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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002252
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】電磁アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
H01F7/16 E
H01F7/16 D
H01F7/16 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101337
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】安齋 孝
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 渓介
【テーマコード(参考)】
5E048
【Fターム(参考)】
5E048AA06
5E048AA08
5E048AB01
5E048AB06
5E048AD02
5E048AD04
(57)【要約】
【課題】永久磁石を用いることなくプランジャやステータコアの形状を工夫することで、変位時の磁気駆動力の変動を抑える。
【解決手段】ステータコアは、磁気間隙を介してプランジャと対向するステータ対向面と、このステータ対向面の第1方向側に位置するステータ円柱状部と、このステータ円柱状部の外周より第2方向に延出するステータ円筒状部とを備える。プランジャは、磁気間隙を介してステータコアと対向するプランジャ対向面と、このプランジャ対向面の第2方向側に位置してステータ円筒状部の内周に対向可能なプランジャ円柱状部とを備える。ステータ円筒状部を第2方向に延出しているので、ステータ対向面とプランジャ対向面との間隔を大きくでき、プランジャのストロークを大きくできる。そして、コイルの励磁時には、磁束をステータ円筒状部に通すことで、ステータ対向面とプランジャ対向面との間の磁気吸引力を調整できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電時に励磁するコイルと、
このコイルの通電時の磁気回路内に配置される磁性材製のステータコアと、
前記コイルの通電時の磁気回路内に、このステータコアと磁気間隙を介して対向配置され、前記コイルの通電時に磁気吸引力で前記ステータコアに向かう第1方向に移動し、前記コイルの非通電時に前記ステータコアから離れる第2方向に移動する磁性材製のプランジャとを有し、
前記ステータコアは、前記磁気間隙を介して前記プランジャと対向するステータ対向面と、このステータ対向面の前記第1方向側に位置するステータ円柱状部と、このステータ円柱状部の外周より前記第2方向に延出するステータ円筒状部とを備え、
前記プランジャは、前記磁気間隙を介して前記ステータコアと対向するプランジャ対向面と、このプランジャ対向面の前記第2方向側に位置して前記ステータ円筒状部の内周に対向可能なプランジャ円柱状部とを備え、
前記コイルの非通電時に、前記ステータ円筒状部の前記第2方向の端部と前記プランジャ円柱状部との間及び前記ステータ対向面と前記プランジャ対向面との間には、前記第1方向及び前記第2方向に磁気間隙が形成され、
前記コイルの通電時に、前記プランジャ円柱状部の外周は前記ステータ円筒状部の内周と対向し、前記ステータ円筒状部の内周と前記プランジャ円柱状部の外周との間及び前記ステータ対向面と前記プランジャ対向面との間に磁気回路が形成される
ことを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項2】
通電時に励磁するコイルと、
このコイルの通電時の磁気回路内に配置される磁性材製のステータコアと、
前記コイルの通電時の磁気回路内に、このステータコアと磁気間隙を介して対向配置され、前記コイルの通電時に磁気吸引力で前記ステータコアに向かう第1方向に移動し、前記コイルの非通電時に前記ステータコアから離れる第2方向に移動する磁性材製のプランジャとを有し、
前記プランジャは、前記磁気間隙を介して前記ステータコアと対向するプランジャ対向面と、このプランジャ対向面の前記第2方向側に位置するプランジャ円筒状部と、このプランジャ円筒状部の外周より前記第1方向に延出するプランジャ円筒状部を備え、
前記ステータコアは、前記磁気間隙を介して前記プランジャと対向するステータ対向面と、このステータ対向面の前記第1方向側に位置して前記プランジャ円筒状部の内周に対向可能なステータ円柱状部とを備え、
前記コイルの非通電時に、前記プランジャ円筒状部の前記第1方向の端部と前記ステータ円柱状部との間及び前記ステータ対向面と前記プランジャ対向面との間には、前記第1方向及び前記第2方向に磁気間隙が形成され、
前記コイルの通電時に、前記ステータ円柱状部の外周は前記プランジャ円筒状部の内周と対向し、前記プランジャ円筒状部の内周と前記ステータ円柱状部の外周との間及び前記ステータ対向面と前記プランジャ対向面との間に磁気回路が形成される
ことを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記プランジャ対向面は前記第1方向の端面から前記第2方向に向かうにつれて径が小さくなるプランジャ凹形状であり、
前記ステータ対向面は前記第1方向の端面から前記第2方向に向かうにつれて径が小さくなるステータ凸形状である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記プランジャ対向面は前記第1方向の端面から前記第2方向に向かうにつれて径が大きくなるプランジャ凸形状であり、
前記ステータ対向面は前記第1方向の端面から前記第2方向に向かうにつれて径が大きくなるステータ凹形状である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記プランジャ対向面の中心軸周りにはプランジャ平面部が形成され、
前記ステータ対向面の中心軸周りにはこのプランジャ平面部に対応するステータ平面部が形成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記ステータ対向面及び前記プランジャ対向面のいずれかには、非磁性材製のワッシャが配置される
ことを特徴とする請求項1若しくは2に記載の電磁アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁アクチュエータに関し、例えば、クラッチ機構の駆動に用いたり、作動流体の流路を開閉する密閉弁に用いたりすることができる。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、初期位置と作動位置との間を往復変位する際、電磁駆動力が変動の少ない略一定の値とする電磁アクチュエータが開示されている。しかし、特許文献1のものは、磁気駆動力の変動を抑える為非磁性材料製のプランジャシャフトと対向する2つの永久磁石を利用している。従って、特許文献1の構造では永久磁石等が必要となり、部品点数の増加が製品コストの増大に繋がっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-82319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記点に鑑み、永久磁石を用いることなくプランジャやステータコアの形状を工夫することで、プランジャの変位時の磁気吸引力の変動を抑えることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1は、通電時に励磁するコイルと、このコイルの通電時の磁気回路内に配置される磁性材製のステータコアと、コイルの通電時の磁気回路内にこのステータコアと磁気間隙を介して対向配置され、コイルの通電時に磁気吸引力でステータコアに向かう第1方向に移動しコイルの非通電時にステータコアから離れる第2方向に移動する磁性材製のプランジャとを有する電磁アクチュエータである。
【0006】
本開示の第1の電磁アクチュエータのステータコアは、磁気間隙を介してプランジャと対向するステータ対向面と、このステータ対向面の第1方向側に位置するステータ円柱状部と、このステータ円柱状部の外周より第2方向に延出するステータ円筒状部とを備えている。そして、プランジャは、磁気間隙を介してステータコアと対向するプランジャ対向面と、このプランジャ対向面の第2方向側に位置してステータ円筒状部の内周に対向可能なプランジャ円柱状部とを備えている。
【0007】
本開示の第1の電磁アクチュエータは、コイルの非通電時に、ステータ円筒状部の第2方向端部とプランジャ円柱状部との間及びステータ対向面とプランジャ対向面との間には、第1方向及び第2方向に磁気間隙が形成される。また、コイルの通電時には、プランジャ円柱状部の外周はステータ円筒状部の内周と対向し、ステータ円筒状部の内周とプランジャ円柱状部の外周との間及びステータ対向面とプランジャ対向面との間に磁気回路が形成される。
【0008】
本開示の第1の電磁アクチュエータでは、ステータ円筒状部を第2方向に延出形成しているので、ステータ対向面とプランジャ対向面との間の間隔を大きくすることができ、プランジャのストロークを大きくできる。そして、コイルの励磁時には、磁束をステータ円筒状部に通すことで、ステータ対向面とプランジャ対向面との間の磁気吸引力を調整することができる。
【0009】
本開示の第2は、通電時に励磁するコイルと、このコイルの通電時の磁気回路内に配置される磁性材製のステータコアと、コイルの通電時の磁気回路内にこのステータコアと磁気間隙を介して対向配置され、コイルの通電時に磁気吸引力でステータコアに向かう第1方向に移動し、コイルの非通電時にステータコアから離れる第2方向に移動する磁性材製のプランジャとを有する電磁アクチュエータである。
【0010】
本開示の第2の電磁アクチュエータのプランジャは、磁気間隙を介してステータコアと対向するプランジャ対向面と、このプランジャ対向面の第2方向側に位置するプランジャ円筒状部と、このプランジャ円筒状部の外周より第1方向に延出するプランジャ円筒状部を備えている。そして、ステータコアは、磁気間隙を介してプランジャと対向するステータ対向面と、このステータ対向面の第1方向側に位置してプランジャ円筒状部の内周に対向可能なステータ円柱状部とを備えている。
【0011】
本開示の第2の電磁アクチュエータは、コイルの非通電時に、プランジャ円筒状部の第1方向端部とステータ円柱状部との間及びステータ対向面とプランジャ対向面との間には、第1方向及び第2方向に磁気間隙が形成される。また、コイルの通電時には、ステータ円柱状部の外周はプランジャ円筒状部の内周と対向し、プランジャ円筒状部の内周とステータ円柱状部の外周との間及びステータ対向面とプランジャ対向面との間に磁気回路が形成される。
【0012】
本開示の第2の電磁アクチュエータでは、プランジャ円筒状部を第1方向に延出形成しているので、ステータ対向面とプランジャ対向面との間の間隔を大きくすることができ、プランジャのストロークを大きくできる。そして、コイルの励磁時には、磁束をプランジャ円筒状部に通すことで、ステータ対向面とプランジャ対向面との間の磁気吸引力を調整することができる。
【0013】
本開示の第3の電磁アクチュエータは、プランジャ対向面は第1方向の端面から第2方向に向かうにつれて径が小さくなるプランジャ凹形状であり、ステータ対向面は第1方向の端面から第2方向に向かうにつれて径が小さくなるステータ凸形状である。ステータ凸形状とプランジャ凹形状とが対向することで、ステータ対向面とプランジャ対向面との間に適切な磁気吸引力を発生させることができる。
【0014】
本開示の第4の電磁アクチュエータは、プランジャ対向面は第1方向の端面から第2方向に向かうにつれて径が大きくなるプランジャ凸形状であり、ステータ対向面は第1方向の端面から第2方向に向かうにつれて径が大きくなるステータ凹形状である。ステータ凹形状とプランジャ凸形状とが対向することで、ステータ対向面とプランジャ対向面との間に適切な磁気吸引力を発生させることができる。
【0015】
本開示の第5の電磁アクチュエータは、プランジャ対向面の中心軸周りにはプランジャ平面部が形成され、ステータ対向面の中心軸周りにはこのプランジャ平面部に対応するステータ平面部が形成される。ステータ平面部とプランジャ平面部とが対向することで、ステータ対向面とプランジャ対向面との間に適切な磁気吸引力を発生させることができる。
【0016】
本開示の第6の電磁アクチュエータは、ステータ対向面及びプランジャ対向面のいずれかには、非磁性材製のワッシャが配置されている。非磁性材製のワッシャを配置することで、残存磁気によりプランジャがステータコアから離れにくくなるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電磁アクチュエータの非通電時の断面図である。
図2】電磁アクチュエータの通電時断面図である。
図3】電磁アクチュエータの非通電時の動作を示す図である。
図4】電磁アクチュエータの通電時の動作を示す図である。
図5】電磁アクチュエータの磁束を説明する図である。
図6図1及び図2図示電磁アクチュエータと比較例との吸引力を示す図である。
図7】比較例を示す断面図である。
図8】ステータコア及びプランジャの他の例を示す断面図である。
図9】ステータコア及びプランジャの更に他の例を示す断面図である。
図10図7ないし図9図示電磁アクチュエータの吸引力を示す図である。
図11】電磁アクチュエータの他の例を説明する断面図である。
図12】電磁アクチュエータの更に他の例を説明する断面図である。
図13】電磁アクチュエータの更に他の例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示の電磁アクチュエータ100を、クラッチ機構に用いた例を説明する。図1及び図2に示すように、電磁アクチュエータ100は樹脂製のコイルボビン101の周囲にエナメル被覆された銅線からなるコイル102が多数回巻装されている。コイルボビン101は、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)製で円筒形状をしている。そして、コイルボビン101の内周にはステータコア110とプランジャ130が配置される。ステータコア110は磁性材で、例えばSUS430や鉄材料が用いられる。プランジャ130も磁性材で、同様にSUS430や鉄材料が用いられる。
【0019】
また、コイルボビン101の外周は樹脂製の外郭120によって覆われている。外郭120も、ポリフェニレンサルファイド(PPS)製である。そして、コイルに電気接続する正極端子及び負極端子を保持するコネクタ(図示せず)が、この外郭120と一体に形成されている。外郭120を介してコイル102の外周には円筒形状をしたヨーク150が配置されている。本例では、ヨーク150はステータコア110と一体形成されているが、円筒状のヨーク150をステータコア110外周に配置することも可能である。その場合には、ヨーク150も磁性材として、同様にSUS430や鉄材料が用いられる。ヨーク150の開口部には、プレート151が配置されている。このプレート151も磁性材で、同様にSUS430や鉄材料が用いられる。従って、コイル102の周囲は磁性材料からなるステータコア110、プランジャ130、ヨーク150及びプレート151によって覆われている。その為、コイル102の励磁時には、ステータコア110、プランジャ130、ヨーク150及びプレート151により磁気回路が形成される。
【0020】
プランジャ130がステータコア110に向かう方向を第1方向とし(図1で下方向)、逆にプランジャ130がステータコア110から離れる方向を第2方向とする(図1で上方向)。ステータコア110は第1方向側にステータ円柱状部111が形成されている。そして、このステータ円柱状部111の第2方向には、プランジャ130と対向するステータ対向面112が形成されている。このステータ対向面112はステータ円柱状部111から第2方向に向かうにつれて径が小さくなるテーパ形状をした凸形状である。以下、本例で図1に示すステータ対向面112の形状をステータ凸形状と呼ぶ。そして、本例では、ステータ凸形状の中心軸周りは平面状のステータ平面部1121となっている。
【0021】
また、ステータコア110のステータ円柱状部111の外周からステータ対向面112の外周にかけてリング状のステータ円筒状部113が一体に延出形成されている。ステータ円筒状部113の第2方向端部1131のステータ円柱状部111からの飛び出し距離は、ステータコア110とプランジャ130との間の磁気間隙Aより多少短く設定されている。例えば、磁気間隙Aが10ミリメートル程度である場合、ステータ円筒状部113の飛び出し量は8ミリメートル程度である。そして、ステータ円筒状部113の第2方向端部1131は、第2方向に向かうにつれてプランジャ130側に傾斜するエッジ形状となっている(図5図示)。
【0022】
プランジャ130は円柱形状をしており、プランジャ円柱状部131の外径はステータ円筒状部113の内径より多少(0.5~1ミリメートル程度)小さくなっている。従って、プランジャ円柱状部131はステータ円筒状部113の内周に嵌まり込むことが可能となっている。そして、プランジャ円柱状部131の第1方向はステータコア110と対向するプランジャ対向面132となっている。このプランジャ対向面132はステータ対向面112と対応する形状となっている。即ち、第1方向の端面から第2方向に向かうにつれて径が小さくなるテーパ形状をした凹形状である。以下、本例で図1に示すプランジャ対向面132の形状をプランジャ凹形状と呼ぶ。
【0023】
そして、本例では、プランジャ凹形状の中心軸周りは平面状となっており、プランジャ平面部1321が形成されている。上述のようにステータ凸部にもこのプランジャ平面部1321に対応した形状のステータ平面部1121が形成されている。従って、本例のプランジャ凹形状は中心軸周りにプランジャ平面部1321を備える形状であり、ステータ凸形状も中心軸周りにステータ平面部1121を備える形状である。
【0024】
プランジャ対向面132の内、このプランジャ平面部1321にはワッシャ135が配置されている。ワッシャ135は、SUS304等の非磁性材料で形成されている。従って、コイル102の励磁時にステータコア110に吸引されたプランジャ130が、コイル102の非励磁時にもプランジャ対向面132とステータ対向面112とで残存磁気によって吸着し続けることが無いようになっている。
【0025】
プランジャ円柱状部131とコイルボビン101の間には円筒状をしたスリーブ136が配置されている。プランジャ130がコイルボビン101の内周をスムーズに往復移動するためのもので、非磁性材料製の金属を用いている。上述のワッシャ135と同様、SUS304等が用いられている。スリーブ136はコイルボビン101の内周部に圧入固定されている。
【0026】
次に上記構成の電磁アクチュエータ100の動作を、図3及び図4を用いて説明する。本例では、プランジャ130はドグクラッチ機構200のリンク210に回動可能に連結している。ドグクラッチ機構200は、可動ドグ歯221を備える可動クラッチ板220と、固定ドグ歯231を備える固定クラッチ板230と係合離脱の切り替えを行う。
【0027】
図3に示すように、コイル102の非通電時でプランジャ130が第2方向(図3の左方向)に変位している状態では、可動クラッチ板220は固定クラッチ板230から離脱している。なお、図3の例ではドグクラッチ機構200の機構的な構造により、プランジャ130は第2方向に変位しているが、図示しないプランジャバネを用いてプランジャ130を第2方向に移動させるようにしても良い。
【0028】
可動クラッチ板220を固定クラッチ板230と係合させる際には、図4に示すように、コイル102に通電してプランジャ130を第1方向(図4の右方向)に変位させる。プランジャ130の変位はリンク210を介して可動クラッチ板220に伝達される。具体的には、リンク210は回転支持軸211を中心として回動し、更に、リンク210の軸方向に形成された長穴212を回転支持軸211が移動することで、可動ドグ歯221が固定ドグ歯231とスムーズに係合する。
【0029】
上記ドグクラッチ機構200の動作を、コイル102の通電に伴う磁気吸引力で説明する。図3に示したコイル102の非通電の状態では、プランジャ130とステータコア110との間には所定のストロークが介在しており、このストロークは磁気間隙Aに対応する。磁気間隙Aは例えば、プランジャ対向面132とステータ対向面112との間で10ミリメートル程度である。そして、ステータ円筒状部113がステータ円柱状部111より第2方向に延出しているので、プランジャ対向面132とステータ円筒状部113との間は、磁気間隙Aが縮められている。
【0030】
コイル102に通電されると、磁気回路がヨーク150、プレート151、ステータコア110及びプランジャ130の間に生じる。そして、磁気回路の内ステータコア110とプランジャ130との間に磁気間隙Aが生じているので、磁束はこの磁気間隙Aを狭める方向に働き、磁気吸引力が発生する。ただ、磁気間隙Aがあまりに広いと磁気間隙A間を流れる磁束密度が少なくなり、磁気吸引力は小さくなる。プランジャバネの付勢力によっては、プランジャ130を吸引できなくなる恐れもある。
【0031】
本開示では、図5のコイル102の励磁直後に示すように、ステータ円筒状部113が第2方向に延出して磁気間隙Aを小さくしている。その為、コイル102の通電直後はステータ円筒状部113の第2方向端部1131と、この第2方向端部1131と対向するプランジャ対向面132との間を磁束が流れる。上記の通り、第2方向端部1131が磁気間隙Aを狭めているので、第2方向端部1131と対向するプランジャ対向面132との間を流れる磁束の密度は高くなり、プランジャ130をステータコア110側に吸引することができる。これにより、第2方向端部1131と対向するプランジャ対向面132との間の磁気吸引力の方がプランジャバネの付勢力を確実に上回る。なお、図5では第2方向端部1131の形状をエッジ形状としているが、第2方向端部1131はエッジ形状でなくてもよい。第2方向端部1131の形状をフラット形状としても磁気吸引力はさほど変化が無い。
【0032】
図5のプランジャ130の移動初期に示すように、プランジャ130が第1方向に移動するとプランジャ対向面132とステータ対向面112との磁気間隙Aが狭くなり、それに応じてプランジャ対向面132とステータ対向面112との間の磁束密度が高くなる。即ち、プランジャ130をステータコア110に引き付ける磁気吸引力は高くなる。
【0033】
ただ、図5のプランジャ130の移動後期に示すように、プランジャ130の第1方向への移動が所定量となると、プランジャ130のプランジャ円柱状部131からステータ円筒状部113に流れる磁束が大きくなる。このプランジャ円柱状部131からステータ円筒状部113に流れる磁束は単純に半径方向に流れるのみで、軸方向のベクトルを持っていない。その為、プランジャ円柱状部131からステータ円筒状部113に流れる磁束は磁気吸引力に貢献しない。換言すれば、プランジャ130の第1方向への移動が所定量以上となると、プランジャ対向面132とステータ対向面112との磁気間隙Aは狭くなるものの、このプランジャ対向面132とステータ対向面112との磁気間隙Aを流れる磁束が減ることとなる。従って、磁気間隙Aが狭くなることと磁束が減ることとが相反しあって、全体としての磁気吸引力は緩やかな上昇となり、ほぼ一定に保たれる。
【0034】
図6に、本開示の磁気間隙Aと磁気吸引力との関係をX1として示す。上述の説明の通り、ストロークが大きいコイル102の励磁直後から、ステータ円筒状部113の第2方向端部1131とプランジャ円柱状部131との間の磁気間隙によって磁気吸引力が発生している(W1点)。そして、プランジャ130の移動初期では、ストロークが小さくなることで磁束密度が増えて磁気吸引力も高まっている(W2点)。ただ、プランジャ130の移動後期は、ステータ円筒状部113へ磁束が流れる結果、磁気吸引力の増加は抑制されている(W3点)。
【0035】
図6に比較例Yとして示すのは、図7に示すように、ステータ円筒状部113を備えない電磁アクチュエータ100である。ステータ円筒状部113を備えないと、コイル102の励磁直後では、ストロークが大きすぎて磁気吸引力が小さく、プランジャ130の移動が困難である(Z1点)。そして、一旦プランジャ130が移動開始すると、磁気間隙Aの減少に応じて磁気吸引力が指数関数的に大きくなる(Z2点)。そのため、プランジャ130がステータコア110に大きな磁気吸引力で衝突する恐れもある(Z3点)。それに対し、本開示では、上述のように磁気吸引力の上昇が緩やかになっている。
【0036】
ただ、本開示のステータ円筒状部113は、無制限に磁束を流す訳ではない。即ち、磁束がステータ円筒状部113側に流れると、上述の通り、ステータ円筒状部113側に流れる磁束には第1方向のベクトルが無いので、プランジャ130を吸引することができなくなる。従って、ステータ円筒状部113を流れる磁束は、ある程度の量で磁気飽和するように設定している。この磁気飽和の程度は、プランジャ130のストロークに応じて調整する。
【0037】
図8に示すように、ストロークが5ミリメートル程度の場合には、ステータ対向面112とプランジャ対向面132との間の磁気吸引力でプランジャ130を第1方向に吸引することは可能である。そのため、プランジャ130を吸引開始するためにステータ円筒状部113に求められる磁気吸引力は小さくて良い。逆に、プランジャ130が移動した後に、磁束がステータ円筒状部113側に流れると磁気吸引力を低下させることになる。なお、図8及び後述の図9では磁束密度を矢印で示しており、矢印を分かりやすくするため断面のハッチングは割愛している。
【0038】
従って、ストロークが小さい場合にはステータ円筒状部113内を流れる磁束は早期に磁気飽和することが求められる。ここで、早期に磁気飽和するとは、プランジャ円柱状部131とステータ円筒状部113とのオーバーラップ量が少ない段階でステータ円筒状部113の磁束が飽和することを意味している。例えば、コイル102の励磁力が数十ニュートンから数百ニュートンで、コイル102の外径が60ミリメートル程度である場合、ステータ円筒状部113の肉厚は0.5ミリメートル程度で良い。
【0039】
一方、図9に示すように、ストロークが10ミリメートル程度である場合には、コイル102の励磁直後にプランジャ130を吸引する磁気吸引力を大きくする必要がある。即ち、所定量の磁束がプランジャ対向面132とステータ円筒状部113の第2方向端部1131との間に流れる必要がある。また、上述のように、プランジャ130の移動後期でステータ対向面112とプランジャ対向面132との間の磁気吸引力が高くなりすぎるのは望ましくない。そのため、ストロークが大きい場合にはステータ円筒状部113にある程度の磁束が流れることが求められる。上述のコイル102の励磁力が数十ニュートンから数百ニュートンで、コイル102の外径が60ミリメートル程度である場合には、ステータ円筒状部113の肉厚は1ミリメートル程度に厚くするのが良い。
【0040】
図10に、磁気吸引力とストロークとの関係を示す。図10に於いてX2で示すのが、ストロークを5ミリメートル程度とした図8図示電磁アクチュエータ100の磁気吸引力の傾向である。そして、X3はストロークを10ミリメートル程度とした図9図示電磁アクチュエータ100の磁気吸引力の傾向を示している。また、Yは比較例で、図7に示すようにステータ円筒状部113を備えない電磁アクチュエータの傾向を示す。図10に示すように、ステータ円筒状部113内を流れる磁束の磁気飽和の程度を調整することで、電磁アクチュエータの求められるストロークに対応することが可能となる。
【0041】
なお、図5の例では、ステータ円筒状部113の第2方向端部1131が第2方向に向かうにつれて肉厚が小さくなるエッジ形状をしていた。ただ、成形性等の理由で、図1図2に示すようなエッジ部を有さない円筒形状とすることも、勿論可能である。エッジ部を有さない形状としても磁気吸引力がさほど変化しないのは、上述の通りである。
【0042】
また、図1及び図2の例では、ステータ対向面112をステータ凸形状としたが、図11に示すように、逆の凹形状としても良い。即ち、ステータ円柱状部111の第2方向の端面から第1方向に向かうにつれて径が小さくなるテーパ形状としても良い。本例では、この図11に示すステータ対向面112の形状をステータ凹形状と呼ぶ。このステータ凹形状でも、中心軸周りにステータ平面部1121を形成して、ワッシャ135を配置しても良い。
【0043】
そして、ステータ対向面112の形状をステータ凹形状とした際には、プランジャ対向面132もステータ対向面112の形状に対応する形状とする。この場合には、プランジャ対向面132は、プランジャ円柱状部131の第2方向の端面から第1方向に向かうにつれて径が小さくなるテーパ形状とする。そして、本例では図11に示すプランジャ対向面132の形状をプランジャ凸形状と呼ぶ。
【0044】
このように、ステータ対向面112とプランジャ対向面132の凹形状、凸形状を逆にしても、図1図2で示したステータ円筒状部113の作用は同様である。即ち、図5の例で説明した通り、ステータ対向面112がステータ凹形状でプランジャ対向面132がプランジャ凸形状であっても、ステータ円筒状部113により、ステータコア110とプランジャ130との間の磁気吸引力を適切な値に調整することができる。これは、図1の例のようにステータ対向面112がステータ凸形状でプランジャ対向面132がプランジャ凹形状であっても、図11に示すように、逆の凹形状としても同様である。
【0045】
また、ステータ対向面112とプランジャ対向面132の形状を、凹形状と凸形状との組み合わせとすることは、ステータコア110とプランジャ130との間の磁束の流れを整える上で望ましい。ただ、製造上の要求等により凹形状や凸形状とすることが困難な場合は、ステータ対向面112とプランジャ対向面132とを、共に平面状とすることも本開示では除外していない。即ち、プランジャ平面部1321及びステータ平面部1121を中心軸周りのみでなく、全面とすることも除外していない。
【0046】
また、上述の例では、ステータ円筒状部113をステータコア110と一体に形成していたが、ステータコア110とステータ円筒状部113とを別部材することも可能である。この場合には、図12に示すように、ステータ円筒状部113を磁性材料製の円管とし、SUS430や鉄材料が用いられる。そして、このステータ円筒状部113はステータ円柱状部111の外周に圧入して固定されている。
【0047】
更に、プランジャ130に円筒状部を設けるようにしても良い。即ち、基本的な構造は図12と同様で、図13に示すように、別部材としたプランジャ円筒状部133を用いることでも形成できる。この場合には、プランジャ130のプランジャ円柱状部131の外周にプランジャ円筒状部133を圧入する。そして、プランジャ130が第1方向に移動すると、プランジャ円筒状部133がステータ円柱状部111の外周に位置するようになる。
【0048】
このプランジャ130にプランジャ円筒状部133を形成した場合でも、動作は図5と同様になる。即ち、コイル102の非励磁時には、プランジャ円筒状部133の第1方向端部1331とステータ円柱状部111との間に間隙がある。そして、コイル102の励磁直後に、この第1方向端部1331とステータ円柱状部111との間隙で磁気吸引力が発生する。そして、プランジャ130の移動に伴いプランジャ円筒状部133がステータ円柱状部111の外周に位置して磁気回路を形成し、それにより、プランジャ対向面132とステータ対向面112との間の磁気吸引量が過大となるのを抑制する。同時に、プランジャ円筒状部133での磁束も所定密度で飽和して、プランジャ対向面132とステータ対向面112との間の磁気吸引量が過小となるのも抑制できる。
【0049】
上述の実施例では、プランジャ対向面132とステータ対向面112との間に非磁性材料製のワッシャ135を介在させている。残存磁気によりプランジャ130がステータコア110から離れにくくなるのを防止できて好適である。ただ、プランジャ130の係止部を設ける等で、プランジャ130とステータコア110とが当接しないように配置することは可能である。その場合には、非磁性材料製のワッシャ135を不要とすることができる。
【0050】
また、上述した例では、本開示の電磁アクチュエータ100をドグクラッチ機構200の駆動装置として利用したが、本開示の電磁アクチュエータ100の用途は、ドグクラッチ機構200以外にも多様で、他のクラッチ機構や各種のバルブの開閉を行うアクチュエータとして利用できる。
【0051】
例えば、密閉弁に用いる場合は、プランジャ130は密閉弁に連通する。密閉弁は、燃料タンクとキャニスタとを繋ぐ通路の開閉を行う弁である。密閉弁は、給油前などに通路を開いて燃料タンク内の蒸発燃料と高圧になった空気をキャニスタ側に流すが、通常は、プランジャバネによりプランジャ130を第2方向に付勢して、弁体が通路を密閉している。
【0052】
即ち、密閉弁はプランジャバネにより、プランジャ130をステータコア110から引き離す第2方向に変位している。そして、プランジャ130がプランジャバネによって第2方向に変位することで、弁体が弁座に着座して通路を閉じている。また、弁体が弁座に着座して通路を閉じている状態は、コイル102に通電されていない状態である。ただ、バルブに用いる際でも作動流体の圧力を用いてプランジャ130をステータコア10から引き離すことは勿論可能である。その為、プランジャバネは必須ではなく、本例ではプランジャバネを図示していない。
【0053】
他に、本開示の電磁アクチュエータは、部材のロック、アンロックの切り替えに用いたり、部材の角度調整に用いたりすることも可能である。ディスチャージ形前照灯のローハイを配光制御するシェード、照射方向を上下調節するレベライザー、および照射方向を左右に調整するAFS等にも使用できる。また、自動変速機を搭載した車両(AT車)のシフトレバーロック装置などの被駆動体の作動に使用することも可能である。
【0054】
また、上述した素材や大きさは、一例であり、要求される性能に応じて適宜選択可能である。この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。
【符号の説明】
【0055】
100 電磁アクチュエータ
102 コイル
110 ステータコア
111 ステータ円柱状部
112 ステータ対向面
113 ステータ円筒状部
130 プランジャ
131 プランジャ円柱状部
132 プランジャ対向面
133 プランジャ円筒状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13