(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022201
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】インバータ装置、並びにモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240208BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125611
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李 東昇
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 佳邦
(72)【発明者】
【氏名】高木 純一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA01
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA03
5H770GA16
5H770GA19
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770LB02
(57)【要約】
【課題】
デッドタイム補償量の設定精度を向上できるインバータ装置を提供する。
【解決手段】
このインバータ装置(1)は、直流電力を交流電力に変換して交流電力を負荷(3)に出力し、デッドタイム補償機能を備える制御部(7)によって制御されるものであって、制御部(7)は、所定周波数の正弦波電流指令に応じた出力電流に含まれる第3次高調波成分に基いて、デッドタイム補償量を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換して前記交流電力を負荷に出力し、デッドタイム補償機能を備える制御部によって制御されるインバータ装置において、
前記制御部は、
所定周波数の正弦波電流指令に応じた出力電流に含まれる第3次高調波成分に基いて、デッドタイム補償量を生成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記制御部は、
前記正弦波電流指令に対して同位相である3倍周波数の正弦波信号を生成し、前記出力電流と前記正弦波信号との乗算値から、前記第3次高調波成分に関わる特徴量を算出して、前記特徴量に基づいて前記デッドタイム補償量を生成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインバータ装置において、
前記制御部は、
前記特徴量を低減するように、前記デッドタイム補償量を生成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のインバータ装置において、
前記特徴量は、前記乗算値における直流成分であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のインバータ装置において、
前記交流電力は三相交流電力であり、
前記正弦波電流指令は、d軸電流指令もしくはq軸電流指令であり、
前記出力電流は、d軸電流指令もしくはq軸電流指令であることを特徴とするインバータ装置。
【請求項6】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記インバータ装置に三相インバータを採用する場合は、
前記交流電力は三相交流電力であり、
前記制御部は、主回路における三相分の上下アームの内、一相分をオフ状態にして、前記デッドタイム補償量を生成することを特徴とするインバータ装置。
【請求項7】
請求項1のインバータ装置において、
前記制御部は、
生成した前記デッドタイム補償量を記憶部に保存し、
前記記憶部に保存された前記デッドタイム補償量を用いて、前記デッドタイム補償を実行することを特徴とするインバータ装置。
【請求項8】
インバータ装置によって交流モータを駆動するモータ駆動装置において、
前記インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換して前記交流電力を前記交流モータに出力し、デッドタイム補償機能を備える制御部によって制御され、
前記制御部は、
所定周波数の正弦波電流指令に応じた出力電流に含まれる第3次高調波成分に基いて、デッドタイム補償量を生成することを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項9】
請求項8に記載のモータ駆動装置において、
前記制御部は、
前記交流モータの停止時に、前記デッドタイム補償量を生成することを特徴とするモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置、並びにインバータ装置が用いられるモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置の動作時には、上下アームが短絡しないように、上下アームにおける半導体スイッチング素子を同時にオフするデッドタイムが設定される。デッドタイムが設定されると、制御器において生成される電圧指令値と、インバータ装置の出力電圧との間に誤差電圧が生じる。このため、インバータ装置の出力電流に波形歪が発生する。このような、波形歪を低減するために、制御器は、デッドタイム補償を行う。
【0003】
デッドタイム補償においては、出力電流の極性に応じて、電圧指令値に、所定のデッドタイム補償量が加算される。デッドタイム補償量の大きさは、デッドタイムのほか、半導体スイッチング素子の特性やそのばらつきに影響される。このため、デッドタイム補償量を設定するために、予め、半導体スイッチング素子の特性が調査もしくは測定されたり、デッドタイム設定に伴う誤差電圧が実測されたりする。
【0004】
これに対し、制御器によってデッドタイム補償量を設定する従来技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。本技術においては、電力変換器からモータに流れ込むモータ電流に発生する電流脈動の値と電流指令値との差が所定の基準値よりも小さくなるように、補償電圧の振幅を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、デッドタイム補償に伴うモータ電流における6次の高調波成分に基づき、デッドタイム補償量が設定される。このため、モータの誘起電圧の歪、磁気飽和特性や負荷トルクの脈動などに起因するモータ電流における6次の高調波成分によって、デッドタイム補償量の設定精度を確保することが難しくなる。
【0007】
そこで、本発明は、デッドタイム補償量の設定精度を向上できるインバータ装置、並びにこのようなインバータ装置を用いるモータ駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によるインバータ装置は、直流電力を交流電力に変換して交流電力を負荷に出力し、デッドタイム補償機能を備える制御部によって制御されるものであって、制御部は、所定周波数の正弦波電流指令に応じた出力電流に含まれる第3次高調波成分に基いて、デッドタイム補償量を生成する。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明によるモータ駆動装置は、インバータ装置によって交流モータを駆動するものであって、インバータ装置は、直流電力を交流電力に変換して交流電力を交流モータに出力し、デッドタイム補償機能を備える制御部によって制御され、制御部は、所定周波数の正弦波電流指令に応じた出力電流に含まれる第3次高調波成分に基いて、デッドタイム補償量を生成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、デッドタイム補償量の設定精度が向上する。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1であるインバータ装置の構成を示す回路図である。
【
図2】制御器7(
図1)の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】電流指令発生器10(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】電流制御器11(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】デッドタイム補償器13(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】デッドタイム補償量同定器15(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【
図7】デッドタイム補償量同定器15(
図6)の動作を示す波形図である。
【
図8】デッドタイム補償量同定器15(
図6)の動作時における、ローパスフィルタ27(
図6)の出力波形33の一例と、対応するデッドタイム補償量の波形34の一例とを示す。
【
図9】実施例2であるインバータ装置の構成を示す回路図である。
【
図10】制御器45(
図9)の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】実施例3であるモータ駆動装置の全体構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、下記の実施例1~3により、図面を用いながら説明する。各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0014】
以下に説明するように、各実施例においては、インバータ装置が出力する電流に含まれる第3次高調波成分に基づいて、デッドタイム補償量が設定される。
【実施例0015】
図1は、本発明の実施例1であるインバータ装置の構成を示す回路図である。
【0016】
インバータ装置1は、直流電源2と負荷3との間に接続され、負荷3に単相交流電流を出力する。本実施例1においては、負荷3は、インダクタと抵抗の直列回路としているが、例えば、モータの巻線である。
【0017】
インバータ装置1は、電圧検出器4と、複数のアーム5と、電流検出器6と、制御器7とを備えている。
【0018】
複数(本実施例では4個)のアーム5の各々は、半導体スイッチング素子と還流ダイオードの並列回路から構成される。本実施例1では、4個のアーム5における4個の半導体スイッチング素子がフルブリッジ接続されて、単相インバータ主回路を構成する。なお、本実施例1では、半導体スイッチング素子として、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が適用される。
【0019】
電圧検出器4は、直流電源2の直流電源電圧、すなわち、単相インバータ主回路への直流入力電圧を検出する。また、電流検出器6は、インバータ装置1における単相インバータ主回路から負荷3への単相交流出力電流、すなわち負荷電流を検出する。
【0020】
制御器7には、電圧検出器4からの直流電圧検出信号と、電流検出器6からの出力電流検出信号とが入力される。制御器7は、直流電圧検出値および交流出力電流検出値に基づいて、単相インバータ主回路のスイッチングを制御するPWM(パルス幅変調)信号を生成して出力する。このPWM信号によって、単相インバータ主回路を構成する各半導体スイッチング素子のオン・オフが制御されることにより、直流電源2から入力される直流電力が単相交流電力に変換される。
【0021】
図2は、制御器7(
図1)の概略構成を示す機能ブロック図である。
【0022】
図2に示すように、制御器7は、電流指令発生器10と、電流制御器11と、変調率演算器12と、デッドタイム補償器13と、PWM制御器14と、デッドタイム補償量同定器15とを備える。
【0023】
以下、各部の詳細構成について説明する。
【0024】
図3は、電流指令発生器10(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【0025】
位相演算器17は、電流指令周波数設定部16にあらかじめ設定されている周波数(f1)に基づいて、積分演算により、位相(θ1)を算出する。なお、f1は、インバータ装置の出力周波数または負荷3の動作周波数などに基づいて設定される。例えば、f1は定格周波数に設定される。
【0026】
正弦波演算器18Aは、位相演算器17によって算出された位相(θ1)に基づいて、正弦波信号(sin(θ1))を生成する。正弦波演算器18Aによって生成された正弦波信号(sin(θ1))は、増幅器19によって、Iamp倍に増幅される。これにより、電流指令発生器10は、式(1)で表される正弦波電流指令i_refを生成する。なお、Iampは、電流指令の振幅値である。
【0027】
位相演算器17によって算出された位相(θ1)は、増幅器20によって、3倍に増幅される。正弦波演算器18Aは、3倍に増幅された位相に基づいて、正弦波信号(sin(3θ1))を生成する。これにより、電流指令発生器10は、式(2)で表される、i_refに対して同位相で3倍周波数の正弦波信号sin_3を生成する。正弦波信号sin_3は、後述するように(
図6)、デッドタイム補償量同定器15(
図2)において、デッドタイム補償量dt_compを生成するために用いられる。
【0028】
【0029】
【0030】
電流指令発生器10は、インバータ装置1がデッドタイム補償量を同定する動作モードに設定された場合に動作する。インバータ装置1の通常動作においては、負荷3に対する動作指令、例えば、負荷3がモータである場合は速度指令やトルク指令、に応じて電流指令を生成する他の電流指令発生部が動作する。
【0031】
なお、インバータ装置1を一定周波数f1で動作させる場合には、電流指令発生器10は、デッドタイム補償量同定時と通常動作時の両方において用いられてもよい。
【0032】
図4は、電流制御器11(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【0033】
電流制御器11は、電流指令発生器10(
図3)からの電流指令i_refと、電流検出器6(
図1)からの出力電流検出信号すなわち交流電流検出信号i_fbとの偏差(=i_ref-i_fb:
図2参照)が零になるように、PI制御器21およびS制御器22によって、電圧指令v_refを生成する。電流制御器11の伝達関数は、式(3)によって表される。式(3)中、K
P,K
I,K
S,K
Tは、制御ゲインであり、sはラプラス演算子である。
【0034】
【0035】
式(3)の右辺において、第1および第2項は、PI制御器21の伝達関数であり、第3項はS制御器22の伝達関数である。この第3項が示すように、S制御器22は、周波数f1の信号成分に対して大きなゲインを示すため、電流制御の精度が向上する。
【0036】
なお、PI制御器およびS制御器に代えて、電流指令i_refと、交流電流検出信号i_fbとの偏差を零にするように動作する他の制御器、例えば繰り返し制御器などを適用してもよい。
【0037】
図2に示すように、変調率演算器12は、電流制御器11(
図4)が生成した電圧指令v_refと、電圧検出器4(
図1)からの直流電圧信号Vdcとに基づいて、式(4)で表される変調率指令、すなわちPWM制御における変調波m_refを生成する。
【0038】
【0039】
図5は、デッドタイム補償器13(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【0040】
デッドタイム補償器13は、極性判定器24によって、電流指令発生器10(
図3)からの電流指令i_refの極性を判定する。さらに、デッドタイム補償器13は、判定した電流指令i_refの極性に応じて、切替器23によって、後述するデッドタイム補償量dt_compの正負を設定する。すなわち、i_refの極性に応じて、切替器23によって、dt_compおよび-dt_compのいずれか一方が、選択される。デッドタイム補償器13は、変調率演算器12によって生成された変調波m_refに、切替器23によって正負が設定されたデッドタイム補償量を加算することにより、デッドタイム補償された変調波m_ref_dtを生成する。このようにして、デッドタイム補償器13はデッドタイム補償を実行する。
【0041】
図2に示すように、PWM制御器14は、デッドタイム補償器13によってデッドタイム補償された変調波m_ref_dtに基づいて、PWM信号を生成する。なお、PWM制御器14は、変調波m_ref_dtと図示しない搬送波とを比較することにより、PWM信号を生成する。
【0042】
図6は、デッドタイム補償量同定器15(
図2)の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【0043】
デッドタイム補償量同定器15は、乗算器26によって、交流電流検出信号i_fbと電流指令発生器10(
図3)からの正弦波信号sin_3とを乗算し、その結果である乗算値(=i_fb×sin_3=i_fb×sin(3×θ1))から、ローパスフィルタ27によって、デッドタイム補償誤差に起因する電流波形歪みに対応する直流成分を抽出する。デッドタイム補償量同定器15は、さらに、零とこの直流成分との偏差に基づいて、この偏差を零にするように、すなわち直流成分を無くすように、積分制御器28によってデッドタイム補償量dt_compを生成する。
【0044】
本発明者の検討によれば、デッドタイム設定によりインバータ装置1の出力電流の波形が歪む場合、交流電流検出信号i_fbに含まれる第3次高調波成分と正弦波信号sin_3とが乗算されると生成される直流成分と、デッドタイム補償量との間には相関があり、この直流成分が零に近づくとデッドタイム補償量が適正値に近づく。
【0045】
本実施例1では、交流電流検出信号i_fbと正弦波信号sin_3の乗算値の一特徴量である直流成分を抽出しているが、デッドタイム補償量との間に相関があれば、他の特徴量を抽出してもよい。例えば、交流電流検出信号i_fbに含まれる第3次高調波成分と正弦波信号sin_3とが乗算されると生成される周波数成分の振幅などでもよい。
【0046】
次に、デッドタイム補償量同定器15の動作について説明する。
【0047】
図7は、デッドタイム補償量同定器15(
図6)の動作を示す波形図である。なお、本波形図は、本発明者の検討によるものである。
【0048】
図7においては、デッドタイム補償量が過大な場合、デッドタイム補償量が過小な場合、デッドタイム補償量が適正な場合について、デッドタイム補償量同定器15の動作を示す。各場合において、図中、上から、交流電流検出値(i_fb)すなわち出力電流の波形、正弦波信号sin_3の波形、乗算器26(
図6)による乗算値(=i_fb×sin_3)の波形、ローパスフィルタ27(
図6)によって乗算値から抽出された直流成分の波形、が示される。
【0049】
デッドタイム補償量が過大な場合(
図7中の左図)において、デッドタイム補償量は適正値の150%に設定されている。この場合、過大なデッドタイム補償量により、出力電流波形30の極性が切り替わる時点(例えば、時刻2.58sec)の前後において、出力電流の大きさは、波形歪のために、正弦波よりも大きくなる。このため、乗算値32の正の成分が多くなるため、ローパスフィルタ27(
図6)の出力波形33すなわち乗算値32から抽出された直流成分が正値を示す。
【0050】
デッドタイム補償量が過小な場合(
図7中の中央図)において、デッドタイム補償量は適正値の50%に設定されている。この場合、過小なデッドタイム補償量により、出力電流波形30の極性が切り替える時点(例えば、時刻2.58sec)の前後において、出力電流の大きさは、波形歪のために、正弦波より小さくなる。このため、乗算値32の負の成分が多くなるため、ローパスフィルタ27(
図6)の出力波形33すなわち乗算値32から抽出された直流成分が負値を示す。
【0051】
デッドタイム補償量が適正値である場合(
図7の右図)においては、乗算値32が零付近の値を示す。このため、ローパスフィルタ27(
図6)の出力波形33すなわち乗算値32から抽出された直流成分が略零となる。
【0052】
図7に示すように、ローパスフィルタが出力する直流成分の大きさと、デッドタイム補償量とは、相関している。したがって、ローパスフィルタ27(
図6)が出力する直流成分を零にするようなデッドタイム補償量、すなわち積分制御器28(
図6)が出力するデッドタイム補償量dt_compは適正値を有する。
【0053】
図8は、デッドタイム補償量同定器15(
図6)の動作時における、ローパスフィルタ27(
図6)の出力波形33の一例と、対応するデッドタイム補償量の波形34の一例とを示す。なお、
図8中の破線は、デッドタイム補償量の適正値35を示す。
【0054】
図8の例では、デッドタイム補償量同定器15が動作を開始してから約0.75sec後に、ローパスフィルタ27の出力波形33の直流成分が略零になり、デッドタイム補償量が初期値(適正値の50%)から適正値になる。
【0055】
デッドタイム補償量同定器15(
図6)の動作により得られた、適正値を有するデッドタイム補償量は、制御器7が有する記憶部(図示せず)に保存される。保存されたデッドタイム補償量を用いて、デッドタイム補償器13(
図2,5)はデッドタイム補償を実行する。
【0056】
なお、インバータ装置1の動作モードとして、デッドタイム補償量同定動作モードを設け、デッドタイム補償量同定動作モードの際に、上述のようにデッドタイム補償量の適正値が同定される。
【0057】
デッドタイム補償量同定動作モードは、インバータ装置1において、デッドタイム補償量同定時に所定の操作により設定されてもよいし、負荷3の起動時ごとに設定されてもよい。
【0058】
また、デッドタイム補償量同定器15は、負荷の動作中、ダイナミックにデッドタイム補償量を算出してもよい。これにより、インバータ装置の動作状態や使用環境に応じて、半導体スイッチング素子の温度特性がデッドタイム補償量に影響する場合においても、デッドタイム補償量の適正値を高精度に同定できる。
【0059】
なお、負荷がモータである場合、モータを停止させて、デッドタイム補償量の適正値を同定することが好ましい。これにより、モータの回転に伴う高調波の影響が防止されるので、デッドタイム補償量の適正値を高精度に同定できる。
【0060】
上述のように、実施例1によれば、正弦波の電流指令に応じた出力電流に含まれる第3次高調波成分に基づいてデッドタイム補償量が設定される。これにより、デッドタイム補償量の設定精度を向上できる。したがって、デッドタイムの設定にともなって発生する出力電流の波形歪が抑制される。
【0061】
また、実施例1によれば、交流電流検出信号i_fbすなわち出力電流に、電流指令の周波数の3倍周波数の正弦波信号(sin_3)を乗算することにより、出力電流に含まれる第三次高調波成分に応じて生成される直流成分に基づいてデッドタイム補償量が設定される。これにより、デッドタイム補償量を、高精度で適正値に設定できる。
【0062】
なお、本実施例1においては、デッドタイム補償量設定を含むデッドタイム補償においては、電流制御に用いられる電流検出器6が用いられる。したがって、インバータ装置において使用する検出器の個数が、デッドタイム補償に伴って増えることはない。
インバータ装置41は、直流電源40と負荷42との間に接続され、負荷42に三相交流電流を出力する。本実施例2において、負荷42は、スター結線された、インダクタと抵抗の直列回路(3個)からなるが、例えば、三相交流モータの三相巻線である。
複数(本実施例では6個)のアームの各々は、半導体スイッチング素子と還流ダイオードの並列回路から構成される。本実施例2では、6個のアーム5における6個の半導体スイッチング素子が三相フルブリッジ接続されて、三相インバータ主回路を構成する。
電圧検出器43は、直流電源40の直流電源電圧、すなわち、三相インバータ主回路への直流入力電圧を検出する。また、電流検出器44は、インバータ装置41における三相インバータ主回路から負荷42への三相交流出力電流、すなわち三相負荷電流の内の二相分を検出する。
制御器45には、電圧検出器43からの直流電圧検出信号と、電流検出器44からの出力電流検出信号とが入力される。制御器45は、入力した直流電圧検出信号および出力電流検出信号が示す、それぞれ直流電圧検出値および交流出力電流検出値に基づいて、三相インバータ主回路のスイッチングを制御するPWM信号を生成して出力する。このPWM信号によって、三相インバータ主回路を構成する各半導体スイッチング素子のオン・オフが制御されることにより、直流電源2から入力される直流電力が三相交流電力に変換される。
上述の実施例2によれば、三相インバータ装置におけるデッドタイム補償量の設定精度を向上できる。したがって、デッドタイムの設定にともなって発生する三相出力電流の波形歪が抑制される。
また、実施例2によれば、デッドタイム補償量設定時に、d軸電流指令値Iq*=0として、負荷42、例えば三相交流モータの動作を抑えている。これにより、負荷42の駆動に伴って発生する高調波成分の影響を防止されるので、デッドタイム補償量の設定精度が向上する。
なお、上述の実施例2に代えて、三相インバータ主回路における任意の1相分の上下アームの半導体スイッチング素子をオフ状態にして、他の2相分に対し、実施例1における単相インバータに対するデッドタイム補償量設定手段を適用してもよい。