(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024022685
(43)【公開日】2024-02-19
(54)【発明の名称】あと施工アンカーの撤去装置
(51)【国際特許分類】
B25B 29/00 20060101AFI20240209BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B25B29/00
E04B1/41 503G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022125970
(22)【出願日】2022-08-06
(71)【出願人】
【識別番号】599032349
【氏名又は名称】株式会社テス
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】津山 康吉
(72)【発明者】
【氏名】蔦 守隆
【テーマコード(参考)】
2E125
3C031
【Fターム(参考)】
2E125BA17
2E125CA05
2E125CA74
2E125EB12
3C031DD08
3C031DD21
3C031DD24
(57)【要約】
【課題】作業性が良く安価で簡単な構造によってあと施工アンカーを容易に短時間で撤去することができるあと施工アンカーの撤去装置を提供する。
【解決手段】撤去装置7は、アンカー本体4に芯棒5を打ち込み、アンカー本体4の底部4bを拡張させて、アンカー本体4を母材1に定着させるアンカー3を撤去する装置である。挟み込み部8A,8Bは、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に隙間が形成されるように、これらの間に差し込まれて芯棒5を挟み込む。てこ部14A,14Bは、挟み込み部8A,8Bが芯棒5を挟み込むための力と、芯棒5を挟み込んだ状態で芯棒5を引き抜くための力とを作業者によって作用させる。屈曲部9A,9Bは、挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bと挟み込み部8A,8Bの基部8c,8dとの間で、挟み込み部8A,8Bを鈍角に屈曲させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカー本体に芯棒を打ち込み、このアンカー本体の底部を拡張させて、このアンカー本体を母材に定着させるあと施工アンカーの撤去装置であって、
前記アンカー本体の頭部と前記芯棒の頭部との間に隙間が形成されるように、これらの間に差し込まれてこの芯棒を挟み込む挟み込み部と、
前記挟み込み部が前記芯棒を挟み込むための力と、前記芯棒を挟み込んだ状態でこの芯棒を引き抜くための力とを作業者が作用させるてこ部と、
を備えるあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項2】
アンカー本体に芯棒を打ち込み、このアンカー本体の底部を拡張させて、このアンカー本体を母材に定着させるあと施工アンカーの撤去装置であって、
前記アンカー本体の外周部に形成された切込部を前記芯棒とともに挟み込む挟み込み部と、
前記切込部及び前記芯棒を前記挟み込み部が挟み込むための力と、前記切込部及び前記芯棒を挟み込んだ状態で、前記アンカー本体を破断させてこのアンカー本体からこの芯棒を引き抜くための力とを作業者が作用させるてこ部と、
を備えるあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
前記挟み込み部は、前記芯棒を引き抜いた後の前記アンカー本体を挟み込み、
前記てこ部は、前記挟み込み部が前記アンカー本体を挟み込むための力と、前記アンカー本体を挟み込んだ状態でこのアンカー本体を引き抜くための力とを作業者が作用させること、
を特徴とするあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
前記挟み込み部の刃先部とこの挟み込み部の基部との間で、この挟み込み部が鈍角に屈曲する屈曲部を備えること、
を特徴とするあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
前記挟み込み部を作用点として力が作用し、前記てこ部を力点として力が加わるように、この作用点とこの力点との間で前記母材の表面と接触して、この挟み込み部を支える支点部を備えること、
を特徴とするあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項6】
請求項5に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
前記支点部と前記挟み込み部との間の間隔を調整する間隔調整部を備えること、
を特徴とするあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
前記挟み込み部の挟み込み量を調整する挟み込み量調整部を備えること、
を特徴とするあと施工アンカーの撤去装置。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
前記挟み込み部は、前記母材の表面に対してほぼ平行な平行面と、この平行面に対して傾斜する傾斜面とを有する片刃構造の刃先部を備えること、
を特徴とするあと施工アンカーの撤去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンカー本体に芯棒を打ち込み、このアンカー本体の底部を拡張させて、このアンカー本体を母材に定着させるあと施工アンカーの撤去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
削孔したコンクリートにアンカー本体を差し込み、このアンカー本体に芯棒を打ち込みくさび状に作用させることでアンカー底部を拡幅させて、コンクリートに対して抵抗を生じさせて十分な引き抜き強度を得られる芯棒打込み式あと施工アンカーがある。従来の拡開アンカーの施工方法(以下、従来技術1という)は、コンクリート躯体などの母材に穿孔された下穴に、貫通孔を有する筒状のアンカー本体を挿入し、このアンカー本体の貫通孔に芯棒を挿入してアンカー本体を下穴に固定している(例えば、特許文献1参照)。この従来技術1では、アンカー本体の先端部が長さ方向に沿って複数のスリットによって複数の突片状の拡張部に分割されており、アンカー本体に芯棒を挿入することによって、アンカー本体の拡張部を内側から拡張させて、下穴にアンカー本体を固定している。近年、構造物の維持管理の高度化などから不必要なアンカーの完全撤去を求められるケースが増えている。
【0003】
従来技術1では、アンカー本体の撤去を考慮していないため、芯棒は主に拡張部におけるアンカー本体との強い摩擦抵抗で固定され、かつ、アンカー本体の頭部と芯棒の頭部とが密着している。このため、アンカー本体を下穴から撤去するには拡張部の摩擦抵抗を上回る引張力で芯棒を引き抜き、アンカー本体の拡幅を減じなければならない。アンカー本体の拡幅を減じずに無理にアンカー本体を引き抜いた場合、コンクリートとのせん断抵抗によりコンクリートを破損させることになる。
【0004】
アンカー本体の頭部と芯棒の頭部との間に隙間があり引っ掛かりを得られる場合には、釘抜などを用いて芯棒を引き抜くことができるが、5~15分程度の作業時間を要する。アンカー本体の頭部と芯棒の頭部との間に隙間がない場合には、高い頻度で引き抜きに失敗する。このため、ディスクサンダなどによってコンクリート面でアンカー本体及び芯棒を切断し、残存するアンカー本体及び芯棒をコンクリートによって埋めるいわゆる埋め殺しをすることになっていた。このような従来の芯棒打込み式あと施工アンカーでは、アンカー本体から芯棒を引く抜くために種々の装置が提案されている。
【0005】
従来のアンカー打込用当盤(以下、従来技術2という)は、アンカー本体の首下の隙間に差し込まれる二股状鉤部と、この二股状鉤部を取り付ける昇降板と、この昇降板を上昇させるハンドルなどを備えている(例えば、特許文献2参照)。この従来技術2は、アンカー本体が首下まで完全に入り込まなかったときに、アンカー本体の首下の隙間に二股状鉤部を差し込み、作業者がハンドルを回転操作することによって二股状鉤部が上昇して、アンカー本体を引き抜いている。
【0006】
従来のアンカー引抜具(以下、従来技術3という)は、芯棒打込み式アンカーの芯棒の頭部を保持する芯棒保持部を先端部に有する引抜部材と、この引抜部材を本体部材に沿って移動させる移動部材と、芯棒の頭部を芯棒保持部が保持する力を増強させる増締手段などを備えている(例えば、特許文献3参照)。この従来技術3は、芯棒の頭部に引抜部材の先端面を接触させた状態で、引抜部材の後端部をハンマーなどで叩き、引抜部材の芯棒保持部に芯棒の頭部を嵌め込んでいる。従来技術3は、移動部材を回転させて、アンカー本体が取り付けられている床面などに本体部材の底面を当接させた後に、六角レンチなどによって増締部材を締め付けて引抜部材の芯棒保持部を芯棒の頭部に噛み込ませている。従来技術3は、芯棒保持部によって芯棒の頭部を保持した状態で、移動部材をレンチなどによって回転させて、アンカー本体から離間する方向に引抜部材を移動させてアンカー本体から芯棒を引き抜いている。
【0007】
従来の引抜工具(以下、従来技術4という)は、アンカーの芯棒を保持する第一保持部と、この第一保持部が嵌合することによってこの第一保持部を窄ませて、この第一保持部に芯棒を把持させる把持部材と、この第一保持部が連結されて芯棒を引き抜く引抜力をこの第一保持部を介して芯棒に伝達するシャフト部と、このシャフト部の長さ方向に沿って摺動可能な可動部と、この可動部に打撃されるつば部などを備えている(例えば、特許文献4参照)。この従来技術4は、アンカー本体の上部に第一保持部を被せ、この第一保持部を把持部材に嵌合させることによってこの第一保持部に芯棒の頭部を保持させている。従来技術4は、アンカー本体の頭部と芯棒の頭部との間に第一保持部の突起片を食い込ませた状態で、作業者が可動部を摺動させてつば部にこの可動部を打撃し、芯棒を引き抜く引抜力を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【0009】
【0010】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術2は、アンカー本体の打ち込みが不完全でアンカー本体の首下に隙間があるときに、アンカー本体の首下の隙間に二股状鉤部を差し込んでいる。このため、従来技術2では、アンカー本体の打ち込みが完全でアンカー本体の首下に隙間がないときには、アンカー本体の首下に二股状鉤部を差し込むことができず、アンカー本体を引き抜くことができない問題点がある。また、従来技術2では、二股状鉤部を当盤本体に昇降板を介して昇降自在に取り付ける構造であり、当盤本体が大型化し当盤本体の着脱に手間がかかる問題点がある。
【0013】
従来技術3は、引抜部材の芯棒保持部に芯棒の頭部を保持するときに、芯棒の頭部が本体部材の下端に覆われている。このため、従来技術3では、引抜部材の芯棒保持部に芯棒の頭部を正確に位置決めすることが困難であるとともに、引抜部材の芯棒保持部に芯棒の頭部が確実に保持されているか作業者による視認が困難であり、芯棒保持部による芯棒の頭部の保持が不完全になりやすい問題点がある。また、従来技術3では、六角レンチなどによって増締部材を締め付けて引抜部材の芯棒保持部を芯棒の頭部に噛み込ませている。このため、従来技術3は、引抜部材の後端部をハンマーで叩く作業や、六角レンチなどによって増締部材を締め付ける作業や、移動部材をレンチなどによって回転させる作業のように、複数の工具を使い分けて使用する必要があるとともに、部材の組み替える作業が合計3回以上もあり、作業に手間がかかる問題点がある。
【0014】
従来技術4は、作業者が可動部を摺動させて、つば部に可動部を衝突させて打撃を加え、芯棒を引き抜く引抜力を発生させている。このため、従来技術4では、引抜力が衝撃的であるため第一保持部の突起片が芯棒から外れて第一保持部によって芯棒を保持することができず、第一保持部が芯棒から外れたときには作業者に不安定な力を作用させ、高所作業などにおいて作業者が危険な状態になる問題点がある。また、従来技術4では、把持部材に第一保持部を嵌合させてこの第一保持部を窄ませて、アンカー本体の頭部と芯棒の頭部との間に第一保持部の突起片を食い込ませる構造である。このため、従来技術4では、アンカー本体の頭部と芯棒の頭部とが強固に密着しているときには、把持部材に第一保持部を嵌合させるだけでは、アンカー本体の頭部と芯棒の頭部との間に第一保持部の突起片を食い込ませることができない問題点がある。
【0015】
この発明の課題は、作業性が良く安価で簡単な構造によってあと施工アンカーを容易に短時間で撤去することができるあと施工アンカーの撤去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図4~
図6、
図8及び
図9に示すように、アンカー本体(4)に芯棒(5)を打ち込み、このアンカー本体の底部(4b)を拡張させて、このアンカー本体を母材(1)に定着させるあと施工アンカーの撤去装置であって、前記アンカー本体の頭部(4a)と前記芯棒の頭部(5a)との間に隙間が形成されるように、これらの間に差し込まれてこの芯棒を挟み込む挟み込み部(8A,8B)と、前記挟み込み部が前記芯棒を挟み込むための力と、前記芯棒を挟み込んだ状態でこの芯棒を引き抜くための力とを作業者が作用させるてこ部(14A,14B)とを備えるあと施工アンカーの撤去装置(7)である。
【0017】
請求項2の発明は、
図4~
図6、
図8、
図9、
図12及び
図13に示すように、アンカー本体(4)に芯棒(5)を打ち込み、このアンカー本体の底部(4b)を拡張させて、このアンカー本体を母材(1)に定着させるあと施工アンカーの撤去装置であって、前記アンカー本体の外周部に形成された切込部(4g)を前記芯棒とともに挟み込む挟み込み部(8A,8B)と、前記切込部及び前記芯棒を前記挟み込み部が挟み込むための力と、前記切込部及び前記芯棒を挟み込んだ状態で、前記アンカー本体を破断させてこのアンカー本体からこの芯棒を引き抜くための力とを作業者が作用させるてこ部(14A,14B)とを備えるあと施工アンカーの撤去装置(7)である。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
図10及び
図11に示すように、前記挟み込み部は、前記芯棒を引き抜いた後の前記アンカー本体を挟み込み、前記てこ部は、前記挟み込み部が前記アンカー本体を挟み込むための力と、前記アンカー本体を挟み込んだ状態でこのアンカー本体を引き抜くための力とを作業者が作用させることを特徴とするあと施工アンカーの撤去装置である。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
図4~
図7、
図9及び
図11に示すように、前記挟み込み部の刃先部(8a,8b)とこの挟み込み部の基部(8c,8d)との間で、この挟み込み部が鈍角に屈曲する屈曲部(9A,9B)を備えることを特徴とするあと施工アンカーの撤去装置である。
【0020】
請求項5の発明は、請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
図4及び
図8~
図14に示すように、前記挟み込み部を作用点として力が作用し、前記てこ部を力点として力が加わるように、この作用点とこの力点との間で前記母材の表面と接触して、この挟み込み部を支える支点部(12A,12B)を備えることを特徴とするあと施工アンカーの撤去装置である。
【0021】
請求項6の発明は、請求項5に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
図7、
図8、
図10、
図13及び
図14に示すように、前記支点部と前記挟み込み部との間の間隔を調整する間隔調整部(13A,13B)を備えることを特徴とするあと施工アンカーの撤去装置である。
【0022】
請求項7の発明は、請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
図4~
図6に示すように、前記挟み込み部の挟み込み量を調整する挟み込み量調整部(19)を備えることを特徴とするあと施工アンカーの撤去装置である。
【0023】
請求項8の発明は、請求項1又は請求項2に記載のあと施工アンカーの撤去装置において、
図8及び
図14(A)に示すように、前記挟み込み部は、前記母材の表面に対してほぼ平行な平行面(8e)と、この平行面に対して傾斜する傾斜面(8f)とを有する片刃構造の刃先部(8a,8b)を備えることを特徴とするあと施工アンカーの撤去装置である。
【発明の効果】
【0024】
この発明によると、作業性が良く安価で簡単な構造によってあと施工アンカーを容易に短時間で撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】この発明の第1実施形態に係るアンカーの撤去装置によって撤去されるアンカーの定着前の状態を示す外観図であり、(A)は側面図であり、(B)は(A)のI-IB線で切断した状態を示す断面図である。
【
図2】この発明の第1実施形態に係るアンカーの撤去装置によって撤去されるアンカーの定着後の状態を示す外観図であり、(A)は側面図であり、(B)は(A)のII-IIB線で切断した状態を示す断面図である。
【
図3】この発明の第1実施形態に係るアンカーの撤去装置によって撤去されるアンカーの施工工程を示す模式図であり、(A)は穿孔工程の模式図であり、(B)は挿入工程の模式図であり、(C)は打ち込み工程の模式図であり、(D)は締結工程を示す模式図である。
【
図4】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置を模式的に示す斜視図である。
【
図5】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置の刃先部を閉じた状態を模式的に示す平面図である。
【
図6】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置の刃先部を開いた状態を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図5のVII-VII線で切断した状態を示す断面図である。
【
図8】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置による芯棒の引き抜き動作を説明するための模式図であり、(A)はアンカー本体の頭部と芯棒の頭部との間に刃先部を接触させた状態を示す模式図であり、(B)はこれらの間に刃先部を差し込んだ状態を示す模式図であり、(C)は芯棒を刃先部によって挟み込んだ状態を示す模式図であり、(D)は芯棒を刃先部によって引き抜いている状態を示す模式図である。
【
図9】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置による芯棒の引き抜き動作を説明するための模式図であり、(A)は芯棒を刃先部によって挟み込んだ状態を示す模式図であり、(B)は芯棒を刃先部によって引き抜いている状態を示す模式図である。
【
図10】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置によるアンカー本体の引き抜き動作を説明するための模式図であり、(A)はアンカー本体を刃先部によって挟み込んだ状態を示す模式図であり、(B)はアンカー本体を刃先部によって引き抜いている状態を示す模式図である。
【
図11】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置によるアンカー本体の引き抜き動作を説明するための模式図であり、(A)はアンカー本体を刃先部によって挟み込んだ状態を示す模式図であり、(B)はアンカー本体を刃先部によって引き抜いている状態を示す模式図である。
【
図12】この発明の第2実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置による芯棒の引き抜き動作を説明するための模式図であり、(A)はアンカー本体に切込部を形成した状態を示す模式図であり、(B)は切込部に刃先部を接触させた状態を示す模式図であり、(C)は芯棒を刃先部によって挟み込み切込部を破断して芯棒を引き抜いている状態を示す模式図である。
【
図13】この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置による芯棒の引き抜き動作を説明するための模式図であり、(A)はアンカー本体の切込部に刃先部を接触させた状態を示す模式図であり、(B)は切込部及び芯棒を刃先部によって挟み込んだ状態を示す模式図であり、(C)は切込部を破断して芯棒を刃先部によって引き抜いている状態を示す模式図であり、(D)は芯棒を刃先部によってさらに引き抜いている状態を示す模式図である。
【
図14】この発明の第3実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置の挟み込み部の刃先部の形状を示す模式図であり、(A)は刃先部が片刃構造である場合の模式図であり、(B)は刃先部が両刃構造である場合の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、この発明の第1実施形態について詳しく説明する。
図1~
図4に示す母材1は、コンクリートを主要材料に用いた構造物である。母材1は、棒鋼などの鋼材によって補強された鉄筋コンクリート構造又はプレストレストコンクリート構造などである。母材1は、例えば、建築物の基礎コンクリート、コンクリート高架橋、トンネル、架線柱又は機器類を固定するコンクリート部材などである。表面1aは、母材1の壁面、天井面又は床面であり、垂直面、水平面、傾斜面又は湾曲面に形成されている。
【0027】
穴部1bは、アンカー3を挿入する部分である。穴部1bは、母材1の表面1aに穿孔された下穴であり、所定の深さ及び内径で形成されている。穴部1bは、底部を有する定着穴であり、
図1(B)及び
図2(B)に示すようにこの穴部1bの中心線に対して直交する平面で切断したときの断面形状が円形に形成されている。穴部1bは、アンカー3のアンカー本体4の外径よりも僅かに大きい最適な外径のドリルを使用して、母材1の表面1aに直交するように削孔されている。
【0028】
図1~
図4に示す固定部材2は、母材1の表面1aに固定される部材である。固定部材2は、母材1に固定される構造物、機械、器具又は装置などを支持するアングル材又はブラケットなどである。固定部材2は、例えば、母材1の状態を計測する計測器などを収容する箱状の収容体を支持しており、断面形状がほぼL字状の金属製のアングルブラケットなどである。固定部材2は、アンカー3が貫通する貫通孔2aを備えており、アンカー3によって母材1の表面1aに固定される。
【0029】
図1~
図4に示すアンカー3は、母材1に定着される部材である。アンカー3は、
図2及び
図3(C)(D)に示すように、母材1に予め穿孔した穴部1bの中で開き、穴部1bの内壁に機械的に固着する。アンカー3は、引張及びせん断に抵抗することによって引抜き耐力を確保し、母材1に取り付けられた固定部材2が移動するのを防止する。アンカー3は、
図1~
図4に示すアンカー本体4と、芯棒5と、
図1~
図3に示すナット6などを備えている。
図1~
図4に示すアンカー3は、アンカー本体4に芯棒5を打ち込み、アンカー本体4の底部4bを拡張させて、アンカー本体4を母材1に定着させるあと施工アンカーである。アンカー3は、例えば、穴部1bの内周部とアンカー本体4の底部4bの外周部との噛み合いによって、母材1に固着するコンクリート用の芯棒打ち込み式あと施工アンカーである。
【0030】
図1~
図4に示すアンカー本体4は、母材1の穴部1bに挿入される部分である。アンカー本体4は、
図1及び
図2に示すように、外観が円筒状の部材であり、母材1の穴部1bに埋め込まれて使用される金属製の部材である。アンカー本体4は、
図1~
図4に示す頭部4aと、
図1~
図3に示す底部4bと、
図1及び
図2に示す挿入部4cと、
図1~
図3に示す切込部4dと、拡張部(拡幅部)4eと、
図1~
図4に示す雄ねじ部4fなどを備えている。
【0031】
図1~
図4に示す頭部4aは、アンカー本体4の頂部である。頭部4aは、アンカー本体4の雄ねじ部4fの先端部に形成されており、アンカー本体4を穴部1bに挿入したときに表面1aから突出する。頭部4aは、アンカー本体4の中心線に対して直交する平坦面に形成されている。底部4bは、アンカー本体4の先端部である。底部4bは、アンカー本体4を穴部1bに挿入したときに穴部1bの底部との間にわずかに隙間をあけて穴部1bに埋め込まれる。
図1及び
図2に示す挿入部4cは、アンカー本体4に芯棒5を挿入する部分である。挿入部4cは、アンカー本体4の中心線に沿って頭部4aから切込部4dまで連続して形成された貫通孔である。
【0032】
図1~
図3に示す切込部4dは、アンカー本体4の拡張部4eに形成された切れ目である。切込部4dは、アンカー本体4の底部4bから頭部4aに向かってアンカー本体4の長さ方向に所定長さで形成された直線状のスリットである。切込部4dは、
図1(B)に示すように、アンカー本体4の周方向に間隔をあけて複数本(例えば、アンカー本体4の周方向に等間隔で4本)形成されている。
図1~
図3に示す拡張部4eは、アンカー本体4に芯棒5が挿入されたときに外側に拡がる部分である。拡張部4eは、
図2(B)に示すように、芯棒5の先端部5bによって押し広げられて外側に開き複数(例えば4つ)の拡張片となる。拡張部4eは、
図1(A)及び
図2(B)に示すように、穴部1bの内周部と噛み合うようにアンカー本体4の長さ方向に沿って、この拡張部4eの外周面が凹凸に形成されている。
図1~
図4に示す雄ねじ部4fは、ナット6を装着する部分である。雄ねじ部4fは、アンカー本体4の頭部4a側に所定長さで形成されており、アンカー本体4を穴部1bに挿入したときに表面1aから突出する。
【0033】
図1~
図4に示す芯棒5は、アンカー本体4の挿入部4cに挿入されることによって、アンカー本体4の底部4bを拡張させる部材である。芯棒5は、
図1~
図4に示す頭部5aと、
図1~
図3に示す先端部5bなどを備えている。
図1~
図4に示す頭部5aは、芯棒5の頂部である。頭部5aは、
図2(A)に示すように、アンカー本体4の挿入部4cに芯棒5を挿入したときに、この頭部5aの下面がアンカー本体4の頭部4aの上面と密着するように平坦面に形成されている。頭部5aは、アンカー本体4に芯棒5が打ち込まれたときに、アンカー本体4の頭部4aから突出する。頭部5aは、この頭部5aの外径がアンカー本体4の頭部4aの外径よりも小さく形成されている。
図1、
図2及び
図4に示す先端部5bは、アンカー本体4の拡張部4eに差し込まれる部分である。先端部5bは、拡張部4eを外側に開くように鋭角に形成されている。芯棒5は、頭部5aと先端部5bとを繋ぐように直線状の軸部に形成されている。
【0034】
図1、
図2及び
図4に示すナット6は、アンカー本体4の雄ねじ部4fに装着される部材である。ナット6は、雄ねじ部4fと噛み合う雌ねじ部を有し、母材1の表面1aとの間に固定部材2を締結する。ナット6は、母材1の表面1aとの間に挟み込まれる座金がこのナット6と一体に形成された座金付きナットである。
【0035】
次に、この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置によって撤去されるアンカーの施工方法について説明する。
図3(A)に示す穿孔工程#100は、母材1の表面1aに穴部1bを形成する工程である。穿孔工程#100では、アンカー本体4の外径に適応するドリルが装着された穿孔装置を使用して、固定部材2の貫通孔2aを通じて母材1の表面1aに所定深さの穴部1bを穿孔し、ブロワや集塵機を使用して穴部1b内を清掃し、穴部1bから切粉や粉塵を除去する。
図3(B)に示す挿入工程#110は、母材1の穴部1bにアンカー3を挿入する工程である。挿入工程#110では、アンカー本体4の雄ねじ部4fにナット6が取り付けられた状態で、母材1の穴部1bにアンカー本体4を作業者が挿入し、アンカー本体4の挿入部4cに芯棒5を作業者が挿入する。
図3(C)に示す打ち込み工程#120は、アンカー本体4に芯棒5を打ち込む工程である。打ち込み工程#120では、アンカー本体4の頭部4aに芯棒5の頭部5aが接触するまで、ハンマーを使用して芯棒5の頭部5aを叩き、芯棒5の先端部5bが拡張部4eに差し込まれる。その結果、穴部1b内で拡張部4eが外側に膨らみ、穴部1bの内周部に拡張部4eが密着して、アンカー本体4が穴部1bに固定される。
図3(D)に示す締結工程#130は、固定部材2を母材1に締結する工程である。締結工程#130では、スパナ類を使用してナット6を締め付けて、母材1の表面1aに固定部材2が取り付けられる。
【0036】
図4~
図11に示す撤去装置7は、アンカー3を撤去する装置である。撤去装置7は、
図9及び
図11に示すように、母材1に定着した既設のアンカー3を作業者の手動操作によって引き抜き撤去する。撤去装置7は、通常では撤去が困難である設置済みのあと施工アンカーを簡単な構造によって短時間に容易に引き抜き、このあと施工アンカーをコンクリートから撤去するアンカー引き抜き工具である。撤去装置7は、
図5、
図9及び
図11に示すように、てこの原理を利用してアンカー本体4及び芯棒5を挟み込む機能と、てこの原理を利用してアンカー本体4及び芯棒5を引き抜く機能とを備えている。撤去装置7は、
図9に示すように、芯棒5を挟み込みアンカー本体4から芯棒5を引き抜くとともに、
図10に示すように芯棒5を引き抜いた後のアンカー本体4を穴部1bから引き抜く。撤去装置7は、
図4~
図11に示す挟み込み部8A,8Bと、
図4、
図7、
図9及び
図11に示す屈曲部9A,9Bと、
図4~
図7に示す連結部10と、補強部11A,11Bと、
図4及び
図7~
図11に示す支点部12A,12Bと、
図7、
図8及び
図10に示す間隔調整部13A,13Bと、
図4~
図6、
図9及び
図11に示すてこ部14A,14Bなどを備えている。
【0037】
図4~
図11に示す撤去装置7は、例えば、ボルト、番線、針金、釘、鉄筋又はチェーンなどを切断することを目的として使用されるボルトクリッパ又はボルトカッタなどの既存の手動式カッタを利用して、てこ部14A,14Bが構成されており、てこ部14A,14B以外の部分について新たに製作されている。撤去装置7は、例えば、全長が50cm程度であり、壁面が折れ曲がっている隅角部などの狭隘な作業環境の箇所で、ねじ径がM6~M10程度のアンカー3を撤去可能なような構造及び寸法に設計されている。
【0038】
図4~
図6及び
図8に示す挟み込み部8A,8Bは、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に隙間が形成されるように、これらの間に差し込まれて芯棒5を挟み込む部分である。挟み込み部8A,8Bは、
図10に示すように、芯棒5を引き抜いた後のアンカー本体4を挟み込む。挟み込み部8A,8Bは、
図5及び
図8に示すように、芯棒5をアンカー本体4から引き抜くときには芯棒5を挟み込むとともに、
図10に示すようにアンカー本体4を穴部1bから引き抜くときにはアンカー本体4を挟み込む。挟み込み部8A,8Bは、いずれも同一構造であり、はさみ、ペンチ又はプライヤに近似した構造を備えている。挟み込み部8A,8Bは、撤去装置7をてこ機構とみなしたときに、
図8及び
図10に示すようにアンカー本体4及び芯棒5を挟み込むための力が作用する作用点となるとともに、
図9及び
図11に示すようにアンカー本体4及び芯棒5を引き抜くための力が作用する作用点となる。挟み込み部8A,8Bは、
図5、
図6、
図8及び
図10に示す刃先部8a,8bと、
図5及び
図6に示す基部8c,8dなどを備えている。挟み込み部8A,8Bは、例えば、既存の手動式カッタの替刃の先端部を切除して基部8c,8dを作製し、刃先部8a,8bを基部8c,8dに溶接することによって作製される。
【0039】
図5、
図6及び
図8に示す刃先部8a,8bは、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に隙間を形成するとともに、芯棒5を挟み込む部分である。刃先部8a,8bは、
図10に示すように、芯棒5が引き抜かれた後のアンカー本体4を挟み込む。刃先部8a,8bは、
図5及び
図6に示すように、挟み込み部8A,8Bの先端部を構成する一対の板状部材であり、
図5に示すようにこの刃先部8a,8bを閉じたときにこの刃先部8a,8bが互いに接触する接触線を対称軸として、左右対称な形状に形成されている。刃先部8a,8bは、
図8(B)に示すように、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に食い込ませて、これらの間の隙間を拡げるくさびとして機能する。刃先部8a,8bは、曲げ変形に対する抵抗力などの強度及び耐久性を向上させるために焼き入れなどの熱処理がされている。刃先部8a,8bは、
図5、
図6及び
図8に示すように、断面形状が片刃に形成された片刃構造であり、平行面8eと傾斜面8fとを備えている。
【0040】
図8に示す平行面8eは、母材1に対してほぼ平行な部分である。平行面8eは、芯棒5の頭部5aの下面と接触する平坦面であり、
図8(B)~(D)に示すように芯棒5の頭部5aの下面を支持した状態でアンカー本体4から芯棒5を離間させる。
図8に示す傾斜面8fは、平行面8eに対して傾斜する部分である。傾斜面8fは、
図8(A)に示すように、平行面8eに対して所定の傾斜角(刃角度)θ
1で鋭角に傾斜する平坦面であり、
図8(B)~(D)に示すようにアンカー本体4の頭部4aの縁部と接触した状態で、アンカー本体4から芯棒5を押し上げて離間させる。傾斜面8fは、例えば、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間への食い込み効果及びくさび効果を発揮することを考慮して、傾斜角θ
1を30°程度に設定することが好ましい。
図5及び
図6に示す基部8c,8dは、挟み込み部8A,8Bの後端部を構成する部分である。基部8c,8dは、左右一対の板状部材であり、いずれも同一形状に形成されている。
【0041】
図4、
図7、
図9及び
図11に示す屈曲部9A,9Bは、挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bと挟み込み部8A,8Bの基部8c,8dとの間で、挟み込み部8A,8Bが鈍角に屈曲する部分である。屈曲部9A,9Bは、いずれも同一構造であり、
図4に示すように屈曲部9Aは挟み込み部8A側に形成されており、屈曲部9Bは挟み込み部8B側に形成されている。屈曲部9A,9Bは、
図9(A)及び
図11(A)に示すように、挟み込み部8A,8Bによってアンカー本体4及び芯棒5を挟み込むときに、作業者の視認性を向上させるために、
図7に示すように挟み込み部8A,8Bの基部8c,8d側に対して刃先部8a,8b側を所定の曲げ角θ
2で鈍角に屈曲させ形成されている。ここで、曲げ角θ
2は、挟み込み部8A,8Bの中心線とてこ部14A,14Bの中心線とが交差する角度であり、120°程度に設定することが好ましい。屈曲部9A,9Bは、
図8(A)に示すように、撤去装置7を作業者が操作するときに、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に刃先部8a,8bを作業者が視覚によって容易に位置決め可能にするために形成されている。屈曲部9A,9Bは、刃先部8a,8bが作業者の視界に入るようにするために形成されており、挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8b側が作業者の顔と向き合うように折り曲げて形成されている。屈曲部9A,9Bは、例えば、刃先部8a,8bと基部8c,8dとを曲げ角θ
2で屈曲するように溶接することによって形成される。
【0042】
図4~
図7に示す連結部10は、挟み込み部8A,8Bを開閉自在に連結する部分である。連結部10は、
図4~
図6に示すように、挟み込み部8Aと挟み込み部8Bとを刃先部8a,8b寄り(先端部寄り)で回転自在に連結する。連結部10は、刃先部8a,8bによって挟み込んだときに発生する荷重が、刃先部8aと刃先部8bとを離間させる方向に作用し、刃先部8a,8bが揃わなくなるのを防止する。連結部10は、刃先部8a,8bを閉じたときに刃先部8aと刃先部8bとが合うように、挟み込み部8Aと挟み込み部8Bとを回転自在にピン結合(ヒンジ結合)している。連結部10は、
図7に示すように、挟み込み部8A,8Bの上面及び下面を挟み込む一対の固定ブロック(座金)10a,10bと、挟み込み部8A,8B及び固定ブロック10a,10bを貫通し挟み込み部8A,8Bに固定ブロック10a,10bを締結する六角穴付きボルト10cと、六角穴付きボルト10cの雄ねじ部にねじ込まれるナット10dなどを備えている。
【0043】
図4~
図7に示す補強部11A,11Bは、挟み込み部8A,8Bを補強する部分である。補強部11A,11Bは、いずれも同一構造であり、
図4に示すように補強部11Aは挟み込み部8A側に配置されており、補強部11Bは挟み込み部8B側に配置されている。補強部11A,11Bは、
図4及び
図7に示すように、外観が円弧状の板状部材であり、挟み込み部8A,8Bの変形を防止するリブとして機能する。補強部11A,11Bは、連結部10の固定ブロック10a及びナット10dを跨ぐように、この補強部11A,11Bの一端が刃先部8a,8bの上面に溶接され固定されており、この補強部の他端が基部8c,8dの上面に溶接され固定されている。
【0044】
図4及び
図7~
図11に示す支点部12A,12Bは、挟み込み部8A,8Bを支える部分である。支点部12A,12Bは、いずれも同一構造であり、
図8及び
図11に示すように支点部12Aは挟み込み部8A側に配置されており、支点部12Bは挟み込み部8B側に配置されている。支点部12A,12Bは、
図4、
図9及び
図11に示すように、挟み込み部8A,8Bを作用点として力が作用し、てこ部14A,14Bを力点として力が加わるように、この作用点とこの力点との間で母材1の表面1aと接触する。支点部12A,12Bは、
図7、
図8及び
図10に示すように、挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bに着脱自在に取り付けられている。支点部12Aは、例えば、
図4及び
図7に示すように、刃先部8a,8bにねじ込まれたボルトであり、このボルト頭部を母材1の表面1aに接触させることによって、てこ部14A,14Bの脚部として機能する。支点部12A,12Bは、撤去装置7をてこ機構とみなしたときに、
図4、
図9及び
図11に示すようにアンカー本体4及び芯棒5を引き抜くための力が作用する作用点と、アンカー本体4及び芯棒5を引き抜くための力を作業者が作用させる力点との間に位置する。
【0045】
図7、
図8及び
図10に示す間隔調整部13A,13Bは、支点部12A,12Bと挟み込み部8A,8Bとの間の間隔を調整する部分である。間隔調整部13A,13Bは、いずれも同一構造であり、間隔調整部13Aは支点部12A及び挟み込み部8A側に形成されており、間隔調整部13Bは支点部12B及び挟み込み部8B側に形成されている。間隔調整部13A,13Bは、支点部12A,12Bの長さを調整する支点アジャスタとして機能する。間隔調整部13A,13Bは、
図8(A)に示すように、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に刃先部8a,8bを位置決めするときや、
図10(A)に示すようにアンカー本体4の雄ねじ部4fに刃先部8a,8bを位置決めするときに、母材1の表面1aに対する刃先部8a,8bの高さを調整する。間隔調整部13A,13Bは、支点部12A,12Bの長さを調整することによって、支点部12A,12Bと挟み込み部8A,8Bとの間の間隔を最適な間隔に調整する。間隔調整部13A,13Bは、アンカー3の埋め込み量が施工箇所によって異なるときに、アンカー本体4の頭部4a、芯棒5の頭部5a又はアンカー本体4の雄ねじ部4fの母材1の表面1aからの突出量に応じて、支点部12A,12Bの高さを最適な高さに調整する。間隔調整部13A,13Bは、
図7、
図8及び
図10に示すように、雌ねじ部13aと雄ねじ部13bなどを備えている。雌ねじ部13aは、刃先部8a,8bを貫通する部分である。雌ねじ部13aは、刃先部8a,8bを閉じたときに刃先部8a,8bが互いに接触する接触線を中心として対称な位置に、刃先部8a,8bをそれぞれ貫通して形成されている。雄ねじ部13bは、雌ねじ部13aと噛み合う部分である。雄ねじ部13bは、支点部12A,12Bのボルト先端部に形成されており、雌ねじ部13aとの間の噛み合い量を作業者が調整することによって、支点部12A,12Bと挟み込み部8A,8Bとの間の間隔を調整する。
【0046】
図4~
図6及び
図9に示すてこ部14A,14Bは、挟み込み部8A,8Bが芯棒5を挟み込むための力と、芯棒5を挟み込んだ状態で芯棒5を引き抜くための力とを作業者が作用させる部分である。てこ部14A,14Bは、
図9に示すように、挟み込み部8A,8Bが芯棒5を挟み込んだ状態で、アンカー本体4から芯棒5を引き抜く。てこ部14A,14Bは、
図11に示すように、アンカー本体4から芯棒5を引き抜いた後には、挟み込み部8A,8Bがアンカー本体4を挟み込むための力と、アンカー本体4を挟み込んだ状態でアンカー本体4を引き抜くための力とを作業者が作用させる。てこ部14A,14Bは、アンカー本体4から芯棒5を引き抜いた後には、挟み込み部8A,8Bがアンカー本体4を挟み込んだ状態で、アンカー本体4を穴部1bから引き抜く。てこ部14A,14Bは、
図4~
図6に示すように、ほぼ同一構造であり、てこ部14Aは挟み込み部8A側に連結されており、てこ部14Bは挟み込み部8B側に連結されており、釘抜き(バール)に近似した構造を備えている。てこ部14A,14Bは、
図4~
図6、
図9及び
図11に示すハンドル部(把持部)15A,15Bと、
図4~
図7に示す連結部16A,16Bと、
図4~
図6に示すトグル機構部17と、ストッパ部18と、挟み込み量調整部19などを備えている。
【0047】
図4~
図6、
図9及び
図11に示すハンドル部15A,15Bは、作業者が操作する部分である。ハンドル部15A,15Bは、
図4~
図6に示すように、いずれも同一構造であり、ハンドル部15Aはてこ部14A側に取り付けられており、ハンドル部15Bはてこ部14B側に取り付けられている。ハンドル部15A,15Bは、撤去装置7を作業者が把持するための持ち手として機能する。ハンドル部15A,15Bは、
図5及び
図6に示すように、アンカー本体4及び芯棒5を挟み込むときに作業者によって開閉操作されるとともに、
図9及び
図11に示すようにアンカー本体4及び芯棒5を引き抜くときに作業者によって押し下げ操作される。ハンドル部15A,15Bは、
図4~
図6に示すように、一対の棒状部材であり、てこ部14A,14Bの後端部を構成する。ハンドル部15A,15Bは、
図5及び
図6に示すように、連結部16A,16B及びトグル機構部17を回転中心として開閉操作されるとともに、
図9及び
図11に示すように支点部12A,12Bを回転中心として押し下げ操作される。ハンドル部15A,15Bは、撤去装置7をてこ機構とみなしたときに、アンカー本体4及び芯棒5を引き抜くための力を加える力点となる。
【0048】
図4~
図7に示す連結部16A,16Bは、挟み込み部8A,8Bをてこ部14A,14Bに回転自在に連結する部分である。連結部16A,16Bは、
図4~
図6に示すように、いずれもほぼ同一構造であり、連結部16Aは挟み込み部8Aとてこ部14Aとを連結し、連結部16Bは挟み込み部8Bとてこ部14Bとを連結する。連結部16A,16Bは、てこ部14A,14Bの先端部を構成し、挟み込み部8A,8Bをてこ部14A,14Bに着脱自在に取り付けている。連結部16A,16Bは、挟み込み部8A,8Bが破損したようなときに新品の挟み込み部8A,8Bと交換可能なように、挟み込み部8A,8Bをてこ部14A,14Bに着脱自在にピン結合(ヒンジ結合)している。連結部16A,16Bは、
図7に示すように、挟み込み部8A,8Bの後端部及びてこ部14A,14Bの先端部を貫通するボルト16aと、このボルト16aに装着されるナット16bなどを備えている。
【0049】
図4~
図6に示すトグル機構部17は、挟み込み部8A,8Bが発生する挟み込み力を増大させる部分である。トグル機構部17は、僅かな力を作用させるだけで、非常に大きな力を発生させる倍力装置である。トグル機構部17は、
図5に示すように、ハンドル部15A,15Bを作業者が閉じる方向に力を加えたときに、連結部16Aと連結部16Bとの間の間隔が広くなるように連結部16A,16Bを外側に移動させる力Fを連結部16A,16Bに作用させる。トグル機構部17は、連結部16A,16Bに作業者が僅かな力Fを作用させるだけで、挟み込み部8A,8Bとてこ部14A,14Bとが一直線上になろうとするときに、挟み込み部8A,8Bに非常に大きな挟み込み力F’を発生させる。トグル機構部17は、
図5及び
図6に示すように、てこ部14Aの先端部からてこ部14Bの先端部に向かって内側に突出する突出部17aと、てこ部14Bの先端部からてこ部14Aの先端部に向かって内側に分岐する分岐部17bと、突出部17a及び分岐部17bの先端部を貫通してこれらを回転自在にピン結合(ヒンジ結合)するボルト17cなども備えている。
【0050】
図4~
図6に示すストッパ部18は、挟み込み部8A,8Bを閉じたときの刃先部8a,8bの停止位置を所定位置に規制する部分である。ストッパ部18は、てこ部14Bの内側側面と対向するように、てこ部14Aの内側側面に形成されている。ストッパ部18は、挟み込み部8A,8Bを閉じたときの刃先部8a,8bの停止位置が所定位置を超えて、挟み込み部8A,8Bが発生する挟み込み力が過大になって、刃先部8a,8bが損傷するのを防止する。ストッパ部18は、
図5及び
図6に示すように、てこ部14Bの先端部寄りから分岐部17bの先端部寄りに向かって内側に突出しており、てこ部14A,14Bに開閉操作に応じて分岐部17bの内側側面と接触及び離間する。
【0051】
図4~
図6に示す挟み込み量調整部19は、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間への挟み込み部8A,8Bの挟み込み量を調整する部分である。挟み込み量調整部19は、てこ部14Aとてこ部14Bとの間に配置されている。挟み込み量調整部19は、アンカー本体4の外径及び芯棒5の外径に応じて、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間への挟み込み部8A,8Bの挟み込み量を調整する刃先アジャスタとして機能する。挟み込み量調整部19は、
図5に示すように、てこ部14A,14Bを閉じる方向に作業者が操作したときに、てこ部14A,14Bの停止位置を所定位置に規制することによって、刃先部8aと刃先部8bとの間の間隔を最適な間隔に調整する。挟み込み量調整部19は、挟み込み部8A,8Bがアンカー本体4及び芯棒5を挟み込むときに、刃先部8aと刃先部8bとの間の間隔が狭くなりすぎて、挟み込み部8A,8Bが発生する挟み込み力F’が過大になって、アンカー本体4及び芯棒5が損傷するのを防止する。挟み込み量調整部19は、
図5及び
図6に示すように、てこ部14Bの先端部寄りの内側側面に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を有するボルト19aと、てこ部14A,14Bに開閉操作に応じてボルト19aの頭部が接触及び離間するように、てこ部14Aの先端部寄りの内側側面から突出する突出部19bなどを備えている。挟み込み量調整部19は、てこ部14A,14Bを作業者が閉じたときに、刃先部8aと刃先部8bとが完全に閉じる前に、ボルト19aと突出部19bとを接触させて、刃先部8aと刃先部8bとの間に隙間を形成させる。挟み込み量調整部19は、ボルト19aの雄ねじ部のてこ部14Bの雌ねじ部へのねじ込む量を作業者が調整することによって、ボルト19aの突出量を調整し挟み込み部8A,8Bの挟み込み量を調整する。
【0052】
次に、この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置によるあと施工アンカーの撤去方法について説明する。
(アンカー本体から芯棒を撤去する方法)
図8(A)~
図8(C)に示す挟み込み工程#200は、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に隙間が形成されるように、これらの間に挟み込み部8A,8Bを差し込み、挟み込み部8A,8Bによって芯棒5を挟み込む工程である。先ず、
図8(A)に示すように、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に刃先部8a,8bの位置が合うように、間隔調整部13A,13Bの雄ねじ部13bのねじ込み量を作業者が調整して、刃先部8a,8bの高さが大まかに調整される。同様に、
図5に示すように、芯棒5の外径に合わせて、挟み込み量調整部19のボルト19aのねじ込み量を作業者が調整して、刃先部8a,8bを閉じたときに形成される刃先部8aと刃先部8bとの間の隙間が必要に応じて調整される。
【0053】
図4~
図6に示すように、てこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者が操作して、
図8(A)に示すようにアンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bを作業者が位置決めする。
図5に示すように、ハンドル部15A,15Bを作業者が閉じると、トグル機構部17を介して刃先部8a,8bに大きなせん断力が作用する。
図8(A)に示すように、刃先部8a,8bには傾斜角θ
1が付与されているため、
図8(B)に示すようにアンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に刃先部8a,8bが差し込まれて、刃先部8a,8bがくさび状に強制的に食い込む。このため、アンカー本体4の頭部4aから芯棒5の頭部5aが浮き上がり、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に隙間が生じて、アンカー本体4の頭部4aから芯棒5の頭部5aが徐々に離間する。このとき、
図4、
図7及び
図9に示すように、挟み込み部8A,8Bとてこ部14A,14Bとの間が鈍角に屈曲しているため、作業者の視線上に刃先部8a,8bが位置し、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に作業者の視覚によって刃先部8a,8bが容易に位置決めされる。てこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者がさらに閉じると、
図8(C)に示すように刃先部8aと刃先部8bとの間に芯棒5が挟み込まれて、刃先部8a,8bが芯棒5の外周面に食い込み、刃先部8a,8bが芯棒5を保持する。
【0054】
図8(D)に示す引き抜き工程#201は、挟み込み部8A,8Bによって芯棒5を挟み込んだ状態で、アンカー本体4から芯棒5を引く抜く工程である。
図4~
図6に示すように、てこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者が操作して、ハンドル部15A,15Bを力点とし、刃先部8a,8bを作用点とし、支点部12A,12Bを回転中心として、
図9(A)に示すように母材1の表面1a側にてこ部14A,14Bを作業者が倒す。その結果、
図8(D)に示すようにアンカー本体4の拡張部4eから芯棒5の先端部5bが抜け出して、
図9(B)に示すように拡張部4eと芯棒5との間の摩擦抵抗が消失し、アンカー本体4から芯棒5が容易に引き抜かれる。
【0055】
(母材からアンカー本体を撤去する方法)
図10(A)に示す挟み込み工程#202は、挟み込み部8A,8Bによってアンカー本体4を挟み込む工程である。先ず、アンカー本体4の雄ねじ部4fに刃先部8a,8bの位置が合うように、間隔調整部13A,13Bの雄ねじ部13bのねじ込み量を作業者が調整して、刃先部8a,8bの高さが大まかに調整される。同様に、
図5に示すように、アンカー本体4の雄ねじ部4fの外径に合わせて、挟み込み量調整部19のボルト19aのねじ込み量を作業者が調整して、刃先部8a,8bを閉じたときに形成される刃先部8aと刃先部8bとの間の隙間が必要に応じて調整される。
【0056】
図4~
図6に示すように、てこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者が操作して、
図10(A)に示すようにアンカー本体4の雄ねじ部4fに挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bを作業者が位置決めする。
図5に示すように、ハンドル部15A,15Bを作業者が閉じると、
図10(A)に示すように刃先部8aと刃先部8bとの間にアンカー本体4の雄ねじ部4fが挟み込まれて、刃先部8a,8bによってアンカー本体4が保持される。このとき、
図4、
図7及び
図9に示すように、挟み込み部8A,8Bとてこ部14A,14Bとの間が鈍角に屈曲しているため、作業者の視線上に刃先部8a,8bが位置し、作業者の視覚によってアンカー本体4の雄ねじ部4fに刃先部8a,8bが容易に位置決めされる。
【0057】
図10(B)に示す引き抜き工程#203は、挟み込み部8A,8Bによってアンカー本体4を挟み込んだ状態で、アンカー本体4を穴部1bから引く抜く工程である。
図4~
図6に示すように、てこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者が操作して、
図11(A)に示すように支点部12A,12Bを回転中心として、母材1の表面1a側にてこ部14A,14Bを作業者が倒す。その結果、
図10及び
図11に示すように、アンカー本体4の拡張部4eから芯棒5の先端部5bが既に抜け出しているため、
図11(B)に示すように外側に開いていた拡張部4eが内側に閉じて、拡張部4eと穴部1bとの間の摩擦抵抗が消失し、アンカー本体4が穴部1bから抵抗なく容易に引き抜かれる。
【0058】
この発明の第1実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この第1実施形態では、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に隙間が形成されるように、これらの間に差し込まれて芯棒5を挟み込み部8A,8Bが挟み込む。また、この第1実施形態では、挟み込み部8A,8Bが芯棒5を挟み込むための力と、芯棒5を挟み込んだ状態で芯棒5を引き抜くための力とを、てこ部14A,14Bによって作業者が作用させる。このため、挟み込みに必要な力と引き抜きに必要な力とを作業者が手動操作によりてこ部14A,14Bに作用させて、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に挟み込み部8A,8Bを食い込ませることができる。その結果、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間が隙間なく完全に密着している場合であっても、挟み込み部8A,8Bによって芯棒5を保持することができる。また、挟み込み部8A,8Bによって挟み込んだ芯棒5を作業者が手動動作により簡単に引き抜くことができる。その結果、くさび機構及びてこ機構を利用した簡単な構造の装置によって、通常では撤去が困難な設置済みのあと施工アンカーを短時間で容易に撤去することができる。例えば、従来、1本当たり数分~15分程度必要であった引き抜き作業を、この実施形態では1本当たり30秒程度の短時間で行うことができ、大幅な作業時間の短縮及び労力の低減を図ることができる。さらに、構造物の壁面や天井面などの高所作業で足場の悪い場所などの環境であっても、作業者が軽い力で安全にあと施工アンカーの撤去作業を行うことができる。
【0059】
(2) この第1実施形態では、芯棒5を引き抜いた後のアンカー本体4を挟み込み部8A,8Bが挟み込む。また、この第1実施形態では、挟み込み部8A,8Bがアンカー本体4を挟み込むための力と、アンカー本体4を挟み込んだ状態でアンカー本体4を引き抜くための力とをてこ部14A,14Bによって作業者が作用させる。このため、アンカー本体4から芯棒5が引き抜かれて母材1の穴部1bとアンカー本体4との間の抵抗を喪失しているアンカー本体4を、アンカー本体4から芯棒5を引き抜く場合の操作と同様の操作によって、穴部1bから簡単に引き抜くことができる。
【0060】
(3) この第1実施形態では、挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bと挟み込み部8A,8Bの基部8c,8dとの間で、挟み込み部8A,8Bが屈曲部9A,9Bで鈍角に屈曲している。このため、挟み込み部8A,8Bとてこ部14A,14Bとの間にほぼL字状の角度が付与されて、撤去装置7にてこ作用を生じさせることができる。また、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間を作業者が目視で確認するときに、作業者の視認性を向上させることができる。さらに、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとの間に刃先部8a,8bを作業者が目視で正確に位置決めすることができる。例えば、高所作業車、脚立又は足場の上から作業者がアンカー3の撤去作業を実施するときに、作業性を向上させることができる。
【0061】
(4) この第1実施形態では、挟み込み部8A,8Bを作用点として力が作用し、てこ部14A,14Bを力点として力が加わるように、この作用点とこの力点との間で母材1の表面1aと接触して、挟み込み部8A,8Bを支点部12A,12Bが支える。このため、てこ部14A,14Bを母材1の表面1a側に押し倒すことによって、てこの原理を利用して釘抜きと同じような要領で、アンカー本体4及び芯棒5を簡単に引き抜くことができる。また、支点部12A,12Bを母材1の表面1aに接触させた状態で、刃先部8a,8bを作用点として芯棒5を引く抜く方向に作業者が簡単に力を作用させることができ、アンカー本体4及び芯棒5を容易かつ安全に引き抜くことができる。
【0062】
(5) この第1実施形態では、支点部12A,12Bと挟み込み部8A,8Bとの間の間隔を間隔調整部13A,13Bが調整する。このため、母材1へのアンカー3の埋め込み深さが様々であっても、母材1の表面1aから突出するアンカー本体4及び芯棒5の現場での突出長さに応じて、挟み込み部8A,8Bの位置を簡単に調整することができる。
【0063】
(6) この第1実施形態では、挟み込み部8A,8Bの挟み込み量を挟み込み量調整部19が調整する。このため、挟み込み部8Aと挟み込み部8Bとの間の遊びを調整することによって、てこ部14A,14Bを閉じる方向に作業者が操作したときに、挟み込み部8A,8Bが所定位置よりも閉じることがないように設定することができる。その結果、挟み込み部8A,8Bが芯棒5を切断してしまうのを防ぐことができる。
【0064】
(7) この第1実施形態では、母材1の表面1aに対してほぼ平行な平行面8eと、平行面8eに対して傾斜する傾斜面8fとを有する片刃構造の刃先部8a,8bを挟み込み部8A,8Bが備えている。このため、刃先部8a,8bを芯棒5に食い込ませて、芯棒5を確実に保持することができる。また、芯棒5の頭部5aの底面に対して平行面8eが平行になるため、芯棒5を引き抜くときに頭部5aの底面が平行面8eに引っ掛かり頭部5aが滑り難くなって、芯棒5を確実に引き抜くことができる。さらに、平行面8eと傾斜面8fとの間の傾斜角θ1を最適な角度に設定することによって、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の頭部5aとが密着していても、アンカー本体4に対して芯棒5を押し上げることができる。
【0065】
(第2実施形態)
以下では、
図1~
図11に示す部分と同一の部分については、同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
この第2実施形態は、
図12及び
図13に示すように、芯棒5の頭部5aが破断した場合に、アンカー本体4から芯棒5を撤去装置7によって引き抜き、
図10及び
図11に示すように撤去装置7によってアンカー3を母材1から撤去する場合の実施形態である。
【0066】
図12及び
図13に示すアンカー本体4は、アンカー本体4の外周部に形成された切込部4gを備えている。切込部4gは、
図12(A)に示すように、ディスクグラインダ又はディスクサンダなどの切削装置を使用して、アンカー本体4の雄ねじ部4fの外周部を凹状に切削することによって、雄ねじ部4fの全周を切り欠くように形成されている。切込部4gは、
図12及び
図13に示すように、アンカー本体4の雄ねじ部4fのほぼ中間部に形成された底部を有する凹部であり、挿入部4c内の芯棒5に達するまで深く形成されておらず、芯棒5との間に薄肉部を形成(薄皮を残す程度に形成)するように削り込まれている。
【0067】
図12及び
図13に示す撤去装置7は、
図1~
図11に示す撤去装置7と同一構造である。撤去装置7は、
図12及び
図13に示すように芯棒5の頭部5aが破断したために、挟み込み部8A,8Bによる芯棒5の挟み込みが不可能な場合であっても、母材1に定着した既設のアンカー3を作業者の手動操作によって引き抜き撤去する。撤去装置7は、
図12(A)及び
図13(A)に示すように、芯棒5の頭部5aが破断したときには、
図12(C)及び
図13(C)(D)に示すようにアンカー本体4を破断しつつ芯棒5を引き抜くとともに、
図10に示すように芯棒5を引き抜いた後のアンカー本体4を穴部1bから引き抜く。撤去装置7は、
図12(C)に示すように、アンカー本体4の切込部4gを挟み込むとともに芯棒5を挟み込み、アンカー本体4を破断してアンカー本体4から露出した芯棒5をアンカー本体4から引き抜くとともに、
図10に示すように芯棒5を引き抜いた後のアンカー本体4を穴部1bから引き抜く。
【0068】
挟み込み部8A,8Bは、
図12(B)及び
図13(B)に示すように、切込部4gを芯棒5とともに挟み込む。刃先部8a,8bは、アンカー本体4の切込部4g及び芯棒5に食い込ませるくさびとして機能する。平行面8eは、切込部4gの上面と接触する平坦面であり、
図12(B)(C)及び
図13に示すように切込部4gの上面を支持した状態で、切込部4gを破断するとともにアンカー本体4から芯棒5を離間させる。
【0069】
間隔調整部13A,13Bは、
図13(A)に示すように、アンカー本体4の切込部4gに刃先部8a,8bを位置決めするときに、母材1の表面1aに対する刃先部8a,8bの高さを調整する。間隔調整部13A,13Bは、アンカー本体4の切込部4gの位置が施工箇所によって異なるときに、切込部4gの母材1の表面1aからの切込部4gの位置に応じて、支点部12A,12Bの高さを最適な高さに調整する。
【0070】
図4~
図6及び
図9に示すてこ部14A,14Bは、挟み込み部8A,8Bが切込部4g及び芯棒5を挟み込むための力と、切込部4g及び芯棒5を挟み込んだ状態で、切込部4gを破断し芯棒5を引き抜くための力とを、作業者が作用させる。てこ部14A,14Bは、
図12(C)及び
図13(C)(D)に示すように、挟み込み部8A,8Bがアンカー本体4及び芯棒5を挟み込んだ状態で、アンカー本体4を破断してアンカー本体4から芯棒5を引き抜く。
【0071】
図4~
図6に示す挟み込み量調整部19は、芯棒5の外径に応じて、アンカー本体4の切込部4gへの挟み込み部8A,8Bの挟み込み量を調整する。挟み込み量調整部19は、挟み込み部8A,8Bがアンカー本体4及び芯棒5を挟み込むときに、刃先部8aと刃先部8bとの間の間隔が狭くなりすぎて、挟み込み部8A,8Bが発生する挟み込み力F’が過大になって、芯棒5が損傷するのを防止する。
【0072】
次に、この発明の第2実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置によるあと施工アンカーの撤去方法について説明する。
図12(A)に示す切り込み工程#300は、アンカー本体4の外周部に切込部4gを形成する工程である。母材1の表面1aと切削工具とが接触しないように、これらの間に隙間をあけた状態で、この切削工具を作業者が使用してアンカー本体4の雄ねじ部4fに切込部4gが形成される。アンカー3の施工時の打ち込み打撃により芯棒5の頭部5a付近は材質的に脆化している。このため、
図8(A)~(C)に示すように、挟み込み部8Aと挟み込み部8Bとの間にせん断力を作用させて芯棒5を挟み込もうとすると、僅かな力で芯棒5が破断することがある。この場合には、
図12及び
図13に示すように、芯棒5から頭部5aが失われており、アンカー本体4の頭部4aと芯棒5の破断面とがほぼ同じ高さになり、挟み込み部8Aと挟み込み部8Bとの間に芯棒5を挟み込むことが不可能になる。一方、アンカー本体4の雄ねじ部4f内の芯棒5については脆化しておらず健全である。このため、雄ねじ部4fの外周部を切削装置によって円周状に切削して切込部4gを形成することによって、切込部4gを介して雄ねじ部4f内の芯棒5を保持可能である。
【0073】
先ず、
図12(B)及び
図13(A)に示すように、アンカー本体4の切込部4gに刃先部8a,8bの位置が合うように、間隔調整部13A,13Bの雄ねじ部13bのねじ込み量を作業者が調整して、刃先部8a,8bの高さが大まかに調整される。同様に、芯棒5の外径に合わせて、
図5に示す挟み込み量調整部19を作業者が調整して、刃先部8aと刃先部8bとの間の隙間が必要に応じて調整される。
【0074】
図12(B)及び
図13(A)(B)に示す挟み込み工程#301は、アンカー本体4の切込部4g及び芯棒5を挟み込み部8A,8Bによって挟み込む工程である。
図4~
図6に示すてこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者が操作して、アンカー本体4の切込部4gに挟み込み部8A,8Bの刃先部8a,8bを作業者が位置決めする。てこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者がさらに閉じると、
図13(A)(B)に示すようにアンカー本体4の切込部4gの底部及び芯棒5の外周面に刃先部8a,8bが食い込み、アンカー本体4内の芯棒5を刃先部8a,8bが保持する。
【0075】
図12(C)及び
図13(C)(D)に示す引き抜き工程#302は、挟み込み部8A,8Bによってアンカー本体4及び芯棒5を挟み込んだ状態で、アンカー本体4を破断させてアンカー本体4から芯棒5を引く抜く工程である。
図4~
図6に示すてこ部14A,14Bのハンドル部15A,15Bを作業者が操作して、ハンドル部15A,15Bを力点とし、刃先部8a,8bを作用点とし、支点部12A,12Bを回転中心として、
図9(A)に示す母材1の表面1a側にてこ部14A,14Bを作業者が倒す。その結果、
図12(C)及び
図13(C)(D)に示すように、アンカー本体4の切込部4gでアンカー本体4が破断するとともに、
図12(C)に示すようにアンカー本体4の拡張部4eから芯棒5の先端部5bが抜け出して、拡張部4eと芯棒5との間の摩擦抵抗が消失し、アンカー本体4から芯棒5が容易に引き抜かれる。次に、
図10(B)に示す引き抜き工程#203と同様の操作によって、母材1の穴部1bからアンカー本体4が引き抜かれる。
【0076】
この第2実施形態に係るあと施工アンカーの撤去装置には、第1実施形態の効果に加えて、以下に記載するような効果がある。
この第2実施形態では、アンカー本体4の外周部に形成された切込部4gを芯棒5とともに挟み込み部8A,8Bが挟み込む。また、この第2実施形態では、切込部4g及び芯棒5を挟み込み部8A,8Bが挟み込むための力と、切込部4g及び芯棒5を挟み込んだ状態で、アンカー本体4を破断させてアンカー本体4から芯棒5を引き抜くための力とを、てこ部14A,14Bによって作業者が作用させる。このため、芯棒5の頭部5a付近が破断した場合であっても、アンカー本体4に切り込みを入れ、切込部4gに撤去装置7を用いることによって、アンカー本体4から芯棒5を簡単に引き抜くことができる。例えば、約100本について試験施工したところ引き抜きに失敗した例はなかった。
【0077】
(第3実施形態)
図14(A)に示す刃先部8a,8bは、
図8に示す刃先部8a,8bとは断面形状が異なる片刃構造である。
図14(A)に示す刃先部8a,8bは、
図8に示す刃先部8a,8bとは平行面8e及び傾斜面8fの位置が逆である。
図14(A)に示す平行面8eは、アンカー本体4の頭部4aの上面と接触する平坦面であり、頭部4aの上面と接触した状態で、アンカー本体4から芯棒5を離間させる。傾斜面8fは、芯棒5の頭部5aの下面を支持した状態でアンカー本体4から芯棒5を押し上げて離間させる。
【0078】
図14(B)に示す刃先部8a,8bは、
図8及び
図14(A)に示す刃先部8a,8bとは断面形状が異なる両刃構造である。
図14(B)に示す刃先部8a,8bは、
図8及び
図14(A)に示す平行面8eを備えておらず、アンカー本体4の頭部4a側(下方側)及び芯棒5の頭部5a側(上方側)に傾斜する上下一対の傾斜面8fを備えている。傾斜面8fは、アンカー本体4の頭部4aの縁部と接触した状態で、アンカー本体4から芯棒5を押し上げて離間させるとともに、芯棒5の頭部5aの下面を支持した状態でアンカー本体4から芯棒5を押し上げて離間させる。この第3実施形態には、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果がある。
【0079】
(他の実施形態)
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、母材1の表面1aが垂直面である場合を例に挙げて説明したが、水平面、傾斜面又は湾曲面などである場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、刃先部8a,8bの傾斜角θ1が30°である場合を例に挙げて説明したが、刃先部8a,8bの傾斜角θ1が30°以外の鋭角である場合についても、この発明を適用することができる。同様に、この実施形態では、屈曲部9A,9Bの曲げ角θ2が120°である場合を例に挙げて説明したが、屈曲部9A,9Bの曲げ角θ2が120°以外の鈍角である場合についても、この発明を適用することができる。
【0080】
(2) この実施形態では、アンカー本体4の雄ねじ部4fにナット6を装着した後に芯棒5を打ち込む場合を例に挙げて説明したが、芯棒5を打ち込んだ後にアンカー本体4の雄ねじ部4fにナット6を装着する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、補強部11A,11Bを撤去装置7が備えている場合を例に挙げて説明したが、補強部11A,11Bを省略する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、撤去するアンカー3が小径で必要な引き抜き力が小さい場合であって、屈曲部9A,9Bの強度が十分である場合には、補強部11A,11Bを省略することができる。さらに、この実施形態では、トグル機構部17を撤去装置7が備えている場合を例に挙げて説明したが、トグル機構部17を省略する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、撤去するアンカー3が小径で必要な挟み込み力が小さい場合には、トグル機構部17を省略することができる。
【0081】
(3) この実施形態では、ストッパ部18を撤去装置7が備えている場合を例に挙げて説明したが、挟み込み量調整部19のみによって挟み込み量を調整してストッパ部18を省略する場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、挟み込み量調整部19を撤去装置7が備えている場合を例に挙げて説明したが、ストッパ部18のみによって挟み込み量を調整して挟み込み量調整部19を省略する場合についても、この発明を適用することができる。
【0082】
(4) この第2実施形態では、アンカー本体4に切込部4gを1箇所形成する場合を例に挙げて説明したが、切込部4gを複数形成する場合についても、この発明を適用することができる。例えば、最初に切込部4gを形成したにもかかわらず芯棒5の引き抜きに失敗した場合については、切込部4gをさらに形成して芯棒5を引き抜くことができる。また、この第2実施形態では、アンカー本体4の切込部4g及び芯棒5に刃先部8a,8bを食い込ませて、てこの原理によって切込部4gを破断しつつ芯棒5を引き抜く場合を例に挙げて説明したが、このような撤去方法にこの発明を限定するものではない。例えば、アンカー本体4の切込部4gに刃先部8a,8bを食い込ませて、てこの原理によって切込部4gを破断した後に、芯棒5に刃先部8a,8bを食い込ませて、てこの原理によって芯棒を引き抜く場合についても、この発明を適用することができる。さらに、この第2実施形態では、アンカー本体4の外周部のみに切込部4gを切削装置によって形成する場合を例に挙げて説明したが、芯棒5が破断しない程度に芯棒5の外周部に切削装置によって切込部を形成する場合についても、この発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 母材
1a 表面
1b 穴部
2 固定部材
3 アンカー(あと施工アンカー)
4 アンカー本体
4a 頭部
4b 底部
4c 挿入部
4d 切込部
4e 拡張部
4f 雄ねじ部
4g 切込部
5 芯棒
5a 頭部
5b 先端部
6 ナット
7 撤去装置
8A,8B 挟み込み部
8a,8b 刃先部
8e 平行部
8f 傾斜部
9A,9B 屈曲部
10 連結部
11A,11B 補強部
12A,12B 支点部
13A,13B 間隔調整部
14A,14B てこ部
15A,15B ハンドル部
16A,16B 連結部
17 トグル機構部
18 ストッパ部
19 挟み込み量調整部
θ1 傾斜角
θ2 曲げ角
F 力
F’ 挟み込み力