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特開2024-22495伝動ベルト用ゴム組成物および伝動ベルト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022495
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】伝動ベルト用ゴム組成物および伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/08 20060101AFI20240208BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20240208BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20240208BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
F16G1/08 Z
F16G5/20 B
F16G5/06 C
F16G5/06 A
C08L23/16
C08K3/04
C08L77/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112182
(22)【出願日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022124111
(32)【優先日】2022-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼本 浩平
(72)【発明者】
【氏名】三木 淳史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB151
4J002CL062
4J002DA036
4J002DA047
4J002FA042
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD030
4J002FD036
4J002FD096
4J002FD147
4J002FD150
4J002FD160
4J002GM01
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】伝動ベルトに用いた際に耐摩耗性および伝動効率を同時に高めることができるゴム組成物を提供する。
【解決手段】伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物として、ポリマー成分と無機充填剤と短繊維とを組み合わせる。前記ポリマー成分は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は前記ポリマー成分中50質量%以上である。前記ポリマー成分の未架橋物において、ムーニー粘度は31ML(1+4)125℃以上である。前記無機充填剤の割合は、前記ポリマー成分100質量部に対して20~60質量部である。前記ゴム組成物の架橋物は、短繊維平行方向の8%曲げ応力が2.5MPa以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物であって、
ポリマー成分、無機充填剤および短繊維を含み、
前記ポリマー成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含み、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が前記ポリマー成分中50質量%以上であり、
前記ポリマー成分の未架橋物において、ムーニー粘度が31ML(1+4)125℃以上であり、
前記無機充填剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して20~60質量部であり、かつ
前記ゴム組成物の架橋物において、短繊維平行方向の8%曲げ応力が2.5MPa以下である、ゴム組成物。
【請求項2】
さらに架橋剤を含み、かつ前記架橋剤が硫黄系架橋剤を含む請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
さらに共架橋剤を含む請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記共架橋剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して、1~5質量部である請求項3記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記無機充填剤がカーボンブラックを含み、かつ前記カーボンブラックがソフトカーボンを含み、かつ前記カーボンブラックの割合が、前記短繊維100質量部に対して50~200質量部である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項6】
軟化剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して3質量部以下である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記短繊維が、アラミド短繊維および脂肪族ポリアミド短繊維を含み、かつ前記アラミド短繊維の割合が、前記脂肪族ポリアミド短繊維100質量部に対して100質量部以上である請求項1または2記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項1または2記載のゴム組成物で圧縮ゴム層が形成された伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速ベルトなどの伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成できるゴム組成物およびこのゴム組成物で形成された圧縮ゴム層を備えた伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
機械装置等の動力伝達機構に用いる伝動ベルトは、動力の伝達の形態から摩擦伝動ベルトとかみ合い伝動ベルトとに大別される。摩擦伝動ベルトとしては、Vベルト、Vリブドベルト、平ベルトなどが知られ、かみ合い伝動ベルトとしては歯付ベルトが知られている。
【0003】
Vベルトには、その一例として摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジタイプのベルト(ローエッジVベルト)が存在する。ローエッジタイプのベルトには、コグを設けないローエッジVベルトの他、ベルトの内周面のみにコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルトや、ベルトの内周面および外周面の両方にコグを設けて屈曲性を改善したローエッジコグドVベルト(ローエッジダブルコグドVベルト)というコグ付きVベルトがある。
【0004】
これらのVベルト(特にローエッジコグドVベルト)の用途として、ベルト式無段変速機が挙げられる。図1に示すように、ベルト式無段変速機30は、駆動プーリ31と従動プーリ32にVベルト1を巻き掛けて、変速比を無段階で変化させる装置である。各プーリ31,32は、軸方向への移動が規制または固定された固定シーブ31a,32aと、軸方向に移動可能な可動シーブ31b,32bとからなり、これらの固定シーブ31a,32aと可動シーブ31b,32bとで形成されるプーリ31,32のV溝の幅を連続的に変更できる構造を有している。前記Vベルト1は、幅方向の両端面が各プーリ31,32のV溝の対向面と傾斜が合致するテーパ面で形成され、調整されたV溝の幅に応じて、プーリ半径方向の任意の位置に嵌まり込む。例えば、駆動プーリ31のV溝の幅を狭く、従動プーリ32のV溝の幅を広くすることにより、図1(a)に示す状態から図1(b)に示す状態に変更すると、Vベルト1は、駆動プーリ31側ではプーリ半径方向の外周側へ、従動プーリ32側ではプーリ半径方向の内周側へ移動し、各プーリ31,32への巻き掛け半径が連続的に変化して、変速比を無段階で調整できる。
【0005】
このような用途で用いるVベルト(変速ベルト)は、駆動プーリと従動プーリとの二軸間の巻き掛け回転走行だけでなく、プーリ半径方向への移動、巻き掛け半径の連続的変化により繰り返される屈曲動作などに対応すべく、耐摩耗性(摩耗のしにくさ)、耐熱性(熱劣化のしにくさ)、屈曲性(ベルト周方向への曲げやすさ)、耐側圧性(V字状側面の法線方向に作用する圧力への耐性)、伝動効率(動力伝達効率または省燃費性)の改善が求められる。
【0006】
これらの要求に対して、例えば、特開2017-106617号公報(特許文献1)には、厚み方向において、ベルト外周側から内周側に向かって圧縮ゴム層の架橋密度を漸減させることにより、省燃費性を維持しながら、耐側圧性を向上できる摩擦伝動ベルトが開示されている。また、特開2019-95059号公報(特許文献2)には、圧縮ゴム層に液晶ポリエステル短繊維を含有させることにより、伝動用Vベルトの屈曲性及び耐側圧性を向上でき、ローエッジタイプのVベルトに利用すると、ベルトの耐摩耗性及び耐久性も向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-106617号公報
【特許文献2】特開2019-95059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2の実施例では、ゴム組成物のポリマー成分としてエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)が用いられている。EPDMの特徴のひとつとして、主鎖に二重結合を持たないことに由来する耐熱性の高さが挙げられるが、耐摩耗性、屈曲性、耐側圧性、伝動効率などの特性については、ポリマー成分以外の配合剤による改良の余地があり、さらなる研究が期待されている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、EPDMをはじめとするエチレン-α-オレフィンエラストマーをポリマー成分の主成分として用いたゴム組成物に関し、伝動ベルトに用いた際に耐摩耗性および伝動効率を同時に高めることができるゴム組成物を提供すること、ならびに耐摩耗性および伝動効率を同時に高めた伝動ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討の結果、エチレン-α-オレフィンエラストマーを主成分として含む高粘度のポリマー成分と、無機充填剤と、短繊維とを含み、前記無機充填剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して15~60質量部であり、架橋物の短繊維平行方向の8%曲げ応力が2.5MPa以下に調整されたゴム組成物で伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成することにより、伝動ベルトの耐摩耗性および伝動効率を同時に高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の態様[1]としてのゴム組成物は、
伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物であって、
ポリマー成分、無機充填剤および短繊維を含み、
前記ポリマー成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含み、
前記エチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が前記ポリマー成分中50質量%以上であり、
前記ポリマー成分の未架橋物において、ムーニー粘度が31ML(1+4)125℃以上であり、
前記無機充填剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して20~60質量部であり、かつ
前記ゴム組成物の架橋物において、短繊維平行方向の8%曲げ応力が2.5MPa以下である。
【0012】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]において、さらに架橋剤を含み、かつ前記架橋剤が硫黄系架橋剤を含む態様である。
【0013】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]において、さらに共架橋剤を含む態様である。
【0014】
本発明の態様[4]は、前記態様[3]において、前記共架橋剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して、1~5質量部である態様である。
【0015】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記無機充填剤がカーボンブラックを含み、かつ前記カーボンブラックがソフトカーボンを含み、かつ前記カーボンブラックの割合が、前記短繊維100質量部に対して50~200質量部である態様である。
【0016】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、軟化剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して3質量部以下である態様である。
【0017】
本発明の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様において、前記短繊維が、アラミド短繊維および脂肪族ポリアミド短繊維を含み、かつ前記アラミド短繊維の割合が、前記脂肪族ポリアミド短繊維100質量部に対して100質量部以上である態様である。
【0018】
本発明には、態様[8]として、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様のゴム組成物で圧縮ゴム層が形成された伝動ベルトも含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物が、エチレン-α-オレフィンエラストマーを主成分として含む高粘度のポリマー成分と、無機充填剤と、短繊維とを含み、前記無機充填剤の割合が、前記ポリマー成分100質量部に対して20~60質量部であり、架橋物の短繊維平行方向の8%曲げ応力が2.5MPa以下に調整されているため、伝動ベルトの耐摩耗性、伝動効率を同時に高めることができる。さらに、特定の配合剤(例えば、無機充填剤、短繊維、架橋剤、共架橋剤、軟化剤など、特に、架橋剤および短繊維など)の種類や量を調整することにより、耐摩耗性および伝動効率に加えて、耐側圧性および屈曲性も向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、ベルト式無段変速機の変速機構を説明するための概略断面図である。
図2図2は、本発明の伝動ベルトの一例を示す概略斜視図である。
図3図3は、図2の伝動ベルトをベルト長さ方向に切断した概略断面図である。
図4図4は、ムーニースコーチ最低粘度(Vm)の測定方法を説明するためのムーニー粘度の挙動を示すグラフである。
図5図5は、実施例で得られた架橋ゴム成形体の4%曲げ応力(短繊維直交方向)の測定方法を説明するための概略斜視図である。
図6図6は、実施例で得られた架橋ゴム成形体の8%曲げ応力(短繊維平行方向)の測定方法を説明するための概略斜視図である。
図7図7は、実施例で得られたローエッジダブルコグドVベルトの摩耗耐久試験のレイアウトを示す。
図8図8は、実施例で得られたローエッジダブルコグドVベルトの伝動効率試験のレイアウトを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[ゴム組成物]
本発明では、伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成するためのゴム組成物(第1のゴム組成物)が、エチレン-α-オレフィンエラストマーを主成分として含む高粘度のポリマー成分(A)と、無機充填剤(B)と、短繊維(C)とを含む。
【0022】
(A)ポリマー成分
ポリマー成分(第1のポリマー成分)(A)は、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。
【0023】
エチレン-α-オレフィンエラストマーは、構成単位として、エチレン単位、α-オレフィン単位を含んでいればよく、ジエン単位をさらに含んでいてもよい。そのため、エチレン-α-オレフィンエラストマーには、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどが含まれる。
【0024】
α-オレフィン単位を形成するためのα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α-C3-12オレフィンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンのうち、プロピレンなどのα-C3-4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0025】
ジエン単位を形成するためのジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体が利用される。非共役ジエン系単量体としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0026】
代表的なエチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン-α-オレフィンゴム[エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、エチレン-オクテンゴム(EOM)など]、エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム[エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)]などが例示できる。
【0027】
これらのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐熱性、耐寒性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-C3-4オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムが好ましく、EPDMが特に好ましい。そのため、EPDMの割合は、エチレン-α-オレフィンエラストマー全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に95質量%以上)であり、100質量%(EPDMのみ)であってもよい。
【0028】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60~90/10、好ましくは45/55~85/15(例えば50/50~80/20)、さらに好ましくは52/48~70/30である。特に、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体において、エチレンとプロピレンとの割合(質量比)は、前者/後者=35/65~90/10、好ましくは40/60~80/20、さらに好ましくは45/55~70/30、より好ましくは50/50~70/30(例えば50/50~60/40)、最も好ましくは55/45~70/30(特に55/45~65/35)であってもよい。
【0029】
なお、本願において、エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、慣用の方法により測定できるが、モノマーに基づく割合であってもよい。
【0030】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴム)のジエン含量は15質量%以下(例えば0.1~15質量%)であってもよく、好ましくは13質量%以下(例えば1~13質量%)、さらに好ましくは12質量%以下(例えば3~12質量%)、より好ましくは10質量%以下(例えば5~10質量%)である。ジエン含量が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。
【0031】
なお、本願において、ジエン含量は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のジエンモノマー単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーに基づく割合であってもよい。
【0032】
ジエンモノマーを含むエチレン-α-オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば3~40、好ましくは5~30、さらに好ましくは10~20である。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の架橋が不十分になって摩耗や粘着が発生し易く、逆にヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0033】
なお、本願において、エチレン-α-オレフィンエラストマーのヨウ素価は、慣用の方法で測定でき、例えば、赤外分光法で測定できる。
【0034】
本発明のゴム組成物は、未架橋のポリマー成分(A)(特に、未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマー)のムーニー粘度が高いことを特徴とする。本発明では、伝動効率を高めるために、後述する無機充填剤の割合が少量に抑制されているため、ムーニー粘度の高いポリマー成分(A)と組み合わせることにより、耐摩耗性を担保できる。
【0035】
ムーニー粘度は、キャビティ内において表面に溝が設けられたロータと接するように未架橋のポリマー成分を充填し、ロータを回転させるのに必要なトルクを測定することにより、未架橋のポリマー成分の流動性(加工のしやすさ)を表す指標として用いられる。
【0036】
未架橋のポリマー成分(A)(特に、未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマー)のムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は31以上(好ましくは33以上、さらに好ましくは41以上、より好ましくは43以上)であり、例えば35~80、好ましくは40~78、さらに好ましくは45~75、より好ましくは50~70、最も好ましくは60~70である。ムーニー粘度が低すぎると、耐摩耗性が低下する。
【0037】
なお、本願において、ムーニー粘度は、JIS K 6300-1(2013)のムーニー粘度試験に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。また、ポリマー成分(A)が複数種のポリマー成分の組み合わせである場合、ポリマー成分(A)全体のムーニー粘度は、加重平均値とする。すなわち、ムーニー粘度(加重平均)は、質量比に基づく平均値を意味し、各ポリマー成分のムーニー粘度と質量分率との積の合計である。
【0038】
ポリマー成分(A)中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(エチレン-α-オレフィンエラストマーのみ)である。ポリマー成分(A)中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が少なすぎると、耐熱性および耐寒性が低下する虞がある。
【0039】
ポリマー成分(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エチレン-α-オレフィンエラストマーに加えて、他のポリマー成分、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム(ポリオクテニレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどを含んでいてもよい。
【0040】
他のポリマー成分の割合は、ポリマー成分(A)中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0041】
(B)無機充填剤(フィラー)
本発明のゴム組成物は、圧縮ゴム層の耐摩耗性および耐側圧性を向上させるために、無機充填剤(第1の無機充填剤)(B)を必須成分として含む。
【0042】
無機充填剤(B)としては、例えば、炭素質材料(カーボンブラック、グラファイトなど)、金属化合物または合成セラミックス(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、鉱物質材料(ゼオライト、珪藻土、焼成珪藻土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレイなど)などが挙げられる。これらの無機充填剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
これらの無機充填剤のうち、カーボンブラックなどの炭素質材料、酸化マグネシウムや酸化亜鉛などの金属酸化物、シリカなどの鉱物質材料が好ましく、さらに好ましくは炭素質材料、金属酸化物であり、ゴム組成物の架橋物において、硬度、モジュラスおよび耐摩耗性を向上できる点から、カーボンブラックが特に好ましい。
【0044】
カーボンブラックは、一般的に、一次粒子径、ヨウ素吸着量、窒素吸着比表面積などの違いにより、いくつかのグレードに分類されている。カーボンブラックの分類について、ASTMでは、ヨウ素吸着量に基づいて、N0**~N9**に分類されるが、配合したゴム製品の性能などをベースとした従来の分類(SAF、HAF、GPFなど)も利用されている。一次粒子径の小さいN110(SAF)、N220(ISAF)、N330(HAF)などはハードカーボンと称され、一次粒子径の大きいN550(FEF)、N660(GPF)、N762(SRF)などはソフトカーボンと称されることもある。ヨウ素吸着量と一次粒子径には緊密な関係があり、一次粒子径が小さいほど、ヨウ素吸着量が大きくなる。東海カーボン(株)製のシースト(登録商標)シリーズを例にカーボンブラックを分類し、ヨウ素吸着量、平均一次粒子径とともに表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
本願では、原料での分類ではなく、ゴム組成物中に含まれるカーボンブラックについて、一次粒子径が40nm以上のカーボンブラックをソフトカーボンと称し、一次粒子径が40nm未満のカーボンブラックをハードカーボンと称する。
【0047】
なお、本願において、カーボンブラックの一次粒子径の測定方法としては、例えば、透過型電子顕微鏡などを用いて測定できる。
【0048】
ソフトカーボンの一次粒子径は、40nm以上であればよいが、最大一次粒子径は、例えば300nm以下、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下であってもよい。ソフトカーボンの最大一次粒子径が大きすぎると、耐摩耗性の向上効果が発現しない虞がある。
【0049】
ソフトカーボンの平均一次粒子径は、例えば40~100nm、好ましくは41~80nm、さらに好ましくは42~60nm、より好ましくは43~50nmである。ソフトカーボンの平均一次粒子径が小さすぎると、伝動効率(省燃費性)が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐摩耗性の向上効果が発現しない虞がある。
【0050】
ソフトカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg未満であってもよく、例えば10g/kg以上60g/kg未満、好ましくは20~58g/kg、さらに好ましくは30~55g/kg、より好ましくは40~50g/kgである。ヨウ素吸着量が多すぎると、伝動効率が低下する虞がある。
【0051】
なお、本願において、カーボンブラックのヨウ素吸着量は、ASTM D1510-17の標準試験法に準拠して測定できる。
【0052】
ハードカーボンの一次粒子径は、40nm未満であればよいが、最大一次粒子径は、例えば38nm以下、好ましくは35nm以下、さらに好ましくは30nm以下であってもよい。
【0053】
ハードカーボンの平均一次粒子径は、例えば10~35nm、好ましくは12~33nm、さらに好ましくは15~30nm(例えば20~25nm)、より好ましくは20~30nm(例えば25~30nm)である。
【0054】
ハードカーボンのヨウ素吸着量は60g/kg以上であってもよく、例えば60~150g/kg、好ましくは80~130g/kg、さらに好ましくは100~130g/kg、より好ましくは120~125g/kgである。
【0055】
本発明では、カーボンブラックは、摩擦係数やベルトを屈曲させた際の内部発熱が小さくなって伝動効率を向上できる点から、ソフトカーボンを含むのが好ましい。カーボンブラック中のソフトカーボンの割合は10質量%以上であってもよく、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0056】
カーボンブラックの割合は、無機充填剤(B)中10質量%以上であってもよく、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0057】
カーボンブラックの割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して15~60質量部(特に20~58質量部)であり、好ましくは20~55質量部、さらに好ましくは30~52質量部、より好ましくは40~51質量部、最も好ましくは45~50質量部である。高度な伝動効率が要求される用途では、カーボンブラックの割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して、好ましくは15~50質量部、さらに好ましくは18~40質量部、より好ましくは20~30質量部であってもよい。カーボンブラックの割合が少なすぎると、耐摩耗性および耐側圧性が低下する虞があり、逆に多すぎると、屈曲性および伝動効率が低下する虞がある。
【0058】
無機充填剤(B)は、カーボンブラックに加えて、酸化亜鉛などの金属酸化物をさらに含んでいてもよい。金属酸化物の割合は、カーボンブラック100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは1.5~50質量部、さらに好ましくは2~30質量部、より好ましくは3~20質量部、最も好ましくは4~10質量部である。
【0059】
無機充填剤(第1の無機充填剤)(B)の割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して18~70質量部であり、好ましくは20~65質量部、さらに好ましくは30~60質量部、より好ましくは40~58質量部、最も好ましくは45~55質量部である。高度な伝動効率が要求される用途では、無機充填剤(B)の割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して、好ましくは15~50質量部、さらに好ましくは20~40質量部、より好ましくは25~30質量部であってもよい。無機充填剤(B)の割合が少なすぎると、耐摩耗性および耐側圧性が低下する虞があり、逆に多すぎると、屈曲性および伝動効率が低下する虞がある。
【0060】
(C)短繊維
本発明のゴム組成物では、圧縮ゴムの耐摩耗性を向上し、かつ摩擦係数を低減するために、短繊維(第1の短繊維)(C)を必須成分として含む。特に、短繊維をベルト幅方向に配向させて圧縮ゴム層中に埋設させると、プーリからの押圧に対する伝動ベルトの圧縮変形を抑制できるため、伝動効率を維持しつつ耐摩耗性を向上できる。短繊維をベルト幅方向に配向させる方法としては、例えば、ロールによって圧延して配向させる方法などが挙げられる。
【0061】
(アラミド短繊維)
短繊維は、伝動ベルトの耐側圧性および耐摩耗性を向上させるために、アラミド短繊維を含むのが好ましい。
【0062】
アラミド短繊維を構成するアラミド繊維は、パラ系アラミド繊維であってもよく、メタ系アラミド繊維であってもよい。
【0063】
パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「トワロン(登録商標)」、東レ・デュポン(株)の「ケブラー(登録商標)」など)、ポリパラフェニレンテレフタルアミドと3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミドとの共重合体繊維(例えば、帝人(株)の「テクノーラ(登録商標)」など)などが挙げられる。
【0064】
メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)の「コーネックス(登録商標)」など)などが挙げられる。
【0065】
これらのアラミド繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、後述する脂肪族ポリアミド短繊維と組み合わせることにより、耐摩耗性および伝動効率を同時に高め易い点から、パラ系アラミド短繊維が好ましい。
【0066】
アラミド短繊維の平均繊度は、例えば0.1~50dtex、好ましくは1~10dtex、さらに好ましくは1.5~5dtex、より好ましくは2~3dtexである。アラミド短繊維の平均繊維径は2μm以上であり、例えば2~100μm、好ましくは3~50μm、さらに好ましくは7~40μm、より好ましくは10~30μmである。平均繊度および平均繊維径が小さすぎると、圧縮ゴム層表面の摩擦係数を充分に低減できない虞がある。
【0067】
アラミド短繊維の平均繊維長は、例えば1~20mm、好ましくは1.3~15mm、さらに好ましくは1.5~10mm、より好ましくは2~5mm、最も好ましくは2.5~4mmである。アラミド短繊維の平均繊維長が短すぎると、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができず、耐側圧性が低下する虞があり、逆に長すぎると、ゴム組成物中のアラミド短繊維の分散不良が生じ、表面の摩擦係数を十分に低減できず、伝動効率が低下する虞がある。
【0068】
アラミド短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向と略平行に配向して圧縮ゴム層中に埋設されてもよい。
【0069】
なお、本願において、ベルト幅方向と「略平行」とは、ベルト幅方向に対する角度が、例えば10°以内、好ましくは8°以内、さらに好ましくは5°以内、より好ましくは3°以内、最も好ましくは1°以内(例えば0~1°、特に略0°)であることを意味する。
【0070】
ゴム組成物中のアラミド短繊維の分散性や接着性の観点から、アラミド短繊維は接着処理(または表面処理)してもよい。
【0071】
アラミド短繊維の接着処理では、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラックまたはレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(またはラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、アラミド短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよく、例えば、アラミド短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0072】
このような処理液、特にRFL液で処理すると、アラミド短繊維とポリマー成分(A)とを強く接着できる。RFL液は、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物と、ゴムラテックスとの混合物である。レゾルシンとホルムアルデヒドとのモル比は、ポリマー成分(A)と短繊維との接着性を向上できる範囲、例えば、前者/後者=1/0.3~1/3、好ましくは1/0.4~1/2、さらに好ましくは1/0.5~1/1.5、より好ましくは1/0.6~1/1、最も好ましくは1/0.6~1/0.8である。
【0073】
ラテックス中のゴム成分の種類は、特に限定されず、ジエン系ゴム(スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体、クロロプレンゴム、ブタジエンゴムなど)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体が特に好ましい。
【0074】
レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物の割合は、ラテックスのゴム成分(固形分)100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは12~50質量部、さらに好ましくは15~30質量部である。なお、RFL液の全固形分濃度は、5~40質量%の範囲で調整できる。
【0075】
アラミド短繊維に対する接着成分(固形分)の付着率{[(接着処理後の質量-接着処理前の質量)/(接着処理後の質量)]×100}は、例えば1~25質量%、好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは2.5~15質量%、より好ましくは3~10質量%、最も好ましくは4~8質量%である。接着成分の付着率が少なすぎると、アラミド短繊維のゴム組成物中の分散性や、アラミド短繊維とポリマー成分(A)との接着性が不十分であり、逆に多すぎると、接着成分がアラミド短繊維同士を強固に固着し、却って分散性が低下する虞がある。
【0076】
アラミド短繊維の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば5~30質量部、好ましくは10~28質量部、さらに好ましくは15~25質量部、より好ましくは17~23質量部である。アラミド短繊維の割合が少なすぎると、耐摩耗性および耐側圧性が低下する虞があり、逆に多すぎると、摩擦係数を低減する効果が小さく、伝動効率が低下する虞がある。
【0077】
なお、本願において、短繊維を接着処理した場合、短繊維の割合は、接着処理した短繊維の割合(接着処理後に付着した接着成分を含む短繊維の割合)を意味する。
【0078】
(脂肪族ポリアミド短繊維)
短繊維は、耐摩耗性と伝動効率とを両立し易い点から、前記アラミド短繊維と脂肪族ポリアミド短繊維(ナイロン短繊維)との組み合わせを含むのが好ましい。ナイロン短繊維は、摩擦係数を低下させて伝動効率を向上させる作用を有するため、アラミド短繊維と組み合わせることにより、耐摩耗性と伝動効率とのバランスを取り易くなる。
【0079】
ナイロン短繊維を構成する脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維)としては、例えば、ポリアミド46繊維、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド610繊維、ポリアミド612繊維、ポリアミド11繊維、ポリアミド12繊維などが挙げられる。
【0080】
これらのナイロン繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維などのC4-8アルキレン鎖を有するナイロン繊維が好ましい。
【0081】
ナイロン短繊維の平均繊維径は2μm以上であり、例えば2~100μm、好ましくは3~50μm、さらに好ましくは7~40μm、より好ましくは10~35μm、最も好ましくは20~30μmである。平均繊維径が小さすぎると、圧縮ゴム層表面の摩擦係数を充分に低減できない虞がある。
【0082】
ナイロン短繊維の平均繊維長は、1mm以上(例えば1~20mm)であってもよく、耐屈曲疲労性や耐亀裂性を向上できる点から、1.5mm以上(特に2mm以上)が好ましく、さらに好ましくは1.5~10mm、より好ましくは2~5mm、最も好ましくは2.5~4mmである。
【0083】
ナイロン短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向と略平行に配向して圧縮ゴム層中に埋設されていてもよい。
【0084】
ゴム組成物中のナイロン短繊維の分散性や接着性の観点から、ナイロン短繊維は接着処理(または表面処理)してもよい。接着処理は、好ましい態様も含めて、アラミド短繊維の接着処理として例示された接着処理から選択できる。接着成分の付着率も、アラミド短繊維の付着率から選択できる。ナイロン短繊維の接着処理は、アラミド短繊維の接着処理と異なっていてもよいが、簡便性などの点から、同一の接着処理であるのが好ましい。
【0085】
ナイロン短繊維の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~25質量部、好ましくは3~23質量部、さらに好ましくは5~20質量部、最も好ましくは7~15質量部である。ナイロン短繊維の割合が少なすぎると、伝動効率の向上効果が低下する虞があり、多すぎると、耐摩耗性および耐側圧性が低下する虞がある。
【0086】
アラミド短繊維の割合は、ナイロン短繊維100質量部に対して10質量部以上(例えば50質量部以上)、具体的には80質量部以上(特に100質量部以上)の範囲から選択でき、例えば100~1000質量部、好ましくは120~500質量部、さらに好ましくは130~300質量部、より好ましくは150~250質量部、最も好ましくは170~230質量部である。アラミド繊維の割合が多すぎる(ナイロン短繊維の割合が少なすぎる)と、伝動効率の向上効果が低下したり、屈曲性が低下したりする虞があり、アラミド繊維の割合が少なすぎる(ナイロン短繊維の割合が多すぎる)と、耐摩耗性および耐側圧性が低下する虞がある。
【0087】
(他の短繊維および短繊維総量の割合)
短繊維(C)は、さらに他の短繊維(アラミド短繊維およびナイロン短繊維以外の短繊維)を含んでいてもよい。他の短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系短繊維(ポリエチレン短繊維、ポリプロピレン短繊維など)、ポリエステル系短繊維{例えば、ポリアルキレンアリレート系短繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)短繊維などのポリC2-4アルキレンC8-14アリレート系短繊維など]など}、ビニロン短繊維、ポリビニルアルコール系短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)短繊維などの合成短繊維;綿、麻、羊毛などの天然短繊維;炭素繊維などの無機短繊維などが挙げられる。これら他の短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの他の短繊維のうち、PET短繊維などのポリエステル系短繊維が好ましい。
【0088】
他の短繊維の割合は、短繊維(C)中50質量%以下であってもよく、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。短繊維(C)は、他の短繊維を実質的に含まなくてもよく、ポリエステル系短繊維などの他の短繊維を含まないのが好ましい。すなわち、短繊維(C)は、アラミド短繊維およびナイロン短繊維のみからなってもよい。他の短繊維の割合が多すぎると、伝動効率が向上し難くなる虞がある。
【0089】
短繊維(C)の割合(短繊維の総量の割合)は、ポリマー成分(A)100質量部に対して15~40質量部であり、好ましくは20~35質量部、さらに好ましくは25~35質量部である。短繊維(C)の割合が少なすぎると、耐摩耗性および耐側圧性が低下するとともに、摩擦係数を十分に低減できないため、伝動効率が向上しない虞がある。一方、短繊維(C)の割合が多すぎると、屈曲性が低下する虞がある。
【0090】
本発明では、前記無機充填剤(B)がカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックと短繊維(C)との質量比を調整することより、耐摩耗性と伝動効率とを両立できる。カーボンブラックの割合は、短繊維(C)100質量部に対して10~500質量部程度の範囲から選択でき、例えば50~200質量部、好ましくは80~190質量部、さらに好ましくは100~180質量部(例えば140~175質量部)、より好ましくは150~170質量部である。カーボンブラックの割合が多すぎる(カーボンブラックに対する短繊維(C)の割合が少なすぎる)と、ゴム組成物の異方性が低下して、屈曲性と耐側圧性とを両立するのが困難となったり、伝動効率が低下する虞がある。一方、カーボンブラックの割合が少なすぎる(短繊維(C)の割合が多すぎる)と、耐摩耗性および屈曲性が低下するとともに亀裂が発生し易くなる虞がある。
【0091】
(D)架橋剤
本発明のゴム組成物は、架橋剤(D)を含んでいてもよく、特に、屈曲性(耐屈曲疲労性または耐亀裂性)、伝動効率を向上できる点から、硫黄系架橋剤を含むのが好ましい。
【0092】
硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの硫黄系架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄類が好ましく、粉末硫黄が特に好ましい。
【0093】
硫黄系架橋剤の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~10質量部程度の範囲から選択でき、1.2質量部以上が好ましく、例えば1.2~5質量部、好ましくは1.3~3質量部、さらに好ましくは1.5~2.5質量部、より好ましくは1.6~2.3質量部、最も好ましくは1.8~2.2質量部である。硫黄系架橋剤の割合が少なすぎると、ゴム硬度、耐側圧性、耐摩耗性が低下する虞があり、多すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある上に、ブルーム(表面への析出)が発生する虞もある。
【0094】
架橋剤(D)は、他の架橋剤(または加硫剤)として有機過酸化物をさらに含んでいてもよい。有機過酸化物としては、通常、ゴムや樹脂の架橋に使用される有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期を得る分解温度が150~250℃(例えば175~225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0095】
有機過酸化物の割合は、硫黄系架橋剤100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。有機過酸化物の割合が多すぎると、硬化物の耐屈曲疲労性が低下する虞がある。架橋剤(D)は、有機過酸化物を実質的に含まないのが特に好ましく、有機過酸化物を含まないのが最も好ましい。
【0096】
架橋剤(D)中の硫黄系架橋剤(特に、粉末硫黄などの硫黄類)の割合は50質量%以上であってもよく、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%である。硫黄系架橋剤の割合が少なすぎると、圧縮ゴム層の屈曲性が低下する虞がある。
【0097】
架橋剤(D)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~10質量部程度の範囲から選択でき、例えば1.2~10質量部、好ましくは1.3~8質量部、さらに好ましくは1.5~5質量部、より好ましくは1.6~3質量部、最も好ましくは1.8~2.5質量部である。
【0098】
(E)共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co-agent)
本発明のゴム組成物は、共架橋剤(E)をさらに含んでいてもよい。特に、前記架橋剤(D)が硫黄系架橋剤(特に、粉末硫黄などの硫黄類)を含む場合、硫黄系架橋剤による架橋では硬度を高くするのが困難であり、耐側圧性が低下する傾向があるとともに、耐熱性も低下する傾向があるため、硫黄系架橋剤と共架橋剤(E)とを組み合わせることにより、耐側圧性および耐熱性を維持しつつ、硫黄系架橋剤の作用を生かして屈曲性および伝動効率を向上できる。なかでも、共架橋剤(E)がビスマレイミド化合物を含むと、耐側圧性および耐摩耗性の向上効果が大きい。
【0099】
ビスマレイミド化合物としては、例えば、脂肪族ビスマレイミド(例えば、N,N’-1,2-エチレンジマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)シクロヘキサンなど)、芳香族ビスマレイミド{例えば、N,N’-m-フェニレンジマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンジマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンジマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジフェニルエーテルジマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンジマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)}などが挙げられる。
【0100】
これらのビスマレイミド化合物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐熱性に優れる点から、N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどの芳香族ビスマレイミド(アレーンビスマレイミド)が好ましい。
【0101】
共架橋剤(E)は、ビスマレイミド化合物に加えて、他の共架橋剤をさらに含んでいてもよい。
【0102】
他の共架橋剤としては、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエンなど)、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]などが挙げられる。
【0103】
他の共架橋剤の割合は、ビスマレイミド化合物100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。他の共架橋剤の割合が多すぎると、耐側圧性および耐摩耗性の向上効果が低下する虞がある。
【0104】
共架橋剤(E)中のビスマレイミド化合物の割合は50質量%以上であってもよく、好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%である。ビスマレイミド化合物の割合が少なすぎると、耐側圧性および耐摩耗性の向上効果が低下する虞がある。
【0105】
共架橋剤(E)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~10質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.5~8質量部、好ましくは1~7質量部、さらに好ましくは1.5~5質量部、より好ましくは2~4質量部、最も好ましくは2.5~3.5質量部である。共架橋剤(E)の割合が少なすぎると、耐側圧性および耐摩耗性が低下する虞があり、多すぎると、屈曲性および伝動効率が低下する虞がある。
【0106】
(F)架橋促進剤
本発明のゴム組成物は、前記架橋剤(特に、硫黄系架橋剤)に加えて、さらに架橋促進剤(F)を含んでいてもよい。
【0107】
架橋促進剤(F)としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)など]、チオモルホリン系促進剤[例えば、4,4’-ジチオジモルホリン(DTDM)、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、チアゾ-ル系促進剤[例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル(MBT)、MBTの亜鉛塩、2-メルカプトベンゾチアゾールジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、ウレア系またはチオウレア系促進剤[例えば、エチレンチオウレア、トリメチルチオ尿素(TMU)、ジエチルチオ尿素(EDE)など]、グアニジン系促進剤(ジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジンなど)、ジチオカルバミン酸系促進剤[例えば、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(BZ)など]、キサントゲン酸塩系促進剤(イソプロピルキサントゲン酸亜鉛など)などが挙げられる。これらの架橋促進剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBS、MBTSなどが汎用され、TMTDなどのチウラム系促進剤が好ましい。
【0108】
架橋促進剤(F)の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~10質量部、好ましくは0.3~5質量部、さらに好ましくは1~3質量部、最も好ましくは1.5~2.5質量部である。架橋促進剤の割合が少なすぎると、圧縮ゴム層の耐側圧性が低下する虞があり、多すぎると、屈曲性が低下する虞がある。
【0109】
(G)軟化剤
本発明のゴム組成物は、軟化剤(G)を含んでいなくてもよいが、屈曲性を向上させるために、必要に応じて、さらに軟化剤(G)を含んでいてもよい。軟化剤(G)は、いわゆる可塑剤や加工助剤であってもよい。
【0110】
軟化剤(G)としては、例えば、鉱物油系軟化剤{例えば、石油系軟化剤[パラフィン系オイル、脂環族系オイル(ナフテン系オイル)、芳香族系オイルなど]、コールタール系軟化剤[コールタール、クマロン-インデン樹脂など]など}、植物油系軟化剤{例えば、脂肪油系軟化剤[ステアリン酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸またはその金属塩;ステアリン酸エステルなどの脂肪酸エステル;ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド;脂肪油など];松脂由来の軟化剤[パインタール、ロジン、サブ(ファクチス)など]など}、合成軟化剤{例えば、合成樹脂軟化剤[炭化水素系合成油(低分子量パラフィン、低分子量ワックス、フェノール・アルデヒド樹脂、液状エチレン-α-オレフィン共重合体など)、液状ゴム(液状ポリブテン、液状ポリブタジエン、液状イソプレンゴムなど)など]、合成可塑剤(ジオクチルフタレートなどのフタル酸ジエステル、ポリエステル系可塑剤、ジオクチルセバケートなどのC6-18アルカンジカルボン酸エステルなど)など}などが挙げられる。
【0111】
これらの軟化剤(G)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、パラフィン系オイルなどの石油系軟化剤、ステアリン酸などのC8-24脂肪酸類(その金属塩、エステル、アマイドを含む)が好ましく、石油系軟化剤とC8-24脂肪酸類との組み合わせが特に好ましい。
【0112】
軟化剤(G)が石油系軟化剤とC8-24脂肪酸類との組み合わせである場合、C8-24脂肪酸類の割合は、石油系軟化剤100質量部に対して、例えば10~1000質量部、好ましくは30~300質量部、さらに好ましくは50~200質量部、より好ましくは70~150質量部、最も好ましくは80~120質量部である。
【0113】
軟化剤(G)の割合は、ムーニー粘度の高いポリマー成分(A)による耐側圧性および耐摩耗性の効果を低減させない観点から、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば3質量部以下であるのが好ましく、耐側圧性および耐摩耗性と、屈曲性とを両立できる点から、例えば0.1~3質量部、好ましくは0.5~2.8質量部、さらに好ましくは0.8~2.5質量部、より好ましくは1~2.3質量部、最も好ましくは1.5~2.2質量部である。
【0114】
(H)他の成分
本発明のゴム組成物は、さらに他の成分(H)を含んでいてもよい。他の成分(H)としては、ゴムに配合される慣用の添加剤、例えば、架橋遅延剤、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、滑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、老化防止剤(第1の老化防止剤)などが汎用される。
【0115】
他の成分(H)の合計割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~15質量部、好ましくは0.3~10質量部、さらに好ましくは0.5~7質量部である。老化防止剤の割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば0.1~5質量部、好ましくは0.5~4質量部、さらに好ましくは1~3質量部、最も好ましくは1.5~2.5質量部である。
【0116】
(I)ゴム組成物の特性
本発明のゴム組成物(未架橋ゴム組成物)の125℃で測定したムーニースコーチ最低粘度(ムーニー粘度の最低値)は、例えば70~130、好ましくは80~128、さらに好ましくは90~125、より好ましくは100~120、最も好ましくは110~118である。ムーニースコーチ最低粘度が低すぎると、耐摩耗性および耐側圧性が低下する虞があり、ムーニースコーチ最低粘度が高すぎると、屈曲性が低下する虞がある。
【0117】
なお、本願において、ムーニースコーチ最低粘度は、JIS K 6300-1(2013)のムーニースコーチ試験に準拠して測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0118】
本発明のゴム組成物の架橋物(架橋ゴム組成物)の硬度(Hs)は、例えば83~95°、好ましくは85~94°、さらに好ましくは87~93°、より好ましくは88~92°、最も好ましくは89~91°である。架橋物の硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に硬度が大きすぎると、屈曲性が低下する虞がある。
【0119】
なお、本願において、架橋ゴム組成物のゴム硬度は、JIS K 6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-硬さの求め方-)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて測定された値Hs(タイプA)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0120】
本発明のゴム組成物に含まれる短繊維(C)は、圧縮ゴム層中において、通常、所定の方向に配向している。例えば、前記ゴム組成物が、ローエッジコグドVベルトなどの摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成する場合、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に短繊維(C)が埋設されるのが好ましい。
【0121】
本発明の架橋ゴム組成物において、短繊維平行方向の8%曲げ応力は、ベルトの周方向への曲げ易さの指標とみなすことができる。圧縮ゴム層を備えたベルトの屈曲性を向上できる点から、短繊維平行方向の8%曲げ応力は2.5MPa以下であり、例えば1~2.5MPa、好ましくは1.5~2.4MPa、さらに好ましくは1.8~2.3MPa、より好ましくは2~2.2MPaである。短繊維平行方向の8%曲げ応力が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に高すぎると、屈曲性が低下する虞がある。
【0122】
本発明の架橋ゴム組成物において、耐側圧性を向上できる点から、短繊維直交方向の4%曲げ応力は、例えば2.5~4.5MPa、好ましくは2.7~4MPa、さらに好ましくは3~3.5MPaである。短繊維直交方向の4%曲げ応力が小さすぎると、ベルトの耐側圧性が低下する虞があり、逆に高すぎると、屈曲性が低下する虞がある。
【0123】
なお、本願において、曲げ応力は、短繊維平行方向の8%曲げ応力では、押さえ部材の長さ方向を短繊維の配向方向(長さ方向)となるように配設し、短繊維直交方向の4%曲げ応力では、押さえ部材の長さ方向を短繊維の配向方向(長さ方向)と直角に交差する方向となるように配設することにより測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0124】
また、本願において「短繊維平行方向」は、短繊維の長さ方向のみならず、長さ方向±5°の範囲の方向であってもよい。また「短繊維直交方向」は、短繊維の長さ方向に直角に交差する方向(直角方向)のみならず、直角方向±5°の範囲の方向であってもよい。
【0125】
[伝動ベルト]
本発明の伝動ベルトは、プーリと接触可能な圧縮ゴム層を有し、かつこの圧縮ゴム層が前記架橋ゴム組成物で形成された伝動ベルトであれば、特に限定されず、芯体層(接着ゴム層)と、この芯体層の一方の面に形成された圧縮ゴム層と、前記芯体層の他方の面に形成された伸張ゴム層とを備えた伝動ベルトであってもよい。さらに、伝動ベルトのなかでも、耐摩耗性が要求される摩擦伝動ベルトが好ましい。
【0126】
摩擦伝動ベルトとしては、例えば、Vベルト[ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト(ローエッジVベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジVベルトの内周側及び外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルト)]、Vリブドベルト、平ベルトなどが挙げられる。これらのうち、伝動面がV字状に(またはV角度で)傾斜して形成されているVベルトまたはVリブドベルトが好ましく、耐摩耗性と伝動効率とを高度なレベルで両立させることが要求されるVベルト、例えば、ベルト式無段変速機に用いられるVベルト(例えば、ローエッジコグドVベルト)が好ましい。
【0127】
さらに、本発明のローエッジコグドVベルトは、ローエッジVベルトの内周側のみにコグが形成されたローエッジコグドVベルトと、ローエッジVベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトとに大別できる。これらのうち、より過酷な状況で利用され、耐側圧性と屈曲性とを高度なレベルで両立することを要求される点から、ローエッジダブルコグドVベルトが特に好ましい。
【0128】
図2は、本発明の伝動ベルトの一例(ローエッジダブルコグドVベルト)を示す概略斜視図であり、図3は、図2の伝動ベルトをベルト長さ方向に切断した概略断面図である。
【0129】
この例では、ローエッジダブルコグドVベルト1は、ベルト本体の内周面にベルトの長さ方向(図中のA方向)に沿って内周コグ山1aと内周コグ谷1bとが交互に並んで形成された内周コグ部を有しており、この内周コグ山1aの長さ方向における断面形状は略半円状(湾曲状または波形状)であり、長さ方向に対して直交する方向(幅方向または図中のB方向)における断面形状は台形状である。すなわち、各内周コグ山1aは、A方向の断面において、内周コグ谷1bからベルト厚み方向に略半円状に突出している。
【0130】
さらに、外周面にもベルトの長さ方向に沿って外周コグ山1cと外周コグ谷1dとが交互に並んで形成された外周コグ部を有しており、この外周コグ山1cの長さ方向における断面形状は略台形状であり、長さ方向に対して直交する方向(幅方向または図中のB方向)における断面形状は略長方形状である。すなわち、各外周コグ山1cは、A方向の断面において、外周コグ谷1dからベルト厚み方向に略台形状に突出している。
【0131】
ローエッジダブルコグドVベルトは、積層構造を有しており、ベルト外周側から内周側に向かって、伸張ゴム層2、芯体層(接着ゴム層)3、圧縮ゴム層4、補強布5が順次積層されている。ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる略台形状である。さらに、芯体層3内には、芯体3aが埋設されており、前記内周コグ部および外周コグ部は、それぞれコグ付き成形型により圧縮ゴム層4および伸張ゴム層2に形成されている。なお、この例では、内周面のみが補強布で被覆されているが、伸張ゴム層2の表面も第2の補強布で被覆されていてもよい。また、補強布は必須ではなく、内周面および外周面のいずれも補強布を備えない構造であってもよい。
【0132】
[伸張ゴム層]
本発明の伝動ベルト(特に、ローエッジコグドVベルト)は、第2のポリマー成分を含む第2のゴム組成物(第2の架橋ゴム組成物)で形成された伸張ゴム層をさらに含んでいてもよい。
【0133】
第2のポリマー成分としては、好ましい態様も含めて、第1のポリマー成分(A)として例示されたポリマー成分から選択できる。第2のポリマー成分は、第1のポリマー成分(A)と異なるポリマー成分であってもよいが、通常、第1のポリマー成分と同一である。
【0134】
伸張ゴム層を形成する第2のゴム組成物は、耐側圧性および耐摩耗性をより向上できる点から、第2の無機充填剤を含むのが好ましい。圧縮ゴム層だけでなく、伸張ゴム層も第2の無機充填剤を含むと、耐側圧性および耐摩耗性がさらに向上する。第2の無機充填剤は、好ましい態様も含めて、第1の無機充填剤(B)で例示された無機充填剤から選択できる。第2の無機充填剤は、第1の無機充填剤(B)と異なる無機充填剤であってもよいが、通常、第1の無機充填剤(B)と同一である。第2の無機充填剤の割合は、好ましい割合も含めて、第1の無機充填剤(B)の割合から選択できる。
【0135】
伸張ゴム層を形成する第2のゴム組成物は、耐側圧性および耐摩耗性をより向上できる点から、第2の短繊維を含むのが好ましい。圧縮ゴム層だけでなく、伸張ゴム層も第2の短繊維を含むと、耐側圧性および耐摩耗性がさらに向上する。第2の短繊維は、好ましい態様も含めて、第1の短繊維(C)で例示された短繊維から選択できる。第2の短繊維は、第1の短繊維(C)と異なる短繊維であってもよいが、通常、第1の短繊維(C)と同一である。第2の短繊維の割合は、好ましい割合も含めて、第1の短繊維(C)の割合から選択できる。
【0136】
伸張ゴム層を形成する第2のゴム組成物も、圧縮ゴム層を形成する第1のゴム組成物で例示された架橋剤(D)、共架橋剤(E)、架橋促進剤(F)、軟化剤(G)、他の成分(H)をさらに含んでいてもよい。
【0137】
伸張ゴム層の特性は、好ましい範囲も含めて、前述の圧縮ゴム層の特性(ムーニースコーチ最低粘度、硬度、曲げ応力など)から選択できる。
【0138】
伸張ゴム層を形成する第2のゴム組成物は、圧縮ゴム層を形成する第1のゴム組成物と同種または同一(特に同一)であってもよい。
【0139】
[芯体層]
本発明の伝動ベルト(特に、ローエッジコグドVベルト)は、芯体層をさらに含んでいてもよい。
【0140】
芯体層は、芯体を含んでいればよく、芯体のみで形成された芯体層であってもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、芯体と架橋ゴム組成物で形成された接着ゴム層とを含む芯体層であるのが好ましい。
【0141】
芯体層において、芯体は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が芯体を埋設する形態、接着ゴム層と伸張ゴム層との間に芯体を埋設する形態、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間に芯体を埋設する形態のいずれの形態であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層が芯体を埋設する形態が好ましい。
【0142】
(接着ゴム層)
接着ゴム層は、第3のポリマー成分を含む第3のゴム組成物の架橋物(第3の架橋ゴム組成物)で形成されていてもよい。
【0143】
第3のポリマー成分としては、好ましい態様も含めて、第1のポリマー成分(A)として例示されたポリマー成分から選択できる。第3のポリマー成分は、第1のポリマー成分と異なるポリマー成分であってもよいが、通常、第1のポリマー成分(A)と同種である。
【0144】
なお、未架橋の第3のポリマー成分(特に、未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマー)のムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は、例えば10~30、好ましくは15~25程度であってもよい。
【0145】
接着ゴム層を形成する第3のゴム組成物も、圧縮ゴム層を形成する第1のゴム組成物で例示された無機充填剤(B)、架橋剤(D)、共架橋剤(E)、架橋促進剤(F)、軟化剤(G)、他の成分(H)をさらに含んでいてもよい。
【0146】
接着ゴム層は、圧縮ゴム層のゴム硬度よりも低い硬度が好ましい。接着ゴム層のゴム硬度は、例えば60~85°、好ましくは65~84°、さらに好ましくは70~83°、より好ましくは75~82°である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が不足する虞があり、大きすぎると、接着性が低下する虞がある。接着ゴム層を、このような低硬度に調整することにより、せん断応力が作用した場合に大きく変形することが可能となり、芯体と圧縮ゴム層および伸張ゴム層との間の剥離を抑制できる。
【0147】
接着ゴム層の平均厚みは、例えば0.8~3mm、好ましくは1.2~2.8mm、さらに好ましくは1.5~2mmである。
【0148】
(芯体)
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、ベルトの長さ方向に延びて配設され、ベルトの長さ方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて配設されていてもよいが、生産性の点から、通常、ローエッジコグドVベルトなどのベルト長さ方向に略平行に、所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。螺旋状に配設する場合、ベルト長さ方向に対する心線の角度は、例えば5°以下であってもよく、ベルト走行性の点から、0°に近いほど好ましい。また、隣接する芯体の中心間の距離であるピッチまたは間隔(特に、心線のスピンニングピッチ)は、0.5~3.0mmの範囲に設定されることが好ましく、0.8~2.0mmの範囲に設定されることがより好ましく、1.0~1.6mmの範囲に設定されることが最も好ましい。
【0149】
心線を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-C8-14アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などがよく利用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維など)、アラミド繊維が好ましい。これらの繊維は、複数のフィラメントを含むマルチフィラメント糸の形態で使用されてもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば200~5000dtex(特に500~2000dtex)である。マルチフィラメント糸は、例えば50~1500本、好ましくは100~1000本、さらに好ましくは300~500本のフィラメントを含んでいてもよい。
【0150】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mm程度であってもよい。心線(撚りコード)の総繊度は、例えば2000~17000dtexであってもよく、好ましくは4000~15000dtex、さらに好ましくは5000~13000dtex(特に6000~8000dtex)であってもよい。心線(撚りコード)は、例えば500~12000本、好ましくは1000~5000本、さらに好ましくは2000~3000本のフィラメントを含んでいてもよい。
【0151】
心線は、ポリマー成分との接着性を改善するため、短繊維(C)と同様の方法で接着処理(または表面処理)されていてもよい。心線は、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0152】
[補強布]
本発明の伝動ベルト(特に、ローエッジコグドVベルト)は、必ずしも必要ではないが、補強布を含んでもよい。補強布の形態としては、例えば、圧縮ゴム層の内周面に積層する形態、伸張ゴム層の外周面に積層する形態、圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層に埋設する形態などが挙げられる。
【0153】
補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(特に、織布)などで形成でき、必要であれば、接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクション処理や、前記接着ゴムと前記布材とを積層した後、前記の形態で圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層に積層または埋設してもよい。
【0154】
[伝動ベルトの製造方法]
本発明の伝動ベルトの製造方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。例えば、本発明のローエッジコグドVベルトの製造方法も、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、ベルトの種類に応じて、慣用の方法を利用できる。例えば、以下にローエッジコグドVベルトの代表的な製造方法について説明する。
【0155】
まず、補強布(下布)と圧縮ゴム層本体用シート(未架橋ゴムシート)との積層体を、前記補強布を下側にして、内周コグ部(図2に示すコグ山部1aおよびコグ底部1b)に対応する歯部と溝部とが交互に配された平坦なコグ付き型に接触させて設置し、温度60~100℃(特に70~80℃)でプレス加圧することにより内周コグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製する。そして、このコグパッドの両端を適所(特にコグ山部の頂部)から垂直に切断して必要な長さを得る。
【0156】
次に、前記コグ部に対応する歯部と溝部とを交互に配した内母型を、円筒状金型の外周に被せ、内母型の歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けて両端(特にコグ山部の頂部)で接合し、このコグパッドの外周に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、その外周に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:未架橋ゴムシート)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)を順次に巻き付けて未架橋成形体を作製する。
【0157】
その後、未架橋成形体にジャケットを被せた状態で、公知の架橋装置(加硫缶など)に配置し、温度120~200℃(特に150~180℃)で架橋成形を行い、架橋ベルトスリーブを作製する。そして、カッターなどを用いて、V状に切断加工して無端状のローエッジコグドVベルトを得る。
【0158】
ローエッジダブルコグドVベルトの場合は、前記未架橋成形体の外周に、外周コグ部に対応した歯部と溝部とを交互に配した外母型を被せた状態で、ジャケットを被せて架橋成形を行うことで、外周面にもコグ部が形成された架橋ベルトスリーブが得られ、V状に切断加工してローエッジダブルコグドVベルトが得られる。
【0159】
なお、接着ゴム層は、複数の接着ゴム層用シートで形成でき、芯体を形成する心線(撚りコード)は、接着ゴム層への埋設位置に応じて、複数の接着ゴム層用シートの積層順序と関連付けてスピニングしてもよい。
【実施例0160】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した使用材料の詳細、実施例および比較例の評価方法を以下に示す。
【0161】
[使用材料]
(ポリマー成分)
EPDM1:JSR(株)製「EP123」、エチレン含量58質量%、ジエン含量4.5質量%、ムーニー粘度19.5ML(1+4)125℃
EPDM2:ダウ・ケミカル社製「Nordel6530XFC」、エチレン含量55質量%、ジエン含量8.5質量%、ムーニー粘度30ML(1+4)125℃
EPDM3:ダウ・ケミカル社製「Nordel3745P」、エチレン含量70質量%、ジエン含量0.5質量%、ムーニー粘度45ML(1+4)125℃
EPDM4:ダウ・ケミカル社製「Nordel6565XFC」、エチレン含量55質量%、ジエン含量8.5質量%、ムーニー粘度65ML(1+4)125℃
【0162】
(短繊維)
短繊維は、以下の短繊維を用いた。いずれの短繊維も、RFL液[レゾルシノール2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部の混合液]に浸漬し、乾燥させる接着処理を施した。接着成分(固形分)の付着率は、接着処理後の短繊維に対して6質量%に調整した。
【0163】
パラ系アラミド短繊維:帝人(株)製「トワロン」、繊度2.2dtex、平均繊維長3mm
ナイロン短繊維:旭化成(株)製「レオナ」、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
ポリエステル短繊維:帝人(株)製「テトロン」、平均繊維径25μm、平均繊維長3mm
【0164】
(フィラー)
カーボンブラックFEF:東海カーボン(株)製「シーストSO」、平均一次粒子径43nm
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」、平均一次粒子径28nm
シリカ:エボニックデグサ社製「ウルトラシルVN3」、BET比表面積175m2/g
【0165】
(添加剤)
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW90」
老化防止剤ODPA(オクチルジフェニルアミン):精工化学(株)製「ノンフレックスOD-3」
老化防止剤DCD(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン):大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」
酸化亜鉛:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
レゾルシン・ホルマリン共重合物:INDSPEC Chemical Corporation社製「Penacolite Resin B-18-S」
ヘキサメトキシメチロールメラミン:SINGH PLASTICISER & RESINS社製「POWERPLAST PP-1890S」
架橋促進剤TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
架橋促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
架橋促進剤MBTS(ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
共架橋剤MPBM(N,N’-m-フェニレンジマレイミド):大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
硫黄(粉末硫黄):美源化学社製「MIDAS」
【0166】
(補強布)
前記RFL液にて接着処理をした2/2綾織りのナイロン帆布(厚み0.50mm)。
【0167】
(心線)
1100dtexのPET繊維束(フィラメント数384)を2本合わせて撚り係数3.0で下撚りした下撚り糸を3本合わせ、撚り係数3.0で上撚りした総繊度6600dtexの諸撚りコードに短繊維と同様の接着処理を施した処理コード。なお、撚り係数(TF)は以下の式で計算される値である。
【0168】
TF=TN×D0.5/960
【0169】
[式中、TNは1m当たりの撚り数を示し、Dは糸の繊度(tex)を示す。]
【0170】
(接着ゴム層用組成物)
接着ゴム層用組成物としては、表2に示すゴム組成物を使用した。
【0171】
【表2】
【0172】
実施例1~12および比較例1~3
[ムーニースコーチ最低粘度(Vm)]
表3または表4に示す組成を有する未架橋ゴム組成物を用いて、JIS K 6300-1(2013)のムーニースコーチ試験に準拠して、ムーニースコーチ最低粘度を測定した。ロータはL形を用い、試験温度は125℃とした。なお、試験片(前記未架橋ゴム組成物)とダイとが接する面の間に、厚さ約0.04mmのポリエステルフィルム(東レ(株)製「ルミラー」)を配置した。ダイを閉じた後1分間予熱し、その後ロータを回転し、ムーニー粘度の推移を記録した。記録したムーニー粘度は、概ね、図4に示すような挙動を示し、ムーニー粘度が最低となった時の値をムーニースコーチ最低粘度(Vm)として採用した。
【0173】
[架橋ゴムのゴム硬度Hs]
表3または表4に示す組成を有する未架橋ゴム組成物を温度160℃、時間30分でプレス加熱し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K 6253(2012)に規定されているスプリング式デュロメータ硬さ試験に準拠して、タイプAデュロメータを用いて架橋ゴムシートの硬度を測定した。
【0174】
[4%曲げ応力(短繊維直交方向)]
表3または表4に示す組成を有する未架橋ゴム組成物を温度160℃、圧力2MPaで20分間プレス加熱して、架橋ゴム成形体(60mm×25mm×6.5mm厚み)を作製した。短繊維は架橋ゴム成形体の長さ方向と平行に配向させた。図5に示すように、この架橋ゴム成形体21を、20mmの間隔を空けて回転可能な一対のロール(直径6mm)22a,22b上に置いて支持し、架橋ゴム成形体の上面中央部において幅方向(短繊維の配向方向と直交する方向)に金属製の押さえ部材23を載せた。押さえ部材23の先端部は、直径10mmの半円状の形状を有しており、その先端部で架橋ゴム成形体21をスムーズに押圧可能である。また、押圧時には架橋ゴム成形体21の圧縮変形に伴って、架橋ゴム成形体21の下面とロール22a,22bとの間に摩擦力が作用するが、ロール22a,22bを回転可能とすることにより、摩擦による影響を小さくしている。押さえ部材23の先端部が架橋ゴム成形体21の上面に接触し、かつ押圧していない状態を初期位置とし、この状態から押さえ部材23を下方に100mm/分の速度で架橋ゴム成形体21の上面を押圧し、曲げ歪が4%となったときの応力を曲げ応力として測定した。測定温度は走行中のベルト温度を想定し、120℃とした。短繊維直交方向の4%曲げ応力が大きい程、ベルト走行中のディッシングと呼ばれる座屈変形に対する抵抗力が高いと判断できる。
【0175】
[8%曲げ応力(短繊維平行方向)]
上記の短繊維直交方向での4%曲げ応力の測定方法において、図6に示すように、架橋ゴム成形体を作製する際に短繊維をゴム成形体の長さ方向と直角に配向させる(すなわち、金属製の押さえ部材23と短繊維の配向方向とを平行にする)とともに、曲げ歪が8%となったときの応力を曲げ応力とした以外は同様にして測定した。短繊維平行方向の8%曲げ応力が小さい場合はベルトの屈曲性が良好であると判断できる。2.5MPa以下を実用的な合格水準と判断できる。
【0176】
[ローエッジダブルコグドVベルトの作製]
圧縮ゴム層および伸張ゴム層として表3または表4に示す未架橋ゴム組成物を用い、かつ接着ゴム層として表2に示す未架橋ゴム組成物を用い、前記実施形態に記載の方法(架橋温度160℃、時間20分)で、ローエッジダブルコグドVベルト(サイズ:上幅20.0mm、厚み10.0mm、ベルト外周長さ800mm)を作製した。
【0177】
[摩耗耐久試験(上幅変化量および質量変化率)]
摩耗耐久試験は、図7に示すように、直径50mmの駆動(Dr.)プーリと、直径125mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて行った。この2つのプーリにローエッジダブルコグドVベルトを掛架し、軸荷重を800N、駆動プーリの回転数を5600rpm、従動プーリの負荷を9N・mとし、80℃の雰囲気温度にてベルトを20時間走行させた。走行前後のベルトの上幅を測定し、上幅の変化量(摩耗減量)および質量変化率を評価した。
【0178】
[伝動効率(動力伝達効率)試験]
伝動効率試験は、駆動軸と従動軸の軸間距離が250mmである無段変速機をモータ駆動することで行った。図8に試験機のレイアウトを示すが、試験機は、駆動軸に連結された駆動(Dr.)プーリと、従動軸に連結された従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機である。従動プーリはバネによりベルトを挟む力を作用させる一方、駆動プーリは溝幅を固定し、無負荷時の変速比(従動プーリのピッチ径を駆動プーリのピッチ径で除した値)が1.2となるように調節した。駆動軸および従動軸にはデジタルタコメータおよびトルク計を装着した。そして、駆動軸の回転数を3000~5000rpm、駆動軸のトルクを2~4N・mの間で変量しながら、駆動軸および従動軸の回転数およびトルクを記録した。雰囲気温度は25℃とした。
【0179】
以下の式に示す通り、駆動軸の動力Pは駆動軸のトルクTと回転数ρの積として求められる。同様に、従動軸の動力Pは従動軸のトルクTと回転数ρの積として求められる。伝動効率ηは従動軸の動力Pを駆動軸の動力Pで除して求められる。
【0180】
=T×ρ
=T×ρ
η(%)=[P/P]×100=[(T×ρ)/(T×ρ)]×100
【0181】
伝動効率としては、駆動軸の回転数が3000rpm、駆動軸のトルクが2N・mの際の伝動効率を求める。なお、伝動効率の値は、伝動ロスがなければ100%であり、伝動ロスがあればそのロス分だけ値が小さくなる。すなわち、100%に近いほど伝動ロスが小さく、省燃費性に優れていることを表す。
【0182】
実施例1~12および比較例1~3の評価結果を表3または表4に示す。
【0183】
【表3】
【0184】
【表4】
【0185】
比較例1はポリマー成分のムーニー粘度が低く、かつ無機充填剤を多く含む例であるが、屈曲性および伝動効率が低かった。比較例2はポリマー成分のムーニー粘度が低い例であるが、耐摩耗性が低かった。比較例3はポリマー成分のムーニー粘度は高いものの、無機充填剤が少量の例であるが、耐摩耗性が低かった。
【0186】
これに対して、ポリマー成分のムーニー粘度、無機充填剤の配合量などを適切な範囲に調整した実施例1~12は、耐摩耗性と伝動効率を同時に高めることができた。無機充填剤の量を一定としてポリマー成分のムーニー粘度を変化させた実施例1~6の比較より、ポリマー成分のムーニー粘度が高くなるにつれて耐摩耗性が向上する傾向が確認された。
【0187】
実施例8は、実施例3のナイロン短繊維に代えて、ポリエステル短繊維を用いた例であるが、実施例3と比較して伝動効率が低下した。実施例9は、実施例3のパラ系アラミド短繊維の比率を小さくした例であるが、実施例3と比較して短繊維直交方向の4%曲げ応力および耐摩耗性が低下した。実施例10は、実施例3のカーボンブラックFEF(ソフトカーボン)に代えて、カーボンブラックHAF(ハードカーボン)を用いた例であるが、実施例3と比較して伝動効率が低下した。実施例11は、実施例3よりもカーボンブラックの割合を少なくした例であるが、実施例3と比較して耐摩耗性が低下した。実施例12は、実施例3よりも共架橋剤の割合を多くした例であるが、実施例3と比較して伝動効率が低下した。
【0188】
これらの実施例1~12のなかでも、実施例6は、耐摩耗性が高く、伝動効率とのバランスも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明のゴム組成物は、各種の成形体に利用でき、特に、伝動ベルト、例えば、平ベルト、ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、Vリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトや、歯付ベルト、両面歯付ベルトなどの噛み合い伝動ベルトとして利用できる。特に、伝動ベルトの圧縮ゴム層として利用すると、耐摩耗性、伝動効率を同時に高めることができるため、高馬力化が進行している自動二輪車、四輪バギー、スノーモービル、農業用機械などで用いられる変速ベルトの圧縮ゴム層に有用である。
【符号の説明】
【0190】
1…ローエッジダブルコグドVベルト
2…伸張ゴム層
3…芯体層
3a…芯体
4…圧縮ゴム層
5…補強布
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8