(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021981
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】移動体及び車椅子
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20240208BHJP
A61G 5/10 20060101ALI20240208BHJP
B62B 3/00 20060101ALI20240208BHJP
B62B 5/00 20060101ALI20240208BHJP
B62B 3/02 20060101ALI20240208BHJP
B62K 5/007 20130101ALI20240208BHJP
B62D 11/04 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A61G5/04 703
A61G5/04 710
A61G5/10 703
A61G5/04 707
B62B3/00 B
B62B5/00 C
B62B3/02 E
B62K5/007
B62D11/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125228
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】大畑 智則
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健一
【テーマコード(参考)】
3D011
3D050
3D052
【Fターム(参考)】
3D011AA07
3D011AC01
3D011AD01
3D050AA04
3D050BB02
3D050BB30
3D050DD01
3D050EE08
3D050EE15
3D050HH06
3D050KK02
3D052AA02
3D052FF03
3D052GG04
(57)【要約】
【課題】後輪の旋回半径が大きくなることを抑制しつつ、操作性を向上可能な前輪駆動の移動体を提供する。
【解決手段】移動体1は、フロントフレーム10に設けられた前輪2,2と、リアフレーム20に設けられた後輪3,3と、フロントフレーム10及びリアフレーム20の回動状態、及び固定状態に連結状態を切り替える連結部30と、前輪2,2の駆動部40,40と、操作指示に応じて駆動制御及び連結部30に係る連結状態の切り替え制御を行う制御部50とを備える。制御部50は、移動体1の直進状態において、連結部30を固定状態とするものであり、移動体1の旋回のための旋回指示を受け付けた場合において、連結部30に係る連結状態を回動状態とすると共に駆動部40,40を駆動することにより前輪2,2に旋回力を発生させることで、フロントフレーム10を回動させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフレーム及びリアフレームを有する移動体であり、
前記フロントフレームに設けられた少なくとも一対の前輪と、
前記リアフレームに設けられた少なくとも1つの後輪と、
前記フロントフレーム及び前記リアフレームを連結し、前記フロントフレーム及び前記リアフレームが相対的に回動可能な回動状態、及び相対的に回動不能な固定状態に連結状態を切り替え可能な連結部と、
一対の前記前輪をそれぞれ独立して駆動する駆動部と、
操作指示に応じて前記駆動部の駆動制御及び前記連結部に係る連結状態の切り替え制御を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記移動体が直進状態である場合において、前記連結部に係る連結状態を固定状態とするものであり、
前記移動体を旋回させるための旋回指示を受け付けた場合において、前記連結部に係る連結状態を前記回動状態とすると共に、前記駆動部を駆動することにより一対の前記前輪に旋回力を発生させることで、前記旋回力の方向に前記フロントフレームを回動させること、を特徴とする移動体。
【請求項2】
前記連結部は、
前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動方向に沿って形成された案内面、及び前記案内面に形成された係合部を有する案内部材と、
前記係合部と係合する係合状態、及び前記係合部との係合が解除される非係合状態の切り替えが可能な係合部材と、
を備え、
前記係合部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記係合部材と係合可能に配されており、
前記係合部材は、前記非係合状態において、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動が前記案内面に沿って案内されるものであり、
前記制御部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記係合状態となるように制御を行うものであり、旋回指示を受け付けた場合において、前記非係合状態となるように制御を行うものであること、を特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記案内部材は、前記フロントフレーム及び前記リアフレームにおける回動中心に配されると共に、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動に伴って前記案内面が周方向に相対的に回動するものであり、
前記係合部材は、
前記案内面との当接、及び前記係合部との係合が可能な突出部と、
前記突出部を前記案内面に向けて付勢する弾性部材と、
を有し、
前記突出部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記係合部と係合するものであり、前記制御部で旋回指示を受け付けた場合において、前記係合部との係合が解除されると共に、前記案内面と当接することにより、前記案内面に沿った前記突出部及び前記案内部材の相対的な回動が許容されること、を特徴とする請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
前記制御部は、前記係合部を係合状態とする制御を行う通常走行モードと、前記係合部を非係合状態とする制御を行う操舵補助モードとの切り替えが可能であること、を特徴とする請求項2又は3に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体及び車椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動車椅子やシニアカー等(単に、電動車椅子等とも称する)が利用されている。これらの電動車椅子等における駆動方式として、後輪駆動方式及び前輪駆動方式が知られている。
図8(a)は、従来の後輪駆動方式の電動車椅子70の概略説明図であり、
図8(b)は、従来の前輪駆動方式の電動車椅子75の概略説明図である。なお、図示において駆動源は省略してある。
【0003】
図8(a)に示すように、後輪駆動方式の電動車椅子70は、壁78に沿って走行している際に、壁78と反対側に旋回した場合であっても、壁78と干渉せずに旋回できるものとされている。また、後輪駆動方式の電動車椅子75は、直感的に旋回時の動きを把握し易く、操作が比較的に容易であることから、電動車椅子等には、一般的に後輪駆動方式が採用されている(例えば、特許文献1)。一方、前輪駆動方式の電動車椅子75は、段差を乗り越える際に、段差と接する前輪に対して直接的にトルクを作用させることができることから段差の乗り越えに強いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、
図8(b)に示すように、前輪駆動方式の電動車椅子75は、旋回時に前輪76,76の動きに追従して後輪77.77が、運転者の後方で大きく旋回することとなる。そのため、前輪駆動方式の電動車椅子75は、壁78沿いに走行している際に壁78から離れて走行したいような場合、後輪駆動方式の電動車椅子70と同様の手順で操作を行うと、旋回する後輪77,77が壁78と干渉する問題がある。かかる場合は、前輪駆動方式の電動車椅子75が立ち往生する懸念があった。また、特許文献1に記載の電動車椅子は、前輪に駆動力を掛けることができないため段差を乗り越えることが困難な問題がある(特に前輪が揃った方向にない場合は、段差を乗り越えることが困難となる)。また、特許文献1に記載の電動車椅子等においては、モータ等の駆動源を有する関係上、一定の重量を有するものとされており、例えば、段差を乗り越える際に電動車椅子を介助して持ち上げることが困難な問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、後輪の旋回半径が大きくなることを抑制しつつ、操作性を向上可能な前輪駆動の移動体及び車椅子を提供することを目的とする。また、本発明は、前輪駆動の利点を生かしつつ、操作性を向上可能な移動体及び車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の移動体は、フロントフレーム及びリアフレームを有する移動体であり、前記フロントフレームに設けられた少なくとも一対の前輪と、前記リアフレームに設けられた少なくとも1つの後輪と、前記フロントフレーム及び前記リアフレームを連結し、前記フロントフレーム及び前記リアフレームが相対的に回動可能な回動状態、及び相対的に回動不能な固定状態に連結状態を切り替え可能な連結部と、一対の前記前輪をそれぞれ独立して駆動する駆動部と、操作指示に応じて前記駆動部の駆動制御及び前記連結部に係る連結状態の切り替え制御を行う制御部と、を備え、前記制御部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記連結部に係る連結状態を固定状態とするものであり、前記移動体を旋回させるための旋回指示を受け付けた場合において、前記連結部に係る連結状態を前記回動状態とすると共に、前記駆動部を駆動することにより一対の前記前輪に旋回力を発生させることで、前記旋回力の方向に前記フロントフレームを回動させること、を特徴とするものである。
【0008】
上述した移動体は、フロントフレームに駆動輪としての一対の前輪が設けられ、リアフレームに、従動輪としての後輪が設けられた前輪駆動方式を採用している。また、上述した移動体は、連結部を介してフロントフレーム及びリアフレームが相対的に回動可能な回動状態と、相対的に回動不能な固定状態とが切り替え可能に構成されている。従って、上述した移動体は、制御部が旋回指示を受け付けた場合において、フロントフレーム及びリアフレームを相対的に回動可能な回動状態とすることによって、一対の前輪を駆動しつつ、一対の前記前輪をフロントフレームと一体的に回動させることができる。そのため、上述した移動体は、前輪駆動方式を採用しつつ、旋回中心を前輪側に位置させることができる。これにより、上述した移動体は、壁との距離が小さい場合であっても、壁及び後輪が干渉することなく旋回することができる。
【0009】
また、上述した移動体において、制御部は、駆動部の駆動により一対の前輪に旋回力を発生させることで、前記旋回力の方向にフロントフレームを回動させるものとされている。ここで、旋回力は、一対の前輪に生じた回転速度差によって発生するものとされている。言い換えれば、上述した移動体において、制御部は、一対の前輪を駆動して一対の前輪に回転速度差を発生させることで、前記回転速度差に応じて所定の方向に前記フロントフレームを回動させることができる。すなわち、上述した移動体は、運転者の旋回操作によって生じた一対の前輪の回転速度差に応じて旋回を制御できる。これにより、上述した移動体は、前輪(駆動輪)側の車軸を進行方向に対して回動させるための駆動源(モータ等)を排することができるので、コスト低減が期待できる。また、上述した移動体は、車軸を回動させるための駆動源を設ける必要がないので、構造上の制約を排することができる。また、上述した移動体は、運転者の直感的な操作により、運転者の意図した旋回をさせることができるので、操作性を向上させることができる。また、上述した移動体は、前輪駆動方式の特徴を活かして、段差を容易に乗り越えることができる。また、上述した移動体は、直進状態にある場合において、連結部に係る連結状態を固定状態とすることができるので、直進状態の走行が安定する。
【0010】
(2)上述した本発明の移動体において、前記連結部は、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動方向に沿って形成された案内面、及び前記案内面に形成された係合部を有する案内部材と、前記係合部と係合する係合状態、及び前記係合部との係合が解除される非係合状態の切り替えが可能な係合部材と、を備え、前記係合部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記係合部材と係合可能に配されており、前記係合部材は、前記非係合状態において、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動が前記案内面に沿って案内されるものであり、前記制御部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記係合状態となるように制御を行うものであり、旋回指示を受け付けた場合において、前記非係合状態となるように制御を行うものであること、を特徴とするとよい。
【0011】
上述した移動体は、直進状態である場合において、係合部材が係合部と係合して係合状態となるように制御が行われるので、直進安定性が向上する。また、上述した移動体は、旋回時において、係合部材と係合部との係合が解除されて非係合状態とされ、当該係合部材が、案内部材の案内面に沿って案内されるものとされている。そのため、上述した移動体は、旋回状態にある場合(旋回指示を受け付けた場合)において、フロントフレーム及びリアフレームの相対的な回動が安定する。従って、上述した移動体は、直進状態及び旋回状態のいずれにおいても走行が安定する。
【0012】
(3)上述した本発明の移動体において、前記案内部材は、前記フロントフレーム及び前記リアフレームにおける回動中心に配されると共に、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動に伴って前記案内面が周方向に相対的に回動するものであり、 前記係合部材は、前記案内面との当接、及び前記係合部との係合が可能な突出部と、前記突出部を前記案内面に向けて付勢する弾性部材と、を有し、前記突出部は、前記移動体が直進状態である場合において、前記係合部と係合するものであり、前記制御部で旋回指示を受け付けた場合において、前記係合部との係合が解除されると共に、前記案内面と当接することにより、前記案内面に沿った前記突出部及び前記案内部材の相対的な回動が許容されること、を特徴とするとよい。
【0013】
上述した移動体は、かかる構成とすることにより、旋回状態にある場合(旋回指示を受け付けた場合)において、弾性部材で付勢された突出部が、案内部材の案内面に当接しながら案内される。ここで、案内部材は、フロントフレーム及びリアフレームにおける回動中心に配されており、案内面が、フロントフレーム及びリアフレームの相対的な回動に伴って周方向に相対的に回動するものとされている。従って、フロントフレーム及びリアフレームは、案内面に案内されながら周方向に精度良く相対回動する。そのため、上述した移動体は、旋回安定性が向上する。また、上述した移動体は、直進状態にある場合において、突出部が係合部に係合されるので、直進安定性が向上する。従って、上述した移動体は、直進状態及び旋回状態のいずれにおいても走行が安定する。
【0014】
(4)上述した本発明の移動体において、前記制御部は、前記係合部を係合状態とする制御を行う通常走行モードと、前記係合部を非係合状態とする制御を行う操舵補助モードとの切り替えが可能であること、を特徴とするとよい。
【0015】
上述した移動体は、かかる構成とすることにより、通常走行モードと操舵補助モードとを切り替えることができるので、運転者の意図に応じて、通常走行モードと、操舵補助モードとを切り替えることができる。すなわち、上述した移動体は、運転者の意図に反して不用意に通常走行モードと操舵補助モードとが切り替わることを抑制できる。これにより、上述した移動体における操作性が向上する。
【0016】
(5)上述した本発明の移動体は、前記通常走行モード及び前記操舵補助モードが切り替えられたことを通知する通知部を有すること、を特徴とするとよい。
【0017】
本発明の移動体は、かかる構成とすることにより、運転者の操作性を向上させることができる。ここで、通知部による通知は、例えば、通常走行モード及び操舵補助モードのいずれが選択されているか認識できるような表示ランプの点灯、音声による発話、操作パネル等への表示など各種の通知手段を採用することができる。
【0018】
(6)上述した本発明の移動体は、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動角度を検出する回動位置センサを有し、前記制御部は、前記回動位置センサで検出した回動角度に応じて、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの連結状態を制御可能であること、を特徴とするとよい。
【0019】
上述した移動体は、回動位置センサにより、フロントフレーム及びリアフレームの回動角度を検出することができる。ここで、回動位置センサは、例えば、エンコーダ、光センサ、近接センサなどの各種のものが利用できる。また、回動位置センサは、直接的に角度を検出するものやフロントフレーム及びリアフレームの相対的な位置関係から間接的に角度を算出するものなど、各種の方式のセンサを用いることができる。回動位置センサで検出された回動角度は、制御部におけるフロントフレーム及びリアフレームの連結状態の制御に供される。これにより、運転者の操作に対して、迅速な制御を行うことができるので、運転者の意図に応じた操作感の良い移動体の提供が可能である。
【0020】
(7)上述した移動体は、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの少なくとも一方に一対のストッパが設けられており、前記ストッパは、前記フロントフレーム及び前記リアフレームの相対的な回動が許容される最大回動角度において、前記回動を制限するものであること、を特徴とするとよい。
【0021】
上述した移動体は、かかる構成とすることにより、フロントフレーム及びリアフレームの相対的な回動が、許容される最大回動角度に達した場合に、前記回動に制限を掛けることができる。そのため、上述した移動体は、簡素な構成で、フロントフレーム及びリアフレームが、許容される最大回動角度を超えて回動することを制限できる。これにより、上述した移動体は、コスト低減が期待できる。また、上述した移動体は、制御の簡素化も期待できる。
【0022】
(8)上述した課題を解決すべく提供される本発明の車椅子は、上述した移動体として構成されていること、を特徴とするものである。
【0023】
上述した車椅子は、上述した移動体として構成することにより、前輪駆動の利点(例えば、段差を容易に乗り越えできる利点)を生かしつつ、操作性を向上することができる。また、上述した車椅子は、前輪駆動を採用しつつ、後輪の旋回半径が大きくなることを抑制でき、操作性を向上させることができる。なお、車椅子の駆動は、モータ等の各種の駆動源を利用すればよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、後輪の旋回半径が大きくなることを抑制しつつ、操作性を向上可能な前輪駆動の移動体及び車椅子を提供することができる。また、本発明は、前輪駆動の利点を生かしつつ、操作性を向上可能な移動体及び車椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る移動体を下面側から見た概略平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る移動体の制御系統のブロック図である。
【
図3】(a)は、本発明の移動体が直進状態にある場合の下面側から見た一部省略斜視図であり、(b)は、本発明の移動体が旋回状態にある場合の下面側から見た一部省略斜視図である。
【
図4】(a)及び(b)は、本発明に係る移動体の動作説明図である。
【
図5】(c)及び(d)は、本発明に係る移動体の動作説明図である。
【
図6】(e)は、本発明に係る移動体の動作説明図である。
【
図7】本発明に係る移動体の一実施形態を表すフロー図である。
【
図8】(a)は、従来の後輪駆動方式の電動車椅子の概略説明図であり、
図8(b)は、従来の前輪駆動方式の電動車椅子の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る移動体1の一実施形態について、
図1~
図7を参照しながら以下に詳細を説明する。本実施形態では、移動体1が電動車椅子1(車椅子1とも称する)に適用されている場合を例示している。また、各図において、簡略化するため電動車椅子1の座席は省略して描いており、各部について理解を容易にするため、実際の大きさとは異なる比率で描いていることに留意されたい。また、
図3において、後輪3,3は省略して描いており、
図4~
図6において、駆動部40、操舵機構等は、省略して描いていることに留意されたい。また、以下の説明において、前方側は、電動車椅子1の進行方向前側を表し、後方側は、電動車椅子1の進行方向後側を表すものとして説明する。
【0027】
図1に示すように、電動車椅子1は、前方側に配されたフロントフレーム10、フロントフレーム10の後方側に配されたリアフレーム20、一対の前輪2,2、及び一対の後輪3,3を備えている。また、移動体1は、フロントフレーム10及びリアフレーム20を連結する連結部30、前輪2,2をそれぞれ独立して駆動するモータ40,40(駆動部40,40とも称する)、及び制御部50(コントローラ50とも称する)を備えている。
図2に示すように、移動体1は、前記の他、左右のモータドライバ41,41、操作部51、モード切替スイッチ52、及び通知部55等を備えている。
【0028】
図1に示すように、フロントフレーム10は、電動車椅子1の前方側に配され、金属や繊維強化樹脂等を素材としたフレーム材を屈曲させて構成されている。本実施形態では、フロントフレーム10が、車幅方向に沿って形成された前方部10aと、前方部10aの両端側を後方側に向けて屈曲した側方部10b,10bと、側方部10b,10bを車幅方向中央に向けて屈曲させた後方部10c,10cと、で構成されている。後方部10c,10cのそれぞれの先端は、車幅方向中央に設けられた案内部材31(後述)に接続されている。
【0029】
リアフレーム20は、フロントフレーム10の後方側に配され、金属や繊維強化樹脂等を素材として板状に形成されている。リアフレーム20は、略矩形状に形成され、前方側の角が、C面取りされた形状をなしている。リアフレーム20の前方側の中央付近には、下面方向に突出するように回動軸21が立設されている。
【0030】
前輪2,2は、それぞれフロントフレーム10の側方部10b、10bに配されている。前輪2,2は、車幅方向に沿って配され、側方部10b,10bに回転可能に支持された前輪軸2a,2aの先端に支持されている。前輪2,2は、適宜のゴムや樹脂等を素材として形成されている。前輪軸2a,2aには、それぞれモータ40,40(駆動部40,40とも称する)が接続されている。
【0031】
モータ40,40は、前輪軸2a,2aを回転駆動することにより、前輪2,2を回転駆動することができる。また、モータ40,40には、
図2に示すように、モータドライバ41,41が接続されている。モータドライバ41,41は、後述する制御部50の制御指令に従って前輪2,2をそれぞれ独立して回転駆動制御することができる。
【0032】
図1に示すように、後輪3,3は、それぞれリアフレーム20の車幅方向両側に配されている。後輪3,3は、車幅方向に沿って回転可能に支持された後輪軸3a,3aの先端に支持されている。後輪3,3は、ゴムや樹脂等を素材として形成されている。後輪3,3は、自由回転可能に後輪軸3a,3aに支持され、従動輪として機能するものとされている。すなわち、電動車椅子1は、前輪駆動方式として構成されており、地面上を走行可能なものとされている。
【0033】
連結部30は、フロントフレーム10における後方部10c,10cの中央に設けられ、フロントフレーム10及びリアフレーム20を連結するものとされている。また、連結部30は、フロントフレーム10及びリアフレーム20が相対的に回動可能な回動状態、及び相対的に回動不能な固定状態に連結状態を切り替えするものとされている。なお、以下の説明では、フロントフレーム10が、リアフレーム20に対して回動するものとして説明する。
【0034】
連結部30は、案内部材31と、係合部材35と、回動位置センサ34、一対のストッパ45,45等を備えている。
【0035】
案内部材31は、フロントフレーム10の回動方向に沿って形成された案内面32と、案内面32に形成された係合部33等を備えている。案内部材31は、フロントフレーム10及びリアフレーム20における回動中心に配されている。案内部材31は、略円形状に形成されており、回動軸21を軸心として回動可能に支持されている。
【0036】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、案内面32は、案内部材31における外周面として形成されている。従って、案内面32は、フロントフレーム10の回動に伴って、周方向に回転するものとされている。案内面32には、後述するプランジャ36(突出部36とも称する)が当接することができる。また、案内面32における後方側の中央部には、プランジャ36が係合可能な係合溝33(係合部33とも称する)が形成されている。
【0037】
図1に示すように、係合溝33は、後述するプランジャ36が嵌まり込み可能な大きさに形成されている。係合溝33は、案内面32における車幅方向中心に位置するように後方側に向けて開口するように形成されている。従って、係合溝33は、電動車椅子1が直進状態である場合において、電動車椅子1における前後方向の軸線に沿った後方側を向くものとされている。
【0038】
係合部材35は、係合溝33との係合が可能なプランジャ36(突出部36)と、プランジャ36を案内面32に向けて付勢するコイルバネ37(弾性部材37とも称する)等を備えている。また、係合部材35は、前記の他、プランジャ36を進退動させるソレノイド38を備えている。
【0039】
プランジャ36は、先端が球状に形成されており、係合溝33の内径よりも僅かに小さく形成されている。そのため、プランジャ36は、ソレノイド38をOFFにすることで係合溝33に向けて進行し、係合溝33と係合する。プランジャ36は、突出状態(ソレノイド38をOFFにした状態)において、軸芯に装着されたコイルバネ37により、係合溝33(案内面32)に向けて付勢されている。従って、プランジャ36は、突出状態において、係合溝33と向き合う場合(電動車椅子1が直進状態である場合)は、係合溝33と係合することができる。
【0040】
一方、プランジャ36は、
図3(b)に示すように、フロントフレーム10が回動した状態(本実施形態では左方向に回動した状態)にある場合は、コイルバネ37の付勢により、案内面32と当接し、フロントフレーム10の回動に伴って、案内面32上を摺動する。すなわち、プランジャ36は、係合溝33に対して非係合状態(ソレノイド38をONにした状態)である場合において、フロントフレーム10の回動が案内面32に沿って案内される。他方、プランジャ36は、フロントフレーム10の回動に伴って、係合溝33と向き合う位置(電動車椅子1が直進状態となる位置)に到達した場合、係合溝33と係合することにより係合状態とされる。
【0041】
また、プランジャ36は、ソレノイド38をONすることにより、後退し、係合溝33との係合が解除された非係合状態とされる。従って、係合部材35は、プランジャ36が係合溝33と係合する係合状態と、プランジャ36と係合溝33との係合が解除される非係合状態とを切り替えることができる。
【0042】
回動位置センサ34は、
図1及び
図2に示すように、連結部30において、フロントフレーム10のリアフレーム20に対する回動角度を検出するものとされている。ここで、回動位置センサ34は、例えば、エンコーダ、光センサ、近接センサなどの各種のものが利用できる。回動位置センサ34は、直接的に角度を検出するものやフロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な位置関係から間接的に角度を算出するものなど、各種の方式のセンサを用いることができる。回動位置センサ34で検出された回動角度は、後述する制御部50におけるフロントフレーム10及びリアフレーム20の連結状態の制御に供される。これにより、運転者の操作に対して、迅速な連結状態の制御を行うことができるので、運転者の意図に応じた操作感の良い電動車椅子1の提供が可能である。
【0043】
一対のストッパ45,45は、
図1及び
図3に示すように、円柱状に形成されており、リアフレーム20の下面側から下方に向けて突出するように形成されている。ストッパ45,45は、車幅方向に間隔を空けて、左右対称となるように配されている。ストッパ45,45は、フロントフレーム10がリアフレーム20に対して左右方向に最大回動角度で回動した際にフロントフレーム10の後方部10c,10cが当接するものとされている。従って、ストッパ45,45は、フロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な回動が許容される最大回動角度において、前記回動を制限することができる。
【0044】
このように、上述した移動体1は、フロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な回動が、許容される最大回動角度に達した場合に、前記回動に制限を掛けることができる。そのため、上述した電動車椅子1は、簡素な構成で、フロントフレーム10及びリアフレーム20が、許容される最大回動角度を超えて回動することを制限できる。これにより、上述した電動車椅子1は、コスト低減が期待できる。また、上述した電動車椅子1は、制御の簡素化も期待できる。
【0045】
図2に示すように、制御部50は、例えば、マイクロコンピュータ等の演算処理装置で構成されており、電動車椅子1全体を制御することができる。なお、制御部50は、単一のものだけではなく、複数設けられていてもよい。制御部50には、操作部51、ソレノイド38、回動位置センサ34、モータドライバ41,41、モード切替スイッチ52、及び通知部55等が接続されている。制御部50は、操作指示に応じてモータドライバ41,41に制御信号を送信することにより、モータ40,40の駆動制御を行うことができる。また、制御部50は、連結部30に係る連結状態の切り替え制御を行うことができる。制御部50は、電動車椅子1が直進状態である場合において、連結部30に係る連結状態を固定状態とすることができる。制御部50、電動車椅子1を旋回させるための旋回指示を受け付けた場合において、連結部30に係る連結状態を回動状態とすると共に、モータ40,40を駆動することにより一対の前輪2,2に旋回力を発生させることで、前記旋回力の方向に前記フロントフレーム10を回動させることができる。
【0046】
操作部51は、例えば、ジョイスティックやトラックボール等で構成されており、運転者による操作の入力を受け付けることができる。操作部51は、操作に応じて、制御部50に直進指示や旋回指示に係る入力信号を送信するものとされている。制御部50は、入力信号を受け付け、モータドライバ41,41や連結部30に対して制御信号を出力する。すなわち、制御部50は、運転者の操作による直進指示や旋回指示を、操作部51を介して受け付けることにより、これらに応じた制御を行うものとされている。これにより、運転者は、操作部51を操作することにより、電動車椅子1を進行方向に向けて走行させることができる。なお、操作部51には、各種の手段が採用できる。
【0047】
モード切替スイッチ52は、フロントフレーム10の回動を固定する固定状態と、フロントフレーム10の回動を許容する回動状態と、を切り替えるものとされている。言い換えると、モード切替スイッチ52は、係合溝33を係合状態とする制御を行う通常走行モードと、係合溝33を非係合状態とする制御を行う操舵補助モードとの切り替えを行うものとされている。モード切替スイッチ52は、例えば、物理的なON・OFFスイッチやフィルム状のシートスイッチ、あるいは、ディスプレイ上のタッチスイッチなど各種のスイッチで構成することができる。モード切替スイッチ52を切り替えることにより、制御部50は、ソレノイド38のON・OFF制御を行うことができる。これにより、制御部50は、プランジャ36の進退動を制御することができる。すなわち、制御部50は、運転者のモード切替スイッチ52の切り替えにより連結部30に係る連結状態(回動状態及び固定状態)の切り替え制御を行うことができる。
【0048】
このように、上述した電動車椅子1は、通常走行モードと操舵補助モードとを切り替えることができるので、運転者の意図に応じて、通常走行モードと、操舵補助モードとを切り替えることができる。すなわち、上述した電動車椅子1は、運転者の意図に反して不用意に通常走行モードと操舵補助モードとが切り替わることを抑制できる。これにより、上述した電動車椅子1における操作性が向上する。なお、通常走行モードと、操舵補助モードとが、電動車椅子1の走行状態に応じて、自動的に切り替えられるようにしてもよい。
【0049】
通知部55は、表示ランプや操作パネル(各種のディスプレイ装置)の他、音声による発話等の各種の通知手段で構成することができる。本実施形態では、通知部55が表示ランプで形成されている。通知部55は、通常走行モード及び操舵補助モードが切り替えられたことを表示ランプの点灯により通知することができる。本実施形態では、通知部55による通知は、操舵補助モードとなった場合に継続的にランプを点灯させ、通常走行モードに切り替わった際に消灯するものとされている。これにより、上述した電動車椅子1は、運転者の操作性を向上させることができる。
【0050】
なお、通知部55による通知は、上記の他、通常走行モードと操舵補助モードとで異なる色のランプを点灯させるものや通常走行モード時にランプを点灯させ、操舵補助モードとなった場合にランプを消灯させるものなど、各種のパターンでの表示を採用できる。また、通知部55による通知は、例えば、通常走行モード及び操舵補助モードのいずれが選択されているか認識できるような表示ランプの点灯、音声による発話、操作パネル等への表示など各種の通知手段で行うことができる。
【0051】
以上が、本発明に係る電動車椅子1(移動体1)の構成の一実施形態であり、次に電動車椅子1における操舵補助に係る動作について
図4~
図6を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、初期状態において通常走行モードで走行していることを前提として説明する。
【0052】
図4(a)に示すように、壁60沿いに電動車椅子1が直進走行している状態では、プランジャ36が係合溝33に係合している。
【0053】
図4(b)に示すように、運転者により走行モードが、通常走行モードから操舵補助モードに切り替えられると、ソレノイド38がONに切り替えられ、プランジャ36と係合溝33との係合が解除される(プランジャ36が後退する)。
【0054】
図5(c)に示すように、運転者により操作部51が操作されて、左方向への旋回指示が行われると、フロントフレーム10が左方向に回動し始め、前輪2,2が左方向に方向付けられる。このとき、ソレノイド38がOFFに切り替えられ、プランジャ36がコイルバネ37に付勢されることにより、プランジャ36と案内面32とが当接する。また、制御部50は、モータ40,40を駆動することにより前輪2,2に旋回力を発生させることで、前記旋回力の方向(本実施形態では左方向)にフロントフレーム10を回動させることができる。言い換えれば、制御部50は、前輪2,2を駆動して前輪2,2に回転速度差を発生させることで、前記回転速度差に応じて所定の方向(本実施形態では左方向)にフロントフレーム10を回動させることができる。
【0055】
図5(d)に示すように、電動車椅子1が左方向に旋回を始めるに伴い、後輪3,3が追従し始め、フロントフレーム10の回動角度が小さくなる。すなわち、電動車椅子1が左方向を向いた直進状態に近づくように制御部50による制御が行われる。
【0056】
図6(e)に示すように、電動車椅子1の前輪2,2が、直進状態となり、後輪3,3の向く方向と揃うと、壁60から離間する左斜め前方に向けて電動車椅子1が走行するように制御部50による制御が行われる。また、電動車椅子1が直進状態となることにより、プランジャ36が係合溝33に係合し、連結部30に係る連結状態が固定状態とされる。
【0057】
以上が、本発明に係る電動車椅子1の動作についての一実施形態であり、次に、本発明に係る電動車椅子1の操舵補助に係るフローについて
図7のフロー図を参照しながら以下に説明する。
【0058】
≪操舵補助に係るフローについて≫
まず、電動車椅子1が壁際を走行している状態で、脱出動作が開始される(ステップS10)。ステップS10で脱出動作が開始されると、モード切替スイッチ52がONされているか否かが判断される(ステップS11)。
【0059】
ステップS11において、モード切替スイッチ52がOFFの場合は、ステップS11に処理が戻され、ステップS11の処理が繰り返される。一方、モード切替スイッチ52がONされている場合は、ソレノイド38がONされる(ステップS12)。
【0060】
ステップS12においてソレノイド38がONされると、通知部55において、操舵補助モード実行中のランプが点灯する(ステップS13)。続いて、回動位置センサ34によって検出された回動状態に基づいて、フロントフレーム10の回動位置が中央位置(直進状態)にあるか否かの判定が行われる(ステップS14)。
【0061】
ステップS14において、フロントフレーム10の回動位置が中央位置(直進状態)にない(回動位置センサ34がOFFの状態)と判断されると、ソレノイド38がOFFされ、プランジャ36が、案内部材31の案内面32に向けて付勢される(ステップS15)。これにより、プランジャ36が案内面32に当接しながら回動方向に案内される。
【0062】
続いて、回動位置センサ34によって、フロントフレーム10の回動位置が中央位置(直進状態)にあるか否かの判定が行われる(ステップS16)。ステップS16において、フロントフレーム10の回動位置が中央位置にないと判断されると、ステップS16に処理が戻され、ステップS16の処理が繰り返される。一方、ステップS16において、フロントフレーム10の回動位置が中央位置にあると判断された場合は、操舵補助モードの実行中のランプが消灯され(ステップS17)、再び処理がステップS11に戻される。
【0063】
ステップS14において、フロントフレーム10の回動位置が中央位置に中央位置(直進状態)にある(回動位置センサ34がONの状態)と判断されると、カウンタ(タイマー)が増加される(ステップS20)。続いて、カウンタがオーバーフロー(一定時間が経過)したか否かの判断が行われる(ステップS21)。
【0064】
ステップS21において、カウンタがオーバーフローしていないと判断された場合は、処理がステップS14に戻される。一方、ステップS21において、カウンタがオーバーフローしたと判断された場合は、ソレノイド38がOFFされ、プランジャ36が案内面32に向けて付勢される(ステップS22)。
【0065】
続いて、操舵補助モードの実行中のランプが消灯され(ステップS23)、再び処理がステップS11に戻される。
【0066】
以上が、本発明の電動車椅子1(移動体1)の操舵補助に係る動作フローの一実施形態であり、次に、本発明の電動車椅子1の作用効果について以下に説明する。
【0067】
上述した電動車椅子1は、連結部30を介してフロントフレーム10及びリアフレーム20が相対的に回動可能な回動状態と、相対的に回動不能な固定状態とが切り替え可能に構成されている。従って、上述した電動車椅子1は、制御部50が旋回指示を受け付けた場合において、フロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な回動によって回動状態とすることによって、一対の前輪2,2を駆動しつつ、一対の前輪2,2をフロントフレーム10と一体的に回動させることができる。そのため、上述した電動車椅子1は、前輪駆動方式を採用しつつ、旋回中心を前輪2,2側に位置させることができる。これにより、上述した電動車椅子1は、壁60との距離が小さい場合であっても、壁60及び後輪3,3が干渉することなく旋回することができる。
【0068】
また、上述した電動車椅子1において、制御部50は、モータ40,40の駆動により一対の前輪2,2に旋回力を発生させることで、前記旋回力の方向にフロントフレーム10を回動させるものとされている。ここで、旋回力は、一対の前輪2,2に生じた回転速度差によって発生するものとされている。従って、上述した電動車椅子1は、運転者の旋回操作によって生じた一対の前輪2,2の回転速度差に応じて旋回を制御できる。これにより、上述した電動車椅子1は、前輪2,2(駆動輪)側の車軸を進行方向に対して回動させる駆動源(モータ等)を排することができるので、コスト低減が期待できる。
【0069】
また、上述した電動車椅子1は、車軸を回動させるための駆動源を設ける必要がないので、構造上の制約を排することができる。また、上述した電動車椅子1は、運転者の直感的な操作により、運転者の意図した旋回をさせることができるので、操作性を向上させることができる。また、上述した電動車椅子1は、前輪駆動方式の特徴を活かして、段差を容易に乗り越えることができる。また、上述した電動車椅子1は、直進状態にある場合において、連結部30に係る連結状態を固定状態とすることができるので、直進状態の走行が安定する。また、上述した電動車椅子1は、前輪駆動を採用しつつ、後輪3,3の旋回半径が大きくなることを抑制でき、操作性を向上させることができる。
【0070】
上述した電動車椅子1は、旋回状態にある場合(旋回指示を受け付けた場合)において、コイルバネ37で付勢されたプランジャ36が、案内部材31の案内面32に当接しながら案内される。また、案内部材31は、フロントフレーム10及びリアフレーム20における回動中心に配されており、案内面32が、フロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な回動に伴って周方向に相対的に回動するものとされている。従って、フロントフレーム10及びリアフレーム20は、案内面32に案内されながら周方向に精度良く相対回動する。そのため、上述した電動車椅子1は、旋回安定性が向上する。また、上述した電動車椅子1は、直進状態にある場合において、プランジャ36が係合溝33に係合されるので、直進安定性が向上する。従って、上述した電動車椅子1は、直進状態及び旋回状態のいずれにおいても走行が安定する。
【0071】
以上が、本発明に係る電動車椅子1(移動体1)の実施形態であるが、本発明に係る電動車椅子1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、各種の変形を行うことができる。
【0072】
本実施形態では、移動体1が電動車椅子1である場合を例示したが、本発明の移動体1は、カートやシニアカーなどの各種の車両や車椅子に利用することができる。また、移動体1の前輪2や後輪3の数量は、適宜、変更することができる。かかる場合は、前輪2や後輪3の数量に応じて、フロントフレーム10やリアフレーム20の形状や大きさなどを変更すればよい。また、本発明の範囲内でフロントフレーム10及びリアフレーム20がさらに分割されていてもよい。
【0073】
また、本実施形態では、フロントフレーム10が、リアフレーム20に対して回動するものとしたが、フロントフレーム10及びリアフレーム20は、相対的に回動ができるものであればよい。また、本実施形態では、一対の前輪2,2が設けられているが、電動車椅子1は、一対の前輪2,2だけではなく、複数対の前輪2,2を備えるものでもよい。また、本実施形態では、一対の後輪3,3が設けられているが、電動車椅子1は、単一の後輪3で構成されるものや2つ以上の後輪3を備えるものでもよい。
【0074】
また、本実施形態では、連結部30が、プランジャ36と案内部材31とで構成されているが、連結部30には、各種の形態の連結部材や連結方法が利用できる。また、本実施形態では、プランジャ36及び係合溝33がそれぞれ1つ設けられているが、プランジャ36及び係合溝33は、単一のものだけではなく、複数設けられていてもよい。また、本実施形態では、プランジャ36及び係合溝33の係合により連結状態が変更されているが、これには限定されず、係合状態及び非係合状態の切り替えは、各種の手段や方法で行うことができる。また、係合部33の係合状態及び非係合状態の切り替えは、発明の目的を逸しない範囲で、適宜変更できる。また、本実施形態では、フロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な回動により、電動車椅子1を回動させるものとしたが、例えば、駆動輪の車軸の進行方向に対する回動を併用することも可能である。
【0075】
本実施形態では、制御部50が、係合部33を係合状態とする制御を行う通常走行モードと、係合部33を非係合状態とする制御を行う操舵補助モードとの切り替えが可能であるが、制御のモードは、上記以外のモードを追加することもできる。また、本実施形態では、通知部55により通常走行モード及び操舵補助モードが切り替えられたことを通知するものとしたが、通知部55は、必要に応じて設ければよく、通知部55を設けない構成とすることもできる。また、通知部55は、表示ランプだけではなく、音声による発話や発報、ディスプレイへの表示など各種の手段を利用することができる。
【0076】
本実施形態では、回動位置センサ34が設けられているが、回動位置センサ34は、必要に応じて設ければよく、回動位置センサ34を有しないものとすることもできる。また、回動位置センサ34は、単一のものだけではなく複数設けられていてもよい。また、回動位置センサ34は、制御部50においてフロントフレーム10及びリアフレーム20の連結状態を制御可能な場所であれば、各種の場所に設けることができる。
【0077】
本実施形態に係る電動車椅子1は、ストッパ45,45を設けて、フロントフレーム10のリアフレーム20に対する最大回動角度に制限を掛けるようにしているが、ストッパ45,45だけではなく、各種の手段を用いて、フロントフレーム10のリアフレーム20に対する回動角度を制限できる。フロントフレーム10及びリアフレーム20の相対的な回動の制限は、物理的なものだけではなく、センサ等で行うものであってもよい。また、前記回動の制限は、直接的に行うものだけではなく、間接的に行うものであってもよい。また、最大回動角度は、使用条件等に応じて、各種の角度に設定することができる。また、本実施形態では、左右対称となるようにストッパ45,45が設けられているが、左右対称のものだけではなく、使用条件等に応じて、左右非対称のものとすることもできる。
【0078】
以上が、本発明に係る移動体及び車椅子の各種の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の移動体は、カートやシニアカー等の各種の車両等に利用することができる。また、本発明の車椅子は、電動車椅子等の各種の車椅子に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 :移動体(電動車椅子、車椅子)
2 :前輪(駆動輪)
3 :後輪(従動輪)
10 :フロントフレーム
20 :リアフレーム
30 :連結部
31 :案内部材
32 :案内面
33 :係合溝(係合部)
35 :係合部材
36 :プランジャ(突出部)
37 :コイルバネ(弾性部材)
40 :モータ(駆動部)
45 :ストッパ
50 :制御部