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特開2024-22033中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022033
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュールおよび中空糸膜モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240208BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D63/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125333
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】内永 憲佑
(72)【発明者】
【氏名】村田 周和
(72)【発明者】
【氏名】薮野 洋平
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA02
4D006HA15
4D006JA13A
4D006JA13B
4D006JA13C
4D006JA25C
4D006JB04
4D006JB06
4D006LA04
4D006MA01
4D006MA31
4D006MC11
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC34
4D006MC39
4D006MC45
4D006MC47
4D006MC58
4D006MC59
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PB02
(57)【要約】
【課題】優れた透水性を有し、かつ、中空糸膜が破断した際に、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができる中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着部とを備える中空糸膜モジュールであって、前記各中空糸膜は、接着樹脂が当該中空糸膜の外表面側から内表面側に向かって浸透して構成される接着樹脂浸透部を有し、前記接着樹脂浸透部の厚さの最大値は、前記中空糸膜の厚さに対して、99%以下であり、かつ、前記接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は、0.7以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着部とを備える中空糸膜モジュールであって、
前記各中空糸膜は、接着樹脂が当該中空糸膜の外表面側から内表面側に向かって浸透して構成される接着樹脂浸透部を有し、
前記接着樹脂浸透部の厚さの最大値は、前記中空糸膜の厚さに対して、99%以下であり、かつ、
前記接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は、0.7以上である、中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記接着樹脂浸透部の厚さの最小値は、前記中空糸膜の厚さに対して、70%以上である、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着部とを備える中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部を、保湿材料を水で希釈した保湿材料水溶液中へ浸漬した後、乾燥させることによって、前記中空糸膜の外表面側に前記保湿材料を含有させる保湿工程と、
前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部を湿潤環境下において、前記中空糸膜の少なくとも一方の端部に湿気を吸い取らせる吸湿工程と、
前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着工程と、をこの順に含む、中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記吸湿工程では、前記湿潤環境下における相対湿度は10%~50%であり、かつ、吸湿時間は0.5時間~2時間である、請求項3に記載の中空糸モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束を備える中空糸膜モジュールおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中の不純物を除去する水処理において、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束を備える中空糸膜モジュールが用いられている。中空糸膜モジュールを用いた水処理の濾過工程では、中空糸膜モジュールに設けられた原水入口を通じて原水(濾過前の被処理水)が中空糸膜モジュール内に供給される。その後、最終的に、中空糸膜を通過した濾過水が中空糸膜モジュールに設けられた濾過水出口を通じて中空糸膜モジュール外に排出される。このような中空糸膜モジュールは、廃水処理、食品製造、医療等の様々な分野において使用されている。
【0003】
一般的に、中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、中空糸膜束の一方または両方の端部において中空糸膜同士(および中空糸膜束同士)を接着樹脂で固定する接着部とから構成されている。中空糸膜モジュールの製造時には、中空糸膜束における各中空糸膜の外表面側から内表面側に向かって接着樹脂が浸透することによって、接着部と複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束とが固定される。以下、各中空糸膜の外表面側から内表面側に向かって接着樹脂が浸透している部分を、「接着樹脂浸透部」とも言う。
【0004】
中空糸膜モジュールの製造時において、このような中空糸膜への接着樹脂の浸透の制御は、非常に重要である。例えば、中空糸膜への接着樹脂の浸透が多過ぎる場合、中空糸膜の中空部が接着樹脂で閉塞されてしまい、中空糸膜モジュールの使用時の通水性能が低下してしまう。一方、中空糸膜への接着樹脂の浸透が少な過ぎる場合、中空糸膜と接着樹脂との接着性が低下し、中空糸膜と接着部が剥離してしまうおそれがある。
【0005】
一方、中空糸膜モジュールの中空糸膜が破断した場合、破断部位において被処理水が膜で濾過されずに処理水側に流れてしまう。そのような場合、一般的に、破断部位を有する中空糸膜の中空部に開口封止部材が挿入され、中空糸膜の上側の開口が封止される。
【0006】
開口封止部材は、例えば、ハンマー等で打ち込むことによって中空糸膜の中空部に挿入され、中空糸膜の上側の開口を封止することができる。開口封止部材は、接着樹脂が浸透している中空糸膜の部分には挿入することができないが、接着樹脂が浸透していない中空糸膜の部分には中空糸膜を押しながら挿入することができる。そのため、中空糸膜モジュールの各中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さが異なると、各中空糸膜の上側の開口を封止するために必要とされる開口封止部材の大きさも異なる。従って、中空糸膜モジュールにおいて各中空糸膜の接着樹脂の浸透が不均一である場合、破断部位を有する中空糸膜を封止するために用いられる開口封止部材の大きさを統一できないという問題が生じる。
【0007】
このような中空糸膜モジュールの製造時における接着樹脂の浸透の制御の問題や中空糸膜の破断時における問題を解決する技術が、いくつか知られている。例えば、特許文献1には、接着樹脂による中空糸膜の中空部の閉塞の問題を解決する技術として、各中空糸膜の先端部分を樹脂溶液中へ浸漬し、中空糸膜の中空部を陰圧状態にし、その後陰圧状態を開放して乾燥させることによって、各中空糸膜の内表面側の一部の範囲に樹脂含浸部を形成する接着予備工程を含む中空糸膜モジュールの製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献2には、中空糸膜の中空部への接着樹脂の浸透を防止する技術として、各中空糸膜の少なくとも一端部を、有機溶媒で樹脂を希釈した樹脂溶液中へ浸漬後、乾燥させることによって中空糸膜の外表面側に樹脂含浸部を形成する接着予備工程を含む中空糸膜モジュールの製造方法が記載されている。このような方法で製造された中空糸膜モジュールは、中空糸膜が有する樹脂含浸部の中空糸膜の肉厚方向の厚さが、中空糸膜の厚さに対して10%~70%であることが記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、リークが発生した中空糸膜(すなわち、破断部位を有する中空糸膜)を同じ種類の開口封止部材を用いて封止する技術として、外径が開口の内径よりも小さい一端と反対側の他端とを有し、一端側から他端側にかけて外径が拡大している開口封止部材(すなわち、一端側から他端側にかけてテーパー形状になっている開口封止部材)を備える膜モジュールについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6688127号公報
【特許文献2】特許第6278541号公報
【特許文献3】特許第6359140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような従来までの接着樹脂の浸透制御の技術や中空糸膜の破断時における技術を適用した場合であっても、製造された中空糸膜モジュールは、その性能に様々な問題が生じ得ることが想定される。
【0012】
具体的には、特許文献1に記載の方法によって製造された中空糸膜モジュールは、中空糸膜の内表面側に樹脂含浸部が形成されているため、中空糸膜の中空部の閉塞は防ぐことはできる。しかしながら、中空糸膜の内表面側に樹脂含浸部が形成されている場合、あるいは接着樹脂が中空糸膜の外表面側から内表面側まで全て浸透している場合には、たとえ中空糸膜の中空部が閉塞されていなくても、通水時に抵抗が生じてしまい、中空糸膜モジュールの透水性が低下してしまうことが分かった。
【0013】
また、特許文献2に記載の方法によって製造された中空糸膜モジュールは、中空糸膜が有する樹脂含浸部の中空糸膜の肉厚方向の厚さが、中空糸膜の厚さに対して10%~70%となっている。特許文献2における樹脂含浸部は、製造される過程は異なるが、最終的な構成材料は接着樹脂浸透部と類似している。従って、特許文献2に記載の中空糸膜モジュールでは、中空糸膜の内表面側まで接着樹脂が浸透していないため、前述したような透水性の低下の問題は生じない。しかしながら、特許文献2に記載の中空糸膜モジュールは、樹脂含浸部の肉厚方向の厚さの範囲が中空糸膜の厚さに対して10%~70%と広くなっており、不均一になっている。前述した通り、接着樹脂浸透部の厚さが不均一である場合、各中空糸膜の開口を封止するために用いられる開口封止部材の大きさを統一できないという問題が生じる。
【0014】
特許文献3に記載の膜モジュールは、そもそも、中空糸膜への接着樹脂の浸透の制御の問題については考慮されていない。さらに、特許文献3に記載の膜モジュールは、使用される統一された開口封止部材がテーパー形状といった特殊な形状である。従って、開口封止部材を備える膜モジュールの生産コストが高くなるという問題を有する。
【0015】
そこで、本発明は、優れた透水性を有し、かつ、中空糸膜が破断した際に、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができる中空糸膜モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0017】
本発明の第1の局面に係る中空糸膜モジュールは、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着部とを備える中空糸膜モジュールであって、
前記各中空糸膜は、接着樹脂が当該中空糸膜の外表面側から内表面側に向かって浸透して構成される接着樹脂浸透部を有し、
前記接着樹脂浸透部の厚さの最大値は、前記中空糸膜の厚さに対して、99%以下であり、かつ、
前記接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は、0.7以上である。
【0018】
前述の中空糸膜モジュールにおいて、前記接着樹脂浸透部の厚さの最小値は、前記中空糸膜の厚さに対して、70%以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の局面に係る中空糸膜モジュールの製造方法は、複数の中空糸膜が束ねられた中空糸膜束と、前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着部とを備える中空糸膜モジュールの製造方法であって、
前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部を、保湿材料を水で希釈した保湿材料水溶液中へ浸漬した後、乾燥させることによって、前記中空糸膜の外表面側に前記保湿材料を含有させる保湿工程と、
前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部を湿潤環境下において、前記中空糸膜の少なくとも一方の端部に湿気を吸い取らせる吸湿工程と、
前記中空糸膜束の少なくとも一方の端部において前記中空糸膜同士を接着樹脂で固定する接着工程と、をこの順に含む。
【0020】
前述の中空糸膜モジュールの製造方法において、前記吸湿工程では、前記湿潤環境下における相対湿度は10%~50%であり、かつ、吸湿時間は0.5時間~2時間であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた透水性を有し、かつ、中空糸膜が破断した際に、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができる中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの構成の一例を示す模式図である。
図2図2は、図1に示すXで切断した模式断面図とその拡大図である。
図3図3は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの中空糸膜の断面を示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの開口封止部材の構成を模式的に示す拡大図である。
図5図5は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの製造方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
前述した課題を達成するには、透水性を低下させることなく、かつ、各中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さを可能な限り均一となるように制御した中空糸膜モジュールが求められる。
【0024】
本発明者らが鋭意検討した結果、中空糸膜モジュールの製造方法が、中空糸膜に保湿材料を含有させる保湿工程と中空糸膜に湿気(すなわち水分)を吸収させる吸湿工程とを含むことによって、各中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さが好適な厚さとなるように調整でき、かつ、中空糸膜モジュール全体において各中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さが略均一となるように制御できることが分かった。具体的には、本実施形態における中空糸膜モジュールの製造方法によると、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が中空糸膜の厚さに対して99%以下であり、かつ、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率が0.7以上である中空糸膜モジュールを得ることができる。
【0025】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、ここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0026】
<中空糸膜モジュール>
(中空糸膜モジュールの構成)
まず、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの構成を、図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、中空糸膜モジュール1は、複数の中空糸膜2が束ねられた中空糸膜束3と、中空糸膜束3の両端部において中空糸膜2同士(および中空糸膜束3同士)を接着樹脂で固定する接着部4とを備える。
【0028】
また、中空糸膜モジュール1は、複数の中空糸膜束3を収容する円筒状のケーシング5をさらに備えている。ケーシング5の両方の端部の開口には、配管が接続される管路6a、7aが形成された配管接続用のキャップ6、7がそれぞれ設けられている。キャップ6、7は、例えばナットによってケーシング5に固定されている。
【0029】
さらに、ケーシング5の両方の端部付近には、流体が流れるノズル5aが形成されている。ノズル5aは、ケーシング5の長手方向に直交する方向に突き出すように設けられている。
【0030】
中空糸膜2としては、特に限定されず、当業者に公知の任意の濾過膜等を用いることができる。例えば、精密濾過膜、限外濾過膜等を用いることができる。
【0031】
中空糸膜2の材料は、特に限定されず、当業者に公知の任意の材料を用いればよい。例えば、中空糸膜2の材料としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルペンテン)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、セルロース、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。または、これらの複合材料を用いてもよい。
【0032】
中空糸膜束3が束ねる中空糸膜2の本数は、特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。例えば、中空糸膜2の本数は、500本~5000本にすることができる。
【0033】
接着部4は、硬化した接着樹脂からなる。接着部4は、例えば、次の方法によって成形することができる。ケーシング5内の空間に複数の中空糸膜束3を収容した後、ケーシング5内に接着樹脂の主成分および硬化剤を注入する。その後、当業者に公知の任意の方法である遠心機等を用いた遠心接着法、静置接着法等を適用することによって、ケーシング5内において中空糸膜2同士(および中空糸膜束3同士)を硬化した接着樹脂で固定するように、接着部4を成形することができる。
【0034】
接着部4に使用される接着樹脂は、特に限定されず、当業者に公知の任意の材料を用いればよい。例えば、接着樹脂として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素含有樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の高分子樹脂材料が挙げられる。これらの樹脂材料のうちの1種を使用してもよいし、複数の樹脂材料を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
ケーシング5の材質は、特に限定されず、当業者に公知の任意の材質から構成されていればよい。例えば、ケーシング5の材質として、SUS、変性PPE、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ABS樹脂等が挙げられる。
【0036】
(中空糸膜の断面構造)
次いで、本実施形態における中空糸膜モジュールの中空糸膜の断面構造を、図面を参照しながら説明する。
【0037】
図2は、図1に示すXで切断した模式断面図とその拡大図である。図2に示すように、接着部4で固定された各々の中空糸膜束3の断面において、中空部2’を有する複数の中空糸膜2が配列している。各中空糸膜2同士の空間も、接着樹脂で充填されており、この充填空間は接着部4の一部を構成している。
【0038】
図3は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの中空糸膜の断面を示す模式図である。具体的には、図3は、接着樹脂浸透部の厚さが最大値の中空糸膜の断面と接着樹脂浸透部の厚さが最小値の中空糸膜の断面を模式的に示している。
【0039】
図2および図3に示すように、各中空糸膜2は、内部に空洞部分の中空部2’を有している。さらに、各中空糸膜2は、接着樹脂が中空糸膜の外表面S1側から内表面S2側に向かって浸透して構成される接着樹脂浸透部2aを有する。
【0040】
本明細書において、「接着樹脂浸透部の厚さ」とは、具体的には、中空糸膜の厚さに対する各々の中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さの割合(%)を意味する。後述する方法で製造される本実施形態における中空糸膜モジュールでは、接着樹脂浸透部の厚さは、一つの中空糸膜において均一の値として定義することができる。さらに、本明細書において、接着樹脂浸透部の厚さは、後の実施例で詳細に述べるように、以下の式を用いて測定および算出される値とされる。
式:(接着樹脂浸透部の厚さ)(%)=[{(中空糸膜の外径)―(接着樹脂浸透部を除く中空糸膜の部分の直径)}/(中空糸膜の外径)]×100
【0041】
本明細書において、「接着樹脂浸透部の厚さの最大値」とは、本実施形態における中空糸膜モジュールが備える複数の中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さ(%)の最大値(%)を意味する。具体的には、後の実施例で詳細に述べるように、一つの中空糸膜モジュールからランダムに選択した100本の中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さ(%)のうち、最も大きい接着樹脂浸透部の厚さ(%)を意味する。
【0042】
本明細書において、「接着樹脂浸透部の厚さの最小値」とは、本実施形態における中空糸膜モジュールが備える複数の中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さ(%)の最小値(%)を意味する。具体的には、後の実施例で詳細に述べるように、一つの中空糸膜モジュールからランダムに選択した100本の中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さ(%)のうち、最も小さい接着樹脂浸透部の厚さ(%)を意味する。
【0043】
図3の左側に示す中空糸膜2は、接着樹脂浸透部2aの厚さが最大値tamax(%)の中空糸膜2を表している。図3の右側に示す中空糸膜2は、接着樹脂浸透部の厚さ2aが最小値tamin(%)の中空糸膜2を表している。tは、中空糸膜2の厚さを表す。D1は、中空糸膜2の外径を表し、全ての中空糸膜2において同一の値である。D2-1およびD2-2は、各々の中空糸膜2の接着樹脂浸透部2aを除く中空糸膜2の部分の直径を表す。
【0044】
本実施形態における中空糸膜モジュールでは、図3の左側に示す中空糸膜2の接着樹脂浸透部2aの厚さの最大値tamaxは、中空糸膜2の厚さtに対して、99%以下である。接着樹脂浸透部2aの厚さの最大値tamaxが99%以下であることによって、被処理水が通水する中空糸膜2の内表面S2側まで接着樹脂が露出することがない。そのため、接触角が下がることによる中空糸膜モジュール1の透水性の低下を防ぐことができる。
【0045】
接着樹脂浸透部2aの厚さの最大値tamaxの下限値は、特に限定されないが、接着樹脂浸透部2aの厚さが過度に小さすぎる場合、中空糸膜2と接着樹脂の接着性が低下してしまうおそれもある。
【0046】
従って、接着樹脂浸透部2aの厚さの最大値tamaxは、中空糸膜2の厚さtに対して、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0047】
さらに、本実施形態における中空糸膜モジュールでは、図3に示す接着樹脂浸透部2aの厚さの最大値tamaxに対する最小値taminの比率(すなわち、tamin/tamax)は、0.7以上である。tamin/tamaxの値が0.7以上であることによって、中空糸膜モジュール全体において接着樹脂浸透部2aの厚さは良好な均一性を有するので、中空糸膜2が破断した際に、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができる。換言すると、複数の中空糸膜2が破断した際に、ほとんどの、好ましくは全部の中空糸膜2の開口を、変動係数が1%未満の外径を有する開口封止部材を使用して封止することができる。
【0048】
接着樹脂浸透部2aの厚さの最大値tamaxに対する最小値taminの比率は、0.72以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましく、0.80以上であることがさらに好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。
【0049】
加えて、本実施形態における中空糸膜モジュールでは、図3の右側に示す中空糸膜2の接着樹脂浸透部2aの厚さの最小値taminは、中空糸膜2の厚さtに対して、70%以上であることが好ましい。接着樹脂浸透部2aの厚さの最小値taminが70%以上であることによって、中空糸膜2と接着樹脂の接着性の低下をより確実に防ぐことができる。
【0050】
接着樹脂浸透部2aの厚さの最小値taminは、73%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【0051】
上述した接着樹脂浸透部の厚さ、接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値、ならびに接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は、後に詳細に述べる製造方法において、吸湿工程中に中空糸膜に吸湿される水分量を所望量に調整して、接着樹脂の浸透を調節することによって、制御することができる。具体的には、これらの値は、主として吸湿工程における相対湿度および吸湿時間を適切に調整することによって、各々の数値範囲内になるように制御することができる。
【0052】
(中空糸膜モジュールの開口封止部材の統一性)
本実施形態における中空糸膜モジュールは、変動係数が1%未満の外径を有する開口封止部材を用いて測定される開口封止部材の統一性が100%であることが好ましい。
【0053】
本明細書において、「開口封止部材」とは、中空糸膜モジュールの中空糸膜が破断した際に、中空糸膜の中空部に挿入し、被処理水が膜で濾過されずに処理水側に流れてしまうことを防ぐ封止部材を意味する。開口封止部材は、本技術分野において一般的に補修針とも呼ばれる。
【0054】
さらに、本明細書において、「開口封止部材の統一性」とは、本実施形態における中空糸膜モジュールが備える複数の中空糸膜のうち、変動係数が1%未満の外径を有する開口封止部材を用いて適切に封止可能と考えられる中空糸膜の割合(%)を意味する。開口封止部材の統一性(%)は、例えば、後の実施例で詳細に述べるように、一つの中空糸膜モジュールからランダムに選択した100本の中空糸膜に、変動係数が1%未満の外径の開口封止部材を5mm差し込み、引き抜き力が20N以上になった中空糸膜の本数から求めることができる。
【0055】
中空糸膜モジュールの開口封止部材の統一性が100%であると、中空糸膜モジュールは優れた開口封止部材の統一性を確実に有する。
【0056】
(中空糸膜モジュールの開口封止部材を備える構成)
また、本実施形態における中空糸膜モジュールは、中空糸膜の中空部内に挿入される複数の開口封止部材をさらに備えてもよい。
【0057】
開口封止部材の材料は、特に限定されず、当業者に公知の任意の材料から構成されていればよい。例えば、開口封止部材の材料としては、ステンレス等の金属類、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック類等が挙げられる。あるいは、これらの複合材料を用いてもよい。
【0058】
開口封止部材をさらに備える構成を、図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0059】
図4は、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの開口封止部材の構成を模式的に示す拡大図である。図4に示すように、開口封止部材8は、破断部位Bを有する中空糸膜2の開口末端位置から中空部2’内に挿入され、中空糸膜2の上側の開口を封止することにより、中空糸膜2を補修する。
【0060】
開口封止部材8の形状は、特に限定されないが、簡易な構造でありコストを下げることができるため、図4に示すような長手軸方向に沿って同一の外径を有する円柱形状であることが好ましい。
【0061】
図4において、開口封止部材8の外径はL1にて表されており、中空糸膜2の最大内径はL2にて表されている。
【0062】
本明細書において、「中空糸膜の最大内径」とは、本実施形態における中空糸膜モジュールが備える複数の中空糸膜の内径のうちの最大値を意味する。具体的には、一つの中空糸膜モジュールからランダムに選択した100本の中空糸膜の内径のうち、最も大きい中空糸膜の内径を中空糸膜の最大内径とする。中空糸膜の内径は、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ「VHX-500」を用いて測定される値とする。
【0063】
図4に示す開口封止部材8の外径L1は、中空糸膜2の最大内径L2の1.0倍~1.3倍であることが好ましい。開口封止部材8の外径L1が中空糸膜2の最大内径L2の1.0倍以上であることによって、中空糸膜2の中空部2’の開口を良好に封止することができ、被処理水のリークを確実に防ぐことができる。開口封止部材8の外径L1が中空糸膜2の最大内径L2の1.3倍以下であることによって、生産コストの増加を防ぐことができ、中空糸膜2と接着樹脂との界面における剥離の発生を防止することができる。
【0064】
開口封止部材8の外径L1は、中空糸膜2の最大内径L2の1.05倍以上であることがより好ましく、中空糸膜2の最大内径L2の1.1倍以上であることがさらに好ましい。また、開口封止部材8の外径L1は、中空糸膜2の最大内径L2の1.25倍以下であることがより好ましく、中空糸膜2の最大内径L2の1.2倍以下であることがさらに好ましい。
【0065】
さらに、このような複数の開口封止部材8は、前述したような変動係数が1%未満の範囲の外径を有することが好ましい。
【0066】
このように、本実施形態における中空糸膜モジュールは、中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さの最大値と接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率が適切な範囲に調整されているため、優れた透水性を有し、かつ、中空糸膜が破断した際に、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができる。
【0067】
なお、前述した図1図4に示す中空糸膜モジュールの構成、ならびに中空糸膜束および中空糸膜の断面構造は、あくまで本実施形態における中空糸膜モジュールの一例である。従って、例えば、本実施形態における中空糸膜モジュールは、図1に示すような中空糸膜束の両方の端部において接着部を備える中空糸膜モジュールでなくても、中空糸膜束の少なくとも一方の端部において接着部を備える中空糸膜モジュールであってもよい。具体的には、片側フリータイプの中空糸膜モジュールであってもよい。
【0068】
さらに、前述した図1および図2の中空糸膜モジュール1は、ケーシング5およびキャップ6、7を備えているが、本明細書において、「中空糸膜モジュール」とは、中空糸膜束と接着部とを少なくとも備えればよい。すなわち、中空糸膜モジュールは、膜エレメントの状態も包含する。
【0069】
<中空糸膜モジュールの製造方法>
続いて、本発明の実施形態における中空糸膜モジュールの製造方法を説明する。
【0070】
図5に示すように、本実施形態における中空糸膜モジュールの製造方法は、主として、保湿工程と、吸湿工程と、接着工程とをこの順に含む。以下、各工程を詳細に説明する。
【0071】
(保湿工程)
まず、保湿工程では、中空糸膜束の少なくとも一方の端部(すなわち、一方または両方の端部)を、保湿材料を水で希釈した保湿材料水溶液中へ浸漬した後、乾燥させることによって、中空糸膜の外表面側に保湿材料を含有させる。
【0072】
保湿工程の具体的方法は特に限定されないが、例えば、図5に示すように、複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束をそのまま保湿材料水溶液中に浸漬し、その後中空糸膜束を乾燥機等を用いて乾燥させることによって、各中空糸膜の外表面側に保湿材料を含有させる方法等が挙げられる。図5では、中空糸膜束全体を保湿材料水溶液中に浸漬させているが、中空糸膜束の少なくとも一方の端部、具体的には最終的に接着部が成形される端部の部分のみを浸漬後、乾燥させてもよい。
【0073】
保湿材料は、特に限定されず、当業者に公知の任意の材料を用いればよい。例えば、保湿材料としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。あるいは、これらの複合材料を用いてもよい。
【0074】
保湿材料水溶液の濃度は、特に限定されないが、0.1wt%~10wt%であることが好ましい。保湿材料水溶液の濃度を10wt%以下にすることによって、保湿材料のコスト負担を抑えることができる。さらに、保湿材料水溶液の粘度が過度に高くなることを防ぎ、製造時における配管の洗浄時間を短縮することができる。保湿材料水溶液の濃度を0.1wt%以上にすることによって、中空糸膜束に十分量の保湿材料を含有させることができる。
【0075】
保湿材料水溶液の濃度は、0.2wt%以上であることがより好ましく、0.3wt%以上であることがさらに好ましく、0.5wt%以上であることが特に好ましい。また、保湿材料水溶液の濃度は、5wt%以下であることがより好ましく、3wt%以下であることがさらに好ましく、1wt%以下であることが特に好ましい。
【0076】
保湿材料水溶液中への浸漬時間は、中空糸膜が保湿材料を十分に含有する時間であれば特に限定されないが、例えば、約0.5時間~2時間にわたり浸漬させることが好ましい。
【0077】
保湿後の乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、乾燥機を用いて、50℃以上で約1時間~10時間にわたり乾燥させることが好ましい。50℃以上の温度で乾燥させることによって、乾燥時間を短縮させることができる。乾燥温度は、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。乾燥温度の上限は、特に限定されないが、材料の耐熱性の観点から、100℃程度以下であればよい。
【0078】
保湿工程後、各中空糸膜は保湿されている。そのため、各中空糸膜は水分を吸収し易い状態となっている。
【0079】
(吸湿工程)
次の吸湿工程では、中空糸膜束の少なくとも一方の端部(すなわち、一方または両方の端部)を湿潤環境下において、中空糸膜の少なくとも一方の端部に湿気(水分)を吸い取らせる。
【0080】
吸湿工程の具体的方法は、特に限定されないが、例えば、加湿器、噴霧器等の機器を用いることによって、保湿後乾燥させた中空糸膜束を湿潤環境下に置いて曝す方法等が挙げられる。図5では、中空糸膜束全体を湿潤環境下に曝しているが、少なくとも中空糸膜束の保湿材料を含有させた部分、すなわち最終的に接着部が成形される端部の部分のみを湿潤環境下に曝してもよい。
【0081】
湿潤環境下における相対湿度は、所望する水分吸収量を考慮し、後述の吸湿工程における吸湿時間と合わせて設定する必要があるが、10%~50%であることが好ましい。相対湿度を10%以上にすることによって、中空糸膜に十分量の水分を含ませることができる。その結果、続く接着工程において、接着樹脂が中空糸膜へ過度に浸透することなく、中空糸膜モジュールの目詰まりや透水性の低下を防ぐことができる。相対湿度を50%以下にすることによって、中空糸膜が過剰な水分量を含むことを抑制できる。その結果、続く接着工程において、十分量の接着樹脂を中空糸膜へ浸透させることができ、接着部と中空糸膜の接着強度の低下を防ぐことができる。
【0082】
相対湿度は、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。また、相対湿度は、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。
【0083】
吸湿工程における吸湿時間は、所望する水分吸収量を考慮し、前述の相対湿度と合わせて設定する必要があるが、0.5時間~2時間であることが好ましい。吸湿時間を0.5時間以上にすることによって、中空糸膜に十分量の水分を含ませることができる。その結果、続く接着工程において、接着樹脂が中空糸膜へ過度に浸透することなく、中空糸膜モジュールの目詰まりや透水性の低下を防ぐことができる。吸湿時間を2時間以下にすることによって、中空糸膜が過剰な水分量を含むことを防止できる。その結果、続く接着工程において、十分量の接着樹脂を中空糸膜へ浸透させることができ、接着部と中空糸膜の接着強度の低下を防ぐことができる。
【0084】
吸湿時間は、0.75時間以上であることがより好ましく、1時間以上であることがさらに好ましい。また、吸湿時間は、1.75時間以下であることがより好ましく、1.5時間以下であることがさらに好ましい。
【0085】
保湿工程後、吸湿工程を経ることによって、各中空糸膜は外表面側から水分を吸収した状態となる。特に、吸湿工程において、相対湿度と吸湿時間とを適切に調整することによって、中空糸膜束の各中空糸膜が略均一に所望する水分量を含んだ状態にすることができる。
【0086】
(接着工程)
その後、図5に示すように、接着工程では、中空糸膜束の少なくとも一方の端部(すなわち、一方または両方の端部)において中空糸膜同士を接着樹脂で固定する。
【0087】
接着工程の具体的方法は、特に限定されず、当業者に公知の任意の接着樹脂を用いた中空糸膜の接着または固定方法を利用することができる。例えば、前述したような遠心接着法、静置接着法等を利用することができる。
【0088】
接着工程では、各中空糸膜に吸収されている水分が接着樹脂の浸透を妨げるため、接着樹脂が中空糸膜の内表面側まで浸透してしまうことを防ぐことができる。さらに、各中空糸膜が外表面側から略均一に所望する水分量を含んでいるので、中空糸膜モジュール全体における各中空糸膜の接着樹脂の浸透を略均一にすることができる。すなわち、中空糸膜モジュール全体における中空糸膜の接着樹脂浸透部の厚さに良好な均一性を持たせることができる。
【0089】
このように、主として吸湿工程における相対湿度と吸湿時間とを適切に調整し、水分吸収量を所望量に制御することによって、最終的に、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が99%以下であり、かつ、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率が0.7以上である本実施形態の中空糸膜モジュールを製造することができる。このように製造された本実施形態における中空糸膜モジュールは、優れた透水性を有し、かつ、中空糸膜が破断した時に、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができる。
【実施例0090】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0091】
本実施例では、保湿工程の有無、吸湿工程の有無および/または吸湿工程における条件を変えることにより、接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を変動させ、様々な中空糸膜モジュールを製造した。その後、製造した各中空糸膜モジュールの目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。
【0092】
まず、接着樹脂浸透部の厚さの測定方法、中空糸膜モジュールの目詰まりの判定方法、開口封止部材の統一性の測定方法および透水性の評価方法について、以下、詳細に述べる。
【0093】
[接着樹脂浸透部の厚さ(%)の測定方法]
中空糸膜の厚さに対する接着樹脂浸透部の厚さ(%)の最大値および最小値は、次の方法によって測定した。まず、製造した中空糸膜モジュールの接着部を備える端部側を、中空糸膜の断面および接着樹脂浸透部が確認できるよう、中空糸膜の延在方向に垂直な断面において切断した。次いで、切断した断面に、濃度5wt%の水性インクの希釈水溶液を塗布した。その後、塗布した部分を水洗した。このような方法で、インクで染色された部分を樹脂が浸透していない中空糸膜の部分とし、インクで染色されなかった部分を樹脂部分(接着部および中空糸膜の接着樹脂浸透部)として定義した。その後、染色した中空糸膜モジュールの断面をマイクロスコープ(キーエンス社製、「VHX-500F」)で観察し、以下の式から中空糸膜の厚さに対する接着樹脂浸透部の厚さ(%)を求めた。具体的には、観察した断面においてランダムに選択した中空糸膜100本の接着樹脂浸透部の厚さ(%)を測定し、その中から最大値と最小値を算出した。
式:(接着樹脂浸透部の厚さ)(%)=[{(中空糸膜の外径)―(染色された中空糸膜の部分の直径)}/(中空糸膜の外径)]×100
【0094】
[中空糸膜モジュールの目詰まりの判定方法]
中空糸膜モジュールの目詰まりの有無は、目視によって確認した。目視で観察した際、中空糸膜の中空部内部が樹脂で全て詰まっている場合、目詰まりが有ると判定した。一方、中空部内部が一部でも詰まっていない場合(中空部内部が完全に樹脂で詰まっていない場合)、目詰まりが無いと判定した。
【0095】
[開口封止部材の統一性(%)の測定方法]
中空糸膜モジュールの開口封止部材の統一性(%)は、次のように求めた。製造した中空糸膜モジュールが備える複数の中空糸膜から、ランダムに100本の中空糸膜を選択した。次いで、選択した100本の中空糸膜に、各々、変動係数が1%未満である外径0.8μmの開口封止部材を5mm差し込んだ。そして、イマダ(株)社のメカニカルフォースゲージを用いて、差し込まれた開口封止部材を引っ張った際の引き抜き力(N)を測定した。100本の中空糸膜のうち、測定値が20N以上になった中空糸膜の割合(%)を求めた。この割合が100%に近い程、開口封止部材の統一性が高い(すなわち良好)と評価される。一方、割合が50%に満たない場合、開口封止部材の統一性が低い(すなわち、良好でない)と評価される。具体的には、50%に満たない場合、中空糸膜が破損した際に多種の開口封止部材が必要となったり、および/または1種の開口封止部材を用いて封止しようとすると中空糸膜と開口封止部材との密着性が低下する問題も生じる。
【0096】
[透水性の評価方法]
中空糸膜モジュールの透水性は、次のように評価した。まず、製造した中空糸膜モジュールを、ラウリル硫酸ナトリウム1%水溶液を用いて親水化した。次いで、親水化した中空糸膜モジュールを、圧力容器(和田ステンレス社製)に装着した。その後、通水時の差圧が0.1MPaとなるように設定し、通水時の透水速度(m/h)を測定した。透水速度(m/h)が60(m/h)以上程度であった場合、透水性に優れていると評価した。透水速度(m/h)が60(m/h)未満程度であった場合、透水性に劣っていると評価した。
【0097】
次いで、各実施例および各比較例における中空糸膜モジュールの製造方法を詳細に説明する。
【0098】
(実施例1)
実施例1では、中空糸膜として、ポリフッ化ビニリデン樹脂からなり、平均空隙率が80%、公称孔径が0.02μm、内径が750μm、外径が1250、有効長が1000mmの多孔質中空糸膜を用いた。接着剤としては、ウレタン樹脂を用いた。
【0099】
まず、中空糸膜1600本を束ねた中空糸膜束全体をグリセリン0.5wt%水溶液中へ浸漬した後、浸漬した中空糸膜束を55℃の乾燥機で12時間乾燥させた(保湿工程)。
【0100】
次いで、前述の工程で乾燥させた中空糸膜束6束を、加湿器を用いて相対湿度50%に保湿した湿潤環境下の部屋に0.5時間置いて、中空糸膜束に水を吸湿させた(吸湿工程)。
【0101】
さらに、前述の工程で水を吸湿させた中空糸膜束6束を内径150mmのケーシング内に挿入し、ケーシング内に接着樹脂を注入および混合して遠心成形した。その後、24時間室温で放置することによって樹脂を硬化させた。このようにして、接着樹脂によって中空糸膜束の一方の端部において中空糸膜同士(および中空糸膜束同士)を固定すると同時に中空糸膜とケーシングとを接着した(接着工程)。
【0102】
このように製造した実施例1の中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を前述した方法によって測定した。さらに、製造した中空糸膜モジュールの目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性も、前述した方法によって評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0103】
(実施例2)
実施例2では、吸湿工程における相対湿度を10%としたこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0104】
(比較例1)
比較例1では、吸湿工程における相対湿度を80%としたこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0105】
(比較例2)
比較例2では、吸湿工程における相対湿度を5%とし、吸湿時間を1時間としたこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0106】
(比較例3)
比較例3では、吸湿工程における吸湿時間を8時間としたこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0107】
(比較例4)
比較例4では、保湿工程を行わなかったこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0108】
(比較例5)
比較例5では、吸湿工程を行わなかったこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0109】
(比較例6)
比較例6では、保湿工程および吸湿工程を行わなかったこと以外は、前述の実施例1と同じ方法で、中空糸膜モジュールを製造した。さらに、実施例1と同様に、製造した中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値および最小値を測定し、目詰まり、開口封止部材の統一性および透水性を評価した。これらの結果は、製造条件と共に、後の表1にまとめて示す。
【0110】
【表1】
【0111】
上記表1に示すように、実施例1の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が95であり、中空糸膜の内表面側まで接着樹脂は浸透していなかった。さらに、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は0.95であり、中空糸膜モジュール全体において中空糸膜への接着樹脂の浸透は良好な均一性を有していた。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りは確認されず、優れた透水性および高い開口封止部材の統一性を有していた。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方を行い、かつ、吸湿工程における相対湿度と吸湿時間とを適切なバランスに制御したためと考えられる。
【0112】
上記表1に示すように、実施例2の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が99であり、中空糸膜の内表面側まで接着樹脂は浸透していなかった。さらに、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は0.96であり、中空糸膜モジュール全体において中空糸膜への接着樹脂の浸透は良好な均一性を有していた。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りは確認されず、優れた透水性および高い開口封止部材の統一性を有していた。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方を行い、かつ、吸湿工程における相対湿度と吸湿時間とを適切なバランスに制御したためと考えられる。
【0113】
上記表1に示すように、比較例1の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が90であり、中空糸膜の内表面側まで接着樹脂は浸透していなかった。しかし、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は0.56であり、中空糸膜モジュール全体において中空糸膜への接着樹脂の浸透は不均一であった。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りは確認されず、優れた透水性を有していたが、開口封止部材の統一性が低かった。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方を行ったが、吸湿工程における相対湿度が高く、一部の中空糸膜が過剰に水分を吸収してしまったためと考えられる。
【0114】
上記表1に示すように、比較例2の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が100を超えており、中空糸膜の内表面側を超えて接着樹脂が浸透していた。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りが確認され、透水性に劣っていた。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方を行ったが、吸湿工程における相対湿度が低く、中空糸膜が十分に水分を吸収できなかったためと考えられる。
【0115】
上記表1に示すように、比較例3の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が80であり、中空糸膜の内表面側まで接着樹脂は浸透していなかった。しかし、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率は0.63であり、中空糸膜モジュール全体において中空糸膜への接着樹脂の浸透は不均一であった。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りは確認されず、優れた透水性を有していたが、開口封止部材の統一性が低かった。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方を行ったが、吸湿工程における吸湿時間が長く、一部の中空糸膜が過剰に水分を吸収してしまったためと考えられる。
【0116】
上記表1に示すように、比較例4の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が100を超えており、中空糸膜の内表面側を超えて接着樹脂が浸透していた。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りが確認され、透水性に劣っていた。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程が行われなかったので、吸湿工程において中空糸膜が水分を吸収できなかったためと考えられる。
【0117】
上記表1に示すように、比較例5の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が100を超えており、中空糸膜の内表面側を超えて接着樹脂が浸透していた。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りが確認され、透水性に劣っていた。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、吸湿工程が行われなかったので、中空糸膜に水分が含まれていなかったためと考えられる。
【0118】
上記表1に示すように、比較例6の中空糸膜モジュールは、接着樹脂浸透部の厚さの最大値が100を超えており、中空糸膜の内表面側を超えて接着樹脂が浸透していた。その結果、中空糸膜モジュールは、接着樹脂の目詰りが確認され、透水性に劣っていた。これは、中空糸膜モジュールの製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方が行われなかったので、中空糸膜に水分が含まれていなかったためと考えられる。
【0119】
[考察]
実施例1~実施例2および比較例1~比較例6の結果から、中空糸膜モジュールの接着樹脂浸透部の厚さの最大値が99%以下、かつ、接着樹脂浸透部の厚さの最大値に対する最小値の比率が約0.7以上(好ましくは0.9以上)の条件を満たすことによって、中空糸膜モジュールは、高い統一性を有する開口封止部材を使用することができ、かつ、目詰まりが生じ難く、優れた透水性を有することが分かった。このような中空糸膜モジュールは、その製造過程において、保湿工程および吸湿工程の両方を行い、かつ、吸湿工程において相対湿度と吸湿時間とを適切なバランスに制御することによって、製造することができる。
【0120】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、前述した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0121】
1 中空糸膜モジュール
2 中空糸膜
2’ 中空部
2a 接着樹脂浸透部
3 中空糸膜束
4 接着部
5 ケーシング
5a ノズル
6、7 キャップ
6a、7a 管路
8 開口封止部材
図1
図2
図3
図4
図5