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特開2024-2262モニタリングシステム、モニタリング方法、モニタリング装置及びデータ通信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002262
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】モニタリングシステム、モニタリング方法、モニタリング装置及びデータ通信装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20231228BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
B23Q17/00 E
B23Q17/09 D
B23Q17/09 F
B23Q17/09 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101352
(22)【出願日】2022-06-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 機械と工具 2021年10月号 日本工業出版素形材6月号 一般在団法人素形材センター
(71)【出願人】
【識別番号】512319232
【氏名又は名称】株式会社KMC
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安部 新一
(72)【発明者】
【氏名】石井 秀三
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 声喜
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029DD02
3C029DD09
3C029DD11
3C029DD14
3C029EE01
3C029FF05
(57)【要約】
【課題】簡単な設備で、既存の加工機の異常の予兆を判断する。
【解決手段】モニタリングシステムは、主軸と、主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、主軸を駆動する主軸モータと、主軸に交換可能に取り付けられ主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値を出力する振動センサユニットと、主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値を出力する温度センサユニットと、電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値を出力する電流センサユニットと、振動値、温度値及び電流値に基づき、工具の異常の予兆、加工機の異常の予兆及び対象物に対する加工の異常の予兆があると判断するモニタリング装置とを具備する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値を出力する振動センサユニットと、
前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値を出力する温度センサユニットと、
前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値を出力する電流センサユニットと、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値に基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断するモニタリング装置と
を具備するモニタリングシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のモニタリングシステムであって、
前記モニタリング装置は、前記振動値、前記温度値及び前記電流値を時間的に同期したグラフ画像を機械学習したモデルを用いて、異常の予兆があると判断する
モニタリングシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のモニタリングシステムであって、
前記モニタリング装置は、前記工具の種別にさらに基づき、前記工具に固有の異常の予兆があると判断する
モニタリングシステム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモニタリングシステムであって、
前記モニタリング装置は、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値に基づき、前記工具のダメージ量を判断し、
前記ダメージ量と、前記ダメージ量に到達するまでの加工時間とに基づき、前記工具に固有のダメージ指標を算出し、
前記ダメージ指標に基づき、前記工具に固有の寿命を算出し、
前記寿命に基づき、前記工具の異常の予兆があると判断する
モニタリングシステム。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモニタリングシステムであって、
前記モニタリング装置は、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値を総合的に分析して、異常の予兆があると判断し、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値のそれぞれの値に基づき、予兆があると判断された異常の原因を特定する
モニタリングシステム。
【請求項6】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモニタリングシステムであって、
前記振動センサユニットが出力する前記振動値と、前記温度センサユニットが出力する前記温度値と、前記電流センサユニットが出力する前記電流値とを受信し、バイナリファイル化し、サーバ装置に送信する処理部を有する少なくとも1個のデータ通信装置
をさらに具備し、
前記モニタリング装置は、前記サーバ装置に蓄積された前記振動値、前記温度値及び前記電流値を収集する
モニタリングシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のモニタリングシステムであって、
前記少なくとも1個のデータ通信装置は、
電源回路と、
前記電源回路に並列に接続された定電流電源及び定電圧電源と、
前記処理部に前記定電流電源から給電し、前記振動センサユニット及び/又は前記電流センサユニットに前記定電圧電源から給電するように、給電を切り替える出力切換器と、
を有する電源部をさらに有する
モニタリングシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のモニタリングシステムであって、
前記振動センサユニットは、前記データ通信装置の前記電源部から受電し、前記振動センサに電源を供給し、及び/又は
前記電流センサユニットは、前記データ通信装置の前記電源部から受電し、前記電流センサに電源を供給する
モニタリングシステム。
【請求項9】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモニタリングシステムであって、
前記モニタリング装置は、異常の予兆があると判断すると、フィードバックを出力する
モニタリングシステム。
【請求項10】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモニタリングシステムであって、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値を時間的に同期したグラフ画像を表示する表示装置
をさらに具備するモニタリングシステム。
【請求項11】
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値と、前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値と、前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値とに基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断する
モニタリング方法。
【請求項12】
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値と、前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値と、前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値とに基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断する
モニタリング装置。
【請求項13】
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値と、前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値と、前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値とを、バイナリファイル化し、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値に基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断するモニタリング装置が受信可能なように送信する
データ通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機の異常の予兆を判断するモニタリングシステム、モニタリング方法及びモニタリング装置と、モニタリングシステムに含まれるデータ通信装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
加工機の分野では、各部位にセンサが配置される。近年では、様々なセンサを用いてしかもリアルタイムに時々刻々と変化するデータを収集することが要求されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-46293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削加工現場では例えば以下のような異常の問題がある。第1に、加工機の主軸に取り付けられた工具(例えばエンドミル等の切削工具)の摩耗、カケ、折損等の工具異常がある。第2に、ワーク固定治具の異常、ワークテーブル/ガイドレールの異常、主軸や主軸内部のXYZモータ軸受けベアリング等の異常、XYZ各軸の動作モータの異常等の加工機異常がある。第3に、上記の工具異常及び加工機異常、無理な加工条件、材質、材料硬度等の異常、切削油の異常、切粉の影響等による品質異常、即ち、加工対象物に対する加工異常がある。
【0005】
工具異常、加工機異常及び加工異常の対策として、内蔵のセンサのセンシング結果に基づき異常を予防するような切削加工機も近年検討されている。しかしながら、導入済みの既存の加工機、特に古い加工機は、そのようなセンサを有しておらず、異常を予防することが難しい。また、工場に導入済みの古い加工機をセンサ内蔵の加工機に入れ替えるには設備投資が莫大にかかり、現実的ではない。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、簡単な設備で、既存の加工機の異常の予兆を判断するモニタリングシステムを提供及び必要な場合はフィードバック制御するモジュールの提供を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係るモニタリングシステムは、
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値を出力する振動センサユニットと、
前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値を出力する温度センサユニットと、
前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値を出力する電流センサユニットと、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値に基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断するモニタリング装置と
を具備する。
【0008】
本実施形態によれば、加工機の主軸ホルダの外面に、振動センサユニット及び温度センサユニットが外部から着脱可能に後付けで装着され、主軸モータに電源を供給する電源ケーブルに電流センサユニットが外部から着脱可能に後付けで装着される。これにより、導入済みの既存の加工機、特に古い加工機であっても、振動センサユニット、温度センサユニット及び電流センサユニットを安定的に装着し、振動値、温度値及び電流値と必要に応じてその他のセンサによるセンシング情報を正確に検出することができる。また、振動値、温度値及び電流値及びその他のセンサによるセンシング情報を総合的に分析して、異常の予兆があると判断することができる。
【0009】
前記モニタリング装置は、前記振動値、前記温度値及び前記電流値を時間的に同期したグラフ画像を機械学習したモデルを用いて他様々なAI手法を用いて、異常の予兆があると判断してもよい。
【0010】
振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフ画像を学習することで、振動値、温度値及び電流値の変化のどのような組み合わせがどのような以上の予兆につながるかを、総合的に分析することが可能となる。
【0011】
前記モニタリング装置は、前記工具の種別にさらに基づき、前記工具に固有の異常の予兆があると判断してもよい。
【0012】
モニタリング装置は、温度値、振動値及び電流値に基づき、工具の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆を判断することができる。ただし、工具に掛かる負荷が小さい工具の場合は、振動値が上昇しにくい。このため、モニタリング装置は、工具の種別ごとにセンシング感度やそのレベル等の個別の設定と判断を行って、工具に固有の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆を工具毎に判断することができる。
【0013】
前記モニタリング装置は、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値、場合によってはその他のセンシング情報に基づき、前記工具のダメージ量を判断し、
前記ダメージ量と、前記ダメージ量に到達するまでの加工時間とに基づき、前記工具に固有のダメージ指標を算出し、
前記ダメージ指標に基づき、前記工具に固有の寿命を算出し、
前記寿命に基づき、前記工具の異常の予兆があると判断してもよい。
【0014】
例えば、モニタリング装置は、新品の工具のダメージが無いときのダメージ量を0%とし、ダメージを受けて総量としてのダメージ量が100%になる時間を特定することで、工具の寿命を特定する。寿命を特定することにより、モニタリング装置は、工具の異常や加工の異常がいつ発生し得るかを判断することができる。言い換えれば、モニタリング装置は、工具の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆を判断することができる。
【0015】
前記モニタリング装置は、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値、場合によってはその他のセンシング情報を総合的に分析して、異常の予兆があると判断し、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値のそれぞれの値に基づき、予兆があると判断された異常の原因を特定してもよい。
【0016】
モニタリング装置は、振動値、温度値及び電流値、場合によってはその他のセンシング情報を総合的に分析して、異常の予兆があると判断すると、振動値、温度値及び電流値、場合によってはその他のセンシング情報のそれぞれの値に基づき、予兆があると判断された異常の原因を特定する。例えば、モニタリング装置は、機械学習モデルを用いて異常の予兆があると判断すると、振動値、温度値及び電流値のそれぞれの値を分析し、異常の原因を特定する。
【0017】
モニタリングシステムは、
前記振動センサユニットが出力する前記振動値と、前記温度センサユニットが出力する前記温度値と、前記電流センサユニットが出力する前記電流値とを受信し、バイナリファイル化し、サーバ装置に送信する処理部を有する少なくとも1個のデータ通信装置をさらに具備し、
前記モニタリング装置は、前記サーバ装置に蓄積された前記振動値、前記温度値及び前記電流値を収集してもよい。
【0018】
サーバ装置に蓄積することで、1台の加工機の振動値、温度値及び電流値のみならず、各種の加工機に各種別の工具を取り付けて運転したときに収集した、大量の、振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフ画像及びそのときの運転状態を教師データとして機械学習しモデルを生成することができる。
【0019】
前記少なくとも1個のデータ通信装置は、
電源回路と、
前記電源回路に並列に接続された定電流電源及び定電圧電源と、
前記処理部に前記定電流電源から給電し、前記振動センサユニット及び/又は前記電流センサユニットに前記定電圧電源から給電するように、給電を切り替える出力切換器と、
を有する電源部をさらに有してもよい。
【0020】
これにより、加工機に後付け装着された振動センサユニット及び電流センサユニットをそれぞれ電源につながなくても、データ通信装置の電源部から電源を供給することが可能になるので、各センサユニットの電源ケーブルを考慮する必要がない。
【0021】
前記振動センサユニットは、前記データ通信装置の前記電源部から受電し、前記振動センサに電源を供給し、及び/又は
前記電流センサユニットは、前記データ通信装置の前記電源部から受電し、前記電流センサに電源を供給してもよい。
【0022】
これにより、加工機に後付け装着された振動センサ及び電流センサをそれぞれ電源につながなくても、データ通信装置の電源部から電源を供給することが可能になるので、各センサユニットの電源ケーブルを考慮する必要がない。
【0023】
前記モニタリング装置は、異常の予兆があると判断すると、フィードバックを出力してもよい。
【0024】
フィードバックとして例えば加工機への停止信号を出力することにより、加工異常の製品が製造されるのを予防することができる。
【0025】
モニタリングシステムは、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値を時間的に同期したグラフ画像を表示する表示装置
をさらに具備する。
【0026】
これにより、ユーザは、異常の予兆を視覚的に知ることができる。
【0027】
本発明の一形態に係るモニタリング方法は、
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値と、前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値と、前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値とに基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断する。
【0028】
本発明の一形態に係るモニタリング装置は、
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値と、前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値と、前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値とに基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断する。
【0029】
本発明の一形態に係るデータ通信装置は、
主軸と、前記主軸を回転可能に保持する非回転式の主軸ホルダと、前記主軸を駆動する主軸モータと、前記主軸に交換可能に取り付けられ前記主軸と共に回転し対象物を加工する工具と、前記主軸モータに電源を供給する電源ケーブルとを有する加工機の、
前記主軸ホルダの外面に外部から着脱可能に装着される振動センサが検出する振動値と、前記主軸ホルダの前記外面に外部から着脱可能に装着される温度センサが検出する温度値と、前記電源ケーブルの外面に外部から着脱可能に装着される電流センサが検出する電流値とを、バイナリファイル化し、
前記振動値、前記温度値及び前記電流値に基づき、前記工具の異常の予兆、前記加工機の異常の予兆及び前記対象物に対する加工の異常の予兆があると判断するモニタリング装置が受信可能なように送信する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、簡単な設備で、既存の加工機の異常の予兆を判断するモニタリングシステムを提供及び必要な場合はフィードバック制御するモジュールを提供することができる。
【0031】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】加工機を模式的に示す。
図2】本発明の一実施形態に係るモニタリングシステムを示す。
図3】モニタリング装置の動作フローを示す。
図4】データ通信装置の一例を示す。
図5】振動値、温度値及び電流値のグラフの例を示す。
図6】振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフの例を示す。
図7】閾値管理及び警告機能を適用した表示例を示す。
図8】傾向分析及びスパイク分析機能を適用した表示例を示す。
図9】設備稼働(率)監視機能を適用した表示例を示す。
図10】設備異常管理及びメンテナンスアラート機能を適用した表示例を示す。
図11】消費電力表示機能を適用した表示例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0034】
1.加工機
【0035】
図1は、加工機を模式的に示す。
【0036】
加工機100は、工場等に設置され、対象物を切削加工する工作機械である。加工機100は、典型的には、工場に導入済みの既存の加工機であり、振動センサ、温度センサ及び電流センサ等を内蔵していない。加工機100は、加工機本体101と、スピンドルの主軸102と、フランジ107(スピンドルのハウジング)と、主軸ホルダ103(スピンドルの外筒部)と、主軸モータ(不図示)と、ツールホルダ104と、工具105と、電源ケーブル106(図2)とを有する。主軸102は、ベアリング(不図示)により回転可能である。フランジ107は、非回転式であり、加工機本体101にスピンドルを固定する。主軸ホルダ103は、非回転式であり、主軸102を回転可能に保持する。主軸モータは、XYZ各軸の動作モータを有し、主軸102を駆動する。電源ケーブル106は、主軸モータに電源を供給する。加工機100は、さらに、加工機100の動作部(主軸102、ベアリング及び主軸モータ等)を冷却する、特に、回転によって高温となるベアリング等を冷却する冷却系を内蔵する(不図示)。
【0037】
工具105は、着脱可能なツールホルダ104を介して主軸102に交換可能に取り付けられ、主軸102及びツールホルダ104と共に回転し対象物を加工する。工具105は、例えば、エンドミル等の消耗品の切削工具である。工具105は、徐々に摩耗するため、典型的には数時間毎に別の工具105に交換される。工具105として、1種類の種別だけではなく、様々な種別(素材、硬度、サイズ等)の工具105をツールホルダ104に取り付け可能でもよい。また、同じ種別の工具105でも個体差がある。
【0038】
加工機100に発生し得る異常として、例えば、工具105の異常、加工機100の異常及び対象物に対する加工の異常がある。第1に、工具105の異常は、刃面の摩耗や荒れから始まり、一部が欠け、最悪の場合には折損に至る。第2に、加工機100の異常として、加工機100の動作部(主軸102、ベアリング及び主軸モータ等)の異常、加工機100の動作部を冷却する冷却系の異常、ワークテーブル/ガイドレールの異常がある。第3に、加工の異常に関しては、工具105の異常及び加工機100の異常と、運転中の主軸102の伸び(熱による主軸102の変形)とにより、対象物に対する加工の異常が発生し、加工品質を左右する。また、無理な加工条件、材質、材料硬度等の異常、切削油の異常、切粉の絡み等で加工品質の異常につながる。
【0039】
2.モニタリングシステム
【0040】
図2は、本発明の一実施形態に係るモニタリングシステムを示す。
【0041】
モニタリングシステム1は、加工機100の主軸102の振動値、温度値及び電流値を常時モニタリングし、振動値、温度値及び電流値に基づき、加工機100に発生し得る異常の予兆、すなわち、工具105の異常の予兆、加工機100の異常の予兆及び対象物に対する加工の異常の予兆を判断する。モニタリングシステム1は、振動センサユニット10、温度センサユニット20、電流センサユニット30、少なくとも1個のデータ通信装置40、モニタリング装置50を少なくとも有する。モニタリングシステム1は、サーバ装置60、作業者端末70をさらに有する。
【0042】
振動センサユニット10は、有線で接続された振動センサ11及び振動通信ユニット12を有する。振動センサ11は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)センサである。振動センサ11は、例えば、XYZ3軸又は5軸センサである。振動センサ11は、例えば磁石やネジ止めにより、主軸ホルダ103の外面に外部から着脱可能に、後付けで装着される。振動センサ11は、例えば1.25ミリ秒のサンプリング周期で振動値を検出し続け、振動通信ユニット12に送り続ける。振動通信ユニット12は、振動センサ11が検出する振動値を内蔵のメモリに記憶し、一定周期で又は蓄積したデータが所定量になると、振動値を例えば1秒毎にデータ通信装置40に無線送信により出力する。
【0043】
振動センサ11の装着位置は、工具105の異常(例えば、刃面の摩耗や荒れ、欠け、折損等)の予兆や、工具105の異常に起因する対象物に対する加工の異常を検出するには、工具105の可能な限り近くがよい。しかしながら、工具105に最も近いツールホルダ104は、小型で、主軸102と共に回転する。このため、有線の振動センサ11をツールホルダ104に常時安定的に装着するのは困難であり、さらに、振動センサ11への電源供給も難しい。また、振動センサ11の装着位置は、加工機100の動作部である主軸102等の異常の予兆や、加工機100の動作部である主軸102等の異常に起因する対象物に対する加工の異常の予兆を検出するには、主軸102がよい。しかしながら、主軸102は回転するため、有線の振動センサ11を主軸102に常時安定的に装着するのは困難であり、さらに、振動センサ11への電源供給も難しい。そこで、工具105及び主軸102に可能な限り近く且つ非回転式である主軸ホルダ103に振動センサ11を装着することで(図1)、簡単かつ安価で、正確に振動値を検出することを図る。
【0044】
温度センサユニット20は、有線で接続された温度センサ21及び温度通信ユニット22を有する。温度センサ21は、例えば、熱電対センサ、非接触サーモパイル型赤外線センサ又はMEMSセンサである。温度センサ21は、例えば磁石やネジ止めにより、主軸ホルダ103の外面に外部から着脱可能に、後付けで装着される。温度センサ21は、例えば1ミリ秒のサンプリング周期で温度値を検出し続け、温度通信ユニット22に送り続ける。温度通信ユニット22は、温度センサ21が検出する温度値を内蔵のメモリに記憶し、一定周期で又は蓄積したデータが所定量になると、温度値をデータ通信装置40に無線送信により出力する。
【0045】
温度センサ21の装着位置は、主軸102の異常(例えば、ベアリングの異常、冷却系の異常等)の予兆や、主軸102の異常に起因する対象物に対する加工の異常の予兆を検出するには、主軸102がよい。しかしながら、主軸102は回転するため、有線の温度センサ21を主軸102に常時安定的に装着するのは困難であり、さらに、温度センサ21への電源供給も難しい。そこで、主軸102に可能な限り近く且つ非回転式である主軸ホルダ103に温度センサ21を装着することで(図1)、簡単かつ安価で、正確に温度値を検出することを図る。
【0046】
電流センサユニット30は、有線で接続された電流センサ31及び電流通信ユニット32を有する。電流センサ31は、例えば、電線クランプ型直流分割センサである。電流センサ31は、主軸モータに電源を供給する電源ケーブル106をクランプするように、電源ケーブル106の外面に外部から着脱可能に、後付けで装着される。電流センサ31は、電源ケーブル106の電流値を検出し続け、電流通信ユニット32に送り続ける。電流通信ユニット32は、電流センサ31が検出する電流値を内蔵のメモリに記憶し、一定周期で又は蓄積したデータが所定量になると、電流値をデータ通信装置40に無線送信により出力する。
【0047】
データ通信装置40は、振動センサユニット10が出力する振動値と、温度センサユニット20が出力する温度値と、電流センサユニット30が出力する電流値とを無線受信し、バイナリファイル化し、ネットワーク(インターネット等。以下同様)を介してサーバ装置60に送信する。データ通信装置40の回路構成の一例は後で説明する。
【0048】
サーバ装置60は、バイナリファイル化された振動値、温度値及び電流値を、ネットワークを介してデータ通信装置40から受信して蓄積する。
【0049】
図3は、モニタリング装置の動作フローを示す。
【0050】
モニタリング装置50は、専用の情報処理装置や、専用のソフトウェアを実行するパーソナルコンピュータである。モニタリング装置50は、サーバ装置60に蓄積された主軸102の振動値、温度値及び電流値を、ネットワークを介して常時収集する(ステップS1)。モニタリング装置50は、主軸102の振動値、温度値及び電流値と必要に応じてその他のセンサのセンシング情報に基づき、工具105の異常の予兆、加工機100(特に主軸102)の異常の予兆及び対象物に対する加工の異常の予兆があると判断する(ステップS2)。その他のセンサとして、例えば、異常音を検出する音センサ、切削油量を検出する流量センサ、機械作動圧力を検出する圧力センサ、さらには主軸102と異なる場所に設置された振動センサ、電流センサ及び温度センサが挙げられる。モニタリング装置50は、異常の予兆があると判断すると、主軸102の振動値、温度値及び電流値と必要に応じてその他のセンサのセンシング情報に基づき、予兆があると判断された異常の原因を特定する(ステップS3)。モニタリング装置50は、異常の予兆があると判断すると、フィードバック(例えば、警告の表示、作業者端末70への警告の送信、加工機100への停止信号の送信等)を出力する(ステップS4)。加工機100を停止させることで、加工異常の製品が製造されるのを予防することができる。モニタリング装置50は、特定された異常の原因をフィードバックとして出力してもよい。モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフ画像を、内蔵又は外部接続したディスプレイ51(表示装置)に表示(マルチデータ表示)してもよい。モニタリング装置50の動作の詳細は後で説明する。
【0051】
作業者端末70(表示装置)は、例えば、タブレットデバイスやスマートフォン等の携帯端末であり、加工機100が設置された工場の作業者が現場で使用する。作業者端末70は、サーバ装置60に蓄積された振動値、温度値及び電流値を収集して時間的に同期したグラフ画像を表示(マルチデータ表示)する。これにより、作業者は、加工機100の主軸102に関する振動値、温度値及び電流値の履歴を現場で閲覧することができる。作業者端末70は、モニタリング装置50が何らかの異常の予兆を判断し作業者端末70にフィードバックを出力した場合、警告の表示や音声を出力してもよい。
【0052】
3.データ通信装置
【0053】
図4は、データ通信装置の一例を示す。
【0054】
本例では、データ通信装置40が1個である場合を説明する。データ通信装置40は、処理部400及び電源部410を有する。処理部400は、A/D変換部420、フロントエンド部430及び主制御部440を有する。データ通信装置40は、振動センサユニット10、温度センサユニット20及び電流センサユニット30から振動値、温度値及び電流値を受信するための、複数(例えば、4チャネル)のアナログ入力ポートを有する。
【0055】
A/D変換部420は、熱電対処理部421と、前処理部422及びA/D変換器423とを有する。熱電対処理部421は、温度センサユニット20の温度センサ21が熱電対センサである場合、温度センサユニット20が出力する温度値を受信して処理する。前処理部422は、振動センサユニット10及び電流センサユニット30が出力する振動値及び電流値を受信して前処理する。A/D変換器423は、前処理された振動値及び電流値をA/D変換する。なお、温度センサ21が熱電対センサでない場合、前処理部422が、温度センサユニット20が出力する温度値を受信して前処理し、A/D変換器423が、温度値をA/D変換する。
【0056】
フロントエンド部430は、フロントエンドプロセッサ431及びRAM432を有する。フロントエンドプロセッサ431は、A/D変換部420により処理された振動値、温度値及び電流値を、高サンプリングレートで連続取得する。フロントエンド部430は、振動値、温度値及び電流値を、RAM432を用いて高速バッファリングして時間的に同期する。
【0057】
主制御部440は、主制御モジュール441及びアンテナ442を有する。主制御モジュール441は、CPU、RAM及びWi-Fi(登録商標)モジュールを有するマイクロコントローラである。主制御モジュール441は、フロントエンド部430がバッファリングした振動値、温度値及び電流値をバイナリファイル化し、アンテナ442を介して、ネットワークに接続されたサーバ装置60に送信する。
【0058】
電源部410は、電源回路411と、電源回路411に並列に接続された定電流電源412及び定電圧電源413と、出力切換器414とを有する。電源回路411は、外部からの入力電力から出力電力を生成し、定電流電源412及び定電圧電源413に電力を分配する。出力切換器414には、定電流電源412及び定電圧電源413が並列に接続される。出力切換器414は、処理部400に定電流電源412から給電し、振動センサユニット10及び電流センサユニット30に(温度センサユニット20の温度センサ21が熱電対でない場合には温度センサユニット20にも)定電圧電源413から給電するように、例えば一定の時間間隔で、給電を切り替える。
【0059】
振動センサユニット10の振動通信ユニット12は、データ通信装置40の電源部410から受電し、振動センサ11に電源を供給する。電流センサユニット30の電流通信ユニット32は、データ通信装置40の電源部410から受電し、電流センサ31に電源を供給する。温度センサ21が例えば非接触サーモパイル型赤外線センサ等である場合は、温度センサユニット20の温度通信ユニット22は、データ通信装置40の電源部410から受電し、温度センサ21に電源を供給する。これにより、振動センサユニット10、温度センサユニット20及び電流センサユニット30をそれぞれ電源につながなくても、データ通信装置40の電源部410から電源を供給することが可能になる。
【0060】
変形例として、モニタリングシステム1は、1個ではなく複数のデータ通信装置40を有してもよい。具体的には、振動センサユニット10に1個のデータ通信装置40を接続し、温度センサユニット20に別個のデータ通信装置40を接続し、電流センサユニット30に別個のデータ通信装置40を接続する様に、一対一で接続してもよい。この場合は、それぞれのデータ通信装置40が、振動値、温度値及び電流値を個別にサーバ装置60に送信する。この場合、各データ通信装置40は、少なくとも1個のアナログ入力ポートを有すればよい。
【0061】
4.モニタリング装置
【0062】
モニタリング装置50の動作(図3のステップS1乃至ステップS4)を説明する。
【0063】
4-1.振動値、温度値及び電流値の収集(ステップS1)
【0064】
モニタリング装置50は、サーバ装置60に蓄積された振動値、温度値及び電流値を、ネットワークを介して常時収集する。主軸102の振動値、温度値及び電流値には以下のような特徴がある。
【0065】
図5は、振動値、温度値及び電流値のグラフの例を示す。
【0066】
(A)は主軸102の温度値のグラフを示す。暖機運転後に温度が一定になり連続加工中に一時停止すると温度は急激に下がる。すぐに運転を再開しても主軸102の温度が一定にならないと主軸102の伸びが一定にならず、高精度に対象物を切削できない。精度よく品質を保つためには温度値を一定条件で加工することが好ましい。乱高下する場合が最も寿命が短い。
【0067】
主軸102の温度は、主軸102の温度値が或る一定の温度値に到達したことを確認するのに用いられる。主軸102の温度値は回転直後から徐々に上昇していく。温度値が安定値になったところで加工を開始する。温度値の上昇に応じて、温度膨張による主軸102の伸びが発生する。主軸102の伸び量は回転数に応じて異なるため、回転数に応じた安定温度を判断する必要がある。主軸102が水冷スピンドルの場合、低速回転の場合は温度が上がりにくいため、ある一定の回転数までは温度値の比例限度が発生する。それらの精度対応を行う。主軸102の温度値が異常値となった場合、即ち、温度閾値を超えた場合は、加工機100を停止させる必要がある。
【0068】
(B)は主軸102の振動値のグラフを示す。主軸102の温度上昇後に加工負荷が掛かると、振動値が大きくなる。工具105の切れ味が徐々に悪くなっていくと、振動値が増加していく。工具105が対象物を切削していないときは、急激に振動値が低下する。振動が発生している時間、即ち、振動値が所定値以上の時間の合算値が、実加工時間の合算値である。
【0069】
主軸102の異常時は、切削していないときにも振動が発生する。回転数の違いにより、異常振動値の大きさが異なる。振動閾値は、無負荷状態で振動がレベル以上の総合振動(XYZの総合振動値)レベルに基づき判断でき、振動閾値に基づき主軸102の異常の内容を特定できる。XYZの振動レベルは、各軸の振動の大きさ加速度を用いる。XYZの振動レベルは、各軸の平均偏差で算出する。XYZの振動の検出方法は、他にも様々な方法を用いることができる。例えば、振動総量(振動加速度量)、振動周波数、各軸固有の振動レベル(加速度レベルや振動周波数)等が挙げられる。電流量、電圧、デジタル量、アナログ量、を出力するセンシング方式に合わせた検出方法で、振動値を検出することができる。
【0070】
主軸102への負荷が大きいと振動が発生する。主軸102の負荷が適正である場合、振動値は閾値以内(低い数値)である。振動量での最適負荷が検出できる。振動値は送り速度の大きさに比例する。送り量が早いと振動値が大きく、送り量が遅いと振動値が小さい。振動値は、工具105の切込みの量により変化する。工具105の接触角の変動で振動値が発生するため、工具105のリアルタイム制御が求められる。
【0071】
(C)は主軸102の電流値のグラフを示す。振動値と電流値を同時に見ると、実加工時間の合算値がより確実にわかる。電流値は工具105の摩耗と同時に増加傾向となるが、小さな工具105では、電流値はほとんど変わらない。比較的大きな工具105の場合は電流値の変動が大きい傾向がある。工具105の切れ味にも連動するが、工具105のサイズが比較的大きいものに限られる。急激な負荷等には電流値の変化の反応が早いため、大きな負荷などの異常値を検出できる。熱による摩耗により主軸102内のコイルの被膜が剥離等すると、コイルが短絡し、電気が漏洩するため電流値が異常値となる。
【0072】
4-2.異常の予兆の判断(ステップS2)
【0073】
図6は、振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフの例を示す。
【0074】
モニタリング装置50は、主軸102の振動値、温度値及び電流値及びその他のセンサのセンシング情報を総合的に分析して、異常の予兆があると判断する。
【0075】
一般に、正常運転時、一定の負荷で切削を続けた場合、主軸102の振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフは同図のようになる。主軸102を運転し始めると温度値が上昇し温度値が一定値になる。加工を開始すると、直ちに電流値が増加し、振動値もある一定の振動値となる。数時間後(例えば加工開始から1時間後)、工具105の摩擦が進行し始め(工具105のダメージ量が増え始め)、徐々に振動値が上がり始めてそれに追従して電流値も上昇する。工具105の摩擦が進行し始め(工具105のダメージ量が増え始め)るポイントは、工具105の種別(素材、硬度、サイズ等)に拠る。その後さらに数時間後(例えば加工開始から3時間後)、工具105が消耗状態となり交換が必要となる。
【0076】
例えば、モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフ画像(図6の様な画像)を機械学習したモデルを用いて、また、他様々なAI手法を用いて、異常の予兆があると判断してもよい。機械学習は、モニタリング装置50以外の情報処理装置、例えば、サーバ装置60等の外部装置が実行してもよいし、モニタリング装置50が実行してもよい。また、サーバ装置60等の外部装置は、この1台の加工機100の振動値、温度値及び電流値のみならず、各種の加工機100に各種別の工具105を取り付けて運転したときに収集した、大量の、振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフ画像及びそのときの運転状態を教師データとして機械学習しモデルを生成すればよい。振動値、温度値及び電流値を時間的に同期したグラフ画像を学習することで、振動値、温度値及び電流値の変化のどのような組み合わせがどのような以上の予兆につながるかを、総合的に分析することが可能となる。
【0077】
例えば、モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値に基づき、工具105のダメージ量(摩耗量)を判断する。モニタリング装置50は、ダメージ量と、加工開始時からこのダメージ量に到達するまでの時間、即ち、加工時間とに基づき、工具105に固有のダメージ指標を算出する。モニタリング装置50は、ダメージ指標に基づき、工具105に固有の寿命を算出する。モニタリング装置50は、寿命に基づき、工具105の異常の予兆があると判断する。モニタリング装置50は、工具105の種別にさらに基づき、工具に固有の異常の予兆があると判断する。具体的には以下のとおりである。
【0078】
主軸102の温度値が一定値に近い状態であれば、工具105の寿命と、対象物に対する加工の精度が長く維持される。主軸102の振動値が一定時間内に急激に上昇するときに、工具105のダメージ量が大きくなる可能性があり、モニタリング装置50は、これを工具105の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆と判断することができる。モニタリング装置50は、温度値及び振動値の変動要素と電流値の大きさとに基づき、工具105のダメージ量を算出する。モニタリング装置50は、電流値が小さく温度値も一定であるにも拘わらず、振動値が大きい場合は、工具105の切れ味が落ちてきている(ダメージ量が増えつつある)と判断し、これを工具105の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆と判断することができる。ただし、工具105に掛かる負荷が小さい工具105の場合は、振動値が上昇しにくい。このため、モニタリング装置50は、工具105の種別(素材、硬度、サイズ等)を予めデータベース化しておき、これに基づき、工具105の種別ごとにセンシング感度やそのレベル等の個別の設定と判断を行って、工具105に固有のダメージ指標を算出し、工具105毎の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆と判断することができる。モニタリング装置50は、温度値が急激に上下する場合、頻繁に主軸102が停止すると判断し、これを主軸102の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆と判断することができる。また、頻繁に主軸102が停止する場合には、工具105に掛かるダメージ量が大きくなる可能性があるので、モニタリング装置50は、これを工具105の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆と判断することができる。また、モニタリング装置50は、グラフの波形の形の違いに応じて、異なるダメージ量を算出する。モニタリング装置50は、温度値、振動値及び電流値の変動量が少ない状態が最もダメージ係数が低いと判断する。
【0079】
モニタリング装置50は、温度値、振動値及び電流値を検出することで、切削中か、空振り状態かを判断する。モニタリング装置50は、温度値が一定で、振動値が空転状態であり、電流値が上がっていない場合、対象物を切削加工していないと判断する。一方、モニタリング装置50は、振動値が小さく且つ電流値が大きいとき、工具105が大きく損傷し対象物にめり込んでおり、工具105に対する負荷が高い状態であると判断する。
【0080】
モニタリング装置50は、刻々と連続的に変動するダメージ量と実切削時間(加工時間)の積を、総合的な工具105のダメージ指標として算出する。モニタリング装置50は、新品の工具105のダメージが無いときのダメージ量を0%とし、ダメージを受けて総量としてのダメージ量が100%になる時間を特定することで、工具105の寿命を特定する。寿命を特定することにより、モニタリング装置50は、工具105の異常や加工の異常がいつ発生し得るかを判断することができる。言い換えれば、モニタリング装置50は、工具105の異常の予兆やそれに起因する加工の異常の予兆を判断することができる。モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値を同時に評価することで、工具105の消耗傾向値を、より精度高く算出できる。
【0081】
この様に、モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値を総合的に分析して、主軸102に異常が発生する前に、主軸102の異常の予兆を判断することができる。また、モニタリング装置50は、主軸102の異常の予兆を判断することで、主軸102の異常に起因する加工の異常の予兆を判断することができる。さらに、モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値を総合的に分析して、工具105に異常が発生する前に、工具105の寿命、即ち、工具105の異常の予兆を判断することができる。また、モニタリング装置50は、工具105の異常の予兆を判断することで、工具105の異常に起因する加工の異常の予兆を判断することができる。
【0082】
4-3.異常の原因の特定(ステップS3)
【0083】
モニタリング装置50は、振動値、温度値及び電流値を総合的に分析して、異常の予兆があると判断すると、振動値、温度値及び電流値のそれぞれの値に基づき、予兆があると判断された異常の原因を特定する。例えば、モニタリング装置50は、機械学習モデルを用いて異常の予兆があると判断すると、振動値、温度値及び電流値のそれぞれの値を分析し、異常の原因を特定する。
【0084】
例えば、モニタリング装置50は、工具105の異常の予兆があると判断された場合に、電流値が小さく温度値も一定であるにも拘わらず振動値が大きい場合は、工具105が摩耗し切れ味が落ちてきていることが、異常の原因であると特定することができる。例えば、モニタリング装置50は、主軸102の異常の予兆があると判断された場合に、温度値が急激に上下する場合、頻繁に主軸102が停止することが、異常の原因であると特定することができる。例えば、モニタリング装置50は、工具105の異常の予兆があると判断された場合に、振動値が小さく且つ電流値が大きいとき、工具105が大きく損傷し対象物にめり込んでいることが、異常の原因であると特定することができる。
【0085】
4-4.フィードバック(ステップS4)
【0086】
モニタリング装置50は、異常の予兆があると判断すると(ステップS2)、フィードバックを出力する。モニタリング装置50は、特定された異常の原因(ステップS3)をフィードバックとして出力してもよい。
【0087】
モニタリング装置50は、異常の予兆があると判断すると、フィードバックの出力として、停止信号や加工送り速度制御信号を、加工機100へ送信してもよい。例えば、対象物を工具105により適切な送り速度で加工するときに、主軸102に搭載された振動センサユニット10等によって常にその加工負荷状況を監視し、主軸102に装着された工具105の適切な負荷を超えたときに、モニタリング装置50は、ただちに適切な速度まで減速する。また、例えば、モニタリング装置50は、工具105の加工負荷が少なくなった場合に、適切な負荷まで送り速度を早くする制御を自動的に行う。これにより、例えば、脆性材料の対象物を加工切削する際の振動モニタリングにおいて、加工の適正状態の加工条件をフィードバックすることができ、脆性材料を適正な加工条件で切削加工し続けることができる。
【0088】
モニタリング装置50は、温度値、振動値及び電流値を複合表示し、フィードバックとして、警告や分析結果を出力する機能を有する。警告や分析結果を出力する機能は、例えば、(1)マルチデータ表示機能、(2)閾値管理及び警告機能、工具異常、加工機異常、加工品質異常機能、(3)傾向分析及びスパイク分析機能、(4)設備稼働(率)監視と劣化診断及び故障/異常予知機能、(5)設備異常管理及びメンテナンスアラート機能、(6)消費電力表示機能及び(7)始業点検機能、安全加工/立ち上げ可否判断機能等を含む。
【0089】
(1)マルチデータ表示機能によれば、図6の様に、振動値、温度値及び電流値を時間的に同期してグラフ線を重ね合わせ、1個のグラフ画像を表示することができる。
【0090】
図7は、閾値管理及び警告機能を適用した表示例を示す。
【0091】
(2)閾値管理及び警告機能は、マルチデータ表示機能のグラフ画像に、振動値、温度値及び電流値それぞれの上限値、注意域及び/又は下限値を示す管理線(閾値)を表示し異常値管理を行う。閾値は、異常値そのものではなく、異常の予兆と判断される値とすればよい。これにより、ユーザは、異常の予兆を視覚的に知ることができる。
【0092】
図8は、傾向分析及びスパイク分析機能を適用した表示例を示す。
【0093】
(3)傾向分析及びスパイク分析機能において、モニタリング装置50は、閾値線を応用して温度値等の傾向値を管理することができる。モニタリング装置50は、振動センサのスパイク(突起異常値)を、閾値線を応用して検出し、分析することができる。
【0094】
図9は、設備稼働(率)監視機能を適用した表示例を示す。
【0095】
(4)設備稼働(率)監視機能において、電流センサユニット30及び/又は振動センサユニット10を用いて加工機100の稼働時間を計測し、時系列稼働状態データや指定期間(例えば1日)の稼働状態データ等の稼働率データを提供することができる。
【0096】
図10は、設備異常管理及びメンテナンスアラート機能を適用した表示例を示す。
【0097】
(5)設備異常管理及びメンテナンスアラート機能は、振動値、温度値及び電流値が、上限値、注意域及び/又は下限値を超えた場合、警告が発信される。管理値は、上限値、注意域及び/又は下限値の様に複数設定することができ、メンテナンス予告の通知も可能である。例えば、モニタリング装置50は、温度値が下限値に満たない場合、安定域まで暖機運転をするための信号を加工機100へ送信する。例えば、モニタリング装置50は、温度値が注意域となった場合、加工機100へ一時停止信号を送信し、点検アラートを作業者に対して出力(表示、音声出力等)する。例えば、モニタリング装置50は、温度値が上限値を超えた場合、加工機100へ停止信号を送信し、異常警告やメンテナンス警告を作業者に対して出力(表示、音声出力等)する。
【0098】
図11は、消費電力表示機能を適用した表示例を示す。
【0099】
(6)消費電力表示機能において、工場内に複数の加工機100が存在する場合、複数の加工機100の電流値等から消費電力(電気料金)を算出し表示することができる。
【0100】
(7)始業点検機能、安全加工/立ち上げ可否判断機能は、振動値、温度値及び電流値に基づき始業点検の自動記録を可能とする。振動センサユニット10、温度センサユニット20及び電流センサユニット30に加え、主軸102以外の設備点検項目に適した各種センサを各所に設置して、始業点検の自動記録を可能としてもよい。設備点検項目及びそれに用いられるセンサは、例えば、主軸102やベアリングの異常音(振動センサ、電流センサ、音センサ)、主軸102の動作異常音(振動センサ、電流センサ、音センサ)、ベッド動作の異常音やXYZ移動(振動センサ、電流センサ、音センサ)、全モータの異常電流(電流センサ)、切削油量(流量センサ)、機械作動圧力(圧力センサ)が挙げられる。通常の始業点検は、作業者の五感で量産加工前に空運転で(加工せずに)加工機100の点検を実施しているが、この作業が不要又は簡略化可能となる。
【0101】
5.結語
【0102】
本実施形態によれば、加工機100の主軸ホルダ103の外面に、振動センサユニット10及び温度センサユニット20が外部から着脱可能に後付けで装着され、主軸モータに電源を供給する電源ケーブル106に電流センサユニット30が外部から着脱可能に後付けで装着される。これにより、導入済みの既存の加工機、特に古い加工機100であっても、振動センサユニット10、温度センサユニット20及び電流センサユニット30を安定的に装着し、振動値、温度値及び電流値を正確に検出することができる。また、振動値、温度値及び電流値を総合的に分析して、異常の予兆があると判断することができ、また、必要な場合はフィードバック制御することができる。
【0103】
本技術の各実施形態及び各変形例について上に説明したが、本技術は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0104】
1 モニタリングシステム
10 振動センサユニット
100 加工機
101 加工機本体
102 主軸
103 主軸ホルダ
104 主軸モータ
105 工具
106 電源ケーブル
104 ツールホルダ
11 振動センサ
12 振動通信ユニット
20 温度センサユニット
21 温度センサ
22 温度通信ユニット
30 電流センサユニット
31 電流センサ
32 電流通信ユニット
40 データ通信装置
400 処理部
410 電源部
411 電源回路
412 定電流電源
413 定電圧電源
414 出力切換器
420 A/D変換部
421 熱電対処理部
422 前処理部
423 A/D変換器
430 フロントエンド部
431 フロントエンドプロセッサ
432 RAM
440 主制御部
441 主制御モジュール
442 アンテナ
50 モニタリング装置
51 ディスプレイ
60 サーバ装置
70 作業者端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11