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特開2024-22471アーバスキュラー菌根菌の保管方法および微生物資材
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  • 特開-アーバスキュラー菌根菌の保管方法および微生物資材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022471
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】アーバスキュラー菌根菌の保管方法および微生物資材
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20240208BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20240208BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N1/14 C
C12N1/14 B
A01G7/00 605A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082755
(22)【出願日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2022125147
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勝晴
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AC20
4B065BB10
4B065BC32
4B065BC34
4B065BC46
4B065BD09
4B065BD12
4B065CA49
4B065CA53
(57)【要約】
【課題】保管後も高い発芽能を維持することのできるアーバスキュラー菌根菌の保管方法と、発芽率の高いアーバスキュラー菌根菌の胞子を含む微生物資材を提供すること。
【解決手段】炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養して得たアーバスキュラー菌根菌の胞子を、1℃以上10℃以下で保管するアーバスキュラー菌根菌の保管方法、および、アーバスキュラー菌根菌の胞子を含み、このアーバスキュラー菌根菌が、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養されたものである微生物資材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、前記脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養して得たアーバスキュラー菌根菌の胞子を、1℃以上10℃以下で保管することを特徴とするアーバスキュラー菌根菌の保管方法。
【請求項2】
前記脂肪酸として、少なくともミリスチン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の保管方法。
【請求項3】
アーバスキュラー菌根菌の胞子を含み、
前記アーバスキュラー菌根菌が、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、前記脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養されたものであることを特徴とする微生物資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーバスキュラー菌根菌の保管方法と、アーバスキュラー菌根菌の胞子を含む微生物資材に関する。
【背景技術】
【0002】
菌根菌は、植物と共生して菌根を作り、その菌糸から主としてリンや窒素を吸収して宿主植物に供給することから、化成肥料に代わる微生物資材として期待されている。中でも内生菌根菌の1種であるアーバスキュラー菌根菌(Rhizophagus irregularis)は、多数の宿主植物と共生することができ、さらに、リン等の吸収促進のみならず、耐病性の向上や水分吸収の促進に寄与することから、多様な農作物へ適用可能な微生物資材としての展開が期待されている。
【0003】
アーバスキュラー菌根菌は、宿主植物根を必要とする絶対共生菌であるため、培養するには宿主植物との共培養が必要であった。本発明者らは、特許文献1において、飽和脂肪酸を含む培地を用いるという非常に簡便な方法により、植物を用いることなく、アーバスキュラー菌根菌の単独培養が可能であること、特許文献2において、アーバスキュラー菌根菌の胞子が埋め込まれたゲルを液体培地中に浸漬して培養する固定化培養法により、培養効率が向上し、胞子生産を増加させられることを報告している。
【0004】
これらの培養方法により、アーバスキュラー菌根菌の胞子を容易に得ることができる。そして、培養して得られた胞子は、培養直後は十分な胞子発芽能を備えており、圃場等に散布することで、植物の根に感染(共生)することができる。しかし、低温で数ヶ月保管した胞子を用いたところ、胞子発芽能が大きく低下していることが判明した。
培養した菌体や胞子を、ある程度の期間保管した後も胞子発芽能等の活性を維持できることは、微生物資材として実用化するために非常に重要な要素である。そのため、アーバスキュラー菌根菌を微生物資材として実用化するために、保管後も活性を保てることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-170973号公報
【特許文献2】特開2021-78419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保管後も高い発芽能を維持することのできるアーバスキュラー菌根菌の保管方法と、発芽率の高いアーバスキュラー菌根菌の胞子を含む微生物資材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
1.炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、前記脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養して得たアーバスキュラー菌根菌の胞子を、1℃以上10℃以下で保管することを特徴とするアーバスキュラー菌根菌の保管方法。
2.前記脂肪酸として、少なくともミリスチン酸を含むことを特徴とする1.に記載の保管方法。
3.アーバスキュラー菌根菌の胞子を含み、
前記アーバスキュラー菌根菌が、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、前記脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養されたものであることを特徴とする微生物資材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の保管方法により、アーバスキュラー菌根菌の胞子を長期間保管した後も、発芽能を高く維持することができる。
本発明の微生物資材は、冷蔵倉庫や販売店の冷蔵庫等で長期間に亘って保管した後もその発芽能を保つことができるため、製品取扱性、実用性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】保管後の次世代胞子の発芽率を示すグラフ。
図2】保管後の次世代胞子の発芽率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「保管方法」
本発明のアーバスキュラー菌根菌の保管方法は、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、前記脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養して得たアーバスキュラー菌根菌の胞子を、1℃以上10℃以下で保管することを特徴とする。
【0011】
・アーバスキュラー菌根菌
アーバスキュラー菌根菌は、内生菌根菌であり、グロムス亜門(Glomeromycotina)に属する300種程度の菌類で構成されている。アーバスキュラー菌根菌は陸上植物の7割以上と共生関係を築くことができると推定されている。本発明で使用するアーバスキュラー菌根菌の菌種は、特に限定されず、アーバスキュラー菌根菌のいずれの菌種も用いることができ、例えば、リゾファガス・イレギュラリス(Rhizophagus irregularis)、リゾファガス・クラルス(Rhizophagus clarus)、ギガスポラ・マルガリータ(Gigaspora margarita)などが挙げられる。
【0012】
・培地
本発明で使用する培地は、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含む。本発明の培地が含む脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでもよく、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよい。また、脂肪酸は、遊離の脂肪酸でもその塩でもよく、塩の場合はナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられ、好ましくは水溶性の塩、例えばカリウム塩である。なお、本発明において「含む」とは意図的に添加することを意味し、不純物等として意図せず混入することは意味しない。
脂肪酸としては、具体的には、ミリスチン酸(C14:0)、ペンタデシル酸(C15:0)、パルミチン酸(C16:0)、パルミトレイン酸(C16:1)、マルガリン酸(C17:0)、ステアリン酸(C18:0)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)等が挙げられる。使用する脂肪酸の数は2種以上であれば特に制限されないが、保管性とコストの点から、4種以下が好ましく、3種以下がより好ましい。本発明で使用する培地は、アーバスキュラー菌根菌の増殖を促進する点からミリスチン酸を含むことが好ましく、ミリスチン酸に加え、パルミチン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸の中から選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、保管性の点から、飽和脂肪酸であるミリスチン酸とパルミチン酸の両方と、不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸とオレイン酸の1種以上を含むことがさらに好ましい。
【0013】
培地中の炭素数が14以上18以下である脂肪酸の総濃度は、10μg/mL以上であり、20μg/mL以上が好ましく、50μg/mL以上がより好ましく、100μg/mL以上がさらに好ましい。この脂肪酸の総濃度の上限は、菌根菌の生育を阻害しない程度であれば特に制限されないが、例えば、1g/mL以下であり、100mg/mL以下が好ましく、10mg/mL以下がより好ましく、2mg/mL以下がさらに好ましい。
【0014】
炭素数が14以上18以下である2種以上の脂肪酸の配合比は、任意の脂肪酸の配合量100重量部あたり、いずれの脂肪酸も10重量部以上1000重量部以下であることが好ましく、20重量部以上500重量部以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明で使用する培地は、ストリゴラクトン、有機性窒素源のいずれか、または両方を含むことができる。培地が、ストリゴラクトン、有機性窒素源のいずれか、または両方を含むことにより、アーバスキュラー菌根菌の純粋培養時の胞子の形成量を増加させることができる。有機性窒素源としては、培養に用いられているものを特に制限することなく使用することができ、例えば、ペプトン、麦芽エキス、NZアミン(カゼインの酵素加水分解物)等が挙げられる。
【0016】
ストリゴラクトンは、菌糸分岐誘導物質(Branching factor:BF)として単離同定された物質である。ストリゴラクトンの培地中濃度は、特に制限されないが、例えば、0.1ng/mL以上1mg/mL以下であり、0.5ng/mL以上が好ましく、1ng/mL以上がより好ましく、10ng/mL以上がさらに好ましく、また、0.5mg/mL以下が好ましく、0.1mg/mL以下がより好ましく、10μg/mL以下がさらに好ましい。
有機性窒素源の濃度は、特に制限されないが、例えば、0.01mg/mL以上10mg/mL以下であり、0.02mg/mL以上が好ましく、0.05mg/mL以上がより好ましく、0.1mg/mL以上がさらに好ましく、また、5mg/mL以下が好ましく、2mg/mL以下がより好ましく、1mg/mL以下がさらに好ましい。
【0017】
本発明において、炭素数が14以上18以下である2種以上の脂肪酸、および任意であるストリゴラクトンまたは有機性窒素源は、いわゆる基礎培地に添加される。基礎培地は、アーバスキュラー菌根菌の培養に用いられている培地であれば特に制限することなく用いることができる。基礎培地は必須構成成分として、グルコース、マンノース、キシロース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ラフィノースなどの資化性糖とリン酸水素ナトリウムなどの無機塩を含む培地であり、その他に必要に応じて、酵母粉末や酵母エキス、チアミンやピリドキシンなどの各種ビタミン類、無機酸等のpH調整剤、さらには平板培地作製用の基剤、例えば寒天などを含む。公知である基礎培地として、例えば浜田培地、改変浜田培地、太田培地、OH培地、MMN培地が示される。
【0018】
・培養方法
培養は、公知の方法により行うことができる。液体培地、固体培地、半流動培地のいずれを用いることもできるが、上記特許文献2に記載のゲルに包埋されたアーバスキュラー菌根菌を液体培地に浸漬させる固定化培養法による培養が好ましい。固定化培養の場合、液体培地を、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上とすればよい。
これらの培地に、アーバスキュラー菌根菌の胞子を植菌し、25~35℃、好ましくは28℃付近の適温にて培養する。培養は、コンタミ防止の点から、pH5~7の範囲内で行うことが好ましい。
上記した培地を用いた培養により、植菌したアーバスキュラー菌根菌の胞子から菌糸が成長し、この菌糸からは新たに娘胞子が多数形成され、アーバスキュラー菌根菌の胞子を得ることができる。
【0019】
・保管方法
培養後の胞子を1℃以上10℃以下で保管する。胞子は、ゲルや培養液をそのまま、またはゲルや培養液から抽出し、ろ過・沈殿等した濃縮液等の液状で保管する。胞子を保管するための容器は、密封状態を維持できるものであれば特に制限されず、例えば、プラスチックボトル、スパウト付きパウチ袋等が挙げられる。保管する温度は、雑菌の繁殖を防ぐ観点から、8℃以下が好ましく、6℃以下がより好ましく、一方、凍結を防ぐために、2℃以上が好ましく、3℃以上がより好ましい。
煮沸等で事前に滅菌処理した容器に、アーバスキュラー菌根菌の胞子を少量の酸素(空気)とともに密封して1℃以上10℃以下で保管する。アーバスキュラー菌根菌は、胞子の状態であり、かつ低温で保管されるため、酸素消費量は極僅かであり、酸素(空気)の量は容器の体積の5%以下で十分である。
【0020】
「微生物資材」
本発明の微生物資材は、アーバスキュラー菌根菌の胞子を含み、このアーバスキュラー菌根菌が、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含み、脂肪酸の総濃度が10μg/mL以上である培地で培養されたものである。より具体的な培養条件としては、上記した条件が挙げられる。
本発明の微生物資材は、特定の培地で培養されたアーバスキュラー菌根菌の胞子を含むことにより、発芽性に優れている。なお、本発明の微生物資材が含む特定の培地で培養されたアーバスキュラー菌根菌の胞子が、他の培地で培養されたアーバスキュラー菌根菌の胞子と比較して発芽率に優れている要因を特定することは、脂肪酸とその脂肪酸の代謝により生じた多種多様な成分を特定して解析する必要があり、相当の試行錯誤と実験とを要するため、著しく過大な経済的支出と時間を要し、不可能・非実際的事情が存在する。
【0021】
本発明の微生物資材は、上記した条件で培養されたアーバスキュラー菌根菌の胞子を含めばよく、有機系肥料成分、無機系肥料成分、賦形剤、結合剤、担体等を含むことができる。
本発明の微生物資材は、微生物資材そのまま、あるいはこの微生物資材を含む農業用・園芸用の栽培土、土壌改良材、肥料、栄養剤、活性剤等として、農業用、園芸用、林業用、緑化用等に用いられる。本発明の微生物資材、および微生物資材を含む製品の形態は特に制限されず、粉剤、粒剤、液剤、乳剤、油剤、懸濁剤、水和剤、水溶剤、ペースト剤、カプセル剤、煙霧剤(エアゾール剤)等の任意の製剤形態とすることができる。
【実施例0022】
種菌として、植物(毛状根)との共培養で得られたRhizophagus irregularisの無菌的な胞子を用いた。
「実施例1」
3mM硫酸マグネシウムを含む0.5%ゲランガムを60mmφペトリ皿に5mL流し込み、室温で放置し固化させた。コルクボーラーを用いてゲル中央部に直径8mm、深さ2mmの穴をあけ、そこに1,200個の胞子を含む懸濁液を加えた。胞子懸濁液中の水分が蒸発した後、3mM硫酸マグネシウムを含む0.5%ゲランガムを少量流し込み、室温で放置し固化させた。
次に、5mLの液体培地(0.85g L-1 yeast nitrogen base(MP Biomedicals)、0.5g L-1 Synthetic Complete(Formedium)、2.5mM硫酸アンモニウム、0.5mMグリセロール、2.5mg L-1 チアミン塩酸塩、2.5mg L-1 ニコチン酸、2.5mg L-1 ピリドキサールリン酸)をゲルを覆うように加えた。さらに、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムと終濃度147μg/mL(0.5mM)のパルミチン酸カリウムを混合して液体培地に加え、固定化培養法により培養した。培養はCOインキュベーターを用いて28℃、2%CO、暗所で行った。
4ヶ月の培養後、ペトリ皿ごと冷蔵庫に移し、4℃で保管した。
【0023】
「比較例1」
脂肪酸塩として、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムを単独添加とした以外は、実施例1と同様にして培養、保管した。
「比較例2」
下記に示す液体培地を用いてニンジン毛状根と共培養(4ヶ月)したR.irregularisも同様に冷蔵庫で4℃で保管した。
(培地)
MgSO・7HO:731mg/L、KNO:80mg/L、KCl:65mg/L、KHPO:4.8mg/L、Ca(NO・4HO:288mg/L、Fe(III)EDTA:8mg/L、MnCl・4HO:6mg/L、ZnSO・7HO:2.65mg/L、HBO:1.5mg/L、CuSO・5HO:0.13mg/L、NaMoO・2HO:0.0024mg/L、KI:0.75mg/L、Thiamine-HCl:0.1mg/L、Pyridoxine-HCl:0.1mg/L、Nicotinicacid:0.5mg/L、Myo-inositol:50mg/L、Glycine:3mg/L、Sucrose:1%、ゲランガム:0.4%
【0024】
4℃で1ヶ月間保管した後、次世代胞子(培養期間中に形成された胞子)を実体顕微鏡下でメスとピンセットを用いて1個ずつ切り出した。それぞれ45個以上の次世代胞子を3mM硫酸マグネシウムを含む0.3%ゲランガムに置床し、28℃、2%CO、暗所のCOインキュベーター内で発芽させた。2週間後に実体顕微鏡下で胞子を観察し、発芽管の発生が認められた胞子の割合を求め発芽率とした。結果を図1に示す。
【0025】
・結果
ニンジン毛状根と共培養した比較例2で得られた胞子は、低温保管後も95%の胞子が発芽した。
それに対し、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を1種のみ(ミリスチン酸)含む培地で培養した比較例1で得られた胞子は、低温保管後の発芽率は0%であり、発芽能を喪失していた。
本発明である、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種(ミリスチン酸とパルミチン酸)で培養した実施例1で得られた胞子は、低温保管後も70%の胞子が発芽することができ、保管性に優れていた。ハウス等での共培養の場合は次世代胞子を年に1度程度しか回収することができないが、純粋培養では3ヶ月程度で次世代胞子を回収することができる。本発明の保管方法により、短いサイクルで生産したアーバスキュラー菌根菌を、胞子発芽能を高く保った状態で保管することができるため、アーバスキュラー菌根菌の微生物資材としての実用化に大きく貢献することができる。
【0026】
「実施例2~6、比較例3」
3mM硫酸マグネシウムを含む0.5%ゲランガムを60mmφペトリ皿に5mL流し込み、室温で放置し固化させた。コルクボーラーを用いてゲル中央部に直径8mm、深さ2mmの穴をあけ、そこに500個の胞子を含む懸濁液を加えた。胞子懸濁液中の水分が蒸発した後、3mM硫酸マグネシウムを含む0.5%ゲランガムを少量流し込み、室温で放置し固化させた。
次に、5mLの液体培地(0.85g L-1 yeast nitrogen base(MP Biomedicals)、0.5g L-1 Synthetic Complete(Formedium)、2.5mM硫酸アンモニウム、0.5mMグリセロール、2.5mg L-1 チアミン塩酸塩、2.5mg L-1 ニコチン酸、2.5mg L-1 ピリドキサールリン酸)をゲルを覆うように加えた。
【0027】
さらに、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムと終濃度147μg/mL(0.5mM)のパルミチン酸カリウムを混合したもの(実施例2)、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムと終濃度127μg/mL(0.5mM)の中和パルミトレイン酸(パルミトレイン酸を水酸化カリウムで中和)を混合したもの(実施例3)、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムと終濃度160μg/mL(0.5mM)のオレイン酸カリウムを混合したもの(実施例4)、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムと終濃度147μg/mL(0.5mM)のパルミチン酸カリウムと終濃度127μg/mL(0.5mM)の中和パルミトレイン酸を混合したもの(実施例5)、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウムと終濃度147μg/mL(0.5mM)のパルミチン酸カリウムと終濃度160μg/mL(0.5mM)のオレイン酸カリウムを混合したもの(実施例6)、終濃度133μg/mL(0.5mM)のミリスチン酸カリウム(比較例3)をそれぞれ液体培地に加え、固定化培養法により培養した。培養はCOインキュベーターを用いて28℃、2%CO、暗所で行った。
【0028】
4ヶ月の培養後、ペトリ皿ごと冷蔵庫に移し、4℃で保管した。
4℃で1ヶ月間保管した後、次世代胞子(培養期間中に形成された胞子)を実体顕微鏡下でメスとピンセットを用いて1個ずつ切り出した。それぞれ35個以上の次世代胞子を素寒天に着床し、28℃、2%CO、暗所のCOインキュベーター内で発芽させた。実体顕微鏡下で胞子を観察し、4週間以内に発芽管の発生が認められた胞子の割合を求め発芽率とした。結果を図2に示す。
【0029】
・結果
炭素数が14以上18以下である脂肪酸を1種のみ(ミリスチン酸)含む培地で培養した比較例3で得られた胞子は、低温保管後の発芽率は0%であり、発芽能を喪失していた。
本発明である、炭素数が14以上18以下である脂肪酸を2種以上含む培地で培養した実施例3~6で得られた胞子は、発芽能を保持していた。特に、飽和脂肪酸であるミリスチン酸とパルミチン酸の両方と、不飽和脂肪酸であるパルミトレイン酸とオレイン酸のいずれかを含む実施例5、6で得られた胞子は、80%以上の胞子が発芽することができ、保管性に優れていた。
図1
図2