(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022486
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】流路切り替え装置および流路切り替え方法
(51)【国際特許分類】
E02B 5/00 20060101AFI20240208BHJP
E02B 7/16 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
E02B5/00 Z
E02B7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104618
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022124467
(32)【優先日】2022-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 翔一
(72)【発明者】
【氏名】福住 遼太
(57)【要約】
【課題】流体の流動する旧水路を遮断することによって旧水路に替えて旧水路から分岐した新水路に流体を流動させる、流体の流路の切り替えを行う際に、旧水路における流体の遮断部で越流が生じることを防止もしくは抑制することのできる流路切替え装置および流路切替え方法を提供する。
【解決手段】流体の流動する第1流路1から分岐した第2流路2に対して、第1流路1から切り替えて流体を流動させる流路切り替え装置であって、流体の流動方向で、第1流路1から第2流路2が分岐している分岐部5よりも第1流路1の下流側に設けられ、第1流路1を遮断する遮断部7と、分岐部5に設けられ、流体と衝突することによって第1流路側1から第2流路2側に向かう流体の流体流を生じさせる転換部4,8,9,10,11とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流動する第1流路から分岐した第2流路に対して、前記第1流路から切り替えて前記流体を流動させる流路切り替え装置であって、
前記流体の流動方向で、前記第1流路から前記第2流路が分岐している分岐部よりも前記第1流路の下流側に設けられ、前記第1流路を遮断する遮断部と、
前記分岐部に設けられ、前記流体と衝突することによって前記第1流路側から前記第2流路側に向かう前記流体の流体流を生じさせる転換部と
を備えている流路切り替え装置。
【請求項2】
前記転換部は、前記分岐部における前記第1流路の壁面のうち、前記第2流路に対向する壁面から突出した突出部である
請求項1に記載の流路切り替え装置。
【請求項3】
前記第1流路の幅方向への前記突出部の突出長さLは、前記第1流路の流路幅Wに対して下記式の関係を満たす請求項2に記載の流路切り替え装置。
0.3W≦L<W
【請求項4】
前記第1流路は、トラフ型水路を成しており、
前記突出部は、前記トラフ型水路の両側壁面のうち、前記分岐部における前記第2流路に対向する第1側壁面に設けられる
請求項2または3に記載の流路切り替え装置。
【請求項5】
前記流体が衝突する前記突出部の外周面のうち、前記流体の流動方向で上流側に位置する第1外周面は平面状に形成されており、
前記第1外周面と前記第1側壁面との成す角度が30°以上90°未満である
請求項4に記載の流路切り替え装置。
【請求項6】
流体の流動する第1流路から分岐した第2流路に対して、前記第1流路から切り替えて前記流体を流動させる流路切り替え方法であって、
前記流体の流動方向で前記第1流路から前記第2流路が分岐している分岐部に、前記流体と衝突することによって前記第1流路側から前記第2流路側に向かう前記流体の流体流を生じさせる前記流体の流動方向の転換部を設置し、
前記分岐部よりも前記第1流路の下流側に設けられ、前記第1流路を遮断する遮断部によって前記第1流路を遮断することによって前記第1流路から前記第2流路に前記流体を流動させる
流路切り替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体が流動する流路の切り替え装置および切り替え方法に関し、特に、液相の流体が流動する流路を切り替える装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄プロセスにおいては、排ガスに含まれるダストを除去するために湿式集塵装置が用いられることが多い。湿式集塵装置は、排ガスに対して水をスプレー噴霧して排ガスと水とを接触させて排ガス中のダストを除去するように構成されている。湿式集塵装置で生じた多量のダストを含む集塵水(以下、処理水と記す。)は、例えば工場内に敷設される200m程度の配管を流動し、さらに屋外に敷設されるトラフ型水路を経由して、水処理設備に搬送される。水処理設備では、未だ処理水に含まれるダストを分離するなどの処理水の清浄化あるいは無害化が図られる。
【0003】
上記の処理水には、有害な化学物質が含まれる場合があり、また、処理水に含まれる化学物質によっては、例えば、処理水の水素イオン濃度指数が「3」(pH3)程度の酸性になる場合がある。そのため、処理水が流動する水路では、処理水の漏洩が生じないことが求められる。一方で、処理水を搬送する水路は、湿式除塵装置と水処理設備の配置上の制約や、水流を監視する必要性から、配管等を用いた密閉式の水路ではなく、上部が開放されたトラフ型水路が用いられる場合がある。
【0004】
処理水は、上述したように、多くのダストを含んでおり、処理水が流動するトラフ型水路を長期間使用した場合には、ダストに起因するトラフ型水路のエロージョンや腐食などが生じる。そのため、一定の頻度でトラフ型水路の更新が求められる。トラフ型水路を更新する場合には、例えば、処理水の流動方向で、更新の対象箇所の上流側でトラフ型水路を分岐させて新たにトラフ型水路を設置すると共に、処理水の流動方向でトラフ型水路の分岐部の下流側を遮断する(以下、トラフ型水路を遮断した箇所を遮断部と記し、更新対象のトラフ型水路を旧水路と記し、新たに設置したトラフ型水路を新水路と記す。)。こうすることにより、旧水路の補修や交換を行う。しかしながら、トラフ型水路を上記のように分岐させ、旧水路を遮断する際に、処理水の水流によって、遮断部を超えて旧水路に処理水が流れ込んでしまう越流が生じる可能性がある。
【0005】
劣化した水路を補修する方法が特許文献1~3に記載されている。これらは、既設のトラフ型水路内に管状の水路を形成したり、水路を分割したりすることにより、既設の水路の補修または改修を行うものである。
【0006】
また、水路を流れる水の越流を防止するための方法が、特許文献4や特許文献5に記載されている。具体的には、特許文献4には、放水路に連結された複数の水路を互いに連結して水位の高い水路から水位の低い水路に雨水を流動させることにより、各水路から雨水が溢れでることを防止する雨水排水システムが記載されている。特許文献5には、上流側の水位が上昇したときには、他の水路に分水するように構成された堰装置が記載されている。すなわち、水路に堰装置として可動堰と固定堰とが設けられており、水路の水位が固定堰を越えない水位のときは可動堰を開放し、水路の水位が固定堰を越える水位になったときには、可動堰を閉止して他の水路に分水するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-90026号公報
【特許文献2】特開平11-140849号公報
【特許文献3】特開2020-37796号公報
【特許文献4】特開2006-37478号公報
【特許文献5】特開平11-222835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
処理水は、上述したように、処理水に含まれるダストによっては水素イオン濃度指数(pH)が低くなってしまい、製鉄所におけるトラフ型水路を劣化させる場合がある。トラフ型水路の劣化の度合いが大きい場合には、つまり、劣化が激しい場合には、当該トラフ型水路は撤去され、新たなトラフ型水路が敷設される。これに対して、特許文献1~3に記載された技術は、劣化した水路を補修または改修するためのものであり、製鉄所におけるトラフ型水路の交換や切り替えに関するものではない。また、トラフ型水路の劣化が激しい場合には、補修では間に合わない可能性がある。すなわち、特許文献1~3に記載された補修や改修による方法では、劣化の激しいトラフ型水路を十分に補修することができず、トラフ型水路の劣化や破損などにより処理水の漏洩が生じる可能性がある。
【0009】
また、特許文献4、5に記載された技術は、水路からの越流を含む漏水を防止するためのものである。旧水路から新水路への切替えのように、各水路を流れる処理水の流量が急激かつ大きく変動する場合には、旧水路における遮断部での越流を防止もしくは抑制することができない可能性がある。
【0010】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、流体の流動する旧水路を遮断することによって旧水路に替えて旧水路から分岐した新水路に流体を流動させる、流体の流路の切り替えを行う際に、旧水路における流体の遮断部で越流が生じることを防止もしくは抑制することのできる流路切替え装置および流路切替え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]流体の流動する第1流路から分岐した第2流路に対して、前記第1流路から切り替えて前記流体を流動させる流路切り替え装置であって、前記流体の流動方向で、前記第1流路から前記第2流路が分岐している分岐部よりも前記第1流路の下流側に設けられ、前記第1流路を遮断する遮断部と、前記分岐部に設けられ、前記流体と衝突することによって前記第1流路側から前記第2流路側に向かう前記流体の流体流を生じさせる転換部とを備えている流路切り替え装置である。
[2]前記転換部は、前記分岐部における前記第1流路の壁面のうち、前記第2流路に対向する壁面から突出した突出部である上記の[1]に記載の流路切り替え装置である。
[3]前記第1流路の幅方向への前記突出部の突出長さLは、前記第1流路の流路幅Wに対して下記式の関係を満たす上記の[2]に記載の流路切り替え装置である。
0.3W≦L<W
[4]前記第1流路は、トラフ型水路を成しており、前記突出部は、前記トラフ型水路の両側壁面のうち、前記分岐部における前記第2流路に対向する第1側壁面に設けられる上記の[2]または[3]に記載の流路切り替え装置である。
[5]前記流体が衝突する前記突出部の外周面のうち、前記流体の流動方向で上流側に位置する第1外周面は平面状に形成されており、前記第1外周面と前記第1側壁面との成す角度が30°以上90°未満である上記の[4]に記載の流路切り替え装置である。
[6]流体の流動する第1流路から分岐した第2流路に対して、前記第1流路から切り替えて前記流体を流動させる流路切り替え方法であって、前記流体の流動方向で前記第1流路から前記第2流路が分岐している分岐部に、前記流体と衝突することによって前記第1流路側から前記第2流路側に向かう前記流体の流体流を生じさせる前記流体の流動方向の転換部を設置し、前記分岐部よりも前記第1流路の下流側に設けられ、前記第1流路を遮断する遮断部によって前記第1流路を遮断することによって前記第1流路から前記第2流路に前記流体を流動させる流路切り替え方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、転換部に流体が衝突すると、その流体の流動方向は第2流路側に転換され、第2流路に向かって流動する。転換部の下流側には、転換部に一旦衝突し、運動エネルギ(動圧)が低減された流体が流動する。そのため、遮断部に流体が衝突するとしても、遮断部での流体の流量や水位は低減されており、また運動エネルギは上述したようにして、転換部によって低減されているから、遮断部での越流を防止もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る流路切り替え装置および流路切り替え方法の一例を説明するための図である。
【
図2】突出部の形状の一例を説明するための図である。
【
図3】突出部の形状の他の例を説明するための図である。
【
図4】突出部の形状の更に他の例を説明するための図である。
【
図5】遮断部の形状の一例を説明するための図である。
【
図6】実施例の数値解析に用いたトラフ型水路の一例を示す図である。
【
図7】突出部と整流部とを分岐部に設けた一例を説明するための図である。
【
図8】実施例の水位高さの分布、および、比較例の水位高さの分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明に係る流路切り替え装置は、流体の流動する第1流路に接続された第2流路に対して、第1流路から切り替えて流体を流動させる場合に、第1流路を遮断する遮断部で越流が生じることを防止もしくは抑制するように構成されている。具体的には、本発明に係る流路切り替え装置は、流体の流動方向で、第1流路に第2流路が接続された箇所(以下、分岐部と記す。)よりも下流側で第1流路を遮断し、それによって第1流路から第2流路に切り替える。また、分岐部において、第2流路に向かう流体の流体流を生じさせることによって、第1流路を遮断している遮断部での越流の発生を防止もしくは抑制するように構成されている。したがって、上述した流体は液相の流体であって、第1流路や第2流路は越流の生じる可能性がある流路である。第1流路や第2流路としては、例えば、上面が開放されているトラフ型水路を挙げることができる。トラフ型水路は従来知られたものであってよく、その断面形状はU字状やV字形状など、いずれの形状であってよい。
【0015】
図1は本発明に係る流路切り替え装置および流路切り替え方法の一例を示す図であって、
図1の(a)は第1流路の一例を示す上面図である。ここに示す例では、詳細は図示しないが、流体の流動方向で第1流路1の上流側に湿式集塵装置が配置されている。湿式集塵装置は、一例として、製鉄所の製鉄プロセスで発生する排ガスに含まれるダストを除去するものであって、排ガスに対して水をスプレー噴霧することによって排ガスと水とを接触させて排ガス中のダストを除去するようになっている。その湿式集塵装置は、従来知られたものと同様に構成されたものであってよい。湿式集塵装置で生じた多量のダストを含む水(以下、処理水と記す。)が、上述した液相の流体に相当している。また、処理水の流動方向で湿式集塵装置の下流側に水処理設備が位置している。その水処理設備は処理水を清浄化あるいは無害化するものであって、水処理設備として従来知られたものと同様に構成されたものであってよい。
【0016】
製鉄プロセスで排出される排ガスあるいはダストには、有害な化学物質が含まれている場合があり、そのために、処理水には、上述した化学物質が含まれている可能性がある。化学物質の種類によっては、処理水の水素イオン濃度指数(pH)は「3」程度の酸性になる場合がある。第1流路1は酸性の処理水に曝されると、腐食したり、処理水に含まれるダストなどの粒子状物質によって摩耗したりして次第に劣化する可能性がある。したがって、第1流路1は予め定めた頻度で更新あるいは交換されることが好ましい。例えば、第1流路1のうち、劣化の度合いが大きい部分や、そのような部分を含む範囲の上流側に、新たに第2流路を接続して処理水の流動する流路を第1流路1から第2流路に切り替える。こうすることによって、前記流動方向で第1流路1に第2流路が接続された分岐部より下流側の第1流路1を更新あるいは交換してよい。あるいは、第1流路1の全長に亘って一度に更新あるいは交換してもよい。ここに示す例は、処理水の流動する流路を第1流路1から第2流路に切り替えて、分岐部より下流側の第1流路1を更新あるいは交換する場合の例である。
【0017】
流路を切り替える具体的な手順としては、先ず、第1流路1において、第2流路を接続する位置、つまり、第1流路1を分岐させる位置(以下、分岐開始位置と記す。図示せず。)を決定する。分岐開始位置は、一例として、第1流路1のうち、劣化の度合いが大きい部分や、劣化の度合いが大きい部分を含む範囲の上流側の部分を挙げることができる。そのような上流側の部分は例えば、第1流路1が直線状または緩やかな曲線状に敷設されている部分であって、かつ、分岐部を設置するための作業スペースが確保できる位置である。また、第1流路1の流路幅が比較的広く処理水の流速が低くなる位置が好ましい。
【0018】
次いで、分岐開始位置に、
図1の(b)に示すように、第2流路2を接続する。第2流路2は第1流路1と同様に構成されたトラフ型水路であってよい。第2流路2の幅および深さは第1流路1の幅および深さとほぼ同様に設定されている。また、処理水の流路を第1流路1から第2流路2に切り替える前の時点では、すなわち、第2流路2の全長に亘って敷設が完了するまでの間は、第1流路1と第2流路2との間に隔壁3を設置する。
図1の(b)はその状態を示している。こうすることにより第1流路1から第2流路2に処理水が流入しないように構成し、その状態で、分岐開始位置から予め定めた長さ、あるいは、分岐開始位置から上述した水処理設備まで第2流路2を敷設する。
【0019】
第2流路2の敷設が完了した後に、あるいは、第2流路2の敷設と並行して、
図1の(c)に示すように、第1流路1から第2流路2に向かう処理水の流体流を生じさせる本実施形態の転換部を設置する。
図1の(c)に示す例では、転換部として、第1流路1の側壁面から第1流路1の内側に突出した突出部が形成されている。そのため、以下の説明では、転換部を突出部4と記す。第1流路1における突出部4の設置位置は、第1流路1から第2流路2が分岐する分岐部5であって、その分岐部5を
図1に点線で囲って示してある。突出部4については後述する。
【0020】
突出部4の設置後においては、
図1の(d)に示すように、隔壁3を撤去して第2流路2の流入口6を開放する。こうすることによって第1流路1から第2流路2に処理水が流れ込むため、第1流路1における処理水の流動方向で、突出部4の下流側における処理水の流量や水位は、隔壁3の撤去前と比較して低減する。
【0021】
隔壁3の撤去とほぼ同時に、あるいは、隔壁3の撤去後において、第1流路1における処理水の流動方向で、分岐部5の下流側に第1流路1を遮断する遮断部7を設置する。これは、上述したようにして突出部4の下流側での処理水の流量や水位が低減していない状態で、遮断部7によって第1流路1における処理水の流動を堰き止めると、処理水の流量や水位が低減している場合と比較して、遮断部7の近傍の処理水の水位が上昇する。そして、その状態で遮断部7に処理水が衝突すると、遮断部7を処理水が越える越流が生じる可能性があるので、これを避けるためである。隔壁3を撤去してから遮断部7によって第1流路1を遮断するタイミングは、実験などによって求めることができる。本発明では、上記のようにして処理水の流れが第1流路1から第2流路2に切り替えられる。
図1の(e)はその状態を示している。
【0022】
ここで、突出部4について説明する。突出部4は、第1流路1に沿って流動する処理水を第2流路2に向けて流動させるように、当該処理水の流動方向を転換するように構成されている。具体的には、突出部4は、第1流路1の両側壁面1a,1bのうち、第2流路2の流入口6に対向する側壁面1aから突出した三角柱状を成している。突出部4の三つ側面4a,4b,4cのうち、第1側面4aは第1流路1の側壁面1aにほぼ接した状態で第1流路1に設置されている。残りの二つの側面4b,4cのうち、第2側面4bは処理水の流動方向で第3側面4cの上流側に位置している。突出部4における第2側面4bに、第1流路1に沿って流動する処理水を衝突させることによって、作用線の方向が第2流路2側を向く分力を生じさせて、すなわち、第2流路2に向かって流動する処理水の流体流を生じさせて、処理水の流動方向を転換するようになっている。
【0023】
突出部4は処理水の流動方向で第2流路2の流入口6の上流側端部と下流側端部との間に設置されることが好ましい。これは、流動方向で流入口6の上流側端部よりも上流側に突出部4を設置すると、その設置箇所での第1流路1の幅が狭くなって水位が上昇する。また、突出部4によって第2流路2側に流動方向が変化させられた処理水が、第1流路1における第2流路2側の側壁面1bに衝突して越流が生じる可能性があるのでこれを避けるためである。これと同様に、流動方向で流入口6の下流側端部よりも下流側に突出部4を設置すると、その設置箇所での第1流路1の幅が狭くなって水位が上昇する。また、突出部4によって第2流路2側に流動方向が変化させられた処理水が、第1流路1における第2流路2側の側壁面1bに衝突して越流が生じる可能性があるのでこれを避けるためである。
【0024】
また、突出部4における処理水の衝突する第2側面4bと、処理水の流動方向と互いに平行な軸線との成す角度(以下、傾斜角度と記す。)θ1は30°以上90°未満であることが好ましい。これは、第2側面4bの傾斜角度θ1が30°未満の場合には、第2側面4bに処理水が衝突しても上述した第2流路2に向かう流体流が生じにくく、処理水の流動方向を第2流路2側に転換する機能が低下してしまうので、これを避けるためである。また、第1流路1の遮断部7に対して、処理水がほぼそのまま衝突してしまい、越流を生じる可能性があるので、これを避けるためである。
【0025】
一方、第2側面4bの傾斜角度θ1が90°以上の場合には、第2側面4bによって処理水の一部を堰き止めるようになってしまう。すなわち、第2側面4bに衝突する処理水の動圧を受け流すことなく第2側面4bで受けることになる。処理水の動圧に抗するためには、突出部4の強度あるいは剛性を増大せざるを得ず、またそれに伴って、突出部4の材料コスト、加工あるいは製造コスト、および、設置コストなどが増加する可能性があるので、これを避けるためである。
【0026】
第2側面4bの傾斜角度θ1は、分岐部5において、第1流路1と第2流路2との成す角度とほぼ等しいことがより好ましい。第1流路1と、当該第1流路1に接続された第2流路2の端部側とがそれぞれ直線状の場合について説明する。第2側面4bの傾斜角度θ1は、分岐部5における第1流路1の中心軸線と、第1流路1に接続された第2流路2の端部側の中心軸線との成す角にほぼ等しいことがより好ましい。次いで、第1流路1と、当該第1流路1に接続された第2流路2の端部側とがそれぞれ曲線状の場合について説明する。第2側面4bの傾斜角度θ1は、分岐部5における第1流路1の中心線と、前記第2流路2の端部側の中心線との交点を通る前記第1流路1の中心線に対する接線と、前記交点を通る前記第2流路2の端部側の中心線に対する接線との成す角にほぼ等しいことがより好ましい。こうすることにより、処理水の流動方法を第2流路2側に向ける効果が高まるからである。
【0027】
さらに、第2側面4bは処理水に浸漬されると共に、僅かではあっても一部が処理水の水面から出ていることが好ましい。これにより、処理水の水面付近の流れを第2流路2側に導くことができるためである。また、第1流路1の遮断部7での越流には、水流の水面付近の慣性力が大きな影響を有しており、この部分の流れ(慣性力)を突出部4によって低減するためである。このように、突出部4は処理水の流動方向を転換し、また、少なくとも処理水の水面付近の慣性力を低減できればよい。そのため、突出部4は、第1流路1と突出部4の底面との間に隙間が生じるように、分岐部5における第1流路1に設置されてよい。
図2の(a)はその状態を示している。しかしながら、突出部4の高さは、
図2の(b)に示すように、第1流路1の深さとほぼ同じ高さに設定され、また、第1流路1の底部から立ち上がるように設置されることが好ましい。こうすることにより、処理水の流動を第2流路2側に効果的に変更できるためである。
【0028】
そしてさらに、第1流路1の幅方向への突出部4の突出長さLが、第1流路1の流路幅Wに対して、下記式(1)の関係を満たすように突出部4を構成することが好ましく、また、下記式(2)の関係を満たすがより好ましい。
0.3W≦L<W …(1)
0.5W≦L<0.9W …(2)
【0029】
上記の式(1)および式(2)における流動幅Wとは、トラフ型水路である第1流路1の幅を意味している。また、突出長さLとは、第1流路1の流動幅W方向で分岐部5における第1流路1の側壁面1aと、当該側壁面1aから第2流路2側に向かって突出部4が最も突き出た部分との間の長さあるいは距離を意味している。
【0030】
突出長さLが流動幅Wの30%に相当する長さよりも小さい場合(0.3W≦L)には、突出部4と衝突する処理水の水量が少なくなるため、処理水の流動方向を第2流路2側に転換する機能が低下してしまう可能性がある。また、処理水の全量がほぼそのまま第1流路1の遮断部7に衝突することになるため、遮断部7で越流を生じてしまう可能性がある。
【0031】
突出長さLが流動幅W以上になると、突出部4と衝突する処理水の水量が多くなり、処理水の動圧に抗するために、突出部4の強度あるいは剛性を増大する必要がある。また、それに伴って、突出部4の材料コスト、加工あるいは製造コスト、および、設置コストなどが増大してしまう可能性がある。
【0032】
突出部4の形状、つまり、水平面に対して平行な突出部4の断面形状は、
図1に示すような三角形状に限定されず、
図3の(a)に示すような台形状の突出部8であってよい。また、
図3の(b)に示すような、処理水の流動方向で上流側の側面が傾斜し、下流側の側面が第1流路1に対して直交するように構成された台形状の突出部9であってもよい。また、突出部4は、
図1に示すような堤状の構造物に限定されず、
図4の(a)に示すように、第1流路1の側壁面1aを第1流路1の内側に突出させて構成されていてもよい。すなわち、第1流路1に一体に形成された突出部10であってよい。さらに、
図4の(b)に示すように、第1流路1の側壁面1aから第1流路1の内側に張り出した板(以下、張り出し板と記す。)11を突出部として機能させてもよい。この場合、処理水の流動方向に対する張り出し板11の傾斜角度θ1を変更できるように、第1流路1の側壁面1aに対して張り出し板11を回転可能に取り付けると共に、図示しないアクチュエータによって張り出し板11の傾斜角度θ1を変更するように構成してよい。こうすることにより、第1流路1から第2流路2への処理水の流路の切り替えを行う際に、上述した第2流路2に向かう流体流を生じる傾斜角度θ1となるようにアクチュエータによって張り出し板11を回動させることができる。そして、上述した第2流路2に向かう流体流を生じる傾斜角度θ1を維持するように、図示しないアクチュエータを制御したり、図示しないストッパーによって張り出し板11を固定したりしてよい。このように、突出部4は、第1流路1から第2流路2への処理水の流路の切り替えを行う際に、処理水と衝突することによって、第2流路2に向かう流体流を生じるように構成されていればよい。
【0033】
次いで、遮断部7について説明する。第1流路1を遮断する遮断部7は、第1流路1での処理水の流動を遮断できる機能を備えていればよいのであって、そのような機能を有していれば遮断部7の形状、および、遮断部7を構成する材料の材質は問わない。遮断部7は、例えば、鉄板やコンクリート板など板状の構造物であってよい。そして、板状の遮断部7を、
図5に示すように、第1流路1に形成された溝12に沿って差し込むように構成されていてよい。上記の溝12は第1流路1の側壁面1a,1bと底面とのそれぞれに設けられると共に、側壁面1a,1bに形成する溝12は第1流路1の高さ方向の全長に亘って設ける。遮断部7の高さは、第1流路1の深さとほぼ同じ高さに設定する。これにより、遮断部7によって第1流路1における処理水の流動を堰き止めた場合における遮断部7での越流を防止もしくは抑制することができる。
【0034】
なお、遮断部7の設置、および、第1流路1を開閉するために、図示しない門型クレーンを遮断部7の周辺に配置してもよい。具体的には、詳細は図示しないが、第1流路1を横断するように架台を設置し、当該架台にチェーンブロックを取りつける。チェーンブロックの取り付け位置は、遮断部7の上部に設けられた吊りピース等の治具(図示せず)に対して、チェーンブロックのフックがアクセスできる位置であってよい。こうすることにより、門型クレーンを使用して遮断部7を上下方向に昇降させることができ、第1流路1の遮断および開放が可能になる。また、遮断部7は水門のように開閉可能な構造体によって構成されていてもよい。
【0035】
したがって、本発明によれば、突出部4,8,9,10および張り出し板11に処理水が衝突すると、その処理水の流動方向は第2流路2側に転換され、第2流路2に向かって流動する。つまり、突出部4,8,9,10および張り出し板11は、衝突した処理水を第2流路2側に案内する。その結果、突出部4,8,9,10および張り出し板11の下流側には、突出部4,8,9,10および張り出し板11に一旦衝突し、運動エネルギ(動圧)が低減された処理水が流動する。そのため、遮断部7に処理水が衝突するとしても、その遮断部7での処理水の流量や水位、運動エネルギは上述したようにして、低減されているから、遮断部7での越流を防止もしくは抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態における転換部は、上述した突出部4,8,9,10や、張り出し板11に加えて、第1流路1から第2流路2に向かう処理水の流体流(以下、転換流と記す場合がある。)を整流する整流部を備えていてもよい。
【0037】
図7は、突出部4と整流部13とを分岐部5に設けた一例を説明するための図である。整流部13は例えば、板状に構成されており、第1流路1の底面から水面にまで延びている。また、第1流路1の幅方向での整流部13の長さは、特には限定されないが、
図7に示す例では、当該長さと突出部4の突出長さLとの合計値が第1流路1の流路幅Wとほぼ同じ、あるいは、第1流路1の流路幅Wよりも短く設定されている。
【0038】
整流部13は、突出部4に衝突することによって生じた転換流を整流するものである。そのため、第1流路1の幅方向で突出部4よりも第2流路2側であって、突出部4の第2側面4bに沿う延長線上に配置されることが好ましい。整流部13は突出部4の設置とほぼ同じタイミングで分岐部5に設置されることが好ましい。また、整流部13は、
図7に示すトラフ型水路の上面視で、整流部13の長さ方向の中心部13aを回転中心として回動可能に構成されており、整流部13の回転角度θ2は図示しないアクチュエータによって制御できるようになっている。ここで、整流部13の回転角度θ2とは、
図7に示すトラフ型水路の上面視で、整流部13と、第1流路1の中心線との成す角度を意味している。
【0039】
(作用)
例えば、第1流路1から第2流路2への処理水の流路の切り替えを行う際に、図示しないアクチュエータによって整流部13の回転角度θ2を突出部4の第2側面4bの傾斜角度θ1とほぼ同じ角度に設定する。突出部4に処理水が衝突し、これによって生じた転換流は整流部13に沿って流動する。具体的には、整流部13は、突出部4の上流側から流動してくる処理水によって突出部4の下流側に転換流が押し流されることを抑制する堰として機能し、また、処理水を第2流路2側に案内する。そのため、上述した各実施形態よりも第2流路2に処理水が流れ込みやすくなり、第2流路2を流動する処理水の流量が増大する。一方、遮断部7に向かう処理水の流量が減少して遮断部7での越流をより効果的に抑制することができる。
【0040】
整流部13の回転角度θ2を突出部4の第2側面4bの傾斜角度θ1よりも小さく、例えば、ほぼ0°に設定すると、転換流の少なくとも一部は、突出部4の上流側から流動してくる処理水によって突出部4の下流側に押し流されやすくなる。そのため、第2流路2に処理水が流れ込みにくくなり、第2流路2を流動する処理水の流量が減少する。一方、遮断部7に向かう処理水の流量は増大し、その処理水によって遮断部7の近傍に滞留するダストを洗い流すことができる。なお、
図7に、回転角度θ2をほぼ0°に設定した整流部13を点線で記載してある。
【0041】
図7に示す例では、整流部13を回転可能に構成したが、第1流路1に整流部13を固定してもよい。詳細は図示しないが、その場合には、突出部4の第2側面4bに沿う延長線に沿って延びるように、第1流路1に板状の整流部13を固定する。このように構成した場合であっても第2流路2に処理水が流れ込みやすくなり、遮断部7に向かう処理水の流量を減少して遮断部7での越流を抑制することができる。
【0042】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。上述したような突出部4,8,9,10および張り出し板11に代えて、例えば、複数の柱状体を一定の間隔で一列に整列させる。また、その一列に整列させられた複数の柱状体の整列している方向と互いに平行な軸線と、第1流路1の側壁面1bとの成す角度が上述した傾斜角度θ1となるように、前記一列に整列させられた複数の柱状体を分岐部5に設置する。このように構成した場合であっても、複数の柱状体に処理水を衝突させて第2流路2側に向かう流体流を生じさせることができ、遮断部7での処理水の流量や水位、運動エネルギを減じることができる。すなわち、上述した実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0043】
[実施例]
本発明の実施例として、
図6に示すトラフ型水路において、処理水の流路の切り替えを行った場合の数値解析の例を示す。
図6に示す処理水の流動方向は、
図1に示す処理水の流動方向とは反対方向になっている。他の構成は
図1に示す構成と同様であるため、
図1に示す構成と同様の構成については
図1と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図6に示すトラフ型水路の寸法について説明する。ここに示す例では、第1流路1の流路幅Wは800mm、突出部4の突出長さLは400mm、突出部4の第2側面4bの傾斜角θ1は30°に設定されている。また、第1流路1の軸線方向において、遮断部7と、突出部4が第2流路2側に最も突き出た部分との間の長さが2250mmに設定され、第2流路2の流路幅は第1流路1の流路幅Wと同様に、800mmに設定されている。また、突出部4の高さは、第1流路1における処理水の水深以上の高さに設定されており、かつ、第1流路1の底面と、分岐部5における第1流路1の側壁面1aとに接するように設定されている。つまり、突出部4の上部は処理水の水面よりも上方に延び出るように設定されている。さらに、遮断部7は第1流路1の深さ以上の高さに設定され、すなわち、遮断部7の上部は処理水の水面よりも上方に延び出るように設定されている。
【0045】
数値解析の手法は、自由表面流れの解析が可能なVOF(Volume of Fluid)法を用いた非定常解析によって行った。解析条件は、分岐部に流入する処理水の流量を900m3/h、流速を3.125m/s、水位を100mmに設定した。
【0046】
図8の(a)は上述した実施例の水位高さの分布を示している。
図8の(b)は比較例として、分岐部5に突出部4を配置しない場合の水位高さの分布である。
図8の(a)、および、
図8の(b)に示すように、比較例では、第1流路1の遮断部7の近傍で処理水の水位が425mm程度まで上昇しているのに対して、本発明の実施例では、第1流路1の遮断部7の近傍で処理水の水位が300mm程度となっている。また、本発明の実施例では、第1流路1や第2流路2内での最大水位が325mm程度に抑えられている。それらの結果から、突出部4の設けられていない比較例では、第1流路1の遮断部7から処理水の越流が生じるリスクが高いことが想定される。これに対して、本発明の実施例では、越流が生じるリスクが低いことが想定できる。
【0047】
なお、
図8の(a)の第1流路1から分岐部5に流入する処理水の水位が125mm程度であるのに対して、第2流路2の出口における処理水の水位が200mm程度となっており、第1流路1における水位よりも第2流路2における水位の方が高くなっていることが分かる。これは、第1流路1に流入する処理水と第2流路2から排出される処理水の流量が等しく、第1流路1を流れる処理水の流速に比べて、第2流路2の出口における処理水の流速が低下しているからである。一方、
図8の(b)の比較例における第2流路2の出口における処理水の水位は175mm程度となっており、本発明の実施例における処理水の水位よりも低くなっている。これは、比較例の分岐部5における水位が高くなっているため、分岐部5を流動する処理水の圧力が増加して、本発明の実施例に比べて比較例における第2流路2の出口における処理水の流速が早くなったためと考えられる。しかしながら、本発明の実施例における第2流路2の出口における処理水の水位は、分岐部5における水位に比べて低位であり、第2流路2において越流が生じることはない。
【符号の説明】
【0048】
1 第1流路
2 第2流路
3 隔壁
4,8,9,10 突出部(転換部)
5 分岐部
6 第2流路の流入口
7 遮断部
11 張り出し板
12 溝
13 整流部(転換部)