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  • 特開-ポルサイトの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022194
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ポルサイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20240208BHJP
   G21F 9/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C01B33/26
G21F9/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125598
(22)【出願日】2022-08-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行日 令和3年8月18日 (2)刊行物 第10回環境放射能除染研究発表会要旨集 一般社団法人環境放射能除染学会 発行 Web公開 URL:https://khjosen.smoosy.atlas.jp/ja/kenkyu10 https://khjosen.smoosy.atlas.jp/files/2657 <資 料>要旨集Web公開ページ プリントアウト <資 料>研究要旨 「カリウム塩を用いた水熱法でのポルサイト合成成否の検討」
(71)【出願人】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】田渡 琉音
(72)【発明者】
【氏名】大橋 弘範
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA05
4G073BA07
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA81
4G073BD21
4G073CZ41
4G073CZ50
4G073FB19
4G073FB25
4G073FC25
4G073FC27
4G073GA03
4G073UA05
4G073UA06
4G073UB48
(57)【要約】
【課題】水熱法を用いて、アナルサイムの生成を抑制して、ポルサイトを効率的、かつ容易に合成可能なポルサイトの製造方法を提供する。
【解決手段】セシウム化合物、アルミニウム化合物、およびケイ酸カリウムを含み、ナトリウムイオン濃度が、前記セシウム化合物に由来するセシウムイオン濃度の5質量%以下の合成用水溶液を用いて、水熱合成によってポルサイトを製造することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウム化合物、アルミニウム化合物、およびケイ酸カリウムを含み、ナトリウムイオン濃度が、前記セシウム化合物に由来するセシウムイオン濃度の5質量%以下の合成用水溶液を用いて、水熱合成によってポルサイトを製造することを特徴とするポルサイトの製造方法。
【請求項2】
前記セシウム化合物は塩化セシウムであり、前記アルミニウム化合物は、アルミン酸カリウムであることを特徴とする請求項1に記載のポルサイトの製造方法。
【請求項3】
前記水熱合成における合成温度は、100℃以上、374℃以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のポルサイトの製造方法。
【請求項4】
前記水熱合成における合成時間は、12時間以上、48時間以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のポルサイトの製造方法。
【請求項5】
前記合成用水溶液のセシウムイオンの濃度は、5mmol/L以上、300mmol/L以下の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のポルサイトの製造方法。
【請求項6】
前記合成用水溶液には、更に水酸化カリウムが含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のポルサイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム含有化合物であるポルサイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第一原子力発電所の事故以降、居住地域では降下した放射性セシウムの面的除染が進められてきた。しかし、福島県の面積の約70%を占める森林の除染は、未だ手付かずのままである。さらに、除染後の放射性廃棄物等の処理の問題に対しても、具体的な方針も定まっていないのが現状である。
【0003】
こうした放射性セシウムのうち、134Csや137Csは、半減期がそれぞれ2.07年、30.1年と長いことから、その処理が課題となっている。こうした放射性セシウムの処理方法の1つとして、アルカリ金属元素であるために水溶性が高いセシウムを不溶化処理する研究が行われている。
【0004】
セシウムを水に対して不溶化することが可能な材料の1つとして、ポルサイトが挙げられる。ポルサイトは、ゼオライト鉱物であり、一般的な組成式がCsAlSi・HOで表され、水に不溶である。ポルサイトは、比較的低温、低圧の環境下で水熱法によって合成可能であるとされている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-111635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水熱法によるポルサイトの合成は、比較的低温、低圧の環境下で行うことができるとされているが、一方で、従来の水熱法では、水熱合成にあたってナトリウム塩を用いるために、アナルサイムが生成されやすいという課題があった。アナルサイムは、ポルサイトに含まれるCsがNaに置き換わった構成であり、NaAlSi・HOで表される。こうしたアナルサイムは、1単位あたりのCs含有量が、ポルサイトよりも減少するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、水熱法を用いて、アナルサイムの生成を抑制して、ポルサイトを効率的、かつ容易に合成可能なポルサイトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、上記目的を達成するために、次のように構成している。
(1)本発明の態様1のポルサイトの製造方法は、セシウム化合物、アルミニウム化合物、およびケイ酸カリウムを含み、ナトリウムイオン濃度が、前記セシウム化合物に由来するセシウムイオン濃度の5質量%以下の合成用水溶液を用いて、水熱合成によってポルサイトを製造することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、水熱合成の条件を100℃程度、かつ常圧といった容易な条件であっても、アナルサイムの生成を抑制しつつ、ポルサイトを効率よく製造することが可能になる。
【0010】
(2)本発明の態様2のポルサイトの製造方法は、態様1において、前記セシウム化合物は塩化セシウムであり、前記アルミニウム化合物は、アルミン酸カリウムであってもよい。
【0011】
(3)本発明の態様3のポルサイトの製造方法は、態様1または2において、前記水熱合成における合成温度は、100℃以上、374℃以下の範囲であってもよい。
【0012】
(4)本発明の態様4のポルサイトの製造方法は、態様1から3のいずれか1つにおいて、前記水熱合成における合成時間は、12時間以上、48時間以下の範囲であってもよい。
【0013】
(5)本発明の態様5のポルサイトの製造方法は、態様1から4のいずれか1つにおいて、前記合成用水溶液のセシウムイオンの濃度は、5mmol/L以上、300mmol/L以下の範囲であってもよい。
【0014】
(6)本発明の態様6のポルサイトの製造方法は、態様1から5のいずれか1つにおいて、前記合成用水溶液には、更に水酸化カリウムが含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水熱法を用いて、アナルサイムの生成を抑制して、ポルサイトを効率的、かつ容易に合成可能なポルサイトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実験例1~5のXRDによるピークを示す図である。
図2】実験例6~10のXRDによるピークを示す図である。
図3】実験例11~16のXRDによるピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態のポルサイトの製造方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
本実施形態によってポルサイトを製造する際には、まず、合成用水溶液を調整する。合成用水溶液は、水、例えば蒸留水に対してセシウム化合物、アルミニウム化合物、およびケイ酸カリウム(KSiO)を溶解させる。また、ケイ酸カリウム源としては、本発明の範囲および趣旨を逸脱しない場合、火山灰や軽石等も使うことができる場合がある。
【0019】
セシウム化合物は水溶性の化合物であればよく、例えば、塩化セシウム(CsCl)が選択される。なお、セシウム化合物としては、他にも水酸化セシウム(CsOH)、硫化セシウム(CsS)などを用いることもできる。
【0020】
アルミニウム化合物は水溶性の化合物であればよく、例えば、アルミン酸カリウム(KAl・3HO)が選択される。なお、アルミニウム化合物としては、他にも、アルミナ(Al)、水酸化アルミニウム(AlOH)などを用いることができる。
【0021】
また、合成用水溶液には、更に水酸化カリウム(KOH)を溶解させることが好ましい。なお、こうした水酸化カリウムは、セシウム化合物として水酸化セシウム(CsOH)を選択する場合、水酸化カリウムの溶解量を少なくすることができる。
【0022】
合成用水溶液の各成分の濃度は、セシウムイオン[Cs]の濃度が5mmol/L以上、300mmol/L以下の範囲になるようにすればよい。そして、このセシウムイオン[Cs]と、アルミニウムイオン[Al3+]と、ケイ素イオン[Si4+]のモル濃度比が1:1:2(即ち、ポルサイトのCs,Al,Siの組成比)になるように、それぞれの化合物を水に溶解すればよいが、CsとAlのモル濃度比についてはこれに限定されるものではない。
【0023】
こうした合成用水溶液は、ナトリウム(Na)を組成中に含まない化合物だけを用いている。よって、合成用水溶液に含まれるナトリウムイオン[Na]は、各組成物に含まれる不純物だけであり、合成用水溶液に含まれるナトリウムイオン[Na]の濃度は、セシウムイオン濃度に対して5質量%以下である。このように、合成用水溶液に含まれるナトリウムイオンの濃度を制限することによって、水熱合成において、ポルサイトのCsがNaに置き換わったアナルサイムの生成が抑制される。
【0024】
次に、上述した組成の合成用水溶液を、例えばテフロン(登録商標)容器に入れてから耐圧加熱装置(水熱合成反応装置)に収容して密封し、所定温度まで加熱して水熱合成を行う。
【0025】
ポルサイトの水熱合成における合成温度は、100℃以上、374℃以下の範囲、好ましくは100℃以上、250℃以下の範囲、より好ましくは100℃以上、200℃以下の範囲であればよい。合成温度が低いほど水熱合成が容易であり、かつ耐圧容器の耐圧特性もより簡易なものが使用できる。合成温度を低くする程、ポルサイトの生成率が高まり、ポルサイトのCsがKに置き換わったリューサイト(白榴石:KAlSi)の生成も抑制される。
【0026】
また、ポルサイトの水熱合成における合成時間は、上述した温度範囲に保ったまま、12時間以上、48時間以下の範囲、好ましくは18時間以上、48時間以下の範囲、より好ましくは24時間以上、48時間以下の範囲であればよい。
【0027】
また、ポルサイトの水熱合成における圧力(ポルサイトの合成圧力)は、特に限定されるものではないが、常圧(1気圧)であればよく、1気圧以上、218気圧以下であってもよい。
【0028】
このようにして、水熱合成によってポルサイトを製造することができる。本実施形態のポルサイトの製造方法によって得られるポルサイトの収量は、合成用水溶液に含まれるセシウムイオン[Cs]の濃度に対して、例えば95%~100%である。
【0029】
そして、本実施形態では、合成用水溶液にナトリウムを含む化合物、例えば、従来、ケイ素源として用いられていたケイ酸ナトリウムを用いずに、ケイ素源としてケイ酸カリウムを用いたことによって、合成用水溶液に含まれるナトリウムイオン[Na]の濃度は、セシウムイオン濃度に対して5質量%以下である。よって、ポルサイトのCsがNaに置き換わったアナルサイムは殆ど生成されない。
【0030】
こうして得られたポルサイトは、ゼオライト鉱物の一種である。ゼオライトは、イオン交換能を有するものが多いが、ポルサイトのCsは非イオン交換サイトであるため、セシウムは不溶であり、理論上セシウムがポルサイトから溶出することはない。したがって、ポルサイトは、放射性セシウムの最終処分形態として、非常に好適である。
【0031】
以上のように、本実施形態のポルサイトの製造方法によれば、水熱合成の条件を100℃程度、かつ常圧といった容易な条件で、アナルサイムの生成を抑制しつつ、ポルサイトを効率よく製造することが可能になる。
【0032】
なお、本実施形態では、ポルサイトの水熱合成におけるセシウム源として、塩化セシウムや水酸化セシウムを例示しているが、セシウム源はこうした純度の高い化合物に限定されるものではなく、例えば、放射性セシウムの除染によって生じた水溶性のセシウム化合物を含むものを用い、除染によって生じた放射性セシウムの不溶化に好適に利用することができる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0034】
以下、上述した実施形態に沿って水熱合成を行い、ポルサイトの生成状況を検証した。
テフロンビーカーに蒸留水100mLを分取し、KSiO(和光特級:富士フイルム和光純薬株式会社製)、KAl・3HO(鹿1級:関東化学株式会社製)、CsCl(和光特級:富士フイルム和光純薬株式会社製)をそれぞれ溶解し、更に、KOH(和光特級:富士フイルム和光純薬株式会社製)([Cs]濃度:100mmol/Lの場合、例えば、25mmol:1.4g)をさらに加え撹拌し、各実験例の合成用溶解液を得た。各実験例の合成用溶解液には、セシウムイオン[Cs]、アルミニウムイオン[Al3+]、ケイ素イオン[Si4+]のモル濃度比が1:1:2(即ち、ポルサイトのCs,Al,Siの組成比)になるように、それぞれの化合物を溶解した(実験例22、24を除く)。そして、各実験例の合成用溶解液を耐圧容器(高圧用反応分解容器100mlセット:HUT-100およびHUS-100(共に三愛科学株式会社製))に入れて密封し、それぞれの合成温度でそれぞれの合成時間だけ静置して、水熱合成を行った。各実験例の条件は以下の通りである。
【0035】
・実験例1 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:180℃、合成時間:48h
・実験例2 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:180℃、合成時間:24h
・実験例3 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:180℃、合成時間:12h
・実験例4 [Cs]濃度:50mmol/L、合成温度:180℃、合成時間:48h
・実験例5 [Cs]濃度:50mmol/L、合成温度:180℃、合成時間:24h
・実験例6 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:160℃、合成時間:48h
・実験例7 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:160℃、合成時間:24h
・実験例8 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:160℃、合成時間:12h
・実験例9 [Cs]濃度:50mmol/L、合成温度:160℃、合成時間:48h
・実験例10 [Cs]濃度:50mmol/L、合成温度:160℃、合成時間:24h
・実験例11 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:140℃、合成時間:48h
・実験例12 [Cs]濃度:50mmol/L、合成温度:140℃、合成時間:48h
・実験例13 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:120℃、合成時間:48h
・実験例14 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:100℃、合成時間:144h
(但し、Cs/Al3+=20)
・実験例15 [Cs]濃度:100mmol/L、Naイオン濃度:3mmol/L
合成温度:100℃、合成時間:144h
・実験例16 [Cs]濃度:50mmol/L、合成温度:100℃、合成時間:144h
(但し、Cs/Al3+=20)
【0036】
得られた各実験例の試料粉末をX線回折装置(RIGAKU Ultima III(リガク株式会社製))によって同定した。
「X線回折装置」 Cu-Kα1線、励起電圧:40keV、励起電流:40mA、サンプリング幅0.04の連続法
【0037】
実験例1~5のピークを図1に示す。実験例6~10のピークを図2に示す。また、実験例11~16のピークを図3に示す。なお、図1~3には、リューサイト(Leucite)および、ポルサイトの標品のピークを併せて示す。
【0038】
図1~3の結果によれば、実験例1~16でそれぞれ得られた試料粉末のピークは、いずれもポルサイトの標品のピークと一致しており、リューサイトは生成されないことが確認できた。また、合成用溶解液の各成分の濃度が高く、また合成時間が長いほど、ピーク強度が高くなり、ポルサイトの合成量が増加することが確認できた。また、100℃~180℃といった、比較的低い合成温度でも、容易にポルサイトを合成できることが確認できた。
図1
図2
図3