IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ・セラニーズ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022528
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】ポリエステルエラストマ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240208BHJP
   C08G 63/66 20060101ALI20240208BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240208BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20240208BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240208BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240208BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240208BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L67/02
C08G63/66
C08F279/02
C08L51/04
C08L25/12
C08K3/013
C08L101/00
C08K5/09
C08K5/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125370
(22)【出願日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2022125262
(32)【優先日】2022-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】322012860
【氏名又は名称】東レ・セラニーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】中尾 優一
(72)【発明者】
【氏名】植村 裕司
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
4J029
【Fターム(参考)】
4J002BB034
4J002BC063
4J002BD154
4J002BN142
4J002BN152
4J002CF091
4J002CH024
4J002CP034
4J002DJ006
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002EC057
4J002EG017
4J002EP007
4J002FD016
4J002FD204
4J002FD207
4J002GN00
4J002GQ00
4J026AA68
4J026BA05
4J026BA31
4J026BB03
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB24
4J026EA04
4J026FA07
4J026GA01
4J026GA06
4J026GA09
4J029AA05
4J029AB01
4J029AC02
4J029AC03
4J029AE01
4J029BA05
4J029BF25
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029JF251
4J029JF371
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE03
4J029KE06
4J029KH08
4J029LA02
4J029LA04
(57)【要約】
【課題】柔軟で弾性に富み、ストランド安定性を有すると共に、成形収縮率が小さいポリエステルエラストマ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるゴム質グラフト共重合体(B)と、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるビニル系共重合体(C)を含有し、ポリエステルブロック共重合体(A)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の合計100質量%に対して、ポリエステルブロック共重合体(A)60~98質量%、ゴム質グラフト共重合体(B)1~15質量%、ビニル系共重合体(C)1~25質量%を含有することを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるゴム質グラフト共重合体(B)と、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるビニル系共重合体(C)を含有し、ポリエステルブロック共重合体(A)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の合計100質量%に対して、ポリエステルブロック共重合体(A)60~98質量%、ゴム質グラフト共重合体(B)1~15質量%、ビニル系共重合体(C)1~25質量%を含有することを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステルブロック共重合体(A)が、ポリエステルブロック共重合体(A1)とポリエステルブロック共重合体(A2)からなり、(A1)と(A2)の質量比((A1)/(A2))が90/10~30/70であり、ポリエステルブロック共重合体(A1)を構成する高融点結晶性重合体セグメント(a1)のジカルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(a3)であり、ポリエステルブロック共重合体(A2)を構成する高融点結晶性重合体セグメント(a2)のジカルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(a3)と少なくとも1種以上のテレフタル酸以外のジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体(a4)を含み、(a3)に対する(a4)のモル比((a3)/(a4))が0.2~7.0であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステルブロック共重合体(A1)の高融点結晶性重合体セグメント(a1)と低融点重合体セグメント(b1)の質量比が85/15~20/80であり、前記ポリエステルブロック共重合体(A2)の高融点結晶性重合体セグメント(a2)と低融点重合体セグメント(b1)の質量比が85/15~20/80であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマ樹脂組成物100質量部に対して、無機材(D)0.05~1.0質量部を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマ樹脂組成物100質量部に対して、摺動剤(E)0.05~3.0質量部を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項6】
前記ゴム質グラフト共重合体(B)が、ジエン系ゴム質重合体40~85質量部に、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分15~60質量部をグラフト重合してなるものであり、グラフト率が25%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項7】
融点と結晶化温度の差が35℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルエラストマ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体は、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。
【0003】
近年、各分野において樹脂材料の高機能化の要求が高まっており、例えば自動車分野では、快適な車内空間の実現ために車内騒音の低減を目的として、消音性に優れる自動車部品が望まれている。
【0004】
ポリエステルブロック共重合体は、優れた消音特性を有し、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)との樹脂接着性の向上を目的として、ABS樹脂を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)が開示されていた。また、ABS樹脂あるいはABS樹脂とポリカーボネート樹脂のブレンド樹脂との樹脂接着性の向上を目的として、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)が開示されていた。また、ABS樹脂あるいはABS樹脂とポリカーボネート樹脂のブレンド樹脂との樹脂接着性の向上を目的として、スチレン系樹脂と、ポリカーボネート樹脂または脂肪族ポリエステル樹脂を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)が開示されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-39530号公報
【特許文献2】特開2008-189715号公報
【特許文献3】特開2007-125720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、柔軟性に富み、消音材料として利用されているが、成形収縮率が大きいという課題があった。これは結晶性芳香族ポリエステル単位を有するため、溶融した状態で金型に充填されて固化する際に、分子が規則的に並んだ結晶構造を形成することによって、体積減少が大きくなるためである。特に複雑な形状の成形体では、厚い部分と薄い部分の体積減少による収縮差が大きくなり、ねらい通りの形状の成形体を得ることが難しい。このような場合、成形体の形状面の改善に加えて、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物自体の成形収縮率を小さくすることが重要である。
【0007】
そこで、本発明者らは、成形収縮率が小さい非晶性ポリマーの配合を着想した。しかしながら、特許文献1、2のようなABS樹脂を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物では、成形収縮率の改善には不十分であった。
【0008】
一方、特許文献3のようなスチレン系樹脂を特定比率で配合した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物では、成形収縮率の改善は見られたものの、溶融混錬時のストランド安定性に欠けるものであった。本発明の課題は、柔軟で弾性に富み、ストランド安定性を有すると共に、成形収縮率が小さいポリエステルエラストマ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステルブロック共重合体に特定のゴム質グラフト共重合体と特定のビニル系共重合体を配合することにより、上記の目的が効果的に達成されることを見出し本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明の様態は、以下の通りである。
(1)結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるゴム質グラフト共重合体(B)と、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体からなるビニル系共重合体(C)を含有し、ポリエステルブロック共重合体(A)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の合計100質量%に対して、ポリエステルブロック共重合体(A)60~98質量%、ゴム質グラフト共重合体(B)1~15質量%、ビニル系共重合体(C)1~25質量%を含有することを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(2)前記ポリエステルブロック共重合体(A)が、ポリエステルブロック共重合体(A1)とポリエステルブロック共重合体(A2)からなり、(A1)と(A2)の質量比((A1)/(A2))が90/10~30/70であり、ポリエステルブロック共重合体(A1)を構成する高融点結晶性重合体セグメント(a1)のジカルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(a3)であり、ポリエステルブロック共重合体(A2)を構成する高融点結晶性重合体セグメント(a2)のジカルボン酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(a3)と少なくとも1種以上のテレフタル酸以外のジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体(a4)を含み、(a3)に対する(a4)のモル比((a3)/(a4))が0.2~7.0であることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(3)前記ポリエステルブロック共重合体(A1)の高融点結晶性重合体セグメント(a1)と低融点重合体セグメント(b1)の質量比が85/15~20/80であり、前記ポリエステルブロック共重合体(A2)の高融点結晶性重合体セグメント(a2)と低融点重合体セグメント(b1)の質量比が85/15~20/80であることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(4)前記熱可塑性エラストマ樹脂組成物100質量部に対して、無機材(D)0.05~1.0質量部を含むことを特徴とする(1)~(3)いずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(5)前記熱可塑性エラストマ樹脂組成物100質量部に対して、摺動剤(E)0.05~3.0質量部を含むことを特徴とする(1)~(4)いずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(6)前記ゴム質グラフト共重合体(B)が、ジエン系ゴム質重合体40~85質量部に、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分15~60質量部をグラフト重合してなるものであり、グラフト率が25%以上であることを特徴とする(1)~(5)いずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(7)融点と結晶化温度の差が35℃以下であることを特徴とする(1)~(6)いずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟で弾性に富み消音性に優れ、ストランド安定性を有すると共に、成形収縮率が小さいポリエステルエラストマ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
【0013】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)(以下、ポリエステルブロック共重合体(A)という場合がある。)と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるゴム質グラフト共重合体(B)(以下、ゴム質グラフト共重合体(B)という場合がある。と、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるビニル系共重合体(C)(以下、ビニル系共重合体(C)という場合がある。)を含有し、ポリエステルブロック共重合体(A)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の合計100質量%に対して、ポリエステルブロック共重合体(A)60~98質量%、ゴム質グラフト共重合体(B)1~15質量%、ビニル系共重合体(C)1~25質量%を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とする。高融点結晶性重合体セグメント(a)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルであり、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。主として芳香族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0015】
ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、および4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0016】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。そして、好ましい高融点結晶性重合体セグメント(a)の例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位である。また、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものも好ましく用いられる。
【0017】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)は、脂肪族ポリエーテルであり、この脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましい。また、これらの低融点重合体セグメント(b)の数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、高融点結晶性重合体セグメント(a1)を有するポリエステルブロック共重合体(A1)と、高融点結晶性重合体セグメント(a2)を有するポリエステルブロック共重合体(A2)を配合することが好ましい。ポリエステルブロック共重合体(A1)を構成する高融点結晶性重合体セグメント(a1)は、テレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(a3)とジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されることが好ましい。
【0019】
ポリエステルブロック共重合体(A2)を構成する高融点結晶性重合体セグメント(a2)は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(a3)の他に、少なくとも1種以上のテレフタル酸以外のジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体(a4)を含み、(a3)に対する(a4)のモル比((a3)/(a4))が0.2~7.0であることが好ましく、0.3~6.0であることがより好ましい。(a3)に対する(a4)のモル比が0.2未満であると、成形加工性が悪化し、また7.0を超えると成形収縮率が不十分となる。
【0020】
ポリエステルブロック共重合体(A1)と、ポリエステルブロック共重合体(A2)の配合比率は、(A1)と(A2)の質量比が90/10~30/70が好ましく、より好ましくは、80/20~40/60である。
【0021】
本発明に用いられるポリエーテルエステルブロック共重合体(A1)の高融点結晶性重合体セグメント(a1)と低融点重合体セグメント(b1)の質量比は、85/15~20/80が好ましく、より好ましくは85/15~40/60質量%である。
【0022】
本発明に用いられるポリエーテルエステルブロック共重合体(A2)の高融点結晶性重合体セグメント(a2)と低融点重合体セグメント(b2)の質量比は、85/15~20/80が好ましく、より好ましくは85/15~40/60質量%である。
【0023】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0024】
本発明に用いられるゴム質グラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなる。ゴム質重合体と、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル単量体とからなる樹脂であり、通常ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体である。
【0025】
ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等のジエン系重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン系共重合体等のエチレン-プロピレン系共重合体、アクリル酸エステル系共重合体、塩素化ポリエチレン等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。中でも成形加工性やポリエステルブロック共重合体との分散性が良好な点で、ジエン系重合体が好ましく使用される。
【0026】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどを挙げることができる。中でもスチレンおよび/またはα-メチルスチレンが好ましく用いられる。
【0027】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができるが、中でもアクリロニトリルが好ましい。
【0028】
また、本発明の効果を損なわない範囲で他のビニル単量体を共重合してもよい。共重合可能な他のビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β-不飽和カルボン酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸-t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのα,β-不飽和カルボン酸エステル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのα,β-不飽和ジカルボン酸無水物類、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド,N-t-ブチルマレイミドなどのα,β-不飽和ジカルボン酸のイミド化合物などを挙げることができる。
【0029】
本発明で用いるゴム質グラフト重合体(B)は、ジエン系ゴム質重合体40~85質量部に、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分15~60質量部をグラフト重合することにより得られる。ゴム質重合体が85質量部を越えると、グラフト率の相対的低下により良好な機械物性が得られにくく、さらに40質量部未満でもあるいは85質量部を越えても、ポリエステルブロック共重合体との相溶性が低下する傾向となる。
【0030】
グラフト重合する芳香族ビニル単量体の割合は、全ビニル系単量体に対し好ましくは50~99質量%、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~80質量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合は、好ましくは1~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは20~30質量%である。芳香族ビニル単量体の割合が99質量%を越えてもあるいは50質量%未満でも、またシアン化ビニル単量体の割合が50質量%を越えてもあるいは1質量%未満でも、ポリエステルブロック共重合体との相溶性が低下し、良好な機械物性が得られない場合がある。また、これらと共重合可能な他のビニル系単量体は50質量%以下で用いることが好ましい。
【0031】
本発明で用いるゴム質グラフト共重合体(B)のジエン系ゴム質重合体に対するグラフト率は25%以上が好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは35%以上である。グラフト率が25%未満であると、溶融混練時にゴム質重合体同士が凝集して得られる熱可塑性エラストマ樹脂組成物の機械特性を損ねてしまうため好ましくない。
【0032】
本発明のゴム質グラフト共重合体(B)の製造方法につては、特に制限はなく、一般的に公知な手法により製造することができ、例えば乳化グラフト重合により得ることができる。ここで使用する乳化剤、重合開始剤および連鎖移動剤は、通常の乳化重合で用いられる試薬を使用できる。代表的な乳化剤としては、ロジン酸カリウム、ステアリン酸カリウムおよびオレイン酸カリウムなどが、重合開始剤としては、有機ハイドロパーオキサイドと含糖ピロリン酸-硫酸第一鉄の併用系および過硫酸塩などが、また連鎖移動剤としては、アルキルチオール化合物が好ましいが、本発明はそれらに限定するものではない。
【0033】
本発明に用いるビニル系共重合体(C)は、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなる共重合体である。
【0034】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどを挙げることができる。中でもスチレンおよび/またはα-メチルスチレンが好ましく用いられる。
【0035】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができるが、中でもアクリロニトリルが好ましい。
【0036】
本発明に用いるビニル系共重合体(C)は、アクリロニトリルースチレン共重合体が好ましい。
【0037】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、上述のポリエステルブロック共重合体(A)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の合計100質量%に対して、ポリエステルブロック共重合体(A)60~98質量%、ゴム質グラフト共重合体(B)1~15質量%、ビニル系共重合体(C)1~25質量%を配合してなる熱可塑性エラストマ樹脂組成物であり、好ましくはポリエステルブロック共重合体(A)70~95質量%、ゴム質グラフト共重合体(B)3~10質量%、ビニル系共重合体(C)3~15質量%を配合してなる樹脂組成物であり、さらに好ましくはポリエステルブロック共重合体(A)80~90、ゴム質グラフト共重合体(B)5~10質量%、ビニル系共重合体(C)5~10質量%を配合してなる樹脂組成物である。
【0038】
ポリエステルブロック共重合体(A)が60質量%未満では、ポリエステルエラストマが持つ柔軟性や成形加工性が損なわれるため好ましくなく、98質量%を越えると、成形収縮率が不十分となるため好ましくない。65質量%以上が好ましい。ゴム質グラフト共重合体(B)が1質量%未満では、溶融混錬時に樹脂組成物のストランド安定性が悪く均一形状のペレットを形成できず、15質量%を越えると、ポリエステルエラストマの柔軟性が損なわれるため好ましくない。ビニル系共重合体(C)が1質量%未満では、成形収縮率が不十分であり、25質量%を越えると、ポリエステルエラストマの柔軟性が損なわれたり、溶融混錬時に樹脂組成物のストランド安定性が悪く均一形状のペレットを形成できないため好ましくない。20質量%以下が好ましい。ポリエステルブロック共重合体(A)に対して、ゴム質グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)を併用して配合することで、溶融混錬時の樹脂組成物のストランド安定性を改善することができ、成形収縮率の小さい樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
本発明のポリエステルブロック共重合体(A)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の混合方法には制限がなく、(A)、(B)、(C)の一括混合、いずれかを溶融した後に残る成分を混合する方法が挙げられ、混練方法としてはバンバリーミキサー、押出機等の公知の方法を採用することができる。
【0040】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、無機材(D)を含むことが好ましい。本発明に用いる無機材(D)は、板状の充填材である。板状の充填材の具体例としては、タルク、マイカ、ガラスフレークなどが挙げられる。
【0041】
無機材(D)の含有量は、熱可塑性エラストマ樹脂組成物100質量部に対して0.05~1.0質量部が好ましく、より好ましくは0.05~0.8質量部であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量部である。無機材(D)の含有量は、0.05質量部以上にすることで成形加工性が向上し、1.0質量部以下にすることで柔軟性に優れる。
【0042】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、摺動剤(E)を含むことが好ましい。本発明に用いる摺動剤(E)の具体例としては、ポリオレフィンワックス、オルガノポリシロキサン、ポリアルキレングリコール、高級アルコール、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられ、ポリオレフィンワックスやオルガノポリシロキサンが特に好ましい。
【0043】
ポリオレフィンワックスとしては、エチレン/α-オレフィン共重合体酸変性物が好ましい。オルガノポリシロキサンとしては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン等のシリコーンオイルが好ましい。
【0044】
摺動剤(E)の含有量は、熱可塑性エラストマ樹脂組成物100質量部に対して0.05~3.0質量部が好ましく、より好ましくは0.1~2.5質量部であり、さらに好ましくは0.5~2.0質量部である。摺動剤(E)の含有量は、0.05質量部以上にすることで成形品の表層改良でき、3.0質量部以下にすることでブリードアウトを抑制できる。
【0045】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、離型剤、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、金属フレーク等の添加剤や補強剤を添加することができる。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、融点と結晶化温度の差が35℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。融点と結晶化温度の差が35℃を超えると、固化が遅く成形サイクルが長くなったり、成形品がエジェクターピンによって変形したりするため好ましくない。
【0047】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の溶融粘度指数(MFR)は、ASTM D1238に従って測定した値を意味し、熱可塑性エラストマ樹脂組成物の種類によって融点が異なるため、測定温度は適宜設定する必要があり、目安として熱可塑性エラストマ樹脂組成物の融点+30℃で設定する。本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物のMFRとしては、1~60g/10分であることが好ましく、より好ましくは5~55g/10分、さらに好ましくは10~50g/10分である。MFRが1g/10分未満では、流動性が低く、成形加工性が不十分となり、60g/10分を超えると機械的性質が劣るものとなりやすいため好ましくない。
【0048】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の成形収縮率は、射出成形にて得られたJIS2号ダンベル試験片の寸法をノギスで測定し、当該位置に相当する金型寸法との差(収縮量)を、金型寸法で除した値である。本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の成形収縮率は、好ましくは0.60~1.80%であり、より好ましくは0.80~1.75%であり、さらに好ましくは1.00~1.70%である。成形収縮率が1.80%を超えると成形品の寸法精度が不十分であり、0.60%未満では金型からの離型性が悪化するため好ましくない。
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の動摩擦係数は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、さらに好ましくは0.3以下である。動摩擦係数が0.5を超えると摺動音が大きくなり消音部材として好ましくない。
【実施例0050】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて質量基準である。また、例中に示される特性は次のように測定した。
【0051】
[硬度(デュロメーターD)]
JIS K7215に従って、硬度を測定した。
【0052】
[融点測定]
ティー・エイ・インスツルメント社製DSC Q100を使用し、10℃/分の昇温速度で常温から240℃まで加熱し融点を測定した。さらに、240℃で3分間保持した後10℃/分の降温速度で40℃まで冷却し結晶化温度を測定した。
【0053】
[曲げ特性]
ASTM D790に従って、曲げ弾性率を測定した。
【0054】
[溶融粘度指数(MFR)]
ASTM D1238に従い、融点+30℃、荷重2160gで下記実施例および比較例の熱可塑性エラストマ樹脂組成物について測定した。
【0055】
[成形収縮率]
JIS2号ダンベル試験片をシリンダー温度(融点+30)℃、金型温度50℃、冷却時間10秒の条件で成形し、エジェクターにより金型から離型させたJIS2号ダンベル試験片の寸法をノギスで測定し、当該位置に相当する金型寸法との差(収縮量)を、金型寸法で除した値を算出した。
【0056】
[落球騒音]
125mm×75mm×2mm厚さの角板射出成形体を、150mm×100mm×10mm厚さのアルミ板の上に置き、角板射出成形体の中央に200mmの高さからφ9.5mmのステンレス球を落下させ、打撃点(落下点)から140mm離れた位置の騒音レベルを騒音計で測定した。
【0057】
[動摩擦係数]
下記条件により、動摩擦係数を測定した。
<測定条件>
荷重:100g
速度:30mm/sec
試験機:摩擦試験機(トリ二ティーラボ社製)
試験環境:23℃×50%RH
試験片:角板射出成形体(125mm×75mm×2mm厚さ)
試験方法:試験機に試験片を固定し、試験片上中央に金属端子を置き、所定のおもりを乗せて所定の速度で測定を開始する。
【0058】
[ストランド安定性]
直径45mmのスクリューを有する2軸押出機を用いて溶融混練し、得られた熱可塑性エラストマ樹脂組成物を水中にストランド状で吐出し、カッティングを行なってペレットとした。吐出開始し、ストランドをガイド溝に掛けてから5分後のストランドの状態を観察した。この時のストランドの安定性を以下のように判定した。
◎:ストランドがガイド溝から全く外れない。
〇:ストランドが捻じれてガイド溝から外れることがある。
×:ストランドが切れてストランドが引けなくなることがある。
【0059】
[参考例]
[ポリエステルブロック共重合体(A-1)の製造]
テレフタル酸593部、1,4-ブタンジオール307部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール229部を、チタンテトラブトキシド0.4部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。反応混合物にチタンテトラブトキシド2.0部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間45分溶融重縮合を行わせた。得られたポリエステルエラストマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行ってペレットとした。
【0060】
[ポリエステルブロック共重合体(A-2)の製造]
テレフタル酸505部、1,4-ブタンジオール251部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール354部を、チタンテトラブトキシド0.4部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。反応混合物にチタンテトラブトキシド2.0部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間45分溶融重縮合を行わせた。得られたポリエステルエラストマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行ってペレットとした。
【0061】
[ポリエステルブロック共重合体(A-3)の製造]
テレフタル酸348部、1,4-ブタンジオール151部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール576部を、チタンテトラブトキシド0.5部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。反応混合物にチタンテトラブトキシド2.0部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間45分溶融重縮合を行わせた。得られたポリエステルエラストマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行ってペレットとした。
【0062】
[ポリエステルブロック共重合体(A-4)の製造]
テレフタル酸234部、1,4-ブタンジオール228部および数平均分子量約2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール754部を、チタンテトラブトキシド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。反応混合物に”イルガノックス”1330(BASF社製ヒンダ-ドフェノ-ル系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で3時間30分溶融重縮合を行わせた。得られたポリエステルエラストマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行なってペレットとした。
【0063】
[ポリエステルブロック共重合体(A-5)の製造]
テレフタル酸348部、イソフタル酸190部、1,4-ブタンジオール327部および数平均分子量約1000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール177部を、チタンテトラブトキシド0.5部とモノ-n-ブチル-モノヒドロキシスズオキサイド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。反応混合物にチタンテトラブトキシド2.0部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間45分溶融重縮合を行わせた。得られたポリエステルエラストマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行ってペレットとした。
【0064】
[ゴム質グラフト共重合体(B)の製造]
ポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)の存在下で、スチレン70%、アクリルニトリル30%からなる単量体混合物40部を4時間にわたって連続滴下して乳化重合した。得られた重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状のゴム質重合体を得た。本ゴム質重合体のグラフト率は39%であった。
【0065】
[ビニル系共重合体(C)]
東レ(株)製 AS樹脂“トヨラック”A25C-300を使用した。
【0066】
[無機材(D)]
板状の充填材である、竹原化学工業(株)製 ケイ酸マグネシウム“タルクハイトロン”を使用した。
【0067】
[摺動剤(E-1)]
東レ・ダウコーニング(株)製 ジメチルポリシロキサン“ダウシル”を使用した。
【0068】
[摺動剤(E-2)]
三井化学(株)製 低分子量ポリエチレン“ハイワックス”を使用した。
【0069】
[実施例1~11]および[比較例1~5]
参考例で得られたポリエステルブロック共重合体(A-1)、(A-2)、(A-3)、(A-4)、(A-5)、ゴム質グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)、無機材(D)、摺動剤(E)を、表1に示す配合比率(質量%)でドライブレンドし、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する2軸押出機を用いて240℃で溶融混練し、ペレット化した。
これらのペレットを80℃で5時間乾燥後、日精樹脂工業社製の電気式射出成型機(NEX-1000)を用いて、(融点+30)℃のシリンダー温度、50℃の金型温度(金型キャビティ表面)において、縦125mm×横75mm×厚み2mmのJIS2号ダンベル試験片と縦129mm×横12.8mm×厚み6.3mmの曲げ試験片を射出成形した。各々試験について特性を調べた結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
以上の結果より、実施例1~11に示した、ポリエステルブロック共重合体(A)と、特定のゴム質グラフト共重合体(B)と、ビニル系共重合体(C)を配合した本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾性に富み消音性に優れたポリエステルエラストマの特徴を有し、成形収縮率が小さく、複雑な形状であっても高い寸法精度で成形体を得ることができる。さらに、溶融混錬時の樹脂組成物のストランド安定性に優れ、均一形状のペレットを形成できる。
【0072】
一方、本発明の条件を満たさない比較例1~5の熱可塑性エラストマ樹脂組成物では、成形収縮率および溶融混錬時のストランド安定性のいずれかが劣るものであった。
【0073】
比較例1、2のようにポリエステルブロック共重合体(A1)単独では、成形収縮率が大きく好ましくない。一方、比較例3のようにポリエステルブロック共重合体(A2)単独では、成形収縮率が小さすぎて離型性が悪化するため好ましくない。また、ポリエステルブロック共重合体(A)と、特定のゴム質グラフト共重合体(B)を配合した比較例4では、溶融混錬時のストランド安定性は問題なかったものの、成形収縮率が低減しないため好ましくない。さらに、ポリエステルブロック共重合体(A)と、ビニル系共重合体(C)を配合した比較例5では、成形収縮率は低減したものの、溶融混錬時のストランド安定性が悪化するため好ましくない。