IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 江端 美和の特許一覧

特開2024-22405不正縫目防止機能を有する本縫いミシン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022405
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】不正縫目防止機能を有する本縫いミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 57/14 20060101AFI20240208BHJP
   D05B 63/00 20060101ALI20240208BHJP
   D05B 55/14 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
D05B57/14 A
D05B63/00
D05B55/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022131359
(22)【出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】520116078
【氏名又は名称】江端 美和
(72)【発明者】
【氏名】江端 美和
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CB03
3B150CB25
3B150CB27
3B150CD06
3B150CD07
3B150CE01
3B150CE23
3B150DB02
3B150DB03
3B150DB08
3B150DF08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不正縫目の発生を防止し、縫合性能の格段の向上、縫製品の品質を飛躍的に向上させること。
【解決手段】本縫いミシンにおいて、針5が縫製物を抜ける位相から針の上死点位相までの間で針が駆動方向に直角の平面上で任意の角度回転し、針が縫製物にほぼ刺さる位相から針の下死点位相までの間に、逆方向に回転し元の針の姿勢位置に復帰する。
【選択図】図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本縫いミシンにおいて、針が縫製物を抜ける位相から針の上死点位相までの間で針が駆動方向に直角の平面上で任意の角度回転し、針が縫製物にほぼ刺さる位相から針の下死点位相までの間に、逆方向に回転し元の針の姿勢位置に復帰することを特徴とする針回転機能を有する本縫いミシン
【請求項2】
本縫いミシンにおいて、針が布を貫通し下死点に到達するまでの間、前の縫い目からボビンまでつながる下糸の糸道を変更する下糸さばき片部材を有する下糸糸道変更機能を有する本縫いミシン
【請求項3】
本縫いミシンにおいて、針と前の縫い目の相対位置により請求項1の機能と、請求項2の機能が選択切り替えられ作動する機能を有する本縫いミシン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
縫製機械の構造、及び縫製技術に関する技術である。
【発明の概要】
【本発明が解決しようとする課題】
【0002】
従来、縫製品の品質を大きく左右する縫合品質に悪影響を与える図1に示す不正縫目(ヒッチステッチ)は「連続的に発生せずたまに発生する現象で、縫い糸がたるんだ時に糸が暴れ、制御できない糸の暴れが縫い目に影響を与えるため、予測できなくかつ制御できない突発的な現象」として、容認せざるを得なく、一定長さに何個以内という評価基準として品質管理している。なお、正常縫い目(パーフェクトステッチ)を図2に示す。
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は不正縫目の発生メカニズムを理論的に解析し、不正縫目が発生する縫製条件において、上下糸の糸道(糸の経路)を変更、制御し不正縫目の発生を防止する。
【発明の効果】
【0004】
図1に示す不正縫目(ヒッチステッチ)は、図2に示す正常縫い目(パーフェクトステッチ)と比べ上糸1が下糸2に半回転巻き付いている。不正縫目の発生は、縫合性能において「縫い目の張力バランスを狂わせる」「糸切れの原因になる」「縫い目間の糸の相互供給に影響する」「縫い目間の糸量がばらつく」等、縫合力にばらつきを及ぼしたり、ステッチラインの乱れを発生させ、時には縫い糸切れを起こす原因になる等、縫製品の品質を著しく低下させる。
【0005】
従来のミシンでは、不正縫目(ヒッチステッチ)は「制御できない突発的な現象」として容認せざるを得なかったが、本発明は不正縫目の発生メカニズムを解明し、それを基に不正縫目の発生を防止する方法を確立し、縫合性能の格段の向上、ひいては縫製品の品質を飛躍的に向上させる。
【発明の詳細な説明】
【0006】
不正縫目の発生メカニズムの説明をする。
【0007】
本縫いミシンにおける釜3の配置は、釜剣先4の駆動方向が縫い方向(布の送り方向)に平行に配置された側面釜タイプ図3と、釜剣先4の方向が縫い方向(布の送り方向)に直角に配置された正面釜タイプ図4に分類される。
【0008】
また、釜3には釜剣先4の機能により、釜剣先4が下糸2を格納したボビン7ととともに上糸ループ8を潜り抜けるシャトルタイプ釜と、釜剣先4はボビン7が上糸ループ8を潜り抜けるのを補助するだけで、上糸ループ8を潜り抜けないフックタイプ釜に分類される。
【0009】
側面釜タイプ、正面釜タイプ、あるいはシャトルタイプ釜、フックタイプ釜ともに、縫い目形成過程における上糸1、下糸2の挙動はほぼ同じであるので、側面釜タイプでシャトルタイプ釜にて縫い目形成過程(正常縫い目)を、正面釜タイプでシャトルタイプ釜にて不正縫目の発生メカニズムの説明をする。
【0010】
図5から図8までは縫い目形成過程(正常縫い目)を示し、図8のAは縫い目となる上下糸の絡みを拡大している。
【0011】
図9から図12までは不正縫目形成過程を示し、図12のBは縫い目となる上下糸の絡みを拡大している。
【0012】
両縫い目形成過程の説明図から、ボビン7から前の縫い目9につながる下糸2の右側を針5(針糸ループ)が通過すると正常縫い目(パーフェクトステッチ)、左側を通過すると不正縫目(ヒッチステッチ)となることがわかる。
【0013】
以上の縫い目形成過程で説明できない不正縫目(ヒッチステッチ)がある。それは正面釜タイプの返し縫いで不正縫目が多発することである。正面釜タイプの返し縫いでは、針5が前の縫い目9から針の糸孔6につながる上糸1の右側を通過すると正常縫い目(パーフェクトステッチ)、左側を通過すると不正縫目(ヒッチステッチ)となる。この不正縫目を通常「上糸ヒッチ」と呼んでいる。正面釜タイプの返し縫いでの上下糸の絡みの解説図を、図13に正常縫い目を、図14に不正縫目を示す。
【0014】
以上2通りの不正縫目(ヒッチステッチ)は異なる現象の様に見えるが、本発明の基礎となる不正縫目の発生メカニズムの解析は、両不正縫目とも不正縫目の発生メカニズムが同じであり、それは、前の縫い目9からボビン7につながる下糸2の経路と、前の縫い目9から針の糸孔6につながる上糸1の経路により決定されることを解明した。
【0015】
図15は正常縫い目(パーフェクトステッチ)の解説図で針5の上から見た針5及び針の糸孔6の状態と上糸1、下糸2の経路を示し、針5は布を貫通している状態を示す。IからVは前の縫い目9の位置である。Iの位置は正面釜の正方向縫いの前の縫い目9の位置、針落ちは下糸2の右側に位置している。この状態で前の縫い目9の位置を上下糸が針5を横切らない様に左回転してゆくと、IIは側面釜の正方向縫いの位置(図5の位置)、IIIは正面釜の返し縫いの前の縫い目9の位置、針5は上糸1の右側を通過している。IVは側面釜の返し縫いの前の縫い目9の位置、上糸1は図16の様に針5に巻き付いている。Vはジグザグ縫いやサイクルミシンで発生する前の縫い目9の位置。この位置での正常縫い目(パーフェクトステッチ)は、Iを右回転した図17でも得られる。
【0016】
図18は不正縫い目(ヒッチステッチ)の解説図で針5の上から見た針5及び針の糸孔6の状態と上糸1、下糸2の経路を示し、針5は布を貫通している状態を示す。IからVは前の縫い目9の位置である。Iの位置は正面釜の正方向縫いの前の縫い目9の位置、針落ちは下糸2の左側に位置している。この状態で前の縫い目9の位置を上下糸が針5を横切らない様に右回転してゆくとVはジグザグ縫いやサイクルミシンで発生する前の縫い目9の位置、IVは側面釜の返し縫いの前の縫い目9の位置、上糸1は図19に示す様に針の糸孔6から前の縫い目9の位置まで直線的につながっている。IIIは正面釜の返し縫いの前の縫い目9の位置、針5は上糸1の左側を通過している。IIは側面釜の正方向縫いの前の縫い目9の位置。
【0017】
ここで、疑問となるのは側面釜の返し縫いでは、ヒッチステッチの発生頻度が正面釜の返し縫いに比べ少ないことである。針の糸孔6から前の縫い目9につながる上糸経路は図15のIVより図18のIVの方が自然である。この現象は、針5の下降によりたるんだ上糸1が、糸の撚りにより左側に倒れる挙動を示し、その現象が、上糸1が針5に巻き付く結果となり図15のIVに示す糸道経路になる。
【0018】
それではなぜ正面釜ではヒッチステッチが発生するのか。これは針の糸孔6の向きと天秤の駆動平面との関係による。針の下降による上糸1のたるみは天秤の下降により上糸1をたるませることと同時に発生する。これら上糸1のたるみは、糸取りばねにより吸収されるのだが、天秤の駆動平面と平行に針の糸孔6が向いている正面釜タイプは、針5の下降による糸のたるみは抵抗なく糸取りばねに吸収されるが、側面釜の針の糸孔6は天秤の駆動平面と直角に向いているのでわずかな抵抗により天秤のたるませた上糸1のたるみより遅れて吸収されるため、その間、針の糸孔6から前の縫い目9につながる上糸1のたるみが正面釜より大きく、たるみの倒れが発生する為である。
【0019】
このように不正縫目の発生は、前の縫い目9からボビン7につながる下糸2の経路と、前の縫い目9から針の糸孔6につながる上糸1の経路により決定される。
【0020】
本発明は、不正縫目発生の可能性のある前の縫い目9の位置となる縫製条件で、上糸1、下糸2の経路を正常縫い目となる経路にする機能を考案したものである。
【0021】
一番目の機能は、上糸ループ8が釜剣先4に捕捉されるように向いている針の糸孔6を、針5が上昇し布を抜けた後、図20に示す様に、針の糸孔6から前の縫い目9の位置につながる上糸1が自然な状態になるよう針5を回転し、針5が下降し再び布を貫通してから針棒下死点までの間に、針5を逆回転し上糸ループ8が釜剣先4に捕捉される適正位置(回転させる前の位置)に戻すことにより不正縫目を防止する。すなわち、針5を回転することにより上糸1を針5に巻き付け図15のVの状態を作り出すのである。これが〔請求項1〕の機能である。
【0022】
二番目の機能は、「ボビン7から前の縫い目9につながる下糸2の右側を針5(針糸ループ)が通過すると正常縫い目(パーフェクトステッチ)、左側を通過すると不正縫目(ヒッチステッチ)となる」ことから、図21の様に下糸さばき片部材10を針5の布通過時に作動させボビン7から前の縫い目9につながる下糸2の経路を変え、針5にこの変えた下糸経路の「右側」を通過させることにより不正縫目を防止する。すなわち、図17の状態を作り出すのである。これが〔請求項2〕の機能である。
【0023】
図21において、図5から図12までの縫い目形成説明図では表記されていない釜の下糸出口11が表記されているが、実際には各タイプの釜では釜の下糸出口11が下糸の糸道として設置されており、各釜タイプにより針5と釜の下糸出口11の相関関係位置はバラバラであり、総じて図13以降の図で示されているように、釜の下糸出口11は針5の手前、左方向に位置している。図5から図12までの縫い目形成説明図で釜の下糸出口11を標記しなかったのは、釜の下糸出口11を経由した下糸2の経路が縫い目形成の説明には影響しないことから、簡略化して説明を解り易くしたためである。実際の釜に設置されている一例を図22に示す。
【0024】
また図21では、下糸さばき片部材10の動作及び形状が針5の通過により、また通過した針5との干渉が危惧されるが、「ボビン7から前の縫い目9につながる下糸2の右側を針5(針糸ループ)が通過すると正常縫い目(パーフェクトステッチ)」の説明は、これまでの解説から「ボビン7から前の縫い目9につながる下糸2が針5(針糸ループ)の裏側を通過すると正常縫い目(パーフェクトステッチ)」とも言え、針の上方から見た図23に示す様に、下糸さばき片部材10が下糸さばき片部材11の移動方向矢印13から矢印14の方向に移動することにより回避できる。
【0025】
下糸さばき片部材10の運動軌跡及び形状は、釜のタイプ及び釜の下糸出口11の位置により変わってくるが、いずれも本発明の範疇にあり本説明では表記しない。
【0026】
一番目の機能、二番目の機能ともに単独でヒッチステッチを防止できるが、前の縫い目9の位置によっては糸道経路すなわち上糸1あるいは下糸2に無理な負荷を与え縫合品質に悪影響を与える可能性を秘めている。それは、前の縫い目9の位置と針の糸孔6の向きとの相関関係、角度に起因する。このことから、針の糸孔6に対する前の縫い目9の位置の角度により、一番目の機能と、二番目の機能とを切り替えて稼働させることにより、よりよい縫合品質を得ることができる。これが〔請求項3〕の機能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】は不正縫目(ヒッチステッチ)の図
図2】は正常縫い目(パーフェクトステッチ)の図
図3】は側面釜タイプ釜の概念図
図4】は正面釜タイプ釜の概念図
図5】は縫い目形成過程(正常縫い目)の説明図(1)
図6】は縫い目形成過程(正常縫い目)の説明図(2)
図7】は縫い目形成過程(正常縫い目)の説明図(3)
図8】は縫い目形成過程(正常縫い目)の説明図(4)、Aは縫い目となる上下糸の絡みを拡大している。
図9】は不正縫目形成過程の説明図(1)
図10】は不正縫目形成過程の説明図(2)
図11】は不正縫目形成過程の説明図(3)
図12】は不正縫目形成過程の説明図(4)、Bは縫い目となる上下糸の絡みを拡大している。
図13】は正面釜タイプの返し縫いでの正常縫い目の上下糸の絡みの解説図
図14】は正面釜タイプの返し縫いでの不正縫い目の上下糸の絡みの解説図
図15】は正常縫い目(パーフェクトステッチ)の解説図(1)
図16】は図15のIVでの針5と上糸1の状態の説明図
図17】は正常縫い目(パーフェクトステッチ)の解説図(2)
図18】は不正縫い目(ヒッチステッチ)の解説図
図19】は図18のIVでの針5と上糸1の状態の説明図
図20】は正常縫い目(パーフェクトステッチ)を得るために針を回転した解説図
図21】は下糸さばき片部材10が作動した状態説明図
図22】は釜の下糸出口11が実際の釜に設置されている一例
図23】は下糸さばき片部材10の作動説明図
【符号の説明】
【0028】
1・・・上糸、2・・・下糸、2´・・・糸さばき片部材10が作動していない時の下糸、3・・・釜、4・・・釜剣先、5・・・針、5´・・・ジグザグ縫い中位置の針、5”・・・ジグザグ縫い左位置の針、6・・・針の糸孔、7・・・ボビン、8・・・上糸ループ、9・・・前の縫い目、10・・・下糸さばき片部材、11・・・釜の下糸出口、12・・・針板の糸穴、13・・・糸さばき片部材の移動方向、14・・・糸さばき片部材の移動方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23