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特開2024-22443カーボンナノチューブ水分散液および電磁波ノイズ抑制シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022443
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ水分散液および電磁波ノイズ抑制シート
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20240208BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C01B32/174
H05K9/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023011098
(22)【出願日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2022125765
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241810
【氏名又は名称】北越コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】田村 篤
(72)【発明者】
【氏名】福島 彰太
【テーマコード(参考)】
4G146
5E321
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AD40
4G146BA04
4G146CB09
4G146CB10
4G146DA07
5E321AA23
5E321BB21
5E321BB23
5E321BB34
5E321CC16
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】カーボンナノチューブの含有量が大きくて分散性が良く、かつ基材との密着性が高い塗工層を作製できるカーボンナノチューブ水分散液を提供する。
【解決手段】本発明に係るカーボンナノチューブ水分散液は、カーボンナノチューブと、水と、カーボンナノチューブを前記水に分散させる分散剤と、を含み、カーボンナノチューブの含有量は、2.0質量%以上であり、分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、
水と、
前記カーボンナノチューブを前記水に分散させる分散剤と、
を含み、
前記カーボンナノチューブの含有量は、2.0質量%以上であり、
前記分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である、カーボンナノチューブ水分散液。
【請求項2】
前記分散剤は、ポリアクリル酸である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項3】
前記分散剤の含有量は、0.4質量%以上である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項4】
前記分散剤の含有量は、1.0質量%以上である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項5】
前記分散剤の含有量は、6.0質量%以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項6】
前記分散剤の重量平均分子量は、200000以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブのメジアン径は、1.0μm以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項8】
B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmの条件で測定した粘度は、300cps以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項9】
基材に塗工される、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ水分散液。
【請求項10】
基材と、
前記基材に設けられ、カーボンナノチューブおよび重合体を含む層と、
を含み、
前記層において、前記カーボンナノチューブの質量に対する前記重合体の質量の比は、1/10以上5以下であり、
前記重合体は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む、電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項11】
前記重合体は、ポリアクリル酸である、請求項10に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項12】
前記比は、1/5以上である、請求項10または11に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項13】
前記比は、1/2以上である、請求項10または11に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項14】
前記比は、3以下である、請求項10または11に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項15】
前記重合体の重量平均分子量は、200000以下である、請求項10または11に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【請求項16】
前記カーボンナノチューブのメジアン径は、1.0μm以下である、請求項10または11に記載の電磁波ノイズ抑制シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ水分散液および電磁波ノイズ抑制シートに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、一様な平面のグラフェンシートを筒状に巻いたような構造を有している。カーボンナノチューブは、このような独特の構造を有するため、様々な特性を有している。そのため、カーボンナノチューブは、広範な分野において応用が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1には、カーボンナノチューブ集合体と分散媒の混合物を加圧して複数の細管流路に送り込み、上記混合物を衝突、合流させてカーボンナノチューブ分散液を製造する方法が記載されている。特許文献1には、カーボンナノチューブ集合体の濃度は、0.01質量%から1質量%が好ましいことが記載されている。また、特許文献1には、カーボンナノチューブの分散剤として、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-230951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなカーボンナノチューブ水分散液では、カーボンナノチューブの含有量を大きくすることが望まれている。カーボンナノチューブの含有量を大きくすることにより、例えば電磁波ノイズ抑制性能などのカーボンナノチューブ特有の性能を高めることができる。しかしながら、カーボンナノチューブの含有量を大きくすると、カーボンナノチューブの分散性が悪くなる。
【0006】
さらに、上記のようなカーボンナノチューブ水分散液を基材に塗工して、塗工層と基材とを含む電磁波ノイズ抑制シートを作製した場合、塗工層と基材との密着性が高いことが望まれている。電磁波ノイズ抑制シートは、壁や天井など様々なところで用いられるため、十分な密着性が必要となる。
【0007】
本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、カーボンナノチューブの含有量が大きくて分散性が良く、かつ基材との密着性が高い塗工層を作製できるカーボンナノチューブ水分散液を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、カーボンナノチューブの含有量が大きくて分散性が良く、かつ塗工層と基材との密着性が高い電磁波ノイズ抑制シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカーボンナノチューブ水分散液の一態様は、
カーボンナノチューブと、
水と、
前記カーボンナノチューブを前記水に分散させる分散剤と、
を含み、
前記カーボンナノチューブの含有量は、2.0質量%以上であり、
前記分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体
に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である。
【0009】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
前記分散剤は、ポリアクリル酸であってもよい。
【0010】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
前記分散剤の含有量は、0.4質量%以上であってもよい。
【0011】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
前記分散剤の含有量は、1.0質量%以上であってもよい。
【0012】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
前記分散剤の含有量は、6.0質量%以下であってもよい。
【0013】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
前記分散剤の重量平均分子量は、200000以下であってもよい。
【0014】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
前記カーボンナノチューブのメジアン径は、1.0μm以下であってもよい。
【0015】
前記カーボンナノチューブ水分散液の一態様において、
B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmの条件で測定した粘度は、300cps以下であってもよい。
【0016】
前記カーボンナノチューブ水分散液のいずれかの態様において、
基材に塗工されてもよい。
【0017】
本発明に係る電磁波ノイズ抑制シートの一態様は、
基材と、
前記基材に設けられ、カーボンナノチューブおよび重合体を含む層と、
を含み、
前記層において、前記カーボンナノチューブの質量に対する前記重合体の質量の比は、1/10以上5以下であり、
前記重合体は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む。
【0018】
前記電磁波ノイズ抑制シートの一態様において、
前記重合体は、ポリアクリル酸であってもよい。
【0019】
前記電磁波ノイズ抑制シートのいずれかの態様において、
前記比は、1/5以上であってもよい。
【0020】
前記電磁波ノイズ抑制シートのいずれかの態様において、
前記比は、1/2以上であってもよい。
【0021】
前記電磁波ノイズ抑制シートのいずれかの態様において、
前記比は、3以下であってもよい。
【0022】
前記電磁波ノイズ抑制シートのいずれかの態様において、
前記重合体の重量平均分子量は、200000以下であってもよい。
【0023】
前記電磁波ノイズ抑制シートのいずれかの態様において、
前記カーボンナノチューブのメジアン径は、1.0μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るカーボンナノチューブ水分散液は、カーボンナノチューブと、水と、カーボンナノチューブを水に分散させる分散剤と、を含む。カーボンナノチューブの含有量は、2.0質量%以上である。分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である。
【0025】
そのため、本発明に係るカーボンナノチューブ水分散液では、カーボンナノチューブの含有量が大きくて分散性が良く、かつ基材との密着性が高い塗工層を作製できる。
【0026】
本発明に係る電磁波ノイズ抑制シートは、基材と、基材に設けられ、カーボンナノチューブおよび重合体を含む層と、を含む。層において、カーボンナノチューブの質量に対する重合体の質量の比は、1/10以上5以下である。重合体は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む。
【0027】
そのため、本発明に係る電磁波ノイズ抑制シートでは、カーボンナノチューブの含有量が大きくて分散性が良く、かつ塗工層と基材との密着性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本実施形態に係るカーボンナノチューブ水分散液の製造方法を説明するためのフローチャート。
図2】本実施形態に係る電磁波ノイズ抑制シートを模式的に示す断面図。
図3】本実施形態に係る電磁波ノイズ抑制シートの製造方法を説明するためのフローチャート。
図4】実施例1~14および比較例1~9のカーボンナノチューブ水分散液の作製条件および実験結果を示す表。
図5】実施例1,5~9および比較例5~7のメジアン径を示すグラフ。
図6】実施例1,5~9および比較例5~7の粘度を示すグラフ。
図7】実施例1~4および比較例5,8,9のメジアン径を示すグラフ。
図8】実施例1~4および比較例5,8,9の粘度を示すグラフ。
図9】実施例1,13,14および比較例1~5のメジアン径を示すグラフ。
図10】実施例1,13,14および比較例1~5の粘度を示すグラフ。
図11】実施例1~14および比較例1~9の実験結果を示す表。
図12】セロピック試験の評価基準A、B、Cに該当する電磁波ノイズ抑制シートの写真。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0030】
1. カーボンナノチューブ水分散液
1.1. 成分
まず、本実施形態に係るカーボンナノチューブ水分散液について説明する。本実施形態に係るカーボンナノチューブ水分散液は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも
いう)と、分散剤と、水と、を含む。以下、各成分について説明する。
【0031】
1.1.1. カーボンナノチューブ(CNT)
本実施形態に係るCNT水分散液に含まれるCNTとしては、炭素によって作られる1枚の六員環ネットワーク(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube)、複数のグラフェンシートが同心円状に巻かれた多層カーボンナノチューブ(MWNT:multi-walled carbon nanotube)が挙げられる。CNT水分散液は、SWNTおよびMWNTのうち一方のみを含んでいてもよいし、両方を含んでいてもよい。CNTの両端は、閉じられていてもよいし、開かれていてもよい。
【0032】
CNTは、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などによって作製される。CNTは、これらの方法によって、所定のサイズに作製される。
【0033】
CNTの直径は、例えば、1nm以上100nm以下であり、好ましくは5nm以上50nm以下であり、より好ましくは8nm以上15nm以下である。CNTの直径が1nm以上100nm以下であれば、CNTの分散性を向上できる。CNTの直径は、SEM(Scanning Electron Microscope)によって測定される。
【0034】
CNTの繊維長は、例えば、0.5μm以上50μm以下であり、好ましくは15μm以上35μm以下である。CNTの繊維長が0.5μm以上50μm以下であれば、CNTの分散性を向上できる。CNTの繊維長は、SEMによって測定される。なお、「CNTの繊維長」とは、CNTがファンデルワールス力によって束(バンドル)となっている状態での長さであり、溶媒に分散される前のCNTの長さである。
【0035】
CNTのBET比表面積は、例えば、50m/g以上500m/g以下であり、好ましくは100m/g以上300m/g以下である。CNTのBET比表面積が50m/g以上500m/g以下であれば、CNTの分散性を向上できる。なお、「BET比表面積」とは、BET(Brunauer Emmett Teller)法で測定された比表面積のことである。BET比表面積は、自動比表面積測定装置によって測定される。
【0036】
CNT水分散液において、CNTの含有量は、2.0質量%以上であり、好ましくは2.5質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上である。CNTの含有量が2.5質量%以上であれば、電磁波ノイズ抑制性能などのCNT特有の性能を高めることができる。
【0037】
CNT水分散液において、CNTの含有量は、例えば、20.0質量%以下であり、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下である。CNTの含有量が20.0質量%以下であれば、CNTの分散性を向上できる。CNTの含有量は、熱重量分析(TGA:thermal gravimetric analysis)によって測定される。
【0038】
1.1.2. 分散剤
本実施形態に係るCNT水分散液において、分散剤は、CNTを溶媒である水に分散させる。本実施形態に係るCNT水分散液に含まれる分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である。分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を、90質量%以上、好ましくは95質量%以上含む重合体である。
【0039】
分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位を含み、スルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位を含まない重合体であってもよい。分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位で構成された重合体であってもよい。分散剤は、ポリアクリル酸であってもよい。
【0040】
分散剤は、スルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位を含み、アクリル酸に由来する繰り返し単位を含まない重合体であってもよい。分散剤は、スルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位で構成された重合体であってもよい。スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、スルホブチル(メタ)アクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシ-3-アクリルアミドプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。分散剤は、ポリスチレンスルホン酸であってもよい。
【0041】
分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位と、スルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位と、の両方を含む重合体であってもよい。分散剤は、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体、アクリル酸とスチレンスルホン酸との共重合体であってもよい。
【0042】
分散剤の重量平均分子量は、例えば、5000以上1000000以下であり、好ましくは6000以上800000以下であり、より好ましくは7000以上200000以下である。分散剤の重量平均分子量が5000以上であれば、分散剤がCNTに絡みつき易く、CNTの分散性を向上できる。ただし、重量平均分子量が大きすぎると逆に分散性が悪化するので、分散剤の分子量は、1000000以下であることが好ましい。なお、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量のことをいう。
【0043】
CNT水分散液において、分散剤の含有量は、例えば、0.4質量%以上10.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以上8.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上6.0質量%以下である。分散剤の含有量が0.4質量%以上10.0質量%以下であれば、CNTの分散性を向上できる。分散剤の含有量は、熱重量分析によって測定される。
【0044】
CNT水分散液において、CNTの質量MCNTに対する分散剤の質量MDISPの比MDISP/MCNTは、1/10以上5以下(CNT:分散剤=10:1~1:5)であり、好ましくは1/5以上4以下(CNT:分散剤=5:1~1:4)であり、より好ましくは1/3以上3以下(CNT:分散剤=3:1~1:3)であり、さらにより好ましくは1/2以上1以下(CNT:分散剤=2:1~1:1)である。比MDISP/MCNTが1/10以上であれば、電磁波ノイズ抑制性能などのCNT特有の性能を高めることができる。比MDISP/MCNTが5以下であれば、CNTの分散性を向上できる。
【0045】
1.1.3. 水
本実施形態に係るCNT水分散液は、溶媒として水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、および蒸留水等の純水、ならびに超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。CNT水分散液は、溶媒として水を用いるため、溶媒として有機溶媒を用いる場合に比べて、環境に優しい。CNT水分散液は、CNT、分散剤、および水のみを含んでいてもよい。すなわち、CNT水分散液は、CNT、分散剤、および水のみから構成されていてもよい。
【0046】
1.1.4. その他の添加剤
本実施形態に係るCNT水分散液は、必要に応じて、さらに、保存剤、pH調整剤、着色剤、消泡剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0047】
1.2. 物性
1.2.1. 分散性
CNT水分散液において、CNTの分散性が良いほど、CNTの体積基準の体積平均粒子径(メジアン径)は、小さくなる。CNTのメジアン径は、CNTの粒子をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径である。メジアン径は、「d50」とも呼ばれる。
【0048】
本実施形態に係るCNT水分散液において、CNTのメジアン径は、例えば、30.0μm以下であり、好ましくは15.0μm以下であり、より好ましくは10.0μm以下であり、さらにより好ましくは5.0μm以下であり、さらによりいっそう好ましくは1.0μm以下である。
【0049】
CNTのメジアン径が30.0μm以下であれば、CNTの分散性を向上できる。CNTのメジアン径は、例えば、0.1μm以上である。メジアン径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置によって測定される。
【0050】
1.2.2. 粘度
本実施形態に係るCNT水分散液において、B型粘度計を用いて、25℃、回転数60rpmの条件で測定した粘度は、例えば、1000cps以下であり、好ましくは500cps以下であり、より好ましくは300cps以下であり、さらにより好ましくは100cps以下である。以下、「B型粘度計を用いて、25℃、回転数60rpmの条件で測定した粘度」を、単に「粘度」ともいう。なお、1cps=1mPa・sである。
【0051】
CNT水分散液の粘度が1000cps以下であれば、CNT水分散液を容易に塗工できる。さらに、CNT水分散液を均一性よく塗工できる。
【0052】
CNT水分散液の粘度は、例えば、10cps以上であり、好ましくは20cps以上である。CNT水分散液の粘度が10cps以上であれば、より容易にCNT水分散液を塗工できる。
【0053】
1.2.3. pH
本実施形態に係るCNT水分散液のpH(Potential Hydrogen)は、例えば、1.0以上6.0以下であり、好ましくは1.5以上5.0以下であり、より好ましくは2.0以上4.5以下である。CNT水分散液のpHが1.0以上であれば、CNT水分散液の作製に用いる器具の腐食を低減できる。「pH」とは、水素イオン指数のことである。pHは、25℃、1気圧の条件下において、市販のpHメーターを用いて測定される。
【0054】
1.3. 製造方法
1.3.1. 全体の流れ
次に、本実施形態に係るCNT水分散液の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るCNT水分散液の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0055】
本実施形態に係るCNT水分散液の製造方法は、図1に示すように、混合液を作製する混合液作製工程(ステップS11)と、混合液に含まれるCNTを分散させてCNT水分
散液を作製する分散液作製工程(ステップS12)と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0056】
1.3.2. 混合液作製工程(ステップS11)
混合液作製工程では、水に、CNTおよび分散剤を加え、CNTと、分散剤と、水と、を混合させて混合液を作製する。CNTと、分散剤と、水と、の混合は、例えば、ホモジナイザーによって行われる。ホモジナイザーは、超音波でキャビテーションを起こす超音波式であってもよいし、混合液を攪拌する攪拌式であってもよいし、混合液に圧力をかける圧力式であってもよい。ホモジナイザーによる処理を行うことによって、CNTによる凝集物を減らすことができる。これにより、後述の分散工程における水中対向衝突法をスムーズに行うことができる。
【0057】
1.3.3. 分散工程(ステップS12)
分散工程では、水中対向衝突法によって、作製された混合液に含まれるCNTを分散させてCNT水分散液を作製する。水中対向衝突法によって、CNTの分散性が良いCNT水分散液を作製できる。
【0058】
水中対向衝突法では、ノズル孔からCNTを含む混合液を高圧で吐出させてセラミックボールに衝突させ、CNTを分散させる。水中対向衝突法では、例えば、50μm以上250μm以下、好ましくは150μm以上200μm以下の径を有するノズル孔から、混合液を吐出させて、混合液をセラミックボールに衝突させる。ノズル孔の径が50μm以上であれば、粘度が高い混合液であっても、ノズル孔から吐出できる。ノズル孔の径が200μm以下であれば、混合液の衝突エネルギーを高くすることができる。
【0059】
水中対向衝突法では、例えば、150MPa以上250MPa以下、好ましくは180MPa以上220MPa以下の圧力で、混合液を吐出させる。圧力が150MPa以上であれば、混合液の衝突エネルギーを高くすることができる。圧力が250MPa以下であれば、衝突エネルギーが高すぎてCNTの繊維が切れて所望の特性が得られなくなることを抑制できる。
【0060】
具体的には、水中対向衝突法は、株式会社スギノマシン製の湿式微粒化装置「スターバーストラボ」(機種名:HJP-25005)を用いて行われる。当該湿式微粒化装置は、例えば超音波ホモジナイザーやボールミルに比べて、エネルギー密度が高く、短時間で分散性の良いCNT水分散液を作製できる。さらに、当該湿式微粒化装置は、不純物の混入を極少とすることができ、不純物の混入が極めて少ないCNT水分散液を作製できる。
【0061】
湿式微粒化装置における混合液のpass回数は、例えば、1回以上20回以下であり、好ましくは1回以上または10回以下であり、より好ましくは1回以上5回以下である。pass回数が20回以下であれば、混合液同士の衝突によってCNTの繊維が切れて所望の特性が得られなくなることを抑制できる。さらに、製造時間を短縮できる。さらに、省エネルギー化を図ることができる。
【0062】
「湿式微粒化装置における混合液のpass回数」とは、湿式微粒化装置における混合液の循環回数のことである。例えば、「pass回数が2回」とは、1度セラミックボールに衝突したCNTが、もう1度セラミックボールに衝突するように、混合液を2回循環させることを意味する。このように、pass回数は、ノズル孔から突出された混合液のセラミックボールへの衝突回数に相当する。pass回数は、湿式微粒化装置における処理時間に比例する。湿式微粒化装置における処理時間が長いと、混合液の循環回数が増える。
【0063】
以上の工程により、本実施形態に係るCNT水分散液を製造できる。
【0064】
なお、上記では、湿式微粒化装置による水中対向衝突法として、ノズル孔から吐出させた混合液を、セラミックボールに衝突させてCNTを分散させる方法について説明した。しかし、CNTを分散性良く分散できれば、その方法は、特に限定されず、例えば、2つのノズル孔を対向配置させて混合液同士を衝突させ、CNTを分散させる方法であってもよい。この場合、pass回数は、一方のノズル孔から出された混合液と、他方のノズル孔から吐出された混合液と、の衝突回数に相当する。
【0065】
1.4. 作用効果
本実施形態に係るCNT水分散液では、CNTと、水と、CNTを水に分散させる分散剤と、を含み、CNTの含有量は、2.0質量%以上であり、分散剤は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である。そのため、本実施形態に係るCNT水分散液では、後述する実験例に示すように、CNTの含有量が大きくて、分散性が良い。さらに、基材との密着性が高い塗工層を作製できる。
【0066】
本実施形態に係るCNT水分散液では、分散剤は、ポリアクリル酸であってもよい。分散剤がポリアクリル酸であれば、後述する実験例に示すように、分散剤として例えばカルボキシメチルセルロースナトリウムを用いる場合に比べて、CNT水分散液の粘度を小さくすることができる。これにより、CNT水分散液を容易に塗工できる。
【0067】
本実施形態に係るCNT水分散液では、分散剤の含有量は、0.4質量%以上であってもよい。分散剤の含有量が0.4%質量以上であれば、後述する実験例に示すように、CNTのメジアン径およびCNT水分散液の粘度を小さくすることができる。
【0068】
本実施形態に係るCNT水分散液では、分散剤の含有量は、1.0質量%以上であってもよい。分散剤の含有量が1.0%質量以上であれば、後述する実験例に示すように、湿式微粒化装置における混合液のpass回数が1回であっても、CNTのメジアン径およびCNT水分散液の粘度を小さくすることができる。
【0069】
本実施形態に係るCNT水分散液では、分散剤の含有量は、6.0質量%以下であってもよい。分散剤の含有量が6.0質量%以下であれば、後述する実験例に示すように、CNTのメジアン径およびCNT水分散液の粘度を小さくすることができる。
【0070】
本実施形態に係るCNT水分散液では、分散剤の重量平均分子量は、200000以下であってもよい。分散剤の重量平均分子量が200000以下であれば、後述する実験例に示すように、CNT水分散液の粘度を小さくすることができる。
【0071】
本実施形態に係るCNT水分散液では、CNTのメジアン径は、1.0μm以下であってもよい。CNTのメジアン径が1.0μm以下であれば、CNTの分散性の良いCNT水分散液を製造できる。
【0072】
本実施形態に係るCNT水分散液では、粘度は、300cps以下であってもよい。粘度が300cps以下であれば、CNT水分散液を、コーターを用いて容易に塗工できる。
【0073】
2. 電磁波ノイズ抑制シート
2.1. 構成
次に、本実施形態に係る電磁波ノイズ抑制シートについて、図面を参照しながら説明す
る。図2は、本実施形態に係る電磁波ノイズ抑制シート100を模式的に示す断面図である。
【0074】
電磁波ノイズ抑制シート100は、図2に示すように、基材10と、塗工層20と、を含む。電磁波ノイズ抑制シート100は、厚さに対して、厚さ方向と直交する方向の長さが十分に大きいシート状を有している。以下、各部材について、説明する。
【0075】
2.1.1. 基材
基材10は、塗工層20を支持している。基材10の形状は、例えば、シート状である。基材10は、パルプを含むシートであってもよい。基材10は、パルプのみから構成されていてもよい。
【0076】
基材10に含まれるパルプとしては、例えば、LBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)などの化学パルプ、GP(砕木パルプ)、PGW(加圧式砕木パルプ)、RMP(リファイナーメカニカルパルプ)、TMP(サーモメカニカルパルプ)、CTMP(ケミサーモメカニカルパルプ)、CMP(ケミメカニカルパルプ)、CGP(ケミグランドパルプ)などの機械パルプ、DIP(脱インキパルプ)などの木材パルプ、または、ケナフ、バガス、竹、コットンなどの非木材パルプである。基材10は、これらのパルプを1種類だけ含んでいてもよいし、2種以上を任意の割合で含んでいてもよい。さらに、基材10は、品質に支障がでない範囲で合成繊維を含んでいてもよい。
【0077】
基材10は、LBKPを含むことが好ましい。基材10におけるLBKPの含有量は、例えば、70質量%以上であり、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは100質量%である。LBKPの含有量が70質量%以上であれば、基材10の歪みを小さくすることができる。
【0078】
基材10の米坪が40g/m以下の場合、基材10は、NBKPを含むことが好ましい。基材10におけるNBKPの含有量は、例えば、30質量%以下である。NBKPの含有量が30質量%以下であれば、基材10の平滑性および強度を保つことができる。
【0079】
基材10は、パルプを含まなくてもよい。基材10は、PET(polyethylene terephthalate)フィルムなど樹脂製のフィルムであってもよい。基材10は、透光性を有していてもよい。
【0080】
基材10は、必要に応じて、填料、紙力増強剤、サイズ剤、嵩高剤、歩留り向上剤、濾水性向上剤、硫酸バンド、湿潤紙力増強剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、ピッチコントロール剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。
【0081】
2.1.2. 塗工層
塗工層20は、基材10上に設けられている。塗工層20は、基材10に塗工されている。塗工層20は、上述した本実施形態に係るCNT水分散液から作製される層である。本実施形態に係るCNT水分散液は、基材10に塗工された後に乾燥されて塗工層20となる。塗工層20は、CNTと、重合体と、を含む。塗工層20に含まれるCNTのメジアン径は、本実施形態に係るCNT水分散液に含まれるCNTのメジアン径と同じである。本実施形態に係るCNT水分散液が添加剤を含んでいる場合、塗工層20は、当該添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
塗工層20に含まれる重合体は、本実施形態に係るCNT水分散液に含まれる分散剤によって構成されている。したがって、塗工層20に含まれる重合体は、アクリル酸に由来
する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む。塗工層20に含まれる重合体は、例えば、ポリアクリル酸である。塗工層20において、CNTの質量に対する重合体の質量の比は、上述した本実施形態に係るCNT水分散液におけるCNTの質量MCNTに対する分散剤の質量MDISPの比MDISP/MCNTと同じである。
【0083】
2.1.3. その他の部材
電磁波ノイズ抑制シート100は、図示はしないが、基材10の下に設けられた粘着層を含んでいてもよい。さらに、電磁波ノイズ抑制シート100は、粘着層の下に設けられた剥離層を含んでいてもよい。そして、剥離層が粘着層から剥離され、粘着層が外部装置に接触されることにより、塗工層20は、基材10を介して、外部装置に貼り付けられてもよい。
【0084】
粘着層の材質は、例えば、天然ゴム系、合成ゴム系、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合樹脂、酢酸ビニル・エチレン共重合樹脂などである。剥離層の材質は、例えば、上質紙などの非塗工紙、一般コート紙、アート紙などの塗工紙、グラシン紙、ポリエチレンやポリエチレンテレフタレートなどを用いたフィルム、フィルムラミネート紙などである。
【0085】
電磁波ノイズ抑制シート100は、図示はしないが、塗工層20上に設けられたオーバーコート層を含んでいてもよい。オーバーコート層は、塗工層20の傷を抑制できる。さらに、オーバーコート層は、塗工層20の絶縁破壊の強度を大きくすることができる。
【0086】
オーバーコート層の材質は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレンワックス、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリイミド、熱可塑ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、シリコン系無機化合物などである。
【0087】
2.2. 物性
2.2.1. 密着性
電磁波ノイズ抑制シート100において、塗工層20と基材10との密着性は、セロピック試験によって評価される。具体的には、塗工層20の表面にセロハンテープを貼りつけ、セロハンテープに所定の圧力を加えた後、塗工層20からセロハンテープを剥がす。そして、セロハンテープが剥がされた後の塗工層20の状態を目視で確認することによって、基材10と塗工層20との密着性が評価される。
【0088】
2.2.2. 電磁波ノイズ抑制性能
電磁波ノイズ抑制シート100は、電磁波ノイズを抑制する電磁波ノイズ抑制性能を有している。電磁波ノイズ抑制性能は、マイクロストリップライン法によって伝送減衰率Rtp(dB)を測定することにより評価される。Rtpが大きいほど、電磁波ノイズ抑制性能が高い。
【0089】
電磁波ノイズ抑制性能は、塗工層20の表面抵抗率と相関がある。塗工層20の表面抵抗率が低いほど、電磁波ノイズ抑制性能は、高くなる傾向にある。塗工層20の表面抵抗率は、所定の測定器を用いて、「JIS K 7194:1994」に準拠して測定される。
【0090】
2.3. 製造方法
2.3.1. 全体の流れ
次に、本実施形態に係る電磁波ノイズ抑制シート100の製造方法について、図面を参照しながら説明する。図3は、本実施形態に係る電磁波ノイズ抑制シート100の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0091】
電磁波ノイズ抑制シート100の製造方法は、図3に示すように、基材10を形成する基材形成工程(ステップS21)と、基材10にCNT水分散液を塗工する塗工工程(ステップS22)と、塗工されたCNT水分散液を乾燥して塗工層20を形成する塗工層形成工程(ステップS23)と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0092】
2.3.2. 基材形成工程(ステップS21)
基材形成工程では、例えば、パルプを含みCNTを含まないスラリーを抄紙機で抄紙し、基材10を形成する。基材10を形成するためのスラリーは、カナダ標準ろ水度(CSF)で、例えば、200ml以上550ml以下、好ましくは250ml以上500ml以下である。CSFは、「JIS P 81821-2:2018」に記載の方法で求められる。基材10の抄紙方法は、特に限定されないが、例えば、長網抄紙機、長網多層抄紙機、円網抄紙機、円網多層抄紙機、長網円網コンビ多層抄紙機、ツインワイヤー抄紙機等の各種装置を用いて行われる。抄紙方式は、酸性抄紙であってもよいし、中性抄紙であってもよい。
【0093】
基材10の表面に、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどの水溶性高分子を含むサイズ液を塗布してもよい。当該サイズ液を塗布することにより、基材10にCNT水分散液を塗工する際に、CNT水分散液が基材10中に過度に浸透することを抑制できる。さらに、基材10の表面の強度を向上できる。サイズ液は、例えば、スチレン系サイズ剤、スチレン-アクリレート系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸サイズ剤などの表面サイズ剤を含む。さらに、サイズ液は、着色顔料、着色染料、蛍光染料、消泡剤などの助剤を含んでいてもよい。サイズ液の塗布方法は、例えば、サイズプレス、ゲートロールコーター、メタリングサイザー、ロッドコーター、バーコーターなどが挙げられる。
【0094】
基材10の表面に、顔料および接着剤を含む塗料を塗布してもよい。当該塗料を塗布することにより、基材10にCNT水分散液を塗工する際に、CNT水分散液が基材10中に過度に浸透することを抑制できる。塗料に用いる顔料としては、例えば、カオリン、軽質炭酸カルシウム、酸化チタンなどの無機顔料や、プラスチックピグメントなどの有機顔料が挙げられる。塗料に用いる接着剤としては、例えば、スチレン-ブタジエン系、スチレン-アクリル系、酢酸ビニル-アクリル系、ブタジエン-メチルメタアクリル系等の各種共重合体ラテックスが挙げられる。さらに、塗料は、pH調整剤、消泡剤、分散剤、潤滑剤、印刷適性向上剤、増粘剤、保水剤、蛍光染料、着色顔料、着色染料などの助剤を含んでいてもよい。
【0095】
なお、上述したように、基材10として、PETフィルムなど樹脂製のフィルムを用いてもよい。
【0096】
2.3.3. 塗工工程(ステップS22)
塗工工程では、上述した本実施形態に係るCNT水分散液の製造方法で得られたCNT水分散液を、基材10の表面に塗工する。分散液の塗工方法は、特に限定されないが、例えば、ダイコーター、グラビアコーター、ワイヤーバーコーター、ナイフコーター、エアーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーターなどが挙げられる。このようなコーターを用いてCNT水分散液の塗工を行う場合、CNT水分散液の粘度が高すぎると、CNT水分散液の塗工が困難になる。
【0097】
2.3.4. 塗工層形成工程(ステップS23)
塗工層形成工程では、基材10に塗工されたCNT水分散液を乾燥させて、塗工層20を形成する。CNT水分散液の乾燥方法としては、CNT水分散液に含まれる水分を蒸発できれば特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、赤外線乾燥、自然乾燥などが挙げられる。
【0098】
以上の工程により、電磁波ノイズ抑制シート100を製造できる。
【0099】
2.4. 作用効果
電磁波ノイズ抑制シート100では、基材10と、基材10に設けられ、CNTおよび重合体を含む塗工層20と、を含み、塗工層20において、CNTの質量MCNTに対する分散剤の質量MDISPの比MDISP/MCNTは、1/10以上5以下であり、重合体は、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体である。そのため、電磁波ノイズ抑制シート100では、後述する実験例に示すように、CNTの含有量が大きくて、分散性が良い。さらに、基材10と塗工層20との密着性を高くすることができる。
【0100】
電磁波ノイズ抑制シート100では、比MDISP/MCNTは、1/5以上であってもよい。比MDISP/MCNTが1/5以上であれば、後述する実験例に示すように、CNTのメジアン径を小さくすることができる。
【0101】
電磁波ノイズ抑制シート100では、比MDISP/MCNTは、1/2以上であってもよい。比MDISP/MCNTが1/2以上であれば、後述する実験例に示すように、湿式微粒化装置における混合液のpass回数が1回であっても、CNTのメジアン径を小さくすることができる。
【0102】
電磁波ノイズ抑制シート100では、比MDISP/MCNTは、3以下であってもよい。比MDISP/MCNTが3以下であれば、後述する実験例に示すように、CNTのメジアン径を小さくすることができる。
【0103】
3. 実験例
以下に実験例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実験例によって何ら限定されるものではない。
【0104】
3.1. 第1実験例
3.1.1. CNT水分散液の作製
(1)実施例1~9
CNTと、分散剤と、水と、を混合して混合液を作製した。混合には、株式会社日本精機製作所製のホモジナイザー「バイオミキサーBM-2」を用いた。混合の処理時間を5分とした。
【0105】
CNTとしては、KUMHO PETROCHEMICAL社製の「K-Nanos-100P」を用いた。当該CNTは、MWCNT、直径8nm~15nm、繊維長27μm(バンドル)、BET比表面積220m/gである。混合液におけるCNTの含有量を、2.0質量%~3.5質量%の範囲で振った。
【0106】
分散剤としては、ポリアクリル酸を用いた。具体的には、株式会社日本触媒製の「アクアリックHL-415」を用いた。重量平均分子量は、10000である。混合液におけるポリアクリル酸の含有量を、0.2質量%~10.0質量%の範囲で振った。
【0107】
次に、上記混合液に対して、水中対向衝突法を行った。水中対向衝突法は、株式会社スギノマシン製の湿式微粒化装置「スターバーストラボ」(機種名:HJP-25005)を用いて行った。混合液が吐出されるノズル孔の径を175μmとし、混合液の吐出圧力を200MPaに設定して、混合液をセラミックボールに衝突させた。湿式微粒化装置による混合液のpass回数を、1回~10回の範囲で振った。以上により、CNTと、分散剤と、水と、を含むCNT水分散液を作製した。
【0108】
図4は、実施例1~9、および後述する実施例10~14、比較例1~9のCNT水分散液の作製条件を示す表である。図4では、重量平均分子量を、単に「分子量」と表記している。「粗分散」とは、湿式微粒化装置による水中対向衝突法を行っていない状態のものである。
【0109】
図4および以下の記載では、ポリアクリル酸を「PAA」ともいう。アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体を「PAA/PSA」ともいう。ポリスチレンスルホン酸を「PSSA」ともいう。ポリオキシエチレンアルキルエーテルを「POEAE」ともいう。ポリアクリル酸ナトリウム塩を「PAANa」ともいう。ポリメタクリル酸を「PMA」ともいう。ポリカルボン酸ポリアルキレングリコールグラフト体を「GRAFT」ともいう。カルボキシメチルセルロースナトリウムを「CMC」ともいう。
【0110】
(2)実施例10~12
分散剤としてのポリアクリル酸の重量平均分子量を変更したこと以外は、上述した実施例1と同様にして、実施例10~12のCNT分散液を作製した。具体的には、重量平均分子量6000のポリアクリル酸として、東亜合成株式会社製の「アロンA-10SL」を用いた。重量平均分子量200000のポリアクリル酸として、東亜合成株式会社製の「アロンA-10H」を用いた。重量平均分子量800000のポリアクリル酸として、株式会社日本触媒製の「アクアリックAS-58」を用いた。
【0111】
(3)実施例13
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、ポリアクリル酸とポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体(PAA/PSA)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、実施例13のCNT分散液を作製した。具体的には、PAA/PSAとして、東亜合成株式会社製の「アロンA-12SL」を用いた。重量平均分子量は、10000である。
【0112】
(4)実施例14
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、ポリスチレンスルホン酸(PSSA)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、実施例14のCNT分散液を作製した。具体的には、分散剤として、富士フイルム和光純薬株式会社製のPSSAを用いた。重量平均分子量は、70000である。
【0113】
(5)比較例1
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POEAE)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、比較例1のCNT分散液を作製した。具体的には、POEAEとして、花王株式会社製の「エマルゲン707」を用いた。重量平均分子量は、1000以下である。
【0114】
(6)比較例2
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、ポリアクリル酸ナトリウム塩(PAANa
)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、比較例2のCNT分散液を作製した。具体的には、PAANaとして、東亜合成株式会社製の「アロンT-50」を用いた。重量平均分子量は、6000である。
【0115】
(7)比較例3
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、ポリメタクリル酸(PMA)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、比較例3のCNT分散液を作製した。具体的には、分散剤として、富士フイルム和光純薬株式会社製のPMAを用いた。重量平均分子量は、100000以下である。
【0116】
(8)比較例4
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、ポリカルボン酸ポリアルキレングリコールグラフト体(GRAFT)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、比較例4のCNT分散液を作製した。具体的には、GRAFTとして、株式会社日本触媒製の「アクアリックLK-500」を用いた。
【0117】
(9)比較例5~9
分散剤として、ポリアクリル酸の代わりに、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、比較例5~9のCNT分散液を作製した。具体的には、CMCとして、第一工業製薬株式会社製の「セロゲン5A」を用いた。重量平均分子量は、15000である。エーテル化度は、0.7である。混合液におけるCNTの含有量を、2.0質量%~3.0質量%の範囲で振った。また、混合液におけるCMCの含有量を、0.4質量%~3.0質量%の範囲で振った。
【0118】
3.1.2. 実験方法
上記のように作製したCNT水分散液に含まれるCNTのメジアン径を測定することにより、CNT水分散液に含まれるCNTの分散性を評価した。CNTのメジアン径は、株式会社堀場製作所製のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「LA-960V2」を用いて測定した。
【0119】
さらに、上記のように作製したCNT水分散液の粘度を測定した。CNT水分散液の粘度は、東京計器株式会社製のB型粘度計「BM」を用いて、25℃、回転数60rpmの条件で測定した。
【0120】
さらに、上記のCNT水分散液を分散させる前の状態の混合液のpHを測定した。混合液のpHは、25℃、1気圧の条件下において、株式会社堀場製作所製の「卓上型pHメーター」を用いて測定した。
【0121】
3.1.3. 実験結果
(1)CNTの含有量を2.0質量%として、分散剤の含有量を振った場合の評価
実施例1~14および比較例1~9のCNT水分散液のメジアン径、粘度、およびpHを図4に示す。図5は、CNTの含有量が2.0質量%である実施例1,5~9および比較例5~7のメジアン径を示すグラフである。図6は、実施例1,5~9および比較例5~7の粘度を示すグラフである。図5および図6のグラフは、図4に示す値をプロットしたものである。
【0122】
なお、本実験例で用いた粘度計では、10000cps以上の粘度は、測定できない。例えば、本来は粘度が20000cpsの場合であっても、本実験例で用いた粘度計では、「10000cps」と表記される。図4では、本実験例で用いた粘度計において「10000cps」と表記された場合を「10000↑」とした。
【0123】
また、便宜上、図5,6および後述する図7、8では、分散剤の含有量の単位である「質量%」を、単に「%」と表記している。
【0124】
図5および図6に示すように、PAAの含有量が0.2質量%の場合は、PAAの含有量が0.4%以上の場合に比べて、メジアン径および粘度ともに極端に大きくなった。さらに、PAAの含有量が10.0質量%の場合は、PAAの含有量が6.0質量%の場合に比べて、メジアン径および粘度ともに大きくなった。PAAの含有量が1.0質量%以上6.0質量%以下の場合は、特に、メジアン径および粘度が小さくなった。
【0125】
PAAの含有量が0.4質量%の場合は、CMCの含有量が0.4質量%の場合に比べて、メジアン径が小さくなった。このことから、分散剤としてPAAを用いた場合は、CMCを用いた場合に比べて、分散性が良くなることがわかった。
【0126】
湿式微粒化装置によるpass回数が増えるにつれて、メジアン径および粘度が小さくなる傾向があった。
【0127】
(2)CNTと分散剤との含有量の比を1対1として、含有量を振った場合の評価
図7は、CNTと分散剤との含有量の比が1対1である実施例1~4および比較例5,8,9のメジアン径を示すグラフである。図8は、実施例1~4および比較例5,8,9の粘度を示すグラフである。図7および図8のグラフは、図4に示す値をプロットしたものである。
【0128】
図7および図8に示すように、CNTおよび分散剤の含有量が大きくなるにつれて、メジアン径および粘度は、大きくなる傾向があった。
【0129】
図8に示すように、分散剤としてCMCを用いた場合では、CNTおよびCMCの含有量が2.5質量%の場合は、粘度が高すぎて、湿式微粒化装置によるPassを、2回以上行うことができなかった。CNTおよびCMCの含有量が3.0質量%の場合も同様であった。一方、分散剤としてPAAを用いた場合では、CNTおよびPAAの含有量が3.0質量%であっても、湿式微粒化装置によるpassを、10回行うことができた。このことから、分散剤としてPAAを用いた場合は、CMCを用いた場合に比べて、粘度が小さくなることがわかった。ただし、分散剤としてPAAを用いた場合であっても、CNTおよびPAAの含有量が3.5質量%の場合は、粘度が高すぎて、湿式微粒化装置によるpassを、2回以上行うことができなかった。
【0130】
(3)分散剤の種類の評価
図9は、CNTおよび分散剤の含有量が2.0質量%である実施例1,13,14および比較例1~5のメジアン径を示すグラフである。図10は、実施例1,13,14および比較例1~5の粘度を示すグラフである。図9および図10のグラフは、図4に示す値をプロットしたものである。
【0131】
分散剤として、PAA、PAA/PSA、PSSAを用いた実施例1,13,14は、場合は、POEAE、PAANa、PMA、GRAFTを用いた比較例1~5に比べて、メジアン径および粘度が小さくなる傾向にあった。さらに、分散剤として、PAA、PAA/PSAを用いた場合は、CMCを用いた場合に比べて、メジアン径が同等以下となった。さらに、分散剤として、PAA、PAA/PSAを用いた場合は、CMCを用いた場合に比べて、粘度が小さくなった。
【0132】
(4)重量平均分子量の評価
図4に示すように、分散剤としてPAAを用いた場合、図4に示すように、重量平均分子量が200000cpsの実施例11の粘度は、重量平均分子量が800000cpsの実施例12に比べて、小さくなる傾向があった。さらに、重量平均分子量が10000cpsの実施例1の粘度は、重量平均分子量が200000cpsの実施例11に比べて、小さくなる傾向があった。
【0133】
3.2. 第2実験例
3.2.1. 電磁波ノイズ抑制シートの作製
上述した実施例1~14および比較例1~9のCNT水分散液を、ダイコーターによって基材に塗工した。基材としては、北越コーポレーション株式会社製の紙基材「はまゆう」(登録商標)を用いた。坪量は、30g/mである。次に、塗工されたCNT水分散液を、熱風乾燥により60℃~70℃で乾燥させて、水分を蒸発させた。そして、基材および塗工層からなる電磁波ノイズ抑制シートを作製した。
【0134】
3.2.2. 実験方法
上記のように作製した電磁波ノイズ抑制シートの塗工層の表面抵抗率を測定した。測定器としては、株式会社三菱ケミカルアナリテック製の「Loresta-AX MCP-T370」を用いた。測定は、「JIS K 7194:1994」に準拠して行った。
【0135】
さらに、上記のように作製した電磁波ノイズ抑制シートの伝送減衰率Rtp(dB)を測定した。測定器としては、ROHDE&SCHWARZ社製のネットワークアナライザー「ZVA67」に、KEYCOM社製のテストフィクスチャ「TF-18C」または「TF-30A」を接続したものを用いた。測定は、「IEC62333」に準拠して、マイクロストリップライン法により行った。測定周波数を、500MHz~30GHzとした。
【0136】
3.2.3. 実験結果
図11は、実施例1~14および比較例1~9の電磁波ノイズ抑制シートの表面抵抗率および伝送減衰率Rtpを示す表である。図11では、5GHz、14GHz、および28GHzのRtpを示している。
【0137】
図11に示すように、実施例1~14において、電磁波ノイズ抑制性能が確認された。分散剤としてPAA(含有量2.0質量%)の実施例1は、分散剤としてCMC(含有量2.0質量%)の比較例5と、同程度のRtpであった。表面抵抗率は、概ねRtpと相関があった。
【0138】
3.2. 第3実験例
3.3.1. 電磁波ノイズ抑制シートの作製
上述した実施例1,5~14および比較例1~7のCNT水分散液を、ダイコーターによって基材に塗工した。基材としては、東洋紡株式会社製のPET(Polyethylene Terephthalate)フィルム「A4360」を用いた。本実験例では、湿式微粒化装置によるpass回数を5回として水中対向衝突法を行ったCNT水分散液を用いた。次に、塗工されたCNT水分散液を、熱風乾燥により60℃~70℃で乾燥させて、水分を蒸発させた。そして、基材および塗工層からなる電磁波ノイズ抑制シートを作製した。
【0139】
なお、分散剤としてCMCを用いた比較例5~9では、CNT水分散液にイソプロピルアルコール(IPA)を添加した後に、基材に塗工した。IPAを塗工しないとCNT水分散液が基材に弾かれてしまい、CNT水分散液を塗工できなかった。実施例1~14では、IPAを添加せずにCNT水分散液を塗工できた。
【0140】
3.3.2. 実験方法
上記のように作製した電磁波ノイズ抑制シートの基材と塗工層との密着性を評価した。密着性は、セロピック試験によって評価した。具体的には、塗工層にセロハンテープを貼り付け、セロハンテープを指で5回強く押した。その後、セロハンテープを一気に剥がし、塗工層の剥がれ方を目視で確認した。セロハンテープとしては、ニチバン株式会社のセロテープ(登録商標)「CT405AP-15」を用いた。
【0141】
セロピック試験の評価基準は、以下のとおりである。
A:塗工層が基材から全く剥がれていなかった。
B:塗工層が基材から僅かに剥がれ、基材が僅かに視認された。
C:塗工層が基材から全面的に剥がれ、基材が全面的に視認された。
【0142】
図12は、セロピック試験の評価基準A、B、Cに該当する電磁波ノイズ抑制シートの写真である。
【0143】
3.3.3. 実験結果
図11に、実施例1,5~14および比較例1~7の電磁波ノイズ抑制シートのセロピック試験の結果を示す。
【0144】
図11に示すように、実施例1,5~14は、比較例1~7に比べて、セロピック試験の結果が良好であり、塗工層と基材との密着性が高かった。
【0145】
PAAの含有量が0.2質量%である実施例10は、PAAの含有量が0.4質量%である実施例9、およびPAAの含有量が1.0質量%である実施例8に比べて、塗工層と基材との密着性が低かった。
【0146】
比較例1~7の中では、分散剤としてPMAを用いた比較例3が、最もセロピック試験の結果が良好であった。しかし、比較例3は、上述した図4および図9に示すように、CNTのメジアン径が小さく、CNTの分散性が悪かった。
【0147】
以上の実験例により、分散剤として、アクリル酸に由来する繰り返し単位およびスルホン酸基を有する単量体に由来する繰り返し単位の少なくとも一方を含む重合体を用いることにより、CNTの含有量が大きくてCNTの分散性が良く、かつ塗工層と基材との密着性が高い電磁波ノイズ抑制シートを作製できることがわかった。
【0148】
なお、基材としてPETフィルムを用いた電磁波ノイズ抑制シートについて、第2実験例と同様に、マイクロストリップライン法によってRtpを測定したところ、上述した基材として紙を用いた電磁波ノイズ抑制シートと、同程度の電磁波ノイズ抑制性能が確認された。
【0149】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0150】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成できる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0151】
10…基材、20…塗工層、100…電磁波ノイズ抑制シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12