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特開2024-22574希土類触媒のミクロ構造制御によるポリイソプレンの自己修復化
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  • 特開-希土類触媒のミクロ構造制御によるポリイソプレンの自己修復化 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022574
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】希土類触媒のミクロ構造制御によるポリイソプレンの自己修復化
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/08 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
C08F236/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127774
(22)【出願日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】63/395,170
(32)【優先日】2022-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王 号兵
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 漾
(72)【発明者】
【氏名】西浦 正芳
(72)【発明者】
【氏名】侯 召民
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AS03P
4J100AS21P
4J100CA04
4J100CA31
4J100FA03
4J100FA06
4J100FA08
4J100FA22
4J100FA28
4J100GA06
4J100GA19
4J100HA03
4J100HC54
4J100HC71
4J100HD04
4J100HE05
4J100HE32
4J100JA28
4J100JA50
(57)【要約】
【課題】種々の用途に有用な自己修復性成形品、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、3,4-およびcis-1,4-ミクロ構造の適切な混合物を含むイソプレン系重合体を含む自己修復性成形品、ならびにその製造方法に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己修復性成形品の製造方法であって、
下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体を含む成形品材料を成形する工程を含み、
前記イソプレン系重合体として、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表され
る構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)
であるイソプレン系重合体を用いることを特徴とする、
前記自己修復性成形品の製造方法。
【化1】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【請求項2】
前記一般式(I)および(III)におけるR1が、メチルである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記イソプレン系重合体が、水素添加されたイソプレン系重合体である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される
構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)で
あるイソプレン系重合体を含む、自己修復性成形品。
【化2】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【請求項5】
下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される
構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)で
あるイソプレン系重合体が水素添加されたイソプレン系重合体を含む、自己修復性成形品。
【化3】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【請求項6】
室温、空気中での自己修復率が50%以上である、請求項4または5に記載の自己修復性成形品。
【請求項7】
フィルムである、請求項4または5に記載の自己修復性成形品。
【請求項8】
下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される
構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)で
あり、水素添加されたイソプレン系重合体。
【化4】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレン系重合体を含む自己修復性成形品、およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、種々の用途に有用な、自己修復性等の性質を有するイソプレン系重合体を含む自己修復性成形品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは、食品包装材や衣料品、自動車、電子・医療機器等、現代社会の至る所に存在している。ポリオレフィンを自己修復可能にすれば、多くの用途で用いられる材料の寿命、安全性、環境負荷が改善される。究極の目標は、入手しやすい汎用オレフィンから、外部からの介入なしに、変化の激しい実環境で機械的損傷を自発的に修復する、強靭で自律的な自己修復性ポリマーを作り出すことである。しかし、この分野への大きな関心と広範な研究にもかかわらず、単純な汎用オレフィンから実用的に有用な自己修復性ポリマーを合成することはこれまで困難なままであった。これまで文献で報告されている自己修復性ポリマーのほとんどは、煩雑な多段階合成や慎重に設計した2以上の機能性モノ
マーを共重合する必要があったが、容易に入手可能な汎用モノマーからの自己修復性ポリマーの合成については、これまで未知のままであった。
【0003】
有機希土類触媒による極性および非極性オレフィンの共重合に関する研究プログラムの一環として、本発明者らは最近、立体的にかさ高いハーフサンドイッチ型スカンジウム触媒によるエチレンとメトキシアリール置換プロピレンとの配列制御共重合によって、比較的長いエチレン-alt-メトキシアリールプロピレンセグメントと短いエチレン-エチレンブロックとを含む独自のマルチブロックコポリマーが得られることを発見した(非特許文献1)。このような配列制御された共重合体は、柔軟なエチレン-alt-メトキシアリールプ
ロピレンマトリックス(軟質セグメント)から短いエチレン-エチレンブロック(硬質セグメント)のナノドメインがミクロ相分離した結果、優れた弾性と自己修復性を示した(非特
許文献1)。
【0004】
しかしながら、より汎用的なモノマーからの自己修復性ポリマーの合成については、未だ実現されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Wang, Y. Yang, M. Nishiura, Y. Higaki, A. Takahara, Z. Hou, J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 3249-3257
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下為されたものであり、種々の用途に有用な自己修復性成形品、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、配列制御されたエチレン-alt-メトキシアリールプロピレン共重合体の結果から、メトキシア
リール官能基を持たない一般的なポリオレフィンであっても、ミクロ構造を適切に制御すれば、自己修復性を示すのではないか、との仮説を想起した。本発明者らはこれまでの研究により、容易に入手可能な汎用ジエンであるイソプレンの重合において、異なる担持配位子を持つ希土類触媒により、異なるミクロ構造を含むポリイソプレンを容易に合成でき
ることを明らかにしてきた[1]。そこで、ミクロ構造の微調整により汎用ポリマーを自己
修復可能にできるかどうかを概念的に証明するため、ミクロ構造の異なる一連のポリイソプレンを合成し、機械的特性および自己修復特性を系統的に検討した。その結果、3,4-およびcis-1,4-ミクロ構造の適切な混合物(約70/30)を含むポリイソプレンが、乾燥空気中だけでなく、水中、および酸・アルカリ水溶液中でも機械的損傷に対して自律的に自己修復し、外部の介入なしに実際に優れた自己修復性を示すことを知見した。固体NMRと小角X線散乱(SAXS)分析を用いた解析により、これらのポリマーの前例のない自己修復特性は、比較的硬い3,4-セグメントと非常に動きやすく柔らかいcis-1,4-セグメントによって生じるナノスケールの不均一性に起因することが明らかにされた。また、類似の3,4-およびcis-1,4-ミクロ構造混合物を含む水素化ポリイソプレン(すなわち、C=C結合を持たないポリオレフィン)も優れた機械的特性および自己修復特性を示した。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
本発明は、単純な汎用モノマーから実用性の可能性の高い自己修復性ポリマーを合成した最初の例であるだけでなく、特殊な官能基に依存しないミクロ構造制御による新しい自己修復性ポリマーの設計・創製に関する一般的な知見を提供するものである。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 自己修復性成形品の製造方法であって、
下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体を含む成形品材料を成形する工程を含み、
前記イソプレン系重合体として、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表され
る構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)
、好ましくは、20:80~80:20、であるイソプレン系重合体を用いることを特徴とする、
前記自己修復性成形品の製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
[2] 前記一般式(I)および(III)におけるR1が、メチルである、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記イソプレン系重合体が、水素添加されたイソプレン系重合体である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表
される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル
比)、好ましくは、20:80~80:20、であるイソプレン系重合体を含む、自己修復性成形品。
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
[5] 下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表
される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル
比)、好ましくは、20:80~80:20、であるイソプレン系重合体が水素添加されたイソプレン系重合体を含む、自己修復性成形品。
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
[6] 室温、空気中での自己修復率が50%以上である、[4]または[5]に記載の自己修復性成形品。
[7] フィルムである、[4]~[6]のいずれかに記載の自己修復性成形品。
[8] 下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表
される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル
比)であり、水素添加されたイソプレン系重合体。
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
[9] 前記イソプレン系重合体の重合に用いられるモノマーが、下記一般式(II)で表される化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
[10] 前記イソプレン系重合体の重合に用いられるモノマーが、下記一般式(II)で表される化合物である、[4]~[7]のいずれかに記載の自己修復性成形品。
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【0021】
なお、本発明は、以下の構成を採用することも可能である。
[11] 自己修復性材料の製造方法であって、
前記自己修復性材料は、下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体を含み、
前記イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ましくは、20:80~80:20、となるように調整する工程を含む、
前記自己修復性材料の製造方法。
【0022】
【化7】
【0023】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
[12] [11]に記載の自己修復性材料の製造方法によって製造される、自己修復性材料。
[13] イソプレン系重合体の自己修復性の調整方法であって、
下記一般式(I)で表される構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体において、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される
構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、
好ましくは、20:80~80:20、となるように調整する工程を含む、
前記イソプレン系重合体の自己修復性の調整方法。
【0024】
【化8】
【0025】
(式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。)
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、種々の用途に有用な自己修復性成形品、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、3,4-およびcis-1,4-ミクロ構造比の異なるポリイソプレン(P1-P4)の1H NMRスペクトル(500 MHz, 1,1,2,2-C2D2Cl4 *, 120℃)を示す図である。
図2図2は、ミクロ構造および分子量の異なるポリイソプレンの物理的特性および機械的特性の分析結果を示す図である。a, P1-P4の示差走査熱量計(DSC)分析。 b, P1-P4の応力-ひずみ曲線。c, 分子量は異なるが、3,4-/cis-1,4-ミクロ構造比はほぼ同じ(69/31から72/28)であるP4-P6の応力-ひずみ曲線。 d, P6 (3,4/cis-1,4 = 72/28、Mn = 870 kDa)の引張強度/ヒステリシス曲線。1000%ひずみの連続延伸を10サイクル行った。
図3図3は、異なるミクロ構造を含むポリイソプレンの自己修復挙動の分析結果を示す図である。a, 3,4-/cis-1,4比の異なるポリイソプレンの損傷および修復サンプルの光学顕微鏡画像(図面代用写真)。フィルムはカミソリの刃で亀裂を入れた後、空気中に放置して修復した。上:3,4-/cis-1,4 = 97/3およびMn = 285 kDaのポリマー(P1)は、1時間で目立った修復は見られなかった。中:3,4-/cis-1,4 = 4/96およびMn = 419 kDaのポリマー(P2)は1時間後に目立った修復は見られなかった。下:3,4-/cis-1,4 = 69/31およびMn = 280 kDaを有するポリマー(P4)において、急速な自己修復が観察され、1分で傷が消失した。 b, 左、上:3,4-/cis-1,4 = 69/31およびMn = 280 kDaを有するポリマー(P4)ブロック(35 mm × 20 mm × 6 mm)の写真(図面代用写真)。左、中:ポリマーブロックを2つに切断し、一方に荷重を掛けるための紐を通した。左、下:切断された部分を合わせた。右:1分後、修復したブロックに2.5kgの荷重をかけたところ、破損しなかった。 c, 3,4-/cis-1,4 = 69/31およびMn = 280 kDaのポリマー(P4)の空気中における自己修復試験。 d, 3,4-/cis-1,4 = 69/31およびMn = 280 kDaのポリマー(P4)の水(ii)、1 M NaOH(iii)、1 M HCl(iv)中での自己修復試験。 e, 3,4-/cis-1,4 = 72/28およびMn = 870 kDaのポリマー(P6)の空気中での自己修復試験。
図4図4は、5℃、スピンロック周期50 μs(原図では黒)、4 ms(原図では紫)、および8 ms(原図では緑)で測定した、P4の1D 13C SSNMRスペクトルおよび構造帰属を示す図である。
図5図5は、P4の小角X線散乱(SAXS)分析の結果を示す図である。a, 方位角平均化SAXS強度プロファイル。 b, SAXS曲線の正規化一次元相関関数γ(r)。
図6図6は、3,4-(硬質)およびcis-1,4-(軟質)ミクロ構造の適切な混合物からなるポリイソプレン(P4-P6等)の想定される自己修復メカニズムを示す模式図である。
図7図7は、水素化ポリイソプレンH-P4, H-P5およびH-P6の合成およびその特性決定の結果を示す図である。a, p-トルエンスルホニルヒドラジドによるP4からP6の水素化により、対応する水素化ポリマーH-P4, H-P5およびH-P6が得られた。 b, 1H NMR分析により、P4(上)の不飽和C=Cユニットは、H-P4(下)では飽和C-C結合に水素化されていることが示された。これは、P4の5.1 ppmと4.7 ppmのオレフィン系のシグナルが消失し、H-P4の0.9 ppmにメチル基の新しいシグナルが出現していることから明らかである。 *は溶媒 (C2D4Cl4)に含まれる水素化混入物のピークを示す。 #は、溶媒中の水分のピークを示す。 c, H-P4の損傷(左)と修復試料(右)の光学顕微鏡写真(図面代用写真)。 d, H-P4 (Mn = 131 kDa, Mw/Mn = 1.9)の空気中での自己修復試験。 e, H-P5 (Mn = 202 kDa, Mw/Mn= 1.7) の空気中での自己修復試験。 f, H-P5 (Mn = 202 kDa, Mw/Mn = 1.7)の水(ii)、1 M NaOH (iii)、および1 M HCl(iv)中での自己修復試験。 g, H-P6 (Mn = 431 kDa, Mw/Mn = 2.3)の空気中での自己修復試験。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
ただし、本発明は、以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において、数値範囲を「下限~上限」で表現するものに関しては、上限は「以下」であっても「未満」であってもよく、下限は「以上」であっても「超」であってもよい。
【0029】
本明細書において「アルキル」とは、直鎖、分岐または環状の飽和炭化水素の任意の炭素原子から1個の水素原子を除去してなる一価の基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルおよびシクロヘキシル等が挙げられる。
【0030】
本明細書において「アルケニル」とは、1つ以上の炭素-炭素間の二重結合を有する直
鎖、分岐または環状の不飽和炭化水素の任意の炭素原子から1個の水素原子を除去してなる一価の基を意味する。例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-ペンテニル、1-ペンテニル、3-ペンテニル、4-ペンテニル、1-メチル-1-ブテニル、1-メチル-2-ブテニル、1-メチル-3-ブテニル、1-メチリデ
ンブチル、2-メチル-1-ブテニル、2-メチル-2-ブテニル、2-メチル-3-ブテニル、2-メチ
リデンブチル、3-メチル-1-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、3-メチル-3-ブテニル、1-
エチル-1-プロペニル、1-エチル-2-プロペニル、1-ヘキセニル、2-ヘキセニル、3-ヘキセニル、4-ヘキセニル、5-ヘキセニル、1-メチル-1-ペンテニル、1-メチル-2-ペンテニル、1-メチル-3-ペンテニル、1-メチル-4-ペンテニル、1-メチリデンペンチル、2-メチル-1-
ペンテニル、2-メチル-2-ペンテニル、2-メチル-3-ペンテニル、2-メチル-4-ペンテニル
、2-メチリデンペンチル、3-メチル-1-ペンテニル、3-メチル-2-ペンテニル、3-メチル-3-ペンテニル、3-メチル-4-ペンテニル、3-メチリデンペンチル、4-メチル-1-ペンテニル
、4-メチル-2-ペンテニル、4-メチル-3-ペンテニル、4-メチル-4-ペンテニル、1-ヘプテ
ニル、2-ヘプテニル、3-ヘプテニル、4-ヘプテニル、5-ヘプテニル、6-ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、およびデセニル等が挙げられる。
【0031】
<本発明の自己修復性成形品の製造方法>
本発明の一態様は、自己修復性成形品の製造方法であって、下記一般式(I)で表され
る構造単位および下記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体を含
む成形品材料を成形する工程を含み、前記イソプレン系重合体として、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ましくは、20:80~80:20、であるイソプレン系重合体を用いることを特徴とする、前記自己修復性成形品の製造方法(以下、「本発明の自己修復性成形品の製造方法」ということがある)に関する。
【0032】
【化9】
【0033】
式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。
【0034】
なお、本発明では、重合体中に含まれる式(III)で表される構成単位は、幾何異性性
を区別していない。シス・トランス幾何異性体のいずれも含む意味であり、またシス・トランス幾何異性体が混在する態様も含む意味である。
【0035】
≪イソプレン系重合体、およびその製造方法≫
以下、本発明の自己修復性成形品、およびその成形品材料に含まれる、一般式(I)で
表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体、
およびその製造方法について説明する。なお、本明細書において、単に「重合体」と表記する場合は、特に断りのない限り、単独重合体および共重合体を含む意味で用いるものとする。
【0036】
(触媒組成物)
前記イソプレン系重合体は、例えば、メタロセン錯体とイオン性化合物を含む触媒組成物により、イソプレン系モノマーを重合することにより得られる。イソプレン系重合体は、イソプレンの単独重合体であってもよく、イソプレン以外の他のモノマーと共重合させてもよい。
【0037】
前記触媒組成物に使用され得るメタロセン錯体としては、限定されないが、例えば、実施例に記載のスカンジウム錯体(C5Me4SiMe3)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2、(C5Me5)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2等を挙げることができる。
【0038】
メタロセン錯体は、既述の方法、例えば(1) X. Li, M. Nishiura, K. Mori, T. Mashiko, Z. Hou, Chem. Commun. 4137-4139 (2007)、(2) M. Nishiura, J. Baldamus, T. Shima, K. Mori, Z. Hou, Chem. Eur. J. 17, 5033-5044 (2011).、(3) F. Guo, M. Nishiura, H. Koshino, Z. Hou, Macromolecules. 44, 6335-6344 (2011).、(4) Tardif, O.; Nishiura, M.; Hou, Z. M. Organometallics 22, 1171, (2003).、(5) Hultzsch, K. C.; Spaniol, T. P.; Okuda, J. Angew. Chem. Int. Ed, 38, 227, (1999).、(6) 国際公開第WO2006/004068号パンフレット、(7) 日本国公開特許公報 特開2008-222780号や、(8) 日本国公開特許公報 特開2008-095008号、等に記載された方法に従って合成することがで
きる。
【0039】
イオン性化合物は、前記したメタロセン錯体と組み合わされることにより、前記メタロセン錯体に重合触媒としての活性を発揮させる。そのメカニズムとして、イオン性化合物が、メタロセン錯体と反応し、カチオン性の錯体(活性種)を生成させると考えることができる。
【0040】
前記触媒組成物に含まれるイオン性化合物は、限定されないが、非配位性アニオンおよびカチオンからそれぞれ選ばれるものを組み合わせたものが挙げられる。
好ましくは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジ
メチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、1,1’-ジメチルフェロセニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が例示される。イオン性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
これらのイオン性化合物のうち、特に好ましいものは、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
【0042】
前記触媒組成物において、イオン性化合物のメタロセン錯体に対するモル比率は、錯体とイオン性化合物の種類によって異なり、適宜設定可能である。
前記モル比率は、例えば、イオン性化合物がカルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるもの(例えば[Ph3C][B(C6F5)4])である場合は、メタロセン錯体の中心金属に対して0.5~1であることが好ましく、メチルアルミノキサン等のアルキルアルミ化合物である場合は、メタロセン錯体の中心金属に対して10~4,000程度であることが好ましい。
イオン性化合物は、メタロセン錯体をイオン化、すなわちカチオン化させて、触媒活性種とすると考えられ、上記した比率の範囲内であれば、十分にメタロセン錯体を活性化することができ、かつ、カルボニウムカチオンとホウ素アニオンからなるイオン性化合物が過剰にならず、重合反応させるべきモノマーとの所望しない反応を起こす恐れを低減できる。
【0043】
(イソプレン系重合体の製造方法)
上記の触媒組成物を重合触媒組成物として用いて、イソプレン系モノマーを重合(付加重合)させ、イソプレン系重合体を製造することができる。
例えば、1)各構成成分(メタロセン錯体およびイオン性化合物等)を含む組成物を重合反応系中に提供する、あるいは2)各構成成分を別個に重合反応系中に提供し、反応系中において組成物を構成させることにより、重合触媒組成物として用いることができる。
上記1)において、「組成物として提供する」とは、イオン性化合物との反応により活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することを含む。
【0044】
重合体の製造方法は、具体的には、例えば以下の手順により行うことができる。
1.重合体の製造方法に用いる触媒組成物を含む系(好ましくは液相)中に、重合性モノマーを供給して重合させる。ここでモノマーが液体であれば滴下することで供給することができ、気体であればガス管を通して供給(液相反応系であればバブリング等)すればよい。
2.重合性モノマーを含む系(好ましくは液相)中に、重合体の製造方法に用いる触媒組成物を添加する、または触媒組成物の構成成分を別個に添加することで重合させる。添加される触媒組成物は、予め調製され(好ましくは液相中で調製され)、活性化されていてもよい(この場合は外気に触れないように、添加することが好ましい)。
【0045】
また、該製造方法は、気相重合法、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、固相重合法等の任意の方法であり得る。溶液重合法による場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であり、モノマーおよび触媒を溶解させ得、触媒と相互作用をしない溶媒であれば特に限定されない。例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の飽和脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロルベンゼン、ブロムベンゼン、クロルトルエン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
また、生体に対する毒性を有さない溶媒が好ましい。具体的には、芳香族炭化水素、特にトルエンが好ましい。溶媒は1種を単独で用いてもよいが、2種以上組み合わせた混合溶媒を用いてもよい。
また、用いられる溶媒の量は任意であるが、例えば、重合触媒に含まれる錯体の濃度を、例えば、1.0×10-5~1.0×10-1 mol/Lとする量であることが好ましい。
【0046】
重合反応に供するモノマーの量としては、製造する目的の重合体に応じて適宜設定できるが、例えば、モノマーは、重合触媒組成物を構成するメタロセン錯体に対してモル比で、例えば、100倍以上、500倍以上、1000倍以上、または4000倍以上にすることが好ましい。
【0047】
重合を溶液重合で行う場合の重合温度は、任意の温度、例えば-90~100℃の範囲で行いうる。重合させるモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよい。重合温度が低いほど、式(III)として、シス体の構成単位の割合が高くなる傾向がある。例えば、モノマーと
してイソプレンを用いる場合は、-40~25℃未満、-40℃~20℃以下、-40℃~10℃以下、-40℃~0℃、または-40℃~-10℃で重合してもよい。上記したように室温未満で重合を進
行させると、式(III)の構成単位として、シス体が62%を超えている重合体が得られ、
シス体の割合が65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、又は100%の重合
体が得られる。
重合時間は数秒~数日程度であり、重合させるモノマーの種類等に応じて適宜選択すればよい。1時間以下、場合によっては1分以下であってもよい。
もっとも、これらの反応条件は、重合反応温度、モノマーの種類やモル量、触媒組成物の種類や量等に応じて、適宜選択することが可能であり、上記に例示した範囲に限定されることはない。
【0048】
また、前記重合体を共重合体として製造する態様では、
1) ランダム共重合体または交互共重合体であれば、2種類以上のモノマーの混合物を触媒組成物存在下で重合反応させることにより製造することができ、
2) ブロック共重合体であれば、各モノマーを、触媒組成物を含む反応系中に順番に供給することにより製造することができる。
【0049】
また、重合工程後に、例えば、精製工程、R1の脱離工程、後記の水素化工程等の任意の工程を行うことも可能である。
【0050】
重合されたイソプレン系重合体は、そのまま成形品材料として用いてもよく、さらには、イソプレン系重合体以外の成分とともにイソプレン系重合体を含む成形品材料として用いてもよい。
【0051】
(イソプレン系モノマー)
前記重合体の製造方法に用いられるイソプレン系モノマーは、イソプレン骨格を含有するモノマーである。好ましくは、下記一般式(II)で表されるイソプレン系モノマーである。
【0052】
【化10】
【0053】
式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。
より詳細には、R1は、炭素数1~10、炭素数1~6、炭素数1~3、または炭素数1の直鎖状、分岐鎖状、または環状アルキル基;炭素数1~10、炭素数1~6、炭素数1~3、または炭
素数1の直鎖状、分岐鎖状アルケニル基であってよい。ここで、環状アルキル基は、飽和
または不飽和の縮合環を形成していてもよい。R1は、好ましくは、メチル基である。
重合反応に用いられるイソプレン系モノマーは1種類でもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0054】
前記イソプレン系モノマーを、他のモノマーと共重合させてもよい。他のモノマーは、付加重合性があり、イソプレン系モノマーと共重合可能なものであれば、特に制限されず、例えばエチレン、α-オレフィン、置換および無置換スチレン、ジエン、炭素数3~20の環状オレフィン(2-ノルボルネンやジシクロペンタジエン等のノルボルネン類やシクロヘキサジエンを含む)等が挙げられる。
α-オレフィンとして具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン
、1-エイコセンのような炭素数3~20の直鎖状α-オレフィンや、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテンのような炭素数4~20の分岐鎖状α-オレフィン
等が挙げられる。
オレフィン系モノマーであるジエンの例には、1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,4-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、2,4-ヘキサジエンのような炭素数3~20の直鎖状ジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,4-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ヘキサジエンのような炭素数4~20の分岐鎖状ジエン、
シクロヘキサジエンのような炭素数4~20の環状ジエン等が含まれる。
【0055】
イソプレン系モノマーとの共重合反応に用いられる他のモノマーは1種類でもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0056】
イソプレン系モノマー、および他のモノマーは、有機化学分野における常法に基づき、合成したものを使用できる。また、市販されているものを使用してもよい。
【0057】
(イソプレン系重合体)
本発明の自己修復性成形品、およびその成形品材料は、一般式(I)で表される構造単
位および一般式(III)で表される構造単位を適切な割合で含む、イソプレン系重合体を
含む。本発明に用いられるこのようなイソプレン系重合体は、上記イソプレン系重合体の製造方法等に基づき、合成したものを使用できる。また、一般式(I)で表される構造単
位および一般式(III)で表される構造単位を適切な割合で含むものであれば、市販され
ているものを使用してもよい。
【0058】
【化11】
【0059】
式中、R1は、炭素数1~10のアルキル基またはアルケニル基を示す。
R1の具体例は、一般式(II)におけるR1で説明されたものと同様である。
【0060】
本発明の自己修復性成形品の材料として用いられる重合体は、本発明の自己修復性作用を有する限り、特に限定されないが、例えば、一般式(I)で表される構造単位および一
般式(III)で表される構造単位の合計における一般式(I)で表される構造単位の割合が、モル比率で、5 mol%以上、10 mol%以上、20 mol%以上、25 mol%以上、30 mol%以
上、40 mol%以上、50 mol%以上、60 mol%以上、70 mol%以上、80 mol%以上、または
90 mol%以上であってよく、95 mol%以下、90 mol%以下、80 mol%以下、75 mol%以下、70 mol%以下、60 mol%以下、50 mol%以下、40 mol%以下、30 mol%以下、20 mol%以下、または10 mol%以下であってよい。
【0061】
また、例えば、一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の合計における一般式(III)で表される構造単位の割合が、モル比率で、5 mol%以上、10 mol%以上、20 mol%以上、25 mol%以上、30 mol%以上、40 mol%以上、50 mol%以上、60 mol%以上、70 mol%以上、80 mol%以上、または90 mol%以上であってよく、95 mol%以下、90 mol%以下、80 mol%以下、75 mol%以下、70 mol%以下、60 mol%以下、50 mol%以下、40 mol%以下、30 mol%以下、20 mol%以下、または10 mol%以下であってよい。
【0062】
重合体に含まれる、一般式(I)の構造単位および(III)の構造単位の含有率は任意である。例えば、全構造単位のうち、一般式(I)の構造単位の割合をモル比率で、1~99 mol%にすることができる。また、例えば、全構造単位のうち、一般式(III)の構造単位
の割合をモル比率で、1~99 mol%にすることができる。なお、上記製造方法によれば、
重合体における一般式(I)の構造単位と一般式(III)の構造単位の割合を適宜調整することができる。また、重合体における一般式(I)の構造単位が比較的高い共重合体とす
ることもできる。
なお、重合体中に含まれる式(III)の構造単位の幾何異性性については、特に制限は
ない。自己修復性の観点では、シス体の割合が高いほうが好ましく、62%を超えているが好ましく、シス体の割合が、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、又は100%が好ましい。
【0063】
ここで、本発明の自己修復性系成形品においては、自己修復性成形品に含まれる重合体が、一般式(I)の構造単位から構成されるブロック(I)配列と一般式(III)の構造単
位から構成されるブロック(III)配列とを適切な割合で含むことで、自律的な自己修復
作用や優れた機械特性といった特性を有すると考えられる。すなわち、重合体のこのような特性により、本発明の自己修復性成形品は、自律的な自己修復作用とより高度な靭性(タフネス)を有すると考えられる。この高度な靭性といった機械特性は、十分に高度な引張強度と十分に高度な破断伸びの値とをよりバランスよく有するものであるとも言える。上記のような高度な機械特性、自律的な自己修復作用等の特性を達成するといった観点から、重合体における、一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合は、モル比率で、10:90~90:10、または20:80~80:20であり得る。
【0064】
該構造単位の割合は、例えば1H-NMR、13C-NMR等により測定することができる。具体的
には、1H-NMRにより、4.6-5.2ppmのピークの積分比を比較することにより求めることができる。該構造単位の割合は、重合体の製造において、目的とする構造単位比を達成し得る触媒(例えば、実施例に記載されるような立体的にかさ高いハーフサンドイッチ型スカンジウム触媒等)を選択すること等で制御することができる。
【0065】
また、重合体は高分子量化が可能であるため、絡み合い点が増加し、機械特性の向上が期待できる点で有利である。
【0066】
イソプレン系重合体において、上記一般式(I)および(III)で表される構造単位は、任意の順序に配列していればよい。すなわち、両者がランダムに配列していてもよいし、何らかの規則性を持って配列(例えば、一般式(I)および(III)の構造単位が交互に配列している、それぞれがある程度連続して配列している、その他の決まった順序に配列している)していてもよい。従って、重合体は、各構造単位がランダムに重合した配列を含む重合体、交互に重合した配列を含む重合体、ブロックで重合した配列を含む重合体、そ
の他の定序性重合体であってもよい。重合体は、好ましくは、一般式(I)および(III)の構造単位が、それぞれブロックで重合した配列を含む重合体である。
【0067】
ここで、ブロックで重合した配列を含む重合体は、主配列として、一般式(I)および
(III)の構造単位それぞれが2個~ある程度連続したブロックで配置された配列(以下
、「ブロック(I)配列」、および「ブロック(III)配列」ともいう)からなるが、副配列として、それぞれが交互に配置された配列(以下、「交互(I)-(III)配列」または
「(I)-alt-(III)配列」」ともいう)等を含む場合がある。重合体はブロック配列を
含む重合体であって、重合体の全配列中における一般式(I)および(III)の構造単位それぞれのブロック配列の合計の割合(ブロック(I)配列およびブロック(III)配列の合計の割合)が、モル比率で、例えば、30 mol%以上、40 mol%以上、50 mol%以上、60 mol%以上、70 mol%以上、80 mol%以上、または90 mol%以上であってよく、100 mol%
、または99 mol%以下であってよい。
より具体的には、本発明に用いられるイソプレン系重合体の態様では、ブロック(I)
配列およびブロック(III)配列とともに、重合体の機能発現に影響しない範囲で、(I)-alt-(III)配列等が含まれていてもよい。重合体の全配列中における(I)-alt-(III
)配列の割合がモル比率で、例えば、60 mol%以下、50 mol%以下、40 mol%以下、30 mol%以下、20 mol%以下、10 mol%以下、または1 mol%以下であってよい。
【0068】
該配列の割合は、例えば1H-NMR、13C-NMR等により測定することができる。具体的には
1H-NMRにより、4.6-5.2ppmのピークの積分比を比較することにより求めることができる。該配列の割合は、重合体の製造において、目的とする配列比を達成し得る触媒(例えば、実施例に記載されるような立体的にかさ高いハーフサンドイッチ型スカンジウム触媒等)を選択すること等で制御することができる。
【0069】
また、重合体の分子量分布は任意であるが、重合体の分子量分布が比較的狭い重合体も好ましく用いることができる。ここで分子量分布は、GPC法(ポリスチレンを標準物質、1,2-ジクロロベンゼンを溶出液として、140℃で測定)等により測定される値(Mw/Mn)で
あってよく、例えばGPC測定装置(TOSOH HLC-8321-GPC/HT)を用いて測定することがで
きる。
重合体の分子量分布は、通常は、その指標であるMw/Mnが5.0以下、好ましくは4.0以下
、3.0以下である。
【0070】
重合体の数平均分子量は任意であるが、重合体の数平均分子量が比較的高い重合体も好ましく用いることができる。数平均分子量(g/mol)はモノマー由来の構造単位の構造、
モノマー由来の構造単位の比率等により変化するが、上記のような高度な機械特性、自律的な自己修復作用等の特性を達成するといった観点から、例えば、2.0×103以上、3.0×103以上、10×103以上、50×103以上、80×103以上、100×103以上、150×103以上、200×103以上、250×103以上、300×103以上、350×103以上、400×103以上、450×103以上、500×103以上、または800×103以上であってよく、1,000×103以下であってよい。
【0071】
重合体のガラス転移点(Tg)は極性オレフィンモノマー由来の構造単位の構造等によって変化し得る。ガラス転移点は特に制限されないが、通常-40~100℃程度である。ガラス転移点は示差走査熱量測定(DSC)法等により測定することができる。自己修復性の成形
品とするためには、原料として用いる前記重合体のTgは、室温(一般的には25℃であるが、用いられる態様、条件によって変動する場合がある)以下であるのが好ましい。ガラス転移点は特に制限されないが、例えば、-30~20℃、または-20~0℃程度であってよい。
【0072】
重合体が融点を有する場合は、モノマー由来の構造単位の構造、モノマー由来の構造単位の比率、その他によって変化するが、通常100℃以上、好ましくは110℃以上、120℃以
上、130℃以上である。融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)法により測定することができる。
【0073】
(水素添加されたイソプレン系重合体)
本発明の自己修復性成形品、およびその成形品材料は、一般式(I)で表される構造単
位および一般式(III)で表される構造単位を適切な割合で含み、水素添加されたイソプ
レン系重合体(以下、「水素化イソプレン系重合体」ともいう)を含むものであってもよい。すなわち、一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位を適切な割合で含み、水素添加されたイソプレン系重合体は、水素添加前の元のイソプレン系重合体と同等またはそれ以上の高度な機械特性、自律的な自己修復作用を有し、本発明の自己修復性成形品、およびその成形品材料に用いられ得る。
本発明に用いられる水素化イソプレン系重合体は、本発明に用いられるイソプレン系重合体に水素添加してなるものであってよく、具体的には、一般式(I)で表される構造単
位および一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体のブロック(I)配列およびブロック(III)配列中の炭素-炭素不飽和二重結合を水素添加してなるものである。なお、水素添加方法については後述する。
【0074】
なお、本明細書において、単に「イソプレン系重合体」と表記する場合は、特に断りのない限り、水素添加されていないイソプレン系重合体および水素添加されたイソプレン系重合体を含む意味で用いるものとする。
【0075】
(水素化効率)
水素化イソプレン系重合体の水素化効率は、例えば、90%以上、95%以上、または98%以上であり得る。なお、水素化イソプレン系重合体の水素化効率は、1H-NMR測定により求めることができる。
【0076】
水素化イソプレン系重合体の分子量(Mn)、分子量分布(Mw)/(Mn)等は、水素添加
前の元のイソプレン系重合体と同様であってよく、具体的な数値範囲は、イソプレン系重合体で説明されたものと同様である。
【0077】
(水素化イソプレン系重合体の製造方法)
本発明に用いられる水素化イソプレン系重合体は、本発明に用いられるイソプレン系重合体を水素添加して得ればよい。水素添加によりブロック共重合体のブロック(I)配列
およびブロック(III)配列中の炭素-炭素不飽和二重結合を水素添加する方法や反応形態等は、公知の方法にしたがって行えばよいが、水素化効率を高くでき、重合体鎖切断反応の少ない水素添加方法が好ましい。このような水素添加方法として、例えば、S. F. Hahn. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. 30, 397-408 (1992)等に記載の方法を採用す
ることができる。
なお、イソプレン系重合体の水素添加は、通常、水素化触媒の存在下または非存在下、イソプレン系重合体を有機溶媒に溶解させて行うことができる。
水素化触媒としては、通常の水素添加反応に用いる触媒を用いることができ、具体的には、例えば、ニッケル、パラジウム、白金等の遷移金属触媒が挙げられる。また、水素化試薬として、p-トルエンスルホニルヒドラジドも使用することができる。
有機溶媒としては、従来の水素添加反応において用いられる有機溶媒を使用することができる。中でも、イソプレン系重合体の製造の際に用いた有機溶媒と同様のものを使用することが好ましい。
【0078】
水素添加を行う際の温度は、通常、60℃以上であり、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。上記下限値以上の温度で水素添加を行えば、水素
添加反応が効率的に進行するからである。
水素添加を行う際の圧力は、通常、常圧以上である。常圧下で水素添加を行えば、水素添加反応によりイソプレン系重合体を十分に水素添加できるからである。
水素添加を行う時間は、1時間以上であることが好ましく、100時間以下であることが好ましい。水素添加の時間を上記範囲内とすれば、水素添加反応を十分に進行させることができるからである。
【0079】
イソプレン系重合体を前駆体として用いた水素添加反応において、水素添加反応の進行中、水素化イソプレン系重合体は、有機溶媒中に溶解した状態で得られる。さらに、上述したように、イソプレン系重合体と水素化イソプレン系重合体は有機溶媒に対する溶解性に優れているため、水素添加反応終了後、有機溶媒を室温(25℃)まで放冷しても、通常、水素化イソプレン系重合体が有機溶媒から析出しない。水素添加反応終了後、有機溶媒中に溶解している水素化イソプレン系重合体は、例えば、重合溶液をアセトンやメタノール等の貧溶媒中に加えて水素化イソプレン系重合体を凝固させ、ろ過等の固液分離手段を用いて凝固した水素化イソプレン系重合体を分離することにより、回収することができる。
【0080】
回収された水素化イソプレン系重合体は、そのまま成形品材料として用いてもよく、さらには、イソプレン系重合体以外の成分とともに水素化イソプレン系重合体を含む成形品材料として用いてもよい。
【0081】
≪イソプレン系重合体を含む成形品材料、および成形方法≫
本発明の自己修復性成形品は、一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体を含む成形品材料を成形して、製造され得る。
イソプレン系重合体を含む成形品材料は、イソプレン系重合体を主成分(50質量%以上)として含む成形品材料であってよく、また副成分(50質量%未満)として含む成形品材料であってもよい。イソプレン系重合体以外の成分として、イソプレン系重合体以外の(共)重合体等の高分子材料、ならびに通常成形品に用いられる各種添加剤、例えば、賦形剤、滑剤、紫外線吸収剤、耐候剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、核剤、流動改良剤、着色剤等を含んでもよい。
【0082】
イソプレン系重合体を含む成形品材料を成形して、自己修復性成形品を製造する方法は、(共)重合体を含む成形品材料の公知の成形方法により行うことができるが、本発明の自己修復性成形品は、イソプレン系重合体を溶融成形したものが好ましい。溶融成形は、公知の方法により行うことができる。このような溶融成形品は、限定されないが、例えば、射出成形品、真空、圧空成形品、押出成形品、ブロー成形品、熱プレス(溶融プレス)成形品およびキャスト成形品等であり、具体的には、ペレット、繊維および布、フィルム、シート、不織布等が挙げられる。その他、成形品は、レーザ加工、3Dプリンター技術
等を利用して、製造することもできる。
【0083】
<本発明の自己修復性成形品>
本発明のさらなる一態様は、上記一般式(I)で表される構造単位および上記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ましくは、20:80~80:20(モル比)であるイソプレン系重合体を含む、自己修復性成形品に関する。
また、本発明のさらなる一態様は、下記一般式(I)で表される構造単位および下記一
般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体であって、イソプレン系重合
体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ましくは、20:80~80:20(モル比)であるイソプ
レン系重合体が水素添加されたイソプレン系重合体を含む、自己修復性成形品に関する。
以下、これらを「本発明の自己修復性成形品」ということがある。
【0084】
なお、前記<本発明の自己修復性成形品の製造方法>の項において説明された事項は、本発明の自己修復性成形品の説明に全て適用される。
【0085】
本発明の自己修復性成形品は、一般式(I)の構造単位から構成されるブロック(I)配列(比較的硬い3,4-セグメント)と一般式(III)の構造単位から構成されるブロック(III)配列(柔らかいcis-1,4-セグメント)とを適切な割合で含み、自律的な自己修復作用と優れた機械特性を有する。自律的な自己修復作用と優れた機械特性を有するメカニズムは、比較的硬い3,4-セグメントおよび柔らかいcis-1,4-セグメントによって生成するナノスケールの不均一性に起因していることが考えられる。これにより、水、酸、塩基による深刻な影響を受けることなく、損傷面間およびポリマー鎖間において3次元ネットワーク構造が形成・再構築された可能性がある。本発明の自己修復性成形品の一態様では、空気中のみでなく、水中、酸、アルカリ溶液中で、外的エネルギーまたは刺激(圧力、温度等)の必要なしに自己修復(すなわち、自律的自己修復)が可能である。本発明の自己修復性成形品の自己修復作用には、外的エネルギーまたは刺激(圧力、温度等)は特に必要はないが、これらを加えることも可能である。外的エネルギーまたは刺激(圧力、温度等)を加えることにより、自己修復速度が向上する等の利点が考えられる。
【0086】
ここで「自己修復」とは、成形品等の傷あるいは切断面どうし等の損傷を接触させることで重合体連鎖の絡み合いが再び起こり、損傷前の成形品等の形状、物性等に戻ることをいう。
自己修復作用は、例えば、損傷を接触させ、所定温度で所定環境下、所定時間放置し、損傷後の形状、物性等を損傷前と比較することにより確認することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法等により確認することができる。本発明の自己修復性成形品の自己修復効率は、用いる重合体の種類等により変化し、限定されないが、例えば後記実施例に記載の方法により測定する自己修復性試験において、自己修復性成形品における損傷を接触させ、室温(例えば25℃)で空気中での放置により、自律的に自己修復し、損傷後の破断伸びが損傷前の破断伸びの、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、または100%であり得る。
【0087】
自己修復性成形品の一態様は、自己修復性成形品に含まれるイソプレン系重合体のTgが使用温度(例えば、使用温度が室温である場合は、一般的には25℃)以下である重合体を含む、成形品である。
【0088】
自己修復材料として用いられる本発明の成形品の一態様では、50%以上の自己修復率を達成可能である。
上記自己修復率を達成する時間については特に制限はなく、用いる重合体の種類(より具体的には、上記一般式(I)および(III)で表される構造単位を有する重合体を含む態様では、一般式(I)および(III)中の置換基R1の種類、一般式(I)および(III)で表される構造単位の含有比、ならびに分子量)等により、調整可能である。一例では、室温、空気中での1時間で50%以上、48時間で100%、または20日間で100%等の自己修復率を
達成可能である。
【0089】
本発明の自己修復性成形品に含まれるイソプレン系重合体は、幅広いガラス転移温度範囲を有し、室温(例えば25℃)では、通常エラストマーの特性を示す。例えば、後記実施例に記載のとおり、ガラス転移温度-10℃のP4、-8℃のP5、-7℃のP6は、室温でエラスト
マーである(図2)。このエラストマーは、優れた機械的特性を示し、特に靭性、引張強
度および破断伸びに優れる。
【0090】
自己修復性成形品の引張強度は、用いる重合体の種類(より具体的には、一般式(I)
および(III)中の置換基R1の種類、一般式(I)および(III)で表される構造単位の含
有比、ならびに分子量)等により変化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、分子量(Mn)の大きい重合体を用いると、成形品の引張強度が高くなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、0.1 MPa程度以上を達成可能である。好ましくは、0.5 MPa以上、1 MPa以上、4 MPa以上、または8 MPa以上であり得る。室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前
記範囲の引張強度を示す態様であってもよい。
【0091】
自己修復性成形品の破断伸びは、用いる重合体の種類(より具体的には、一般式(I)
および(III)中の置換基R1の種類、一般式(I)および(III)で表される構造単位の含
有比、ならびに分子量)等により変化し、限定されない。用途に応じて、適切な範囲に調整することができる。原料として、ガラス転移点が高い重合体を用いると、成形品の破断伸びが小さくなる傾向がある。例えば、本発明の成形品は、重合体がゴム状態を示すガラス転移温度以上の温度(一例として、室温(例えば25℃))における測定において、10%程度以上を達成可能である。好ましくは、100%以上、500%以上、1,000%以上、1,500%以上、1,800%以上、または2,000%以上であり得る。上限値は、例えば、10,000%程度である。なお、室温に限らず、その成形品が用いられる使用温度において、前記範囲の破断伸びを示す態様であってもよい。
【0092】
イソプレン系重合体の機械的特性は、常法の引張試験により測定することができる。具体的には、例えば、後記実施例に記載の方法(JIS K-6251-7に基づいたダンベル形状試験片(幅: 2 mm; 長さ: 12 mm; 厚さ: 1 mm)を用い、ASTM 882-09の試験方法により行う。破断応力-破断ひずみ試験は、ひずみ率200 mm/分で一軸引張試験を用いた破壊により決定する。靭性値は、応力-ひずみ曲線の面積を計算することにより算出することができる。
【0093】
(フィルム)
本発明の自己修復性成形品の好ましい一態様として、例えば、フィルムが挙げられる。
すなわち、本発明の一態様は、前記イソプレン系重合体を含むフィルムにも関する。前記フィルムの一実施形態は、透明フィルムである。本発明の自己修復性成形品であるフィルムは、公知の方法により成形することができる。例えば、押出成形、熱プレス成形、キャスト成形等の成形手法を用いることができる。押出成形であれば、Tダイ、円形ダイ等
が装着された押出機等を用いて、溶融フィルム材料を押し出し、所望によりさらに延伸、熱処理して成形することができる。
熱プレス成形であれば、熱板プレス機等を用いて、溶融フィルム材料をプレス、冷却し、所望によりさらに延伸、熱処理して成形することができる。
【0094】
また、フィルム材料の共溶媒を用いて、溶解、キャスト、乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形し、所望によりさらに延伸、熱処理して成形することができる。
【0095】
成形された未延伸のフィルムはそのまま使用することもできる。フィルム材料として、イソプレン系重合体および前記各種添加剤を予め溶融混錬した材料を用いることもでき、成形時に溶融混錬を経て成形することもできる。
【0096】
未延伸フィルムを機械的流れ方向に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸することができ、またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって延伸すること等に
より二軸延伸フィルムを製造することができる。さらに該フィルムは、熱収縮性等の抑制のため延伸後、通常熱固定処理を行うことができる。得られたフィルムには、所望により公知の方法で、表面活性化処理等を行ってもよい。また、長尺状フィルムとして成形された後、ロール状に巻かれた状態で、保管・搬送されてもよい。
【0097】
本発明のフィルムはそのままで成形品として用いてもよく、また他の種類のフィルム等と組み合わせて用いることもできる。組み合わせの形態としては、他の種類のフィルムとの組み合わせ、例えば、積層体、ラミネート体等が挙げられる。または、被覆等による他の成形品との組み合わせ等が例示できる。
【0098】
(塗布組成物)
また、本発明の自己修復性成形品の別の好ましい一態様として、例えば、塗布組成物が挙げられる。
すなわち、本発明の一態様は、本発明は、本発明に用いられるイソプレン系重合体を含む塗布組成物にも関する。前記塗布組成物は、種々の表面に膜を形成するために用いることができる。前記塗布組成物は、前記重合体とともに、液体(水系、有機溶媒系のいずれであってもよい)ないし固体媒体を含んでいてもよい。媒体を含む態様では、前記重合体は、前記媒体に溶解していても、非溶解(例えば分散)状態であってもよい。前記塗布組成物を、物品の表面の少なくとも一部に塗布して、必要であれば乾燥して媒体を除去して、膜を形成することにより、物品の表面の一部または全部に自己修復性等の前記重合体由来の性能を付与することができる。
【0099】
<本発明の自己修復性材料、およびその製造方法>
本発明のさらなる一態様は、自己修復性材料の製造方法であって、前記自己修復性材料は、上記一般式(I)で表される構造単位および上記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体を含み、前記イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表さ
れる構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比
)、好ましくは、20:80~80:20、となるように調整する工程を含む、前記自己修復性材料の製造方法(以下、「本発明の自己修復性材料の製造方法」ということがある。)に関する。
また、本発明のさらなる一態様は、本発明の自己修復性材料の製造方法によって製造される、自己修復性材料(以下、「本発明の自己修復性材料」ということがある。)に関する。
【0100】
上述のとおり、本発明者らによって、イソプレン系重合体の3,4-およびcis-1,4-ミクロ構造の調整により、自己修復性を有するイソプレン系重合体を製造できることが知見された。同知見に基づき、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位お
よび一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ましくは
、20:80~80:20、となるように調整する工程を含む、自己修復性材料の製造方法を提供する。
【0101】
イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合の具体的な数値範囲、および調整方法は、<本発明の自己修復性成形品の製造方法>の項で説明されたものと同様である。すなわち、構造単位の割合は、重合体の製造において、目的とする構造単位比を達成し得る触媒(例えば、実施例に記載されるような立体的にかさ高いハーフサンドイッチ型スカンジウム触媒等)を選択すること等で制御することができる。また、調整方法は、本発明に用いられるイソプレン系重合体として、本発明の自己修復性作用を有する限り、一般式(I)で表される構造単位およ
び一般式(III)で表される構造単位を適切な割合で含む、イソプレン系重合体を選択す
ることでもよい。
【0102】
自己修復性材料は、イソプレン系重合体のみからなってもよく、イソプレン系重合体以外の成分とともにイソプレン系重合体を含む自己修復性材料として用いてもよい。イソプレン系重合体以外の成分としては、イソプレン系重合体を含む成形品材料において、イソプレン系重合体以外の成分として説明されたものと同様である。
【0103】
なお、前記<本発明の自己修復性成形品の製造方法>、<本発明の自己修復性成形品>の項において説明された事項は、本発明の自己修復性材料、およびその製造方法の説明に全て適用される。
【0104】
<本発明のイソプレン系重合体の自己修復性の調整方法>
本発明のさらなる一態様は、イソプレン系重合体の自己修復性の調整方法であって、上記一般式(I)で表される構造単位および上記一般式(III)で表される構造単位を含むイソプレン系重合体において、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造
単位および一般式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ま
しくは、20:80~80:20、となるように調整する工程を含む、前記イソプレン系重合体の自己修復性の調整方法(以下、「本発明のイソプレン系重合体の自己修復性の調整方法」ということがある。)に関する。
【0105】
上述のとおり、本発明者らによって、イソプレン系重合体の3,4-およびcis-1,4-ミクロ構造の調整により、イソプレン系重合体を自己修復可能にできることが知見された。同知見に基づき、イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般
式(III)で表される構造単位の割合が10:90~90:10(モル比)、好ましくは、20:80
~80:20、となるように調整する工程を含む、イソプレン系重合体の自己修復性の調整方法を提供する。
【0106】
イソプレン系重合体に含まれる一般式(I)で表される構造単位および一般式(III)で表される構造単位の割合の具体的な数値範囲、および調整方法は、<本発明の自己修復性成形品の製造方法>の項で説明されたものと同様である。すなわち、構造単位の割合は、重合体の製造において、目的とする構造単位比を達成し得る触媒(例えば、実施例に記載されるような立体的にかさ高いハーフサンドイッチ型スカンジウム触媒等)を選択すること等で制御することができる。
【0107】
なお、前記<本発明の自己修復性成形品の製造方法>、<本発明の自己修復性成形品>、<本発明の自己修復性材料、およびその製造方法>の項において説明された事項は、本発明のイソプレン系重合体の自己修復性の調整方法の説明に全て適用される。
【実施例0108】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に限定されない。
【0109】
<材料および方法>
空気および水に敏感な化合物のすべての操作は、標準的なシュレンク技術または窒素を充填したエムブラウン(Mbraun)社製グローブボックスを用いて、乾燥窒素雰囲気下で実施した。窒素は、ドライクリーン(Dryclean)カラム、DC-A4(4Aモレキュラーシーブ、日化精工株式会社)およびガスクリーン(Gasclean) GC-XRカラム(日化精工株式会社)に通して精
製した。溶媒はMbraun SPS-800溶媒精製システムで精製し、グローブボックス内で、新しいNaチップで乾燥させた。
【0110】
[Ph3C][B(C6F5)4] (97%)は、ストレム(Strem)社から購入し、精製せずに使用した。希
土類触媒Cp’Sc(CH2C6H4NMe2-o)2 (Cp′=C5H5、C5Me5およびC5Me4SiMe3)は、文献に従っ
て合成した[3]。イソプレン(IP)は東京化成工業から購入し、使用前にAl(プロピル)3から蒸留して精製した。
【0111】
重水素化溶媒のベンゼン-d6 (99.6原子%重水素化)、CDCl3 (99.8原子%重水素化)および1,1,2,2-テトラクロルエタン-d2 (99.6原子%重水素化)は、関東化学株式会社およびケンブリッジアイソトープ社から入手した。
【0112】
ポリマーのNMRデータは、溶媒としてCDCl3 (26.8℃)または1,1,2,2-C2D2Cl4 (26.8℃または120℃)を用いて、Bruker AVANCE III HD 500 NMR (FT、1Hでは500 MHz;13Cでは125 MHz)分光計で取得した。1H NMRの化学シフトは、溶媒の共鳴を内部標準とし、テトラメチルシラン(TMS)からのppm低磁場で記録した(C6D6では7.16 ppm、CDCl3では7.26 ppm、1,1,2,2-C2D2Cl4では6.0 ppm)。13C NMRの化学シフトは、C6D6 (128.06 ppm)、CDCl3 (77.16 ppm)、1,1,2,2-C2D2Cl4 (73.78 ppm)の主ピークを内部標準として使用し、ppm低磁場で記録した。結合定数(J)はHzで報告され、明白なピークの多重度を指す。略称s、d、t、qお
よびmは、この順に、一重項、二重項、三重項、四重項、および多重項を指す。
【0113】
すべての重合体の分子量および分子量分布は、140℃で、HLC-8321GPC/HT装置(東ソー株式会社)を使用した高温ゲル浸透クロマトグラフィー(HT-GPC)により求めた。溶離液とし
て、1,2-ジクロロベンゼン(DCB)を、流速1.0 mL/分で用いた。較正は、ポリスチレン標準(東ソー株式会社)を使用して行った。
【0114】
DSC測定は、DSC7000X (日立製作所)を使用して、10℃/分の速度で行った。まず試験片
を150℃(または200℃)まで加熱し、10℃/分で-100℃(または-30℃)まで冷却してから、二度目のDSCスキャンを記録することにより、ポリマーの熱履歴のすべての差異を解消した
【0115】
自己修復の映像は、キーエンス社製、VHX-5000型デジタルマイクロスコープを使用して記録した。
【0116】
機械的引張応力の実験は、インストロン社製3345機を使用して行った。各ポリマー組成物について、3つの試料の試験を行った。引張実験は、室温(25±1℃)にて、JIS K-6251-7に準じたダンベル構成の試験片(幅:2 mm;長さ:12 mm;厚み:1 mm)を用いてASTM 882-09の試験方法に準じて伸縮性を評価する際のひずみ速度で、異なる試料サイズで行った。破壊時のひずみと破壊時の応力の実験は、ひずみ速度200 mm/分での一軸引張試験による
破壊時の測定により行った。ヤング率は、線形領域(0<ε<0.05)における、公称応力対
公称ひずみ曲線の初期勾配であり、3つの単調な曲線の平均から算出した。P4およびP6の
繰返し応力-ひずみ試験は、ひずみ速度200 mm/分および解放速度200 mm/分で実施した。
ひずみ回復は、1000%ひずみステップサイクル試験により、方程式:100(εar)/εa(
式中、εaは与えられたひずみ、εrは第10サイクル後の荷重0でのひずみを表す)を用いて求めた。
【0117】
自己修復試験では、かみそりの刃を使用して、試料を完全に別個の部分に切断した。フィルムの破面を空気、水、HClおよびNaOH水溶液に、異なる時間接触させた。切断面をあ
わせ、25℃で15秒未満、静かに押し付けた。次いで、修復されたポリマーフィルムを同じ手順に従って延伸して、応力-ひずみ曲線を得た。機械的修復効率は、元の破壊ひずみに
対する復元された破壊ひずみの比率として定義した。
【0118】
すべての固体NMR実験は、2 mmの二重共鳴MASプローブ(日本電子株式会社(JOEL))を備えた、JEOL JNM-ECZ600R分光計を使用して、14.01 T、1H共鳴周波数599.7 MHz、MAS速度15
kHzで実施した。125 kHzのTPPM 1Hデカップリングは、13Cスペクトルの取得中に行った。13C CPMASスペクトルは、接触時間1ミリ秒および繰り返し遅延1.5~2.5秒で観察された。部位分解された1H T1/Tおよび13C T1/Tは、13C CPMAS検出で測定した。13C T1の測定にはトルキア(Torchia)法を用いたが、1H T1の測定には飽和回復法を適用した。13Cシ
ングルパルスのスペクトルは、1.55マイクロ秒の13C 90度パルスおよび20秒の繰り返し遅延で収集した。
【0119】
SAXSの測定は、SAGA Light Source (SAGA-LS)のビームラインBL11で実施した。X線ビームの波長は0.155 nmにセットした。フォトンカウンティングピクセルアレイ検出器、PILATUS 300K (デクトリス(DECTRIS)社、487×619ピクセル、172×172 mm2ピクセルサイズ)を使用して、2次元(2D)X線散乱パターンを記録した。散乱ベクトル、q=(4π/λ)sinθ(式中、2θは散乱角度を表す)は、ベヘン酸銀の散乱ピーク位置により較正した。サンプルから検出器までの長さは1630 mmであった。ピンホール付きの試料ホルダーに試料を固定し、25℃で測定を実施した。2D SAXSパターンは等方性であり、2Dパターンの円環平均により、一次元(1D)強度プロファイルを得た。SAXS強度プロファイルは、バックグラウンド減算および試料によるX線吸収により補正した。データ処理はFIT2Dソフトウェアにより行った。一次元(1-D)の電子密度相関関数分析は、先に報告されたプロトコルに従って実施した[6]
【0120】
<ポリイソプレン(IP)の合成の一般的手法(表1, run 4を例とする)>
THFを含まないグローブボックス内で、IP (5.44 g、80 mmol)のトルエン溶液(15 mL)を、磁気攪拌子を備えた50 mLフラスコに装入した。バックルゴムプラグをフラスコにはめ
込んでグローボックス外に出し、低温浴(-20℃)にセットして2分間攪拌した。次いで、(C5Me4SiMe3)Sc(CH2C6H4NMe2-o)2 (Sc-3) (10.2 mg,0.02 mmol)と[Ph3C][B(C6F5)4] (18.4 mg、0.02 mmol)のトルエン溶液(5 mL)を、激しく攪拌しながら、シリンジで添加した。4
時間後、メタノール(100 mL)および20 mgの2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を添加して、重合を停止させた。ポリマー生成物を濾過により回収し、メタノールで洗
浄し、次いで真空中、60℃で、恒量(5.44 g、100%変換)になるまで乾燥した。ポリマー
の3,4-および1,4-cisの含有量は、1H NMR分析から算出した。
その他のPIPについては、表1に示す条件に調整し、合成を行った。
【0121】
<水素化ポリイソプレン(H-PIPs)の合成手法>
報告された手順[7]に従って、この反応は、磁気攪拌子、還流冷却器、温度計および共
栓を備えた、500 mLの丸底三ツ口フラスコで行った。この容器に、4 gのポリイソプレン
、250 mLのトルエン、および安定化剤として、20 mgの2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)を添加した。ポリマーが完全に溶解したら、22 gのp-トルエンスルホニルヒ
ドラジドおよび18 gのトリ-n-プロピルアミンを添加した。3日間100℃で加熱した後、22 gのp-トルエンスルホニルヒドラジドおよび18 gのトリ-n-プロピルアミンを添加した。さらに3日間、フラスコを100℃で加熱した。トルエン溶液を150 mLの脱イオン水で二回洗浄し、有機溶液を濃縮し、メタノールからポリマーを析出させることにより、ポリマーを単離した。回収したポリマーを、90℃で24時間真空乾燥した。PIPは分子量が高いため、HPIPの一部には、水素化されていないC=C結合が残っている。水素化効率は、水素化試料の1H
NMRスペクトルにより決定された。報告された文献[8, 9]に従って、H-PIPのプロトンお
よび炭素シグナルは、1Hおよび13C NMRスペクトルに割り当てられている。
【0122】
<異なるミクロ構造を含むポリイソプレンの合成>
希土類触媒を用いたイソプレンの重合に関する先行研究[1]に基づき、異なる補助配位
子を持つ希土類錯体を用いて、異なるミクロ構造を含む一連のポリイソプレンを系統的に合成した。ポリイソプレンのより具体的な合成手法は上記のとおりである。結果を表1に
示す。
【0123】
【表1】
【0124】
アミジナート配位イットリウム触媒[(NCNdipp)Y(o-CH2C6H4NMe2)2] (NCNdipp = PhC(NC6H4iPr2-2,6)2) (Y-1)によるイソプレン(IP)の重合では、[IP]/[Y-1] = 4000:1で、主た
る3,4-ミクロ構造(97%)および少量のcis-1,4-ユニット(3%)を含むポリイソプレン(P1)を得た(表1、run 1)[1b,d,f]。一方、C5H5配位スカンジウム触媒(C5H5)Sc(o-CH2C6H4NMe2)2(Sc-1)[2]では、同様の条件で、主たるcis-1,4成分(96%)および少量の3,4-ミクロ
構造(4%)を含むポリイソプレン(P2)が得られた(表1, run2)[1c,e]。立体的にかさ高いC5Me5配位スカンジウム触媒(C5Me5)Sc(o-CH2C6H4NMe2)2(Sc-2)[3]を使用すると、60/40の3,4-およびcis-1,4-成分を含むポリイソプレン(P3)が得られた(表1, run 3)[1e]。さらに立体的にかさ高いC5Me4SiMe3配位スカンジウムアナログ(C5Me4SiMe3)Sc(o-CH2C6H4NMe2)2(Sc-3)では、3,4-およびcis-1,4-ユニットの69/31混合物を含むポリマー(P4)が得られた(表1, run 4および図1)。モノマー/触媒比[IP]/[Sc-3]を4000/1から12000/1および20000/1に上げると、得られるポリマーの数平均分子量(Mn)は280 kDaから527 kDa (P5)および870 kDa (P6)にそれぞれ増加した一方、3,4-/cis-1,4-ミクロ構造比(69/31-72/28)は、ほとん
ど変化しなかった(表1, run 4-6)。
【0125】
<異なるミクロ構造を含むポリイソプレンの機械的特性および自己修復特性>
cis-1,4-が主体のポリマーP2 (3,4/cis-1,4 = 4/96)は、-64℃のガラス転移温度(図2a,
i)を示し、非常に弱い引張強度および低い弾性を示した(図2b, i)。一方、3,4-が主体のポリマーP1 (3,4/cis-1,4 = 97/3)は39℃のTgを示し(図2a、iv)、プラスチックのように挙動した(図2b、iv)。驚くべきことに、3,4-とcis-1,4-成分のより選択性の低い混合物
からなるポリマーP3 (3,4/cis-1,4 = 60/40, Tg = -16℃)およびP4 (3,4/cis-1,4 = 69/31, Tg = -10℃)は、加硫せずにエラストマーの典型的特徴を示した(図2b, iiおよびiii)
。3,4/cis-1,4比(P4-P6)が同様の場合、より高分子量のポリマーほど高い引張強度を示し、P6の場合、1870%の伸長度で8.4メガパスカル(MPa)にまで達した(Mn = 870 kDa、図2c,
iv)。ポリマーの弾性ひずみの回復も、分子量の増加とともに増加した。P6の場合、1000%伸長による応力-ひずみ試験の第1サイクルと第10サイクルで、それぞれ2%および5%
の残留ひずみが観察された(図2d)。注目すべきは、3,4/cis-1,4-ミクロ構造の混合物を
含む、初期状態のポリイソプレン(P4-P6)の機械的特性が、多くの市販の加硫ゴムと同等
かそれ以上であることである。
【0126】
優れた弾性に加えて,3,4-およびcis-1,4-のミクロ構造の混合物を含む初期状態のポリ
イソプレン(P4-P6)は顕著な自己修復性を示した。P4のフィルムサンプルをカミソリの刃
で切断したところ、外部からの介入なしに、室温、空気中で1分以内に亀裂が消失した(図3a、下)。全く対照的に、3,4-主体のポリマーP1およびcis-1,4-主体のポリマーP2は、同条件で自己修復性を示さなかった(図3a、上と中)。
【0127】
P4の直方体ブロック(長さ35 mm、幅20 mm、厚さ6 mm)を半分に完全に切断し、室温で1
分間再接合したところ、修復した試料は裂けることなく2.5 kgもの重量に耐えることができた(図3b)。1時間後には、さらに2倍の重さ(5 kg)に耐えた。P4のドッグボーン型のフ
ィルムサンプルは、切断して10分間修復した後、700%まで延伸することができた(図3c, ii)。48時間後、元のサンプルと同等の伸びと、修復した箇所ではなく新しい箇所での破損が観察されたことから明らかなように、破損は完全に修復した(図3c, v)。さらに、このポリマーは水中、ならびに酸性水溶液(1 M HCl)およびアルカリ性水溶液(1 M NaOH)中
で自己修復することができ(図3d)、実用化への高い可能性が示された。また、修復したP6のサンプルは、室温で20日後に、元の引張強度8.4 MPa、伸び1870%に達した(図3e)。
これらの値(引張強度と弾性)は、多くの市販の非自己修復性エラストマーと同等またはそれ以上である。
【0128】
固体状態での自己修復性ポリイソプレンのミクロ構造と動態に関する情報を得るために、P4の一連の13C固体核磁気共鳴(SSNMR)測定を行った(図4)。3,4-ユニット(原図では水
色で表示)の13Cピークは、1,4-ユニット(原図ではピンク)のピークとよく分離して現れたため(図4)、各ユニットの原子レベルの分子運動は個別に評価することが可能である。
双極子相互作用の部分的平均化による温度上昇とともに13C交差分極マジック角回転(CPMAS)シグナル強度が減少することから明らかなように、3,4-および1,4-ユニットはいずれも、Tgを超える温度で高い運動性を示す。このことは、Tgより低い温度よりもTgより高い温度の方が、13C Tが著しく短いことからも支持された。CPMAS強度を入念に観察する
と、1,4-ユニットは3,4-ユニットよりも急速に低下することから、1,4-ユニットは3,4-ユニットよりも大きな動態を経たことが示された。13C Tは、ポリマー主鎖の原子スケールのセグメント運動に明確な違いがあることを示した[4]。異なるスピンロック周期で測
定した13Cスペクトルを比較すると、cis-1,4-主鎖の方が3,4-主鎖よりもシグナル減衰が
速いことが一見して分かり、cis-1,4-主鎖に比べて3,4-主鎖の運動性が相対的に低いことが示唆された(図4)。定量的な測定では、cis-1,4-主鎖の13C T (30.2 ppmで2.5 ms, 123.3 ppmで3.8 ms, 140.0 ppmで3.8 ms)は、3,4-主鎖の13C T (37.3 ppmで3.9 ms, 41.6 ppmで6.3 ms, 44.1 ppmで5.6 ms)より短いことが示された。13C CPMASとTの双方
から、局所領域において3,4-セグメントはプラスチック様、cis-1,4-セグメントはゴム様の挙動をすることが示唆される。
【0129】
ナノスケールの凝集構造をさらに解明するために、P4の小角X線散乱(SAXS)分析を行っ
た。2D-SAXSデータは、特徴のない等方散乱パターンを示し、方位角平均化SAXS強度プロ
ファイルは、最大点を持たない単調な減衰曲線を示した(図5a)。相関関数分析は、次数
の低い二相系における不均一構造の解明に有効である[5,6]。相関関数(γ(r))により、平均長周期(L)、ドメインサイズ(d)、および界面厚を含む構造パラメータの大まかな説明が得られた。γ(r)は、小さな外乱を伴う規則的振動を示した。これはP4フィルムが、顕
著な長周期分布、および、拡散相境界および/またはドメイン形状が不均一な、周期的二相構造を含むことを示した。相関分析の結果、平均ドメインサイズは6.0 nm、ドメインは平均ドメイン間隔29.5 nmで分布しており(図5b)、固体NMR観察における均一な1H T1と一致した。
【0130】
以上の実験結果に基づいて、P4-P6等の、3,4-およびcis-1,4-ユニットの適切な混合物
を含むポリイソプレンが有し得る自己修復メカニズムを、図6に示されるものと提案する
。これらのポリマーは、正式には、3,4-およびcis-1,4-ポリイソプレンセグメントからなる「マルチブロックコポリマー」と見なすことができる。柔軟なcis-1,4セグメントベー
スのマトリックスから、ファンデルワールス相互作用により、(架橋点として機能する)硬質の3,4-セグメントのナノドメインがミクロ相分離し、3次元ネットワーク構造が形成され得、これにより弾性および靭性が発揮される。機械的損傷を受けると、3,4-セグメントの再凝集により、ネットワーク構造が再構築され、損傷が修復される。非常に迅速な自己修復は、cis-1,4-セグメントの運動性が高いため、3,4-ユニットの再凝集を速やかに誘導している可能性がある。3,4-主体のポリイソプレンP1またはcis-1,4-主体のポリイソプレンP2の場合に、弾性と自己修復性が示されなかったのは、3,4-セグメント(ブロック)またはcis-1,4-セグメント(ブロック)が長すぎるため、ナノスケール3次元ネットワークが形成されなかったと考えられる。
【0131】
<水素化ポリイソプレンの機械的特性および自己修復特性>
ポリイソプレンの不飽和C=Cユニットが、機械的特性および自己修復特性に影響を与え
るかどうかを確認するために、ポリマーを水素化した。より詳細な合成手法は上記のとおりである。結果を図7aおよび7bに示す。
この水素化ポリマーは、正式には、ポリ(3-メチル-1-ブテン)セグメント(3,4-ポリイソプレンユニットに由来)および交互エチレン-alt-プロピレン配列(cis-1,4-ポリイソプレ
ンユニットに由来)を有する、エチレン、プロピレン、および3-メチル-1-ブテンの「マルチブロックコポリマー」と見なすことができる(図7a、右)。水素化ポリマーH-P1およびH-P2は、元のポリイソプレン前駆体P1およびP2と同様に、自己修復性を示さなかった。対照的に、水素化ポリマーH-P4、H-P5およびH-P6は、いずれも優れた弾性および自己修復性を示し、対応する元の水素化されていないポリイソプレンP4、P5およびP6と比較し、同等またはそれ以上の弾性および自己修復性を示した(図7c~7g)。H-P4、H-P5およびH-P6が優
れた自己修復性を示すことは、ポリエチレン主鎖においてイソプロピルおよびメチル側鎖置換基を含むだけの比較的単純な全体構造に鑑みれば、驚くべきことである。これらの飽和ポリマーの弾性と自己修復性は、ポリイソプレン前駆体に由来する独自のミクロ構造(
すなわち、ポリエチレン主鎖におけるイソプロピルおよびメチル置換基の分布)に起因し
ているということができる。これらの結果は、エチレン、プロピレン、およびブテンのような非常に単純な成分からなるポリオレフィンであっても、ミクロ構造または成分分布がナノスケールで適切に制御されれば、優れた自己修復性を示すことを示唆する。
【0132】
以上のとおり、本発明者らは、ハーフサンドイッチ型スカンジウム触媒を用いたイソプレンのミクロ構造制御重合により、強靭で自律的な自己修復性エラストマー(P4、P5およ
びP6等)を合成できることを初めて実証した。このポリマーの前例のない自己修復性およ
び強靭性は、柔軟なcis-1,4-セグメントマトリックス中の3,4-セグメント集合体によって物理的架橋が形成され得る、比較的硬質の3,4-セグメントおよび軟質のcis-1,4-セグメントによって生成するナノスケールの不均一性に起因し得る。さらに、H-P4、H-P5およびH-P6等の水素化ポリマーもまた優れた機械的特性および自己修復特性を示し、比較的単純なポリオレフィンであっても、そのミクロ構造または成分をナノスケールで適切に制御することにより、顕著な自己修復性を示し得ることがさらに示された。本発明は、単純な汎用モノマーから自己修復性ポリマーを合成した最初の例であるだけでなく、ミクロ構造の制御による新しい自己修復性材料の設計・創製に関するこれまでにない知見を提供し、実用化の可能性が高い自己修復性材料の合成に新たな道を開くものと期待される。
【0133】
<参考文献リスト>
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【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の自己修復性成形品は、限定されないが、各種産業(例えば医療、建築、輸送、電子・電気等)用材料・表面被覆材料・機器・部品・製品等の用途に利用可能である。特に、損傷を検出することが困難、または修復が高コストまたは不可能な分野、例えば海底における装置、宇宙空間における装置・医療材料、機器等に特に好適に利用可能である。
図1
図2
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図6
図7