(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022159
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】分析装置、分析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125528
(22)【出願日】2022-08-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 馨
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA11
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF03
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF42
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH04
3C223HH08
3C223HH29
(57)【要約】
【課題】精度の良い操作手順を得ることができる技術を提供する。
【解決手段】本開示の一態様による分析装置は、対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定するように構成されている選定部と、前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するように構成されているモデル構築部と、前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている抽出部と、を有する。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定するように構成されている選定部と、
前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するように構成されているモデル構築部と、
前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている抽出部と、
を有する分析装置。
【請求項2】
前記分析装置が備える表示装置上、又は、前記分析装置と通信ネットワークを介して接続される端末装置が備える表示装置上に、前記復旧又は回避操作手順を可視化するように構成されている可視化部、を有する請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記選定部は、
前記センサデータに含まれるサンプルデータの時系列データの中から、前記異常又は異常兆候が発生している期間を特定し、特定した期間が長い順に、前記期間と、該期間の前後の所定の長さの期間とを結合した期間に含まれる所定の間隔のサンプルデータの集合を前記モデル構築用データとして選定するように構成されている、請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記モデル構築用データ毎に、前記モデル構築用データとして選定されたサンプルデータに含まれる前記複数の変数の中から、グレンジャー因果性指標に基づいて、1以上の変数を選択するように構成されている変数選択部を有し、
前記モデル構築部は、
前記モデル構築用データ毎に選択された前記1以上の変数に共通する変数を前記候補変数として選択し、前記モデル構築用データを用いて、前記対象異常変数と前記候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するように構成されている、請求項1乃至3の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記モデル構築部は、
前記共通変数毎に、複数の前記モデル構築用データに含まれる前記共通変数の計測値の時系列データをそれぞれ結合し、前記結合した時系列データのコピーを、該時系列データの末尾に更に追加した時系列データを用いて、前記因果モデルを構築するように構成されている、請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記抽出部は、
前記因果モデルを表現する重み付き有向グラフの有向エッジのうち、重みが所定の閾値未満の有向エッジを削除することで、前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている、請求項1に記載の分析装置。
【請求項7】
前記抽出部は、
前記重み付き有向グラフにおいて、前記対象異常変数を表すノードから他のノードまでの経路が複数存在する場合、最短の経路以外の経路を削除することで、前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている、請求項6に記載の分析装置。
【請求項8】
対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定する選定手順と、
前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するモデル構築手順と、
前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出する抽出手順と、
をコンピュータが実行する分析方法。
【請求項9】
対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定する選定手順と、
前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するモデル構築手順と、
前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出する抽出手順と、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分析装置、分析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラントの安定・安全操業を支えてきた熟練オペレータが減少し、非定常操作や緊急操作の経験が十分に伝承されていないという問題がある。このため、プラントの運転品質の向上(例えば、異常を回避してプラントを止めない、製品品質の向上、オペレータの負荷軽減等)を目的として、異常又はその予兆が検知されたときに適切な復旧操作手順又は回避操作手順をオペレータに提示する技術が望まれている。これに対して、異常イベントの前兆となるアラーム等が発生した場合に、その異常イベントの回避操作手順をプラントの運転員等に提示する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、精度の良い操作手順(つまり、異常から復旧できる操作手順、異常を回避できる操作手順)を得ることは困難であった。例えば、特許文献1に記載されている技術は、過去の操作のログデータを利用するため、ログデータに残らない復旧操作手順又は回避操作手順は得ることができない。
【0005】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたもので、精度の良い操作手順を得ることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による分析装置は、対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定するように構成されている選定部と、前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するように構成されているモデル構築部と、前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている抽出部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
精度の良い操作手順を得ることができる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る分析システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図2】センサデータDBに格納されているセンサデータの一例を示す図である。
【
図3】或る項目に関するサンプルの時系列データの一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る分析装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る分析装置の機能構成の一例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る分析装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】本実施形態に係るモデル構築用データ選定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る変数選択処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本実施形態に係る因果モデル構築処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】サンプル結合の一例を説明するための図である。
【
図11】サンプルの末尾へのコピーの一例を説明するための図である。
【
図12】因果モデルの一例を説明するための図である。
【
図13】本実施形態に係る操作手順抽出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】最短経路以外の経路を削除する場合の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について説明する。以下の実施形態では、異常又はその兆候に対して、センサデータから精度の良い復旧操作手順又は回避操作手順を得ることができる分析システム1について説明する。以下では、簡単のため、何等かの異常に対して、その異常から復旧するための操作手順(復旧操作手順)を得る場合について説明する。なお、「異常」を「異常の兆候」、「復旧操作手順」を「回避操作手順」と読み替えれば、以下の実施形態は、何等かの異常の兆候に対して、その異常の発生を回避するための操作手順(回避操作手順)を得る場合についても同様に適用することが可能である。
【0010】
<分析システム1の全体構成例>
本実施形態に係る分析システム1の全体構成例を
図1に示す。
図1に示すように、本実施形態に係る分析システム1には、分析装置10と、施設20と、入出力装置30と、センサデータDB40とが含まれる。
【0011】
分析装置10は、センサデータDB40に格納されているセンサデータを用いて、施設20内の設備21で発生した異常に対する復旧操作手順を作成及び可視化する汎用サーバやPC(パーソナルコンピュータ)等といった各種情報処理装置である。
【0012】
施設20は、例えば、工場等といった各種施設である。施設20には、設備21と、センサ22と、計測制御装置23とが含まれる。設備21は、例えば、プラント、生産設備、産業用機器(例えば、ボイラー、熱交換器等)、各種装置等である。ただし、これらは一例であって、設備21はこれらに限定されるものではなく、何等かの設備、機器、装置等といった分析対象であればよい。センサ22は、設備21の各種状態を表す情報(例えば、圧力、温度、流量、電流、電圧等)を計測する計測機器である。計測制御装置23は、センサ22を制御すると共に、センサ22で計測された計測値を取得(収集)し、これらの計測値をセンサデータDB40に格納する。
【0013】
入出力装置30は、分析装置10の入出力インタフェースとして機能する各種装置である。入出力装置30としては、例えば、キーボード、マウス、ディスプレイ、タッチパネル等が挙げられる。
【0014】
センサデータDB40は、センサデータが格納される。センサデータの具体例については後述する。
【0015】
なお、
図1に示す分析システム1の全体構成は一例であって、これに限られるものではない。例えば、分析装置10、入出力装置30及びセンサデータDB40のうちの少なくとも1つが一体で構成されていてもよい。また、例えば、施設20には設備21を駆動させるアクチュエータが含まれており、計測制御装置23は、このアクチュエータの動作を計測(例えば、攪拌動作等といった何等かの動作の有無、その速度等を計測)した計測値を取得(収集)し、それらの計測値もセンサデータDB40に格納してもよい。
【0016】
<センサデータ>
センサデータDB40に格納されているセンサデータの一例を
図2に示す。
図2に示すように、センサデータには、複数の項目と、それら複数の項目の各々の項目番号と、それら複数の項目の各々の計測値と、それらの計測値の受信日時を示すタイムスタンプとが含まれる。
【0017】
例えば、
図2に示すセンサデータには、項目番号「001」の項目「項目1」~項目番号「N」の項目「項目N」までの項目が含まれている。また、
図2に示すセンサデータには、タイムスタンプ毎に、各項目の計測値が含まれている。なお、
図2に示す例ではタイムスタンプは1秒毎であるが、これは一例であって、これに限られるものではない。
【0018】
ここで、項目とは、設備21の状態等の名称のことである。各項目はそれぞれ1つの変数を表している。項目としては、例えば、圧力、温度、流量、電流、電圧等が挙げられる。したがって、或る項目の計測値(言い刈れば、或る変数の値)とは、この項目に関する情報をセンサ22等で計測した値のことである。
【0019】
以下、各タイムスタンプとそれに対応付けられている計測値の組を「サンプルデータ」と呼ぶことにする。
図2に示すセンサデータでは、サンプルデータは、(タイムスタンプ,項目1の計測値,項目2の計測値,・・・,項目Nの計測値)という形式で表すことができる。また、各項目の計測値の各々のことを「サンプル」とも呼ぶことにする。なお、この表記により、センサデータは、各項目に関して、サンプルの時系列データとみなすこともできる。例えば、項目Aに関するサンプル(計測値)をタイムスタンプ順に並べた場合、
図3に示すように、項目Aに関するサンプルは、時系列データとして表すことができる。
【0020】
以下では、タイムスタンプが表す日時を時刻インデックスtで表現するものとして、時刻インデックスtにおける項目nの計測値(言い換えれば、n番目の変数xnの値)をxn(t)で表すものとする。
【0021】
<分析装置10のハードウェア構成例>
本実施形態に係る分析装置10のハードウェア構成例を
図4に示す。
図4に示すように、本実施形態に係る分析装置10は、外部I/F101と、通信I/F102と、RAM(Random Access Memory)103と、ROM(Read Only Memory)104と、補助記憶装置105と、プロセッサ106とを有する。これら各ハードウェアは、それぞれがバス107を介して通信可能に接続される。
【0022】
外部I/F101は、記録媒体101a等の外部装置とのインタフェースである。記録媒体101aとしては、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、SDメモリカード(Secure Digital memory card)、USB(Universal Serial Bus)メモリカード等が挙げられる。
【0023】
通信I/F102は、分析装置10を通信ネットワークに接続するためのインタフェースである。RAM103は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。ROM104は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。補助記憶装置105は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性の記憶装置であり、プログラムやデータが格納される。プロセッサ106は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の各種演算装置である。
【0024】
なお、
図4に示すハードウェア構成は一例であって、分析装置10は、他のハードウェア構成を有していてもよい。例えば、分析装置10は、複数の補助記憶装置105や複数のプロセッサ106を有していてもよいし、図示したハードウェア以外の種々のハードウェア(例えば、キーボードやマウス等の入力装置、ディスプレイや表示パネル等の出力装置等)を有していてもよい。
【0025】
<分析装置10の機能構成例>
本実施形態に係る分析装置10の機能構成例を
図5に示す。
図5に示すように、本実施形態に係る分析装置10は、対象異常変数指定部201と、モデル構築用データ選定部202と、データ分析部203と、可視化部204とを有する。これら各部は、例えば、分析装置10にインストールされた1以上のプログラムが、プロセッサ106に実行させる処理により実現される。
【0026】
対象異常変数指定部201は、センサデータDB40に格納されているセンサデータの各項目の各々を表す変数のうち、復旧操作手順を得たい異常に関連する変数(以下、対象異常変数ともいう。)の指定を受け付ける。対象異常変数は、例えば、入出力装置30に含まれるキーボードやマウス、タッチパネル等を用いて、ユーザによって指定される。例えば、入出力装置30に含まれるディスプレイ上に表示された変数の一覧(センサデータの各項目の各々を表す変数の一覧)の中からユーザによって対象異常変数が指定される。なお、複数の対象異常変数が指定されてもよいが、以下では、簡単のため、1つの対象異常変数が指定されるものとする。
【0027】
モデル構築用データ選定部202は、センサデータDB40に格納されているセンサデータと対象異常変数とを用いて、異常ケースと呼ぶ或るサンプルデータの集合をモデル構築用データとして選定する。
【0028】
データ分析部203は、モデル構築用データを用いて、対象異常変数に関連する異常が発生したときの復旧操作手順を抽出する。ここで、データ分析部203には、変数選択部211と、因果モデル構築部212と、順序抽出部213とが含まれる。
【0029】
変数選択部211は、モデル構築用データを用いて、対象異常変数と或る所定の因果関係を持つ変数を選択する。以下、変数選択部211によって選択された変数を「選択変数」と呼ぶことにする。
【0030】
因果モデル構築部212は、対象異常変数と選択変数から更に選択された変数(後述する共通変数)との因果関係を表す因果モデルを構築する。
【0031】
順序抽出部213は、因果モデルを用いて、対象異常変数に関連する異常が発生したときの復旧操作手順を抽出する。
【0032】
可視化部204は、入出力装置30に含まれるディスプレイ上に復旧操作手順を可視化(表示)する。
【0033】
<分析装置10の動作例>
以下、本実施形態に係る分析装置10の動作例について、
図6を参照しながら説明する。
【0034】
まず、対象異常変数指定部201は、対象異常変数の指定を受け付ける(ステップS101)。
【0035】
次に、モデル構築用データ選定部202は、センサデータDB40に格納されているセンサデータと、上記のステップS101で指定された対象異常変数とを用いて、モデル構築用データを選定する(ステップS102)。なお、本ステップの処理の詳細については後述する。
【0036】
次に、データ分析部203の変数選択部211は、上記のステップS102で選定されたモデル構築用データを用いて、対象異常変数とグレンジャー因果関係を持つ変数を選択変数として選択する(ステップS103)。なお、本ステップの処理の詳細については後述する。
【0037】
ここで、変数x1と変数x2を時系列データとする。このとき、変数x1が変数x2とグレンジャー因果関係(又は、グレンジャー因果性)がある場合、変数x1の時系列パターンに近いパターンが少し遅れて変数x2の時系列パターンに現れる。このため、変数x1の過去のデータで変数x2の将来のデータを予測できる。そこで、上記のステップS102では、対象異常変数とグレンジャー因果関係を持つ変数を選択変数として選択する。これにより、対象異常変数の値が異常の発生によって変化した場合に、異常からの復旧のために操作され、その値が変化した変数を選択変数として選択することが可能となる。
【0038】
次に、データ分析部203の因果モデル構築部212は、上記のステップS101で指定された対象異常変数と、上記のステップS103で選択された選択変数とを用いて、対象異常変数を目的変数、選択変数から更に選択された変数(後述する共通変数)を説明変数とする因果モデルを構築する(ステップS104)。なお、本ステップの処理の詳細については後述する。
【0039】
次に、データ分析部203の順序抽出部213は、上記のステップS104で構築された因果モデルを用いて、対象異常変数に関連する異常が発生したときに操作すべき変数候補とその操作順序(つまり、復旧操作手順)を抽出する(ステップS105)。なお、本ステップの処理の詳細については後述する。
【0040】
そして、可視化部204は、上記のステップS105で抽出された復旧操作手順等を可視化する(ステップS106)。これにより、施設20のオペレータ等といったユーザは、設備21に異常が発生したときの復旧操作手順を知ることができる。
【0041】
<モデル構築用データ選定処理>
以下では、
図6のステップS102の処理(モデル構築用データ選定処理)の詳細について、
図7を参照しながら説明する。
【0042】
モデル構築用データ選定部202は、センサデータDB40に格納されているセンサデータに含まれる対象異常変数の計測値から異常期間を特定し、その期間が長い順に開始日時と終了日時を保持する(ステップS201)。すなわち、モデル構築用データ選定部202は、以下の手順1-1~手順1-3により、異常期間を特定し、その期間が長い順に開始日時と終了日時を保持する。
【0043】
手順1-1:まず、モデル構築用データ選定部202は、センサデータに含まれる対象異常変数の計測値とその対象異常変数の管理限界とを用いて、1以上の異常期間を特定する。
【0044】
例えば、時刻インデックスtにおける対象異常変数の計測値をx(t)とすれば、センサデータに含まれる対象異常変数の計測値の時系列データは{x(t)|t∈T}と表すことができる。ただし、Tは、対象異常変数の計測値に対応するタイムスタンプが表す日時の時刻インデックスの集合である。
【0045】
このとき、上方管理限界をth1とすれば、例えば、以下の(a-1)~(a-3)を満たす期間[ts,te]を異常期間とする。
【0046】
(a-1)x(ts-1)≦th1、かつ、x(ts)>th1、
(a-2)x(te)>th1、かつ、x(te+1)≦th1、
(a-3)t∈[ts,te]に対して、x(t)>th1
同様に、下方管理限界をth2とすれば、例えば、以下の(b-1)~(b-3)を満たす期間[ts,te]を異常期間とする。
【0047】
(b-1)x(ts-1)≧th2、かつ、x(ts)<th2、
(b-2)x(te)<th2、かつ、x(te+1)≧th2、
(b-3)t∈[ts,te]に対して、x(t)<th2
これにより、各異常期間[ts,te]が特定され、それらの集合{[ts
(i),te
(i)]|i∈I}が得られる。ただし、Iは異常期間を表すインデックスの集合である。
【0048】
なお、上記では上方管理限界と下方管理限界の両方を考えたが、対象異常変数によっては上方管理限界又は下方管理限界のいずれか一方のみが設定されることもあり得る。この場合、上方管理限界又は下方管理限界のいずれか一方のみを考えればよい。
【0049】
手順1-2:次に、モデル構築用データ選定部202は、期間te-tsが大きい順に[ts,te]の開始日時tsと終了日時teをソートする。以下、期間te-tsが大きい順にソートされた異常期間の開始日時をts
(1),・・・,ts
(|I|)、終了日時をte
(1),・・・,te
(|I|)とする。
【0050】
手順1-3:そして、モデル構築用データ選定部202は、開始日時ts
(1),・・・,ts
(|I|)と終了日時te
(1),・・・,te
(|I|)とをメモリ(例えば、RAM103や補助記憶装置105等の記憶領域)に保持する。これにより、期間が長い順に異常期間の開始日時と終了日時が保持される。なお、異常期間は、その期間が長い順に1番目、2番目、・・・、|I|番目と順序付けられているものとする。
【0051】
次に、モデル構築用データ選定部202は、異常期間及び異常ケースのインデックスkを1に初期化する(ステップS202)。
【0052】
次に、モデル構築用データ選定部202は、kが予め設定された異常期間数を超えているか、又は、kが異常期間の総数(つまり、|I|)を超えているかを判定する(ステップS203)。
【0053】
上記のステップS203でkが予め設定された異常期間数を超えておらず、かつ、kが異常期間の総数を超えていない場合、モデル構築用データ選定部202は、k番目の異常期間から異常ケースkを作成する(ステップS204)。すなわち、モデル構築用データ選定部202は、以下の手順2-1~手順2-3により、k番目の異常期間から異常ケースkを作成する。
【0054】
手順2-1:まず、モデル構築用データ選定部202は、k番目の異常期間の直前の或る長さの第1の期間と、k番目の異常期間と、k番目の異常期間の直後の或る長さの第2の期間とを結合した期間(以下、結合期間という。)を作成する。第1の期間及び第2の期間の長さとしては、例えば、予め決められたα(ただし、0<α<1)を用いて、α×(te
(k)-ts
(k))等とすればよい。
【0055】
これにより、k番目の異常期間の直前の或る長さの第1の期間を[t's
(k),ts
(k)]、k番目の異常期間の直後の或る長さの第2の期間を[te
(k),t'e
(k)]とすれば、k番目の結合期間S(k)=[t's
(k),ts
(k)]∪[ts
(k),te
(k)]∪[te
(k),t'e
(k)]が得られる。
【0056】
手順2-2:次に、モデル構築用データ選定部202は、センサデータに含まれるサンプルデータの中からk番目の結合期間S(k)のサンプルデータを或る間隔で抽出する。サンプルデータの抽出間隔としては、例えば、(k番目の結合期間S(k)のサンプルデータの総数)/(予め設定されたサンプル数)とすればよい。
【0057】
手順2-3:そして、モデル構築用データ選定部202は、上記の手順2-2で抽出したサンプルデータの集合を異常ケースkとする。
【0058】
次に、モデル構築用データ選定部202は、kに1を加算し(ステップS205)、上記のステップS203に戻る。これにより、kが予め設定された異常期間数を超えるか、又は、kが異常期間の総数を超えるまで、上記のステップS204~ステップS205が繰り返し実行される。
【0059】
一方で、上記のステップS203でkが予め設定された異常期間数を超えている場合又はkが異常期間の総数を超えている場合、モデル構築用データ選定部202は、モデル構築用データ選定処理を終了する。これにより、これまでに作成された異常ケース1,・・・,異常ケースk-1がモデル構築用データとなる。なお、各kに対してS(k)≧S(k+1)であるため、各異常ケースは、異常ケース1,・・・,異常ケースk-1の順に期間が長いことに留意されたい。
【0060】
なお、上記のステップS204で第1の期間及び第2の期間(つまり、異常期間の前後の正常期間)を結合させた理由は、正常時と異常時でそれぞれ異なる変動が観測される変数が、異常回復(復旧)のための変数候補である可能性が高いためである。また、第2の期間を用いるもう1つの理由は、異常期間の終了後でも、異常回復のための操作が行われている等の理由により、対象異常変数以外の変数の変動は終了していない可能性があるためである。このため、第1の期間及び第2の期間を異常期間に結合させることで、後述する因果モデルの構築するための学習データとして網羅性を持つ異常ケースを得ることが可能となり、信頼性の高い因果モデルの構築が期待できる。
【0061】
<変数選択処理>
以下では、
図6のステップS103の処理(変数選択処理)の詳細について、
図8を参照しながら説明する。以下のステップS301~ステップS303の処理は、異常ケース毎に繰り返し実行される。以下では、或る異常ケースkに関するステップS301~ステップS303の処理について説明する。
【0062】
まず、変数選択部211は、変数毎に異常ケースkに含まれるサンプルを標準化し、標準偏差が低い変数を削除する(ステップS301)。例えば、変数選択部211は、標準偏差が0である変数(又は、標準偏差がε(εは予め決められた正数)以内である変数)を削除すればよい。以下、{x1,・・・,xN}のうち、削除されなかった変数の集合を{xm|m∈M}とする。Mは、{x1,・・・,xN}のうち、削除されなかった変数の添え字の集合である。
【0063】
次に、変数選択部211は、因果推論により各変数と対象異常変数間の因果の大きさを表す指標値として、参考文献1に記載されているEDM(Empirical Dynamic Modeling)値を計算する(ステップS302)。EDMとは、非線形なグレンジャー因果性が考慮された因果分析技術である。EDMを利用することで、対象異常変数とそれ以外の変数との間のグレンジャー因果関係の識別が期待できる。変数選択部211は、以下の手順3-1~手順3-3により、対象異常変数xとそれ以外の各変数x'∈{xm|m∈M}(ただし、≠x')の各々とのEDM値を計算する。
【0064】
手順3-1:まず、変数選択部211は、対象異常変数xからそれ以外の変数x'へのグレンジャー因果性指標EDM(x,x')を計算する。なお、グレンジャー因果性指標としては、例えば、最適な埋め込み次元数でライブラリサイズが最大のときの相関係数を利用すればよい。
【0065】
手順3-2:次に、変数選択部211は、対象異常変数x以外の変数x'から対象異常変数xへのグレンジャー因果性指標EDM(x',x)を計算する。
【0066】
手順3-3:そして、変数選択部211は、EDM(x,x')とEDM(x',x)の合計をEDM値として計算する。
【0067】
そして、変数選択部211は、上記のステップS302で計算されたEDM値が予め設定された閾値よりも大きい変数を選択変数として選択する(ステップS303)。EDM値が閾値よりも大きい変数の数が、予め設定された最大数よりも多い場合、変数選択部211は、EDM値が大きい順に最大数の数までの変数を選択変数として選択する。これにより、異常ケースkに対して、対象異常変数と線形又は非線形なグレンジャー因果関係を持つ1以上の変数が選択変数として選択される。以下、異常ケースkに対して選択された選択変数の集合をX(k)={xm|m∈M(k)}とする。M(k)は、異常ケースkに対して選択された変数の添え字の集合である。
【0068】
なお、上記のステップS303で最大数を用いる理由は、次の因果モデル構築処理の計算負荷を軽減するためである。
【0069】
<因果モデル構築処理>
以下では、
図6のステップS104の処理(因果モデル構築処理)の詳細について、
図9を参照しながら説明する。
【0070】
まず、因果モデル構築部212は、異常ケースk毎に、グレンジャー因果性を考慮した因果探索技術であるVAR-LiNGAMとその拡張機能であるCausal Effectによる計算を実行し、各選択変数をランキングする(ステップS401)。すなわち、因果モデル構築部212は、異常ケースk毎に、対象異常変数から各選択変数へのCE(Causal Effect)値を計算し、CE値の大きい順に選択変数を並べ替える。なお、VAR-LiNGAMとCausal Effectに関しては、例えば、参考文献2及び3等を参照されたい。
【0071】
以下、簡単のため、異常ケースkの選択変数の集合X(k)={xm|m∈M(k)}に含まれる各選択変数をCE値の大きい順に並べ替えたものを表す順序付き選択変数集合もX(k)と書くことにする。
【0072】
次に、因果モデル構築部212は、異常ケース1から順に、異常ケースkの順序付き選択変数集合X(k)と異常ケースk+1の順序付き選択変数集合X(k+1)と共通部分を取り、複数の異常ケースで共通する選択変数を表す共通変数の集合を特定する(ステップS402)。すなわち、因果モデル構築部212は、k=1,・・・,K-1(ただし、Kは最後の異常ケースを表すインデックス)に対して、Y(1)=X(1)、Y(k+1)←Y(k)∩X(k+1)として、最終的に得られたY(k)を共通変数の集合とする。以下、最終的に得られた共通変数の集合をY=Y(k)とする。
【0073】
ただし、因果モデル構築部212は、或るk'で共通変数の数(つまり、|Y(k')|)が予め設定された下限数以下となった場合は、その直前に得られた共通変数の集合Y(k'-1)を最終的な共通変数の集合Yとする。また、因果モデル構築部212は、|Y(K)|が予め設定された上限数以上である場合、Y(K)に含まれる共通変数のうち、先頭から順に上限数の共通変数を選択し、選択した共通変数の順序付き集合を最終的な共通変数の集合Yとする。
【0074】
なお、共通変数は、対象異常変数に関連する異常が発生したときの復旧操作手順を構成する変数の候補となるものであるため、候補変数と呼ばれてもよい。
【0075】
次に、因果モデル構築部212は、共通変数集合Y=Y(k)に含まれる共通変数毎に、異常ケース1における共通変数のサンプルに対して、異常ケース2~異常ケースkにおける当該共通変数のサンプルを結合する(ステップS403)。
【0076】
一例として、共通変数集合がY=Y
(2)である場合に、異常ケース1における共通変数「変数5」のサンプルに対して、異常ケース2における共通変数「変数5」のサンプルを結合したものを
図10に示す。
図10に示すように、異常ケース1における共通変数「変数5」のサンプルの末尾に対して、異常ケース2における共通変数「変数5」のサンプルを結合すればよい。なお、Y=Y
(3)である場合は、異常ケース2における共通変数「変数5」のサンプルの末尾に対して、異常ケース3における共通変数「変数5」のサンプルが更に結合される。これにより、異なる異常ケース及びサンプリング集合を有効に結合することが可能となる。
【0077】
次に、因果モデル構築部212は、共通変数集合Y=Y(k)に含まれる共通変数毎に、その共通変数のサンプルをコピーし、そのサンプルの末尾に追加する(ステップS404)。
【0078】
一例として、共通変数集合がY=Y
(2)である場合に、共通変数「変数5」に関して、その共通変数のサンプルをコピーし、そのサンプルの末尾に追加する場合を
図11に示す。
図11に示すように、上記のステップS403でサンプル結合したもののコピーが、そのサンプル結合したものの末尾に追加される。これにより、因果の大きさをより検知しやすくなることが期待できる。
【0079】
次に、因果モデル構築部212は、事前情報を用いて、対象異常変数を因果モデルの最上位変数に設定する(ステップS405)。事前情報とは、因果的順序に関して事前に得られる情報のことであり、ユーザによって与えられる。ここでは、1つ又は複数の対象異常変数が因果モデルの最上位変数となることを表す情報であれば任意の事前情報を用いることができる。なお、事前情報は、事前情報行列等と呼ばれてもよい。
【0080】
そして、因果モデル構築部212は、対象異常変数を目的変数、共通変数集合Yに含まれる共通変数を説明変数として、上記のステップS404の処理後のサンプルを用いて、VAR-LiNGAMにより因果モデルを構築する(ステップS406)。
【0081】
一例として、対象異常変数が「圧力B」、共通変数集合がY={圧力A,濃度C,温度E,温度D}である場合の因果モデルを
図12に示す。
図12に示すように、因果モデルは、対象異常変数及び共通変数をノードとする重み付き有向グラフとして得られる。各ノードを繋ぐ有向エッジは2つの変数間のグレンジャー因果関係を表しており、またその重みは因果の大きさを表している。なお、
図12に示す例において、各ノードの変数名の前に記載されている数字は、その変数に対応する項目の項目番号である。
【0082】
<操作手順抽出処理>
以下では、
図6のステップS105の処理(操作手順抽出処理)の詳細について、
図13を参照しながら説明する。
【0083】
まず、順序抽出部213は、因果の大きさに応じて、因果モデル構築処理で構築された因果モデルを枝刈りする(ステップS501)。すなわち、順序抽出部213は、予め設定された閾値を用いて、重みの値が当該閾値未満のエッジを因果モデルから削除する。これは、因果が弱い共通変数を削除することを意味している。
【0084】
例えば、
図14の上図に示す因果モデルが得られており、閾値が0.5であるものとする。この場合、対象異常変数xと共通変数x
1とを接続するエッジが削除され、
図14の下図に示す因果モデルが得られる。
【0085】
次に、順序抽出部213は、各共通変数と対象異常変数との間に複数の経路が存在する場合、因果モデルから最短経路以外の経路を構成するエッジのうち、最後のエッジを削除する(ステップS502)。
【0086】
例えば、
図15の上図に示す因果モデルが得られているものとする。この因果モデルでは、対象異常変数xと共通変数x
3との間に経路1と経路2の複数の経路が存在する。この場合、最短経路は経路1となる。このため、経路2を構成するエッジの最後のエッジ(つまり、共通変数x
2と共通変数x
3との間のエッジ)が削除され、
図15の下図に示す因果モデルが得られる。なお、経路の長さは、その経路を構成するエッジの数である。
【0087】
以上により、対象異常変数に関連する異常が発生したときに、操作すべき変数の順序(つまり、復旧操作手順)を表す因果モデルが得られたことになる。
【0088】
<可視化結果>
上記のステップS106における可視化結果の一例を
図16に示す。
図16に示す可視化結果1000には、第1の表示欄1100と、第2の表示欄1200とが含まれている。
【0089】
第1の表示欄1100には、操作手順抽出処理で得られた因果モデルが可視化されるモデル表示欄1101と、対象異常変数のサンプルの時系列データと因果モデル中のそれ以外の変数のサンプルの時系列データとがグラフとして表示されるグラフ表示欄1102とが含まれている。モデル表示欄1101を確認することで、ユーザは、対象異常変数に関連する異常が発生したときに、どの変数をどの順で操作すればよいかを知ることが可能となる。また、グラフ表示欄1102を確認することで、ユーザは、或る変数を操作したときに、対象異常変数と当該変数とがどのように変化するかを、過去の操作量履歴を参考にして推測することが可能となる。
【0090】
なお、
図16に示す例では、グラフ表示欄1102に表示されている時系列データはいずれも標準化されているが、標準化されていない時系列データがグラフとして表示されていてもよい。標準化されている時系列データがグラフとして表示されることで、或る変数をどの程度の操作量で操作すれば良いかも知ることが可能となる。
【0091】
また、第2の表示欄1200では、第1の表示欄1100に表示されている情報が文言とその流れ図で可視化されている。これにより、ユーザは、同様に、対象異常変数に関連する異常が発生したときに、どの変数をどの順で操作すればよいか、或る変数を操作したときに、対象異常変数と当該変数とがどのように変化するか、過去の操作量履歴を参考にして推測することが可能となる。
【0092】
<まとめ>
以上のように、本実施形態に係る分析装置10は、設備21の各種状態を計測したセンサデータを用いて、その設備21で異常又はその兆候が発生したときの復旧操作手順又は回避操作手順を得ることができる。しかも、本実施形態に係る分析装置10は、センサデータのみから復旧操作手順又は回避操作手順を得ることができるため、例えば、ログデータに残らない復旧操作手順又は回避操作手順も得ることができる。また、本実施形態に係る分析装置10は、グレンジャー因果関係を利用することにより、精度の良い復旧操作手順又は回避操作手順を得ることができる。
【0093】
本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなく、種々の変形や変更、既知の技術との組み合わせ等が可能である。
【0094】
[参考文献]
参考文献1:Chang, Chun-Wei; Ushio, Masayuki; Hsieh, Chihhao., Empirical dynamic modeling for beginners, Ecological Research 2017, 32(6): 785-796.
参考文献2:Aapo Hyvarinen, Kun Zhang, Shohei Shimizu, Patrik O. Hoyer. Estimation of a Structural Vector Autoregression Model Using Non-Gaussianity. Journal of Machine Learning Research, 11: 1709-1731, 2010.
参考文献3:P. Blobaum and S. Shimizu. Estimation of interventional effects of features on prediction. In Proc. 2017 IEEE International Workshop on Machine Learning for Signal Processing (MLSP2017), pp. 1-6, Tokyo, Japan, 2017.
【符号の説明】
【0095】
1 分析システム
10 分析装置
20 施設
21 設備
22 センサ
23 計測制御装置
30 入出力装置
40 センサデータDB
101 外部I/F
101a 記録媒体
102 通信I/F
103 RAM
104 ROM
105 補助記憶装置
106 プロセッサ
107 バス
201 対象異常変数指定部
202 モデル構築用データ選定部
203 データ分析部
204 可視化部
211 変数選択部
212 因果モデル構築部
213 順序抽出部
【手続補正書】
【提出日】2022-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定するように構成されている選定部と、
前記モデル構築用データ毎に、前記モデル構築用データとして選定されたサンプルデータに含まれる前記複数の変数の中から、グレンジャー因果性指標に基づいて、1以上の変数を選択するように構成されている変数選択部と、
前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するように構成されているモデル構築部と、
前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている抽出部と、
を有し、
前記モデル構築部は、
前記モデル構築用データ毎に選択された前記1以上の変数に共通する変数を前記候補変数として選択し、前記モデル構築用データを用いて、前記対象異常変数と前記候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するように構成されている、分析装置。
【請求項2】
前記分析装置が備える表示装置上、又は、前記分析装置と通信ネットワークを介して接続される端末装置が備える表示装置上に、前記復旧又は回避操作手順を可視化するように構成されている可視化部、を有する請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記選定部は、
前記センサデータに含まれるサンプルデータの時系列データの中から、前記異常又は異常兆候が発生している期間を特定し、特定した期間が長い順に、前記期間と、該期間の前後の所定の長さの期間とを結合した期間に含まれる所定の間隔のサンプルデータの集合を前記モデル構築用データとして選定するように構成されている、請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記モデル構築部は、
前記共通変数毎に、複数の前記モデル構築用データに含まれる前記共通変数の計測値の時系列データをそれぞれ結合し、前記結合した時系列データのコピーを、該時系列データの末尾に更に追加した時系列データを用いて、前記因果モデルを構築するように構成されている、請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記抽出部は、
前記因果モデルを表現する重み付き有向グラフの有向エッジのうち、重みが所定の閾値未満の有向エッジを削除することで、前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている、請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記抽出部は、
前記重み付き有向グラフにおいて、前記対象異常変数を表すノードから他のノードまでの経路が複数存在する場合、最短の経路以外の経路を削除することで、前記復旧又は回避操作手順を抽出するように構成されている、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定する選定手順と、
前記モデル構築用データ毎に、前記モデル構築用データとして選定されたサンプルデータに含まれる前記複数の変数の中から、グレンジャー因果性指標に基づいて、1以上の変数を選択する変数選択手順と、
前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するモデル構築手順と、
前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出する抽出手順と、
をコンピュータが実行し、
前記モデル構築手順は、
前記モデル構築用データ毎に選択された前記1以上の変数に共通する変数を前記候補変数として選択し、前記モデル構築用データを用いて、前記対象異常変数と前記候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築する、分析方法。
【請求項8】
対象の状態を表す複数の変数の計測値を含むサンプルデータの時系列データで表現されるセンサデータを用いて、前記センサデータに含まれるサンプルデータの中から、前記対象に異常又は異常兆候が発生したときの復旧又は回避操作手順を得るためのモデル構築用データを選定する選定手順と、
前記モデル構築用データ毎に、前記モデル構築用データとして選定されたサンプルデータに含まれる前記複数の変数の中から、グレンジャー因果性指標に基づいて、1以上の変数を選択する変数選択手順と、
前記モデル構築用データを用いて、前記異常又は異常兆候と関連がある変数を表す対象異常変数と、前記複数の変数のうちの前記復旧又は回避操作手順を構成する変数の候補となる変数を表す候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築するモデル構築手順と、
前記因果モデルから前記復旧又は回避操作手順を抽出する抽出手順と、
をコンピュータに実行させ、
前記モデル構築手順は、
前記モデル構築用データ毎に選択された前記1以上の変数に共通する変数を前記候補変数として選択し、前記モデル構築用データを用いて、前記対象異常変数と前記候補変数との間のグレンジャー因果関係を表す因果モデルを構築する、プログラム。