(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002266
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】溶湯供給装置およびダイカストマシン
(51)【国際特許分類】
B22D 17/30 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
B22D17/30 A
B22D17/30 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101357
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 史隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 章弘
(72)【発明者】
【氏名】井尻 崇
(72)【発明者】
【氏名】北川 智浩
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 藍貴
(57)【要約】
【課題】ラドル内の溶湯の温度低下を抑制できる溶湯供給装置およびダイカストマシンを提供する。
【解決手段】ダイカストマシン1のラドル51は、溶湯Mを貯留する容器52を有する。容器52の一端に溶湯口56が設けられ、容器52の他端に通気部58が設けられている。ダイカストマシン1の制御装置100は、容器52の一端を溶湯Mに浸漬し、通気部58を通じて容器52内の空気を吸引して溶湯口56を通じて溶湯Mを容器52内に進入させ、容器52内の溶湯Mの湯面高さが容器52外の溶湯Mの湯面高さに到達する前に空気の吸引を停止する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラドルと、吸引装置と、ラドル制御装置と、を有する溶湯供給装置であって、
前記ラドルが、溶湯を貯留する容器を有し、
前記容器の一端に溶湯口が設けられ、
前記容器の他端に通気部が設けられ、
前記ラドル制御装置が、
前記容器の前記一端を溶湯に浸漬し、
前記吸引装置によって前記通気部を通じて前記容器内の気体を吸引して前記溶湯口を通じて前記溶湯を前記容器内に進入させ、
前記容器内の湯面高さが前記容器外の湯面高さに到達する前に前記気体の吸引を停止する、ことを特徴とする溶湯供給装置。
【請求項2】
前記ラドル制御装置が、前記気体の吸引を停止した後、前記溶湯口が上方を向くように前記ラドルを回転させる、請求項1に記載の溶湯供給装置。
【請求項3】
前記溶湯供給装置が、前記通気部を通じて前記容器内に気体を吹き込むエアブロー装置をさらに有する、請求項1または請求項2に記載の溶湯供給装置。
【請求項4】
前記容器における前記溶湯口が設けられた部分が、窒化ケイ素で構成されている、請求項1または請求項2に記載の溶湯供給装置。
【請求項5】
前記吸引装置が、駆動シリンダ装置と、計量シリンダ装置と、を有し、
前記駆動シリンダ装置が、駆動シリンダチューブと、駆動ピストンロッドと、を有し、
前記計量シリンダ装置が、計量シリンダチューブと、計量ピストンロッドと、を有し、
前記駆動ピストンロッドと前記計量ピストンロッドとが連結され、
前記計量シリンダチューブが、前記計量ピストンロッドの移動によって容積が変化する空気室を有し、
前記空気室が、前記通気部と接続されている、請求項1または請求項2に記載の溶湯供給装置。
【請求項6】
前記容器の表面には、当該容器を構成する材料よりも溶湯の非濡れ性が高い材料が塗布されている、請求項1または請求項2に記載の溶湯供給装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の溶湯供給装置と、
前記溶湯供給装置によって金型のキャビティに射出される溶湯が供給されるスリーブと、を有することを特徴とするダイカストマシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯供給装置、および、溶湯供給装置を有するダイカストマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に従来の溶湯供給装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の溶湯供給装置は、ラドルと、ラドル内の気体を吸引する真空吸引装置と、を有している。ラドルは、溶湯を貯留する外筒と、外筒の下端から下方に延在する導管と、を有している。導管には給湯口が設けられており、給湯口は開閉手段によって開閉される。
【0004】
特許文献2の溶湯供給装置は、ラドルと、ラドルの上端を塞ぐ蓋部と、ラドルの内部空間を大気と連通/遮断する大気連通遮断手段と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-121060号公報
【特許文献2】特開平5-42354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の溶湯供給装置は、導管の下端のみ溶湯に浸漬させ、溶湯の湯面よりも高い位置まで溶湯を吸い上げる。そのため、溶湯の熱が外筒を介して大気に放出され、ラドル内の溶湯の温度が低下してしまう。
【0007】
特許文献2の溶湯供給装置は、溶湯を汲み上げるとき、大気連通遮断手段によってラドルの内部空間を大気と連通させ、ラドルを溶湯槽の溶湯に浸漬させる。ラドルの排出口の面積が、ラドルからの溶湯の漏出を抑制しかつラドルからの溶湯排出速度の低下を抑制するように選択されている。そのため、ラドルで搬送する溶湯の量が多い場合に、溶湯排出速度を上げることができず、ラドル内の溶湯の温度が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、ラドル内の溶湯の温度低下を抑制できる溶湯供給装置およびダイカストマシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る溶湯供給装置は、ラドルと、吸引装置と、ラドル制御装置と、を有する溶湯供給装置であって、前記ラドルが、溶湯を貯留する容器を有し、前記容器の一端に溶湯口が設けられ、前記容器の他端に通気部が設けられ、前記ラドル制御装置が、前記容器の前記一端を溶湯に浸漬し、前記吸引装置によって前記通気部を通じて前記容器内の気体を吸引して前記溶湯口を通じて前記溶湯を前記容器内に進入させ、前記容器内の湯面高さが前記容器外の湯面高さに到達する前に前記気体の吸引を停止する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラドルの容器の一端を溶湯に浸漬し、通気部を通じて容器内の気体を吸引して溶湯口を通じて溶湯を前記容器内に進入させる。そして、容器内の湯面高さが容器外の湯面高さに到達する前に気体の吸引を停止する。このようにしたことから、容器を溶湯から引き上げるまでは容器内の湯面高さが容器外の湯面高さより低いため、溶湯の熱が容器を介して大気に放出されることを抑制できる。そのため、ラドルの容器内の溶湯の温度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るダイカストマシンの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1のダイカストマシンが有するダイプレートおよびその近傍の断面図である。
【
図3】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である。
【
図4】
図1のダイカストマシンが有する溶湯供給機構を示す図である。
【
図5】
図4の溶湯供給機構が有する吸引装置を示す図である。
【
図6】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である(プランジャが高速前進開始位置にある状態)。
【
図7】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である(プランジャが減速開始位置にある状態)。
【
図8】金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である(プランジャが増圧開始位置にある状態)。
【
図9】
図1のダイカストマシンが有する制御装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図10】ラドルが溶湯槽の上方の位置にある状態を示す図である。
【
図11】ラドルの容器の一端が溶湯に浸漬した状態を示す図である。
【
図12】ラドルの容器内の空気を吸引した状態を示す図である。
【
図13】ラドルが回転しかつ溶湯槽の上方の位置にある状態を示す図である。
【
図14】ラドルの容器内の溶湯をスリーブに供給した状態を示す図である。
【
図15】ラドルの容器内に残った溶湯を廃棄する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るダイカストマシンについて、
図1~
図15を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るダイカストマシンの概略構成を示す図である。
図1は、ダイカストマシンの射出機構および制御装置を示す。
図2は、
図1のダイカストマシンが有するダイプレートおよびその近傍の断面図である。
図3は、金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である。
図4は、
図1のダイカストマシンが有する溶湯供給機構を示す図である。
図5は、
図4の溶湯供給機構が有する吸引装置を示す図である。
図6~
図8は、金型のキャビティおよびその近傍の拡大断面図である。
図6~
図8は、順に、プランジャが高速前進開始位置、減速開始位置、増圧開始位置にある状態を示す。
図9は、
図1のダイカストマシンが有する制御装置が実行する処理(溶湯供給処理)の一例を示すフローチャートである。
図10~
図15は、溶湯供給処理における溶湯供給機構の各状態を示す図である。
図10~
図15は、順に、ラドルが溶湯槽の上方の位置にある状態、ラドルの容器の一端が溶湯に浸漬した状態、ラドルの容器内の空気を吸引した状態、ラドルが回転しかつ溶湯槽の上方の位置にある状態、ラドルの容器内の溶湯をスリーブに供給した状態、ラドルの容器内に残った溶湯を廃棄する状態を示す。本明細書において、
図1~
図3、
図6~
図8の左側を前方とし、右側を後方としている。
【0014】
本実施形態に係るダイカストマシン1は、射出機構10と、型締機構30と、溶湯供給機構50と、制御装置100と、を有している。
【0015】
図1に示すように、射出機構10は、油圧で動作するピストン11と、ピストン11を前後方向に移動可能に収容するシリンダ12と、を有している。シリンダ12は、ピストン11により区画された後方油室13および前方油室14を有している。ピストン11には、プランジャ15が接続されている。プランジャ15は、ピストン11の前面11aから前方に延びるロッド16と、ロッド16の先端に設けられたプランジャチップ17と、を有している。
【0016】
シリンダ12の後方には、駆動伝達プレート18が配置されている。駆動伝達プレート18は、電動サーボモータ19、ならびに、駆動伝達歯車およびボールネジ機構等からなる駆動伝達機構20により前後方向に移動される。駆動伝達プレート18が前方に移動されることにより、シリンダ12が押されて前進する。駆動伝達プレート18、電動サーボモータ19および駆動伝達機構20は、電動増圧機構を構成する。なお、このような電動増圧機構に代えて、油圧によってシリンダ12を押して前進させる油圧増圧機構を有していてもよい。
【0017】
射出機構10は、アキュムレータ21を有している。アキュムレータ21は、シリンダ12の後方油室13に作動油を供給する油圧供給部である。アキュムレータ21と後方油室13とは、油路aにより接続されている。油路aには、供給バルブ22が配置されている。供給バルブ22は、アキュムレータ21と後方油室13とを連通および遮断する。本実施形態において、供給バルブ22は、ソレノイドにより弁体を駆動する電磁弁で構成される。供給バルブ22として、電磁弁以外にも、例えば、モータにより弁体を駆動するものなど、他の種類のバルブを採用してもよい。
【0018】
シリンダ12の前方油室14と作動油を蓄えるタンク23とは、油路bにより接続されている。油路bには、サーボバルブ24が配置されている。サーボバルブ24は、前方油室14からタンク23に流れる作動油の流出量を調整する。本実施形態では、サーボバルブ24によって、当該流出量(すなわち、前方油室14から排出される作動油の量)を調整することにより、プランジャ15が前進する速度を制御する(メータアウト制御)。なお、上述した供給バルブ22をサーボバルブで構成し、アキュムレータ21から後方油室13に供給される作動油の量を調整することにより、プランジャ15が前進する速度を制御してもよい(メータイン制御)。
【0019】
射出機構10は、シリンダ12の前方油室14の油圧Pfに応じた信号を出力する油圧センサ25と、プランジャ15の位置Lに応じた信号を出力する位置センサ26と、を有している。位置センサ26は、光学式、磁気式、磁歪式など公知の位置センサを用いることができる。
【0020】
図2に示すように、型締機構30は、固定金型K1が取り付けられる固定ダイプレート31と、移動金型K2が取り付けられる可動ダイプレート32と、を有している。固定ダイプレート31は、固定金型K1のランナRに連通された円筒状のスリーブ33を有している。スリーブ33には、プランジャ15が前後進可能に収容される。スリーブ33は、給湯口34が上部に形成されている。スリーブ33には、給湯口34を通じて溶湯供給機構50によって、溶湯Mが注ぎ入れられる。型締機構30は、図示しない型締駆動部によって固定ダイプレート31に対して可動ダイプレート32を進退させて、固定金型K1と移動金型K2とを型開および型閉(型締)する。
【0021】
図3に示すように、型閉された固定金型K1および移動金型K2の内部には、スリーブ33と連通されたランナRと、ランナRと連通されたキャビティCと、キャビティCと連通されたオーバーフロー部Oと、が形成される。ランナRは、キャビティCに開口されたゲートGに通じている。
【0022】
図4に示すように、溶湯供給機構50は、ラドル51と、アーム61と、吸引装置71と、エアブロー装置93と、を有している。
【0023】
ラドル51は、容器52を有している。容器52は、ボトル形状を有している。容器52は、胴部53と、肩部54と、首部55と、を有している。胴部53は、第1端(
図4において上端)が塞がれた円筒形状を有している。肩部54は、胴部53の第2端(
図4において下端)に連設されており、胴部53から離れるにしたがって細くなる中空の円錐形状を有している。首部55は、円筒形状を有しており、肩部54の先端に同軸に連設されている。首部55の先端は、その軸方向(
図4において上下方向)に対して傾斜している。首部55には、溶湯口56が形成されている。胴部53の第1端には、通気部58が設けられている。すなわち、容器52の一端に溶湯口56が設けられ、容器52の他端に通気部58が設けられている。容器52の他端は、容器52の一端の反対側にある。ラドル51の容器52内の空間59は、溶湯口56および通気部58を除いて外部と接続されておらず、大気と区画された空間である。
【0024】
容器52は、全体的に鉄などの金属またはセラミックで構成されている。この場合、容器52の表面(内面、外面)には、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、ルミキャスト(登録商標、ニチアス株式会社製))が塗布されていることが好ましい。または、容器52は、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、窒化ケイ素、マシナブルセラミックまたはケイ酸カルシウム(これらのいずれかを主成分とする材料を含む))で構成されていてもよい。首部55は、溶湯Mに対する非濡れ性が比較的高い材料(例えば、窒化ケイ素(窒化ケイ素を主成分とする材料を含む))で構成されていることが好ましい。首部55は、容器52における溶湯口56が形成された部分である。
【0025】
アーム61は、ラドル51を回転可能に支持している。アーム61は、ラドル51を図示しない溶湯槽(溶融炉ともいう)とスリーブ33と廃棄容器98(
図15)との間で移動させる。アーム61には、湯面高さセンサ62が取り付けられている。湯面高さセンサ62は、例えばレーザー変位計である。湯面高さセンサ62は、下方に向けられており、湯面高さセンサ62と溶湯Mの湯面との間の距離に応じた信号を出力する。湯面高さセンサ62が出力する信号に基づいて、容器52における湯面より下方にある部分の容積V1を計測することができる。
【0026】
吸引装置71は、ラドル51の容器52内の気体(空気)を吸引する。
図5に示すように、吸引装置71は、駆動シリンダ装置72と、計量シリンダ装置75と、を有している。駆動シリンダ装置72は、駆動シリンダチューブ73と、駆動ピストンロッド74と、を有している。駆動ピストンロッド74は、駆動シリンダチューブ73によって軸方向に移動可能に支持されている。駆動シリンダ装置72は、例えば、エアシリンダ装置である。駆動シリンダ装置72は、電動シリンダ装置でもよい。計量シリンダ装置75は、計量シリンダチューブ76と、計量ピストンロッド77と、を有している。計量ピストンロッド77は、計量シリンダチューブ76によって軸方向に移動可能に支持されている。駆動シリンダチューブ73と計量シリンダチューブ76とは平行に配置されている。
【0027】
駆動ピストンロッド74と計量ピストンロッド77とは連結部材78によって連結されている。計量ピストンロッド77は駆動ピストンロッド74と連動する。駆動ピストンロッド74が一方向(
図5において右方)に移動すると計量ピストンロッド77も一方向に移動して、計量シリンダチューブ76の空気室76aに空気が吸引される。駆動ピストンロッド74が他方向(
図5において左方)に移動すると計量ピストンロッド77も他方向に移動して、空気室76aから空気が排出される。空気室76aの容積は、計量ピストンロッド77の移動によって変化する。連結部材78(すなわち、駆動ピストンロッド74および計量ピストンロッド77)は、ストッパ79によって一方向の移動が規制される。計量シリンダ装置75は、ストッパ79の位置に応じた量の空気を空気室76aに吸引する。ストッパ79は、例えば、図示しないアクチュエータによって移動される。ストッパ79は、連結部材78(すなわち駆動ピストンロッド74および計量ピストンロッド77)が吸引前位置からストッパ79に当接する位置まで移動して容器52内の空気を空気室76aに吸引したときに、容器52内に進入する溶湯Mの量が設定量Vsとなる位置に位置付けられる。設定量Vsは、キャビティCの容積に応じて設定されている。
【0028】
計量シリンダチューブ76の空気室76aは、流路切換弁92を介して、通気部58に接続されている。流路切換弁92は、通気部58を計量シリンダチューブ76またはエアブロー装置93に選択的に接続する。エアブロー装置93は、例えば、高圧空気を供給するエアコンプレッサである。
【0029】
制御装置100は、ダイカストマシン1の全体の動作を司る。制御装置100は、例えば、CPU、ROM、RAM、EEPROM、各種I/Oインタフェースなどを有する組み込み機器用のマイクロコンピュータを有して構成されている。制御装置100は、射出機構10、型締機構30および溶湯供給機構50の動作を制御する。制御装置100は、油圧センサ25が出力した信号に基づいて前方油室14の油圧Pfを計測する。制御装置100は、位置センサ26が出力した信号に基づいてプランジャ15の位置Lおよび速度Vを計測する。制御装置100は、湯面高さセンサ62が出力した信号に基づいて、容器52における溶湯Mの湯面より下方にある部分の容積V1を計測する。制御装置100は、ラドル制御装置である。溶湯供給機構50と制御装置100とが、溶湯供給装置を構成する。制御装置100は、型閉工程、溶湯供給工程、射出工程(低速射出工程および高速射出工程)、増圧工程、型開工程および製品押出工程などの各種工程において、各種駆動部の動作を制御する。
【0030】
ダイカストマシン1は、製品成形における一連の動作として、以下の(1)~(5)の動作を行う。
【0031】
(1)固定金型K1および移動金型K2を型締する(型閉工程)。
【0032】
(2)固定ダイプレート31のスリーブ33に溶湯Mを供給する(溶湯供給工程)。
【0033】
(3)プランジャ15を前進させ、スリーブ33内の溶湯MをキャビティCに射出する(射出工程)。
【0034】
射出工程において、アキュムレータ21内の作動油の油圧を高め、供給バルブ22を開状態としてシリンダ12の後方油室13に作動油を供給し、サーボバルブ24により前方油室14から作動油を流出させて、ピストン11を前進させる。サーボバルブ24の開度によって作動油の流出量を制御し、ピストン11の前進速度を調整する。始めに、ピストン11を低速前進させ、プランジャ15が高速前進開始位置L1(
図6)に到達するとピストン11を高速前進させて、プランジャ15によりスリーブ33内の溶湯MをキャビティCに射出する。プランジャ15が減速開始位置L2(
図7)に到達するとピストン11を減速させる。減速開始位置L2は、例えば、キャビティCの全体に溶湯Mが充填される位置である。
【0035】
(4)キャビティC内の溶湯Mに圧力を加える(増圧工程)。
【0036】
増圧工程において、プランジャ15が増圧開始位置L3(
図8)に到達すると電動サーボモータ19を動作させ、駆動伝達プレート18を前進させてシリンダ12(すなわちピストン11)を押圧する。増圧開始位置L3は、例えば、キャビティCおよびオーバーフロー部Oの全体に溶湯Mが充填される位置である。高速前進開始位置L1、減速開始位置L2および増圧開始位置L3は、動作切換位置である。
【0037】
(5)固定金型K1および移動金型K2を開き(型開工程)、キャビティCから製品を押し出す(製品押出工程)。
【0038】
次に、制御装置100における本発明に係る溶湯供給処理の一例について、
図8のフローチャートおよび
図10~
図15を参照して説明する。溶湯供給処理は、溶湯供給工程において実行される。
【0039】
制御装置100は、アーム61を駆動して、ラドル51を図示しない溶湯槽の上方の位置に移動させる(S110、
図10)。このとき、溶湯口56が下方に向けられており、流路切換弁92を介して通気部58が吸引装置71(空気室76a)に接続されている。吸引装置71の連結部材78が吸引前位置にある。また、吸引装置71のストッパ79が、連結部材78が吸引前位置からストッパ79に当接する位置まで移動して容器52内の空気を空気室76aに吸引したときに、容器52内に進入する溶湯Mの量が設定量Vsとなる位置に位置付けられている。
【0040】
制御装置100は、湯面高さセンサ62が出力する信号に基づいて、容器52における溶湯Mの湯面より下方にある部分の容積V1が所定の貯留容積Vdになる位置までラドル51を下方に移動させる(S120、S130でN)。貯留容積Vdは設定量Vsより大きい。貯留容積Vdは、設定量Vsの105~150%が好ましい。このようにすることで、容器52の外面における溶湯Mに接する部分を少なくして当該外面への溶湯Mの付着を抑制しつつ、容器52内の溶湯Mの温度低下を抑制できる。本実施形態において、貯留容積Vdは設定量Vsの120%である。制御装置100は、容積V1が貯留容積Vdになると(S130でY、
図11)、ラドル51の下方への移動を停止する。制御装置100は、連結部材78を吸引前位置からストッパ79に当接するまで位置まで一方向に移動させ、通気部58を通じて容器52内の空気を空気室76aに吸引する(S140、
図12)。これにより、溶湯口56を通じてラドル51の容器52内に設定量Vsの溶湯Mが進入する。容積V1は設定量Vsより大きいので、容器52内の溶湯Mの湯面高さが容器52外の溶湯Mの湯面高さより低い。すなわち、制御装置100は、吸引装置71によって、容器52内の空気を吸引し、容器52内の溶湯Mの湯面高さが容器52外の溶湯Mの湯面高さに到達する前に空気の吸引を停止する。
【0041】
制御装置100は、アーム61を駆動して、溶湯口56が上方に向くようにラドル51を回転させる(S150、
図13)。制御装置100は、アーム61を駆動して、ラドル51をスリーブ33の上方の位置に移動させる(S160)。制御装置100は、アーム61を駆動して、ラドル51を回転させ、溶湯口56から給湯口34を通じてスリーブ33に溶湯Mを供給する(S170、
図14)。このとき、制御装置100は、吸引装置71の連結部材78を他方向に移動させて、通気部58を通じてラドル51の容器52内に空気を吐出してもよい。このようにすることで、溶湯口56から溶湯Mを速やかに排出して、容器52内の溶湯Mの温度低下を抑制できる。その後、制御装置100は、連結部材78を吸引前位置に位置付ける。
【0042】
制御装置100は、スリーブ33に溶湯Mを供給した後、アーム61を駆動して、溶湯口56が上方に向くようにラドル51を回転させる(S180)。制御装置100は、アーム61を駆動して、ラドル51を廃棄容器98の上方の位置に移動させる(S190)。制御装置100は、アーム61を駆動して、溶湯口56が下方に向くようにラドル51を回転させる(S200)。そして、制御装置100は、流路切換弁92を介して通気部58とエアブロー装置93とを接続し、エアブロー装置93によってラドル51内の空間59に空気を吹き込む(S210、
図15)。これにより、ラドル51内に残っている溶湯Mが溶湯口56から廃棄容器98に排出される。そして、制御装置100は、本処理を終了する。
【0043】
本実施形態に係るダイカストマシン1は、射出機構10と、型締機構30と、溶湯供給装置を構成する溶湯供給機構50および制御装置100と、を有する。型締機構30は、固定金型K1および移動金型K2の内部に形成されたキャビティCに射出される溶湯Mが供給されるスリーブを有する。溶湯供給機構50が、ラドル51と、吸引装置71と、を有する。ラドル51が溶湯Mを貯留する容器52を有する。容器52の一端に溶湯口56が設けられ、容器52の他端に通気部58が設けられている。制御装置100が、容器52の一端を溶湯Mに浸漬する。制御装置100が、吸引装置71によって通気部58を通じて容器52内の空気を吸引して溶湯口56を通じて溶湯Mを容器52内に進入させる。制御装置100が、容器52内の湯面高さが容器52外の湯面高さに到達する前に空気の吸引を停止する。
【0044】
このようにしたことから、容器52を溶湯Mから引き上げるまでは容器52内の湯面高さが容器52外の湯面高さより低いため、溶湯Mの熱が容器52を介して大気に放出されることを抑制できる。そのため、容器52内の溶湯Mの温度低下を抑制できる。
【0045】
また、ダイカストマシン1は、空気の吸引を停止した後、溶湯口56が上方を向くようにラドル51を回転させる。このようにすることで、溶湯口56から溶湯Mが流出することを抑制できる。なお、ラドル51の容器52および計量シリンダ装置75の空気室76aの気密を十分に確保でき、溶湯口56が下方に向いていても溶湯Mが流出することがない場合には、ダイカストマシン1は、空気の吸引を停止した後、溶湯口56が上方を向くようにラドル51を回転させなくてもよい。
【0046】
また、溶湯供給機構50が、通気部58を通じて容器52内に空気を吹き込むエアブロー装置93を有する。このようにすることで、容器52内に残った溶湯Mを排出させることができる。
【0047】
また、ラドル51の容器52の首部55が、窒化ケイ素(窒化ケイ素を主成分とする材料を含む)で構成されていることが好ましい。このようにすることで、溶湯口56の内面への溶湯Mの付着を効果的に抑制できる。
【0048】
また、吸引装置71が、駆動シリンダ装置72と、計量シリンダ装置75と、を有する。駆動シリンダ装置72が、駆動シリンダチューブ73と、駆動ピストンロッド74と、を有する。計量シリンダ装置75が、計量シリンダチューブ76と、計量ピストンロッド77と、を有する。駆動ピストンロッド74と計量ピストンロッド77とが連結されている。計量シリンダチューブ76が、計量ピストンロッド77の移動によって容積が変化する空気室76aを有する。そして、空気室76aが、通気部58と接続されている。このようにすることで、比較的簡易な構成で、通気部58を通じてラドル51の容器52内の空気を吸引できる。また、吸引装置71によって、スリーブ33に溶湯Mを供給するとき、ラドル51の容器52内に空気を吐出してもよい。このようにすることで、溶湯口56から溶湯Mを速やかに排出して、容器52内の溶湯Mの温度低下を抑制できる。
【0049】
また、ラドル51の容器52の表面には、当該容器52を構成する材料よりも溶湯Mの非濡れ性が高い材料(例えば、ルミキャスト(登録商標、ニチアス株式会社製))が塗布されていることが好ましい。または、容器52が、溶湯Mの非濡れ性が比較的高い材料(例えば、窒化ケイ素、マシナブルセラミックもしくはケイ酸カルシウム(これらのいずれかを主成分とする材料を含む))で構成されていてもよい。このようにすることで、容器52への溶湯Mの付着を効果的に抑制できる。
【0050】
上述した実施形態では、射出動作を油圧で行い、増圧動作を電動で行う構成であったが、これ以外にも、射出動作及び増圧動作を油圧で行う構成、または、射出動作および増圧動作を電動で行う構成に対して本発明を適用してもよい。
【0051】
上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…ダイカストマシン、10…射出機構、11…ピストン、11a…前面、12…シリンダ、13…後方油室、14…前方油室、15…プランジャ、16…ロッド、17…プランジャチップ、18…駆動伝達プレート、19…電動サーボモータ、20…駆動伝達機構、21…アキュムレータ、22…供給バルブ、23…タンク、24…サーボバルブ、25…油圧センサ、26…位置センサ、30…型締機構、31…固定ダイプレート、32…可動ダイプレート、33…スリーブ、34…給湯口、50…溶湯供給機構、51…ラドル、52…容器、53…胴部、54…肩部、55…首部、56…溶湯口、58…通気部、59…空間、61…アーム、62…湯面高さセンサ、71…吸引装置、72…駆動シリンダ装置、73…駆動シリンダチューブ、74…駆動ピストンロッド、75…計量シリンダ装置、76…計量シリンダチューブ、77…計量ピストンロッド、78…連結部材、79…ストッパ、92…流路切換弁、93…エアブロー装置、98…廃棄容器、100…制御装置、M…溶湯、K1…固定金型、K2…移動金型、L1…高速前進開始位置、L2…減速開始位置、L3…増圧開始位置、V1…容積、Vd…貯留容積、Vs…設定量、R…ランナ、C…キャビティ、O…オーバーフロー部、G…ゲート