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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002268
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】試料分析装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20231228BHJP
【FI】
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101359
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弥
(72)【発明者】
【氏名】田辺 伸聡
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA09
2G041LA03
2G041LA07
2G041LA12
2G041MA01
2G041MA04
2G041MA06
(57)【要約】
【課題】複数の試料にわたるイオン強度変化を利用して複数の試料の差異分析を行う。
【解決手段】m個の試料それぞれに対してn回の質量分析を行うことにより生成されたm×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストが作成される(S12)。m×n個のピークリストに基づいてテーブル58が作成される(S14)。テーブル58内の複数のイオン強度ベクトルとテンプレート66とが比較され、これにより類似度列72が作成される(S18)。類似度列72に基づいて、m×n個のマススペクトル等から、特定のピーク群が抽出される(S22)。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対してn回(但しnは1以上の整数)の質量分析を行うことにより、m×n個のマススペクトルを取得する質量分析部と、
前記m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストを作成するリスト作成部と、
前記m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルを作成するテーブル作成部であって、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルを定義するテーブル作成部と、
前記複数のイオン強度ベクトルと前記差異分析のためのテンプレートとを比較し、これにより複数の評価値を演算する比較部と、
前記複数の評価値に基づいて、前記m×n個のマススペクトル、前記m×n個のピークリスト、又は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための処理を適用する処理部と、
を含むことを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の試料分析装置において、
前記nは3以上の整数であり、
前記各イオン強度ベクトルは、前記m×n個のイオン強度の並びとして構成され、
前記テンプレートは、前記m×n個のイオン強度の並びに対応したm×n個の係数の並びとして構成された、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の試料分析装置において、
前記m×n個の係数は、前記m個の試料に対応したm個の係数セットにより構成され、
前記各係数セットは、同じ値を有するn個の係数により構成された、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
請求項3記載の試料分析装置において、
前記m個の試料には、第1試料及び第2試料が含まれ、
前記評価値は類似度であり、
前記第2試料に比べて前記第1試料により多く含まれる化合物を特定する場合には、前記テンプレートにおいて、前記第1試料に対応する各係数が有する値は、前記第2試料に対応する各係数が有する値よりも大きい、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の試料分析装置において、
前記比較部は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための複数のテンプレートを並列的に適用する、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の試料分析装置において、
前記比較部は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための複数のテンプレートを段階的に適用する、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の試料分析装置において、
前記m個の試料には、第1試料及び第2試料が含まれ、
前記差異分析のための処理には、前記m×n個のマススペクトル又は前記m×n個のピークリストに含まれる特定のピーク群を抽出する処理が含まれ、
前記特定のピーク群は、前記第2試料に比べて前記第1試料により多く含まれる化合物に対応するピーク群である、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項8】
請求項7記載の試料分析装置において、
前記差異分析のための処理には、更に、前記特定のピーク群を他のピーク群から識別できるように前記特定のピーク群を表現した画像を生成する処理が含まれる、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項9】
請求項1記載の試料分析装置において、
ユーザーの指示に基づいて前記テンプレートを作成する作成部を含む、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項10】
請求項1記載の試料分析装置において、
前記テーブルにおける特定のイオン強度ベクトルに基づいて前記テンプレートを作成する作成部を含む、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項11】
請求項1記載の試料分析装置において、
前記m個の試料は、異なる劣化度を有するm個の試料、異なる製造条件に従って製造されたm個の試料、又は、異なる評価を受けたm個の試料、である、
ことを特徴とする試料分析装置。
【請求項12】
差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対してn回(但しnは1以上の整数)の質量分析を行うことにより、m×n個のマススペクトルを取得する工程と、
前記m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストを作成する工程と、
前記m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルを作成する工程であって、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルを定義する工程と、
前記複数のイオン強度ベクトルと前記差異分析のためのテンプレートとを比較し、これにより複数の評価値を演算する工程と、
前記複数の評価値に基づいて、前記m×n個のマススペクトル、前記m×n個のピークリスト、又は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための処理を適用する工程と、
を含むことを特徴とする試料分析方法。
【請求項13】
差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対してn回(但しnは1以上の整数)の質量分析を行うことにより生成されたm×n個のマススペクトルを処理する情報処理装置において実行されるプログラムであって、
前記m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストを作成する機能と、
前記m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルを作成する機能であって、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルを定義する機能と、
前記複数のイオン強度ベクトルと前記差異分析のためのテンプレートとを比較し、これにより複数の評価値を演算する機能と、
前記複数の評価値に基づいて、前記m×n個のマススペクトル、前記m×n個のピークリスト、又は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための処理を適用する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料分析装置及び方法に関し、特に、複数の試料にわたって量的に変化している成分を特定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
差異分析においては、一般に、分析対象となった複数の試料に対して質量分析が適用され、これにより得られる複数のマススペクトルの比較により、試料間における差異が特定される。例えば、第1試料と第2試料の間において、一方の試料に含まれ他の試料には含まれない成分(化合物)が特定される。差異分析の対象となる複数の試料は、例えば、異なる劣化度を有する複数の材料、異なる製造条件の下で製造された複数の材料、又は、異なる評価を受けた複数の材料、である。
【0003】
差異分析のためのマススペクトル解析方法として、様々な方法が知られている。例えば、主成分分析法、階層クラスタリング法、等が知られている。それらの方法は、複数の試料にわたるイオン強度変化をマススペクトル解析に利用するものではない。なお、特許文献1、2には、マススペクトル解析技術が開示されている。しかし、それらの特許文献には、複数の試料にわたるイオン強度変化を利用したマススペクトル解析技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2018/020652号公報
【特許文献2】特開2019-132751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、複数の試料にわたるイオン強度変化に着目した新しい試料分析装置及び方法を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、複数の試料の関係を利用した差異分析を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る試料分析装置は、差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対してn回(但しnは1以上の整数)の質量分析を行うことにより、m×n個のマススペクトルを取得する質量分析部と、前記m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストを作成するリスト作成部と、前記m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルを作成するテーブル作成部であって、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルを定義するテーブル作成部と、前記複数のイオン強度ベクトルと前記差異分析のためのテンプレートとを比較し、これにより複数の評価値を演算する比較部と、前記複数の評価値に基づいて、前記m×n個のマススペクトル、前記m×n個のピークリスト、又は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための処理を適用する処理部と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る試料分析方法は、差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対してn回(但しnは1以上の整数)の質量分析を行うことにより、m×n個のマススペクトルを取得する工程と、前記m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストを作成する工程と、前記m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルを作成する工程であって、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルを定義する工程と、前記複数のイオン強度ベクトルと前記差異分析のためのテンプレートとを比較し、これにより複数の評価値を演算する工程と、前記複数の評価値に基づいて、前記m×n個のマススペクトル、前記m×n個のピークリスト、又は、前記複数のイオン強度ベクトルに対して、前記差異分析のための処理を適用する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数の試料にわたるイオン強度変化に着目した新しい試料分析装置及び方法を提供できる。あるいは、本発明によれば、複数の試料の関係を利用した差異分析を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る試料分析装置を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る試料分析方法を示す説明図である。
図3】ピークリストの作成を示す図である。
図4】テーブルの一例を示す図である。
図5】テンプレートの一例を示す図である。
図6】並び替えを示す図である。
図7】識別処理されたマススペクトルを示す図である。
図8】識別処理されたKMDプロットを示す図である。
図9】チャートを示す図である。
図10】テンプレートの他の例を示す図である。
図11】テンプレートセットの一例を示す図である。
図12】第1マススペクトルを示す図である。
図13】第1KMDプロットを示す図である。
図14】第2マススペクトルを示す図である。
図15】第2KMDプロットを示す図である。
図16】第3マススペクトルを示す図である。
図17】第3KMDプロットを示す図である。
図18】第2実施形態に係る試料分析方法を示す図である。
図19】第3実施形態に係る試料分析方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る試料分析装置は、質量分析部、リスト作成部、テーブル作成部、比較部、及び、処理部を有する。質量分析部は、差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対してn回(但しnは1以上の整数)の質量分析を行うことにより、m×n個のマススペクトルを取得する。リスト作成部は、m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストを作成する。テーブル作成部は、m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルを作成する。より詳しくは、テーブル作成部は、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルを定義する。比較部は、複数のイオン強度ベクトルと差異分析のためのテンプレートとを比較し、これにより複数の評価値を演算する。処理部は、複数の評価値に基づいて、m×n個のマススペクトル、m×n個のピークリスト、又は、複数のイオン強度ベクトルに対して、差異分析のための処理を適用する。
【0012】
注目するイオン強度変化(注目するイオン強度列)がテンプレートとして登録される。テンプレートがテーブル内の複数のイオン強度ベクトルと比較される。これにより得られる複数の評価値に基づいて、テンプレートとの間に一定の関係を有する複数のイオン強度ベクトルが特定され、つまり、テンプレートとの間に一定の関係を有する複数のピーク(特定のピーク群)が特定される。
【0013】
テンプレートの内容を操作することにより、様々な差異分析を行える。例えば、第1試料に含まれるが第2試料に含まれない成分の情報、時間経過に従って減少する成分の情報、時間経過に従って増加する成分の情報、等を得られる。実施形態に係る試料分析方法は、複数の試料にわたるイオン強度変化に着目した新しい試料分析方法であり、換言すれば、複数の試料についての既知又は既存の関係を利用する新しい試料分析方法である。
【0014】
イオン強度ベクトルは、m×n個のイオン強度により構成され、あるいは、m個の代表値により構成される。各代表値は、n個のイオン強度の平均値、n個のイオン強度の中央値、等である。上記の質量分析部は、後述する測定部及びマススペクトル作成器に相当する。上記のリスト作成部は、後述するピーク検出器に相当する。上記のテーブル作成部は、後述するテーブル作成器に相当する。上記の比較部は、後述する比較器に相当する。上記の処理部は、後述する処理部に相当する。
【0015】
実施形態において、nは3以上の整数である。各イオン強度ベクトルは、m×n個のイオン強度の並びとして構成され、テンプレートは、m×n個のイオン強度の並びに対応したm×n個の係数の並びとして構成される。nを3以上の整数とすることにより、ノイズの影響を低減して分析精度を高められる。
【0016】
実施形態において、m×n個の係数は、m個の試料に対応したm個の係数セットにより構成される。各係数セットは、同じ値を有するn個の係数により構成される。試料ごとのn回の測定において、測定条件の変更等によってイオン強度に変化が生じる場合、その変化をテンプレートに反映させてもよい。すなわち、各係数セットを構成するn個の係数の値を異ならせてもよい。
【0017】
実施形態において、m個の試料には、第1試料及び第2試料が含まれる。評価値は類似度である。第2試料に比べて第1試料により多く含まれる化合物を特定する場合には、テンプレートにおいて、第1試料に対応する各係数が有する値は、第2試料に対応する各係数が有する値よりも大きい。
【0018】
実施形態において、比較部は、複数のイオン強度ベクトルに対して、差異分析のための複数のテンプレートを並列的に適用する。この構成によれば、複数のピーク群を並列的に抽出できる。実施形態において、比較部は、複数のイオン強度ベクトルに対して、差異分析のための複数のテンプレートを段階的に適用する。この構成によれば、複数のピーク群を段階的に抽出できる。複数のピーク群の段階的な抽出の結果、テーブルが段階的に縮小される。
【0019】
実施形態において、m個の試料には、第1試料及び第2試料が含まれる。差異分析のための処理には、m×n個のマススペクトル又はm×n個のピークリストに含まれる特定のピーク群を抽出する処理が含まれる。特定のピーク群は、例えば、第2試料に比べて第1試料により多く含まれる化合物に対応するピーク群である。
【0020】
実施形態において、差異分析のための処理には、更に、特定のピーク群を他のピーク群から識別できるように特定のピーク群を表現した画像を生成する処理が含まれる。特定のピーク群を示す表示要素群のみを含む画像が生成されてもよいし、特定のピーク群を示す識別処理された表示要素群を含む画像が生成されてもよい。
【0021】
実施形態に係る試料分析装置は、ユーザーの指示に基づいてテンプレートを作成する作成部を含む。例えば、差異分析の目的に応じてテンプレートが作成される。あるいは、実施形態に係る試料分析装置は、テーブルにおける特定のイオン強度ベクトルに基づいてテンプレートを作成する作成部を含む。この構成によれば、ある化合物の量的変化と類似する量的変化を有する他の化合物を特定することが可能となる。
【0022】
実施形態において、m個の試料は、異なる劣化度を有するm個の試料、異なる製造条件に従って製造されたm個の試料、又は、異なる評価を受けたm個の試料、である。良品と評価された試料及び不良品と評価された試料により、m個の試料が構成されてもよい。
【0023】
実施形態に係る試料分析方法は、質量分析工程、リスト作成工程、テーブル作成工程、及び、処理工程を有する。質量分析工程では、差異分析の対象となったm個(但しmは2以上の整数)の試料それぞれに対して、n回(但しnは1以上の整数)の質量分析が行われる。これによりm×n個のマススペクトルが取得される。リスト作成工程では、m×n個のマススペクトルに基づいて、m×n個のピークリストが作成される。テーブル作成工程では、m×n個のピークリストに基づいて、複数の質量電荷比に対応する複数のイオン強度ベクトルからなるテーブルが作成される。より詳しくは、質量電荷比ごとに、m×n個のイオン強度に基づいてイオン強度ベクトルが定義される。比較工程では、複数のイオン強度ベクトルと差異分析のためのテンプレートとが比較され、これにより複数の評価値が演算される。処理工程では、複数の評価値に基づいて、m×n個のマススペクトル、m×n個のピークリスト、又は、複数のイオン強度ベクトルに対して、差異分析のための処理が適用される。
【0024】
上記試料分析方法における、リスト作成工程、テーブル作成工程、及び、処理工程は、ソフトウエアの機能として実現され得る。上記試料分析方法を実行するプログラムが、可搬型記憶媒体又はネットワークを介して、情報処理装置へインストールされる。情報処理装置の概念には、例えば、コンピュータ、マススペクトル処理装置、試料分析装置、等が含まれる。情報処理装置は、上記プログラムを格納した非一時的記憶媒体を有する。
【0025】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る試料分析装置が示されている。試料分析装置は、複数の試料に対して差異分析を実行する機能を有する。試料分析装置は、大別して、測定部10及び情報処理部12により構成される。測定部10は質量分析装置により構成され、情報処理部12は情報処理装置により構成される。
【0026】
最初に、測定部10について説明する。実施形態において、試料セット14は、m個の試料により構成される。m個の試料が測定対象である。mは2以上の整数であり、実施形態においてmは3である。より多くの試料が測定対象とされてもよい。試料ごとにn回の測定(質量分析)が実施される。nは1以上の整数であり、実施形態においてnは3である。試料ごとに、より多くの測定が実施されてもよい。ノイズによる影響や諸々の誤差を低減するために、一般に、nは3以上である。図1においては、3つの試料がA,B,Cで表現されている。符号15は、試料を管理する上での試料並び方向を示している。試料並び順と測定順を一致させてもよい。
【0027】
なお、m個の試料は、m個の劣化度に対応するm個の試料、m個の製造条件の下で製造されたm個の試料、又は、m個の評価結果に対応するm個の試料である。他のm個の試料に差異分析が適用されてもよい。
【0028】
測定部10は、イオン源16、質量分析器18、及び、イオン検出器20を有する。イオン源16において、そこに導入された試料がイオン化される。イオン化によって生じたイオンが質量分析器18へ送り出される。イオン源16として、電子イオン化法に従うイオン源、化学イオン化法に従うイオン源、等の様々なイオン源を使用し得る。
【0029】
質量分析器18は、各イオンが有する質量電荷比に従って各イオンに対して質量分析を適用するものである。質量分析器18として、飛行時間型質量分析器、四重極型質量分析器、等の各種の質量分析器を使用し得る。
【0030】
質量分析器18を通過したイオンがイオン検出器20で検出される。イオン検出器20から検出信号が出力される。検出信号は、マススペクトル情報を含む信号である。検出信号は、図示されていない信号処理回路を介して、情報処理部12へ送られる。
【0031】
次に、情報処理部12について説明する。情報処理部12は、例えば、コンピュータにより構成される。以下、最初に図1を用いて情報処理部12の構成を簡単に説明し、続いて、図2を用いて当該構成をより詳しく説明する。
【0032】
マススペクトル作成器22は、検出信号に基づいてマススペクトル(MS)を作成する。具体的には、マススペクトル作成器22は、試料ごとにn個のマススペクトルを作成する。m個の試料の質量分析の結果、m×n個のマススペクトルが作成される。各マススペクトルが積算マススペクトルであってもよい。
【0033】
記憶部24は、半導体メモリ等により構成される。記憶部24には、差異分析において生成又は処理される各種の情報が格納される。マススペクトル作成器22により生成されたm×n個のマススペクトル26が記憶部24に格納される。
【0034】
ピーク検出器28は、ピークリスト作成部として機能する。ピーク検出器28は、各マススペクトルに対してピーク検出を適用する。これにより、マススペクトルごとにピークリスト(PL)が生成される。各ピークリストは、m/z軸上に並ぶ複数のイオン強度により構成される。ピーク検出器28により生成されたm×n個のピークリスト30が記憶部24に格納される。
【0035】
テーブル作成器32は、アライメント機能、規格化機能、等を有する。テーブル作成器32により、記憶部24上にテーブル34が構築される。テーブル34は、k個のイオン強度列により構成される。kは2以上の整数である。各イオン強度列は、m×n個のイオン強度により構成される。個々のイオン強度列はイオン強度ベクトルを構成する。テーブル34は、k個のイオン強度ベクトルからなる。
【0036】
記憶部24には、1又は複数のテンプレートが登録される。図示の構成例では、3つのテンプレートT1,T2,T3が登録されており、それらによってテンプレートセット38が構成されている。テンプレート作成器36は、各テンプレートを作成するものである。ユーザーから入力器40を介して入力された情報に基づいてテンプレートが作成されてもよい。テーブル34に含まれるいずれかのイオン強度ベクトルに基づいてテンプレートが作成されてもよい。
【0037】
比較器42は、テーブル34内の複数のイオン強度ベクトルと、選択されたテンプレートとを比較し、複数の評価値としての複数の類似度を演算する。k個のイオン強度ベクトルに対応するk個の類似度により、類似度列44が生成される。類似度列44が記憶部24に格納される。3つのテンプレートが使用された場合、3つの類似度列44が生成及び格納される。
【0038】
処理部46は、図示の構成例において、抽出器48、マススペクトル処理器50、プロット作成器52、等を有する。抽出器48は、類似度列44に基づいて、複数のマススペクトル又は複数のピークリストの中において、一定の条件を満たす特定のピーク群を識別しその特定のピーク群を抽出する。マススペクトル処理器50は、特定のピーク群が識別表現されたマススペクトルを作成する。プロット作成器52は、特定のピーク群が識別表現されたKMD(Kendrick Mass Defect)プロットを作成する。KMDプロットに代えてRKM(Remainder of Kendrick Mass)プロットが作成されてもよい。KMDプロット及びRKMプロットについては後に詳述する。
【0039】
表示器54には、マススペクトル、KMDプロット、等が表示される。表示器54は、例えば、LCDにより構成される。情報処理部12は、プログラムを実行するプロセッサ(例えばCPU)を有する。上述したマススペクトル作成器22,ピーク検出器28,テーブル作成器32,比較器42,テンプレート作成器36,処理部46は、プロセッサが発揮する複数の機能に相当する。マススペクトル作成器22が測定部10内に設けられてもよい。
【0040】
図2には、実施形態に係る試料分析装置の動作が示されている。図2には、実施形態に係る試料分析方法を示すフローチャートが含まれる。
【0041】
質量分析工程S10では、m個の試料それぞれに対してn回の質量分析が実行される。これにより、m×n個のマススペクトル(MS)が生成される。ピークリスト作成工程S12では、各マススペクトルに対してピーク検出が適用され、ピークリスト(PL)が作成される。m×n個のマススペクトルからm×n個のピークリストが作成される。各ピークリストは、複数の質量電荷比(複数のm/z)に対応付けられた複数のイオン強度からなる。各イオン強度は、一般に、ピークの面積に相当する。
【0042】
テーブル作成工程S14では、m×n個のピークリストに対して、アライメント及び規格化が適用される。これにより、テーブル58が作成される。具体的には、アライメントは、各ピークリストのm/z軸に含まれる誤差を前提としつつ、m×n個のピークリストを統合することにより、テーブル58を作成する処理である。テーブル58上において、個々のm/zに対して、m×n個のイオン強度が対応付けられる。当該m×n個のイオン強度がイオン強度列を構成する。実施形態においては、k個のm/zに対応するk個のイオン強度列が構成される。kは2以上の整数であり、kは、例えば、数十、数百又は数千である。
【0043】
規格化は、例えば、横方向の規格化及び縦方向の規格化により構成される。横方向の規格化では、例えば、イオン強度列ごとに、その中の最大イオン強度を1とする条件の下で、各イオン強度が規格化される。イオン強度列ごとにイオン強度の総和を1とする条件の下で、イオン強度列が規格化されてもよい。縦方向の規格化では、例えば、縦方向に並ぶk個のイオン強度ごとに、その中の最大イオン強度を1とする条件の下で、各イオン強度が規格化される。縦方向に並ぶk個のイオン強度ごとに、イオン強度の総和を1とする条件の下で、k個のイオンが規格化されてもよい。k個のイオン強度列それら全体が一括して規格化されてもよい。
【0044】
アライメント及び規格化の実行の結果、k個のイオン強度列(k個のイオン強度ベクトル)からなるテーブル58が構成される。テーブル58における縦方向60はm/z軸に相当する。テーブル58における横軸62は、試料並び方向であり、イオン強度並び方向でもある。個々のイオン強度ベクトルは、規格化後のm×n個のイオン強度からなる。符号64は、各試料に対するn回の測定で得られたn個のイオン強度の並びを示している。その並びは測位順に相当する。符号65は、k個のイオン強度ベクトルにおける特定のイオン強度ベクトルを示している。
【0045】
比較工程S18では、k個のイオン強度ベクトルとテンプレート66とが比較される。これによりk個の類似度が演算される。各類似度は、例えば、ベクトル間のユークリッド距離である。ユークリッド距離が0の場合に類似度最大となる。2つのベクトルの関係を評価する他の評価値が演算されてもよい。k個のイオン強度ベクトルに対応するk個の類似度により、類似度列72が構成される。
【0046】
テンプレート66は、m×n個の係数により構成される。各係数は例えば0~1の間の値を有する。符号68が示すように、ユーザーにより各係数の値が指定されてもよい。例えば、試料Aに含まれ且つ試料B、Cには含まれない成分を特定するためのテンプレートが指定されてもよいし、試料A、Bには含まれず且つ試料Cに含まれる成分を特定するためのテンプレートが指定されてもよい。符号70が示すように、いずれかの既存のイオン強度ベクトルがテンプレートとされてもよい。例えば、化合物αのイオン強度変化と同じイオン強度変化を有する化合物βを特定したい場合、化合物αに対応するイオン強度ベクトルをテンプレートにし得る。既存のイオン強度ベクトルの加工又は修正によりテンプレートが作成されてもよい。
【0047】
並び替え工程S20では、類似度列72に基づいて、k個のイオン強度ベクトルが類似度順で並び変えられる。最大の類似度に対応するイオン強度ベクトルが最上位に配置される。これにより並び替え後のテーブル58Aが構成される。符号72Aは、並び替え後の類似度列を示している。並び替え工程S20を省略してもよい。
【0048】
ピーク群抽出工程S22では、並び替え後のテーブル58Aにおいて、符号74が示すように、閾値以上の類似度を有する複数のイオン強度ベクトルが特定され、それらに対応する複数のピークが特定のピーク群として識別される。例えば、試料Aだけに含まれる化合物Xを特定するためのテンプレートが使用された場合、試料Aに対応するn個のマススペクトル又はn個のピークリストに含まれる(化合物Xに対応する)特定のピーク群が識別された上で、特定のピーク群(実際には特定のイオン強度群)が抽出される。特定のピーク群は、識別表示対象となるものである。ピーク群の抽出は、ピーク群の分類とも言い得る。
【0049】
ピーク群の識別及び抽出に先立って、注目する試料から取得されたn個のマススペクトルに基づいて平均マススペクトルが作成されてもよいし、注目する試料に対応するn個のピークリストに基づいて平均ピークリストが作成されてもよい。n個のマススペクトルの中から選択された代表マススペクトル、又は、n個のピークリストの中から選択された代表ピークリストから、特定のピーク群が抽出されてもよい。特定のピーク群の抽出後に、n個のピークごとに平均値が演算されてもよい。
【0050】
画像形成工程S24では、差異分析の結果を表す画像が形成される。例えば、特定のピーク群を含むマススペクトルが作成される。その場合、例えば、特定のピーク群が所定の色相で識別表現され、他のピーク群がグレー表現されてもよい。特定のピーク群のみを含むマススペクトルが作成されてもよい。
【0051】
画像形成工程S24において、特定のピーク群を含むKMDプロット78又はRKMプロット80が作成されてもよい。その場合、特定のピーク群を表す特定の表示要素群が所定の色相で識別表現され、他のピーク群を表す表示要素群がグレー表現されてもよい。特定のピーク群に対応する特定の表示要素群のみを含むKMDプロット78又はRKMプロット80が作成されてもよい。特定されたピーク群を表現する画像として多様な画像を採用し得る。なお、特定されたピーク群に基づく組成分析により、差異分析結果として特定の化合物が特定されてもよい。ピーク群抽出工程S22及び画像形成工程S24は処理工程に相当する。
【0052】
本実施形態に係る試料分析方法を、具体例を示しつつ、更に説明する。
【0053】
図3には、ピークリストの作成が示されている。マススぺクトルMS1に対してピーク検出を適用することにより、ピークリストPL1が作成される。ピークリストPL1は、複数のm/zに対応付けられた複数のイオン強度により構成される。
【0054】
図4には、テーブルの一例が示されている。図示されたテーブル58は、k個のm/zに対応付けられたk個のイオン強度ベクトル90により構成される。各イオン強度ベクトル90は、m×n個(具体的には9個)の規格化後のイオン強度94により構成される。なお、図4において、A,B,Cは試料A、試料B、試料Cを示している。A1,A2,A3は、試料Aの1回目の測定、試料Aの2回目の測定、試料Aの3回目の測定を示している。B1,B2,B3及びC1,C2,C3も同様である。
【0055】
図5には、テンプレートの一例が示されている。図示されたテンプレート66は、3つの試料A,B,Cに対してそれぞれ3回の質量分析を行う場合において、試料Aに含まれるが試料B,Cには含まれない(又はあまり含まれない)成分を特定するためのテンプレートである。
【0056】
具体的には、テンプレート66は、m×n個(具体的には9個)の係数100により構成される。係数並び方向98は、上述したイオン強度並び方向に対応する。別の見方をすると、テンプレート66は、3つの試料に対応した3つの係数セットにより構成され、各係数セットは3つの係数からなる。各係数セットにおいては、3つの係数に同じ値が与えられている。具体的には、試料Aに対応する3つの係数にはそれぞれ1が与えられており、試料Bに対応する3つの係数及び試料Cに対応する3つの係数にはそれぞれ0が与えられている。符号66Aは、テンプレート66を表すグラフを示している。図5に示すテンプレートは一例であり、差異分析の目的に応じて多様なテンプレートを使用し得る。
【0057】
図6には、並び替えの具体例が示されている。テーブル58は、既に説明したように、k個のm/zに対応するk個のイオン強度ベクトルにより構成される。類似度列72は、k個のイオン強度ベクトルについて演算されたk個の類似度により構成される。
【0058】
並び替え後において、テーブル58A及び類似度列72Aが生じる。符号74は、閾値以上の類似度が演算された複数のイオン強度ベクトルを示している。例えば、図5に示したテンプレートが使用された場合、符号102で示すエリアに属する複数のピークが特定のピーク群として抽出される。その抽出に先立って、又は、その抽出後に、m/zごとに3つのイオン強度の平均値が演算される。
【0059】
図7には、識別表現された特定のピーク群を含むマススペクトルが示されている。マススペクトル106において、横軸はm/z軸であり、縦軸は強度軸である。特定のピーク群に属するピーク108が濃く表現されており、特定のピーク群に属しないピーク110が薄く表現されている。マススペクトル106の観察により、例えば、試料Aのみに含まれる成分を識別し得る。
【0060】
KMDプロットの説明に先立って、KMD解析について説明しておく。KMD解析は、ポリマー試料のマススペクトルを解析する方法である。ある重合度nを有するポリマーの質量(分子量)Mは、例えば、以下のように表現される。
M=Mr×n+Me+Mc ・・・(1)
【0061】
上記質量Mは観測質量とも言い得る。ここで、Meは末端基の質量(分子に2つの末端基が含まれる場合にはそれらの質量の合計値)であり、Mcはイオン化に先立ってカチオン化剤が添加された場合における付加部分の質量である。z=1つまり1価を前提とした場合、マススペクトルにおける各ピークのm/zから各分子の質量が特定される。
【0062】
ケンドリックマス(KM)は以下のように定義される。
KM=M×Mri/Mr ・・・(2)
【0063】
ここで、Mriは、モノマー(繰り返し単位)の整数質量であり、Mrはモノマーの精密質量である。上記(2)式において、ポリマーの質量Mに対して乗算される係数(Mri/Mr)は、モノマーの精密質量(例えば58.42)を整数質量(例えば58)に換算する作用を有する。
【0064】
上記(2)式中のMに対して(1)式の右辺を代入すると、以下のようになる。
KM=(Mr×n+Me+Mc) ×Mri/Mr ・・・(3-1)
=Mri×n+(Me+Mc)×Mri/Mr ・・・(3-2)
=Mri×n+(B+b) ・・・(3-3)
【0065】
ここで、Mri×nは整数値である。大文字Bは(Me+Mc)×Mri/Mrにおける整数部分を示しており、小文字bは(Me+Mc)×Mri/Mrにおける小数部分を示している。
【0066】
ノミナルケンドリックマス(NKM)は、上記KMの小数点以下(つまりb)に対して四捨五入を適用することにより得られる整数値である。具体的には、以下のとおりである。
NKM=Mri×n+B+1 (b≧0.5) ・・・(4-1)
=Mri×n+B (b<0.5) ・・・(4-2)
【0067】
ケンドリックマスディフェクト(KMD)は、以下のように定義される。KMDは、整数値からの不足分又は欠損分に相当する。
KMD=NKM-KM ・・・(5-1)
=1-b (b≧0.5) ・・・(5-2)
=-b (b<0.5) ・・・(5-3)
【0068】
KMD解析では、NKMを表す横軸とKMDを表す縦軸とで定義される二次元座標系に対して、ポリマー試料のマススペクトルに含まれる複数のピークに対応する複数の要素(例えば円)が配置される。これにより、KMDプロットが生成される。例えば、各要素のサイズにより各ピークの強度が表現される。KMDプロットにおいて、ポリマーシリーズを構成する複数のピークに対応する複数の要素は、横軸に平行に均等間隔で並ぶ。その間隔は繰り返し単位に相当する。KMDプロットにおいては、重合度の大小は縦軸方向の位置に影響を与えなくなる。なお、幾つかの文献の中には、KMの整数部分がNKMであるとする簡略化された説明も見受けられる。一般に、KMDは-0.5から+0.5までの間の値をとる。
【0069】
KMDを表す縦軸に代えて、リメインダーオブケンドリックマス(RKM)を表す縦軸が採用されることもある。その場合、RKMプロットが生成される。RKMは、以下のように定義される。
RKM=KM/Mri-Floor(KM/Mri) ・・・(6)
【0070】
ここで、Floor(X)は、Xにおける小数点以下を切り捨てる演算子である。上記(6)式中のKMに対して、上記(3-2)式を代入すると、以下のようになる。
RKM={n+(Me+Mc)/Mr}-Floor{n+(Me+Mc)/Mr} ・・・(7)
【0071】
上記のnは上記(7)式において消去できる。結局、RKMは以下のように表現される。
RKM=(Me+Mc)/Mr-Floor{(Me+Mc)/Mr} ・・・(8)
【0072】
RKMは、末端基の質量とカチオン化剤の質量の合計値を繰り返し単位の質量で除して得られる値における小数である。RKMも重合度nに依存しない値である。一般に、RKMは、0から1.0までの間の値をとる。
【0073】
RKMプロットの横軸はKMを示し、その縦軸はRKMを示す。RKMプロットにおいても、KMDプロット同様、ポリマーシリーズに相当する複数の要素が横軸と並行に等間隔で並ぶ。
【0074】
図8には、実施形態において作成されるKMDプロットの具体例が示されている。横軸はNKM軸であり、縦軸はKMD軸である。図示されたKMDプロット110において、上記の特定のピーク群が複数の黒い円112で表現されており、特定のピーク群以外の複数のピークが複数の白い円114で表現されている。KMDプロット110によれば、例えば、試料Aのみに含まれるポリマーを容易に特定し得る。
【0075】
図9に示すチャートが表示されてもよい。そのチャートには、テンプレートを示すグラフ116とイオン強度ベクトルを示すグラフ118とが含まれる。横軸は、係数番号及びイオン強度番号を示している。左側の縦軸はイオン強度を示しており、右側の縦軸は係数の値を示している。なお、イオン強度として、最大値を100%とする相対強度を示してもよい。グラフ116を構成する9個の要素116aが9個の係数を示しており、グラフ118を構成する9個の要素118aが9個のイオン強度を示している。このチャートの観察により、類似度を視覚的に認識することが可能である。特定のピーク群の中から選択されたピークについて図9に示したチャートが表示される。ピーク群を構成する複数のイオン強度ベクトルから平均ベクトルを演算し、それをチャート上に表現してもよい。
【0076】
図10には、テンプレートの他の例が示されている。図10の上段には劣化曲線120が示されている。横軸は時間軸であり、縦軸は劣化度を示している。例えば、3つのタイミングt1,t2,t3において3つの試料がサンプリングされる。それらの試料に対して差異分析が適用される。
【0077】
例えば、時間の経過に伴って徐々に減少する成分を特定したい場合、図10の下段に示されているテンプレート122を使用し得る。テンプレート122は、3つの試料に対応する3つの係数セットにより構成される。第1試料に対応する第1係数セットを構成する3つの係数には1が与えられており、第2試料に対応する第2係数セットを構成する3つの係数には0.5が与えられており、第3試料に対応する第3係数セットを構成する3つの係数には0が与えられている。グラフ122Aはテンプレートを示すグラフである。
【0078】
図11には、テンプレートセットの一例が示されている。図示されたテンプレートセット124は、第1テンプレート124-1、第2テンプレート124-2、及び、第3テンプレート124-3により構成される。測定対象は、試料A、試料B及び試料Cである。符号126Aは試料Aに対応する区間を示しており、符号126Bは試料Bに対応する区間を示しており、符号126Cは試料Cに対応する区間を示している。第1テンプレート124-1は、もっぱら試料Aのみに含まれる成分を特定するためのものである。第2テンプレート124-2は、もっぱら試料Bのみに含まれる成分を特定するためのものである。第3テンプレート124-3は、もっぱら試料Cのみに含まれる成分を特定するためのものである。3つのテンプレート124-1,124-2,124-3が並列的に適用される。
【0079】
第1テンプレートを使用した場合、例えば、図12に示されるマススペクトル126や図13に示されるKMDプロット128が作成及び表示される。マススペクトル126及びKMDプロット128は、第1テンプレートの使用により抽出された第1のピーク群のみを示している。
【0080】
第2テンプレートを使用した場合、例えば、図14に示されるマススペクトル130や図15に示されるKMDプロット132が作成及び表示される。マススペクトル130及びKMDプロット132は、第2テンプレートの使用により抽出された第2のピーク群のみを示している。
【0081】
第3テンプレートを使用した場合、例えば、図16に示されるマススペクトル134や図17に示されるKMDプロット136が作成及び表示される。マススペクトル134及びKMDプロット136は、第3テンプレートの使用により抽出された第3のピーク群のみを示している。
【0082】
図18には、第2実施形態に係る試料分析方法が示されている。3つの試料それぞれに対して3回の質量分析が実施される。つまり、m=3,n=3である。テーブル137は、k個のm/zに対応するk個のイオン強度ベクトルにより構成される。第2実施形態では、個々のイオン強度ベクトルが3つのイオン強度により構成される。各イオン強度140は、3つのイオン強度の平均値である。すなわち、m/zごとに、且つ、試料ごとに、3つのイオン強度の平均値が演算される。
【0083】
テンプレート138は、3つの試料に対応する3つの係数142により構成される。テンプレート138がk個のイオン強度ベクトルと比較される。これによりk個の類似度が求められる。k個の類似度に基づいて、特定のピーク群が特定される。
【0084】
図19には、第3実施形態に係る試料分析方法が示されている。3つの試料それぞれに対して3つの質量分析が実施される。つまり、m=3,n=3である。テーブル144は、図6に示したテーブルと同様の構成を有する。比較工程は、複数のサブ工程により構成される。以下に説明するように複数にテンプレートが段階的に適用される。
【0085】
具体的には、第1サブ工程(A)において、第1テンプレート146が利用され、これにより第1類似度列152が生成される。第1類似度列152に基づいて、第1のピーク群が特定される。第1テンプレート146は、ユーザーの指示に基づいて作成され(符号150を参照)、あるいは、テーブル144内の特定のイオン強度ベクトルに基づいて作成される(符号152を参照)。
【0086】
第2サブ工程(B)においては、テーブル144から第1のピーク群に相当する複数のイオン強度ベクトルを除外することによりテーブル144Aが作成され、それが使用される。その場合、例えば、テーブル144Aに含まれる特定の残留イオン強度ベクトルが第2テンプレート154として用いられる(符号158を参照)。第2サブ工程(B)において、ユーザーの指示に基づいて第2テンプレートが作成されてもよい。
【0087】
テーブル144A内の複数のイオン強度ベクトルと第2テンプレート154とが比較され、第2類似度列152Aが作成される。第2類似度列152Aに基づいて第2のピーク群が特定される。必要に応じて、更に、第3サブ工程等が実行される。第3実施形態によれば、複数のピーク群を精度良く段階的に抽出できる。
【符号の説明】
【0088】
10 測定部、12 情報処理部、14 試料セット、22 マススペクトル作成器、24 記憶部、32 テーブル作成器、36 テンプレート作成器、42 比較器、46 処理部、48 抽出器、50 マススペクトル処理器、52 プロット作成器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19