(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022479
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】易酸化物の酸化発熱量の算出方法、易酸化物の酸素消費速度の算出方法、易酸化物の昇温速度の予測方法および易酸化物の試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/38 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
G01N25/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092786
(22)【出願日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2022125718
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】池田 志保
(72)【発明者】
【氏名】樋口 徹
(72)【発明者】
【氏名】重久 卓夫
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB15
2G040BA04
2G040BA25
2G040CA02
2G040CB03
2G040CB09
2G040CB11
2G040DA03
2G040DA14
2G040DA15
2G040GA01
2G040GA04
2G040HA11
2G040HA16
2G040ZA08
(57)【要約】
【課題】本開示は、易酸化物の酸化による発熱をより高精度に予測するための易酸化物の酸化発熱量の算出方法および易酸化物の試験装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の一態様に係る易酸化物の酸化発熱量の算出方法は、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出工程と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する第二算出工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程と、
算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程と
を備える易酸化物の酸化発熱量の算出方法。
【請求項2】
上記易酸化物が固体燃料である請求項1に記載の易酸化物の酸化発熱量の算出方法。
【請求項3】
上記経時的な易酸化物の温度変化が、上記易酸化物の上昇温度または昇温速度である請求項1に記載の易酸化物の酸化発熱量の算出方法。
【請求項4】
上記経時的な易酸化物の酸素消費量が、上記易酸化物の酸化反応によって消費された酸素の減少量または酸素消費速度である請求項1または請求項3に記載の易酸化物の酸化発熱量の算出方法。
【請求項5】
上記酸化発熱量を算出する工程における上記易酸化物の酸化発熱量の算出に、上記易酸化物を貯蔵している貯蔵容器の水当量を用いる請求項1に記載の易酸化物の酸化発熱量の算出方法。
【請求項6】
上記酸化発熱量を算出する工程における上記易酸化物の酸化発熱量の算出に、上記易酸化物の入出熱を用いる請求項1または請求項5に記載の易酸化物の酸化発熱量の算出方法。
【請求項7】
易酸化物が配置されている容器を密閉する工程と、
密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、
測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程と
を備える易酸化物の酸素消費速度の算出方法。
【請求項8】
上記測定する工程の後に上記容器の密閉を解く工程と、
密閉を解いた上記容器を再び密閉する工程と、
再び密閉した上記容器内で酸素濃度を再び測定する工程と、
再び測定した上記酸素濃度を用いて、再び密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程と
をさらに備え、上記酸素消費速度の経時変化を求める請求項7に記載の易酸化物の酸素消費速度の算出方法。
【請求項9】
上記測定する工程が、
密閉した上記容器内の窒素濃度を測定する手順
を有し、
上記算出する工程が、
基準となる酸素濃度を決定する手順、
測定した上記窒素濃度を基準として、測定した上記酸素濃度を補正する手順、および
上記基準となる酸素濃度から上記補正した酸素濃度を減じて上記易酸化物が消費した酸素量を算出する手順
を有する請求項7に記載の易酸化物の酸素消費速度の算出方法。
【請求項10】
上記算出する工程で、上記容器が密閉されている間の平均酸素濃度に基づいて酸素消費速度を補正する請求項9に記載の易酸化物の酸素消費速度の算出方法。
【請求項11】
密閉された上記容器内の環境が、20℃以上60℃以下の温度、30%RH以上100%RH以下の湿度、および初期状態で大気と同じ組成の酸素と窒素とを含む雰囲気である請求項7または請求項8に記載の酸素消費速度の算出方法。
【請求項12】
上記易酸化物が固体燃料である請求項7または請求項8に記載の易酸化物の酸素消費速度の算出方法。
【請求項13】
易酸化物が酸素の存在する環境で酸化発熱反応によって昇温する際の昇温速度を予測する方法であって、
酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程と、
算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程と、
算出した上記酸化発熱量と、上記環境での易酸化物の酸素消費速度とに基づいて、上記環境における易酸化物の昇温速度を算出する工程と
を備える易酸化物の昇温速度の予測方法。
【請求項14】
易酸化物が配置された容器を密閉する工程と、
密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、
測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程と
をさらに備え、
算出した上記酸素消費速度を上記昇温速度を算出する工程で用いる請求項13に記載の昇温速度の予測方法。
【請求項15】
易酸化物が配置された容器を密閉する工程と、
密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、
測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程と
算出した上記酸素消費速度と、酸素が存在する環境での易酸化物の酸化発熱量とに基づいて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の昇温速度を算出する工程と
を備える易酸化物の昇温速度の予測方法。
【請求項16】
易酸化物を貯蔵する貯蔵容器と、
この貯蔵容器内に酸素を含むガスを供給するガス供給部と、
上記易酸化物の温度を測定する温度測定部と、
上記易酸化物を通過したガスの酸素量を測定する酸素測定部と、
上記温度測定部が測定した温度および上記酸素測定部が測定した酸素量から経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出部と、
算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する第二算出部と
を備える易酸化物の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、易酸化物の酸化発熱量の算出方法、易酸化物の酸素消費速度の算出方法、易酸化物の昇温速度の予測方法および易酸化物の試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、石炭、バイオマス燃料などの固体燃料は、火力発電所などの発電用燃料としてボイラーに投入される前に、サイロに貯蔵され、またはパイル(山積みにした固体燃料層)を形成して貯蔵される。石炭、バイオマス燃料などは容易に酸化しやすい易酸化物であり、貯蔵されている最中に低温で酸化することで発熱し、自然発火をすることがある。
【0003】
パイルとして貯蔵される石炭の物性値を解析することで石炭の自然発火を予測する方法が知られている(特開2015-132575号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、石炭の物性値を決定し、決定された物性値に基づいて石炭層内の温度分布の経時変化の予測値を解析により決定することが記載されている。このようにすることで、実物のパイルを形成した際における上記石炭が自然発火する時および位置を予測できるとしている。易酸化物の酸化のし易さ、すなわち易酸化物の発熱のし易さは、その性状によって異なる。易酸化物の自然発火による火災などを防ぐことの確実性を向上するため、より高精度に易酸化物の発熱を予測することが求められている。
【0006】
近年では、カーボンニュートラルを目的としてバイオマス燃料や新しい固体燃料を用いる取り組みがなされている。また、固体燃料としての石炭も多品種に及んでいる。新しい固体燃料は、将来の利用を見据えて、保管時における発熱の予測をする必要がある。新しい固体燃料は、大量確保が困難なことがあり、限られた試料で発熱の予測を要求されることがある。易酸化物の発熱のし易さを示す指標の一つとして酸化発熱量と酸素消費速度とがある。易酸化物における酸化発熱量および酸素消費速度の少なくとも一つが特定できれば、限られた試料であっても、発熱の予測をすることができる。このため、本発明者らは、酸化発熱量および酸素消費速度を算出する方法について鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本開示は、易酸化物の酸化反応による発熱の予測を可能とする、易酸化物の酸化発熱量の算出方法、易酸化物の酸素消費速度の算出方法、易酸化物の昇温速度の予測方法および易酸化物の試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る易酸化物の酸化発熱量の算出方法は、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程とを備える。
【0009】
上記課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る易酸化物の酸素消費速度の算出方法は、易酸化物が配置されている容器を密閉する工程と、密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程とを備える。
【0010】
上記課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る易酸化物の昇温速度の予測方法は、易酸化物が酸素の存在する環境で酸化発熱反応によって昇温する際の昇温速度を予測する方法であって、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程と、算出した上記酸化発熱量と、上記環境での易酸化物の酸素消費速度とに基づいて、上記環境における易酸化物の昇温速度を算出する昇温速度算出工程とを備える。
【0011】
上記課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る易酸化物の昇温速度の予測方法は、易酸化物が配置された容器を密閉する工程と、密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程と算出した上記酸素消費速度と、酸素が存在する環境での易酸化物の酸化発熱量とに基づいて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の昇温速度を算出する工程とを備える。
【0012】
上記課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る易酸化物の試験装置は、易酸化物を貯蔵する貯蔵容器と、この貯蔵容器内に酸素を含むガスを供給するガス供給部と、上記易酸化物の温度を測定する温度測定部と、上記易酸化物を通過したガスの酸素量を測定する酸素測定部と、上記温度測定部が測定した温度および上記酸素測定部が測定した酸素量から経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出部と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する第二算出部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様に係る易酸化物の酸化発熱量の算出方法、易酸化物の酸素消費速度の算出方法、易酸化物の昇温速度の予測方法、および易酸化物の試験装置は、易酸化物の酸化反応による発熱を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る易酸化物の試験装置を示す概念図である。
【
図2】
図2は、追従法による恒温槽内の温度変化と易酸化物の温度変化とを示すグラフである。
【
図3】
図3は、定温法による恒温槽内の温度変化と易酸化物の温度変化とを示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係る易酸化物の酸化発熱量の算出方法のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に係る易酸化物の酸素消費速度の算出方法のフローチャートである。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に係る易酸化物の酸素消費速度の算出方法で用いる容器を示す模式的側面図である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に係る易酸化物の酸化発熱量の算出方法で、複数の異なる種類の石炭の酸化発熱量を算出した値を示すグラフである。
【
図8】
図8は、
図7の算出結果に、貯蔵容器への熱伝達を考慮に入れるために貯蔵容器の水当量を用いて酸化発熱量を補正した値を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図8のグラフのA炭について、追従法で試験した結果と定温法で試験した結果を異なる記号で表示したグラフである。
【
図10】
図10は、
図9の算出結果に、周囲環境から石炭への入出熱を考慮して補正した値を示すグラフである。
【
図11】
図11は、ガス供給工程後の恒温槽の温度変化および石炭の温度変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は、恒温槽内の温度および石炭の温度の差と、石炭の温度変化の傾きとの関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、石炭の酸素消費速度の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
本開示の一態様に係る易酸化物の酸化発熱量の算出方法(以下、当該酸化発熱量算出方法ともいう)は、易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量を酸化発熱量として求めるものである。この反応は火炎を伴わない低い温度域での酸化反応である。
【0017】
一般に、易酸化物が酸化反応によって酸素を消費する速度には、時間依存性、酸素濃度依存性、温度依存性があり、その環境に応じて変化する。つまり、ラボで測定した時の酸素消費速度と、実際の貯蔵環境での酸素消費速度は必ずしも一致しないことがある。例えば、易酸化物の昇温速度を求めるために使用するパラメータとして、易酸化物の体積および時間当たりの発熱量[cal/cm3/sec]を用いた場合、上記易酸化物の酸素消費速度の変化を考慮できず、予測される昇温速度と実際の貯蔵環境での昇温速度とで乖離が生じてしまうことがある。これに対して当該酸化発熱量算出方法では、易酸化物が単位量の酸素を消費する際に発生する熱量を酸化発熱量として求めるので、酸化による昇温速度を高精度に予測することができる。
【0018】
さらに、本開示の一態様では、酸素消費速度を求めている。この酸素消費速度は、上述の酸素濃度依存性、温度依存性を排除できるように、所定時間に密閉した容器内で易酸化物が酸化反応したことによる酸素濃度の変化を測定し、この測定値から算出している。このため、易酸化物の酸素消費速度を精度よく算出することができる。酸素消費速度は、それ自体を易酸化物の発熱性の評価として用いることができ、あるいは上記易酸化物の昇温速度の算出に用いることで上記昇温速度をより高精度に予測することができる。
【0019】
(1)当該酸化発熱量算出方法は、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程(以下、第一算出工程ともいう)と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程(以下、第二算出工程ともいう)とを備える。
【0020】
例えば石炭では、サイロにおける石炭層またはパイルを形成する石炭層における通気量、水分蒸発量、発熱量などを実測することで発熱予測の技術を発展させることができた。一方で、大量確保が困難な新しい固体燃料(例えば、バイオマス燃料)などの易酸化物では、実貯蔵時のような大規模な固体燃料層を形成して実測することが困難なことがあるため、シミュレーションによって得られる予測値を、大規模な試験を行って測定した値と比較することで発熱予測の技術を発展させることが容易ではない。これに対して、当該酸化発熱量算出方法は、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と上記易酸化物を通過したガスの酸素量とを同時に測定するため、少量の試料(易酸化物)でも行うことができる。また、当該酸化発熱量算出方法は、上記測定による測定値から上記易酸化物の経時的な温度変化および酸素消費量を算出し、この算出値と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて酸化発熱量をさらに算出しているため、上記易酸化物の酸化発熱量を精度よく得ることができる。
【0021】
(2)上記(1)において、上記易酸化物が固体燃料であってもよい。すなわち、当該酸化発熱量算出方法は、固体燃料の酸化発熱量の算出に特に適している。
【0022】
(3)上記(1)または上記(2)において、上記経時的な易酸化物の温度変化が、上記易酸化物の上昇温度または昇温速度であってもよい。すなわち、上記第一算出工程で、経時的な易酸化物の温度変化を、上記易酸化物の温度上昇の程度(温度差)、または上記易酸化物の昇温速度を算出するとよい。このようにすることで、上記易酸化物の酸化発熱量を精度よく得ることができる。
【0023】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかにおいて、上記経時的な易酸化物の酸素消費量が、上記易酸化物の酸化反応によって消費された酸素の減少量または酸素消費速度であってもよい。すなわち、上記第一算出工程で、経時的な易酸化物の酸素消費量を、上記ガス中の酸素の減少量または上記ガス中の酸素が消費された速度を算出してもよい。このようにすることで、上記易酸化物の酸化発熱量を精度よく得ることができる。
【0024】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれかにおいて、上記第二算出工程における上記易酸化物の酸化発熱量の算出に、上記易酸化物を貯蔵している貯蔵容器の水当量を用いてもよい。このようにすることで、上記易酸化物の酸化発熱量をより精度よく得ることができる。
【0025】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれかにおいて、上記第二算出工程における上記易酸化物の酸化発熱量の算出に、上記易酸化物の入出熱を用いてもよい。このようにすることで、上記易酸化物の酸化発熱量をさらに精度よく得ることができる。
【0026】
(7)本開示の一態様に係る易酸化物の酸素消費速度の算出方法(以下、酸素消費速度算出方法ともいう)は、易酸化物が配置されている容器を密閉する工程と、密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程とを備える。
【0027】
当該酸素消費速度算出方法は、易酸化物を配置して密閉した容器の酸素濃度を測定し、この酸素濃度から上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出している。すなわち、上記易酸化物が実際に消費した酸素を測定し、この測定値から算出しているため、易酸化物の酸素消費速度を高精度に得ることができる。
【0028】
(8)上記(7)において、上記測定する工程の後に上記容器の密閉を解く工程と、密閉を解いた上記容器を再び密閉する工程と、再び密閉した上記容器内で酸素濃度を再び測定する工程と、再び測定した上記酸素濃度を用いて、再び密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程とをさらに備え、上記酸素消費速度の経時変化を求めてもよい。上記酸素消費速度の経時変化を求めることで、易酸化物の発熱性を高精度に評価することができる。
【0029】
(9)上記(7)または上記(8)において、上記測定する工程が、密閉した上記容器内の窒素濃度を測定する手順を有し、上記算出する工程が、基準となる酸素濃度を決定する手順、測定した上記窒素濃度を基準として、測定した上記酸素濃度を補正する手順、および上記基準となる酸素濃度から上記補正した酸素濃度を減じて上記易酸化物が消費した酸素量を算出する手順を有してもよい。窒素濃度を基準として酸素濃度を補正することで、酸素消費速度の正確性を向上することができる。
【0030】
(10)上記(7)から上記(9)のいずれかにおいて、上記算出する工程で、上記容器が密閉されている間の平均酸素濃度に基づいて酸素消費速度を補正してもよい。このようにすることで、酸素消費速度の正確性をより向上することができる。
【0031】
(11)上記(7)から上記(10)のいずれかにおいて、密閉された上記容器内の環境が、20℃以上60℃以下の温度、30%RH以上100%RH以下の湿度、および初期状態で大気と同じ組成の酸素と窒素とを含む雰囲気であってもよい。密閉された上記容器内を上記環境とすることで、上記易酸化物が実際に貯蔵される環境に近似した条件で酸素消費速度を求めることができる。
【0032】
(12)上記(7)から上記(11)のいずれかにおいて、上記易酸化物が固体燃料であってもよい。すなわち、当該酸素消費速度の算出方法は、固体燃料の酸素消費速度の算出に特に適している。
【0033】
(13)本開示の一態様に係る易酸化物の昇温速度の予測方法は、易酸化物が酸素の存在する環境で酸化発熱反応によって昇温する際の昇温速度を予測する方法であって、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程と、上記算出した酸化発熱量と、上記環境での易酸化物の酸素消費速度とに基づいて、上記環境における易酸化物の昇温速度を算出する工程とを備える。
【0034】
当該易酸化物の昇温速度の予測方法(以下、当該予測方法ともいう)は、易酸化物が酸素の存在する環境で酸化による発熱反応によって昇温する際の昇温速度を予測するものである。当該予測方法は、易酸化物が単位量あたりの酸素を消費する際に発生する熱量を酸化発熱量として求め、この酸化発熱量と上記易酸化物の酸素消費速度とを用いて昇温速度を算出するので、上記昇温速度を精度よく予測することができる。
【0035】
(14)上記(13)において、易酸化物が配置された容器を密閉する工程と、密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程とをさらに備え、算出した上記酸素消費速度を上記昇温速度を算出する工程で用いてもよい。当該予測方法で、当該酸素消費速度算出方法で求めた酸素消費速度を用いることで、上記昇温速度をより精度よく予測することができる。
【0036】
(15)本開示の一態様に係る易酸化物の昇温速度の予測方法は、易酸化物が配置された容器を密閉する工程と、密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程と、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程と算出した上記酸素消費速度と、酸素が存在する環境での易酸化物の酸化発熱量とに基づいて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の昇温速度を算出する工程とを備える。
【0037】
当該予測方法は、易酸化物が消費する酸素の速度に基づいて昇温速度を予測するものである。当該予測方法は、易酸化物を配置して密閉した容器内で変化する酸素濃度の変化から酸素消費速度を求め、この酸素消費速度と上記易酸化物の酸化発熱量とを用いて昇温速度を算出するので、上記昇温速度を精度よく予測することができる。
【0038】
(16)本開示の一態様に係る易酸化物の試験装置は、易酸化物を貯蔵する貯蔵容器と、この貯蔵容器内に酸素を含むガスを供給するガス供給部と、上記易酸化物の温度を測定する温度測定部と、上記易酸化物を通過したガスの酸素量を測定する酸素測定部と、上記温度測定部が測定した温度および上記酸素測定部が測定した酸素量から経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出部と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する第二算出部とを備える。
【0039】
当該試験装置は、上記易酸化物の温度を測定する温度測定部と、上記易酸化物を通過したガスの酸素量を測定する酸素測定部とを備えるため、上記易酸化物の温度を測定するのと同時に上記易酸化物の酸素消費量を測定できる。このため、上記易酸化物における温度の変化と酸素消費の変化とを同時に監視することができる。また、上記温度測定部が測定した温度および上記酸素測定部が測定した酸素量から経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出部と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物の酸化発熱量を算出する第二算出部とを備えるため、上記易酸化物の酸化発熱量を人手に頼らずに精度よく算出することができる。
【0040】
なお、「易酸化物」とは、石炭、バイオマス、鉄粉など、固体であるものを意味する。「酸化発熱量」とは、易酸化物が単位量あたりの酸素と結合して酸化する際に発生する熱量を意味し、単位としては、例えば[kcal/kg-O2]が挙げられる。「酸素消費速度」とは、易酸化物が単位量あたりの酸素を消費した速度を意味し、単位としては、例えば[kg-O2/kg/min]または[mg-O2/g/day]が挙げられる。
【0041】
[発明を実施するための形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳説する。
【0042】
<試験装置>
当該酸化発熱量算出方法は、
図1で示す試験装置1によって行われる。試験装置1は、易酸化物を貯蔵する貯蔵容器2と、この貯蔵容器2に酸素を含むガスを供給するガス供給部3と、上記易酸化物の温度を測定する温度測定部4と、上記易酸化物を通過したガスの酸素量を測定する酸素測定部5とを主に備える。温度測定部4による易酸化物の温度測定と、酸素測定部5によるガスの酸素量の測定とは同時に行われる。試験装置1は、上記易酸化物を昇温または保温するための恒温槽6をさらに備える。当該試験装置1は、ガス供給部3、温度測定部4および酸素測定部5を制御するための制御部を含む。上記制御部は、ガス供給部3、温度測定部4および酸素測定部5と信号の送受信を行う。
【0043】
また、当該試験装置1は、温度測定部4が測定した温度および酸素測定部5が測定した酸素量から上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出部と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量をさらに算出する第二算出部とをさらに備える。
図1で示す試験装置1は、上記第一算出部、上記第二算出部および上記制御部を一体的に有する算出部7を備える。算出部7は、ガス供給部3、温度測定部4および酸素測定部5と制御ライン8を介して電気的に接続されている。上記第一算出部、上記第二算出部および上記制御部は、それぞれ別体に配置されてもよい。
【0044】
〔貯蔵容器〕
貯蔵容器2は、有底筒状の本体21と、この本体21の開口を開閉可能な蓋22とを有する。貯蔵容器2は、内部に易酸化物を貯蔵するための容器である。貯蔵容器2は、恒温槽6内に設置される。
【0045】
〔易酸化物〕
易酸化物は、酸化発熱反応をする固体であれば特に限定されるものではないが、例えば、燃料用石炭、バイオマス燃料などの固体燃料、鉄粉等が挙げられる。上記易酸化物の形状としては、特に限定されるものではないが、例えば粉体として貯蔵容器2内に易酸化物層Xとして貯蔵される。粉体にされる上記易酸化物の粒径などは、その物性に応じて適宜選択されてよい。
【0046】
〔ガス供給部〕
ガス供給部3は、酸素を含むガスを貯蔵容器2内に供給する。上記ガスとしては、特に限定されるものではなく、酸素からなるガス、空気などであってもよい。ガス供給部3は、ガス供給器31と、このガス供給器31および貯蔵容器2を連通するガス供給管32とを含む。ガス供給器31としては、特に限定されるものではなく、例えばコンプレッサーが挙げられる。ガス供給管32は、貯蔵容器2内に配置される開口33から上記ガスを排出する。開口33は、貯蔵容器2内の易酸化物層X内の下方(貯蔵容器2の底部側)に配置されるとよい。このようにすることで、易酸化物層Xを形成する易酸化物の全体に効率的に上記ガスを接触させることができる。
【0047】
ガス供給管32の一部は、恒温槽6内に配設される。恒温槽6内に配設されるガス供給管32の一部は、恒温槽6内に長く配設されることが好ましい。このようにすることで、上記ガスを恒温槽6内の温度と略同一の温度にして供給することができる。
【0048】
恒温槽6による温度の制御方法としては、追従法と定温法との二通りがある。追従法は、恒温槽6内を昇温する。具体的には、恒温槽6内の温度を貯蔵容器2内の易酸化物の温度上昇に追従させつつ上記易酸化物の温度測定および酸素消費量測定を行う(
図2参照)。易酸化物は、酸素を含むガスが供給されることで酸化反応をして発熱し、この発熱温度によって温度が上昇する。恒温槽6は、上記易酸化物の上昇する温度に恒温槽6内の温度が略同一になるように制御される。上記ガスは、ガス供給管32の一部を恒温槽6内に長く配設されることで、恒温槽6内の温度と略同一の温度(上記易酸化物の温度と略同一の温度)に昇温されつつ供給される。
図2では、恒温槽6内の温度が昇温している易酸化物よりもわずかに高いので、上記易酸化物は、恒温槽6によって、貯蔵容器2および上記ガスを介して加熱(入熱)される。定温法は、恒温槽6内を保温する。具体的には、恒温槽6内の温度を一定にして上記易酸化物の温度測定および酸素消費量測定を行う(
図3参照)。恒温槽6は、上記易酸化物の昇温に関わらず、一定の温度に保たれるように制御される。上記ガスは、ガス供給管32の一部を恒温槽6内に長く配設されることで、常に一定の温度(恒温槽6内の温度と略同一の温度)で供給される。すなわち、定温法では、恒温槽6によって、貯蔵容器2と共に上記ガスも一定の温度に維持される。易酸化物は、供給される上記ガス中の酸素による酸化発熱によって温度上昇し続けるため、定温法では、上記易酸化物の温度は、恒温槽6内の温度(貯蔵容器2の温度および上記ガスの温度)との差が拡大し、減熱(出熱)される。
【0049】
〔温度測定部〕
温度測定部4は、貯蔵容器2内に貯蔵されている易酸化物の温度を測定する。温度測定部4は、温度計41と、この温度計41を保持する保持部分42と、温度計41が測定した温度を受信する温度計測器43とを含む。温度計測器43は、後述する算出部と一体化されていてもよい。温度計41と温度計測器43とは、温度測定ライン44で電気的に接続されている。
【0050】
温度計41は、易酸化物層X内に配設されている。温度計41としては、特に限定されるものではないが、例えば熱電対である。温度計41の配置としては、特に限定されるものではないが、例えば鉛直方向で、易酸化物層X内の下方側、上方側、およびこの二つの中間部に計三つが配置される。
【0051】
〔酸素測定部〕
酸素測定部5は、易酸化物層Xを通過したガスの酸素量を測定する。酸素測定部5は、酸素測定器51と、この酸素測定器51に貯蔵容器2内のガスを排出するガス排出管52と、酸素測定器51およびガス排出管52を連通するガス連通路53とを含む。酸素測定器51としては、特に限定されるものではないが、例えば質量分析計またはガスクロマトグラフが挙げられる。ガス排出管52は、貯蔵容器2の内部に向けて開口している排出口54を有し、この排出口54から上記ガスが流出する。排出口54は、易酸化物層Xから離間して貯蔵容器2の蓋22の近傍に配置されるとよい。このようにすることで、易酸化物層Xを通過したガスを効率よく貯蔵容器2から排出させることができる。
【0052】
〔算出部〕
当該試験装置1は、温度測定部4が測定した温度および酸素測定部5が測定した酸素量から経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する第一算出部と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する第二算出部とを備える。
【0053】
〔第一算出部〕
第一算出部は、温度測定部4が測定した温度および酸素測定部5が測定した酸素量から易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する。具体的には、貯蔵容器2内に貯蔵されている易酸化物の温度の経時的な変化を監視して、所定の測定間隔における上記易酸化物の上昇温度[℃]、または上記易酸化物の昇温速度[℃/min]を算出すると共に、貯蔵容器2から排出されるガス中の酸素量の経時的な変化を監視して、所定の測定間隔における上記易酸化物の酸化反応によって消費された酸素の減少量[kg-O2]、または酸素消費速度[kg-O2/kg/min]を算出する。
【0054】
〔第二算出部〕
第二算出部は、上記第一算出部が算出した上記温度変化率および上記酸素消費率と易酸化物の重量および比熱とに基づいて、易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する。
【0055】
[易酸化物の酸化発熱量の算出方法]
当該易酸化物の酸化発熱量の算出方法は、
図4で示すように、酸素を含むガスが流通している易酸化物の温度と、上記易酸化物を通過した上記ガス中の酸素量とを測定し、経時的な上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する工程S03と、算出した上記温度変化および上記酸素消費量と上記易酸化物の重量および比熱とに基づいて、上記易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量である酸化発熱量を算出する工程S04とを備える。当該酸化発熱量算出方法は、上記温度変化および酸素消費量を算出する工程S03の前に易酸化物を貯蔵容器2に充填して易酸化物層Xを形成する工程S01と、恒温槽6で昇温または保温される貯蔵容器2内の易酸化物に、酸素を含むガスを供給する工程S02とを有する。
【0056】
〔易酸化物層を形成する工程〕
易酸化物層X形成する工程(易酸化物層形成工程)S01では、易酸化物を貯蔵容器2内に充填して易酸化物層Xを形成する。続いて、内部に易酸化物層Xが形成された貯蔵容器2を恒温槽6に収容する。
【0057】
〔ガスを供給する工程〕
ガスを供給する工程(ガス供給工程)S02では、恒温槽6によって昇温または保温される貯蔵容器2内の易酸化物に、酸素を含むガスを供給する。具体的には、追従法では恒温槽6内の温度を上昇させつつ、または定温法では恒温槽6内の温度を一定に維持しつつ、貯蔵容器2の内部に充填された易酸化物に上記ガスを供給する。
図2で示す追従法では、恒温槽6内で昇温される貯蔵容器2および上記ガスによって上記易酸化物は入熱される。
図3で示す定温法では、恒温槽6内で一定温度に維持される貯蔵容器2および上記ガスによって上記易酸化物は出熱される。
【0058】
〔温度変化および酸素消費量を算出する工程〕
温度変化および酸素消費量を算出する工程(第一算出工程)S03では、易酸化物の温度と易酸化物を通過したガスの酸素量とを測定して上記易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出する。具体的には、温度計測部4は、上記易酸化物層内に配置された温度計41によって得られた値を算出部7に送信する。算出部7は、易酸化物の経時的な温度上昇、すなわち昇温速度TS[℃/min]を算出する。同時に、酸素測定部5は、貯蔵容器2からガス排出管52を介して排出されたガス中の酸素量を測定した値を算出部7に送信する。算出部7は、易酸化物が消費した酸素量の経時的な変化、すなわち酸素消費速度OCR[kg-O2/kg/min]を算出する。
【0059】
〔酸化発熱量を算出する工程〕
酸化発熱量を算出する工程(第二算出工程)S04では、算出した上記温度変化率および上記酸素消費率と易酸化物の重量GT[kg]および比熱SH[kcal/kg/℃]とに基づいて、易酸化物の酸化発熱量Vh[kcal/kg-O2]を算出する。具体的には、下記式1を用いて算出する。
Vh = TS × SH × GT ÷ OCR ・・・・(1)
上記式1において、TSは、上記第一算出工程で算出した易酸化物の昇温速度[℃/min]、SHは、易酸化物の比熱[kcal/kg/℃]、GTは、貯蔵容器2内の易酸化物の総重量[kg]、およびOCRは、上記第一算出工程で算出した易酸化物による単位時間当たりの酸素消費速度[kg-O2/kg/min]である。
【0060】
上記式1に貯蔵容器2の水当量をさらに用いることが好ましい。具体的には、易酸化物の比熱SH[kcal/kg/℃]に易酸化物の重量GT[kg]を乗じた値に貯蔵容器2の水当量WSを加えることが好ましい。ここで、易酸化物の比熱SH[kcal/kg/℃]に易酸化物の重量GT[kg]を乗じたものは易酸化物の水当量WC[kcal/℃]である。すなわち、易酸化物の比熱SHに易酸化物の重量GTを乗じた値に貯蔵容器2の水当量WSを加えた値は、易酸化物の水当量WCに貯蔵容器2の水当量WSを加えた値である。恒温槽6による易酸化物の加熱に伴い貯蔵容器2も加熱されて温度上昇するため、貯蔵容器2の水当量WS[kcal/℃]を用いて算出することで、算出する酸化発熱量の正確性が向上する。具体的には、上記式1を下記式2として酸化発熱量Vh[kcal/kg-O2]を算出することが好ましい。
Vh = TS × (WC + WS) ÷ OCR ・・・・(2)
上記式2において、WCは、易酸化物の水当量[kcal/℃]、WSは、貯蔵容器の水当量[kcal/℃]である。
【0061】
上記式1または上記式2に、易酸化物の入出熱を用いることがより好ましい。具体的には、下記式3で補正係数Fを算出し、この補正係数を上記式1または上記式2で算出した酸化発熱量Vhの値に乗ずることが好ましい。
F = (TK - TC) ÷ TK ・・・・(3)
上記式3において、TKは、所定の測定時間における易酸化物の上昇温度[℃]、TCは、所定の測定時間における、外部から易酸化物への入熱による易酸化物の上昇温度[℃]、または易酸化物から外部への出熱による易酸化物の下降温度[℃]であり、入熱の場合は正の値、出熱の場合は負の値となる。
【0062】
上述のように、上記追従法では、
図2の場合、恒温槽6の温度が易酸化物よりも高いため、易酸化物には入熱となり、上記定温法では、恒温槽6内の温度が一定であるため、易酸化物には出熱となる。上述のように、外部から易酸化物への入熱や易酸化物から外部への出熱の影響も考慮して補正することにより、より精度よく酸化発熱量を算出することができる。追従法における恒温槽6内の温度と易酸化物の温度との差ΔT[℃]、または定温法における易酸化物の温度と恒温槽6内の温度との差ΔT[℃]に、特別伝熱係数Kと、測定時間M[min]とを乗じた値が入出熱T
Cである。具体的には、入出熱T
C[℃]は下記式4で算出する。
T
C = ΔT × K × M ・・・・(4)
【0063】
特別伝熱係数Kは、測定系に固有の値であり、以下のようにして予め算出しておく。
・供給されるガスの温度(恒温槽6内の温度)および易酸化物の温度が室温よりも高温で同一温度となる状況をつくる。
・恒温槽6による加熱およびガス供給部3によるガス供給を停止し、恒温槽6の温度および易酸化物の温度を測定する。恒温槽6および易酸化物の温度降下速度には差が生じる(
図11参照)。
・易酸化物の温度と恒温槽6の温度との温度差ΔT1、および易酸化物の温度T2の傾き(dT2/dt)を算出する。
・ΔT1とdT2/dtの関係をプロットする(
図12参照)。
・貯蔵容器2内の残存酸素が減少して易酸化物の酸化反応が尽きると、上記プロットの傾きが漸近するので、上記プロットの傾きが漸近した範囲における近似曲線の係数の平均値を算出して特別伝熱係数Kとする。例えば、
図12では515分以降でプロットの傾きが漸近しているため、515分以降のそれぞれの時間区間におけるプロットの傾きの平均値を算出して特別伝熱係数Kとする。
【0064】
なお、特別伝熱係数Kは試料である易酸化物の量や種類に応じて変化する。よって、貯蔵容器2に入れる易酸化物の重量や種類を変更した場合、特別伝熱係数Kを補正することが好ましい。具体的には、下記式5によって補正後の特別伝熱係数KCを算出する。
KC = K × (WS + SH × GT) ÷
(WS + SH1 × GT1) ・・・・(5)
上記式5において、WSは、貯蔵容器2の水当量[kcal/℃]、SHは、種類を変更する前の易酸化物の比熱[kcal/kg/℃]、SH1は、種類を変更した後の易酸化物の比熱[kcal/kg/℃]、GTは、重量を変更する前の易酸化物の重量[kg]、GT1は、重量を変更した後の易酸化物の重量[kg]である。
【0065】
[易酸化物の酸素消費速度の算出方法]
当該酸素消費速度算出方法は、
図5で示すように、易酸化物が配置されている容器を密閉する工程S11と、密閉した上記容器内の酸素濃度を測定する工程S12と、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程S16とを備える。
【0066】
当該酸素消費速度算出方法は、上記測定する工程S12の後に上記容器の密閉を解く工程S13と、密閉を解いた上記容器を再び密閉する工程S14と、再び密閉した上記容器内で酸素濃度を再び測定する工程S15と、再び測定した上記酸素濃度を用いて、再び密閉した上記容器内における上記易酸化物の単位量あたりの酸素消費速度を算出する工程とをさらに備え、上記酸素消費速度の経時変化を求めることが好ましい。この酸素消費速度を算出する工程は、上記酸素消費速度を算出する工程S16と同一の工程である。
【0067】
当該易酸化物の酸素消費速度の算出方法は、例えば、
図6に示すような容器100に易酸化物Yを配置して密閉する。容器100は、易酸化物Yを収容する容器本体110と、この容器本体110を密閉する容器蓋120とを有する。容器本体110の容積としては、特に限定されるものでなく、例えば100ml以上500ml以下とすることができる。
【0068】
〔密閉する工程〕
密閉する工程(密閉工程)S11では、易酸化物Yが配置されている容器100を密閉する。具体的には、容器本体110内に易酸化物Yを配置し、易酸化物Yを配置した容器本体110を容器蓋120で密閉する。容器100内に配置される易酸化物の量としては、特に限定されるものではなく、例えば10g以上100g以下とすることができる。
【0069】
密閉された容器100内の環境は、20℃以上60℃以下の温度、30%RH以上100%RH以下の湿度、および初期状態で大気と同じ組成の酸素と窒素とを含む雰囲気であることが好ましい。このようにすることで、密閉された容器100内の環境を易酸化物Yが実際に保管される環境と略同一の環境とすることができる。
【0070】
(易酸化物)
易酸化物Yは、固体燃料であることが好ましい。固体燃料としては、酸化発熱反応をするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、燃料用石炭、バイオマス燃料などが挙げられる。容器100内に配置する易酸化物Yは、酸化が進行していないものが好ましい。易酸化物Yは、粉砕、乾燥などの加工がされることなく、実際に保管される態様で容器100内に配置されることが好ましい。このようにすることで、易酸化物Yが保管される際の酸素消費速度を精度よく算出することができる。ただし、易酸化物Yの状態を揃える等の目的で、乾燥処理などを行ってもよい。乾燥処理などを行った易酸化物Yは、酸化とは無関係な酸素消費をすることがあるため、容器100内に配置する前に0.5時間以上1.0時間以下程度、常温で大気に接触させることが好ましい。
【0071】
固体燃料は、サイロなどの貯蔵施設内で保管され、または施設外で山積み(パイル)で保管されることがある。このような保管状態における中心部の固体燃料は、酸素(大気)との接触が著しく低減することがある。このような条件下の固体燃料の酸素消費速度を算出する場合、容器100内の環境を低酸素雰囲気することが好ましい。すなわち、当該酸素消費速度算出方法は、保管される環境に応じた固体燃料の酸素消費速度を求めることができる。
【0072】
〔測定する工程〕
測定する工程(測定工程)S12では、密閉した容器100内の酸素濃度を測定する。酸素濃度を測定する方法としては、特に限定されるものではないが、容器蓋20にシリンジ(不図示)を差し込んで容器100内のガスを回収し、ガスクロマトグラフ等の分析装置(不図示)で回収したガスの酸素濃度を測定してもよい。この場合、容器蓋120に上記シリンジ用の貫通孔を予め設け、測定時以外では上記貫通孔を封止しておくことが好ましい。
【0073】
測定工程S12では、容器100を密閉して一定時間経過後の酸素濃度を測定する。密閉から測定するまでの時間(密閉時間)の下限値としては、特に限定されるものではなく、0.5時間であってもよく、1.0時間、1.5時間、2.0時間、2.5時間、3.0時間、3.5時間、または4.0時間であってもよい。容器100を密閉して一定時間経過後の酸素濃度を測定することで、その一定時間あたりに易酸化物Yが消費したことによる酸素の濃度変化を測定することができる。
【0074】
〔密閉を解く工程〕
密閉を解く工程(開放工程)S13では、上記測定する工程の後に容器100の密閉を解く。すなわち、密閉した容器100内の酸素濃度を測定した後、容器本体110から容器蓋120を取り外し、易酸化物Yを大気に接触させる。易酸化物Yを大気に接触させる時間(接触時間)の下限値としては、特に限定されるものではなく、例えば5.0時間であってもよく、8.0時間、10.0時間、15.0時間、20.0時間、22.0時間、または24.0時間であってもよい。
【0075】
〔再び密閉する工程〕
再び密閉する工程(再密閉工程)S14では、密閉を解いた容器100を再び密閉する。すなわち、容器本体110を容器蓋120で再び密閉し、易酸化物Yが容器100外の大気と接触することを停止する。
【0076】
〔再び測定する工程〕
再び測定する工程(再測定工程)S15では、再び密閉した上記容器内で酸素濃度を再び測定する。酸素濃度を再び測定するまでの密閉時間および測定方法は、上記測定工程S12における密閉時間および測定方法と同一であることが好ましい。
【0077】
開放工程S13、再密閉工程S14および再測定工程S15は、繰り返し複数回行うことが好ましい。このようにすることで、易酸化物Yの酸素消費速度の経時変化を精度よく求めることできる。酸素消費速度の経時変化は、例えば、それぞれの測定工程の測定値から算出した酸素消費速度をグラブにプロットして観察することで知り得ることができる。
【0078】
〔酸素消費速度を算出する工程〕
酸素消費速度を算出する工程(第三算出工程)S16では、測定した上記酸素濃度を用いて、密閉した容器100内における易酸化物Yの単位量あたりの酸素消費速度を算出する。本実施形態の酸素消費速度算出方法は再測定工程S15を有するため、測定工程S12で測定した酸素濃度による酸素消費速度と、再測定工程S15で測定した酸素濃度による酸素消費速度とをさらに算出する。第三算出工程S16は、各測定工程S12,S15の後に設けてもよいし、全ての測定工程S12,S15が終了した後にそれぞれの算出を行ってもよい。
【0079】
第三算出工程S16では、容器100内の窒素濃度で酸素濃度を補正し、補正した酸素濃度によって易酸化物Yの酸素消費速度を算出することが好ましい。具体的には、上記測定工程が、密閉した容器100内の窒素濃度を測定する手順を有し、第三算出工程S16が、基準となる酸素濃度を決定する手順、測定した上記窒素濃度を基準として、測定した上記酸素濃度を補正する手順、および上記基準となる酸素濃度から上記補正した酸素濃度を減じて上記易酸化物が消費した酸素量を算出する手順を有することが好ましい。ここで、上記測定工程とは、測定工程S12と再測定工程S15との両方を含む。
【0080】
また、第三算出工程S16では、容器100が密閉されている間の平均酸素濃度に基づいて酸素消費速度を補正することが好ましい。
【0081】
例えば、ガスクロマトグラフでの測定では、測定値全体を100%として各ガス成分(含有組成)の比率を割り当てている。従って、一定時間密閉した容器100内で易酸化物Yが酸化反応することで酸素濃度が減少すると、ガスクロマトグラフによる窒素濃度の測定値は見かけ上増大する。しかし、実際には容器100内の窒素濃度は変化していない。このため、ガスクロマトグラフによる窒素濃度の測定値を基準として酸素濃度の測定値を補正することで、容器100内の酸素濃度の正確性を向上することができる。
【0082】
窒素濃度測定値による酸素濃度測定値の補正は、まず下記式6を用いて一定時間密閉した後の酸素濃度の補正値cO2を算出する。
cO2 = {(mO2/mN2) / (bO2/bN2)} × sO2
・・・・(6)
ここで、mO2は、一定時間密閉した後に測定された酸素濃度[%]であり、mN2は、一定時間密閉した後に測定された窒素濃度[%]であり、bO2は、密閉する前の雰囲気(例えば、大気)の酸素濃度[%]であり、bN2は、密閉する前の雰囲気の窒素濃度[%]であり、sO2は、基準として決定される酸素濃度(基準酸素濃度)である。基準酸素濃度としては、特に限定されるものではなく、例えば大気中の酸素濃度である20.9%としてもよい。
【0083】
次に、基準酸素濃度sO2と、一定時間密閉した後の酸素濃度の補正値cO2との差分ΔO2を下記式7で算出する。この差分ΔO2は一定時間密閉している間に消費された酸素濃度(酸素消費濃度)を表す。
ΔO2 = sO2 - cO2 ・・・・(7)
【0084】
容器100が密閉されている間の平均酸素濃度aO2は、下記式8を用いて算出する。
aO2 = (sO2-cO2) / ln(sO2/cO2) ・・・・(8)
ここでは、密閉前後の酸素濃度の算術平均を求める代わりに、好ましい態様として反応速度の変化を考慮し、密閉前後の酸素濃度の対数平均を求めている。
【0085】
以上の酸素消費濃度ΔO2および平均酸素濃度aO2を用いて、下記式9で酸素消費速度OCR[mg-O2/g/day]を算出する。
{CV - (YM/YD)} × (ΔO2/100) / 22.4 ×
32.0 / YM / ST × (sO2/aO2) ・・・・(9)
ここで、CVは、容器100の体積[ml]であり、YMは、容器100内の易酸化物Yの総重量[g]であり、YDは、容器100内における易酸化物Yの密度[g/ml]であり、22.4は、1molの気体が0℃、1気圧で占める体積(L)[L/mol]であり、32.0は、酸素の分子量[g/mol]であり、STは、容器100を密閉していた時間[day]である。
【0086】
[易酸化物の昇温速度の予測方法]
当該予測方法は、易酸化物が酸素の存在する環境で酸化発熱反応によって昇温する際の昇温速度を予測する方法であって、上述の易酸化物の酸化発熱量の算出方法の上記第一算出工程、上記第二算出工程、および上記第二算出工程で算出した酸化発熱量と、上記環境での易酸化物の酸素消費速度とに基づいて、上記環境における易酸化物の昇温速度を算出する昇温速度算出工程を備える。
【0087】
〔昇温速度算出工程〕
昇温速度算出工程では、上記第二算出工程によって算出した酸化発熱量Vhと、上記易酸化物の酸素消費速度OCRを用いて、上記易酸化物の昇温速度を算出する。具体的には、昇温速度TR[℃/min]は、酸化発熱量Vh[kcal/kg-O2]に酸素消費速度OCR[kg-O2/kg/min]を乗じることで易酸化物の単位重量、単位時間当たりの発熱量を求め、それを易酸化物の比熱SH[kcal/kg/℃]で除することで求めることができる。より具体的には、昇温速度TR[℃/min]は、下記式10によって算出する。
TR = Vh × OCR ÷ SH ・・・・(10)
【0088】
上記式10で用いる酸素消費速度は、易酸化物の昇温速度を予測したい環境(実際に保管される環境)における単位重量あたりの易酸化物の酸素消費速度であり、過去の実績などを用いてもよいが、上述の易酸化物の酸素消費速度の算出方法の上記第三算出工程で算出した酸素消費速度OCRを用いることが好ましい。このようにすることで精度の高い易酸化物の昇温速度を算出することができる。
【0089】
<利点>
当該酸化発熱量算出方法は、貯蔵容器2に貯蔵されている易酸化物に酸素を含むガスを供給し、この易酸化物の温度と易酸化物を通過したガスの酸素量とを測定するため、少量の試料でも行うことができる。また、当該易酸化物の酸化発熱量の算出方法は、上記測定による測定値から易酸化物の温度変化および酸素消費量を算出し、この算出値と易酸化物の重量および比熱(易酸化物の水当量)とに基づいて酸化発熱量を算出しているため、易酸化物の酸化発熱量を精度よく得ることができる。
【0090】
当該酸素消費速度算出方法は、密閉された容器100内で易酸化物Yが酸化反応することで変化する酸素濃度を測定し、この測定値に基づいて酸素消費速度を算出している。このため、二酸化炭素が発生しない低温酸化特有の過酸化物の生成に起因する発熱性を評価する指標とすることができる。また、比較的小さな容器100内で比較的少量の易酸化物Yが消費することにより変化した酸素濃度を測定しているため、酸素消費量が少なく、酸素分圧の変化による影響を低減することができる。このため、酸素濃度を精度よく測定することができ、易酸化物Yの酸素消費速度を高精度に算出することができる。
【0091】
当該予測方法は、易酸化物が単位量あたりの酸素と反応したときに発生する熱量を酸化発熱量として算出し、当該酸化発熱量と、易酸化物の酸素消費速度とを用いて昇温速度を求めるため、易酸化物の貯蔵環境に応じた昇温速度を精度よく予測することができる。また、酸素消費速度として、当該酸素消費速度算出方法で算出した値を用いることにより、昇温速度をより精度よく予測することができる。また、予測方法に使用する酸化発熱量と酸素消費速度とを同じ測定系で求めるのではなく、酸化発熱量は酸素を流通させた測定系で求める一方、酸素消費速度は密閉系で求めることにより、それぞれの値を精度よく求めることができ、結果として精度の高い昇温速度の予測が可能になる。
【0092】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載および技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換または追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0093】
上述の実施形態では、恒温槽によって易酸化物を貯蔵する貯蔵容器と、易酸化物に供給されるガスとの昇温または保温を行っていたが、これに限定されるものでなく、貯蔵容器とガス供給管に電熱線を配置する等、他の公知の方法を用いて貯蔵容器とガスとの昇温または保温を行ってもよい。
【0094】
上述の実施形態における第一算出工程では、易酸化物の経時的な温度変化として昇温速度を算出したが、易酸化物の経時的な温度変化として所定の測定間隔での上昇温度を算出してもよい。また、第一算出工程における易酸化物の経時的な酸素消費量として、酸素消費速度に換えて、所定の測定間隔での酸素の減少量を算出してもよい。
【実施例0095】
以下、実施例によって本開示をさらに説明するが、本開示はこの実施例に限定されるものではない。
【0096】
[実施例1]
易酸化物として、酸化活性の異なる8種の石炭(A炭~H炭)を用意した。試験装置として、
図1に示す試験装置と同様の試験装置を用いた。各石炭は、粒径100μm未満にして200gを貯蔵容器に貯蔵した。この貯蔵容器を恒温槽に収容し、恒温槽の温度管理は、追従法で行い、A炭については一部で定温法でも行った。石炭に供給するガスには空気を用い、50[mL/min]で供給した。
【0097】
上記式1で算出した各石炭の酸化発熱量を
図7に示す。
図7に示すように、式1によって酸化発熱量を算出することができた。
【0098】
次に、上記式1に貯蔵容器の水当量を用いて算出した酸化発熱量、すなわち上記式2で算出した酸化発熱量を
図8に示す。式1で算出した値(
図8)に比べて、いずれの石炭も酸化発熱量の値が大きくなっている。
【0099】
貯蔵容器の水当量は、以下のようにして算出した。まず、貯蔵容器に石炭に換えて同重量の常温水を入れ、石炭と同様に昇温して水温変化を測定する。この測定値を下記式7に代入して算出する。
GW × TW1 + WS × TP1 = (GW + WS) × TH
・・・・(7)
上記式7において、GWは、上記水の重量[kg]、TW1は、上記水の試験開始前の温度[℃]、WSは、上記貯蔵容器の水当量[kcal/℃]、TP1は、上記貯蔵容器の試験開始前の温度[℃]、THは、上記水の平衡温度[℃]である。
【0100】
各測定値は、水の重量GWが0.271kg、水の試験開始前の温度TW1が19.0℃、貯蔵容器の試験開始前の温度TP1が65.0℃、試験開始から10分後の水の平衡温度THが22.3℃であった。これらの測定値から、本試験で用いた貯蔵容器の水当量WSは0.021kg(21g)と算出した。
【0101】
また、
図8におけるA炭のうち、追従法によるものと定温法によるものとを異なる記号で表示したものを
図9に示す。
図9によれば追従法によって測定した場合と定温法で測定した場合とでA炭の酸化発熱量に差が生じていることが分かる。
【0102】
次に、上記式1に貯蔵容器の水当量を用いて算出した酸化発熱量を補正した酸化発熱量、すなわち上記式2で算出した酸化発熱量に上記式3で算出した補正係数を乗じた結果を
図10に示す。この試験装置における上記特別伝熱係数は、0.0029であった。ガス供給工程を停止した後の恒温槽の温度および石炭の温度の測定値を
図11に示す。
図12は、恒温槽内の温度および石炭の温度の差ΔT1と、石炭の温度変化の傾きdT2/dtとの関係を示すグラフである。
図11のグラフにおける恒温槽内の温度および石炭の温度の差ΔT1と、石炭の温度変化の傾きdT2/dtとの相関の接線が漸近した範囲は、恒温槽およびガス供給の停止から515分後以降と捉え(
図12)、515分後から615分後までの相関における近似曲線の係数0.003、615分後から715分後までの相関における近似曲線の係数0.0026、715分後から815分後までの相関における近似曲線の係数0.003、815分後から915分後までの相関における近似曲線の係数0.0033、および915分後以降の相関における近似曲線の係数0.0027の平均値として上記特別伝熱係数0.0029を算出した。この特別伝熱係数を算出したときの貯蔵容器の水当量W
Sは21kcal/℃、石炭の重量G
Tは201.8kg、石炭の比熱S
Hは0.31kcal/kg/℃であった。貯蔵容器の中に入れる石炭の重量をG
T1[kg]に変更した場合には、各値を上記式5に当てはめた下記の式によって補正した特別熱伝達係数K
Cを使用して酸化発熱量V
hを算出した。
K
C = 0.0029×(21+201.8×0.31)
/(21+G
T1×0.31)
【0103】
図10では、石炭の種類や恒温槽の温度管理方法に関わらず酸化発熱量がいずれも2000kcal/kg-O
2前後となっている。
【0104】
一般に、石炭の低温酸化は、緩やかな燃焼反応(半燃え)であり、燃焼反応の最後(完全燃焼)時の発熱量が高位発熱量(総発熱量)または低位発熱量(真発熱量)である。褐炭を含む石炭の低温酸化発熱量は、上記発熱量を酸素1kg当たりに換算した値の1/2~2/3程度であることが経験的に分かっている。
【0105】
例えば、石炭の発熱量は約7000kcal/kg(約30000kJ/kg)であり、炭素12kgに対して酸素32kgが結合して酸化反応すると仮定した場合、酸化発熱量は
7000 × 12 / 32 = 2650[kcal/kg-O
2]
である。2650[kcal/kg-O
2]の2/3は約1750[kcal/kg-O
2]であり、
図10で示す値に近似している。このことから、上記式2の値を上記式3で補正して算出した酸化発熱量は、既知の石炭の酸化発熱量と略同一であるといえる。従って、当該酸化発熱量算出方法が妥当であることが分かる。
【0106】
[実施例2]
易酸化物として5種の石炭(I炭~M炭)と、それぞれに360mlの容器とを用意した。大気のガス組成をガスクロマトグラフで分析し(室温40℃)、石炭を容器内に配置して容器を密閉した。各石炭を配置した容器内のガスの一部を2時間後にシリンジで採取し、これをガスクロマトグラフで分析した。大気の分析結果とI炭の密閉から2時間後の分析結果とを表1に示す。
【0107】
【0108】
表1より酸素濃度が減少していることが分かる。
【0109】
J炭、K炭、L炭およびM炭については、容器内のガスの一部を2時間後にシリンジで採取して分析し、容器の密閉を解いて40℃、RH95%の環境で22時間大気に接触させた。その後、それぞれの容器を再度密閉し、その2時間後に容器内のガスの一部をシリンジで採取して分析した。これを複数回繰り返し、その分析結果(測定した酸素濃度)から各石炭の酸素消費速度を算出した。その結果を
図13に示す。
【0110】
図13より、炭種によって酸素消費速度の値(活性の程度)は異なるが、経時的に酸素消費速度が低下(失活)していることが分かる。活性の大小関係は、流通系で空気と反応した時の昇温の大小関係とも整合することが確認されている。また、いずれの炭種においても、酸素消費速度が二次曲線的に低下していることから、異なる易酸化物でも、係数を変更することで、同様の反応モデルをシミュレーションに反映できる可能性がある。
以上説明したように、本開示の一態様に係る易酸化物の酸化発熱量および易酸化物の酸素消費速度の算出方法は、石炭、バイオマス等の易酸化物の発熱性を予測するのに好適に用いられる。