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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024021985
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】冷間加工品
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/00 20060101AFI20240208BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20240208BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240208BHJP
【FI】
C22C30/00
C22F1/16 Z
C22F1/00 630K
C22F1/00 624
C22F1/00 623
C22F1/00 626
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 683
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 684C
C22F1/00 692A
C22F1/00 641C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125233
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼間 公久
(72)【発明者】
【氏名】早川 恭平
(72)【発明者】
【氏名】前口 貴治
(57)【要約】
【課題】表層硬化層の生成を抑制可能な冷間加工品を提供する。
【解決手段】Mn、Fe、Ni、Cr、及び不可避的不純物を含む材料から形成された冷間加工品は、材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれのモル分率をc、c、c、cとすると、-(clnc+clnc+clnc+clnc)≧1.3である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn、Fe、Ni、Cr、及び不可避的不純物を含む材料から形成された冷間加工品であって、
前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれのモル分率をc、c、c、cとすると、-(clnc+clnc+clnc+clnc)≧1.3である冷間加工品。
【請求項2】
7c+8c+10c+6c≧7.9である、請求項1に記載の冷間加工品。
【請求項3】
前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれの原子半径をr、r、r、rとすると、10≦(r +r +r +r )-(r+r+r+r≦17である、請求項1に記載の冷間加工品。
【請求項4】
前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれの原子半径をr、r、r、rとすると、10≦(r +r +r +r )-(r+r+r+r≦17である、請求項2に記載の冷間加工品。
【請求項5】
=0.15、0.15≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.65)、c≦0.40、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項6】
=0.16、0.15≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.64)、c≦0.40、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項7】
=0.17、0.15≦c≦0.40、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.63)、c≦0.40、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項8】
=0.18、0.15≦c≦0.37、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.62)、c≦0.40、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項9】
=0.19、0.15≦c≦0.28、(-0.5c+0.43)≦c≦(-c+0.61)、c≦0.40、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項10】
=0.15、0.20≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.65)、c≦0.25c+0.29、c≦0.36、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項11】
=0.16、0.20≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.64)、c≦0.25c+0.29、c≦0.36、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項12】
=0.17、0.19≦c≦0.39、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.63)、c≦0.2c+0.302、c≦0.35、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項13】
=0.18、0.20≦c≦0.37、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.62)、c≦0.25c+0.29、c≦0.35、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項14】
=0.19、0.20≦c≦0.28、(-0.5c+0.43)≦c≦(-2c+0.87)、c≦0.25c+0.29、c≦0.35、c=1-c-c-cである、請求項4に記載の冷間加工品。
【請求項15】
前記冷間加工品は、棒材、管材、又は板材である、請求項1~14のいずれか一項に記載の冷間加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷間加工によって製造された製品である冷間加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントにおける機器及び配管等の素材として、オーステナイト系ステンレス鋼が主として用いられている。このオーステナイト系ステンレス鋼は、通常の切削、研削等の冷間加工を行うと、表面に硬化層が形成されることが知られている。例えば、沸騰水型原子力プラントの再循環系配管等では一般に、この硬化層の硬さがビッカース硬さで300HV以上になると、応力腐蝕割れ(SCC)が発生する可能性があると言われており、加圧水型原子力プラントの水が循環する機器及び配管においても同様と考えられている。特許文献1では、加工に伴う硬化層の発生を抑制するために、すくい角を+29°以上である仕上げ切削工具を用いることで、加工された表層の硬さ(ビッカース硬さ)を300HV未満に抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/024706号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1による方法では、切削工具が消耗すると硬さの低減効果が失われるおそれがあり、さらに、この方法では機械加工のみにしか対応できず、例えばグラインダ加工に対しては硬さを低減するための対策にはならないといった課題があった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、表層硬化層の生成を抑制可能な冷間加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る冷間加工品は、Mn、Fe、Ni、Cr、及び不可避的不純物を含む材料から形成された冷間加工品であって、前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれのモル分率をc、c、c、cとすると、-(clnc+clnc+clnc+clnc)≧1.3である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の冷間加工品によれば、材料の配置のエントロピーは、気体定数をRとすると、1.3R以上となる。これにより、オーステナイト相安定性が著しく高まり、冷間加工時における冷間加工品の表面及び内部の硬さの上昇を抑制するので、冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る冷間加工品の材料の製造方法を示すフローチャートである。
図2】冷間加工による加工率とビッカース硬さとの関係を示す実験結果のグラフである。
図3】イオン照射前後における合金中の各元素のモル分率の変化を示す実験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態による冷間加工品について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<本開示の一実施形態に係る冷間加工品の構成>
本開示の一実施形態に係る冷間加工品は、金属製の材料から冷間加工によって製造された製品であり、例えば、ボルト等の棒材や、配管等の管材や、構造用鋼板等の板材である。本開示の一実施形態に係る冷間加工品を構成する材料は、Mn、Fe、Ni、Crの4成分及び不可避的不純物を含む合金であり、これらの4成分がほぼ等原子量(又は等モル分率)で混合したミディアムエントロピー合金である。
【0011】
尚、冷間加工品の材料として、Mn、Fe、Ni、Crの4成分から構成される合金が好ましい理由は、次のように説明することができる。Mn、Fe、Ni、Cr、Coの5成分から構成されるハイエントロピー合金が広く研究されているが、原子炉環境での被爆低減の観点からは、Coを除いた合金、すなわちMn、Fe、Ni、Crの4成分から構成される合金が好ましい。また、Fe-Cr-Ni系のステンレス鋼に対して、積層欠陥エネルギー(SFE)を高めるためには、Crに比べてMoやMnが含まれることが有効であるが、Moは体心立方格子(bcc)構造を安定化させるための元素であるため、このような目的が不要な冷間加工品の材料としてMoを除外すると、Mn、Fe、Ni、Crの4成分から構成される合金が好ましい。
【0012】
このミディアムエントロピー合金は、下記式(1)で表される配置のエントロピー(configurational entropy)ΔSが1.3R[J/K](Rは気体定数)以上である。
ΔS=-R(clnc+clnc+clnc+clnc)・・・(1)
ここで、c~cはそれぞれ、ミディアムエントロピー合金中のMn、Fe、Ni、Crのモル分率である。
【0013】
配置のエントロピーΔSが1.3R以上であるミディアムエントロピー合金は、ミディアムエントロピー合金の組成のみを条件として、-(clnc+clnc+clnc+clnc)≧1.3を満たすミディアムエントロピー合金と言い換えることができる。
【0014】
このように、Mn、Fe、Ni、Crの4成分から構成されるとともに配置のエントロピーΔSが1.3R以上であるミディアムエントロピー合金は、オーステナイト相安定性が著しく高い。そうすると、このようなミディアムエントロピー合金を冷間加工すると、冷間加工時における冷間加工品の表面及び内部の硬さの上昇を抑制することができる。これにより、冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0015】
このようなミディアムエントロピー合金において、構成元素の最外殻電子数の平均値である価電子濃度(VEC)が7.9以上であれば、ミディアムエントロピー合金の面心立方格子(fcc)構造が安定しやすく、材料としての安定性が高まる。このような材料は、結晶構造に起因して複数のすべり系が活動できるため、塑性変形能が高く、一般的に製造性及び加工性に優れる。この結果、冷間加工品の製造性及び加工性を向上することができる。
【0016】
尚、Mn、Fe、Ni、Crの4成分から構成される合金のVECは下記式(2)のように表される。
VEC=7c+8c+10c+6c・・・(2)
したがって、VECが7.9以上であるミディアムエントロピー合金について、ミディアムエントロピー合金の組成のみを条件として、7c+8c+10c+6c≧7.9を満たすミディアムエントロピー合金と言い換えることができる。
【0017】
また、このようなミディアムエントロピー合金において、Mn、Fe、Ni、Crのそれぞれの原子半径をr、r、r、rとしたときに、下記式(3)で表される構成元素の原子半径の標準偏差VAR_Radiusが10以上かつ17以下であることにより、
固溶体における格子点位置のランダム性が高くなるので、硬化しにくいという材料特性が得られる。
VAR_Radius=(r +r +r +r )-(r+r+r+r・・・(3)
【0018】
原子配置のランダム性を高めるためにVAR_Radiusを10以上としているが、VAR_Radiusを大きくし過ぎると冷間加工性に悪影響を及ぼすので、冷間加工性に悪影響を及ぼさないことを目的に、VAR_Radiusの上限値を17とした。これにより、冷間加工性を悪化させずに硬化しにくいという材料特性を得ることができる。
【0019】
上述のミディアムエントロピー合金におけるMnのモル分率を0.15、0.16、0.17、0.18、0.19としたときのそれぞれの場合において、ΔS≧1.3R、VEC≧7.9、10≦VAR_Radius≦17としたときの、Fe、Ni、Crのそれぞれのモル分率の範囲を、他の元素のモル分率を用いて表すと、下記表1のようになる。
【0020】
【表1】
【0021】
ミディアムエントロピー合金における各構成元素のモル分率を表1の範囲にすることにより、冷間加工品の表面及び内部の硬さの上昇を抑制するので、冷間加工性を悪化させずに冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0022】
次に、上述のΔSとVECとVAR_Radiusとのそれぞれの条件に、SFEが120[mJ/m]以上という条件を付け加えて、上述のミディアムエントロピー合金におけるMnのモル分率を0.15、0.16、0.17、0.18、0.19としたときのそれぞれの場合におけるFe、Ni、Crのそれぞれのモル分率の範囲を、他の元素のモル分率を用いて表すと、下記表2のようになる。
【0023】
尚、SFEの算出式については、YonezawaらがMetallurgical and Materials A,Vol.44A,2013において公表している下記式(4)を用いた。
SFE=-7.1+2.8Ni+0.49Cr+2.0Mo-2.0Si+0.75Mn-5.7C-24N・・・(4)
ここで、Ni、Cr、Mo、Si、Mn、C、Nはそれぞれ、各元素のモル分率を表している。上述のミディアムエントロピー合金では、Mo、Si、C、Nはそれぞれゼロである。
【0024】
【表2】
【0025】
ミディアムエントロピー合金における各構成元素のモル分率を表2の範囲にすることにより、照射環境下において、ミディアムエントロピー合金の結晶粒界近傍の偏析(照射誘起偏析)の程度が少なくなる。照射誘起偏析は照射環境下における照射誘起応力腐食割れ(IASCC)の主要因の一つとされているため、耐IASCC性を向上することができる。
【0026】
<本開示の一実施形態に係る冷間加工品の材料の製造方法>
次に、冷間加工品を構成する上述の材料の製造方法について説明する。図1のフローチャートに示されるように、溶解・精錬工程S1において、Mn、Fe、Ni、Crのそれぞれを所定の成分比率となるように配合した後に溶解し、不純物元素を減らすために真空脱ガス工程を経て、精錬した鋼塊を製造する。例えば、非消耗式タングステン電極アーク溶解を用いたアルゴン雰囲気において、アルゴンガスでプラズマを作り、プラズマ中の電子を加熱源としてアーク熱により、水冷銅鋳型内のMn、Fe、Ni、Crの混合物を溶解し凝固させることで、上述の鋼塊が得られる。
【0027】
溶解・精錬工程S1に続く均質化熱処理工程S2において、溶解時の元素偏析を低減させるため、高温環境で保持して(例えば、電気炉内において1200℃の条件下で24時間程度の保持)元素の拡散を促し、鋼塊中の均質性を高める。次の熱間加工工程S3において、鋼塊中の間隙や鋳造組織を解消するために、高温環境での塑性加工を行う。例えば、1100℃程度の温度で断面減少率が50%(理想的には25%)以上の加工を行う。この工程は、過熱することで金属の変形が容易になり、溶解・精錬工程S1で生じた空隙を解消し、また、鋳造組織を破壊させて均質性を高めること目的としている。最後の溶体化熱処理工程S4において、加工時に加わったひずみを除去し組織の安定性を高めるため、固溶体化温度以上に保持後急冷する。これにより、均質な組織が得られる。上述の工程S1~S4によって得られた材料を冷間加工することにより、上述の冷間加工品が得らえる。
【実施例0028】
上述の製造方法によって、下記表3の実施例1及び2の合金を製造した。実施例1は、表1及び2の両方の範囲を満たす合金であり、実施例2は、表1の範囲を満たす合金である。
【0029】
【表3】
【0030】
実施例1及び2と、比較例としての316ステンレス鋼とのそれぞれについて、冷間加工前後のビッカース硬さ(JIS Z 2244)を測定し、冷間加工による加工率とビッカース硬さとの関係を図2に示した。加工率とは、冷間加工によって加工を受ける部分について、冷間加工前の断面積Aと、冷間加工後の断面積Aとを測定し、下記式(5)で算出した値である。
加工率=(A-A)/A×100・・・(5)
【0031】
図2によれば、比較例では加工率が20%未満でビッカース硬さが300HVを超えてしまうが、実施例1及び2では加工率が80%であってもビッカース硬さが300HV未満となっている。このことから、冷間加工時に材料が硬化しにくくなると言えるので、冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制するという作用効果が得られることが確かめられた。
【0032】
次に実施例1及び比較例1のそれぞれについて、軽水炉炉心を模擬したイオン照射を行った。具体的には、京都大学エネルギー理工学研究所が所有する複合ビーム材料照射装置(DuET)でのイオン照射試験を行った。照射損傷導入のためのFe3+の加速には、タンデムコックロフトウォルトン型加速器(High Voltage Engineering、HVEE Tandetron Model 4117)を用いた。イオン源からFe3+を引出し、Fe3+を6.4MeVの加速電圧で照射に供した。尚、この際の照射温度は400℃であり、照射時間の累積は18.5時間であり、公称照射量は22.8dpaであった。イオン照射前後で各合金中の各元素のモル分率の変化を測定した。具体的には、収束イオンビームマイクロサンプリングにより試料小片を摘出し、日本エフイー・アイ株式会社製の電界放出形透過電子顕微鏡(Talos F200X)のEDX分析装置を用いて結晶粒界近傍の元素濃度を分析した。実施例1及び比較例1のそれぞれについて、イオン照射前後で各合金中の各元素のモル分率の変化を図3に示した。
【0033】
図3によれば、実施例1の各元素のモル分率の変化が実施例2及び比較例1に比べて小さいことが分かる。このことから、照射誘起偏析が実施例2及び比較例1に比べて実施例1が小さいと言えるので、実施例1は実施例2及び比較例に比べて耐IASCC性が優れていると言える。
【0034】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0035】
[1]一の態様に係る冷間加工品は、
Mn、Fe、Ni、Cr、及び不可避的不純物を含む材料から形成された冷間加工品であって、
前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれのモル分率をc、c、c、cとすると、-(clnc+clnc+clnc+clnc)≧1.3である。
【0036】
本開示の冷間加工品によれば、材料の配置のエントロピーは、気体定数をRとすると、1.3R以上となる。これにより、オーステナイト相安定性が著しく高まり、冷間加工時における冷間加工品の表面及び内部の硬さの上昇を抑制するので、冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0037】
[2]別の態様に係る冷間加工品は、[1]の冷間加工品であって、
7c+8c+10c+6c≧7.9である。
【0038】
このような構成によれば、材料の面心立方格子構造が安定しやすく、材料としての安定性が高まる。このような材料は、結晶構造に起因して複数のすべり系が活動できるため、塑性変形能が高く、一般的に製造性及び加工性に優れる。この結果、冷間加工品の製造性及び加工性を向上することができる。
【0039】
[3]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[1]の冷間加工品であって、
前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれの原子半径をr、r、r、rとすると、10≦(r +r +r +r )-(r+r+r+r≦17である。
【0040】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに硬化しにくいという材料特性を得ることができる。
【0041】
[4]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[2]の冷間加工品であって、
前記材料中のMn、Fe、Ni、Crのそれぞれの原子半径をr、r、r、rとすると、10≦(r +r +r +r )-(r+r+r+r≦17である。
【0042】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに硬化しにくいという材料特性を得ることができる。
【0043】
[5]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.15、0.15≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.65)、c≦0.40、c=1-c-c-cである。
【0044】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0045】
[6]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.16、0.15≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.64)、c≦0.40、c=1-c-c-cである。
【0046】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0047】
[7]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.17、0.15≦c≦0.40、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.63)、c≦0.40、c=1-c-c-cである。
【0048】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0049】
[8]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.18、0.15≦c≦0.37、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.62)、c≦0.40、c=1-c-c-cである。
【0050】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0051】
[9]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.19、0.15≦c≦0.28、(-0.5c+0.43)≦c≦(-c+0.61)、c≦0.40、c=1-c-c-cである。
【0052】
このような構成によれば、冷間加工性を悪化させずに冷間加工品の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
【0053】
[10]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.15、0.20≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.65)、c≦0.25c+0.29、c≦0.36、c=1-c-c-cである。
【0054】
このような構成によれば、照射環境下において、材料の照射誘起偏析の程度が少なくなるので、耐IASCC性を向上することができる。
【0055】
[11]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.16、0.20≦c≦0.40、(-0.5c+0.44)≦c≦(-c+0.64)、c≦0.25c+0.29、c≦0.36、c=1-c-c-cである。
【0056】
このような構成によれば、照射環境下において、材料の照射誘起偏析の程度が少なくなるので、耐IASCC性を向上することができる。
【0057】
[12]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.17、0.19≦c≦0.39、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.63)、c≦0.2c+0.302、c≦0.35、c=1-c-c-cである。
【0058】
このような構成によれば、照射環境下において、材料の照射誘起偏析の程度が少なくなるので、耐IASCC性を向上することができる。
【0059】
[13]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.18、0.20≦c≦0.37、(-0.5c+0.435)≦c≦(-c+0.62)、c≦0.25c+0.29、c≦0.35、c=1-c-c-cである。
【0060】
このような構成によれば、照射環境下において、材料の照射誘起偏析の程度が少なくなるので、耐IASCC性を向上することができる。
【0061】
[14]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[4]の冷間加工品であって、
=0.19、0.20≦c≦0.28、(-0.5c+0.43)≦c≦(-2c+0.87)、c≦0.25c+0.29、c≦0.35、c=1-c-c-cである。
【0062】
このような構成によれば、照射環境下において、材料の照射誘起偏析の程度が少なくなるので、耐IASCC性を向上することができる。
【0063】
[15]さらに別の態様に係る冷間加工品は、[1]~[14]のいずれかの冷間加工品であって、
前記冷間加工品は、棒材、管材、又は板材である。
【0064】
このような構成によれば、棒材、管材、又は板材の表面における表層硬化層の生成を抑制することができる。
図1
図2
図3