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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022004
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】分取液体クロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/80 20060101AFI20240208BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240208BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240208BHJP
   G01N 30/24 20060101ALI20240208BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01N30/80 F
G01N30/80 E
G01N30/86 V
G01N30/86 Q
G01N30/02 Z
G01N30/86 M
G01N30/24 Z
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125266
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】玉置 宗一朗
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥平
(57)【要約】
【課題】分取シーケンスが開始された後で実際の第2遅れ時間が変化した場合にも対応し得る分取液体クロマトグラフを提供する。
【解決手段】分取シーケンスの実行中に第1検出器(8)と第2検出器(10)のいずれにおいてもピークとして検出される特定の成分が注入されると、制御装置(14)は、情報記憶領域に記憶している時間差情報のメンテナンス動作を実行する。メンテナンス動作において、制御装置(14)は、第1保持時間と第2保持時間との差分が所定の許容範囲に入っているか否かのピーク判定を実行し、それによって、第2検出器(10)で成分が検出されてから当該成分がフラクションコレクタに到達するまでの第2遅れ時間が以前の状態から変化しているか否かを確認する。制御装置(14)は、ピーク判定によって、第2遅れ時間が以前の状態から変化していると判断した場合、計算した第1保持時間と第2保持時間との差分によって情報記憶領域に記憶されている時間差情報を最新の状態に更新する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を設定された流量で送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプにより送液される移動相中に試料を注入するインジェクタと、
前記インジェクタにより前記移動相中に注入された試料中の成分を互いに分離するための分離カラムと、
前記分離カラムの出口に流体接続され、前記分離カラムからの溶出液が流れる出口流路と、
前記出口流路から分岐し、前記出口流路の前記溶出液の流れの一部を取り出すための分岐流路と、
前記出口流路と流体接続され、前記溶出液中の成分の濃度に応じた第1信号を出力する第1検出器と、
前記分岐流路と流体接続され、前記分岐流路を通じて供給される前記溶出液中の成分の濃度に応じた第2信号を出力する第2検出器と、
前記第1検出器の出口に流体接続され、前記分離カラムからの溶出液のうちの所望の部分を個別の捕集容器に捕集するためのフラクションコレクタと、
前記送液ポンプ、前記インジェクタ、及び前記フラクションコレクタの動作を制御して設定された分取シーケンスを実行するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記分取シーケンスが開始される前に設定される初期設定情報として、前記分離カラムから溶出した成分が前記第1信号でピークとして検出されるまでに要する時間と、前記分離カラムから溶出した成分が前記第2信号でピークとして検出されるまでの時間との時間差についての時間差情報、及び、前記第1信号でピークとして検出された成分が前記フラクションコレクタに到達するまでの時間である第1遅れ時間を記憶する情報記憶領域を有し、前記分取シーケンスの実行中は、前記第1信号でピークとして検出された成分を前記捕集容器に捕集する第1捕集動作において、前記第1遅れ時間を前記フラクションコレクタの動作の制御に適用し、前記第2信号でピークとして検出された成分を前記捕集容器に捕集する第2捕集動作において、前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報及び前記第1遅れ時間を使用して求められる、前記第2信号でピークとして検出された成分が前記フラクションコレクタに到達するまでの時間である第2遅れ時間を前記フラクションコレクタの動作の制御に適用するように構成され、
さらに前記制御装置は、前記分取シーケンスの実行中に前記第1信号及び第2信号のいずれにおいてもピークとして検出される特定の成分を前記移動相中に注入した際に、前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報のメンテナンス動作を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記メンテナンス動作において、前記特定の成分が前記移動相中に注入されてから前記第1信号でピークとして検出されるまでの第1保持時間と前記特定の成分が前記移動相中に注入されてから前記第2信号でピークとして検出されるまでの前記第2保持時間との差分を計算し、計算した前記差分が前記時間差情報を基準に設定される許容範囲に入っているか否かのピーク判定を実行し、前記ピーク判定において、計算した前記差分が前記許容範囲から外れていれば、計算した前記差分で前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報を更新するように構成されている、分取液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ピーク判定において前記第1保持時間と前記第2保持時間との前記差分が前記許容範囲から外れていると判定した場合に、ユーザに対して警告を発するように構成されている、請求項1に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ピーク判定において、前記特定成分注入が実行されたときに前記第1信号及び前記第2信号のそれぞれで現れる前記特定の成分のピークの頂点が現れる時間の差を、前記第1保持時間と前記第2保持時間との前記差分として計算するように構成されている、請求項1又は2に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ピーク判定において、前記第1信号に現れる前記特定の成分のピークの幅と前記第2信号に現れる前記特定の成分のピークの幅との比率を計算し、前記比率が所定の基準範囲に入っているか否かを判定し、前記比率が所定の基準範囲から外れている場合にユーザに対して警告を発するように構成されている、請求項1又は2に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項5】
前記インジェクタは前記捕集容器に捕集された成分を試料として前記移動相中に注入し得るように構成されており、
前記制御装置は、更新された前記時間差情報を使用して計算した前記第2遅れ時間を適用して前記第2捕集動作を実行した後で、前記第2遅れ時間を適用して実行された前記第2捕集動作で前記捕集容器に捕集された成分を前記移動相中に再注入し、前記再注入された成分についての前記第2信号におけるピーク面積に基づいて前記第2捕集動作における前記成分の回収率を評価するように構成されている、請求項1又は2に記載の分取液体クロマトグラフ。
【請求項6】
前記第2検出器は質量分析計である、請求項1又は2に記載の分取液体クロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分取液体クロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィを利用して試料に含まれる複数の成分を互いに分離し、分離した成分のうちの所望の成分を個別の捕集容器に捕集する分取液体クロマトグラフが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
分取液体クロマトグラフは、試料中の成分を互いに分離するための分離カラムの下流に設けられた検出器及びフラクションコレクタと、検出器からの出力信号に基づいてフラクションコレクタの動作を制御する制御装置と、を備えている。分離カラムで互いに分離された各成分は、検出器に導入された際に検出器からの出力信号においてピークとして表れる。制御装置は検出器からの出力信号上で捕集対象の成分のピークが表れたときに当該成分が検出器を通過したことを検知し、そのピークに相当する部分が捕集容器に導かれるようにフラクションコレクタの動作を制御する。捕集対象の成分が検出器を通過してからその成分がフラクションコレクタに到達するまでの時間(以下、遅れ時間という)は、検出器からフラクションコレクタまでの間の流路の内部容量と移動相の流量によって決まるものである。制御装置は、分取が開始される前の所定のタイミング(例えば、移動相の流量が設定されたタイミング)で遅れ時間を計算し、分取が開始された後はその遅れ時間を考慮してフラクションコレクタの動作を制御する。
【0004】
ところで、分取液体クロマトグラフでは、分離カラムと検出器(第1検出器という)との間で流路を分岐させて溶出液の一部を取り出して質量分析計などの別の検出器(第2検出器という)へ導き、第1検出器では検出しにくい成分を第2検出器で検出することによって、成分の分取性能を向上させることがある。この場合、分離カラムから溶出した成分が第1検出器に到達するまでに要する時間と第2検出器に到達するまでに要する時間が全く同じではないため、第2検出器から出力される信号に基づいて成分の捕集を行なう際には、第1検出器から出力される信号に基づいて成分の捕集を行なう場合に適用される遅れ時間(以下、第1遅れ時間という)とは別の遅れ時間(以下、第2遅れ時間という)を適用する必要がある。
【0005】
第2遅れ時間は、移動相中にある成分が注入されてから第1検出器でピークとして検出されるまでの保持時間(第1保持時間という)と移動相中に同じ成分が注入されてからその成分が第2検出器でピークとして検出されるまでの保持時間(第2保持時間という)との差分を計算し、その差分を、検出器からフラクションコレクタまでの間の流路の内部容量及び移動相の流量で決まる第1遅れ時間に加味することで求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/185872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、2つの検出器を備えた分取液体クロマトグラフでは、1以上の試料を注入して所望の成分を個別の捕集容器に捕集していく分取シーケンスが開始される前の初期設定において、特定の成分を含む標準試料を注入して第2遅れ時間を求め、第1遅れ時間とともに分取用のパラメータとして装置に記憶される。
【0008】
分取シーケンスの実行中に、第2検出器に通じる流路で詰まりが発生するなどして実際の第2遅れ時間が分取シーケンスの開始前に設定した値から変化するという事態が生じ得る。しかしながら、これまでの分取液体クロマトグラフでは、分取シーケンスの実行中に分取用のパラメータを修正することができなかったため、このような事態が発生しても当初の第2遅れ時間を使用して分取シーケンスが続行されてしまい、成分の捕集が正常に実行されないという問題があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、分取シーケンスが開始された後で実際の第2遅れ時間が変化した場合にも対応し得る分取液体クロマトグラフを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る分取液体クロマトグラフは、移動相を設定された流量で送液する送液ポンプと、前記送液ポンプにより送液される移動相中に試料を注入するインジェクタと、前記インジェクタにより前記移動相中に注入された試料中の成分を互いに分離するための分離カラムと、前記分離カラムの出口に流体接続され、前記分離カラムからの溶出液が流れる出口流路と、前記出口流路から分岐し、前記出口流路の前記溶出液の流れの一部を取り出すための分岐流路と、前記出口流路と流体接続され、前記溶出液中の成分の濃度に応じた第1信号を出力する第1検出器と、前記分岐流路と流体接続され、前記分岐流路を通じて供給される前記溶出液中の成分の濃度に応じた第2信号を出力する第2検出器と、前記第1検出器の出口に流体接続され、前記分離カラムからの溶出液のうちの所望の部分を個別の捕集容器に捕集するためのフラクションコレクタと、前記送液ポンプ、前記インジェクタ、及び前記フラクションコレクタの動作を制御して設定された分取シーケンスを実行するように構成された制御装置と、を備えている。前記制御装置は、前記分取シーケンスが開始される前に設定される初期設定情報として、前記分離カラムから溶出した成分が前記第1信号でピークとして検出されるまでに要する時間と、前記分離カラムから溶出した成分が前記第2信号でピークとして検出されるまでの時間との時間差についての時間差情報、及び、前記第1信号でピークとして検出された成分が前記フラクションコレクタに到達するまでの時間である第1遅れ時間を記憶する情報記憶領域を有し、前記分取シーケンスの実行中は、前記第1信号でピークとして検出された成分を前記捕集容器に捕集する第1捕集動作において、前記フラクションコレクタの動作の制御に前記第1遅れ時間を適用し、前記第2信号でピークとして検出された成分を前記捕集容器に捕集する第2捕集動作において、前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報及び前記第1遅れ時間を使用して求められる、前記第2信号でピークとして検出された成分が前記フラクションコレクタに到達するまでの時間である第2遅れ時間を前記フラクションコレクタの動作の制御に適用するように構成されている。さらに前記制御装置は、前記分取シーケンスの実行中に前記第1信号及び第2信号のいずれにおいてもピークとして検出される特定の成分を前記移動相中に注入した際に、前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報のメンテナンス動作を実行するように構成されている。前記制御装置は、前記メンテナンス動作において、前記特定の成分が前記移動相中に注入されてから前記第1信号でピークとして検出されるまでの第1保持時間と前記特定の成分が前記移動相中に注入されてから前記第2信号でピークとして検出されるまでの前記第2保持時間との差分を計算し、計算した前記差分が前記時間差情報を基準に設定される許容範囲に入っているか否かのピーク判定を実行し、前記ピーク判定において、計算した前記差分が前記許容範囲から外れていれば、計算した前記差分で前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報を更新するように構成されている。
【0011】
すなわち、本発明では、分取シーケンスの実行中に第1検出器と第2検出器のいずれにおいてもピークとして検出される特定の成分が注入されると、情報記憶領域に記憶されている時間差情報のメンテナンス動作が実行される。メンテナンス動作では、第1保持時間と第2保持時間との差分が所定の許容範囲に入っているか否かのピーク判定が実行され、それによって、第2検出器で成分が検出されてから当該成分がフラクションコレクタに到達するまでの第2遅れ時間が以前の状態から変化しているか否かが自動的に確認される。そして、ピーク判定の結果、第2遅れ時間が以前の状態から変化していると判断されると、計算した第1保持時間と第2保持時間との差分によって情報記憶領域に記憶されている時間差情報が最新の状態に更新される。したがって、分取シーケンスが開始された後で第2遅れ時間が変化した場合にも対応することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る分取液体クロマトグラフによれば、分取シーケンスの実行中に特定の成分が注入されると、情報記憶領域に記憶されている時間差情報のメンテナンス動作が実行され、メンテナンス動作において第2遅れ時間が以前の状態から変化していることが確認されれば、情報記憶領域に記憶されていた時間差情報が最新の状態に更新されるので、分取シーケンスが開始された後で第2遅れ時間が変化した場合にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】分取液体クロマトグラフの一実施例を示す概略構成図である。
図2】同実施例における分取シーケンスを実行する前の初期設定の一例を説明するためのフローチャートである。
図3】同実施例における分取シーケンス中の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図4】同実施例におけるメンテナンス動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図5】第1保持時間、第2保持時間、第1保持時間と第2保持時間との差分、ピーク幅について説明するための第1信号及び第2信号のクロマトグラムの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る分取液体クロマトグラフの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
分取液体クロマトグラフ1は、主として、送液ポンプ2、インジェクタ4、分離カラム6、第1検出器8、第2検出器10、フラクションコレクタ12、及び制御装置14を備えている。
【0016】
送液ポンプ2は、移動相を送液するための装置である。インジェクタ4は、送液ポンプ2によって送液される移動相中に試料を注入するための送液である。分離カラム6は、インジェクタ4の下流に設けられている。インジェクタ4によって移動相中に注入された試料中の複数の成分は分離カラム6において互いに分離される。
【0017】
第1検出器8は、分離カラム6の出口に流体接続された出口流路16と流体接続され、第2検出器10は分岐流路20と流体接続されている。分岐流路20は、分離カラム6と第1検出器8の間の分岐部18において出口流路16から分岐した流路である。分離カラム6からの溶出液の流れは分岐部18において分流され、溶出液の流れの大部分が第1検出器8に導入され、溶出液の流れの一部が第2検出器10に導入される。分岐流路20を通じて第2検出器10に導入される溶出液の流量は、第1検出器8に導入される溶出液の流量の1/800~1/5000程度である。第1検出器は、出口流路16を流れる溶出液中の成分濃度に応じた信号(以下、第1信号)を出力する、UV検出器などの検出器である。第2検出器は、分岐流路20によって出口流路16から取り出された溶出液中の成分の濃度に応じた信号(以下、第2信号)を出力する、質量分析計(MS)などの検出器である。第2検出器10は、第1検出器8の検出特性を補完するための検出器であり、第1検出器8によって出力される第1信号ではピークとして現れない成分をピークとして検出するためのものである。
【0018】
フラクションコレクタ12は、第1検出器8の出口に流体接続されている。フラクションコレクタ12は、第1検出器8の下流において分離カラム6からの溶出液のうちの所望の部分を分画として捕集容器に捕集するための装置である。
【0019】
制御装置14は、送液ポンプ2、インジェクタ4、及びフラクションコレクタ12の動作を制御するための装置である。制御装置14は、専用のコンピュータ、又は、専用のソフトウェアがインストールされたパーソナルコンピュータによって実現することができる。制御装置14には、種々の情報を表示するためのディスプレイが電子的に接続されている。
【0020】
制御装置14は、ユーザによって設定された分取シーケンスを開始すると、当該分取シーケンスにおいて登録されている1以上の試料をインジェクタ4によって移動相中に順に注入し、分離カラム6からの溶出液中の各成分を、第1検出器8から出力される第1信号のクロマトグラム上、又は、第2検出器10から出力される第2信号のクロマトグラム上においてピークとして検出し、ピークとして検出した成分がそれぞれ個別の捕集容器に捕集されるように、フラクションコレクタ12の動作を制御する。
【0021】
制御装置14は、第1検出器8から出力される第1信号でピークとして検出した成分を捕集容器に捕集する動作(第1捕集動作という)を実行する際には、第1検出器8で成分がピークとして検出されてからその成分がフラクションコレクタ12に到達するまでに要する時間T1(以下、第1遅れ時間T1という)を考慮する。すなわち、制御装置14は、第1検出器8の第1信号において対象の成分のピークを検出してから第1遅れ時間T1が経過したときに、溶出液を捕集容器に捕集する動作をフラクションコレクタ12に実行させる。
【0022】
一方で、制御装置14は、第2検出器10から出力される第2信号でピークとして検出した成分を捕集容器に捕集する動作(第2捕集動作という)を実行する際には、第2検出器10で成分がピークとして検出されてからその成分がフラクションコレクタ12に到達するまでに要する時間T2(以下、第2遅れ時間T2という)を考慮する。すなわち、制御装置14は、第2検出器10の第2信号において対象の成分のピークを検出してから第2遅れ時間T2が経過したときに、溶出液を捕集容器に捕集する動作をフラクションコレクタ12に実行させる。
【0023】
第1遅れ時間T1は、送液ポンプ2による移動相の送液流量L、及び、第1検出器8からフラクションコレクタ12までの間の流路の内部容量Vを用いて求めることができる。すなわち、第1遅れ時間T1は、
T1=V/L (1)
によって求められる。
【0024】
一方で、第2遅れ時間T2は、分離カラム6から溶出した成分が第1検出器8に到達するタイミングと、分離カラム6から溶出した成分が第2検出器10に到達するタイミングとの時間差Δtを第1遅れ容量T1に加味することによって求めることができる。時間差Δtは、インジェクタ4によってある成分が移動相中に注入されてからその成分が第1検出器8の第1信号においてピークとして表れるまでの時間t1(以下、第1保持時間t1という)と、インジェクタ4によってある成分が移動相中に注入されてからその成分が第2検出器8の第2信号においてピークとして表れるまでの時間t2(以下、第2保持時間t2という)との差分(t2-t1)をとることによって求めることができる。すなわち、第2遅れ時間T2は、
T2=T1-(t2-t1) (2)
によって求められる。
【0025】
上記の第1遅れ時間T1、時間差情報Δt、及び第2遅れ時間T2は、分取シーケンスの前に実行される初期設定動作において設定される。制御装置14は、分取シーケンスを実行する前に初期設定動作を実行するように構成されている。
【0026】
初期設定動作の一例を図1とともに図2のフローチャートを用いて説明する。なお、以下では、標準試料の入った容器にインジェクタ4がアクセス可能な状態となっていることを前提として説明する。標準試料とは、第1検出器8の第1信号と第2検出器10の第2信号のいずれにおいてもピークとして現れる既知の成分(以下、特定成分という)を含む試料である。
【0027】
初期設定において、制御装置14は、ユーザに移動相の送液流量を設定させる(ステップ101)。ユーザが送液流量(L)を設定すると、制御装置14は、設定された送液流量(L)と、当該分取液体クロマトグラフの据付の際などに登録された第1検出器8とフラクションコレクタ12との間の流路の内部容量(V)に関する情報(例えば、配管の内径と長さに関する情報)とを使用して第1遅れ時間T1を計算し、制御装置14内に設けられている情報記憶領域に記憶する(ステップ102)。
【0028】
制御装置14は、送液ポンプ2に設定された流量で移動相を送液させた後、インジェクタ4に標準試料を注入させる(ステップ103)。標準試料が移動相中に注入された後、制御装置14は、図5に示されるように、標準試料が注入されてから第1検出器8の第1信号のクロマトグラムで特定成分のピークP1の頂点が検出されるまでの第1保持時間(t1)、標準試料が注入されてから第2検出器10の第2信号のクロマトグラムで特定成分のピークP2の頂点が検出されるまでの第1保持時間(t2)を計測し(ステップ104)、第1保持時間(t1)と第2保持時間(t2)との差分(t2-t1)を計算し、計算した差分(t2-t1)を時間差情報(Δt)として情報記憶領域に記憶させる(ステップ105)。さらに、制御装置14は、計算によって得られた第1遅れ時間(T1)と時間差情報(Δt)を使用して第2遅れ時間(T2)を計算し、計算した第2遅れ時間(T2)を情報記憶領域に記憶させる(ステップ106)。
【0029】
上記の初期設定が完了した後、制御装置14は、ユーザから分取シーケンスを実行すべき指示があったときに分取シーケンスを開始する。分取シーケンスの実行中の動作について図1とともに図3のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
分取シーケンスが開始されると、制御装置14は、1つの以上の試料が設定されている順序で移動相中に注入されるようにインジェクタ4を制御する。インジェクタ4によってある試料が移動相中に注入されると(ステップ201)、制御装置14は、予め登録されている試料情報に基づいて注入された試料が、第1検出器8の第1信号及び第2検出器10の第2信号のいずれにおいてもピークとして現れる特定成分を含むものであるか否かを確認する(ステップ202)。
【0031】
注入された試料が特定成分を含まない場合(ステップ202:No)、制御装置14は、通常の分取動作を実行させる(ステップ203)。一方で、注入された試料が特定成分を含む場合(ステップ202:Yes)、制御装置14は、通常の分取動作と同時にメンテナンス動作を実行する(ステップ204)。メンテナンス動作とは、現在の第1保持時間(t1)と第2保持時間(t2)の時間差(t2-t1)が、情報記憶領域に記憶されている時間差(Δt)から変化しているか否かを確認し、時間差(t2-t1)が情報記憶領域に記憶されている時間差(Δt)から変化している場合には、新たに求めた時間差(t2-t1)を使用して、情報記憶領域に記憶されている時間差情報(Δt)及び第2遅れ時間(T2)を更新する動作である。このメンテナンス動作によって情報記憶領域に記憶されている時間差情報(Δt)及び第2遅れ時間(T2)を更新した場合(ステップ205:Yes)は、ディスプレイ22に警告を表示するなどして時間差情報(Δt)及び第2遅れ時間(T2)が更新されたことをユーザに知らせる(ステップ206)。この警告により、ユーザは、第2検出器10に通じる分岐流路20で詰まりなどの不具合が発生していることを認識できる。
【0032】
上記のメンテナンス動作によって情報記憶領域に記憶されている時間差情報(Δt)及び第2遅れ時間(T2)が更新された場合、制御装置14は、それ以降に実行される第2捕集動作に対して更新された第2遅れ時間(T2)を適用する。このように、設定された分取シーケンスが終了するまで(ステップ207)、特定成分を含む試料が移動相中に注入されるたびにメンテナンス動作が行われ、第2遅れ時間(T2)が最新の状態に更新される。
【0033】
なお、制御装置14は、メンテナンス動作で更新された第2遅れ時間(T2)を使用して第2捕集動作を実行した場合、その第2捕集動作の対象となった成分の回収率を確認するための動作を実行するように構成されていてもよい。例えば、フラクションコレクタ12によって捕集された成分を収容する捕集容器に対してインジェクタ4がアクセス可能なように構成されている場合は、設定された分取シーケンスが終了した後などに、対象となる成分を全量注入する。そして、第2信号のクロマトグラムにおける当該成分のピーク面積(A1)を求め、求めたピーク面積(A1)を当該成分の捕集時に使用された第2信号のクロマトグラムにおける当該成分のピーク面積(A2)と比較することによって確認することができる。捕集後の対象成分のピーク面積(A1)が捕集前の対象成分のピーク面積(A2)の所定割合(例えば、95%)以上であれば、更新された第2遅れ時間(T2)を適用して実施された第2捕集動作に問題がないと評価できる。一方で、捕集後の対象成分のピーク面積(A1)が捕集前の対象成分のピーク面積(A2)の所定割合を下回っている場合は、更新された第2遅れ時間(T2)を適用して実施された第2捕集動作に問題があると評価することができる。この場合、制御装置14は、ユーザに対して警告を発することができる。
【0034】
次に、メンテナンス動作の一例について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0035】
メンテナンス動作において、制御装置14は、特定成分についての第1保持時間(t1)及び第2保持時間(t2)を、例えば、第1信号及び第2信号のそれぞれのクロマトグラムに現れている特定成分のピークの頂点を基準に計測し(ステップ301)、計測した第1保持時間(t1)と第2保持時間(t2)との差分(t2-t1)を計算する(ステップ302)。そして、制御装置14は、計算した差分(t2-t1)が、情報記憶領域に記憶されている時間差(Δt)を基準に設定される許容範囲に入っているか否かのピーク判定を実行し(ステップ303)、差分(t2-t1)が許容範囲に入っていれば情報記憶領域に記憶されている時間差情報(Δt)をそのまま維持する(ステップ304)。一方で、制御装置14は、計算した差分(t2-t1)が許容範囲から外れている場合は、情報記憶領域の時間差情報(Δt)を新たに計算した差分(t2-t1)に書き換え、時間差情報(Δt)を最新の状態に更新する(ステップ305)。
【0036】
なお、制御装置14は、上記ピーク判定(ステップ303)において、第1信号のクロマトグラム上における特定成分のピークのピーク幅(W1)と第2信号のクロマトグラム上における特定成分のピークのピーク幅(W2)との比率(W1/W2)を計算し、計算した比率(W1/W2)が所定の基準範囲に収まっているか否かを判定するようになっていてもよい。ピーク幅(W1、W2)は、図5に示されているように、各ピークの半値幅であってもよい。制御装置14は、ピーク幅の比率(W1/W2)が所定の基準範囲から外れている場合に、ユーザに対して警告を発するように構成することができる。いずれかの検出器に通じる流路内で詰まり等が発生すると、多くの場合、ピーク幅の比率(W1/W2)に変化が生じるので、ピーク幅の比率(W1/W2)を監視することによって、そのような不具合の発生を検知することができる。
【0037】
以上において説明した実施例は、本発明に係る分取液体クロマトグラフの実施形態の一例に過ぎない。本発明に係る分取液体クロマトグラフの実施形態は以下のとおりである。
【0038】
本発明に係る分取液体クロマトグラフの一実施形態では、
移動相を設定された流量で送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプにより送液される移動相中に試料を注入するインジェクタと、
前記インジェクタにより前記移動相中に注入された試料中の成分を互いに分離するための分離カラムと、
前記分離カラムの出口に流体接続され、前記分離カラムからの溶出液が流れる出口流路と、
前記出口流路から分岐し、前記出口流路の前記溶出液の流れの一部を取り出すための分岐流路と、
前記出口流路と流体接続され、前記溶出液中の成分の濃度に応じた第1信号を出力する第1検出器と、
前記分岐流路と流体接続され、前記分岐流路を通じて供給される前記溶出液中の成分の濃度に応じた第2信号を出力する第2検出器と、
前記第1検出器の出口に流体接続され、前記分離カラムからの溶出液のうちの所望の部分を個別の捕集容器に捕集するためのフラクションコレクタと、
前記送液ポンプ、前記インジェクタ、及び前記フラクションコレクタの動作を制御して設定された分取シーケンスを実行するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記分取シーケンスが開始される前に設定される初期設定情報として、前記分離カラムから溶出した成分が前記第1信号でピークとして検出されるまでに要する時間と、前記分離カラムから溶出した成分が前記第2信号でピークとして検出されるまでの時間との時間差についての時間差情報、及び、前記第1信号でピークとして検出された成分が前記フラクションコレクタに到達するまでの時間である第1遅れ時間を記憶する情報記憶領域を有し、前記分取シーケンスの実行中は、前記第1信号でピークとして検出された成分を前記捕集容器に捕集する第1捕集動作において、前記第1遅れ時間を前記フラクションコレクタの動作の制御に適用し、前記第2信号でピークとして検出された成分を前記捕集容器に捕集する第2捕集動作において、前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報及び前記第1遅れ時間を使用して求められる、前記第2信号でピークとして検出された成分が前記フラクションコレクタに到達するまでの時間である第2遅れ時間を前記フラクションコレクタの動作の制御に適用するように構成され、
さらに前記制御装置は、前記分取シーケンスの実行中に前記第1信号及び第2信号のいずれにおいてもピークとして検出される特定の成分を前記移動相中に注入した際に、前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報のメンテナンス動作を実行するように構成され、
前記制御装置は、前記メンテナンス動作において、前記特定の成分が前記移動相中に注入されてから前記第1信号でピークとして検出されるまでの第1保持時間と前記特定の成分が前記移動相中に注入されてから前記第2信号でピークとして検出されるまでの前記第2保持時間との差分を計算し、計算した前記差分が前記時間差情報を基準に設定される許容範囲に入っているか否かのピーク判定を実行し、前記ピーク判定において、計算した前記差分が前記許容範囲から外れていれば、計算した前記差分で前記情報記憶領域に記憶されている前記時間差情報を更新するように構成されている。
【0039】
上記一実施形態の第1態様では、前記制御装置は、前記ピーク判定において前記第1保持時間と前記第2保持時間との前記差分が前記許容範囲から外れていると判定した場合に、ユーザに対して警告を発するように構成されている。このような態様により、ユーザは、第2検出器に通じる分岐流路内で詰まり等の不具合が発生していることを容易に認識することが可能になる。
【0040】
上記一実施形態の第2態様では、前記制御装置は、前記ピーク判定において、前記特定成分注入が実行されたときに前記第1信号及び前記第2信号のそれぞれで現れる前記特定の成分のピークの頂点が現れる時間の差を、前記第1保持時間と前記第2保持時間との前記差分として計算するように構成されている。この第2態様は、上記第1態様と組み合わせることができる。
【0041】
上記一実施形態の第3態様では、前記制御装置は、前記ピーク判定において、前記第1信号に現れる前記特定の成分のピークの幅と前記第2信号に現れる前記特定の成分のピークの幅との比率を計算し、前記比率が所定の基準範囲に入っているか否かを判定し、前記比率が所定の基準範囲から外れている場合にユーザに対して警告を発するように構成されている。この第3態様は、上記第1態様、及び/又は第2態様と組み合わせることができる。
【0042】
上記一実施形態の第4態様では、前記インジェクタは前記捕集容器に捕集された成分を試料として前記移動相中に注入し得るように構成されており、前記制御装置は、更新された前記時間差情報を使用して計算した前記第2遅れ時間を適用して前記第2捕集動作を実行した後で、前記第2遅れ時間を適用して実行された前記第2捕集動作で前記捕集容器に捕集された成分を前記移動相中に再注入し、前記再注入された成分についての前記第2信号におけるピーク面積に基づいて前記第2捕集動作における前記成分の回収率を評価するように構成されている。このような態様により、分取シーケンス中に更新された時間差情報に基づく第2捕集動作に問題があったか否かの評価が自動的に行なわれるので、実行された第2捕集動作に問題があったか否かの確認についてのユーザの作業負担が軽減される。この第4態様は、上記第1態様、第2態様、及び/又は第3態様と組み合わせることができる。
【0043】
上記一実施形態の第5態様では、前記第2検出器は質量分析計である。この第5態様は、上記第1態様、第2態様、第3態様、及び/又は第4態様と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0044】
2 送液ポンプ
4 インジェクタ
6 分離カラム
8 第1検出器
10 第2検出器
12 フラクションコレクタ
14 制御装置
16 出口流路
18 分岐部
20 分岐流路
22 ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5