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  • 特開-還元型酸化グラフェンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022310
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】還元型酸化グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/198 20170101AFI20240208BHJP
【FI】
C01B32/198
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125799
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】植田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】伊勢野 隼也
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC07B
4G146BA01
4G146BC25
4G146BC32B
4G146BC33B
(57)【要約】
【課題】
大きな比表面積を持つ還元型酸化グラフェンを得られる効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】
酸化グラフェンを還元して、還元型酸化グラフェンを得る製造方法であって、還元工程において、過熱水蒸気を用いて200℃以上に加熱することで熱還元することを特徴とする。過熱水蒸気を用いることで、効率的に比表面積の大きな還元型酸化グラフェンを得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンを還元して、還元型酸化グラフェンを得る製造方法であって、
還元工程に過熱水蒸気を用いることを特徴とする、還元型酸化グラフェンの製造方法。
【請求項2】
該還元工程の温度が200℃以上、900℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載の還元型酸化グラフェンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型酸化グラフェンの製造方法に関する。より詳しくは過熱水蒸気を利用した還元型酸化グラフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化グラフェンおよび、還元型酸化グラフェンはその薄膜形状、酸素官能基を利用して、幅広い分野で応用検討がなされている。特に還元型酸化グラフェンはその高い導電性や比表面積を利用して、電池・キャパシタ材料で使用されている。還元型酸化グラフェンは酸化グラフェンを還元することで合成でき、その還元方法は加熱による還元(熱還元)や還元剤による還元(化学還元)が広く検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009-511415号公報
【特許文献2】国際公開第2016/056557号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
還元型酸化グラフェンの熱還元方法として、真空下での還元や、窒素雰囲気下での還元が検討されている。特にこれら雰囲気での高速加熱還元を行うことで、嵩密度が小さく、高い導電性と比表面積を両立した還元型酸化グラフェンが得られる。しかしながら、真空下、大気下、窒素雰囲気下での加熱還元は、前者では真空工程が必要であり、装置が大きくなること、さらに真空を大気圧に戻す際に、嵩密度の小さい還元型酸化グラフェンが舞ってしまう問題があった。後者では窒素置換が必要で、大量生産するにはコンベア炉のような連続炉が必要であるが、開放系の炉では窒素フローが必要であり、高コストになることと、真空下同様に嵩密度の小さい還元型酸化グラフェンが舞ってしまう問題があった。さらに真空下、窒素雰囲気下での加熱還元では得られる還元型酸化グラフェンの比表面積を大きくするためには高温が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち、過熱水蒸気を利用した還元型酸化グラフェンの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の過熱水蒸気を利用した還元型酸化グラフェンの製造方法を用いることで、大きな比表面積を持つ還元型酸化グラフェンを効率よく大量に生産可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】酸化グラフェン粉体の調整例で得られた粉体のSEM観察像である。
図2】実施例(800度加熱)で得られた還元型酸化グラフェン粉体のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0009】
[酸化グラフェンおよび酸化グラフェン分散液]
本発明に用いられる酸化グラフェンは黒鉛を酸化し、剥離することで得られる。酸化グラフェンの製造方法は特には限定されないが、例えば黒鉛を硫酸中、酸化剤(過マンガン酸カリウムなど)を用いることで酸化し、精製後に剥離した酸化グラフェンが好ましい。
【0010】
本発明に用いられる酸化グラフェン分散液の分散媒は特に限定されないが、後述する膜形成の観点から、水、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられ、これらの混合溶媒であってもよい。この中でも水、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンが好ましく、水が最も好ましい。
【0011】
本発明に用いられる酸化グラフェン分散液の濃度は0.0001~10%が好ましい。この範囲であれば酸化グラフェンが良好に付着可能である。生産性と性能の観点からは0.0001~5%が好ましく、0.001~3%がより好ましく、0.01~2%が最も好ましい。また、本分散液は分散性を向上するために分散処理したものが好ましい。分散処理としては、ホモジナイザー等のせん断処理や、超音波処理が挙げられる。
【0012】
本発明に用いられる酸化グラフェンは10層以下であることが好ましい。層数は電子顕微鏡等で分析することができる。より効果的に付着させる観点からは酸化グラフェンの層数は1~10層が好ましく、1~7層がより好ましく、1~5層がさらに好ましく、1~3層が最も好ましい。また、銅および、負極材料双方との相性や、分散性の観点から酸化グラフェン中の炭素酸素元素比(O/C)は0.1~2の範囲が好ましく、0.2~1.5がより好ましく、0.3~1.2が最も好ましい。これらO/Cを適宜調整することで、組み合わせる銅集電体と負極材料によって最適な酸化グラフェン(膜)を調製することが可能である。O/Cは、酸化グラフェン合成時の酸化剤量を増やしたり、酸化条件をより強くしたりすることで大きくすることができ、また、酸化グラフェンを還元することで小さくすることが可能である。
【0013】
[酸化グラフェン膜および、酸化グラフェン粉体]
後述する過熱水蒸気を利用した還元工程を行うにあたり、分散液の状態のほか、酸化グラフェン膜および、酸化グラフェン粉体の状態であることも好ましい。
【0014】
本発明に用いられる酸化グラフェン膜としては、上記酸化グラフェン分散液を基板(金属板、金属箔、樹脂板、樹脂フィルムなど)に製膜したものが好ましい。製膜方法としてはスピンコート、コーターやアプリケーターによるコーティング、基板を酸化グラフェン分散体に含侵させる方法、基板にスプレーする方法などが挙げられる。この中でもコーターやアプリケーターによるコーティングする方法、スプレーする方法がより好ましい。さらに酸化グラフェン分散液を基板に製膜したのちに乾燥させずに過熱水蒸気を利用した還元工程させることも可能であるが、別途、乾燥工程を経ることが好ましい。乾燥工程としては常温・加熱ともに好ましく、雰囲気としては大気下、大気送風下、真空下が好ましい。乾燥工程後の酸化グラフェン膜の膜厚は1μm~1mmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
【0015】
本発明の酸化グラフェン粉体としては、上記製膜方法で製膜した酸化グラフェン膜を剥離・粉砕することや、酸化グラフェン分散液をスプレードライなどの手法で乾燥・粉体化することが好ましい。酸化グラフェン粉体の粒子サイズは1μm~1mmが好ましく、5~100μmがより好ましい。粒子径は電子顕微鏡観察により確認できる。
【0016】
[還元型酸化グラフェンの製造方法]
本発明の還元型酸化グラフェンの製造方法は、酸化グラフェンを還元して、還元型酸化グラフェンを得る製造方法であって、還元工程に過熱水蒸気を用いることを特徴とする。過熱水蒸気とは、水の沸点以上に加熱(過熱)された水蒸気のことである。過熱水蒸気は加熱対象と水分子が熱交換するため、真空下や、大気下、窒素雰囲気下と比べて熱交換率・熱交換量が大きい。例えば、大気下での加熱と比較すると、大気下では対流伝熱のみであるが、過熱水蒸気では対流伝熱のほか、輻射伝熱、凝集伝熱も利用でき、熱交換率・熱交換量が大きい。
【0017】
本発明における還元工程とは、酸化グラフェン中に含まれる酸素元素量・比を下げる工程であり、言いかえればO/C比を下げることである。
【0018】
酸化グラフェンの過熱水蒸気を利用した還元工程で用いる過熱水蒸気は還元の観点から、酸素を10%以下に低減した過熱水蒸気が好ましく、5%以下がより好ましい。また過熱水蒸気は加圧された過熱水蒸気でも常圧の過熱水蒸気でも好ましいが、取り扱いの観点から常圧の過熱水蒸気(解放された空間に過熱水蒸気を投入すること、おおむね1.2気圧以下のことを指す)がより好ましい。さらに還元工程で使用する加熱炉に投入する過熱水蒸気の温度としては300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、500℃以上がさらに好ましい。上限温度は特に限定されないが、1000℃以下が好ましい。過熱水蒸気の上記量は特に限定されないが、加熱効率の観点からは、1kg/h以上の上記量が好ましく、3kg/hがより好ましく10kg/hがさらに好ましい。上限は特に限定されないが、200kg/h以下が好ましい。
【0019】
本発明の酸化グラフェンの過熱水蒸気を利用した還元工程での還元温度は200℃以上が好ましい。これ以上の温度であれば酸化グラフェンが十分に還元される。還元度と比表面積の観点から250℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、過熱水蒸気との反応を抑制する観点からは900℃以下が好ましい。後述するが過熱水蒸気との反応は還元時間を短くすることでも抑制可能である。
【0020】
本発明の酸化グラフェンの過熱水蒸気を利用した還元工程での還元時間は1秒以上24時間以下が好ましい。この時間であれば充分な還元度を達成できる。より高温であればより短い時間で還元可能である。プロセスの観点からは3秒以上1時間以下が好ましく、5秒以上10分以下が最も好ましい。
【0021】
本発明の酸化グラフェンの過熱水蒸気を利用した還元工程で用いる加熱炉の形式としては、コンベア式、ロータリーキルン式、バッチ式などあらゆる形式で還元可能であるが、連続生産を達成する観点からはコンベア式、ロータリーキルン式が好ましい。
【0022】
本発明の酸化グラフェンの過熱水蒸気を利用した還元工程で用いる酸化グラフェンの状態としては、上述した分散液、膜、粉体の形状が好ましい。分散液としては特に、スプレーのようなミスト状も好ましい。例えばスプレードライの熱媒として過熱水蒸気を用いれば乾燥工程と還元工程を1段階の工程(1プロセス)で実施することが可能となる。ただし、1プロセスとせず、スプレードライのような装置で酸化グラフェンの粉体を得た後に、過熱水蒸気を利用した還元工程を経る2段階の工程(2プロセス)で実施しても良い。
【0023】
還元工程で用いる酸化グラフェン分散液としては、上記の分散液の濃度が同様に好ましい。濃度が低いほど、より小さな粒子、より比表面積の大きな粒子が得られるが、生産性が低下する傾向となる。上記の濃度範囲とすることで、導電性と生産性を両立することが可能となる。
酸化グラフェン膜、粉体の場合も上記の膜厚範囲、粒径範囲とすることにより、導電性と生産性を両立することが可能となる。
【実施例0024】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0025】
[比表面積測定]
得られた還元型酸化グラフェンを120℃で真空乾燥した後、日本ベル株式会社製 BELSORP-miniIIを用い、窒素吸着等温線を測定した。測定された窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.3の領域で、BET法を用いて比表面積を算出した。
【0026】
[X線光電子分光(XPS)測定]
XPS分析は以下の装置、条件により行い、O/Cを算出した。
島津クレイトス社製 AXIS-NOVAX線線源・出力 AlKα―100Wパスエネルギー40eV中和銃ON
【0027】
[酸化グラフェン分散液の調製例]
酸化グラフェン分散液を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)42mlを加え反応停止させた。得られた反応液は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、ホモジナイザーにより剥離操作を行い、酸化グラフェン分散液(1)(2%水分散体)を調製した。得られた酸化グラフェンは電子顕微鏡観察により単層であるとわかった。XPS分析より求められたO/Cは0.55であった。
【0028】
[酸化グラフェン膜の調整例]
酸化グラフェン分散液(1)を用いて、アプリケーターを用いて、ポリイミドフィルム上、600、800℃条件のものは銅フィルム上に塗工後、50℃送風乾燥器で乾燥し、膜厚50μmの酸化グラフェン膜を作製した。
【0029】
[酸化グラフェン粉体の調整例]
酸化グラフェン分散液(1)をスプレードライ(気流式乾燥機)を用いて、粉体を取得した。スプレードライは大気フロー下、入り口温度150℃、出口温度110℃で実施した。得られた粉体のSEM画像を図1に示した。粒径は5-10μm程度であった。
【0030】
[実施例1-1~1-7]
加熱炉に過熱水蒸気(100kg/h、500℃)を投入して、表1に記載の還元温度まで昇温した。その後、調整例で用意した酸化グラフェン膜を炉内に導入して、各温度での酸化グラフェン膜の還元を行った。結果を表1に示す。
【0031】
[実施例1-8]
窒素雰囲気下の電気炉を600℃まで昇温した後、過熱水蒸気(3kg/h)を導入して過熱水蒸気雰囲気を調整し、調整例で用意した酸化グラフェン膜を炉内に導入して、酸化グラフェン膜の還元を行った。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例1-9]
窒素雰囲気下の電気炉を800℃まで昇温した後、過熱水蒸気(3kg/h)を導入して過熱水蒸気雰囲気を調整し、調整例で用意した酸化グラフェン膜を炉内に導入して、酸化グラフェン膜の還元を行った。結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1-1~1-5]
過熱水蒸気の代わりに、窒素雰囲気下の電気炉において、酸化グラフェン膜を導入して、表1に記載の各温度にて酸化グラフェン膜の還元を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
[実施例2-1~2-6]
加熱炉に過熱水蒸気(100kg/h、500℃)を投入して、表2に記載の還元温度まで昇温した。調整例で用意した酸化グラフェン粉体を、ステンレスバット上に乗せて炉内に導入して、各温度での酸化グラフェン粉体の還元を行った。結果を表2に示す。
【0036】
[実施例2-7]
窒素雰囲気下の電気炉を600℃まで昇温した後、過熱水蒸気(3kg/h)を導入して過熱水蒸気雰囲気を調整し、調整例で用意した酸化グラフェン粉体を、ステンレスバット上に乗せて炉内に導入して、酸化グラフェン粉体の還元を行った。結果を表2に示す。
【0037】
[実施例2-8]
窒素雰囲気下の電気炉を800℃まで昇温した後、過熱水蒸気(3kg/h)を導入して過熱水蒸気雰囲気を調整し、調整例で用意した酸化グラフェン粉体を、ステンレスバット上に乗せて炉内に導入して、酸化グラフェン粉体の還元を行った。結果を表2に示す。
【0038】
[比較例2-1~2-5]
過熱水蒸気の代わりに、窒素雰囲気下の電気炉において、ステンレスバット上に乗せた酸化グラフェン粉体を炉内に導入して、表2に記載の各温度にて酸化グラフェン粉体の還元を行った。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
[実施例3-1~3-3]
加熱炉下部で酸化グラフェン分散液を撹拌機でミストを発生させて、過熱水蒸気(100kg/h、500℃)を導入して、加熱炉上部で還元反応を行って取り出した。結果を表3に示す。
【0041】
[比較例3]
窒素雰囲気下の電気炉において、酸化グラフェン分散液を撹拌機でミストを発生させて、電気炉上部で還元反応を行って取り出した。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
図2は粉体状の酸化グラフェンを加熱したサンプルのSEM観察像である。加熱前の図1と比較して本発明の加熱工程により良好に膨張していることが分かる。
【0044】
実施例、比較例の結果から、過熱水蒸気を用いることで、窒素雰囲気条件よりも加熱効率が上がり、同温度でも効果的に表面積を大きくすることができる。また、窒素雰囲気下では膨張したサンプルが舞いやすく、ハンドリング性に欠ける。一方、過熱水蒸気では膨張したサンプルであっても取り出し時の水分凝結により舞うことを抑制でき、ハンドリング性が良好であった。
図1
図2