IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-水質分析装置 図1
  • 特開-水質分析装置 図2
  • 特開-水質分析装置 図3
  • 特開-水質分析装置 図4
  • 特開-水質分析装置 図5
  • 特開-水質分析装置 図6
  • 特開-水質分析装置 図7
  • 特開-水質分析装置 図8
  • 特開-水質分析装置 図9
  • 特開-水質分析装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022246
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】水質分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/53 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01N21/53 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125681
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュレスタ ソミ
(72)【発明者】
【氏名】小泉 和裕
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB05
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE07
2G059KK01
2G059MM14
2G059NN07
(57)【要約】
【課題】汚れによる検出信号の増減を補正できることが望ましい。
【解決手段】試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する水質分析装置であって、光を透過する壁部と、壁部に囲まれた内部空間とを有し、試料水が内部空間を通過するフローセルと、フローセルに向けて光を照射する光源と、試料水をフローセルに流した状態で、光源からフローセルに光源光を照射したときのフローセルからの被測定光に基づいて、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する濃度測定部と、測定対象物質の濃度が既知の参照水をフローセルに流した状態における、フローセルからの被測定光の光量に基づいて、フローセルの汚れによる光減衰量を検出する汚れ検出部と、フローセルの汚れによる光減衰量に基づいて、試料水を流した時の前記測定対象物質の濃度の測定結果を補正する汚れ補正部とを備える水質分析装置を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する水質分析装置であって、
光を透過する壁部と、前記壁部に囲まれた内部空間とを有し、前記試料水が前記内部空間を通過するフローセルと、
前記フローセルに向けて光を照射する光源と、
前記試料水を前記フローセルに流した状態で、前記光源から前記フローセルに光源光を照射したときの前記フローセルからの被測定光に基づいて、前記試料水に含まれる前記測定対象物質の濃度を測定する濃度測定部と、
前記測定対象物質の濃度が既知の参照水を前記フローセルに流した状態における、前記フローセルからの前記被測定光の光量に基づいて、前記フローセルの汚れによる光減衰量を検出する汚れ検出部と、
前記フローセルの汚れによる前記光減衰量に基づいて、前記試料水を流した時の前記測定対象物質の濃度の測定結果を補正する汚れ補正部
とを備える水質分析装置。
【請求項2】
前記汚れ補正部は、検出した前記フローセルの汚れによる前記光減衰量を保存して、次に前記フローセルの汚れによる前記光減衰量を検出するまでの間、保存した前記光減衰量を用いて前記測定対象物質の濃度の測定結果を補正する
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項3】
前記フローセルを洗浄する洗浄部を更に備え、
前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄後、前記試料水を流す前に、前記参照水を前記フローセルに流して前記光減衰量を検出する
請求項1または2に記載の水質分析装置。
【請求項4】
前記フローセルに入射する前記光源光の光量を検出する光源光量モニタを更に備え、前記汚れ検出部は、前記参照水を測定するときの前記光源光の前記光量を用いて前記光減衰量を検出する
請求項1または2に記載の水質分析装置。
【請求項5】
前記汚れ補正部は、過去に測定した前記光減衰量に応じた減衰情報の履歴を保持し、以後の前記光減衰量の予測を行う
請求項1に記載の水質分析装置。
【請求項6】
前記汚れ補正部は、前記光減衰量の予測値が許容値を超える時期を推定する
請求項5に記載の水質分析装置。
【請求項7】
前記フローセルを洗浄する洗浄部を更に備え、
前記汚れ検出部は、前記フローセルの洗浄後、前記試料水を流す前に、前記参照水を前記フローセルに流して前記光減衰量を検出し、
前記洗浄部は、前記光減衰量の予測に応じて洗浄方法を変更する
請求項5に記載の水質分析装置。
【請求項8】
前記洗浄方法を変更した場合の洗浄前後における前記光減衰量の変化に応じて、次の洗浄時の前記洗浄方法を選択する
請求項7に記載の水質分析装置。
【請求項9】
前記汚れ検出部は、洗浄から次の洗浄までの間に複数回にわたって前記参照水を用いて前記光減衰量を検出し、前記光減衰量の増加速度に基づいて、前記次の洗浄までの間の前記光減衰量の変化を予測し、
前記汚れ補正部は、前記光減衰量の変化の予測に基づいて、前記測定対象物質の濃度の測定結果を補正する
請求項3に記載の水質分析装置。
【請求項10】
洗浄から次の洗浄までの間の前記光減衰量の検出の際、前記参照水の流速を、前記試料水に含まれる前記測定対象物質の濃度を測定するときの前記試料水の流速以下にする
請求項9に記載の水質分析装置。
【請求項11】
洗浄から次の洗浄までの間の前記光減衰量の検出の際、前記参照水の流速を、洗浄時に流す洗浄水の流速以下にする
請求項9に記載の水質分析装置。
【請求項12】
前記洗浄部は前記光減衰量の検出結果に基づいて前記フローセルの洗浄が終了したか否かを判定し、前記フローセルの洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、前記洗浄部における洗浄方法を変更させる
請求項3に記載の水質分析装置。
【請求項13】
前記洗浄部は、過去に前記フローセルに流した前記試料水の履歴に基づいて、前記フローセルの洗浄方法を選択する
請求項3に記載の水質分析装置。
【請求項14】
前記フローセルを透過した透過光の光量である透過光量を検出する透過光検出部と、
前記参照水からの散乱光の光量である散乱光量を検出する散乱光量検出部を更に備え、
前記汚れ検出部は、前記フローセルに前記参照水を流した状態での前記透過光量と前記散乱光量に基づいて、前記フローセルの汚れによる前記光減衰量を検出する
請求項1または2に記載の水質分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料水の水質を分析する水質分析装置が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特許第6436266号公報
[特許文献2] 特開2007-46978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水質分析装置において試料水を流す部分に汚れが蓄積した場合、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を示す検出信号が変動してしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、水質分析装置を提供する。水質分析装置はフローセルを備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は光源を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は濃度測定部を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は汚れ検出部を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置は汚れ補正部を備えてよい。上記いずれかの水質分析装置において、フローセルは、光を透過する壁部を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、フローセルは、壁部に囲まれ、試料水が通過する内部空間を有してよい。上記いずれかの水質分析装置において、光源はフローセルに向けて光を照射してよい。上記いずれかの水質分析装置において、濃度測定部は、試料水をフローセルに流した状態で、光源からフローセルに光源光を照射したときのフローセルからの被測定光に基づいて、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定してよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ検出部は、測定対象物質の濃度が既知の参照水をフローセルに流した状態における、フローセルからの被測定光の光量に基づいて、フローセルの汚れによる光減衰量を検出してよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ補正部は、フローセルの汚れによる光減衰量に基づいて、試料水を流した時の測定対象物質の濃度の測定結果を補正してよい。
【0005】
上記いずれかの水質分析装置において、汚れ補正部は、検出したフローセルの汚れによる光減衰量を保存して、次にフローセルの汚れによる光減衰量を検出するまでの間、保存した光減衰量を用いて測定対象物質の濃度の測定結果を補正してよい。
【0006】
上記いずれかの水質分析装置は、洗浄部を更に備えてよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ検出部は、フローセルの洗浄後、試料水を流す前に、参照水をフローセルに流して光減衰量を検出してよい。
【0007】
上記いずれかの水質分析装置は、光源光量モニタを更に備えてよい。上記いずれかの水質分析装置において、光源光量モニタは、フローセルに入射する光源光の光量を検出してよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ検出部は、参照水を測定するときの光源光の光量を用いて光減衰量を検出してよい。
【0008】
上記いずれかの水質分析装置において、汚れ補正部は、過去に測定した光減衰量に応じた減衰情報の履歴を保持し、以後の光減衰量の予測を行ってよい。
【0009】
上記いずれかの水質分析装置において、汚れ補正部は、光減衰量の予測値が許容値を超える時期を推定してよい。
【0010】
上記いずれかの水質分析装置は、洗浄部を更に備えてよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ検出部は、フローセルの洗浄後、試料水を流す前に、参照水をフローセルに流して光減衰量を検出してよい。上記いずれかの水質分析装置において、洗浄部は、光減衰量の予測に応じて洗浄方法を変更してよい。
【0011】
上記いずれかの水質分析装置において、洗浄部は、洗浄方法を変更した場合の洗浄前後における光減衰量の変化に応じて、次の洗浄時の洗浄方法を選択してよい。
【0012】
上記いずれかの水質分析装置において、汚れ検出部は、洗浄から次の洗浄までの間に複数回にわたって参照水を用いて光減衰量を検出し、光減衰量の増加速度に基づいて、次の洗浄までの間の光減衰量の変化を予測してよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ補正部は、光減衰量の変化の予測に基づいて、測定対象物質の濃度の測定結果を補正してよい。
【0013】
上記いずれかの水質分析装置において、洗浄から次の洗浄までの間の光減衰量の検出の際、参照水の流速を、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定するときの試料水の流速以下にしてよい。
【0014】
上記いずれかの水質分析装置において、洗浄から次の洗浄までの間の光減衰量の検出の際、参照水の流速を、洗浄時に流す洗浄水の流速以下にしてよい。
【0015】
上記いずれかの水質分析装置において、洗浄部は光減衰量の検出結果に基づいてフローセルの洗浄が終了したか否かを判定し、フローセルの洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合に、洗浄部における洗浄方法を変更させてよい。
【0016】
上記いずれかの水質分析装置において、洗浄部は、過去にフローセルに流した試料水の履歴に基づいて、フローセルの洗浄方法を選択してよい。
【0017】
上記いずれかの水質分析装置は、透過光検出部と、散乱光量検出部とを更に備えてよい。上記いずれかの水質分析装置において、透過光検出部は、フローセルを透過した透過光の光量である透過光量を検出してよい。上記いずれかの水質分析装置において、散乱光量検出部は、参照水からの散乱光の光量である散乱光量を検出してよい。上記いずれかの水質分析装置において、汚れ検出部は、フローセルに参照水を流した状態での透過光量と散乱光量に基づいて、フローセルの汚れによる光減衰量を検出してよい。
【0018】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴のすべてを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一つの実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
図2】測定対象物質の濃度の測定結果に対する補正を説明する図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
図5図4の実施例における水質分析装置100の動作例を示すフローチャートである。
図6】本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
図7】過去の光減衰量に基づいて、以後の光減衰量の予測を行っている図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
図9】過去の光減衰量に基づいて、以後の光減衰量の予測を行う際の他の実施例を示す図である。
図10】本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。水質分析装置100は、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定する。本例の水質分析装置100は、光源10、フローセル20、濃度測定部36、透過光検出光学系70、透過光検出信号処理部72、汚れ検出部40および汚れ補正部42を備える。濃度測定部36は濃度検出光学系30および濃度検出信号処理部32を備える。濃度検出光学系30および透過光検出光学系70は、CCDまたはフォトダイオード等の受光素子を用いて、受光した光の光量を検出する装置である。本明細書において光量とは、所定の面を所定の単位時間内に通過する光束の総量(lm/S)であるが、光の強度(cd)を光量として用いてもよい。濃度検出光学系30および透過光検出光学系70は、検出した光量に応じた電気信号を出力する。濃度検出信号処理部32および透過光検出信号処理部72は、電気信号に対して増幅またはノイズ除去等の信号処理を行う。
【0022】
光源10は、フローセル20に向けて光91を照射する。フローセル20は、壁部22および内部空間24を有する。壁部22の少なくとも一部は、光源10が照射する光91の成分のうち、少なくとも一部を透過する材料で形成されている。壁部22の少なくとも一部は、例えばガラスで形成されている。壁部22は、光91が入射または出射する窓部と、窓部を支持する支持部とを有してよい。本明細書では、光91が入射または出射する窓部を、壁部22として説明する場合がある。内部空間24は、壁部22に囲まれている。内部空間24を試料水が通過する。一例として壁部22は筒形状を有する。図1では、壁部22および内部空間24の断面を模式的に示している。
【0023】
濃度検出光学系30は、フローセル20からの測定光92を検出する。濃度検出光学系30は、測定光92の少なくとも一つの波長における光量を測定する。測定光92は、フローセル20に試料水が存在する状態で光源10から光91を照射した場合に、フローセル20から射出する光である。測定光92は、試料水に含まれる測定対象物質に光91が照射されたことで、測定対象物質から射出される蛍光を含んでもよい。この場合、濃度検出光学系30は、光91とは異なる波長における測定光92の光量を測定してよい。
【0024】
濃度検出信号処理部32は、濃度検出光学系30における測定結果に基づいて、試料水に含まれる測定対象物質の濃度を算出する。試料水は、例えば上水道水、下水道水、海水、工場等の排水であるが、これに限定されない。試料水に多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:以下、PAH)等の蛍光物質が含まれている場合、試料水に紫外線の光91を照射すると、物質固有の波長の蛍光(測定光92)が発生する。蛍光強度は、含まれている蛍光物質の濃度に比例しているため、当該波長における測定光92の光量を測定することで、測定対象物質である蛍光物質の濃度を精度よく測定することができる。濃度検出信号処理部32は、測定結果を汚れ補正部42へ出力する。
【0025】
フローセル20の壁部22に汚れが生じると、当該汚れにより光91または測定光92の強度が減衰する。壁部22に上述した窓部が設けられている場合、壁部22の汚れとは、窓部の汚れを指している。壁部22の汚れとは、例えば壁部22の内面または外面に付着した異物である。光91または測定光92の強度が減衰すると、測定対象物質の濃度の測定結果に誤差が生じてしまう。このため、フローセル20の壁部22に生じている汚れの影響を補正できることが好ましい。
【0026】
汚れ検出部40は、壁部22における汚れを検出する。汚れ検出部40は、水質分析装置100における所定の動作をトリガとして壁部22の汚れを検出してよい。汚れ検出部40は、設定された検知期間が経過する毎に壁部22の汚れを検出してもよい。汚れ検出部40は、使用者等の指示に応じて壁部22の汚れを検出してもよい。
【0027】
汚れ検出部40が壁部22の汚れを検出する場合、光源10は、所定の波長成分を有する光91をフローセル20に向けて照射する。水質分析装置100は、壁部22の汚れを検出する場合に、フローセル20に測定対象物質の濃度が既知の参照水を流してよい。参照水の測定対象物質の濃度は濃度測定部36の測定限界または分解能以下であってよい。参照水の濁度は1FNU以下であってよい。汚れを検出する場合の光91の波長は、測定対象物質の蛍光を測定する場合の光91の波長とは異なっていてよい。光源10は、汚れを検出するための光91を照射する光源ユニットと、蛍光を検出するための光91を照射する光源ユニットとを有してよい。
【0028】
透過光検出光学系70は、光91がフローセル20に入射し、フローセル20を透過した透過光94を検出する。透過光検出光学系70は、光91がフローセル20の内部を直進して射出した光を、透過光94として検出してよい。壁部22には、光91が入射する窓部、測定光92が出射する窓部、および、透過光94が出射する窓部が設けられてよい。透過光検出光学系70は、透過光94の光量である透過光量を検出する。透過光検出光学系70は、設定された波長の透過光量を検出してよい。透過光検出光学系70は、透過光量を示す電気信号を汚れ検出部40に出力する。透過光検出信号処理部72は電気信号に対して増幅またはノイズ除去等の信号処理を行ってよい。なお濃度測定部36の代わりに透過光検出光学系70および透過光検出信号処理部72を用いて測定対象物質の濃度を検出してもよい。
【0029】
壁部22に汚れが付着すると、当該汚れにより光の強度が減衰するので、透過光94の透過光量は小さくなる。このため、光源10が出射した光91の光量に対して、透過光94の透過光量がどの程度減衰しているかを検出することで、壁部22の汚れ度合いを推定できる。本例において、光91に対する透過光94の光量の減衰量を光減衰量と称する。汚れ検出部40は、光減衰量を算出し、汚れ補正部42へ出力する。
【0030】
図2は、測定対象物質の濃度の測定結果に対する補正を説明する図である。汚れ補正部42は、光減衰量に基づいて当該補正を行う。図2の縦軸は、濃度または濃度を補正するための補正値を示している。横軸は時系列を示している。水質分析装置100は、時刻1から時刻5まで試料水に含まれる測定対象物質の濃度を測定している。図中のAは光減衰量で補正する前の測定対象物質の濃度の測定結果を示している。本例では透過光94の光量を基に測定対象物質の濃度を算出している。透過光94がフローセル20の汚れにより減衰すると、補正前の測定結果における測定対象物質の濃度が増加する。そのため時間が経過しフローセル20に汚れが蓄積するにつれ、補正前の測定結果における測定対象物質の濃度は増加していく。図中のBは光減衰量に基づく補正量を示している。光減衰量に基づく補正量は一例として測定した光減衰量と校正時の光減衰量の差分値である。光減衰量に基づく補正量は一例として以下の式から求められる。
光減衰量による補正量=測定した光減衰量 - 校正時の光減衰量
光減衰量に基づく補正量も、時間の経過とともに付着していくフローセル20の汚れに応じて増加していく。
【0031】
図中のCは、光減衰量に基づいた補正量を用いて補正前の測定対象物質の濃度を補正した濃度を示している。補正は一例として補正前の濃度から光減衰量に基づく補正量を差し引くことで行われる。補正は一例として以下の式に沿って行われる。
補正後濃度=補正前濃度 - 光減衰量による補正量
フローセル20の汚れの影響を考慮していない補正前の測定対象物質の濃度は、フローセル20の汚れの蓄積とともに増加しているが、光減衰量に基づいた補正を行うことで補正後の濃度はほぼ一定値となる。つまり本来の測定対象物質の濃度により近い結果が得られる。
【0032】
本例では、透過光94を基に測定対象物質の濃度を算出する場合を説明したが、測定光92を基に測定対象物質の濃度を算出する場合にも本補正は適用できる。その場合、測定光92の発生原理に基づいて、光減衰量による補正量と補正後濃度の式における加減の符号が決定する。
【0033】
図3は、本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。本例の水質分析装置100は、図1で説明した構成に加えて、メモリ46を備えている。メモリ46は、汚れ検出部40が検出した光減衰量を保存する。汚れ補正部42は、次にフローセル20の汚れによる光減衰量を検出するまでの間、保存した光減衰量を用いて測定対象物質の濃度の測定結果を補正してよい。
【0034】
図4は、本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。本例の水質分析装置100は、図1から図3で説明したいずれかの構成に加えて、洗浄部50を備えている。図4では、図1に示した構成に、洗浄部50を追加している。洗浄部50はフローセル20を洗浄する。洗浄部50は、清水、または、薬品等が含まれる洗浄液をフローセル20の内部空間24に流してフローセル20を洗浄してよく、pHの異なる洗浄液を用いて洗浄してよく、ブラシ等の部材で内部空間24を掃引することでフローセル20を洗浄してよく、これらを組み合わせてフローセル20を洗浄してもよい。
【0035】
図5は、図4の実施例における水質分析装置100の動作例を示すフローチャートである。トリガ段階S200において、水質分析装置100は、所定の洗浄トリガが入力されたか否かを判定する。水質分析装置100は、所定の洗浄トリガが入力された場合に、フローセル20の洗浄処理(S202~S210)を行う。当該トリガ信号は、使用者等の操作に応じて入力されてよく、周囲環境の変化に応じて自動的に入力されてよく、所定の期間が経過する毎に自動的に入力されてよく、他の要因に応じて入力されてもよい。水質分析装置100は、洗浄トリガが入力されない間は、試料水の測定処理(S212~S220)を行ってよい。
【0036】
洗浄トリガが入力されると、洗浄段階S202において、洗浄部50は、フローセル20を洗浄する。フローセル20の洗浄が終了した後に、参照水通流段階S204において、水質分析装置100は、光減衰量取得のために、測定対象物質の濃度が既知の参照水をフローセルに流す。洗浄後信号処理段階S206において、参照水が流れているフローセル20に対して、光源10から光91を入射する。透過光検出光学系70は、洗浄後のフローセル20を透過した透過光94を検出する。透過光検出信号処理部72は、透過光検出光学系70が出力する電気信号に対して増幅またはノイズ除去等の信号処理を行ってよい。
【0037】
信号補正処理段階S208において、透過光検出信号処理部72は、透過光検出光学系70が出力する電気信号に対して任意の補正処理を行う。当該補正処理は、例えば光91の光量変動による透過光94の光量の変動を補正する処理、または、透過光検出光学系70の受光光量に対する電気信号の大きさの非線形性を補正する処理を含む。
【0038】
光減衰量取得段階S210において、汚れ検出部40は光減衰量を取得する。本例において汚れ検出部40は、洗浄部50がフローセル20を洗浄した後に参照水をフローセル20に流して光減衰量を取得している。これにより、洗浄だけでは取り切れない汚れによる光減衰量を取得することができる。本例における光減衰量による補正量は一例として以下の式から求められる。
光減衰量による補正量=洗浄後の光減衰量 - 校正時の光減衰量
汚れ検出部40は、光減衰量または光減衰量による補正量を汚れ補正部42へ出力する。
【0039】
洗浄終了後もしくは所定の洗浄トリガ信号が入力されない場合、試料水通流段階S212において水質分析装置100はフローセル20に試料水を流す。測定時信号処理段階S214において、濃度測定部36は測定光92の光量を検出し、試料水を測定する。濃度測定部36は測定結果を汚れ補正部42へ出力する。
【0040】
測定時光量他補正処理S216において、濃度検出信号処理部32は濃度検出光学系30が出力する電気信号に対して任意の補正処理を行う。当該補正処理は、例えば光91の光量変動による透過光94の光量の変動を補正する処理、または、濃度検出光学系30の受光光量に対する電気信号の大きさの非線形性を補正する処理を含む。光減衰量補正処理段階S218において、汚れ補正部42は、光減衰量を用いて測定対象物質の濃度の測定結果を補正する。なお、本例の汚れ補正部42は、光減衰量補正処理段階S218においてあらかじめ濃度に変換された値を補正しているが、光減衰量補正処理段階S218において濃度に変換する前の検出信号を取得し、検出信号を補正し、その後濃度に変換してもよい。
【0041】
図6は、本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。本例の水質分析装置100は、図1から図4で説明したいずれかの構成に加えて、光源光量モニタ60および補正処理部62を備えている。図6では図1に示した構成に加えて、光源光量モニタ60および補正処理部62を備えている。光源光量モニタ60は、フローセル20に入射する前の光91の光源光量を検出する。光源光量モニタ60は、光91の一部を分岐した分岐光93を受光してよい。補正処理部62は検出信号の増幅やノイズ除去などの信号処理を行う。光源光量は汚れ検出部40へ出力される。
【0042】
本例の汚れ検出部40は、光源光量および透過光量に基づいて、フローセル20の壁部22の汚れを検出する。汚れ検出部40は、光源光量で透過光量を補正し、補正結果に基づいて壁部22の汚れを検出する。例えば汚れ検出部40は、光源光量が小さいほど透過光量が大きくなるように補正し、補正された透過光量が小さいほど壁部22の汚れの度合いが大きいと判定する。一例として汚れ検出部40は、光源光量と透過光量との光量比(透過光量/光源光量)に基づいて、壁部22の汚れを検出する。汚れ検出部40は、当該光量比が小さいほど汚れの度合いが大きいと判定する。このように、光源光量および透過光量を用いて壁部22の汚れを検出することで、光源10の劣化等の影響を低減して、精度よく壁部22の汚れを検出できる。
【0043】
図7は、過去の光減衰量に基づいて、以後の光減衰量の予測を行っている図である。本例の汚れ補正部42は、過去に測定した光減衰量の減衰情報の履歴を保持し、以後の光減衰量の予測を行う。図中の丸印が、過去の測定結果を示している。汚れ補正部42は、2種類の予測のうちの少なくとも一方を行ってよい。2種類の予測のうち、1つは洗浄では取り切れない汚れによる光減衰量の予測である。この予測では洗浄後、試料水を流す前に取得した光減衰量に基づいて、以後の光減衰量の予測を行う。図中の実線がこの予測を表している。汚れ補正部42は、洗浄直後の測定結果の推移を直線または曲線等の近似線102で近似することで、今後の光減衰量の予測を行ってよい。汚れ補正部42は、近似線102に関する情報を、減衰情報として記憶してよい。この予測は洗浄では取り除けない汚れによる光減衰量の予測であるため、以後の洗浄の有無によらず使用期間にわたって予測が可能である。
【0044】
もう一つの予測は洗浄で取り切れる汚れも含めたすべての汚れによる光減衰量の予測である。この予測では、洗浄から次の洗浄までの間に複数回測定を行い、そこで得られた光減衰量の変化に基づいて、以後の光減衰量の予測を行う。図中の破線がこの予測を表している。汚れ補正部42は、洗浄間の複数の測定結果の推移を直線または曲線等の近似線104で近似することで、今後の光減衰量の予測を行ってよい。汚れ補正部42は、近似線104に関する情報を、減衰情報として記憶してよい。汚れ補正部42は、過去の複数回の洗浄間における光減衰量の減衰情報に基づいて予測を行ってよい。この予測は洗浄で取り切れる汚れの影響も含まれているため、予測の範囲は洗浄から次の洗浄までの範囲である。汚れ補正部42は、過去の洗浄間における減衰情報を、以後の任意の洗浄間に適用することができる。
【0045】
汚れ補正部42は、近似線102に関する減衰情報と、近似線104に関する減衰情報とを組み合わせて、将来の光減衰量を推定してもよい。例えば汚れ補正部42は、近似線102を用いて、将来の任意のタイミングにおいて実行される洗浄直後の光減衰量を推定する。汚れ補正部42は、当該洗浄直後の光減衰量を始点として近似線104を適用することで、任意のタイミングで洗浄が実行された場合の、洗浄後の光減衰量の推移を推定してよい。
【0046】
どちらの予測の場合でも測定点数が増えるほど予測の精度が向上する。汚れ補正部42は、測定点数の増加に応じて予測の近似方法を変更してよい。近似方法の変更とは、例えば近似式における次数の変更である。
【0047】
本例の汚れ補正部42は、光減衰量の予測値が許容値を超える時期を推定してもよい。許容値は使用者があらかじめ定めた値であってよく、機器ごとに定められた値であってもよい。予測値は前述した2種類の予測のどちらを用いて算出してもよい。洗浄では取り切れない汚れによる光減衰量の予測を用いた場合の許容値を超える時期が図中のt1に対応し、すべての汚れによる光減衰量の予測を用いた場合の許容値を超える時期が図中のt2に対応している。許容値を超える時期を推定することによって、メンテナンス時期や使用限度時期を推定することができる。
【0048】
汚れ補正部42は光減衰量の予測に基づいて、以後の測定時の光減衰量の補正値を逐次修正してよい。これにより、光減衰量の測定後に蓄積する汚れの影響まで考慮に入れて補正することができる。
【0049】
図8は、本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。本例の水質分析装置100は、図4において説明した実施例と同一の構成を有するが、洗浄部50と汚れ補正部42が連携している点で異なる。本実施例も図1から図6のいずれの構成に加えられてよい。本例の洗浄部50は前述の光減衰量の予測に応じて洗浄方法を変更する。汚れの増加が従来より大きいことが予測される場合には、以前の洗浄方法より強力な洗浄方法を採用してよい。また、光減衰量の予測値が許容値を超える推定時期が、所定の基準時期より近くなった場合には、それまでよりも強力な洗浄方法を採用してよい。洗浄方法として、清水、または薬品等が含まれる洗浄液をフローセル20の内部空間24に流してフローセル20を洗浄してよく、pHの異なる洗浄液を用いて洗浄してよく、ブラシ等の部材で内部空間24を掃引することでフローセル20を洗浄してよく、これらを組み合わせてフローセル20を洗浄してもよい。洗浄部50は、洗浄方法を変更した場合、洗浄前後における光減衰量の変化に応じて、次の洗浄時の洗浄方法を選択してよい。
【0050】
洗浄部50は光減衰量の検出結果に基づいてフローセル20の洗浄が終了したか否かを判定してよい。当該判定は、例えば光減衰量が所定の値を下回るか否かによって行われる。所定の値は、装置固有の値であってよく、試料水の種類に応じた値であってもよい。フローセル20の洗浄開始から設定期間内に洗浄が終了しない場合、洗浄方法を変更してよい。また洗浄部50は、過去にフローセル20に流した試料水の履歴に基づいて、フローセル20の洗浄方法を選択してもよい。試料水の履歴に基づく洗浄方法の選択とは、例えばある試料水によって付着する汚れに対して有効なことがわかっている洗浄液の種類やpHを選択することである。試料水の履歴には、試料水に含まれる汚れ成分の種類を示す情報が含まれてよい。
【0051】
図9は、過去の光減衰量に基づいて、以後の光減衰量の予測を行う際の他の実施例を示す図である。本例の汚れ補正部42は、洗浄から次の洗浄までの間における光減衰量の過去の履歴から、光減衰量の増加速度を算出し、それに基づいて次の洗浄までの間の光減衰量の予測を行う。当該光減衰量は、洗浄で取り切れる汚れによる光減衰量、および、取り切れない汚れによる光減衰量を含んでいる。汚れ補正部42は光減衰量の変化の予測に基づいて、測定対象物質の濃度の測定結果を補正する。汚れ補正部42は、光減衰量の予測に基づいて、以後の測定時の光減衰量の補正値を逐次修正してよい。これにより、光減衰量の測定後に蓄積する汚れの影響まで考慮に入れて補正することができる。また光減衰量の変化の予測に基づいて次の洗浄のタイミングを決めてよい。これは例えば光減衰量の変化の予測が許容値を超える時期に洗浄を行うことを意味する。
【0052】
洗浄から次の洗浄までの間に光減衰量を検出する際、フローセル20に流す参照水の流速を測定対象物質の濃度を測定するときの試料水の流速以下にしてよい。これにより、参照水の流速によって汚れが取り除かれることを防ぐことができ、より正確な光減衰量の予測を行うことができる。参照水の流速は試料水の流速よりも小さくてよく、80%以下であってもよい。
【0053】
洗浄から次の洗浄までの間に光減衰量を検出する際、フローセル20に流す参照水の流速を洗浄時に流す洗浄水の流速以下にしてよい。これにより、洗浄で取り除かれなかった汚れが参照水によって取り除かれるのを防ぐことができ、より正確な光減衰量の予測を行うことができる。参照水の流速は洗浄水の流速よりも小さくてよく、80%以下であってもよい。
【0054】
図10は、本発明の他の実施形態に係る水質分析装置100の一例を示す図である。本例の水質分析装置100は、図1から図8で説明したいずれかの構成に加えて、散乱光量検出部86を備えている。図10では図1の構成に加えて散乱光量検出部86を備えている。散乱光量検出部86はフローセル20からの散乱光96を検出し、電気信号を出力する散乱光検出光学系80と電気信号に対して増幅またはノイズ除去等の信号処理を行う散乱光信号処理部82を備える。また本例においては、透過光検出光学系70と透過光検出信号処理部72を合わせて透過光検出部76とする。本例において汚れ検出部40は、フローセル20に参照水を流した状態で、透過光検出部76から出力される透過光量と散乱光量検出部86から出力される散乱光量に基づいて、光減衰量を検出する。散乱光量を考慮に入れることで、より正確に光減衰量を検出することができる。
【0055】
各実施例において、測定光92のみならず、透過光94および散乱光96も光減衰量を用いて補正してよい。これにより、より正確に測定対象物質の濃度を測定することができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0057】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0058】
10・・・光源、20・・・フローセル、22・・・壁部、24・・・内部空間、30・・・濃度検出光学系、32・・・濃度検出信号処理部、36・・・濃度測定部、40・・・汚れ検出部、42・・・汚れ補正部、46・・・メモリ、50・・・洗浄部、60・・・光源光量モニタ、62・・・補正処理部、70・・・透過光検出光学系、72・・・透過光検出信号処理部、76・・・透過光検出部、80・・・散乱光検出光学系、82・・・散乱光信号処理部、86・・・散乱光量検出部、91・・・光、92・・・測定光、93・・・分岐光、94・・・透過光、96・・・散乱光、100・・・水質分析装置、102・・・近似線、104・・・近似線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10