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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022028
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】被覆基材
(51)【国際特許分類】
   C25D 9/08 20060101AFI20240208BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C25D9/08
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125322
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 朋来
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044BA12
4K044BA13
4K044BA18
4K044BB01
4K044BB08
4K044CA17
4K044CA62
(57)【要約】
【課題】種々の分野に適用可能で、高機能を期待可能な新規な被覆基材を提供する。
【解決手段】被覆基材1は、皮膜3によって基材5が被覆されてなる。皮膜3の厚みは、100nm以上2000nm未満である。皮膜3の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜によって基材が被覆されてなる被覆基材であって、
前記皮膜の厚みは、100nm以上2000nm未満であり、
前記皮膜の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、前記皮膜にクラックで全周を囲まれた領域が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する、被覆基材。
【請求項2】
前記基材で前記皮膜が形成されている部位は、導電性を有する、請求項1に記載の被覆基材。
【請求項3】
前記皮膜をX線光電子分光法で測定した際に、金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率が70atm%以上である、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項4】
前記皮膜の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、前記皮膜に前記クラックで全周を囲まれた領域が10箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項5】
前記クラックの少なくとも一つは、断面形状が、前記皮膜の表面側から前記基材側へ向かうにつれて幅が狭くなる形状を有する、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項6】
前記クラックの少なくとも一つは、前記皮膜と異なる材質の充填物で塞がれている、請求項1又は請求項2に記載の被覆基材。
【請求項7】
前記金属元素は、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、及びMo(モリブデン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、請求項3に記載の被覆基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆基材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-4には、金属酸化物皮膜を備えた被覆基材が開示されている。特許文献1-4では、湿式成膜法が採用されている。他方、複雑な基材形状に合わせた厚みの制御をするために乾式成膜法(ドライプロセス)が採用される場合もあった。
種々の分野へ適用した場合の性能を考慮すると、従来の被覆基材は必ずしも十分でなく、新規な被覆基材の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-32521号公報
【特許文献2】特開2009-147192号公報
【特許文献3】特開2015-93821号公報
【特許文献4】特開平9-202606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、種々の分野に適用可能で、高機能を期待可能な新規な被覆基材を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]
皮膜によって基材が被覆されてなる被覆基材であって、
前記皮膜の厚みは、100nm以上2000nm未満であり、
前記皮膜の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、前記皮膜にクラックで全周を囲まれた領域が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する、被覆基材。
[2]
前記基材で前記皮膜が形成されている部位は、導電性を有する、[1]に記載の被覆基材。
[3]
前記皮膜をX線光電子分光法で測定した際に、金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率が70atm%以上である、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[4]
前記皮膜の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、前記皮膜に前記クラックで全周を囲まれた領域が10箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[5]
前記クラックの少なくとも一つは、断面形状が、前記皮膜の表面側から前記基材側へ向かうにつれて幅が狭くなる形状を有する、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[6]
前記クラックの少なくとも一つは、前記皮膜と異なる材質の充填物で塞がれている、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[7]
前記金属元素は、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、及びMo(モリブデン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、[3]に記載の被覆基材。
【発明の効果】
【0006】
本開示の被覆基材は、クラックを有する特定構造の皮膜を備えている。この皮膜は、特定構造により比表面積が向上しているから、機能性付与の際に性能向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】被覆基材の一例の光学顕微鏡による観察像である。
図2】被覆基材の一例のSEMによる観察像である。
図3】被覆基材の一例のSEMによる断面の観察像である。
図4】クラックの模式図である。
図5】被覆基材の断面の模式図である。
図6】成膜装置の模式図である。
図7】電析時間と析出重量(析出質量)との関係を示すグラフである。
図8】サンプルの試作数と、浴液のアルミニウム元素の濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示を詳しく説明する。尚、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0009】
1.被覆基材1
被覆基材1は、皮膜3によって基材5が被覆されてなる。皮膜3の厚みは、100nm以上2000nm未満である。皮膜3の表面を200μm×200μmの視野(正方形の視野)で観察した際に、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する。
【0010】
(1)基材5
基材5は、特に限定されない。皮膜3の基材5への密着性を高めるために、基材5の少なくとも皮膜3によって被覆される部位(領域)は、導電性を有して負極7(陰極)となり得る材質で構成されることが好ましい。基材5の皮膜3によって被覆される部位が導電性を有して負極7(陰極)となることで、電圧印加にて、この部位に、後述の製造方法によって、クラック8を有する皮膜3を容易に形成できる。
基材5の表面部が、導電性を有して負極7となり得る材質で構成されてもよい。基材5全体が負極7となり得る材質から構成されてもよい。負極7となり得る材質として、例えば、鉄系合金、カーボンが好適に用いられる。鉄系合金は、例えば、Fe-Ni-Cr系合金(ステンレス)、Fe-Ni系合金(パーマロイ)、Fe-Si系合金(ケイ素鉄)、Fe-Si-Al系合金(センダスト)、Fe-Ni-Mo(スーパーマロイ)、Fe-Co系合金(パーメンジュール)、及びFe-C-B系合金(アモルファス)から選択される1種又は2種以上が好適に例示される。
【0011】
(2)皮膜3
(2.1)厚み
皮膜3の厚みは、皮膜3の材質に応じた機能を発現させる観点から、100nm以上であり、200nm以上が好ましく、300nm以上がより好ましい。他方、皮膜3中に発生する応力に耐えて、基材5との密着性を担保する観点から、2000nm未満であり、1000nm以下が好ましく、800nm以下がより好ましい。これらの観点から、皮膜3の厚みは、100nm以上2000nm未満であり、200nm以上1000nm以下が好ましく、300nm以上800nm以下がより好ましい。尚、皮膜3の厚みが一定でない場合には、皮膜3の少なくとも一部の厚みが上述の範囲であれば、厚みの要件を充足する。皮膜3の厚みはFIB-SEM観察によって求めることができる。
【0012】
(2.2)クラック8
本開示の被覆基材1は、皮膜3の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する。被覆基材1では、皮膜3の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、クラック8で全周を囲まれた領域9が、10箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在することが好ましく、20箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在することがより好ましく、30箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在することが更に好ましい。
本開示の被覆基材1は、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が存在するから、3相界面を活用した機能を有効に発揮できる。すなわち、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が形成されることで、反応場である皮膜3/基材5/気相、又は皮膜3/基材5/液相の3相界面が形成される。そして、この領域9が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在しているので、3相界面が多く発現することになり、被覆基材1の高機能性に寄与するものと推測される。
図1は、被覆基材1の一例の表面を光学顕微鏡で観察した観察像を示している。図2は、被覆基材1の一例の表面をSEMで観察した観察像を示している。図3は、被覆基材1の一例の断面をSEMで観察した観察像を示している。図4は、図1で示されたクラック8の一部の模式図を示している。クラック8の少なくとも1つは、基材5にまで到達している。このクラック8が存在する場所では、基材5は表面に露出しているから、ここに、反応場である皮膜3/基材5/気相、又は皮膜3/基材5/液相の3相界面が形成されることになる。
尚、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が3箇所以上存在する視野において、クラック8で全周を囲まれた領域9の数の上限値は特に限定されず、例えば1000以下であってもよい。
【0013】
クラック8の断面形状は特に限定されない。クラック8の少なくとも一つは、断面形状が、皮膜3の表面側から基材5側へ向かうにつれて幅が狭くなる形状を有することが好ましい(図3)。このような形状となることで、3相界面を活用するときの物質拡散性に有利であると推測される。つまり、クラック8の断面形状がこのような形状であると、3相界面での反応生成物は基材5側からクラック8を通って外部に拡散し易くなると考えられる。また、このような形状にすることで、クラック8に表面側から異種材質を充填する際の充填性がよくなると考えられる。ここで異種材質とは、皮膜3及び基材5のいずれとも異なる材質を意味する。充填物は、特に限定されない。充填物としては、例えば樹脂材が用いられる。樹脂材の種類は特に限定されず、例えば、テフロン(登録商標)又はポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂が例示される。クラック8に異種材質を充填することで、皮膜3に異種材質の特性を利用した新たな機能も付与できる。
クラック8の皮膜3の表面側から基材5側へ向かうにつれて幅の狭くなる程度は、特に限定されない。例えば、基材5側へ10nm近づくと、クラック8の幅wが2nm以上10nm以下狭くなるようにしてもよい(図5参照)。幅の狭くなる程度は、クラック8の深さ方向の全長において同一でも異なっていてもよい。幅の狭くなる程度は、複数のクラック8の各々において異なっていてもよい。
【0014】
(2.3)C(炭素)の元素百分率
皮膜3をX線光電子分光法(XPS法)で測定した際のC(炭素)の元素百分率は、特に限定されない。C(炭素)の元素百分率は、皮膜3における結晶粒成長を抑制し、皮膜3の性質を安定化する観点から、0.1atm%以上が好ましく、1atm%以上がより好ましく、5atm%以上が更に好ましい。他方、皮膜3を無機皮膜として十分に機能させる観点から、20atm%未満が好ましく、15atm%以下がより好ましく、10atm%以下が更に好ましい。これらの観点から、C(炭素)の元素百分率は、0.1atm%以上20atm%未満が好ましく、1atm%以上15atm%以下がより好ましく、5atm%以上10atm%以下が更に好ましい。尚、皮膜3の組成が一定でない場合には、皮膜3の少なくとも一部の組成が上述の範囲であれば、C(炭素)の元素百分率の要件を充足する。
X線光電子分光法による組成分析は、X線光電子分光分析装置を用いて行うことができる。測定条件として、X線源をアルミニウム金属のKアルファ線、ビーム径を100μm、分析する面に対するX線入射角度を45°とし、断面を走査することによって測定することができる。
【0015】
(2.4)金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率
皮膜3をX線光電子分光法(XPS法)で測定した際の金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率は、特に限定されない。金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率は、後述の製造方法によって、クラック8を有する皮膜3を容易に形成する観点から、70atm%以上が好ましく、80atm%以上がより好ましく、90atm%以上が更に好ましい。尚、金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率の上限は、100atm%から、C(炭素)の元素百分率(atm%)を引いた値となる。皮膜3の組成が一定でない場合には、皮膜3の少なくとも一部の組成が上述の範囲であれば、金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率の要件を充足する。
【0016】
(2.5)金属元素
金属元素は、特に限定されない。後述の製造方法によって、クラック8を有する皮膜3を容易に形成する観点から、金属元素は、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、及びMo(モリブデン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0017】
(2.6)皮膜3の相対密度
皮膜3の相対密度は、皮膜3の機能を十分に発揮させる観点から、90%以上であることが好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上が更に好ましい。皮膜3の相対密度は、100%であってもよい。
皮膜3の相対密度は、次の方法により求められる。皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像を取得する。縦300nm、横1000nmの視野で気孔の面積を測定する。下記(1)式から相対密度(%)を求める。10箇所の視野の相対密度の平均値が皮膜3の相対密度である。尚、皮膜3の厚さが縦300nmよりも小さい場合、皮膜3の厚さに合わせた視野で測定を行うものとする。
相対密度(%)={(S1-S2)/S1}×100 (1)
(式中S1は縦300nm×横1000nmの視野の面積(nm)で、S2は縦300nm×横1000nmの視野内における気孔の合計面積(nm)である)
【0018】
(2.7)非晶質
皮膜3は、非晶質であることが好ましい。非晶質であることの確認は、TEM像を用いて行うことができる。皮膜3が非晶質であることによって、結晶粒の脱落がないことや、均一な膜成長による最表面の平滑化等の特有の機能の発現が期待できる。
【0019】
(2.8)C-H結合、C=O結合、C-O結合のうち少なくとも1種類の構造を有する化合物
皮膜3には、C-H結合、C=O結合、C-O結合のうち少なくとも1種類の構造を有する化合物が含有されていることが好ましい。C-H、C=O、C-O結合のうち少なくとも1種類の構造を有する化合物は、C単体(カーボン)よりも低温で揮発し、皮膜3の収縮を誘発するから、皮膜3の緻密性が向上すると推測される。
また、皮膜3に、C-H結合、C=O結合、C-O結合のうち少なくとも1種類の構造を有する化合物が残留することで、皮膜3の柔軟性が保持され、皮膜3の基材5への密着性も向上すると推測される。
【0020】
(2.9)ハロゲン元素
皮膜3をX線光電子分光法で測定した際に、ハロゲン元素の元素百分率が0.1atm%以上であることが好ましく、0.3atm%以上であることがより好ましく、0.5atm%以上であることが更に好ましい。ハロゲン元素の元素百分率の上限値は、3atm%以下である。
皮膜3中にハロゲン元素が微量に含まれることで、基材5の表面に存在した酸化被膜がハロゲン元素の作用によって除去されて、皮膜3と基材5が直に接する構造となり、結果的に基材5と皮膜3との密着性が担保されると考えられる。
【0021】
2.被覆基材1の製造方法
本開示の被覆基材1の製造方法は、特に限定されない。
以下、好ましい製造方法について説明する。好ましい製造方法は、有機溶剤を溶媒とした浴液2を用いた被覆基材1の製造方法である。浴液2は、水分含有量が1質量%未満であり、少なくとも1種類以上の金属元素を含有し、かつ少なくとも1種類以上のハロゲン元素を含有する。基材5を浴液中に浸漬した状態で、電圧印加することで負極7側(陰極側)の基材5上に皮膜3を形成する。そして、皮膜3に収縮応力が生じることで、クラック8を有する特定構造が出現する。収縮応力を生じさせる処理としては、例えば、乾燥(好適には真空乾燥(減圧乾燥))、熱処理、厚膜化等が挙げられる。
尚、本開示の製造方法では、負極7側に電析することで正極6側(陽極側)に電析するよりも基材5の酸化を抑制できる。
【0022】
(1)浴液2
浴液2は、有機溶剤を溶媒としている。
(1.1)水分含有率
皮膜3の均質性を担保し、基材5の酸化を抑制する観点から、浴液2の水分含有率は、3質量%未満とされている。水分含有率は、1質量%未満が好ましく、0.1質量%未満がより好ましい。水分含有率は、0質量%であってもよい。浴液2の水分含有率はGC-MS分析によって求めることができる。
【0023】
(1.2)金属元素
浴液2は、少なくとも1種類以上の金属元素を含有している。金属元素は、特に限定されない。皮膜3を基材5の良質な保護膜として機能させる観点から、金属元素は、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、及びMo(モリブデン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。本開示の製造方法では、浴液2中の金属元素に依存した皮膜3である酸化物膜が形成される。
浴液2に、含有される金属元素は、正極6(陽極)の溶出により浴液2中に供給されていてもよい。金属元素が正極6から浴液2中に溶出する場合には、成膜速度の管理が容易となる他、複数の基材5への連続かつ安定した成膜が可能となる。正極6の溶出により金属元素を浴液2に供給する場合には、正極6はAlの電極、Tiの電極、及びMoの電極より選ばれた少なくとも1種以上の電極が用いられることが好ましい。
浴液2中の金属元素は、金属アルコキシド及び/又は無機金属化合物から供給されてもよい。金属元素が金属アルコキシド及び/又は無機金属化合物の溶解により供給される場合には、正極6(陽極)を溶出させて供給することが困難な元素にも対応できる。また、この場合には、複数の金属元素を複合して組成比率を制御した皮膜形成が可能となる。
金属アルコキシドとしては、例えば、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、モリブデンアルコキシド等が例示される。
アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムトリアルコキシドが挙げられる。アルミニウムトリアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムトリプロポキシド(例えば、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn-プロポキシド)、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリブトキシド(例えば、アルミニウムトリsec-ブトキシド、アルミニウムトリn-ブトキシド)等が挙げられる。
チタンアルコキシドとしては、例えば、チタントリアルコキシド、チタンテトラアルコキシドなどが挙げられ、好ましくは、チタンテトラアルコキシドが挙げられる。チタンテトラアルコキシドとしては、例えば、チタンテトラプロポキシド(例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-プロポキシドなど)、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラブトキシド(例えば、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラn-ブトキシドなど)、チタンテトラペントキシド、チタンテトラヘキソキシド、チタンテトラ(2-エチルヘキソキシド)等が挙げられる。
無機金属化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化チタン等が例示される。
浴液2中の金属元素が、金属アルコキシド及び/又は無機金属化合物から供給される場合には、浴液2における金属元素の濃度は、特に限定されない。この場合には、浴液2における金属元素の濃度は、良好な皮膜3を形成する観点から、1ppm以上100ppm以下であることが好ましく、3ppm以上10ppm以下がより好ましく、4ppm以上6ppm以下が更に好ましい。尚、「ppm」は、「百万分率」であり、「mg/L」である。また、浴液2に複数の金属元素を含む場合には、上記金属元素の濃度は、複数の金属元素の合計濃度を意味する。浴液2における金属元素の濃度は、ICP-MS分析により測定することができる。
【0024】
(1.3)ハロゲン元素
浴液2は、少なくとも1種類以上のハロゲン元素を含有している。浴液2にハロゲン元素を含有することで、皮膜形成が実用的な速度で行われ、しかも皮膜3が均質になりやすい。ハロゲン元素は、特に限定されない。有機電気化学反応を速やかに進行させ、皮膜3を基材5の良質な保護膜として機能させる観点から、ハロゲン元素は、Cl(塩素)、Br(臭素)、及びI(ヨウ素)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることが好ましい。
浴液2におけるハロゲン元素の濃度は、特に限定されない。ハロゲン元素の濃度は、反応速度を適度に抑制するとともに、皮膜3の均質性や厚みの制御に優位で、皮膜3の剥離を抑制する観点から、1ppm以上20000ppm以下であることが好ましく、5ppm以上2000ppm以下がより好ましく、10ppm以上100ppm以下が更に好ましい。尚、「ppm」は、「百万分率」であり、「mg/L」である。浴液2におけるハロゲン元素の濃度は、建浴時のハロゲン元素添加量、もしくは浴液のICP-MS分析により求めることができる。
【0025】
(1.4)有機溶剤
浴液2の溶媒を有機溶剤とすることで、皮膜形成中のガスの発生や基材5自体の酸化が抑制される。皮膜3が良好に形成されるという観点から、溶媒は、ケトン、及びニトリルからなる群より選ばれた少なくとも1種以上を含むことが好ましい。溶媒にケトン、ニトリルを含むことで、縮合反応が電極表面(陰極表面)で起こり電析が可能となると推測される。また、溶媒にケトンを含むことで、ハロゲンの存在下でケトエノール互変異性が生じ、浴液2の反応性が向上すると考えられる。
【0026】
(1.4.1)ケトン
ケトンは、エステル結合以外のカルボニル基(-C(=O)-)を有する有機溶剤であれば、特に限定されない。
ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、4-ヘプタノン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、フェニルアセトン、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、シクロヘキサノン(CHN)、メチルシクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、皮膜3が特に良好に形成されるという観点から、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0027】
(1.4.2)ニトリル
ニトリルは、構造中にニトリル基(-CN)を含む有機溶剤である。ニトリルとしては、例えば、アセトニトリル、プロピオ二トリル、バレロニトリル、ブチロ二トリル等が挙げられる。これらの中でも、皮膜3が特に良好に形成されるという観点から、ニトリルとしては、アセトニトリルが好ましい。
【0028】
(2)基材5
「基材5」については、上記の「1.被覆基材1」における「(1)基材5」の欄の説明をそのまま適用する。
【0029】
(3)電圧印加
本開示では、基材5を浴液中に浸漬した状態で、電圧印加することで負極側の基材5上に皮膜3を形成する。具体的には、浴液2に正極6と負極7(基材5)とを浸漬し、両電極間に電位勾配を発生させる。
正極6としては、公知の導電性基板のいずれも使用できる。浴液2中の金属元素が、正極6の溶出によって供給される場合には、正極6は、Alの電極、Tiの電極、及びMoの電極より選ばれた少なくとも1種以上の電極が好ましい。正極6の形状、厚さ、大きさ等は、特に限定されない。正極6は、例えば、箔状、板状、発泡状、不織布状、メッシュ状、フェルト状、エキスパンデッド状であってもよい。
正極6と負極7は、対向して配置されることが好ましい。
正極6と負極7は、直流電源に接続され、直流電源によって正極6と負極間に電位勾配を発生させることができる。
正極6と負極7間に電位勾配を発生するためには、浴液2に正極6と負極7とを浸漬した状態で、正極6と負極7に接続されている電源によって、両電極に電圧(例えば定電圧)を印加する。
両電極間に発生させる電位勾配は、皮膜形成を実用的な速度で行う観点から、定電圧の場合には、10V以上300V以下が好ましく、20V以上100V以下がより好ましく、60V以上80V以下が更に好ましい。
電圧を印加する印加時間は、特に限定されない。印加時間は、例えば、10秒以上300秒以下が好ましく、30秒以上240秒以下がより好ましく、60秒以上180秒以下が更に好ましい。
尚、電圧は、定電圧ではなく、大きさを変化させてもよい。
【0030】
(4)皮膜3に収縮応力を生じさせるための処理
皮膜3に収縮応力を生じさせるための処理としては、上述のように、例えば、乾燥(好適には真空乾燥(減圧乾燥))、熱処理、厚膜化等が挙げられる。これらの処理は単一の処理のみを採用してもよいし、複数の処理を組み合わせて採用してもよい。
【0031】
(4.1)乾燥
乾燥温度は、特に限定されない。乾燥温度は、皮膜3に収縮応力が生じてクラック8が発生し易くする観点から、200℃以上1300℃以下が好ましく、300℃以上1000℃以下がより好ましく、400℃以上500℃以下が更に好ましい。
乾燥は、クラック8がより発生し易くする観点から、真空乾燥(減圧乾燥)が好ましい。ここで、真空(減圧)は、標準大気圧より圧力が低い状態であれば特に限定されない。JISによって圧力の段階ごとに区分されている以下のいずれの真空であってもよい。
低真空 圧力 100kPa-100Pa
中真空 圧力 100Pa-0.1Pa
高真空 圧力 0.1Pa-10μPa
超高真空 圧力 10μPa以下
【0032】
(4.2)熱処理
熱処理温度は、特に限定されない。熱処理温度は、皮膜3に収縮応力が生じてクラック8が発生し易くする観点から、200℃以上1300℃以下が好ましく、300℃以上1000℃以下がより好ましく、400℃以上500℃以下が更に好ましい。
【0033】
(4.3)厚膜化
皮膜3を厚膜化することでクラック8を形成するためには、皮膜3の厚みは、100nm以上2000nm未満が好ましく、200nm以上1000nm以下がより好ましく、300nm以上800nm以下が更に好ましい。尚、皮膜3の厚みが一定でない場合には、皮膜3の少なくとも一部の厚みが上述の範囲であれば、厚みの要件を充足する。
【0034】
3.本実施形態の被覆基材1の作用効果
本実施形態によれば、種々の分野に適用可能で、高機能を期待可能な新規な被覆基材1が提供される。
本実施形態の被覆基材1は、簡易なプロセスを採用し量産可能である。
本実施形態の被覆基材1は、高価な原料を用いることなく、又は高価な原料の使用量をごく少量にして形成できるため、コスト的に有利である。
【実施例0035】
実施例により本開示を更に具体的に説明する。
尚、以下の説明において、XPS(X線光電子分光法)の測定条件は以下の通りである。
[測定条件]
X線ビーム径:100μmΦ
信号の取り込み角:45.0°
パスエネルギー:140eV
Arエッチングを30秒間行った後に測定(エッチングレート:SiO換算で10nm/min)
【0036】
以下の実験例1-11の各種被覆基材1を作製した。その後、実験例1、2について後述の真空乾燥を行うことで、皮膜3にクラック8を生じさせた。
まず、実験例1-11の各種被覆基材1の作製について説明する。
【0037】
1.金属元素が正極6の溶出により浴液2中に供給される実験例
(1)実験例1(溶媒:MEK、正極6:アルミニウム)
図6に示す成膜装置11を用いた。正極6としてアルミニウムワイヤを用いた。負極7としてステンレス板を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、メチルエチルケトン(MEK)を用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を600ppm溶解させた。
浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを3分間印加した。 負極7の断面をFIB-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)にて観察したところ、図3に示すように、基材5の表面に700nmの皮膜3が形成されていた。XPSでArエッチングを30秒間行った後に分析したところ、この皮膜3はアルミニウム酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は5.8atm%であり、アルミニウム元素及び酸素元素の合計の元素百分率は93.9atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%未満(測定下限)であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、次の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
皮膜3の相対密度は、次の方法により求めた。皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像を取得した。縦300nm、横1000nmの視野で気孔の面積を測定した。下記(1)式から相対密度(%)を求めた。10箇所の視野の相対密度の平均値が皮膜3の相対密度である。尚、皮膜3の厚さが縦300nmよりも小さい場合、皮膜3の厚さに合わせた視野で測定を行うものとする。
相対密度(%)={(S1-S2)/S1}×100 (1)
(式中S1は縦300nm×横1000nmの視野の面積(nm)で、S2は縦300nm×横1000nmの視野内における気孔の合計面積(nm)である)
【0038】
(2)実験例2(溶媒:アセトン、正極6:アルミニウム)
浴液2の溶媒として、アセトンを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を14ppm溶解させた。それ以外の点は、実施例1と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に130nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はアルミニウム酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は6.5atm%であり、アルミニウム元素及び酸素元素の合計の元素百分率は93.3atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0039】
(3)実験例3(溶媒:MEK、正極6:チタン)
正極6としてチタンワイヤを用いた。それ以外の点は、実施例1と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に90nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はチタン酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は24.6atm%であり、チタン元素及び酸素元素の合計の元素百分率は78.7atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.3atm%であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0040】
(4)実験例4(溶媒:アセトン、正極6:チタン)
浴液2の溶媒として、アセトンを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を2400ppm溶解させた。それ以外の点は、実施例3と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に500nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はチタン酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は9.2atm%であり、チタン元素及び酸素元素の合計の元素百分率は83.7atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.4atm%であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0041】
(5)実験例5(溶媒:MEK、正極6:モリブデン)
正極6としてモリブデンワイヤを用いた。それ以外の点は、実施例1と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に160nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はモリブデン酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は14.8atm%であり、モリブデン元素及び酸素元素の合計の元素百分率は78.7atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%未満(検出限界以下)であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0042】
(6)実験例6(溶媒:アセトン、正極6:モリブデン)
浴液2の溶媒として、アセトンを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を2400ppm溶解させた。それ以外の点は、実施例5と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に480nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はモリブデン酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は12.7atm%であり、モリブデン元素及び酸素元素の合計の元素百分率は78.0atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%未満(検出限界以下)であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0043】
(7)実験例7(溶媒:アセトニトリル、正極6:アルミニウム)
浴液2の溶媒として、アセトニトリルを用いた。浴液2には、ハロゲンとしてのヨウ素を2400ppm溶解させた。それ以外の点は、実施例1と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に140nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はアルミニウム酸化物であることが分かった。皮膜3には、浴液2には存在しない酸素が存在していた。これは、浴液2に含有されていた水、又は大気中から吸湿した水に由来する酸素であると推定される。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は9.8atm%であり、アルミニウム元素及び酸素元素の合計の元素百分率は90.1atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0044】
2.金属元素が金属アルコキシドから浴液中に供給される実験例
(1)実験例8(溶媒:アセトン、金属アルコキシド:アルミニウムトリイソプロポキシド)
図6に示す成膜装置11を用いた。正極6として炭素電極を用いた。負極7としてステンレス板を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、アセトンを用いた。
浴液2には、アルミニウムトリイソプロポキシドを16mg/L(16ppm)溶解させ、ハロゲンとしてのヨウ素を2400mg/L(2400ppm)溶解させた。
浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを3分間印加した。
負極7の断面をFIB-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)にて観察したところ、基材5の表面に140nmの皮膜3が形成されていた。XPS(X線光電子分光法)で分析したところ、この皮膜3はアルミニウム酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は8.4atm%であり、アルミニウム元素及び酸素元素の合計の元素百分率は84.3atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%未満(検出限界以下)であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0045】
(2)実験例9(溶媒:MEK、金属アルコキシド:アルミニウムトリイソプロポキシド)
浴液2の溶媒として、メチルエチルケトン(MEK)を用いた。それ以外の点は、実施例8と同様にして実験した。
負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に300nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はアルミニウム酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は8.6atm%であり、アルミニウム元素及び酸素元素の合計の元素百分率は83.6atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.1atm%未満(検出限界以下)であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0046】
(3)実験例10(溶媒:アセトン、金属アルコキシド:チタンテトライソプロポキシド)
アルミニウムトリイソプロポキシドに代えて、チタンテトライソプロポキシドを用いた。それ以外の点は、実施例8と同様にして実験した。負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に700nmの皮膜3が形成されていた。
XPSで分析したところ、この皮膜3はチタン酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は8.8atm%であり、チタン元素及び酸素元素の合計の元素百分率は86.1atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、1.3atm%であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
また、上述の方法によって、皮膜3の相対密度を求めたところ、相対密度は100%であった。
【0047】
(4)実験例11(溶媒:アセトン、金属アルコキシド:チタンテトラn-プロポキシド)
アルミニウムトリイソプロポキシドに代えて、チタンテトラn-プロポキシドを用いた。それ以外の点は、実施例8と同様にして実験した。
負極7の断面をFIB-SEMにて観察したところ、基材5の表面に510nmの皮膜3が形成されていた。XPSで分析したところ、この皮膜3はチタン酸化物であることが分かった。
また、皮膜3における炭素元素の元素百分率は9.5atm%であり、チタン元素及び酸素元素の合計の元素百分率は85.9atm%であった。
また、この皮膜3におけるヨウ素元素の元素百分率は、0.9atm%であった。
また、皮膜3の膜厚方向に切断した断面TEM像では、結晶粒が観察されないことから、皮膜3は非晶質であることが確認された。
【0048】
3.皮膜3のFT-IRによる分析
実験例1,2,3,7で形成された皮膜3についてFT-IRで分析した。測定条件は以下の通りである。
測定方法 :1回反射ATR法
積算回数 :64回
分解能 :4cm-1
アパーチャ:150μm
【0049】
いずれの皮膜3においても3000cm-1-2800cm-1にC-H伸縮振動と推定されるピークが検出された。
【0050】
4.皮膜3のXPSによる分析
実験例1,2,3で形成された皮膜3についてXPSで分析した。いずれの皮膜3においてもC=O結合、C-O結合が検出された。
【0051】
5.溶媒の種類による皮膜形成速度の相違
電析時間と析出重量との関係を各種溶媒について調べた。
図6に示す成膜装置11を用いた。正極6としてアルミニウムワイヤを用いた。負極7としてステンレス板を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンの各種溶媒を用いた。浴液2には、それぞれハロゲンとしてのヨウ素を2100mg/L(2100ppm)溶解させた。
浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを1分間-4分間印加した。
各溶媒を用いた場合について、印加時間(電析時間)と析出重量(析出質量)との関係を図7のグラフに示す。析出重量は、形成された皮膜の重量である。
図7のグラフから、電析時間が大きくなるに伴って析出重量が大きくなる傾向にあることが確認された。また、図7のグラフから、溶媒の炭化水素基の炭素数が少ない程、析出速度が速いことが確認された。
【0052】
6.浴液2中の金属元素濃度と皮膜の密着性の関係
実験例1と同様にして、最初(第1番目)のサンプル(被覆基材1)を作製した。第1番目のサンプルを浴液2から引き上げて、新たなステンレス板を浴液2に入れて実験例1と同様に印加して第2番目のサンプルを作製した。同様にして、第3,4番目のサンプルを作製した。各サンプルを浴液2から引き上げる際に、浴液2の一部を取り出して、ICP―MSにてアルミニウム元素の濃度を測定した。
サンプルの試作数と、浴液2のアルミニウム元素の濃度の関係を図8のグラフに示す。図8のグラフから、試作数が増えるとアルミニウム元素の濃度が上昇する傾向にあることが分かった。また、第4番目のサンプルでは、皮膜3が基材5から剥離気味であった。よって、連続的にサンプルを作製するためには、アルミニウム元素の濃度は、1ppm以上6ppm以下であることが好ましいことが分かった。
【0053】
7.浴液2中のハロゲン元素の濃度と皮膜の密着性の関係
図6に示す成膜装置11を用いた。正極6としてアルミニウムワイヤを用いた。負極7としてステンレス板を用いた。負極7は、表面に皮膜3を形成する基材5である。浴液2の溶媒には、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)の各種溶媒を用いた。各浴液2には、それぞれハロゲンとしてのヨウ素を表1に示す量溶解させた。
各浴液2に正極6と負極7を浸漬した状態で、正極6と負極7間に80Vを3分間印加して、最初(第1番目)のサンプル(被覆基材1)を作製した。第1番目のサンプルを浴液2から引き上げて、新たなステンレス板を浴液2に入れて第1番目のサンプルと同様に印加して第2番目のサンプルを作製した。同様にして、第3番目以降のサンプルを連続して作製した。
結果を表1に示す。表1における評価は以下の通りである。
A:皮膜3が形成された。皮膜3と基材5の密着性は良好であった。
B:皮膜3が形成された。皮膜3と基材5の密着性がやや劣り、皮膜3は剥離気味であった。
【0054】
表1の結果から、ヨウ素の濃度がいずれの場合であっても皮膜3の形成は可能であった。ヨウ素の濃度は、皮膜3の剥離を抑制する観点から、0.001g/L以上0.10g/L以下(1mg/L以上100mg/L以下=1ppm以上100ppm以下)であることが好ましいことが確認された。
【0055】
【表1】
【0056】
8.基材5の種類の検討
種々の基材5を用いた場合について皮膜3の形成を試みた。実験例1における負極7であるステンレス板の代わりに、パーマロイ板、チタン板、銅板、炭素板をそれぞれ用いた。それ以外の点は、実験例1と同様にして実験した。
いずれの基材5においても安定した皮膜3が形成された。よって、基材5の種類によらずに、安定した皮膜3の形成ができることが確認された。
【0057】
9.真空乾燥
実験例1の被覆基材1について、室温中で真空乾燥したところ、皮膜3にクラック8が生じた。皮膜3の表面を200μm×200μmの視野でSEM観察したところ、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が3箇所以上存在する視野が存在した。被覆基材1の断面をFIB-SEM観察したところ、少なくとも1つのクラック8は、基材5まで到達しており、3相界面となり得ることが確認された。また、クラック8の少なくとも一つは、断面形状が、皮膜3の表面側から基材5側へ向かうにつれて幅が狭くなる形状を有していた。
実験例1の被覆基材1について、大気中500℃で熱処理したところ、皮膜3にクラック8が生じた。皮膜3の表面を200μm×200μmの視野でSEM観察したところ、皮膜3にクラック8で全周を囲まれた領域9が3箇所以上存在する視野が存在した。被覆基材1の断面をFIB-SEM観察したところ、クラック8は、基材5まで到達しており、3相界面となり得ることが確認された。また、クラック8の少なくとも一つは、断面形状が、皮膜3の表面側から基材5側へ向かうにつれて幅が狭くなる形状を有していた。
【0058】
10.実施例の効果
本実施例によれば、種々の分野に適用可能で、高機能を期待可能な新規な被覆基材1が提供される。
【0059】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【0060】
(付記)
本明細書には以下の発明が含まれる。
[1]
皮膜によって基材が被覆されてなる被覆基材であって、
前記皮膜の厚みは、100nm以上2000nm未満であり、
前記皮膜の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、前記皮膜にクラックで全周を囲まれた領域が3箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する、被覆基材。
[2]
前記基材で前記皮膜が形成されている部位は、導電性を有する、[1]に記載の被覆基材。
[3]
前記皮膜をX線光電子分光法で測定した際に、金属元素及びO(酸素)の合計の元素百分率が70atm%以上である、[1]又は[2]に記載の被覆基材。
[4]
前記皮膜の表面を200μm×200μmの視野で観察した際に、前記皮膜に前記クラックで全周を囲まれた領域が10箇所以上存在する視野が少なくとも一つ存在する、[1]から[3]のいずれか1項に記載の被覆基材。
[5]
前記クラックの少なくとも一つは、断面形状が、前記皮膜の表面側から前記基材側へ向かうにつれて幅が狭くなる形状を有する、[1]から[4]のいずれか1項に記載の被覆基材。
[6]
前記クラックの少なくとも一つは、前記皮膜と異なる材質の充填物で塞がれている、[1]から[5]のいずれか1項に記載の被覆基材。
[7]
前記金属元素は、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、及びMo(モリブデン)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上である、[3]に記載の被覆基材。
【符号の説明】
【0061】
1 …被覆基材
2 …浴液
3 …皮膜
5 …基材
6 …正極
7 …負極
8 …クラック
9 …領域
11…成膜装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8