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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021882
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】膜構造建築物
(51)【国際特許分類】
   E04H 15/38 20060101AFI20240208BHJP
   E04H 15/50 20060101ALI20240208BHJP
   E04B 1/32 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
E04H15/38
E04H15/50
E04B1/32 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125037
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高光 麻維
(72)【発明者】
【氏名】川口 泰輝
(72)【発明者】
【氏名】信成 義仁
(72)【発明者】
【氏名】竹内 馨一
(72)【発明者】
【氏名】山本 章起久
【テーマコード(参考)】
2E141
【Fターム(参考)】
2E141BB01
2E141CC05
2E141DD12
2E141DD14
2E141DD24
2E141DD27
2E141EE32
2E141FF00
(57)【要約】
【課題】運搬が容易であると共にアーチ状の骨組みに膜材を張っただけのテントよりも剛性が大きい膜構造建築物を提供する。
【解決手段】膜構造建築物10は、両脚部106が地盤G上に固定されると共に間隔をあけて並んで配置されたシザーズ構造の複数のシザースアーチ材100と、隣り合うシザースアーチ材100とシザースアーチ材100との間隔を固定する固定部材20と、シザースアーチ材100の対向する外側頂点部120と内側頂点部121との間を解除可能に突っ張る突張機構150と、シザースアーチ材の外側頂点部120に掛け渡されると共に張力が付与された取り外し可能な膜材70と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両脚部が地盤上に固定されると共に間隔をあけて並んで配置されたシザーズ構造の伸縮可能な複数のシザースアーチ材と、
隣り合う前記シザースアーチ材と前記シザースアーチ材との間隔を固定する固定部材と、
前記シザースアーチ材の対向する各頂点部間を解除可能に突っ張る突張機構と、
前記シザースアーチ材の外側の各頂点部に掛け渡されると共に張力が付与された取り外し可能な張力部材と、
前記シザースアーチ材の上に張られた取り外し可能な膜材と、
を備えた膜構造建築物。
【請求項2】
前記張力部材は、張力が付与されると共に前記シザースアーチ材の外側の各頂点部に掛け渡された前記膜材が兼ねている、
請求項1に記載の膜構造建築物。
【請求項3】
前記シザースアーチ材の対向する各頂点部を通る直線の交点がアーチの円中心となる、
請求項1又は請求項2に記載の膜構造建築物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜構造建築物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、可搬型天幕用のフレームに関する技術が開示されている。この先行技術は、一方向に配列される複数のアーチ状支柱と、各アーチ状支柱を連結する複数の桁部材とよりなり、これら支柱及び桁部材を展開して蒲鉾型の拡張状態と、これら支柱及び桁部材を折り畳んで束状の折り畳み状態とすることができる。
【0003】
特許文献2には、可搬型天幕用のフレームに関する技術が開示されている。この先行技術では、合掌部材の両端部で連結する2本1組の柱材を少なくとも2組以上並設し、隣接する柱材の上部を連結する桁部材と、隣接する合掌部材の上部を連結する棟部材とを備え、これら柱材、合掌部材、桁部材及び棟部材を展開した拡張状態と、これら柱材、合掌部材、桁部材及び棟部材を折り畳んで束状の折り畳み状態とすることができる。
【0004】
特許文献3には、張弦シザーズ部材および張弦シザーズ構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、張弦シザーズ部材は、交差部の軸を中心に回転するクロス部材の自由端部間に対向させて張弦材が配設され、該張弦材と直交する方向の自由端部間に引張材が設けられてなる。
【0005】
非特許文献1及び非特許文献2には、シザーズ構造のアーチ状の骨組に幕を張ったテントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-63550号公報
【特許文献2】特開2017-40066号公報
【特許文献3】特開2002-309674号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】武庫川女子大学大学院 建築学専攻修士 2年生「建築設計総合演習3」 [online]、2022年07月07日検索、インターネット<http://arch.mukogawa-u.ac.jp/education/education2014/ArchitecturalDesignStudio_14M02_III.html>
【非特許文献2】バイオ・ストラクチャー「虹のシザーズ」 [online]、2022年07月07日検索、インターネット<https://data.shinkenchiku.online/articles/SK_2007_09_180-0>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アーチ状の骨組みに膜材を張っただけのテントは、運搬は容易であるが、剛性が小さいので、例えば大型化が困難である。
【0009】
本発明は、上記事実を鑑み、運搬が容易であると共にアーチ状の骨組みに膜材を張っただけのテントよりも剛性が大きい膜構造建築物を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第一態様は、両脚部が地盤上に固定されると共に間隔をあけて並んで配置されたシザーズ構造の伸縮可能な複数のシザースアーチ材と、隣り合う前記シザースアーチ材と前記シザースアーチ材との間隔を固定する固定部材と、前記シザースアーチ材の対向する各頂点部間を解除可能に突っ張る突張機構と、前記シザースアーチ材の外側の各頂点部に掛け渡されると共に張力が付与された取り外し可能な張力部材と、前記シザースアーチ材の上に張られた取り外し可能な膜材と、を備えた膜構造建築物である。
【0011】
第一態様の膜構造建築物では、シザースアーチ材は、両脚部が地盤に固定されることで拘束され、アーチ形状が保持されている。更に、突張機構がシザースアーチ材の対向する各頂点部間を突っ張ることで、シザースアーチ材の展開状態が維持される。また、固定部材によって隣り合うシザースアーチ材とシザースアーチ材との間隔が固定されている。そして、張力部材がシザースアーチ材の外側の各頂点部に掛け渡され引っ張っているので、シザースアーチ材が圧縮力を負担し、引張手段が引張力を負担する構成となる。したがって、本膜構造建築物は、アーチ状の骨組みに膜材を張っただけのテントと比較し、剛性が大きいので、例えば、大型化することができる。
【0012】
また、膜材と張力部材とを取り外し、突張機構を解除したのち、シザーズ構造の伸縮可能なシザースアーチ材を軸方向に縮めることで、運搬が容易となる。
【0013】
第二態様は、前記張力部材は、張力が付与されると共に前記シザースアーチ材の外側の各頂点部に掛け渡された前記膜材が兼ねている、第一態様に記載の膜構造建築物である。
【0014】
第二態様の膜構造建築物では、張力が付与されると共に前記シザースアーチ材の外側の各頂点部に掛け渡された膜材が張力部材を兼ねているので、部品点数が削減される。
【0015】
第三態様は、前記シザースアーチ材の対向する各頂点部を通る直線の交点がアーチの円中心となる、第一態様又は第二態様に記載の膜構造建築物である。
【0016】
第三態様の膜構造建築物では、シザースアーチ材の対向する各頂点部を結ぶ線の交点がアーチの円中心となるので、シザースアーチ材の構成部材の多くを共通化できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜構造建築物は、運搬が容易であると共にアーチ状の骨組みに膜材を張っただけのテントよりも剛性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態の膜構造建築物をY方向から見た正面図である。
図2】一実施形態の膜構造建築物をX方向から見た側面図である。
図3】(A)は膜構造建築物を構成するシザースアーチ材の展開状態の拡大図であり、(B)はシザースアーチ材が収納状態の拡大図である。
図4】シザースアーチ材のシザーズ部材の一部断面で示す分解斜視図である。
図5】(A)は収納状態のシザースアーチ材をX方向から見た側面図であり、(B)は突張機構のみを示すX方向から見た側面図であり、(C)は突張機構のみをY方向から見た正面図である。
図6】(A)はシザースアーチ材の収納状態と展開状態との間の状態における突張機構の模式図であり、(B)は展開状態の突張機構の模試図である。
図7】膜構造建築物をY方向から見た構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
【0020】
本発明の一実施形態の膜構造建築物について説明する。なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として、矢印Zで示す。膜構造建築物内に向かう方向を「内側」とし、膜構造建築物外に向かう方向を「外側」とする。また、軸方向は、後述するシザーズ構造のシザースアーチ材100の軸心の方向である。
【0021】
[構造]
まず、本実施形態の膜構造建築物の構造について説明する。
【0022】
図1及び図2に示すように、膜構造建築物10は、シザーズ構造の伸縮可能なシザースアーチ材100と、固定部材20と、膜材70と、を有して構成されている。図2に示すように、シザースアーチ材100は、後述する展開状態でY方向に間隔をあけて並べられている。なお、図2では判り易くするため、膜材70に隠れているシザースアーチ材100や固定部材20等は隠線でなく実線で図示している。
【0023】
シザースアーチ材100の両端の脚部106には、板状の接合部102が接合されている。そして、板状の接合部102が地盤Gにアンカー(図示略)等によって固定されている。
【0024】
図1及び図3(A)に示すように、シザーズ構造のシザースアーチ材100は、シザーズ部材110が、軸方向に連結されて構成されている。
【0025】
シザーズ部材110は、二本の板状のストラット材112、114がX字形状に交差し、その交点で開閉可能に連結されている。シザーズ部材110の交点には前述した棒状の固定部材20が貫通し、これにより開閉可能となっている。
【0026】
図1図3(A)及び図4に示すように、軸方向に隣接するシザーズ部材110のストラット材112、114の端部112A、114A同士は、ピン115で回転可能に連結され、これによりシザーズ部材110が、軸方向に連結されている。
【0027】
このようなシザーズ構造のシザースアーチ材100は、図1図3(A)及び図4に示す軸方向に伸ばした展開状態と、図3(B)に示す軸方向に縮めた収納状態と、に容易に伸縮させることができる。
【0028】
ここで、展開状態のシザースアーチ材100のシザーズ部材110の交点である回転中心(固定部材20)を通る線が軸心であり、軸心に沿った方向が軸方向である。
【0029】
図1図3(A)及び図7に示すように、展開状態のシザースアーチ材100におけるシザーズ部材110同士の連結部位における外側の連結部位を外側頂点部120とし、内側の連結部位を内側頂点部121とする。
【0030】
図2に示すように、前述したように棒状の固定部材20がシザースアーチ材100のシザーズ部材110の交点に貫通している。棒状の固定部材20は、Y方向に間隔をあけて並べられている各シザースアーチ材100を通し梁のように貫通している。そして、棒状の固定部材20のシザースアーチ材100の両側には、円盤状の鍔状部材22が設けられ、これにより隣り合うシザースアーチ材100とシザースアーチ材100との間隔が固定されている。
【0031】
なお、鍔状部材22は、着脱可能となっており、鍔状部材22を外すと、棒状の固定部材20をシザースアーチ材100から引き抜くことができる。鍔状部材22を着脱可能とする構造はどのようなものであってもよいが、例えば、鍔状部材22を二分割してビスで締め付けて接合する構造等があげられる。
【0032】
図1及び図3(A)に示すように、シザースアーチ材100には、対向する外側頂点部120と内側頂点部121との間を突っ張る突張機構150が設けられている。
【0033】
図5(A)に示すように、突張機構150は、シザースアーチ材100のシザーズ部材110のストラット材112とストラット材114との間に設けられている。図5(A)、図5(B)及び図5(C)に示すように、突張機構150は、スライド可能な第一板部152と第二板部154とを有している。
【0034】
第一板部152の一端部152Aは外側頂点部120でストラット材112、114の端部112A、114Aとの間に配置され、ピン115が貫通し、回転可能に連結されている(図4も参照)。同様に、第二板部154の一端部154Aは内側頂点部121でストラット材112、114の端部112A、114Aとの間に配置され、ピン115が貫通し、回転可能に連結されている。第一板部152と第二板部154とは、他端部152B、154B側同士が重ねられている。
【0035】
図5(B)及び図5(C)に示すように、第一板部152には、中心線に沿って溝160が形成され、溝160の一端部側の端部には、貫通孔162が形成されている。第二板部154には、溝160に挿入されている突起部164を有している。突起部164は、図示されていないバネやゴムなどの弾性部材の弾性力によって溝160の底部側に押されている。
【0036】
図5(B)及び図5(C)に示すように、軸方向に縮めた収納状態のシザースアーチ材(図3(B)参照)では、外側頂点部120と内側頂点部121との間隔は広がっており、突起部164は溝160の他端部側に位置している。
【0037】
図3(A)及び図3(B)に示すように、収納状態のシザースアーチ材100を展開していくと、外側頂点部120と内側頂点部121との間隔が狭くなっていき、それに伴って図6(A)に示すように、突起部164が溝160の一端部側に移動(スライド)する。そして、図6(B)に示すように、突起部164が溝160の一端部まで移動(スライド)すると、図示されていない弾性部材の弾性力によって貫通孔162に嵌合する。これにより、第一板部152と第二板部154とが固定されると共に外側頂点部120と内側頂点部121との間隔が固定される(図3(A)参照)、つまり、シザースアーチ材100は展開状態(図3(A))が維持される。
【0038】
なお、シザースアーチ材100を軸方向に縮めた収納状態にする際には、貫通孔162に嵌まっている突起部164を、例えば手で押した状態で外側頂点部120と内側頂点部121との間隔を広げて突起部164を溝160に入れることで、突っ張りが解除される(図6(A))。
【0039】
図2に示すように、Y方向に間隔をあけて並べられた展開状態のシザースアーチ材100の上に、図1及び図2に示すように膜材70が張られ、膜屋根72が形成されている。 膜材70は、地盤Gに固定された張力機構74によって両端部70Aを引っ張った状態で両端部70Aが地盤Gに固定されている。言い換えると、膜材70は、シザースアーチ材100を下側に押さえつけるように引っ張った状態で地盤Gに固定されている。そして、これにより膜材70は、各外側頂点部120に掛け渡されて張られ、張力が付与される。なお、膜材70は、各外側頂点部120に紐や面ファスナー等で取り付けられている。
【0040】
図7に示すように、本実施形態では、シザースアーチ材100の対向する外側頂点部120と内側頂点部121とを通る直線Sの交点Pは、アーチの円Eの中心となるようになっている。
【0041】
<作用>
次に本実施形態の作用について説明する。
【0042】
膜構造建築物10は、シザースアーチ材100の両脚部106に接合された接合部102が地盤に固定されることで、シザースアーチ材100が拘束され、アーチ形状が保持されている。更に、突張機構150によって、シザースアーチ材100の対向する各外側頂点部120と内側頂点部121との間を突っ張ることで、シザースアーチ材100の展開状態が維持される。
【0043】
また、棒状の固定部材20によって隣り合うシザースアーチ材100とシザースアーチ材100との間隔が固定されている。
【0044】
そして、膜材70がシザースアーチ材100の各外側頂点部120に掛け渡され引っ張っているので、シザースアーチ材100が圧縮力を負担し、膜材70が引張力を負担する。よって、シザースアーチ材100と膜材70とが一体となって荷重及び外力を負担する構造となっている。
【0045】
このような構造の膜構造建築物10は、アーチ状の骨組みに膜材を張っただけのテントと比較し、剛性が大きいので、例えば、大型化することができる。
【0046】
また、膜材70を取り外し、突張機構150の突起部164を押して解除したのち、シザーズ構造のシザースアーチ材100を軸方向に縮めることで、運搬が容易となる。本実施形態では、鍔状部材22を外して棒状の固定部材20をシザースアーチ材100から引き抜くことで、更に運搬が容易になる。
【0047】
また、本実施形態の膜構造建築物10のシザースアーチ材100の各外側頂点部120と内側頂点部121を通る直線の交点Pがアーチの円中心となるので、シザースアーチ材100の脚部106を除く構成部材、例えば、ストラット材112、114等の多くの部材を共通化できる。
【0048】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0049】
例えば、上記実施形態では、膜材70に張力を付与していたが、これに限定されるものではない。膜材70には張力を付与していなくてもよい。
【0050】
なお、その替り、例えば、別途、紐状又は帯状の張力部材をシザースアーチ材100の各外側頂点部120に掛け渡して引っ張って張力を付与すればよい。
【0051】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0052】
10 膜構造建築物
20 固定部材
70 膜材(張力部材の一例)
100 シザースアーチ材
106 脚部
110 シザーズ部材
120 外側頂点部
121 内側頂点部
150 突張機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7