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  • 特開-鋼材及び鋼素形材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021969
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】鋼材及び鋼素形材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240208BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240208BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20240208BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20240208BHJP
   C21D 9/30 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
C22C38/00 301N
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D1/06 A
C21D9/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125202
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】祐谷 将人
(72)【発明者】
【氏名】大川 暁
(72)【発明者】
【氏名】渡里 宏二
(72)【発明者】
【氏名】多比良 裕章
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB00
4K042AA16
4K042AA25
4K042BA04
4K042BA05
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DE03
(57)【要約】
【課題】被削性に優れ、素材として用いられて窒化処理して窒化鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた塑性変形能を有する鋼材及び鋼素形材を提供する。
【解決手段】本実施形態による鋼材は、化学組成が、質量%で、C:0.33~0.45%、Si:0.15~0.35%、Mn:0.40~0.70%、P:0.035~0.070%、S:0.040~0.095%、Cu:0.25%以下、Ni:0.25%以下、Cr:0.04~0.25%未満、Al:0.025%以下、N:0.010~0.020%、及び、Ti:0.002~0.030%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.33~0.45%、
Si:0.15~0.35%、
Mn:0.40~0.70%、
P:0.035~0.070%、
S:0.040~0.095%、
Cu:0.25%以下、
Ni:0.25%以下、
Cr:0.04~0.25%未満、
Al:0.025%以下、
N:0.010~0.020%、及び、
Ti:0.002~0.030%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
式(1)を満たす、
鋼材。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【請求項2】
化学組成が、質量%で、
C:0.33~0.45%、
Si:0.15~0.35%、
Mn:0.40~0.70%、
P:0.035~0.070%、
S:0.040~0.095%、
Cu:0.25%以下、
Ni:0.25%以下、
Cr:0.04~0.25%未満、
Al:0.025%以下、
N:0.010~0.020%、及び、
Ti:0.002~0.030%、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
式(1)を満たす、
鋼材。
[第1群]
Ca:0.0050%以下
[第2群]
V:0.02%以下、
Mo:0.02%以下、及び、
B:0.0003%以下、からなる群から選択される1種以上
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【請求項3】
請求項2に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、前記第1群を含有する、
鋼材。
【請求項4】
請求項2に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、前記第2群を含有する、
鋼材。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の前記化学組成を有し、
前記式(1)を満たし、
ミクロ組織において、初析フェライトの面積率が15%以上であり、残部はパーライトからなる、
鋼素形材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材及び鋼素形材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、船舶、産業機械等のクランクシャフトに代表される鋼部品は、高い曲げ疲労強度が要求される。高い曲げ疲労強度が要求される鋼部品の製造方法の一例は、次のとおりである。初めに、素材となる鋼材を熱間鍛造して鋼素形材を製造する。製造した鋼素形材を機械加工(切削加工等)して、最終製品に近い形状にする。高い曲げ疲労強度を得る場合、機械加工後の鋼素形材に対して、表面硬化処理を実施して、表層の強度を高める。表面硬化処理は例えば、高周波焼入れ処理や窒化処理である。以上の工程により、鋼部品を製造する。
【0003】
表面硬化処理の一種である高周波焼入れ処理は通常、Ac3点以上に加熱し、その後急速冷却する。これにより、組織を変態させて表層を硬化させる。一方、窒化処理は通常、Ac1点以下で加熱する。そして、鋼材表層に窒素を導入し、組織を変態させることなく、表層を硬化させる。
【0004】
上述のとおり、窒化処理は組織変態を伴わない熱処理であるのに対し、高周波焼入れ処理は組織変態を伴う熱処理である。したがって、窒化処理は、高周波焼入れ処理と比較して、熱処理による歪みが少ない。そのため、寸法精度が求められる鋼部品では、表面硬化処理として窒化処理が実施される。本明細書では、窒化処理が施される鋼部品を、「窒化鋼部品」という。
【0005】
窒化鋼部品の素材となる鋼材では、窒化鋼部品とした場合に十分な曲げ疲労強度が得られることが求められる。さらに、上述のとおり、製造工程中に切削加工に代表される機械加工が実施されるため、優れた被削性が求められる。
【0006】
鋼部品の素材となる鋼材に関する被削性の向上、又は、曲げ疲労強度の向上に関する技術が、特開2008-57021号公報(特許文献1)及び特開平7-179986号公報(特許文献2)に開示されている。
【0007】
特許文献1では、鋼材にS及びCaを含有させることによりMnSの形態を変化させる。これにより、鋼材の被削性が高まる、と特許文献1には記載されている。
【0008】
特許文献2では、鋼材中のS含有量を高め、さらに、C含有量を0.30%以下とし、かつ、炭素当量を適切な範囲とする。これにより、鋼材の被削性を高めている。さらに、曲げ疲労強度を高めるために、Cr含有量を0.40%以上とし、かつ、V含有量を0.03%以上とする。鋼材の化学組成を上記のとおり調整することにより、被削性と曲げ疲労強度とを高めることができる、と特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008-57021号公報
【特許文献2】特開平7-179986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、窒化鋼部品では、他の鋼部品との嵌め合い部をかしめたり、他の鋼部品と組み合わせるときに、他の鋼部品の形状に合わせて形状を若干修正するために、微小な塑性変形を与える場合がある。そのため、窒化鋼部品の素材となる鋼材では、窒化鋼部品としたときに、優れた塑性変形能が得られることが求められる。特許文献1及び2では、上述の塑性変形能に関する検討はされていない。
【0011】
本発明の目的は、被削性に優れ、素材として用いられて窒化処理して窒化鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた塑性変形能を有する鋼材及び鋼素形材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による鋼材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.33~0.45%、
Si:0.15~0.35%、
Mn:0.40~0.70%、
P:0.035~0.070%、
S:0.040~0.095%、
Cu:0.25%以下、
Ni:0.25%以下、
Cr:0.04~0.25%未満、
Al:0.025%以下、
N:0.010~0.020%、及び、
Ti:0.002~0.030%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
式(1)を満たす。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0013】
本発明による鋼材は、
化学組成が、質量%で、
C:0.33~0.45%、
Si:0.15~0.35%、
Mn:0.40~0.70%、
P:0.035~0.070%、
S:0.040~0.095%、
Cu:0.25%以下、
Ni:0.25%以下、
Cr:0.04~0.25%未満、
Al:0.025%以下、
N:0.010~0.020%、及び、
Ti:0.002~0.030%、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
式(1)を満たす。
[第1群]
Ca:0.0050%以下
[第2群]
V:0.02%以下、
Mo:0.02%以下、及び、
B:0.0003%以下、からなる群から選択される1種以上
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0014】
本発明による鋼素形材は、
上述の化学組成を有し、
前記式(1)を満たし、
ミクロ組織において、初析フェライトの面積率が15%以上であり、残部はパーライトからなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の鋼材及び鋼素形材は、被削性に優れ、素材として用いられて窒化処理して窒化鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた塑性変形能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例の曲げ疲労試験で用いた、小野式回転曲げ疲労試験片の側面図である。なお、図中の寸法の単位はmmである。
図2図2は、実施例の引張試験で用いた、引張試験片の模式図である。なお、図中の寸法の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、被削性に優れ、素材として用いられて窒化処理して窒化鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた塑性変形能を有する鋼材について、検討を行った。
【0018】
本発明者らは、初めに、鋼材を素材とした窒化鋼部品における、曲げ疲労強度と塑性変形能との関係について検討した。これらは相反する機械特性であるため、曲げ疲労強度と塑性変形能とを共に高めることは、困難に思えた。
【0019】
ここで、本発明者らは、窒化鋼部品の窒化層と芯部とで分けて、それぞれの役割を検討した。曲げ疲労強度は主として芯部の硬さが影響する。一方、窒化鋼部品で求められる塑性変形能は、上述のとおり、他の鋼部品と組み合わせるときに、他の鋼部品の形状に合わせて形状を若干修正するために要求されるものである。つまり、求められる塑性変形能は、微小な塑性変形であり、その塑性変形は主として窒化層に求められる。
【0020】
以上の検討に基づいて、本発明者らは、曲げ疲労強度を高めるために芯部の硬さを高めつつ、塑性変形能を高めるために、窒化層の硬さを抑制することが有効であると考えた。そこで、窒化鋼部品としたときに、芯部及び窒化層が上述の形態になるようにするための鋼材について、化学組成の観点から検討を行った。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
【0021】
窒化処理したときに窒化鋼部品の芯部の硬さを高める元素として、Cr、Mn、Si、P、Nがある。これらの元素はいずれも固溶強化により、芯部の硬さを高める。しかしながら、これらの元素のうち、Cr及びMnは、窒化処理時に窒化層にて窒化物を形成し、窒化層の硬さも高めてしまう。そのため、Cr、Mn、Si、P及びNの含有量を高めた場合、芯部硬さだけでなく、窒化層の硬さも高くなる。その結果、窒化鋼部品において、十分な曲げ疲労強度が得られるものの、十分な塑性変形能は得られない。
【0022】
一方、Cr、Mn、Si、P、Nのうち、Pは窒化物を形成しないため、窒化層の硬さに及ぼす影響が小さい。また、Siは、含有する量が少量であれば、窒化処理温度域では、窒化物をそれほど形成しない。そのため、窒化層の硬さに及ぼす影響が小さい。さらに、窒化層のN濃度は、表層から侵入するN量で決まるため、鋼材に含有されているN含有量は、窒化層の硬さにはほぼ影響しない。したがって、Si、P及びNは、窒化鋼部品の芯部の硬さを高めるものの、窒化層の硬さの向上への寄与はCr、Mnと比較すると格段に小さい。
【0023】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、窒化鋼部品の素材となる鋼材の化学組成において、Cr含有量及びMn含有量を抑えつつ、Si含有量、P含有量及びN含有量を適切な範囲とすることにより、窒化鋼部品とした場合に十分な曲げ疲労強度と十分な塑性変形能とを両立できると考えた。そこで、以上の検討結果に基づいて、鋼材の化学組成を検討した。その結果、化学組成が、質量%で、C:0.33~0.45%、Si:0.15~0.35%、Mn:0.40~0.70%、P:0.035~0.070%、S:0.040~0.095%、Cu:0.25%以下、Ni:0.25%以下、Cr:0.04~0.25%未満、Al:0.025%以下、N:0.010~0.020%、及び、Ti:0.002~0.030%、を含有し、さらに、任意元素を含有する場合はFeの一部に代えて上述の第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物、からなる化学組成とすれば、窒化鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度と優れた塑性変形能とを両立できる可能性があると考えた。
【0024】
しかしながら、上述の化学組成を満たす鋼材であっても、窒化鋼部品とした場合に、十分な塑性変形能は得られるものの、十分な曲げ疲労強度が得られない場合があった。さらに、鋼材を素材とした窒化鋼部品の製造工程中で製造される鋼素形材において、十分な被削性が得られない場合があった。
【0025】
そこで、本発明者らはさらに、塑性変形能、曲げ疲労強度及び被削性のいずれの特性も十分に得られるための手段を検討した。その結果、次の知見を得た。
【0026】
窒化鋼部品の形状によっては、曲げが付加された際の表面から内部への応力勾配の傾斜がなだらかになる。そのため、窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高めるためには、窒化層だけでなく、芯部の硬さも高くすることが有効である。上述のとおり、芯部の硬さを高めるためにCr及びMnを含有させれば、窒化層の硬さも高まり、塑性変形能が低下する。一方、上述のとおり、Si、P及びNはCr及びMnと同様に芯部の硬さを高めるものの、Cr及びMnと比較して、窒化層の硬さへの影響は小さい。したがって、Si、P及びNの含有量を高めれば、塑性変形能を維持しつつ、曲げ疲労強度を高めることができる。しかしながら、Si、P及びNの含有量が高すぎれば、芯部の硬さが過度に高くなる。この場合、十分な曲げ疲労強度が得られるものの、被削性が低下してしまう。
【0027】
そこで、本発明者らは、上述の化学組成を満たす鋼材において、Si含有量、P含有量及びN含有量と、被削性及び曲げ疲労強度との関係とについて、詳細に検討した。その結果、Si含有量、P含有量及びN含有量が式(1)を満たすことにより、鋼材(鋼素形材)において十分な被削性が得られ、かつ、窒化鋼部品において十分な曲げ疲労強度及び十分な塑性変形能が得られることを見出した。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0028】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の鋼材及び鋼素形材は、次の構成を有する。
【0029】
[1]
化学組成が、質量%で、
C:0.33~0.45%、
Si:0.15~0.35%、
Mn:0.40~0.70%、
P:0.035~0.070%、
S:0.040~0.095%、
Cu:0.25%以下、
Ni:0.25%以下、
Cr:0.04~0.25%未満、
Al:0.025%以下、
N:0.010~0.020%、及び、
Ti:0.002~0.030%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
式(1)を満たす、
鋼材。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0030】
[2]
化学組成が、質量%で、
C:0.33~0.45%、
Si:0.15~0.35%、
Mn:0.40~0.70%、
P:0.035~0.070%、
S:0.040~0.095%、
Cu:0.25%以下、
Ni:0.25%以下、
Cr:0.04~0.25%未満、
Al:0.025%以下、
N:0.010~0.020%、及び、
Ti:0.002~0.030%、を含有し、
さらに、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
式(1)を満たす、
鋼材。
[第1群]
Ca:0.0050%以下
[第2群]
V:0.02%以下、
Mo:0.02%以下、及び、
B:0.0003%以下、からなる群から選択される1種以上
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0031】
[3]
[2]に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、前記第1群を含有する、
鋼材。
【0032】
[4]
[2]又は[3]に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、前記第2群を含有する、
鋼材。
【0033】
[5]
[1]~[4]のいずれか1項に記載の前記化学組成を有し、
前記式(1)を満たし、
ミクロ組織において、初析フェライトの面積率が15%以上であり、残部はパーライトからなる、
鋼素形材。
【0034】
以下、本実施形態の鋼材及び鋼素形材について詳述する。なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0035】
[本実施形態の鋼材について]
本実施形態の鋼材は、次の特徴を満たす。
(特徴1)
化学組成が本実施形態の範囲内である。
(特徴2)
化学組成がさらに、式(1)を満たす。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
以下、各特徴について説明する。
【0036】
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
【0037】
C:0.33~0.45%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造される窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。C含有量が0.33%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.45%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材を素材として製造される鋼素形材の被削性が低下する。
したがって、C含有量は0.33~0.45%である。
C含有量の好ましい下限は0.35%であり、さらに好ましくは0.36%であり、さらに好ましくは0.37%であり、さらに好ましくは0.38%である。
C含有量は好ましい上限は0.43%であり、さらに好ましくは0.42%であり、さらに好ましくは0.41%である。
【0038】
Si:0.15~0.35%
シリコン(Si)は、初析フェライト及びパーライト中のフェライトに固溶して、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Si含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が0.35%を超えると、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材を素材とした鋼素材の被削性が低下する。
したがって、Si含有量は0.15~0.35%である。
Si含有量の好ましい下限は0.17%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Si含有量の好ましい上限は0.34%であり、さらに好ましくは0.33%である。。
【0039】
Mn:0.40~0.70%
マンガン(Mn)は、鋼材を素材とした窒化鋼部品の製造工程中の窒化処理において、窒化物を形成して、窒化鋼部品の窒化層の硬さを高める。Mnはさらに、焼入れ性を高めて、窒化鋼部品の芯部の強度を高め、窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Mnはさらに、Sと結合してMnSを形成して、鋼材を素材とした鋼素形材の被削性を高める。Mn含有量が0.40%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が0.70%を超えると、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化層の硬さが過剰に高くなる。この場合、窒化鋼部品において、十分な塑性変形能が得られない。
したがって、Mn含有量は0.40~0.70%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.45%であり、さらに好ましくは0.48%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Mn含有量は好ましい上限は0.65%であり、さらに好ましくは0.63%であり、さらに好ましくは0.60%である。
【0040】
P:0.035~0.070%
燐(P)は鋼材を素材とした窒化鋼部品の窒化層の硬さの向上に寄与せずに、芯部の硬さを高める。そのため、Pは、窒化鋼部品の塑性変形能を維持しつつ、窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。P含有量が0.035%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、P含有量が0.070%を超えると、鋼材を素材とした鋼素形材の芯部硬さが過剰に高くなり、鋼素形材の被削性が低下する。
したがって、P含有量は0.035~0.070%である。
P含有量の好ましい下限は0.040%であり、さらに好ましくは0.43%であり、さらに好ましくは0.045%である。
P含有量は好ましい上限は0.067%であり、さらに好ましくは0.065%である。
【0041】
S:0.040~0.095%
硫黄(S)は、Mnと結合してMnSを形成し、鋼材を素材とした鋼素形材の被削性を高める。S含有量が0.040%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、S含有量が0.095%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なMnSが形成される。この場合、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
したがって、S含有量は0.040~0.095%である。
S含有量の好ましい下限は0.045%であり、さらに好ましくは0.048%であり、さらに好ましくは0.050%である。
S含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.085%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
【0042】
Cu:0.25%以下
銅(Cu)は、フェライトに固溶して、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cu含有量が0.25%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の製造工程中、又は、鋼材を素材とした鋼素形材の製造工程中の熱間加工工程において、鋼材の粒界に偏析して熱間割れが発生する場合がある。
したがって、Cu含有量は0.25%以下である。
Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
【0043】
Ni:0.25%以下
ニッケル(Ni)はフェライトに固溶して、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Niはさらに、鋼材がCuを含有する場合において、Cuに起因する熱間割れの発生を抑制する。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ni含有量が0.25%を超えれば、上記効果が飽和し、製造コストが高くなる。
したがって、Ni含有量は0.25%以下である。
Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.15%である。
【0044】
Cr:0.04~0.25%未満
クロム(Cr)は、Nと結合して窒化物を生成して窒化層の硬さを高める。そのため、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Cr含有量が0.04%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cr含有量が0.25%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化鋼部品の窒化層の硬さが過剰に高くなる。この場合、窒化鋼部品の塑性変形能が低下する。
したがって、Cr含有量は0.04~0.25%未満である。
Cr含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.07%であり、さらに好ましくは0.09%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.16%である。
【0045】
Al:0.025%以下
アルミニウム(Al)は、鋼材の製造工程中の製鋼工程において、鋼を脱酸する。Alが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Al含有量が0.025%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中にAl酸化物が過剰に多く生成する。この場合、鋼材を素材とした鋼素形材の被削性が低下する。
したがって、Al含有量は0.025%以下である。
Al含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0046】
N:0.010~0.020%
窒素(N)は、鋼材に固溶して、鋼材を素材とした窒化鋼部品の芯部の硬さを高める。そのため、窒化鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。N含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、N含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化鋼部品中に窒素ガスによる気泡が発生し、曲げ疲労強度が低下する場合がある。
したがって、N含有量は0.010~0.020%である。
N含有量の好ましい下限は0.012%であり、さらに好ましくは0.013%であり、さらに好ましくは0.015%である。
N含有量の好ましい上限は0.019%であり、さらに好ましくは0.018%であり、であり、さらに好ましくは0.017%である。
【0047】
Ti:0.002~0.030%
チタン(Ti)は、Nと結合してTiNを形成し、熱間鍛造時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。粗大なオーステナイト粒の生成が抑制されると、焼入れ性が低減されるため、初析フェライトを十分に確保でき、その結果、被削性を向上させることができる。Ti含有量が0.002%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.030%を超えれば、TiNが粗大化し、疲労特性を劣化させる。
したがって、Ti含有量は0.002~0.030%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.003%であり、さらに好ましくは0.004%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.010%である。
【0048】
本実施形態による鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図的に含有するものではなく、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0049】
[任意元素(Optional Elements)]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第1群及び第2群からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[第1群]
Ca:0.0050%以下
[第2群]
V:0.02%以下、
Mo:0.02%以下、及び、
B:0.0003%以下、からなる群から選択される1種以上
以下、任意元素について説明する。
【0050】
[第1群:Ca]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Caを含有してもよい。
Ca:0.0050%以下
カルシウム(Ca)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超である場合、Caは酸化物を複合酸化物に変質して軟化させる。そのため、鋼材を素材とした鋼素形材を切削加工するときの工具を長寿命化させることができ、鋼素形材の被削性が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なCa酸化物が生成する。この場合、鋼素形材の被削性がかえって低下する。
したがって、Ca含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、Ca含有量は0.0050%以下である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
【0051】
[第2群:V、Mo及びB]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に変えて、V、Mo及びBからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。以下、各元素について説明する。
【0052】
V:0.02%以下
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、V含有量が0%超である場合、Vは、鋼材を素材とした窒化鋼部品の窒化層中で窒化物を形成して、窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.02%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化鋼部品の窒化層の硬さが過剰に高くなる。この場合、窒化鋼部品の塑性変形能が低下する。
したがって、V含有量は0~0.02%であり、含有される場合、V含有量は0.02%以下である。
V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%である。
【0053】
Mo:0.02%以下
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mo含有量が0%超である場合、Moは、鋼材を素材とした窒化鋼部品の窒化層中で窒化物を形成して、窒化鋼部品の曲げ疲労強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mo含有量が0.02%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、窒化鋼部品の窒化層の硬さが過剰に高くなる。この場合、窒化鋼部品の塑性変形能が低下する。
したがって、Mo含有量は0~0.02%であり、含有される場合、Mo含有量は0.02%以下である。
Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%である。
【0054】
B:0.0003%以下
ホウ素(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、B含有量が0%超である場合、Bは、鋼材の強度を高める。そのため、鋼材を素材とした窒化鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.0003%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材を素材とした鋼素形材において、ベイナイトが生成する場合がある。この場合、鋼素形材の被削性が低下する。
したがって、B含有量は0~0.0003%であり、含有される場合、B含有量は0.0003%以下である。
B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0001%である。
B含有量の好ましい上限は0.0002%である。
【0055】
[鋼材の化学組成の測定方法]
本実施形態の鋼材の化学組成は、JIS G0321:2017に準拠した周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、鋼材の表面から1mm深さ以上の内部から、切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。O含有量については、周知の不活性ガス溶融-赤外線吸収法を用いて求める。
【0056】
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。例えば、本実施形態の鋼材のC含有量は小数第二位までの数値で規定される。したがって、C含有量は、測定された数値の小数第三位を四捨五入して得られた小数第二位までの数値とする。
【0057】
本実施形態の鋼材のC含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
【0058】
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
【0059】
[(特徴2)式(1)について]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0060】
F1=0.10Si+1.7P+4.7Nと定義する。F1は、特徴1を満たす鋼材を素材とした窒化鋼部品の製造工程中で製造される鋼素形材の被削性を高めつつ、窒化鋼部品において、十分な曲げ疲労強度を得るための指標である。
【0061】
上述のとおり、窒化層を有する窒化鋼部品において、芯部の硬さが高まれば、曲げ疲労強度が高まる。しかしながら、芯部の硬さとともに窒化層の硬さも高まれば、窒化鋼部品の塑性変形能が低下してしまう。そこで本実施形態の鋼材では、窒化処理時において窒化物を形成して窒化鋼部品の硬さを高める合金元素であるCr及びMnの含有量を上述の範囲に抑えつつ、実質的に窒化物を形成することなく固溶強化により窒化鋼部品の硬さを高める合金元素であるSi、P及びNの含有量を適切に高める。上述の3つの合金元素において、窒化層での析出強化能に対する芯部での固溶強化能の比は、N、P、Siの順に高くなる。F1では、窒化層での析出強化能に対する芯部での固溶強化能の比を考慮して、N、P、Siの係数を調整している。
【0062】
F1が0.130以下であれば、鋼材が特徴1を満たしていても、窒化鋼部品の芯部の硬さが十分ではない。そのため、窒化鋼部品において、十分な曲げ疲労強度が得られない。一方、F1が0.230以上であれば、鋼材が特徴1を満たしていても、鋼素形材の硬さが過剰に高くなる。この場合、鋼素形材において、十分な被削性が得られない。したがって、F1は0.130よりも高く、0.230未満である。
【0063】
F1の好ましい下限は0.132であり、さらに好ましくは0.135であり、さらに好ましくは0.140であり、さらに好ましくは0.150である。
F1の好ましい上限は0.220であり、さらに好ましくは0.210であり、さらに好ましくは0.200である。
【0064】
[本実施形態の鋼材の効果]
以上のとおり、本実施形態の鋼材は特徴1及び特徴2を満たす。そのため、鋼材を素材とした窒化鋼部品の製造工程中で製造される鋼素形材の被削性を高めつつ、窒化鋼部品において、十分な塑性変形能及び十分な曲げ疲労強度が得られる。
【0065】
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、機械構造用部品に代表される窒化鋼部品の素材として広く適用可能である。特に、窒化処理を実施して製造される窒化鋼部品の素材として適用可能である。
【0066】
[本実施形態の鋼材の形状]
本実施形態の鋼材の形状は特に限定されない。本実施形態の鋼材は、鋼板であってもよいし、条鋼(棒鋼又は線材)であってもよいし、鋼管であってもよい。好ましくは、本実施形態の鋼材は、条鋼(棒鋼又は線材)である。
【0067】
[本実施形態の鋼材のミクロ組織について]
本実施形態の鋼材のミクロ組織は、特に限定されない。本実施形態の鋼材が、上述の窒化鋼部品の素材として使用される場合、鋼材をオーステナイト温度域まで加熱した後、熱間鍛造に代表される熱間加工を実施して、中間品である鋼素形材を製造する。この熱間加工工程において、鋼材のミクロ組織はリセットされる。したがって、本実施形態のミクロ組織は特に限定されない。
【0068】
[本実施形態の鋼素形材について]
本実施形態の鋼素形材は、上述の本実施形態の鋼材を素材とした窒化鋼部品の製造工程中で製造される。本実施形態の鋼素形材は、次の特徴1~特徴3を満たす。
(特徴1)
化学組成が本実施形態の範囲内である。
(特徴2)
化学組成がさらに、式(1)を満たす。
0.130<0.10Si+1.7P+4.7N<0.230 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
(特徴3)
ミクロ組織において、初析フェライトの面積率が15%以上であり、残部はパーライトからなる。
【0069】
ここで、特徴1及び特徴2は、上述の本実施形態の鋼材の特徴1及び特徴2と同じである。本実施形態の鋼素形材が、本実施形態の鋼材を素材として製造されるためである。以下、本実施形態の鋼素形材の特徴3について説明する。
【0070】
[(特徴3)鋼素形材のミクロ組織について]
本実施形態の鋼素形材では、ミクロ組織において、初析フェライトの面積率が15%以上であり、残部はパーライトからなる。つまり、パーライトの面積率は85%以下である。
【0071】
本実施形態の鋼素形材のミクロ組織では、ベイナイト及び/又はマルテンサイトが含有されない。鋼素形材のミクロ組織にベイナイト及び/又はマルテンサイトが存在すれば、鋼素形材の硬さが過剰に高まる。そのため、鋼素形材において、十分な被削性が得られない。さらに、鋼素形材のミクロ組織において、フェライトの面積率が15%未満であれば、パーライトの面積率が85%超となる。この場合も、鋼素形材の硬さが過剰に高まる。そのため、鋼素形材の被削性が低下する。鋼素形材のミクロ組織において、初析フェライトの面積率が15%以上であり、残部はパーライトであれば、鋼素形材の硬さが十分に抑制される。そのため、鋼素形材において、十分な被削性が得られる。
【0072】
鋼素形材のミクロ組織において、初析フェライトの面積率の好ましい下限は16%であり、さらに好ましくは18%であり、さらに好ましくは20%であり、さらに好ましくは22%であり、さらに好ましくは25%である。
初析フェライトの面積率の上限は特に限定されない。初析フェライトの好ましい上限は45%であり、さらに好ましくは42%であり、さらに好ましくは38%であり、さらに好ましくは35%である。
【0073】
鋼素形材のミクロ組織において、パーライトの面積率の好ましい下限は55%であり、さらに好ましくは58%であり、さらに好ましくは62%であり、さらに好ましくは65%である。
パーライトの面積率の好ましい上限は84%であり、さらに好ましくは82%であり、さらに好ましくは80%であり、さらに好ましくは78%であり、さらに好ましくは75%である。
【0074】
[鋼素形材のミクロ組織観察及びフェライトの面積率の測定方法]
本実施形態の鋼素形材のミクロ組織観察及びフェライトの面積率は、次の方法で測定する。
【0075】
鋼素形材のうち、表面から1mm深さ位置よりも内部から、試験片を採取する。採取した試験片の任意の表面を鏡面研磨する。鏡面研磨した表面を観察面とする。観察面をナイタールでエッチングして、組織を現出させる。エッチング後の観察面に対して、光学顕微鏡を用いて、200倍の倍率で観察する。具体的には、観察面の任意の5視野の写真画像を生成する。各視野のサイズは例えば、0.60mm×0.48mmとする。
【0076】
各視野の写真画像のコントラストに基づいて、各組織(フェライト、パーライト、ベイナイト及びマルテンサイト)を特定する。さらに、各視野の写真画像において、メッシュ間隔が50μmの正方形格子パターンを重ねる。格子点と重なった位置での組織を特定する。5つの視野の全ての格子点での組織を、組織ごとにカウント(集計)する。そして、全ての格子点数に対する、フェライトのカウント数の割合を、フェライトの面積率(%)と定義する。また、全格子点数に対する、パーライトのカウント数の割合を、パーライトの面積率(%)と定義する。
【0077】
なお、各視野のサイズは上述のサイズに限定されないが、5つの視野の全ての格子点数は500以上になるように、視野のサイズを設定する。
【0078】
[本実施形態の鋼素形材の効果]
以上のとおり、本実施形態の鋼素形材は特徴1~特徴3を満たす。そのため、本実施形態の鋼素形材では、優れた被削性が得られる。さらに、鋼素形材を素材として窒化処理を実施して製造した窒化鋼部品において、十分な塑性変形能及び十分な曲げ疲労強度が得られる。
【0079】
[本実施形態の鋼材及び鋼素形材の製造方法]
本実施形態の鋼材及び鋼素形材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材及び鋼素形材の製造方法は、本実施形態の鋼材及び鋼素形材を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する鋼材及び鋼素形材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材及び鋼素形材の製造方法の好ましい一例である。本実施形態では、鋼材の一例として、棒鋼の製造方法を説明する。
【0080】
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)熱間加工工程
以下、各工程について説明する。
【0081】
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成が特徴1及び特徴2を満たす溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。たとえば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、合金元素を溶鋼に添加して成分を調整し、特徴1及び特徴2を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。
【0082】
上述の精錬方法により製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。たとえば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルーム又はビレットを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット、ブルーム又はビレット)を製造する。
【0083】
[(工程2)熱間加工工程]
製造された素材を熱間加工して、鋼材を製造する。熱間加工工程では通常、1又は複数回の熱間加工を実施する。複数回熱間加工を実施する場合、最初の熱間加工は例えば、分塊圧延又は熱間鍛造を用いた圧延であり、次回以降の熱間加工は、連続圧延機を用いた圧延であってもよい。連続圧延機は、一列に配列された複数の圧延スタンドを備える。熱間加工後の鋼材を室温まで冷却する。粗圧延及び連続圧延機を用いた圧延により、ビレットを製造し、その後、そのビレットを再加熱して、連続圧延機を用いた仕上げ圧延をさらに実施して、所望のサイズの鋼材を製造してもよい。また、熱間鍛造のみにより素材から鋼材を製造してもよい。熱間加工時の素材の加熱温度は特に限定されないが、例えば、1100~1300℃である。
【0084】
以上の工程により、本実施形態の鋼材を製造する。
【0085】
[鋼素形材の製造方法]
本実施形態の鋼素形材の一例は、次の工程を含む。
(工程3)鋼素形材成型工程
【0086】
[(工程3)鋼素形材成型工程]
鋼素形材成型工程では、本実施形態の鋼材を用いて、鋼素形材を成型する。成型方法は例えば、熱間鍛造である。具体的には、初めに、鋼材を加熱する。加熱温度は例えば、1000~1300℃である。加熱された鋼材を熱間鍛造して、所定の形状の鋼材を成型する。成形後の鋼材を空冷する。空冷での冷却速度は、ファンを用いて適宜調整する。空冷での冷却速度を適宜調整することにより、特徴3を満たす鋼素形材を製造できる。なお、熱間加工後の鋼材に対して、水冷等の加速冷却を実施した場合、フェライト面積率が15%未満となり、パーライト面積率が85%超となる。
【0087】
[鋼材を素材とした窒化鋼部品の製造方法]
上述の鋼材(又は、上述の鋼材を素材として製造された鋼素形材)を素材とした窒化鋼部品の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程4)機械加工工程
(工程5)窒化処理工程
以下、各工程について説明する。
【0088】
[(工程4)機械加工工程]
機械加工工程では、鋼素形材に対して機械加工を実施して、鋼素形材を、最終製品形状に近い形状に整える。具体的には、周知の切削加工及び/又は研削加工を実施して、鋼素形材の形状を整える。
【0089】
[(工程5)窒化処理工程]
窒化処理工程では、機械加工工程後の鋼素形材に対して、周知の窒化処理を実施する。周知の窒化処理は例えば、ガス窒化、ガス軟窒化、塩浴軟窒化、プラズマ窒化等である。窒化処理に用いるガスは、NHのみであってもよいし、NHに加え、N、H、CO、各種炭化水素を含有する周知の混合気体であってもよい。窒化後の鋼素形材の冷却方法は、水冷であってもよいし、油冷であってもよいし、炉冷であってもよい。以上の製造工程により、窒化鋼部品を製造する。
【0090】
[窒化鋼部品について]
窒化鋼部品は、表層に形成される窒化層と、窒化層よりも内部の芯部とを備える。芯部の化学組成は、上述の本実施形態の鋼材の化学組成と同じである。
【0091】
本実施形態の鋼材、又は、本実施形態の鋼素形材を素材として製造された窒化鋼部品では、優れた曲げ疲労強度が得られる。さらに、窒化鋼部品を嵌合等により他の鋼部品に組み合わせる場合に塑性変形能が求められる場合において、優れた塑性変形能を示す。
【実施例0092】
実施例により本実施形態の鋼材及び鋼素形材の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鋼材及び鋼素形材の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鋼材及び鋼素形材はこの一条件例に限定されない。
【0093】
[鋼材の製造]
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有する鋼材を製造した。
【0094】
【表1-1】
【0095】
【表1-2】
【0096】
表1-2中の「-」は、対応する元素含有量が、実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の有効数字(最小桁までの数値)での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。
例えば、本実施形態で規定されたCa含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、表1中の試験番号7では、測定されたCa含有量を小数第五位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
なお、四捨五入とは、規定された最小桁の下の桁(端数)が5未満であれば切り捨て、5以上であれば切り上げることを意味する。
【0097】
各試験番号の鋼材を次の方法で製造した。真空溶解炉を用いて、50kgのインゴットを製造した。インゴットを1250℃に加熱した後、熱間加工を実施して、鋼材を製造した。具体的には、熱間鍛造を実施して、軸方向に垂直な断面が75mm×75mmの棒鋼とした。熱間鍛造後の棒鋼を常温まで放冷した。放冷後の棒鋼を1250℃に加熱した。加熱後の棒鋼を熱間鍛伸して、軸方向に垂直な断面が直径60mmの円形状の棒鋼を製造した。熱間鍛伸後の棒鋼を常温まで放冷した。以上の製造工程により、鋼材(棒鋼)を製造した。
【0098】
[鋼素形材の製造]
製造された各試験番号の鋼材を素材として、各試験番号の鋼素形材を次の方法で製造した。
【0099】
上述の工程3の鋼素形材成型工程を模擬して、鋼材を1150℃で60分保持した。保持後の鋼材に対してファンで風を掛ける風冷を実施し、常温まで冷却した(表2の「冷却方法」欄で「通常冷却」と表示)。なお、試験番号22及び23の鋼材に対しては、1150℃で60分保持した後、常温まで水冷(加速冷却)した(表2の「冷却方法」欄で「加速冷却」と表示)。
【0100】
【表2】
【0101】
以上の工程により、各試験番号の鋼材及び鋼素形材を製造した。
【0102】
[評価試験について]
製造された各試験番号の鋼材及び鋼素形材に対して、次の評価試験(試験1~試験5)を実施した。
[鋼材評価試験]
(試験1)鋼材の化学組成測定試験
(試験2)鋼素形材のミクロ組織観察試験
(試験3)被削性評価試験
(試験4)曲げ疲労強度評価試験
(試験5)塑性変形能評価試験
以下、各試験について説明する。
【0103】
[(試験1)鋼材の化学組成測定試験]
各試験番号の鋼材に対して、上述の[鋼材の化学組成の測定方法]に基づいて化学組成を分析した。その結果、いずれの試験番号の鋼材の化学組成も、表1-1及び表1-2に示すとおりであった。なお、各試験番号の鋼素形材は、対応する試験番号の鋼材を素材として製造したため、各試験番号の鋼素形材の化学組成も、表1-1及び表1-2の対応する試験番号の化学組成であった。
【0104】
[(試験2)鋼素形材のミクロ組織観察試験]
各試験番号の鋼素形材に対して、上述の[鋼材のミクロ組織観察方法]に基づいて、鋼素形材のミクロ組織を観察し、初析フェライトの面積率及びパーライトの面積率を求めた。なお、試験片の採取位置は、鋼素形材の軸方向に垂直な断面における半径中央位置(R/2位置)とした。得られた結果を表2の「鋼素形材」欄の「フェライト面積率(%)」及び「パーライト面積率(%)」に示す。
【0105】
[(試験3)被削性評価試験]
各試験番号の鋼素形材に対して、次のビッカース硬さ試験を実施した。
各試験番号の鋼素形材を軸方向に垂直に切断した。切断面の中心部(中心位置を中心とした0.10R(Rは半径)の円形範囲内)の任意の5箇所で、JIS Z 2244:2009に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は9.8Nとした。得られた5つの硬さの算術平均値を、当該試験番号のビッカース硬さ(Hv)と定義した。得られたビッカース硬さを表2の「ビッカース硬さ(HV)」欄に示す。ビッカース硬さが205HV以下である場合、十分な被削性が得られたと判断した。一方、ビッカース硬さが205HVを超える場合、十分な被削性が得られなかったと判断した。
【0106】
[(試験4)曲げ疲労強度評価試験]
各試験番号の鋼素形材(直径60mmの棒鋼)の軸方向に垂直な断面の半径中央位置(R/2位置)から、図1に示す小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。図1中の数値は、寸法(単位はmm)を示す。図1中の「φ」は直径を意味する。「R1」は、切欠き底の曲率半径が1mmであることを意味する。小野式回転曲げ疲労試験片の長さは22mmであり、平行部の直径は8mmであり、把持部の直径は12mmであった。
【0107】
具体的には、各試験番号の鋼素形材を機械加工(切削加工)して、小野式回転曲げ疲労試験片の中間品を加工した。中間品に対して、窒化処理を実施して、図1に示す小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。実施した窒化処理の条件は、以下のとおりとした。窒化処理では、中間品を、RXガスとアンモニアガスとが1:1の雰囲気内で、590℃で2時間保持した。保持後の中間品を油冷した。以上の工程により、窒化鋼部品を模擬した小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。
【0108】
各試験番号の小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、小野式回転曲げ疲労試験を行った。各試験番号ごとに複数の小野式回転曲げ疲労試験片を準備した。各試験片ごとに加える応力を変えて疲労試験を実施し、1000万回(10回)繰り返しの後、破断しなかった最も高い応力を曲げ疲労強度(MPa)とした。小野式回転曲げ疲労試験では、回転速度を3000rpmとし、応力比を両振りとした。得られた曲げ疲労強度を、表2中の「窒化鋼部品」欄の「曲げ疲労強度(MPa)」欄に示す。
【0109】
[(試験5)塑性変形能評価試験]
各試験番号の鋼素形材の軸方向に対して垂直な断面の半径中央位置(R/2位置)から、図2に示す引張試験片を作製した。引張試験片の平行部の幅は4mmであり、引張試験片の厚さは2mmであった。
【0110】
具体的には、各試験番号の鋼素形材を機械加工(切削加工)して、引張試験片の中間品を加工した。中間品に対して、窒化処理を実施して、図2に示す引張試験片を作製した。実施した窒化処理の条件は、以下のとおりとした。窒化処理では、中間品を、RXガスとアンモニアガスとが1:1の雰囲気内で、590℃で2時間保持した。保持後の中間品を油冷した。以上の工程により、窒化鋼部品を模擬した引張試験片を作製した。
作製した引張試験片の平行部に、破断感知用のゲージ長2mmのひずみゲージを、ゲージの長手方向が引張試験片の軸方向に平行になるように貼付した。ひずみゲージを貼付した引張試験片を用いて、JIS Z 2241:2011に準拠した引張試験を実施した。引張試験は、常温(約25℃)、大気中で、引張速度1.5mm/minの条件で実施し、ひずみゲージが断線するまでの公称ひずみを求めた。得られた公称ひずみを表2中の「窒化鋼部品」欄の「公称ひずみ」欄に示す。
【0111】
[評価結果]
評価結果を表2に示す。表1-1、表1-2及び表2を参照して、試験番号1~11では、鋼材が特徴1及び特徴2を満たした。さらに、鋼素形材が特徴1~特徴3を満たした。そのため、ビッカース硬さが205HV以下であり、鋼材を素材とした鋼素形材において、十分な被削性が得られた。さらに、曲げ疲労強度は270MPa以上であり、窒化鋼部品において、十分な曲げ疲労強度が得られた。さらに、公称ひずみは0.030以上であり、窒化鋼部品において、十分な塑性変形能が得られた。
【0112】
一方、試験番号12では、Mn含有量が高すぎた。そのため、ビッカース硬さが205HVを超え、十分な被削性が得られなかった。さらに、公称ひずみが0.030未満であり、十分な塑性変形能が得られなかった。
【0113】
試験番号13では、P含有量が低すぎた。そのため、曲げ疲労強度が270MPa未満であり、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
【0114】
試験番号14では、Cr含有量が高すぎた。そのため、公称ひずみが0.030未満であり、十分な塑性変形能が得られなかった。
【0115】
試験番号15では、N含有量が低すぎた。さらに、B含有量が高すぎた。そのため、鋼素形材でのフェライト面積率が低すぎた。その結果、十分な被削性が得られなかった。
【0116】
試験番号16では、V含有量が高すぎた。そのため、公称ひずみが0.030未満であり、十分な塑性変形能が得られなかった。
【0117】
試験番号17では、N含有量が低すぎた。そのため、曲げ疲労強度が270MPa未満であり、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
【0118】
試験番号18では、Si含有量が高すぎた。そのため、ビッカース硬さが205HVを超え、十分な被削性が得られなかった。
【0119】
試験番号19では、P含有量が高すぎた。そのため、ビッカース硬さが205HVを超え、十分な被削性が得られなかった。
【0120】
試験番号20では、Cr含有量が低すぎた。そのため、曲げ疲労強度が270MPa未満であり、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
【0121】
試験番号21では、Ti含有量が低すぎた。そのため、鋼素形材でのフェライト面積率が低すぎた。その結果、十分な被削性が得られなかった。
【0122】
試験番号22及び23では、鋼素形材の製造工程において、加速冷却(水冷)を実施した。そのため、鋼素形材でのフェライト面積率が低すぎた。その結果、十分な被削性が得られなかった。
【0123】
試験番号24は、C含有量、P含有量、S含有量、N含有量及びTi含有量が低かった。そのため、曲げ疲労強度が270MPa未満であり、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
【0124】
試験番号25及び26では、F1が下限未満であった。そのため、曲げ疲労強度が270MPa未満であり、十分な曲げ疲労強度が得られなかった。
【0125】
試験番号27及び28では、F1が上限を超えた。そのため、ビッカース硬さが205HVを超え、十分な被削性が得られなかった。
【0126】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
図1
図2