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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022281
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】温度測定装置及び温度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20240208BHJP
   G01J 5/60 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G01J5/00 B
G01J5/00 101B
G01J5/60 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125744
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢居 良仁
(72)【発明者】
【氏名】杉橋 敦史
(72)【発明者】
【氏名】村松 真臣
(72)【発明者】
【氏名】末松 芳章
(72)【発明者】
【氏名】森 芳宗
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AA15
2G066AC11
2G066BA14
2G066BA23
2G066BC15
2G066CA01
(57)【要約】
【課題】合金化プロセスの過程で大きく変化する放射率の影響を受けずに、移動中のGA鋼板の幅方向の温度分布を高速に測定する。
【解決手段】放射率が波長依存性を有する鋼板の温度を測定する温度測定装置であって、撮像部が、第1の波長λにおける鋼板の放射輝度である第1放射輝度E、及び第1の波長λとは異なる第2の波長λにおける鋼板の放射輝度である第2放射輝度Eを取得し、演算処理部14が、λとλとを用いて見掛けの温度Tを算出し、Eと、λ及びTを用いて、予め求めておいた黒体放射の式から算出した放射輝度L(λ,T)とを用いて見掛けの放射率εを算出し、εを用いて、近似的に導出して算出式により、鋼板のλにおける放射率εを算出し、εを用いて鋼板の温度を算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の波長λにおける放射率εが(1)式の関係を有する鋼板の温度を測定する温度測定装置であって、
第1の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第1放射輝度E、及び前記第1の波長λとは異なる第2の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第2放射輝度Eを取得する撮像部と、
前記鋼板の温度を算出する演算処理部と、
を有し、
前記演算処理部は、
前記第1の波長λと前記第2の波長λとを用いて、(2)式及び(3)式に基づき見掛けの温度Tを算出し、
前記第1放射輝度Eと、前記第1の波長λ及び前記見掛けの温度Tを用いて予め求めておいた黒体放射の放射輝度L(λ,T)とを用いて、(4)式に基づき見掛けの放射率εを算出し、
前記見掛けの放射率εを用いて、(5)式~(7)式に基づき前記鋼板の前記第1の波長λにおける放射率εを算出し、
前記放射率εを用いて、(8)式に基づき前記鋼板の温度を算出する、温度測定装置。
なお、Aは前記鋼板によって決まる未知の定数であり、Aは前記鋼板によって決まる既知の定数であり、cはプランクの放射則の放射の第2定数であり、関数L(λ,T)は、任意の温度Tでの任意の波長λにおける黒体放射の放射輝度を示す。
【数1】
【請求項2】
前記撮像部は、前記鋼板の全幅を含む範囲を視野とし、前記視野内の複数の位置における前記第1の波長λ及び前記第2の波長λを含む複数の波長毎の、前記鋼板の放射輝度を取得するハイパースペクトルカメラを有する、請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である請求項1又は請求項2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
任意の波長λにおける放射率εが(1)式の関係を有する鋼板の温度を測定する温度測定方法であって、
撮像部を用いて、第1の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第1放射輝度E、及び前記第1の波長λとは異なる第2の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第2放射輝度Eを取得する放射輝度取得ステップと、
演算処理部を用いて、
前記第1の波長λと前記第2の波長λとを用いて、(2)式及び(3)式に基づき見掛けの温度Tを算出する見掛け温度算出ステップと、
前記第1放射輝度Eと、前記第1の波長λ及び前記見掛けの温度Tを用いて、予め求めておいた黒体放射の放射輝度L(λ,T)とを用いて、(4)式に基づき見掛けの放射率εを算出する見掛け放射率算出ステップと、
前記見掛けの放射率εを用いて、(5)式~(7)式に基づき前記鋼板の前記第1の波長λにおける放射率εを算出する放射率算出ステップと、
前記放射率εを用いて、(8)式に基づき前記鋼板の温度を算出する温度算出ステップと、
を有する、温度測定方法。
なお、Aは前記鋼板によって決まる未知の定数であり、Aは前記鋼板によって決まる既知の定数であり、cはプランクの放射則の放射の第2定数であり、関数L(λ,T)は、任意の温度Tでの任意の波長λにおける黒体放射の放射輝度を示す。
【数2】
【請求項5】
前記撮像部は、前記鋼板の全幅を含む範囲を視野とし、前記視野内の複数の位置における前記第1の波長λ及び前記第2の波長λを含む複数の波長毎の、前記鋼板の放射輝度を取得するハイパースペクトルカメラを有する、請求項4に記載の温度測定方法。
【請求項6】
前記鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板である請求項4又は請求項5に記載の温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置及び温度測定方法に係り、詳しくは、物体から検出される放射輝度を利用した温度測定装置及び温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板を熱処理し、表面に鉄亜鉛合金を生成させた、いわゆる合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、「GA鋼板」という)は、耐食性や塗装性、プレス加工性に優れ、例えば、自動車の外板等に用いられる。GA鋼板の製造プロセスの一つとして、鋼板を溶融亜鉛に浸漬した後に合金化炉により加熱を行うことで、鋼板表面に亜鉛と鉄とのめっき合金層をつくる、合金化過程がある。めっき合金層中の鉄含有率を合金化度と呼ぶ。この合金化度はプレス成形性や耐久性等のGA鋼板の特性に大きく影響するため、合金化度を適切な範囲に制御することが重要である。この合金化度は、合金化処理時の加熱温度及び加熱時間と相関がある。そのため、均一で品質の良いめっき合金層を備えたGA鋼板を製造するためには、合金化過程において、幅方向の温度分布を均一に、適正な温度範囲に制御することが重要である。そのため、合金化過程において、幅方向の温度分布を測定する技術が求められている。
【0003】
対象物に対して非接触かつ高速で温度を測定可能な遠隔測温方法として、放射測温法がある。放射測温法は、高温物体がその温度に応じて放出する熱放射光を光検出器により検出し、その強度により温度を測定する方法である。放射測温法では、正確に温度測定を行うために、対象物やその表面状態毎に異なる放射率を把握する必要がある。しかし、GA鋼板の製造プロセスにおいては、溶融した亜鉛が鉄と反応して合金化する過程で、鋼板表面の粗度に変化が生じ、鋼板の放射率が、合金化前の約0.2から合金化後の約0.8に大きく変化する。このことから、一般的な放射温度計を用いて、合金化過程のGA鋼板の表面温度を測定することは困難である。
【0004】
放射率が変動する対象物に対する温度測定方法として、2色放射測温法がある。温度T[K]の測定対象物から放出される放射光の放射輝度の内、2つの波長λ及びλでの放射輝度E及びEは、2つの波長λ及びλでの放射率をε及びεとすると、(101)式及び(102)式で表すことができる。ここで、L(λ,T)は、プランク則に従った黒体放射における温度Tかつ波長λでの放射輝度であり、(103)式のように表すことができる。なお、cはプランクの放射則の放射の第1定数であり、cはプランクの放射則の放射の第2定数である。
【0005】
【数1】
【0006】
ε=εの場合は灰色体と呼ばれ、2色放射測温法で一般に使用される条件である。2色放射測温法では、(104)式のように2つの波長の放射輝度の比(2色比R)をとることで、放射率の影響を排除して温度Tを算出可能である。さらに、算出された温度Tと放射輝度とから、(101)式により、放射率も算出可能である。2つの波長の差が大きいほど感度が向上するメリットがあるが、その場合、一般には灰色体の条件を満たすのが難しくなる。
【0007】
【数2】
【0008】
上述したように、GA鋼板においては、溶融亜鉛を塗布した鋼板を加熱し合金層を成長させると、合金化の進行に伴い、放射率は、約0.2(合金化前)から、約0.8(合金化後)まで変化する。これは、溶融した亜鉛が金属光沢を有しているのに対し、合金化後はFeZn化合物の生成と同時に固体となり粗面となることに対応している。溶融した亜鉛及び合金化後亜鉛の波長λ[μm]における放射率εは、(105)式のような波長依存の項があり、経験的に波長依存係数A=0.1であることが知られている。合金化過程の2波長λ及びλでの放射率は等しくなく、(106)式のようになるため、一般的な2色放射測温法では温度を算出できない。このため、特許文献1及び2に示されるように、従来の合金化過程のGA鋼板を対象とした放射温度計は、2波長での放射輝度を測定し、(101)式、(102)式、及び、2波長の放射率間の関係式である(106)式を連立させて数値解析により解くことで、温度及び放射率を算出している。
【0009】
【数3】
【0010】
特許文献1には、2つの波長の放射輝度、見掛けの温度、見掛けの放射率、及び実験的に求めた2つの波長の間の放射率特性関数を用いて、繰り返しの収束演算から被対象材の温度を求める方法が開示されている。また、特許文献2及び3には、合金亜鉛めっき鋼板においては、分光放射率が波長の逆数に比例することを利用して、3つ以上の波長の放射輝度から見掛けの温度及び見掛けの放射率を繰り返し演算により求め、被対象材の温度を求める方法が開示されている。また、特許文献4には、2つの波長の放射輝度、見掛けの温度、見掛けの放射率、及び予め算出してある見掛けの放射率と真の放射率との関係式から、真の放射率を決定し、被対象材の温度を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2-85730
【特許文献2】特開平5-231944
【特許文献3】特開平5-231945
【特許文献4】特開平5-240711
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の方法は、収束演算により温度を算出する方法であるため、算出に時間を要する。このため、多くの測定点の温度を算出する必要があるGA鋼板の幅方向の温度分布の測定には不適である。また、特許文献3には、3つの異なる波長の放射輝度を各波長と放射率との関係を実験的に求めた関係式にて近似し、連立方程式からGA鋼板の温度を算出する手法が開示されているが、具体的な算出方法については明示されておらず、算出が容易でない。特許文献4に記載の方法では、予め各波長の真の放射率と見掛けの放射率との間の関係式を調べる必要があるが、この関係式を調べることは容易ではない。
【0013】
そこで、本発明は、合金化プロセスの過程で大きく変化する放射率の影響を受けずに、搬送中のGA鋼板の幅方向の温度分布を高速に測定することができる温度測定装置及び温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一態様に係る温度測定装置は、任意の波長λにおける放射率εが(1)式の関係を有する鋼板の温度を測定する温度測定装置であって、第1の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第1放射輝度E、及び前記第1の波長λとは異なる第2の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第2放射輝度Eを取得する撮像部と、前記鋼板の温度を算出する演算処理部と、を有し、前記演算処理部は、前記第1の波長λと前記第2の波長λとを用いて、(2)式及び(3)式に基づき見掛けの温度Tを算出し、前記第1放射輝度Eと、前記第1の波長λ及び前記見掛けの温度Tを用いて、予め求めておいた黒体放射の放射輝度L(λ,T)とを用いて、(4)式に基づき見掛けの放射率εを算出し、前記見掛けの放射率εを用いて、(5)式~(7)式に基づき前記鋼板の前記第1の波長λにおける放射率εを算出し、前記放射率εを用いて、(8)式に基づき前記鋼板の温度を算出する。なお、Aは前記鋼板によって決まる未知の定数であり、Aは前記鋼板によって決まる既知の定数であり、cはプランクの放射則の放射の第2定数であり、関数L(λ,T)は、任意の温度Tでの任意の波長λにおける黒体放射の放射輝度を示す。
【数4】
【0015】
本発明の第二態様に係る温度測定方法は、任意の波長λにおける放射率εが(1)式の関係を有する鋼板の温度を測定する温度測定方法であって、撮像部を用いて、第1の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第1放射輝度E、及び前記第1の波長λとは異なる第2の波長λにおける前記鋼板の放射輝度である第2放射輝度Eを取得する放射輝度取得ステップと、演算処理部を用いて、前記第1の波長λと前記第2の波長λとを用いて、(2)式及び(3)式に基づき見掛けの温度Tを算出する見掛け温度算出ステップと、前記第1放射輝度Eと、前記第1の波長λ及び前記見掛けの温度Tを用いて、予め求めておいた黒体放射の放射輝度L(λ,T)とを用いて、(4)式に基づき見掛けの放射率εを算出する見掛け放射率算出ステップと、前記見掛けの放射率εを用いて、(5)式~(7)式に基づき前記鋼板の前記第1の波長λにおける放射率εを算出する放射率算出ステップと、前記放射率εを用いて、(8)式に基づき前記鋼板の温度を算出する温度算出ステップと、を有する。なお、Aは前記鋼板によって決まる未知の定数であり、Aは前記鋼板によって決まる既知の定数であり、cはプランクの放射則の放射の第2定数であり、関数L(λ,T)は、任意の温度Tでの任意の波長λにおける黒体放射の放射輝度を示す。
【数5】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、合金化プロセスの過程で大きく変化する放射率の影響を受けずに、搬送中のGA鋼板の幅方向の温度分布を高速に測定することができる温度測定装置及び温度測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る温度測定装置が設置された連続溶融亜鉛めっき処理設備の構成を示す図である。
図2】演算処理部の機能ブロック図である。
図3】演算処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】温度測定処理の流れを示すフローチャートである。
図5】波長と黒体炉測定輝度との関係を示すグラフである。
図6】黒体炉温度と放射輝度との関係を示すグラフである。
図7】温度の逆数と放射輝度との関係を示すグラフである。
図8】実施例における試験装置構成を示す図である。
図9】輝度値及び放射輝度の時間変化を示すグラフである。
図10】温度の算出結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
(温度測定装置の構成の説明)
図1に、本実施形態に係る温度測定装置10が設置された連続溶融亜鉛めっき処理設備の構成を示す。めっき処理される鋼板は、連続焼鈍(図示省略)された後に、溶融した亜鉛が入った溶融亜鉛めっき浴に導入される。溶融亜鉛めっき浴に導入された鋼板は、浴中ロールにより上向きの方向に転換され、溶融亜鉛めっき浴から引き出される。溶融亜鉛が付着した鋼板は、その両面に向けてワイピングノズルからワイピングガスが吹き付けられ、溶融亜鉛の付着量が調整される。その後、めっき付着量が調整された鋼板は合金化炉の内に通板される。合金化炉は、誘導加熱により、鋼板を合金化温度である500℃~550℃付近にまで加熱する。上部ロール(図示省略)に到達するまでに、加熱された鋼板は合金化が完了する。
【0020】
本実施形態に係る温度測定装置10は、放射率が波長依存性を有する鋼板、具体的には、任意の波長λにおける放射率εが(105)式の関係を有する鋼板の温度を測定する装置である。なお、(105)式において、AはGA鋼板によって決まる未知の係数である。また、Aは、上述したように波長依存係数であり、GA鋼板によって決まる既知の定数である。温度測定装置10は、撮像部12と、演算処理部14とを含む。
【0021】
撮像部12は、少なくとも、図1に示すGA鋼板の所定の位置において、異なる複数の波長での放射輝度を取得できる、カメラ単体やカメラを含む装置であり、公知のカメラを適宜組み合わせる等することで実現することができる。撮像部12としては、例えば、図1に示すGA鋼板の搬送方向に対して直交する方向(以下、「板幅方向」ともいう)の全幅を含む範囲を視野とし、視野内の複数の位置における複数の波長毎の、GA鋼板の放射輝度を取得するハイパースペクトルカメラを用いてもよい。上記の複数の波長には、任意の第1の波長λと、第1の波長λとは異なる第2の波長λとが含まれる。
【0022】
撮像部12として利用可能なハイパースペクトルカメラは、光を波長毎に分光して得られる分光情報を空間情報と共に撮像することができるカメラである。それにより、目視やRGBカメラで得られるよりも多くの情報が得られるために、工学、生物学、医学分野等の領域で研究が進でいる。さらに、近年は、デバイスが安価になり、工場のラインへの導入も進み、異物検知、品質管理、成分検査等の分野でも用いられている。
【0023】
一般的なハイパースペクトルカメラはラインスキャン型である。これは、ライン状の視野を持ち、対象を撮像することで、ラインを構成する画素毎に、細かなスペクトル情報を取得する。ハイパースペクトルカメラは、この機能を実現するために、レンズ、スリット部、分光器、及び2次元撮像素子を含んで構成されている。まず、レンズにより対象の像をスリット部に結像させ、スリット部に結像された光を1次元情報(ライン)として分光器に届け、分光器において回折格子やプリズムにより光を複数の波長に分光し、2次元撮像素子が分光された光を捉える。結果的に、ハイパースペクトルカメラの2次元撮像素子は、ライン状視野における各位置の波長毎の光の検出強度を、空間CH(チャネル)×波長CHの2次元のハイパースペクトル画像として取得する。空間CH数としては、一般に320、640等が用いられ、波長CH数としては、100、200等が用いられる。分光スペクトルの波長帯域は、分光器の仕様、2次元撮像素子のサイズ、検出波長帯域、及びCH数により決まる。各位置の光の検出強度は、ハイパースペクトル画像において、例えば4096階調(12bit)の輝度値として取得される。
【0024】
このような特徴を持つハイパースペクトルカメラを用いれば、板幅方向にわたる分光放射スペクトルを一回の撮像で高速に取得でき、高速な温度測定装置10を実現可能である。圧延(長手)方向に通板されるGA鋼板を測定することで、全長にわたる測定が可能となる。さらに、温度測定に2色放射測温法を用いることで、2色放射測温で用いる2波長を分光スペクトルの波長の中から自由に選択できるようになる。
【0025】
具体的には、撮像部12は、GA鋼板の板幅方向の1ラインの視野毎にハイパースペクトル画像を1つ撮像する。より具体的には、撮像部12は、任意の第1の波長λにおけるGA鋼板の放射輝度E、及び第2の波長λにおけるGA鋼板の放射輝度Eが含まれるハイパースペクトル画像を撮像する。
【0026】
演算処理部14は、撮像部12で撮像されたハイパースペクトル画像に基づいてGA鋼板の温度を算出する機能部であり、後述するハードウェア構成のコンピュータにより実現される。演算処理部14は、機能的には、図2に示すように、見掛け温度算出部22と、見掛け放射率算出部24と、放射率算出部26と、温度算出部28とを含む。以下では、各機能部の説明として、GA鋼板の任意の1点における温度の算出について説明する。各機能部は、測定対象の各点に対して、以下で説明する処理を実行するものである。
【0027】
見掛け温度算出部22は、第1の波長λと第2の波長λとを用いて、放射率εとεとが同一であるとみなした場合の見掛けの温度Tを算出する。具体的には、見掛け温度算出部22は、ハイパースペクトル画像から、波長λ及びλの各々における放射輝度E及びEを抽出し、波長λ及びλと、抽出した放射輝度E及びEとを用いて、(107)式及び(108)式により、2色比Rを介して、見掛けの温度Tを算出する。
【0028】
【数6】
【0029】
見掛け放射率算出部24は、放射輝度E、波長λ、及び見掛けの温度Tを用いて、放射率εとεとが同一であるとみなした場合の見掛けの放射率εを算出する。具体的には、見掛け放射率算出部24は、黒体放射において予め求めておいた温度Tかつ波長λでの放射輝度を示す関係式L(λ,T)から、波長λかつ見掛け温度算出部22により算出された見掛けの温度Tにおける放射輝度L(λ,T)を算出する。そして、見掛け放射率算出部24は、見掛け温度算出部22により抽出された放射輝度Eと、算出した放射輝度L(λ,T)とを用いて、(109)式により、見掛けの放射率εを算出する。
【0030】
【数7】
【0031】
放射率算出部26は、見掛け放射率算出部24により算出された見掛けの放射率εを用いて、GA鋼板の波長λにおける放射率εを算出する。具体的には、放射率算出部26は、波長依存係数Aと、波長λ及びλとを用いて、(111)式及び(112)式のa及びbを算出し、算出したa及びbと、見掛けの放射率εとを用いて、(110)式により放射率εを算出する。なお、(110)式は、近似的に導出される式である。この近似式の導出についての詳細は後述する。
【0032】
【数8】
【0033】
温度算出部28は、放射率算出部26により算出された放射率εを用いて、GA鋼板の温度Tを算出する。具体的には、温度算出部28は、上述した関係式L(λ,T)に波長λを適用した関係式L(λ,T)を求める。関係式L(λ,T)は、黒体放射における波長λかつ温度Tでの放射輝度を表す。温度算出部28は、関係式L(λ,T)と、放射率算出部26により算出された放射率εと、見掛け温度算出部22により抽出された放射輝度Eとを用いて、(113)式により温度Tを算出する。
【0034】
【数9】
【0035】
図3は、演算処理部14のハードウェア構成を示すブロック図である。図3に示すように、演算処理部14は、CPU(Central Processing Unit)32、メモリ34、記憶装置36、入力装置38、出力装置40、記憶媒体読取装置42、及び通信I/F(Interface)44を有する。各構成は、バス46を介して相互に通信可能に接続されている。
【0036】
記憶装置36には、後述する温度測定処理を実行するためのプログラムが格納されている。CPU32は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各構成を制御したりする。すなわち、CPU32は、記憶装置36からプログラムを読み出し、メモリ34を作業領域としてプログラムを実行する。CPU32は、記憶装置36に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0037】
メモリ34は、RAM(Random Access Memory)により構成され、作業領域として一時的にプログラム及びデータを記憶する。記憶装置36は、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム及び各種データを格納する。
【0038】
入力装置38は、例えば、キーボードやマウス等の、各種の入力を行うための装置である。出力装置40は、例えば、ディスプレイやプリンタ等の、各種の情報を出力するための装置である。出力装置40として、タッチパネルディスプレイを採用することにより、入力装置38として機能させてもよい。
【0039】
記憶媒体読取装置42は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の各種の記憶媒体に記憶されたデータの読み込みや、記憶媒体に対するデータの書き込み等を行う。通信I/F44は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI又はWi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0040】
(放射率算出の近似式の導出)
上述した2波長測温法では、温度と分光放射輝度との関係は非線形であり、解析的に温度及び放射率を求めることができず、検査位置となるライン状の視野が通過する短時間の間に、時間を要する収束演算をすることにより、温度及び放射率を算出する必要がある。そのため、数百回以上の温度算出を必要とする板幅方向温度分布に適用するには算出時間が長くなり実用的ではない。そこで、今回のような合金化過程の溶融亜鉛めっきのようなものでは、波長依存係数Aが比較的小さい値であることを利用して、放射率及び温度を高速で算出できる近似式を見出して利用することとした。以下に、近似式の導出過程を説明する。
【0041】
まず、2つの波長の放射輝度比を算出することを考えると、2波長の放射輝度比(2色比)Rは(114)式により表され、(114)式は(115)式のように変形できる。
【0042】
【数10】
【0043】
ここで、2波長の放射率が同じε(見掛けの放射率)であるとした場合の、見掛けの温度Tを算出することを考えると、(116)式の関係がある。予め、黒体放射における2つの波長で温度及び放射輝度の相関を求めておけば、すなわち温度校正を行っておけば、(117)式によりεを算出することが可能である。
【0044】
【数11】
【0045】
ここで、(117)式を(115)式に代入すると、(118)式が導かれる。
【0046】
【数12】
【0047】
一方、見掛けの放射率εについては、(119)式が成立する。
【0048】
【数13】
【0049】
(118)式及び(119)式を用いてT及びTを消去することで、放射率ε及びεと見かけの放射率εとの関係式(120)式が導かれる。
【0050】
【数14】
【0051】
(120)式に(106)式を代入して整理すると、見かけの放射率εは、(121)式のように表すことができる。
【0052】
【数15】
【0053】
a/ε<<1の場合、(121)式の右辺は、(122)式に示すマクローリン級数展開により線形式に近似できる。解析的に算出可能なように(即ち、収束演算をしなくてもよいように)級数の2項目まで使用した場合、(123)式が導かれる。
【0054】
【数16】
【0055】
ここで、b=λ/(λ-λ)とおいて(124)式のように変換し、2次方程式の解の公式を使用すると、見掛けの放射率εから実際の放射率εを近似的に求める(110)式が導かれる。算出された放射率εと放射輝度Eとを用いて、単色演算より温度を算出可能である。また、(106)式により放射率εを算出して、2色演算による温度算出も可能である。
【0056】
【数17】
【0057】
このように、近似式として導出された(110)式を用いて放射率εを算出することにより、収束演算を要することなく放射率εを算出することができるため、高速に放射率εを算出し、さらに温度Tを算出することができる。
【0058】
(温度測定方法の説明)
図4は、演算処理部14のCPU32により実行される温度測定処理の流れを示すフローチャートである。CPU32が記憶装置36から温度測定処理を実行するためのプログラムを読み出して、メモリ34に展開して実行することにより、CPU32が演算処理部14の各機能部として機能し、図4に示す温度測定処理が実行される。これにより、温度測定装置10において温度測定方法が実行される。
【0059】
ステップS10で、見掛け温度算出部22が、撮像部12で撮像されたハイパースペクトル画像を取得する。次に、ステップS12で、見掛け温度算出部22が、ハイパースペクトル画像から、波長λ及びλの各々における放射輝度E及びEを抽出する。次に、ステップS14で、見掛け温度算出部22が、波長λ及びλと、抽出した放射輝度E及びEとを用いて、(107)式及び(108)式により、見掛けの温度Tを算出する。
【0060】
次に、ステップS16で、見掛け放射率算出部24が、黒体放射において予め求めておいた温度Tかつ波長λでの放射輝度を示す関係式L(λ,T)から、波長λかつ見掛けの温度Tにおける放射輝度L(λ,T)を算出する。そして、見掛け放射率算出部24が、放射輝度Eと、算出した放射輝度L(λ,T)とを用いて、(109)式により、見掛けの放射率εを算出する。
【0061】
次に、ステップS18で、放射率算出部26が、波長依存係数Aと、波長λ及びλとを用いて、(111)式及び(112)式のa及びbを算出する。そして、放射率算出部26が、算出したa及びbと、見掛けの放射率εとを用いて、近似的に導出された放射率の算出式である(110)式により放射率εを算出する。
【0062】
次に、ステップS20で、温度算出部28が、関係式L(λ,T)に波長λを適用した関係式L(λ,T)と、算出された放射率εと、放射輝度Eとを用いて、(113)式により温度Tを算出する。
【0063】
次に、ステップS22で、温度算出部28が、測定を終了するか否かを判定する。例えば、撮像部12による撮像視野がGA鋼板の端部に到達したことを検知するなどした場合に、測定終了と判定してよい。測定を終了しない場合には、ステップS10に戻り、測定を終了する場合には、温度測定処理は終了する。
【0064】
(温度測定装置の効果)
以上説明したように、本実施形態に係る温度測定装置は、合金化過程の溶融亜鉛めっきのように、放射率が強い波長依存性を有する鋼板の温度を測定する場合において、波長依存係数が比較的小さい値であることを利用して導出した近似式により、放射率を算出する。これにより、収束演算を要することなく高速に放射率を算出することができる。したがって、合金化プロセスの過程で大きく変化する放射率の影響を受けずに、移動中のGA鋼板の幅方向の温度分布を高速に測定することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る温度測定装置により測定した温度を用いて、GA鋼板の板幅方向の温度分布を均一に、かつ、適正な温度範囲に制御することで、均一で品質の良いめっき合金層を備えたGA鋼板を製造することが可能なる。すなわち、鉄亜鉛合金化処理中のGA鋼板の板幅方向の温度分布及び放射輝度分布を、GA鋼板の生産速度(搬送速度)に十分間に合う時間内で測定することが可能となる。さらに、GA鋼板の鉄亜鉛合金化処理の条件を適正に変更及び制御することが可能となり、上述したように、均一で品質の良いGA鋼板を製造することが可能となる。
【0066】
<実施例>
合金化過程におけるGA鋼板を対象とした実施例について説明する。
【0067】
(センサに要求される仕様及び使用したハイパースペクトルカメラ)
表1に、温度測定装置の要求仕様を示す。対象とする合金化過程のGA鋼板の温度は、400℃~600℃であり、合金化により放射率は約0.2(合金化前)から約0.8(合金化後)に変化する。これは、溶融した亜鉛が金属光沢しているのに対し、合金化後はFeZn化合物の生成と同時に固体となる粗面となることに対応している。通板されつつ合金化していく鋼板の各部位でめっき品質との関連を把握できるように、板幅方向における温度測定点の分布(幅方向分解能)は5mm以下、板幅方向の温度測定周期(応答速度)は20Hzとし、測定精度を実測値との差が±10℃となることを目標とした。
【0068】
【表1】
【0069】
表2に、撮像部12として使用したハイパースペクトルカメラの仕様を示す。2次元撮像素子として、対象温度400℃、放射率0.2でも十分に放射光を検出できる感度を確保するために、900nmから1650nmに感度を有する光検出素子InGaAsを用いたハイパースペクトルカメラを選定した。空間方向のCH数は640CHであり、空間方向の画角65°のレンズを用い、測定点まで距離1670mm離すと、板幅方向の視野は2000mmとなり、板幅方向の分解能は約3mmとなる。一方、波長CHは約200CHであり、900nmから1700nmの範囲を、3.5nmピッチで分光スペクトルを取得できる。最大のフレームレートは50fpsであり、露光時間を設定することにより感度を制御できる。
【0070】
【表2】
【0071】
ハイパースペクトルカメラから出力されたハイパースペクトル画像は、横640画素(空間方向CH)×縦200画素(波長CH)、4096階調(12bit)の画像として出力され、演算処理部14に取り込まれる。演算処理部14では、複数波長の放射輝度Eを算出して、温度の測定に利用する。
【0072】
以下の実施例では、4波長から2波長を選択して温度測定を行う例を示すが、温度測定範囲を広くするうえでは波長数は4に限定されない。ハイパースペクトルカメラの波長範囲内で有意な波長数であれば、例えば6波長として、波長の組み合わせを3種類としてもよい。
【0073】
(波長の選定)
図5に、GA鋼板の測定温度範囲に含まれる約400℃、500℃、及び600℃の各々について、ハイパースペクトルカメラにより黒体炉高温部の黒体輻射を測定した際の分光スペクトル(波長毎の黒体炉測定輝度)を示す。図5では、バックグラウンド(全く光が入らない状態での検出輝度値、2次元撮像素子の暗電流により生じる)補正後の値を示している。いずれの温度でも、放射光強度(黒体炉測定輝度)がほぼ同じになるように黒体炉の露光時間を設定している。約100℃の温度上昇は露光時間1/4倍に相当する。放射光強度は長波長側ほど大きく、使用検出素子(InGaAs)の感度特性により1600nm付近で最大となる。検出波長は、λ=1300nm、λ=1400nm、λ=1500nm、λ=1600nmの4つとした。2色放射測温法においては、波長の間隔が狭いと感度が低下する。今回の要求精度を満たすに十分な感度を確保するために、100nmの波長間隔を設けた。合金化温度は500℃付近であり、L(1600nm,500℃)/L(1300nm,500℃)=5.18である。この値は、合金化前後での放射率の変化倍率4(=0.8/0.2)より大きく、視野内に合金化むらが存在していても、いずれかの波長を用いることで温度測定が可能である。なお、ハイパースペクトル画像からの輝度値(放射光強度)の抽出においては、輝度値を安定化するために、波長方向で複数CH(例えば5CH)の平均値を使用してもよい。
【0074】
(黒体炉での温度校正)
図6に、黒体炉(T[℃]=300~600)を設定された露光時間毎に撮像して、ハイパースペクトル画像から各波長の放射輝度を抽出して、温度との関係をグラフにした結果を示す。設定された露光時間t[μs]は、t[μs]=1000、1600、2560、4096、6553、10485、16777、26489であり、検出波長は、λ=1300nm、λ=1400nm、λ=1500nm、λ=1600nmである。図6では、バックグラウンドは減算済みの値を示している。バックグラウンドは露光時間によって異なる場合があるので、露光時間毎にシャッターを閉めて光が2次元撮像素子に入らない状態として測定した。露光時間が異なるとハイパースペクトルカメラの感度が異なるため、温度との相関が取れなくなる。そこで、ハイパースペクトル画像から抽出される輝度値Iを、(125)式により基準露光時間tdst=4096μs相当に換算して放射輝度Eとした。IBGはバックグラウンドである。図7に、横軸を1/Tで整理した放射輝度E(露光時間4096μs相当)の結果を示す。
【0075】
【数18】
【0076】
次に、黒体炉温度Tと各波長の放射輝度Eとの関係を調べ、曲線回帰により、(126)式の温度校正係数α及びβを求めた結果を表3に示す。この温度校正係数を用いることで、露光時間毎に校正曲線を使用する必要なく、各波長1つの校正曲線で、放射輝度と温度との換算処理が可能となる。
【0077】
【数19】
【0078】
【表3】
【0079】
(温度測定精度の検証)
実施例における温度測定の測定精度を検証するために、めっき原板を通電加熱しFe母材と合金化させて、ハイパースペクトルカメラにより、その際の熱放射光スペクトルを測定することで、合金化過程の温度測定性能を評価した。めっき原板は、0.4mm厚みの軟鋼鋼板に溶融亜鉛を塗布しそのまま凝固させた鋼板である。図8に、試験装置構成を示す。通電加熱により、めっき原板を合金化温度(500℃前後)にまで加熱し、一定温度に保持し合金化させて、合金化時の放射強度をハイパースペクトルカメラで測定する。この際、測定点真裏を黒体塗料で塗装し、放射温度計にて測定して実測温度とし、ハイパースペクトルカメラによる測温値と比較した。
【0080】
(温度の算出方法)
本実施例における、GA鋼板の板幅方向のある位置における温度の算出方法を説明する。
【0081】
まず、温度測定部位の放射輝度Eをハイパースペクトル画像から取得する。具体的には、得られた2次元のハイパースペクトル画像から、温度測定位置における波長λ(i=1,2,3,4)の輝度値Iを抽出する。そして、(125)式により、輝度値Iを基準露光時間tdst=4096μs相当に換算して、放射輝度Eを取得する。
【0082】
次に、波長の放射率が等しい場合の見掛けの温度T及び見掛けの放射率εを算出する。具体的には、算出した放射輝度Eの内、2つの波長λ及びλの放射輝度E及びEを選択し、両波長での放射率が等しいと仮定した際の温度及び放射率を算出する。より具体的には、見掛けの温度Tと2色比R(=E/E)との関係は(127)式のようになるため、(128)式により見掛けの温度Tを算出することができる。さらに、算出した見掛けの温度Tを用いて、(129)式により見掛けの放射率εを算出する。
【0083】
【数20】
【0084】
次に、(110)式の近似式により、実際の放射率εを算出する。具体的には、a=A(1/λ-1/λ)、b=λ/(λ-λ)としたときに、εを用いて、(110)式によりεを算出する。ここで、Aは予め実験により求めておいた値を用いる。GA鋼板の場合はA=0.10である。
【0085】
そして、最後に、算出した放射率εを用いて実際の温度Tを算出する。具体的には、温度校正係数α及びβと、算出された放射率εと、放射輝度Eとを用いて、(130)式を変換した(131)式により温度Tを算出する。
【0086】
【数21】
【0087】
(近似式による計算の効果)
図9に、温度を530℃で固定し、合金化過程において、最大強度となる波長λが飽和しないように露光時間調整を行って波長λ~λでの輝度値を測定した結果を示す。図9(a)は、ハイパースペクトル画像から抽出される輝度値、図9(b)はバックグラウンド補正及び基準露光時間(4096μs)相当に換算を行った放射輝度である。図9(a)を見ると、合金化の過程で輝度値が上昇したため、露光時間を4096μsから2560μsへ変更して飽和を防いでいる。
【0088】
図10に、温度及び放射率の算出結果を示す。放射率は合金化前の約0.2から合金化後の約0.8に変化していることが分かる。図10(a)に示す放射率の波長依存を考慮しないA=0.00の場合は、合金化前において、算出された温度が実測値に対し約30℃ほど高めに出力されている。一方、図10(b)に示すGA鋼板の波長依存係数A=0.10を用いた場合は、合金化前から後にかけて、算出された温度が実測値に対し±10℃以内に収まっていることが分かる。
【0089】
このように、波長依存係数を用いて温度を算出することで、高精度に合金化前から合金化後までめっき表面の温度を測定可能なことが分かる。また、近似計算であるため、収束演算等の繰り返しの数値演算は不要であり、高速で温度を算出できる。
【0090】
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0091】
10 温度測定装置
12 撮像部
14 演算処理部
22 見掛け温度算出部
24 見掛け放射率算出部
26 放射率算出部
28 温度算出部
32 CPU
34 メモリ
36 記憶装置
38 入力装置
40 出力装置
42 記憶媒体読取装置
44 通信I/F
46 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10