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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022300
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】データ伝送方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 74/08 20240101AFI20240208BHJP
   H04W 4/38 20180101ALI20240208BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20240208BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20240208BHJP
【FI】
H04W74/08
H04W4/38
H04W84/18 110
H04W72/04 131
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125777
(22)【出願日】2022-08-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)宮本隆司、田久修、藤原洋志、安達宏一、太田真衣および藤井威生が2022年3月1日発行の電子情報通信学会総合大会2022における講演予稿集のB-17-11において発明を公開。また、同内容を2022年3月16日にオンラインで開催された同大会で発表。 (2)宮本隆司、田久修、藤原洋志、安達宏一、太田真衣および藤井威生が、2022年5月4日発行の電子情報通信学会技術研究報告書のvol.122,no.12,SR2022-14,pp.61-66において発明を公開。また、同内容を2022年5月13日に国立研究開発法人情報通信研究機構(東京都小金井市貫井北町4-2-1)で開催された電子情報通信学会のスマート無線研究会で発表。 (3)宮本隆司、田久修、藤原洋志、安達宏一、太田真衣および藤井威生が、2022年7月5日発行のInternational Conference on Ubiquitous and Future Networks(ICUFN)における2022 Thirteenth International Conference on Ubiquitous and Future Networks(ICUFN)のpp.55-60,doi:10.1109/ICUFN55119.2022.9829708.において発明を公開。また、同内容は、2022年7月15日に、International Conference on Ubiquitous and Future Networks(ICUFN)のデータベースの2022,pp.55-60,doi:10.1109/ICUFN55119.2022.9829708.にて公開。 (4)宮本隆司、田久修、藤原洋志、安達宏一、太田真衣および藤井威生は、2022年7月6日発行の電子情報通信学会技術研究報告会における技術研究報告書のvol.122,no.107,SR2022-37,pp.74-78において発明を公開。また、金沢歌劇座(金沢市下本多町6番丁27番地)で開催された電子情報通信学会のスマート無線研究会で同内容を2022年7月15日に発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】宮本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 洋志
(72)【発明者】
【氏名】藤井 威生
(72)【発明者】
【氏名】安達 宏一
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA03
5K067EE24
5K067GG04
5K067HH22
5K067JJ41
(57)【要約】
【課題】データを伝送するセンサの数が多くなっても集約局におけるパケット衝突を回避し、パケットロスの発生を防止すること。
【解決手段】複数のセンサ30が設置されたデータ伝送対象エリア10で、センサ30による観測データを複数の時間スロットと使用チャンネルで形成されたフレームに対応するインデックスに割り当ててPLIM方式で集約局40に伝送するデータ伝送方法であって、センサ30における観測データに対する観測確率および観測対象の位置をセンサ観測データ発生確率分布として集計する事前準備工程(S1)、データ伝送対象エリア10内で観測データに基づきセンサ観測データ発生確率分布を用い、PLIM方式での集約局40でのパケット衝突確率が最小になるインデックスを算出する工程(S2)、観測データをインデックスが適用されたPLIM方式で集約局40に伝送する工程(S3)と、を実行するデータ伝送方法である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象を観測する複数のセンサが設置されたデータ伝送対象エリアにおいて、各前記センサによる観測データをパケット化し、複数の時間スロットおよび使用チャンネルにより形成されたフレームに対応させたインデックスのいずれかに、パケット化した前記観測データを割り当てて伝送するPLIM(Packet Level Index Modulation)方式によって集約局に伝送するデータ伝送方法であって、
各前記センサにおける前記観測データの数値に対する観測確率および前記観測対象の位置をセンサ観測データ発生確率分布として集計する事前準備工程と、
前記データ伝送対象エリア内で各前記センサによる前記観測データに基づいて前記センサ観測データ発生確率分布を用いて、各前記センサが使用する前記PLIM方式における前記集約局でのパケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程と、
各前記センサが前記観測データを前記インデックスが適用された前記PLIM方式によって前記集約局に伝送する工程と、
をそれぞれ実行することを特徴とするデータ伝送方法。
【請求項2】
前記事前準備工程は、
前記データ伝送対象エリアを複数の分割エリアに分割し、特定の前記分割エリアにおける各前記センサにおける前記観測データの数値に対する前記観測確率を分割エリア別センサ観測データ発生確率分布として、各前記分割エリアについて各々集計する工程であって、
各前記センサが使用する前記PLIM方式における前記集約局での前記パケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程は、
前記データ伝送対象エリア内における各前記センサによる前記観測データに基づいて、前記分割エリア別センサ観測データ発生確率分布の中から最も類似性の高い前記分割エリア別センサ観測データ発生確率分布を選択する工程と、
選択された前記分割エリア別センサ観測データ発生確率分布を用いて、各前記センサが使用する前記PLIM方式における前記集約局での前記パケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程であることを特徴とする請求項1記載のデータ伝送方法。
【請求項3】
前記観測データは、所要数値範囲毎に対応させた複数の観測データ番号により量子化されていて、
各前記センサが使用する前記PLIM方式において前記集約局における前記パケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程は、次式に基づいて実行されることを特徴とする請求項1または2記載のデータ伝送方法。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデータ伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モノのインターネット(IoT;Internet of Things,以下、IoTという)が普及している。IoTにおいては、低消費電力で長距離通信が可能な通信方式であるLPWA(Low Power Wide Area)が注目されている。このようなLPWAにおけるスループットの低下を解消するため、本出願における一部の発明者は、特許文献1(特開2022-85522号公報)や非特許文献1等において、伝送したい情報ビット系列に基づいてパケットを伝送する時間スロットおよび使用チャンネルを設定するパケット型インデックス変調方式(いわゆるPLIM(Packet Level Index Modulation)方式)によるデータ伝送方法の提案を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-85522号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】国立大学法人電気通信大学、“ニュースリリースIoTの課題解決に新通信方式―省電力で伝送データ量を増大―│”、[online]、令和3年7月9日、国立大学法人電気通信大学、[令和4年6月22日検索]、インターネット<URL:https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2021/20210709_3546.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および非特許文献1に開示されているデータ伝送方法は、図12に示すように、電波源からの電波を受信したセンサが集約局にデータを伝送する際、センサが使用する時間スロットと使用チャンネルにより複数のインデックス番号を有するインデックスが作成される。そしてセンサが集約局に伝送するデータをインデックスに対応させることでデータ伝送におけるスループットの向上が図られている。しかしながらセンサの配設数が増加すると、図13に示すように、複数のセンサによって同時に同じインデックス番号が集約局に伝送されるいわゆるパケット衝突が生じ易くなる。このようなパケット衝突が生じると、集約局でのデータの復号が不可能(パケットロス)になってしまう。
【0006】
そこで、センサが集約局に伝送するデータを対応させるインデックス番号をセンサ毎にランダムに設定することで、集約局におけるパケット衝突を回避する試みも行われている。しかしながら、インデックス番号を単にランダムに設定しただけであるため、集約局におけるパケット衝突回避の成功率にばらつきが生じる課題や、センサ数が増えると集約局におけるパケット衝突の回避ができず、パケットロスが生じ易くなる課題が明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、PLIM方式で使用されるインデックスにおいて、伝送すべきデータとインデックス番号の割り当てを数理最適化することにより、データを伝送するセンサの数が多くなっても集約局におけるパケット衝突を回避し、パケットロスの発生を防止することを目的としている。
【0008】
すなわち本発明は、観測対象を観測する複数のセンサが設置されたデータ伝送対象エリアにおいて、各前記センサによる観測データをパケット化し、複数の時間スロットおよび使用チャンネルにより形成されたフレームに対応させたインデックスのいずれかに、パケット化した前記観測データを割り当てて伝送するPLIM(Packet Level Index Modulation)方式によって集約局に伝送するデータ伝送方法であって、各前記センサにおける前記観測データの数値に対する観測確率および前記観測対象の位置をセンサ観測データ発生確率分布として集計する事前準備工程と、前記データ伝送対象エリア内で各前記センサによる前記観測データに基づいて前記センサ観測データ発生確率分布を用いて、各前記センサが使用する前記PLIM方式における前記集約局でのパケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程と、各前記センサが前記観測データを前記インデックスが適用された前記PLIM方式によって前記集約局に伝送する工程と、をそれぞれ実行することを特徴とするデータ伝送方法である。
【0009】
これにより、伝送すべき観測データとインデックス番号の割り当てを数理最適化することで、観測データを伝送するセンサの数が多くなっても集約局におけるパケット衝突が回避され、パケットロスの発生が防止できる。
【0010】
また、前記事前準備工程は、前記データ伝送対象エリアを複数の分割エリアに分割し、特定の前記分割エリアにおける各前記センサにおける前記観測データの数値に対する前記観測確率を分割エリア別センサ観測データ発生確率分布として、各前記分割エリアについて各々集計する工程であって、各前記センサが使用する前記PLIM方式における前記集約局での前記パケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程は、前記データ伝送対象エリア内における各前記センサによる前記観測データに基づいて、前記分割エリア別センサ観測データ発生確率分布の中から最も類似性の高い前記分割エリア別センサ観測データ発生確率分布を選択する工程と、選択された前記分割エリア別センサ観測データ発生確率分布を用いて、各前記センサが使用する前記PLIM方式における前記集約局での前記パケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程であることが好ましい。
【0011】
これにより、観測対象エリアの状況に応じてより詳細に伝送すべき観測データとインデックス番号の割り当てをすることが可能になる。
【0012】
また、前記観測データは、所要数値範囲毎に対応させた複数の観測データ番号により量子化されていて、各前記センサが使用する前記PLIM方式において前記集約局における前記パケット衝突確率が最小になる前記インデックスを算出する工程は、次式に基づいて実行されることが好ましい。
【数1】
【0013】
これにより、パケット衝突確率を最小にする際における計算量を削減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の構成によれば、伝送すべき観測データとインデックス番号の割り当てを数理最適化することにより、観測データを伝送するセンサの数が多くなっても集約局におけるパケット衝突が回避され、パケットロスの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態におけるデータ伝送システムの概略構成図である。
図2】第1実施形態におけるデータ伝送方法の実施手順例を示すフロー図である。
図3】第1実施形態における事前準備工程で求められた各センサにおけるRSSI値の量子化データと頻度を示すヒストグラムをガウス分布化したマッピングデータの説明図である。
図4】第1実施形態におけるデータ伝送を行った場合のセンサ数に対するパケット衝突確率と、従来技術におけるセンサ数に対するパケット衝突確率の比較シミュレーションの諸元である。
図5図4に示す諸元で行った比較シミュレーション結果である。
図6】第2実施形態における事前準備工程において、電波源が第1分割エリアに位置する場合の各々のセンサにおけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換したマッピングデータの説明図である。
図7】第2実施形態における事前準備工程において、電波源が第2分割エリアに位置する場合の各々のセンサにおけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換したマッピングデータの説明図である。
図8】第2実施形態における事前準備工程において、電波源が第3分割エリアに位置する場合の各々のセンサにおけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換したマッピングデータの説明図である。
図9】第2実施形態における事前準備工程において、電波源が第4分割エリアに位置する場合の各々のセンサにおけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換したマッピングデータの説明図である。
図10】第2実施形態におけるデータ伝送を行った場合のセンサ数に対するパケット衝突確率と、従来技術におけるセンサ数に対するパケット衝突確率の比較シミュレーションの諸元である。
図11図10に示す諸元で行った比較シミュレーション結果である。
図12】従来技術の説明図その1である。
図13】従来技術の説明図その2である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明におけるデータ伝送方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態においては、観測対象が電波源20であるデータ伝送システム50を用いたデータ伝送方法に基づいて説明を行うが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態におけるデータ伝送システム50は、データ伝送対象エリア10における単数または複数の電波源20と電波源20から発信された電波を受信する複数のセンサ30と、複数のセンサ30から伝送された観測データを集約する集約局40とを有する。本実施形態における複数のセンサ30は、観測データとして受信した電波の信号強度(以下、RSSI値という)を量子化し、PLIM方式におけるインデックス番号に量子化したデータを割り当てて集約局40にデータ伝送している。本発明は、集約局40における複数のセンサ30から伝送されたインデックス番号の競合を最小限化するため、複数のセンサ30が使用するインデックス番号の割り当てを最適化していることが最大の特徴である。
【0018】
本実施形態におけるデータ伝送システム50は、図1に示すように、データ伝送対象エリア10における少なくとも1つの電波源20と第1センサ32、第2センサ34、第3センサ36および第4センサ38と、1箇所に配設された集約局40とを有している。以降、第1センサ32、第2センサ34、第3センサ36および第4センサ38を総称して『センサ30』と称することがある。なお、データ伝送システム50におけるセンサ30の配設数は本実施形態で示した配設数に限定されるものではない。以下、図2に示すフロー図に沿って各工程の説明を行う。
【0019】
各々のセンサ30が用いるインデックス番号の割り当てを最適化するにあたり、データ伝送対象エリア10の範囲において各々の電波源20が電波を発信した際の各々のセンサ30におけるRSSI値の量子化データとその発生頻度の分布(センサ観測データ発生確率分布:以下、マッピングデータ60という)を集計する事前準備工程(S1)が行われる。このような事前準備工程を設けることで、データ伝送対象エリア10における地理的条件等により、各々のセンサ30におけるRSSI値の量子化データの使用頻度(センサ30が受信した観測データの受信信号強度に対する受信確率(観測確率))を分析することができる。
【0020】
図3は、事前準備工程で求められた第1センサ32、第2センサ34、第3センサ36および第4センサ38におけるRSSI値の量子化データ(RSSI番号:観測データ番号)と頻度数を示すヒストグラムをガウス分布に変換したマッピングデータ60の説明図である。図3におけるマッピングデータ60はガウス分布に変換されているが、他の確率分布への変換やヒストグラムのままであってもよい。図3を作成する際における事象数は特に限定されるものではないが、信頼性を担保するため、事象数は100以上(case100以上)であることが好ましい。このように各々のセンサ30におけるRSSI番号の発生頻度の分布を収集することで、そのデータ伝送対象エリア10における各々のセンサ30によるRSSI番号の選択傾向を把握することができる。
【0021】
次に、図3に示されたマッピングデータ60を用いて、本実施形態におけるデータ伝送対象エリア10で用いるPLIM方式で用いるインデックスの最適化設計をする工程(S2)が実行される。具体的には、第1センサ32から第4センサ38のそれぞれにおいて発生しやすいRSSI値が同じインデックス番号になる確率が最小になるインデックスを算出する工程である。これを実現するために本実施形態においては、ある2つのセンサにおいて各々のRSSI値の量子化データのインデックス番号の衝突を最小化する問題として設計が行われている。これにより最適化設計の対象を2次モデルとして表現することができ、次式に示すような2次整数計画問題としての計算式を作成することが可能になった。このような2次整数計画問題の計算式は公知の手法により解くことができる。具体的には数理最適化ソルバーであるGurobi Optimizer等を用いればよい。
【数2】
【0022】
なお、上式における制約条件1は、全てのiと全てのjにおいては、i番目のセンサはj番目の観測データ番号(ここではRSSI値の量子化データ番号)を必ずどこかのインデックス番号の1つに割り当てるというものである。同じく制約条件2は、全てのiと全てのkにおいては、i番目のセンサはk番目のインデックス番号に観測データ番号(RSSI値の量子化データ番号)を最大でも1つしか割り当てないというものである。同じく制約条件3は、インデックスを重複する数は最大でもセンサの数であるというものである。これら制約条件1~制約条件3により、2次整数計画問題の計算式に対する意味のない解(全ての要素が0になる)の算出を防止することができる。
【0023】
図3に示したマッピングデータ60を上式で示した2次整数計画問題として解くことにより、各々のセンサ30におけるRSSI値の量子化データ番号とインデックス番号(時間スロットと使用チャンネルにより区切られたフレーム内の位置を示す番号)の最適な組み合わせを算出することができる。このようにして算出(設計)されたインデックス番号を有するインデックスを用いたPLIM方式におけるデータ伝送する工程(S3)が実行される。このようにして各々のセンサ30からデータ伝送されたRSSI値のデータ(パケットデータ)は集約局40で集約され、所定の手順でデータ復号する工程(S4)が実行される。
【0024】
上式を解くことにより得られたインデックスを用いて各々のセンサ30から1つの集約局40にデータ伝送が行われた場合のセンサ数に対するパケット衝突確率(パケットデータロスの発生確率)と、従来技術におけるセンサ数に対するパケット衝突確率を図4に示す諸元の下で比較シミュレーションを行った。図5はこのときの比較シミュレーション結果である。なお、ここでの従来技術は、インデックス番号をセンサ毎にランダムに設定したPLIM方式を用いたデータ伝送方法である。図5に示すように、パケット衝突確率の許容値を5%とした場合、従来技術においてはセンサ数が4で限界になっているが、本実施形態においてはセンサ数を5にしてもパケット衝突確率を4%台に抑えることができている。また、本実施形態における比較シミュレーション結果は、センサ数が増加しても常に従来技術におけるパケット衝突確率を下回っていることが明らかである。
【0025】
以上に説明したように、本実施形態におけるデータ伝送方法によれば、データ伝送対象エリア10における各々のセンサ30の観測データであるRSSI値の受信特性を踏まえたインデックス番号の割り当てを行うことができる。これにより、PLIM方式を用いたデータ伝送方法により各々のセンサ30から伝送されたパケットデータの集約局40におけるパケット衝突確率が最小化され、複数のセンサ30から1台の集約局40にデータ伝送を行う際においても集約局40における伝送データの復号の確実性を高めることができる。
【0026】
(第2実施形態)
本実施形態においては、第1実施形態における事前準備工程で得られるマッピングデータ60(観測データの各々に対する受信確率)をさらに詳細にするための工程が設けられている。すなわち、図6図9に示すように、データ伝送対象エリア10を複数の分割エリアに分割し、各々のセンサ30のRSSI値の発生確率を電波源20が位置している分割エリア毎に集計する工程を有している点が本実施形態における特徴点である。ここでは、データ伝送対象エリア10を4つの分割エリアに分割し、各々の分割エリアには1つずつセンサ(第1センサ32から第4センサ38)が配設されている形態について説明する。
【0027】
図6は、電波源20が第1分割エリア12に位置している場合の各々のセンサ30におけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換した第1マッピングデータ62の説明図である。図6に示す第1マッピングデータ62から、電波源20が第1分割エリア12に位置している場合、第1分割エリア12に位置している(第1分割エリア12に最も近い位置に位置している)第1センサ32によるRSSI値は高い数値で発生することが多い。また、第1分割エリア12からは最も離れた位置である第4分割エリア18に位置している第4センサ38のRSSI値は低い数値で発生することが多い。また、第1分割エリア12と第4分割エリア18の中間位置である第2分割エリア14および第3分割エリア16に位置している第2センサ34および第3センサ36におけるRSSI値は、第1センサ32のRSSI値と第4センサ38のRSSI値の中間値で発生することが多いことがいえる。
【0028】
また、図7は、電波源20が第2分割エリア14に位置している場合の各々のセンサ30におけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換した第2マッピングデータ64の説明図である。図7に示す第2マッピングデータ64から、電波源20が第2分割エリア14に位置している場合、第2分割エリア14に位置している(第2分割エリア14に最も近い位置に位置している)第2センサ34によるRSSI値は高い数値で発生することが多い。また、第2分割エリア14からは最も離れた位置である第3分割エリア16に位置している第3センサ36のRSSI値は低い数値で発生することが多い。また、第2分割エリア14と第3分割エリア16の中間位置である第1分割エリア12および第4分割エリア18に位置している第1センサ32および第4センサ38におけるRSSI値は、第2センサ34のRSSI値と第3センサ36のRSSI値の中間値で発生することが多いことがいえる。
【0029】
また、図8は、電波源20が第3分割エリア16に位置している場合の各々のセンサ30におけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換した第3マッピングデータ66の説明図である。図8に示す第3マッピングデータ66から、電波源20が第3分割エリア16に配設されている場合、第3分割エリア16に配設されている(第3分割エリア16に最も近い位置に配設されている)第3センサ36によるRSSI値は高い数値で発生することが多い。また、第3分割エリア16からは最も離れた位置である第2分割エリア14に配設されている第2センサ34のRSSI値は低い数値で発生することが多い。また、第3分割エリア16と第2分割エリア14の中間位置である第1分割エリア12および第4分割エリア18に配設されている第1センサ32および第4センサ38におけるRSSI値は、第2センサ34のRSSI値と第3センサ36のRSSI値の中間値で発生することが多いことがいえる。
【0030】
図9は、電波源20が第4分割エリア18におけるものである場合の各々のセンサ30におけるRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換した第4マッピングデータ68の説明図である。図9に示す第4マッピングデータ68から、電波源20が第4分割エリア18に配設されている場合、第4分割エリア18に配設されている(第4分割エリア18に最も近い位置に配設されている)第4センサ38によるRSSI値は高い数値で発生することが多い。また、第4分割エリア18からは最も離れた位置である第1分割エリア12に配設されている第1センサ32のRSSI値は低い数値で発生することが多い。また、第4分割エリア18と第1分割エリア12の中間位置である第2分割エリア14および第3分割エリア16に配設されている第2センサ34および第3センサ36におけるRSSI値は、第4センサ38のRSSI値と第1センサ32のRSSI値の中間値で発生することが多いことがいえる。
【0031】
なお、図6図9に示す第1マッピングデータ62~第4マッピングデータ68は、いずれも各々のセンサ30のRSSI値の発生確率のヒストグラムをガウス分布に変換しているが、他の確率分布への変換やヒストグラムのままであってもよい。本実施形態の事前準備工程は、上述したように、データ伝送対象エリア10を複数の分割エリアに分割し、各々の分割エリア内における電波源20から発生した電波に対する各々のセンサ30のRSSI値の確率分布を集計するものである。図6図9に示す各々の分割エリア内における電波源20から発生した電波に対する各々のセンサ30のRSSI値の第1マッピングデータ62、第2マッピングデータ64、第3マッピングデータ66および第4マッピングデータ68が分割エリア別センサ観測データ発生確率分布に相当する。このような各々の分割エリア内における電波源20から発生した電波に対する各々のセンサ30のRSSI値の確率分布を得ることで、データ伝送対象エリア10における各々のセンサ30のRSSI値に基づいて、電波源20の位置(電波源20がどの分割エリアに配設されたものであるのか)を推測することができる。
【0032】
以上のようにしてデータ伝送対象エリア10における電波源20の位置が特定できれば、各々のセンサ30が取り得るRSSI値の確率の傾向をより詳細に把握することができる。このようにしてデータ伝送対象エリア10を複数の分割エリアに分割した状態で図6図9に示す各々のセンサ30のRSSI値の第1マッピングデータ62~第4マッピングデータ68が算出された後、次の処理工程に進む。
【0033】
具体的には、システム設計者が、データ伝送対象エリア10におけるある電波源20からの電波を受信した各々のセンサ30におけるRSSI値の状態を、事前準備工程で集計したデータ伝送対象エリア10を複数の分割エリアに分割した状態で図6図9に示す各々のセンサ30のRSSI値の第1マッピングデータ62~第4マッピングデータ68と比較する。そして最も類似性の高い第1マッピングデータ62~第4マッピングデータ68のいずれかをシステム設計者が選択し、選択した第1マッピングデータ62~第4マッピングデータ68のいずれかを用いてデータ伝送対象エリア10で用いるPLIM方式で用いるインデックスの最適化設計を行う。具体的には、第1分割エリア12における第1センサ32から第4分割エリア18における第4センサ38までの各々において発生しやすいRSSI値が同じインデックス番号になる確率が最小になるインデックスを算出する工程である。具体的には第1実施形態と同様に、2次整数計画問題の計算式である上式の解を算出すればよい。
【0034】
このようにして算出(設計)されたインデックス番号を有するインデックスを用いたPLIM方式におけるデータ伝送が行われた場合のセンサ数に対するパケット衝突確率と、従来技術におけるセンサ数に対するパケット衝突確率を図10に示す諸元の下で比較シミュレーションを行った。図11はこのときの比較シミュレーション結果である。図11において本実施形態とある比較シミュレーション結果は、データ伝送対象エリア10を9分割したときのシミュレーション結果である。図11に示すように、パケット衝突確率の許容値を5%とした場合、従来技術においてはセンサ数が4で限界になっているが、データ伝送対象エリア10を9分割した形態においてはセンサ数を6にしてもパケット衝突確率を3%台に抑えることができている。また、本実施形態におけるシミュレーション結果は、センサ数が増加しても常にセンサ数が同数である従来技術および第1実施形態におけるパケット衝突確率を下回っていることが明らかである。
【0035】
また、図11には、データ伝送対象エリア10の分割数を16分割、25分割および36分割してデータ伝送対象エリア10で用いるPLIM方式で用いるインデックスの最適化設計が行われたときのシミュレーション結果も示されている。図11から明らかなように、データ伝送対象エリア10の分割数が多いほど集約局40におけるパケット衝突確率を低下させることができている。パケット衝突確率の許容値を5%とした場合、従来技術における配設可能なセンサ数は4であるのに対し、データ伝送対象エリア10を36分割してインデックスの最適化設計を行った場合の配設可能なセンサ数は8になっている。すなわち、各々のセンサ30の利用チャンネル数が同一である場合、データ伝送対象エリア10に配設可能なセンサ数が2倍になっていることから、データ伝送における周波数利用効率を2倍にすることができている。
【0036】
以上に説明したように、本実施形態におけるデータ伝送方法によれば、従来技術におけるデータ伝送方法に対してはもちろん、第1実施形態におけるデータ伝送方法に対しても明確にパケット衝突を防止することができる。
【0037】
以上に、本発明について実施形態に基づいて説明をしたが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば以上の実施形態においては、観測対象が電波源20であるデータ伝送システム50を用いたデータ伝送方法に基づいて説明しているが、観測対象は電波源20から発信される電波に限定されるものではない。他の観測対象としては、熱源からの熱量、水源による水位、風源による風力、震源による震度等を例示することができる。
【0038】
また、以上の実施形態においては、図1に示すように、集約局40がデータ伝送対象エリア10の範囲外に設置されている形態を例示しているが、集約局40がデータ伝送対象エリア10の範囲内に設置した形態を採用することもできる。
【0039】
また、第2実施形態においては、データ伝送対象エリア10を第1分割エリア12~第4分割エリア18に分割し、各々の分割エリアに第1センサ32~第4センサ38が配設された形態を例示しているが、センサ30は第1分割エリア12~第4分割エリア18の各々に1つずつ配設されていなくてもよい。センサ30は、データ伝送対象エリア10の範囲内において第1分割エリア12~第4分割エリア18の分割形状とは独立した配設レイアウトで配設することもできる。さらに、図10および図11に示すように、分割エリアの数(データ伝送対象エリア10の分割数)とセンサ30の配設数は一致していなくてもよい。
【0040】
また、以上の実施形態においては、観測データとしてセンサ30が電波源20から受信した電波の受信強度のRSSI値を所要数値範囲で量子化した量子化データ番号を伝送すべき観測データとしているが、センサ30から集約局40に伝送する観測データはこの形態に限定されるものではない。各々のセンサ30が受信した観測データそのものを各々のセンサ30から集約局40にデータ伝送する形態であってもよい。
【0041】
さらに、以上に説明した本実施形態の構成に対し、明細書中に記載されている変形例や、他の公知の構成を適宜組み合わせた形態を採用することもできる。
【符号の説明】
【0042】
10:データ伝送対象エリア
12:第1分割エリア,14:第2分割エリア,16:第3分割エリア,
18:第4分割エリア
20:電波源(観測対象)
30:センサ
32:第1センサ,34:第2センサ,36:第3センサ,38:第4センサ
40:集約局
50:データ伝送システム
60:マッピングデータ(センサ観測データ発生確率分布)
62:第1マッピングデータ(分割エリア別センサ観測データ発生確率分布),
64:第2マッピングデータ(分割エリア別センサ観測データ発生確率分布),
66:第3マッピングデータ(分割エリア別センサ観測データ発生確率分布),
68:第4マッピングデータ(分割エリア別センサ観測データ発生確率分布)
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