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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021924
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】埋込磁石型回転電動機および電動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240208BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125129
(22)【出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石毛 光
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕司
(72)【発明者】
【氏名】川島 琢也
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 勧也
(72)【発明者】
【氏名】芝本 勇希
(72)【発明者】
【氏名】古橋 享大
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622PP10
(57)【要約】
【課題】トルクの低下を抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる埋込磁石型回転電機を提供する。
【解決手段】ステータと、内部に複数の永久磁石が埋め込まれたロータコアを有するとともに、ステータの内側で回転軸を中心に回転可能に保持されているロータと、を備える埋込磁石型回転電動機であって、複数の永久磁石は、ロータコアの外周部に、周方向に互いに間隔をあけて保持されているとともに、周方向の両端部に磁極を有し、ロータコアは、複数の永久磁石の回転軸側に、周方向に互いに間隔をあけて配置されている複数の肉抜き穴を有し、複数の肉抜き穴それぞれは、回転軸側で周方向に伸びる底壁面部と、外周側の外周壁面部と、底壁面部および外周壁面部との間をつなぐ側壁面部と、を有し、外周壁面部は、複数の永久磁石うちの1つの永久磁石の中央部から磁極側へ向かうにつれて回転軸に近づく傾斜壁面部を有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコイルを有するステータと、内部に複数の永久磁石が埋め込まれたロータコアを有するとともに、前記ステータの内側で回転軸を中心に回転可能に保持されているロータと、を備える埋込磁石型回転電動機であって、
前記複数の永久磁石は、前記ロータコアの外周部に、周方向に互いに間隔をあけて保持されているとともに、前記周方向の両端部に磁極を有し、
前記ロータコアは、前記複数の永久磁石の前記回転軸側に、前記周方向に互いに間隔をあけて配置されている複数の肉抜き穴を有し、
前記複数の肉抜き穴それぞれは、前記回転軸側で前記周方向に伸びる底壁面部と、外周側の外周壁面部と、前記底壁面部および前記外周壁面部との間をつなぐ側壁面部と、を有し、
前記外周壁面部は、前記複数の永久磁石うちの1つの永久磁石の中央部から磁極側へ向かうにつれて前記回転軸に近づく傾斜壁面部を有する、
埋込磁石型回転電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の埋込磁石型回転電動機であって、
前記肉抜き穴は、前記ロータの前記回転軸から径方向外側に伸びる中心線が、永久磁石のd軸またはq軸と重なる位置にある、
埋込磁石型回転電動機。
【請求項3】
請求項2に記載の埋込磁石型回転電動機であって、
前記肉抜き穴は、前記中心線が、前記q軸と重なる位置にあり、
前記外周壁面部は、2つの前記傾斜壁面部を有し、
前記2つの前記傾斜壁面部は、前記q軸上で連結している、
埋込磁石型回転電動機。
【請求項4】
請求項3に記載の埋込磁石型回転電動機であって、
前記肉抜き穴は、前記d軸上を避けた位置に設けられている、
埋込磁石型回転電動機。
【請求項5】
請求項1に記載の埋込磁石型回転電動機であって、
前記傾斜壁面部は、前記永久磁石の両端それぞれの前記磁極を結ぶ磁極間軸線との角度α[deg]が、180度を前記永久磁石の数Nmで割った角度θa[deg]以上、かつ、360度を前記永久磁石の数Nmで割った角度2θa[deg]以下である、
埋込磁石型回転電機。
【請求項6】
請求項1に記載の埋込磁石型回転電動機であって、
前記傾斜壁面部は、平面で形成された平面部を有する、
埋込磁石型回転電動機。
【請求項7】
請求項1に記載の埋込磁石型回転電動機であって、
前記肉抜き穴は、角部が曲面で形成されている、
埋込磁石型回転電動機。
【請求項8】
請求項1に記載の埋込磁石型回転電動機を搭載する、電動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋込磁石型回転電機およびそれを用いた電動装置に関し、特に、ステータコイルを有するステータと、内部に複数の永久磁石が埋め込まれたロータコアを有するとともに、ステータの内側で回転軸中心に回転可能に保持されているロータと、を備える埋込磁石型回転電動機および当該埋込磁石型回転電機を搭載する電動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコイルを有するステータと、内部に複数の永久磁石が埋め込まれたロータコアを有するとともに、ステータの内側で回転軸中心に回転可能に保持されているロータと、を備える埋込磁石型回転電機(IPMモータ)を改善するための様々な技術がある。例えば、特許文献1には、ロータのロータコアに埋め込まれた永久磁石の周方向の端部における外周側の部位に、ロータコアの材質よりも高い透磁率を有する薄板状の高透磁率部材を略径方向に複数枚積層して設ける技術が記載されている。特許文献1には、上記した構成により、永久磁石の端部で渦電流が発生するのを抑えて、構造的な信頼性が損なわれるのを回避できると記載されている。また、特許文献1には、ロータコアの軽量化を図るために、ロータコアに肉抜き凹部を形成することが記載されている。肉抜き凹部により、ロータコアの軽量化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-235608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1には、トルク変化の応答性を高める方法に関しては記載されていない。埋込磁石型回転電機のトルク変化の応答性が高ければ、埋込磁石型回転電機の回転力をより細かく制御できる。従って、特許文献1に記載されている技術を用いても、埋込磁石型回転電機のトルク変化の応答性を高めることは容易ではないという課題がある。
【0005】
本発明は、トルクの低下を抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる埋込磁石型回転電機および当該埋込磁石型回転電機を搭載する電動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための、本発明の埋込磁石型回転電動機の一態様は、ステータコイルを有するステータと、内部に複数の永久磁石が埋め込まれたロータコアを有するとともに、前記ステータの内側で回転軸を中心に回転可能に保持されているロータと、を備える埋込磁石型回転電動機であって、前記複数の永久磁石は、前記ロータコアの外周部に、周方向に互いに間隔をあけて保持されているとともに、前記周方向の両端部に磁極を有し、前記ロータコアは、前記複数の永久磁石の前記回転軸側に、前記周方向に互いに間隔をあけて配置されている複数の肉抜き穴を有し、前記複数の肉抜き穴それぞれは、前記回転軸側で前記周方向に伸びる底壁面部と、外周側の外周壁面部と、前記底壁面部および前記外周壁面部との間をつなぐ側壁面部と、を有し、前記外周壁面部は、前記複数の永久磁石うちの1つの永久磁石の中央部から磁極側へ向かうにつれて前記回転軸に近づく傾斜壁面部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、埋込磁石型回転電機において、トルクの低下を抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる。
【0008】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の電動装置の1例の模式的な側面図である。
図2図2は、埋込磁石型回転電機の模式的な横断面図である。
図3図3は、埋込磁石型回転電機のロータ100の模式的な横断面図である。
図4図4は、埋込磁石型回転電機のロータ100の模式的な横断面図である。
図5】角度α[deg]に対するロータの慣性モーメントの大きさの相対値を示すグラフの一例である。
図6図6は、角度α[deg]に対するトルクの大きさの相対値を示すグラフの一例である。
図7図7は、埋込磁石型回転電機のロータ100の模式的な横断面図である。
図8図8は、埋込磁石型回転電機のロータ100の模式的な横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、図2図4図7図8では、図を見易くするために、断面表示用のハッチングを省略する。また、実施形態の図及び説明において同一部分には同一符号を付与しているが、本発明が実施形態に制限されることは無く、本発明の思想に合致するあらゆる応用例が本発明の技術的範囲に含まれる。また、図面等において示す各要素の位置、大きさ、形状、範囲、個数などは、発明の理解を容易にするため、一例を表したものであり、各要素の位置、大きさ、形状、範囲、個数は本明細書および図面に開示された内容に限定されるものではない。
<<全体的な構成>>
<電動装置500の構成>
図1は、本実施形態の電動装置500の1例の模式的な側面図である。図1に示す電動装置500は、埋込磁石型回転電機1を搭載する電動装置の1つの例として、本体部510と、関節部520と、アーム部530と、給電部540とを備えているロボットアームである。本体部510とアーム部530との間の関節部520で電動装置500は折れ曲がることができる。そして、関節部520の内部には、関節部520でのアーム部530の折れ曲がりを制御する埋込磁石型回転電機1が設けられている。給電部540は、埋込磁石型回転電機1に電気を供給する。
【0011】
図1に示す電動装置500は、埋込磁石型回転電機1を搭載する電動の装置の一例である。電動装置500は、埋込磁石型回転電機1を駆動源として用いる装置でありさえすればよい。電動装置500は、例えば、ハイブリッド車や電気自動車や鉄道車両などの車両、産業用ロボット、ベンディングマシン、サーボプレスでもよい。
【0012】
<埋込磁石型回転電機1の構成>
図2は、埋込磁石型回転電機1の模式的な横断面図である。埋込磁石型回転電機1は、図2に示すように、ロータ100と、シャフト200と、ステータ300とを備えている。なお、図2に示されているロータ100は、ロータ100の1つの例として、後述するロータ100aを図2に示した。以下では、実施形態の例として、ロータ100a~ロータ100dについて説明する。「ロータ100」は、ロータ100a~ロータ100dの総称である。
【0013】
ロータ100は、ステータ300の内側で、シャフト200に保持されている。シャフト200は、回転可能に埋込磁石型回転電機1に保持されている。従って、ロータ100は、ステータ300の内側で、シャフト200の回転軸中心に回転可能に保持されている。詳細は後述するが、ロータ100は、内部に10個の永久磁石130が埋め込まれたロータコア110を有する。なお、永久磁石130の数は2以上であればよく、10以外の数でもよい。また、ロータコア110は、貫通穴である肉抜き穴120が設けられている。
【0014】
ステータ300は、円筒状のヨーク311と、ヨーク311から内側に突出し、ステータコイル320が巻かれたティース312と、を有している。ティース312およびステータコイル320それぞれは、永久磁石130の数と同じ数の10個設けられている。
【0015】
ステータ300のステータコイル320の磁力と、ロータ100の永久磁石140の磁力により、ロータ100は、ステータ300に対して回転できる。なお、ティース312およびステータコイル320の数は2以上であればよく、12以外の数でもよい。
【0016】
<<ロータ100の構成>>
以下に説明する、ロータ100a、ロータ100b、ロータ100c、ロータ100dは、ロータ100の例である。これらのロータ100a~100dの間では、肉抜き穴120の形状が異なっている。以下に説明するように、ロータ100a(図3参照)は、肉抜き穴120aを有する。ロータ100b(図4参照)は、肉抜き穴120aと配置が異なる肉抜き穴120bを有する。ロータ100c(図7参照)は、角部が局面で形成された肉抜き穴120cを有する。ロータ100d(図参照)は、肉抜き穴120aを2つに分割した肉抜き穴120d1、120d2を有する。
【0017】
<ロータ100aの構成>
図3は、埋込磁石型回転電機1のロータ100aの模式的な横断面図である。図3に示すように、ロータ100aは、ロータコア110を有する。
【0018】
ロータコア110は、プレスで打ち抜いた薄い(例えば0.25~0.35mm)電磁鋼板の表面を薄い絶縁体でコートした薄板状電磁鋼板を、軸方向に積層したものである。ロータコア110は、円筒状に形成されている。ロータコア110は、中央部でシャフト200に保持されている。上述したが、シャフト200は、回転可能に埋込磁石型回転電機1に保持されている。このため、ロータ100aは、ステータ300の内側で、シャフト200の回転軸を中心に回転可能に保持されている。
【0019】
ロータコア110aは、永久磁石130を保持する磁石収納穴111と、ロータコア110の上記の薄板状電磁鋼板を貫通する穴である肉抜き穴120aと、周方向に隣り合う肉抜き穴120の間にブリッジ部112を有している。
【0020】
磁石収納穴111の数は、10である。10(複数)の磁石収納穴111は、ロータコア110の外周部に周方向に互いに間隔をあけて設けられている。その結果、10(複数)の永久磁石130は、ロータコア110の外周部に、周方向に互いに間隔をあけて保持されている。
【0021】
永久磁石130は、断面矩形状に形成されている。永久磁石130は、断面の矩形の長辺がロータコア110の径方向外側を向くように磁石収納穴111に保持されている。永久磁石130は、ロータコア110の周方向の両端部それぞれに磁極131a、131bを有している。永久磁石130の材質は、強磁性体である。永久磁石130は、例えば、フェライト系、ネオジム系、サマリウムコバルト系など強磁性体の材料で形成してもよい。
【0022】
肉抜き穴120aは、ロータコア110の上記の薄板状電磁鋼板を貫通する貫通穴である。10個の肉抜き穴120aは、永久磁石130の、ロータコア110の回転軸Ar側に、周方向に互いに間隔をあけて配置されている。肉抜き穴120aは、d軸上を避けた位置に設けられている。換言すれば、肉抜き穴120aは、隣り合う2つのd軸の間に設けられている。
【0023】
そして、肉抜き穴120aを2つに分ける線のうちで、ロータ100aの回転軸Arから径方向外側に伸びる中心線Acは、d軸と重なる位置にある。ここで、d軸とは、1つの永久磁石130の磁極131a、131bの中間の位置とロータ100の回転軸Arとを結ぶ線である。また、q軸とは、周方向に隣り合う2つ永久磁石130の隣り合う磁極131a、磁極131bの中間の位置とロータ100の回転軸Arとを結ぶ線である。
【0024】
10個の肉抜き穴120aそれぞれは、ロータコア110の回転軸Ar側で周方向に伸びる底壁面部121と、ロータコア110の外周側の外周壁面部122と、底壁面部121および外周壁面部122との間をつなぎ、ロータ100の径方向に伸びる2つの側壁面部123とを有している。
【0025】
外周壁面部122は、2つの傾斜壁面部122aを有する。2つの傾斜壁面部122aは、q軸上で連結している。また、2つの傾斜壁面部122aそれぞれは、平面で形成された平面部を有する。
【0026】
傾斜壁面部122aは、永久磁石130の両端それぞれの磁極131a、131bを結ぶ磁極間軸線Apとの角度α[deg]が、180度を永久磁石の数Nmで割った角度θa[deg]以上、かつ、360度を永久磁石の数Nmで割った角度2θa[deg]以下である(θa≦α≦2θa)。ロータ100aでは、永久磁石の数Nmは10であり、θa=18[deg]である(θa=18≦α≦2θa=36)。詳細は後述するが、角度αをこのようにする(θa≦α≦2θa)ことで、永久磁石130の磁極131a、131b周囲の磁力が肉抜き穴120aによって低減することの抑制と、ロータ100の慣性モーメントの低減とを両立できる。他のロータ100aの効果は後述する。
【0027】
<ロータ100bの構成(図4)>
図4は、埋込磁石型回転電機1のロータ100bの模式的な横断面図である。以下のロータ100b~100dの説明において、ロータ100aと同様の構成には同一符号を付し、その説明を省略する。図4に示すように、ロータ100bでは、図3に示すロータ100aの肉抜き穴120aと位置が異なる肉抜き穴120bを有する。図4に示すように、ロータ100bの肉抜き穴120bは、図3の肉抜き穴120aの位置をロータ100aの回転軸Acを中心に、180度を永久磁石の数Nmで割った角度θa[deg](θa=180/Nm[deg])回転させている。これにより、図4に示すロータ100bの肉抜き穴120bは、ロータ100aの回転軸Acから径方向外側に伸びる中心線Acが、d軸と重なる位置にある。なお、図3に示すロータ100aの肉抜き穴120aは、ロータ100aの回転軸Acから径方向外側に伸びる中心線Acが、q軸と重なる位置にある。
【0028】
<ロータ100a、100bにおける発明の効果、図5図6
埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120(120a、120b)によって、ロータコア110を軽量化できるとともにロータコア110の慣性モーメントを低減できる。従って、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120によって埋込磁石型回転電機1のトルク変化の応答性を高めることができる。
【0029】
さらに、肉抜き穴120は、外周壁面部122に、永久磁石130の中央部から磁極131aまたは磁極131b側に向かうにつれて回転軸Arに近づく傾斜壁面部122aを有する。その結果、永久磁石130の磁極131a、131bは、肉抜き穴120の永久磁石130側にある傾斜壁面部122aから離間しているため、永久磁石130の磁極131a、131bの磁力が、肉抜き穴120によって低減されることが抑制されている。そして、永久磁石130の磁力が、肉抜き穴120によって低減することを抑制したうえで、永久磁石130の磁力が、ロータコア110に伝わって、ステータ300のステータコイル320の磁力と作用することができる。従って、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120によるトルクの低下を抑制できる。
【0030】
以上より、埋込磁石型回転電機1は、トルクの低下を抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる。
【0031】
また、肉抜き穴120a、120bは、ロータ100a、100bの回転軸Arから径方向外側に伸びる中心線Acが、永久磁石130のd軸またはq軸と重なる位置にある。これにより、永久磁石130に対して、肉抜き穴120a、120bは対称性の高い位置に配置されている。その結果、ステータ300のステータコイル320の磁力が、肉抜き穴120により、永久磁石130の磁力に対して偏って作用することが抑制されるため、ロータ100a、100bは、より確実に安定して回転できる。
【0032】
肉抜き穴120a(図3参照)において、外周壁面部122は、永久磁石130の中央部から磁極131aまたは磁極131b側に向かうにつれて回転軸Arに近づく2つの傾斜壁面部122aが、q軸上で連結している。すなわち、外周壁面部122のうちでq軸上の部分は、永久磁石130の磁極131aおよび磁極131bから確実に離間している。これにより、永久磁石130の磁極131aおよび磁極131bは、肉抜き穴120aから確実に離間しており、永久磁石130の磁極131aおよび磁極9131bの磁力が、肉抜き穴120aによって低減されることが抑制されている。従って、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120aによるトルクの低下を、より確実に抑制できる。
【0033】
また、肉抜き穴120a、120bにおいて、永久磁石130の中央部から磁極131aまたは磁極131b側に向かうにつれてロータコア110の回転軸Arに近づく傾斜壁面部122aは、平面で形成された平面部を有する。その結果、外周壁面部122のq軸上の周辺にある部分は、永久磁石130の磁極131aおよび磁極131bからより確実に離間する。これにより、永久磁石130の磁極131aおよび磁極131bは、肉抜き穴120から確実に離間しており、永久磁石130の磁極131aおよび磁極131bの磁力が、肉抜き穴120によって低減されることがより確実に抑制されている。従って、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120によるトルクの低下を、より確実に抑制できる。
【0034】
次に、図5および図6を用いて、中心線Acがq軸と重なる位置にある肉抜き穴120a(図3参照)と、中心線Acがd軸と重なる位置にある肉抜き穴120b(図4参照)との比較を説明する。
【0035】
図5は、角度α[deg]に対するロータの慣性モーメントの大きさの相対値を示すグラフの一例である。図5のグラフにおいて、ロータの慣性モーメントの大きさの相対値とは、肉抜き穴120を設けないロータ100の慣性モーメントの大きさに対する、肉抜き穴120を設けたロータ100の慣性モーメントの大きさを表す。換言すれば、ロータの慣性モーメントの大きさの相対値とは、肉抜き穴120を設けないロータ100の慣性モーメントの大きさを1とした場合の、肉抜き穴120を設けたロータ100の慣性モーメントの大きさを表す。
【0036】
図5のグラフに示すように、肉抜き穴120aおよび肉抜き穴120bは、角度α[deg]が小さくなるほど、ロータ100の慣性モーメントの大きさの相対値は小さくなる。ここで、肉抜き穴120aと肉抜き穴120bとの差は、小さい。
【0037】
図6は、角度α[deg]に対するトルクの大きさの相対値を示すグラフの一例である。図6のグラフにおいて、トルクの大きさの相対値とは、肉抜き穴120を設けないロータ100のトルクの大きさに対する、肉抜き穴120を設けたロータ100のトルクの大きさを表す。換言すれば、トルクの大きさの相対値とは、肉抜き穴120を設けないロータ100のトルクの大きさを1とした場合の、肉抜き穴120を設けたロータ100のトルクの大きさを表す。
【0038】
慣性モーメントは、半径の2乗に比例する。従って、ロータ100の慣性モーメントは、角度α[deg]が小さいほど、小さくなる。しかし、角度αが小さくなるほど、永久磁石130の磁極131a、131bの周囲にロータコア110が存在しなくなるため、永久磁石130の磁極131a、131b周囲の磁力が肉抜き穴120によって低減する。その結果、角度α[deg]が小さいほど、ロータ100のトルクの大きさの相対値は小さくなる。
【0039】
図6のグラフが示すように、ロータ100のトルクの大きさの相対値は、角度α[deg]が2θa[deg]からθa[deg](θa=180/(永久磁石130の数Nm)の間では、低下は少ない。一方、角度α[deg]がθa[deg]から0の間では、ロータ100のトルクの大きさの相対値の低下は、角度α[deg]が0に近づくにつれて大きくなる。以上より、角度α[deg]を2θaからθa[deg]の間(θa≦α≦2θa)に設定することで、トルクの低下を抑制できることが示唆される。そこで、以上に基づいて、実施形態の肉抜き穴120a~肉抜き穴120dでは、角度α[deg]を、2θaからθa[deg]の間(θa≦α≦2θa)に設定している。
【0040】
このように、傾斜壁面部122aは、永久磁石130の両端それぞれの磁極131a、131bを結ぶ磁極間軸線Apとの角度α[deg]は、180度を永久磁石の数Nmで割った角度θa[deg]以上、かつ、360度を永久磁石の数Nmで割った角度2θa[deg]以下である(θa≦α≦2θa)。これにより、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120によるトルクの低下をより確実に抑制できる。その結果、埋込磁石型回転電機1は、トルクの低下をより確実に抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる。
【0041】
また、図6のグラフが示すように、角度α[deg]が、θa[deg]から0の間にある場合、ロータ100のトルクの大きさの相対値は、中心線がq軸にある肉抜き穴120aの方が、中心線がd軸にある肉抜き穴120bよりも大きい。
【0042】
これは、中心線がq軸にある肉抜き穴120aでは、d軸上には、肉抜き穴120が存在せずブリッジ部112が存在する。周方向に隣り合う肉抜き穴120の間に形成されるブリッジ部112を、磁束が流れることで、磁力が、ロータ100を回転させるためにより効果的に作用することができる。その結果、埋込磁石型回転電機1は、トルクの低下をより確実に抑制できる。
【0043】
また、電動装置500は、埋込磁石型回転電機1を搭載している。そして、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120によって軽量化されており、トルクの低下を抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる。従って、電動装置500は、埋込磁石型回転電機1の軽量化によってより低いエネルギーで駆動でき、かつ埋込磁石型回転電機1のトルク変化の応答性の高さによってより効率的に駆動できる。そして、電動装置500は、効率的に駆動することで、作動に必要となるエネルギーや作動で生成される二酸化炭素の排出量を減らして、地球温暖化を抑制できる。
【0044】
<ロータ100cの構成>
図7は、埋込磁石型回転電機1のロータ100cの模式的な横断面図である。図7に示すように、ロータ100cは、図3に示すロータ100aの肉抜き穴120aの角部を曲面120rに変更した肉抜き穴120cを有する。
【0045】
ここで、肉抜き穴120cにおいて、永久磁石130を保持する磁石収納穴111と最も近接するのは、傾斜壁面部122の角部である。外周壁面部122の角部と磁石収納穴111とが、接近するほど、この接近する部分での磁石収納穴111の強度が弱まる。
【0046】
一方、埋込磁石型回転電機1は、この外周壁面部122の角部が曲面120rで形成されていることで角部の先端部分が奥に引っ込むため、磁石収納穴111と、外周壁面部122の角部との間が離間する。このように、肉抜き穴120cが、磁石収納穴111から離れることで、磁石収納穴111の強度を確保できる。
【0047】
さらに、肉抜き穴120cは、角部が曲面120rで形成されていることにより、肉抜き穴120cの角部の一部に応力が集中して、肉抜き穴120cが損傷することを抑制できる。以上のように、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120cの角部が曲面120rで形成されていることにより、磁石収納穴111および肉抜き穴120cの強度を確保できる。
【0048】
<ロータ100dの構成>
図8は、埋込磁石型回転電機1のロータ100dの模式的な横断面図である。図8に示すように、ロータ100dは、図3に示すロータ100aの肉抜き穴120aをq軸で分割した、肉抜き穴120d1、肉抜き穴120d2を有する。
【0049】
埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120d1、120d2によって、ロータコア110を軽量化できるとともにロータコア110の慣性モーメントを低減できる。従って、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120d1、120d2によって埋込磁石型回転電機1のトルク変化の応答性を高めることができる。
【0050】
さらに、肉抜き穴120d1、120d2は、外周壁面部122に、永久磁石130の中央部から磁極131aまたは磁極131b側に向かうにつれて回転軸Arに近づく傾斜壁面部122aを有する。その結果、永久磁石130の磁極131a、131bは、肉抜き穴120d1、120d2の永久磁石130側にある傾斜壁面部122aから離間しているため、永久磁石130の磁極131a、131bの磁力が、肉抜き穴120d1、120d2によって低減されることが抑制されている。そして、永久磁石130の磁力が、肉抜き穴120d1、120d2によって低減することを抑制したうえで、永久磁石130の磁力が、ロータコア110に伝わって、ステータ300のステータコイル320の磁力と作用することができる。従って、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120d1、120d2によるトルクの低下を抑制できる。
【0051】
以上より、埋込磁石型回転電機1は、トルクの低下を抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる。
【0052】
また、d軸上には、肉抜き穴120d1、120d2が存在しないため、周方向に隣り合う肉抜き穴120d1、120d2の間に形成されるブリッジ部112を、磁束が流れることで、磁力が、ロータ100を回転させるためにより効果的に作用することができる。その結果、埋込磁石型回転電機1は、トルクの低下をより確実に抑制できる。
【0053】
また、傾斜壁面部122aは、永久磁石130の両端それぞれの磁極131a、131bを結ぶ磁極間軸線Apとの角度α[deg]は、180度を永久磁石の数Nmで割った角度θa[deg]以上、かつ、360度を永久磁石の数Nmで割った角度2θa[deg]以下である(θa≦α≦2θa)。これにより、埋込磁石型回転電機1は、肉抜き穴120によるトルクの低下をより確実に抑制できる。その結果、埋込磁石型回転電機1は、トルクの低下をより確実に抑制しつつ、トルク変化の応答性を高めることができる。
【0054】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:埋込磁石型回転電機
100、100a~100d:ロータ
110:ロータコア
111:磁石収納穴
112:ブリッジ部
120、120a~120d:肉抜き穴
121:底壁面部
122:外周壁面部
122a:傾斜壁面部
122a1:平面部
123:側壁面部
124:曲面
130:永久磁石
131a、131b:磁極
200:シャフト
300:ステータ
310:ステータコア
311:ヨーク
312:ティース
320:ステータコイル
500:電動装置
510:本体部
520:関節部
530:アーム部
540:給電部
Ar:回転軸
Ac:中心線
Ap:磁極間軸線
d:d軸
q:q軸
Nm:永久磁石の数
θa:角度
α:角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8