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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022432
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/34 20120101AFI20240208BHJP
   F16H 48/22 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F16H48/34
F16H48/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206719
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2022124025
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】長岡 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】矢口 裕
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA34
3J027FB02
3J027HB07
3J027HF02
3J027HF44
3J027HH02
3J027HH08
3J027HK02
3J027HK03
3J027HK33
3J027HK34
(57)【要約】
【課題】車両の勾配状態における車両の発進安定性を向上することができるデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】入力部材11と、一対の出力部材17,19とを有する差動機構3と、差動機構3の差動を制限するクラッチ5と、クラッチ5を作動させるアクチュエータ7と、アクチュエータ7と電気的に接続され、アクチュエータ7の締結量を制御すべくアクチュエータ7の作動を制御する制御部とを備えたデファレンシャル装置1において、制御部が、車両の停止状態を判定する第1判定部と、車両が停止している状態で車両の勾配状態を判定する第2判定部とを有し、第2判定部で判定された勾配状態に基づき、アクチュエータ7の作動を制御するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され前記入力部材から伝達される前記入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構と、
前記差動機構の差動を制限するクラッチと、
前記クラッチを作動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータと電気的に接続され、前記アクチュエータの締結量を制御すべく前記アクチュエータの作動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、車両の停止状態を判定する第1判定部と、車両が停止している状態で車両の勾配状態を判定する第2判定部とを有し、前記第2判定部で判定された勾配状態に基づき、前記アクチュエータの作動を制御するデファレンシャル装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記入力トルクと、前記一対の出力部材におけるトルク比とに基づき、前記アクチュエータの作動を制御する第1制御を基本制御とし、
前記第2判定部で判定された勾配状態に基づいて前記アクチュエータの作動を制御する制御は、前記第1制御に付加された第2制御である請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
車両の前記勾配状態は、車両の前方への傾斜と、車両の後方への傾斜とを有し、
前記制御部は、前記第2判定部において、少なくとも車両の後方への傾斜の勾配状態を判定したときに、前記アクチュエータの作動を制御する請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項4】
前記第1判定部は、ブレーキ、アクセル、車軸、車輪、駆動源、トランスミッションのうち少なくともいずれか1つに配置されたセンサの検出値によって車両の停止状態を判定する請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項5】
前記第2判定部は、車両に配置された加速度センサの検出値によって車両の勾配状態を判定する請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項6】
前記制御部は、車両の発進時から所定時間、又は所定速度に達するまで、前記第2判定部で判定された勾配状態に基づき、前記アクチュエータの作動を制御する請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第2判定部での勾配状態の判定後から所定時間、又は所定速度に達するまで、前記アクチュエータの作動を制御する請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第2判定部に基づく制御を行うか否かを判定する第3判定部を有する請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【請求項9】
前記第3判定部は、車両に配置されたアクセルが作動するときに、前記第2判定部に基づく制御を許可する請求項8に記載のデファレンシャル装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第3判定部の判定を早める第4判定部を有する請求項8に記載のデファレンシャル装置。
【請求項11】
前記第4判定部は、車両に配置されたブレーキとパーキングブレーキとのうち少なくともいずれか一方が作動しつつ、車両に配置されたアクセルが作動するときに、前記第3判定部の判定を早める請求項10に記載のデファレンシャル装置。
【請求項12】
前記第4判定部は、車両に配置されたブレーキの作動が解除されたときに、前記第3判定部の判定を早める請求項10に記載のデファレンシャル装置。
【請求項13】
前記アクセルは、運転者が駆動を意図して操作する機構と、車両に搭載されたコントローラが自ずから駆動を指示する信号とのうちいずれかである請求項9に記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デファレンシャル装置としては、回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され入力部材から伝達される入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構を備えている。また、差動機構の差動を制限するクラッチと、クラッチを作動させるアクチュエータと、アクチュエータと電気的に接続され、アクチュエータの締結量を制御すべくアクチュエータの作動を制御する制御部とを備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このデファレンシャル装置では、アクチュエータを作動させ、クラッチを締結させることにより、差動機構の差動を制限し、一対の出力部材から分配されるトルクを制御し、車両の直進安定性を保持している。このようなデファレンシャル装置において、制御部は、予め定められた基準差動制限力を、車速に応じて補正し、補正された差動制限力となるように、アクチュエータの作動を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-215432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のデファレンシャル装置では、車両の走行時において、制御部が、車速に応じて、アクチュエータの作動を制御している。このため、車両の走行時であれば、車両の状況に応じて、制御部が、アクチュエータの作動を正確に制御することができる。
【0006】
ところで、車両は、停車時において、例えば、路面が上り傾斜であれば、後方が傾斜した状態の勾配状態となる。車両の勾配状態から車両が発進しようとすると、左右の車輪間に高差回転が発生することがあった。しかしながら、上記特許文献1のようなデファレンシャル装置を搭載した車両では、車両の走行時以外である車両の発進時において、制御部が、アクチュエータの作動を正確に制御することができなかった。
【0007】
そこで、この発明は、車両の勾配状態における車両の発進安定性を向上することができるデファレンシャル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係るデファレンシャル装置は、回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材と、相対回転可能に配置され前記入力部材から伝達される前記入力トルクを分配する一対の出力部材とを有する差動機構と、前記差動機構の差動を制限するクラッチと、前記クラッチを作動させるアクチュエータと、前記アクチュエータと電気的に接続され、前記アクチュエータの締結量を制御すべく前記アクチュエータの作動を制御する制御部とを備え、前記制御部は、車両の停止状態を判定する第1判定部と、車両が停止している状態で車両の勾配状態を判定する第2判定部とを有し、前記第2判定部で判定された勾配状態に基づき、前記アクチュエータの作動を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両の勾配状態における車両の発進安定性を向上することができるデファレンシャル装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るデファレンシャル装置の断面図である。
図2】第1実施形態に係るデファレンシャル装置の制御部のブロック図である。
図3】第1実施形態に係るデファレンシャル装置の制御部が行う第2制御のフローチャートである。
図4】第2実施形態に係るデファレンシャル装置の制御部のブロック図である。
図5】第2実施形態に係るデファレンシャル装置の勾配、車速、アクセル、ブレーキ、アクチュエータのタイミングチャートである。
図6】第2実施形態に係るデファレンシャル装置の制御部が運転者が操作する車両で行うフローチャートである。
図7】第2実施形態に係るデファレンシャル装置の制御部が自動運転の車両で行うフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本実施形態に係るデファレンシャル装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0012】
(第1実施形態)
図1図3を用いて第1実施形態について説明する。
【0013】
図1図2に示すように、本実施形態に係るデファレンシャル装置1は、例えば、エンジンや電動モータなどの駆動源(不図示)と、左右の駆動輪(不図示)との間に配置されている。駆動源からの駆動力は、トランスミッション(不図示)を介してデファレンシャル装置1に伝達され、一対の出力軸(不図示)を介して左右の駆動輪に駆動力が配分される。デファレンシャル装置1は、差動機構3と、クラッチ5と、アクチュエータ7と、制御部9とを備えている。
【0014】
差動機構3は、入力部材としてのデフケース11と、ピニオンシャフト13と、ピニオン15と、一対の出力部材としてのサイドギヤ17,19とを備えている。
【0015】
デフケース11は、軸方向両側に形成されたボス部21,23のそれぞれの外周でベアリング(不図示)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。デフケース11には、リングギヤ(不図示)が固定されるフランジ部25が形成されている。
【0016】
フランジ部25に固定されたリングギヤは、例えば、駆動源から駆動力を伝達する動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が入力されてデフケース11を回転駆動させる。デフケース11には、ピニオンシャフト13と、ピニオン15と、一対のサイドギヤ17,19などが収容されている。
【0017】
ピニオンシャフト13は、1本の長尺のピニオンシャフトと、2本の短尺のピニオンシャフトとを有する。長尺のピニオンシャフトは、両端部がデフケース11に形成された孔部に係合されて抜け止めされ、デフケース11と一体に回転駆動される。短尺のピニオンシャフトは、一端部が長尺のピニオンシャフトの中間に形成された孔部に係合され、他端部がデフケース11に形成された孔部に係合されて抜け止めされ、デフケース11と一体に回転駆動される。ピニオンシャフト13の外端部側には、ピニオン15がそれぞれ支承されている。
【0018】
ピニオン15は、デフケース11の周方向等間隔に複数(ここでは4つ)配置されている。複数のピニオン15は、それぞれピニオンシャフト13の端部側に支承されてデフケース11の回転によって公転する。ピニオン15は、噛み合っている一対のサイドギヤ17,19に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト13に自転可能に支持されている。ピニオン15は、デフケース11に入力された駆動力を一対のサイドギヤ17,19に伝達する。
【0019】
一対のサイドギヤ17,19は、デフケース11内に相対回転可能に収容されている。一対のサイドギヤ17,19は、それぞれピニオン15と噛み合っている。一対のサイドギヤ17,19の内周側には、一対のサイドギヤ17,19に伝達された駆動力を出力する出力部27,29が設けられている。出力部27,29には、例えば、左右の駆動輪に一体回転可能に連結された一対の出力軸(不図示)が一体回転可能に連結される。
【0020】
このような差動機構3は、駆動源からの入力トルクがデフケース11に入力される。デフケース11に入力された入力トルクは、ピニオン15を介して一対のサイドギヤ17,19に伝達される。一対のサイドギヤ17,19に伝達された入力トルクは、左右の駆動輪に分配して出力される。差動機構3における差動は、クラッチ5によって制限される。
【0021】
クラッチ5は、デフケース11と一方のサイドギヤ19との径方向間に配置されている。クラッチ5は、複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とを備えた多板クラッチとなっている。
【0022】
複数の外側クラッチ板は、デフケース11の内周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でデフケース11と一体回転可能に係合されている。複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、サイドギヤ19のボス部の外周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でサイドギヤ19と一体回転可能に係合されている。
【0023】
クラッチ5は、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の複数のクラッチ板からなる摩擦クラッチとなっている。クラッチ5は、締結量に応じて、デフケース11とサイドギヤ19とを接続し、差動機構3における差動を制限する。差動機構3の差動を摩擦的に制限する機構を有するデファレンシャル装置1は、リミテッドスリップデファレンシャル(LSD)と称される。クラッチ5は、アクチュエータ7によって軸方向に押圧されて締結される。
【0024】
アクチュエータ7は、カム機構31と、押圧部材33と、電動モータ(不図示)とを備えている。カム機構31は、移動部材35と、回転部材37と、カムボール(不図示)とを備えている。
【0025】
移動部材35は、環状に形成され、デフケース11のボス部23の外周に配置されている。移動部材35は、静止系部材に対して回り止めされ、軸方向移動可能に配置されている。移動部材35には、回転部材37と軸方向に対向する対向面に、カム面が周方向に複数形成されている。
【0026】
回転部材37は、環状に形成され、デフケース11のボス部23の外周に移動部材35と隣接して配置されている。回転部材37は、ベアリングを介して回転可能に配置され、ベアリングによって軸方向外側への移動が規制されている。回転部材37の外周には、ギヤ部39が形成されている。回転部材37には、移動部材35と軸方向に対向する対向面に、移動部材35と同一傾斜のカム面が周方向に複数形成されている。
【0027】
カムボールは、移動部材35と回転部材37との軸方向間に配置された環状の保持部材41に回転可能に複数保持されている。複数のカムボールは、移動部材35と回転部材37とのカム面間に介在される。カムボールは、回転部材37の回転によって、移動部材35と回転部材37との間に相対的な差回転が生じることにより、移動部材35をクラッチ5側へ軸方向移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0028】
押圧部材33は、環状に形成され、デフケース11のボス部23の外周にスラストベアリングを介して移動部材35と隣接して配置されている。押圧部材33は、移動部材35の軸方向移動により、軸方向移動可能に配置されている。押圧部材33には、デフケース11に形成された複数の孔(不図示)を挿通し、クラッチ5を押圧する複数の押圧部(不図示)が設けられている。
【0029】
押圧部材33は、カム機構31で生じるカムスラスト力によって、クラッチ5側に軸方向移動され、押圧部を介してクラッチ5を押圧し、クラッチ5を締結させる。なお、押圧部材33とデフケース11との軸方向間には、押圧部材33をクラッチ5の締結解除方向に付勢するリターンスプリングが配置されている。
【0030】
電動モータは、静止系部材に固定されている。電動モータは、例えば、モータ軸が、減速機構(不図示)を介して回転部材37と接続されている。電動モータは、モータ軸の回転により、減速機構を介して回転部材37を回転させる。回転部材37の回転により、カム機構31でカムスラスト力が発生される。
【0031】
このようなアクチュエータ7では、電動モータのモータ軸の回転位置や回転速度を制御することによって、的確なクラッチ5の断続状態を得ることができる。アクチュエータ7における電動モータへの通電は、制御部9によって制御される。
【0032】
制御部9は、アクチュエータ7の電動モータと電気的に接続され、電動モータへの通電を制御する。制御部9は、例えば、駆動源からの入力トルクを検出するトルクセンサ、車両の勾配状態を検出する加速度センサ、ブレーキの状況を検出するブレーキセンサの情報が受信可能となっている。なお、加速度センサから車両の勾配状態を検出してもよいが、車両の傾きを示すハイトセンサのようなものであってもよい。加えて、GPSの高度情報、地図情報から推測する道路情報、カメラ画像からAIが学習した値などを用いて、車両の勾配状態を検出してもよい。
【0033】
制御部9は、上述した各種センサの他に、例えば、アクセルの状況を検出するアクセルセンサ、車軸や車輪の回転を検出する回転センサ、駆動源やトランスミッションの状況を検出する駆動センサ、車速センサの情報が受信可能となっている。なお、車速センサから直接車速を検知してもよいが、前後左右車輪に設けられた回転センサが検知した回転に基づいて車速を演算してもよい。
【0034】
制御部9は、上述した各種センサの他に、例えば、グリップ限界センサ、左右輪差回転センサ、車両の横傾斜状況を検出する横傾斜センサ、車両の横加速度を検出する横加速度センサなどの情報が受信可能となっている。加えて、制御部9は、上述した各種センサの他に、例えば、加減速フィールセンサ、操舵角センサ、前後輪差回転センサ、ヨーモーメントセンサ、油温センサ、外気温センサなどの情報が受信可能となっている。
【0035】
このような各種センサの情報を受信可能である制御部9は、必要なセンサ情報を選択して算出、演算又は記録チャートとの対比が可能であり、車両に搭載された各機構に制御情報を出力して各機構の作動を制御する。
【0036】
ここで、従来の制御部では、例えば、車速センサ、左右輪差回転センサ、ヨーモーメントセンサなど、様々なセンサの情報に基づき、アクチュエータ7の作動を制御していた。従来の制御部では、様々な状況に応じて、差動機構3の差動制限を行うので、運転者は高い運転技術を有していなくても、走行が困難な路面において、車両を走行させることができる。
【0037】
しかしながら、高い運転技術を有する、或いは熟練の運転者では、様々な状況に応じて差動機構3の差動制限を行う従来の制御部が介在すると、意図しない動作で車両が予期せぬ挙動を示し、車両を思い通りに走行することができないことがあった。このような運転者には、アクチュエータ7と制御部を有さない機械式LSDの方が挙動を感覚的に把握し易いので好まれる。このため、従来の制御部を有する電子制御LSDであっても、機械式LSDのような挙動を示す車両が望まれていた。
【0038】
一方、車両は、停車時において、例えば、路面が上り傾斜であれば、後方が傾斜した状態の勾配状態となる。従来の電子制御LSD、或いは機械式LSDを搭載した車両では、勾配状態から車両が発進しようとすると、左右の車輪間に高差回転が発生することがあった。従来の電子制御LSDでは、基本的に、車両の走行時における様々な状況に応じて、アクチュエータ7の作動を制御し、差動機構3の差動制限を行っている。このため、従来の電子制御LSDでは、車両の走行時以外である車両の勾配状態からの発進時において、制御部が機能せず、差動機構3の差動制限を行えない状況があった。
【0039】
そこで、制御部9は、メイン制御部43と、サブ制御部45とを備えている。制御部9は、メイン制御部43において、機械式LSDに近似した制御を行う基本制御である第1制御と、サブ制御部45において、車両の勾配状態に対する制御を行って、第1制御に付加する第2制御とを有する。
【0040】
ここで、機械式LSDにおける差動制限特性は、一対のサイドギヤ17,19のトルク比(トルクバイアスレシオ:TBR)によって評価される。TBRは、低回転側のトルクと、高回転側のトルクとの比で表される。目標とするTBRとなるように必要なクラッチ5のロック率は、(TBR-1)/(TBR+1)の式によって求められる。機械式LSDでは、入力トルクがTであって、クラッチ5のロック率がCであるときのクラッチ5のクラッチトルクは、T×Cの式によって求めることができる。
【0041】
そこで、メイン制御部43は、機械式LSDの差動制限特性を有するように、アクチュエータ7の作動を制御する。メイン制御部43は、トルクセンサから駆動源からの入力トルクの検出値が入力される。メイン制御部43には、入力トルクに対する一対のサイドギヤ17,19のトルク比(TBR)が記憶されている。
【0042】
メイン制御部43は、入力トルクから選択されたTBRに応じて、クラッチ5におけるロック率を算出する。メイン制御部43は、入力トルクと算出されたロック率とからクラッチ5におけるクラッチトルクを算出する。メイン制御部43は、算出されたクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7における電動モータへの通電を制御し、クラッチ5の締結量を制御する。メイン制御部43によるクラッチ5のクラッチトルクの制御により、所望のTBRを有する機械式LSDと近似する差動制限特性を得ることができる。
【0043】
ここで、機械式LSDでは、一方の駆動輪が空転したときに、高回転側(空転側)のトルクが0となることを防止するために、クラッチ5に予圧を付与して、クラッチ5にイニシャルトルクを生じさせることがある。そこで、メイン制御部43には、クラッチ5に予圧が付与されている場合、クラッチ5で生じるイニシャルトルクが記憶されている。メイン制御部43は、算出されたクラッチトルクにイニシャルトルクを加えて補正し、補正されたクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7における電動モータへの通電を制御する。
【0044】
メイン制御部43には、入力トルクに対する一対のサイドギヤ17,19の複数種類のトルク比(TBR)が記憶されていてもよい。メイン制御部43が複数種類のTBRを有することにより、複数種類の機械式LSDと近似する差動制限特性を得ることができる。このため、車両の走行状況に合わせて、複数種類の差動制限特性から最適な差動制限特性を選択することで、車両の走行安定性を向上することができる。なお、差動制限特性の選択は、メイン制御部43が自動的に選択してもよいし、運転者が選択できるようにしてもよい。
【0045】
メイン制御部43には、クラッチ5が最大の締結量となるときの最大クラッチトルクが記憶されている。メイン制御部43は、算出されたクラッチトルクと最大クラッチトルクとを比較し、小さい値のクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する。クラッチ5の最大クラッチトルクを設定することにより、過大な電流を電動モータに通電することがなく、アクチュエータ7を保護することができる。
【0046】
このようなメイン制御部43では、クラッチ5のクラッチトルクを、機械式LSDの差動制限特性に近似するように制御するので、高い運転技術を有する、或いは熟練の運転者が好む車両の走行状態とすることができる。加えて、メイン制御部43は、入力トルクに基づいてアクチュエータ7の作動を制御するので、複雑なセンサ情報の入力や各種センサ情報に基づく制御を必要としない。このため、従来のデファレンシャル装置に、容易にメイン制御部43を組み込むことができ、互換性を向上することができる。
【0047】
なお、メイン制御部43は、車両の加速と減速とを検出するセンサからの情報が入力されるようにしてもよい。この場合には、メイン制御部43に、車両が加速しているときのTBRと、車両が減速しているときのTBRとが記憶されている。メイン制御部43は、車両の加減速に合わせて、それぞれのTBRとなるように、クラッチ5のクラッチトルクを算出する。メイン制御部43は、算出されたクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する。このため、車両の加減速に合わせて、差動制限特性を変更することで、さらに車両の走行安定性を向上することができる。
【0048】
加えて、メイン制御部43は、全てのセンサ情報が入力されるようにしてもよい。この場合には、メイン制御部43に、各種センサ情報に基づく、クラッチ5のクラッチトルクが記憶されている。メイン制御部43は、車両の状況に合わせて、決定されたクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する。このため、車両の状況に合わせて、電子制御LSDと同じ制御をすることで、高い運転技術を有しない運転者であっても、車両の走行安定性を向上することができる。なお、このような制御は、運転者が選択できるようにしてもよく、メイン制御部43と異なる制御部が付加的に行ってもよい。
【0049】
サブ制御部45は、車両の発進時において、車両の勾配状態に対するアクチュエータ7の作動を制御する。サブ制御部45が行う制御は、メイン制御部43が行う第1制御に付加される補助的な第2制御となっている。サブ制御部45は、第1判定部47と、第2判定部49とを備えている。
【0050】
第1判定部47は、ブレーキセンサ、アクセルセンサ、回転センサ、駆動センサ、車速センサなど、車両の停車に関するセンサの検出値が入力される。第1判定部47は、各種センサの検出値から車両が停車しているか否かを判定する。なお、第1判定部47には、少なくとも車両の停車に関する1つのセンサの検出値が入力されればよい。
【0051】
第2判定部49は、加速度センサの検出値が入力される。第2判定部49には、加速度=重力加速度×sinθの式から車両が勾配状態であるか否かを判定する。加えて、第2判定部49は、車両が勾配状態であるとき、車両の前方への傾斜(下り坂上)か、車両の後方への傾斜(上り坂上)かを判定する。なお、第2判定部49は、上述したような他の車両の勾配状態を検出するセンサなどから検出値を入力されてもよい。
【0052】
サブ制御部45には、クラッチ5のクラッチトルクに対して、車両の勾配状態に対する補正値が記憶されている。車両の勾配状態に対する補正値は、車両の後方への傾斜に対する補正値となっている。なお、車両の前方への傾斜状態(下り坂上にいる状態)では、左右の車輪間に高差回転が発生することがほぼないが、サブ制御部45に、車両の前方への傾斜に対する補正値を記憶してもよい。加えて、補正値は、勾配の大きさに対応可能なように、傾斜角度に対して複数有していてもよい。
【0053】
サブ制御部45は、第1判定部47で車両が停車状態であると判定され、第2判定部49で車両が後方へ傾斜した勾配状態であると判定したとき、補正値をメイン制御部43に送信する。メイン制御部43は、算出されたクラッチトルクを補正値で補正し、補正されたクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する。このため、車両の勾配状態における発進時において、左右の車輪間に高差回転が発生することがなく、車両の発進安定性を向上することができる。
【0054】
サブ制御部45による制御は、各種センサから入力される情報に基づき、車両の発進時から所定時間経過するまで、或いは車両が所定の所定車速に達するまで行われる。サブ制御部45による制御を車両が走行するまで継続することにより、車両の走行安定性を向上することができる。同様に、第2判定部49での勾配状態の判定後からサブ制御部45による制御を開始することもでき、所定時間経過するまで、或いは車両が所定の所定車速に達するまで行われる。
【0055】
このようなサブ制御部45による制御(登坂アシスト)は、図3に示すように、まず、第1判定部47において、車両が停車状態であるか否かを判定する(S1)。次に、車両が停車状態である場合、車両が勾配状態(登坂状態)であるか否かを判定する(S2)。次に、車両が勾配状態である場合、補正値で補正したクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する(S3)。次に、車両が発進時から、或いは勾配状態の判定後から、所定時間経過した(解除条件)か、或いは車両が所定車速に達した(解除条件)か否かを判定する(S4)。そして、解除条件を満たした場合、サブ制御部45による制御を終了する(S5)。なお、S4の起点となる「発進時から」については、S2における勾配状態であることの判定後から車両が発進する状態までの間で設定された所定の時点である。
【0056】
このようなデファレンシャル装置1では、差動機構3を備えている。差動機構3は、回転可能に配置され入力トルクが入力される入力部材としてのデフケース11と、相対回転可能に配置されデフケース11から伝達される入力トルクを分配する一対の出力部材としてのサイドギヤ17,19とを有する。また、デファレンシャル装置1は、差動機構3の差動を制限するクラッチ5と、クラッチ5を作動させるアクチュエータ7とを備えている。さらに、デファレンシャル装置1は、アクチュエータ7と電気的に接続され、アクチュエータ7の締結量を制御すべくアクチュエータ7の作動を制御する制御部9を備えている。そして、制御部9は、車両の停止状態を判定する第1判定部47と、車両が停止している状態で車両の勾配状態を判定する第2判定部49とを有し、第2判定部49で判定された勾配状態に基づき、アクチュエータ7の作動を制御する。
【0057】
このため、制御部9は、車両が停止している状態で、車両の勾配状態に基づいて、アクチュエータ7の作動を制御するので、車両の勾配状態における発進時において、左右の車輪間に高差回転が発生することがない。
【0058】
従って、このようなデファレンシャル装置1では、車両の勾配状態における車両の発進安定性を向上することができる。
【0059】
また、制御部9は、入力トルクと、一対のサイドギヤ17,19におけるトルク比とに基づき、アクチュエータ7の作動を制御する第1制御を基本制御とする。そして、第2判定部49で判定された勾配状態に基づいてアクチュエータ7の作動を制御する制御は、第1制御に付加された第2制御である。
【0060】
このため、車両は、制御部9が行う第1制御によって、走行時の走行安定性を向上することができる。加えて、制御部9が行う第1制御によって、車両が機械式LSDと近似する差動制限特性を有することができる。また、車両は、制御部9が行う第2制御によって、勾配状態における発進時の発進安定性を向上することができる。
【0061】
さらに、車両の勾配状態は、車両の前方への傾斜と、車両の後方への傾斜とを有する。そして、制御部9は、第2判定部49において、少なくとも車両の後方への傾斜の勾配状態を判定したときに、アクチュエータ7の作動を制御する。
【0062】
このため、制御部9は、車両の後方への傾斜の勾配状態で、アクチュエータ7の作動を制御するので、車両の登坂状態における車両の発進安定性を向上することができる。
【0063】
また、第1判定部47は、ブレーキ、アクセル、車軸、車輪、駆動源、トランスミッションのうち少なくともいずれか1つに配置されたセンサの検出値によって車両の停止状態を判定する。
【0064】
このため、第1判定部47は、車両の停止状態を安定して判定することができ、制御部9が、車両の停止状態において、アクチュエータ7の作動を制御することができる。
【0065】
さらに、第2判定部49は、車両に配置された加速度センサの検出値によって車両の勾配状態を判定する。
【0066】
このため、車両の勾配状態を検出するために、新たなセンサなどを追加することなく、車両の勾配状態を判定することができる。
【0067】
また、制御部9は、車両の発進時から所定時間、又は所定速度に達するまで、第2判定部49で判定された勾配状態に基づき、アクチュエータ7の作動を制御する。
【0068】
このため、制御部9によって、車両の発進時から走行時まで、車両の勾配状態に基づくアクチュエータ7の作動制御が継続され、車両の走行安定性を向上することができる。
【0069】
さらに、制御部9は、第2判定部49での勾配状態の判定後から所定時間、又は所定速度に達するまで、アクチュエータ7の作動を制御する。
【0070】
このため、制御部9によって、車両の停車時から走行時まで、車両の勾配状態に基づくアクチュエータ7の作動制御が継続され、車両の走行安定性を向上することができる。
【0071】
(第2実施形態)
図4図7を用いて第2実施形態について説明する。
【0072】
本実施形態に係るデファレンシャル装置は、制御部103が、第2判定部49に基づく制御を行うか否かを判定する第3判定部105を有する。
【0073】
また、第3判定部105は、車両に配置されたアクセルが作動するときに、第2判定部49に基づく制御を許可する。
【0074】
さらに、制御部103は、第3判定部105の判定を早める第4判定部107を有する。
【0075】
また、第4判定部107は、車両に配置されたブレーキとパーキングブレーキとのうち少なくともいずれか一方が作動しつつ、車両に配置されたアクセルが作動するときに、第3判定部105の判定を早める。
【0076】
さらに、第4判定部107は、車両に配置されたブレーキの作動が解除されたときに、第3判定部105の判定を早める。
【0077】
また、アクセルは、運転者が駆動を意図して操作する機構と、車両に搭載されたコントローラが自ずから駆動を指示する信号とのうちいずれかである。
【0078】
なお、第1実施形態と同様の構成には、同様の記号を記し、機能説明は第1実施形態を参照するものとし省略するが、同様の構成であるので、得られる作用・効果は同等である。
【0079】
ここで、図2に示す制御部9では、第1判定部47で車両が停車状態であると判定され、第2判定部49で車両が勾配状態であると判定したとき、アクチュエータ7(図1参照)の作動を制御している。このため、制御部9では、アクチュエータ7への通電が必要な場合、車両が停車状態である間、常に、アクチュエータ7へ通電した状態となる。車両の停車時間が長ければ、アクチュエータ7への通電時間も長くなる。アクチュエータ7への通電時間が長くなれば、それだけバッテリなどの電源における電力消費も大きくなる。
【0080】
そこで、制御部103は、図4に示すように、サブ制御部45において、第3判定部105と、第4判定部107とを備えている。
【0081】
ここで、車両は、例えば、停車状態であるとき、運転者が、ブレーキペダルを踏む、或いはパーキングブレーキを作動させることによって、停車状態が保持される。停車状態から車両が発進するときには、運転者が、アクセルペダルを踏むことによって、車両が発進される。このため、このような車両では、アクセルが、運転者が駆動を意図して操作する機構となっている。
【0082】
一方、車両には、車両に搭載されたコントローラによって、駆動が制御されるような自動運転可能なものがある。自動運転可能な車両では、例えば、アクセル、ブレーキなどの各機構が、コントローラが発信する信号によって、その作動が制御されている。このため、このような車両では、アクセルが、コントローラが自ら駆動を指示する信号となっている。
【0083】
制御部103は、どちらの車両においても、適用可能となっている。
【0084】
第3判定部105は、第2判定部49による車両の勾配状態に基づく制御を行うか否かを判定する。第3判定部105には、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、パーキングブレーキセンサの検出値(或いは指示する信号)が入力される。第3判定部105は、アクセルセンサの検出値(或いは指示する信号)からアクセルが作動するか否かを判断し、第2判定部49による車両の勾配状態に基づく制御を行うか否かを判定する。
【0085】
第3判定部105は、アクセルが作動すると判断したとき、第2判定部49による車両の勾配状態に基づく制御を許可する。すなわち、アクチュエータ7への通電を許可する。第3判定部105は、アクセルが作動しないと判断したとき、第2判定部49による車両の勾配状態に基づく制御を不可とする。すなわち、アクチュエータ7への通電を不可とする。
【0086】
第3判定部105を有することにより、車両が第2判定部49に基づく制御を必要とする状態で停車しているときに、第2判定部49に基づく制御を行うか否かを判定することができる。すなわち、アクチュエータ7への通電を行うか否かを判定することができる。このため、ブレーキ、或いはパーキングブレーキのみが作動して、車両が停車している状態では、無駄にアクチュエータ7への通電を行うことがなく、電力消費を抑制することができる。
【0087】
ここで、第2判定部49に基づく制御を必要とする状態において、車両は、急激な傾斜の勾配状態で停車していることが主である。停車状態から車両を発進させるとき、運転者は、ブレーキペダルの踏み込みを解除し、アクセルペダルを踏み込む。このとき、車両が急激な傾斜の勾配状態であると、ブレーキの作動が解除されたときに、車両が発進方向と反対方向に向けて進むことがある。
【0088】
車両の反対方向への移動を回避するために、例えば、運転者は、左足でブレーキペダルを踏みつつ、或いはパーキングブレーキを作動させつつ、右足でアクセルペダルを踏み込むことがある。このような動作を利用することにより、第3判定部105の判定を早めることができる。そこで、制御部103は、第3判定部105の判定を早める第4判定部107を有している。
【0089】
第4判定部107には、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、パーキングブレーキセンサの検出値(或いは指示する信号)が入力される。第4判定部107は、ブレーキセンサとパーキングブレーキセンサとのうち少なくともいずれか一方の検出値(或いは指示する信号)からブレーキ、或いはパーキングブレーキが作動しているか否かを判断する。このとき、同期して、第4判定部107は、アクセルセンサの検出値(或いは指示する信号)からアクセルが作動するか否かを判断する。第4判定部107は、ブレーキ、或いはパーキングブレーキが作動しつつ、アクセルが作動するときに、第3判定部105の判定を早める。
【0090】
第4判定部107を有することにより、車両が第2判定部49に基づく制御を必要とする状態で停車しているときに、第3判定部105の判定を早めることができる。すなわち、アクチュエータ7への通電を行うか否かの判定を早めることができる。このため、アクチュエータ7への通電を的確なタイミングで行うことができ、車両が発進する瞬間に、左右の車輪間に高差回転が発生することがなく、車両の発進安定性を向上することができる。
【0091】
ここで、第4判定部107は、ブレーキの作動が解除されたときに、第3判定部105の判定を早めてもよい。第2判定部49に基づく制御を必要とする状態において、運転者は、ブレーキペダルを踏み込んでブレーキを作動させて車両を停車させている。車両が発進するとき、運転者は、ブレーキペダルの踏み込みを解除し、アクセルペダルを踏み込む。すなわち、ブレーキの作動が解除されたときには、運転者が、車両を発進させることを意図している。そこで、第4判定部107が、ブレーキの作動が解除されたときに、第3判定部105の判定を早めることにより、アクチュエータ7への通電を的確なタイミングで行うことができる。なお、第4判定部107は、パーキングブレーキが作動されているときに、ブレーキの作動が解除された場合、第3判定部105の判定を早めることがない。すなわち、車両の停車状態が保持されているときに、ブレーキペダルの踏み込みを解除しても、アクチュエータ7に通電されることがない。
【0092】
第4判定部107は、自動運転可能な車両で自動運転となっている場合、運転者の操作に基づく判断ではなく、コントローラが各機構の作動を指示する信号で判断する。このため、車両が自動運転となっている場合には、第3判定部105の判定、すなわち、アクチュエータ7への通電をより的確に制御することができる。自動運転可能な車両では、車両が第2判定部49に基づく制御を必要とする状態で停車しているときに、前もって車両がどのタイミングで発進するかを把握している。このため、車両が発進する寸前に、アクチュエータ7へ通電することができ、無駄な電力消費をすることなく、左右の車輪間における高差回転の発生を防止することができる。
【0093】
このような制御部103によるアクチュエータ7への通電タイミングを、勾配、車速、アクセル、ブレーキのタイミングと合わせて、図5に示す。なお、図5におけるアクチュエータの点線は、制御部103を有しておらず、車両が停車したときからアクチュエータ7に通電した場合のタイミングである。図5から明らかなように、制御部103を有することにより、車両が停車している間、無駄にアクチュエータ7へ通電することがなく、車両が発進するタイミングで的確にアクチュエータ7へ通電することができる。
【0094】
このような制御部103における制御(登坂アシスト)を、図6図7のフローチャートに示す。なお、図6のフローチャートは、運転者が操作する車両の場合の制御であり、図7のフローチャートは、自動運転となっている車両の場合の制御である。
【0095】
図6に示すように、運転者が操作する車両において、制御部103は、まず、第1判定部47において、車両が停車状態であるか否かを判定する(S11)。次に、車両が停車状態である場合、第2判定部49において、車両が勾配状態(登坂状態)であるか否かを判定する(S12)。次に、第3判定部105において、運転者がアクセルペダルを踏み、アクセルを作動する(発進操作有)か否かを判定する(S13)。次に、第4判定部107において、運転者がブレーキペダルを踏み、ブレーキを作動しつつ、或いはパーキングブレーキを作動しつつ、アクセルを作動する(アシスト条件)か否かを判定する(S14)。なお、S14では、第4判定部107において、運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除してブレーキの作動を解除し、アクセルを作動する(アシスト条件)か否かを判定してもよい。次に、車両が勾配状態である場合、補正値で補正したクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する(S15)。次に、車両が発進時から、或いは勾配状態の判定後から、所定時間経過した(解除条件)か、或いは車両が所定車速に達した(解除条件)か否かを判定する(S16)。そして、解除条件を満たした場合、制御部103による制御を終了する(S17)。
【0096】
図7に示すように、自動運転となっている車両において、制御部103は、まず、第1判定部47において、車両が停車状態であるか否かを判定する(S21)。次に、車両が停車状態である場合、第2判定部49において、車両が勾配状態(登坂状態)であるか否かを判定する(S22)。次に、第3判定部105において、コントローラがアクセルを作動させる信号を出す(アシスト要)か否かを判定する(S23)。次に、第4判定部107において、コントローラがブレーキを作動させる信号を出しつつ、アクセルを作動させる信号を出す(アシスト条件)か否かを判定する(S24)。なお、自動運転では、ブレーキの作動解除と、アクセルの作動とを時間差なく行うことができるので、第4判定部107において、コントローラがアクセルを作動させる信号を出す寸前のタイミングのみを判定する。次に、車両が勾配状態である場合、補正値で補正したクラッチトルクとなるように、アクチュエータ7の作動を制御する(S25)。次に、車両が発進時から、或いは勾配状態の判定後から、所定時間経過した(解除条件)か、或いは車両が所定車速に達した(解除条件)か否かを判定する(S26)。そして、解除条件を満たした場合、制御部103による制御を終了する(S27)。
【0097】
このようなデファレンシャル装置では、制御部103が、第2判定部49に基づく制御を行うか否かを判定する第3判定部105を有する。
【0098】
このため、第3判定部105において、第2判定部49に基づく制御を行う必要がないと判定した場合、アクチュエータ7に通電することがなく、無駄な電力消費を回避することができる。
【0099】
また、第3判定部105は、車両に配置されたアクセルが作動するときに、第2判定部49に基づく制御を許可する。
【0100】
このため、第2判定部49に基づく制御が必要で、車両が発進するとき、第2判定部49に基づく制御により、左右の車輪間に高差回転が発生することがない。
【0101】
さらに、制御部103は、第3判定部105の判定を早める第4判定部107を有する。
【0102】
このため、第3判定部105の判定が早まることで、第2判定部49に基づく制御のタイミングが的確となり、アクチュエータ7への通電タイミングを的確に行うことができる。
【0103】
また、第4判定部107は、車両に配置されたブレーキとパーキングブレーキとのうち少なくともいずれか一方が作動しつつ、車両に配置されたアクセルが作動するときに、第3判定部105の判定を早める。
【0104】
このため、車両の停車状態を保持しつつ、第2判定部49に基づく制御を行うことができ、車両の走行安定性を向上することができる。
【0105】
さらに、第4判定部107は、車両に配置されたブレーキの作動が解除されたときに、第3判定部105の判定を早める。
【0106】
このため、第2判定部49に基づく制御を早めることができ、車両の走行安定性を向上することができる。
【0107】
また、アクセルは、運転者が駆動を意図して操作する機構と、車両に搭載されたコントローラが自ずから駆動を指示する信号とのうちいずれかである。
【0108】
このため、車両を運転者とコントローラとが操作するいずれの場合であっても、制御部103の制御により、無駄な電力消費を回避することができる。
【0109】
なお、第3判定部105は、アクセルの作動の可否によって、第2判定部49に基づく制御を行うか否かを判定しているが、これに限るものではない。例えば、車両によっては、カメラ、GPS、地図情報、レーダー情報などから経路情報を取得することができる。このため、例えば、予め設定された経路で、第2判定部49に基づく制御を行っても走破することができない箇所がある場合には、第3判定部105が、第2判定部49に基づく制御を不可とすると判定してもよい。このような場合には、例えば、運転者に対して、走破が難しい箇所があることを警告し、進行を続行するか否かを確認する、或いは危険な箇所を回避した新たな経路を示すようにすればよい。加えて、天候や災害などによって、第2判定部49に基づく制御を行っても走破することができない箇所がある場合にも、第3判定部105が、第2判定部49に基づく制御を行うか否かを判定してもよい。このような判定を行う第3判定部105を自動運転に適用した場合には、コントローラが、危険な箇所を避けるように経路を設定すればよい。
【0110】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0111】
例えば、クラッチは、多板クラッチとなっているが、これに限らず、コーンクラッチなどの摩擦クラッチであってもよく、差動制限力を発生できるクラッチであれば、どのようなクラッチであってもよい。
【0112】
また、アクチュエータは、電動モータ式アクチュエータとなっているが、これに限らず、電磁式アクチュエータ、油圧式アクチュエータなどであってもよく、通電によって作動するアクチュエータであれば、どのようなアクチュエータであってもよい。
【0113】
さらに、本実施形態に係るデファレンシャル装置は、内燃機関を動力源とする車両、バッテリ蓄電電力による電動モータを動力源とする車両、或いはこれらの動力源を組み合わせたタイプの車両のいずれに搭載されてもよい。加えて、その他総輪駆動車両の主駆動輪側のデファレンシャル装置のみならず、副駆動輪側のデファレンシャル装置へ適用されてもよい。
【符号の説明】
【0114】
1 デファレンシャル装置
3 差動機構
5 クラッチ
7 アクチュエータ
9,103 制御部
11 デフケース(入力部材)
17,19 サイドギヤ(出力部材)
47 第1判定部
49 第2判定部
105 第3判定部
107 第4判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7