(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022272
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ハイパスフィルタを用いた2慣性系制御
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20240208BHJP
H02P 29/00 20160101ALI20240208BHJP
【FI】
G05B13/04
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125729
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】391051496
【氏名又は名称】CKD日機電装株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉木 明彦
(72)【発明者】
【氏名】中山 進
(72)【発明者】
【氏名】川村 英二
(72)【発明者】
【氏名】楠美 三郎
【テーマコード(参考)】
5H004
5H501
【Fターム(参考)】
5H004GA08
5H004GA09
5H004HA07
5H004HB07
5H004KB02
5H004KB04
5H004KC33
5H004KC55
5H004KC56
5H004MA13
5H501DD01
5H501GG03
5H501JJ04
5H501JJ23
5H501JJ24
5H501JJ26
(57)【要約】
【課題】2慣性系の簡易的な負荷挙動推定法と制御法を提供する。
【解決手段】
本発明は、負荷モデルとモータモデルのみを利用する方式であり、結合部(カップリング)のモデルが不要なため、状態推定法として知られるオブザーバに比べて性能は劣るが、適用が簡単である。さらに本発明では、2慣性系制御では、制御入力にハイパスフィルタをかけることが有効なことを示す。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御入力信号を負荷モデルに入力したときの出力信号(以下、信号1)を求め、さらに負荷モデルと動力系逆モデルをかけあわせたモデルに動力系出力を通したときの信号(以下、信号2)を求め、信号1から信号2を引算することに基づく2慣性系負荷挙動の推定方式(以下、方法1)、および方法1による推定値を利用した2慣性系制御方式
【請求項2】
制御入力信号に高域通過特性をもつフィルタをかけることによって、請求項1の2慣性系制御方式を簡略的に実現する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制御系の設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
2慣性系はバネで連結された2つの質量からなる振動モデルであり、負荷につながるモータの代表的なモデルでもある。典型的な2慣性モデルは次のように表される(
図4点線枠)。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
ここでsはラプラス演算子であり、sは微分、1/sは積分の作用を表す。数式中の添字1はモータに関する量、添字2は負荷に関する量を表す。JとDは慣性モーメントと粘性摩擦係数である。ωは角速度、θは角度である。数2は結合部のモデルであり、kはカップリングの剛性を表すバネ定数、dは振動の減衰度を表す粘性摩擦係数である。u2はモータと負荷の挙動のずれ(カップリングのねじれ)によって生じるトルクであり、負荷に対しては駆動力として働き、モータに対してはマイナス符号で入るので反力として働く。数4のuは2慣性系全体に加わる制御入力である。
【0003】
2慣性系の制御では、負荷の挙動を測定または推定する必要がある。推定のための代表的な方法にオブザーバ(非特許文献1)がある。上述の2慣性系の状態を数5で定義した場合、数6の状態空間モデルが得られ、オブザーバは数7で与えられる。
【数5】
【数6】
【数7】
ここで添字mはパラメータの推定値を表し、これらは真値に一致することが仮定される。ハット記号は信号の推定値を表し、オブザーバゲインLを適切に設計することで状態xの推定が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D.G. Luenberger, An Introduction to Observers, IEEE Transactions on Automatic Control, Vol.16, No.6, 1971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、2慣性系の負荷挙動の簡易推定法(本発明の方式1)およびハイパスフィルタを用いた2慣性系の簡易制御法(本発明の方式2)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
2慣性系のブロック線図を
図1に示す。P2は負荷、P1はモータ(動力)を表し、その入出力には次の関係がある。
【数8】
【数9】
数8と数9からu2とu1を消去すると数10を得る。
【数10】
ただし1/P1はP1の逆システムである。よってP1, P2のモデルをP1m, P2mで表すと、負荷出力y2の簡易推定式として数11を得る。
【数11】
数11による推定値は、例えば
図2のようにコントローラCを介して制御に利用できる。
図1の各ブロック出力を角速度に対応させた場合(数12)、数11は数13となる。
【数12】
【数13】
【0007】
イナーシャ比J2/J1が大きい場合は振動的になりやすく、その場合、数13は数14で近似することができる。
【数14】
数14はω1を含まないので、観測ノイズ等を含む実信号θ1の微分計算が不要になり、実用上の都合もよい。以上が本発明の方式1である。次に本発明の方式2を述べる。
【0008】
数14の右辺第2項をさらに省いた数15を考える。
【数15】
数15は、数4の制御入力uがほぼ負荷側で費やされる状況、すなわち数16の近似が成り立つ状況と解釈できる。
【数16】
また別の観点では、数13の簡略版として数15を用いることは、数17の近似を行うこと、すなわち
図2からP2m/P1mのブロックを省くことに対応する。
【数17】
P2m/P1mがない
図2は、制御入力に数18のフィルタをかけた
図3と等価である。
【数18】
コントローラCが比例ゲイン(数19)の場合、数18は数20のハイパスフィルタとなる。
【数19】
【数20】
【0009】
上記ハイパスフィルタは、定常状態(s=0)でのゲインが0なので、過渡状態のためのフィルタである。サーボ系の場合、このハイパスフィルタは定常状態(の近傍)では基本的にはオフにする。ヒトが手で2慣性系を制御する場面を想定してみると、負荷の揺れが大きいときは、まずその揺れを抑えることに専念すると思われる。そして負荷の揺れが収まってきてから、負荷を希望の位置にもっていくと思われる。上記ハイパスフィルタのオンオフの切換えは、このような状況に類似する。
【発明の効果】
【0010】
数11による推定は、オブザーバよりも性能は劣るが、結合部(
図1の記号2)のモデルを利用しないためカップリング剛性などを知る必要がなく、その分適用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の方式1(2慣性系の負荷挙動推定法)
【
図3】本発明の方式2(ハイパスフィルタを用いた2慣性系制御法)
【
図4】本発明の方式1によるPID制御系の応答改善
【
図5】本発明の方式2によるPID制御系の応答改善
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を適用してPID制御系の応答改善を行ったシミュレーション例を示す。用いた制御系のパラメータを数22、数23、数24に示す。
【数22】
【数23】
【数24】
まず本発明の方式1(
図2)を追加したPID制御系を
図4に示す。
図4の記号16のブロックは、数25のように近似する。
【数25】
負荷速度の推定値にかけるフィードバックゲインは数26とする。
【数26】
図6はPID制御のみの応答、
図7は本発明を追加した場合(
図4)の応答である。本発明を適用することで応答が改善されていることがシミュレーションでも確認できる。
【0013】
次に、本発明の方式2(
図3)を追加したPID制御系を
図5に示す。パラメータ条件を上記と同じとすると、数20のハイパスフィルタの時定数は数27となる。
【数27】
ハイパスフィルタのオンオフ条件としては、数14を用いてω2を推定し(方法としては二度手間であるが)、数28のとき負荷がまだ揺れているとみなし、ハイパスフィルタをオンにする。
【数28】
図8に応答を示す。PID制御入力にハイパスフィルタをかけるだけで、
図7とほぼ同じ応答が得られることがシミュレーションでも確認できる。
【符号の説明】
【0014】
1 負荷
2 結合部(カップリング)
3 動力(モータ)
4 負荷モデル×モータ逆モデル
5 負荷モデル
6 負荷挙動コントローラ
7 負荷制御フィルタ
8 負荷(速度系)
9 積分器
10 バネ定数(カップリング剛性)
11 粘性摩擦係数
12 モータ(速度系)
13 PIDコントローラ
14 負荷挙動コントローラ(比例制御)
15 負荷モデル(速度系)
16 負荷モデル(速度系)×モータ逆モデル(速度系)
17 ハイパスフィルタ
18 ハイパスフィルタのオンオフ切換器