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特開2024-22065情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022065
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20240208BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20240208BHJP
   A61B 5/332 20210101ALI20240208BHJP
   G16H 50/30 20180101ALI20240208BHJP
【FI】
A61B5/16 100
A61B5/352 100
A61B5/332
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125393
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】501075822
【氏名又は名称】高山 光尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(72)【発明者】
【氏名】高山 光尚
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
5L099
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PP05
4C038PQ06
4C038PS00
4C127AA02
4C127BB03
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG15
4C127GG18
4C127KK03
4C127KK05
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】対象者の脈拍データを用いて、該対象者の精神健康度をリアルタイムに判定して提供することを課題とする。
【解決手段】情報処理装置10は、蓄積モードにおいて取得した所定時間以上(例えば、200分以上)の脈拍データを蓄積データとして記憶し、この蓄積データを用いて精神健康度の状態毎の基準域を示す基準域データを算出する(S1)。生徒Aが計測端末30を装着したならば、計測端末30は生徒Aの脈拍データを情報処理装置10に通知する(S2)。情報処理装置10は、受信した脈拍データ及び基準域データを用いて精神健康度を判定する(S3)。情報処理装置10は、判定結果を管理端末20に通知し(S4)、管理端末20は、受信した判定結果を表示する(S5)。例えば、生徒Aの精神健康度「覚醒状態」と表示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象者の精神健康度を判定する情報処理装置と、前記情報処理装置と通信可能に接続された計測端末とを備えた情報処理システムであって、
前記計測端末は、
前記計測対象者の脈拍情報を取得する脈拍情報取得手段と、
前記脈拍情報取得手段により取得された前記脈拍情報を通知する脈拍情報通知手段と
を有し、
前記情報処理装置は、
前記計測端末から受け取った脈拍情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された特徴値情報を用いて基準域情報を生成する生成手段と、
前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した前記精神健康度を報知する報知手段と
を備えたことを特徴とする情報処理システム。
【請求項2】
前記報知手段は、
所定の管理装置に対して前記精神健康度を通知して、該管理装置の表示部に前記精神健康度を表示させることを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記算出手段は、
前記記憶手段に記憶された脈拍情報のうちの所定数の脈拍情報を用いて、前記特徴値情報であるRRI差分値及び脈拍変動係数を算出することを特徴とする請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項4】
前記生成手段は、
前記特徴値情報を用いて、前記RRI差分値及び前記脈拍変動係数のそれぞれの平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差を用いて、前記精神健康度の各状態の前記基準域情報を生成することを特徴とする請求項3に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記判定手段は、
前記脈拍情報が、前記基準域情報に含まれる前記精神健康度のいずれかの状態に該当する場合に、該当する状態を前記計測対象者の前記精神健康度と判定することを特徴とする請求項4に記載の情報処理システム。
【請求項6】
前記精神健康度は、
少なくとも覚醒状態、フロー状態、リラックス状態、意欲低下状態、眠気・睡眠状態及び高ストレス状態を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一つに記載の情報処理システム。
【請求項7】
計測対象者の脈拍情報を取得する計測端末と通信可能に接続された情報処理装置であって、
前記計測端末から受け取った脈拍情報を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成手段と、
前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した前記精神健康度を報知する報知手段と
を備えたことを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
計測対象者の精神健康度を判定する情報処理装置と、前記情報処理装置と通信可能に接続された計測端末とを備えた情報処理システムにおける情報処理方法であって、
前記計測端末が、前記計測対象者の脈拍情報を取得する脈拍情報取得工程と、前記脈拍情報取得工程により取得された前記脈拍情報を通知する脈拍情報通知工程と、
前記情報処理装置が、前記計測端末から受け取った脈拍情報を所定の記憶部に記憶する記憶工程と、前記記憶部に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出工程と、
前記情報処理装置が、前記算出工程により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成工程と、
前記情報処理装置が、前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定工程と、
前記情報処理装置が、前記判定工程により判定した前記精神健康度を報知する報知工程と
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項9】
計測対象者の脈拍情報を取得する計測端末及び精神健康度を表示する管理端末と通信可能に接続された情報処理装置で実行される情報処理プログラムであって、
前記計測端末から受け取った脈拍情報を所定の記憶部に記憶する記憶手順と、
前記記憶部に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出手順と、
前記算出手順により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成手順と、
前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定手順と、
前記判定手順により判定した前記精神健康度を報知する報知手順と
をコンピュータに実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の脈拍データを用いて、該対象者の精神健康度をリアルタイムに判定することができる情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、個人の個性が尊重される中で、個人の状況に応じた個別最適化された学びの実現が期待されている。特に、学習を行う生徒などの集中度や精神状態を把握したうえで、その状態に応じた学習指導を行うことが求められている。
【0003】
このため、複数の神経系における活動状態と集中状態とを対応付けた集中度ルール設定情報を設定したうえで、計測生体情報及び集中度を推定して集中度推定情報を取得する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、対象者の表情を撮像した画像を取得し、表情指標(笑顔度、笑顔形成速度、口及び目の位置、顔面の左右対称性、顔角度)から閾値を設定して、ストレス状態の有無を推定する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-283041号公報
【特許文献2】特開2020-120908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものは、緊張状態又はリラックス状態を同定しているに過ぎない。また、上記特許文献2のものは、多様な精神状態を詳細に分類して定量的に評価を行うことができないため、学習を行う生徒などの精神状態をリアルタイムに分類することが難しい。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたものであって、対象者の脈拍データを用いて、該対象者の精神健康度をリアルタイムに判定することができる情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、計測対象者の精神健康度を判定する情報処理装置と、前記情報処理装置と通信可能に接続された計測端末とを備えた情報処理システムであって、前記計測端末は、前記計測対象者の脈拍情報を取得する脈拍情報取得手段と、前記脈拍情報取得手段により取得された前記脈拍情報を通知する脈拍情報通知手段とを有し、前記情報処理装置は、前記計測端末から受け取った脈拍情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成手段と、前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定手段と、前記判定手段により判定した前記精神健康度を報知する報知手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、前記報知手段は、所定の管理装置に対して前記精神健康度を通知して、該管理装置の表示部に前記精神健康度を表示させることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、前記算出手段は、前記記憶手段に記憶された脈拍情報のうちの所定数の脈拍情報を用いて、前記特徴値情報であるRRI差分値及び脈拍変動係数を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、前記生成手段は、前記特徴値情報を用いて、前記RRI差分値及び前記脈拍変動係数のそれぞれの平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差を用いて、前記精神健康度の各状態の前記基準域情報を生成することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記判定手段は、前記脈拍情報が、前記基準域情報に含まれる前記精神健康度のいずれかの状態に該当する場合に、該当する状態を前記計測対象者の前記精神健康度と判定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記精神健康度は、少なくとも覚醒状態、フロー状態、リラックス状態、意欲低下状態、眠気・睡眠状態及び高ストレス状態を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、計測対象者の脈拍情報を取得する計測端末と通信可能に接続された情報処理装置であって、前記計測端末から受け取った脈拍情報を記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成手段と、前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定手段と、前記判定手段により判定した前記精神健康度を報知する報知手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、計測対象者の精神健康度を判定する情報処理装置と、前記情報処理装置と通信可能に接続された計測端末とを備えた情報処理システムにおける情報処理方法であって、前記計測端末が、前記計測対象者の脈拍情報を取得する脈拍情報取得工程と、前記脈拍情報取得工程により取得された前記脈拍情報を通知する脈拍情報通知工程と、前記情報処理装置が、前記計測端末から受け取った脈拍情報を所定の記憶部に記憶する記憶工程と、前記記憶部に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出工程と、前記情報処理装置が、前記算出工程により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成工程と、前記情報処理装置が、前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定工程と、前記情報処理装置が、前記判定工程により判定した前記精神健康度を報知する報知工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、計測対象者の脈拍情報を取得する計測端末及び精神健康度を表示する管理端末と通信可能に接続された情報処理装置で実行される情報処理プログラムであって、前記計測端末から受け取った脈拍情報を所定の記憶部に記憶する記憶手順と、前記記憶部に記憶された脈拍情報に基づいて特徴値情報を算出する算出手順と、前記算出手順により算出された特徴値情報に基づいて基準域情報を生成する生成手順と、前記基準域情報及び前記脈拍情報に基づいて、前記計測対象者の精神健康度を判定する判定手順と、前記判定手順により判定した前記精神健康度を報知する報知手順とをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、収集した対象者の脈拍データを用いて、対象者の精神健康度をリアルタイムに判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態に係る情報処理システムの概要を説明するための説明図である。
図2図2は、実施形態に係る情報処理システムのシステム構成を示す図である。
図3図3は、図2に示した情報処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
図4図4は、図3に示した生徒データ、蓄積データ及び特徴値データの一例を示す図である。
図5図5は、図3に示した基準域データの一例を示す図である。
図6図6は、図3に示した脈拍データ及び判定データの一例を示す図である。
図7図7は、ヤーキーズ・ドットソンの法則を説明するための説明図である。
図8図8は、高ストレス状態又は意欲低下状態からフロー状態に移行する場合の説明図である。
図9図9は、RRIを説明するための説明図である。
図10図10は、実施形態に係る特徴値と精神健康度の関係を示す図である。
図11図11は、実施形態に係る精神健康度マトリックスを示す図である。
図12図12は、実施形態に係る精神健康度の分析の一例を示す図(その1)である。
図13図13は、実施形態に係る精神健康度の分析の一例を示す図(その2)である。
図14図14は、実施形態に係る精神健康度の分析の一例を示す図(その3)である。
図15図15は、実施形態に係る情報処理装置における基準域出力処理の処理手順を示すフローチャートである。
図16図16は、実施形態に係る情報処理装置における精神健康度判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本実施形態に係る情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムについて詳細に説明する。なお、本実施形態では、学習を行う生徒を対象者とする場合について示すこととする。
【0020】
<実施形態に係る情報処理システムの概要>
まず、本実施形態に係る情報処理システムの概要について説明する。図1は、本実施形態に係る情報処理システムの概要を説明するための説明図である。
【0021】
図1に示すように、生徒Aは、計測端末30を例えば手首に装着する。計測端末30は、生徒Aの脈拍を測定し、所定の時間毎(例えば、4秒毎)に脈拍データとして情報処理装置10に通知する。かかる通知は無線通信により行われる。この脈拍データは、具体的にはRRI(R-R Interval)値として示される。心電図における心拍時の波をR波と呼ばれ、R波の間隔(心拍間隔)がRRIとなる。
【0022】
情報処理装置10は、蓄積モードにおいて取得された所定時間以上(例えば、200分以上)の脈拍データを蓄積データとして記憶し、この蓄積データを用いて精神健康度の状態毎の基準域を示す基準域データを算出する(S1)。
【0023】
「蓄積モード」とは、基準域データを算出するために、事前に脈拍データを取得するための情報処理装置10のモードである。かかる「蓄積モード」以外に、計測端末30から取得した直近の脈拍データを用いて生徒の精神健康度を判定する「判定モード」がある。精神健康度は、「覚醒状態」、「フロー状態」、「リラックス状態」、「意欲低下状態」、「眠気・睡眠状態」及び「高ストレス状態」に区分される。
【0024】
生徒Aが計測端末30を装着したならば、計測端末30は生徒Aの脈拍データを情報処理装置10に通知する(S2)。情報処理装置10は、受信した脈拍データ及び基準域データを用いて精神健康度を判定する(S3)。
【0025】
情報処理装置10は、判定結果を管理端末20に通知し(S4)、管理端末20は、受信した判定結果を表示する(S5)。例えば、生徒Aの精神健康度「覚醒状態」と表示する。
【0026】
このように、本実施形態に係る情報処理システムでは、対象者の脈拍データを用いて、該対象者の精神健康度をリアルタイムに判定し、判定結果を表示する。
【0027】
<システム構成>
次に、本実施形態に係る情報処理システムのシステム構成について説明する。図2は、本実施形態に係る情報処理システムのシステム構成を示す図である。図2に示すように、情報処理装置10は、施設内の通信回線によって、管理端末20及び無線ルータ40と通信可能に接続される。計測端末30は、無線通信により無線ルータ40と接続され、該無線ルータ40を介して情報処理装置10と接続される。
【0028】
情報処理装置10は、計測端末30が取得した脈拍データを用いて、対象者の精神健康度を判定する装置である。情報処理装置10は、生徒に係るデータを受け付けたならば、このデータを生徒データに記憶する。情報処理装置10は、蓄積モード又は判定モードの指定を受け付けたならば、受け付けたモードに設定する。
【0029】
また、情報処理装置10は、蓄積モードにおいて計測端末30から脈拍データを受信したならば、この脈拍データを蓄積データに記憶する。情報処理装置10は、特徴値算出指示を受け付けたならば、蓄積データを用いて、特徴値であるRRI差分値及び脈拍変動係数を生徒ID毎に算出し、特徴値データに記憶する。情報処理装置10は、特徴値データが更新されたならば、この特徴値データを用いて、精神健康度の各状態の基準域を算出し、基準域データに記憶する。
【0030】
また、情報処理装置10は、判定モードにおいて計測端末30から脈拍データを受信したならば、この脈拍データを脈拍データに記憶する。情報処理装置10は、脈拍データにおいて各生徒IDに係るデータ数が所定の数以上(例えば、75個以上)となったならば、この脈拍データを用いて、特徴値を算出し、算出した特徴値及び基準域データを用いて、生徒IDに係る生徒の精神健康度を判定するとともに、判定結果を管理端末20に通知する。
【0031】
また、情報処理装置10は、管理端末20から分析指示を受信したならば、精神健康度に関する分析処理を行い、分析結果を管理端末20に通知する。
【0032】
管理端末20は、情報処理装置10が判定した対象者の精神健康度を表示する装置である。管理端末20は、分析指示の操作を受け付けたならば、この分析指示を情報処理装置10に通知する。管理端末20は、情報処理装置10から、精神健康度又は分析結果を受信したならば、この精神健康度又は分析結果を表示する。
【0033】
計測端末30は、計測端末30を装着した者の脈拍を計測する装置である。計測端末30は、装着者の脈拍を計測し、無線ルータ40を介して、所定の時間毎(例えば、4秒毎)に脈拍データとして情報処理装置10に通知する。
【0034】
<情報処理装置10の構成>
次に、図1に示した情報処理装置10の構成について説明する。図3は、図2に示した情報処理装置10の構成を示す機能ブロック図である。図3に示すように、情報処理装置10は、表示部11及び入力部12と接続され、通信部13と、記憶部と、制御部15とを有する。
【0035】
表示部11は、液晶パネルやディスプレイ装置等の表示デバイスである。入力部12は、キーボードやマウス等の入力デバイスである。通信部13は、通信回線を介して管理端末20及び計測端末30とデータ通信するためのインタフェース部である。
【0036】
記憶部14は、不揮発性のメモリ又はハードディスク装置等からなる記憶デバイスであり、生徒データ14a、蓄積データ14b、特徴値データ14c、基準域データ14d、脈拍データ14e及び判定データ14fを記憶する。
【0037】
生徒データ14aは、情報処理システムを利用する生徒に係る情報を示すデータである。蓄積データ14bは、計測端末30が所定時間以上(例えば、200分以上)、事前に計測したRRI値を示すデータである。
【0038】
特徴値データ14cは、蓄積データ14bを用いて算出したRRI差分値及び脈拍変動係数(以下、「特徴値」と言う)を示すデータである。基準域データ14dは、特徴値データ14cを用いて算出した精神健康度の各状態の基準域を示すデータである。
【0039】
脈拍データ14eは、施設内において計測端末30を装着した生徒から、計測端末30が計測したRRI値を示すデータである。判定データ14fは、生徒の学習中における精神健康度を示すデータである。
【0040】
制御部15は、情報処理装置10の全体制御を行う制御部であり、生徒データ管理部15a、モード管理部15b、蓄積データ管理部15c、特徴値算出部15d、基準域算出部15e、脈拍データ管理部15f、判定部15g、分析部15h及び通知部15iを有する。実際には、これらの機能部に対応するプログラムを図示しないROM等の不揮発性メモリに記憶しておき、これらのプログラムをCPU(Central Processing Unit)にロードして実行することにより、生徒データ管理部15a、モード管理部15b、蓄積データ管理部15c、特徴値算出部15d、基準域算出部15e、脈拍データ管理部15f、判定部15g、分析部15h及び通知部15iにそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0041】
生徒データ管理部15aは、生徒データ14aを管理する処理部である。生徒データ管理部15aは、入力部12から生徒に係るデータを受け付けたならば、このデータを生徒データ14aに記憶する。
【0042】
モード管理部15bは、情報処理装置10のモードを管理する処理部である。モード管理部15bは、入力部12から蓄積モード又は判定モードの指定を受け付けたならば、受け付けたモードに情報処理装置10を設定する。
【0043】
蓄積データ管理部15cは、蓄積データ14bを管理する処理部である。蓄積データ管理部15cは、蓄積モードにおいて計測端末30から脈拍データを受信したならば、この脈拍データを蓄積データ14bに記憶する。
【0044】
特徴値算出部15dは、特徴値の算出を行うとともに、特徴値データ14cを管理する処理部である。特徴値算出部15dは、入力部12から特徴値算出指示を受け付けたならば、蓄積データ14bを用いて、特徴値であるRRI差分値及び脈拍変動係数を生徒ID毎に算出し、特徴値データ14cに記憶する。なお、特徴値の算出についての説明は後述する。
【0045】
また、特徴値算出部15dは、脈拍データ管理部15fから特徴値算出指示を受け付けたならば、この特徴値算出指示に含まれる生徒IDに係る脈拍データ14eを用いて、特徴値を算出し、算出した特徴値及び生徒IDを判定部15gに受け渡す。
【0046】
基準域算出部15eは、基準域データ14dを管理する処理部である。基準域算出部15eは、特徴値データ14cが更新されたならば、この特徴値データ14cを用いて、精神健康度の各状態の基準域を算出し、基準域データ14dに記憶する。なお、基準域の算出についての説明は後述する。
【0047】
脈拍データ管理部15fは、脈拍データ14eを管理する処理部である。脈拍データ管理部15fは、判定モードにおいて計測端末30から脈拍データを受信したならば、この脈拍データを脈拍データ14eに記憶する。
【0048】
また、脈拍データ管理部15fは、脈拍データ14eにおいて、各生徒IDに係るデータ数が所定の数以上(例えば、75個以上)となったならば、該当する生徒IDを含む特徴値算出指示を特徴値算出部15dに受け渡す。
【0049】
判定部15gは、生徒の精神健康度の判定を行うとともに、判定データ14fを管理する処理部である。判定部15gは、特徴値算出部15dから特徴値及び生徒IDを受け取ったならば、該特徴量及び生徒IDに係る基準域データ14dを用いて、生徒IDに係る生徒の精神健康度を判定する。判定部15gは、特徴値算出部15dから受け取った特徴値及び判定結果を判定データ14fに記憶する。
【0050】
分析部15hは、判定データ14fを用いて学習に対する意欲度に係る分析処理を行う処理部である。分析部15hは、管理端末20から分析指示を受信したならば、次の分析処理を行う。分析部15hは、判定データ14fの特徴値が、事前に設定された所定の閾値内にあるか否かによって、生徒の学習に対する意欲度を評価する。分析部15hは、判定データ14fの特徴値をグラフ上に時系列にプロットした場合に、特徴値の推移する方向を抽出し、生徒の学習に対する意欲度を評価する。なお、具体的な評価要領については後述する。
【0051】
通知部15iは、生徒の精神健康度に係る判定結果の通知を行う処理部である。通知部15iは、判定データ14fが更新されたならば、この判定データ14fを管理端末20に通知する。通知部15iは、分析部15hによる分析が終了したならば、この分析結果を管理端末20に通知する。
【0052】
次に、図3に示した情報処理装置10の記憶部14が記憶するデータの一例について説明する。図4図6は、図3に示した生徒データ14a、蓄積データ14b、特徴値データ14c、基準域データ14d、脈拍データ14e及び判定データ14fの一例を示す図である。
【0053】
図4(a)に示すように、生徒データ14aは、生徒ID「KD12345」に対して、氏名「特許太郎」、学年「中学1年」、性別「男」、年齢「13」歳を対応付け、生徒ID「KD67890」に対して、氏名「開発花子」、学年「中学2年」、性別「女」、年齢「14」歳を対応付けている。
【0054】
図4(b)に示すように、蓄積データ14bは、生徒ID「KD12345」、日時「2022/07/01 16:10:04」に対して、RRI値「900」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/07/01 16:10:08」に対して、RRI値「910」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/07/01 16:10:12」に対して、RRI値「950」を対応付けている。
【0055】
図4(c)に示すように、特徴値データ14cは、生徒ID「KD12345」、日時「2022/07/01 16:15:00」に対して、RRI差分値「15」、脈拍変動係数「7.5」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/07/01 16:16:00」に対して、RRI差分値「21」、脈拍変動係数「8.1」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/07/01 16:17:00」に対して、RRI差分値「8」、脈拍変動係数「7.9」を対応付けている。
【0056】
図5に示すように、基準域データ14dは、生徒ID「KD12345」に対して、特徴値データに係るRRI差分値の平均値「0」、標準偏差「40」、脈拍変動係数の平均値「8.0」、標準偏差「2.0」、覚醒状態に係るRRI差分値「-80~80」、脈拍変動係数「4.0~12.0」、フロー状態に係るRRI差分値「40~200」、脈拍変動係数「10.0~18.0」、高ストレス状態に係るRRI差分値「-180~20」、脈拍変動係数「9.0~17.0」を対応付けている。
【0057】
また、生徒ID「KD67890」に対して、特徴値データに係るRRI差分値の平均値「2」、標準偏差「35」、脈拍変動係数の平均値「7.5」、標準偏差「1.8」、覚醒状態に係るRRI差分値「-68~72」、脈拍変動係数「3.9~11.1」、フロー状態に係るRRI差分値「37~177」、脈拍変動係数「9.3~16.5」、高ストレス状態に係るRRI差分値「-155.5~-15.5」、脈拍変動係数「8.4~15.6」を対応付けている。
【0058】
図6(a)に示すように、脈拍データ14eは、生徒ID「KD12345」、日時「2022/08/20 10:25:04」に対して、RRI値「890」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/08/20 10:25:08」に対して、RRI値「880」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/08/20 10:25:12」に対して、RRI値「900」を対応付けている。
【0059】
図6(b)に示すように、判定データ14fは、生徒ID「KD12345」、日時「2022/08/20 10:30:00」に対して、RRI差分値「100」、脈拍変動係数「6.5」、精神健康度「リラックス状態」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/08/20 10:31:00」に対して、RRI差分値「85」、脈拍変動係数「7.8」、精神健康度「リラックス状態」を対応付け、生徒ID「KD12345」、日時「2022/08/20 10:32:00」に対して、RRI差分値「68」、脈拍変動係数「9.0」、精神健康度「覚醒状態」を対応付けている。
【0060】
<緊張度と発揮可能な能力の関係>
次に、緊張度と発揮可能な能力の関係について説明する。人は、その人の緊張度に応じて発揮可能な能力が左右される。この緊張度と発揮可能な能力の関係については、ヤーキーズ・ドットソンの法則により説明することができる。図7は、ヤーキーズ・ドットソンの法則を説明するための説明図である。
【0061】
図7に示すように、人の感じる緊張度が上昇するとともに、その人の能力(例えば、記憶できる単語数)は上昇して行くものの、ある点を過ぎてしまうと、その能力は下降して行く。
【0062】
図7の範囲aの緊張度の場合は、緊張感の不足により記憶できる単語数が少ない状態である。範囲bの緊張度の場合は、程よい緊張感により単語を効率よく記憶できる状態である。範囲cの緊張度の場合は、緊張し過ぎにより記憶できる単語数が少なくなっている状態である。
【0063】
知的水準の高い業務を行う場合、精神的集中を可能とするために適切な緊張度が必要とされる。一方、複雑な業務や慣れていない業務または困難な業務の場合、緊張度と発揮可能な能力との間の関係は逆になり、緊張度が上昇するにつれて発揮可能な能力が低くなって行くと言われている。
【0064】
また、心理学の概念として「チクセントミハイのフロー理論」と呼ばれるものがある。「フロー」とは、目の前の活動に没頭し、時間も忘れるほど熱中しているような最適状態を表す。このフロー状態の対極として、高ストレス状態や意欲低下状態が存在する。人は、自分が置かれた環境に応じて、高ストレス状態や意欲低下状態とフロー状態とを推移する。
【0065】
図8は、高ストレス状態又は意欲低下状態からフロー状態に移行する場合の説明図である。図8(a)に示すように、人が高いチャレンジ(例えば、数学の問題)を要求された場合、自分の能力を超えるチャレンジであったならば、人は高ストレス状態となる(a1)。
【0066】
高ストレス状態では、効率的な能力向上が望めないため、フロー状態への移行を行う必要がある。例えば、チャレンジの程度を低めに変更することにより、能力に見合ったチャレンジとなるため、フロー状態へ移行する(a2)。また、当初は非効率な状態であっても高いチャレンジを継続することにより、徐々に能力の向上を促し、その後、フロー状態へ移行する(a3)。
【0067】
また、図8(b)に示すように、フロー状態においてチャレンジを続けた場合(b1)、能力が向上することによって意欲低下状態に移行する(b2)。この場合は、チャレンジの程度を高めに変更することにより、フロー状態へ移行する(b3)。
【0068】
<特徴値の算出>
次に、本実施形態に係る特徴値の算出について説明する。人にストレスが加わると、交感神経が活性化し、同時に副交感神経が抑制されると考えられている。脈拍数は緊張度と深い係わりがあり、安静時よりも作業中のほうが高くなり、ある作業について学習が進めば、当初よりはその作業に対する緊張度が弱まり,脈拍数は当初の場合と比較して減少する傾向となる。また、作業課題の種類によってその難易度は異なるため、脈拍数も作業課題によって異なる。さらに、異なる感情状態に移行すると、直ぐにその人の心拍のリズムが変わってしまうと言われている。
【0069】
このため、本実施形態では、RRIを基礎とした特徴値(RRI差分値及び脈拍変動係数)を算出し、この特徴値を用いて対象とする人の精神健康度を判定する。まず、RRIについて説明する。図9は、RRIを説明するための説明図である。図9に示すように、心電図(ECG:Electrocardiogram)において、R1からR4までのR波(心拍時の波)が記録されており、このR波の間隔がRRIである。
【0070】
正常な心拍は、一見規則正しく拍動しているように見えるが、詳しく観察すると1脈拍毎に変動している。例えば、図9においては、RRIが900ms、910ms、950msと変動している。
【0071】
このRRIを所定時間取得し、取得した全てのRRIの平均と各RRIの差を加算したものがRRI差分値である。RRI差分値の算出方法は次のようになる。
【0072】
個人毎に取得したRRI()の全データ(個数はn個)の平均値を次の式より算出する。
【数1】
【0073】
RRI差分値(yi)は、算出する時点(i)から、過去5分間分のRRIのデータを対象として算出する。本実施形態では、計測端末30が4秒毎にRRIを取得するため、5分間分に相当する75個のRRIのデータを用いてRRI差分値を算出する。RRI差分値(yi)は1分毎に次の式より算出する。
【数2】
【0074】
図4の具体例を用いて説明する。図4(c)に示す特徴値データ14cの日時「2022/07/01 16:15:00」におけるRRI差分値「15」の算出要領について説明する。まず、図4(b)に示す蓄積データ14bにおける生徒ID「KD12345」の全てのデータのRRI値の平均を算出する。RRI差分値「15」の算出の対象となるRRIのデータは、図4(b)に示す蓄積データ14bにおける日時「2022/07/01 16:10:04」から日時「2022/07/01 16:15:00」までの75個のRRI値である。この75個のRRI値及び上記で算出した平均値を用いて(式2)によりRRI差分値を算出する。
【0075】
また、特徴値データ14cの日時「2022/07/01 16:16:00」におけるRRI差分値「21」も同様に、蓄積データ14bにおける日時「2022/07/01 16:11:04」から日時「2022/07/01 16:16:00」までの75個のRRI値及び上記に算出した平均値を用いて(式2)により算出する。
【0076】
次に、脈拍変動係数(CVRR:Coefficient of variation of R-R interval)について説明する。脈拍変動係数は、心拍数の変動の程度を示す係数であり、次の式で表される。
【数3】
【0077】
なお、SDNN(standard deviation of NN intervals)とは、RRIの標準偏差であり、次の式で表される。
【数4】
【0078】
本実施形態における脈拍変動係数(Ci)は、75個のRRIのデータを用いて算出するので、次の式で表すことができる。
【数5】
【0079】
図4の具体例を用いて説明する。図4(c)に示す特徴値データ14cの日時「2022/07/01 16:15:00」における脈拍変動係数「7.5」の算出要領について説明する。まず、図4(b)に示す蓄積データ14bにおける生徒ID「KD12345」の全てのデータのRRI値の平均を算出する。脈拍変動係数「7.5」の算出の対象となるRRIのデータは、図4(b)に示す蓄積データ14bにおける日時「2022/07/01 16:10:04」から日時「2022/07/01 16:15:00」までの75個のRRI値である。この75個のRRI値及び上記に算出した平均値を用いて(式5)により脈拍変動係数を算出する。
【0080】
また、特徴値データ14cの日時「2022/07/01 16:16:00」における脈拍変動係数「8.1」も同様に、蓄積データ14bにおける日時「2022/07/01 16:11:04」から日時「2022/07/01 16:16:00」までの75個のRRI値及び上記に算出した平均値を用いて(式5)により算出する。
【0081】
<特徴値と精神健康度の関係>
次に、本実施形態に係る特徴値と精神健康度の関係について説明する。図10は、本実施形態に係る特徴値と精神健康度の関係を示す図である。
【0082】
本実施形態における精神健康度は、「覚醒状態」、「フロー状態」、「リラックス状態」、「意欲低下状態」、「眠気・睡眠状態」及び「高ストレス状態」に区分される。図10に示すように、精神健康度の各状態における特徴値には特性が認められる。精神健康度の状態が変化した場合に、RRI差分値の変化と脈拍変動係数の変化は、反比例するような逆の変化になっている。
【0083】
例えば、RRI差分値は、覚醒状態では641であったものが、睡眠状態では819に増加する一方、脈拍変動係数は、覚醒状態での6.8から、睡眠状態では3.3に減少している。
【0084】
また、RRI差分値は、睡眠状態では819であったものが、フロー状態では569に減少する一方、脈拍変動係数は、睡眠状態での3.3から、フロー状態では9.2に増加している。
【0085】
<精神健康度マトリックス>
次に、本実施形態に係る精神健康度マトリックスについて説明する。図11は、本実施形態に係る精神健康度マトリックスを示す図である。
【0086】
図11に示すように、精神健康度は、x軸をRRI差分値、y軸を脈拍変動係数としたグラフ上において、それぞれの状態の範囲を示す基準域がマトリックス状に表される。基準域は、その中心となる中央値と中央値からの離隔幅により規定される。
【0087】
まず、基準域の中央値について説明する。各状態の中央値は、RRI差分値及び脈拍変動係数のそれぞれの平均値及び標準偏差を用いて、次の要領で算出する。
【0088】
覚醒状態においては、次のとおりである。
RRI差分値の中央値=平均値±標準偏差×1.5以内 (式6)
脈拍変動係数の中央値=平均値±標準偏差×1.5以内 (式7)
【0089】
(式6)及び(式7)では、平均値に標準偏差を「±」する範囲で示されるが、その中心となる値としての中央値を規定するために、次の式を使用する。
RRI差分値の中央値=平均値 (式6´)
脈拍変動係数の中央値=平均値 (式7´)
例えば、図5の基準域データ14dの特徴値データを用いると、覚醒状態の中央値は、(0、8.0)となる。
【0090】
フロー状態においては、次のとおりである。
RRI差分値の中央値=平均値+標準偏差×3.0以上 (式8)
脈拍変動係数の中央値=平均値+標準偏差×3.0以上 (式9)
【0091】
(式8)及び(式9)では、平均値に標準偏差×3.0以上を加算する範囲で示されるが、その中心となる値としての中央値を規定するために、次の式を使用する。
RRI差分値の中央値=平均値+標準偏差×3.0 (式8´)
脈拍変動係数の中央値=平均値+標準偏差×3.0 (式9´)
例えば、図5の基準域データ14dの特徴値データを用いると、フロー状態の中央値は、(120、14.0)となる。
【0092】
リラックス状態においては、次のとおりである。
RRI差分値の中央値=平均値+標準偏差×2.0以上 (式10)
脈拍変動係数の中央値=平均値-標準偏差×2.0以上 (式11)
【0093】
(式10)及び(式11)では、平均値に標準偏差×2.0以上を加算/減算する範囲で示されるが、その中心となる値としての中央値を規定するために、次の式を使用する。
RRI差分値の中央値=平均値+標準偏差×2.0 (式10´)
脈拍変動係数の中央値=平均値-標準偏差×2.0 (式11´)
例えば、図5の基準域データ14dの特徴値データを用いると、リラックス状態の中央値は、(80、4.0)となる。
【0094】
意欲低下状態においては、次のとおりである。
RRI差分値の中央値=平均値-標準偏差×2.0以上 (式12)
脈拍変動係数の中央値=平均値-標準偏差×2.5以上 (式13)
【0095】
(式12)及び(式13)では、平均値から標準偏差×2.0/2.5以上を減算する範囲で示されるが、その中心となる値としての中央値を規定するために、次の式を使用する。
RRI差分値の中央値=平均値-標準偏差×2.0 (式12´)
脈拍変動係数の中央値=平均値-標準偏差×2.5 (式13´)
例えば、図5の基準域データ14dの特徴値データを用いると、意欲低下状態の中央値は、(-80、3.0)となる。
【0096】
眠気・睡眠状態においては、次のとおりである。
RRI差分値の中央値=平均値+標準偏差×4.0以上 (式14)
脈拍変動係数の中央値=平均値-標準偏差×3.0以上 (式15)
【0097】
(式14)及び(式15)では、平均値から標準偏差×4.0/3.0以上を加算/減算する範囲で示されるが、その中心となる値としての中央値を規定するために、次の式を使用する。
RRI差分値の中央値=平均値+標準偏差×4.0 (式14´)
脈拍変動係数の中央値=平均値-標準偏差×3.0 (式15´)
例えば、図5の基準域データ14dの特徴値データを用いると、眠気・睡眠状態の中央値は、(160、2.0)となる。
【0098】
高ストレス状態においては、次のとおりである。
RRI差分値の中央値=平均値-標準偏差×2.5以上 (式16)
脈拍変動係数の中央値=平均値+標準偏差×2.5以上 (式17)
【0099】
(式16)及び(式17)では、平均値から標準偏差×2.5以上を減算/加算する範囲で示されるが、その中心となる値としての中央値を規定するために、次の式を使用する。
RRI差分値の中央値=平均値-標準偏差×2.5 (式16´)
脈拍変動係数の中央値=平均値+標準偏差×2.5 (式17´)
例えば、図5の基準域データ14dの特徴値データを用いると、高ストレス状態の中央値は、(-100、13.0)となる。
【0100】
次に、基準域の中央値からの離隔幅について説明する。この離隔幅の設定には、RRI差分値及び脈拍変動係数の標準偏差を用いる。図5の基準域データ14dにおいては、RRI差分値及の標準偏差が「40」、脈拍変動係数の標準偏差が「2.0」であり、この値を1SD(standard deviation)とすると、本実施形態では、2SDを中央値からの離隔幅とする。この離隔幅の指定は、1SDや他の値にすることもできる。
【0101】
例えば、覚醒状態においては、その中央値が(0、8.0)であり、基準域の範囲は、RRI差分値「-80~80」、脈拍変動係数「4.0~12.0」となる。また、フロー状態においては、その中央値が(120、14.0)であり、基準域の範囲は、RRI差分値「40~200」、脈拍変動係数「10.0~18.0」となる。このようにして設定した各状態の基準域をグラフ上に表したものが、図11に示す精神健康度マトリックスである。
【0102】
本実施形態における情報処理システムは、学習中の生徒が装着する計測端末30から生徒の脈拍データを取得し、このデータを用いてその時点での生徒の特徴値を算出し、この特徴値を精神健康度マトリックス上にプロットすることにより、生徒の精神健康度を判定する。
【0103】
例えば、生徒の特徴値が、RRI差分値「-50」、脈拍変動係数「14.0」であれば、高ストレス状態であると判定する。また、RRI差分値「100」、脈拍変動係数「2.0」であれば、リラックス状態及び眠気・睡眠状態であると判定する。このように、精神健康度マトリックス上においては各状態が重複する範囲があるが、この範囲に生徒の特徴値がプロットされた場合には、生徒の精神健康度は双方の状態にあると判定する。
【0104】
精神健康度は、「覚醒状態」、「フロー状態」、「リラックス状態」、「意欲低下状態」、「眠気・睡眠状態」及び「高ストレス状態」に区分されるが、精神健康度マトリックスにおいて判定された各状態に対して、精神の安定又は学習の効果を高めるために、次のような対応を取ることが考えられる。
【0105】
「覚醒状態」では、能力とチャレンジのバランスが取れている状態であり、現在の状況を維持する。「フロー状態」では、成長を遂げることができる状態であり、現在の状況を維持する。「リラックス状態」では、心身の安定を得ることができる状態である。
【0106】
「意欲低下状態」では、能力とチャレンジのバランスが取れていないため、課題の難易度や必要とされる能力の水準を、生徒の状況に応じて上げる、又は、下げる工夫が求められる。「眠気、睡眠状態」では、能力とチャレンジのバランスが大きく乖離している、または、睡眠不調の改善が求められる。「高ストレス状態」では、リラックスし心身の安定をはかることが求められる。
【0107】
<精神健康度の分析の一例>
次に、本実施形態に係る精神健康度の分析の一例について説明する。図12図14は、本実施形態に係る精神健康度の分析の一例を示す図である。
【0108】
図12及び図13は、x軸の時刻に対して、y軸にRRI差分値及び脈拍変動係数をプロットしている。それぞれの図において、枠線で示す範囲の内側に各値がプロットされていれば、対象とする生徒は積極的に学習していると判定する。
【0109】
図12においては、概ね枠線の範囲内に各値がプロットされているため、積極的に学習していると判定することができる。一方、図13においては、各値が枠線の範囲の下側にプロットされる時間が多くなっているため、学習に対する意欲が低下していると判定することができる。
【0110】
図14は、x軸をRRI差分値、y軸を脈拍変動係数として、各値を時系列にプロットし、そのプロット位置の変化の方向性を抽出している。この方向性が左上に向かえば、対象とする生徒の学習意欲が低下していると判定することができ、右上に向かえば、学習意欲が向上していると判定することができる。
【0111】
例えば、図14(a)では、プロット位置が左上に向かっているため、学習意欲が低下していると判定され、図14(b)では、プロット位置が右上に向かっているため、学習意欲が向上していると判定することができる。
【0112】
このように、RRI差分値及び脈拍変動係数の各値をグラフ上にプロットして、そのグラフの特徴を抽出する、又は、精神健康度マトリックスのどの状態の基準域の位置にあるかを確認することにより、生徒一人一人の学びに向かう精神状態を判定することができる。生徒を指導する教師は、自らの経験と直感に加え、この客観的な判定結果を用いて、生徒の成長やつまずき、悩みなどの理解に努め、個々の興味・関心・意欲等を踏まえたきめ細かい指導や学習支援を行うことができる。
【0113】
また、生徒においては、判定結果を認識することにより、自らの学習状況を把握し、主体的に学習に臨むことができる。例えば、学習のどの時点で学習意欲の変化があったかを認識することができ、この状況の変化を教師と共有することにより、教師による学習指導の改善に寄与することができる。なお、この生徒と教師との学習状況の共有については、オンライン教育において効果を発揮すると期待できる。
【0114】
また、生徒の学習スケジュールを事前に登録しておくことにより、生徒の精神健康度の変化と学習スケジュールとの関係を分析することができる。この分析結果を用いることにより、生徒の能力とチャレンジのバランスを適正化することもできる。
【0115】
<基準域出力処理の処理手順>
次に、本実施形態に係る情報処理装置10における基準域出力処理の処理手順について説明する。図15は、本実施形態に係る情報処理装置10における基準域出力処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0116】
情報処理装置10は、計測端末30から脈拍データを取得したならば、この脈拍データを蓄積データ14bに記憶する(ステップS101)。脈拍データの取得が終了していないならば(ステップS102;No)、ステップS101に移行する。
【0117】
脈拍データの取得が終了したならば(ステップS102;Yes)、蓄積データ14bから特徴値であるRRI差分値及び脈拍変動係数を算出し、特徴値データ14cに記憶する(ステップS103)。
【0118】
特徴値データ14cを用いて、特徴値それぞれの平均値及び標準偏差を算出する(ステップS104)。算出した平均値及び標準偏差を用いて、各状態の基準域の中央値を算出する(ステップS105)。
【0119】
算出した中央値から2SDの範囲を基準域として、基準域データ14dに記憶し(ステップS106)、処理を終了する。
【0120】
<精神健康度判定処理の処理手順>
次に、本実施形態に係る情報処理装置10における精神健康度判定処理の処理手順について説明する。図16は、本実施形態に係る情報処理装置10における精神健康度判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0121】
情報処理装置10は、変数nを0とし(ステップS201)。計測端末30から脈拍データを受信したならば(ステップS202;Yes)、変数nに1を加算するとともに、受信した脈拍データを脈拍データ14eに記憶する(ステップS203)。変数nが75未満であれば(ステップS204;No)、ステップS202に移行する。
【0122】
変数nが75以上であれば(ステップS204;Yes)、変数nから15を減算し(ステップS205)、脈拍データ14eを用いて特徴値を算出する(ステップS206)。
【0123】
算出した特徴値及び基準域データ14dを用いて精神健康度を判定し(ステップS207)、判定結果を管理端末20に通知する(ステップS208)。精神健康度の判定を継続するならば(ステップS209;Yes)、ステップS202に移行する。精神健康度の判定を終了するならば(ステップS209;No)、処理を終了する。
【0124】
上述してきたように、本実施形態に係る情報処理システムでは、事前に取得した脈拍データを用いて基準域を算出し、学習中の対象者から取得した脈拍データと基準域を用いて対象者の精神健康度を判定して提供するよう構成したので、収集した対象者の脈拍データを用いて、対象者の精神健康度をリアルタイムに判定して提供することができる。
【0125】
なお、上記の実施形態では、学習を行う生徒の精神健康度を判定する構成について説明したが、本発明はこれに限定されるものではく、働く人の健康管理、ゲームコンテンツ、教育コンテンツの検証、認知症予防などの判定に適用するよう構成することもできる。
【0126】
また、上記の実施形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係る情報処理システム、情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラムは、対象者の精神健康度をリアルタイムに判定する場合に適している。
【符号の説明】
【0128】
10 情報処理装置
11 表示部
12 入力部
13 通信部
14 記憶部
14a 生徒データ
14b 蓄積データ
14c 特徴値データ
14d 基準域データ
14e 脈拍データ
14f 判定データ
15 制御部
15a 生徒データ管理部
15b モード管理部
15c 蓄積データ管理部
15d 特徴値算出部
15e 基準域算出部
15f 脈拍データ管理部
15g 判定部
15h 分析部
15i 通知部
20 管理端末
30 計測端末
40 無線ルータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16