(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022154
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】スカイビングカッタを用いた外歯車加工方法
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20240208BHJP
B23F 15/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B23F5/16
B23F15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125520
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 格
(72)【発明者】
【氏名】三浦 翔太
【テーマコード(参考)】
3C025
【Fターム(参考)】
3C025AA11
3C025BB00
(57)【要約】
【課題】被削材に切上がり部のある軸付の外歯車の加工において、切上がり部の切削負荷を低減するスカイビングカッタを用いた外歯車の加工方法を提供することを課題とする。
【解決手段】スカイビングカッタを被削材の径方向に移動させることで被削材に切削加工を行う第1工程、第1工程後にスカイビングカッタを被削材の軸方向および径方向へ移動させることで被削材から離間する第2工程、第2工程後にスカイビングカッタを被削材の軸方向に再度移動させる第3工程、から構成される切削工程を複数回繰り返すことで被削材の外周面に歯車を加工する方法において、切削工程が進むにしたがい第1工程におけるスカイビングカッタの径方向の移動量を減少させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカイビングカッタを被削材の径方向に移動させることで前記被削材に切削加工を行う第1工程と、前記第1工程後に前記スカイビングカッタを前記被削材の軸方向および径方向へ移動させることで前記被削材から離間する第2工程と、前記第2工程後に前記スカイビングカッタを前記被削材の軸方向に再度移動させる第3工程と、から構成される切削工程を複数回繰り返すことにより前記被削材に外歯車を加工する方法であって、前記切削工程が進むにしたがい前記第1工程における前記スカイビングカッタの径方向の移動量を減少させることを特徴とするスカイビングカッタを用いた外歯車加工方法。
【請求項2】
前記被削材は軸付の外歯車であることを特徴とする請求項1に記載のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカイビングカッタを用いて素材の外周面に歯車加工を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、自動車や産業機器に使用されている外歯車は、主にホブやスカイビングカッタによって加工されている。特に、スカイビング加工では、スカイビングカッタを複雑な動きによって制御することで多様な形態の歯車を加工できる点に特徴がある。
【0003】
たとえば、特許文献1および2では、スカイビングカッタを用いて様々な加工パスによる歯車の歯筋を加工する事例や1条の溝の歯形を種々の切込みパターンでスカイビング加工を行う事例が開示されている。また、特許文献3では、スカイビングカッタを用いた内歯車の加工事例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-526399号公報
【特許文献2】特表2020-526400号公報
【特許文献3】特許第6212876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1ないし3に開示されたスカイビングカッタを用いた加工方法では、歯車の形状が単純な形状の歯車のみであり、シャフト形状の歯車を加工する場合にはスカイビングカッタの動きが制限される。また、シャフト形状の歯車を加工する際には切上がりによる加工が伴う場合が多く、その部位を加工するときにスカイビングカッタへの負荷が過大になるので、工具寿命の低下を招く恐れがあった。
【0006】
例えば、スカイビングカッタを用いた従来の歯車加工方法について図面を用いて説明する。従来のスカイビングカッタを用いた歯車加工における被削材(ワーク)に対する切込み状態の模式図を
図9に示す。図示しないスカイビングカッタは、1パス目にカッタ移動開始の位置から被削材へ接近し、所定の形状に切削加工する。この時の被削材への切込み量(被削材の厚み方向における切削量)を「Δy1」、スカイビングカッタの移動開始から移動終了までの移動距離(ストローク)を「z」とする。
【0007】
以降、スカイビングカッタによる切削加工は、2パス目で「Δy2」の切込み量、3パス目で「Δy3」の切込み量という工程で行われる。しかし、この従来の加工方法では2パス目、3パス目というように加工パスが進んでも、スカイビングカッタのストローク「z」は一定のため、スカイビングカッタによる被削材の除去面積(除去量)、すなわち切込み量が増大するので、スカイビングカッタに及ぼす切削負荷が増大するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は被削材に切上がり部のある外歯車(特に軸付の外歯車)の加工において、切上がり部の切削負荷を低減するスカイビングカッタを用いた外歯車の加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法は、スカイビングカッタを被削材における径方向へ移動させることで被削材に切削加工を行う第1工程、スカイビングカッタを被削材の軸方向および径方向へ移動させることで被削材から離間する第2工程、第2工程後にスカイビングカッタを被削材の軸方向に移動させる第3工程を1セットの切削工程として、当該切削工程を複数回繰り返すこと被削材の外周面に歯車を加工する方法とする。この切削工程が進むに従って第1工程におけるスカイビングカッタの移動量を減少させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスカイビングカッタを用いた歯車加工方法は、被削材の切上がり部分の除去量を減少させて、スカイビングカッタの負荷を低減させることができる。同時にスカイビングカッタの寿命が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の歯車加工方法の第1工程(第1パス)前の状態を示す模式図である。
【
図2】本発明の歯車加工方法の第1工程(第1パス)中の状態を示す模式図である。
【
図3】本発明の歯車加工方法の第2~第3工程(第1パス)中の状態を示す模式図である。
【
図4】本発明の歯車加工方法の第1工程(第2パス)中の状態を示す模式図である。
【
図5】本発明の歯車加工方法の第2~第3工程(第2パス)中の状態を示す模式図である。
【
図6】本発明の歯車加工方法の第1工程(第3パス)中の状態を示す模式図である。
【
図7】本発明の歯車加工方法により加工された被削材Wの模式図である。
【
図8】本発明の歯車加工方法による被削材に対する切込み状態の模式図である。
【
図9】従来の歯車加工方法による被削材に対する切込み状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のスカイビングカッタを用いた外歯車の加工方法(以下、本加工方法という)の一実施形態について図面を用いて説明する。本加工方法において、スカイビングカッタによる外歯車の加工を開始してから加工が完了して、スカイビングカッタが加工開始の位置まで戻る一連のサイクルを「1パス」とした場合、第1パスにおける第1~第3工程の状態を示す模式図を
図1ないし
図3、第2パスの第1~第3工程の状態を示す模式図を
図4および
図5、第3パスの第1工程の状態を示す模式図を
図6、第1~第3パスの加工終了後の被削材(外歯車)Wの状態を示す模式図を
図7にそれぞれ示す。
【0013】
本加工方法の加工対象である被削材Wを図示しない加工装置に固定した後、
図1に示す様に同加工装置内の基準位置L0にあるスカイビングカッタ1を所定の回転数で矢印R方向へ回転させた状態で矢印A方向へ移動して、被削材Wを切削加工する。
【0014】
被削材Wにはスカイビングカッタ1による切削加工が進むに従い、スカイビングカッタ1の加工痕が残り、最終的には
図2に示す様にスカイビングカッタ1を水平方向における移動開始位置L0(基準位置)から移動停止位置L1まで移動して(移動距離Z1)、第1パスの切削加工が完了する。このとき、第1パスにおけるスカイビングカッタ1の移動距離Z1は、移動開始位置L0と移動停止位置L1の距離として算出される。
【0015】
第1パスの切削加工が完了すると、
図2に示す様にスカイビングカッタ1は矢印B方向および矢印C方向へ移動することで被削材Wから離間すると、被削材Wの表面には加工跡K1が確認できる。
【0016】
次に、第2パスの切削加工として、移動開始位置L0からスカイビングカッタ1を回転させながら、
図3に示す様に矢印D方向へ移動した後、被削材Wの方向へ向けて矢印Eの方向へ再度接近させる。
図4に示す様にスカイビングカッタ1が移動停止位置L2まで移動して、第2パスの切削加工が完了すると、
図4に示す様に矢印Fおよび矢印Gの方向へスカイビングカッタ1を後退させる。
【0017】
この第2パスにおいて、スカイビングカッタ1の移動距離Z2は、移動開始位置L0と移動停止位置L2の距離として算出される。この時、第2パスにおけるスカイビングカッタ1の移動距離Z2は、第1パスにおける移動距離Z1よりも短くなる(Z1>Z2)。また、スカイビングカッタ1が被削材Wから移動開始位置L0まで離間すると、
図5に示す様に被削材Wには第1パスによる加工跡K1と共に第2パスによる加工跡K2が確認できる。
【0018】
最後の第3パスの切削加工では、第2パスの切削加工が完了し、移動開始位置L0まで戻ったスカイビングカッタ1が
図5に示す様にスカイビングカッタ1の軸方向と平行になる矢印H方向へ移動した後、被削材Wの方向へ向けて矢印Iの方向へ再度接近させる。
【0019】
移動開始位置L0からスカイビングカッタ1を回転させながら、
図5に示す様に矢印H方向へ移動した後、被削材Wの方向へ向けて矢印Iの方向へ再度接近させる。
図6に示す様にスカイビングカッタ1が移動停止位置L3まで移動して、第3パスの切削加工が完了すると、
図6に示す様に矢印Jおよび矢印Mの方向へスカイビングカッタ1を後退させる。
【0020】
また、スカイビングカッタ1が被削材Wから移動開始位置L0まで離間すると、
図7に示す様に被削材Wには第1パスによる加工跡K1、第2パスによる加工跡K2および第3パスによる加工跡K3が確認できる。
【0021】
次に、前述した本加工方法による被削材に対する切込み状態について図面を用いて説明する。本発明の歯車加工方法による被削材に対する切込み状態の模式図を
図8に示す。本発明の歯車加工方法では、スカイビングカッタは、1パス目にカッタ移動開始の位置から被削材へ接近し、所定の形状に切削加工する。この時の被削材への切込み量(被削材の厚み方向における切削量)を「Δy1」、スカイビングカッタの回転中心から被削材の切削加工位置までの距離を「Δx1」、スカイビングカッタ移動開始の位置からスカイビングカッタの移動終了までの距離を「z1」とする。
【0022】
次の2パス目の加工では、スカイビングカッタによる被削材への切込み量を「Δy2」、スカイビングカッタの回転中心から被削材の切削加工位置までの距離を「Δx2」、スカイビングカッタ移動開始の位置からスカイビングカッタの移動終了までの距離を「z2」とした場合、スカイビングカッタの移動量についてはz1>z2、Δx2=z1-z2の関係が成立する。
【0023】
引き続き行われる3パス目の加工においても、スカイビングカッタによる被削材への切込み量を「Δy3」、スカイビングカッタの回転中心から被削材の切削加工位置までの距離を「Δx3」、スカイビングカッタ移動開始の位置からスカイビングカッタの移動終了までの距離を「z3」とした場合、スカイビングカッタの移動量についてはz2>z3、Δx3=z2-z3の関係が成立する。つまり、切削加工におけるパスごとにスカイビングカッタのストローク量(移動量)を変えることにより、被削材における切りあがり加工時の負荷を低減できるので、スカイビングカッタの寿命向上が期待できる。
【符号の説明】
【0024】
1 スカイビングカッタ
A~J,M スカイビングカッタの移動方向
K(K1,K2,K3) 加工跡
L0 スカイビングカッタの移動開始位置
L1,L2,L3 スカイビングカッタの移動停止位置
R スカイビングカッタの回転方向
W 被削材
Δx1,Δx2,Δx3 回転中心から切削加工位置までの距離
Δy1,Δy2,Δy3 切込み量
Z1,Z2,Z3 スカイビングカッタの移動距離