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  • 特開-むだ時間を用いた高調波除去 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022257
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】むだ時間を用いた高調波除去
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G05B11/36 501C
G05B11/36 501D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125702
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】391051496
【氏名又は名称】CKD日機電装株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉木 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 進
(72)【発明者】
【氏名】川村 英二
(72)【発明者】
【氏名】楠美 三郎
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004GA10
5H004JA12
5H004JB15
5H004KA33
5H004KB02
5H004KB04
5H004LA03
5H004MA02
(57)【要約】
【課題】むだ時間を利用した高調波除去
【解決手段】
むだ時間をコントローラの一部として利用した制振法であるポジカスト制御は、除去したい振動の半周期分のむだ時間に基づく方式であり、非減衰振動に対しては、基本波だけでなく奇数次高調波をすべて除去することができる。本発明は、これに加えて偶数次高調波も除去可能な方法を提供する。本発明は、除去したい振動の1周期分のむだ時間に基づく方法である。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を指定時間だけ遅らせるための遅延要素を具備し、前記指定時間を、除去したい振動の周期の倍数に設定すること、および前記遅延要素によって遅らせた信号を前記入力信号から引算することを特徴とする振動除去方式
【請求項2】
請求項1の方式において、必要な定常ゲインを得るために、積分計算を追加する方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動除去の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
むだ時間をコントローラとして用いた先駆的制振法にポジカスト制御(特許文献1、非特許文献1)がある。これは除去したい振動の半周期だけ目標値を遅らせて元の目標値に加算する操作に基づく。この制御法は、むだ時間を用いて連続時間制御系でデッドビート制御(有限時間で制御誤差を零にする制御)が行えることも示した。ポジカスト制御は、現在は入力整形または目標値整形(非特許文献2、非特許文献3など)とも呼ばれ、発展研究が続けられている。
【0003】
ポジカスト制御は次のように直観的に理解できる。線形システムの入力をu、出力をy、aとbを定数とするとき、数1(重ね合わせの原理)が成り立つ。
【数1】
システムの特性が時間変化しない場合、入力をある時間L遅らせると出力も単に時間L遅れるだけなので、数2が成り立つ。
【数2】
線形時不変システム(数1、数2を満たす)の出力が周期Tで正弦波状に振動しているとする。このとき入力を半周期T/2だけ遅らせて元の入力に加算すると(コントローラがこの操作を行う)、出力においても半周期遅れた出力が元の出力に加算される(数3)。
【数3】
よって位相が逆の正弦波が出力で加え合わされるので、出力を(半周期後に)零にすることができる。
【0004】
またポジカスト制御を極配置の観点から解釈すると次のようになる。純虚数の複素極s=±jβをもつ数4の非減衰振動系を考える。
【数4】
sはラプラス演算子であり、sは微分、1/sは積分の作用を表す。jは虚数単位である。
【数5】
Tは振動周期[s]、fは振動周波数[Hz]、βは振動角周波数[rad/s]である。数4のためのポジカストコントローラは数6で与えられる。
【数6】
図1に制御系を示す(rは目標値、r’は整形された目標値である)。数6は、むだ時間要素を用いて振動の半周期だけ目標値を遅らせて元の目標値に加える働きをする。係数1/2は、目標値の高さが変わらないように定常状態(s=0)でのゲインを1にするためのものである。数6に数4の極s=±jβを代入し、数5と数7(オイラーの公式)を用いると数8を得る。
【数7】
【数8】
数8は、数4の極の位置に数6の零点があることを意味する。すなわち
【数9】
と表せる。よって数4の極と数6の零点がキャンセルしあい(極零点消去)、数4の振動が除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】O.J.M. Smith, Dead Beat Response, Resonant Load, Control System and Method, US Patent 3051883, Aug.28, 1962
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】O.J.M. Smith, Posicast Control of Damped Oscillatory Systems, Proceedings of the IRE, pp.1249-1255, 1957
【非特許文献2】W. Singhose, Command Shaping for Flexible Systems: A Review of the First 50 Years, International Journal of Precision Engineering and Manufacturing, Vol.10, No.4, pp.153-168, 2009
【非特許文献3】T. Singh, Optimal Reference Shaping for dynamical systems- Theory and Applications, CRC Press, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、数4の高調波を含んだ数10を考える。
【数10】
ここでβは基本波の角周波数、nβはn次高調波の角周波数である。数6のポジカストコントローラは、nが奇数のとき数11を満たすので、数10の基本波とすべての奇数次高調波を除去できることが分かる。
【数11】
しかし数6では偶数次の高調波は除去できない。本発明は同時に偶数次の高調波も除去可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方式は、振動周期Tと同じ時間だけ入力信号を遅らせた信号を、元の入力信号から引算する操作に基づく。これは数3のときと同様、直観的に数12のように理解できる。
【数12】
すなわち出力yが周期Tの正弦波の場合、y(t)とy(t-T)は同じ値をとるので引算すれば零になる。この操作(時間T遅らせて引く)を行う最も簡単なコントローラとして数13が考えられる(k2は係数)。
【数13】
しかし数13は定常状態(s=0)で0になってしまい十分でないので、積分器を追加した数14を考える。
【数14】
不定形の極限についてのロピタルの定理より、数14の定常ゲインは数15となる。よって係数k2を1/Tに選べば、この定常ゲインを1にすることができる。
【数15】
【0009】
数14に数10の極s=±jnβを代入し、数5と数7を用いると数16を得る。
【数16】
よって数14は自然数nに対して数10の極s=±jnβを極零点消去できる。本発明の方式を図3に示す。
【0010】
本発明の請求項では「前記指定時間(コントローラのむだ時間)を、除去したい振動の周期の倍数に設定する」と表現した。これは、コントローラのむだ時間がT=2π/βのとき除去される高調波の周期は2π/(nβ)なので、コントローラのむだ時間は高調波周期のn倍であることによる。
【0011】
高調波モデルの逆モデルを列挙した数17のようなコントローラを用いることもできる(εはローパスフィルタの時定数)。しかし除去したい高調波の数が多いほど、むだ時間を用いる本発明のほうが合理的である。
【数17】
【0012】
本発明の方式の物理的意味を述べる。数14の入力をfで表し、数14の出力を逆ラプラス変換して時間t領域で表すと数18を得る(τ<0ではf(τ)=0とする)。
【数18】
よって数18のように積分を最初に行った場合、数14は「連続時間信号fの区間Tでの移動平均」と解釈できる。移動平均は、目標値の平滑化に基づく間接的な制振法(S字目標値ともいう)としても知られているが、数18を逆に考えると「連続時間信号の区間Tでの移動平均は、周期Tの基本波とそのすべての高調波を除去可能である」ことがいえる。
【0013】
一方、数14で積分を最後に行うと数19を得る。
【数19】
数19は近似微分の積分である。これより「微分の差分近似は、きざみ幅Tと同じ周期の基本波とそのすべての高調波を、入力信号fから取り除く性質もつ近似である」ことがいえる。
【0014】
本発明を減衰振動に適用した場合について補足的に述べる。数20の高調波モデルを考える。これは数21のように、すべての極の実部α(すべての高調波の減衰率)が同じ場合を考えている。
【数20】
【数21】
まずポジカスト制御を適用した場合を考えると、コントローラは数22で与えられる。
【数22】
数22はnが奇数のとき数23を満たすので、係数k3を数24で与えれば、数22は基本波とすべての奇数次高調波を除去できる。
【数23】
【数24】
nが自然数の場合は、数13を修正した数25を用いることができる(減衰振動の場合は積分器を追加しなくてもコントローラの定常ゲインを1にすることができる)。係数k4を数27で与えれば、基本波と奇数次偶数次の高調波を除去することができる。
【数25】
【数26】
【数27】
ただしαが0に近いほどオーバーシュートが生じることに留意する。この理由は、数25の1/(1-k4)が1より大きいので(α<0のとき0<k4<1)、目標値が過渡状態で一時的に増幅されるためである。
【0015】
数21のαが高調波ごとに異なる場合は、数25では高調波の完全除去はできないが、注目する複数の高調波が全体的に最も低減されるような最適なk4(最適なα)が存在するようなケースでは、数25が効果をもつことが期待できる。
【発明の効果】
【0016】
ポジカスト制御は、基本波とすべての奇数次高調波を除去できるが、本発明の方式は、これに加えて偶数次高調波も除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ポジカスト制御
図2】ポジカスト制御による高調波除去
図3】本発明の方式による高調波除去
図4】応答例(数10のステップ応答)
図5】応答例(数10のステップ応答)
図6】応答例(ポジカスト制御適用)
図7】応答例(ポジカスト制御適用)
図8】応答例(本発明適用)
図9】応答例(本発明適用)
【発明を実施するための形態】
【0018】
n=1(基本波)からn=5(5次高調波)までの数10の単なるステップ応答を図4図5に示す(シミュレーション)。なお図5下段はこの5つの数10を直列結合した場合である。制御系パラメータは数28とした。
【数28】
ポジカスト制御(数6、図2)による制振結果を図6図7に示す。コントローラのむだ時間がT/2=0.05秒なので、振動は0.05秒後に除去される。本発明の方式(数14、図3)による制振結果を図8図9に示す。振動はT=0.1秒後に除去される。ポジカスト制御が除去できるのは基本波と奇数次高調波のみだが、本発明の方式は、さらに偶数次高調波も除去可能なことがシミュレーションでも確認できる。
【符号の説明】
【0019】
1 むだ時間要素(半周期遅れ)
2 コントローラの定常ゲインを1にするための係数
3 非減衰振動系(基本波)
4 非減衰振動系(基本波+高調波)
5 むだ時間要素(1周期遅れ)
6 積分器
7 コントローラの定常ゲインを1にするための係数

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9