IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特開2024-22229熱可塑性樹脂組成物、及びそれを含む車両内装部材
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022229
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、及びそれを含む車両内装部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20240208BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 33/18 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L51/00
C08L23/22
C08L69/00
C08L55/02
C08L53/00
C08L33/18
C08L25/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125659
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰央
(72)【発明者】
【氏名】中林 裕晴
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC06Y
4J002BG10W
4J002BN12W
4J002BN15W
4J002BP01Y
4J002CG00X
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】高温条件下に長期間曝された場合の黄変を抑制し得る熱可塑性樹脂組成物、及びそれを含む車両内装部材を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリアクリル系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(B)、及びイソブチレン系共重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物において、ポリアクリル系樹脂(A)は、アクリロニトリル及びスチレンを含み、イソブチレン系共重合体(C)は、イソブチレンを主体とする重合体ブロック及び芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを含み、120℃で330時間加熱処理した際のイエローインデックスの変化値が30以下である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(B)、及びイソブチレン系共重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物において、
ポリアクリル系樹脂(A)は、アクリロニトリル及びスチレンを含み、
イソブチレン系共重合体(C)は、イソブチレンを主体とする重合体ブロック及び芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを含み、
120℃で330時間加熱処理した際のイエローインデックスの変化値が30以下である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアクリル系樹脂(A)及びポリカーボネート系樹脂(B)の合計100重量部に対し、イソブチレン系共重合体(C)を1重量部以上10重量部未満含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
イソブチレン系ブロック重合体(C)の数平均分子量が20,000~150,000である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアクリル系樹脂(A)は、アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン共重合体、及びアクリロニトリル-スチレン共重合体からなる群から選択される1以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ポリカーボネート系樹脂(B)は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン由来の構成単位を含む、請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物を含む車両内装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の内装部材に用いる熱可塑性樹脂組成物、及びそれを含む車両内装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、耐衝撃性、加工性や機械的特性等に優れることから自動車等の車両の内装部材等に広く使用されている。例えば、特許文献1には、ゴム強化スチレン系樹脂とポリカーボネートのアロイ樹脂を用いた車両内装部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-138846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のゴム強化スチレン系樹脂とポリカーボネート系樹脂のアロイ樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物は、高温条件下に長期間曝された場合黄変するおそれがあった。
【0005】
本発明は、上述した従来の問題を解決するため、高温条件下に長期間曝された場合の黄変を抑制し得る熱可塑性樹脂組成物、及びそれを含む車両内装部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリアクリル系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(B)、及びイソブチレン系共重合体(C)を含む熱可塑性樹脂組成物において、ポリアクリル系樹脂(A)は、アクリロニトリル及びスチレンを含み、イソブチレン系共重合体(C)は、イソブチレンを主体とする重合体ブロック及び芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを含み、120℃で330時間加熱処理した際のイエローインデックスの変化値が30以下である熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0007】
本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を含む車両内装部材に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、高温条件下に長期間曝された場合の黄変を抑制し得る熱可塑性樹脂組成物、及びそれを含む車両内装部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、熱劣化しやすいポリアクリル系樹脂(A)及びポリカーボネート系樹脂(B)と、イソブチレンを主体とする重合体ブロック及び芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを含むイソブチレン系共重合体を併用した熱可塑性樹脂組成物は、高温条件下に長期間曝された場合の黄変が抑制されることを見出した。本発明の発明者は、特に驚くことに、1以上の好適な実施形態において、熱劣化しやすいポリカーボネート系樹脂及びポリアクリル系樹脂に、イソブチレン系共重合体を少量配合した熱可塑性樹脂組成物の場合において、イソブチレン系共重合体が熱安定剤の機能を発揮し、該熱可塑性樹脂組成物を高温条件下に長期間曝された場合の黄変が抑制されることを見出した。
【0010】
本明細書において、数値範囲が「~」で示されている場合、該数値範囲は両端値(上限及び下限)を含む。例えば、「x~y」という数値範囲は、x及びyという両端値を含む範囲となる。また、本明細書において、数値範囲が複数記載されている場合、異なる数値範囲の上限及び下限を適宜組み合わせた数値範囲を含むものとする。
【0011】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアクリル系樹脂(A)、ポリカーボネート系樹脂(B)及びイソブチレン系共重合体(C)を含む。
【0012】
[ポリアクリル系樹脂(A)]
ポリアクリル系樹脂(A)(以下において、単に「A成分」とも記す。)は、アクリルニトリル及びスチレンを含有する樹脂であればよく、特に限定されない。耐衝撃性の観点から、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)、AS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)等からなる群から選ばれる1以上がより好ましく、ABS樹脂、及びAS樹脂からなる群から選択される1以上であることがさらに好ましい。以下において、特に指摘がない場合、ポリアクリル系樹脂(B)は、アクリルニトリル及びスチレンを含有する樹脂を意味する。
【0013】
[ポリカーボネート系樹脂(B)]
ポリカーボネート系樹脂(B)(以下において、単に「B成分」とも記す。)としては、特に限定されず、フェノール性水酸基を2個有する化合物(以下、2価フェノールともいう。)より誘導されるポリカーボネート系樹脂を適宜用いることができる。一般的に、2価フェノールとホスゲン、又は2価フェノールと炭酸ジエステルとの反応により得られる樹脂を用いることができる。
【0014】
前記2価フェノールとしては、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等が挙げられる。これらの中でもビスフェノールAが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0015】
ポリカーボネート系樹脂は、耐衝撃性、耐薬品性及び成形加工性等の観点から、数平均分子量が10,000以上60,000以下であることが好ましく、10,000以上30,000以下であることがより好ましい。
【0016】
自動車等の車両内装部材として使用する際の耐衝撃性及び寸法安定性の観点から、A成分及びB成分の合計量を100重量%とした場合、A成分の含有量が20~90重量%、及びB成分の含有量が10~80重量%であることが好ましく、A成分の含有量が30~85重量%、及びB成分の含有量が15~70重量%であることがより好ましく、A成分の含有量が40~80重量%、及びB成分の含有量が20~60重量%であることがさらにより好ましく、A成分の含有量が50~75重量%、及びB成分の含有量が25~50重量%であることがさらにより好ましい。
【0017】
[イソブチレン系共重合体(C)]
イソブチレン系共重合体(C)(以下、単にC成分とも記す。)は、イソブチレンを主体とする重合体ブロック及び芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを含む。
【0018】
イソブチレンを主体とする重合体ブロック(以下、単に「イソブチレン系重合体ブロックとも記す」)は、イソブチレンを50重量%より多く含み、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは90重量%以上を含み、イソブチレン100重量%からなるものでもよい。イソブチレン重合体ブロックにおいて、イソブチレン以外のモノマーとしては、例えば、イソブチレン以外のオレフィン系モノマー、芳香族ビニル化合物、ビニルエーテル化合物、β-ピネン等が挙げられる。イソブチレン以外のオレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等のモノオレフィン系モノマー;ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン(共役ジエン)系モノマー等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、後述するものが挙げられる。ビニルエーテル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0019】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(以下において、単に「芳香族ビニル系重合体ブロック」とも記す)、芳香族ビニル化合物を50重量%より多く含み、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは90重量%以上を含み、芳香族ビニル化合物100重量%からなるものでもよい。前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、インデン、ジビニルベンゼン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。中でも、前記芳香族ビニル化合物は、コストと物性及び生産性のバランスから、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びインデンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、さらに重合安定性及び汎用性の観点から、スチレンを含むことがより好ましい。芳香族ビニル系重合体ブロックにおいて、芳香族ビニル化合物以外のモノマー成分としては、例えば、オレフィン系モノマー、ビニルエーテル化合物、β-ピネン等が挙げられる。オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等のモノオレフィン系モノマー;ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン(共役ジエン)系モノマー等が挙げられる。ビニルエーテル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0020】
C成分は、熱安定効果をより高め、熱可塑性樹脂組成物の黄変をより効果的に抑制する観点から、イソブチレン系重合体ブロックを50~90重量%及び芳香族ビニル系重合体ブロックを10~50重量%含むことが好ましく、イソブチレン系重合体ブロックを55~85重量%及び芳香族ビニル系重合体ブロックを15~45重量%含むことがより好ましく、イソブチレン系重合体ブロックを60~80重量%及び芳香族ビニル系重合体ブロックを20~40重量%含むことがさらに好ましく、イソブチレン系重合体ブロックを60~70重量%及び芳香族ビニル系重合体ブロックを30~40重量%含むことがさらにより好ましい。
【0021】
C成分は、熱安定効果をより高め、熱可塑性樹脂組成物の黄変をより効果的に抑制する観点から、数平均分子量が20,000~150,000であることが好ましく、40,000~120,000であることがより好ましく、さらに好ましくは45,000~110,000であり、さらにより好ましくは50,000~100,000であり、さらにより好ましくは55,000~95,000である。本明細書において、数平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーで測定したポリエチレン換算数平均分子量を意味する。
【0022】
C成分は、特に限定されないが、熱安定効果、成形体の表面硬度、及びコスト等の観点から、A成分及びB成分の合計量100重量部に対して1重量部以上10重量部未満であることが好ましい。C成分の含有量が1重量部以上であれば、熱安定効果が高まり、高温下に長期間曝された場合の黄変をより効果的に抑制することができる。C成分の含有量が10重量部未満であれば、熱安定効果を高めつつ、コストを抑制することができ、また、成形体の表面硬度を良好にすることができる。C成分の含有量は、ポリカーボネート系樹脂及びポリアクリル系樹脂の合計量100重量部100重量部に対して1.2~9重量部であることがより好ましく、1.5~8重量部であることがさらに好ましく、1.8~7重量部であることがさらにより好ましく、2.0~6.5重量部であることがさらにより好ましく、2.2~6重量部であることがさらにより好ましい。
【0023】
(他の熱可塑性樹脂)
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、A成分、B成分及びC成分に加えて、他の熱可塑性樹脂を含んでもよい。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。これらの他の熱可塑性樹脂は1種又は2種以上を使用してもよい。他の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリカーボネート系樹脂及びポリアクリル系樹脂の合計量100重量部に対し、50重量部以下用いてもよい。
【0024】
(他の添加剤)
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、目的とする物性に応じて、他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤としては、例えば、無機充填材、微小中空粒子、酸化防止剤、可塑剤、反応性希釈剤、光安定剤、接着性付与剤、難燃剤、老化防止剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、発泡剤等が挙げられる。これらの他の添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。他の添加剤は、例えば、ポリカーボネート系樹脂及びポリアクリル系樹脂の合計量100重量部に対し、50重量部以下用いてもよい。
【0025】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、120℃で330時間加熱処理した際のイエローインデックスの変化値が30以下である。これにより、高温下に長期間曝された場合の黄変を抑制することができる。前記熱可塑性樹脂組成物の120℃で330時間加熱処理した際のイエローインデックスの変化値が28以下であることがより好ましく、26以下であることがさらにより好ましく、25以下であることがさらにより好ましい。本明細書において、イエローインデックスは、厚みが2mmの試験片を用い、JIS K 7105:1981に準拠して引張試験を実施し、測定することができる。イエローインデックスは、具体的には、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0026】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、高温下に長期間曝された場合の黄変をより効果的に抑制し得る観点から、150℃で170時間加熱処理した際のイエローインデックスの変化値が58以下であることが好ましく、56以下であることがより好ましく、50以下であることがさらにより好ましく、45以下であることがさらにより好ましい。
【0027】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、成形体の弾性を良好にしやすい観点から、JIS K 6251:2017に準拠して引張試験にて、ダンベル1号型の試験片を用い、引張速度500mm/分の条件下で測定した引張弾性率が500~5000MPaであることが好ましく、1000~3000MPaであることがより好ましく、1200~2000MPaであることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、成形体の強度を良好にしやすい観点から、JIS K 6251:2017に準拠して引張試験にて、ダンベル1号型の試験片を用い、引張速度500mm/分の条件下で測定した降伏強度が10~150MPaであることが好ましく、20~90MPaであることがより好ましく、40~70MPaであることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、成形体の柔軟性を良好にしやすい観点から、JIS K 6251:2017に準拠して引張試験にて、ダンベル1号型の試験片を用い、引張速度500mm/分の条件下で測定した破断伸度が1~150%であることが好ましく、3~120%であることがより好ましく、5~90%であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、成形体の靭性を良好にしやすい観点から、JIS K 7171:2016に準拠して曲げ試験にて、厚みが2mmの試験片を用い、試験速度2mm/分の条件下で測定した曲げ弾性率が500~5000MPaであることが好ましく、800~3500MPaであることがより好ましく、1200~2500MPaであることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の1以上の実施形態の熱可塑性樹脂組成物は、成形体の衝撃強度を良好にしやすい観点から、JIS K 7171-1:2016に準拠してシャルピー衝撃試験にて、厚みが4mmの試験片(ノッチ有り)を用い、公称振り子エネルギー4Jの条件下で測定したシャルピー衝撃強さが10~200KJ/m2であることが好ましく、15~100KJ/m2であることがより好ましく、20~80KJ/m2であることがさらに好ましい。
【0032】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法として、例えば3成分(A成分、B成分およびC成分)を同時に混合する方法や、事前にA成分とB成分の混合物であるコンパウンドを製造した後、これを(C)成分と混合する方法等が挙げられる。
【0033】
(車両内装部材)
車両内装部材は、前記熱可塑性樹脂組成物を含むことで、表面硬度が良好であり、熱安定性にも優れる。前記熱可塑性樹脂組成物を、射出成形等の成形方法にて所定の形状に成形して、自動車内装部材等の車両内装部材、具体的には車両内装部材の基材として好適に用いることができる。車両内装部材としては、例えば、自動車のインストルメントパネル、ドアトリム、トランクトリム、座席シート、ピラーカバー、天井材、リアトレイ、コンソールボックス、エアバッグカバー、アームレスト、ヘッドレスト、メーターカバー、クラッシュパッド等が挙げられる。
【実施例0034】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0035】
〔使用した材料〕
実施例及び比較例で用いた化合物は、下記のとおりである。
A成分及びB成分:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)とポリカーボネート(PC)のコンパウンド、東レ製「トヨラック PX10-X07」、ABS樹脂63重量%及びポリカーボネート37重量%の混合物、以下、PC/ABSとも記す。なお、コンパウンドPX10-X07中のA成分及びB成分の比率は、プロトンNMR測定結果より算出されたものである。
C成分1:スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体、カネカ製「SIBSTAR(登録商標) 062T-UC」
C成分2:スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体、カネカ製「SIBSTAR(登録商標) 102T-UC」
【0036】
〔測定方法及び評価方法〕
(1)加熱試験
150×150×2mmの試験片を恒温器(エスペック社製、「SSPH-201」)中で所定の温度、所定の時間加熱した。加熱後試験片を恒温恒湿室(23±5℃、RH55±10%)で1日以上保管した。
(2)イエローインデックス測定
JIS K 7105:1981に準拠して引張試験を実施し、分光測色計(スガ試験機製 SC-P)を用いて光源D65、測定孔径φ15mm、光学条件反射で2回測定を行い、その平均のイエローインデックスの値を読み取った。イエローインデックスの値が小さいほど黄変が少ない。また、下記数式(1)にてイエローインデックスの変化値を算出した。
イエローインデックスの変化値=YIa-YIb (1)
前記数式(1)において、YIaは、所定の温度で加熱した後の試験片のイエローインデックスであり、YIbは、所定の温度で加熱する前の試験片のイエローインデックスである。
(3)引張物性評価
JIS K 6251:2017に準拠して引張試験を実施し、引張弾性率、降伏強度および破断時伸びを測定した。測定用のサンプルには、ダンベル1号型に射出成形により成形した試験片を使用した。引張速度は500mm/分とした。
(4)曲げ試験
JIS K 7171:2016に準拠して曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を測定した。測定用のサンプルには、80×10×2mmに切り出した試験片を使用した。試験速度は2mm/分とした。
(5)シャルピー衝撃試験
JIS K 7111-1:2016に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、シャルピー衝撃強さを測定した。測定用のサンプルには、80×10×4mmに切り出し、Aノッチ加工を行った試験片を使用した。公称振り子エネルギーは4Jとした。
【0037】
(実施例1)
ABS樹脂とPCのコンパウンド9.5kgとスチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体(C成分1)0.5kgをドライブレンドした上で、80℃3時間予備乾燥を行った。続いてホッパーからブレンドしたサンプルを230℃に加熱した二軸押出機に投入して溶融混錬を行った。得られたストランドは水冷後にカットされて混錬ペレットを得た。
混錬ペレットを80℃6時間予備乾燥した後、240℃に加熱した射出成型機(日精樹脂工業社製、「NEX140」)を用いて加熱試験、曲げ試験、及びシャルピー衝撃試験用の試験片を成形した。
また同様に混錬ペレットを80℃6時間予備乾燥した後、240℃に加熱した射出成型機(日精樹脂工業社製、「NEX60」)を用いて引張物性評価用の試験片を成形した。
【0038】
(実施例2)
ABS樹脂とPCのコンパウンドの量を9.7kg、スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体(C成分1)の量を0.3kgに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、試験片を得た。
【0039】
(実施例3)
スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体をC成分2に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、試験片を得た。
【0040】
(実施例4)
スチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体をC成分2に変更した以外は、実施例2と同様の操作を行い、試験片を得た。
【0041】
(比較例1)
ABS樹脂とPCのコンパウンド10kgを80℃3時間予備乾燥を行った。続いてホッパーからブレンドしたサンプルを230℃に加熱した二軸押出機に投入して溶融混錬を行った。得られたストランドは水冷後にカットされて混錬ペレットを得た。
得られた混錬ペレットを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、試験片を得た。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1~4、比較例1の試験片は熱処理なしの状態ではイエローインデックスに違いはほぼ無かった。
実施例1~4の試験片に80℃500時間熱処理を加えたとき、比較例1の試験片に同様の熱処理を加えたときよりも、イエローインデックスで3~5の違いが観察され、実施例では高温下に長期間曝された際の黄変が改善できることが示唆された。
実施例1~4の試験片を120℃330時間加熱処理した際、比較例1の試験片を同様に加熱処理した場合に比べて、イエローインデックスで12~19の違いが観察され、実施例では高温下に長期間曝された際の黄変が改善できることが示唆された。
実施例1~4の試験片を150℃170時間加熱処理した際、比較例1の試験片を同様に加熱処理した場合に比べて、イエローインデックスで6~41の違いが観察され、実施例では高温下に長期間曝された際の黄変が改善できることが示唆された。