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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022485
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/34 20060101AFI20240208BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20240208BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20240208BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
B01D71/34
B01D69/08
B01D71/32
B01D71/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100116
(22)【出願日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022125921
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】田中 軌人
(72)【発明者】
【氏名】橋野 昌年
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA28
4D006MB02
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC24
4D006MC28X
4D006MC29X
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC34
4D006MC46
4D006MC54
4D006MC59
4D006MC62
4D006MC88
4D006NA04
4D006NA13
4D006NA34
4D006NA37
4D006NA40
4D006NA51
4D006NA54
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB04
4D006PB05
4D006PB08
(57)【要約】
【課題】本発明は、高い濾過性能を有し、膜性能のばらつきが小さい多孔質膜を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の多孔質膜の製造方法は、熱可塑剤樹脂を含む多孔質膜の製造方法であって、ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を、破砕及び/又は粉砕により、粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した際の粒子径分散度VがV≧0.8となるように粒径調整した粒子を用いて多孔質膜を製造すること、を特徴としている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑剤樹脂を含む多孔質膜の製造方法であって、
ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を、破砕及び/又は粉砕により、粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した際の粒子径分散度VがV≧0.8となるように粒径調整した粒子を用いて多孔質膜を製造すること、を特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記粒子の円形度が0.5以下である、請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記粒子の線形度が1.8以上である、請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記粒子径分散度VがV≧1.3である、請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記粒子のD50粒径が50~500μmである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記粒子及び有機液状体からなる混合物、又は前記粒子、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物を、溶融混練し押し出した後、有機液状体又は有機液状体及び無機微粉体を抽出して多孔質膜を製造する、請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記粒子のD50粒径と前記無機微粉体の平均一次粒子径の比(粒子のD50粒径/無機微粉体の平均一次粒子径)が3200倍から35000倍である、請求項6に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
多孔質膜が中空糸膜である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンを主成分とする樹脂である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂がエチレンクロロトリフロエチレン又はエチレンテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理は、懸濁水である河川水、湖沼水、地下水等の天然水源から飲料水又は工業用水を得るプロセスである。下水処理は、下水等の生活排水を処理して再生雑用水を得たり、放流可能な清澄水を得たりするプロセスである。これらの処理には、固液分離操作(除濁操作)を行うことで懸濁物を除去することが必須である。上水処理では懸濁水である天然水源水由来の濁質物(粘土、コロイド、細菌等)が除去される。下水処理では下水中の懸濁物及び活性汚泥等により生物処理(2次処理)した処理水中の懸濁物(汚泥等)が除去される。
【0003】
従来、これらの除濁操作は、主に、沈殿法、砂濾過法又は凝集沈殿砂濾過法により行われてきたが、近年は膜濾過法が普及しつつある。膜濾過法の利点として例えば以下の事項が挙げられる。
(1)得られる水質の除濁レベルが高く且つ安定している(得られる水の安全性が高い)。
(2)濾過装置の設置スペースが小さくてすむ。
(3)自動運転が容易である。
【0004】
例えば上水処理では、凝集沈殿砂濾過法の代替として、又は例えば凝集沈殿砂濾過の後段に設置して凝集沈殿砂濾過された処理水の水質を更に向上するための手段として膜濾過法が用いられている。下水処理に関しても、下水2次処理水からの汚泥の分離等に膜濾過法使用の検討されている。
【0005】
これら膜濾過による除濁操作には、主として中空糸状の限外濾過膜又は精密濾過膜(孔径数nmから数百nmの範囲)が用いられる。中空糸状濾過膜を用いた濾過方式としては、膜の内表面側から外表面側に向けて濾過する内圧濾過方式と、外表面側から内表面側に向けて濾過する外圧濾過方式の2方式がある。これらのうち、懸濁原水と接触する側の膜表面積が大きく取れるために単位膜表面積当たりの濁質負荷量を小さくできる外圧濾過方式が有利である。特許文献1~3は中空糸及びその製造方法を開示する。
【0006】
膜濾過法による除濁は、上述のように従来の沈殿法及び砂濾過法にはない利点が多くあるために、従来法の代替技術又は補完技術として上水処理や下水処理への普及が進みつつある。しかしながら、長期にわたり安定した膜濾過運転を行う技術が確立されておらず、これが膜濾過法の広範囲な普及を妨げている(非特許文献1参照)。膜濾過運転の安定を妨げる原因は、主に膜の透水性能の劣化である。透水性能の劣化の第一の原因は、濁質物質等による膜の目詰まり(ファウリング)である(非特許文献1参照)。また、膜表面が濁質物によりこすられて擦過を受け、透水性能が低下する場合もある。
【0007】
ところで、多孔質膜の製法として、熱誘起相分離法が知られている。この製法では熱可塑性樹脂と有機液体を用いる。有機液体として、該熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが、高温では溶解する溶剤、すなわち潜在的溶剤を用いる。熱誘起相分離法は、熱可塑性樹脂と有機液体を高温で混練し、熱可塑性樹脂を有機液体に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、更に有機液体を除去して多孔体を製造する方法である。この方法は以下の利点を持つ。
(a)室温で溶解できる適当な溶剤のないポリエチレン等のポリマーでも製膜が可能になる。
(b)高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、特に熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、製膜時に結晶化が促進され高強度膜が得られやすい。
【0008】
上記の利点から、多孔性膜の製造方法として多用されている(例えば非特許文献2~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60-139815号公報
【特許文献2】特開平3-215535号公報
【特許文献3】特開平4-065505号公報
【特許文献4】特表2018-507944号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y.Watanabe,R.Bian,Membrane,24(6),1999年、310-318頁
【非特許文献2】プラスチック・機能性高分子材料事典編集委員会、「プラスチック・機能性高分子材料事典」、産業調査会、2004年2月、672-679頁
【非特許文献3】松山秀人、「熱誘起相分離法(TIPS法)による高分子系多孔膜の作製」、ケミカル・エンジニアリング誌、化学工業社、1998年6月号、45-56頁
【非特許文献4】滝澤章、「膜」、アイピーシー社、平成4年1月、404-406頁
【非特許文献5】D.R.Lloyd,et.al., 「Jounal of Membrane Science」、64、1991年、1-11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、特表2018-507944号公報により、粒状の熱可塑性樹脂を粉砕して多孔質膜を製造することは公知であった。ただし、粉砕後の粒子径や粒子径分布を制御することにより安定した多孔質膜の製造方法の検討や多孔質膜の膜性能のばらつきを制御する手段としては十分ではなかった。
【0012】
本発明は、高い濾過性能を有し、膜性能のばらつきが小さい多孔質膜を提供することを目的とする。本発明の多孔質膜は、例えば、膜濾過法により天然水、生活排水、及びこれらの処理水である懸濁水を除濁する方法において好適に用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
熱可塑剤樹脂を含む多孔質膜の製造方法であって、
ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を、破砕及び/又は粉砕により、粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した際の粒子径分散度VがV≧0.8となるように粒径調整した粒子を用いて多孔質膜を製造すること、を特徴とする多孔質膜の製造方法。
[2]
前記粒子の円形度が0.5以下である、[1]に記載の多孔質膜の製造方法。
[3]
前記粒子の線形度が1.8以上である、[1]又は[2]に記載の多孔質膜の製造方法。
[4]
前記粒子径分散度VがV≧1.3である、[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
[5]
前記粒子のD50粒径が50~500μmである、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記粒子及び有機液状体からなる混合物、又は前記粒子、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物を、溶融混練し押し出した後、有機液状体又は有機液状体及び無機微粉体を抽出して多孔質膜を製造する、[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
[7]
前記粒子のD50粒径と前記無機微粉体の平均一次粒子径の比(粒子のD50粒径/無機微粉体の平均一次粒子径)が3200倍から35000倍である、[6]に記載の多孔質膜の製造方法。
[8]
多孔質膜が中空糸膜である、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンを主成分とする樹脂である、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]
前記熱可塑性樹脂がエチレンクロロトリフロエチレン又はエチレンテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂である、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔質膜の製造方法によれば、物性ばらつきの小さい多孔質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】三次元網目構造の模式図である。
図2】多孔性中空糸膜を製造する装置の一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
以下、本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜について説明する。
【0018】
本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜は、熱可塑性樹脂を含む。上記多孔質膜は、熱可塑性樹脂のみからなっていてもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0019】
上記熱可塑性樹脂は、フッ素樹脂を含むことが好ましく、フッ素樹脂のみからなっていてもよい。
上記フッ素樹脂としては、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましく、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つのみからなっていてもよい。
上記熱可塑性樹脂は、フッ化ビニリデン系樹脂、クロロトリフロオロエチレン系樹脂が好ましく、より好ましくはフッ化ビニリデン系樹脂である。
上記熱可塑性樹脂は、一種のみであってもよいし、複数種の組み合わせであってもよい。
【0020】
上記多孔質膜は、上記熱可塑性樹脂を主成分として含むことが好ましい。
上記熱可塑性樹脂は、上記フッ素樹脂を主成分として含むことが好ましく、フッ化ビニリデン系樹脂、クロロトリフロオロエチレン系樹脂を主成分として含むことがより好ましく、フッ化ビニリデン系樹脂を主成分として含むことがさらに好ましい。また、上記熱可塑性樹脂は、エチレンクロロトリフロエチレン又はエチレンテトラフルオロエチレンを主成分とする樹脂であることが好ましい。
ここで、「主成分として含む」とは、熱可塑性樹脂又は多孔質膜の固形分換算で50質量%以上含むこと(好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上)を意味する。
【0021】
上記熱可塑性樹脂は、フッ化ビニリデン系樹脂、クロロトリフロオロエチレン系樹脂等のフッ素樹脂のみ(好ましくはフッ化ビニリデン系樹脂のみ)であってもよい。
【0022】
上記熱可塑性樹脂は、フッ化ビニリデン系樹脂と他の熱可塑性樹脂とを含むものであってもよい。他の熱可塑性樹脂としては、フッ化ビニリデン系樹脂と相溶するものが好ましく、例えば、フッ化ビニリデン系樹脂と同様に高い薬品耐性を示すフッ素系の樹脂等を好適に用いることができる。
【0023】
フッ化ビニリデン系樹脂の重合方法としては、乳化重合品でも懸濁重合品でも好適に用いることができる。
【0024】
上記熱可塑性樹脂(例えば、フッ化ビニリデン系樹脂)の重量平均分子量(Mw)は、10万以上100万以下であることが好ましく、15万以上150万以下であることがより好ましい。また、単一の分子量の熱可塑性樹脂(例えば、フッ化ビニリデン系樹脂)に限らず、複数の分子量が違うフッ化ビニリデン系樹脂を混合してもよい。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)については、分子量既知の標準樹脂を基準としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0025】
上記多孔質膜の形態として、例えば、中空糸膜の膜構造を有する形態とすることができる。上記多孔質膜は中空糸膜であることが好ましい。ここで、中空糸膜とは、中空環状の形態をもつ膜を意味する。多孔質膜が中空糸膜の膜構造を有することにより、平面状の膜に比べて、モジュール単位体積当たりの膜面積を大きくすることが可能である。
但し、上記多孔質膜は、中空糸膜の膜構造を有する多孔質膜(中空糸状の多孔質膜)に限定されるものではなく、平膜、管状膜などの他の膜構造を有するものであってもよい。また、多孔質膜は、一方の表面から他方の表面まで、多孔質膜内部を厚み方向に連通する孔を有していてよい。多孔質膜は、例えば、後述の実施例で測定される純水透水量が500L/m/hr以上であってよく、1000L/m/hr以上であってよい。
【0026】
上記多孔質膜は、中空糸膜であり熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、中空糸膜であり熱可塑性樹脂のみからなっていてもよい。
【0027】
上記多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)は、三次元網目構造であることが望ましい。本明細書において三次元網目構造とは、模式的には図1で表したような構造を指す。例えば、熱可塑性樹脂aが接合して網目を形成し、空隙部bが形成されている。三次元網目構造では、いわゆる球晶構造の樹脂の塊状物がほとんど見られない。三次元網目構造の空隙部bは、熱可塑性樹脂aに囲まれており、空隙部bの各部分は互いに連通していることが好ましい。用いられた熱可塑性樹脂のほとんどが、多孔質膜(好ましくは中空糸膜)の強度に寄与しうる三次元網目構造を形成しているので、高い強度の支持層を形成することが可能になる。また、耐薬品性も向上する。耐薬品性が向上する理由は明確ではないが、強度に寄与しうる網目を形成する熱可塑性樹脂の量が多いため、網目の一部が薬品に侵されても、層全体としての強度には大きな影響が及ばないためではないかと考えられる。
【0028】
上記多孔質膜(好ましくは、多孔性中空糸膜)は、単層構造でもよいし、二層以上の多層構造であってもよい。被濾過液側表面を有する層を層(A)とし、濾過液側表面を有する層を層(B)とする。
例えば、層(A)を、いわゆる阻止層とし、小さい表面孔径により被処理液(原水)中に含まれる異物の膜透過を阻止する機能を発揮させ、層(B)をいわゆる支持層とし、この支持層は高い機械的強度を担保すると共に、透水性をできるだけ低下させない機能を有するというような機能分担にしてよい。層(A)と層(B)の機能の分担は上記に限定されるものではない。上記多孔質膜は、一方の表面のみが被濾過液側表面であってよい。
【0029】
以下は、層(A)を阻止層とし、層(B)を支持層とした二層構造の場合について説明する。
層(A)の厚みは、全膜厚の1/100以上40/100未満とすることが好ましい。このように層(A)の厚みを比較的厚くすることで、原水に砂や凝集物等の不溶物が含まれていても使用可能となる。多少磨耗しても、表面孔径が変化しないからである。この厚みの範囲内であれば、望ましい阻止性能と高い透水性能のバランスがとれる。より好ましくは膜厚の2/100以上30/100以下である。層(A)の厚さは1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上80μm以下がさらに好ましい。
【0030】
本実施形態の多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)の製造方法は、ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により、粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した際の粒子径分散度VがV≧0.8となるように粒径調整した粒子を用いる方法である。本実施形態の多孔質膜の製造方法は、上記粒子及び有機液状体からなる混合物、又は上記粒子、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物を、溶融混練し押し出した後、有機液状体又は有機液状体及び無機微粉体を抽出して製造する方法であることがより好ましい。
本明細書において、上記混合物を溶融混錬したものを溶融混錬物という。
【0031】
本実施形態の多孔質膜の製造方法は、上記粒子、有機液状体及び無機微粉体を含む溶融混練物を、円環状吐出口を有する紡糸口金から吐出して中空糸状溶融混練物を成形する工程と、中空糸状溶融混練物を凝固させた後、有機液状体及び無機微粉体を抽出除去して多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)を作製する工程を備える方法が好ましい。溶融混練物は、上記粒子及び溶媒の二成分からなるものでもよく、上記粒子、無機微粉体及び溶媒の三成分からなるものであってもよい。
【0032】
本実施形態の多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)の製造方法において用いられる熱可塑性樹脂は、常温では弾性を有し塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を現し、成形が可能になる樹脂である。また、熱可塑性樹脂は、冷却して温度が下がると再びもとの弾性体に戻り、その間に分子構造など化学変化を生じない樹脂である(たとえば「化学大辞典編集委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、第860頁及び867頁、1963年」参照)。
【0033】
熱可塑性樹脂の例としては、12695の化学商品(化学工業日報社、1995年)の熱可塑性プラスチックの項(829~882頁)記載の樹脂や、化学便覧応用編改訂3版(日本化学会編、丸善、1980年)の809-810頁記載の樹脂等を挙げることができる。熱可塑性樹脂の具体例名を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ポリサルホン、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等である。中でも、結晶性を有するポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール等の結晶性熱可塑性樹脂は、強度発現の面から好適に用いることができる。さらに好適には、疎水性ゆえ耐水性が高く、通常の水系液体の濾過において耐久性が期待できる、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等を用いることができる。具体的には、上記フッ素樹脂は、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-モノクロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ヘキサフルオロプロピレン樹脂、及びこれら樹脂の混合物を1種単独で又は2種以上組み合わせて主成分として含むことが好ましく、これらを1種単独で又は2種以上組み合わせた樹脂のみからなることがより好ましい。特に好適には、上記フッ素樹脂は、耐薬品性等の化学的耐久性に優れるポリフッ化ビニリデンを用いることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーや、フッ化ビニリデン比率50モル%以上のフッ化ビニリデン共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニリデンと、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレン及びエチレンからなる群より選ばれる1種以上のモノマーとの共重合体を挙げることができる。ポリフッ化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデンホモポリマーが特に好ましい。
【0034】
溶融混練物における熱可塑性樹脂の質量割合は30質量%以上48質量%以下が好ましく、より好ましくは32質量%以上45質量%以下である。30質量%以上であれば、機械的強度を担保しやすく、48質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
また、上記溶融混錬物中の上記粒子の質量割合は、30質量%以上48質量%以下が好ましく、より好ましくは32質量%以上45質量%以下である。30質量%以上であれば、機械的強度を担保しやすく、48質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
【0035】
また、多孔質膜が二層構造の膜である場合、層(B)の溶融混錬物における熱可塑性樹脂の質量割合は、34質量%以上48質量%以下が好ましく、より好ましくは35質量%以上45質量%以下である。
層(A)の溶融混錬物における熱可塑性樹脂の質量割合は、10質量%以上35質量%以下が好ましく、より好ましくは12質量%以上35質量%未満である。10質量%以上であれば、表面の孔径と機械的強度を両立することができ、35質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
また、層(B)の溶融混錬物における上記粒子の質量割合は、34質量%以上48質量%以下が好ましく、より好ましくは35質量%以上45質量%以下である。
層(A)の溶融混錬物における上記粒子の質量割合は、10質量%以上35質量%以下が好ましく、より好ましくは12質量%以上35質量%未満である。10質量%以上であれば、表面の孔径と機械的強度を両立することができ、35質量%以下であれば、透水性能の低下が生じない。
【0036】
有機液状体は、本実施形態で用いる熱可塑性樹脂に対し、潜在的溶剤となるものを用いる。本実施形態では、潜在的溶剤とは、該熱可塑性樹脂を室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では該熱可塑性樹脂を溶解できる溶剤を言う。熱可塑性樹脂との溶融混練温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要はない。
【0037】
熱可塑性樹脂がポリエチレンの場合、有機液状体の例としてフタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル類;リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等のリン酸エステル類;プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエート等のグリセリンエステル類;流動パラフィン等のパラフィン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0038】
熱可塑性樹脂がポリフッ化ビニリデンの場合、有機液状体の例として、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
【0039】
上記溶融混練物中に占める有機液状体の質量割合は、10質量%以上70質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以上60質量%以下である。有機液状体の質量割合が10質量%以上であれば、熱可塑性樹脂を安定的に溶解でき、70質量%以下であれば、多孔質膜の紡糸に十分な粘度を有するため安定的に製造することができる。
【0040】
無機微粉体としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニア、炭酸カルシウム等が挙げられ、シリカが好ましい。
無機微粉体の平均一次粒子径は、3nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは5nm以上100nm以下である。中でも、平均一次粒子径が3nm以上500nm以下である微粉シリカが好ましい。
凝集しにくく分散性の良い疎水性シリカ微粉がより好ましく、さらに好ましくはMW(メタノールウェッタビリティ)値が30容量%以上である疎水性シリカである。
ここでいうMW値とは、粉体が完全に濡れるメタノールの容量%の値である。具体的には、純水中にシリカを入れ、攪拌した状態で液面下にメタノールを添加していった時に、シリカの50質量%が沈降した時の水溶液中におけるメタノールの容量%を求めて決定される。
上述の「無機微粉体の平均一次粒子径」は電子顕微鏡写真の解析から求めた値を意味する。すなわち、まず無機微粉体の一群をASTM D3849の方法によって前処理を行う。その後、透過型電子顕微鏡写真に写された3000~5000個の粒子直径を測定し、これらの値を算術平均することで無機微粉体の平均一次粒子径を算出する。
【0041】
上記溶融混練物中に占める無機微粉体の質量割合は、5質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは10質量%以上40質量%以下である。無機微粉体の質量割合が5質量%以上であれば、無機微粉体混練による効果が十分に発現でき、40質量%以下であれば、安定に紡糸できる。
【0042】
ペレット又は粒状のポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を粉砕等して上記粒径調整した粒子及び有機液状体からなる混合物、又はペレット又は粒状のポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を粉砕等して上記粒径調整した粒子、有機液状体及び無機微粉体からなる混合物は、ヘンシェルミキサーやバンバリーミキサー、プロシェアミキサー等を用いて混合することにより得られる。
ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を粒径調整した上記粒子、有機液状体及び無機微粉体の3成分を混合する場合の順序としては、3成分を同時に混合するよりも、まず無機微粉体と有機液状体を混合して無機微粉体に有機液状体を十分に吸着させ、次いでポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を粒径調整した上記粒子を配合して混合することが、溶融成形性や得られる多孔膜の空孔率及び機械的強度の向上の点で有利である。
ヘンシェルミキサー等による予備混練を行わずに、直接ポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を粒径調整した上記粒子及び有機液状体を別々に2軸押出し機等の溶融混練押出し装置に供給しても良い。混練性を上げるために、混合後に一度溶融混練を行ってペレット化し、このペレットを溶融混練押出し装置に供給し、中空糸状に押し出し成形し、冷却固化して中空繊維としても良い。
【0043】
混合物の溶融混練は、通常の溶融混練手段、例えば押出機を用いて行うことができる。以下に押出機を用いた場合について述べるが、溶融混練の手段は押出機に限るものではない。本実施形態の製造方法を実施するために用いられる製造装置の一例を図2に示す。
【0044】
図2に示す多孔性中空糸膜の製造装置は、押出機10と、中空糸成形用ノズル20と、製膜原液を凝固させる溶液が貯留される凝固浴槽30と、多孔性中空糸膜40を搬送して巻き取るための複数のローラ50を備えている。図2に示すSの空間は、中空糸成形用ノズル20から吐出された成膜原液が凝固浴槽30中の溶液に到達するまでに通過する空走部である。
【0045】
溶融混練物は、同心円状に配置された1つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズル20が押出機10の先端に装着され、溶融混錬物が押出機10によって押し出されて中空糸成形用ノズル20から吐出される。多層構造の膜を製造する場合、2つ以上の円環状吐出口を有する中空糸成形用ノズル20を押出機10の先端に装着し、それぞれの円環状吐出口にはそれぞれ異なる押出機10より溶融混練物を供給して押出しする方法や、多層中の一層を製造した後、残りの層を塗布する方法がある。例えば、前者の異なる押出機を使用して製造する方法は、各々供給される溶融混練物を吐出口で合流させ重ね合わせることで、多層構造を有する中空糸状押出物を得ることができる。このとき、互いに隣り合う円環状吐出口から組成の異なる溶融混練物を押出すことで、互いに隣り合う層の孔径が異なる多層膜を得ることができる。互いに異なる組成とは、溶融混練物の構成物質が異なる場合、または、構成物質が同じでも構成比率が異なる場合を指す。同種の熱可塑性樹脂であっても、分子量や分子量分布が明確に異なる場合は、構成物質が異なるとみなす。互いに異なる組成の溶融混練物の合流位置は、中空糸成形用ノズル20下端面であっても、中空糸成形用ノズル20の下端面とは異なっていてもよい。
【0046】
円環状吐出口から溶融混練物を押出す際には、紡口吐出パラメータR(1/秒)が10以上1000以下の値になるように吐出すると、高い生産性と紡糸安定性さらに高強度の膜が得られるため、好ましい。ここで紡口吐出パラメータRとは、吐出線速V(m/秒)を、吐出口のスリット幅d(m)で除した値である。吐出線速V(m/秒)は、溶融混練物の時間当たりの吐出容量(m/秒)を吐出口の断面積(m)で除した値である。Rが10以上であれば、中空状押出し物の糸径が脈動する等の問題が無く、生産性良く安定に紡糸できる。またRが1000以下であれば、得られる多孔性中空糸膜の重要な強度の一つである破断伸度が十分に高く維持できる。破断伸度とは、膜長手方向に引っ張った時の元の長さに対する伸び率のことである。
多層構造の多孔性中空糸膜である場合は、樹脂が合流後の積層された溶融混練物の吐出線速Vを吐出口のスリット幅dで除した値を紡口吐出パラメータRの範囲は、より好ましくは50以上1000以下である。
【0047】
吐出口から吐出された中空糸状溶融混練物は、空気や水等の冷媒を通過して凝固させるが、目的とする多孔性中空糸膜によって、空気層からなる上述した空走部Sを通過させたのちに、水等が入った凝固浴槽30を通過させる。すなわち空走部Sとは、中空糸成形用ノズル20の吐出口から凝固浴槽30の水面までの部分である。吐出口から必要に応じて空走部Sには筒等の容器を用いても良い。凝固浴槽30を通過後、必要に応じてかせ等に巻き取られる。
【0048】
上記押出機10に投入する熱可塑性樹脂は、ペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子である。熱可塑性樹脂としてペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子を用いることにより、高い濾過性能を有し、膜性能のばらつきが小さい多孔質膜を製造することができる。押出機10に投入する熱可塑性樹脂のD50粒径は30μm以上であってよく、50~500μmであってもよい。
ペレット・粒状の熱可塑性樹脂を破砕及び/又は粉砕する手段としては、ペレットを粗粉砕しその後微粉砕する多段粉砕方式や、微細化まで一段で行う方式等があるが、その方式は限定されるものではない。微粉砕機によっても、粉砕後の粒子が所定の粒径に達しない場合は、更なる微粉砕が可能な超微粉砕機により粉砕してよい。具体的な粉砕手段としては、ハンマーミル、ターボミル、ジェットミル、ピンミル、遠心ミル、ロートプレックス、パルベルイザー、湿式粉砕、チョッパーミル、ウルトラローター等を用いる粉砕手段が挙げられ、常温あるいは凍結粉砕方式を用いることができる。例えば、ガラス転移点が約-35℃と低いフッ化ビニリデン系樹脂は凍結粉砕方式をとることが好適である。凍結粉砕は、液体窒素等の低温(例えば、-50℃以下、-100℃以下など)液体ガスでペレット又は粒状の熱可塑性樹脂を凍結させて行ってよい。また、粉砕は、無酸素(例えば、酸素濃度5%以下、2%以下など)で行ってよい。凍結粉砕処理における粉砕方式としては、ピンミル、ハンマーミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0049】
所定の粒径範囲の粒子を得るために適切な分級機を使用して分級が行われる。分級後の粒子から所定粒径範囲のものを得る場合は、さらに別の分級機で分級した後、所定粒径以下の微細粉を除去し、残った粒子(中粉)を製品としてもよい。分級し、目的とする粒子径範囲より大きい範囲の粒子は再度、粉砕して所定粒子径範囲のものを得ることもできる。分級に用いられる装置として、振動篩機や慣性気流式分級機、回転羽根式分級機などがあり特に限定されるものではない。
【0050】
また2種類のポリマー混合させる場合は、各ポリマーを粉砕してから、混合機を用いて混合して用いてもよい。分級は粉砕後に実施もしくは混合後に分級してもよく特に限定されるものではない。混合機に投入するすべてのポリマーは、後述の粒径分散度Vが後述の好適範囲であることが好ましい。
【0051】
粉砕後の粒子の粒子径分布は、レーザー回折、散乱式粒度分布測定装置を使用して測定することができる。
【0052】
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子は、粒子径分布から得られる体積基準のメディアン径(D50粒子径)が、50~500μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは70~400μmである。50μm以上であれば、例えば押出機等で溶融混練する際に投入時にスクリューへの噛み込み不良などが発生せず安定して投入することができる。500μm以下であれば、溶解不良などが発生せず安定して多孔質膜を製造することができる。
本明細書において、D10粒子径、D50粒子径、D90粒子径は、レーザー回折式粒子径サイズ測定装置を使用することにより測定される値をいう。
【0053】
同様に粒子径分布からD10粒子径、D90粒子径が得られる。得られたD10、D50、D90粒子径から粒子径分散度V=(D90-D10)/D50と定義した場合に、破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子のVが、0.8以上であることが好ましい。より好ましくは1.3以上であり、さらに好ましくは1.3以上3.5以下である。
凝固後の中空糸状物中には、ポリマー濃厚部分相と有機液状体濃厚部分相とが微細に分かれて存在する。なお、例えば、無機微粉体を添加した場合に、その無機微粉体が微粉シリカである場合、微粉シリカは有機液状体濃厚部分相に偏在する。この中空糸状物から有機液状体と無機微粉体を抽出除去することで、有機液状体濃厚部分相が空孔となる。よって多孔性中空糸膜を得ることができる。
粒子径分散度が0.8以上であると熱可塑性樹脂の粒子が、凝集した無機微粉体間や無機微粉体と無機微粉体の間に入り込むことで、多孔質膜のポリマー部と空孔部を形成する熱可塑性樹脂と無機微粉体の混合性が向上し、より均一な多孔質膜の構造を得ることができ膜性能のばらつきを低減することができる。多孔質膜の均一性は膜性能のばらつきにより評価することができる。さらに粒子径分散度が1.3以上であると粒子を一時貯蔵するホッパー、貯槽等での嵩密度の安定化時間が早く粒子の搬送性が安定化しやすい。また3.5以下であると上記ホッパー、貯槽等での偏析を防ぐことができる。
【0054】
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子のD50粒子径と無機微粉体の平均一次粒子径の比(粒子のD50粒子径(nm)/無機微粉体の平均一次粒子径(nm))は3200以上35000以下であることが好ましく、より好ましくは5000~33000である。3200以上であれば、ペレット又は粒状のポリフッ化ビニリデン等の熱可塑性樹脂を粉砕等して上記粒径調整した粒子、有機液状体及び無機微粉体の3成分を混合して押出機に投入した場合に、押出機の温度が安定する時間が早くなる。混合後は、ポリマー壁面にシリカが付着すると想定されるが、3200以上であれば、ポリマー壁面がシリカで覆われず露出される面が大きくなるため熱がポリマーへの熱が伝わりやすくなり温度の安定が早くなると推定される。特に、理由はないが35000以下であれば安定的に混合することができる。
【0055】
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子の粒子形状は、円形度が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.46以下である。また、0.1以上であってよい。円形度が小さい方が、嵩密度が高くなりやすくなり押出機への投入が安定化する。円形度は、下記式(1)で表され、1.0に近い方が円形に近い形状を表す。
【数1】
【0056】
破砕及び/又は粉砕により粒径調整した粒子の線形度は1.8以上であることが好ましく、より好ましくは2.0以上である。また、10以下であってもよい。線形度が大きい方が、有機液状体及び無機微粉体の3成分を混合した際に嵩密度が安定化する前に粒子同士の間隙が増えるため無機微粉体との混合性が向上する。線形度は、下記式(2)で表され、円に近いほど1.0に近い値となり、細長いものほど大きな値となる。
【数2】
【0057】
有機液状体の抽出除去および無機微粉体の抽出除去は、同じ溶剤にて抽出除去できる場合であれば同時に行うことができる。通常は別々に抽出除去する。
【0058】
有機液状体の抽出除去は、用いた熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずに有機液状体とは混和する、抽出に適した液体を用いる。具体的には浸漬等の手法により接触させることで行うことができる。該液体は、抽出後に中空糸膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。該液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。有機液状体が水溶性であれば水も抽出用液体として使うことが可能である。
【0059】
無機微粉体の抽出除去は、通常、水系の液体を用いて行う。例えば無機微粉体がシリカである場合、まずアルカリ性溶液と接触させてシリカをケイ酸塩に転化させ、次いで水と接触させてケイ酸塩を抽出除去することで行うことができる。
【0060】
有機液状体の抽出除去と無機微粉体の抽出除去とは、どちらが先でも差し支えはない。有機液状体が水と非混和性の場合は、先に有機液状体の抽出除去を行い、その後に無機微粉体の抽出除去を行う方が好ましい。通常有機液状体および無機微粉体は有機液状体濃厚部分相に混和共存しているため、無機微粉体の抽出除去をスムーズに進めることができ、有利である。
【0061】
このように、凝固した多孔性中空糸膜から有機液状体や無機微粉体を抽出除去することにより、多孔性中空糸膜を得ることができる。
なお、凝固後の中空糸膜に対し、(i)有機液状体および無機微粉体の抽出除去前、(ii)有機液状体の抽出除去後で無機微粉体の抽出除去前、(iii)無機微粉体の抽出除去後で有機液状体の抽出除去前、(iv)有機液体および無機微粉体の抽出除去後、のいずれかの段階で、多孔性中空糸膜の長手方向への延伸を、延伸倍率3倍以内の範囲で行うことができる。一般に中空糸膜を長手方向に延伸すると透水性能は向上するが、耐圧性能(例えば、破裂強度および耐圧縮強度)が低下するため、延伸後は実用的な強度の膜にならない場合が多い。しかしながら、本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜(例えば、多孔性中空糸膜)は機械的強度が高い。よって延伸倍率1.1倍以上3.0倍以内の延伸は実施可能である。延伸により、多孔質膜(例えば、多孔性中空糸膜)の透水性能が向上する。ここで言う延伸倍率とは、延伸後の中空糸長を延伸前の中空糸長で割った値を指す。例えば、中空糸長10cmの多孔性中空糸膜を、延伸して中空糸長を20cmまで伸ばした場合、下記式より、延伸倍率は2倍である。
20cm÷10cm=2
【0062】
延伸は、空間温度0℃以上160℃以下で行うことが望ましい。160℃より高い場合には延伸斑が大きいうえに破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくなく、0℃未満では延伸破断の可能性が高く実用的でない。延伸工程中の空間温度を10℃以上140℃以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは20℃以上100℃以下である。
【0063】
本実施形態においては、有機液状体を含んだ中空糸膜を延伸することが好ましい。有機液状体を含んだ中空糸膜の方が、有機液状体を含んでいない中空糸膜よりも、延伸時の破断が少ない。更に、有機液状体を含んだ中空糸膜の方が、延伸後の中空糸膜の収縮を大きくさせることができるため、延伸後の収縮率設定の自由度が増す。
【0064】
また、無機微粉体を含んだ中空糸膜を延伸することが好ましい。無機微粉体を含んだ中空糸膜の方が、中空糸膜に含まれる無機微粉体の存在による中空糸膜の硬さのために、延伸する際において中空糸膜が扁平につぶれにくくなる。また、最終的に得られる中空糸膜の孔径が小さくなりすぎたり、糸径が細くなりすぎたりすることを防止することもできる。
本実施形態においては、有機液状体及び無機微粉体の両方を含む中空糸膜を延伸することがより望ましい。
【0065】
上述の理由により、抽出終了後に中空糸膜を延伸するよりも、有機液状体又は無機微粉体のいずれか一方を含んだ中空糸膜を延伸する方が好ましく、更に、有機液状体又は無機微粉体のいずれか一方を含んだ中空糸膜を延伸するよりも、有機液状体及び無機微粉体の両方を含んだ中空糸膜を延伸することがより好ましい。
【0066】
また、延伸した中空糸膜を抽出する方法は、延伸により中空糸膜の表面及び内部に空隙が増加しているため、抽出溶剤が中空糸膜内部に浸透し易いという利点がある。また、延伸し、次いで収縮させる工程の後に抽出を行う方法は、後述のように、引っ張り弾性率の低い、曲がり易い中空糸膜となるために、抽出を液流中で行う場合には、中空糸膜が液流により揺れ易くなり、攪拌効果が増すために短時間で効率の高い抽出が可能となるという利点を有する。
【0067】
本実施形態では、中空糸膜を延伸し、次いで収縮させる工程を有する場合、最終的に引っ張り弾性率の低い中空糸膜を得ることができる。ここで、「引っ張り弾性率が低い」とは、糸が小さな力で伸びやすく、力がなくなればまた元に戻ることを意味する。引っ張り弾性率が低いと、中空糸膜が扁平につぶれることなく、曲がりやすく、濾過の際に水流で揺れやすい。水流に従って糸の曲がりが一定せずに揺れることで、膜表面に付着堆積する汚染物質の層が成長せずに剥がれやすく、濾過水量を高く維持できる。更にはフラッシングやエアースクラビングで強制的に糸を揺らす場合に、揺れが大きく洗浄回復効果が高くなる。
【0068】
延伸した後に収縮を行う際の糸長収縮の程度については、延伸による糸長増分に対する糸長収縮率を0.3以上0.9以下の範囲とすることが望ましい。例えば、10cmの糸を延伸して20cmにし、その後14cmにさせた時は、以下の式より、糸長収縮率は0.6となる。
糸長収縮率={(延伸時最大糸長)-(収縮後糸長)}/[(延伸時最大糸長)-(元糸長)]=(20-14)/(20-10)=0.6
糸長収縮率が0.9以上の場合は透水性能が低くなり易く、0.3未満の場合は引っ張り弾性率が高くなり易いため好ましくない。本実施形態においては、糸長収縮率が0.50以上0.85以下の範囲内であることがより好ましい。
【0069】
また、中空糸膜を延伸時最大糸長まで延伸し、次いで収縮させる工程を採ることにより、最終的に得られる中空糸膜は使用中に延伸時最大糸長まで伸ばした際にも切れることがなくなる。
ここで、延伸倍率をX、延伸による糸長増分に対する糸長収縮率をYとしたとき、破断伸度の保障の程度を表す率Zは、以下の式で定義できる。
Z=(延伸時最大糸長-収縮後糸長)/収縮後糸長=(XY-Y)/(X+Y-XY)
Zは0.2以上1.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以上1.0以下である。Zが小さすぎると破断伸度の保障が少なくなり、Zが大きすぎると延伸時の破断の可能性が高くなるわりに透水性能が低くなる。
【0070】
また本実施形態の製造方法では、延伸し、次いで収縮させる工程を含む場合、引っ張り破断伸度は低伸度での破断が極めて少なくなり、引っ張り破断伸度の分布を狭くすることができる。
【0071】
延伸し、次いで収縮させる工程における空間温度は、収縮の時間や物性の点から、0℃以上160℃以下の範囲が望ましい。0℃より低いと収縮に時間がかかり実用的でなく、160℃を越えると破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくない。
【0072】
本実施形態において、収縮工程中、中空糸膜を捲縮することが好ましい。これにより捲縮度の高い中空糸膜を、つぶれる又は傷つけることなく得ることができる。
【0073】
一般に、中空糸膜は、曲がりの無い直管状の形態をなしているため、束ねて濾過用モジュールとした場合に、中空糸間の隙間が取れずに空隙度の低い糸束になる可能性が高い。これに対して、捲縮度が高い中空糸膜を用いると、個々の糸の曲がりにより平均的に中空糸膜間隔が広がり空隙度の高い糸束とすることができる。また、捲縮度の低い中空糸膜からなる濾過モジュールは、特に外圧で用いる際に糸束の空隙が少なくなり流動抵抗が増大し、糸束の中央部まで濾過圧力が有効に伝わらなくなる。更には、逆洗やフラッシングで濾過堆積物を中空糸膜から剥ぎ落とす際にも糸束内部の洗浄効果が小さくなる。捲縮度の高い中空糸膜からなる糸束は、空隙度が大きく外圧濾過でも中空糸膜間隙が保たれ、偏流が起こりにくい。
【0074】
本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜(好ましくは中空糸膜)は、捲縮度が1.5以上2.5以下の範囲であることが好ましい。1.5以上の場合、上記の理由から好ましく、また、2.5以下であると容積当たりの濾過面積の低下を抑制できる。
【0075】
中空糸膜の捲縮方法としては、延伸し、次いで収縮させる工程中において、中空糸膜を収縮させながら、例えば、周期的に凹凸のついた一対のギアロール又は凹凸のついた一対のスポンジベルトで挟み込みながら引き取る方法等が挙げられる。
【0076】
また、本実施形態の製造方法においては、延伸を、相対する一対の無限軌道式ベルトからなる引き取り機を用いて行うことが好ましい。この場合、引取り機を延伸の上流側と下流側とで使用し、それぞれの引取り機においては、相対するベルト間に中空糸膜を挟み、双方のベルトを同速度で同方向へ移動させることにより糸送りを行う。また、この場合、下流側の糸送り速度を上流側の糸送り速度より速くして延伸を行うことが好ましい。このようにして延伸を行うと、延伸時に延伸張力に負けずにスリップすること無しに延伸し、且つ糸が扁平につぶれるのを防ぐことが可能となる。
【0077】
ここで、無限軌道式ベルトとは、駆動ロールと接する内側は繊維強化ベルト等の高弾性のベルトで出来ており、中空糸膜と接する外側の表面が弾性体で出来ていることが好ましい。また、弾性体の厚み方向の圧縮弾性率が0.1MPa以上2MPa以下であり、該弾性体の厚みが2mm以上20mmであることが更に好ましい。特に、外側表面の弾性体をシリコーンゴムにすることが、耐薬品性、耐熱性の点から好ましい。
【0078】
また、必要に応じて延伸後の膜に熱処理をおこない、耐圧縮強度を高めても良い。熱処理は80℃以上160℃以下で行うことが望ましい。160℃以下であると破断伸度の低下及び透水性能を抑制でき、100℃以上であると耐圧強度高くすることができる。また、熱処理は抽出終了後の中空糸膜に対して行うことが、糸径、空孔率、孔径、透水性能の変化が小さくなるという点から望ましい。
【実施例0079】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0080】
なお、本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0081】
以下の測定は特に記載がない限り全て25℃で行っている。以下では、評価方法について説明した後、実施例及び比較例の製造方法及び評価結果について説明する。
【0082】
また膜の配合組成及び製造条件、並びに各種性能を表1に示す。
【0083】
(1)外径、内径及び膜厚
中空糸膜を膜長手方向に15cm間隔で垂直な向きにカミソリなどで薄く切り、顕微鏡を用いて断面の内径の長径と短径、外径の長径と短径を測定し、以下の式(2)、(3)により、それぞれ内径と外径を計算し、その計算した外径から内径を減算し、2で除した値を膜厚として計算した。20点測定し、その平均値を、その条件における内径(mm)、外径(mm)、膜厚(mm)とした。
【数3】
【数4】
【0084】
(2)純水透水量(L/m/hr)
中空糸膜を50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、中空糸膜を湿潤化した。約10cm長の湿潤中空糸膜の一端を封止し、他端の中空部内へ注射針を入れ、注射針から0.1MPaの圧力にて25℃の純水を中空部内へ注入し、外表面へと透過してくる純水の透過水量を測定し、以下の式(4)により純水透過流束を決定した。ここに膜有効長とは、注射針が挿入されている部分を除いた、正味の膜長を指す。また、測定数は10点とし、その平均値を各条件における純水透水量とした。
【数5】
【0085】
(3)純水透水量の変動係数
(2)の純水透水量の測定方法にて各サンプルn=50の測定を実施し、変動係数=(標準偏差/平均値)×100を算出した。
【0086】
(3)押出機温度の安定化必要時間
混合物を押出機に投入し、所定の押出量に到達した時点から、バレル温度が設定温度に対して±10℃以内に入った後、10分間±10℃以内に入っているかを確認した。入っていることを確認出来たら、温度が安定したと判断し、所定の押出量に到達してから±10℃以内に入るまでの時間を安定化必要時間とした。10℃以内に入った後、設定温度に対して再度10℃以上の乖離が生じた場合は、次に±10℃以内に入った時間から10分間監視し上述の方法にて安定化必要時間(分)を決定した。
【0087】
(4)押出機への投入性
押出機へ原料を投入した際に、投入不良が発生せず20分間安定して原料を投入できれば投入性はA(問題なし)と判断した。また、投入不良が発生した場合をB(問題あり)と判断した。
【0088】
(5)延伸不良
延伸をかけた際に、15分間監視し、目視にて延伸不良や延伸時に切れ糸が発生した回数をカウントした。
【0089】
(6)粒子径分布
粒子径分布測定装置としてMS3000(Malvern Panalytical社製)を使用し、分散媒に水を使用し、分散媒屈折率は1.330、粒子屈折率には1.420で測定を実施した。D10、D50、D90は粒子体積基準にて算出されたものを採用した。
なお、粉砕後に分級を行う場合、表中の「粉砕後の粒子」とは、粉砕及び分級後の押出機に投入する粒子をいう。
【0090】
(7)円形度、線形度
HITACHI製電子顕微鏡SU8000シリーズを使用し、加速電圧3kVでポリマー粒子を観察した。観察時は20個以上のポリマー粒子が確認できる倍率になるように撮影を実施した。ポリマー粒子同士が重ならないように観察サンプル作成時は極力、薄く平らになるようにサンプルを台に並べた。撮影した画像を用いて、画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて粒子部分を黒く塗り潰し、透明シートを白紙にコピーすることにより、粒子部分は黒、その部分は白と明確に区別した。Winroof2018 Ver4.23.1を用いて判別分析法により二値化を行った。こうして得た二値化画像の形状特徴値解析より、円形度と線形度を算出した。
なお、粉砕後に分級を行う場合、表中の「粉砕後の粒子」とは、粉砕及び分級後の押出機に投入する粒子をいう。
【0091】
(8)内外表面孔径と開孔率
(7)と同様の電子顕微鏡にて、被濾過液側表面を撮影した。20個以上の孔の形状が確認できる倍率で撮影し、本実施例および比較例では10000倍で撮影を行った。
撮影した画像を用いて、国際公開第2001/53213号公報に記載されているように、画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて孔部分を黒く塗り潰し、透明シートを白紙にコピーすることにより、孔部分は黒、非孔部分は白と明確に区別した。その後に市販の画像解析ソフトWinroof2018 Ver4.23.1を使い、判別分析法により二値化を行った。こうして得た二値化画像の占有面積を求めることにより、外表面の開孔率を求めた。
孔径は、表面に存在した各孔に対し、円相当径を算出し、孔径の大きい方から順に各孔の孔面積を足していき、その和が、各孔の孔面積の総和の50%に達するところの孔の孔径で決定した。
【0092】
(9)ホッパーでの偏析
熱可塑性樹脂を粉砕した粒子(80kg)を一時保管するホッパー(容量500L)にて、温度25℃、湿度40%の条件で保管開始から8時間経過後、上部から粒子を抜き出し底部にある粒子を観察した。目視にて微粉の堆積が確認されない場合はA(問題なし)、確認された場合はB(問題あり)とした。
【0093】
(10)ホッパーでの嵩密度の安定化時間
熱可塑性樹脂を粉砕した粒子(80kg)を一時保管するホッパー(容量500L)にて、温度25℃、湿度40%の条件で保管開始から10分毎に2時間まで嵩密度の測定を実施した。保管開始後、2回連続で10%以内の嵩密度になる場合が10分と20分の数値である場合をC(安定化が早い)、20分以降の場合をD(安定化が遅い)とした。
【0094】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー(アルケマ社製Kynar740)を使用した。ペレット状のKynar740の粉砕は凍結粉砕方式にてリンレックスミル(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて粉砕を行った。振動篩機を用いて分級を行い、目開き355μm以上は取り除き、53μm以上を製品として採用した。粉砕後のD50粒径は160μm、粒子径分散度Vは1.1であった。また円形度は0.43、線形度は2.5であった。
粉砕したフッ化ビニリデンホモポリマーと、有機液体としてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)(シージーエスター株式会社製)とフタル酸ジブチル(DBP)(シージーエスター株式会社製)との混合物、無機微粉体として微粉シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL-R972、平均1次粒子径が約16nm)を用い、中空糸成形用ノズルを用いて押出機による中空糸膜の溶融押出を行った。溶融混練物として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:31.7:5.30:23.0(質量比)の溶融混練物を、中空部形成用流体として空気を用い、共に240℃の吐出温度にて、外径1.7mm、内径0.9mmの中空糸成形用ノズルから押し出した。
吐出温度240℃で押出した中空糸状溶融混練物は、0.60秒の空中走行を経た後30℃の水を入れた凝固浴槽へ導いた。30m/分の速度で引き取り、ベルトに挟んで60m/分の速度で延伸させた後、装置の設定を140℃にした熱風を当てながら45m/分の速度で収縮させ、かせに巻き取った。
得られた中空糸状物をイソプロピルアルコール中に浸漬させてフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)およびフタル酸ジブチルを抽出除去した後、乾燥させた。次いで、50質量%のエタノール水溶液中に30分間浸漬させた後、水中に30分間浸漬し、次いで、20質量%水酸化ナトリウム水溶液中に70℃にて1時間浸漬し、さらに水洗を繰り返して微粉シリカを抽出除去し、多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0095】
(実施例2)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き300μm以上は取り除き、90μm以上を製品として採用した以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0096】
(実施例3)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0097】
(実施例4)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き425μm以上は取り除き、53μm以上を製品として採用した以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0098】
(実施例5)
フッ化ビニリデンホモポリマーの粉砕を、ディスク型粉砕機スパイラルミル(株式会社セイシン企業製)を用いて粉砕を実施した以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0099】
(実施例6)
実施例5と同様ディスク型粉砕機スパイラルミルを用い、粉砕機内に設置された固定刃と回転刃間のクリアランス調整を行うことにより粒子径を調整した以外は実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0100】
(実施例7)
熱可塑性樹脂としてフッ化ビニリデンホモポリマー(ソルベイ社製Solef6010)を使用した以外は、実施例3と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0101】
(実施例8)
熱可塑性樹脂としてエチレン-クロロトリフルオロエチレン(ソルベイ社製Halar901)を使用し、溶融混練物として組成がフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:33.7:3.70:23.0(質量比)とした以外は、実施例3と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0102】
(比較例1)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き250μm以上は取り除き、90μm以上を製品として採用した以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。粒子径分散度が0.70であったことから、多孔質膜の純水透水量の変動係数は大きくなり、多孔質膜の構造のばらつきが大きくなっていることが認められた。
【0103】
(実施例9)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き850μm以上は取り除き、355μm以上を製品として採用した以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。粒子のD50粒径と無機微粉体の平均一次粒子径の比が37500であったことから、延伸不良が15分で5回発生した。評価用サンプルは採取した。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0104】
(実施例10)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き300μm以上は取り除き、53μm以上を製品として採用した。さらに無機微粉体として微粉シリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名:AEROSIL-RX50、1次粒子径が約40nm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。粒子のD50粒径と無機微粉体の平均一次粒子径の比が2750であったことから、押出機温度の安定必要時間が50分であった。評価用サンプルは採取した。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0105】
(実施例11)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き106μm以上は取り除き、32μm以上を製品として採用した以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。粒子のD50粒径が50μmであったことから押出機へ安定して投入ができなかったが断続的に短時間投入できた際にサンプルを採取した。表1に、詳細な組成および条件を示す。
【0106】
(実施例12)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーにアルケマ社製Kynar720を使用し、分級を目開き425μm以上は取り除き製品として採用した。また溶融混練物として組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:31.3:5.70:23.0(質量比)とした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0107】
(実施例13)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き850μm以上は取り除き、90μm以上を製品として採用した以外は実施例12と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0108】
(実施例14)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き850μm以上は取り除き、106μm以上を製品として採用し、溶融混練物として組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=40.0:31.7:5.30:23.0(質量比)とした以外は実施例13と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0109】
(実施例15)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き250μm以上は取り除き製品として採用した以外は実施例14と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0110】
(実施例16)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き850μm以上は取り除き、90μm以上を製品として採用した以外は実施例13と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0111】
(実施例17)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き425μm以上は取り除き、溶融混練物として組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=45.0:28.7:5.20:21.1(質量比)とした以外は実施例13と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0112】
(実施例18)
粉砕後のフッ化ビニリデンホモポリマーの分級を目開き425μm以上は取り除き、溶融混練物として組成をフッ化ビニリデンホモポリマー:フタル酸ジ(2-エチルヘキシル):フタル酸ジブチル:微粉シリカ=34.0:34.4:6.30:25.3(質量比)とした以外は実施例13と同様の方法で多孔性中空糸膜を得た。
【0113】
(比較例2)
フッ化ビニリデンホモポリマーとして、Solef6010(パウダー)を購入し、粒子の円形度、線形度を解析した。パウダー品は重合後の粒子であり粉砕は実施していない。また実施例に記載のような樹脂の破砕も粉砕も行わなかった。
【0114】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、生産性が高く膜性能のばらつきが小さい多孔質膜(好ましくは多孔性中空糸膜)が提供される。
【符号の説明】
【0116】
a 熱可塑性樹脂
b 空隙部
10 押出機
20 中空糸成形用ノズル
30 凝固浴槽
40 多孔性中空糸膜
50 ローラ
S 空走部
図1
図2