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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021964
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】釣竿
(51)【国際特許分類】
   A01K 87/08 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A01K87/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125196
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】宮前 和貴
(72)【発明者】
【氏名】藤原 誠太
【テーマコード(参考)】
2B019
【Fターム(参考)】
2B019AA06
2B019AA07
2B019AC00
(57)【要約】
【課題】釣竿において、バリエーションによる元竿と元上竿との保持力のばらつきを防止して、簡単に前記保持力を一定にすること。
【解決手段】釣竿10のバリエーションにおいて、元上節16の後端部31の外径D1が一定値に仕上げられる。元竿17の後端部32に保持体33が設けられている。この保持体33は、保持器62に係止されている。保持体33は、弾性変形が可能であり、前記後端部31が保持体33に挿入され保持される。前記後端部31に含まれる強化繊維39は、釣竿10の軸方向28に直交する方向に延びている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空内部に弾性変形可能な保持体を有する元竿と
竿軸方向に少なくとも部分的に外径が変化する本体部、及び、前記保持体に係合するように前記本体部に接続される係合部、を有する元上竿と、を備え、
前記係合部の外周面は、前記竿軸方向に一定の第一直径を有する、釣竿。
【請求項2】
前記係合部は、前記竿軸方向と非平行な第一方向に延びる繊維を含む第一繊維強化樹脂を有する、請求項1に記載の釣竿。
【請求項3】
前記第一方向は、前記竿軸方向と直交する、請求項2に記載の釣竿。
【請求項4】
前記本体部は、第一方向と非平行な第二方向に延びる繊維を含む第二繊維強化樹脂を有する、請求項2又は3に記載の釣竿。
【請求項5】
前記第一直径は、前記本体部の最大外径以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の釣竿。
【請求項6】
前記係合部は、前記本体部の前記竿軸方向の後端部に、段差部を介して接続される、請求項1から3のいずれか一項に記載の釣竿。
【請求項7】
前記係合部は、前記本体部の前記竿軸方向の最大外径部に、段差部を介して接続される、請求項5に記載の釣竿。
【請求項8】
前記本体部は、少なくとも部分的に第一内周面を有し、
前記係合部は、少なくとも部分的に第二内周面を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の釣竿。
【請求項9】
前記係合部の径方向の厚みは、前記本体部の径方向の厚みとは異なる、請求項8に記載の釣竿。
【請求項10】
前記第二内周面は、前記第一内周面と連続するように形成される、請求項8に記載の釣竿。
【請求項11】
前記保持体は、
環状の筒状体と、前記筒状体の内面に突出し前記係合部に係合する複数の凸部と、を有し、
前記複数の凸部は、第二直径の内接円を定義する、請求項1から3のいずれか一項に記載の釣竿。
【請求項12】
前記第一直径は、前記第二直径より0.8mm~0.9mm大きい、請求項11に記載の釣竿。
【請求項13】
前記元竿は、中空内周面に前記保持体を係止する係止部を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の釣竿。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、定格長さを変更する機構を搭載する釣竿に関する。前記定格長さを変更する機構とは、元上竿を元竿に対して引き出した伸長状態と前記元上竿を前記元竿に収納した収納状態とに切換可能であり、且ついずれの状態においても前記元竿に対して前記元上竿を保持する機構である。
【背景技術】
【0002】
たとえば振出式の釣竿は、複数の筒状部材(一般に「ブランク」と称される。)から構成されている。各ブランクは、外径の小さいものから順に第1番竿、第2番竿と呼ばれる。各ブランクの外形はテーパ状に形成される。第1番竿は、第2番竿の内部に、第2番竿は第3番竿の内部に入れ子状に収容され、このようにして各ブランクが隣り合う他のブランクに収容される。ここで、外径が最も大きいブランクを「元竿」といい、元竿の内部に収容されるブランクを「元上竿」という。
【0003】
釣竿の種類によっては、その定格長さ(たとえば磯竿では5.3m)を変えることができる機構を有するものがある(たとえば、特許文献1及び特許文献2参照)。この機構は、元竿に対して元上竿が収容された状態を所定の保持力で保持すると共に、この保持力に抗して元上竿が元竿から引き出されたときに、元上竿が元節から伸長した状態とすることができる。ユーザは、前記機構によって元竿の長さ分だけ釣竿全体の定格長さを伸縮させることができる。
【0004】
図12は、定格長さを変更する機構を備える釣竿の後端部分の拡大断面図である。同図が示すように、この機構は、元竿に元上竿を保持する保持構造を備えている。
【0005】
元竿1の後端部に保持器2が設けられており、元上竿3が元竿1に収容された状態で、元上竿3の後端部が保持器2に嵌まり込む。保持器2は、弾性材料からなる保持リング4を有し、元上竿3の後端部は、保持リング4内に圧入される。弾性変形した保持リング4の緊迫力によって元上竿3が元竿1に所定の保持力で保持される。なお、ユーザが元竿1を後方へ引っ張ることにより、相対的に元上竿3を元竿1から引き出して前記伸長状態にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-52278号公報
【特許文献2】特開2008-17793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記定格長さを変更する機構は、典型的には磯竿に搭載されるが、磯竿のスペックは、ターゲットとなる魚の種類やサイズにより多岐にわたり、ある魚種用の磯竿にも様々なバリエーションがある。すなわち、前記元上竿3の後端部の外径は、前記スペックごとに異なり、そのため、前記元上竿3と前記保持リング4とのはめあい状態が製品ごとに異なり、前記元竿1に対する元上竿3の保持力が安定しないおそれがある。
【0008】
しかし、各バリエーションの製品について、前記保持力が安定的に発揮されることは重要な要請事項である。この要請に応えるため、前記元上竿3の後端部の外径のバリエーションに対応させて、磯竿の部品としての保持リング4についても、その内径が異なる複数のバリエーションが用意されなければならず、さらに、製品の全数について元上竿3の後端部の外径の調整(研磨作業)を行わなければならなかった。その結果、釣竿の組み立てにおいて煩雑な作業が必要であった。
【0009】
本発明はかかる背景のもとになされたものであって、その目的は、定格長さを変更する機構を搭載する釣竿において、バリエーションによる元竿と元上竿との保持力のばらつきを防止して、製品ごとの調整を要することなく、簡単に前記保持力を一定にすることができる構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1) 前記課題を解決するために、本件発明の第1側面の釣竿は、中空内部に弾性変形可能な保持体を有する元竿と、元上竿とを備える。この元上竿は、竿軸方向に少なくとも部分的に外径が変化する本体部、及び、前記保持体に係合するように前記本体部に接続される係合部、を有する。この係合部の外周面は、前記竿軸方向に一定の第一直径を有する。
【0011】
この構成によれば、元竿に対して元上竿が振出式に組み付けられる。すなわち、元竿に対して元上竿が竿軸方向にスライドすることができ、元上竿が元竿から伸長すると元上竿の本体部が元竿と填まり合い、伸長状態となる。
【0012】
元上竿の本体部に係合部が接続されており、他方、元竿は保持体を有する。元上竿が元竿に収容された状態で、前記係合部が前記保持体と係合する。両者が係合した状態で前記保持体は弾性変形し、この保持体の弾性力によって前記係合部が保持される。このとき、前記保持体は、元竿の仕様にかかわらず共通の部品である。また、前記係合部の外周面の外径は、竿軸方向に沿って一定(第一直径)である。すなわち、この第一直径は、元上竿の仕様により異なるものではなく一定である。したがって、元竿及び元上竿のそれぞれの仕様にかかわらず、元上竿が元竿に収容された状態では、この状態を保持する弾性力は、前記保持体及び係合部の形状のみにより決定され、何ら調整作業を要すること無く安定して一定となる。
【0013】
(2) 本件発明の第1側面に従う第2側面の釣竿においては、前記係合部は、前記竿軸方向と非平行な第一方向に延びる繊維を含む第一繊維強化樹脂を有する。
【0014】
この構成では、第一繊維強化樹脂に含まれる繊維により、前記係合部の表面にいわゆる逆目層が形成される。これにより、前記係合部及び前記保持体が係合あるいは係合解除される際に、前記保持体の損傷が抑えられる。
【0015】
(3) 本件発明の第2側面に従う第3側面の釣竿においては、前記第一方向は、前記竿軸方向と直交する。
【0016】
この構成では、前記保持体の損傷が特に効果的に防止される。
【0017】
(4) 本件発明の第2側面又は第3側面に従う第4側面の釣竿においては、前記本体部は、第一方向と非平行な第二方向に延びる繊維を含む第二繊維強化樹脂を有する。
【0018】
この構成では、第二繊維強化樹脂に含まれる繊維が前記第一方向と交差する方向に沿って配置される。すなわち、前記係合部は、前記第一方向への引張強度に優れ、前記本体部は、前記第二方向への引張強度に優れる。
【0019】
(5) 本件発明の第1側面乃至第4側面に従う第5側面の釣竿においては、前記第一直径は、前記本体部の最大外径以下である。
【0020】
この構成では、前記本体部が縮径されることによって、前記係合部の外周面が形成される。したがって、元上竿の仕様にかかわらず前記第一直径を共通の値とすることができる。
【0021】
(6) 本件発明の第1側面乃至第5側面に従う第6側面の釣竿においては、前記係合部は、前記本体部の前記竿軸方向の後端部に、段差部を介して接続される。
【0022】
この構成では、前記本体部の後端部にたとえば研磨処理が施されることによって、前記段差部及び前記係合部が形成される。したがって、元上竿の仕様にかかわらず前記係合部が簡単に形成される。
【0023】
(7) 本件発明の第5側面に従う第7側面の釣竿においては、前記係合部は、前記本体部の前記竿軸方向の最大外径部に、段差部を介して接続される。
【0024】
(8) 本件発明の第1側面乃至第7側面に従う第8側面の釣竿においては、前記本体部は、少なくとも部分的に第一内周面を有し、前記係合部は、少なくとも部分的に第二内周面を有する。
【0025】
(9) 本件発明の第1側面乃至第8側面に従う第9側面の釣竿においては、前記係合部の径方向の厚みは、前記本体部の径方向の厚みとは異なる。
【0026】
(10)本件発明の第1側面乃至第9側面に従う第10側面の釣竿においては、前記第二内周面は、前記第一内周面と連続するように形成される。
【0027】
(11)本件発明の第1側面乃至第10側面に従う第11側面の釣竿においては、前記保持体は、環状の筒状体と、前記筒状体の内面に突出し前記係合部に係合する複数の凸部と、を有し、前記複数の凸部は、第二直径の内接円を定義する。
【0028】
この構成では、前記係合部が前記保持体と係合する際に、複数の凸部が前記係合体の外周面に当接するので、各凸部が弾性変形しやすく、前記係合部と前記保持体とが安定して係合する。しかも、両者を保持する弾性力も安定する。
【0029】
(12)本件発明の第1側面乃至第11側面に従う第12側面の釣竿においては、前記第一直径は、前記第二直径より0.8mm~0.9mm大きい。
【0030】
(13)本件発明の第1側面乃至第12側面に従う第13側面の釣竿においては、前記元竿は、中空内周面に前記保持体を係止する係止部を有する。
【0031】
この構成では、元竿の係止部に前記保持体が係止される。したがって、元竿とは別部材である前記保持体が、元竿の仕様にかかわらず容易に装着される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る釣竿10の外観図である。
図2図2は、釣竿10の要部拡大断面図である。
図3図3は、釣竿10を構成する元竿17及び元上竿16の要部拡大断面図である。
図4図4は、元上竿16の後端部31の形成方法(第1の形成方法)を模式的に示す図である。
図5図5は、元上竿16の後端部31の他の形成方法(第2の形成方法)を模式的に示す図である。
図6図6は、元竿17の後端部32の拡大断面図である。
図7図7は、元竿17の後端部32の分解図である。
図8図8は、元竿17の後端部32の分解斜視図である。
図9図9は、図7におけるIX-IX矢視図である。
図10図10は、図7におけるX-X矢視図である。
図11図11は、図7におけるXI-XI断面図である。
図12図12は、定格長さを変更する機構を備える釣竿の後端部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されながら説明される。なお、本実施の形態は、本発明に係る釣竿の一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。
【0034】
1.釣竿の概要
【0035】
図1は、本発明の一実施形態に係る釣竿10の外観図である。
【0036】
この釣竿10は、釣竿本体11及びリールシート12とを備えている。リールシート12は、既知の構造であり、後述のように釣用リールを保持する。釣人は、リールシート12を握り、釣竿10を操作する。
【0037】
釣竿本体11は、本実施形態では、5つのブランク13~17から構成されており、これらがいわゆる振出式に組み立てられている。各ブランク13~17は、中空の円筒状の部材であって、釣竿本体11の軸方向28(特許請求の範囲に記載された「竿軸方向」に相当)の竿先側(同図において左側)から順に、第1番竿13、第2番竿14と称される。第4番竿16は、特に「元上竿」と称され、第5番竿17は、特に「元竿」と称される。
【0038】
第1番竿13は第2番竿14に対して軸方向28にスライドし、第2番竿14は第3番竿15に対してスライドする。同様に、互いに隣り合うブランクが相対的にスライドする。本実施形態では、釣竿10は、その定格長さを変更する機構を備えている。すなわち、第4番節16(すなわち元上節16)が第5番節17(すなわち元節17)に対して伸縮し、釣竿10の定格長さが変わる。釣人は、この機構を介して、実釣において釣竿10の長さを変化させることができる。なお、本実施形態では、釣竿本体11が5つのブランク13~17からなるが、振出式に組み立てられていれば、ブランクの数は特に制限されない。
【0039】
各ブランク13~17は、既知の要領で構成される。たとえば、繊維により強化された樹脂シート(プリプレグ)が所定形状に裁断され、これがマンドレルの周囲に巻回される。この樹脂シートが所定温度にて所定時間だけ加熱された後、マンドレルが引き抜かれ、所要の仕上処理が施されることによって、円筒状のブランク13~17が焼成される。元竿17の後端部32は、竿尻側(同図において右側)に向かって漸次拡径されており、釣人にとって、元竿17の後端部を握り易くなっている。この釣竿10は、いわゆる外ガイド仕様であり、第1番竿13~第4番竿17に釣糸ガイド21~27が設けられている。釣糸ガイド21~27の構造は既知であるため、その説明は省略される。なお、釣竿10がインナーガイド仕様に設計されてもよいことは勿論であり、その場合は、前記釣糸ガイド21~27が省略される。
【0040】
前記リールシート12は、元竿17に装着されている。リールシート12は、筒状に形成されており、元竿17の所定の位置に嵌め合わされ、たとえば接着剤を介して固定される。リールシート12は、固定フード18及び可動フード19を有し、これらの間にシート面20が形成されている。可動フード19は、軸方向28にスライドすることができる。釣用リールの脚がシート面20に載置され、固定フード18及び可動フード19によって挟み込まれて固定される。
【0041】
2.釣竿の特徴点
【0042】
図2は、釣竿10の要部拡大断面図である。同図は、元竿17に対して元上竿16がスライドする様子を示している。(a)は、元上竿16の後端部31が元竿17の後端部32の内側に嵌め込まれた状態を示し、(b)は、前記後端部31が前記後端部32の内側から抜け出た状態を示している。
【0043】
図3は、元竿17及び元上竿16の要部拡大断面図である。同図は、元上竿16の後端部31の構造及びこの後端部31が元竿17の後端部32の内側に嵌め込まれた状態を詳細に示している。
【0044】
本実施形態に係る釣竿10の特徴とするところは、(1) 元竿17の内部に弾性変形が可能な保持体33が設けられており、この保持体33は、釣竿10の仕様にかかわらず共通部品として構成されている点、(2) 元上竿16は、本体部34及び前記後端部31(特許請求の範囲に記載された「係合部」に相当)とを有し、この後端部31の外径D1(特許請求の範囲に記載された「第一直径」に相当)は、釣竿10の仕様にかかわらず一定、すなわち、前記後端部31は、真直な円筒状に形成されている点である。前記定格長さを変更する機構が操作されるとき、前記後端部31が後述のように前記保持体33と係合あるいは係合解除されるが、前記保持体33が共通部品であり且つ前記後端部31の外径D1が一定であることから、釣竿10の仕様にかかわらず、本竿17に元上竿16が収納された状態を保つ力、すなわち、前記保持体33及び前記後端部33の係合力が一定となる。
【0045】
3.元上竿
【0046】
図2及び図3が示すように、元上竿16は、本体部34と、この本体部34の後端に接続された後端部31を有する。本実施形態では、前記プリプレグがマンドレルに巻回され、熱処理されることによって、本体部34及び後端部31が一体的に焼成される。図2(a)が示すように、元上竿16は円筒状に成形されているが、その中間部位に膨出部35(特許請求の範囲に記載された「部分的に外径が変化」する部位に相当)が形成されている。この膨出部35は、元上竿16の製造工程において、たとえば別のプリプレグが所要の形状に裁断され、前記中間部位に配置されることによって形成される。この膨出部35は、同図が示すように紡錘形をなし、これにより、元上竿16は、部分的に外径が変化している。なお、前記膨出部35は、少なくとも前記中間部位に配置されていればよく、この中間部位を含んで軸方向27の先端側に亘って形成されていてもよい。この膨出部35が設けられることにより、元上竿16が元竿17に収容された状態(図2(a))となったときに、前記膨出部35が元竿17の先端部と嵌め合わされ、元上竿16が元竿17に収納された状態が安定する。
【0047】
前記後端部31は、前記本体部34の後端に接続されている。本実施形態では、この後端部31は、前記本体部34に連続して一体的に形成されている。すなわち、前記本体部34及び後端部31は円筒形状であり、この後端部31は、本体部34の後端から軸方向28に沿って竿尻側へ延びている。この後端部31の外径D1は、軸方向28に沿って一定である。
【0048】
図4は、前記後端部31の形成方法(第1の形成方法)を模式的に示す図である。
【0049】
図4において、参照符合36は、元上竿16の中心軸線であり、この中心軸線36の方向が前記軸方向と一致する。前述のように、元上竿16は、マンドレルにプリプレグが巻回された状態で焼成される。同図においてマンドレルは図示されていないが、このマンドレルの中心軸が前記中心軸線36と一致する。元上竿16は、第1プリプレグ37及び第2プリプレグ38からなる。具体的には、マンドレルに第1プリプレグ37が巻回され、第1層51が形成される。この第1層51の竿尻側に重ね合わせるように第2プリプレグ38が巻回され、第2層52が形成される。さらに、前記第1層51の外側に前記第2層52と軸方向28に対向するように第1プリプレグ37が巻回され、第3層53が形成される。この第3層53の厚みは、前記第2層52の厚みと同様である。
【0050】
このとき、第2プリプレグ38に含まれる強化繊維39は、軸方向28に直交する方向(特許請求の範囲に記載された「第一方向」に相当)に延びており、第1プリプレグ37に含まれる強化繊維40は、軸方向28に沿う方向(特許請求の範囲に記載された「第二方向」に相当)に延びている。もっとも、強化繊維39は、前記方向のほか軸方向28と非平行な方向に延びていればよく、強化繊維40は、強化繊維39が延びる方向に対して非平行な方向に延びていればよい。
【0051】
このようにしてマンドレルに巻回された第1プリプレグ37及び第2プリプレグ38に所要の熱処理が施されると、第1プリプレグ37及び第2プリプレグ38が硬化して一体となり、元上竿16が成形される。この元上竿16の外径はD3であり、強化繊維39、40によって強化された樹脂からなる。マンドレルが引き抜かれた後に元上竿16の後端41が切断されることにより、元上竿16の所定の長さが決定される。本実施形態では、軸方向28に延びる強化繊維40を含む樹脂により前記本体部34が構成され、軸方向28と直交する方向に延びる強化繊維39を含む樹脂により前記後端部31が構成される。
【0052】
前記マンドレルが引き抜かれることにより、前記本体部34及び前記後端部31の内周面46、47が形成される。本実施形態では、前記本体部34の内周面46(特許請求の範囲に記載された「第一内周面」に相当)は、前記後端部31の内周面47(特許請求の範囲に記載された「第二内周面」に相当)と連続しており、これらの内径はD2である。なお、これら内周面46、47が連続せずに、前記本体部35の内径が前記後端部31の内径と異なっていてもよい。
【0053】
前記後端41から軸方向28に寸法42に対応する領域43(同図において二点鎖線で示される領域)が研削される。これにより、前記後端部31と前記本体部34との間に段差部44が形成される。すなわち、前記本体部34の後端に前記段差部44を介して前記後端部31が接続される。このとき、前記後端部31の外周面45が研磨され、前記外径D1が仕上げられる。前記領域43が研削されることにより、前記後端部31の肉厚(D1-D2)/2は、前記本体部34の肉厚(D3-D2)/2よりも薄くなる。
【0054】
元上竿16及び元竿17は振出式に組み立てられるので、元上竿16の外径D3は、軸方向28の竿先側から竿尻側に向かって漸次大きくなる。したがって、本実施形態では、前記後端部31は、前記本体部34の最大外径となる部位(特許請求の範囲に記載された「最大外径部」に相当)に一体的に接続されている。そして、前記後端部31の外径D1は、前記本体部34の最大外径以下となる。
【0055】
図5は、前記後端部31の他の形成方法(第2の形成方法)を模式的に示す図である。
【0056】
同図が示す第2の形成方法が前記第1の形成方法と異なるところは、第1の形成方法では、第1プリプレグ37により前記第1層51が形成され、第2プリプレグ38及び第1プリプレグ37により前記第2層52及び第3層53が形成されるのに対し(図4参照)、第2の形成方法では、第1プリプレグ37により基底層54が形成され、この基底層54の外側に外層55が形成される点、及び、この外層55の所定の領域56が研削されることにより、前記後端部31が形成される点である。
【0057】
前述のように、元上竿16は、第1プリプレグ37及び第2プリプレグ38からなる。具体的には、マンドレルに第1プリプレグ37が巻回され、基底層54が形成される。この基底層54の竿尻側に重ね合わせるように第2プリプレグ38が巻回され、外層55が形成される。第1の形成方法と同様に、第2プリプレグ38に含まれる強化繊維39は、軸方向28に直交する方向(特許請求の範囲に記載された「第一方向」に相当)に延びており、第1プリプレグ37に含まれる強化繊維40は、軸方向28に沿う方向(特許請求の範囲に記載された「第二方向」に相当)に延びている。なお、強化繊維39は、前記方向のほか軸方向28と非平行な方向に延びていればよく、強化繊維40は、強化繊維39が延びる方向に対して非平行な方向に延びていればよい。
【0058】
この第1プリプレグ37及び第2プリプレグ38に所要の熱処理が施されると、第1プリプレグ37及び第2プリプレグ38が硬化して元上竿16が成形される。マンドレルが引き抜かれた後に元上竿16の後端41が切断される。この元上竿16の外径はD3であり、元上竿16は、強化繊維39、40によって強化された樹脂から構成される。第2形成方法においても、軸方向28に延びる強化繊維40を含む樹脂により前記本体部34が構成され、軸方向28と直交する方向に延びる強化繊維39を含む樹脂により前記後端部31が構成される。
【0059】
前記領域56(同図において二点鎖線で示される領域)は、前記後端41から軸方向28に寸法42に対応する領域であり、前記領域43と同様である。この領域56が研削されることにより、前記後端部31と前記本体部34との間に段差部44が形成される。すなわち、前記本体部34の後端に前記段差部44を介して前記後端部31が接続される。このとき、前記後端部31の外周面45が研磨され、前記外径D1が仕上げられる。第2形成方法では、前記領域56が研削されることにより、前記後端部31の肉厚(D1-D2)/2は、前記本体部34の肉厚(D3-D2)/2よりも厚くなる。
【0060】
元上竿16の外径D3は、一般に軸方向28の竿先側から竿尻側に向かって漸次大きくなる。ただし、この第2形成方法では、前記第2プリプレグ38は、図5が示すように第1プリプレグ37の外側に巻回されるので、この第2プリプレグ38が巻回された部位の外径D4が最も大きくなる。したがって、この第2形成方法においても、前記後端部31は、前記本体部34の最大外径となる部位(特許請求の範囲に記載された「最大外径部」に相当)に一体的に接続されている。そして、前記後端部31の外径D1は、前記本体部34の最大外径以下となる。
【0061】
なお、本実施形態では、前記後端部31は、前記本体部34と一体的に形成されているが、この後端部31が別部材として構成され、接着剤等により前記本体部34に固着されてもよい。
【0062】
4.元竿
【0063】
図6は、元竿17の後端部32の拡大断面図である。同図は、元節17の後端部32の構造を詳細に示している。図7及び図8は、元竿17の後端部32の分解図及び分解斜視図である。図9は、図7におけるIX-IX矢視図である。
【0064】
図6が示すように、元竿17の後端部32に前記保持体33が配置されている。この保持体33は、保持器62(特許請求の範囲に記載された「係止部」に相当)に保持されている。この保持器62が前記後端部32の内側に挿入されることにより、前記保持体33が元竿17の内部(特許請求の範囲に記載された「中空内部」に相当)に配置される。前記保持器に62に尻栓63が設けられており、尻栓63は、元竿17の後端を閉塞し且つ装飾する。
【0065】
図7及び図8が示すように、保持体33は、たとえばシリコーン樹脂からなり、弾性変形が可能である。保持体33を構成する材料は、シリコーン樹脂に限定されるものではなく、ウレタンゴムその他のポリウレタン、発泡エチレン酢酸ビニル共重合体等が採用され得る。
【0066】
保持体33は、リング状に形成され、軸方向28に所定の厚み64を有している。保持体33は、筒状体65と4つの凸部66(図8及び図9参照)とを備えている。筒状体65は、肉厚67の円筒形状であり、各凸部66が筒状体65と一体的に形成されている。各凸部66は、細長の直方体であり、筒状体65の内周面に内側に突出するように形成されている。各凸部66は、軸方向28に沿って延びており、筒状体65の周方向に沿って均等に配置されている。凸部66の竿先側の端部に傾斜面68が形成されており、各凸部66はいわゆる面取加工が施された状態となっている。なお、前記傾斜面68は形成されていなくてもよい。
【0067】
図9が示すように、本実施形態では、4つの凸部66が筒状体65に設けられている。ただし、凸部66の数は、2以上であれば特に限定されるものではない。本実施形態では、複数の凸部66が筒状体65の周方向に均等に配置されているが、特に均等に配置されていなくてもよい。
【0068】
前記凸部66の天面69は、筒状体65の内側に配置されている。図8が示すように、各天面69は、これらに接する仮想円70を定義する。すなわち、仮想円70は、前記天面69に内接する。この仮想円70の直径D5(特許請求の範囲に記載された「第二直径」に相当)は、前記元上竿16の後端部31の外径D1よりも小さい。本実施形態では、前記外径D1と直径D5との差は、0.85mmに設定されている。この差は、0.6mm~1.2mmの範囲で設定されるのが好ましく、0.8mm~0.9mmの範囲で設定されるのがより好ましい。
【0069】
図10及び図11は、図7におけるX-X矢視図及びXI-XI断面図である。
【0070】
図7及び図8が示すように、保持器62は、概ね円筒状に形成されており、樹脂(典型的には、ポリアミド、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体)、又は金属(典型的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼)からなる。この保持器62は、前リング71、後リング72及び連結板73を有し、これらは、一体的に形成されている。
【0071】
図8及び図10が示すように、前リング71の先端面74、すなわち、軸方向28の竿先側の端面は傾斜しており、いわゆる面取加工が施されたようになっている。前リング71の外径D6は、元竿17の後端部32の内径D7に対応している。後リング72の外径は、前記前リング71の外径D6と同様である。後リング72の後端に尻栓係合部75が形成されている。尻栓係合部75は、既知の構造であり、第1フランジ76、溝77、第2フランジ78及び挿入孔79を有する。
【0072】
図7及び図8が示すように、連結板73は、前リング71と後リング72との間に掛け渡すように配置されている。前リング71と後リング72との間の寸法83は、前記保持体33の厚み64に対応している。本実施形態では、4枚の連結板73が前リング71及び後リング72の周方向に均等に配置されている。これにより、隣り合う連結板73の間に隙間80が形成される(図11参照)。連結版73の肉厚は、後リング72の肉厚よりも薄く、そのため、両者間に径方向に段差81が形成される(図10参照)。この段差81は、前記保持体33の筒状体65の肉厚67(図9参照)に対応している。前記隙間80は、前記保持体33の凸部66の幅82に対応している。
【0073】
前記保持体33は、前記保持器62に嵌め合わされる。保持体33は、外径を拡大するように弾性的に変形され、図8が示すように、軸方向28に沿って前リング71側から保持器62に被せられる。保持体33の凸部66は、保持器62の前記隙間80に嵌まり込み、保持器62の内側に突出する。この保持体33の筒状体65の肉厚67が保持器62の前記段差81に対応しているから、保持器62に保持体33が嵌め合わされた状態で、前記前リング71、前記保持体33及び前記後リング72のそれぞれの外周面は連続する。
【0074】
このようにして保持体33が保持器62に保持される。図7及び図8が示すように、保持体33を保持した保持器62が元竿17の後端84から軸方向28の竿先側に向かって挿入される。図6が示すように、保持器62が元竿17に挿入されると、保持器62の第1フランジ76が元竿17に当接し、保持器62及び保持体33が元竿17に対して位置決めされる。
【0075】
なお、尻栓63は、既知の構造であり、栓本体85、内蓋86及び外リング87を備えている。栓本体85及び内蓋86に、いわゆる水抜孔88、89が設けられている。内蓋86は、元上竿16の座として機能する。図3が示すように、元上竿16が元竿17に収容された状態で、元上竿16の後端41が内蓋86に当接する。水抜孔89は、たとえばコインが係合する細長溝に形成されているのが好ましい。外リング87は、前記第2フランジ78に係合され、栓本体85を保護する。
【0076】
5.作用効果
【0077】
この釣竿10では、元竿17に対して元上竿16が前記定格長さを変更する機構を介して振出式に組み付けられている。元上竿16は、元竿17に対して相対的に軸方向28に沿ってスライドすることができ、元上竿16が元竿17から伸長すると元上竿16の本体部34が元竿17と填まり合い、伸長状態となる。つまり、釣竿10の定格長さが伸びる。
【0078】
図3が示すように、元上竿16が元竿17に収容された状態で、元上竿16の後端部31が元竿17内に配置された保持体33と係合する。両者が係合した状態で前記保持体33は弾性変形し、その弾性力によって前記後端部31が保持される。このとき、前記保持体33は、元竿17の仕様にかかわらず共通の部品である。また、前記後端部31の外周面45の外径は、元上竿16の仕様にかかわらず軸方向28に沿って一定(第一直径)である。したがって、元竿17及び元上竿16のそれぞれの仕様にかかわらず、元上竿16が元竿17に収容された状態を保持する力(前記保持体33及び前記後端部33の係合力)は、前記保持体33及び後端部31の形状のみにより決定される。その結果、適切な前記係合力は、従来の調整作業を要すること無く安定して発揮される。
【0079】
本実施形態では、元上竿16の後端部31の外周面45に強化繊維39が配置され、図4図5)が示すように、この強化繊維39は、前記軸方向28と直交している。すなわち、前記後端部31の外周面45に、いわゆる逆目層形成される。これにより、前記定格長さを変更する機構が操作される際に(すなわち、前記後端部31及び前記保持体33が係合あるいは係合解除される際に)、前記保持体33の損傷が抑えられるという利点がある。ただし、前述のように、強化繊維39の方向は、前記軸方向28に対して交差していればよい。
【0080】
他方、元上竿16の本体部34に強化繊維40が含まれ、この強化繊維40は、前記軸方向28に沿って配置されている。したがって、前記本体部34は、前記軸方向28への引張強度に優れる。なお、前述のように、前記強化繊維40の方向は、前記強化繊維39の方向に対して交差していればよい。
【0081】
本実施形態では、元上竿16の後端部31の外周面45は、前記本体部34が縮径されることによって形成される。したがって、元上竿16の仕様にバリエーションがある場合でも、すべての仕様において前記後端部31の外径D1を共通の値とすることは簡単である。具体的には、前記本体部34の後端部にたとえば研磨処理が施されることによって、この後端部に段差部44が形成され、前記後端部31が形成される。
【0082】
本実施形態では、前記後端部31は、前記本体部34の最大外径となる部位に段差部44を介して一体的に接続されている。この後端部31の外径D1は、前記本体部34の最大外径以下となる。前記本体部34の内周面46は、前記後端部31の内周面47と連続している。前記後端部31の肉厚(D1-D2)/2は、前記本体部34の肉厚(D3-D2)/2よりも薄くなっている。
【0083】
本実施形態では、図8及び図9が示すように、前記保持体33に設けられた凸部66の天面69は、これらに接する仮想円70の直径D5を定義している。これにより、元上竿16の後端部31が前記保持体33と係合する際に、各凸部66が前記後端部31の外周面45に当接するので、各凸部66が弾性変形しやすく、前記後端部31と前記保持体33とが安定して係合する。その結果、前記保持体33及び前記後端部33の係合力が安定する。加えて、各凸部66に前記傾斜面68(図8参照)が形成されている。これにより、元上竿16の後端部31が保持体33に挿入される際に、前記傾斜面68により案内される。
【0084】
本実施形態では、前記仮想円70の直径D5と前記後端部31の外径D1との差は、0.85mmに設定されている。前述のように、この差は、0.6mm~1.2mmの範囲で設定されるのが好ましく、0.8mm~0.9mmの範囲で設定されるのがより好ましい。これにより、前記保持体33に前記後端部31が係合するときに前記保持体33が弾性変形し、元上竿16が元竿17に対して必要且つ十分な大きさの係合力で保持される。
【0085】
本実施形態では、前記元竿17が前記保持器62を有し、前記保持体33は、この保持器62に係止される。この保持器62は、元竿17と別部材であるため、元竿17の仕様にかかわらず、前記保持体33が元竿17に容易に装着される。
【符号の説明】
【0086】
10・・・釣竿
11・・・釣竿本体
16・・・元上竿
17・・・元竿
28・・・軸方向
31・・・後端部
32・・・後端部
33・・・保持体
34・・・本体部
35・・・膨出部
36・・・中心軸線
37・・・第1プリプレグ
38・・・第2プリプレグ
39・・・強化繊維
40・・・強化繊維
41・・・後端
43・・・領域
44・・・段差部
45・・・外周面
46・・・内周面
47・・・内周面
51・・・第1層
52・・・第2層
53・・・第3層
54・・・基底層
55・・・外層
56・・・領域
62・・・保持器
64・・・厚み
65・・・筒状体
67・・・肉厚
68・・・傾斜面
69・・・天面
70・・・仮想円
71・・・前リング
72・・・後リング
73・・・連結板
80・・・隙間
81・・・段差
82・・・幅
83・・・寸法



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12