(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021847
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物、フィルム、偏光シート、樹脂組成物の製造方法、および、フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20240208BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240208BHJP
C08K 5/1515 20060101ALI20240208BHJP
C08K 5/1525 20060101ALI20240208BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240208BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K3/013
C08K5/1515
C08K5/1525
C08L63/00
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022124978
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小坂 恵夢
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA55
4F071AC19
4F071AE22
4F071AF30Y
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC01
4F071BC12
4J002CD022
4J002CH012
4J002CL031
4J002EL026
4J002EL056
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】 成形ロールの汚れの発生が抑制でき、かつ、フィルムに異物ができにくい樹脂組成物、ならびに、フィルム、偏光シート、樹脂組成物の製造方法、および、フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】 ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を含む、樹脂組成物であって、200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下である、樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を含む、樹脂組成物であって、
200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物中のフィラーの含有量が0~10質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物が、エポキシ環および/またはオキセタン環を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂組成物中のフィラーの含有量が0~10質量%であり、
前記ポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂を含み、
前記環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物が、エポキシ環および/またはオキセタン環を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
偏光シートの保護フィルム用である、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたフィルム。
【請求項8】
厚みが、100~1000μmである、請求項7に記載のフィルム。
【請求項9】
偏光シートの保護フィルムである、請求項7または8に記載のフィルム。
【請求項10】
偏光膜と、前記偏光膜の少なくとも一方の面に有する保護フィルムとを有し、
前記保護フィルムが請求項7~9のいずれか1項に記載のフィルムである、偏光シート。
【請求項11】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を添加して、溶融混練することを含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
前記樹脂組成物が、200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下である、請求項11に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を添加して、溶融混練することを含む、フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記フィルムのヘイズが10%以下である、請求項13に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、フィルム、偏光シート、樹脂組成物の製造方法、および、フィルムの製造方法に関する。特に、ポリアミド樹脂を主要成分とする樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、剛性、強度などの機械特性や耐熱性などに優れているため、電気・電子、自動車、機械、建材など多岐に渡り利用されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-129271号公報
【特許文献2】特開2013-001906号公報
【特許文献3】特開2012-131977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリアミド樹脂は多岐にわたる分野で利用されているが、一般的に透明性が劣る樹脂であり、透明性が要求される用途には用いられてこなかった。
かかる状況下、本発明者は、ポリアミド樹脂を偏光膜の保護フィルムなどの透明な用途に用いることを検討した。しかしながら、ポリアミド樹脂をフィルム状に成形した場合、成形ロールに汚れが発生したり、異物ができてしまうことを見出した。このようなロール汚れや異物は、従来、ポリアミド樹脂が用いられていた食品包装材料などの透明部材・透明フィルムでは問題とはならなかったが、サングラスなどの非常に高い透明性が必要な用途では問題となることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、フィルム状に成形する場合においても、成形ロールの汚れの発生が抑制でき、かつ、フィルムに異物ができにくい樹脂組成物、ならびに、フィルム、偏光シート、樹脂組成物の製造方法、および、フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物を用いることにより、上記課題は解決された。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を含む、樹脂組成物であって、200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下である、樹脂組成物。
<2>樹脂組成物中のフィラーの含有量が0~10質量%である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記ポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物が、エポキシ環および/またはオキセタン環を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>樹脂組成物中のフィラーの含有量が0~10質量%であり、前記ポリアミド樹脂が、脂肪族ポリアミド樹脂を含み、前記環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物が、エポキシ環および/またはオキセタン環を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<6>偏光シートの保護フィルム用である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7><1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたフィルム。
<8>厚みが、100~1000μmである、<7>に記載のフィルム。
<9>偏光シートの保護フィルムである、<7>または<8>に記載のフィルム。
<10>偏光膜と、前記偏光膜の少なくとも一方の面に有する保護フィルムとを有し、
前記保護フィルムが<7>~<9>のいずれか1つに記載のフィルムである、偏光シート。
<11>ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を添加して、溶融混練することを含む、樹脂組成物の製造方法。
<12>前記樹脂組成物が、200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下である、<11>に記載の樹脂組成物の製造方法。
<13>ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を添加して、溶融混練することを含む、フィルムの製造方法。
<14>前記フィルムのヘイズが10%以下である、<13>に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
フィルム状に成形する場合においても、成形ロールの汚れの発生が抑制でき、かつ、フィルムに異物ができにくい樹脂組成物、ならびに、フィルム、偏光シート、樹脂組成物の製造方法、および、フィルムの製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の偏光シートの層構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、重量平均分子量および数平均分子量は、特に述べない限り、特開2018-165298号公報の段落0047の記載に従って測定することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
本明細書における「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」および「シート」は、単層であっても多層であってもよい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を含む、樹脂組成物であって、200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下であることを特徴とする。このような構成とすることにより、樹脂組成物をフィルム状に成形する場合において、成形ロールの汚れの発生を抑制でき、かつ、フィルムに異物ができにくくすることができる。
前記ロール汚れの原因は、ポリアミド樹脂中に含まれる原料由来のジアミンやアミノカルボン酸、あるいは、原料モノマーの2量体や3量体などによると推測された。また、前記ロール汚れの原因は、樹脂組成物をフィルム状に押出する際に少量発生しうる分解物にもよると推測された。そこで、ポリアミド樹脂に環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物(以下、「環状エーテル化合物」ということがある)を配合することとした。このような環状エーテル化合物は、原料モノマーであるジアミンやアミノカルボン酸、原料モノマーの2量体や3量体、あるいは、樹脂組成物をフィルム状に押し出す際に発生しうる分解物と反応する。結果として、原料由来のジアミン等がフィルムの外に出てしまうことを効果的に抑制でき、ロールの汚れを抑制できたと推測された。また、環状エーテル化合物が環状エーテル構造を多数含むと、環状エーテル化合物と、前記ジアミン等とが反応した際にフィルム中の異物となってしまう。本実施形態においては、環状エーテル化合物中の環状エーテル構造の数を3個以下とすることにより、異物の発生を抑制できたと推測される。
以下、本実施形態について説明する。
【0010】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を含む。本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、特に定めるものではないが、透明性の観点から非晶性ポリアミド樹脂であることが好ましい。
ここで、非晶性ポリアミド樹脂とは、明確な融点を持たないポリアミド樹脂であり、具体的には、結晶融解エンタルピーΔHmが5J/g未満であることをいい、3J/g以下が好ましく、1J/g以下がさらに好ましい。結晶融解エンタルピーΔHmは、JIS K7121およびK7122に準じて、昇温過程における値を測定することとし、より具体的には、特許第7021725号明細書の段落0101の記載に従う。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂であっても、脂肪族ポリアミド樹脂であってもよいが、脂肪族ポリアミド樹脂であることが好ましい。脂肪族ポリアミド樹脂とは、その原料であるモノマーの好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上が脂肪族モノマーであることをいう。
ポリアミド樹脂としては、原料モノマーの主成分(例えば、50質量%以上、好ましくは90質量%以上)がジアミンとジカルボン酸から合成されるポリアミド樹脂、原料モノマーの主成分がアミノカルボン酸から合成されるポリアミド樹脂、原料モノマーの主成分がジアミンとジカルボン酸とアミノカルボン酸から合成されるポリアミド樹脂などが例示される。特に、本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、原料モノマーの90質量%以上(好ましくは95質量%以上、また、100質量%以下)が、ジアミンとジカルボン酸とから合成されることが好ましい。本実施形態ではこのようなポリアミド樹脂を用いた樹脂組成物に対して、特に効果的にロール汚れを抑制できる。
【0011】
前記ジアミン単位としては、炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジアミン、炭素数6~25の脂環式ジアミンが例示され、炭素数6~25の脂環式ジアミンが好ましい。
炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジアミンとしては、炭素数4~20の直鎖脂肪族ジアミンが好ましい。前記炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジアミンを構成する炭素数は、6以上が好ましく、また、18以下が好ましく、16以下がより好ましく、14以下がさらに好ましく、12以下が一層好ましく、10以下がより一層好ましい。炭素数4~20の脂肪族ジアミンの具体例としては、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミンが例示される。
炭素数6~25の脂環式ジアミンを構成する炭素数は、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、また、22以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がさらに好ましい。炭素数6~25の脂環式ジアミンの具体例としては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミンが例示される。
【0012】
前記ジカルボン酸単位としては、炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジカルボン酸、炭素数6~25の脂環式ジカルボン酸が例示され、炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジカルボン酸は、炭素数4~20の直鎖脂肪族ジカルボン酸が好ましい。炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジカルボン酸を構成する炭素数は、6以上が好ましく、また、22以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がさらに好ましい。炭素数4~20の直鎖または分岐の脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸等が例示され、アジピン酸およびセバシン酸が好ましく、セバシン酸がより好ましい。
炭素数6~25の脂環式ジカルボン酸を構成する炭素数は、6以上が好ましく、また、18以下が好ましく、16以下がより好ましく、14以下がさらに好ましく、12以下が一層好ましく、10以下がより一層好ましい。炭素数6~25の脂環式ジカルボン酸の具体例としては、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が例示される。
【0013】
前記アミノカルボン酸単位としては、炭素数4~20のアミノカルボン酸単位が例示される。アミノカルボン酸は、アミノ基とカルボキシル基、脂肪族基(好ましくはアルキレン基、より好ましくは直鎖アルキレン基)とからなることが好ましい。炭素数4~20のアミノカルボン酸単位を構成する炭素数は、6以上が好ましく、8以上がより好ましく、また、18以下が好ましく、16以下がより好ましく、14以下がさらに好ましく、13以下が一層好ましい。アミノカルボン酸の具体例としては、11-アミノウンデカン酸が例示される。
【0014】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂の一例としては、ポリアミド11が例示される。
また、本実施形態で用いるポリアミド樹脂の他の一例としては、炭素数6~25の脂環式ジアミン単位と炭素数4~20の直鎖脂肪族ジカルボン酸単位が、全モノマー単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、また、100質量%を占めていてもよい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂の具体例としては、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)とセバシン酸から得られるポリアミド樹脂が例示される。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂の具体例としては、また、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンおよび/または1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、アジピン酸、とから得られるポリアミド樹脂が例示される。さらに、本実施形態で用いるポリアミド樹脂の他の例としては、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンおよび/または1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、アジピン酸と1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(アジピン酸と1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のモル比率は85~95:15~5であることが好ましい)とから得られるポリアミド樹脂が例示される。前記ポリアミド樹脂は、その一部が他のモノマー(ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸、ラクタム等)で置換されていてもよい。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、ダイセル・エボニック(株)製「TrogamidCX7323」、エムスケミー(株)製「グリルアミドTR90」、アルケマ社製「Rilsan(登録商標) Clear G350」、「Rilsan Clear G850」、「Rilsan Clear G820」などが挙げられ、「Rilsan Clear G850」が特に好ましい。
【0015】
ポリアミド樹脂としては、上記の他、国際公開第2021/140927号の段落0169~0220の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0016】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(好ましくは非晶性ポリアミド樹脂)の含有量は、樹脂組成物中、95質量%以上であることが好ましく、96質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐薬品性がより向上する傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(好ましくは非晶性ポリアミド樹脂)の含有量の上限は、ポリアミド樹脂と環状エーテル化合物の合計量が100質量%となる量である。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(好ましくは非晶性ポリアミド樹脂)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0017】
<環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物(環状エーテル化合物)0.05~10質量部を含む。環状エーテル化合物を含むことにより、ポリアミド樹脂中に残存する原料モノマーである、ジアミン、原料モノマーの2量体や3量体、あるいは、分解物等と反応し、樹脂組成物をフィルム状に成形する際に、ジアミン等がロールに付着して、ロールを汚染することを効果的に抑制できる。
本実施形態においては、環状エーテル化合物における環状エーテル構造の数は、1個または2個であることが好ましい。
また、本実施形態においては、環状エーテル化合物が、エポキシ環および/またはオキセタン環を含むことが好ましい。
前記環状エーテル化合物の分子量は、180以上であることが好ましく、また、1000以下であることが好ましく、800以下であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、環状エーテル化合物自身が揮発することをより効果的に抑制できる。また、上記上限値以下とすることにより、環状エーテル構造当たりの質量を小さくすることができ、ロール汚れを抑制するための環状エーテル化合物の配合量を少なくすることができる。結果として、得られるフィルムの耐熱性(ガラス転移温度)を向上させることができる。本実施形態において、樹脂組成物が環状エーテル化合物を2種以上含む場合、環状エーテル化合物の分子量は、各環状エーテル化合物の分子量に、質量分率をかけた値の和とする。
【0018】
本実施形態で用いる環状エーテル化合物は、構成元素が炭素原子、水素原子、酸素原子のみからなることが好ましい。このような構成とすることにより、より効果的にロールの汚れを抑制し、異物の発生を抑制することができる。
本実施形態で用いる環状エーテル化合物は、一分子中の芳香環の数が3個以下であることが好ましく、芳香環を含まないことがより好ましい。芳香環が少ないことにより、ポリアミド樹脂(特に、脂肪族ポリアミド樹脂)との相溶性が向上する傾向にあり、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0019】
本実施形態で用いる環状エーテル化合物は、エポキシ環および/またはオキセタン環を含み、構成元素が炭素原子、水素原子、酸素原子のみからなり、分子量が180~1000であり、かつ、一分子中の芳香環の数が3個以下(好ましくは1個または2個)であることが好ましい。このような構成とすることにより、より効果的にロールの汚れを抑制し、異物の発生を抑制することができる。特に、本実施形態で用いる環状エーテル化合物は、(環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物の分子量/環状エーテル構造の数)<250であることが好ましい。
【0020】
本実施形態で用いる環状エーテル化合物は、環状エーテル構造以外のアミノ基と反応する基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
本実施形態で用いる環状エーテル化合物の一例は、環状エーテル構造以外のアミノ基と反応する基を有さない化合物である。
本実施形態で用いる環状エーテル化合物の他の一例は、アリル基を有さない化合物である。
本実施形態で用いる環状エーテル化合物は、また、アミノ基と反応しうる官能基を1~2個有する化合物であって、アミノ基と反応しうる官能基の少なくとも1つがエポキシ基またはオキセタニル基である化合物であることも好ましい。
以上のような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物における環状エーテル化合物の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上であり、0.08質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましく、0.3質量部以上であることが一層好ましく、0.4質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ロール汚れをより効果的に抑制できる傾向にある。また、前記環状エーテル化合物の含有量の上限値は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、10質量部以下であり、8質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましく、さらには、2質量部未満、1.5質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物ないしフィルムのガラス転移温度が低下することを効果的に抑制できる。特に、2質量部未満という少量を配合しても、ロール汚れを抑制できる点で価値が高い。
本実施形態の樹脂組成物は、環状エーテル化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、また、環状エーテル構造を1分子中に4個以上有する化合物を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、環状エーテル構造を1分子中に4個以上有する化合物の含有量が、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物の含有量の10質量%未満であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であってもよい。
【0022】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物には、上記の他、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、耐加水分解性改良剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、調光染料等が配合されてもよい。
本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂および環状エーテル化合物以外の成分を含む場合、その含有量は、合計で、樹脂組成物の0.001質量%以上であることが好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが一層好ましく、1質量%以下であることがより一層好ましく、0.2質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、樹脂組成物中のフィラーの含有量が0~10質量%であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましく、0~3質量%であることがさらに好ましく、0~1質量%であることが一層好ましく、0~0.1質量%であることがより一層好ましく、0~0.01質量%であることがさらに一層好ましく、実質的に含まないことがさらに一層好ましい。実質的に含まないとは、例えば、樹脂組成物中に含まれる環状エーテル化合物の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と環状エーテル化合物の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占めることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、溶剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、溶剤の含有量が、例えば、樹脂組成物中に含まれる環状エーテル化合物の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
<ヘイズ>
本実施形態の樹脂組成物は、透明性が高いものである。具体的には、樹脂組成物を200μm厚のフィルムとしたときのヘイズが10%以下である。このようなヘイズは、透明性が本来的に高いポリアミド樹脂を用いること、樹脂組成物中のフィラーの含有量を10質量%以下とすること等によって達成される。前記樹脂組成物を200μm厚のフィルムとしたときのヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1.1%以下であることが一層好ましく、0.8%以下であることがより一層好ましく、0.6%以下であることがさらに一層好ましい。包装材料用途などのポリアミド樹脂フィルムのヘイズが通常10%超であることに対し、本実施形態の樹脂組成物のヘイズは各段に低いものである。
【0024】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法としては、任意の方法が採用される。
例えば、ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を添加して、溶融混練することによって得ることができる。より具体的には、ポリアミド樹脂、および、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物、ならびに、必要に応じ配合される他の成分をV型ブレンダー等の混合手段を用いて混合し、一括ブレンド品を調製した後、ベント付き押出機で溶融混練してペレット化する方法が挙げられる。
【0025】
<フィルム>
本実施形態のフィルムは、本実施形態の樹脂組成物から形成される。
本実施形態のフィルムの厚みは、100μm以上であることが好ましく、120μm以上であることがより好ましく、140μm以上であることがさらに好ましく、160μm以上であることが一層好ましく、180μm以上であることがより一層好ましい。また、本実施形態のフィルムの厚みは、1000μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、800μm以下であることがさらに好ましく、600μm以下であることが一層好ましく、500μm以下であることがより一層好ましく、300μm以下であってもよい。
本実施形態のフィルムは透明性に優れていることが好ましい。具体的には、ヘイズが、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1.1%以下であることが一層好ましく、0.8%以下であることがより一層好ましく、0.6%以下であることがさらに一層好ましい。包装材料用途などのポリアミド樹脂フィルムのヘイズが通常10%超であることに対し、本実施形態のフィルムのヘイズは各段に低いものである。
【0026】
本実施形態のフィルムは、通常、押出成形により製造されたもの、すなわち、押出成形品である。また、本実施形態のフィルムは、通常、ロールを用いて成形される。
本実施形態のフィルムは、例えば、連続フィルムであることが好ましい。連続フィルムとは、例えば、長さが10m以上(好ましくは10000m以下)のフィルムである。連続フィルムはロールに巻き取って巻取体とすることができる。
【0027】
本実施形態のフィルムは、高い透明性が求められる用途に用いられる。具体的には、偏光シートの保護フィルム用であることが好ましく、偏光シートの保護フィルムに用いられることがより好ましい。特に、サングラス、ゴーグルに好ましく用いられる。
すなわち、本実施形態においては、偏光膜と、前記偏光膜の少なくとも一方の面に有する保護フィルムとを有し、前記保護フィルムが本実施形態のフィルムである、偏光シートが例示される。
図1は、本実施形態の偏光シートの層構成を示す概略図であって、1は偏光膜を、2は保護フィルム(本実施形態のフィルム)を、3は偏光膜と保護フィルムを貼り合わせる接着剤層を示している。
【0028】
偏光膜としては、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが好ましく用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)およびその誘導体または類縁体であるポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)共重合体ケン化物等があげられ、PVAが好ましい。PVAフィルムの重量平均分子量は、50,000以上が好ましく、150,000以上がより好ましく、また、350,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましい。
また、偏光膜は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム等を延伸・染色してなるものであることが好ましい。前記延伸倍率は、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、8倍以下が好ましく、6.5倍以下がより好ましい。
さらに、偏光膜の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0029】
偏光膜の両面に本実施形態のフィルムを貼り合わせる際には、接着剤を用いることができる。接着剤としては、ポリビニルアルコール樹脂系材料、アクリル樹脂系材料、ウレタン樹脂系材料、ポリエステル樹脂系材料、メラミン樹脂系材料、エポキシ樹脂系材料、シリコーン系材料等が使用できく、ウレタン樹脂系材料であることが好ましい。
【0030】
本実施形態の偏光シートは、前述の範囲に限定されるものではなく、例えば、偏光膜と保護フィルムである本実施形態のフィルムを接着する接着剤を含む接着剤層に、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、耐加水分解性改良剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、調光染料等、その他を適宜溶解させたものを用いてもよい。
【0031】
偏光シートの製造、その用途等について、上記の他、国際公開第2019/054295号、および、国際公開第2014/115705号の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
<フィルムの製造方法>
本実施形態のフィルムの製造方法は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、環状エーテル構造を1分子中に1~3個有する化合物0.05~10質量部を添加して、溶融混練することを含む。得られるフィルムは、上述の本実施形態のフィルムを満たすことが好ましい。
より具体的には、フィルムは溶融状態の樹脂組成物をシート状に押出、ロールを搬送させながら製造することができる。樹脂組成物は、上述の本実施形態の樹脂組成物を満たすことが好ましい。
【実施例0033】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0034】
1.原料
原料は以下のものを用いた。
A1:Rilsan Clear G850、アルケマ社製、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)とセバシン酸から得られたポリアミド樹脂
B1:OXT-221、東亞合成社製
【化1】
B2:2021P、ダイセル社製
【化2】
B3:OXT-121、ダイセル社製
【化3】
B4:OXT-212、東亞合成社製
【化4】
nは1~3の混合物である。
B5:エポゴーセーPT、四日市合成社製
【化5】
nは1~25の混合物である。
B6:TETRAD-X、三菱ガス化学社製
【化6】
【0035】
2.実施例1~5、比較例1、2
<フィルムの製造>
以下の方法でポリアミド樹脂フィルムを製造した。
表1に記載した各成分を、表1に記載の添加量(表1は質量部で示している)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、バレル直径25mm、スクリューのL/D=30のベント付き二軸セグメント押出機(東洋精機社製、「2D30W2」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量8Kg/h、スクリュー回転数100rpmの条件で、溶融状に押し出し、フィルム・シート引き取り装置(東洋精機社製、「FT3W20」)の第一ロールのみで冷却固化し、ポリアミド樹脂フィルムを作製した。シリンダー・ダイヘッド温度は290℃、ロール温度は130℃で行った。
最終的に得られるフィルム厚みの調整は、200μmとなるように、第一ロールのロール速度を変更して行った。
【0036】
<ロール汚れ>
ロール汚れは、樹脂をフィルム・シート引き取り装置にて引き取りを初めてから20分後の第一ロールについてロール汚れの有無を目視で確認した。以下の通り評価した。
A:ロールに汚れは認められなかった
B:ロールに汚れが認められた
【0037】
<異物>
得られたフィルムについて、蛍光灯の下で目視にて異物の有無を確認した。5人の専門家が評価し、多数決とした。
A:異物が認められなかった
B:異物が認められた
【0038】
<ヘイズ>
上記で得られたフィルムについて、ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、ヘイズ(単位:%)を測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。
【0039】
【0040】
上記表1において、各成分の単位は、質量部である。本実施形態の樹脂組成物から形成されたフィルムを製造する場合、ロール汚れは認められず、得られたフィルムに異物も認められなかった。また、本実施形態の樹脂組成物から形成されたフィルムは、透明性に優れていた。