(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022313
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】電力センサ及び演算装置
(51)【国際特許分類】
G01R 21/00 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01R21/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125805
(22)【出願日】2022-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】516368173
【氏名又は名称】株式会社SIRC
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 伸久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 司
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で正確に三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定することが可能な電力センサを提供すること。
【解決手段】三相交流の負荷の消費電力を測定するための電力センサであって、第1電位を計測する第1電位センサと、第1電流センサと、第2電位センサと、演算装置と、を備え、前記演算装置は、計測される第1電位及び第2電位から、第1電線及び第2電線の間における第1線間電圧を算出し、算出された前記第1線間電圧の位相を移すことにより、前記第2電線及び前記第3電線の間における第2線間電圧を算出し、計測される前記第1電流を用いて、三相のうちの第三相の第3電線における第3電流を算出し、かつ前記第1電流及び前記第1線間電圧の積を用いて得る第1電力、並びに前記第3電流及び前記第2線間電圧の積を用いて得る第2電力の和を計算することで、前記負荷の消費電力を決定する、ように構成される、電力センサ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定するための電力センサであって、
三相のうちの第一相の第1電線に接続され、前記第1電線における第1電位を計測する第1電位センサと、
前記第1電線に接続され、前記第1電線における第1電流を計測する第1電流センサと、
三相のうちの第二相の第2電線に接続され、前記第2電線における第2電位を計測する第2電位センサと、
演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
計測される前記第1電流を用いて、三相のうちの第三相の第3電線における第3電流を算出し、
計測される前記第1電位及び前記第2電位から、前記第1電線及び前記第2電線の間における第1線間電圧を算出し、
算出された前記第1線間電圧の位相を移すことにより、前記第2電線及び前記第3電線の間における第2線間電圧を算出し、
かつ
前記第1電流及び前記第1線間電圧の積を用いて得る第1電力、並びに前記第3電流及び前記第2線間電圧の積を用いて得る第2電力の和を計算することで、前記負荷の消費電力を決定する、
ように構成される、
電力センサ。
【請求項2】
前記演算装置は、
計測される前記第1電流の位相を移すことにより、前記第3電流を算出する、
ように構成される
請求項1に記載の電力センサ。
【請求項3】
前記第2電線に接続され、前記第2電線における第2電流を計測する第2電流センサをさらに備え、
前記演算装置は、
計測される前記第1電流及び前記第2電流を用いて前記第3電流を算出する、
ように構成される
請求項1に記載の電力センサ。
【請求項4】
前記演算装置は、
前記第2線間電圧を算出するために、前記第1線間電圧の位相を+60°移した値である第1候補電圧、又は前記第1線間電圧の位相を-60°移した値である第2候補電圧のいずれかを前記第2線間電圧とすることを決定する、
ように構成される、
請求項3に記載の電力センサ。
【請求項5】
前記演算装置は、
前記第1候補電圧及び前記第2候補電圧のいずれを前記第2線間電圧とするかを決定するにあたり、前記第3電流及び前記第1候補電圧の積を用いて得る第1仮電力、並びに前記第3電流及び前記第2候補電圧の積を用いて得る第2仮電力を算出し、
前記負荷が平衡負荷である場合においては、前記第1電力及び前記第1仮電力の和が前記第1電力及び前記第2仮電力の和よりも大きければ前記第1候補電圧を前記第2線間
電圧とすることを決定し、前記第1電力並びに前記第2仮電力の和が前記第1電力並びに前記第1仮電力の和よりも大きければ前記第2候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定する、
ように構成される
請求項4に記載の電力センサ。
【請求項6】
前記演算装置は、
前記負荷が平衡負荷でない場合であって、かつ前記第1仮電力の値及び前記第2仮電力の値の正負の符号が異なる場合には、
前記第1仮電力が正の値であり前記第2仮電力が負の値であれば前記1候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定し、前記第1仮電力が負の値であり前記第2仮電力が正の値であれば前記第2候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定する、
ように構成される
請求項5に記載の電力センサ。
【請求項7】
前記演算装置は、
前記負荷が平衡負荷でない場合であって、かつ前記第1仮電力の値及び前記第2仮電力の値の正負の符号が同一である場合には、
前記第1電力及び前記第2電力の和を計算せずに、所定の例外処理を実行する、
ように構成される
請求項6に記載の電力センサ。
【請求項8】
前記演算装置は、
前記所定の例外処理として、前記負荷の力率を予め定める所定値とみなして、前記第1電流、前記第2電流及び前記第3電流、並びに前記第1線間電圧を用いた演算を行うことにより、前記負荷の消費電力を算出する、
ように構成される
請求項7に記載の電力センサ。
【請求項9】
前記演算装置は、
前記所定の例外処理として、前記負荷の消費電力が測定不能である旨の信号を出力する、
ように構成される
請求項7に記載の電力センサ。
【請求項10】
三相のうちの第一相の第1電線に接続され前記第1電線における第1電位を計測する第1電位センサ、前記第1電線に接続され前記第1電線における第1電流を計測する第1電流センサ、三相のうちの第二相の第2電線に接続され前記第2電線における第2電位を計測する第2電位センサ、を含む計測手段とともに用いられ、三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定するための演算装置であって、
三相のうちの第三相の第3電線における第3電流を、少なくとも計測される前記第1電流を用いて算出し、
前記第1電位センサによって計測される前記第1電線の第1電位、及び前記第2電位センサによって計測される前記第2電線の第2電位から、前記第1電線及び前記第2電線の間における第1線間電圧を算出し、
算出された前記第1線間電圧の位相を移すことにより、前記第2電線及び前記第3電線の間における第2線間電圧を算出し、
かつ
前記第1電流及び前記第1線間電圧の積を用いて得る第1電力、並びに前記第3電流及び前記第2線間電圧の積を用いて得る第2電力の和を計算することで、前記負荷の消費
電力を算定する、
ように構成される、
演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力センサ及び演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、三相交流電源に接続される負荷の消費電力の測定方法として、2つの単相電力計を用いる二電力計法が知られている。このような二電力計法により電力測定を行う場合、少なくとも2つの相に係る電線の電流値(線電流)と、1つの相を基準として残り二相それぞれとの線間電圧を測定する必要があるため、二本の電線に電流センサを、三本の電線に電圧センサを設置しなければならない。
【0003】
一方、電線の電流値のみを計測し、当該計測値と予め設定しておいた電圧値及び力率を用いて簡易的に負荷の消費電力を算出する技術が提案されている(特許文献1参照)。これによれば、三相交流電源に接続される負荷の消費電力についても、電流値を計測するセンサのみで、簡易的な測定を行うことができる。しかしながら、接続される負荷によって力率は様々であり、予め設定される力率を用いて消費電力(有効電力)を算出するのでは、正確な電力測定は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-281274号公報
【特許文献2】特開2020-128926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡易な構成で正確に三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定することが可能な電力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る電力センサは、
三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定するための電力センサであって、
三相のうちの第一相の第1電線に接続され、前記第1電線における第1電位を計測する第1電位センサと、
前記第1電線に接続され、前記第1電線における第1電流を計測する第1電流センサと、
三相のうちの第二相の第2電線に接続され、前記第2電線における第2電位を計測する第2電位センサと、
演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
計測される前記第1電流を用いて、三相のうちの第三相の第3電線における第3電流を算出し、
計測される前記第1電位及び前記第2電位から、前記第1電線及び前記第2電線の間における第1線間電圧を算出し、
算出された前記第1線間電圧の位相を移すことにより、前記第2電線及び前記第3電線の間における第2線間電圧を算出し、
かつ
前記第1電流及び前記第1線間電圧の積を用いて得る第1電力、並びに前記第3電流
及び前記第2線間電圧の積を用いて得る第2電力の和を計算することで、前記負荷の消費電力を決定する、
ように構成される、
電力センサである。
【0007】
なお、各電位センサ、電流センサが電線に「接続される」とは電気的に接続されることであり、非接触の方式により電位、電流を検出することも含まれる。さらに、非接触の方式により検出を行う場合には、検出した電圧信号の大きさを所定の値に較正する手段を有していてもよい。ここで、所定の値は機器が有する初期値(メーカー出荷時の値)であってもよいし、ユーザーが設定(変更)する値であってもよい。
【0008】
また、前記演算装置は、計測される前記第1電流の位相を移すことにより、前記第3電流を算出する、ように構成されていてもよい。このような構成によれば、電圧センサを2つ、電流センサ1つ用いるだけで、三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定可能な電力センサを提供することができる。
【0009】
また、前記電力センサは、前記第2電線に接続され、前記第2電線における第2電流を計測する第2電流センサをさらに備え、前記演算装置は、計測される前記第1電流及び前記第2電流を用いて前記第3電流を算出する、ように構成されていてもよい。
【0010】
上記のような構成によれば、従来の二電力計法に比べて電位検出のためのプローブを1つ削減することができ、かつ負荷の力率を反映させた正確な消費電力を測定することができる。
【0011】
また、前記演算装置は、前記第2線間電圧を算出するために、前記第1線間電圧の位相を+60度移した値である第1候補電圧、又は前記第1線間電圧の位相を-60度移した値である第2候補電圧のいずれかを前記第2線間電圧とすることを決定する、ように構成されていてもよい。
【0012】
また、前記演算装置は、前記第1候補電圧及び前記第2候補電圧のいずれを前記第2線間電圧とするかを決定するにあたり、前記第3電流及び前記第1候補電圧の積を用いて得る第1仮電力、並びに前記第3電流及び前記第2候補電圧の積を用いて得る第2仮電力を算出し、前記負荷が平衡負荷である場合においては、前記第1電力及び前記第1仮電力の和が前記第1電力及び前記第2仮電力の和よりも大きければ前記第1候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定し、前記第1電力並びに前記第2仮電力の和が前記第1電力並びに前記第1仮電力の和よりも大きければ前記第2候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定するように構成されていてもよい。
【0013】
また、前記演算装置は、前記負荷が平衡負荷でない場合であって、かつ前記第1仮電力の値及び前記第2仮電力の値の正負の符号が異なる場合には、前記第1仮電力が正の値であり前記第2仮電力が負の値であれば前記1候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定し、前記第1仮電力が負の値であり前記第2仮電力が正の値であれば前記第2候補電圧を前記第2線間電圧とすることを決定するように構成されていてもよい。
【0014】
また、前記演算装置は、前記負荷が平衡負荷でない場合であって、かつ前記第1仮電力の値及び前記第2仮電力の値の正負の符号が同一である場合には、前記第1電力及び前記第2電力の和を計算せずに、所定の例外処理を実行するように構成されていてもよい。
【0015】
また、前記演算装置は、前記所定の例外処理として、前記負荷の力率を予め定める所定値とみなして、前記第1電流、前記第2電流及び前記第3電流、並びに前記第1線間電圧
を用いた演算を行うことにより、前記負荷の消費電力を算出するように構成されていてもよい。或いは、前記演算装置は、前記所定の例外処理として、前記負荷の消費電力が測定不能である旨の信号を出力するように構成されていてもよい。
【0016】
また、本発明は、
三相のうちの第一相の第1電線に接続され前記第1電線における第1電位を計測する第1電位センサ、前記第1電線に接続され前記第1電線における第1電流を計測する第1電流センサ、三相のうちの第二相の第2電線に接続され前記第2電線における第2電位を計測する第2電位センサ、を含む計測手段とともに用いられ、三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定するための演算装置であって、
前記第1電位センサによって計測される前記第1電線の第1電位、及び前記第2電位センサによって計測される前記第2電線の第2電位から、前記第1電線及び前記第2電線の間における第1線間電圧を算出し、
算出された前記第1線間電圧の位相を移すことにより、前記第2電線及び前記第3電線の間における第2線間電圧を算出し、
三相のうちの第三相の第3電線における第3電流を、少なくとも計測される前記第1電流を用いて算出し、かつ
前記第1電流及び前記第1線間電圧の積を用いて得る第1電力、並びに前記第3電流及び前記第2線間電圧の積を用いて得られる第2電力の和を計算することで、前記負荷の消費電力を算定する、
ように構成される、演算装置としても捉えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成で正確に三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定することが可能な電力センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1Aは、実施形態1に係る電力センサの概略を示す概略図である。
図1Bは、実施形態1に係る電力センサの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2Aは、実施形態1に係るセンサヘッドの外観を示す第1の図である。
図2Bは、実施形態1に係るセンサヘッドの外観を示す第2の図である。
図2Cは、実施形態1に係るセンサヘッドの外観を示す第3の図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係るセンサヘッドを構成する各要素を説明する分解図である。
【
図4】
図4Aは、実施形態1に係るセンサヘッドの内部構成を示す第1の断面図である。
図4Bは、実施形態1に係るセンサヘッドの内部構成を示す第2の断面図である。
【
図5】
図5Aは、実施形態1に係るセンサヘッドを構成する各要素の配置関係を説明する第1の図である。
図5Bは、実施形態1に係るセンサヘッドを構成する各要素の配置関係を説明する第2の図である。
図5Cは、実施形態1に係るセンサヘッドを構成する各要素の配置関係を説明する第3の図である。
図5Dは、実施形態1に係るセンサヘッドを構成する各要素の配置関係を説明する第4の図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係るセンサヘッドを構成する各要素の配置関係を説明する第5の図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係るアンプ部の回路構成の一例を示す図である。
【
図8】
図8Aは、二電力計法について説明する第1の図である。
図8Bは、二電力計法について説明する第2の図である。
【
図9】
図9Aは、実施形態1に係る電力センサを三相交流回路に接続する場合について説明する図である。
図9Bは、実施形態1に係る電力センサによる電力測定について説明する第1のベクトル図である。
【
図10】
図10は、実施形態1に係る制御部が実行する処理の一部の流れを説明するフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施形態1に係る電力センサにおいて取得された線間電圧の信号及び相電流の信号の処理の流れを示す第1の図である。
【
図12】
図12Aは、実施形態1に係る電力センサによる電力測定について説明する第2のベクトル図である。
図12Bは、実施形態1に係る電力センサによる電力測定について説明する第3のベクトル図である。
【
図13】
図13Aは、実施形態1に係るセンサヘッドが逆の電線に取り付けられたケースについて説明する第1の図である。
図13Bは、実施形態1に係るセンサヘッドが逆の電線に取り付けられたケースについて説明する第2の図である。
【
図14】
図14Aは、実施形態1に係る電力センサによる電力測定について説明する第4のベクトル図である。
図14Bは、実施形態1に係る電力センサによる電力測定について説明する第5のベクトル図である。
【
図15】
図15は、実施形態1に係る電力センサにおいて取得された線間電圧の信号及び相電流の信号の処理の流れを示す第2の図である。
【
図16】
図16Aは、実施形態1に係る電力センサにおいて算出される第1電力及び第2電力と、三相交流回路の相電圧及び相電流の位相差の関係について示す第1の図である。
図16Bは、実施形態1に係る電力センサにおいて算出される第1電力及び第2電力と、三相交流回路の相電圧及び相電流の位相差の関係について示す第2の図である。
【
図17】
図17Aは、実施形態1に係る電力センサにおける磁界シールドの変形例について示す図である。
図17Bは、実施形態1に係る電力センサにおける電流センサ素子の配置の変形例について示す第1の図である。
図17Cは、実施形態1に係る電力センサにおける電流センサ素子の配置の変形例について示す第2の図である。
【
図18】
図18Aは、実施形態2に係る電力センサの概略について示す概略図である。
図18Bは、実施形態2に係る電力センサの機能構成を示すブロック図である。
【
図19】
図19Aは、実施形態2に係る電力センサを三相交流回路に接続する場合について説明する図である。
図9Bは、実施形態2に係る電力センサによる電力測定について説明する第1のベクトル図である。
【
図20】
図20は、実施形態2に係る電力センサにおいて取得された線間電圧の信号及び相電流の信号の処理の流れを示す第1の図である。
【
図21】
図21は、実施形態2に係る電力センサにおいて取得された線間電圧の信号及び相電流の信号の処理の流れを示す第2の図である。
【
図22】
図22Aは、
図22Aは、実施形態2に係る電力センサによる電力測定について説明する第2のベクトル図である。
【
図23】
図23Aは、実施形態2に係る電力センサによる電力測定について説明する第3のベクトル図である。
図23Bは、実施形態1に係る電力センサによる電力測定について説明する第4のベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の具体的な実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0020】
<実施形態1>
(概要)
本実施形態に係る電力センサ1は、三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定可能な電力センサである。
図1Aは、本実施形態に係る電力センサ1の概略を示す概略図である。また、
図1Bは、電力センサ1の機能構成を示すブロック図である。
図1Aに示すように、電力センサ1は、立方体形状の本体部10と、本体部10から延在する2本のケーブルそれぞれの先端に設けられるセンサヘッド20a、センサヘッド20bを有している。なお、以下では、センサヘッド20a、センサヘッド20bの共通する事項について
説明する場合など、両者を特に区別する必要が無い場合には、センサヘッド20などと称する。またセンサヘッドとケーブルとをまとめて「計測プローブ」などとも称する。
【0021】
後述するように、センサヘッド20a、センサヘッド20bは電流センサ及び電位センサを備えており、それぞれ三相のうちの一相に係る電線に電線の被覆越しに取り付けられることで、当該相の電線の電流及び電位を計測するとともに、当該計測値に係る信号を本体部10に対して出力する。
【0022】
図1Bに示すように本体部10は、アンプ部12、A/D(Analog-to-Digital)変換部13、記憶部14、電源部15、通信部16、制御部100の各機能部を備えている。センサヘッド20a、センサヘッド20bから出力された信号は、アンプ部12で増幅されて、A/D変換部13によってデジタル変換され、制御部100に入力される。そして、制御部100において入力された信号を処理することで、測定対象となる負荷の消費電力を決定する。このようにして、電力センサ1により、三相交流電源に接続された負荷の消費電力を測定することができる。
【0023】
(センサヘッドの構造)
以下では、さらに詳しく電力センサ1の構造及び消費電力測定方法について説明する。まず、
図2乃至6に基づいて、センサヘッド20の構成について説明する。
図2A乃至
図2Cは、センサヘッド20の外観を示す図である。センサヘッド20は、概略中空円筒状の外観を有しており、2つの樹脂製のベース部材21a、21bによって構成されるベース部21に、後述する複数の構成要素が組付けられて形成されている。ベース部21は円筒における円周上の一箇所において、円筒の軸方向の両端部に設けられた二箇所のヒンジ部29でベース部材21aとベース部材21bが軸支されることで、
図2Aのような中空円筒状の態様(以下、閉状態という)と、
図2B、Cに示すようにアーチ状の2つの構成が隣接したような態様(以下、開状態という)とに変形自在に形成されている。
【0024】
センサヘッド20は、ヒンジ部29と円周上の反対側の箇所において開閉するようになっており、当該箇所の円筒の軸方向両端部で、ベース部材21a、21bの一方に設けられた凸部211が他方の対応する位置に設けられた凹部(図示せず)に嵌合することで、閉状態においてロック可能に構成されている。なお、センサヘッド20が閉状態にある時に、ベース部材21a、21bのロックされている部分を引き離すように力を加えることで、凸部211と凹部の嵌合状態が解除され、センサヘッド20を開状態にすることができる。そして、センサヘッド20を電線に取り付ける際には、センサヘッド20を開状態にして、ベース部材21a、21bのアーチ状に窪んだ箇所に被覆されている電線を挟み込むようにしてセンサヘッド20を閉状態とすることで、円筒の中空部に被覆電線が挿通した状態でロックされ、センサヘッド20の取り付けが完了する。
【0025】
続けて、センサヘッド20の内部構造について説明する。
図3は、センサヘッド20を構成する各要素を説明する分解図である。また、
図4Aはセンサヘッド20を
図2Aの一点鎖線の方向で切断した場合の断面図であり、
図4Bはセンサヘッド20を
図2Bの一点鎖線の方向で切断した場合の断面図である。また、
図5A乃至Dは、センサヘッドの各部材の配置関係を補足的に説明するための説明図である。また、
図6は、センサヘッド20において、後述の電流センサ素子24、磁界シールド27、隙間部G、及びヒンジ部29における回転軸AXの位置関係を説明するための説明図である。
【0026】
図3乃至
図6の各図に示すように、センサヘッド20は、ベース部材21に、電位検出電極22、FPC(Flexible Printed Circuits)23、電流センサ素子24、電界シールド25、絶縁シール26、磁界シールド27、カバー部材28の各部材が、列挙された順に組付けられて構成されている。
【0027】
ベース部21は、前述のようにベース部材21a、21bがヒンジ部29で結合されて形成されており、
図3に示すように、円筒の外周側では軸方向中央部に向けて段階的に窪んでおり、最も窪んだ軸方向中央部では、四角柱(但し内部は円形の中空)のような形状となっている。
【0028】
電位検出電極22は、例えば銅箔などで形成されており、接続される電線の電圧に応じた静電誘導によって生じる電位を検出するための部材である。FPC23は薄膜状の絶縁体の上に接着層を介して導体箔が貼りあわされた構造の一般的なフレキシブルプリント基板である。なお、電位検出電極22は、FPC23の裏側(即ちベース部材21に近い側)の面に設けられている。電流センサ素子24は、非接触により電線の電流を計測可能に構成された磁気センサ(例えば、特許文献2に記載の磁気抵抗効果素子)などを採用することができ、FPC23の回路基板上に4つ配置されている。
【0029】
FPC23は、
図5Aに示すように、ベース部21の四角柱の各側面に4つの電流センサ素子24のそれぞれが配置されるようにして、ベース部21に巻き付けるようにして接着固定される。より具体的には、FPC23の長手方向の両端部が、ベース部21の開閉位置(四角の内の一つの角に相当する)に位置するように(即ち開閉位置でない角やいずれかの側面に配置されないように)して、電位検出電極22が設けられる面がベース部21側に接着される。なお、ベース部21の開閉位置は
図4A中央部のひし形の下側の角の部分にあたる。また、図示しないがFPC23にケーブル(内の電線)の一端が接続されており、センサヘッドが取り付けられた電線の電流及び電位の値に係る信号を、ケーブルを介して本体部10に送信する。
【0030】
電界シールド25は非磁性体の金属で形成された部材であり、FPC23を覆うように巻き付けることで、外部からの電界の影響を遮断する。絶縁シール26は、絶縁性の素材で形成されるシール部材である。絶縁シール26については後に改めて説明する。また、磁界シールド27は鉄やフェライト等の磁性体からなる部材であり、電流センサ素子24と隣接する電線の磁界の影響を遮断する。なお、磁界シールド27を鉄などの良導電体で作成し、FPC23の基準電位と接続することで電界シールド25を兼ねることができる(即ち、電界シールド25の構成を省略することができる)。カバー部材28は、例えばベース部材21a、21bと同一の樹脂製の部材であり、センサヘッド20の軸方向中央分の外装となる。
【0031】
磁界シールド27及びカバー部材28は、いずれもアーチ状に形成された二つの部材を一組とするものであり、これらが例えば両面テープなどの接着剤でベース部21に接着固定される(
図5B参照)。この際に、
図4A、
図5Cなどに示すように、ヒンジ部29の設けられる軸AX線上において、隙間部Gが形成されるように磁界シールド27及びカバー部材28が配置される。
【0032】
隙間部Gが形成されなければ、ベース部21が開状態となる際にはヒンジ部29の回転軸AXの外側に位置する箇所において干渉が生じてしまう。このため隙間部Gが必要となるが、隙間部G部分においては、内部部品が露出してしまう。センサヘッド20が配置される制御盤内では、絶縁被覆のないブスバーを用いている場所も想定されることから、露出部分とブスバーが接触すると感電などの事故になるおそれがある。このため、
図4A、
図5D、
図6に示すように隙間部Gを埋めるように絶縁シール26を貼り付けることで、このような事故を防止することができる。なお、
図5Dでは電界シールド25を省略して記載しているが、磁界シールド27と電界シールド25を兼ねる構成とした場合には、
図5Dに示す通りの状態となる。また、
図6に示すように、絶縁シール26をヒンジ部29の回転軸AXと同軸に配置することで、センサヘッド20の開状態となった際にも絶縁シ
ール26が撓むことを防止することができる。
【0033】
なお、磁界をシールドすることにより磁界シールド27には渦電流が流れ、発熱する。このため、
図6に示すように、少なくとも電流センサ素子24が配置される部分についてはシールドしつつ、ギャップを設けることで磁気抵抗を大きくして磁界を弱くし、磁界シールド27の発熱を低減させる。このギャップを、ベース部21の開閉を可能にするための隙間部Gと兼用することで、センサヘッドの製造コストを低減させることができる。なお、本実施形態においては、
図6に示すように、4つの電流センサ素子24をギャップ(隙間部G)から最も遠い位置に配置するために、ヒンジ部29の回転軸AXから円周上で45度ずらした位置及びそれと対向する位置に電流センサ素子24を配置している。
【0034】
以上のようなセンサヘッド20により、計測対象の相に係る電線の電流及び電位の値を取得することができる。なお、センサヘッド20a、センサヘッド20bは、
図1Bに示すセンサ部200の機能構成に該当する。また、センサヘッド20aは機能構成として第1電位検出部201、第1電流検出部202の各機能部を備え、センサヘッド20bは機能構成として第2電位検出部203、第2電流検出部204の各機能部を備える。第1電位検出部201及び第2電位検出部203は各センサヘッド20の電位検出電極22及びFPC23によって実現され、第1電流検出部202及び第2電流検出部204は各センサヘッド20の電流センサ素子24及びFPC23によって実現される。
【0035】
(本体部の構成)
次に、本体部10の構成について説明する。本体部10は、立方体形状の筐体内に図示しない回路基板が収納される構成となっており、一端がセンサヘッド20に接続されるケーブルの他端が当該回路基板に接続されている。また、
図1Bに示すように、本体部10は、アンプ部12、A/D変換部13、記憶部14、電源部15、通信部16、制御部100の各機能部を備えている。
【0036】
アンプ部12は、センサヘッド20から出力され、ケーブルを介して入力された信号の増幅、ノイズの除去、周波数のフィルタリングを行う。
図7に、アンプ部12における回路の一例を示す。
図7に示す回路ではセンサヘッド20aの第1電位検出部201で検出される電位、及びセンサヘッド20bの第2電位検出部203で検出される電位をそれぞれバッファアンプ、作動アンプを介して、第1線間電圧V1として出力する。
【0037】
A/D変換部13はアンプ部12から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部100に対して出力する。
【0038】
記憶部14は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの主記憶装置(図示せず)、取り外し可能なSD(Secure Digital)メモリカードなどの補助記憶装置(図示せず)を含んで構成される。主記憶装置は制御部100において実行されるプログラムや、動作の設定情報などを記憶する記憶媒体である。補助記憶装置は、測定した電力、電力量、電圧・電流の実効値、力率といったデータ、これらのデータを得た時刻に係る情報、電力測定のために設定された所定の設定値など、のデータが格納される。
【0039】
電源部15は、本体部10及びセンサヘッド20を含む電力センサ1全体の電源であり、例えば取り外し可能な蓄電池を採用することができる。また、後述するようにLAN(Local Area Network)ケーブルを介してPoE(Power over Ethernet)ハブと接続される場合には、これを電源部150としてもよい。
【0040】
通信部16は、無線通信用のアンテナ(図示せず)を含み、少なくともBLE(Blu
etooth(登録商標) Low Energy)通信により、情報処理端末などの他の機器と通信する機能を有する。また、有線による通信のための端子を備えていても良い。有線通信を行う際には、例えばPoEハブと接続してLANケーブルを介して電力の供給を受けるようにしてもよい。
【0041】
なお、本実施形態においては、通信部16を介して接続される外部の情報処理端末が入出力I/F(interface)の役割を果たす。即ち、電力センサ1によって測定された電力その他の値、電力センサ1の動作に係る現在の設定値、などが通信部16から送信され、外部の情報処理端末(例えばノートPC、スマートフォンなど)を介して、これらの情報を参照することができる。また、電力センサ1の設定も、情報処理端末で入力された情報を通信部16で受信することで行われる。さらに、記憶部14に蓄積されている測定値などのデータを、サーバ装置(図示せず)に送信するようになっていてもよい。この場合の送信のタイミングは、例えば、所定の時刻、所定の時間間隔の到来でデータを自動的に送信する、データが所定量以上蓄積されたら自動的に送信する、サーバからのデータ送信リクエストを受けて送信する、などとすることができる。
【0042】
このように、本実施形態に係る電力センサ1では、直接的に入力を受け付けるための構成、及び情報を知覚可能に出力する構成が省略されている。このため本体部10を簡素化(低コスト化)、小型化することができるとともに、これらに供給する分の消費電力を節約することができるため、蓄電池の寿命を延ばすことができる。
【0043】
制御部100は、例えばCPU(Central Processing Unit)などを含んで構成される。制御部100は、所定のプログラムに従ってセンサヘッド20から入力される信号を用いて三相交流電源に接続される負荷の電力を測定する。また、この他通信部16を介して外部機器との情報の送受信を実行するなど、電力センサ1全体の制御を司る。なお、所定のプログラムは記憶部14に保存され、ここから読み出される。
【0044】
また、制御部100は、機能モジュールとして線間電圧算出部101、第3電流算出部102、第1電力算出部103、第1仮電力算出部104、第2仮電力算出部105、消費電力決定部106を備えている。
【0045】
線間電圧算出部101は、第1電位検出部201で検出した第1電位と第2電位検出部203で検出した第2電位に基づいて、センサヘッド20aとセンサヘッド20bが取り付けられた電線の電位差である第1線間電圧、及び第1線間電圧から位相を60度移した第2線間電圧を算出する。これらについては後に改めて説明する。
【0046】
第3電流算出部102は、第1電流検出部202で検出した第1電流と第2電流検出部204で検出した第2電流に基づいて、キルヒホッフの第3法則により、センサヘッド20a、センサヘッド20bのいずれも取り付けられていない電線の電流値(第3電流)を算出する。
【0047】
第1電力算出部103は、第1線間電圧、第1電流の積を用いて得られる第1電力を算出する。第1仮電力算出部104、第2仮電力算出部105はそれぞれ、後述する仮の第2線間電圧の候補と第3電流を用いて、第1仮電力、第2仮電力を算出する。これらについては後述する。
【0048】
消費電力決定部106は、線間電圧算出部101、第3電流算出部102、第1電力算出部103、第1仮電力算出部104、第2仮電力算出部105がそれぞれ算出した結果を用いて、測定対象である負荷の消費電力を決定する。即ち、これにより電力センサ1による負荷の消費電力測定が行われる。
【0049】
(消費電力測定の処理)
以下では、本実施形態に係る電力センサ1による消費電力測定の具体的な処理について説明を行う。まず、
図8A、
図8Bに基づいて、従来の二電力計法について確認する。
図8Aは、三相交流回路(三相交流電源及び接続される負荷)を示す図である。
図8Aでは、R相、S相、T相のそれぞれに電圧検出プローブが接続され、T相を基準として、RT相間の線間電圧V
RT、及びST相間の線間電圧V
STが測定されること、R相とS相に電流検出プローブが接続され、R相及びS相の電流値(I
R、I
S)が測定されることを示している。
【0050】
図8Bは、三相交流回路におけるR相、S相、T相の相電圧及び相電流の関係、並びに線間電圧V
RT及び線間電圧V
STをベクトルで示す説明図である。なお、図中における実線のV
RT及びV
STは、破線で示した線間電圧V
RT及び線間電圧V
STを平行移動させたものである。また、図中のθは、相電圧と相電流の位相差を示している。
【0051】
二電力計法は、ブロンデルの定理により、三相のうち二相の電流値といずれか二組の線間電圧を用いて、三相交流電源に接続された負荷の消費電力を測定するものである。三相交流電源に接続される負荷を平衡負荷として、|VR|=|VS|=|VT|=Vかつ|IR|=|IS|=|IT|=Iとすると、次式(1)から(3)が成立する。式中の√3Vは線間電圧である。
【0052】
【0053】
図8A及び
図8Bに示す例では、線間電圧V
RT、線間電圧V
ST、R相の相電流I
R、S相の相電流I
Sを用いて、三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定することができる。ただし、このような従来の二電力計法では、3つの相に電圧センサを設置して、二組の線間電圧を測定する必要がある。
【0054】
一方、本実施形態に係る電力センサ1では、二つの電線にセンサヘッド20を取り付け、一組の線間電圧と二相の線電流を取得し、これを用いて疑似的な二電力計法を行うことで、三相交流電源に接続された負荷の消費電力測定を可能とする。
図9Aは、本実施形態に係る電力センサ1を三相交流回路に接続した状態のモデル図を示す。また、
図9Bは、本実施形態に係る電力センサ1による電力測定の概念を示すベクトル図である。
【0055】
図9Aに示すように、本実施形態ではセンサヘッド20を、R相に係る電線とT相に係る電線に取り付け、線間電圧V
RT、R相の相電流I
R、T相の相電流I
Tを取得する。なお、線間電圧V
RTは、第1電位検出部201、第2電位検出部203が検出した値に基づいて、線間電圧算出部101が算出する。そして、相電流I
R、相電流I
Tを用いて、第3電流算出部102が、キルヒホッフの第1法則によりS相の相電流I
Sを算出する。
【0056】
三相交流回路における各相の電位は互いに120度ずつ位相がずれた値となっている。これを線間電圧のベクトルでみると、
図9Bに示すように2組の隣接する相間の線間電圧は60度位相がずれた値となる。即ち、一組の線間電圧を算出したうえで、この値から60度位相を移すことにより、他の線間電圧を算出することができる。
図9Bでは、線間電圧V
RTから+60度位相を移して線間電圧V
STを算出する例を示している。
【0057】
そして、このようにして算出した推定の線間電圧VSTを用いることで、二電力計法と同様の計算により、三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定することができる。なお、推定の線間電圧VSTは線間電圧算出部101によって算出される。また、本実施形態における推定の線間電圧VSTが本発明に係る第2線間電圧に相当する。
【0058】
このような方法によれば、センサヘッド20a、センサヘッド20bがそれぞれ目標とする相に取り付けられている場合には、確実に負荷の消費電力を測定することができる。そのため、センサヘッド20a、センサヘッド20bのそれぞれをいずれの相の電線に取り付けるかを決めておき、取り付け時にユーザーが取り付け目標の相を認識できるようにしておくことが望ましい。例えば、センサヘッド20(及び/又はケーブル)に、相を特定可能な色、記号、文字、模様などを付しておくとよい。このようにすると、取り付け対象の電線の相が識別できる場合には、センサヘッド20a、センサヘッド20bのそれぞれを目標とする相に取り付けることができる。三相交流の電線は国、地域、所管の電力会社などに応じて相を識別するために色分けされていることも多く、そのような場合にはセンサヘッド20a、センサヘッド20bを取り付けるべき目標の相の電線が容易に把握できる。
【0059】
(第2線間電圧決定の処理)
ただし、センサヘッド20a、センサヘッド20bが、実際にはどの相に係る電線に取り付けられたのかを電力センサ1は認識できない。このため、本実施形態に係る電力センサ1の制御部100は、次のようにして、第2線間電圧を決定する処理を実行する。具体的には、第1電位検出部201及び第2電位検出部203が検出した値に基づいて線間電圧算出部101が算出する線間電圧をVXとして、VXから位相を+60度移した値である第1候補電圧と、位相を-60度移した値である第2候補電圧のいずれかを第2線間電圧として決定するプロセスを実行する。
【0060】
図10は、制御部100が行う処理の流れの一部を示すフローチャートである。第1候補電圧と第2候補電圧のいずれを第2線間電圧とするのかを決定する処理は
図10のステップS109で実行されるが、当該決定に至るまでのプロセスの流れを、
図10に基づいて説明する。なお、
図10に示す処理の前提として、制御部100は、第1線間電圧の値、第1電流の値、第3電流の値(第1電流及び第2電流から求められる)を取得しているものとする。
【0061】
図10に示すように、制御部100は先ず負荷が平衡負荷であるか否かを判定する処理を行う(S101)。なお、平衡負荷であるか否かは記憶部14に設定値として保持しており、これを参照して判定するのであってもよいし、3つの相電流(即ち、第1電流、第2電流、第3電流)の実効値を比較することによって判定してもよい。平衡負荷であるか否かはユーザーによって設定することもでき、例えば電力センサ1により消費電力を測定する負荷の種別が何かを選択するUI(User Interface)を提供し、選択された負荷の種別に応じて平衡負荷であるか否かを設定してもよい。具体的には、負荷がモータであれば平衡負荷に設定し、負荷がヒータであれば不平衡負荷として設定するようにできる。
【0062】
(平衡負荷である場合の処理について)
ステップS101において、負荷が平衡負荷であると判定された場合には、第1仮電力算出部104が、第1線間電圧及び第1電流の積(W1)と第1候補電圧と第3電流の積(W2a)との和(Wa)を算出する(S102)。なお、W1、W2a、及び後述するW2bについて、実際には線間電圧と線電流だけの積ではなく力率も乗算されているが、力率について都度言及することは煩雑であるので、以下では説明を省略する。ステップS102の後は、第2仮電力算出部105が、第1線間電圧及び第1電流の積(W1)と第2候補電圧と第3電流の積(W2b)との和(Wb)を算出する(S103)。線間電圧算出部101は、このようにして算出されたWaとWbとを比較して値の大きい方を選択し(S104)、第1候補電圧及び第2候補電圧のうち、ステップS104で選択された値の算出に用いられた方を第2線間電圧として決定する(S109)。そして、このようにして第2線間電圧が決定されると、消費電力決定部106が第1線間電圧及び第1電流の積と第2線間電圧及び第3電流の積との和を負荷の消費電力として決定することで(S110)、三相交流電源に接続された負荷の消費電力が測定される。
【0063】
以上のように、負荷が平衡負荷である場合の処理において、取得された第1線間電圧、並びに第1電流及び第2電流の信号の流れを
図11に示す。なお、
図11では、センサヘッド20aが取り付けられた電線がR相、センサヘッド20bが取り付けられた電線がT相である場合の例を示している。
【0064】
以下では、ステップS102~S109の処理で第2線間電圧が決定できる理由について、説明する。まず、初めに、センサヘッド20aが取り付けられた電線がR相、センサヘッド20bが取り付けられた電線がT相であるとして、即ちV
X=V
RTであるとして説明を行う。
図12Aは、線間電圧V
RTから位相を+60度移した値である第1候補電圧を採用した場合のベクトル図であり、
図12Bは、線間電圧V
RTから位相を-60度移した値である第2候補電圧を採用した場合のベクトル図である。
【0065】
図12Aの場合には、第1候補電圧(推定のV
ST)は線間電圧V
STと同じ値となるため、第1候補電圧と第3電流の積(W
2a)を用いて先に説明したように従来の二電力計法を疑似的に再現することができる。即ち、式(1)乃至(3)の通り、線間電圧V
RTと相電流I
Rの積及び線間電圧V
STと相電流I
Sの積の和で負荷の消費電力を算出することができる(W
T=W
aとなる)。
【0066】
一方、
図12Bの場合には、第2候補電圧(推定のV
ST)は実質的には線間電圧V
RSと同じ値となるため、相電流I
Sとの積で電力を求めようとすると、次式(4)のようになる。
【0067】
【0068】
そして、このようにして算出されたW2bと、W1との和を求めると、平衡負荷の場合、次式(5)のようになる。
【0069】
【0070】
即ち、Wb=0となるため、WaとWbとを比較すると、正しい方向へ位相を移した候補電圧を用いて得た値が、そうでない方向に位相を移した候補電圧を用いて得た値よりも大きくなる。
【0071】
ところで、センサヘッド20a、センサヘッド20bは、逆の相の電線に取り付けられる場合がある。即ち、センサヘッド20aをR相の電線に、センサヘッド20bをT相の電線に取り付ける想定であるところ、実際にはそれが逆になってしまい、センサヘッド20aがT相の電線に、センサヘッド20bがR相の電線に取り付けられる、といったことが起こり得る。このような場合の例を
図13Aに示す。なお、以下では、センサヘッド20a、センサヘッド20bを取り付ける電線が想定通りである状態を「順」の取り付け、取り付ける電線が逆になっている状態を「逆」の取り付け、などともいう。
図13Aに示すように、センサヘッド20a、センサヘッド20bが逆に取り付けられた場合には、R相を基準にT相との電位差を見ることになり、線間電圧のベクトルが逆方向になる。
【0072】
図13Bは、センサヘッド20a、センサヘッド20bが逆に取り付けられた場合の各相の関係を把握しやすくするために、
図13Aに示すベクトルを120度回転させた図である。
図13Bに示すように、センサヘッド20a、センサヘッド20bを逆に取り付けた場合の線間電圧V
RTは、順に取り付けた場合の線間電圧V
STと同じベクトルになる。この場合には線間電圧V
RTと相電流I
Tの積、即ちW
1は次式(6)のようになる。
【0073】
【0074】
上記式(6)を前提とした場合、次式(7)及び(8)により、負荷の消費電力を測定することができる。
【0075】
【0076】
図14Aは、線間電圧V
RTから位相を-60度移した値である第2候補電圧を採用した場合のベクトル図であり、
図14Bは、線間電圧V
RTから位相を+60度移した値である第1候補電圧を採用した場合のベクトル図である。
【0077】
図14Aで示すように、第2候補電圧は線間電圧V
RSに相当する値であり、相電流I
Sとの積(W
2b)が式(7)で示すW
2となる。そうすると、式(8)より、第2候補電圧及び相電流I
Sの積(W
2b)を、線間電圧V
RT及び相電流I
Tの積(即ちW
1)と合算することで、負荷の消費電力を算出することができる(即ち、W
T=W
bが成立する)。
【0078】
一方、
図14Bで示すように、線間電圧V
RTから位相を+60度移した値である第1候補電圧(推定のV
RS)は実質的には線間電圧V
STと同じ値となるため、相電流I
Sとの積(W
2a)で電力を求めようとすると、次式(9)のようになる。
【0079】
【0080】
そして、このようにして算出されたW2aと、W1との和を求めると、平衡負荷の場合、次式(10)のようになる。
【0081】
【0082】
即ち、Wa=0となるため、センサヘッド20a、センサヘッド20bを逆に取り付けた場合であっても、WaとWbとを比較することにより、第1候補電圧と第2候補電圧のいずれかを第2線間電圧として決定することができる。以上のことから、負荷が平衡負荷である場合においては、WaとWbとを比較し、大きい方の値の算出に用いられた候補電圧を第2線間電圧として決定することができる。
【0083】
(平衡負荷でない場合の処理について)
再び
図10のフローチャートの説明にもどり、測定対象の負荷が平衡負荷でない場合の処理について説明する。制御部100は、ステップS101において負荷が平衡負荷ではないと判定した場合にはステップS105に進み、第1候補電圧及び相電流I
Rの積(W
2a)、第2候補電圧及び相電流I
Sの積(W
2b)の符号が同一であるか否かを判定する処理を行う(S105)。なお、W
2a及びW
2bは、ステップS105に至るまでのいずれかのタイミングで、第1仮電力算出部104及び第2仮電力算出部105によって算出される。制御部100は、ステップS105でW
2aとW
2bの符号が同一であると判定した場合には、所定の例外処理を実行し(S111)、一連の処理を終了する。所定の例外処理については後述する。
【0084】
一方、制御部100がステップS105でW2aとW2bの符号が異なると判定した場合には、線間電圧算出部101は、W1とW2aとの符号を比較し(S106)、さらにW1とW2bの符号を比較し(S107)、W2aとW2bのうち、W1と符号が同一である方の値を選択し(S108)、該選択された値の算出に用いられた候補電圧を、第2線間電圧として決定する(S109)。そして、このようにして第2線間電圧が決定されると、消費電力決定部106が第1線間電圧及び第1電流の積と第2線間電圧及び第3電
流の積との和を負荷の消費電力として決定することで(S110)、三相交流電源に接続された負荷の消費電力が測定される。
【0085】
以上のように、負荷が平衡負荷でない場合の処理において、取得された第1線間電圧、並びに第1電流及び第2電流の信号の流れを
図15に示す。なお、
図15では、センサヘッド20aが取り付けられた電線がR相、センサヘッド20bが取り付けられた電線がT相である場合の例を示している。
【0086】
以下では、ステップS105~S109の処理で第2線間電圧が決定できる理由について説明する。上記の式(1)、(2)によれば、余弦COSの括弧内の数値が±90度を超えると算出される電力W1、電力W2の値が負の値となってしまう。ここで、既に説明したように、第1候補電圧と第3電流の積(W2a)、第2候補電圧と第3電流の積(W2b)には、センサヘッド20a、センサヘッド20bが逆に取り付けられた値も存在することから、W2の候補となる値として、4パターンの値が存在することがわかる。具体的には、センサヘッド20aとセンサヘッド20bが順方向に取り付けられた場合のW2a及びW2bと、センサヘッド20a、センサヘッド20bが逆に取り付けられた場合のW2a及びW2bである。ここで、既にみたように、センサヘッド20が順に取り付けられた場合のW2aは上記式(2)のW2と同一であり、逆に取り付けられた場合のW2bは、上記式(7)におけるW2と同一である。また、センサヘッド20が順に取り付けられた場合のW2bは上記式(4)の通りであり、逆に取り付けられた場合のW2aは上記式(9)の通りである。
【0087】
これらに関して、相電圧と相電流の位相差θの値とW
1、W
2a、W
2bの正負の値の関係についてまとめたのが、
図16A及び
図16Bの表である。
図16Aの表は、センサヘッド20が順に取り付けられた場合の関係を示しており、
図16Bの表はセンサヘッド20が逆に取り付けられた場合の関係を示している。なお、センサヘッド20が逆に取り付けられた場合のW
1は、上記式(6)の通りである。
【0088】
図16A、
図16Bに示すように、θの値が±60度を超えると(即ち力率が0.5を下回ると)、いずれもW
2aとW
2bの符号が同一となる。このような場合には、正しく消費電力を測定することができないため、所定の例外処理を実行する。一方θの値が-60度から+60度の間においてはW
2aとW
2bの符号が異なるため、これらのうちW
1と同一の符号である方を選択し、当該選択された値の算出に用いられた候補電圧を、第2線間電圧とすることで、負荷の消費電力を測定することができる。即ち、負荷が平衡負荷でない場合であっても、負荷の力率が0.5~1である場合には、第1線間電圧及び第1電流の積と第2線間電圧及び第3電流の積との和を求めることで、消費電力を測定することができる。
【0089】
(所定の例外処理について)
次に、
図10のフローチャートにおける、ステップS111について説明する。本実施形態においては、ステップS111では、消費電力決定部106測定対象の負荷の力率を予め定める所定値(例えば、0.5)とみなして、第1電流、第2電流及び第3電流、並びに第1線間電圧を用いた演算を行うことにより、前記負荷の仮の消費電力を算出する。即ち、次式(11)に示す演算を実施する。
【0090】
【0091】
なお、上記式(11)における0.5は、負荷のみなし力率として予め設定された値である。みなし力率は、例えば記憶部14に設定値として格納されており、製品の工場出荷時に設定される値であってもよいし、ユーザーにおいて事後的に設定(変更)される値であってもよい。上記式(11)のように、第1線間電圧と第1電流、第2電流、第3電流それぞれの積を合算した値にみなし力率を乗ずる演算を行うことで、仮の測定値を算出することができる。即ち、負荷の力率が低く、第1線間電圧及び第1電流の積と第2線間電圧及び第3電流の積との和により負荷の消費電力を測定できない場合であっても、負荷の消費電力に関する参考情報を得ることができる。
【0092】
(本実施形態による効果)
以上、説明したような本実施形態に係る電力センサ1によれば、簡易な構成で正確に三相交流電源に接続される負荷の消費電力を測定することが可能な電力センサを提供することができる。具体的には、電力センサ1は、それぞれ電位検出部及び電流検出部を備える2つのセンサヘッドを三相のうちの二相に設置するだけで、疑似的な二電力計法により正確に負荷の消費電力を測定することができる。電線に取り付けるプローブを2つだけとする構成によって、電力センサ設置時のユーザー負担を大幅に低減することができるとともに、製品の製造コストを低減させることができる。また、計測プローブのセンサヘッド20は、コンパクトな中空円筒状に形成されており、ヒンジ構造により開閉可能に構成されていることによって、センサヘッドの電線への取り付けを容易に行うことができる。また、本実施形態に係る電力センサ1は、本体部10に表示部、操作部といった構成を備えないため、これらを省略した分製造コストを低減できるとともに、蓄電池の消耗を抑えることができる。また、装置の小型化を実現することができる。
【0093】
(変形例1)
なお、上記実施形態1ではステップS111における例外処理として、みなし力率を用いて仮の消費電力を算出するようにしていたが、他の処理を行うようにしてもよい。例えば、ステップS107でW2aとW2bの符号が異なると判定した場合には、制御部100は、負荷の消費電力が測定不能である旨の信号を出力するようにしてもよい。具体的には、通信部16を介してユーザーが使用する近傍の情報処理端末に情報を送信し、情報処理端末が備える出力手段に応じて、画像、テキストメッセージ、音声、或いはこれらの組み合わせによって、エラーメッセージが出力されるようにしてもよい。
【0094】
(変形例2)
また、上記実施形態1のセンサヘッド20では、
図6に示すように磁界シールド27のギャップはヒンジ部29の部位に設けられる隙間部Gとしていたが、必ずしもこのような態様に限定されるわけではない。電流センサ素子24と、磁界シールド27の配置関係に応じて、ギャップは様々な態様で設けることができる。
図17Aにこのようなギャップの変形例を示す。
図17Aに示すように、磁界シールド27は、電流センサ素子24の配置されている箇所のみを覆うように設けられ、隙間部G以外の箇所においても、磁界シールド27で覆われていないギャップを設けるようにしてもよい。
【0095】
(変形例3)
また、上記実施形態1においては、1つのセンサヘッド20が4つの電流センサ素子24を備える構成であったが、センサヘッド20あたりの電流センサ素子は4つに限られない。
図17B、
図17Cにこのような場合の変形例について示す。
図17Bは電流センサ素子24を3つとした場合のセンサヘッド20内での配置例を示し、
図17Cは電流センサ素子24を2つにした場合の配置例を示している。いずれの場合であっても、複数の電流センサ素子24同士が円周上において等間隔となるように配置される。
【0096】
(変形例4)
また、上記実施形態1においては、センサヘッド20は電位検出電極22として銅箔を備える構成であったが、電位検出電極はそれ専用の構成である必要はなく、銅箔を省略することもできる。具体的には、例えば、電流センサ素子24及びFPC23で構成される電流を検出するための回路における基準電位を、電線の電位を検出するための電位検出電極として活用することができる。このように電位検出電極のために設けられる構成を省略し、電流検出回路そのものを電位検出電極とすることで、電極面積を大きくすることができる。
【0097】
(変形例5)
また、上記実施形態1では電流センサ素子24として、磁気抵抗効果素子を例示したが、これに限らずホール素子などの他の磁気センサや一般的なカレントトランスなどを採用することもできる。また、カレントトランスなどを電流センサとして採用した場合にも、当該カレントトランスの基準電位を電位検出電極とすることもできる。また、電流検出回路だけでなく、電流センサのコアを電位検出電極として電線の電位を検出することもできる。
【0098】
<実施形態2>
以下では、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、実施形態2に係る電力センサ4は三相交流電源に接続される平衡負荷の消費電力を測定可能に構成された電力センサであり、実施形態1に係る電力センサ1と多くの構成を共通にしている。このため、本実施形態については、実施形態1と同様の構成、処理については同一の符号を付し、改めての説明は省略する。
【0099】
図18Aは本実施形態に係る電力センサ4の概略を示す概略図である。また、
図18Bは、電力センサ4の機能構成を示すブロック図である。
図18Bに示すように、本実施形態に係る電力センサ4は、電力センサ1とは異なり、2つ目のセンサヘッド41が第2電流検出部を備えない構成となっている。即ち、センサヘッド41は取り付けられる電線の電位のみを検出するように構成されている。センサヘッド41はセンサヘッド20aと概ね同様の構造となっているため詳細な説明は省略するが、電流センサ素子を備えない点においてセンサヘッド20aとは異なっている。
【0100】
このため、センサ部420は第1電位検出部201と、第1電流検出部202と、第2電位検出部203とを備える構成となっている。また、制御部400における第3電流算出部402は、後述するように、電力センサ1の第3電流算出部102とは異なる方法により、第3電流を算出する。また、消費電力決定部406も電力センサ1の消費電力決定部106とは異なる方法により、負荷の消費電力を決定する。その他の構成や実行する処理、外部機器との連携についてなどは実施形態1に係る電力センサ1と同様であるので説明は省略する。
【0101】
次に、本実施形態に係る電力センサ4がどのようにして負荷の消費電力を測定するのかを説明する。
図19Aは本実施形態係る電力センサ4を三相交流回路に取り付けた状態を示すモデル図である。本実施形態ではセンサヘッド20aをR相に係る電線に取り付けるとともにセンサヘッド41をT相に係る電線に取り付け、線間電圧V
RT、R相の相電流I
Rを取得する。なお、線間電圧V
RTは、第1電位検出部201、第2電位検出部203が検出した値に基づいて、線間電圧算出部101が算出する。
【0102】
三相交流電源に接続される平衡負荷に流れる各相の電流は互いに120度ずつ位相がずれた値となっている。即ち、1つの相電流を検出したうえで、その値から120度位相を移すことにより、他の相電流の値を求めることができる。本実施形態では線間電圧算出部101が一組の線間電圧を算出してその位相を60度移した第2線間電圧を算出するとと
もに、第3電流算出部402が、検出された1つの相電流の値の位相を120度移した第3電流を算出する。
図19Bに当該事項を図式化したベクトル図を示す。
図19Bでは、線間電圧V
RTから+60度位相を移して線間電圧V
STを算出し、相電流I
Rから+120度位相を移して相電流I
Sを算出する例を示している。
【0103】
既に述べたように、線間電圧VRT、線間電圧VST、相電流IR、相電流IS、の値が得られれば、(疑似的な)二電力計法を用いて、接続されている負荷の消費電力を算出することができる。次式(12)にそれを示す。なお、Eは線間電圧の絶対値(即ち、E=|VRT|=|VST|)であり、Iは相電流の絶対値(即ち、I=|IR|=|IS|)である。
【0104】
【0105】
また、取得された第1線間電圧(V
RT)、並びに第1電流(I
R)の信号の流れを
図20に示す。
【0106】
このような方法によれば、センサヘッド20a、センサヘッド41がそれぞれ目標とする相に取り付けられている場合には、確実に負荷の消費電力を測定することができる。そのため、センサヘッド20a、センサヘッド41のそれぞれをいずれの相の電線に取り付けるかを決めておき、取り付け時にユーザーが取り付け目標の相を認識できるようにしておくことが望ましい。或いは、いずれの相の電線にセンサヘッド20a、センサヘッド41を取り付けたのかを設定する(記憶部14に記憶し、制御部400がそれを参照して演算を行う)ことでも、負荷の力率に関わらず消費電力を正確に測定することができる。
【0107】
ただし、センサヘッド20a、センサヘッド41が、いずれの相に係る電線に取り付けられたのか不明な場合であっても、負荷の力率が一定の範囲内であれば、電力センサ4により負荷の消費電力を測定することができる。
図19Bに示すように、本実施形態において、第2線間電圧(V
ST)を算出するために第1線間電圧(V
RT)から相を移す方向と、第3電流(I
S)を算出するために第1電流(I
R)から相を移す方向とは同一方向である。このため、
図21に示すような信号の処理を行い、W
aかW
bのいずれかを選択することで、消費電力を決定することができる。
【0108】
ここで、
図21に示すように、V
RTを+の方向に60度移相させて第2線間電圧を求め、I
Rを+の方向に120度移相させて第3電流を求めたうえでこれらの積でW2を求めた場合をW
2aとする。また、V
RTを-の方向に60度移相させて第2線間電圧を求め、I
Rを-の方向に120度移相させて第3電流を求めたうえでこれらの積でW
2を求めた場合をW
2bとする。そして、第1線間電圧と第1電流の積で求めた電力W
1とW
2aの和をW
aとし、W
1とW
2bの和をW
bとする。なお、W
2aは第1仮電力算出部104が算出し、W
2bは第2仮電力算出部105が算出する。
【0109】
そして、センサヘッド20aとセンサヘッド41の電線への取り付けが、順である場合には、W
2aはV
STとI
Sの積によって求められるものとなるため、W
aは上記式(12)のWと同一となる(W=W
a)。一方、W
2bは適切でない方向に位相を移してしまった場合の値となる。
図22に、適切でない方向に位相を移してしまった場合のベクトル図を示す。
図22を参照して、適切でない方向に位相を移してしまった際のW
bは次式(13)のようになる。
【0110】
【0111】
ここで、WaはWと同一であることから、上記式(12)及び(13)によると-90°<θ<30°の範囲では、Wa>Wbとなる。即ち、WaとWbのうち値の大きい方を選択すると、消費電力を正しく決定できることになる。しかしながら、θが30度を超えるような力率が著しく悪い負荷では、WbがWaよりも大きい値となるため、WaとWbのうち値の大きい方を選択することによっては、消費電力を正しく決定することはできない。
【0112】
なお、センサヘッド20aとセンサヘッド41の電線への取り付けが順である場合は上記のとおりであるが、センサヘッド20aとセンサヘッド41の電線への取り付けが逆である場合についても対応する必要がある。センサヘッド20aとセンサヘッド41の電線への取り付けが逆である場合においては、次式(14)により消費電力Wを求めることができる。
【0113】
【0114】
図23A及び
図23Bは、センサヘッド20aとセンサヘッド41が逆に取り付けられた状態を示すベクトル図である。
図23Aに示すように、センサヘッド20aとセンサヘッド41が逆に取り付けられた場合には、第1線間電圧V
RTは、順に取り付けた場合の線間電圧V
STと同じベクトルになる。このため、W
1との和で正しく消費電力Wを算出するためには、第2線間電圧がV
RSとなるように、また第3電流がI
Sとなるように、V
RT及びI
Rの位相を-の方向に移す必要がある。即ち、W
1との和で正しく消費電力を算出することができるのはW
2bということになる。このため、センサヘッド20aとセンサヘッド41が逆に取り付けられた場合には、W
bが上記式(14)のWと等しくなる。
【0115】
一方、
図23Bに示すように、センサヘッド20aとセンサヘッド41が逆に取り付けられたうえで、第1線間電圧及び第1電流の位相を適切でない方向(即ち、+の方向)に移して求めた第2線間電圧及び第3電流の積(即ちW
2a)とW
1との和(W
a)を求める場合には次式(15)のようになる。
【0116】
【0117】
ここで、WbはWと同一であることから、上記式(14)及び(15)によると-30
°<θ<90°の範囲では、Wb>Waとなる。即ち、WaとWbのうち値の大きい方を選択すると、消費電力を正しく決定できることになる。しかしながら、θが-30度を下回るような力率が著しく悪い負荷では、WaがWbよりも大きい値となるため、WaとWbのうち値の大きい方を選択することによっては、消費電力を正しく決定することはできない。
【0118】
以上のことから、本実施形態に係る電力センサ4では、負荷が平衡負荷であって、かつ負荷の力率が-30°<θ<30°の範囲内にある場合においては、センサヘッド20a、センサヘッド41が、いずれの相に係る電線に取り付けられたのか不明な場合であっても
図21に示す処理に基づいて、W
aとW
bのうち値の大きい方を選択することで消費電力を測定することができる。
【0119】
(本実施形態の効果)
このような本実施形態によれば、三相交流電源に接続される負荷の消費電力測定において、三相のうちの二相に係る電線に電位センサを設置し、三相のうちの一相に係る電線に電流センサを設置することで、負荷の消費電力を測定することができる。このため、電線に取り付けるセンサの数を削減し、電力センサの低コスト化に寄与することができる。
【0120】
<その他>
上記各実施形態の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。例えば、上記実施形態1の各変形例に係る構成を、上記実施形態2に適用することも可能である。
【0121】
また、上記実施形態1において、第2線間電圧を決定する処理(ステップS101~ステップS109)は、一旦第2線間電圧を求めるために位相を移す方向が確定した後は何度も実行する必要はない。そのため、電力センサ1を設置する際の初回設定時において実行し、第2線間電圧を求めるために正負いずれの方向に位相を移すのかを決定できれば、後はその情報を設定値として記憶部14に保存し、これを参照することで第2線間電圧を求めるようにすることができる。
【0122】
また、上記各実施形態では、計測プローブを二つとする構成であったが、このような構成に限られない。具体的には、第1電位検出部、第1電流検出部、第2電位検出部、第2電流検出部、がそれぞれ別体の計測プローブとなっている構成であっても構わない。
【0123】
また、上記各実施形態では、本体に表示部、操作部などを備えずに外部の情報処理装置を入出力I/Fとする構成であったが、必ずしもこのようにする必要はなく、本体に例えばLEDなどの表示部を設けるようにしてもよい。また、操作部についても操作スイッチなどを設けるように指定もよい。なお、表示部を設けた場合には、通常の稼働時には表示部への電力供給を制限することで、消費電力を節約するようにしてもよい。
【0124】
また、上記各実施形態における、三相のうちの各相と第1、第2、第3との関係(R相=第1、T相=第2、S相=第3)はあくまで一例に過ぎず、対応関係は任意であってよい。
【符号の説明】
【0125】
1、4・・・電力センサ
10、40・・・本体部
20、20a、20b、41・・・センサヘッド
21・・・ベース部
21a、21b・・・ベース部材
22・・・電位検出電極
23・・・FPC
24・・・電流センサ素子
25・・・電界シールド
26・・・絶縁シール
27・・・磁界シールド
28・・・カバー部材
29・・・ヒンジ部
G・・・隙間部
AX・・・軸
W1・・・第1電力
W2a・・・第1仮電力
W2b・・・第2仮電力