(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022196
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】海洋鉱物資源の解析方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20240101AFI20240208BHJP
【FI】
G01V1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125602
(22)【出願日】2022-08-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省資源エネルギー庁、平成31年度海洋鉱物資源開発に向けた資源量評価・生産技術等調査に関する委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(71)【出願人】
【識別番号】390004879
【氏名又は名称】三菱マテリアルテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】天藤 寛子
(72)【発明者】
【氏名】両角 春寿
(72)【発明者】
【氏名】野川 裕
(72)【発明者】
【氏名】中野 順基
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA02
2G105BB02
2G105CC01
2G105DD02
2G105GG03
2G105KK06
2G105LL07
(57)【要約】
【課題】海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を短時間で効率的に抽出する。
【解決手段】複数の測定地形メッシュを生成するメッシュ生成工程と、既知鉱床メッシュの地形特徴量に近似した地形特徴量の第1候補メッシュを抽出する地形特徴量抽出工程と、既知鉱床メッシュの海底地形の凹凸を示す地形波長に近似した地形波長を有する第2候補メッシュを抽出する地形波長抽出工程と、複数の地形波長帯ごとにばらつきが最大になる第1主成分軸およびこれに直交する第2主成分軸、さらに第2主成分軸およびこれに直交する第3主成分軸が前記既知鉱床メッシュに近似した第3候補メッシュを抽出するクラスター抽出工程と、海底の不連続構造を含む第4候補メッシュを抽出する断層抽出工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を抽出する海洋鉱物資源の解析方法であって、
前記海底地形データを任意のサイズのメッシュに区画して、複数の測定地形メッシュを生成するメッシュ生成工程と、
海洋鉱物資源を含む既知海底地形データを任意のサイズのメッシュに区画した既知鉱床メッシュと、前記測定地形メッシュとを比較して、複数の前記測定地形メッシュのうち前記既知鉱床メッシュの地形特徴量に近似した地形特徴量の第1候補メッシュを抽出する地形特徴量抽出工程と、
前記既知鉱床メッシュを用いて、複数の前記測定地形メッシュのうち前記既知鉱床メッシュの海底地形の凹凸を示す地形波長に近似した地形波長を有する第2候補メッシュを抽出する地形波長抽出工程と、
前記既知鉱床メッシュを用いて、複数の前記測定地形メッシュのうち複数の地形波長帯ごとにばらつきが最大になる第1主成分軸およびこれに直交する第2主成分軸、さらに第2主成分軸およびこれに直交する第3主成分軸が前記既知鉱床メッシュに近似した第3候補メッシュを抽出するクラスター抽出工程と、
複数の前記測定地形メッシュのうち海底の不連続構造を含む第4候補メッシュを抽出する断層抽出工程と、を有し、
前記第1候補メッシュ、前記第2候補メッシュ、前記第3候補メッシュ、および前記第4候補メッシュのうち、少なくとも2つ以上に基づいて、海洋鉱物資源の鉱床有望域を抽出することを特徴とする海洋鉱物資源の解析方法。
【請求項2】
前記地形特徴量抽出工程における前記地形特徴量は、前記測定地形メッシュにおける深度の平均値、深度の標準偏差値、傾斜の平均値、曲率の標準偏差値、リニアメント密度、斜面方位、地上開度の平均値、地下開度の平均値のうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする請求項1に記載の海洋鉱物資源の解析方法。
【請求項3】
前記地形波長抽出工程では、前記地形波長を複数の波長帯ごとに、それぞれの前記既知鉱床メッシュと前記第1候補メッシュとを比較することを特徴とする請求項1または2に記載の海洋鉱物資源の解析方法。
【請求項4】
前記断層抽出工程における不連続構造は、リニアメントの不連続帯であり、凹凸地形と横ずれセンスを伴うものであることを特徴とする請求項1または2に記載の海洋鉱物資源の解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を抽出する海洋鉱物資源の解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底には、例えば、海底熱水鉱床やレアアース泥、メタンハイドレートなどの有用な資源が存在していることが各種調査で明らかにされている。このうち海底熱水鉱床は、地下深部に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、地殻から有用元素を抽出した「熱水」が海底に噴出し、周辺の海水によって冷却される過程で、銅、鉛、亜鉛、金、銀等の各種金属が沈殿してできたものである。
こうした有用な資源が存在する新規の海洋鉱物資源の探査を行う方法として、例えば、特許文献1には、海中へ音波を送信して、海水と密度の異なる物体の境界面で反射した散乱波を受信し、送信した音波及び受信した散乱波から散乱強度を計算し、所定の散乱強度である場合、物体の直下の海底に資源があると判断する探査システムが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、海洋鉱物資源の探査を行うために送信された所定の信号を示す送信 また、特許文献2には、海洋鉱物資源の探査を行うために送信された所定の信号を示す送信人工信号を、水を媒体として水中に送信する送信装置と、海洋鉱物資源に起因して発生する電位異常に伴い自受信装置まで水を媒体として伝播した自然電位との合成信号を受信する受信装置と、合成信号を受信人工信号と自然電位とに分離する信号処理部を備えた探査システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3662921号公報
【特許文献2】国際公開第2018-047638号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載された海洋鉱物資源探査システムを用いて海洋鉱物資源を探査する場合、広大な海域の全体をくまなく探査することは困難であり、従来は、既知の鉱床の位置や海底地形などに基づいて、経験的に有望な領域の探査を行っている。このため、より効率的に海洋鉱物資源が存在する可能性の高い領域を見出して、効率的に探査を行う方法が求められていた。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みて提案されたものであり、既知の海洋鉱物資源の分布位置情報を用いて、音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を短時間で効率的に抽出することが可能な海洋鉱物資源の解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態の海洋鉱物資源の解析方法は、以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1の海洋鉱物資源の解析方法は、音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を抽出する海洋鉱物資源の解析方法であって、前記海底地形データを任意のサイズのメッシュに区画して、複数の測定地形メッシュを生成するメッシュ生成工程と、海洋鉱物資源を含む既知海底地形データを任意のサイズのメッシュに区画した既知鉱床メッシュと、前記測定地形メッシュとを比較して、複数の前記測定地形メッシュのうち前記既知鉱床メッシュの地形特徴量に近似した地形特徴量の第1候補メッシュを抽出する地形特徴量抽出工程と、前記既知鉱床メッシュを用いて、複数の前記測定地形メッシュのうち前記既知鉱床メッシュの海底地形の凹凸を示す地形波長に近似した地形波長を有する第2候補メッシュを抽出する地形波長抽出工程と、前記既知鉱床メッシュを用いて、複数の前記測定地形メッシュのうち複数の地形波長帯ごとにばらつきが最大になる第1主成分軸およびこれに直交する第2主成分軸、さらに第2主成分軸およびこれに直交する第3主成分軸が前記既知鉱床メッシュに近似した第3候補メッシュを抽出するクラスター抽出工程と、複数の前記測定地形メッシュのうち海底の不連続構造を含む第4候補メッシュを抽出する断層抽出工程と、を有し、前記第1候補メッシュ、前記第2候補メッシュ、前記第3候補メッシュ、および前記第4候補メッシュのうち、少なくとも2つ以上に基づいて、海洋鉱物資源の鉱床有望域を抽出することを特徴とする。
【0008】
(2)本発明の態様2は、態様1の海洋鉱物資源の解析方法において、前記地形特徴量抽出工程における前記地形特徴量は、前記測定地形メッシュにおける深度の平均値、深度の標準偏差値、傾斜の平均値、曲率の標準偏差値、リニアメント密度、斜面方位、地上開度の平均値、地下開度の平均値のうち、少なくともいずれか1つを含むことを特徴とする。
【0009】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の海洋鉱物資源の解析方法において、前記地形波長抽出工程では、前記地形波長を複数の波長帯ごとに、それぞれの前記既知鉱床メッシュと前記第1候補メッシュとを比較することを特徴とする。
【0010】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか一つの海洋鉱物資源の解析方法において、前記断層抽出工程における不連続構造は、リニアメントの不連続帯であり、凹凸地形と横ずれセンスを伴うものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既知の海洋鉱物資源の分布位置データを用いて、音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を短時間で効率的に抽出することが可能な海洋鉱物資源の解析方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の海洋鉱物資源の解析方法を段階的に示したフローチャートである。
【
図2】地形特徴量抽出工程を説明する模式図である。
【
図3】地形特徴量抽出工程における散布図の例を示すグラフである。
【
図7】クラスター抽出工程を説明する模式図である。
【
図8】クラスター別主成分得点の平均値の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態の海洋鉱物資源の解析方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明において用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態の海洋鉱物資源の解析方法を段階的に示したフローチャートである。
本実施形態の海洋鉱物資源の解析方法は、船舶に設置した音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を抽出する海洋鉱物資源の解析方法であって、メッシュ生成工程S1と、地形特徴量抽出工程S2と、地形波長抽出工程S3と、クラスター抽出工程S4と、断層抽出工程S5と、を順に備えている。
なお、本発明の海洋鉱物資源の解析方法は、上述したメッシュ生成工程S1と、地形特徴量抽出工程S2、地形波長抽出工程S3、クラスター抽出工程S4、断層抽出工程S5の4つの抽出工程うち、少なくとも2つ以上を備えていればよく、行う順番も限定されるものではない。
【0015】
(メッシュ生成工程S1)
メッシュ生成工程S1は、船舶に設置した音響測深機によって得られた海底地形データを任意のサイズのメッシュに区画して、複数の測定地形メッシュを生成する。
例えば、海底地形データの調査範囲全域の地形特徴量を算定し、複数の大きさの測定地形メッシュ(格子間隔)を作成する。例えば、海底地形データの調査範囲全域を、1辺18000m,12000m,1800m,600m,300mのメッシュで区切ればよい。
【0016】
(地形特徴量抽出工程S2)
地形特徴量抽出工程S2は、海洋鉱物資源が含まれる既知の海底地形データを任意のサイズのメッシュに区画した既知鉱床メッシュと、メッシュ生成工程S1で得られた測定地形メッシュとを比較して、複数の前記測定地形メッシュのうち既知鉱床メッシュの地形特徴量に近似した地形特徴量の第1候補メッシュを抽出する。
【0017】
例えば、
図2に示すように、個々の測定地形メッシュ内の統計量である区域統計量を地形特徴量毎に算定し、既知鉱床メッシュとその他地形が区別できるメッシュを選定して、全域のメッシュ数を算出し、既知鉱床メッシュと同等の地形特徴量を有する測定地形メッシュを抽出する。
【0018】
地形特徴量は、深度の平均、深度の標準偏差、傾斜の平均、曲率の標準偏差、リニアメント密度、斜面方位、地上開度の平均、地下開度の平均である。
【0019】
深度(u)は、数値標高モデル(DEM)において格子点における標高値を示すものを海底DEMとして水深を示したものである。深度の標準偏差は高度分散量とも称され、標準地形の高度分散量を想定することで構造運動や地質による起伏の不連続線を高度分散量異常として表現される。深度の平均値、深度の標準偏差値は、以下の式(1)、式(2)によって求められる。
【数1】
【数2】
【0020】
傾斜は重力の水平分力を決めるものであり、物質移動や水の移動は勾配に支配されるため、地形解析によって求められる重要な地形形成要素の1つである。傾斜及び傾斜の平均は以下の式(3)、式(4)によって求められる。
【数3】
【数4】
【0021】
曲率は、地形の凸凹の程度、勾配の変化率を示している。0の値で水平面、正の値で尾根、負の値で谷となり、値の大きい地点は海山や大規模マウンド等の脚部形状を示すとされる。曲率及び曲率の標準偏差値は以下の式(5)、式(6)によって求められる。
【数5】
【数6】
【0022】
リニアメントとは直線的な地形の特長であり、断層など地層中の割れ目を反映していると考えられている。断裂等の弱線を地形の連続性等から推定するリニアメント解析は、鉱床周辺に発達する断裂系を推定する上で必要な要素である。リニアメント密度は、以下の式(7)によって求められる。
リニアメント密度=総リニアメント長/メッシュ面積・・・(7)
【0023】
斜面方位は斜面の向きを示し、地形データから求められる重要な地形特徴の1つである。斜面方位、勾配・傾斜の方向は、以下の式(8)、式(9)によって求められる。
【数7】
【数8】
【0024】
開度は当該地点が周囲に比べて地上に突き出ている程度および地下に食い込んでいる程 度を数量化したものである。地上開度(φ)は対象地点が周囲に比べて地上に突き出ている程度を表す値であり、一般的に周囲から高く突き出ている地点ほど大きくなり、山頂や尾根では大きな値を示し、窪地や谷底では小さくなる。地上開度の平均値は、以下の式(10)によって求められる。
【数9】
【0025】
地下開度(Ψ)は対象地点が周囲に比べて地下に食い込んでいる程度を表す値であり、一般的に地下に低く食い込んでいる地点ほど大きくなり、 窪地や谷底では大きな値を示し山頂や尾根では小さい。地下開度の平均値は、以下の式(11)によって求められる。
【数10】
【0026】
既知鉱床の地形特徴を最も反映できる適切なメッシュサイズを検討するために、各メッシュサイズで、測定した海底地形データの調査範囲における海洋鉱物資源が確認されたエリア、海洋鉱物資源が確認されなかったエリアについて、地形特徴量ごとに散布図を作成した。この散布図の例を
図3にグラフで示す。
【0027】
図3のグラフにおいて、〇で示したプロットを「標準地形」と称し、その定義は、各メッシュで算出した区域地形量を深度50mごとに分類・平均して、平均深度と各地形特徴量をプロットしたものである。18000mや12000mメッシュの場合、統計量の算出に用いる範囲が大きく、傾斜や曲率、リニアメント密度、地上開度や地下開度の地形特徴量は、既知鉱床の範囲及び測定地形の調査範囲のいずれにおいても平均化されており、標準地形に近い値に分布する。
【0028】
300mメッシュや600mメッシュの場合、既知鉱床および兆候地の範囲では、算出される地形特徴量のばらつきが大きい。
【0029】
1800mメッシュは、深度の標準偏差、傾斜の平均、曲率の標準偏差を見ると既知鉱床が比較的まとまった領域に分布し、海洋鉱物資源が確認されなかったエリアでは、標準地形より低い値を示す地点も認められる。
【0030】
1800mメッシュのサイズでは、他のメッシュサイズよりも最も鉱床胚胎場の地形特徴を反映していると考えられ、解析に適切なメッシュサイズであると判断した。
【0031】
(地形波長抽出工程S3)
地形波長抽出工程S3は、既知鉱床メッシュと、地形特徴量抽出工程S2の第1候補メッシュとを比較して、この第1候補メッシュのうち既知鉱床メッシュの海底地形の凹凸を示す地形波長に近似した地形波長を有する第2候補メッシュを抽出する。
【0032】
図4に示すように、地形波長抽出工程S3では、地形のテクスチャー(肌理)を定量化(波長に分解)できる手法として、地形がどのような波長で構成されているかを明確に定義できるフーリエ変換および逆フーリエ変換を用いた周波数解析を行う。例えば、バンドパスフィルタで広域成分や短波長成分を除去し、既知鉱床の形成場に関連する波長帯を抽出する。そして、
図5に示すように、一般的な地形特徴の規模や既存地質構造から複数の波長帯を選定、解析する。そして、既知鉱床を含む各波長域を抽出し、類似地形範囲を強調し、各波長帯の抽出域が重複する範囲を有望波長域として選定する。
【0033】
その後、既知の鉱床が有するテクスチャーの特徴を抽出、整理し、既知の鉱床と同じ地形波長で構成される領域の分布について検討を行う。こうした地形データを用いたフーリエ変換は、実領域の地形を空間周波数領域に変換して地形特性を記述するもので、そのような波長の地形がどの様な強さで出現するかを明確に定義できるものであるとされる。
【0034】
解析範囲のみの地形データをもちいて周波数解析を実施すると、データの無い境界付近では本来の地形の周波数特性は抽出されない。本実施形態では、例えば、解析範囲周辺を公開されている地形データで補間し、90m解像度にリサンプリングした数値標高モデル(DEM)を用いた。各波長帯については、例えば、100km以下、100~50km、50~20km、20~1kmの4波長帯を抽出する。
【0035】
これら波長帯のうち、波長帯20~1kmは、小規模の火山体やカルデラ地形をよく反映しており、それらを抽出するために既知鉱床の帯域(バンド)で区切らず、目視にて判断することが好ましい。既知鉱床の特徴がよく反映されている波長帯100~50kmおよび20~1kmの帯域を重ねると、中~大規模構造の斜面中下部に伴う小規模凹凸地が抽出され、例えば
図6に示すように、既知鉱床のような複合的な地形構造を持つエリアが抽出される。
【0036】
(クラスター抽出工程S4)
次に、既知鉱床メッシュと地形波長抽出工程S3の第2候補メッシュとを比較して、この第2候補メッシュのうち、複数の地形波長帯ごとにばらつきが最大になる第1主成分軸およびこれに直交する第2主成分軸、さらに第2主成分軸およびこれに直交する第3主成分軸が前記既知鉱床メッシュに近似した第3候補メッシュを抽出する。
【0037】
クラスター抽出工程S4では、データを縮約することで抽出した地形特徴や波長特性を主成分として整理を行う。複数の波長帯、例えば、4つの波長帯(1km以上、1~100km、1~50km、1~20km)を用い、合計寄与率が90%以上となる主成分を選定する。そして、この主成分による合成図を用いて、クラスター分類を実施し、既知鉱床を含むクラスター領域を抽出する。
【0038】
より具体的には、クラスター抽出工程S4では、情報を縮約するために統計的手法である主成分分析を用いる。主成分分析では、複数の入力データ(変数)に対し、複数の相関のある係数(固有ベクトル:ばらつきの最大となる方向)を定めることができ、情報を持つ順番に、第1主成分、第2主成分、第3主成分、第n主成分とされる。主成分分析は、例えば、以下の手順で行う。
(1)まず、全てのデータの平均値となる重心を算出する。
(2)次に、上述した重心からデータの分散(ばらつき)が最大となる方向である第1主成分を算出する。
(3)上述した第1主成分と直角に交わる(直交)方向で分散が最大となる箇所である第2主成分を算出する。
(4)最も近い主成分と直交する方向で分散が最大となる箇所である第3主成分を算出する。
(5)(4)を主成分の数(次元数)だけ繰り返す。
また、
図7に示すように、入力データに対し、ばらつきが最大になる軸を第1主成分軸、それに直交する軸を第2主成分軸として、主成分軸で説明できるデータの割合を寄与率と称する。
【0039】
こうした方法は入力データ間に相関がある場合に有効な手法である。本実施形態では、周波数解析により区分された波長帯の結果のみを使用し、既知鉱床に関連のある主成分の選定を行った。長波長成分に比べると短波長成分は全体への影響が小さいため、短波長成分を残すように、1km以上、100~1km、50~1km、20~1kmと区分している。
【0040】
入力データには振幅強度(各波長帯の平均値を0に変換し、絶対値に変換)を用いた。振幅強度を用いた理由は、データの取り扱いやその後のクラスター分類の解釈を容易にするためである。振幅強度は短波長を含んでいるため、マウンド地形の頂部や小構造では相対的に高い。また、地形の起伏が大きいエリアでも振幅強度は高くなる。振幅強度を標準化(基準化)した後、これらを入力データとした主成分分析を実施する。
表1に主成分分析結果の一例を、表2に各波長帯の相関係数の一例をそれぞれ示す。
【0041】
【0042】
【0043】
表1、表2に示す結果によれば、入力データである波長帯間には相関があり、50~1km、20~1kmが最も高く、次いで100~1kmとなる。第1主成分は各波長帯のいずれの成分も含まれており、主として短波長を示すと考えられるが、小~大規模構造も高くなっているため、一般的な地形特徴を表す成分と考えられる。寄与率は約60%に達する。
【0044】
第2主成分は長波長成分を含む1km以上の波長帯が主となり、この海底地形のトレンドを表している。第3主成分は100~1kmと20~1kmで逆相関を示し、主として小規模構造の周辺や中規模構造を表すと考えられる。
【0045】
第4主成分は50~1kmの波長帯が主となり、中規模構造の縁辺部や陸棚側の平地を表すものと考えられる。第1~第3主成分を合わせると累積寄与率は90%以上となり、本解析範囲の地形特徴の大部分を表すことが可能である。
【0046】
そして、類似した波長帯を構成するエリアを分類するために、統計的に自然なクラス分けが可能なクラスター分類を行う。既知鉱床と類似する領域(クラスター)については、その分布範囲、形状、面積等の評価を別途行なえばよい。クラスター分類の手法は、設定したクラスター数に応じて自動的に平均値が割り振られ、距離や確率等を考慮して、各セルを平均値に近いクラスターに分類、再平均化という流れを反復処理することによって自動的に分類する手法となる。
【0047】
入力データには主成分分析で求められた第1~3主成分を使用し、クラスター数を例えば8に設定してクラスター分類を行ったマップを作成する。クラスター分類結果におけるクラスター別主成分得点の平均値の一例を
図8に示す。
【0048】
(断層抽出工程S5)
断層抽出工程S5では、クラスター抽出工程S4の第3候補メッシュのうち、海底の不連続構造を含む第4候補メッシュを抽出する。
例えば、
図9に示すように、地形陰影図による判読では抽出できない潜在的な不連続構造を波長から抽出する。そして、複数波長帯のうち、調査範囲の地質構造を反映すると想定される2波長を選定し、リニアメントを抽出する。
【0049】
また、海嶺では横ずれ断層で海嶺軸が分断される海嶺セグメント構造が知られており、この不連続構造を調査海域に応用する。例えば、
図10に示すように、地形解析、波長解析によるリニアメントより、海底のトラフ軸(船状地形の伸長軸)を分断する不連続構造を推定する。そして、既知鉱床は、不連続構造もしくは火山地形に分布するという知見に基づいて、鉱床有望抽出域を選定する。
【0050】
また、断層抽出工程S5では、陸上鉱床の研究例から、鉱床は横ずれによる陥没や屈曲構造に関連することが知られているため、調査海域の横ずれ屈曲構造を推定する。例えば、
図11に示すように、リニアメントや不連続構造から、横ずれ方向を推定し、屈曲による凹凸地形を抽出する。一部の既知鉱床は屈曲による凹凸地形に含まれる。
こうした断層抽出工程S5まで候補として残った第4候補メッシュは、海洋鉱物資源の鉱床有望域とされる。
【実施例0051】
上述した海洋鉱物資源の解析方法によって、実際に海底熱水鉱床が発見されている海域に対して、船舶に設置した音響測深機の海底地形データを1.8km四方のメッシュ17466個に区画して解析を行った。海底熱水鉱床とは、地下深部に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、地殻から有用元素を抽出した「熱水」が海底に噴出し、周辺の海水によって冷却される過程で、銅、鉛、亜鉛、金、銀等の各種金属が沈殿してできたものである。
その結果、地形特徴量抽出工程S2で637個(3.6%)のメッシュが選択され、地形波長抽出工程S3で303個(1.7%)のメッシュが選択され、クラスター抽出工程S4で226個(1.3%)のメッシュが選択され、断層抽出工程S5を経て、最終的に38個(0.2%)のメッシュが海洋鉱物資源の鉱床有望域として残った。こうした鉱床有望域は、実際に海洋鉱物資源の鉱床分布位置と一部整合的であることが確認できた。よって、本発明の一実施形態の海洋鉱物資源の解析方法の有用性が確認できた。
本発明の海洋鉱物資源の解析方法は、既知の海洋鉱物資源の分布位置を用いて、船舶に設置した音響測深機によって得られた海底地形データから、海洋鉱物資源が存在する可能性のある鉱床有望域を短時間で効率的に抽出し、海洋鉱物資源を低コストで効率的に発見することに寄与する。従って、産業上の利用可能性を有する。