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特開2024-2227情報処理装置、情報処理方法、記憶媒体及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002227
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、記憶媒体及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20231228BHJP
   A63B 71/06 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A63B69/36 541W
A63B71/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101299
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 達也
(72)【発明者】
【氏名】高木 啓雄
(57)【要約】
【課題】専用の計測器を要せずに、スイングにおけるゴルフクラブの挙動を推定する技術を提供すること。
【解決手段】情報処理装置は、ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得手段と、前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算手段と、前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換手段と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得手段と、
前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算手段と、
前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換手段と、を備える、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記特徴量は、前記動画上のゴルフクラブヘッドの位置から特定される、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記特徴量は、前記動画上のゴルフクラブヘッドの位置と前記ゴルファの身体部位の位置と、から特定される、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記動画は、ゴルファを正面から撮影した動画を含み、
前記特徴量は、打撃時の前記ゴルフクラブヘッドの飛球線方向の移動速度を含み、
前記推定値は、前記移動速度から変換された、打撃時の前記ゴルフクラブヘッドのヘッドスピードである、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記動画は、ゴルファを飛球線後方から撮影した動画を含み、
前記特徴量は、ダウンスイングの途中の所定のタイミングにおける前記動画上の前記ゴルフクラブヘッドと前記ゴルフボールとを通る仮想線の地面に対する角度であり、
前記推定値は、前記角度から変換された、打撃時の前記ゴルフクラブヘッドのフェース面の向きである、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の情報処理装置であって、
前記所定のタイミングとは、アドレス時の前記ゴルファの腰及び肘の上下方向の位置と、ダウンスイング時の前記ゴルファの手首の上下方向の位置と、によって規定される、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記動画は、ゴルファを正面から撮影した動画を含み、
前記特徴量は、前記ゴルフボールと、最下点の前記ゴルフクラブヘッドとの飛球線方向の距離を含み、
前記推定値は、前記距離から変換された、打撃時の前記ゴルフクラブヘッドの入射角度である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記変換式は、複数のゴルファのスイングの動画から演算された前記特徴量と、前記スイングにおいて計測器で計測されたゴルフクラブヘッドの挙動の計測値と、から得られた一次方程式である、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記推定値に基づいて、前記スイングによる打球の挙動を推定する推定手段を備える、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項10】
ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得工程と、
前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算工程と、
前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換工程と、を備える、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項11】
コンピュータに、
ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得工程と、
前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算工程と、
前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換工程と、
を実行させるプログラムを記憶した記憶媒体。
【請求項12】
コンピュータに、
ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得工程と、
前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算工程と、
前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換工程と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフ分野の挙動解析に関わる情報処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルファのスイング動作を解析するための様々な技術が提案されている。特許文献1には、ゴルフクラブヘッドの入射角等を計測し、スイング動作を解析する技術が開示されている。特許文献2にはゴルフクラブの回転角等を計測し、スイング動作を解析する技術が開示されている。特許文献3には打撃時のフェース面上の打撃位置を推定する技術が開示されている。特許文献4にはゴルフクラブヘッドの挙動を解析し、打球の弾道を予測する技術が開示されている。また、こうした解析結果等に基づいて、ゴルファに適したゴルフ用品を推奨する技術も提案されている(例えば特許文献5)。特許文献6にはスイングを計測して打球の挙動を推測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-023638号公報
【特許文献2】特開2017-023639号公報
【特許文献3】特開2017-070366号公報
【特許文献4】特開2017-000179号公報
【特許文献5】特開2011-015968号公報
【特許文献6】特開2021-371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
打撃時のヘッドスピード等のゴルフクラブの挙動や、打撃直後のゴルフボールの初速等の打球の挙動は、ゴルファの関心が高い事項である。しかし、こうした事項は、専用の計測器を必要とする。
【0005】
本発明の目的は、専用の計測器を要せずに、スイングにおけるゴルフクラブの挙動を推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
ゴルフボールをゴルフクラブで打撃するゴルファのスイングの動画を取得する取得手段と、
前記動画から、前記スイングの特徴量を演算する演算手段と、
前記特徴量を変換式に代入することで、前記特徴量をゴルフクラブヘッドの挙動の推定値に変換する変換手段と、を備える、
ことを特徴とする情報処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、専用の計測器を要せずに、スイングにおけるゴルフクラブの挙動を推定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置によるスイング動画の撮影態様を示す説明図。
図2図1の情報処理装置のブロック図。
図3】(A)及び(B)は打撃時のフェースの向き(フェース角度)の説明図。
図4】入射角度の説明図。
図5】動画解析の説明図。
図6】(A)及び(B)は特徴量(移動速度)の説明図。
図7】(A)及び(B)は特徴量(仮想線角度)の説明図。
図8】(A)及び(B)は特徴量(最下点距離)の説明図。
図9】ヘッド挙動を計測する計測システムの説明図。
図10】(A)~(C)は変換式の導出例の説明図。
図11】(A)及び(B)は打球の打ち出し角度の説明図。
図12】(A)及び(B)は打球のスピン量の説明図、(C)及び(D)は弾道の説明図。
図13】打球の弾道を計測する計測システムの説明図。
図14】情報処理装置の処理例を示すフローチャート。
図15】情報処理装置の別例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<情報処理装置>
図1は本発明の一実施形態に係る情報処理装置1を用いたスイング動画の撮影態様を示す説明図である。矢印X、矢印Yおよび矢印Zは、動画上、認識又は設定される三次元の座標系を示しており、矢印X、矢印Yは互いに直交する水平方向を示し、矢印Zは鉛直方向を示す。矢印Yはゴルフボール30の飛球線方向(ターゲット方向)を示す。
【0011】
情報処理装置1は撮影機能を有している。本実施形態の場合、情報処理装置1によってゴルファ10のスイングの動画をC1方向から撮影する。また、ゴルファ10のスイングの動画をC2方向からも撮影する。したがって、ゴルファ10は、ゴルフスイング動作を2回行うことになる。
【0012】
C1方向はゴルファ10を正面から撮影する方向であり、X方向である。C2方向はゴルファ10を飛球線後方から撮影する方向であり、Y方向である。ゴルフスイング動作において、ゴルファ10はゴルフボール30をゴルフクラブ20で打撃する。ゴルフクラブ20は、フェース面(打撃面)22aを有するゴルフクラブヘッド22と、ヘッド22に接続されたシャフト21とを含む。シャフト21のゴルファ10側の端部にはグリップ(不図示)が装着される。スイング動画は、アドレス、テークバック、ダウンスイング、インパクト、フォロースイングといった、ゴルファの一連の打撃動作を含む。
【0013】
図1に加えて図2を参照して情報処理装置1について説明する。図2は情報処理装置1のブロック図である。本実施形態の情報処理装置1はカメラ付きスマートフォンに代表される携帯端末である。ゴルファ10は、三脚等で情報処理装置1を支持してスイング動画を撮影することができる。情報処理装置1は、互いに電気的に接続された処理部2と、記憶部3と、通信インタフェース部(通信I/F部)4と、を備える。処理部2はCPU等のプロセッサである。記憶部3は、一又は複数の記憶デバイスを備える。記憶デバイスは、例えば、RAM、ROM等である。記憶部3には処理部2が実行するプログラムや、各種のデータが格納される。処理部2が実行するプログラムは、処理部2が読取可能な複数の指示から構成することができる。通信I/F部4は外部デバイスと無線通信を行う通信機である。
【0014】
情報処理装置1は、また、入力部5、表示部6及び撮影部7を含む。入力部5はユーザの入力を受け付けるスイッチである。表示部6はユーザに情報を画像で提供すると共にユーザの入力を受け付けるタッチパネルである。撮影部7は画像を撮影するカメラであり、例えば、レンズなどの光学系と、CCDセンサ等の撮像素子とを備える。スイング動画は撮影部7によって撮影される。
【0015】
<ゴルフクラブヘッドの挙動>
本実施形態では、情報処理装置1において、スイング動画からヘッド22の挙動を推定する。推定内容は、本実施形態の場合、ヘッドスピード、打撃時のフェース面(打撃面)22aの向き、及び、打撃時のヘッド22の入射角度である。ヘッドスピードは、打撃時のヘッド22の速度(m/s)である。ヘッドスピードをHSと記号であらわす場合がある。
【0016】
打撃時のフェース面(打撃面)22aの向きとは、打撃時のフェース面22aの角度(フェース角度)である。図3(A)はその説明図である。図3(A)の例では、X-Y平面上において、ゴルフボール30の打撃位置Yiにおけるヘッド22の移動軌道の方向D1と垂直な線と、フェース面22aの中心を通るトウヒール方向の接線とがなす角度θfをフェース角度としている。同図の例では、フェース面22aが開く方向を負の角度とし、フェース面22aが閉じる方向を正の角度としている。
【0017】
なお、フェース角度は、ヘッド22の移動軌道の方向D1ではなく、飛球線方向を基準としてもよい。図3(B)はその説明図である。X-Y平面上において、ゴルフボール30の打撃位置Yiにおける飛球線方向Yと垂直な線(X方向)と、フェース面22aの中心を通るトウヒール方向の接線とがなす角度θfをフェース角度としている。同図の例でも、フェース面22aが開く方向を負の角度とし、フェース面22aが閉じる方向を正の角度としている。
【0018】
入射角度は、Y-Z平面において、Y方向に対する、ゴルフボール30の打撃時のヘッド22のZ方向の軌道の角度である。図4はその説明図である。同図の例では、ゴルフボール30の打撃位置Yiにおけるヘッド22の位置と、その前のヘッド22の位置(破線で示す)とから、ヘッド軌道の方向D2を特定し、D2方向とY方向との間の角度θiが入射角度である。図示の例では上方向を正とし、下方向を負としている。
【0019】
本実施形態の推定内容は以上の3項目であるが、他の挙動を含んでもよい。
【0020】
<スイングの特徴量>
ヘッド22の挙動を推定するにあたり、本実施形態では撮影部7で撮影した動画からスイングの特徴量を演算し、演算した特徴量から上記の3項目を推定する。動画の解析には、例えば、動画を構成する各フレーム画像に対して骨格検出技術に代表される画像認識技術を適用する。図5はその一例を示している。図示の例では、飛球線後方から撮影されたスイング画像(アドレス時のフレーム)IMに対して画像認識技術を適用し、ゴルファ及びゴルフクラブのモデルMが抽出されている。モデルMは、ゴルファの注目点として、頭部40、肩部41、肘部42、手首部43、腰部44、膝部45、足首部46の各座標情報を含む。また、モデルMはゴルフクラブ20の注目点として、ゴルフクラブヘッド22に相当するヘッド部47の座標情報を含む。更にモデルMはゴルフボール30を注目点とした、ボール部48の座標情報を含む。
【0021】
本実施形態では、スイングの特徴量として3種類の特徴量を用いる。3種類の特徴量は、いずれも動画上のヘッド22の位置、つまり、ヘッド部47の座標から特定される。また、一部の特徴量はヘッド22の位置(ヘッド部47の座標)と、ゴルファの身体部位とから特定される。
【0022】
3種類の特徴量のうちの一つ目は、打撃時のヘッド22の飛球線方向の画像上の移動速度MVであり、C1方向で撮影した動画から演算される。図6(A)及び図6(B)はその説明図である。図6(A)は打撃直前のフレーム画像から抽出されたモデルMを示し、図6(B)は打撃時のフレーム画像から抽出されたモデルMを示す。図6(A)の段階では、ヘッド部47がボール部48よりも後方に位置し、図6(B)の段階で、ヘッド部47がボール部48に接触する直前を示している。動画のフレームレートと、二つのモデルMにおけるヘッド部47のYZ方向の移動距離(YZ座標の差)とから、移動速度MVを演算することができる。移動距離は、画像中の基準オブジェクトの実測長と画像内での基準オブジェクトの長さの比と、画像中のヘッド部47の移動距離とから現実の距離として特定できる。基準オブジェクトとしては、ゴルファ、ゴルフクラブ等を挙げることができる。ゴルファを基準オブジェクトとする場合、ゴルファの身長や、ゴルファの身体の一部(腕の長さ、脚の長さ等)としてもよい。ゴルフクラブを基準オブジェクトとする場合も、ゴルフクラブの全長の他、その一部(シャフトの長さ、グリップの長さ等)としてもよい。発明者らの研究によると、移動速度MVは、ヘッド22の挙動項目のうち、ヘッドスピードに相関がある。
【0023】
3種類の特徴量のうちの二つ目は、ダウンスイングの途中の所定のタイミング(以下、判断タイミングと呼ぶ)における動画上のヘッド22とボール30とを通る仮想線の地面(X軸)に対する角度θhdであり、C2方向で撮影した動画から演算される。図7(A)及び図7(B)はその説明図である。図7(A)はアドレス時のフレーム画像から抽出されたモデルMを示し、図7(B)は判断タイミングにおけるフレーム画像から抽出されたモデルMを示す。図7(A)のモデルMは、判断タイミングを規定するために用いられる。
【0024】
本実施形態では、判断タイミングをアドレス時のゴルファ10の腰及び肘のZ方向の位置と、ダウンスイング時のゴルファ10の手首のZ方向の位置と、によって規定し、スイング動作がハーフウエイダウン付近を判断タイミングとする。具体的には、図7(A)のモデルMからアドレス時における腰部44のZ軸の座標Z1と、肘部42のZ軸の座標Z2とが特定される。図7(B)に示すように、判断タイミングは、ダウンスイングにおいて手首部43のZ軸の座標がZ0に最も近いタイミングである。ここで、Z0=(Z1+Z2)/2である。図7(B)のモデルMにおいて、ヘッド部47とボール部48とを通る仮想線VLを引き、地面(X方向)に対する仮想線VLの角度θhdを演算する。発明者らの研究によると、角度θhdは、ヘッド22の挙動項目のうち、フェース角度に相関がある。
【0025】
3種類の特徴量のうちの三つ目は、ゴルフボール30と、テークバック後の最下点のヘッド22との飛球線方向の距離Dであり、C1方向で撮影した動画から演算される。図8(A)はその説明図である。図8(A)は、打撃前後の複数のフレーム画像から抽出されたモデルMのうち、ヘッド22がZ方向で最下点に位置したときのモデルMを示している。図示の例では、打撃の前にヘッド22が最下点に位置した例を示している。図8(B)は別の例を示しており、図示の例では、打撃の後にヘッド22が最下点に位置した例を示している。距離Dは、打撃前のゴルフボール30の位置、つまり、ボール部48のY軸の座標を基準として正負を区別する。図8(A)のように打撃前にヘッド部47がZ軸で最下点に至った場合は、負の値とし、図8(B)のように打撃後にヘッド部47が最下点に至った場合は、正の値とする。距離Dは、移動速度MVにおけるヘッド部47の移動距離の演算と同様に、画像中の基準オブジェクトの実測長と画像内での基準オブジェクトの長さの比と、画像内での最下点のヘッド22とゴルフボール30との距離とから現実の距離として特定できる。発明者らの研究によると、距離Dは、ヘッド22の挙動項目のうち、入射角度に相関がある。
【0026】
<特徴量からヘッド挙動の推定値への変換>
スイングの特徴量と、実際のヘッド22の挙動の計測値との相関を事前に変換式の形式で定義することで、スイング動画を撮影すれば、ヘッド22の挙動の推定値を得ることができる。変換式を得るために、事前に打撃テストを行う。打撃テストは複数のテスターが行うことができる。図9は打撃テストに用いる計測システムの構成例を示す。
【0027】
計測器60は、ゴルファ10のゴルフスイング動作を計測する装置である。本実施形態では、ゴルフクラブ20の挙動を計測する装置である。計測器60は、ゴルフクラブ20のシャフト21(またはグリップ)に装着される装置であり、加速度センサと角速度センサを内蔵する。計測器60としては、例えば、ATR-Promotions社のTSND121やセイコーエプソン社のM-tracerを用いることができる。計測器60の検知結果により、スイング中のゴルフクラブ20の三次元の加速度および三次元の角速度の時系列データを得られる。
【0028】
撮影装置1’は、ゴルファ10のスイングの動画を撮影する。撮影装置1’は情報処理装置1と同様のカメラ付き携帯端末であってもよい。撮影装置1’によって、ゴルファ10のスイングの動画をC1方向とC2方向から撮影する。
【0029】
情報処理装置50は、計測器60の計測結果と撮影装置1’で撮影したスイング動画とから、上記の変換式を生成する装置である。情報処理装置50は、互いに電気的に接続された処理部51と、記憶部52と、通信インタフェース部(通信I/F部)53と、を備える。処理部51はCPU等のプロセッサである。記憶部52は、一又は複数の記憶デバイスを備える。記憶デバイスは、例えば、RAM、ROM等である。記憶部52には処理部51が実行するプログラムや、各種のデータが格納される。処理部51が実行するプログラムは、処理部51が読取可能な複数の指示から構成することができる。通信I/F部53は外部デバイスと無線通信を行う通信機である。
【0030】
情報処理装置50には表示装置54と入力装置55が接続されている。表示装置54は、例えば、液晶表示装置等の電子画像表示装置であり、情報処理装置50の処理結果が表示される。入力装置55はマウスやキーボードであり、情報処理装置50に対するデータの入力や動作の指示を受け付ける。
【0031】
情報処理装置50には、計測器60の計測結果が入力される。処理部51は、計測結果からヘッドスピードHS、図3(A)で説明したフェース角度θf、及び、図4で説明した入射角度θiを演算する。計測されたスイングについて、撮影装置1’で撮影したスイング動画が入力される。処理部51は、スイング動画を解析して図6(A)~図8(B)で説明した移動速度MV、角度θhd、及び、距離Dを演算する。ヘッドスピードHSと移動速度MVの組、フェース角度θfと角度θhdの組、及び、入射角度θiと距離Dの組が記憶部52に記憶される。打撃テストを繰り返すころで、各組のデータが多数得られる。各組のデータから変換式(演算式)を生成する。図10(A)~図(C)はその一例である。
【0032】
図10(A)は、ヘッドスピードHSと移動速度MVの組のデータ群である。回帰分析によって、ヘッドスピードHSと移動速度MVとの相関を示す近似直線L1を導出し、近似直線L1から、ヘッドスピードHSを目的変数、移動速度MVを説明変数とした一次方程式:HS=α1×MV+β1を導出する(α1、β1は係数)。この式を移動速度MVからヘッドスピードHSを得る変換式とする。
【0033】
図10(B)は、フェース角度θfと角度θhdの組のデータ群である。図10(A)の場合と同様に、回帰分析によって、フェース角度θfと角度θhdとの相関を示す近似直線L2を導出し、近似直線L2から、フェース角度θfを目的変数、角度θhdを説明変数とした一次方程式:θf=α2×θhd+β2を導出する(α2、β2は係数)。この式を角度θhdからフェース角度θfを得る変換式とする。
【0034】
図10(C)は、入射角度θiと距離Dの組のデータ群である。図10(A)の場合と同様に、回帰分析によって、入射角度θiと距離Dとの相関を示す近似直線L3を導出し、近似直線L3から、入射角度θiを目的変数、距離Dを説明変数とした一次方程式:θi=α3×D+β3を導出する(α3、β3は係数)。
【0035】
以上により、スイング動画から演算した特徴量を変換式に代入してヘッド22の挙動の推定値を得ることができる。
【0036】
<打球の挙動推定>
スイング動画からヘッド22の挙動を推定すると、更に打球の挙動も推定可能となる。ゴルファ10にとっては、自身のゴルフスイング動作により打ち出されたゴルフボール30の弾道が重要である。ゴルフボール30の弾道は、打撃直後のゴルフボール30の初速、上下および左右の打ち出し角度、バックスピン量及びサイドスピン量といった打球の挙動により推定される。こうした打球の挙動はドップラ・レーダ等の計測設備により実測可能であるが、本実施形態では、スイング動画→特徴量抽出→ヘッド22の挙動推定→ゴルフボール30の挙動推定、という手順を踏むことで、ゴルフボール30の弾道推定も可能である。なお、スイング動画として、C1方向の動画とC2方向の動画を用いるため、ヘッド22の挙動推定やゴルフボール30の挙動推定は、1回のゴルフスイングによるものではない。しかし、例えば、C1方向の動画とC2方向の動画の2回のゴルフスイングが同じゴルフスイングとみなして、各推定を行う。
【0037】
本実施形態では、事前準備として、ヘッド22の挙動推定値をゴルフボール30の挙動推定値に変換する変換式(演算式)を生成する。打球の初速は打撃直後のゴルフボール30の速度である。図11(A)は上下の打ち出し角度の説明図であり、図11(B)は左右の打ち出し角度の説明図である。図11(A)に示すように、上下の打ち出し角度は、Y-Z平面において、Y方向に対する、打撃直後のゴルフボール30のZ方向の軌道の角度θLである。位置Y0はゴルフボール30の初期位置(打撃前の静止位置)である。図示の例では上方向を正とし、下方向を負としている。図11(B)に示すように左右の打ち出し角度は、X-Y平面において、Y方向に対する、打撃直後のゴルフボール30のX方向の軌道の角度θSである。図示の例では左方向を正とし、右方向を負としている。
【0038】
図12(A)はバックスピン量の説明図である。バックスピン量は、打撃直後のX軸回りのゴルフボール30の回転量である。図示の例では上方向の回転を正とし、下方向の回転を負としている。図12(B)はサイドスピン量の説明図である。サイドスピン量は、打撃直後のZ軸回りのゴルフボール30の回転量である。図示の例ではフック方向の回転を正とし、スライス方向の回転を負としている。
【0039】
変換式は、説明変数のデータ群と、対応する目的変数の実測データ群からなる実測データ群を用いて生成することができる。本実施形態の場合、説明変数は、ヘッドスピードHS、フェース角度θf及び入射角度θiであり、目的変数はゴルフボール30のボール初速、上下の打ち出し角度、左右の打ち出し角度、バックスピン量及びサイドスピン量である。目的変数の実測は、高速度カメラやドップラ・レーダ等の弾道計測器によって行い、例えば、TRACKMAN社のTRACKMANを用いることができる。図13は変換式を得るための打撃テストに用いる計測システムの構成例を示し、図13のシステムに弾道計測器61が追加されている。計測器60と弾道計測器61の各計測結果から、ヘッドスピードHS、フェース角度θf、入射角度θi、ボール初速、上下の打ち出し角度、左右の打ち出し角度、バックスピン量及びサイドスピン量を一組としたデータが得られる。打撃テストを繰り返すころで、こうしたデータが多数組得られる。
【0040】
変換式は、例えば、データ群を教師データとした機械学習により導出することができる。機械学習のアルゴリズムとしては、例えば、確率的勾配降下法を使用した線形回帰、リッジ回帰、ラッソ回帰、サポートベクター回帰、深層学習等を挙げることができる。確率的勾配降下法を使用した線形回帰、リッジ回帰、ラッソ回帰の場合、目的変数をy、説明変数をx、係数をaとおくと、演算式は、例えば、
y1=a1・x1+a2・x2+a3・x3...
とした一次式を用いることができる。そして、機械学習によって、係数aを得て演算式を完成することができる。ラッソ回帰、深層学習の場合、式及び式中の係数の双方を機械学習によって得ることができ、ラッソ回帰の場合、最終的に用いる説明変数の種類も機械学習によって決定することができる。
【0041】
本実施形態に関連する実験によると、説明変数のうち、特に、ヘッドスピードHS、フェース角度θf及び入射角度θiと、ボール初速、上下および左右の打ち出し角度、バックスピン量及びサイドスピン量との間に相関が得られた。変換式は、例えば、
ボール初速=a1・ヘッドスピードHS+a2・入射角度θi+a3・フェース角度θf+a0
上下の打ち出し角度=a11・ヘッドスピードHS+a12・入射角度θi+a13・フェース角度θf+a10
左右の打ち出し角度=a21・ヘッドスピードHS+a22・入射角度θi+a23・フェース角度θf+a20
バックスピン量=a31・ヘッドスピードHS+a32・入射角度θi+a33・フェース角度+a30
サイドスピン量=a41・ヘッドスピードHS+a42・入射角度θi+a43・フェース角度+a40
と一次式で表すことができる。なお、変換式は、機械学習以外の手法で導出してもよく、例えば、相関分析により導出してもよい。
【0042】
<処理例>
情報処理装置1の処理例について説明する。図14は処理部2の処理例を示すフローチャートであり、スイング動画から打球の弾道推定結果を表示する処理を示している。この処理のプログラムは記憶部3に格納され、事前に得られた各変換式はプログラムに記述されるか、記憶部3に格納され、読み出されて使用される。
【0043】
S1では情報処理装置1の撮影部7により、図1で説明したC1方向及びC2方向のスイング動画が撮影される。撮影されたスイング動画のデータは記憶部3に保存される。
【0044】
S2では記憶部3からスイング動画のデータを取得する。S3では取得したスイング動画から特徴量を演算する。演算する特徴量は、移動速度MV、角度θhd及び距離Dである。S4では、S3で演算した特徴量を図10(A)~図10(C)で説明した各変換式を用いて、ヘッドスピードHS、フェース角度θf、入射角度θiに変換する。
【0045】
S5ではゴルフボール30の弾道を推定する。弾道推定では、まず、S4で得た推定値を、上記の変換式を用いてゴルフボール30のボール初速、上下の打ち出し角度、左右の打ち出し角度、バックスピン量及びサイドスピン量に変換する。推定される弾道の内容としては、飛球線方向(Y方向)の飛距離を挙げることができる。図12(C)は飛球線方向の打球の弾道の例を示しており、位置Y0(初期位置)から位置Y1までがキャリー(滞空距離)、位置Y1から位置Y2までがラン(地面上の転がり距離)である。飛距離はキャリーのみであってもよいし、キャリーとランの合計値であってもよい。また、推定される弾道の内容としては、左右方向(X方向)の打球のブレを挙げることができる。図12(D)は左右方向の打球の弾道の例を示しており、位置X0はゴルフボール30の初期位置(打撃位置)である。位置X0を通るY方向の破線がボールを打ち出そうとする方向であり、この線上にボールが止まったときのブレを0とする。図示の例では、弾道が左方向にブレている。
【0046】
図14に戻り、S6では、推定結果を表示部6に表示する。表示する情報としては、S5の弾道推定結果の他、S2の動画やモデルMの情報、S3で演算した特徴量、及び、S4で変換した推定値を含んでもよい。
【0047】
このように本実施形態では、スイング動画からゴルフクラブ20、特にヘッド22の挙動を推定でき、更に、その推定結果を利用してゴルフボール30の弾道も推定できる。計測器60、61といった専用の計測器を要せずに、スイング動画を撮影できればよいので、カメラ付き携帯端末等を有しているゴルファが手軽に自分のスイングに関する情報を得ることができる。
【0048】
<第二実施形態>
第一実施形態では、情報処理装置1を用いてスイング動画の撮影から、結果の表示までの全てを行ったが、一部を他の情報処理装置が行ってもよい。図15(A)はその一例を示す。図15(A)のシステムでは、情報処理装置1が、インターネット等のネットワーク71を介して情報処理装置(サーバ)70と通信可能である。サーバ70は、図14の処理のうち、S2からS5までを行う。具体的には、S1のスイング動画の撮影を情報処理装置1で行い、情報処理装置1は撮影したスイング動画をサーバ70へ送信する。サーバ70はS2でスイング動画を取得(受信)し、S3~S5の処理を行う。そしてその処理結果を情報処理装置1へ送信し、これを受信した情報処理装置1はS6の情報表示処理を行う。
【0049】
別の例として、サーバ70がS2で情報処理装置1から送信されたスイング動画をサーバ70が取得(受信)し、画像認識技術によるモデルMの情報の抽出までを行って、情報処理装置1にモデルMの情報を送信してもよい。情報処理装置1は、受信したモデルMの情報に基づき、S3~S6の処理を行う。
【0050】
このようにサーバ-クライアントシステムを採用することで、情報処理装置1の処理負荷を軽減できる。また、サーバ70で変換式を一元管理するので、その更新等も容易である。
【0051】
図15(B)は、別の構成例を示している。図15(B)のシステムでは、情報処理装置1はカメラとしてのみ利用され、撮影されたスイング動画は、ゴルファが所有するパソコンなどの情報処理装置90に提供される。スイング動画は、例えば、USBメモリや無線通信によって情報処理装置1から情報処理装置90の記憶デバイスに蓄積され、情報処理装置90のプロセッサが取得可能である。
【0052】
情報処理装置90は、図14の処理のうち、S2~S6までを行う。そのプログラムは例えばCD-ROM等の記憶媒体81から情報処理装置80にインストールすることができる。
【0053】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 情報処理装置
図1
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