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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022455
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ガス分解方法及びガス分解装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/92 20060101AFI20240208BHJP
   C01B 21/22 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B01D53/92 227
B01D53/92 ZAB
B01D53/92 280
B01D53/92 320
C01B21/22
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031729
(22)【出願日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2022123739
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】相浦 良徳
(72)【発明者】
【氏名】島本 章弘
【テーマコード(参考)】
4D002
【Fターム(参考)】
4D002AA12
4D002AA40
4D002BA09
4D002FA09
4D002FA10
4D002GA01
4D002GB20
(57)【要約】
【課題】より簡易な方法又は構造で効率よく温室効果ガスを分解できる、ガス分解方法及びガス分解装置を提供する。
【解決手段】ガス分解方法は、酸素と、一酸化二窒素と、飽和炭化水素と、を含む被処理ガスに、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を照射し、前記一酸化二窒素と前記飽和炭化水素を分解する。ガス分解装置は、酸素と、一酸化二窒素と、前記飽和炭化水素と、を含む被処理ガスを供給するチャンバと、前記第一光を前記チャンバに照射する第一光源と、を備える。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と、一酸化二窒素と、飽和炭化水素と、を含む被処理ガスに、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を照射し、前記一酸化二窒素と前記飽和炭化水素を分解することを特徴とする、ガス分解方法。
【請求項2】
前記飽和炭化水素は、炭素数が4以下のアルカンであることを特徴とする、請求項1に記載のガス分解方法。
【請求項3】
前記第一光が照射されるときの前記被処理ガスの温度は、前記被処理ガスが収集される前の温度より高いことを特徴とする、請求項1に記載のガス分解方法。
【請求項4】
前記被処理ガスは、水を含むことを特徴とする、請求項1に記載のガス分解方法。
【請求項5】
前記アルカンは主にメタンを含むことを特徴とする、請求項2に記載のガス分解方法。
【請求項6】
前記メタンは、前記一酸化二窒素に対して20vol%以上を占めることを特徴とする、請求項5に記載のガス分解方法。
【請求項7】
前記被処理ガスに、主たる発光波長が200nm以上1180nm未満に属する第二光を照射することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のガス分解方法。
【請求項8】
前記第二光は、主たる発光波長が780nm以上1180nm未満に属することを特徴とする、請求項7に記載のガス分解方法。
【請求項9】
分解した被処理ガスから硝酸を生成することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のガス分解方法。
【請求項10】
酸素と、一酸化二窒素と、飽和炭化水素と、を含む被処理ガスを供給するチャンバと、
主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を、前記チャンバに照射する第一光源と、を備え、
前記一酸化二窒素と前記飽和炭化水素を分解することを特徴とする、ガス分解装置。
【請求項11】
前記飽和炭化水素は、炭素数が4以下のアルカンであることを特徴とする、請求項10に記載のガス分解装置。
【請求項12】
前記チャンバは、5vol%以下の前記一酸化二窒素と5vol%以下の前記アルカンを含むガスが存在する空間に接続される接続口を有することを特徴とする、請求項11に記載のガス分解装置。
【請求項13】
前記チャンバは前記第一光源を囲う外側チャンバであり、
前記外側チャンバに前記被処理ガスを供給することを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載のガス分解装置。
【請求項14】
前記外側チャンバに供給される前記被処理ガスは、前記第一光源と接触しないことを特徴とする、請求項13に記載のガス分解装置。
【請求項15】
前記外側チャンバの外部に、主たる発光波長が200nm以上1180nm未満に属する光を、前記外側チャンバと前記第一光源との間に位置する前記被処理ガスに向けて照射する第二光源を有することを特徴とする、請求項13に記載のガス分解装置。
【請求項16】
前記チャンバは前記第一光源の内部に位置する内側チャンバであり、
前記内側チャンバ内に前記被処理ガスを供給することを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載のガス分解装置。
【請求項17】
前記チャンバは、前記第一光源の内部に位置する内側チャンバと、前記第一光源を囲う外側チャンバと、の両方を含み、
前記内側チャンバ内、及び、前記外側チャンバと前記第一光源の間に、それぞれ、前記被処理ガスを供給することを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載のガス分解装置。
【請求項18】
前記被処理ガスは、前記内側チャンバ内、及び、前記外側チャンバと前記第一光源の間のいずれか一方を通過した後に、
前記内側チャンバ内、及び、前記外側チャンバと前記第一光源の間の他方を通過することを特徴とする、請求項17に記載のガス分解装置。
【請求項19】
前記チャンバの内部空間に、前記チャンバに到達する光を透過する導光部が設けられていることを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載のガス分解装置。
【請求項20】
前記導光部は、前記第一光源との間に空隙を有していることを特徴とする、請求項19に記載のガス分解装置。
【請求項21】
前記第一光源はエキシマランプであることを特徴とする、請求項10~20のいずれか一項に記載のガス分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス分解方法及びガス分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業革命以降、地球の平均気温が上昇しているために、地球温暖化対策は喫緊の課題となっている。地球温暖化の原因となる温室効果ガスとして、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンガス等が知られている。このガスの中で、二酸化炭素の排出量が一番多く、次いでメタンの排出量が多く、その次に、一酸化二窒素の排出量が多い。しかしながら、メタンの地球温暖化係数は二酸化炭素の地球温暖化係数の25倍であり、一酸化二窒素の地球温暖化係数は二酸化炭素の地球温暖化係数の298倍であると報告されている。特に、一酸化二窒素の排出による地球温暖化の影響は無視できない。
【0003】
一酸化二窒素は、化学製品の製造等の工業活動及び廃棄物の燃焼によって多量に排出されるだけでなく、人及び畜産動物の排泄物の処理過程や農業からも多量に排出される。メタンは、農地や畜産廃棄物、バイオマス燃焼、下水処理など一酸化二窒素と同じ箇所から排出されることが多い。一酸化二窒素とメタンが同じ箇所から排出される理由は、両者はともに微生物由来で発生するケースが多いためである。昨今、一酸化二窒素とメタンの濃度が上昇傾向にあることから、一酸化二窒素とメタンの濃度の上昇を抑え、又は、濃度を低下させることが、地球温暖化対策として期待されている。
【0004】
一酸化二窒素及びメタンの上記した排出場面では、排出されるガス組成の大半が大気であり、一酸化二窒素及びメタンは、排出ガス組成の中で比較的、低濃度を占めることが多い。以前より、一酸化二窒素を分解するための方法として、高温燃焼方式と触媒方式が使われている。しかしながら、高温燃焼方式ではガスを燃焼させるために多量のエネルギーを必要とする。多量のエネルギーの確保に化石燃料を使用すると二酸化炭素の排出が増えるため、地球温暖化対策として効率的であるとはいえない。触媒方式においても、ガスを高温に加熱することを必要とする。さらに、触媒や還元剤に使用するアンモニアの調達が必要であり、処理後の排水処理問題もある。よって、触媒方式も効率的であるとはいえない。また、メタンを分解するための方法として高温燃焼方式と触媒方式が知られているが、前述したとおりの課題がある。また、その他の分解方法としてプラズマ方式もある。しかしながら、被処理ガスに、窒素や一酸化二窒素といった窒素原子を含むガスと、酸素などの酸素原子を含むガスの両方が含まれていると、プラズマによって環境汚染物質であるNOxや一酸化二窒素が多量に生成されるため、被処理ガスの組成が限定されてしまう。
【0005】
一酸化二窒素を分解するための新たな方法として、紫外光の照射により一酸化二窒素を分解する方法が知られている。例えば、特許文献1には、一酸化二窒素を分解可能なエンジンの排気浄化システムが記載されている。当該システムでは、エンジンの排気ガス中の炭化水素やCOを酸化し、NOxを除去し、水蒸気を取り除いた後で、一酸化二窒素を172nmの紫外光で分解除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-088964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている一酸化二窒素の浄化方法は、非常に複雑な構造であり、効率的でない。そこで、本発明は、より簡易な方法又は構造で効率よく温室効果ガスを分解できる、ガス分解方法及びガス分解装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス分解方法は、酸素と、一酸化二窒素と、飽和炭化水素と、を含む被処理ガスに、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を照射し、前記一酸化二窒素と前記飽和炭化水素を分解する。
【0009】
本明細書において、単に「酸素」と表記する場合の「酸素」は、「酸素分子」(以下、「O」と表記することがある。)を意図する。前記飽和炭化水素は、一種類の炭化水素でも構わないし、二種類以上の炭化水素でも構わない。詳細は後述するが、第一光が一酸化二窒素(以下、「NO」と表記することがある。)を直接分解するとともに、第一光の照射により生成された励起酸素原子(「一重項酸素」又は「O(D)」と呼ばれることがある。以下、「O(D)」と表記することがある。)が、NOを分解する。また、第一光の照射により生成された、O(D)と、基底状態の酸素原子(「三重項酸素」又は「O(P)」と呼ばれることがある。以下、「O(P)」と表記することがある。)と、が前記炭化水素を分解する。その結果、前記第一光で、NOと前記炭化水素の両方を分解できる。前記炭化水素の分解反応によって生成された水(HO)が、NO分解により生成したNOxの硝酸化を促進する。NOxは人体及び動物に悪影響を与える物質であるから、NOxを削減することは環境維持の点から好ましい。さらに、NO分解により生成されたO(D)が前記炭化水素の分解に寄与する点から、炭化水素の分解にとっても、NOの分解と同時に行うことは、好ましい。
【0010】
NOxの硝酸化によって、硝酸(以下、「HNO」と表記することがある。)が得られる。硝酸は様々な産業分野で有用な物質であるため、硝酸は、多くのエネルギーを使用しながら、工業生産されている。これに対し、前記ガス分解方法では、多くのエネルギーを要することなく硝酸を生成できるため、生成した硝酸を回収し利用できるという副次的効果が得られる。
【0011】
前記飽和炭化水素は、アルカンであっても構わない。前記アルカンの炭素数は10以下、6以下、又は4以下であっても構わない。
【0012】
前記第一光が照射されるときの前記被処理ガスの温度は、前記被処理ガスが収集される前の温度より高くても構わない。つまり、収集した被処理ガスを加熱しても構わない。加熱方法としては、第一光源と後述する第二光源の少なくとも一つの熱エネルギーや各化学反応における反応熱を利用する方法と、被処理ガスを加熱するためのヒータを利用する方法とがある。
【0013】
前記被処理ガスは、水(HO)を含んでも構わない。本明細書において、水は、気体である水蒸気と、液体である霧状の水と、を含む概念である。詳細は後述するが、前記被処理ガスが水を含んでいると、前記第一光、又は前記第一光の照射により水(HO)が光分解されて、ヒドロキシラジカル(以下、「OH」と表記することがある。)を生成する。ヒドロキシラジカルは、前記炭化水素の分解を促進する。また、上述したように、水がNO分解により生成したNOxの硝酸化を促進する。
【0014】
前記アルカンは、主にメタンを含んでも構わない。上記したように、メタンは、NOと同様に温室効果ガスの一つである。本発明者は、前記第一光の照射により、一酸化二窒素とメタンという二種類の温室効果ガスを同時に削減できることを見出した。なお、主にメタンを含む炭化水素とは、炭素数が4以下のアルカンの炭化水素のうち、メタンのガス濃度(vol%)が最大である場合を指す。
【0015】
詳細は後述するが、一酸化二窒素及びメタンの組み合わせは、比較的低濃度であるものの、下水道もしくは浄化槽、又はバイオマス工場もしくはごみ処理場から排出されている。生ごみや人及び畜産動物の排泄物を含む廃棄物は、炭化水素とアンモニアを含むことが多い。そのため、これらの廃棄物が腐敗することで、総じて、アンモニア由来の一酸化二窒素及び炭化水素由来のメタンの両方が発生する。そのため、一酸化二窒素とメタンを同一地点で調達できる。なお、一酸化二窒素及びメタンをそれぞれ異なる地点から調達しても構わない。
【0016】
前記メタンは、前記一酸化二窒素に対して20vol%以上を占めても構わない。メタンが一酸化窒素に対して相対的に多い場合には、メタン由来の水素と酸素により水が多く生成される。これにより、NO分解の副生成物として生成されるNOxは、硝酸化の促進が可能となり、結果として、有害物質であるNOxの量を低減できる。
【0017】
前記被処理ガスに、主たる発光波長が200nm以上1180nm未満に属する第二光を照射しても構わない。つまり、第一光より長波長の第二光を照射することにより、第一光の照射により副次的に生成されたオゾン(以下、「O」と表記することがある。)から、O(D)又はO(P)を生成する。O(D)は、NOの分解、前記炭化水素の分解、及びヒドロキシラジカルの生成に利用される。O(P)は、NOxの硝酸化及び前記炭化水素の分解に利用される。
【0018】
前記第二光は、主たる発光波長が780nm以上1180nm未満に属する光であっても構わない。つまり、第二光は、主に赤外線を含んでいても構わない。赤外線により被処理ガスの温度上昇をアシストし、炭化水素の分解を促進する。
【0019】
分解した被処理ガスから硝酸を生成しても構わない。
【0020】
本発明のガス分解装置は、酸素と、一酸化二窒素と、飽和炭化水素と、を含む被処理ガスを供給するチャンバと、
主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光を、前記チャンバに照射する第一光源と、を備え、
前記一酸化二窒素と前記飽和炭化水素を分解する。
【0021】
前記チャンバは、前記第一光源の内部に配置される内側チャンバと、前記第一光源を囲い覆うように配置される外側チャンバと、を含んでも構わない。本明細書において、単に、「チャンバ」と示されるとき(参照符号と共に示される場合を含む)は、前記第一光源を囲い覆うように配置される外側チャンバを指す。本明細書において、前記第一光源の内部に配置される内側チャンバについて説明するとき、「内側チャンバ」と記載するか、又は、チャンバが光源の内部に配置されるチャンバであることを明示する。
【0022】
前記飽和炭化水素は、アルカンであっても構わない。前記アルカンの炭素数は10以下、6以下、又は4以下であっても構わない。
【0023】
前記チャンバは、5vol%以下の前記一酸化二窒素と5vol%以下の炭素数が4以下のアルカンを含むガスが存在する空間に接続される接続口を有しても構わない。「5vol%以下の前記一酸化二窒素と5vol%以下の炭素数が4以下のアルカンを含むガスが存在する空間」とは、例えば、下水道もしくは浄化槽、又はバイオマス工場もしくはごみ処理場の排水管、排水槽、排気管及び排気槽である。一酸化二窒素と前記アルカンが、ともに1%以下の低濃度である場合でも、一酸化二窒素と前記アルカンの分解が可能である。なお、一酸化二窒素の濃度と前記アルカンの濃度の少なくとも一方が5vol%を超える場合にも、一酸化二窒素と前記アルカンの分解が可能である。
【0024】
前記チャンバは前記第一光源を囲う外側チャンバであり、
前記外側チャンバに前記被処理ガスを供給しても構わない。
【0025】
前記外側チャンバに供給される前記被処理ガスは、前記第一光源と接触しなくても構わない。前記外側チャンバと前記第一光源の間ある隙間には、前記第一光に吸収されにくいガス(例えば、不活性ガスである窒素ガス)が充填されていてもよい。
【0026】
前記外側チャンバの外部に、主たる発光波長が200nm以上1180nm未満に属する光を、前記外側チャンバと前記第一光源との間に位置する前記被処理ガスに向けて照射する第二光源を有しても構わない。
【0027】
前記チャンバは前記第一光源の内部に位置する内側チャンバであり、
前記内側チャンバ内に前記被処理ガスを供給しても構わない。
【0028】
前記チャンバは、前記第一光源の内部に位置する内側チャンバと、前記第一光源を囲う外側チャンバと、の両方を含み、
前記内側チャンバ内、及び、前記外側チャンバと前記第一光源の間に、それぞれ、前記被処理ガスを供給しても構わない。
【0029】
前記被処理ガスは、前記内側チャンバ内、及び、前記外側チャンバと前記第一光源の間のいずれか一方を通過した後に、
前記内側チャンバ内、及び、前記外側チャンバと前記第一光源の間の他方を通過させても構わない。
【0030】
前記チャンバの内部空間に、前記チャンバに到達する光を透過する導光部が設けられていても構わない。前記導光部は、柱形状、又は、板状でも構わない。
【0031】
前記導光部は、前記第一光源との間に空隙を有していても構わない。前記導光部と前記第一光源との間に空隙を有していなくても構わない。
【0032】
前記第一光源はエキシマランプであっても構わない。前記エキシマ光の主たる波長は172nm又は172nm近傍であっても構わない。斯かるエキシマ光は、キセノンガスを発光管内に封入したキセノンエキシマランプを点灯させることにより得られる。エキシマランプは安定的に大量生産できる光源であり、高いコスト削減効果を有する。エキシマランプに供給される電力は制御部によって制御される。制御部は、エキシマランプの点灯及び消灯を制御する。
【0033】
本明細書において、「172nm近傍」とは、172nm±5nmの範囲内の領域を指す。本明細書において、「主たる波長」とは、ある波長λに対して±10nmの波長域Z(λ)を発光スペクトル上で規定した場合において、発光スペクトル内における全積分強度に対して40%以上の積分強度を示す波長域Z(λi)における、波長λiを指す。「主たる波長」の光を出射する光源が、キセノンエキシマランプのように、半値幅が極めて狭く、且つ、特定の波長においてのみ高い光強度を示す光源においては、通常は、光強度が相対的に最も高い波長(ピーク波長)を、主たる波長とみなして構わない。
【発明の効果】
【0034】
これにより、より簡易な方法又は構造で効率よく温室効果ガスを分解できる、ガス分解方法及びガス分解装置を提供できる。斯かるガス分解方法及びガス分解装置を提供することは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1A】ガス分解装置の第一実施形態を示す図である。
図1B図1AのS1-S1線断面図である。
図2】硝酸の処理方法の一例を示す図である。
図3】メタンガスの温度と反応速度定数との関係を示すグラフである。
図4A】NOに対するCHの割合と、NOxの生成量との関係を示すグラフである。
図4B】NOに対するCHの割合と、NOxの生成量との関係を示すグラフである。
図5A】第一実施形態の第一変形例を示す図である。
図5B図5AのS2-S2線断面図である。
図6A】第一実施形態の第二変形例を示す図である。
図6B図6AのS3-S3線断面図である。
図7A】第一実施形態の第二変形例を示す図である。
図7B図7AのS4-S4線断面図である。
図8A】第二実施形態を示す図である。
図8B図8AのS5-S5線断面図である。
図9A】第三実施形態を示す図である。
図9B図9AのS6-S6線断面図である。
図10】第三実施形態の第一変形例を示す図である。
図11】第三実施形態の第二変形例を示す図である。
図12A】第四実施形態を示す図である。
図12B図12Aの要部拡大図である。
図12C】導光部の上面図である。
図13】実験設備を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
適宜、図面を参照しながら実施形態を説明する。なお、グラフを除く図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、当該図面上の寸法比は必ずしも実際の寸法比と一致しておらず、各図面間においても寸法比は必ずしも一致していない。
【0037】
<第一実施形態>
[ガス分解装置の概要]
図1Aは、ガス分解装置の第一実施形態を示す図である。図1B図1AのS1-S1線断面図である。ガス分解装置10は、チャンバ2と、チャンバ2の中に配置された、主たる発光波長が160nm以上200nm未満に属する第一光L1を出射する第一光源1とを含む。チャンバ2は、ガス供給口3iとガス排出口3oを含む。ガス供給口3iとガス排出口3oは、第一光源1を挟んで相互に対向するように配置されている。本明細書において、第一光源1より出射される第一光L1は、第一光源1から外に向かう実線の矢印で例示されている。
【0038】
ガス供給口3iからチャンバ2にガスG1を供給し、被処理ガスであるガスG1に第一光源1から出射される第一光L1を照射し、光照射後のガスG2をガス排出口3oから排出することを続ける。これにより、ガスG1中のNOと炭化水素の分解を連続的に行うことができる。第一光源1は、制御部5と電気的に接続されており、電力が制御部5から第一光源1に供給されることで、第一光源1が点灯する。
【0039】
本実施形態において、第一光源1は、ピーク波長が172nmのエキシマ光を出射するキセノンエキシマランプである。本実施形態のキセノンエキシマランプは、発光管の内部1i(図1B参照)にキセノンガスが封入されている。本実施形態の発光管は円筒型である。しかしながら、発光管の形状は円筒型に限らない。また、第一光源1はキセノンエキシマランプに限らず、例えば、低圧水銀ランプでも構わない。第一光源1は、キセノン以外のガスが封入されたエキシマランプでも構わない。第一光源1は、LEDやLD等の固体光源でも構わない。
【0040】
第一光L1はガスG1に吸収されやすく、第一光L1は遠くまで届かない。そのため、第一光源1の発光管の表面とチャンバ2の内壁との間隔D1(図1A又は図1B参照)は、比較的狭い。間隔D1は、例えば、50mm以下であるとよく、30mm以下であると好ましい。間隔D1を光が減衰しすぎない適切な距離に設定することで、第一光L1に照射されずにチャンバ2を通り抜けるガスG1を減らすことができる。
【0041】
[被処理ガス]
被処理ガスについて説明する。被処理ガスであるガスG1は、酸素と、NOと、飽和炭化水素、特に炭素数が10以下、6以下、又は4以下のアルカン、を含む。
【0042】
ガスG1に含まれる酸素は、空気中の酸素であってもよい。つまり、ガスG1は空気を含んでいてもよい。ガスG1が空気を含むとき、必然的に、窒素と、微量の二酸化炭素を含むことになる。また、ガスG1は水を含んでいてもよい。
【0043】
炭素数が4以下のアルカンの場合、炭素数が4以下のアルカンには、メタン(以下、「CH」と表記することがある。)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)が例示される。「炭素数が4以下のアルカン」は、一種類の炭化水素を含んでも構わないし、又は、二種類以上の炭化水素を含んでも構わない。これらの炭化水素のうち、CHは、二酸化炭素より高い地球温暖化係数を有する温室効果ガスである。被処理ガスにNOとCHの両方が含まれる場合、二種類の温室効果ガスを同時に削減できる。
【0044】
[NO分解メカニズム]
紫外光によるNOの分解メカニズムについて説明する。NOの分解方法には、紫外光による直接分解と、紫外光により生成されたO(D)による間接分解とが存在する。
【0045】
Oの直接分解について説明する。340nm以下の波長の紫外光hν(≦340nm)がNOに照射されると、NOが分解されて、NとO(D)を生成する。これを(1)式に示す。

O+hν(≦340nm) → N+O(D) …(1)
【0046】
(1)式の分解反応は、理論上、340nm以下の波長の紫外光により起こる。しかしながら、NOに対する200nm以上の波長の光の吸収断面積は、小さいため、(1)式の分解反応を促進するには、吸収断面積の比較的大きい200nm未満の波長の光を使用すると、より効率的である。
【0047】
次に、NOの間接分解について説明する。O(D)は反応性の高い高活性物質である。紫外光により生成されたO(D)がNOに接触すると、(2)式により酸素分子及び窒素分子が生成されるか、又は、(3)式により一酸化窒素(以下、「NO」と表記することがある。)が生成される。

O+O(D) → O+N …(2)
O+O(D) → NO+NO …(3)
【0048】
(2)式及び(3)式の反応に必要なO(D)は、(1)式によって生成される他に、以下の(4)式及び(5)式によっても生成される。なお、「hν(≦175nm)」は、175nm以下の紫外光を表し、「hν(≦411nm)」は、411nm以下の紫外光を表す。

+hν(≦175nm) → O(P)+O(D) …(4)
+hν(≦411nm) → O(D)+O …(5)
【0049】
(5)式の反応に必要なOは、以下の、(1),(4),(6),(7),(8)式の反応を経て生成される((1)式及び(4)式は再掲される)。(6)式に関し、紫外光hνが242nm以下であれば、(6)式に示される反応が生じることを表す。(7)式及び(8)式に含まれる「M」は第三体を表す。

O+hν(≦340nm) → N+O(D) …(1)
+hν(≦175nm) → O(P)+O(D) …(4)
+hν(≦242nm) → O(P)+O(P) …(6)
O(D)+M → O(P)+M …(7)
+O(P)+M → O+M …(8)
【0050】
以上で、紫外光hνによるNOの直接分解と、紫外光により生成されたO(D)によるNOの間接分解を説明した。通常、直接分解と間接分解の両方が行われる。直接分解と間接分解が起こる比率は、ガスG1のガス組成によって異なる。
【0051】
ところで、上記した一連の反応は副生成物を生成する。(3)式の反応により生成されたNOは、チャンバ2内で以下の反応を示す。この反応を以下の(9)式~(14)式に示す。

NO+O(P) → NO …(9)
NO+O+M → NO+O+M …(10)
NO+O(P)+M → NO+M …(11)
NO+O+M → NO+O+M …(12)
NO+NO → N …(13)
+HO → HNO+HNO …(14)
【0052】
(9)式及び(10)式により、NOは、二酸化窒素(以下、「NO」と表記することがある。)に変換される。そして、チャンバ2内にOとHOが十分にある場合には、NOは、(11)式~(14)式により、NO及びNを経て硝酸(HNO)に変換される。チャンバ内にOとHOが十分にない場合には、(12)式及び(14)式が十分に起こらず、硝酸化しない。NOxサイクル反応が起こることによりOが消費され、Oが欠乏する場合があり、この場合にはNOxは残留する。
【0053】
[NOxサイクル反応]
NOxサイクル反応について説明する。本明細書において、NOxは、NOとNOを含む概念である。以下に再掲される(9)式及び(10)式により、NOは、NOに変換される。他方で、NOは、以下の(15)式により、酸素原子Oと反応して、NOを生成する。(15)式に含まれる酸素原子OはO(D)とO(P)の両方が含まれる。

NO+O(P) → NO …(9)
NO+O+M → NO+O+M …(10)
NO+O → NO+O …(15)
【0054】
NOからNOを生成する、特に(10)式の反応と、NOからNOを生成する(15)式の反応は繰り返すことがある。これをNOxサイクル反応という。NOxサイクル反応の過程で、NOや炭化水素の分解に必要な酸素原子Oと、O(D)の生成に必要なO((5)式参照)とを消費し続ける。よってNOxサイクル反応が発生すると、酸素原子OとOが消失し、NOと炭化水素の分解が妨げられる。
【0055】
NOxは人体及び動物に悪影響を与える。そのため、OとHOがチャンバ内に十分にある環境を形成して、NOxから硝酸(HNO)を生成する反応を促進することが望ましい。O及びHOを十分に存在させるためには、光照射空間にO及びHOが存在することが必要である。つまり、被処理ガスであるガスG1に、Oを多く含ませる必要がある。HOを十分に存在させる方法には、ガスG1に炭化水素を含ませる方法がある。詳細は後述するが、炭化水素とヒドロキシラジカルの化学反応がHOの生成に寄与する。また、ガスG1にHOを含ませることも好ましい。
【0056】
[硝酸の処理方法]
図2に硝酸の処理方法の一例を示す。図2では、ガス分解装置10で生成された硝酸を含み、チャンバ2から排出されるガスG2が、ガス排出口3oに接続された排出管11を通って、容器12中の水W1と接触することで、ガスG2に含まれる硝酸が水W1に溶解して硝酸水溶液となり、結果的に硝酸をトラップできる。硝酸は、硝酸アンモニウムの原料であり、化学工業分野、又は、農業分野等で有用な物質である。そのため、容器12内の硝酸水溶液を回収してもよい。また、硝酸水溶液の濃度が排水可能な程度に薄い場合には、硝酸水溶液を回収することなく下水道に流しても構わない。下水道に流された硝酸は、生物分解によりNO を経て、最終的にNに変換される。図2では水W1に溶け込ませて回収する方法を記載しているが、ガスG2を単に冷却することにより、硝酸を液体化して回収する方法でも構わない。硝酸の沸点は概ね83℃であるため、ガスが冷却されると硝酸はガスから液体化する。
【0057】
[飽和炭化水素のガス分解メカニズム]
飽和炭化水素の紫外光による分解メカニズムについて説明する。以下では、飽和炭化水素がCHである場合について説明するが、CH以外の飽和炭化水素についても、以下と同様に説明される。
【0058】
CHは、以下の(16)~(19)式の化学反応により、分解される。

CH+O(D) → CH+OH …(16)
CH+O(D) → CHO+H …(17)
CH+O(P) → CH+OH …(18)
CH+OH → CH+HO …(19)
【0059】
O(D)及びO(P)は、上記(1)式、(4)式、(5)式、(6)式又は(7)式により生成される。(19)式に使用されるOHは、上記(16)式及び(18)式によって生成されるほか、以下の(20)式及び(21)式により生成される。

O+hν(≦242nm) → H+OH …(20)
O+O(D) → OH+OH …(21)
【0060】
したがって、CHは、紫外光が照射されることにより生成されたO(D)、O(P)、又はOHにより、分解される。紫外光が照射されることにより生成されたO(D)は、NOの分解とCHの分解の両方に使用されるため、分解処理を同時に進めることができる。さらに、(1)式により示されるように、CHの分解においては、NOを分解することにより得られたO(D)を使用できる。CHの分解処理をNOの分解処理と同時に行うことより、効率的な分解が可能となることは、飽和炭化水素として、主にCHを含む場合の、有利な特徴の一つである。
【0061】
[炭化水素分解反応の温度依存性]
CH分解反応のうち、以下に再掲される、(18)式及び(19)式の反応は、温度に依存する。図3は、メタンガスの温度T1と反応速度定数kとの関係を示すグラフである。図3のR1曲線は、(19)式の温度T1(℃)に対する反応速度定数k(m/kmol s)を表す。図3のR2曲線は、(18)式の温度T1(℃)に対する反応速度定数k(m/kmol s)を表す。R1曲線及びR2曲線から、(18)式及び(19)式の反応は、いずれも、温度が高くなるほど、反応性が増すことがわかる。

CH+O(P) → CH+OH …(18)
CH+OH → CH+HO …(19)
【0062】
さらに、温度が上昇すると、以下に再掲される、(7)式によりO(P)の生成量が増加する。この増加現象は、オゾンが熱により分解することに起因する。そして、増加したO(P)が、以下に再掲される、(18)式のCH分解反応を、促進する。

O(D)+M → O(P)+M …(7)
CH+O(P) → CH+OH …(18)
【0063】
本実施形態では、チャンバ2の中に第一光源1が配置されている。第一光源1は点灯し紫外光を出射するとともに発熱する。そのため、第一光源1は、第一光源1の周囲のガスを加熱し、CHを含むガスG1の温度を高めて、上記(18)式及び(19)式によるCHの分解反応を促進する。さらには、(2)式、(3)式、(9)式及び(10)式は発熱反応であり、ガスG1の温度を高めるため、CHの分解処理をNOの分解処理と同時に行うことより、効率的な分解が可能となる。なお、CH以外の飽和炭化水素についても、CHと同様に、分解反応の温度依存性がある。
【0064】
[炭化水素と一酸化二窒素との混合比]
図4Aは、NOに対するCHの割合と、NOxの生成量との関係を、シミュレーションにより求めた結果である。「NOに対するCHの割合」は、被処理ガスに含まれるNOの量に対するCHの量の割合の百分率(単位:vol%)で示される。「NOxの生成量」は、NOの生成量とNOの生成量の合計を表す。R3曲線~R5曲線は、NOの含有量を異ならせている。R3曲線ではNOが10000ppmである。R4曲線ではNOが1000ppmである。R5曲線ではNOが100ppmである。R3曲線~R5曲線において、チャンバ2内のガスG1の温度は、500Kに統一されている。なお、図4Aにおいて、グラフの視認性を高めるため、複数のプロットが重なる箇所や互いに近接する箇所の一部のプロットが省略されている。R3曲線~R5曲線は、横軸において、いずれも同じ割合においてシミュレーションを行っている。省略された一部のプロットは各曲線上に存在すると解されたい。
【0065】
NOxの生成量は、少ない方がよい。図4Aより、NOの量に拘わらず、NOに対するCHの割合が高くなるにつれて、NOxの生成量が低下していることが分かる。そして、CHが、NOに対して10vol%以上存在するとき、NOxが生成されないことを表す。これは、十分な炭化水素が供給されたため、炭化水素の分解により生成されたHOによりNOxが硝酸化されたことに因る。
【0066】
図4Bは、NOに対するCHの割合と、NOxの生成量との関係を、シミュレーションにより求めた結果である。「NOに対するCHの割合」及び「NOxの生成量」の意味は、図4Aと同じである。R6曲線~R9曲線は、チャンバ2内のガスG1の温度を異ならせている。R6曲線では、温度が350Kである。R7曲線では、温度が400Kである。R8曲線では、温度が450Kである。R9曲線では、温度が500Kである。R6曲線~R9曲線において、NOの流量は10000ppmに統一されている。
【0067】
図4Bより、チャンバ2内の温度が高くなるにつれて、NOxの生成量が低下していることが分かる。また、NOに対するCHの割合が高くなるにつれて、NOxの生成量が低下していることが分かる。そして、CHが、NOに対して20vol%以上存在するとき、350Kの場合であってもNOxが生成されないことを表す。この結果は、温度が高くなることで、または、CHの割合が高くなることで、十分な炭化水素が供給されたため、炭化水素の分解により生成されたHOによりNOxが硝酸化されたことに因る。
【0068】
図4A及び図4Bより、NOに対するCHの割合は、20vol%以上であると好ましい。20vol%以上であると、NOxの生成量を低減しやすい。なお、図4Aでは100ppm~10000ppmのNOと、それに対応する量のCHで、シミュレーションを行い、図4Bでは、10000ppmのNOと、それに対応する量のCHでシミュレーションを行ったが、より少ないNO(例えば、100ppm未満)とそれに対応する量のCHであっても、同様の作用効果が得られる。CH以外の飽和炭化水素であっても、同様の作用効果が得られる。
【0069】
[ガス分解装置の使用方法]
ガス分解装置10の使用方法を説明する。一酸化二窒素は、人及び動物の排泄物、農畜産場、並びにバイオマス若しくは生ゴミを微生物によって発酵させる過程により排出される。一方、メタンは、動物の消化器官、沼地、海底堆積物又は地殻等に存在する嫌気性のメタン生成菌により生成される。そのため、一酸化二窒素及びメタンの両方は、上記したように、例えば、下水道もしくは浄化槽、又はバイオマス工場もしくはごみ処理場の排水管、排水槽、排気管及び排気槽に存在する。微生物は二酸化酸素もまた放出している。しかしながら、下水道又は浄化槽の場合には、大量の空気で曝気する処理により、ほぼ空気中の濃度(約21vol%)に近い濃度の酸素と大量の水が含まれる。
【0070】
そこで、ガス分解装置10のガス供給口3iを、下水道もしくは浄化槽、又は、バイオマス工場、ごみ処理場もしくは化学工場の排水管、排水槽、排気管及び排気槽等に接続する。これにより、一酸化二窒素及びメタンの両方を同一地点で調達できる。被処理ガスの大半は空気であり、中の一酸化二窒素と炭化水素の割合は、いずれも5vol%以下であることが多い。しかしながら、本発明の分解方法は、5vol%以下のような低濃度の被処理ガスであっても、分解可能である。被処理ガスは、1vol%以下であってもよい。また、メタン以外の炭化水素についても同様である。
【0071】
[第一変形例]
第一実施形態の第一変形例を示す。以下に、第一実施形態と異なる事項を中心に説明し、第一実施形態と共通する事項についてはその記載を省略する。後述する変形例及び第二実施形態以降についても同様である。
【0072】
図5Aは第一変形例のガス分解装置15を示す。図5Bは、図5AのS2-S2線断面図である。図5A及び図5Bに示されるように、ガス分解装置15のチャンバ2の内部には、第一光源1が配置されている。第一光源1は、紫外光透過管6で覆われている。紫外光透過管6は、第一光源1が出射する第一光L1を透過する。第一光源1が紫外光透過管6で覆われていない場合、第一光源1がガスG1に曝されることで、ガスG1の固形成分(例えば、炭化物)が、第一光源1の発光管の表面に付着するおそれがある。第一光源1が紫外光透過管6で覆われている場合、ガスG1の固形成分は、第一光源1に付着しない。紫外光透過管6に固形成分が付着し、照度低下が懸念されるとき、紫外光透過管6を、固形成分が付着していない紫外光透過管に交換するとよい。紫外光透過管6を、定期的に交換しても構わない。また、紫外光透過管6内を窒素で充填してもよい。
【0073】
紫外光透過管6は、例えば石英ガラスで構成されていてもよい。紫外光透過管6は、第一光源1の全体を覆ってもよく、全体を覆わなくても構わない。紫外光透過管6は、少なくとも第一光源1の発光管を覆うように構成されていればよい。
【0074】
[第二変形例]
図6Aは第二変形例のガス分解装置20を示す。図6Bは、図6AのS3-S3線断面図である。図6A及び図6Bに示されるように、ガス分解装置20は、ガス流路が二つに分岐されて構成された、第一チャンバ2aと第二チャンバ2bを備える。第一光源1は、第一チャンバ2a及び第二チャンバ2bの外に配置される。第一光源1が、チャンバ(2a,2b)の外にあるので、ガスG1の固形成分が第一光源1に付着せず、かつ、第一光源1の保守点検及び交換が容易にできる。
【0075】
ガス分解装置20は、第一チャンバ2aと第二チャンバ2bが第一光源1を挟むように配置されている。第一光源1からの第一光L1を、第一チャンバ2aと第二チャンバ2bに導くことができる。本実施形態の、第一光源1、第一チャンバ2a及び第二チャンバ2bは、いずれも断面が扁平の矩形形状である。第一光源1から出射した第一光L1がチャンバ(2a,2b)の外を進む距離は、短い。そのため、第一光L1の減衰量が少なく、かつ、第一光L1がチャンバ(2a,2b)に均等に到達しやすい。
【0076】
第一光源1と第一チャンバ2a及び第二チャンバ2bとの間は、第一光源1からの第一光L1に吸収されにくいガス、例えば、窒素ガスが充填されていると、より好ましい。チャンバ(2a,2b)の外において、第一光L1の吸収を抑えることができる。
【0077】
本実施形態では、チャンバ(2a,2b)は、第一光L1を透過する石英ガラス管で構成されている。しかしながら、チャンバ(2a,2b)を構成する全ての筐体が紫外光透過材料で構成されていなくてもよい。少なくとも第一光L1を透過するべき部分が、石英ガラス等の紫外光透過材料で構成されているとよい。ガス分解装置20は、ガス流路が三つ以上に分岐されて構成された、三つ以上のチャンバを備えていても構わない。
【0078】
[第三変形例]
図7Aは第三変形例のガス分解装置25を示す。図7Bは、図7AのS4-S4線断面図である。図7A及び図7Bに示されるように、ガス分解装置25は、第一光源1を内部に配置される円管状のチャンバ2の外に巻き付けられた、ヒータ7を備えている。
【0079】
上記したように、ガスG1の温度が高いほど、効率的に分解が進むとともに、NOxの生成が少ない。上記した第一実施形態では、エキシマランプが放射する熱により、ガスG1が加熱される。さらに、本変形例におけるガス分解装置25のように、ガスG1を加熱するヒータ7を配置してもよい。本実施形態のヒータ7は、電気エネルギーを熱に変換して加熱するシーズヒータである。電気エネルギーは再生可能エネルギーであると好ましい。
ヒータ7を配置することでオゾンが分解されることから、大気へのオゾンの排出も抑制される副次的効果がある。
【0080】
ヒータ7は、熱媒流路による流体加熱、又はヒートパイプであってもよい。ヒータ7は、第一光源1の上流側に配置されてもよく、高温にしたガスG1をガス供給口3iに導いてもよい。また、ヒータ7は、太陽光又は太陽光により熱せられた流体であってもよい。
【0081】
<第二実施形態>
図8Aは第二実施形態を示す。図8Bは、図8AのS5-S5線断面図である。本実施形態のガス分解装置30は、複数の第二光源8を備えている。複数の第二光源8は、チャンバ2に向けて第二光L2を出射する。本明細書において、第二光源8より出射される第二光L2は、第二光源8から外に向かう破線の矢印で例示されている。第二光源8は、第二光L2の被照射空間が第一光L1の被照射空間と重なるように配置されるとよい。
【0082】
第二光源8から出射する第二光L2の波長は、第一光源1が出射する第一光L1の波長と異なり、第二光L2は第一光L1よりも長波長である。第二光L2は、以下の(21)式及び(22)式に示すように、OからO(D)又はO(P)を生成する。

+hν(≦411nm) → O(D)+O …(21)
+hν(≦1180nm) → O(P)+O …(22)
【0083】
(21)式及び(22)式は、第二光L2の波長によって生成される酸素原子の活性状態が異なることを表す。第二光L2が411nm未満の紫外光である場合、高活性のO(D)を生成する。(21)式により生成されたO(D)は、NOの分解((2)式及び(3)式参照)、炭化水素の分解((15)式及び(16)式参照)、ヒドロキシラジカルの生成((20)式参照)に利用される。
【0084】
第二光L2が1180nm未満の赤外線又は可視光である場合、低活性のO(P)を生成する。生成されたO(P)は、炭化水素の分解((17)式参照)及びNOxの硝酸化((9)式、(11)式参照)に利用される。このように、第二光L2をガスG1に照射することにより、第一光L1によるNO及びCHの分解が、促進される。
【0085】
第二光源8はエキシマランプ、LEDやLD等の固体光源、低圧水銀ランプ、及び蛍光ランプでも構わない。第二光源8は、紫外光、可視光又は赤外線を発するランプであってもよい。また、第二光源8が赤外線を発するランプである場合、第一実施形態の第三変形例で説明したように、ガス加熱による分解反応促進効果も得られる。また、加熱を目的としてヒータ7を配置した場合においても、配置したヒータ7により、赤外線によるO(P)の生成による分解反応促進効果が得られる。
【0086】
図8A及び図8Bに示されるように、第一光源1及び第二光源8のうち、いずれか一つをチャンバ2内部に配置する場合に、第一光源1をチャンバ2内部に配置するとよい。なぜなら、第一光源1の出射光は、第二光源8の出射光に比べて短波長であるため、第一光源1の出射光は、第二光源8の出射光に比べて、チャンバ2を透過し難い。第一光源1の出射光の透過率を高めるには、チャンバ2の材料に、石英ガラス等、短波長の光でも透過率の高い材料を選択することが求められる。しかしながら、第一光源1をチャンバ2内部に配置すると、第一光源1の出射光がチャンバ2を透過しなくてよいため、チャンバ2に使用可能な材料の選択肢を広げられる。
【0087】
<第三実施形態>
図9Aは第三実施形態のガス分解装置50を示す。図9Bは、図9AのS6-S6線断面図である。図9A及び図9Bに示されるように、ガス分解装置50は、第一光源51と内側チャンバ52を有する。内側チャンバ52は、第一光源51の内部に位置する。第一光源51は、外管53の中に内管54が配置された二重管構造を呈する。第一光源51は、外管53の外壁面に接して外電極55が配置され、内管54の内壁面に接して内電極56が配置される。外管53と内管54との間にはキセノンガス等の発光ガスが充填されて封止されている。外電極55と内電極56との間に電圧を印加することにより、発光ガスの放電空間58が形成され(図9B参照)、第一光L1が放射される(図9A参照)。なお、内電極56及び外電極55は網状を呈しているとよい。
【0088】
内管54は、発光ガスを透過する材料、例えば、石英で構成されている。発光ガスは内管54を透過して内側チャンバ52に到達する。ガス分解装置50は、内側チャンバ52の一端にガス供給口3iを有し、内側チャンバ52の他端にガス排出口3oを有する。ガス供給口3iから内側チャンバ52にガスG1を供給し、被処理ガスであるガスG1に第一光源1から出射される第一光L1を照射し、光照射後のガスG2をガス排出口3oから排出することを続ける。これにより、ガスG1中のNOと炭化水素の分解を連続的に行うことができる。
【0089】
外管53は、例えば石英で構成されている。ガス分解装置50は、外管53の内壁面に、第一光L1を反射する反射膜57が形成されている。発光ガスは外管53の外側に向かって放射され得るところ、外管53の内壁面に反射膜57が形成されていると、外管53の外側に向かおうとしていた第一光L1が内部に折り返すため、内側チャンバ52内の光強度が増加する。
【0090】
ガス分解装置50において、外管53の外径D1は、10mm以上であり50mm以下であるとよく、20mm以上であり40mm以下であるとより好ましい。内管54の外径D2は、2mm以上であり20mm以下であるとよく、4mm以上であり10mm以下であるとより好ましい。
【0091】
図10は第三実施形態の第一変形例のガス分解装置60を示す。ガス分解装置60が、第三実施形態のガス分解装置50と異なる点は、ガス分解装置60が反射膜57を有していないこと、及び外管53の外に外側チャンバ2を有することである。ガス分解装置60は、外側チャンバ2の一端にもガス供給口4iを有し、外側チャンバ2の他端にもガス排出口4oを有する。ガス供給口4iから外側チャンバ2にガスG1を供給し、被処理ガスであるガスG1に第一光源1から出射される第一光L1を照射する。ガス分解装置60は、内側チャンバ52と外側チャンバ2の両方でガスG1を処理できるため、多量のガスを処理でき、第一光L1の利用効率が向上する。
【0092】
図11は第三実施形態の第二変形例のガス分解装置70を示す。ガス分解装置60が、第三実施形態の変形例のガス分解装置60と異なる点は、内側チャンバ52のガス排出口3oが外側チャンバ2のガス供給口4iに接続されている点である。内側チャンバ52において処理されたガスG2は、外側チャンバ2において再び処理されるため、被処理ガスの処理をより効果的に行うことができ、第一光L1の利用効率が向上する。
【0093】
本変形例では、先ず内側チャンバ52を通過した後に外側チャンバ2を通過する実施形態を示しているが、先ず外側チャンバ2を通過した後に内側チャンバ52を通過するようにしても構わない。
【0094】
<第四実施形態>
図12Aは第四実施形態のガス分解装置80を示す。ガス分解装置80は、外側チャンバ(2a,2b)の内部空間に、外側チャンバ(2a,2b)に到達する光を透過する導光部81が設けられている。外側チャンバ(2a,2b)と第一光源1との間に空隙を有するので、導光部81もまた、第一光源1との間に空隙を有する。導光部81は、外側チャンバ(2a.2b)の管壁に接して形成される。空隙では、第一光L1を吸収し難いガス(例えば、窒素ガス)が主成分であるとよい。
【0095】
図12B図12Aの導光部81周辺の拡大図である。図12Bを使用して導光部81の機能を説明する。導光部81は第一光L1をその内部に導き、導光部81の表面で第一光L1を拡散させる。その結果、第一光L1がガスG1に接触する面積が拡大し、光反応がより効果的になる。
【0096】
図12Cは導光部81の上面図であり、具体的には第一光L1が第一光源1から出射する方向と逆向きに第一チャンバ2aの導光部81を見た図である。本実施形態の導光部81は、円柱形状であり、第一チャンバ2a内に複数配置されている。導光部81の配置は規則的に配置されてもよく、不規則に配置されてもよい。導光部81は、円柱形状以外の柱形状(例えば、多角柱形状、又は、楕円柱形状)でもよい。導光部81は、板形状でもよい。また、導光部81は内側チャンバに配置されてもよい。
【0097】
以上で、ガス分解方法と、ガス分解装置の各実施形態及び変形例とを説明した。上記実施形態は、本発明の一例を示すものにすぎず、本発明は、上記した実施形態に何ら限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、上記の実施形態に種々の変更又は改良を加えたり、上記実施形態又は変形例を組み合わせたりすることができる。
【実施例0098】
図13に示す実験設備100を構築した。実験設備100は、ガス分解装置40を組み込んでいる。実験設備100は、空気供給源21、NO供給源22及びCH供給源23を備えている。さらに、実験設備100は、空気供給源21、NO供給源22及びCH供給源23の供給量を制御するためのマスフローコントローラ(24,25,26)と、空気、NO及びCHが混合された被処理ガスの量を検出するためのマスフローメータ27と、を備える。ガス供給口3iは、マスフローメータ27及びマスフローコントローラ(24,25,26)を介して、空気供給源21、NO供給源22及びメタン供給源23に接続されている。
【0099】
空気供給源21は、工場の空気供給配管である。供給される空気は、一定の水分量を有する。空気には、窒素、酸素、及び微量の二酸化炭素等が含まれる。NO供給源22は、NOの充填されたガスシリンダであり、当該ガスシリンダは、実質的にNOのみを含む。CH供給源23は、CHの充填されたガスシリンダであり、当該ガスシリンダは、実質的にCHのみを含む。
【0100】
ガス分解装置40について、第一光源1は、円筒状で長さ800mmのキセノンエキシマランプである。チャンバ2は、内部に第一光源1を配置できる、内径が38mmの円筒状の配管である。配管の両側は、それぞれ、ガス流入路又はガス流出路付き封止部材で封止されている。封止部材の一方には、第一光源1に繋がる電力線が貫通しており、第一光源1は、封止部材を介してチャンバ2の外に位置する制御部5により点灯制御される。
【0101】
三種類のガスG1を準備し、三種類のガスG1をそれぞれガス分解装置10に送り込んでガス分解処理を行った。
試料S1は、空気に、NOを1000ppm加えたガスである。
試料S2は、空気に、CHを1000ppm加えたガスである。
試料S3は、空気に、NOを1000ppm、CHを1000ppm加えたガスである。
【0102】
表1に、ガスG1の試料S1~S3に含まれる成分(空気を除く)をまとめる。
【表1】
【0103】
表2は、ガス分解装置40のガス排出口3oから排出されたガスG2のガス成分の含有量測定結果を示す。各ガス成分はブルカー社製のガス分析装置FT-IR(型式:MATRIX-5)により測定された。
【0104】
【表2】
【0105】
試料S1より、以下の事項が分かる。
ガス分解装置40によりNOが分解された結果、NOが1000ppmから423ppmまで減少した。NOの減少分は、NおよびO、加えて、NOx(NOとNO2)及びHNOに転化した。HOの含有量は、分解前から存在したものと推認される。また、第一光源1より、Oが生成されているはずだが、OはガスG2に含まれていない。これは、NOxサイクル反応によってOを消費したためと考えられる。
【0106】
試料S2より、以下の事項が分かる。
ガス分解装置40により全てのCHが酸化・分解され、CO、HO、Oを生成した。なお、各試料におけるHOとCO含有量について、各試料S1~S3の処理前のガスG1に含まれる空気は、HOとCOを含有しているため、HOとCOの含有量の全てが分解反応によって生成されたものではない。
【0107】
試料S3より、以下の事項が分かる。
試料S3は、試料S1に対してCHが添加されている。CHの添加により、Oを消費するNOxサイクル反応が起こりにくく、十分な量のOとHOにより、試料S1で残留していたNOxがHNOに転化したと考えられる。添加されたCHは、酸化・分解されて、COとHOに変換されたため、CHはガスG2に含まれていない。
【符号の説明】
【0108】
1,51:第一光源
2 :チャンバ
2a :第一チャンバ
2b :第二チャンバ
3i.4i:ガス供給口
3o,4o:ガス排出口
5 :制御部
6 :紫外光透過管
7 :ヒータ
8 :第二光源
11 :排出管
12 :容器
10,15,20,25,30,40,50,60,70,80:ガス分解装置
81 :導光部
21 :空気供給源
22 :一酸化二窒素供給源
23 :CH供給源
24,25,26:マスフローコントローラ
27 :マスフローメータ
52 :内側チャンバ
53 :外管
54 :内管
55 :外電極
56 :内電極
57 :反射膜
58 :放電空間
81 :導光部
100 :実験設備
G1 :(処理前の)ガス
G2 :(処理後の)ガス
L1 :第一光
L2 :第二光
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13