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  • 特開-係船索張力監視システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021895
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】係船索張力監視システム
(51)【国際特許分類】
   B63B 21/04 20060101AFI20240208BHJP
   B66D 1/58 20060101ALI20240208BHJP
   B63B 21/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B63B21/04 Z
B66D1/58 D
B63B21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125071
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 英輝
(72)【発明者】
【氏名】野田 嵩
(72)【発明者】
【氏名】大江 啓司
(72)【発明者】
【氏名】森下 篤志
(57)【要約】
【課題】伸長率センサを用いることなく係船索の係船柱側張力を検知することができる係船索張力監視システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る係船索張力監視システム1は、船体21上の少なくとも1つの係船金物22に掛け渡されるとともに先端が固定構造物3の係船柱31に係止された係船索10の張力を監視するものであり、係船索10が巻き付けられたドラムを含む係船機4と、制御装置9を含む。制御装置9は、係船索10のドラム側張力Pを算出するとともに、係船索10が少なくとも1つの係船金物22に掛け渡されることによる張力減衰率Rを決定し、ドラム側張力Pに張力減衰率Rを乗算するかドラム側張力Pを張力減衰率Rで除算することで係船索10の係船柱側張力P0を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体上の少なくとも1つの係船金物に掛け渡されるとともに先端が固定構造物の係船柱に係止された係船索の張力を監視するシステムであって、
前記係船索が巻き付けられたドラムを含む係船機と、
前記係船索における前記係船機と前記少なくとも1つの係船金物との間の部分の張力であるドラム側張力を算出するとともに、前記係船索が前記少なくとも1つの係船金物に掛け渡されることによる張力減衰率を決定し、前記ドラム側張力に前記張力減衰率を乗算するか前記ドラム側張力を前記張力減衰率で除算することで前記係船索における前記少なくとも1つの係船金物と前記係船柱との間の部分の張力である係船柱側張力を算出する制御装置と、
を備える、係船索張力監視システム。
【請求項2】
前記少なくとも1つの係船金物は複数の係船金物を含み、
前記制御装置は、前記複数の係船金物のそれぞれに対して個別減衰率を算出し、前記複数の係船金物の前記個別減衰率を乗算することで、前記係船索が前記複数の係船金物に掛け渡されることによる前記張力減衰率を決定する、請求項1に記載の係船索張力監視システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記係船索および前記係船金物の種類に応じた摩擦係数と、前記係船金物に対する前記係船索の巻き付け角度を使用して前記個別減衰率を算出する、請求項2に記載の係船索張力監視システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ドラムへの前記係船索の巻き取り時、前記ドラム側張力に前記張力減衰率を乗算することで前記係船柱側張力を算出し、前記ドラムからの前記係船索の巻き出し時および前記ドラムの停止時、前記ドラム側張力を前記張力減衰率で除算することで前記係船柱側張力を算出する、請求項1~3の何れか一項に記載の係船索張力監視システム。
【請求項5】
前記係船機は、前記ドラムを回転させるモータと、前記ドラムの回転を禁止する拘束状態と前記ドラムの回転を許容する開放状態との間で切り換えられるバンドブレーキを含み、
前記制御装置は、前記バンドブレーキが前記開放状態にあるときは、前記モータのトルクに基づいて前記ドラム側張力を算出し、前記バンドブレーキが前記拘束状態にあるときは、前記バンドブレーキのバンド張力に基づいて前記ドラム側張力を算出する、請求項1~3の何れか一項に記載の係船索張力監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、係船索張力監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶を岸壁や海上基地などの固定構造物に係留する際には、係船索が船体上の少なくとも1つの係船金物に掛け渡されるとともに係船索の先端が固定構造物の係船柱に係止される。係船索は、船体上に設けられた係船機(ムアリングウインチ)により巻き取られたり巻き出されたりする。
【0003】
係船時には、潮位、積載量、風および潮流などにより係船索の張力が変化するため、係船索の張力を監視することが望まれる。例えば、特許文献1には、係船機が、係船索が巻き付けられたドラムと、ドラムの回転を禁止する拘束状態とドラムの回転を許容する開放状態との間で切り換えられるバンドブレーキを含み、バンドブレーキが拘束状態にあるときに、バンドブレーキに設けられたロードセルの検出値とドラム上の張力作用半径とから係船索の張力を算出することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、係船索として繊維ロープを用い、その繊維ロープの先端部分に伸長率センサを撚り込み、その伸長率センサの検出値から係船索の張力を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-211478号公報
【特許文献2】国際公開第2020/110902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたように、バンドブレーキに設けられたロードセルの検出値とドラム上の張力作用半径とから係船索の張力を算出した場合、算出される張力は係船索におけるドラム近傍部分の張力である。上述したように係船索は船体上の少なくとも1つの係船金物に掛け渡されるため、係船索の張力は係船金物の前後で異なる。すなわち、特許文献1に記載された構成では、最も重要である係船索における係船金物と係船柱の間の部分の張力である係船柱側張力を検知することができない。
【0007】
これに対し、特許文献2に記載された構成では、係船索の係船柱側張力を検知することができるが、伸長率センサを繊維ロープに撚り込む必要がある。
【0008】
そこで、本開示は、伸長率センサを用いることなく係船索の係船柱側張力を検知することができる係船索張力監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、船体上の少なくとも1つの係船金物に掛け渡されるとともに先端が固定構造物の係船柱に係止された係船索の張力を監視するシステムであって、前記係船索が巻き付けられたドラムを含む係船機と、前記係船索における前記係船機と前記少なくとも1つの係船金物との間の部分の張力であるドラム側張力を算出するとともに、前記係船索が前記少なくとも1つの係船金物に掛け渡されることによる張力減衰率を決定し、前記ドラム側張力に前記張力減衰率を乗算するか前記ドラム側張力を前記張力減衰率で除算することで前記係船索における前記少なくとも1つの係船金物と前記係船柱との間の部分の張力である係船柱側張力を算出する制御装置と、を備える、係船索張力監視システムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、伸長率センサを用いることなく係船索の係船柱側張力を検知することができる係船索張力監視システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る係船索張力監視システムの概略構成図である。
図2】係船機の正面図である。
図3】バンドブレーキの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に、一実施形態に係る係船索張力監視システム1を示す。この係船索張力監視システム1は、船舶2が係船索10によって岸壁や海上基地などの固定構造物3に係留されているときに、係船索10の張力を監視するものである。
【0013】
具体的に、係船索張力監視システム1は、船舶2の船体21上に設けられた複数の係船機4と、これらの係船機4を制御する制御装置9を含む。各係船機4は、対応する係船索10の巻き取りおよび巻き出しを行う。本実施形態では、船首側の左舷および右舷ならびに船尾側の左舷および右舷に4つの係船機4が配置されているが、係船機4の数および位置は適宜変更可能である。
【0014】
船体21上には複数の係船金物22が設けられており、固定構造物3には複数の係船柱31が設けられている。係船時、各係船索10が少なくとも1つの係船金物22に掛け渡されるとともに、係船索10の先端が係船柱31に係止される。図1では、全ての係船索10が2つの係船金物22に掛け渡されているが、各係船索10が掛け渡される係船金物22の数は、1つであっても3つ以上であってもよい。
【0015】
係船金物22は、例えば、スタンドローラ、フェアリーダ、デッキローラ、チョックなどである。係船柱31は、例えば、ビット、ボラード、クイックリリースフックなどである。係船索10は、繊維ロープであってもよいし、金属製のワイヤーであってもよい。繊維ロープの材質としては、例えば、ナイロン、超高分子量ポリエチレン(HMPE)などが挙げられる。係船索10は、先端部分が繊維ロープで構成され、残りの大部分がワイヤーで構成されたものであってもよい。
【0016】
図2に示すように、各係船機4は、係船索10が巻き付けられたドラム7と、ドラム7を回転させるモータ51を含む。なお、図2では、図面の簡略化のために係船索10の作図を省略する。ドラム7は、支持台25により回転可能に支持されている。本実施形態では、モータ51とドラム7の間に減速機52が設けられており、減速機52とドラム7との間にクラッチ53およびバンドブレーキ6が設けられている。つまり、モータ51は、減速機52およびクラッチ53を介してドラム7を回転させる。
【0017】
モータ51は、係船索10がドラム7に巻き取られる第1方向と、係船索10がドラム7から巻き出される第2方向に回転する。本実施形態では、モータ51が油圧モータであり、制御弁55を介して油圧モータに対する作動油の供給および排出が行われる。制御弁55が制御装置9によって制御されることで、モータ51の停止、第1方向への回転および第2方向への回転が切り換えられる。ただし、モータ51が電動モータであり、制御装置9によって直接的に制御されてもよい。
【0018】
また、モータ51には、当該モータ51のトルクを検出するトルク検出器50が設けられている。本実施形態では、モータ51が油圧モータであるので、トルク検出器50として、油圧モータに供給される作動油の流入圧を計測する圧力センサが用いられ、圧力センサで計測された流入圧がモータ51のトルクに換算される。ただし、圧力センサに代えて、モータ51のトルクを直接的に計測するトルクセンサが採用されてもよい。あるいは、モータ51が電動モータである場合は、電動モータに流れる電流がトルクに換算されてもよい。
【0019】
クラッチ53は、ドラム7を減速機52と連結する嵌状態と、ドラム7を減速機52から切り離す脱状態との間で切り換えられる。本実施形態では、クラッチ53が油圧シリンダを含む。この油圧シリンダは電磁弁81と接続されており、電磁弁81が制御装置9によって制御されることで、クラッチ53が嵌状態から脱状態へまたはそれとは逆に切り換えらえる。ただし、クラッチ53が油圧シリンダの代わりに電動シリンダを含み、その電動シリンダが制御装置9によって直接的に制御されてもよい。
【0020】
バンドブレーキ6は、ドラム7の回転を禁止する拘束状態と、ドラム7の回転を許容する開放状態との間で切り換えられる。本実施形態では、図3に示すように、バンドブレーキ6が油圧シリンダ66を含む。この油圧シリンダ66は電磁弁82(図2参照)と接続されており、電磁弁82が制御装置9によって制御されることで、バンドブレーキ6が拘束状態から開放状態へまたはそれとは逆に切り換えらえる。ただし、バンドブレーキ6が油圧シリンダ66の代わりに電動シリンダを含み、その電動シリンダが制御装置9によって直接的に制御されてもよい。
【0021】
より詳しくは、バンドブレーキ6は、ドラム7と共に回転するブレーキドラム61と、このブレーキドラム61に沿う円弧状の一対のバンド62,63を含む。バンド62,63の一端同士はピン64を介して連結されており、バンド62,63の他端がリンク機構65を介して上述した油圧シリンダ66に接続されている。油圧シリンダ66がリンク機構65を介してバンド62,63の他端同士を互いに遠ざけると、バンド62,63とブレーキドラム61との間に僅かな隙間が形成され、バンドブレーキ6が開放状態となる。逆に、油圧シリンダ66がリンク機構65を介してバンド62,63の他端同士を互いに近づけると、バンド62,63がブレーキドラム61を締め付け、バンドブレーキ6が拘束状態となる。
【0022】
バンドブレーキ6には、拘束状態でバンド62,63に作用するバンド張力Fを検出するロードセル60が設けられている。本実施形態では、ピン型のロードセル60が採用されている。リンク機構65はテンションバー67を含み、このテンションバー67が、船体21上に設けられたブラケット23とロードセル60を介して連結されている。
【0023】
制御装置9には係船機4ごとに操作信号が入力される。制御装置9は、入力される操作信号に基づいて、対応する係船機4の制御弁55および電磁弁81,82を制御する。例えば、制御弁55は船員が係船機4を手動で操作できるように操作レバーを含むため、操作レバーが傾倒されたときにその傾倒方向に応じた操作信号が制御装置9へ入力される。あるいは、自動操船が行われる場合は、制御装置9が自ら操作信号を生成してもよい。
【0024】
制御装置9に関し、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウエアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウエアである。ハードウエアは、本明細書に開示されているハードウエアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウエアであってもよい。ハードウエアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウエアとソフトウエアの組み合わせであり、ソフトウエアはハードウエアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0025】
さらに、制御装置9は、上述したトルク検出器50およびロードセル60と電気的に接続されている。本実施形態では、制御装置9が、巻層数検出器70および2つのカメラ91(図1参照)とも電気的に接続されている。巻層数検出器70は、ドラム7上の係船索10の巻層数を検出する。例えば、巻層数検出器70は、ドラム7に巻き付けられた係船索10の最外周面の位置を巻層数に換算する。
【0026】
2つのカメラ91のうち一方のカメラ91は、船首側に配置された2つの係船機4およびこれらの係船機4から延びる係船索10が掛け渡される可能性のある全ての係船金物22を含む領域を撮影し、他方のカメラ91は、船尾側に配置された2つの係船機4およびこれらの係船機4から延びる係船索10が掛け渡される可能性のある全ての係船金物22を含む領域を撮影する。
【0027】
制御装置9は、トルク検出器50、ロードセル60および巻層数検出器70の検出結果、ならびにカメラ91の映像に基づいて、各係船索10における係船金物22と係船柱31との間の部分の張力である係船柱側張力P0を算出する。
【0028】
まず、制御装置9は、各係船索10における係船機4と係船金物22との間の部分の張力であるドラム側張力Pを算出する。具体的に、制御装置9は、バンドブレーキ6が開放状態にあるときは、トルク検出器50で検出されるモータ51のトルクTおよび巻層数検出器70で検出される巻層数Nに基づいてドラム側張力Pを算出する。例えば、制御装置9は、以下の式(1)を使用してドラム側張力Pを算出する。
【0029】
【数1】
r:減速機52の減速比[-]
η:係船機4の機械効率[-]
:係船索10の直径「mm」
:ドラム7の直径[mm]
【0030】
逆に、バンドブレーキ6が拘束状態にあるときは、制御装置9は、ロードセル60で検出されるバンド張力Fおよび巻層数検出器70で検出される巻層数Nに基づいてドラム側張力Pを算出する。例えば、制御装置9は、以下の式(2)を使用してドラム側張力Pを算出する。
【0031】
【数2】
L:ドラム7の中心からロードセル60までの水平距離[mm]
【0032】
次に、制御装置9は、係船索10ごとに、当該係船索10が係船金物22に掛け渡されることによる張力減衰率Rを決定する。この張力減衰率Rの決定に、カメラ91の映像が使用される。
【0033】
制御装置9は、カメラ91で撮影された映像から、各係船索10がどの係船金物22に掛け渡されているかと、各係船金物22に対する係船索10の巻き付け角度を判定する。そして、制御装置9は、各係船索10が掛け渡された係船金物22のそれぞれに対して個別減衰率Rを算出する。なお、「i」は、1つの係船索10が掛け渡された係船金物22の番号を指す。例えば、制御装置9は、以下の式(3)を使用して個別減衰率Rを算出する。
【0034】
【数3】
μ:i番目の係船金物22に関する摩擦係数
θ:i番目の係船金物22に対する係船索10の巻き付け角度
つまり、i番目の係船金物22の個別減衰率Rは、摩擦係数μおよび巻き付け角度θを使用して算出される。
【0035】
摩擦係数μは、i番目の係船金物22の種類およびi番目の係船金物22に掛け渡された係船索10の種類に応じた係数である。制御装置9には、係船金物22の種類および係船索10の種類(材質および直径)と摩擦係数との対応関係を規定した摩擦係数テーブルが予め格納されており、制御装置9は、予め格納された係船索10の種類およびカメラ91の映像に基づき、その摩擦係数テーブルを使用してi番目の係船金物22の摩擦係数μを決定する。例えば、係船金物22がチョックである場合の摩擦係数テーブルは表1の通りである。
【0036】
【表1】
【0037】
制御装置9は、係船索10が掛け渡される係船金物22が1つである場合は、その係船金物22の個別減衰率Rを、係船索10がその係船金物22に掛け渡されることによる張力減衰率Rとして決定する。係船索10が掛け渡される係船金物22が複数である場合、制御装置9は、それらの係船金物22の個別減衰率Rを乗算し、その乗算値を係船索10がそれらの係船金物22に掛け渡されることによる張力減衰率Rとして決定する。つまり、制御装置9は、以下の式(4)を使用して係船索10全体の張力減衰率Rを決定する。
【0038】
【数4】
n:1つの係船索10が掛け渡される係船金物22の総数
【0039】
その後、制御装置9は、ドラム7への係船索10の巻き取り時には、ドラム側張力Pに張力減衰率Rを乗算することで係船柱側張力P0を算出し(P0=P×R)、ドラム7からの係船索10の巻き出し時およびドラム7の停止時には、ドラム側張力Pを張力減衰率Rで除算することで係船柱側張力P0を算出する(P0=P÷R)。このため、ドラム側張力Pに対して張力減衰率Rを乗算するか除算するかを切り換えるだけで、係船索巻き取り時の係船柱側張力P0と係船索巻き出し時およびドラム停止時の係船柱側張力P0を算出することができる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の係船索張力監視システム1では、張力減衰率Rを使用してドラム側張力Pが係船柱側張力P0に換算されるので、伸長率センサを用いることなく係船索10の係船柱側張力P0を検知することができる。
【0041】
しかも、本実施形態では式(4)を使用して張力減衰率Rが決定されるので、各係船金物22の個別減衰率Rを算出するだけで係船索10全体の張力減衰率Rを算出することができる。
【0042】
さらには、各係船金物22の個別減衰率Rが摩擦係数μおよび巻き付け角度θを使用して算出されるので、同じ数式を用いて個別減衰率Rを算出することができる。
【0043】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0044】
例えば、巻層数検出器70を用いる代わりに、ドラム7としてストレージドラムとテンションドラムを含むスプリットドラムが用いられ、係船時にはテンションドラムに係船索10が巻き付けられてドラム7の中心から張力の作用線までの半径が一定とされもよい。しかし、この場合には、係船時に係船索10をテンションドラムに巻き付ける作業が必要である。これに対し、巻層数検出器70によりドラム7上の係船索10の巻層数が検出されれば、スプリットドラムを用いた場合のような係船時の特別な作業が不要である。
【0045】
また、船舶2によっては、係船索10が掛け渡される係船金物22が予め決まっていることがある。この場合、カメラ91は不要であり、制御装置9に、船舶2の輪郭近くに位置する係船金物22以外の各係船金物22に対する係船索10の巻き付け角度が予め格納されてもよい。
【0046】
また、船舶2の輪郭近くに位置する係船金物22、換言すれば係船索10が掛け渡される係船金物22のうちで係船柱31の最も近くに位置する係船金物22に対する係船索10の巻き付け角度に関しては、制御装置9が、船舶2のGPS情報(緯度および経度)、ならびに予め制御装置9に格納された固定構造物3の地形情報(係船柱31の緯度および経度を含む)に基づいて、係船柱31の最も近くに位置する係船金物22に対する係船索10の巻き付け角度を算出してもよい。
【0047】
(まとめ)
第1の態様として、本開示は、船体上の少なくとも1つの係船金物に掛け渡されるとともに先端が固定構造物の係船柱に係止された係船索の張力を監視するシステムであって、前記係船索が巻き付けられたドラムを含む係船機と、前記係船索における前記係船機と前記少なくとも1つの係船金物との間の部分の張力であるドラム側張力を算出するとともに、前記係船索が前記少なくとも1つの係船金物に掛け渡されることによる張力減衰率を決定し、前記ドラム側張力に前記張力減衰率を乗算するか前記ドラム側張力を前記張力減衰率で除算することで前記係船索における前記少なくとも1つの係船金物と前記係船柱との間の部分の張力である係船柱側張力を算出する制御装置と、を備える、係船索張力監視システムを提供する。
【0048】
上記の構成によれば、張力減衰率を使用してドラム側張力が係船柱側張力に換算されるので、伸長率センサを用いることなく係船索の係船柱側張力を検知することができる。
【0049】
第2の態様として、第1の態様において、前記少なくとも1つの係船金物は複数の係船金物を含み、前記制御装置は、前記複数の係船金物のそれぞれに対して個別減衰率を算出し、前記複数の係船金物の前記個別減衰率を乗算することで、前記係船索が前記複数の係船金物に掛け渡されることによる前記張力減衰率を決定してもよい。この構成によれば、各係船金物の個別減衰率を算出するだけで係船索全体の張力減衰率を算出することができる。
【0050】
第3の態様として、第2の態様において、前記制御装置は、前記係船索および前記係船金物の種類に応じた摩擦係数と、前記係船金物に対する前記係船索の巻き付け角度を使用して前記個別減衰率を算出してもよい。この構成によれば、同じ数式を用いて個別減衰率を算出することができる。
【0051】
第4の態様として、第1乃至第3の態様の何れかにおいて、前記制御装置は、前記ドラムへの前記係船索の巻き取り時、前記ドラム側張力に前記張力減衰率を乗算することで前記係船柱側張力を算出し、前記ドラムからの前記係船索の巻き出し時および前記ドラムの停止時、前記ドラム側張力を前記張力減衰率で除算することで前記係船柱側張力を算出してもよい。この構成によれば、ドラム側張力に対して張力減衰率を乗算するか除算するかを切り換えるだけで、係船索巻き取り時の係船柱側張力と係船索巻き出し時およびドラム停止時の係船柱側張力を算出することができる。
【0052】
第5の態様として、第1乃至第4の態様の何れかにおいて、例えば、前記係船機は、前記ドラムを回転させるモータと、前記ドラムの回転を禁止する拘束状態と前記ドラムの回転を許容する開放状態との間で切り換えられるバンドブレーキを含み、前記制御装置は、前記バンドブレーキが前記開放状態にあるときは、前記モータのトルクに基づいて前記ドラム側張力を算出し、前記バンドブレーキが前記拘束状態にあるときは、前記バンドブレーキのバンド張力に基づいて前記ドラム側張力を算出してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 係船索張力監視システム
10 係船索
2 船舶
21 船体
22 係船金物
4 係船機
51 モータ(油圧モータまたは電動モータ)
6 バンドブレーキ
7 ドラム
9 制御装置
図1
図2
図3