(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022595
(43)【公開日】2024-02-16
(54)【発明の名称】仙骨ガイドを備えた椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 9/00 20060101AFI20240208BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
A47C9/00 Z
A47C7/40
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191962
(22)【出願日】2023-11-10
(62)【分割の表示】P 2022124361の分割
【原出願日】2022-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】521279435
【氏名又は名称】高千穂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 光一
(72)【発明者】
【氏名】早▲崎▼ 和裕
(72)【発明者】
【氏名】寺田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】小島 友美子
【テーマコード(参考)】
3B084
3B095
【Fターム(参考)】
3B084EC06
3B095AC06
3B095CA02
(57)【要約】
【課題】
使用者が着座部に座っただけで、無意識に前後・左右の重心バランスを取り、自然に骨盤を立てた姿勢を促し、その姿勢を維持する椅子を提供する。
【解決手段】
複数の脚と座面を有し、正面方向から見ると左右対称に構成され、左右側面方向から見ると左右対称に構成される椅子であって、座面は、使用者の座骨を座面の前後方向の中心で支持する長さを有しており、さらに、椅子の使用者の着座時に使用者の仙骨の一部に当接する仙骨ガイドと、仙骨ガイドを、座面から所定の高さで、座面後方端と座面の中心との間で、座面後方端から座面の中心方向に向かって所定の距離の位置に、左右対称に設置する仙骨ガイド支持部材と、を有する椅子。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の脚と座面を有し、正面方向から見ると左右対称に構成され、左右側面方向から見ると左右対称に構成される椅子であって、
前記椅子の使用者の着座時に使用者の仙骨の一部に当接する仙骨ガイドと、
前記仙骨ガイドを、前記座面から所定の高さで、前記座面の後方端と前記座面の中心との間で、前記座面の後方端から前記座面の中心方向に向かって所定の距離の位置に、左右対称に設置する仙骨ガイド支持部材と、を有する
仙骨ガイドを備えた椅子。
【請求項2】
請求項1に記載の椅子であって、
前記仙骨ガイドは、前記座面側の使用者の仙骨と当接する平面部と、前記平面部の上方と下方にRが取られている上R部と、前記平面部の下方にRが取られている下R部とを有する
仙骨ガイドを備えた椅子。
【請求項3】
請求項2に記載の椅子であって、
前記座面の後方端と前記座面の中心との間で、前記座面の後方端から前記座面の中心方向に向かって所定の距離は、前記座面の座面の後方端より2-10cm内側に位置する
仙骨ガイドを備えた椅子。
【請求項4】
請求項3に記載の椅子であって、
前記座面から所定の高さは、前記仙骨ガイドの幅方向の中心が前記座面の中央部から12cm-17cmの高さである
仙骨ガイドを備えた椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に関する。特に、骨盤を立てた正しい姿勢の維持を促すための椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な椅子では、床面に両足を着地させ、両足をほぼ直角に曲げた状態で、臀部を椅子の座面に載せ、上半身を背もたれに預けるような姿勢で着座させる。
【0003】
このような、椅子では、着座する人は、背もたれに上半身を預けることにより、或いは、テーブルなどに向かって飲食することにより、自ずと上半身がテーブルの方に曲がり、脊髄が曲げられ姿勢そのものが悪くなる。また、脊髄が曲げられた状態で、長時間着座すると、内臓が圧迫され、疲労やストレスの原因となる。
【0004】
例えば、特許文献1では、骨盤を立てて背筋を伸ばした正しい姿勢で座れるとともに、すねが痛くならないような椅子を提供するため、尻が接触する着座部と、すねが接触するすね当て部と、着座部とすね当て部とを支持する椅子本体部と、足の裏を載置する足載せ部とから構成される椅子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、骨盤を立たせて背筋を伸ばした正しい姿勢で着座させるため、着座部を前方に傾斜させている。そして着座部を前方に傾斜させたことにより、すね当て部に当たるすねが痛くなることを防止するため、すね当て部に集中していた荷重を、すね当て部と足載せ部とに分散させている。
【0007】
しかしながら、着座部を前方に傾斜させていることに変わりなく、すね当て部には一定の荷重がかかり、すね当ての痛みを完全に解消するのは難しい。そのため、長時間の着座は体に負担がかかることが考えられる。
【0008】
また、上記特許文献1では、使用者の前後の重心については考慮されているものの、使用者が着座部に座っただけで、無意識に前後左右の重心バランスを取ることについては、考慮されていない。
【0009】
本発明が解決する課題は、使用者が着座部に座っただけで、無意識に前後左右の重心バランスを取り、自然に骨盤を立てた姿勢を促し、その姿勢を維持する椅子を提供することである。
【0010】
特に、正しい姿勢(立腰)を意識することが不得手あるいは難しい子供や高齢者であっても、使用者が椅子に座っただけで、無意識に前後左右の重心バランスを取り、自然に骨盤を立てた姿勢を促し、その姿勢を維持する椅子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための、仙骨ガイドを備えた椅子の一態様は、複数の脚と座面を有し、正面方向から見ると左右対称に構成され、左右側面方向から見ると左右対称に構成される椅子であって、前記椅子の使用者の着座時に使用者の仙骨の一部に当接する仙骨ガイドと、前記仙骨ガイドを、前記座面から所定の高さで、前記座面の後方端と前記座面の中心との間で、前記座面の後方端から前記座面の中心方向に向かって所定の距離の位置に、左右対称に設置する仙骨ガイド支持部材と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、使用者は、特に正しい姿勢をとることを意識することなく、椅子に着座することで、「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導し、その姿勢を保持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の椅子を斜め上方から見た斜視図である。
【
図2】椅子に正しい姿勢で着座した様子を示す図である。
【
図4】実施例1の椅子の座面の寸法を説明する図である。
【
図5】椅子の使用者の体格の相違による座面部分の楕円を示した図である。
【
図8A】各実施例の座面の反力方向を説明する図である。
【
図8B】各実施例の座面の反力方向の作用を説明する図である。
【
図9】実施例3の椅子を斜め上方から見た斜視図である。
【
図10A】実施例3の椅子を正面から見た正面図である。
【
図10B】実施例3の椅子を右から見た右側面図である。
【
図10C】実施例3の椅子を上から見た上面図である。
【
図11】実施例3の椅子の2歳児での効果確認を示す図である。
【
図12】実施例3の椅子を、腹部切開を伴う手術を伴う患者での効果確認を示す図である。
【
図13】実施例4の椅子を重ねた状態を示す図である。
【
図14】実施例4の椅子を重ねた状態の詳細を示す図である。
【
図15】実施例5の椅子の変形例を斜め上方から見た斜視図である。
【
図16】実施例5の椅子のその他の変形例を斜め上方から見た斜視図である。
【
図17】実施例5の椅子のその他の変形例を正面から見た正面図である。
【
図18】実施例5の椅子のその他の変形例を右側から見た右側側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の椅子は、着座すると、自然に骨盤を立てた姿勢を促し、その姿勢を維持する。
【0015】
「骨盤を立てた姿勢」とは、「骨盤が正しい位置にある」ということである。つまり、骨盤を立てることで、正しい姿勢を作ることができる。椅子に座った状態でも、骨盤を立たせることで、骨盤が正しい位置にある姿勢で座ることができる。
【0016】
「骨盤を立てた姿勢」とは、以下の(a)(b)の状態である。
【0017】
(a)骨盤が左右水平になっている状態である。通常、椅子に座った状態で、意識して膝の位置が左右対称になっている姿勢を作る必要がある。
【0018】
(b)骨盤がまっすぐ立っている状態である。
【0019】
図2に、椅子に座った状態で、骨盤が立った状態を示す。
図2に示す通り、横から骨盤を見ると、前傾でもなく後傾でもなく、ちょうどまっすぐ立った状態である。腰骨の出っ張りと恥骨のラインがまっすぐの状態の時、骨盤の立った正しい位置にある。
【0020】
骨盤が立っていない状態で、着座姿勢を続けると、骨盤に負担がかかり、そこから連鎖反応のように頭痛、肩こり、疲労などの原因となる。また、骨盤が歪んでしまう危険性がある。
【0021】
椅子に着座する際に、骨盤を立てた姿勢を維持しないと、骨盤が後ろに傾いた状態となり、重たい上半身を支えることが難しくなる。そのため背骨をまるめることで頭を前にし、バランスを取ることになる。こういった状態が正しくない「悪い姿勢」を作ってしまう。姿勢が悪い状態で仕事をするのが習慣化してしまうと、骨盤や背骨の歪みにつながり、骨盤や背骨の歪みが深刻化してしまうと矯正することが難しくなってしまう。
【0022】
特に、太りやすい体形の方は、骨盤で内蔵を支えている。つまり骨盤の上に内蔵が乗っかっている状態にある。骨盤を立てる座り方をせずに、身体に負担のかかる姿勢を続けていると前述したように骨盤が歪んでしまう。骨盤が歪んでしまうと、骨盤の上に乗っている内蔵が下へストンと落ちてしまい、骨盤の中に内蔵が集合してしまう状態となる。その結果、代謝や血流が悪くなり、「太りやすい体形」や「下半身太り」を引き起こす。逆に、正しい骨盤を立てる座り方をすることでダイエット効果も期待できる。また、呼吸もしやすくなり、ストレスを解消することができる。
【0023】
骨盤を立てた状態で着座するためには、椅子に深く座り、背筋を伸ばして椅子に座った時に座骨がしっかり椅子の座面にあたっている状態となるように意識し、さらに、肩、膝の左右水平に保つことを意識する、必要がある。
【0024】
つまり、椅子に座る者(使用者)が、「骨盤を立てた姿勢」、つまり、正しい姿勢となるように意識する必要がある。着座して暫くの間は、正しい姿勢を意識することは可能であるが、長時間の着座や机上で作業する場合には、正しい姿勢を意識し続けることは実際には難しい。
【0025】
特に、子供や高齢者は、正しい姿勢で座ることを意識することが難しい。子供の場合には、学校や塾などの授業を受ける際に長い時間、着座する必要がある。授業中に集中力を持続させることが難しく、特に授業内容の理解ができない場合、姿勢の崩れは顕著となる場合がある。高齢者の場合、集中力の持続の困難性に加え、体に染みついた骨のゆがみが原因となり、正しい姿勢で着座することが困難となっている場合がある。
【0026】
実施例の椅子は、椅子に着座することで、意識することなく、使用者を「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導し、その姿勢を保持し続けることができる。
【0027】
また、実施例の椅子は、正しい姿勢を維持することで、使用者の姿勢筋のバランスを整え、使用者の体幹を鍛えることできる。
【0028】
また、実施例の椅子は、使用者の姿勢筋や体幹が鍛えられることで、正しい姿勢を維持することができ、長時間の集中力の持続を可能とする。
【0029】
実施例の椅子を、学校や塾などの教育現場で利用することで、正しい姿勢による集中力向上により、学力向上に寄与することが期待できる。
【0030】
また、実施例の椅子を、怪我人や要介護の人を世話するケアセンタ等で利用することで、ケアセンタを利用する人の歩く力を鍛えることができる。
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施例を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のために、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を正確に反映していない場合がある。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事項は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書及び図面によって開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。加えて、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
以下、図面を参照して実施例を詳細に説明する。
【実施例0033】
図1は、実施例1の椅子を斜め上方から見た斜視図である。
【0034】
実施例1の椅子1は、脚11、脚12、脚21、脚22の4本の脚を有する。正面から見た左側の脚11、脚12は、その中央部付近を左側下方連結部材13により、上部付近をひじ掛けの役割も担う上方連結部材14により連結され、支持されている。この脚11、脚12、下方連結部材13、上方連結部材14とで構成される部材を左側脚フレームと呼ぶ。
【0035】
正面から見た右側の脚21と、脚22と、脚21と脚22との中央部付近を支持する右側下方連結部材23と、脚21と脚22との上部付近を、ひじ掛けの役割も担う上方連結部材24により、連結され、支持されている。この脚21、脚22、下方連結部材23、上方連結部材24とで構成される部材を右側脚フレームと呼ぶ。脚フレームの形状は、A型フレームとして良く知られているように、椅子の側面から見て、二本の脚が左右対象となる形状で、必要とされる強度に基づいて形状を決定する。特に、強度の観点からすると、左側下方連結部材13や右側下方連結部材23は、より下方に位置することが好ましい。
【0036】
左側脚フレームと右側脚フレームは、前方支持部材31、後方支持部材32により連結され、支持されている。
【0037】
左側脚フレームは、椅子の横方向から見て左右対称に構成し、脚11、脚12の間隔は、下方ほど広く、上方ほど狭くなっている。つまり、脚11、脚12は、正面左側で前後に均等に傾斜する。脚11の長手方向の中心線と脚12の長手方向の中心線との交点A(図示せず)の位置は、使用者が椅子1に着座した際、使用者の頭部の高さに対応する。
【0038】
右側脚フレームも左側脚フレームと同様であり、椅子1は椅子の横方向から見て左右対称に構成する。脚21、脚22の間隔は、下方ほど広く、上方ほど狭くなっている。つまり、脚21、脚22は、正面右側で前後に均等に傾斜する。脚21の長手方向の中心線と脚22の長手方向の中心線との交点B(図示せず)の位置は、使用者が椅子1に着座した際、使用者の頭部の高さに対応する。
【0039】
交点Aと交点Bの高さが、使用者が着座した際の頭部の高さとなることで、椅子1の前後のバランスを必要最小限の材料(脚の長さ)で構成することができる。即ち、脚11、脚12の傾きを大きくすると、脚の長さが長くなり、椅子の重量を増加させてしまう。一方、脚11、脚12の傾きが小さい場合、椅子1の前後のバランス維持が難しく、転倒しやすい椅子となってしまう。
【0040】
前方支持部材31、後方支持部材32は、左側脚フレームと右側脚フレームを連結し、支持することの他、前後方向に同じ高さの座面を構成する複数の座面板33(実施例1では9枚)を支持する役割を担う。各座面板33は、所定の幅をもった直線状の板である。座面板33は、椅子1の前後方向の座面の長さとなり、実施例1では、35cmとする。この座面の前後方向の長さは、使用者が椅子1に着座した際に、使用者の座骨が座面板33の長さ方向の中心に位置するように構成されている。そのため、大人用の椅子1の前後方向の長さは、30-50cmの範囲から、適切な値をとることができ、実施例1では、35cmとしている。
【0041】
前方支持部材31と後方支持部材32は、同じ高さで左側脚フレームと右側脚フレームに連結され、その上面は、下に凸の形状、より詳しくは、前方支持部材31と後方支持部材33の長手方向の中心に対し、左右対称の下に凸となる曲線である。この曲線についての詳細は、後述する。
【0042】
前方支持部材31は、複数の座面板33の前方(正面)の一端付近で、座面が下に凸となる左右対称の曲面となるように複数の座面板33を支持し、四本の脚の前方の二本の脚(脚11、脚21)に、それぞれ連結する。
【0043】
後方支持部材32は、複数の座面板33の後方の他端付近で、座面が下に凸となる左右対称の曲面となるように複数の座面板33を支持し、四本の脚の後方の二本の脚(脚12、脚22)に、それぞれ連結する。各座面板33は、前方支持部材31、後方支持部材32により、同じ高さで支持(座面の左右位置が同じ場合、前後方向も同じ高さで支持)される。前方支持部材31と後方支持部材32の上面の形状や座面板33については、
図3から
図5を用いて詳細に説明する。尚、実施例1では、四本の脚で説明したが、脚の本数は、これに限るものではない。この場合、前方支持部材31と後方支持部材32は、座面を構成する座面板33を曲面上に支えるための構造体として機能する。
【0044】
このように、椅子1は、正面から見た場合に左右対称の構成となり、左右側面から見た場合にも左右対称の構成となる。
【0045】
前方支持部材31と後方支持部材32の上面の形状、即ち、座面板33が設置される前方支持部材31と後方支持部材33の形状を説明するにあたり、人の骨盤における主要な個所の寸法を説明する。
図3に示す通り、左右の腸骨の左右端の距離をDx、腸骨の上端から坐骨の下端までの距離をDy、左右の坐骨の下端の距離をDzとする。尚、
図3に示された骨盤の中心部に位置する部位が仙骨である。
【0046】
前方支持部材31と後方支持部材32の上部形状は、前方支持部材31と後方支持部材32の長手方向(椅子1の横方向)の中心に対し、左右対称の下に凸となる曲線である。左右の隣り合う座面板(例えば、座面板の中心)における前方支持部材31と後方支持部材32の上部形状の曲率が、異なる曲線である。前方支持部材31と後方支持部材32の上部の曲率は、椅子1の正面の中心から、椅子1の左右端に近づくにしたがって大きくなる。より詳しくは、座面の曲率半径rは、椅子1の横方向の中心で無限大に近い値となり、座面の両端では座面幅WのW/5以下の値、即ち、座面幅Wの20%以下とする。以下、この曲線を、左右対称の下に凸となる曲線として、楕円を例に説明する。
【0047】
前方支持部材31と後方支持部材32の上面は、前方支持部材31と後方支持部材32の長手方向の中心とした左右対称の楕円である。前方支持部材31と後方支持部材32とは、基本的に同一形状となり、その上面の楕円形状は、上記Dx、Dy、Dzに応じて最適値が決まる。尚、楕円形状を決定する上で、複数の座面板33から構成される座面の幅Wを考慮しても良い。
【0048】
図4は、実施例1の椅子の座面の寸法を説明する図である。前方支持部材31と後方支持部材32の上面は、
図4の式1で表される楕円で構成される。ここで、楕円は、x方向(長軸の長さ)2a、y方向(短軸の長さ)2bである。楕円の2つの焦点F1、F2の距離2cは、
図4の式2で表される。
【0049】
実施例1では、焦点F1、F2の距離2cと、椅子1の座面の幅Wとの関係を、
図4の式3とする。つまり、焦点F1、F2の距離2cは、座面の幅Wと等しいか、Wの1.15倍以下の範囲とする。
【0050】
焦点F1、F2より中心側と外側では曲率が大きく変化する。焦点距離が短すぎる場合、例えば、焦点が座面端より内側に入ると、使用者が着座する際に窮屈に感じる。そればかりか、太ももが内側に回転する力を受けることとなり、適正な体圧分散ができなくなり、使用者の着座姿勢の前後バランスを維持できなくなる。そのため、姿勢が崩れた態勢になり圧迫されるように感じ疲れやすくなってしまう。
【0051】
一方、焦点距離が長すぎると、座面は平面に近くなり、座骨結節点付近に体圧が集中しやすくなるので、底付き間を感じやすくなり、お尻を傷める原因となるばかりか、座面形状により椅子の使用者の左右のバランスを維持する作用を期待できなくなるためである。
【0052】
一般的な、椅子の座面幅は、使用者の一般的な体形を考慮し、40から45cmであるため、実施例1では、椅子の座面幅を45cmとして説明する。尚、座面幅Wは、左右の腸骨の左右端の距離をDxの1.3-1.9倍、好ましくは、1.6倍とするのが一般的である。従って、楕円の焦点間距離2cは、1.3Dx≦2c≦1.9Dxとなる。本実施例では、座面幅を45cmとし、焦点F1、F2の間も同様、45cmとする。但し、座面幅を45cmに限定するものではなく、使用者の体形、特に左右の腸骨の左右端の距離をDxに応じて適宜定められるものである。尚、実施例1においては、焦点F1、F2の距離を、椅子1の座面の幅Wとしたが、焦点F1、F2の距離が、座面の幅Wとほぼ一致(W≦2c≦1.15W)であれば、骨盤を立たせる姿勢に誘導するという効果が得られる。
【0053】
左右の腸骨の左右端の距離Dx、腸骨の上端から坐骨の下端までの距離Dy、左右の坐骨の下端の距離Dzを説明する上で、使用者の平均値を採用して、Dxは28cm、Dyは21cm、Dzは7cmとして説明する。
【0054】
楕円の最下点から焦点F1、F2のy方向の長さを腸骨の上端から坐骨の下端までの距離Dyとする。つまり、短軸の長さの半分であるbは、椅子1の使用者の腸骨の上端から坐骨の下端までの距離Dyに相当する。二つの焦点F1、F2の距離は、1.6Dxに相当する。
【0055】
発明者らは、種々の検討を繰り返し、椅子の正面から見た座面の左右形状を、
楕円の短軸の距離の半分bを腸骨の上端から坐骨の下端までの距離Dyとし、(2)楕円の焦点F1、F2の距離を、座面幅W(焦点F1、F2の距離を座面幅Wとほぼ一致させる(W≦2c≦1.15W))、あるいは、楕円の焦点間距離2cを、1.3Dx≦2c≦1.9Dxとする、左右対称の楕円の一部とした。
【0056】
これにより、座骨結節点付近を中心に体圧が分散させやすいことを見出した。つまり、左右の坐骨の下端の距離Dzの範囲では、前方支持部材31と後方支持部材32の上面が構成する楕円が、比較的平面を構成する適度な曲線となり、正しく座った場合左右の坐骨に姿勢を崩す反力を与えることない。太もも部分が曲率半径の小さくなる座面左右端に支持され、左右から適度な反力を与え、正しい姿勢へと導くこととなる。
【0057】
椅子の正面から見た座面の左右形状を上述の通りとすると、人間の骨格は左右対称であるため、使用者自身の体重で、自然に骨盤、姿勢筋等の前後左右をバランスさせることができる。また、使用者の姿勢筋の左右のバランスを効果的に整えるには、座面は、左右対称の楕円の一部とした他、複数の座面板33で構成される座面は、前後方向に傾きのない直線(椅子1の前後方向断面が水平)で構成される。座面が前に傾くと、使用者は反り腰の状態となり、座面が後ろに傾くと、腰が落ちた状態となり、前後方向でバランスの取れた姿勢に戻そうと余計な力が必要となる。正しい姿勢で着座させるためには、座面は、左右方向には下に凸の楕円の一部で構成し、前後方向には傾きのない直線で構成する。このような構成とすると、前後左右にバランスが取りやすく、最も疲れにくいからである。バランスの取れた正しい姿勢で座ることにより、椅子1から立ったり、椅子1へ座ったりする動作を楽に行うことができる。
【0058】
つまり、座面を構成するそれぞれの座面板は、前後方向に同じ高さとなるように前方支持部材31、後方支持部材32により支持され(座面の左右位置が同じ場合、前後方向も同じ高さで支持され、左右方向に隣り合う座面板では、前方支持部材31、後方支持部材32の楕円形状により、前方支持部材31、後方支持部材32により支持される高さは異なる)、椅子の正面から見た座面の前後形状を直線とすることで、前後方向にバランスが取れ、左右対称の楕円の一部とした効果が最大限に発揮される。椅子1により、使用者を「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導し、その姿勢を保持し続けることができる。
【0059】
以上の前提より、長軸と短軸を求めると、長軸2aの距離は58.56~62.36cmとなり、aは約30cmとなる。
【0060】
aを30cm、bを21cm、焦点間の距離を45cmとした楕円で、前方支持部材31の上面を構成する。後方支持部材32の上面は前方支持部材31と同一形状であり、同様に楕円形状とする。正確には、複数の座面板33の厚さを考慮しなければならず、前方支持部材31と後方支持部材32に載置される複数の座面板33の上面が、aを30cm、bを21cm、焦点間の距離を45cmとなる楕円を構成するようにする。
【0061】
尚、上記寸法は、使用者の腸骨の上端から坐骨の下端までの距離Dyによって、最適値は変動する。即ち、Dyを17cmとすると、aは28.2cmとなる。また、Dyを25cmとすると、aは33.6cmとなる。
【0062】
図5は、体格の相違による座面部分の楕円を示した図である。Dyを17cmとした場合を楕円51、Dyを21cmとした場合を楕円52、Dyを25cmとした場合を楕円53として示した。尚、楕円51、53については、座面幅Wを焦点間の距離2aとする条件は、適応していない。
図5に示す通り、Dyの違い、即ち椅子の使用者の体格の相違に拘わらず、前方支持部材31と後方支持部材32の上面の形状は、略一致する。そのため、前方支持部材31と後方支持部材32の上面の形状は、基本体形であるDy(=b)を21cmとし、座面幅Wを二つの焦点間距離とする楕円形状とすることで、どのような体形の使用者にもある程度対応させることができる汎用的な椅子を構成することができる。
【0063】
また、標準体形のDyを21cmとし、座面幅Wを45cmとすることを前提として、楕円の短軸の長さの2bと、座面幅Wと、座面の高さHとを略同じ値(±5cm)とすれば、使用者の体形に拘わらず、使用者に「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導し、その姿勢を保持し続けるという効果を期待できる。
【0064】
但し、椅子の使用者が子供の場合、座面の幅W’は36cm、Dy(=b)は、およそ18~21cmとなるため、異なる楕円により座面を構成する必要があり、
図4の式2、式3から適切な値をとることとなる。
【0065】
また、椅子の使用者が幼児の場合、座面の幅W’’は26.5cm、Dy(=b)は、およそ15cm程度となるため、異なる楕円により座面を構成する必要があり、
図4の式2、式3から適切な値をとることとなる。
【0066】
椅子の使用者が、大人の他に子供や幼児の場合を含めて、座面の左右両端の曲率半径r1は、座面幅Wの1/5以下となる。
図4の式4は、楕円の曲率半径rを求める式である。
【0067】
この式4に、上述した拘束条件、即ち、1.6Dx=2c=W、b=Dy、焦点のx座標(
図4の式2の関係から求める)を代入して計算すると、座面の左右端の曲率半径r1は、61.5mmとなる。
【0068】
座面幅Wを用いて、座面端の曲率半径r1を近似すると、W/7となる。
【0069】
一般的な椅子の寸法として、種々のDyや座面幅Wの値を代入して、座面端における曲率半径r1を座面幅Wで近似すると、W/10<r1<W/5の範囲である。
【0070】
以上のように、複数の座面板33を支持する前方支持部材31と後方支持部材32が構成する曲線は、座面が下に凸となる曲線であり、前方支持部材31と後方支持部材32の長手方向の中心に対し、左右対称の下に凸となる曲線である。
【0071】
また、より好ましくは、前方支持部材31と後方支持部材32が構成する曲線は、複数の座面板33の隣り合う座面板における前方支持部材31と後方支持部材32の上部形状の曲率が、前方支持部材31と後方支持部材32の長手方向の中心から、椅子の左右端に近づくにしたがって、大きくなる曲線である。そのための好適な形状が、前方支持部材31と後方支持部材32が構成する曲線を楕円で構成し、楕円の焦点間距離2cが座面幅(W<2c<1.15W)に相当し、短軸bが腸骨の上端から坐骨の下端までの距離Dyに相当する。このような楕円を曲率半径で説明すると、座面の楕円の曲率半径rを中心部の無限大に近い値から座面端に近づくに従い徐々に小さくする。曲率半径rの範囲は、W/10<r<無限大ということになる。
【0072】
骨盤を立たせることの効用として、精神が明瞭になる、主体性が確立する、健康になる、と言われている。つまり、精神が明瞭になることとして、頭がはっきりして、何事にも専念できるようになり、判断力が付き、実践的知恵が身につく、心が引き締まり、やる気がわいてくる。主体性が確立することとして、集中力が付き、持続ができるようになり、進んで仕事に取組み、積極的になり、粘り強く耐える力が付き、実践力が身につく。正しい姿勢によって、内臓の圧迫がなくなり、食欲不振がなくなり、動作が俊敏になる。
【0073】
本実施例の椅子によると、座っただけで使用者が意識することなく、自然と骨盤を立たせた姿勢に誘導する。
【0074】
尚、複数の座面板33により構成される座面の形状が、使用者が椅子に着座した際に骨盤を立たせるための重要な要素の一つである。そのため、前方支持部材31と後方支持部材32は、複数の座面板33を下に凸状の形状で支持して座面を構成できれば種々の変形例を採用することができる。例えば、複数の座面板33で構成される座面は、椅子1の横方向の中心に対し、左右対称の下に凸となる曲線であって、隣り合う座面板における曲率が、椅子1の横方向の中心から、椅子1の左右端に近づくにしたがって、大きくなる曲線である。好ましくは、椅子1の横方向の中心の曲率半径r0が無限大に近い値、座面の左右両端の曲率半径r1が座面幅W/5以下の値とする。この座面を作成する上で、最も効率的な形状が楕円ということになる。
実施例2においても、実施例1と同様、複数の座面板33で構成される座面は、各座面板33の前後方向の高さは同じである。また、座面は、椅子1の横方向の中心に対し、左右対称の下に凸となる曲線であって、隣り合う座面板における曲率が、椅子1の横方向の中心から、椅子1の左右端に近づくにしたがって、大きくなる曲線である。好ましくは、椅子1の横方向の中心の曲率半径r0が無限大に近い値、座面の左右両端の曲率半径r1が座面幅W/5以下の値とする。このような座面を複数の座面板33で構成するため、前方支持部材31や後方支持部材32の上面の形状は、実施例1で述べた通りの構成となる。
一方、座面端付近では、大きな荷重がかからないが、使用者の姿勢が左右に崩れた際に、使用者に働く反力(圧力)をより感じやすくするため、座面板の幅は小さくなっている。
また、座面の中心線61付近の座面板33cと座面板33dのそれぞれの中心線62、63の中心54、55は、使用者が椅子1に着座した際に、坐骨の位置と一致することが好ましい。少なくとも、座骨の位置は、中心54,55の位置から±5cm程度となる(座骨の位置が中心54、55と略一致)。坐骨の幅を7cmと仮定すると、中心点54と中心点55の距離は7cmである。
尚、各座面板33は、長さ350mm、幅w1、w2、w3の板であり、6枚の座面板33の両端を、前方支持部材31や後方支持部材32の上面にそれぞれ平行に載置する。従って、座面の前後方向の断面は直線となり、同じ高さである。よくある椅子のように臀部を凹ませたような曲線や前後方向に傾いていない。これは、骨盤が左右均等の構成であり、骨盤を立たせるためには、左右均等の反力(楕円の接線に対する法線ベクトルの反力として後述する)を維持し、左右バランスを整えることが効果的との知見に基づくものである。つまり、座面を構成するそれぞれの座面板において、前後方向に同じ高さとなるように前方支持部材31、後方支持部材32により支持され(座面の左右位置が同じ場合、前後方向も同じ高さで支持され、左右方向に隣り合う座面板では、前方支持部材31、後方支持部材32の楕円形状により、前方支持部材31、後方支持部材32により支持される高さは異なる)、椅子の正面から見た座面の前後形状を直線とすることで、前後方向に余計な反力が発生しないため、左右対称の楕円の一部とした効果が最大限に発揮され、使用者を「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導し、その姿勢を保持し続けることができる。臀部を前後に凹ませた形状とすると、却って左右のバランスを図る作用が阻害されるためである。そのため、座面板33を用い、座面の前後方向の断面は直線としている。
座面を構成する座面板33には、使用者の体重により荷重71が働く、荷重71を座面板33の法線方向と水平方向のベクトルで表すと、法線ベクトル72と水平ベクトル73で表すことができる。法線方向は、前方支持部材31や後方支持部材32の上面の楕円の接線に対する法線であり、法線ベクトル72の反力は、椅子1の座面の中心線に向かって、左右均等に作用する。
楕円の短軸上、つまり、楕円とその接線との接点Sでは、法線ベクトルの反力はy軸に沿って働くこととなる。接点Sから少し外側に離れた楕円と接線との接点Tでは、法線ベクトルの反力は、y軸上と交点Pで交わる。接点Tから更に外側に離れた楕円と接線との接点Uでは、法線ベクトルの反力は、y軸上と交点Qで交わる。また、接点Uから更に外側の、長軸上では、法線ベクトルの反力は、x軸上、つまりは楕円の中心Oに向かう。
また、使用者の臀部を左右から挟むように均等に支持するので、使用者は、椅子に着座することで、意識することなく、「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導され、その姿勢を保持し続けることができる。
また、使用者の体幹が鍛えられることで、歩く力を鍛えることができる。即ち、姿勢筋と呼ばれる腹筋群、腸腰筋、大腿四頭筋、腎筋、脊柱起立筋をバランスよく鍛えることができる。また、正しい姿勢を維持することで、姿勢筋の他、ハムストリング、僧帽筋もバランスよく鍛えることができ、座った状態だけでなく、立ち姿勢もバランスが良くなり、結果として、長時間歩いても疲れにくいバランスの取れた体を維持することができる。
椅子1を構成する材料は、全て杉の無垢材を用いる。杉を用いることで、杉の特性である保湿性、保温性、抗菌作用を得ることができ、椅子全体の軽量化に寄与でき、使用者はアーシングされる。正しい姿勢を維持することに加えて、杉の香による疲労回復、ストレス解消の他、アーシング作用により静電気による体調不良を防止することができる。特に、座面板33に杉材を用いると、杉による適度な摩擦が使用者の正しい姿勢を長時間の維持することに貢献する。
以上の通り、本実施例の椅子によれば、座面を下に凸の曲面で、使用者の臀部を左右から挟むように均等に支持することで、使用者は、椅子に着座することで、意識することなく、「骨盤を立てた姿勢(正しい姿勢)」に誘導され、その姿勢を保持し続けることができる。