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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022063
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】遠心分離管
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/02 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
A61M1/02 120
A61M1/02 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125387
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】514099961
【氏名又は名称】合同会社EBC&M
(71)【出願人】
【識別番号】522314337
【氏名又は名称】INTAKE合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 泰成
(72)【発明者】
【氏名】森矢 倫子
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA12
4C077BB04
4C077CC04
4C077NN03
4C077PP07
(57)【要約】
【課題】PRPの手軽な採取を可能とする遠心分離管において、注射針の差し込みに伴う汚染をできる限り抑え、遠心分離管が不用意に転倒したときの液漏れを防止し、試料注入時の空気抜きを可能とする。
【解決手段】遠心分離管1が、チューブ本体10及びチューブ本体10の上端開口部を覆う可撓性樹脂製のキャップ20を備える。キャップ20のキャップ本体21には、試料を注入するための注入口30と及び注入口栓31、並びに試料の遠心分離後に所定成分を注射針で採取するための採取口40及び採取口栓41が形成され、注入口30と採取口40はそれぞれすり鉢形状の凹部の底部にスリット33、43、が形成されているダックビル弁構造を有する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ本体及びチューブ本体の上端開口部を覆う可撓性樹脂製のキャップを備えた遠心分離管であって、
キャップは、試料を注入するための注入口と試料の遠心分離後に所定成分を注射針で採取するための採取口が形成されたキャップ本体、注入口を覆う注入口栓、及び採取口を覆う採取口栓を有し、
注入口と採取口は、それぞれすり鉢形状の凹部の底部にスリットが形成されているダックビル弁構造を、該凹部の開口部を上にした向きで有する遠心分離管。
【請求項2】
キャップ本体、注入口栓、及び採取口栓が一体成形されている請求項1記載の遠心分離管。
【請求項3】
キャップにおいて、採取口がチューブ本体の中心軸上にあり、注入口が前記中心軸から外れた位置にある請求項1又は2記載の遠心分離管。
【請求項4】
キャップの注入口のスリットの中心軸が、該注入口の開口面の中心軸よりもチューブ本体の中心軸寄りにある請求項1又は2記載の遠心分離管。
【請求項5】
キャップが、チューブ本体内の加圧空気を抜く空気抜き用逆止弁を有する請求項1又は2記載の遠心分離管。
【請求項6】
キャップにおいて採取口がチューブ本体の中心軸上にあり、空気抜き用逆止弁が、採取口に対して注入口と対称の位置にある請求項5記載の遠心分離管。
【請求項7】
キャップがシリコーン樹脂で形成されている請求項1又は2記載の遠心分離管。
【請求項8】
チューブ本体は、長手方向の上部及び下部に対して中間部の内径が細く、中間部の周囲に放射状にフィンが形成されている請求項1又は2記載の遠心分離管。
【請求項9】
チューブ本体の下部と螺合してチューブ本体の軸方向に移動可能なスライドアダプターを有し、チューブ本体とスライドチューブ本体との螺合部分の下側にチューブ本体とスライドアダプターとの摺接領域を有し、該摺接領域にパッキンを有する請求項1又は2記載の遠心分離管。
【請求項10】
チューブ本体がスライドアダプターに挿入され、前記螺合部分のチューブ本体の外径が前記摺接領域のチューブ本体の外径よりも大きい請求項9記載の遠心分離管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRPの分離に適した遠心分離管に関する。
【背景技術】
【0002】
PRP(Platelet-Rich Plasma)(多血小板血漿)は、血液を遠心分離することにより得られる、血小板を多く含む血漿層である。PRPには、種々の成長因子が含まれており、生体組織の損傷箇所の修復に活用できる。そのため、PRPを用いた治療が整形外科、形成外科、歯科等で採用されるようになっており、さらなる普及が期待されると共に、そのメカニズムを研究し解明することが望まれている。
【0003】
しかしながら、安全が確認されている従前のPRP採取キットは高価で、PRPの採取操作も複雑である。そのため、医療の臨床においても研究においてもPRPを手軽に使用することができない。
【0004】
汎用の遠心分離機を使用して血液からPRPを手軽に採取することができ、かつ空気中に漂うウィルスやバクテリアなどの異物のチューブ内への浸入を抑制する遠心分離管として、遠心分離管のチューブ本体の中間部の内径を上部や下部に対して細径としたものが提案されている(特許文献1)。この遠心分離管では、血液の遠心分離後にPRPが含まれるバフィーコート(Buffy coat)層が細径の中間部に位置するように、遠心分離管に占める中間部の位置や容積が調整される。また、柔軟な樹脂で形成されたキャップがチューブ本体の上端部に嵌められ、血液の注入やPRPの採取は、このキャップに注射針を貫通させることで行われる。
【0005】
特許文献1に記載のように細径の中間部を有する遠心分離管については、遠心分離後にバフィーコート層を細径部分に移動させられるように、遠心分離管の下部の大径部分の内部に下部ガスケットを移動可能に設け、下部ガスケットをプッシャーで押し込み、この大径部分の容積を可変とすることも提案されている(特許文献2)。この遠心分離管においては上部キャップに設けられた軟質樹脂製の上部ガスケットに注射針を貫通させることで血液の注入やPRPの採取が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013-514874号公報
【特許文献2】US9775942B2公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載のように遠心分離管の上端部にキャップを設けると、キャップのない場合に比して遠心分離管内をクリーンな状態に維持することができる。しかしながら、注射針がキャップを貫通することにより形成される抜き滓が遠心分離管内に混入してしまう。また、血液の注入とPRPの採取の双方を、同じキャップに注射針を貫通させることで行うため、血液の注入時にキャップに付着した汚れが遠心分離後の所定成分の採取時に遠心分離管内に混入して遠心分離管内を汚染させることが懸念される。
【0008】
さらに、キャップに注射針を貫通させて血液を注射器で注入すると遠心分離管内の空気抜きができず、内圧が高まることによりキャップが外れてしまう。これに対しては、針径よりも大きな針穴を予めキャップに開けておくことが考えられる。しかしながら、血液の注入後に遠心分離管が不用意に倒れた場合に針穴から血液が漏れ出てしまう。
【0009】
このような従来技術に対し本発明は、血液の遠心分離によりPRPを手軽に採取できるようにする遠心分離管において、(i)キャップに注射針を差し込むときの抜き滓の問題を解消すると共に注射針を差し込むことにより生じる汚染をできる限り抑えて遠心分離管内をクリーンな状態に維持すること、(ii)遠心分離管が不用意に転倒したときにも液漏れが生じないようにすること、及び(iii)遠心分離管内に血液を注入するときに空気抜きを可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、遠心分離管のチューブ本体のキャップに、チューブ本体に注射針で試料を注入するための注入口と、遠心分離後の試料から所定の成分を注射針で採取するための採取口とを別個に設けると注射針による遠心分離管内の汚染を低減できること、さらに注入口と採取口のそれぞれに、鉢形状の凹部にスリットが形成されているダックビル弁構造をもたせると、注射針を遠心分離管内に差し込むときにキャップの抜き滓が生じることはなく、試料注入時に空気抜きも行うことができ、遠心分離管が不用意に倒れても遠心分離管からの液漏れを防止できること、また、注入口と採取口にそれぞれ栓を設け、注射針の差し込み時以外は栓をしておくことにより遠心分離管内を一層クリーンな状態に維持できることを想到し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、チューブ本体及びチューブ本体の上端開口部を覆う可撓性樹脂製のキャップを備えた遠心分離管であって、
キャップは、試料を注入するための注入口と試料の遠心分離後に所定成分を注射針で採取するための採取口が形成されたキャップ本体、注入口を覆う注入口栓、及び採取口を覆う採取口栓を有し、
注入口と採取口は、それぞれすり鉢形状の凹部の底部にスリットが形成されているダックビル弁構造を、該凹部の開口部を上にした向きで有する遠心分離管を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遠心分離管のチューブ本体の上端開口部を覆うキャップに、注射針で試料を注入するための注入口と、遠心分離後の試料から所定成分を注射針で採取するための採取口が別個に設けられ、注入口と採取口がそれぞれダックビル弁構造を有するので、ダックビル弁のスリットに注射針を通すことができる。したがって、試料注入時にキャップに付着した汚れが、遠心分離後の所定成分の採取時に遠心分離管内に混入する虞がなく、また、キャップに注射針を差し込んでも抜き滓が生じることもなく、遠心分離管内をクリーンな状態に維持することができる。
【0013】
また、スリットに注射針を差し込むときには、スリットと注射針との間に僅かな間隙が生じるので、この間隙により遠心チューブ内の空気抜きを行うことができ、試料の注入時の加圧の問題を解消することができる。
【0014】
一方、スリットに注射針を差し込んでいない状態ではスリットが閉じているので遠心分離管内の試料が漏れ出ることを防止できる。よって、試料注入後の遠心分離管が不用意に転倒しても注入口や採取口から試料が流出することはない。
【0015】
加えて、注入口と採取口がそれぞれ栓を有することにより、スリットが露出するのはスリットに針を差し込むときだけとすることができる。よって、注入口と採取口をクリーンな状態に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、実施例の遠心分離管であって、注入口と採取口をそれぞれ栓で覆った状態の斜視図である。
図1B図1Bは、実施例の遠心分離管であって、注入口と採取口をそれぞれ栓で覆った状態の断面図である。
図2A図2Aは、栓が開いているキャップ20の上面側の斜視図である。
図2B図2Bは、栓が開いているキャップ20の背面側の斜視図である。
図3A図3Aは、栓が開いているキャップ20の上面図である。
図3B図3Bは、栓が開いているキャップ20のK-K断面図である。
図3C図3Cは、栓が開いているキャップ20のN-N断面図である。
図4図4は、栓が閉じているキャップ20の断面図である。
図5A図5Aは、チューブ本体の側面図である。
図5B図5Bは、チューブ本体の断面図である。
図5C図5Cは、チューブ本体の摺接領域を示すチューブ本体の断面図である。
図6A図6Aは、パッキンの斜視図である。
図6B図6Bは、パッキンの断面図である。
図7A図7Aは、スライドアダプターの斜視図である。
図7B図7Bは、スライドアダプターの断面図である。
図8A図8Aは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図8B図8Bは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図8C図8Cは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図8D図8Dは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図8E図8Eは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図8F図8Fは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図8G図8Gは、遠心分離管の使用方法を説明する断面図である。
図9A図9Aは、栓が開いているキャップ20Bの上面側の斜視図である。
図9B図9Bは、栓が開いているキャップ20Bの背面側の斜視図である。
図9C図9Cは、栓が開いているキャップ20BのK2-K2断面図である。
図10A図10Aは、逆止弁に栓がされているキャップ20Bの上面側斜視図である。
図10B図10Bは、逆止弁に栓がされているキャップ20BのN2-N2断面図である。
図11図11は、全ての栓が閉じているキャップ20Bの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0018】
(全体構造)
図1Aは、本発明の一実施例の遠心分離管1の斜視図であり、図1Bはその断面図である。この遠心分離管1は、一般的な遠心分離機で使用することのできるものであり、チューブ本体10、チューブ本体10の上端開口部を覆うキャップ20、チューブ本体10の下部12に取り付けられたスライドアダプター50を有し、チューブ本体10の下部12とスライドアダプター50との摺接領域の下端寄り部分にはパッキン60が設けられている。
【0019】
なお、この実施例の遠心分離管1は、血液の遠心分離によるPRPの採取に好適に使用されるが、本発明において遠心分離する試料はこれに限られない。
【0020】
図2A図2Bに示すように、キャップ20は、チューブ本体10の上端開口部を覆うキャップ本体21を有し、キャップ本体21には、チューブ本体10内に試料を注入するための注入口30と、試料の遠心分離後に所定成分を注射針で採取するための採取口40が形成されている。また、キャップ20は、注入口30を覆う注入口栓31と、採取口40を覆う採取口41を有し、注入口栓31と採取口栓41は、それぞれ帯状の連結部32、42でキャップ本体21と繋がっている。図1A図1Bには、注入口30に注入口栓31が嵌入し、採取口40に採取口栓41が嵌入した状態が表されている。
【0021】
(チューブ本体)
チューブ本体10は、ポリカーボネート等の透明樹脂で形成される。
チューブ本体10は、漏斗型の上部11、筒状の下部12、上部11及び下部12に対して内径が細い中間部13を有し、筒状の下部12には、有底筒状のスライドアダプター50が螺合する。
【0022】
なお、本発明では必要に応じてスライドアダプターを省略し、下部12を有底筒状としてもよく、長手方向の上部11及び下部12に対して中間部13を細径にしなくてもよい。
【0023】
本発明において上部11、中間部13、下部12及びスライドアダプター50を合わせた遠心分離管1の容器容量は遠心分離する試料に応じて適宜設定することができ、本実施例のように血液からPRPを採取する用途では15mL程度とすることが好ましい。その場合、上部11、中間部13及び下部12の容積や、中間部13の径は、遠心分離後にバフィーコート(Buffy coat)層が中間部13に位置し、PRPの採取が容易となるように適宜設定される。
【0024】
上部11は漏斗型をしている。図8Aに示すように、この斜面11a、又は上部11と中間部12との連続部分に注射針Nを当接させて血液Sを注入すると、血液だまりができることなくチューブ本体10内に血液Sを充填することができる。上部11には、血液の充填量の目印とするラインとして女性用ライン18aと男性用ライン18bをそれぞれ表示しておくことが好ましい(図5A)。男性と女性は赤血球成分の割合が異なるが、このライン18a、18bに合わせて女性血液、男性血液を充填することにより男女いずれの血液でも遠心分離後にバフィーコート(Buffy coat)層を中間部13に位置させることが容易となる。
【0025】
中間部13の周囲には放射状にフィン14が形成されている。フィン14は、細径の中間部13の機械的強度を補うため、また、中間部13が細径に形成されていない一般的な遠心分離管に適合した遠心分離機において、遠心分離管の設置を安定させるために設けられている。本実施例では、このフィン14が、中間部13だけでなく、上部11の中間部13寄りの部分から下部12の中間部13寄りの部分まで形成されている。これにより、急激に径が変化する中間部13と下部12の境界部分においても十分な機械的強度を得ることができる。
【0026】
図5A図5Bに示すように、チューブ本体10の下部12は概略筒状であるが、その外面の上下方向の中央部には、下部12の外径が僅かに大きくなった突出部分が形成されており、この突出部分にスライドアダプター50と螺合するねじ部15が形成される。図5Cの破線は、スライドアダプターのねじ部がチューブ本体10のねじ部15に螺合した状態で最も上方に移動したスライドアダプターの位置を示しており、同図の二点鎖線は、同様の螺合状態でスライドアダプター50が最も下方に移動したスライドアダプターの位置を示している。図5Cからわかるように、チューブ本体10は、ねじ部15の下方に、スライドアダプター50と摺接する摺接領域16を有する。ねじ部15の外径D1は、摺接領域16の外径D2よりも大きい(図5B)。一方、後述するように、チューブ本体10のねじ部15と螺合するスライドアダプター50のねじ部51のネジ山部分の内径D3は、その下方の摺接領域52の内径D4よりも大きい(図7B)。また、チューブ本体10の下部12の摺接領域16の下端寄り部分の外表面に溝17が形成され、溝17にパッキン60が嵌められている(図5A図5B)。したがって、スライドアダプター50のねじ部51をチューブ本体10のねじ部15と螺合させるときに摺接領域16は、スライドアダプター50のねじ部51で擦られにくくなり、パッキン60がスライドアダプター50のねじ部51で擦られて摩耗や損傷することを抑制できる。
【0027】
パッキン60は可動部に適したシーリング材である。パッキンとしては、シリコーン等の樹脂をリング状に成型したものを使用することができる。特に、シール性能を向上させる点から、図6A図6Bに示したパッキン60のように外表面に2つの甲丸形リング状凸部61を有し、内表面も2つの甲丸形リング状凸部62を有するものが好ましい。
【0028】
(キャップ)
キャップ20のキャップ本体21には注入口30と採取口40が別個に形成され、注入口30と採取口40のそれぞれが、すり鉢状の凹部の底部にスリット33、43が形成されたダックビル弁構造を、該凹部の開口部を上にした向きで有している。
【0029】
注入口30と採取口40を別個に設けることにより遠心分離管内の汚染防止を図ることができる。また、注入口30と採取口40にそれぞれダックビル弁構造をもたせることにより、凹部に沿わせて注射針を容易にスリット33、43に導くことができる。そして、リット33、43に注射針を差し込むことにより、遠心分離管内にキャップの抜き滓を混入させることなく試料の注入や採取を行うことができ、試料の注入時にはスリットと注射針の間隙により空気抜きもできる。さらに、スリット33、43に注射針を差し込んだ後にその注射針を引き抜くとスリット33、43は閉じるので、不用意に遠心分離管を倒しても内容物が漏れ出ることもない。また、注射針の針基はスリット33、43に到達せず、すり鉢状の凹部にとどまるので、針基が遠心分離管内を汚染することはなく、遠心分離管内の試料が針基に付着することもない。
【0030】
なお、ダックビル弁構造は、一般に逆流防止弁として使用されているが、ダックビル弁構造のスリットが注射針の差し込み口に好適であることは本発明者の知見によるものである。
【0031】
図3A図3Cに示すように、採取口40はチューブ本体10の中心軸A0上にあり、スリット43の中心と凹部の開口面の中心がこの中心軸A0と重なっている。これにより、試料の遠心分離後に中間部13に位置する成分の採取が容易となる。
【0032】
一方、注入口30はチューブ本体10の中心軸A0から外れた位置に形成され、注入口30のスリット33がチューブ本体10の中心軸A0を向いている。また、注入口30は、スリット33を一つの辺とする一対の斜面34a、34bを有している。スリット33の中心軸A1は注入口30の開口面の中心軸A2よりもチューブ本体10の中心軸A0寄りにあり、注入口30の凹部形状は偏心した形状となっている。したがって、チューブ本体10への血液の注入時に、一対の斜面34a、34bのうちチューブ本体10の中心軸A0から離れた方の斜面34bに沿わせて注射針をスリット33に差し込むことにより、図8Aに示すように注射針Nをチューブ本体10の中心軸A0に対して傾け、注射針Nの先端をチューブ本体10の中間部13に到達させることができる。よって、血液だまりが形成されることなく血液をチューブ本体10に充填することができる。
【0033】
キャップ20は、キャップ本体21に加えて注入口栓31と採取口栓41を有し、注入口栓31と採取口栓41は、それぞれ帯状の連結部32、42でキャップ本体21と繋がっており、図4に示すように注入口30には注入口栓31が嵌入し、採取口40には採取口栓41が嵌入する。
【0034】
キャップ20に注入口栓31と採取口栓41を設けるにあたり、注入口30に栓をするときには自ずと注入口栓31が選択され、採取口40に栓をするときには自ずと採取口栓41が選択されるように、注入口栓31は注入口30の近傍に配置し、採取口栓41は採取口40の近傍に配置することが好ましく、本実施例では注入口栓31、注入口30、採取口40及び採取口栓41が一列になる配置としている。これにより栓を取り違えて嵌めることがなくなり、使い勝手が向上する。
【0035】
また、本実施例においては、キャップ本体21、注入口栓31、連結部32、採取口栓41及び連結部42が可撓性樹脂で一体成形されている。これらを一体成形することで、注入口栓31と採取口栓41をキャップ本体21と別個に形成する場合に対してパーツ数が少なく、製造コストを低減させることができる。
【0036】
キャップ本体21、注入口栓31、連結部32、採取口栓41及び連結部42を可撓性樹脂で一体成形するにあたり、使用する樹脂としては、柔軟性等の点から、例えば、シリコーン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等を使用することができ、中でもシリコーン樹脂を使用することが好ましい。また、スリット33、43部分の肉厚dは1~2mmが好ましい。
【0037】
(スライドアダプター)
本実施例の遠心分離管1において、スライドアダプター50は有底筒状であり、チューブ本体10の下部12の外表面と螺合することにより取り付けられ、上下方向(軸A0方向)に移動可能となっている。即ち、図7A図7Bに示すように、スライドアダプター50の内面にはねじ部51が形成されており、このねじ部51がチューブ本体10の下部12の外表面のねじ部15と螺合する。スライドアダプター50のねじ部51の下側は表面が滑らかな摺接領域52となっている。またスライドアダプター50の外表面には、多数の縦リブからなる滑り止め53が設けられている。
【0038】
摺接領域52の内径D4は、ねじ部51のネジ山部分の内径D3よりも小さく、スライドアダプター50のねじ部51がチューブ本体10のねじ部15と螺合している状態で摺接領域52はチューブ本体10のねじ部15の下側の摺接領域16と摺接する。スライドアダプター50とチューブ本体10の液密は、これらの摺接領域52、16とチューブ本体10の下端近傍の溝17に嵌められたパッキン60により確保される。
【0039】
血液の遠心分離後にスライドアダプター50の軸A0方向の位置を調整することで、バフィーコート層を中間部13に位置させることが可能となり、バフィーコート層の採取が容易となる。
【0040】
この位置調整では、図8Fに示すように、スライドアダプター50の位置を下げすぎてスライドアダプター50のねじ部51がチューブ本体10のねじ部15の下側に位置し、双方が螺合せず、空回りする虞がある。しかしながらこの場合でも、スライドアダプター50とチューブ本体10との液密はパッキン60により維持され、スライドアダプター50を下方に強く引っ張らない限り、スライドアダプター50はチューブ本体10に取り付けられた状態を維持するのでチューブ本体10からの液漏れを防止でき、また、スライドアダプター50がチューブ本体10から不用意に脱離することを防止できる。
【0041】
スライドアダプター50は、チューブ本体10と同様に、ポリカーボネート等の透明樹脂で形成される。
【0042】
(使用方法)
本実施例の遠心分離管1を使用して血液からバフィーコート層を採取する方法は次のように行うことができる。
【0043】
図1A図1Bに示したように、遠心分離管1の未使用状態では注入口30に注入口栓31が嵌められ、採取口40に採取口栓41が嵌められている。
【0044】
まず、血液凝固剤(ACD-A)入りの注射器に被験者の静脈血15mLを採取する。そして遠心分離管1の注入口30から注入口栓31を外し、図8Aに示すように、注射針Nを注入口30の斜面34bに沿ってスリット33に向かわせ、スリット33からチューブ本体10内に差し込み、採取した血液13.5~14.0mLを図1Aに示した男女別のライン18a又はライン18bまで注入する。このように注射針Nをすり鉢状の凹部の斜面34bに沿わせてスリット33方向に動かすことにより容易に中心軸A0に対して傾けて注射針Nをスリット33に差し込むことができる。また、注射針Nの先端部を中間部13に位置させることで、血液を中間部13でつまらせることなく、チューブ本体10内に充填することができる。
【0045】
次に、図8Bに示すように血液Sの充填後は注入口30に注入口栓31を嵌め、採取口40は採取口栓41を嵌めたままとし、転倒混和する。
【0046】
続いて、注入口30が注入口栓31で閉じられ、採取口40が採取口栓41で閉じられた状態で遠心分離する。遠心分離の条件としては、例えば、1回1800G、4分程度の遠心分離を行う。これにより、チューブ本体内の血液が血漿層P、血小板を含むバフィーコート層B、赤血球層Rに分離する。図8Cに示すようにバフィーコート層Bが中間部13に位置することによりバフィーコート層Bを採取可能であれば、図8Gに示すように採取口40から採取口栓41を外し、採取口40のスリット43に注射針(ノンベベル針)N2を差し込み、バフィーコート層Bを採取する。必要に応じて遠心分離を繰り返してもよい。
【0047】
バフィーコート層Bが中間部13に位置せず、採取しにくい場合には、スライドアダプター50をチューブ本体10に対して上昇(図8D)又は下降(図8E)させてバフィーコート層Bを中間部13の中央部に移動させ、その後に図8Gに示したように採取口40に針N2を差し込んでバフィーコート層Bを採取する。
【0048】
(変形態様)
本発明は種々の変形態様をとることができ、変形部分を適宜組み合わせることができる。例えば、注入口30から試料をチューブ本体10内に注入するときの空気抜きがより確実に行われるようにするため、キャップ本体21に、チューブ本体10の加圧空気を抜くための空気抜き用逆止弁を設けても良い。空気抜き用逆止弁の例としては、ダックビル弁を、そのすり鉢状の凹部がチューブ本体10の内側に向くようにキャップ本体21に形成してもよく、スリットカット弁を形成してもよい。
【0049】
空気抜き用逆止弁を設ける場合に、チューブ本体内の血液が空気抜き用逆止弁方向に流れたときに空気抜き用逆止弁から血液が漏れ出る虞があるので、空気抜き用逆止弁が蓋又は栓で覆われるようにすることが好ましい。
【0050】
図9A図9B及び図9Cに示したキャップ20Bは、図2A及び図2Bに示したキャップ20のキャップ本体21に、空気抜き用逆止弁としてスリットカット弁70を一体成形したものである。スリットカット弁70は、キャップ本体21の有底筒状の凹み71の底部72に設けたスリット73で構成されている。凹み71の上部は開口径が広くなった段部71aとなっており、凹み71の上部には可撓性樹脂で形成されたアンブレラ状の栓80が嵌入する。栓80は、スリット73を外界から隔てると共に(図10A図10B)、アンブレラチェックバルブとして機能し、遠心分離管の内から外への空気の流れを許容するが、外から内への空気の流れは妨げる。栓80が凹み71の上部に嵌入した状態において遠心分離管の内から外への空気の流れを容易にするため、凹み71の上部内壁から段部71aの中央部にかけて溝74が形成されている。
【0051】
栓80は、常時、凹み71に嵌入した状態とする。即ち、遠心分離管の使用方法としては、チューブ本体に試料を注入する場合には、採取口栓41だけでなくスリットカット弁70の栓80も嵌めた状態で注入口栓31を外し、注入口30から試料を注入する。試料の注入時に遠心分離管内が加圧されても、遠心分離管内の空気は、スリットカット弁70のスリット73を通り、さらに栓80とキャップ本体21との隙間を通って遠心分離管の外に逃げるので、採取口栓41が外れることはない。
【0052】
また、試料の注入後に遠心分離管を遠心分離機にかける場合には、注入口栓31と採取口栓41だけでなく、栓80も嵌めておく(図11)。遠心分離後に採取口40から所定成分を採取する場合には採取口栓41を外すが、注入口栓31と栓80は嵌めたままの状態とする。
【0053】
このようにスリットカット弁70が形成されている凹み71に栓80を常時嵌入させた状態とすることにより、遠心分離管のユーザは栓80の着脱に煩わされることがなく、また栓80を不用意に外してしまうこともない。
【0054】
また、このキャップ20Bでは、該キャップ20Bをチューブ本体に被せた状態で、採取口40がチューブ本体の中心軸A0上にあり、採取口40に対して注入口30と空気抜き用逆止弁(スリットカット弁70)が対称の位置に形成されているので(図11)、遠心分離時のバランスは良好に維持される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の遠心分離管を使用して血液からPRPを採取すると、治療に有効な血小板濃縮率の高濃度PRPをクリーンな状態で安定して得ることができる。また、本発明の遠心分離管は低コストに製造することができるので、研究及び臨床で幅広く受け入れられるものとなる。
【0056】
本発明の遠心分離管は、血液からPRPを採取する場合だけでなく、任意の試料の遠心分離に使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 遠心分離管
10 チューブ本体
11 上部
11a 上部内面の斜面
12 下部
13 中間部
14 フィン
15 ねじ部
16 摺接領域
17 溝
18a 女性用ライン
18b 男性用ライン
20、20B キャップ
21 キャップ本体
30 注入口
31 注入口栓
32 連結部
33 スリット
34a、34b 斜面
40 採取口
41 採取口栓
42 連結部
43 スリット
50 スライドアダプター
51 ねじ部
52 摺接領域
53 滑り止め
61、62 甲丸形リング状凸部
60 パッキン
70 スリットカット弁
71 凹み
71a 段部
72 底部
73 スリット
74 溝
80 栓
A0 チューブ本体の軸、中心軸
A1 注入口のスリットの中心軸
A2 注入口の開口面の中心軸
d スリット部分の肉厚
B バフィーコート層
D1 チューブ本体のねじ部の外径
D2 チューブ本体の摺接領域の外径
D3 スライドアダプターのねじ部のネジ山部分の内径
D4 スライドアダプターの摺接領域の内径
N 注射針
N2 ノンベベル針
P 血漿層
R 赤血球層
S 血液
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11