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特開2024-22007ガスセンサ及びガスセンサの基準電位のずれの把握方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022007
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ガスセンサ及びガスセンサの基準電位のずれの把握方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125272
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 信伍
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】橋川 凌
(57)【要約】
【課題】基準電位のずれを把握する。
【解決手段】ガスセンサ100は、センサ素子101と、制御装置95と、を備え、被測定ガス中の特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出する。センサ素子101は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体(層1~6)と、被測定ガス流通部のうちの第3内部空所61に配設された測定電極44と、素子本体の内部に、特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように配設された基準電極42と、を備える。制御装置95は、グランドと基準電極42との間の電圧Vrgを測定し、電圧Vrgに基づいて、基準電極42の電位である基準電位のずれを把握する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子と、制御装置と、を備え、被測定ガス中の特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出するガスセンサであって、
前記センサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部のうちの測定室に配設された測定電極と、
前記素子本体の内部に、前記特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように配設された基準電極と、
を備え、
前記制御装置は、グランドと前記基準電極との間の電圧を測定し、前記測定した電圧に基づいて、前記基準電極の電位である基準電位のずれを把握する、
ガスセンサ。
【請求項2】
前記センサ素子は、
前記被測定ガスと接触するように前記素子本体に設けられた被測定ガス側電極と、前記基準電極と、を含んで構成される基準ガス調整ポンプセル、
を備え、
前記制御装置は、前記測定した電圧が許容範囲よりも大きかった場合には、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素を汲み出すよう前記基準ガス調整ポンプセルを制御し、前記測定した電圧が前記許容範囲よりも小さかった場合には、前記被測定ガス側電極の周囲から前記基準電極の周囲に酸素を汲み入れるよう前記基準ガス調整ポンプセルを制御する、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記センサ素子は、
前記被測定ガスと接触するように前記素子本体の外側に設けられた外側測定電極と、前記測定電極と、を含んで構成される測定用ポンプセル、
を備え、
前記制御装置は、前記測定電極と前記基準電極との間の電圧である測定用電圧が測定用電圧目標値になるように前記測定用ポンプセルを制御する測定用ポンプ制御処理を行い、前記測定用ポンプ制御処理によって前記測定用ポンプセルに流れるポンプ電流に基づいて前記被測定ガス中の前記特定ガス濃度を検出し、
前記制御装置は、前記把握した基準電位のずれに基づいて、前記測定用ポンプ制御処理における前記測定用ポンプセルの制御を補正する、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記センサ素子は、
前記被測定ガス流通部のうち前記測定室よりも上流に位置する酸素濃度調整室に配設された内側調整電極を含んで構成され、前記酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する調整用ポンプセル、
を備え、
前記制御装置は、前記内側調整電極と前記基準電極との間の電圧である調整用電圧が調整用電圧目標値になるように前記調整用ポンプセルを制御して前記酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する調整用ポンプ制御処理を行い、
前記制御装置は、前記把握した基準電位のずれに基づいて、前記調整用ポンプ制御処理における前記調整用ポンプセルの制御を補正する、
請求項3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記センサ素子は、前記グランドに接続されたグランド端子を備え、
前記制御装置は、前記グランドと前記基準電極との間の電圧として、前記グランド端子と前記基準電極との間の電圧を測定する、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記センサ素子は、前記素子本体を加熱するヒータを備え、
前記グランド端子は、前記ヒータの端子である、
請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
被測定ガス中の特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出するガスセンサの基準電位のずれの把握方法であって、
前記ガスセンサは、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された測定電極と、
前記素子本体の内部に、前記特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように配設された基準電極と、
を有するセンサ素子、を備え、
グランドと前記基準電極との間の電圧を測定し、前記測定した電圧に基づいて、前記基準電極の電位である前記基準電位のずれを把握するステップ、
を含む、
ガスセンサの基準電位のずれの把握方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ及びガスセンサの基準電位のずれの把握方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサが知られている。例えば、特許文献1に記載のガスセンサのセンサ素子は、酸素イオン伝導性の複数の固体電解質層を有し被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた積層体と、被測定ガス流通部に配設された測定電極と、積層体のうち被測定ガスに晒される部分に配設された被測定ガス側電極と、積層体の内部に配設された基準電極と、被測定ガスの特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(例えば大気)を導入して基準電極に流通させる多孔質の基準ガス導入層と、を備えている。このガスセンサでは、基準電極と測定電極との間に生じる起電力に基づいて被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する。また、このガスセンサは、基準電極と被測定ガス側電極との間に制御電流を流して、基準電極の周囲に酸素の汲み入れを行う基準ガス調整手段を備えている。特許文献1では、この基準ガス調整手段が基準電極の周囲に酸素の汲み入れを行うことで、基準電極の周囲の基準ガスの酸素濃度が一時的に低下した場合に酸素濃度の低下を補うことができ、特定ガス濃度の検出精度の低下を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-173320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のガスセンサのように、基準ガス調整手段を用いて基準電極の周囲に酸素の汲み入れを行う場合でも、基準電極の周囲の酸素濃度を完全に一定に保ち続けることは難しかった。基準電極の周囲の酸素濃度が変化すると、基準電極の電位が変化して特定ガス濃度の検出精度が低下する。そのため、基準電極の電位のずれを把握したいという要望があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、基準電位のずれを把握することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
[1]本発明のガスセンサは、
センサ素子と、制御装置と、を備え、被測定ガス中の特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出するガスセンサであって、
前記センサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部のうちの測定室に配設された測定電極と、
前記素子本体の内部に、前記特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように配設された基準電極と、
を備え、
前記制御装置は、グランドと前記基準電極との間の電圧を測定し、前記測定した電圧に基づいて、前記基準電極の電位である基準電位のずれを把握する、
ものである。
【0008】
このガスセンサでは、制御装置がグランドと基準電極との間の電圧を測定する。この電圧は基準電極の周囲の酸素濃度の変化、すなわち基準電極の電位である基準電位の変化に伴って変化するから、この電圧に基づいて基準電位のずれを把握することができる。
【0009】
この場合において、制御装置は、グランドと基準電極との間の電圧の測定値と正常値又は許容範囲との比較によって、基準電位のずれを把握してもよい。基準電位の把握の具体例としては、測定値と正常値又は許容範囲との比較、測定値に基づく基準電位のずれを表す値の算出、などが挙げられる。より具体的には、測定値と正常値との大小関係の比較、測定値と正常値との差又は比の算出、測定値が許容範囲か否かの判定、などが挙げられる。制御装置はこれらの態様のうち1以上を行うことで基準電位のずれを把握してもよい。
【0010】
[2]上述したガスセンサ(前記[1]に記載のガスセンサ)において、前記センサ素子は、前記被測定ガスと接触するように前記素子本体に設けられた被測定ガス側電極と、前記基準電極と、を含んで構成される基準ガス調整ポンプセル、を備え、前記制御装置は、前記測定した電圧が許容範囲よりも大きかった場合には、前記基準電極の周囲から前記被測定ガス側電極の周囲に酸素を汲み出すよう前記基準ガス調整ポンプセルを制御し、前記測定した電圧が前記許容範囲よりも小さかった場合には、前記被測定ガス側電極の周囲から前記基準電極の周囲に酸素を汲み入れるよう前記基準ガス調整ポンプセルを制御してもよい。こうすれば、基準電位のずれに応じて基準電極の周囲の酸素濃度を調整できるため、基準電位のずれを小さくして特定ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。なお、制御装置は、測定した電圧が許容範囲よりも大きいか小さいかの判定を、例えば測定した電圧と許容範囲とを比較して行ってもよいし、測定した電圧に基づく基準電位のずれ量と許容範囲とを比較して行ってもよい。
【0011】
[3]上述したガスセンサ(前記[1]又は[2]に記載のガスセンサ)において、前記センサ素子は、前記被測定ガスと接触するように前記素子本体の外側に設けられた外側測定電極と、前記測定電極と、を含んで構成される測定用ポンプセル、を備え、前記制御装置は、前記測定電極と前記基準電極との間の電圧である測定用電圧が測定用電圧目標値になるように前記測定用ポンプセルを制御する測定用ポンプ制御処理を行い、前記測定用ポンプ制御処理によって前記測定用ポンプセルに流れるポンプ電流に基づいて前記被測定ガス中の前記特定ガス濃度を検出し、前記制御装置は、前記把握した基準電位のずれに基づいて、前記測定用ポンプ制御処理における前記測定用ポンプセルの制御を補正してもよい。こうすれば、基準電位にずれが生じていても、測定用ポンプセルの制御を補正することによって特定ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0012】
[4]上述したガスセンサ(前記[3]に記載のガスセンサ)において、前記センサ素子は、前記被測定ガス流通部のうち前記測定室よりも上流に位置する酸素濃度調整室に配設された内側調整電極を含んで構成され、前記酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する調整用ポンプセル、を備え、前記制御装置は、前記内側調整電極と前記基準電極との間の電圧である調整用電圧が調整用電圧目標値になるように前記調整用ポンプセルを制御して前記酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する調整用ポンプ制御処理を行い、前記制御装置は、前記把握した基準電位のずれに基づいて、前記調整用ポンプ制御処理における前記調整用ポンプセルの制御を補正してもよい。こうすれば、基準電位にずれが生じている場合に、測定用ポンプセルの制御を補正するだけでなく調整用ポンプセルの制御も補正するから、特定ガス濃度の検出精度の低下をより抑制できる。
【0013】
[5]上述したガスセンサ(前記[1]~[4]のいずれかに記載のガスセンサ)において、前記センサ素子は、前記グランドに接続されたグランド端子を備え、前記制御装置は、前記グランドと前記基準電極との間の電圧として、前記グランド端子と前記基準電極との間の電圧を測定してもよい。
【0014】
[6]上述したガスセンサ(前記[5]に記載のガスセンサ)において、前記センサ素子は、前記素子本体を加熱するヒータを備え、前記グランド端子は、前記ヒータの端子であってもよい。
【0015】
[7]本発明のガスセンサの基準電位のずれの把握方法は、
被測定ガス中の特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出するガスセンサの基準電位のずれの把握方法であって、
前記ガスセンサは、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を有し、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された測定電極と、
前記素子本体の内部に、前記特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように配設された基準電極と、
を有するセンサ素子、を備え、
グランドと前記基準電極との間の電圧を測定し、前記測定した電圧に基づいて、前記基準電極の電位である前記基準電位のずれを把握するステップ、
を含む、
ものである。
【0016】
この把握方法では、上述したガスセンサと同様に、基準電位のずれを把握できる。なお、この把握方法において、上述したいずれかのガスセンサ(前記[1]~[6]のいずれかのガスセンサ)の種々の態様を採用してもよいし、上述したいずれかのガスセンサ(前記[1]~[6]のいずれかのガスセンサ)の各機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ガスセンサ100の断面模式図。
図2】センサ素子101の内部,制御装置95の内部,及びセンサ素子101と制御装置95との間の配線を示す模式図。
図3】制御装置95と各セル及びヒータ部70との電気的な接続関係を示すブロック図。
図4】基準電位調整処理の一例を示すフローチャート。
図5】制御補正処理の一例を示すフローチャート。
図6】変形例のセンサ素子201の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図2は、センサ素子101の内部,制御装置95の内部,及びセンサ素子101と制御装置95との間の配線を示す模式図である。図3は、制御装置95と各セル及びヒータ72との電気的な接続関係を示すブロック図である。このガスセンサ100は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関の排ガス管などの配管に取り付けられている。ガスセンサ100は、内燃機関の排ガスを被測定ガスとして、被測定ガス中のNOxやアンモニアなどの特定ガスの濃度を検出する。本実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。ガスセンサ100は、長尺な直方体形状をしたセンサ素子101と、センサ素子101の一部を含んで構成される各セル15,21,41,50,80~83と、センサ素子101の内部に設けられたヒータ部70と、ガスセンサ100全体を制御する制御装置95と、を備えている。
【0019】
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0020】
センサ素子101の先端部側(図1の左端部側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0021】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0022】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
【0023】
センサ素子101は、センサ素子101の外部から基準電極42にNOx濃度の測定を行う際の基準ガスを流通させる基準ガス導入部49を備えている。基準ガス導入部49は、基準ガス導入空間43と、基準ガス導入層48とを有する。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の後端面から内方向に設けられた空間である。基準ガス導入空間43は、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の後端面に開口しており、この開口が基準ガス導入部49の入口部49aとして機能する。この入口部49aから基準ガス導入空間43内に基準ガスが導入される。基準ガス導入部49は、入口部49aから導入された基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつこれを基準電極42に導入する。基準ガスは、本実施形態では大気とした。
【0024】
基準ガス導入層48は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4の下面との間に設けられている。基準ガス導入層48は、例えばアルミナなどのセラミックスからなる多孔質体である。基準ガス導入層48の上面の一部は、基準ガス導入空間43内に露出している。基準ガス導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。基準ガス導入層48は、基準ガスを基準ガス導入空間43から基準電極42まで流通させる。
【0025】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる基準ガス導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
【0026】
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0027】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0028】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0029】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0030】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0031】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0032】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力(電圧V0)を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、電圧V0が目標値となるように可変電源24のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0033】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0034】
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0035】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0036】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0037】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0038】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0039】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力(電圧V1)に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0040】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その電圧V0の上述した目標値が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0041】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0042】
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0043】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、内側ポンプ電極22よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0044】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0045】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力(電圧V2)に基づいて可変電源46が制御される。
【0046】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定(目標値)となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0047】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力(電圧Vref)によりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0048】
さらに、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的な基準ガス調整ポンプセル90が構成されている。この基準ガス調整ポンプセル90は、外側ポンプ電極23と基準電極42との間に接続された電源回路92が印加する制御電圧(電圧Vp3)により制御電流(ポンプ電流Ip3)が流れることで、酸素のポンピングを行う。これにより、基準ガス調整ポンプセル90は、外側ポンプ電極23の周囲から基準電極42の周囲に酸素の汲み入れを行うことや、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲に酸素を汲み出すことが可能になっている。
【0049】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0050】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ72と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
【0051】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、ヒータ電源76(図2,3参照)により給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0052】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0053】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0054】
圧力放散孔75は、第3基板層3及び基準ガス導入層48を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0055】
センサ素子101の後端側には、コネクタ電極71が配設されている。コネクタ電極71は、センサ素子101の上面の後端に配設されたコネクタ電極71a~71dと、センサ素子101の下面の後端に配設されたコネクタ電極71e~71hと、を備えている。コネクタ電極71は、センサ素子101と外部とを電気的に導通するための端子として機能する。コネクタ電極71a~71eは、センサ素子101の内部に配設されたリードを介して、外側ポンプ電極23,内側ポンプ電極22,補助ポンプ電極51,測定電極44,及び基準電極42と一対一に導通している(図2参照)。ヒータ72の一端は、センサ素子101の内部に配設された通電用リード77fを介してコネクタ電極71fと接続されている。ヒータ72の他端は、センサ素子101の内部に配設された通電用リード77gを介してコネクタ電極71gと接続されている。図2では通電用リード77fを模式的に図示しているため図示を省略しているが、通電用リード77fには図1のスルーホール73内の導体も含まれる。また、ヒータ72の一端には、通電用リード77fとは並列に電圧測定用リード77hも接続されており、この電圧測定用リード77hを介してヒータ72の一端とコネクタ電極71hとが接続されている。また、図2に示すように、コネクタ電極71fは、グランド(GND)に接続されている。コネクタ電極71fは、グランド端子の一例である。グランド(GND)の電位は制御装置95の回路の電位の基準として用いられる。グランド(GND)は、接地(アース)されていることが好ましい。
【0056】
制御装置95は、図3に示すように、上述した可変電源24,46,52と、電源回路92と、ヒータ電源76と、主ポンプ用電圧取得部85と、補助ポンプ用電圧取得部86と、測定用電圧取得部87と、電圧取得部88と、基準電極用電圧取得部89と、制御部96と、を備えている。
【0057】
主ポンプ用電圧取得部85は、図2に示すように、コネクタ電極71bとコネクタ電極71eとの各々とリードにより接続されている。これにより、主ポンプ用電圧取得部85は、内側ポンプ電極22と基準電極42との間の電圧、すなわち上述した主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の電圧V0を取得する。同様に、補助ポンプ用電圧取得部86は、コネクタ電極71cとコネクタ電極71eとの各々に接続されて、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81の補助ポンプ電極51と基準電極42との間の電圧V1を取得する。測定用電圧取得部87は、コネクタ電極71dとコネクタ電極71eとの各々に接続されて、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82の測定電極44と基準電極42との間の電圧V2を取得する。電圧取得部88は、コネクタ電極71aとコネクタ電極71eとの各々に接続されて、センサセル83の外側ポンプ電極23と基準電極42との間の電圧Vrefを取得する。
【0058】
基準電極用電圧取得部89は、コネクタ電極71fとコネクタ電極71eとの各々とリードにより接続されている。これにより、基準電極用電圧取得部89は、コネクタ電極71fと基準電極42との間の電圧Vrgを取得する。コネクタ電極71fは上述したようにグランドに接続されているから、基準電極用電圧取得部89が取得する電圧Vrgは、グランドと基準電極42との間の電圧である。
【0059】
ヒータ電源76は、図2に示すように、コネクタ電極71f及びコネクタ電極71gとそれぞれリードを介して接続されており、コネクタ電極71f,71g間に電圧を印加してヒータ72に電力を供給する。コネクタ電極71fはグランドに接続されているから、コネクタ電極71fが低電位側の電極であり、コネクタ電極71gは高電位側の電極である。なお、基準電極用電圧取得部89及びヒータ電源76はいずれもコネクタ電極71fと接続されているが、図2に示すように基準電極用電圧取得部89とコネクタ電極71fとの接続位置はヒータ電源76とコネクタ電極71fとの接続位置よりもグランドに近い。そのため、基準電極用電圧取得部89が電圧Vrgを取得するための回路、すなわちコネクタ電極71eからグランドまでの電路には、ヒータ電源76とヒータ72との間に流れるヒータ電流は流れない。
【0060】
なお、図2には配線を示していないが、図1,3に示した可変電源24,52,46及び電源回路92なども、実際にはコネクタ電極71を介して、センサ素子101内部の各電極と接続されている。上述したポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2,Ip3も、各電圧取得部85~89と同様に、実際にはコネクタ電極71を介してセンサ素子101内部の各電極と接続された図示しない各電流取得部により取得(測定)される。
【0061】
制御部96は、CPU97及び記憶部98などを備えたマイクロプロセッサである。記憶部98は、情報の書き換えが可能な不揮発性メモリであり、例えば各種プログラムや各種データを記憶可能である。制御部96は、上述した各電圧取得部85~89が取得した電圧V0,V1,V2,Vref,Vrgを入力する。制御部96は、図示しない電流取得部が取得したポンプ電流Ip0,Ip1,Ip2,Ip3を入力する。また、制御部96は、可変電源24,46,52及び電源回路92へ制御信号を出力することで可変電源24,46,52及び電源回路92が出力する電圧Vp0,Vp1,Vp2,Vp3を制御し、これにより、主ポンプセル21,測定用ポンプセル41,補助ポンプセル50及び基準ガス調整ポンプセル90を制御する。制御部96は、ヒータ電源76に制御信号を出力することでヒータ電源76がヒータ72供給する電力を制御し、これにより、センサ素子101の温度を調整する。記憶部98には、後述する目標値V0*,V1*,V2*なども記憶されている。制御部96のCPU97は、これらの目標値V0*,V1*,V2*を参照して、各セル21,41,50の制御を行う。
【0062】
制御部96は、第2内部空所40の酸素濃度が目標濃度となるように補助ポンプセル50を制御する補助ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部96は、電圧V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御することで、補助ポンプセル50を制御する。目標値V1*は、第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低濃度となるような値として定められている。
【0063】
制御部96は、補助ポンプ制御処理によって補助ポンプセル50が第2内部空所40の酸素濃度を調整するときに流れるポンプ電流Ip1が目標電流(目標電流Ip1*と称する)になるように主ポンプセル21を制御する主ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部96は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定の目標電流Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値(目標値V0*と称する)を設定(フィードバック制御)する。そして、制御部96は、電圧V0が目標値V0*となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が目標濃度となるように)可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御する。この主ポンプ制御処理により、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。目標値V0*は、第1内部空所20の酸素濃度が0%よりは高く且つ低濃度となるような値に設定される。また、この主ポンプ制御処理中に流れるポンプ電流Ip0は、ガス導入口10から被測定ガス流通部内に流入する被測定ガス(すなわちセンサ素子101の周囲の被測定ガス)の酸素濃度に応じて変化する。そのため、制御部96は、ポンプ電流Ip0に基づいて被測定ガス中の酸素濃度を検出することもできる。
【0064】
上述した主ポンプ制御処理及び補助ポンプ制御処理をまとめて調整用ポンプ制御処理とも称する。また、第1内部空所20及び第2内部空所40をまとめて酸素濃度調整室とも称する。主ポンプセル21及び補助ポンプセル50をまとめて調整用ポンプセルとも称する。制御部96が調整用ポンプ制御処理を行うことで、調整用ポンプセルが酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する。
【0065】
さらに、制御部96は、電圧V2が一定値(目標値V2*と称する)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)測定用ポンプセル41を制御する測定用ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部96は、電圧V2が目標値V2*となるように可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御することで、測定用ポンプセル41を制御する。この測定用ポンプ制御処理により、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。
【0066】
測定用ポンプ制御処理が行われることで、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御部96は、特定ガス(ここではNOx)に由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0067】
記憶部98には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、関係式(例えば一次関数又は二次関数の式)やマップなどが記憶されている。このような関係式又はマップは、予め実験により求めておくことができる。
【0068】
制御部96は、外側ポンプ電極23の周囲から基準電極42の周囲への酸素の汲み入れ、又は基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲への酸素の汲み出しを行うように基準ガス調整ポンプセル90を制御する基準ガス調整処理を行う。この基準ガス調整処理によって、基準電極42の周囲の酸素濃度が調整される。基準ガス調整処理では、制御部96は、電圧Vp3が基準ガス調整ポンプセル90に印加されるように電源回路92を制御することで、基準ガス調整ポンプセル90にポンプ電流Ip3を流す。電圧Vp3は、ポンプ電流Ip3が所定の値(一定値の直流電流)となるような直流電圧としてもよいし、繰り返しオンオフされる電圧(例えばパルス電圧)としてもよい。制御部96は、電圧Vp3の大きさや正負を変更することで、ポンプ電流Ip3の大きさ(すなわち酸素の移動量)やポンプ電流Ip3の流れる向き(すなわち外側ポンプ電極23と基準電極42との間の酸素の移動方向)を制御する。電圧Vp3が繰り返しオンオフされる電圧である場合は、繰り返しの周期Tとオン時間Tonとの比であるデューティ比(Ton/T)によって酸素の移動量を調整することもできる。本実施形態では、電圧Vp3はパルス電圧であり、制御部96は電圧Vp3のデューティ比及び正負を変更することで酸素の移動量及び移動方向を制御する。制御部96は、基準ガス調整処理を行うことで、基準電極42の周囲の酸素濃度を調整する。
【0069】
制御部96は、ヒータ72の温度が目標温度になるようにヒータ電源76を制御するヒータ制御処理を行う。ヒータ72の温度はヒータ72の抵抗値の一次関数の式で表すことができるから、ヒータ制御処理では、制御部96はヒータ72の抵抗値が目標抵抗値になるようにヒータ電源76を制御する。ヒータ制御処理を開始すると、まず、制御部96のCPU97は、ヒータ電源76を制御してヒータ72への通電を開始し、ヒータ72を発熱させる。そして、CPU97は、3端子法によりヒータ72の抵抗値を導出する。具体的には、CPU97は、まず、制御装置95が有する図示しない電圧取得部及び電流取得部を介して、コネクタ電極71hとコネクタ電極71gとの間の第1ヒータ電圧Vh1と、コネクタ電極71hとコネクタ電極71fとの間の第2ヒータ電圧Vh2と、ヒータ電源76から供給される電力によってヒータ72に流れるヒータ電流Ihと、を取得する。続いて、CPU97は、通電用リード77f及び通電用リード77gの電圧降下分を含まないヒータ72の両端の電圧であるヒータ電圧Vhを、Vh=Vh1-Vh2の関係式を用いて導出する。そして、CPU97は、このヒータ電圧Vhをヒータ電流Ihで除すことでヒータ72の抵抗値を導出する。そして、制御部96は、導出したヒータ72の抵抗値が目標抵抗値になるようにヒータ電源76に制御信号を出力して、ヒータ電源76が供給する電力をフィードバック制御する。ヒータ電源76は、例えばヒータ72に印加する電圧の値を変化させることで、ヒータ72に供給する電力を調整する。
【0070】
こうして構成されたガスセンサ100の制御部96が行う、被測定ガス中のNOx濃度を検出するNOx濃度検出処理の一例について以下に説明する。制御部96のCPU97は、NOx濃度検出処理を開始する前に、まず、上述したヒータ制御処理を開始して、ヒータ72の温度が目標温度(例えば800℃など)になるように制御する。ヒータ72の温度は被測定ガスの温度によっても影響を受けるため、CPU97はNOx濃度検出処理の開始後もヒータ制御処理を継続して行う。ヒータ72の温度が目標温度付近に到達すると、CPU97はNOx濃度検出処理を開始する。NOx濃度検出処理では、まず、CPU97は、上述した各センサセル80~83からの各電圧V0,V1,V2,Vrefの取得と、上述した各ポンプセル21,41,50の制御すなわち調整用ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理と、を開始する。この状態で、被測定ガスがガス導入口10から導入されると、被測定ガスは、第1拡散律速部11,緩衝空間12,及び第2拡散律速部13をこの順に通過して第1内部空所20に到達する。次に、第1内部空所20及び第2内部空所40において被測定ガスの酸素濃度が主ポンプセル21及び補助ポンプセル50によって調整され、調整後の被測定ガスが第3内部空所61に到達する。そして、CPU97は、取得したポンプ電流Ip2と記憶部98に記憶された対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を検出する。CPU97は、検出したNOx濃度の値を図示しないエンジンECUに送信して、NOx濃度検出処理を終了する。CPU97は、NOx濃度検出処理を、例えば所定の時間間隔毎のタイミングで行ってもよいし、エンジンECUからNOx濃度の検出を指示されたタイミングで行ってもよい。
【0071】
ここで、図2からもわかるように、制御装置95の各電圧取得部85~88が検出する各電圧V0~V2,Vrefは、基準電極42と各電極22,51,44,23との間の電圧である。この基準電極42の電位すなわち基準電位は、基準電極42の周囲の酸素濃度に応じた値となる。基準電極42には基準ガス導入部49を介して基準ガスが導入されるため、基準ガスの酸素濃度が一定であれば、基本的には基準電極42の周囲の酸素濃度は一定となる。しかし、実際にはセンサ素子101の使用中に基準電極42の周囲の酸素濃度が変化してしまう場合がある。例えば、ガスセンサ100では、センサ素子101の前端側の周囲に存在する被測定ガスとセンサ素子101の後端側の周囲に存在する基準ガスとが互いに流通しないように、センサ素子101の前端側の周囲と後端側の周囲とは図示しないセンサ組立体などによって封止されている。しかし、被測定ガスの圧力が高い場合などにおいて、被測定ガスがわずかに基準ガス内に侵入してしまい、基準電極42の周囲の酸素濃度が低下する場合がある。また、センサ素子101を駆動していない期間に基準ガス導入部49が外部の水を吸着してしまう場合があり、駆動開始するとセンサ素子101が加熱されて基準ガス導入部49内の水は気体となってセンサ素子101の外部に抜けていくが、水が抜けるまでの間は気体の水が存在することで基準電極42の周囲の酸素濃度が低下する場合がある。このように基準電極42の周囲の酸素濃度が変化すると、基準電極42の基準電位がずれて各電圧V0~V2,Vrefの値も変化してしまうから、NOx濃度の検出精度が低下してしまう。
【0072】
そこで、本実施形態のガスセンサ100では、制御部96は、基準電極42の基準電位のずれを把握して基準電位を調整する基準電位調整処理を行う。図4は、制御部96が実行する基準電位調整処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。制御部96は、このルーチンを例えば記憶部98に記憶している。制御部96は、例えば所定時間の経過毎に、このルーチンを繰り返し実行する。
【0073】
基準電位調整処理ルーチンが開始されると、制御部96のCPU97は、まず、基準電極用電圧取得部89が取得した電圧Vrgを入力する(ステップS100)。すなわち、CPU97は、グランドと基準電極42との間の電圧Vrgを測定する。グランドの電位は基本的に一定であるから、電圧Vrgは基準電極42の周囲の酸素濃度に対応した値となる。続いて、CPU97は、入力した電圧Vrgの値と電圧Vrgの所定の許容範囲とを比較して、電圧Vrgが許容範囲内か否かを判定する(ステップS110)。所定の許容範囲は、電圧Vrgの正常値及び正常値に近い値を含む範囲として予め定められて記憶部98に記憶されている。電圧Vrgの正常値とは、例えば基準電極42の周囲の酸素濃度が基準ガスの正常な酸素濃度(ここでは大気の酸素濃度)に一致する場合の電圧Vrgの値である。許容範囲の上下限は、例えばNOx濃度の測定精度に与える影響が小さいため基準電位のずれが許容できるような電圧Vrgの範囲の上下限、言い換えると基準電極42の周囲の酸素濃度の許容範囲の上下限、に基づいて予め定めておくことができる。電圧Vrgが許容範囲内か否かを判定する処理は、基準電位のずれを把握する処理に相当する。正常値と電圧Vrgの許容範囲の上下限との差は、基準電位のずれの許容範囲の上下限に相当する。測定した電圧Vrgと正常値との差又は比は基準電位のずれを表す値であるから、CPU97はこの差又は比と、差又は比の許容範囲と、を比較してステップS110の判定を行ってもよい。なお、本実施形態では電圧Vrgはグランドを基準とした基準電極42の電位として定義しており、電圧Vrgは基準電極42の周囲の酸素濃度の大小に関わらず正の値となる。ただし、例えば電圧Vrgが負の値になるように定義してもよく、この場合は電圧Vrgの絶対値と電圧Vrgの許容範囲とを比較してもよい。
【0074】
一方、ステップS110で電圧Vrgが許容範囲よりも大きかった場合、すなわち基準電極42の周囲の酸素濃度が許容範囲の上限よりも高くなるような基準電位のずれが生じていた場合には、CPU97は、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲に酸素を汲み出すように基準ガス調整ポンプセル90を制御する(ステップS120)。これにより、基準電極42の周囲の酸素濃度が低下するから、電圧Vrgを許容範囲内にすることができる。すなわち、CPU97は、基準電極42の基準電位が許容範囲の上限より高い値にまでずれている場合には、基準電位を下げて許容範囲内になるように基準ガス調整ポンプセル90を制御する。
【0075】
また、ステップS110で電圧Vrgが許容範囲よりも小さかった場合、すなわち基準電極42の周囲の酸素濃度が許容範囲の下限よりも低くなるような基準電位のずれが生じていた場合には、CPU97は、外側ポンプ電極23の周囲から基準電極42の周囲に酸素を汲み入れるように基準ガス調整ポンプセル90を制御する(ステップS130)。これにより、基準電極42の周囲の酸素濃度が上昇するから、電圧Vrgを許容範囲内にすることができる。すなわち、CPU97は、基準電極42の基準電位が許容範囲の下限より低い値にまでずれている場合には、基準電位を上げて許容範囲内になるように基準ガス調整ポンプセル90を制御する。
【0076】
CPU97は、ステップS110で電圧Vrgが許容範囲内だった場合、すなわち基準電位のずれが許容範囲内だった場合には、本ルーチンを終了する。また、CPU97は、ステップS120の実行後、又はステップS130の実行後も、本ルーチンを終了する。
【0077】
この基準電位調整処理ルーチンが実行されることで、ステップS110の判定結果(すなわち基準電位のずれの把握結果)に基づいて基準電極42の周囲の酸素濃度が調整され、基準電位の正常値からのずれが小さくなるから、基準電位のずれに起因するNOx濃度の検出精度の低下を抑制できる。ステップS120における酸素の汲み出し量,及びステップS130における酸素の汲み入れ量は、本実施形態では上述した通りCPU97がパルス電圧である電圧Vp3のデューティ比を変更することで調整する。この汲み出し量及び汲み入れ量は、例えばステップS100で入力した電圧Vrgの値と電圧Vrgの正常値との差又は比(すなわち基準電位のずれ量)が大きくなるほど大きくなるような値として、CPU97が決定してもよい。言い換えると、CPU97は、ステップS100で入力した電圧Vrgの値を正常値又は正常値に近い値に変更するために必要な酸素の移動量に対応する値として、ステップS120及びステップS130における基準ガス調整ポンプセル90の制御量(ここでは電圧Vp3のデューティ比)を決定してもよい。ステップS100で入力した電圧Vrgの値と基準ガス調整ポンプセル90の制御量との対応関係、又は、電圧Vrgと正常値との差又は比と基準ガス調整ポンプセル90の制御量との対応関係が予め定められて記憶部98に記憶されており、CPU97はこの対応関係に基づいて基準ガス調整ポンプセル90の制御量を決定してもよい。また、基準ガス調整ポンプセル90の制御量として、電圧Vp3のデューティ比を用いる代わりに、又は加えて、電圧Vp3の大きさを用いてもよいし、基準ガス調整ポンプセル90の動作時間を用いてもよい。すなわち、CPU97は、電圧Vp3の大小によって酸素の移動量を調整してもよいし、基準ガス調整ポンプセル90の動作時間の長短によって酸素の移動量を調整してもよい。
【0078】
ステップS120における酸素の汲み出し量,及びステップS130における酸素の汲み入れ量は、一定の値であってもよい。この場合も、基準電位調整処理ルーチンが繰り返し実行されることで電圧Vrgを許容範囲内にすることができるから、基準電位のずれを小さくできる。この場合、CPU97は、基準電位調整処理ルーチンを繰り返し実行することで、電圧Vrgが許容範囲内になるまで電圧Vrgの測定と基準ガス調整ポンプセル90の制御とを繰り返し実行することになる。
【0079】
ステップS100における電圧Vrgの測定は、基準電極42にポンプ電流Ip3が流れていないタイミングで行うことが好ましい。こうすることで、ポンプ電流Ip3による電圧降下分が電圧Vrgに含まれることを抑制でき、電圧Vrgが基準電極42の周囲の酸素濃度に応じたより正確な値になる。例えば、電圧Vp3がパルス電圧である場合には、CPU97は電圧Vp3がオフである期間に電圧Vrgを測定することが好ましい。あるいは、CPU97は、電圧Vrgの測定時には電圧Vp3を印加しないように電源回路92を制御してもよい。電圧V0~V2,Vrefの測定時についても同様である。
【0080】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態のセンサ素子101が本発明のセンサ素子に相当し、第1基板層1と第2基板層2と第3基板層3と第1固体電解質層4とスペーサ層5と第2固体電解質層6との6つの層がこの順に積層された積層体が素子本体に相当し、第3内部空所61が測定室に相当し、測定電極44が測定電極に相当し、基準電極42が基準電極に相当し、制御装置95が制御装置に相当する。また、外側ポンプ電極23が被測定ガス側電極及び外側測定電極に相当し、電圧V2が測定用電圧に相当し、目標値V2*が測定用電圧目標値に相当する。第1内部空所20及び第2内部空所40が酸素濃度調整室に相当し、補助ポンプ電極51が内側調整電極に相当し、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50が調整用ポンプセルに相当し、電圧V1が調整用電圧に相当し、目標値V1*が調整用電圧目標値に相当し、コネクタ電極71fがグランド端子に相当し、ヒータ72がヒータに相当する。なお、本実施形態では、ガスセンサ100の動作を説明することにより、本発明のガスセンサの基準電位のずれの把握方法の一例も明らかにしている。
【0081】
以上説明した本実施形態のガスセンサ100によれば、制御装置95は、グランドと基準電極42との間の電圧Vrgを測定し、電圧Vrgに基づいて基準電極42の電位である基準電位のずれを把握する。電圧Vrgは基準電極42の周囲の酸素濃度の変化、すなわち基準電位の変化に伴って変化するから、電圧Vrgに基づいて基準電位のずれを把握することができる。
【0082】
また、センサ素子101は、被測定ガスと接触するように素子本体に設けられた外側ポンプ電極23と、基準電極42と、を含んで構成される基準ガス調整ポンプセル90を備えている。そして、制御装置95は、測定した電圧Vrgが許容範囲よりも大きかった場合には、基準電極42の周囲から外側ポンプ電極23の周囲に酸素を汲み出すよう基準ガス調整ポンプセル90を制御する。また、測定した電圧Vrgが許容範囲よりも小さかった場合には、外側ポンプ電極23の周囲から基準電極42の周囲に酸素を汲み入れるよう基準ガス調整ポンプセル90を制御する。これにより、基準電位のずれに応じて基準電極42の周囲の酸素濃度を調整できるため、基準電位のずれを小さくして基準電位のずれに起因するNOx濃度の検出精度の低下を抑制できる。ここで、従来も基準ガス調整ポンプセル90によって基準電極42の周囲の酸素濃度を調整することは行われていたが、グランドと基準電極42との間の電圧Vrgを用いた基準電位のずれの把握は行われていなかった。そのため、従来は基準ガス調整ポンプセル90による酸素の移動量に過不足が生じて基準電極42の周囲の酸素濃度を適切な状態(基準ガスの正常な酸素濃度)に保てない場合があった。本実施形態のガスセンサ100では、電圧Vrgを用いて把握した基準電位のずれに基づいてCPU97が基準ガス調整ポンプセル90を制御するから、基準ガス調整ポンプセル90をより適切に制御することができ、基準電極42の周囲の酸素濃度を適切な状態に保ちやすい。
【0083】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0084】
上述した実施形態では、制御装置95は、測定した電圧Vrgと許容範囲との比較に基づいて、すなわち基準電位のずれの把握結果に基づいて基準電極42の周囲の酸素濃度を調整したが、これに限られない。例えば、制御装置95は、把握した基準電位のずれに基づいて各ポンプセル21,50,41の制御を補正してもよい。図5は、制御補正処理の一例を示すフローチャートである。制御部96は、このルーチンを例えば記憶部98に記憶している。制御部96は、例えば所定時間の経過毎に、このルーチンを繰り返し実行する。制御補正処理ルーチンが開始されると、制御部96のCPU97は、上述した基準電位調整処理のステップS100と同じ処理を行って、電圧Vrgを測定する。続いて、CPU97は、電圧Vrgの測定値と正常値との差分値ΔVrg(=測定値-正常値)を算出する(ステップS210)。そして、CPU97は、この差分値ΔVrgに基づいて各ポンプセル21,50,41の制御を補正して(ステップS220)、本ルーチンを終了する。各ポンプセル21,50,41の制御の補正は、例えば制御に関わる電圧の測定値の補正としてもよいし、制御に関わる電圧の目標値の補正としてもよい。差分値ΔVrgは基準電位のずれ量に相当するから、各ポンプセル21,50,41の制御に関わる電圧の測定値又は目標値を差分値ΔVrgに基づいて補正することで、基準電位のずれの影響を相殺することができ、実質的に基準電位のずれがない場合と同じ制御を行うことができる。例えば、上述した実施形態では、各電極22,51,44の周囲の酸素濃度は基準電極42の周囲の酸素濃度よりも低いから、基準電極42の基準電位が正常値よりも高くなる方向にずれている(差分値ΔVrgが正である)場合には、各電圧取得部85~87が測定した電圧V0~V2は、絶対値が大きくなる方向にずれた値として測定される。基準電極42の基準電位が正常値よりも低くなる方向にずれている(差分値ΔVrgが負である)場合には、各電圧取得部85~87が測定した電圧V0~V2は、絶対値が小さくなる方向にずれた値として測定される。そのため、CPU97は、各電圧取得部85~87が取得した電圧V0~V2の測定値のそれぞれの絶対値から差分値ΔVrgを減じた値を、補正後の電圧V0~V2として算出する。そして、CPU97は、補正後の電圧V0~V2と、上述した目標値V0*~V2*とを比較して、調整用ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理を行う。あるいは、CPU97は、目標値V0*~V2*の絶対値に差分値ΔVrgを加えた値を、補正後の目標値V0*~V2*として算出してもよい。この場合、CPU97は、電圧V0~V2の測定値と、補正後の目標値V0*~V2*とを比較して、調整用ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理を行う。CPU97は、制御補正処理のステップS220を実行する度に、調整用ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理の補正量(すなわち差分値ΔVrg)を更新する。上述した基準電位のずれに基づく補正は、調整用ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理のうち少なくともいずれかについて行ってもよいし、主ポンプ制御処理,補助ポンプ制御処理,及び測定用ポンプ制御処理のうち少なくともいずれかについて行ってもよい。ただし、NOx濃度の測定精度に最も影響するのは測定用ポンプ制御処理であるため、図5の制御補正処理を行う場合は、CPU97は少なくとも測定用ポンプ制御処理については上述した基準電位のずれに基づく補正を行うことが好ましい。また、電圧取得部88が取得した電圧Vrefに基づいて被測定ガス中の酸素濃度を検出する場合、CPU97はステップS220において電圧Vrefに対しても上述した電圧V0~V2の補正と同様の補正を行ってもよい。
【0085】
上述した実施形態において、ガスセンサ100が基準ガス調整ポンプセル90及び電源回路92を備えなくてもよい。この場合も制御部96が図5の制御補正処理を行うことはできる。
【0086】
上述した実施形態では、電圧Vrgはヒータ72の端子であるコネクタ電極71fと基準電極42との間の電圧としたが、これに限られない。例えば、電圧Vrgは、ヒータ72の端子に限らずセンサ素子101が備え且つグランドに接続された端子と、基準電極42と、の間の電圧としてもよい。また、センサ素子101が備える端子に限らず、グランドと基準電極42との間の電圧を測定してもよい。例えば、センサ素子101のいずれのコネクタ電極71とも接続されていない別のグランドと基準電極42との間の電圧を測定して、その電圧に基づいて基準電位のずれを把握してもよい。本発明者らは、上述した実施形態の電圧Vrgに限らず、センサ素子101のいずれのコネクタ電極71とも接続されていない別のグランドと基準電極42との間の電圧についても、基準電極42の周囲の酸素濃度の変化に応じてその電圧が変化し、その電圧に基づいて基準電位のずれを把握できることを実験により確認した。
【0087】
CPU97は、上述した図5の基準電位調整処理では電圧Vrgに基づく基準電位のずれの把握(ステップS110)に基づいて基準ガス調整ポンプセル90を制御し(ステップS120,S130)、上述した図6の制御補正処理では電圧Vrgに基づく基準電位のずれの把握(ステップS210)に基づいて各ポンプセル21,50,41の制御を補正した(ステップS220)が、これに限られない。例えば、CPU97は、ステップS110で否定判定をした場合、又はステップS210で算出した差分値ΔVrgが許容範囲内にない場合など、把握した基準電位のずれが許容範囲を超えている場合には、基準電位の異常を報知してもよい。例えばCPU97はエンジンECUに基準電位の異常を報知する信号を出力してもよい。このように、CPU97は基準電位のずれの診断のみを行ってもよい。
【0088】
上述した実施形態において、基準ガス導入部49は基準ガス導入空間43と基準ガス導入層48とを備えていたが、基準ガス導入部49はセンサ素子101の外部から基準ガスを基準電極42まで導入できればよい。例えば、基準ガス導入部49は、基準ガス導入空間43と基準ガス導入層48との少なくとも一方を備えていてもよい。
【0089】
上述した実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を検出したが、これに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、CPU97はこの酸素に応じた検出値を取得して特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスを酸化物に変換(例えばアンモニアであればNOに変換)することで、変換後のガスが第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、CPU97はこの酸素に応じた検出値を取得して特定ガス濃度を検出できる。このように、特定ガスが酸化物と非酸化物とのいずれであっても、ガスセンサ100は、特定ガスに由来して第3内部空所61で発生する酸素に基づいて特定ガス濃度を検出できる。
【0090】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、図6のセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。図6に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al23)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に例えばポンプ電流Ip2に基づいてNOx濃度を検出できる。この場合、測定電極44の周囲が測定室として機能することになる。
【0091】
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体は複数の固体電解質層(層1~6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ有し、且つ被測定ガス流通部が内部に設けられていればよい。例えば、図1において第2固体電解質層6以外の層1~5は固体電解質以外の材質からなる構造層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、図1の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、基準ガス導入空間43を第1固体電解質層4の代わりにスペーサ層5に設け、基準ガス導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
【0092】
上述した実施形態では、制御部96は、ポンプ電流Ip1が目標電流Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)し、電圧V0が目標値V0*となるようにポンプ電圧Vp0をフィードバック制御したが、他の制御を行ってもよい。例えば、制御部96は、ポンプ電流Ip1が目標電流Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいてポンプ電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、制御部96は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80からの電圧V0の取得や目標値V0*の設定を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的にポンプ電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。
【0093】
上述した実施形態では、酸素濃度調整室は第1内部空所20と第2内部空所40とを有していたが、これに限らず例えば酸素濃度調整室がさらに別の内部空所を備えていてもよいし、第1内部空所20と第2内部空所40との一方を省略してもよい。同様に、上述した実施形態では調整用ポンプセルは主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを有していたが、これに限らず例えば調整用ポンプセルがさらに別のポンプセルを備えていてもよいし、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との一方を省略してもよい。例えば、主ポンプセル21のみで被測定ガスの酸素濃度を十分低くすることができる場合は、補助ポンプセル50を省略してもよい。補助ポンプセル50を省略する場合、制御部96は、調整用ポンプ制御処理として主ポンプ制御処理のみを行えばよい。また、主ポンプ制御処理では、上述したポンプ電流Ip1に基づく目標値V0*の設定を省略すればよい。具体的には、所定の目標値V0*を予め記憶部98に記憶しておき、制御部96は電圧V0が目標値V0*となるように可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプセル21を制御すればよい。補助ポンプセル50を省略する場合は、内側ポンプ電極22が内側調整電極に相当し、電圧V0が調整用電圧に相当し、目標値V0*が調整用電圧目標値に相当する。
【0094】
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23は、主ポンプセル21の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側主ポンプ電極と、補助ポンプセル50の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側補助ポンプ電極と、測定用ポンプセル41の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側測定電極と、基準ガス調整ポンプセル90の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された被測定ガス側電極と、を兼ねていたが、これに限られない。外側主ポンプ電極,外側補助ポンプ電極,外側測定電極,及び被測定ガス側電極のうちのいずれか1以上を、外側ポンプ電極23とは別にセンサ素子101の外側に設けてもよい。また、基準ガス調整ポンプセル90の被測定ガス側電極は、被測定ガスと接触するようにセンサ素子101に設けられていればよく、例えばセンサ素子101の外側に限らず内側に配設されていてもよく、より具体的にはセンサ素子101の被測定ガス流通部に配設されていてもよい。例えば、内側ポンプ電極22が主ポンプセル21の電極(内側主ポンプ電極)と基準ガス調整ポンプセル90の被測定ガス側電極とを兼ねており、基準ガス調整ポンプセル90は内側ポンプ電極22の周囲と基準電極42の周囲との間で酸素の汲み入れ又は汲み出しを行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 第1基板層、2 第2基板層、3 第3基板層、4 第1固体電解質層、5 スペーサ層、6 第2固体電解質層、10 ガス導入口、11 第1拡散律速部、12 緩衝空間、13 第2拡散律速部、20 第1内部空所、21 主ポンプセル、22 内側ポンプ電極、22a 天井電極部、22b 底部電極部、23 外側ポンプ電極、24 可変電源、30 第3拡散律速部、40 第2内部空所、41 測定用ポンプセル、42 基準電極、43 基準ガス導入空間、44 測定電極、45 第4拡散律速部、46 可変電源、48 基準ガス導入層、49 基準ガス導入部、49a 入口部、50 補助ポンプセル、51 補助ポンプ電極、51a 天井電極部、51b 底部電極部、52 可変電源、60 第4拡散律速部、61 第3内部空所、70 ヒータ部、71,71a~71f コネクタ電極、72 ヒータ、73 スルーホール、74 ヒータ絶縁層、75 圧力放散孔、76 ヒータ電源、77f,77g 通電用リード、77h 電圧測定用リード、80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、83 センサセル、85 主ポンプ用電圧取得部、86 補助ポンプ用電圧取得部、87 測定用電圧取得部、88 電圧取得部、89 基準電極用電圧取得部、90 基準ガス調整ポンプセル、92 電源回路、95 制御装置、96 制御部、97 CPU、98 記憶部、100 ガスセンサ、101,201 センサ素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6