(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022058
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】制御定数決定装置、制御定数決定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/48 20060101AFI20240208BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240208BHJP
H02J 3/50 20060101ALI20240208BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H02J3/48
H02J3/38 110
H02J3/50
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125381
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮平
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA02
5G066AA03
5G066AE01
5G066AE09
5G066HA15
5G066HA19
5G066HB06
5G066KA06
(57)【要約】
【課題】コストの増加を抑制しつつ、分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を適切な値に決定する。
【解決手段】電力系統に含まれる分散型電源Dの有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定する制御定数決定装置100は、電力系統PSYSに関する電力系統情報の入力を受け付ける受付制御部120と、電力系統PSYSから供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び分散型電源Dの有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数yの変動範囲Yにおいて、受付制御部120が受け付けた電力系統情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、制御定数を決定する決定部140とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に含まれる分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定する制御定数決定装置であって、
前記電力系統に関する情報の入力を受け付ける受付部と、
前記電力系統から供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び前記分散型電源の有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、前記受付部が受け付けた前記情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、前記制御定数を決定する決定部と、
を備える、
制御定数決定装置。
【請求項2】
前記決定部は、
前記不確実変数の前記変動範囲において、前記最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、前記最適化問題の目的関数の値が最小値となるように、前記制御定数を決定する、
請求項1に記載の制御定数決定装置。
【請求項3】
前記決定部は、
前記不確実変数の前記変動範囲において、前記最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、前記最適化問題の目的関数の値が前記目的関数の値と目標値との差が閾値以下となるように、前記制御定数を決定する、
請求項1に記載の制御定数決定装置。
【請求項4】
前記決定部は、
前記不確実変数の複数の想定値を選択し、
前記複数の想定値の各々について、前記制御定数の候補値を算定し、
前記複数の想定値を用いて算定した複数の候補値から前記制御定数の確定値を選択する、
請求項1に記載の制御定数決定装置。
【請求項5】
前記制御定数は、
前記分散型電源の力率であり、
前記最適化問題の制約条件は、
前記分散型電源の電圧と電流との位相差を用いて表される等式制約を含む、
請求項1に記載の制御定数決定装置。
【請求項6】
前記等式制約は、
制限値で飽和する前記分散型電源の有効電力の出力値と、前記分散型電源に対する無効電力の設定値と、前記位相差との関係を示す、
請求項5に記載の制御定数決定装置。
【請求項7】
前記等式制約は、
前記設定値をqDとし、前記制限値をpDとし、前記出力値をyDとし、前記位相差をθDとした場合、括弧内の最大値を返す関数max{}を用いて、次式で表される、
qD=(yD-max{yD-pD,0})・tan(θD)
請求項6に記載の制御定数決定装置。
【請求項8】
前記制御定数は、
前記分散型電源の無効電力と電圧との関係を表す電圧調停率であり、
前記最適化問題の制約条件は、
前記電圧調停率を用いて表される等式制約を含む、
請求項1に記載の制御定数決定装置。
【請求項9】
前記等式制約は、
前記分散型電源に対する無効電力の設定値をqDとし、前記分散型電源の電圧をvとし、前記電圧調停率をLDとし、前記分散型電源の無効電力が0のときの電圧をv0とした場合、次式で表される、
qD=LD・(v-v0)
請求項8に記載の制御定数決定装置。
【請求項10】
電力系統に含まれる分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定する制御定数決定方法であって、
前記電力系統に関する情報の入力を受け付け、
前記電力系統から供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び前記分散型電源の有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、前記情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、前記制御定数を決定する、
制御定数決定方法。
【請求項11】
電力系統に含まれる分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定するプログラムであって、
前記電力系統に関する情報の入力を受け付ける受付処理と、
前記電力系統から供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び前記分散型電源の有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、前記情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、前記制御定数を決定する決定処理と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御定数決定装置、制御定数決定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電等の分散型電源の導入が進められている。分散型電源が接続された電力系統では、分散型電源からの出力により、電力系統の電圧が変動(上昇)する場合がある。このため、例えば、電力系統に対する分散型電源の連系点における電圧が所定の適正範囲を逸脱しないように、分散型電源を制御する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、分散型電源の電力系統への連系点における電圧が所定の適正範囲を逸脱したとき、該電圧を適正範囲に戻すため電圧調整量を、予め設定した所定のグループに所属する全ての分散型電源に均等に割り当てる集中制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、集中制御装置等により、所定のグループに所属する全ての分散型電源を制御するシステムでは、集中制御のためのインフラ構築等のコストがかかる場合がある。このため、分散型電源が接続される電力系統では、分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる力率等の制御定数を、コストをかけることなく決定することが求められている。以上の事情を考慮して、本発明のひとつの態様は、コストの増加を抑制しつつ、分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を適切な値に決定することを目的のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好適な態様に係る制御定数決定装置は、電力系統に含まれる分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定する制御定数決定装置であって、前記電力系統に関する情報の入力を受け付ける受付部と、前記電力系統から供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び前記分散型電源の有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、前記受付部が受け付けた前記情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、前記制御定数を決定する決定部と、を備える。
【0006】
本発明の好適な態様に係る制御定数決定方法は、電力系統に含まれる分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定する制御定数決定方法であって、前記電力系統に関する情報の入力を受け付け、前記電力系統から供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び前記分散型電源の有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、前記情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、前記制御定数を決定する。
【0007】
本発明の好適な態様に係るプログラムは、電力系統に含まれる分散型電源の有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を決定するプログラムであって、
前記電力系統に関する情報の入力を受け付ける受付処理と、前記電力系統から供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び前記分散型電源の有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、前記情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、前記制御定数を決定する決定処理と、をコンピュータに実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る制御定数決定装置の一例を説明するための説明図である。
【
図2】最適化問題の定式化に用いられる変数の一例を説明するための説明図である。
【
図3】最適化問題の制約条件のうちの制御定数に関する等式制約を説明するための説明図である。
【
図4】実施形態の評価に用いた電力系統を示す図である。
【
図5】
図4に示した分散型電源D1における有効電力の出力の時間変化を示すグラフである。
【
図6】
図4に示した分散型電源D2における有効電力の出力の時間変化を示すグラフである。
【
図7】
図4に示した母線B1の電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図8】
図4に示した母線B2の電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図9】第1変形例に係る等式制約の一例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0010】
A.実施形態
以下、本発明の実施形態を説明する。先ず、
図1を参照しながら、実施形態に係る制御定数決定装置100の概要の一例について説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る制御定数決定装置100の一例を説明するための説明図である。なお、
図1では、制御定数決定装置100の説明を分かり易くするために、制御定数決定装置100により制御定数が決定される分散型電源Dを有する電力系統PSYSの一部を括弧内に示している。先ず、制御定数決定装置100について説明する前に、分散型電源Dについて簡単に説明する。
【0012】
図1の括弧内には、分散して配置される複数の分散型電源Dのうちの1つが図示されている。例えば、分散型電源Dは、母線B(ノードとも称される)に接続される小規模な発電設備である。具体的には、分散型電源Dは、例えば、太陽光発電装置、風力発電装置及び燃料電池発電装置等の電源であってよい。ここで、例えば、太陽光等の自然エネルギーを利用する分散型電源Dの出力は、気象条件等の変化に起因して変動する場合がある。また、電力系統PSYSから供給される電力を使用する需要家が保有する分散型電源Dの出力は、需要家の行動(例えば、電力需要を抑制する行動等)に起因して変動する場合がある。このように、分散型電源Dの出力は、気象条件等の変化又は需要家の行動等に起因して変動する。このため、系統運用者等が分散型電源Dの出力特性を予め把握することは困難である。従って、分散型電源Dは、動作状態等を表す変数の値が不確定な電源に該当する。なお、以下では、動作状態等を表す変数の値を人為的に確定させることができる系統電源等の電源を、変数の値が不確定な分散型電源Dとの対比において、確定電源G(例えば、
図4に示す確定電源G0及びG1等)と称する場合がある。
【0013】
また、分散型電源Dは、例えば、発電した直流電力を交流電力に変換する電力変換器(図示せず)を有する。電力変換器としては、例えば、インバータとも呼ばれるパワーコンディショナーシステム(PCS)等が挙げられる。分散型電源Dが有する電力変換器の力率は、分散型電源Dの力率に該当する。本実施形態では、制御定数決定装置100により決定される制御定数が電力変換器の力率である場合を想定する。但し、制御定数決定装置100により決定される制御定数は、電力変換器の力率に限定されない。次に、分散型電源Dの制御定数を決定する制御定数決定装置100について説明する。
【0014】
制御定数決定装置100は、電力系統PSYSに含まれる分散型電源Dの有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数(例えば、力率)を決定する。制御定数決定装置100としては、例えば、パーソナルコンピュータ等の任意の情報処理装置を採用することができる。
【0015】
例えば、制御定数決定装置100は、処理装置110と、定数決定プログラムPR等の各種情報を記憶する記憶装置160と、通信装置170と、入力装置180と、出力装置190とを有する。制御定数決定装置100の複数の要素は、情報を通信するための単体又は複数のバスにより相互に接続される。
【0016】
処理装置110は、制御定数決定装置100の全体を制御するプロセッサであり、例えば、1又は複数のCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。処理装置110は、例えば、定数決定プログラムPRを記憶装置160から読み出し、読み出した定数決定プログラムPRを実行することにより、受付制御部120及び決定部140として機能する。なお、定数決定プログラムPRは、「プログラム」の一例である。例えば、定数決定プログラムPRは、受付処理と決定処理とを処理装置110に実行させるプログラムである。なお、受付処理は、後述する受付制御部120により実行される処理であり、決定処理は、後述する決定部140により実行される処理である。定数決定プログラムPRは、ネットワーク等を介して他の装置から送信されてもよい。
【0017】
また、例えば、処理装置110が複数のCPUを含んで構成される場合、処理装置110の機能の一部又は全部は、これら複数のCPUが定数決定プログラムPR等のプログラムに従って協働して動作することで実現されてもよい。また、処理装置110は、1又は複数のCPUに加え、又は、1又は複数のCPUのうち一部又は全部に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、又は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを含んで構成されるものであってもよい。この場合、処理装置110の機能の一部又は全部は、DSP等のハードウェアにより実現されてもよい。
【0018】
受付制御部120は、「受付部」の一例である。例えば、受付制御部120は、電力系統情報の入力を受け付ける。電力系統情報は、電力系統PSYSに関する情報である。電力系統PSYSに関する情報は、例えば、負荷変動の範囲、分散型電源Dの出力範囲(例えば、0から定格出力までの範囲)、及び、系統データ等である。
【0019】
負荷変動の範囲は、例えば、需要家が使用する機器により消費される消費電力の想定される変動範囲である。以下では、需要家が使用する機器により消費される消費電力を、単に、需要家により消費される消費電力と称する場合がある。すなわち、本実施形態では、「需要家により消費される消費電力」は、「需要家が使用する機器により消費される消費電力」を意味する。
【0020】
系統データは、例えば、電力系統PSYSの潮流計算に用いられる電力系統モデルの系統データである。具体的には、系統データは、例えば、系統構成、設備定数、及び、運用条件に関するデータを含む。系統構成に関するデータは、例えば、発電機、変圧器、及び、配電線の接続状態等を示すデータである。設備定数に関するデータは、例えば、各設備及び送電線等の抵抗及びリアクタンスを示すデータである。なお、設備が変圧器である場合、変圧器のタップ情報も設備定数に関するデータに含まれる。運用条件に関するデータは、例えば、各ノードにおける発電量及び負荷の量等を示すデータである。
【0021】
例えば、受付制御部120が受け付けた電力系統情報は、記憶装置160に記憶される。なお、電力系統情報は、ネットワーク等を介して他の装置から送信されてもよい。あるいは、受付制御部120は、制御定数決定装置100に着脱可能な可搬型の記憶媒体に記憶された電力系統情報を取得してもよい。
【0022】
決定部140は、負荷変動及び分散型電源Dの有効電力の変動等によって不確実に変動する不確実変数の変動範囲において、受付制御部120が受け付けた電力系統情報に基づいて定式化された最適化問題を解くことにより、分散型電源Dの制御定数を決定する。例えば、決定部140は、不確実変数の変動範囲において、最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、最適化問題の目的関数の値が最小値となるように、分散型電源Dの制御定数を決定する。
【0023】
なお、最適化問題の目的関数及び制約条件は、例えば、値を人為的に確定させることができる決定変数、値を人為的に確定させることができない上述した不確実変数、及び状態変数等を用いて定式化される。例えば、分散型電源Dの制御定数は、決定変数に該当し、分散型電源Dの有効電力、及び、有効電力負荷は、不確実変数に該当する。有効電力負荷は、例えば、需要家に供給される有効電力である。すなわち、有効電力負荷は、例えば、需要家により消費される消費電力である。また、各ノードの電圧の大きさ等は、状態変数に該当する。定式化された最適化問題の目的関数及び制約条件の例については、後述する。
【0024】
記憶装置160は、例えば、処理装置110の作業領域として機能するRAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリと、各種情報を記憶するEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の不揮発性メモリとの、一方又は両方を含む。なお、記憶装置160は、制御定数決定装置100に着脱可能であってもよい。具体的には、記憶装置160は、制御定数決定装置100に着脱されるメモリカード等の記憶媒体であってもよい。また、記憶装置160は、例えば、制御定数決定装置100とネットワーク等を介して通信可能に接続された記憶装置(例えば、オンラインストレージ)であってもよい。
【0025】
通信装置170は、制御定数決定装置100の外部に存在する外部装置と通信を行うためのハードウェアである。例えば、通信装置170は、移動体通信網又はネットワークを介して外部装置と通信する機能を有する。なお、通信装置170は、近距離無線通信によって外部装置と通信する機能をさらに有してもよい。
【0026】
例えば、系統運用者は、制御定数決定装置100を分散型電源Dと通信可能に接続し、制御定数決定装置100により決定された制御定数を、制御定数決定装置100を介して分散型電源Dに設定してもよい。なお、系統運用者は、制御定数決定装置100を分散型電源Dと通信可能に接続することなく、制御定数決定装置100により決定された制御定数を分散型電源Dに直接設定してもよい。
【0027】
入力装置180は、外部からの入力を受け付ける入力デバイス(例えば、キーボード、マウス、マイクロフォン、スイッチ、ボタン及びセンサ等)である。例えば、入力装置180は、系統運用者の操作を受け付け、操作に応じた操作情報を処理装置110に出力する。
【0028】
出力装置190は、外部への出力を実施するディスプレイ等の出力デバイスである。出力装置190は、例えば、処理装置110による制御のもとで、画像を表示する。なお、入力装置180及び出力装置190は、一体となった構成(例えば、表示面に対する接触を検出するタッチパネル)であってもよい。
【0029】
次に、
図2を参照しながら、最適化問題の定式化に用いられる変数について説明する。
【0030】
図2は、最適化問題の定式化に用いられる変数の一例を説明するための説明図である。本実施形態では、
図2に示す変数を用いて最適化問題が定式化される場合を想定する。
【0031】
pGは、確定電源Gに対する有効電力の設定値を示す決定変数である。
pG0は、スラック母線の有効電力の値を示す状態変数である。
qGは、確定電源Gの無効電力の値を示す状態変数である。
vGは、確定電源Gに対する電圧の設定値を示す決定変数である。
pDは、分散型電源Dに対する有効電力の制限値(上限値)を示す決定変数である。
qDは、分散型電源Dに対する無効電力の設定値を示す状態変数である。
yDは、分散型電源Dの有効電力の値を示す不確実変数である。
yLは、有効電力負荷(需要家に供給される有効電力の値)を示す不確実変数である。
pは、線路の有効電力の値を示す状態変数である。
qは、線路の無効電力の値を示す状態変数である。
vは、母線Bの電圧の大きさを示す状態変数である。
δは、母線Bの電圧と電流との位相差を示す状態変数である。
θDは、分散型電源Dの電圧と電流との位相差を示す決定変数である。
【0032】
上述の通り、本実施形態では、pG、vG、pD及びθDが、系統運用者等により値を確定させることができる決定変数であり、yD及びyLが、系統運用者等により値を確定させることができない不確実変数である。そして、pG0、qG、qD、p、q、v及びδは、決定変数及び不確実変数のうちの1つ又は複数に従属し、潮流方程式を満たす状態変数である。
【0033】
ここで、以下の説明では、記述簡略化のために、複数の決定変数(pG、vG、pD及びθD)を合成した決定変数u、複数の状態変数(pG0、qG、qD、p、q、v及びδ)を合成した状態変数x、及び、複数の不確実変数(yD及びyL)を合成した不確実変数yが用いられる。例えば、決定変数uは、式(1)で表され、状態変数xは、式(2)で表され、不確実変数yは、式(3)で表される。
【0034】
u=(pG、vG、pD、θD) …(1)
x=(pG0、qG、qD、p、q、v、δ) …(2)
y=(yD、yL) …(3)
【0035】
また、不確実変数yを考慮した最適化問題を定式化した場合、最適化問題の目的関数は、式(4a)で表され、最適化問題の制約条件は、式(4b)から式(4i)までの式で表される。
【0036】
【0037】
なお、式(4a)等のmax{}は、括弧内の最大値を返す関数である。また、式(4a)の集合Uは、pGの集合をPGとし、vGの集合をVGとし、pDの集合をPDとし、θDの集合をΘDとした場合、PG、VG、PD及びΘDの直積集合であり、式(5)で表される。
U=PG・VG・PD・ΘD …(5)
【0038】
また、式(4a)に示した目的関数は、電力系統PSYSの経済性を評価するための関数である。例えば、式(4a)の目的関数の第1項f0は、電力系統PSYSの全体の送電損失を示し、式(4a)の目的関数の第2項は、分散型電源Diの有効電力yDiの制限値pDiからの超過分に対する出力抑制ペナルティを示す。なお、出力抑制ペナルティは、例えば、全体の分散型電源D(I個の分散型電源D)の有効電力yDiの総和量をできる限り抑制するためのペナルティである。また、式(4a)のρは、予め決められた0より大きい値であり、目的関数の重み係数である。
【0039】
また、式(4b)から式(4e)は、電力系統PSYSの状態変数pG0、qG、p、q及びvについての不等式制約条件を示す。例えば、式(4b)は、スラック母線B0の有効電力に対する上限及び下限の制約を示し、式(4c)は、L1個の確定電源Gの各々の無効電力に対する上限及び下限の制約を示す。式(4d)は、L2個の母線Bの各々の電圧に対する上限及び下限の制約を示す。式(4e)は、L3個の線路の各々の線路容量制約を示す。式(4e)のaiは、i番目の線路の容量を示す。式(4f)は、I個の分散型電源Dの各々のインバータ出力容量制約を示す。式(4f)のaDiは、i番目の分散型電源Dのインバータ出力容量を示す。なお、本実施形態では、分散型電源Dのインバータ出力容量は、系統運用者に既知であるとする。
【0040】
式(4g)は、分散型電源Dの制御定数に関する等式制約である。本実施形態では、上述したように、制御定数が力率(cosθD)である場合を想定している。このため、本実施形態では、式(4g)に示すように、分散型電源Dの電圧と電流との位相差θDを用いて表される等式制約が最適化問題の制約条件に含まれる。例えば、式(4g)は、分散型電源Dに対する有効電力の制限値pDiで飽和する分散型電源Dの有効電力の出力値と、分散型電源Dに対する無効電力の設定値qDと、分散型電源Dの電圧と電流との位相差θDとの関係を示す等式制約である。式(4h)は、電力系統PSYSの全体の潮流方程式である。式(4i)は、不確実変数yの変動幅を示す。不確実変数yの変動幅は、「不確実変数の変動範囲」に該当する。以下では、不確実変数yの変動幅は、不確実変数yの変動範囲Yとも称される。
【0041】
例えば、受付制御部120が受け付けた電力系統情報を上述の式(4a)から式(4i)までの式に反映することにより得られる目的関数及び制約条件は、「受付部が受け付けた情報に基づいて定式化された最適化問題」に該当する。上述の式(4a)から式(4i)までの式(定式化された最適化問題)を示す定式化情報は、記憶装置160に記憶されていてもよいし、定数決定プログラムPRに含まれていてもよい。あるいは、処理装置110は、定数決定プログラムPRを実行することにより、最適化問題の定式化(例えば、例えば、上述の式(4a)から式(4i)までの式の生成)を実行する定式化部として機能してもよい。また、上述の例では、制約条件及び目的関数の両方に不確実変数yDが含まれるが、不確実変数yDは、制約条件及び目的関数の一方のみに含まれてもよい。
【0042】
次に、
図3を参照しながら、式(4g)の等式制約について説明する。
【0043】
図3は、最適化問題の制約条件のうちの制御定数に関する等式制約を説明するための説明図である。
図3の横軸は、有効電力を示し、縦軸は、無効電力を示す。
【0044】
分散型電源Dが発生する電力は、例えば、
図3に示す円内の範囲で変動する。また、i番目の分散型電源Dは、母線Bに出力する有効電力が制限値p
Diを超えないように設定される。すなわち、i番目の分散型電源Dから母線Bに出力される有効電力は、制限値p
Di以下に制限される。従って、i番目の分散型電源Dの有効電力y
Diが制限値p
Diを超える場合、“q
Di=p
Di・tanθ
Di”の等式制約が満たされるように、分散型電源Dに対する無効電力の設定値q
Di等が定まる。また、i番目の分散型電源Dの有効電力y
Diが制限値p
Di以下である場合、“q
Di=y
Di・tanθ
Di”の等式制約が満たされるように、分散型電源Dに対する無効電力の設定値q
Diが定まる。なお、
図3の変動幅RAは、不確実変数である有効電力y
Diの変動によって生じる分散型電源Dの有効電力ならびに無効電力の変動幅である。
【0045】
次に、
図4を参照しながら、本実施形態の評価に用いた電力系統PSYSについて説明する。
【0046】
図4は、実施形態の評価に用いた電力系統PSYSを示す図である。なお、
図4では、分散型電源D、確定電源G及び変圧器XF等の機器から出力される電力、線路の電力、及び、需要家に供給される電力を複素数で示している。例えば、電力を示す複素数の実部は、有効電力を示し、当該複素数の虚部は、無効電力を示す。さらに、
図4では、送電線FDの所定区間のインピーダンスを複素数で示している。例えば、インピーダンスを示す複素数の実部は、抵抗を示し、当該複素数の虚部は、リアクタンスを示す。なお、図中の値(電力、抵抗及びリアクタンス等の値)の単位は、PUである。単位PUで示される値は、所定のベース値に対する相対的な値を示す。また、
図4では、不確実変数を視認し易くするために、不確実変数に対応するy
D1、y
D2、y
L1、y
L2及びy
L3を破線で囲んでいる。
【0047】
図4に示す電力系統PSYSは、例えば、スラック母線B0と、母線B1、B2及びB3と、確定電源G0及びG1と、分散型電源D1及びD2と、タップ比が0.990の変圧器XFと、送電線FDとを有する。
図4に示す電力系統PSYSでは、分散型電源D1及びD2が太陽光発電装置である場合を想定する。変圧器XFは、スラック母線B0と母線B3との間に設けられている。例えば、変圧器XFのインピーダンスは、複素数で“0.003+j0.006”で示される。また、送電線FDのうち、スラック母線B0と母線B1との間の線路、及び、母線B1と母線B2との間の線路の各々のインピーダンスは、複素数で“0.003+j0.006”で示される。
【0048】
スラック母線B0には、確定電源G0が接続されている。例えば、確定電源G0からスラック母線B0に、pG0の有効電力、及び、qG0の無効電力が供給される。さらに、スラック母線B0には、p1の有効電力、及び、q1の無効電力と、p2の有効電力、及び、q2の無効電力とが、供給される。また、スラック母線B0の電圧は、vG0である。
【0049】
母線B1には、分散型電源D1が接続されている。例えば、分散型電源D1から母線B1に、“yD1-max{yD1-pD1,0}”の有効電力、及び、qD1の無効電力が供給される。さらに、母線B1には、p3の有効電力、及び、q3の無効電力と、p4の有効電力、及び、q4の無効電力とが、供給される。また、母線B1から需要家に、yL1の有効電力、及び、0.2の無効電力が供給される。また、母線B1の電圧は、v1である。
【0050】
母線B2には、分散型電源D2が接続されている。例えば、分散型電源D2から母線B2に、“yD2-max{yD2-pD2,0}”の有効電力、及び、qD2の無効電力が供給される。さらに、母線B2には、p5の有効電力、及び、q5の無効電力が供給される。また、母線B2から需要家に、yL2の有効電力、及び、0.2の無効電力が供給される。また、母線B2の電圧は、v2である。
【0051】
母線B3には、確定電源G1が接続されている。例えば、確定電源G1から母線B3に、pG1の有効電力、及び、qG1の無効電力が供給される。さらに、母線B2には、p6の有効電力、及び、q6の無効電力が供給される。また、母線B3から需要家に、yL3の有効電力、及び、0.2の無効電力が供給される。また、母線B3の電圧は、vG1である。
【0052】
なお、
図4に示した電力系統PSYSの評価結果(後述する
図5から
図8に示す評価結果)は、最適化問題の制約条件等の値を以下に示す値として、最適化問題を解いた場合に得られる力率を分散型電源D1及びD2に設定した場合の評価結果である。例えば、式(4b)のスラック母線B0の有効電力に対する下限(p
l)は、-2.00であり、上限(p
u)は、2.00である。また、式(4c)における“i=0”に対応する確定電源G0の無効電力に対する下限(q
l,0)は、-1.00であり、上限(q
u,0)は、1.00である。式(4c)における“i=1”に対応する確定電源G1の無効電力に対する下限(q
l,1)は、-0.50であり、上限(q
u,1)は、0.50である。式(4d)の母線Bの電圧に対する下限(v
l,i)は、v
l,1、v
l,2及びv
l,3の3つとも、1.04であり、上限(v
u,i)は、v
u,1、v
u,2及びv
u,3の3つとも、1.05である。式(4e)の線路の制約(a
i)は、a
1、a
2、a
3、a
4、a
5及びa
6の6つとも、5.00である。式(4f)の分散型電源Dのインバータ出力容量(a
Di)は、a
D1及びa
D2の2つとも、1.5である。また、不確実変数(y
Di)の変動幅は、y
D1及びy
D2の2つとも、0.00から1.50であり、不確実変数(y
Li)の変動幅は、y
L1及びy
L2の2つは0.4から0.8であり、y
L3は0.6から1.0である。
【0053】
上述の制約条件等の値を示す情報は、例えば、受付制御部120が受け付ける電力系統情報に含まれる。すなわち、最適化問題は、受付制御部120が受け付けた電力系統情報を用いて定式化される。また、例えば、決定部140は、不確実変数yの変動範囲Yにおいて、式(4b)から式(4i)までの制約条件が満たされ、かつ、式(4a)の目的関数の値が最小値となるように、分散型電源Dの力率を決定する。
【0054】
次に、
図5等を参照しながら、上述の式(4a)で表される目的関数と、式(4b)から式(4i)までの式で表される制約条件とに定式化された最適化問題を解くことにより決定された力率を分散型電源D1及びD2に設定した場合の評価結果について、説明する。なお、最適化問題を解く方法は、特に限定されず、既知の方法が用いられてよい。例えば、最適化問題を解く方法として、鈴木亮平,安田恵一郎,相吉英太郎,“システムの不確実性を考慮した最適化法とRobust AC Optimal Power Flowへの応用”,電気学会論文誌C,Vol.142 No.3 pp.401-411(2022)に開示された方法を利用することができる。
【0055】
図5は、
図4に示した分散型電源D1における有効電力の出力の時間変化を示すグラフである。なお、分散型電源D1の力率は、決定部140が最適化問題(式(4a)の目的関数と、式(4b)から式(4i)までの制約条件)を解くことにより決定した値に、設定されている。
【0056】
図5に示すように、分散型電源D1(太陽光発電装置)から出力される有効電力は、例えば、分散型電源D1が受ける太陽光の影響により、6時頃から18時頃までの間で変動する。分散型電源D1から出力される有効電力の変動は、分散型電源D1が接続された母線B1の電圧変動の要因になる。
【0057】
図6は、
図4に示した分散型電源D2における有効電力の出力の時間変化を示すグラフである。なお、分散型電源D2の力率は、決定部140が最適化問題(式(4a)の目的関数と、式(4b)から式(4i)までの制約条件)を解くことにより決定した値に、設定されている。
【0058】
図6に示すように、分散型電源D2(太陽光発電装置)から出力される有効電力は、例えば、分散型電源D2が受ける太陽光の影響により、6時頃から16時頃までの間で変動する。分散型電源D2から出力される有効電力の変動は、分散型電源D2が接続された母線B2の電圧変動の要因になる。
【0059】
図7は、
図4に示した母線B1の電圧の時間変化を示すグラフである。
図7の“力率:最適化”は、分散型電源D1及びD2の力率等が決定部140により決定された値に設定されている場合の母線B1の電圧の時間変化を示す。また、
図7の“力率:最適化”では、決定部140により決定された制限値(p
D)に基づいて、分散型電源D1及びD2から出力される有効電力を抑制する制御(以下、出力抑制制御とも称する)が行われている。
図7の“力率:1”は、分散型電源D1及びD2の力率が1に設定され、かつ、分散型電源D1及びD2の出力抑制制御が行われない場合の母線B1の電圧の時間変化を示す。
【0060】
また、
図7の“電圧制約範囲”は、母線B1及びB2の電圧に対する制約範囲(母線Bの電圧の適正範囲)である。本実施形態では、母線B1及びB2の電圧制約範囲が、1.04[PU]以上1.05[PU]以下である場合を想定する。
【0061】
図7に示すように、“力率:最適化”では、母線B1の電圧は、0時から24時までの1日間において、1.04[PU]以上1.05[PU]以下の電圧制約範囲を逸脱しない。これに対し、“力率:1”では、9時頃から13時頃までの間で、電圧制約範囲の上限を逸脱する場合がある。
【0062】
図8は、
図4に示した母線B2の電圧の時間変化を示すグラフである。
図8の“力率:最適化”は、
図7の“力率:最適化”と同様の条件での母線B2の電圧の時間変化を示す。また、
図8の“力率:1”は、
図7の“力率:1”と同様の条件での母線B2の電圧の時間変化を示す。
【0063】
図8に示すように、“力率:最適化”では、母線B1の電圧は、0時から24時までの1日間において、1.04[PU]以上1.05[PU]以下の電圧制約範囲を逸脱しない。これに対し、“力率:1”では、9時頃から13時頃までの間で、電圧制約範囲の上限を逸脱する場合がある。さらに、“力率:1”では、16時頃から19時頃までの間で、電圧制約範囲の下限を逸脱する場合がある。
【0064】
図7及び
図8に示したように、本実施形態では、分散型電源D1及びD2の力率を決定部140により決定された値に固定して、ある程度の期間、電力系統PSYSを運用した場合においても、母線B1及びB2の電圧が、電圧制約範囲から逸脱することを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、分散型電源Dの力率を、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱しないような適切な値に決定することができる。
【0065】
以上、本実施形態では、制御定数決定装置100は、電力系統PSYSに含まれる分散型電源Dの有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数(例えば、力率)を決定する。制御定数決定装置100は、電力系統PSYSに関する電力系統情報の入力を受け付ける受付制御部120と、電力系統PSYSから供給される電力を使用する需要家により消費される消費電力及び分散型電源Dの有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数yの変動範囲Yにおいて、受付制御部120が受け付けた電力系統情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、制御定数を決定する。
【0066】
このように、本実施形態では、制御定数決定装置100は、電力系統情報(電力系統PSYSに関する情報)の入力を受け付ける。そして、制御定数決定装置100は、需要家により消費される消費電力及び分散型電源Dの有効電力に応じて不確実に変動する不確実変数yの変動範囲Yにおいて、電力系統情報を用いて定式化された最適化問題を解くことにより、制御定数を決定する。これにより、本実施形態では、分散型電源Dの有効電力等の不確実性を考慮して、分散型電源Dの制御定数を決定することができる。
【0067】
この結果、本実施形態では、分散型電源Dの制御定数を決定部140により決定された値に固定して、ある程度の期間、電力系統PSYSを運用した場合においても、分散型電源Dが接続された母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱することを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、分散型電源Dの制御定数を、需要家により消費される消費電力及び分散型電源Dの有効電力等の変動にリアルタイムで追従させて変更することなく、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱することを抑制することができる。従って、本実施形態では、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱したときに、母線Bの電圧を適正な範囲に戻すために、分散型電源Dの制御定数を変更する制御装置等を、電力系統PSYSに導入するためのコストを削減することができる。このように、本実施形態では、コストの増加を抑制しつつ、分散型電源Dの有効電力又は無効電力の出力を決定するために用いられる制御定数を、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱しないような適切な値に決定することができる。
【0068】
また、本実施形態では、決定部140は、不確実変数yの変動範囲Yにおいて、最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、最適化問題の目的関数の値が最小値となるように、分散型電源Dの制御定数を決定する。これにより、本実施形態では、電力系統PSYSの状態を目的の状態(目的関数により示される状態)に最適化しつつ、分散型電源Dの制御定数を、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱しないような適切な値に決定することができる。
【0069】
また、本実施形態では、制御定数は、分散型電源Dの力率である。そして、最適化問題の制約条件は、分散型電源Dの電圧と電流との位相差θDを用いて表される等式制約を含む。すなわち、本実施形態では、コストの増加を抑制しつつ、分散型電源Dの力率を、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱しないような適切な値に決定することができる。
【0070】
また、本実施形態では、等式制約は、制限値pDで飽和する分散型電源Dの有効電力の出力値と、分散型電源Dに対する無効電力の設定値qDiと、位相差θDとの関係を示す。例えば、等式制約は、設定値をqDとし、制限値をpDとし、出力値をyDとし、位相差をθDとした場合、括弧内の最大値を返す関数max{}を用いて、式(6)で表される。
qD=(yD-max{yD-pD,0})・tan(θD) …(6)
本実施形態では、式(6)の等式制約が満たされるため、有効電力の出力が制限値pDに基づいて抑制される分散型電源Dに対しても、分散型電源Dの力率を適切な値に決定することができる。
【0071】
B:変形例
以上に例示した実施形態は多様に変形され得る。前述の実施形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で併合してもよい。
【0072】
B1:第1変形例
上述した実施形態では、最適化問題を解くことにより決定される制御定数が分散型電源Dの力率である場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、最適化問題を解くことにより決定される制御定数は、分散型電源Dの無効電力と電圧との関係を表す電圧調停率であってもよい。この場合、最適化問題の制約条件は、電圧調停率を用いて表される等式制約を含んでもよい。
【0073】
図9は、第1変形例に係る等式制約の一例を説明するための説明図である。
図9の横軸は、分散型電源Dの電圧を示し、縦軸は、分散型電源Dの無効電力を示す。
【0074】
例えば、分散型電源Dの無効電力は、分散型電源Dの電圧に比例して減少する。電圧調停率LDは、分散型電源Dの電圧の変化量に対する分散型電源Dの無効電力の変化量の割合(すなわち、傾き)を示す決定変数である。
【0075】
本変形例では、値が互いに異なる複数の電圧調停率LDにおいて、分散型電源Dの無効電力が0のときの分散型電源Dの電圧が電圧v0で同じである場合を想定する。例えば、分散型電源Dの電圧調停率LDは、分散型電源Dの電圧から電圧v0を減算した値で分散型電源Dの無効電力を除算することにより得られる値である。具体的には、例えば、i番目の分散型電源Dの電圧調停率LDiは、分散型電源Dの無効電力を設定値qDiと同じ値にする電圧が電圧viである場合、式(7)で表される。
LDi=qDi/(vi-v0i) …(7)
【0076】
本変形例では、上述の実施形態において説明した式(4g)の等式制約の代わりに、式(8)の等式制約が、最適化問題の制約条件の1つとして用いられる。
qDi=LDi・(vi-v0i), i=0,・・・,I …(8)
また、本変形例では、決定変数uは、位相差θDの代わりに電圧調停率LDを用いて、式(9)で表される。
u=(pG、vG、pD、LD) …(9)
【0077】
以上、本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、本変形例では、上述したように、制御定数は、分散型電源Dの無効電力と電圧との関係を表す電圧調停率LDであり、最適化問題の制約条件は、電圧調停率LDを用いて表される等式制約を含む。例えば、等式制約は、分散型電源Dに対する無効電力の設定値をqDとし、分散型電源Dの電圧をvとし、電圧調停率をLDとし、分散型電源Dの無効電力が0のときの電圧をv0とした場合、“qD=LD・(v-v0)”で表される。従って、本変形例では、コストの増加を抑制しつつ、分散型電源Dの電圧調停率LDを、母線Bの電圧が適正な範囲から逸脱しないような適切な値に決定することができる。
【0078】
B2:第2変形例
上述した実施形態及び変形例では、不確実変数yの変動範囲Yにおいて、最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、最適化問題の目的関数の値が最小値となるように、分散型電源Dの制御定数が決定される場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、決定部140は、不確実変数yの変動範囲Yにおいて、最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、最適化問題の目的関数の値が最小値とみなせる程度に収束した場合の決定変数に基づいて、分散型電源Dの制御定数を決定してもよい。あるいは、決定部140は、不確実変数yの変動範囲Yにおいて、最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、最適化問題の目的関数の値が目的関数の値と目標値との差が閾値以下となるように、分散型電源Dの制御定数を決定してもよい。
【0079】
例えば、最適化問題が最小化問題であり、目的関数の値が許容値以下の場合に所望の効果が得られる場合、目標値と閾値との和が許容値以下となるように、目標値及び閾値が決定される。また、目標値は、目的関数の最小値又は想定される最小値であってもよい。
【0080】
以上、本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。さらに、本変形例では、決定部140は、不確実変数yの変動範囲Yにおいて、最適化問題の制約条件が満たされ、かつ、最適化問題の目的関数の値が目標値に近い値(又は、最小値に近い値)となる場合の決定変数に基づいて、分散型電源Dの制御定数を決定する。すなわち、本実施形態では、分散型電源Dの制御定数を決定する処理において、最適化問題を解く処理を、目的関数の値が最小値になる決定変数を特定する前に終了させることができる。この結果、本変形例では、分散型電源Dの制御定数を決定する処理の負荷が増加することを抑制することができる。
【0081】
B3:第3変形例
上述した実施形態及び変形例において、決定部140は、不確実変数yの複数の想定値を選択し、複数の想定値の各々について制御定数の候補値を算定し、複数の想定値を用いて算定した複数の候補値から制御定数の確定値を選択してもよい。例えば、複数の候補値の各々を算定した際の目的関数の値を候補間数値とした場合、決定部140は、複数の候補値のうち、複数の候補間数値のうちの最小値を与える候補値を、制御定数に決定してもよい。
【0082】
なお、決定部140は、不確実変数yの複数の想定値を選択する場合、不確実変数yの変動範囲Yから複数の想定値をランダムに選択してもよいし、複数の任意の想定値を選択してもよい。例えば、複数の任意の想定値の1つは、分散型電源Dの有効電力が最大となる状態(シナリオ)を想定した場合の不確実変数yであってもよい。あるいは、複数の任意の想定値の1つは、需要家により消費される消費電力(有効電力負荷)が最大又は最小となる状態(シナリオ)を想定した場合の不確実変数yであってもよい。
【0083】
以上、本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。さらに、本変形例では、不確実変数yの変動範囲Yから選択された複数の想定値を用いて算定された最適化問題の解に基づいて、分散型電源Dの制御定数が決定されるため、分散型電源Dの制御定数を決定する処理の負荷が増加することを抑制することができる。
【0084】
B4:第4変形例
上述した実施形態及び変形例では、式(4a)の目的関数の第1項f0が電力系統PSYSの全体の送電損失を示す場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、式(4a)の目的関数の第1項f0は、確定電源G等の燃料費に関する関数であってもよい。また、目的関数は、電力系統PSYSの経済性を評価するための関数に限定されない。以上、本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0085】
B5:第5変形例
上述した実施形態及び変形例では、最適化問題が最小化問題である場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、最適化問題は、最大化問題であってもよい。なお、最大化問題は、目的関数の符号を反転させることにより、最小化問題として扱うことができる。以上、本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
100…制御定数決定装置、110…処理装置、120…受付制御部、140…決定部、160…記憶装置、170…通信装置、180…入力装置、190…出力装置、B、B1、B2、B3…母線、B0…スラック母線、D、D1、D2…分散型電源、FD…送電線、G0、G1…確定電源、PR…定数決定プログラム、PSYS…電力系統、XF…変圧器。