装置の構成を簡略化でき、装置コストの低減が図れる。
【0047】
この場合において、変換器制御部25は、補償制御装置12が電力変換装置11に接続されていない場合には、補償演算機能部32の演算処理を施していない交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)およびまたは交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)を電圧・電流制御部43における制御演算に用いるようにすればよい。例えば、インタフェース部は、機械的または電気的に補償制御装置12の接続有無を判定する接点部を有し、接続有無の判定結果によって、電気的もしくはソフトウェアにてどちらの信号を制御演算に用いるかを自動選択するように構成されていてもよい。
【0048】
以上の説明のように、本第3実施形態によれば、電力変換システム10が接続されている系統に対し、上記各実施形態よりも、より簡易な構成を有する補償演算機能部32を有する補償制御装置12を装着(介装)するだけで、電力変換装置11の構成をそのまま、電力変換装置11の電力変換動作に同期して、接続された系統の状態に容易に対応することができ、ひいては、容易に安定性を確保した信頼性の高い電力変換システムを提供することができる。
【0049】
[4]第4実施形態
図8は、第4実施形態の電力変換システムの概要構成ブロック図である。
図8において、
図1の第1実施形態と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
【0050】
第4実施形態の電力変換システムが第1実施形態の電力変換システムと異なる点は、電流検出センサ22から出力される交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から出力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)を補償制御装置に出力する出力端子を備えた点と、補償制御装置12Xが、振動周波数の感度低減処理及び仮想インピーダンス制御処理を並行して行い、変換器制御部のインタフェース部に出力する構成とした点である。
【0051】
補償制御装置12は、AD変換部31と、補償演算機能部32Xと、DA変換部33と、を備えている。
AD変換部31は、電流検出センサ22から入力される交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から入力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)のアナログ-ディジタル変換を行って補償演算機能部32Xに出力する。
【0052】
補償演算機能部32Xは、交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)に対して補償演算を行って補償演算結果をDA変換部33に出力する。
【0053】
DA変換部33は、入力された補償演算機能部32の補償演算結果のディジタル-アナログ変換を行って補償交流電流検出信号CIsr、CIss、CIst及び補償交流電圧検出信号CVsr、CVss、CVstとして変換器制御部25に出力する。
【0054】
ここで、第4実施形態の補償制御装置の補償演算機能部32Xの構成について説明する。
図9は、補償演算機能部の概要構成ブロック図である。
補償演算機能部32Xは、共振状態検知部32Aと、感度低減部32Bと、共振抑制制御部32Cと、を備えている。
【0055】
共振状態検知部32Aは、例えば、交流電圧Vsr、Vss、Vstの検出値にフーリエ変換演算またはカウンタを用いて振動周期(周波数の逆数)を検出し、所定の周波数範囲の中で高調波振幅が所定の閾値以上となる状態、すなわち、共振状態となる振動周波数fres、もしくは、振動周波数fresを含む振動周波数帯域を抽出する。
【0056】
この場合において、所定の周波数範囲は、例えば、感度低減部32Bによって振動周波数成分の抑制対象とする範囲に予め設定されている。また、所定の周波数範囲は、例えば、何らかの規格等で規定される高調波規制対象範囲や事前解析にて共振発生リスクが高いことが判明している範囲として設定される。
【0057】
ここで、共振状態検知部32Aは、共振状態を検知した場合、感度低減部32Bに対して電圧・電流制御部43に対する感度を低減させる感度低減を有効化する。
なお、共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstまたは交流電流Isr、Iss、Istの高調波成分を検知する。なお、本願でいう「AまたはB」とは、AとBのうちいずれか一方の場合に限定されず、A及びBの場合を含むものとする。
【0058】
共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstまたは交流電流Isr、Iss、Istを検出し、所定の周波数範囲の中で高調波振幅が所定の閾値を超える振動周波数または振動周波数帯域を検知する。
図9の例においては、共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstに基づいて、高調波振幅が所定の閾値以上となる振動周波数または振動周波数帯域を検知するものとする。例えば、共振状態検知部32Aは、フーリエ変換演算により、高調波振幅の大きな周波数成分を振動周波数として特定する。あるいは、共振状態検知部32Aは、交流電圧Vsr、Vss、Vstまたは交流電流Isr、Iss、Istの振動周期を観測し、例えば振動周期の逆数を演算することで、振動周波数を特定するようにしてもよい。
【0059】
感度低減部32Bは、少なくとも振動周波数を含む周波数帯域の制御の感度を低減させる。
感度低減部32Bは、交流電流Isr、Iss、Istの感度を低減させた交流電流と、交流電圧Vsr、Vss、Vstの感度低減させた交流電圧と、を電圧・電流制御部43に対して出力する。感度低減部32Bは、交流電圧Vsr、Vss、Vstと、交流電流Isr、Iss、Istとに対して、例えばディジタルフィルタ処理を行い、振動周波数fres帯域における成分を減衰させる。
【0060】
ここで、ディジタルフィルタとしては、振動周波数より低いカットオフ周波数を有する低域通過フィルタや、振動周波数を含む帯域を減衰させるノッチフィルタ、もしくはこれらの組み合わせであってもよい。低域通過フィルタとノッチフィルタを組み合わせた場合は、組み合わせない場合より振動周波数fres帯域における減衰率を高くすることができる。
【0061】
ディジタルフィルタの特性の一部または全部は、共振状態検知部32Aによって抽出された振動周波数fres帯域を効果的に減衰させるように動的に調整される。なお、低域通過フィルタのカットオフ周波数については、少なくとも基本波周波数より高周波の値に固定されていてもよい。なお、感度低減部120は、電圧・電流制御部43Xに対する感度低減特性を振動周波数fresに応じて動的に変化させてもよい。電圧・電流制御部43に対する振動周波数fres帯域の感度を低減することで、振動周波数fresの電圧・電流成分の増幅を防止できる。つまり、感度低減部は変換器制御の安定性を少なくとも発散に至らない安定限界まで改善する効果がある。
【0062】
共振抑制制御部32Cは、電力変換器21に対する動作指令である電圧指令値Vr1*、Vs1*、Vt1*を補正する補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を生成する。なお、実施形態において、補正電圧VRr*、VRs*、VRt*は、第2補償フィードバック信号として機能する。第2補償フィードバック信号は、補償フィードバック信号の一例である。
共振抑制制御部32Cは、交流電流の少なくとも振動周波数を含む周波数帯域の検出値に基づき補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を生成する。
【0063】
より詳細には、共振抑制制御部32Cは、例えば、交流電流の検出値から基本波周波数成分を除去し、振動周波数fresを含む高調波成分のみになるように処理した信号に仮想的なインピーダンスの特性を乗じることにより補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を生成する。
【0064】
この場合において、基本波周波数成分を除去する手法は、例えば、基本波周波数を含む帯域を減衰させるノッチフィルタによる処理や、実質的に高調波成分を抽出する高域通過フィルタの機能を含むディジタル処理等により行われる。なお、共振抑制制御部32Cは、補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を、例えば3相2相変換された固定座標軸上の交流電流に基づき演算してもよい。
【0065】
ここで、第4実施形態の共振抑制制御部32Cを設けることによる効果について説明する。
以下の説明では、系統連系点GIPから電力変換器21側をみたインピーダンスを変換器インピーダンスZvscと呼ぶ。変換器インピーダンスZvscは、連系インダクタLvscに電力変換器の制御による特性が加算されたインピーダンスである。
【0066】
まず、電力変換装置11のインピーダンスのベクトル、位相余裕等について説明する。
図10は、実施形態の電力変換装置のインピーダンス特性の一例を示す図である。
【0067】
また、
図11は、第4実施形態に係る電力変換装置のインピーダンスのベクトル図の一例を示す図である。
【0068】
ここでは、一例として、感度低減部32Bの作用によって、振動周波数fresに対する電流制御の感度が十分に低減し、変換器インピーダンスがほぼ連系インダクタンスに相当し、変換器インピーダンスZvsc’≒ωres・Lvscとみなせる場合について説明する。
【0069】
ここで、ωresは振動周波数fresに対応した角周波数(=2π・fres)である。振動周波数fresにおいては、系統インピーダンスZgridと変換器インピーダンスZvsc’の振幅が等しく、位相差が180度となる。すなわち、位相余裕はφm=0であり、安定限界となる。
【0070】
ここで、変換器インピーダンスZvsc’に振幅G・ωres・Lvsc、位相φrの補正成分Zrを加えると、
図11より、補正後の変換器インピーダンスZvsc”の場合の振動周波数fresにおける位相余裕Φ
mは次式(1)で表せる。
【0071】
【0072】
なお、式(1)において、Gは係数である。式(1)の右辺は、係数Gと位相φrが定数であれば、振動周波数fresに無関係な値である。これは、補正成分Zrの振幅に振動周波数に対応した角周波数ωresが乗じられていることで、補正成分Zrの振幅が、振動周波数fresの増加に伴い比例して増加するように設定されているためである。これは、振動周波数fresが変化した場合も等しく安定性を改善する効果が得られることを意味する。
【0073】
また、補正成分の振幅がG・ω0・Lvsc(なおω0は定数)であった場合、振動周波数fresにおける位相余裕Φmは次式(2)で表せる。
【0074】
【0075】
式(2)の右辺は、ωresが大きくなるほど小さくなるため、振動周波数fresが高くなるほど位相余裕は減少する。これは、振動周波数fres高くなるほど安定性を改善する効果が小さくなっていくことを意味する。
【0076】
変換器インピーダンスに補正成分Zrを加算するには、交流電流の少なくとも振動周波数fres成分を含む検出値に補正成分Zrの振幅に相当する特性を乗じて補正電圧とすればよい。ただし、式(1)の右辺が-90度<φr<+90度の場合に正の値をとるため、位相余裕をφm>0とするには、振動周波数fresにおける位相φrが±90度以内となるように注意する必要がある。この位相φrには、交流電流検出から補正電圧が最終的に出力されるまでの一連の位相特性が含まれる。
【0077】
ここで、補正成分Zrは、変換器制御上で実現される仮想的なインピーダンス成分と考えることができ、実部は仮想的な抵抗成分となる。位相φrが±90度を超過すると実部は負値となり、補正成分Zrは振動を増幅する負性抵抗として機能する。このため、位相φrが±90度を超過した場合は、共振抑制制御によってかえって不安定化を引き起こす場合がある。このため、本実施形態では、共振の影響を低減するために、位相が±90[度]以内となり位相余裕を確保できるように制御する。
【0078】
この結果、電圧・電流制御部43Xは、第1の処理(
図8中、処理1と表記)としての感度低減処理を施した感度低減部32Bの出力信号(電圧・電流制御部43の処理に直列入力)に基づいて演算された電力変換器21の交流側の電圧の指令値に、第2の処理(
図8中、処理2と表記)としの共振抑制制御処理を施した共振抑制制御部32Cの出力信号である補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を加算(電圧・電流制御部43の処理に並列加算)することで電力変換器21の交流側の電圧の指令値を補正する。
【0079】
この場合において、共振状態検知部32Aは、交流の電圧または電流における所定の周波数範囲の中で高調波振幅が最大となる振動周波数または振動周波数帯域を検知する振動周波数検知部として機能し、共振抑制制御部32Cは、仮想的なインピーダンスの大きさを振動周波数の増加に伴い増加するように調整する。
【0080】
そして、変換器制御部25は、補償制御装置12Xが電力変換装置11に接続されていない場合には、補償演算機能部32Xの演算処理を施していない交流電流検出信号(=Isr、Iss、Ist)及び電圧検出センサ24から出力される交流電圧検出信号(=Vsr、Vss、Vst)を、電圧・電流制御部43Xにおける制御演算に用い、第2の処理に基づく信号である共振抑制制御部32Cの出力信号である補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を実質的に零として扱う。
【0081】
以上の説明のように、本第4実施形態によれば、共振抑制制御部32Cを有する補償演算機能部32Xを電力変換システム10に装着(介装)するだけで、電圧・電流制御部43Xは、交流電流の検出値から基本波周波数成分を除去し、振動周波数fresを含む高調波成分のみになるように処理した信号に仮想的なインピーダンスの特性を乗じることにより生成された補正電圧VRr*、VRs*、VRt*を電圧及び電流制御に用いることができ、電力変換装置11の基本的な構成に大きな変更を加えることなく、より精度高く、容易に安定性を確保した信頼性の高い電力変換システムを構築することができる。
【0082】
[5]実施形態の変形例
本実施形態の補償制御装置及び変換器制御部は、CPUなどの制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶装置と、USBメモリ、SSD(Solid State Disk)等の半導体記憶装置、などの外部記憶装置と、ディスプレイ装置などの表示装置と、キーボードやマウスなどの入力装置の一部または全部を備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0083】
本実施形態の補償制御装置及び変換器制御部で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでDVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0084】
また、本実施形態の補償制御装置及び変換器制御部で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態の補償制御装置及び変換器制御部で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。
【0085】
また、本実施形態の補償制御装置及び変換器制御部のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
10 電力変換システム
11 電力変換装置
12、12X 補償制御装置
21 電力変換器
22 電流検出センサ
23 連系インダクタ
24 電圧検出センサ
25 変換器制御部
31 AD変換部
32、32X 補償演算機能部
32A 共振状態検知部
32B 感度低減部
32C 共振抑制制御部
33 DA変換部
41 インタフェース部
42 AD変換部
43、43X 電圧・電流制御部
44 ゲート指令生成部
120 感度低減部
ACG 交流商用系統
ACIM 系統インピーダンス
CIsr 補償交流電流検出信号
CVsr 補償交流電圧検出信号
Cgrid 等価キャパシタンス
G 係数
GIP 系統連系点
Isr、Iss、Ist 交流電流
Lgrid 等価インダクタンス
Lvsc 連系インダクタ
PSAC 交流電源
SYNC 同期信号
TR 三角波
VRr* 補正電圧
Vr*、Vs*、Vt* 電圧指令値
Vsr、Vss、Vst 交流電圧
Zgrid 系統インピーダンス
Zr 補正成分
Zvsc 変換器インピーダンス
Zvsc’ 変換器インピーダンス
Zvsc” 変換器インピーダンス
fres 振動周波数
gate、gate_rp ゲート制御信号
Φm 位相余裕
φr 位相
ωres 角周波数